免疫システムは、サイトカインやその他の体液性及び細胞性因子を産生して炎症に反応し、有害物質、微生物の侵入又は損傷に脅かされる時、宿主を防御する。多くの場合、この複雑な防御ネットワークは、成功裏に正常なホメオスタシスを回復する。しかし、またある時には、免疫学的又は炎症性伝達物質が実質的に宿主に有害であると分かる場合がある。アナフィラキシーショック、自己免疫疾患及び免疫複合体疾患を含む免疫疾患及び免疫システム介在損傷のいくつかの例が、広範囲にわたって研究されている。
体液性及び細胞性免疫学、分子生物学並びに病理学の最近の進歩は、免疫介在性炎症性疾患の要素である自己免疫についての現在の考えに影響を与えている。これらの進歩は、抗体、B細胞及びT細胞の多様性、(単球、マクロファージ、顆粒球、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、γδT細胞、補体、急性期タンパク質などによって実施される)先天性免疫反応及び(T及びB細胞並びに抗体の)適応免疫反応又は細胞性及び体液性免疫反応及びこれらの相互依存、(自己)寛容誘導のメカニズム、並びに、自己抗原成分に対する免疫学的反応性の発現方法の基本的特徴についての我々の理解を向上させている。
1900年以来、免疫学のセントラルドグマは、通常では免疫システムは自己に反応しないというものである。しかしながら、自己免疫反応は以前考えられていたほど珍しいことでなく、すべての自己免疫反応が有害というわけではないことが、最近明らかになってきた。自己免疫反応の中には、全体の免疫反応を媒介する明確な役割を果たすものがある。主要組織適合遺伝子複合体(MHC)にコードされる細胞表面抗原の認識などのような自己免疫反応や自己イディオタイプに対する抗イディオタイプ反応の一定の形態は、完全な状態の免疫システムの多様化及び正常機能に重要であり、実際必須である。
チェック・アンド・バランスの複雑なシステムは、免疫システムの様々な細胞(即ち、T細胞)のサブセットの間で維持されるのは明らかであり、これにより、外来侵入者に立ち向かう免疫システムが個体に与えられるのである。この意味で、自己免疫は、免疫システムにおいて制御的な役割を担う。
しかしながら、異常な自己免疫反応が多くのヒト及び動物の疾病の一番の原因となることがあり、またある時には二次的な原因となることがあることも、現在では認識されている。自己免疫疾患のタイプはしばしばオーバーラップし、同一個体、とりわけ、自己免疫内分泌障害の個体では、1を超える自己免疫疾患が起こる傾向がある。自己免疫症候群は、リンパ過形成、悪性リンパ球又はプラズマ細胞増殖、並びに、低ガンマグロブリン血症、選択的Ig欠損及び補体要素欠損などのような免疫不全疾患により媒介される。
例えば、全身性エリテマトーデス、糖尿病、関節リウマチ、産後の甲状腺機能異常症、自己免疫血小板減少症などに例示され自己免疫疾患は、例えば、広く分布した自己抗原決定基対して向けられた自己免疫炎症反応又は器官若しくは組織特異的抗原に対して向けられた自己免疫炎症反応により特徴付けされる。このような疾病は、たった1つの抗原標的に対する又は多くの自己抗原に対する異常な免疫反応に続いて起こりうる。多くの場合、自己免疫反応が、修飾されていない自己抗原に対して向けられたものであるのか、ウイルス、バクテリア抗原及びハプテン基などのような多くの物質のいずれかへ修飾された(若しくは似ている)自己抗原に対して向けられたものであるのかどうかは、はっきりしない。
様々な自己免疫疾患の起源や病因を説明する確立した統一概念はまだない。実験動物における研究は、自己免疫疾患は、個々で異なる広範囲の遺伝的及び免疫学的異常の結果であり、重ね合せられる多くの外因性(ウイルス、バクテリア)又は内因性(ホルモン、サイトカイン、異常遺伝子)加速因子の有無に依存して存命中に遅かれ早かれ発現する、という考えを支持する。しかしながら、これらの様々な疾病すべてにおいて目にされる共通の特徴の1つは、すべてが炎症反応を共有するということであり、時折その炎症反応がほぼ全身性であるということである。
初期の自己免疫疾患を寄せ付けない同様のチェック・アンド・バランスが、また、アレルギー(喘息)などのようなその他の免疫介在性疾患、敗血症又は敗血症性ショックなどのような急性炎症性疾患、慢性炎症性疾患(すなわち、リウマチ性疾患、シェーグレン症候群、多発性硬化症)、移植関連炎症反応(移植対宿主疾患、輸血後血小板減少症)、及びその他多くのものにおいて損なわれていることは明らかである。これらの疾患は、原因となる抗原が(少なくとも最初は)自己抗原でなく、その炎症反応は原理上個体に必要とされているでも有害なものでもない。
急性全身性炎症反応の特定の例として、敗血症/SIRSのコンセプトをここで論じる。敗血症は、例えば、微生物の侵入、損傷又はその他の因子を通して誘導される免疫伝達物質が、急性病状の炎症を誘導し、異常なホメオスタシス、臓器損傷及び実質的な致死性ショックを導く症候群である。敗血症は、重篤感染症への全身性の応答を表す。敗血症の患者は、通常、発熱、頻拍、頻呼吸、白血球増加症及び限局性部位の感染を示す。血液又は感染部位の微生物学的培養物は、常にではないが高い頻度で陽性を示す。この症候群が低血圧症又は多臓器系不全(MOSF)をもたらす場合、その病状を敗血症又は敗血症性ショックという。最初に、微生物は感染した病巣で増殖する。その生物は、血流に侵入して血液培養物を陽性とし、又は、局所で増殖して様々な物質を血流に放出する。そのような物質は、病原性を有している場合、2つの基本的なカテゴリー;内毒素と外毒素に分類される。内毒素は、一般的に、微生物の構造成分からなり、例えば、ブドウ球菌のテイコ酸抗原、LPSのようなグラム陰性生物の内毒素があげられる。外毒素(例えば、トキシックショック症候群トキシン−1又はブドウ球菌腸毒素A、B若しくはC)は、微生物により合成され直接放出される。その名前が示唆するとおり、これらのタイプの細菌毒素はともに病原性効果を示し、多数の宿主由来内因性免疫伝達物質の血漿タンパク質又は細胞(単球/マクロファージ、内皮細胞、好中球、T細胞及びその他)からの放出を刺激する。敗血症/SIRSは、様々な有害な損傷(とりわけ、例えば、細菌感染などの感染源における損傷であるが、しかし、非感染性損傷もまたよく知られておりよく見受けられる。)に対する急性全身性炎症反応である。敗血症/SIRSとともに見受けられる全身性炎症反応は、例えば、サイトカイン、ケモカイン、一酸化窒素及びその他の身体の免疫伝達化学物質などの様々な免疫伝達物質により活性化される免疫学的工程により引き起こされる。これらの免疫伝達物質は、概して、敗血症/SIRSとともに見られる生死に関わる全身性疾患を引き起こすと見られている。これらの免疫伝達物質は、一方で、例えば、有効な抗細菌反応として局所的に必要であるが、しかし、対照的に、血液循環に分泌された場合には潜在的に毒性である。血液循環に分泌された場合、これらの伝達物質は、原因と結果の上昇スパイラルにより、さらなるこれらの伝達物質の全身的な放出を引き起こし、結果として、例えば、多臓器不全や死亡などの重篤な疾患に導き得る。重大な炎症伝達物質は、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、組織成長因子β(TGF−β)、インターフェロンγ、インターロイキン(IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−12、IL−23、IL−40、及び多くのその他)、一酸化窒素(NO)、アラキドン酸代謝産物、プロスタグランジン1及び2(PGE1及びPGE2)及びその他のものなどがあげられる。
本質的に、敗血症(敗血症若しくはsepticemia)は、血液中の病原性微生物又はそれらの毒素の存在と、その存在に付随する全身性炎症性疾患との組み合せに関連する。対象における敗血症の進行において主要なことは、対象の微生物感染であり、これが起源となり、感染された対象の血中に前記微生物が存在することにより、又は、その毒素が前記対象の血中に存在することにより、免疫伝達物質の全身放出が行われる。前記存在が、体全体に関連若しくは影響する疾病、すなわち、全身性疾患を引き起こした場合に、敗血症と呼ばれる。
敗血症の分野は、このように、対象の血中における微生物又はその毒素の存在により特徴付けされる病状に制限され、かつ、同時に(それぞれ)前記微生物に対する前記対象の全身性反応、又は、前記毒素に対する前記対象の全身性反応に制限される。ここでは、敗血症は、重症敗血症及び敗血症性ショックを含む。ここで、重症敗血症は、臓器機能障害を伴う敗血症に関連し、敗血症性ショックは、低血圧症若しくは潅流異常又はこれら両方を伴う敗血症に関連する。SIRSは、敗血症のケースで見られる重篤な全身性疾患のタイプに関連し、しかしまた、血中に病原性微生物又はその毒素が存在しない全身性炎症性疾患に関連する。
対象におけるSIRSの進行において主要なことは、体全体に関連若しくは影響する疾病、すなわち、全身性疾患を引き起こす免疫伝達物質の存在と効果である。この全身性免疫反応は、例えば、外傷、やけど及び膵炎などのさまざまな臨床上の損傷により引き起こされうる。また、やけどの患者は、気道傷害があってもなくても共通して全身性炎症により引き起こされる臨床像を示す。「全身性」炎症反応症候群(SIRS)という語句は、そのような病状に苦しむ患者の徴候と症状を示すために導入された。SIRSは、頻拍、頻呼吸、発熱及び白血球増加症の病状から不応性低血圧症までの一連の重症度を示し、その最も重篤な形態は、ショックと多臓器系不全である。熱的損傷の患者において、最も一般的なSIRSの原因は、やけどそのものである。感染症又は菌血症の病状を伴うSIRS、すなわち、敗血症もまた、頻繁に発生する。代謝系、循環系、胃腸系及び凝固系の病的な変化は、活動過多な免疫システムの結果として起こる。細胞性及び体液性両方のメカニズムが、これらの疾病過程に関与し、様々なやけどや敗血症モデルにおいて広く研究されている。全身性炎症反応症候群(SIRS)という語句は、1992年の米国胸部疾患学会議/米国集中治療医学会(ACCP/SCCM)コンセンサス会議により、その原因とは独立して全身性炎症過程を説明するために推奨された。その提案は、感染性でも非感染性でも(すなわち、やけど、虚血−再潅流傷害、多重外傷、膵炎などの)様々な病状が同じような宿主反応を誘導するという臨床及び実験結果に基づいていた。SIRSの診断がされるためには、下記病状のうち2以上を満たさなければならない。
・体温が、>38℃又は<36℃。
・心拍が、>90拍/分。
・呼吸数が、>20/分又はPaco2<32mmHg。
・白血球数が、>12.000/μl、<4000/μL、又は>10%未熟(帯)型。
これらすべての病態生理学的な変化は、例えば、化学療法が誘導する好中球減少症及び白血球減少症などのそれらの既知の原因がないベースラインからの急性変化として起きなければならない。
亜急性又は慢性全身性炎症反応の特定の代表として、例えば、糖尿病などの自己免疫炎症性疾患に見られる臨床症状をここで論じる。非肥満性糖尿病(NOD)マウスは、自己免疫疾患、このケースにおいては上昇した血糖値(高血糖症)が臨床上の主な特徴であるインスリン依存性糖尿病(IDDM)のモデルである。前記上昇した血糖値は、膵臓のランゲルハンス島におけるインスリン産生β細胞の自己免疫炎症性の破壊により引き起こされる。これには、前記ランゲルハンス島を取り囲み浸透する、CD4+及びCD8+Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ並びに樹状細胞の不均一混合物からなる大規模な細胞浸潤(インスリン炎)が伴う。また、亜急性及び慢性炎症における重大は炎症伝達物質としては、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、組織成長因子β(TGF−β)、インターフェロンγ、インターロイキン(IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−12、IL−23、IL−40、及び多くのその他)、一酸化窒素(NO)、アラキドン酸代謝産物、プロスタグランジン1及び2(PGE1及びPGE2)及びその他のものなどがあげられる。
前記NODマウスは、炎症性伝達物質により媒介され、β細胞に対して向けられた最初の炎症反応が、IDDMの進行の最初の事象であるというモデルを示す。前記NODマウスがまだ糖尿病でない場合でも、β細胞に向けられた炎症は必ず発生する。糖尿病の発生は、ヒトの疾病と同様に、唯一のMHCクラスII遺伝子と複数の非連鎖遺伝子座との間の多因子相互作用を通して媒介される。さらに、NODマウスは、遺伝と環境間、及び第一次と第二次の炎症反応間の重大な相互作用を見事に実証する。例えば、その臨床症状は、様々な外部の条件、最も重要にはNODマウスが飼育される環境の微生物負荷に依存する。糖尿病期間中は、マウス(及び確立した糖尿病を患うヒト)における炎症反応は、非常に多様性に富む。高血糖値のために引き起こされる血管損傷のために、身体の至るところに組織損傷が起こり、再び炎症伝達物質が放出されて第二次の炎症が盛んになり、全身至るところに炎症が起こる。しかしながら、この炎症は、最初に見られたより初期の段階に起きた炎症よりも患者により深刻な結果をもたらす。
NODマウスで証明できる自己免疫に関しては、測定されるほとんどの抗原特異的抗体及びT細胞反応は、糖尿病患者において自己抗原として検出された様々な抗原に対して向けられたものである。これらの自己抗原のNOD糖尿病における役割の理解は、糖尿病期間そのものに導く病原性自己抗原に向けられた最初の炎症反応と、付帯現象として観察される二次的な炎症反応とをより一層区別可能とする。
一般的に、Tリンパ球は、疾病過程を媒介する免疫の開始において中心的役割を果たす。CD4+T細胞は、少なくとも2つの大きなサブセット;Th1とTh2に分けることができる。活性化されたTh1細胞は、IFN−γ及びTNF−αを分泌し、Th2細胞は、IL−4、IL−5及びIL−10を産生する。Th1細胞は、実効的な細胞性免疫の発生に重大に関与し、一方、Th2細胞は、好酸球及び肥満細胞の活性化並びにIgEの産生を含む、体液及び粘膜性免疫並びにアレルギーに関与する。現在、多くの研究が、マウス及びヒトにおける糖尿病とTh1表現型の進行とを関連付けしている。他方、Th2T細胞は、比較的無害であることが示されている。Th2T細胞は実際保護用のものであるとさえ推測される場合もある。CD4+T細胞が、無傷な受容者に、TCRそのものに認識される抗原特異性ではなく、T細胞反応の表現型的性質とともに、糖尿病を移すことができることが示された。強く分極したTh1T細胞は、NOD新生児マウスに疾病を移すが、Th2T細胞は、活性化されかつ糖尿病を誘発するTh1T細胞集団と同じTCRを有するにもかかわらず、移さない。さらに、ともに移された場合、Th2細胞が10倍であっても、Th2T細胞は、Th1誘導糖尿病を改善することができなかった。
要約すると、全身性炎症と同様に急性炎症を促進させる重大な病態生理学的な事象は、組織損傷であって、その後、炎症伝達物質、とりわけサイトカインが放出され、炎症過程が始まる。これは、例えば、虚血−再潅流傷害又は組織の微生物感染期間などの後に見られる免疫又は炎症伝達物質から誘導される細胞性損傷と同様に、機械的又は温度的外傷からの組織への直接的損傷の結果起こりうる。細胞性損傷は、炎症性サイトカインの急性放出という結果となる。例えば、広範囲の組織損傷などの損傷が重篤な場合、サイトカインの激しい放出が起こり、全身性の炎症反応の誘導という結果となる。宿主のこの全身性炎症反応に(急性に又は慢性に)適応する能力は、反応の規模、反応の期間、及び、宿主の適応能力に依存する。
本発明は、身体の重要な生理学的過程の先天的調節方法に関連し、WO99/59617、WO01/72831及びPCT/NL02/00639に記載される見識に基づく(特許文献1〜3)。
これらの先の出願において、妊娠女性に自然に存在し、例えば、妊娠中の産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)などの胎盤ゴナドトロピンのタンパク質分解崩壊に由来する小さな遺伝子調節ペプチドが記載されている。これらのペプチド(活性状態では、長さは、しばしば約4〜6アミノ酸のみである)は、例えば、サイトカインなどの炎症伝達物質をコードする遺伝子の発現を制御することにより発揮される卓越した免疫活性を有している。驚くべきことに、hCGの崩壊が、妊娠女性の免疫学的ホメオスタシスの維持を助けるペプチドカスケードを提供することが見出された。これらのペプチドは、母親を免疫学的に正常に維持し、彼女の胎児が妊娠期間中に時期を早めて拒絶されず、出産時まで安全に妊娠されることを確実にするために免疫システムのバランスをとる自然本来の物質である。
タンパク質の最小崩壊産物は、それ自身に特定の生物学的機能(免疫システムの抗原として機能を果たすことを除外して)は有さないと、一般的に考えられていたが、現在では、身体は実際にタンパク質のタンパク質分解崩壊の正常過程を通常利用することが明らかになった。前記崩壊は、身体自身の遺伝子の発現をコントロールする重要な遺伝子調節化合物である短いペプチドを生成するために引き起こされる。外見上、身体は、それ自身の遺伝子にコードされるまさにそのタンパク質の小さな崩壊産物に支配される遺伝子コントロールシステムを使用する。
妊娠期間に母体のシステムが、母体の胎児に対して向けられる拒絶反応を抑制する一時的な免疫調節の状態を導入することは長く知られている。逆説的に言えば、妊娠期間は、母親の感染抵抗性はしばしば上昇し、母親は、例えば、リウマチや多発性硬化症などの様々な自己免疫疾患の臨床症状に対してよりよく保護されることが分かっている。胎児の保護は、このように、免疫抑制の結果としてのみでは説明できない。前述の3つの出願それぞれは、母親の保護と胎児の保護との間の免疫学的バランスが理解できる見識が提供されている。
hCGの一定の短い崩壊産物(すなわち、容易に合成でき、必要に応じて修飾され、医薬組成物として使用できる短いペプチド)は、炎症性又は抗炎症性サイトカインカスケードについての主要な調整活性を発揮する。前記カスケードは、重大な転写因子ファミリーである、身体の免疫反応を形作る遺伝子発現の制御において中心的であるNFκBファミリーにより支配される。
妊娠期間中に産生されるhCGのほとんどは、母親及び子供の細胞及び組織が激しく接触し拒絶を撃退するために免疫調節が最も必要なまさにその器官である胎盤の細胞により産生される。胎盤におけるhCGからの崩壊物である遺伝子調節ペプチドは、局所的に産生され、即座に母親と子供との間の緩衝地帯において見受けられる炎症性又は抗炎症性サイトカインカスケードのバランスをとる。典型的な胎盤細胞にトロホブラストにより産生されたペプチドは、細胞外空間を越えて、免疫システム細胞に入り、そして、NFκBが媒介するサイトカイン遺伝子の発現を調節することによりその免疫調節活性を発揮し、胎盤のおける免疫反応を寄せ付けない。
WO99/59617
WO01/72831
PCT/NL02/00639
実施例
理論により束縛されることは望まないが、疾病の経口又は粘膜治療による広範囲にわたる影響を及ぼす遺伝子制御の予期せぬモードが発掘された。例えば、内因性のCG、EGFなどのポリペプチド、また、例えば、ウイルス、バクテリアなどの病原ポリペプチド、又は原生動物のポリペプチドは、例えば、細胞内のタンパク質分解などの崩壊にさらされ、独特のオリゴペプチドとなる。独特のタンパク質分解酵素は、例えば、真核細胞のリソソームシステム又はプロテアソームシステムなどにおいて細胞内で広く利用可能である。結果として得られる崩壊産物は、3〜15、好ましくは4〜9、より好ましくは4〜6アミノ酸長のオリゴペプチドであって、驚くべきことに細胞に対して何らか機能若しくは効果があるだけではなく、ここで証明するとおり、おそらくは内因性ポリペプチドの崩壊におけるフィードバックメカニズムにより、ここで証明するようにNFκBなどの遺伝子転写因子の活性又はトランスロケーション制御により遺伝子発現制御のシグナル分子として関与し、例えば、LQGV(配列番号1)、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号17)、LQG、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、VVC、MTRV(配列番号20)及びMTRのペプチドがあげられる。前述したこれらのペプチドの合成バージョン及びこれらの崩壊産物の機能的アナログ又は誘導体は、ここでは、細胞内の遺伝子発現を調節するために提供され、遺伝子発現におけるエラーを修正する方法又は全身性疾病の粘膜若しくは経口治療に使用されうる。例えば、LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、GVLPALPQ(配列番号23)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、SIRLPGCPRGVNPVVS(配列番号27)、SKAPPPSLPSPSRLPGPS(配列番号26)、LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、VVC、又は機能的アナログ、これらのより長い配列の(崩壊産物を含む)三量体若しくは四量体の誘導体が、とりわけ好ましい。特に、経口投与に好ましいのは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)及びLAGV(配列番号10)である。
好ましい実施形態において、本発明は、炎症性疾患を患う若しくは患うと見られる対象の治療であって、例えば、サイトカインなどの炎症伝達物質をコードする遺伝子発現制御ができる薬理学的に有効量の遺伝子調節ペプチドを含む医薬組成物の粘膜投与、好ましくは経口投与による治療を提供する。疾病、とりわけ炎症性疾患の治療のための粘膜投与の薬学的適用に包含される有用な遺伝子調節ペプチドは、妊娠女性に天然に存在し、例えば、妊娠中に産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)などの胎盤ゴナドトロピンのタンパク質分解崩壊に由来する。しかしながら、機能的同等物又はアナログ活性を有するこれらのペプチドの合成変異体及び修飾物は、合成することができ、それらの活性は当業者により例えば実験動物を使用してここで説明するようなNODマウスを使用した実験などで容易にテストすることができる。その他の実施形態においては、本発明は、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む粘膜投与のための医薬組成物、及び、粘膜投与のための医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。そのような組成物は、粘膜表面領域、頬内面及び舌表面、腸管の(上部及び下部の)表面、鼻及び呼吸管の(上部及び下部の)表面への適用に最も有用である。なぜなら、一般に粘膜表面は、9より短い、好ましくは7アミノ酸より短い、例えば、3又は4アミノ酸長などのほとんどの遺伝子調節ペプチドが浸透でき、しばしば適用された領域を超えて影響し、身体を全身的に治療、すなわち、全体として治療するのに最も有用だからである。
本発明は、細胞性生物における遺伝子制御の制御因子の性質の生物学及び生理学における見識を明らかにする。これは、遺伝子制御として作用する人工又は合成化合物の同定と開発の予想を超える速い進行、及び、粘膜投与のための医薬組成物の製造のための化学物質としての使用、又は、遺伝子調節ペプチドの粘膜投与を通した炎症性疾患の治療における使用を可能とする。ここでは、生物の内因性タンパク質のタンパク質分解崩壊により導き出せる又は病原体のタンパク質のタンパク質分解崩壊により、すなわち、宿主生物における病原体の存在期間内に導き出せる多くの短いペプチドであって、前記生物の細胞に非常に特異的な遺伝子調節活性を発揮するペプチドは、粘膜を通じた取り込みにより投与された場合、例えば、経口使用、直腸投与、鼻腔用スプレー、上気道エアロゾル投与などの場合に、全身レベルでこの活性を発揮するという見識を提供する。特定の実施形態において、本発明は、NFκBが引き起こす遺伝子発現とその結果として起こる対象の炎症反応を、粘膜投与、例えば、経口使用の医薬組成物を用いた対象の治療によりコントロールする全身性メカニズム関する知識の質と量を推進する研究者にとって大きな価値を有する。
この見識は、二重の方法で得ることができた。遺伝子調節ペプチドの粘膜取り込みの影響をテストするように設計された一つの実験において、非糖尿病のNODマウスの頬嚢に一日一回植えつけられたNFκB下方制御ペプチドは、それらのマウスにおいて糖尿病の全体的な進行に対して予測を超える有益な影響を及ぼした。糖尿病の病因における第一次の炎症であるインスリン炎の進行の発生率が、大幅に減少した。その他の実験において、既に糖尿病となったNODマウスにNFκB下方制御ペプチドが入っている又は入っていない飲用水を与えたところ、また有益な結果が観察された。すなわち、血管損傷により引き起こされる臨床結果である代表的な第二次の全身性炎症の重症度が著しく軽度となり、飲用水治療は、未処理群に対して処理群の外見によりよい貢献をした。同様の結果は、妊娠期間中に産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)及びそのタンパク質分解崩壊産物である遺伝子調節ペプチドの機能的アナログを含む医薬組成物を粘膜又は経口治療したマウスにおいても見ることができた。しかしながら、用量と効果における回分式の差異が観察され、同様に、含まれている制御ペプチドの濃度における回分式の差異が反映された。
これらの見識とともに、本発明は、とりわけ、ペプチド又はその機能的誘導体若しくはアナログを含む粘膜若しくは経口投与に適した遺伝子調節ペプチドの同定又は獲得のためのスクリーニング方法を提供する。前記ペプチドは、インビトロであってもインビボであっても、例えば、サル又はラットやマウスなどの小型実験動物などの実験的疾患動物の細胞において、遺伝子発現を調節することができる。前記方法は、前記動物に粘膜経路により少なくとも一つのペプチド又はその誘導体若しくはアナログを与えること、及び、前記動物の前記処理に対する臨床上の反応又は前記動物の1つ以上の遺伝子の発現若しくは遺伝子転写因子の活性及び/又は核トランスロケーションを測定すること含む。前記ペプチドが3〜15アミノ酸長、より好ましくは3〜9アミノ酸長、最も好ましくは3又は4〜6アミノ酸長である場合に、とりわけ有用である。
ここでいう機能的誘導体又はアナログは、例えば、ペプチド又はそのアナログ若しくは誘導体の遺伝子発現、若しくは、NFκBアッセイにおけるNFκBやAP−1アッセイにおけるAP−1などのような関連する転写因子の核トランスロケーションに対する効果の測定により若しくは従来技術で採用できるその他の方法により測定される、遺伝子調節効果又は活性に関連する。断片は、機能的活性をしつつ、一端又は両端からいくらか(即ち、1又は2アミノ酸)短く又は長くすることができる。
本発明のスクリーニング方法は、また、さらに、前記遺伝子転写因子がサイトカインの転写を制御するかどうかを測定することを含む。前記測定は、例えば、処置した細胞又は動物のサイトカインの転写レベル又は実際の存在量を検出して測定することができる。又は、前記遺伝子転写因子がNFκB/Relタンパク質を含む場合には、前記動物で発現する少なくとも1つの興味ある遺伝子の相対的な上方及び/又は下方制御を測定してもよく、遺伝子チップ技術を用いて前記動物で発現する多数の遺伝子について容易に測定してもよい。
当然ながら、本発明は、例えば、経口使用などの粘膜投与用の医薬組成物であって、細胞における遺伝子発現調節に有用なシグナル分子として作用し、ここで提供する本発明のスクリーニング方法により同定又は獲得できる医薬組成物の提供を目的とする。有用なシグナル分子は、NFκB/Relタンパク質媒介遺伝子発現の調節物質としてここで既に提供したものや又は以下に詳説するものがあげられる。本発明は、また、このように提供されるシグナル分子の使用であって、例えば、NFκB/Relタンパク質の活性化を阻害する遺伝子発現の調節用の医薬組成物の製造のための使用、又は、霊長類又は家畜の治療用の医薬組成物の製造のための使用を提供する。
短いペプチドや崩壊産物であっても生物学的活性を有することは既に知られている。内因性又は病原性由来タンパク質のタンパク質分解崩壊産物は、例えば、プロテアソームシステムにより通常産生され、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI又はIIとともに提示される。また、例えば、抗利尿ホルモン、オキシトシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、ゴナドトロピン放出ホルモン、ソマトスタチン、ガストリン、コレシストキニン、サブスタンスP、エンケファリン、ニューロテンシン、アンギオテンシン、及びそれらの誘導体若しくは同等物などの古典的に知られている神経ペプチド(ペプチド性神経伝達物質としても知られている)又は小さいペプチドホルモンが、一般的に細胞表面受容体相互作用により媒介される明確な生物学的活性を有することは認識されている。さらに、一定の小さい、アルギニン又はリジン又はプロリンリッチペプチド、すなわち、50%を超えるアルギニン、若しくは50%を超えるリジン、若しくは50%を超えるプロリン残基を有するペプチド、又は、50%を超えるアルギニン及びリジン、若しくは50%を超えるアルギニン及びプロリン、若しくは50%を超えるリジン及びプロリン残基を有するペプチド、又は、50%を超えるアルギニン、リジン及びプロリン残基を有するペプチドが、明確な膜透過特性を有し、その結果、生物学的活性を有することは、現在知られている。ここで使用する遺伝子調節ペプチドは、古典的に知られている神経ペプヂトやペプチドホルモン以外のものであり、かつ、前述したアルギニン又はリジン又はプロリンリッチペプチド以外のものである。
本発明は、全身的に疾病を治療するための粘膜投与に適した小さなペプチドに関連する。前記粘膜投与は、そのような小さなペプチドの粘膜投与により治療される対象の疾病又は病状に全身性の効果を有する。遺伝子調節ペプチドの粘膜投与及び全身性効果は、驚くべきものである。本発明のペプチドは、小さいことが好ましい。最も好ましいサイズは、4〜6アミノ酸であって、2〜3アミノ酸のペプチドもまた非常に実現可能である。7〜15アミノ酸のサイズもまた実現可能であるが、粘膜投与に対してはより実際的ではなく、10〜15アミノ酸又はそれを超えるペプチドは、より小さく、機能的により活性のある断片に崩壊させることが好ましい。
前述のとおり、本発明は、生物の内因性ペプチドのタンパク質分解崩壊から由来若しくは得られる小さいペプチド、又は、病原体のタンパク質、すなわち、宿主生物内に前記病原体が存在する期間中のタンパク質分解崩壊から由来若しくは得られる小さいペプチドが、前記生物の粘膜表面のみへ投与された後であっても、しばしば、前記生物の身体の至るところの細胞に非常に特異的かつ全身的な遺伝子調節活性を発揮するという見識を提供する。この見識は、ここで提供するような方法を実施してシグナル分子を同定し、小さい(オリゴ)ペプチド、又はその修飾物若しくは誘導体(ここでは、一緒にしてリードペプチドという)が粘膜投与後に遺伝子発現を全身的に制御する能力や傾向についての情報を得ることによる全身的アプローチについての即時的なインセンティブを産み出し、また、皮内、経皮又は皮下適用の機会を試してテストするインセンティブを産み出す。
前記遺伝子調節ペプチドは、好ましくは粘膜経路により、投与してインビボに導入することができ、皮膚の通過により行うことも可能である。前記ペプチド又はその修飾物若しくは誘導体は、そのまま、又は、生理学的に許容される酸若しくは塩基付加塩として投与することができる。前記酸若しくは塩基付加塩は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸など)若しくは有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸など)との反応により、又は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムなど)若しくは有機塩基(例えば、モノ−、ジ−、トリアルキル及びアリールアミン並びに置換エタノールアミンなど)との反応により形成できる。選択したペプチド及び任意の由来物は、DMSO、トランスロケーションペプチド、糖、脂質、その他のポリペプチド、核酸、及び、PNAと複合化され、in−situで複合物として機能してもよく、標的組織若しくは器官に到達後、局所的に放出されてもよい。
本発明は、また、疾病若しくは疾患を患う対象の治療用の医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、薬理学的に有効量の遺伝子調節ペプチドを、生理学的に許される希釈剤とともに含む。とりわけ、本発明は、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む粘膜投与用の医薬組成物を提供し、粘膜投与用医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、2以上の遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む粘膜投与用の医薬組成物を提供し、粘膜投与用医薬組成物の製造のための2以上の遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
一つの実施形態において、前記医薬組成物は、粘膜投与に適した形であることが好ましい。より好ましい実施形態においては、前記粘膜投与用の形は、スプレー剤、液剤及びゲル剤からなる群から選択され、水様性ベースであることが好ましい。より好ましい実施形態においては、本発明は、疾病又は疾患を患う対象の治療用の医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、薬理学的に有効量の遺伝子調節ペプチドを、生理学的に許容される希釈剤とともに含み、経口投与に適した形である。前記経口投与用の形は、カプセル剤、タブレット剤、液剤、経口懸濁剤、乳剤及び散剤からなる群から選択されることが好ましい。
遺伝子調節ペプチドは、類似化合物の調製方法として知られる他の方法(例えば、固相合成の利用)により調製してもよいが、遺伝子調節ペプチドの作製方法は、この詳細な説明において論じる。調製工程の間は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1−ブタノール、2−ブタノール、エタノール、メタノール、酢酸エチル、塩化メチレン、ヘキサン、ジエチルエーテル、水、酢酸などの溶媒やその他のものを使用できる。前記遺伝子調節ペプチドの調製においては、パラジウム又はモリブデンを含む触媒を使用してもよい。
どのように作製されても、前記遺伝子調節ペプチドは、例えば、塩酸、塩化臭素酸、フマル酸、リン酸、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、パルチミン酸、及びその他の従来公知の酸などの薬理学的に許容される有機並びに無機酸から薬理学的に許容される塩を形成する。その酸付加塩は、前記遺伝子調節ペプチドと前記酸との反応により得ることができる。
化合物を結晶化する方法は、Chase et al.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,(16th ed.,Mack Publishing Co.,Easton.PA,U.S.A.,1980)(「Remingto’s」),1535頁に記載されている。
結晶性の遺伝子調節ペプチドは、例えば、吸入用散剤、再構成用散剤、タブレット粉薬(例えば、調剤用タブレット剤及び皮下注射用タブレット剤)、その他のタブレット剤などの多くの剤形を作製することに使用できる。
結晶性遺伝子調節ペプチドを含む医薬組成物は、好ましくは、適量の生理学的に許容される遺伝子調節ペプチドを含む、例えば、タブレット剤、カプセル剤、錠剤、散剤、下流剤、坐剤、滅菌非経口液剤若しくは懸濁剤、及び、経口液剤若しくは懸濁剤などの単位剤形として調剤されることが好ましい。
そのような剤形を作製する方法と組成は、当業者に従来公知である。例えば、散剤の作製方法及びその組成は、Remingto’sの1535〜1552頁に記載されている。吸入剤は、1552頁に記載され、吸入器は、1792頁に記載されている。活性成分を含むタブレット剤及び錠剤の作製方法及び組成は、Remingto’sの1553〜1584頁に記載されている。薬学的剤形のコーティング方法及び長期放出薬剤の作製方法は、Remingto’sの1585〜1613頁に記載されている。これらの頁の内容は、この参照によりここに組み込まれる。
前記結晶性遺伝子調節ペプチドは、患者への移植を意図した機器に取り込ませることができる。そのような機器、そこでの使用を意図したポリマー、及びこれらを作製する方法は、米国特許U.S.3,773,919、4,767,628、及び4,675,189に記載されている。例えば、十分量の結晶性遺伝子調節ペプチドをPLAGAインプラントに取り込ませ、患者の体内へ遺伝子調節ペプチドを(例えば、5mg/日で1ヶ月間)放出させることができる。
結晶を含む医薬組成物の非結晶産物に対する利点の一つは、結晶性塩産物を含む医薬組成物は、非結晶産物のものよりも2倍のバイオアベイラビリティを有しているから、一定の粘膜において半分の絶対量の活性成分を含むだけよく、したがって、吸気やその他の投与方法で必要な成分の量を減らすことができ、前記組成物の総費用を減らすことができる。前記粘膜は、鼻や頬の粘膜を含む。
結晶性遺伝子調節ペプチドを含む医薬組成物は、例えば、可溶化剤などのアジュバントとともに配合できるが、その必要はない。例えば、鼻粘膜に投与される医薬組成物において、もっぱら結晶性遺伝子調節ペプチド(すなわち、前記遺伝子調節ペプチドの結晶性酸付加塩)を使用できることには、利点がある。その一つとして、アジュバントには、長期投与には適さないものがあることがあげられる。しかしながら、長期投与は、遺伝子調節ペプチドを摂取する特定の人には必要な場合がある。その他の利点は、粘膜の不快症状を減らすために遺伝子調節ペプチドに適していれば、そのアジュバントは、必然的に医薬組成物の一部分として利用できることである。
しかしながら、望ましい場合には、可溶化剤、緩衝剤、膨潤剤などをその配合に使用できる。緩衝剤は、前記遺伝子調節ペプチドを非イオン化型に維持できるものが好ましい。
投与される結晶性酸付加塩/遺伝子調節ペプチドの量は、治療される疾病の種類、関与する患者のタイプ、年齢、健康状態、体重、もしあれば、同時に行われる治療の種類、並びに、治療の長さ及び頻度に依存する。
前記剤形は、様々な期間で投与される。疾病の治療のため、患者が患う疾病に伴う症状を軽減するに十分な時間の長さで、化合物は患者に投与される。この時間は、変化しうるが、しかし、二ヶ月を超える期間が特に好ましい。症状が軽減された後、前記化合物を中止して個々の患者にまだ必要かどうかを決定することができる。
炎症性疾患の発生を予防し、そして治療の必要性を軽減するために、前記化合物をそのうちに炎症性疾患を患い易いと見られる人(例えば、ビンクリスチンなどの細胞毒性薬の治療を受けている患者、糖尿病、アルコール依存症などの患者)に、患いやすいと見られる期間、投与することができる。前記化合物のそのような予防投与の期間の長さは、当然変化するが、同様に、その期間は二ヶ月を超えることが好ましい。炎症性疾患への想定された感受性の理由が中断し退去した場合、前記化合物はその後中断される。しかしながら、疾病の理由が中断せず退去しない場合(例えば、糖尿病の場合)には、前記化合物は、その人の生涯にわたり投与する必要がある。
具体的には、投与される活性成分の用量レベルは、(鼻腔内で)0.55mg〜270mg/日である。ヒトの治療においては、日用量は、経口投与で8mg〜120mgが好ましい。
本発明は、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む経口投与用の医薬組成物、及び、経口投与用の医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、2以上の遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む経口投与用の医薬組成物、及び、経口投与用の医薬組成物の製造のための2以上の遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
前記遺伝子調節ペプチドは、経口投与の用量単位に取り込まれる。「用量単位」の用語は、一般的に、望ましい効果を産み出すように計算された所定量の活性物質(例えば、遺伝子調節ペプチド)をそれぞれ含むヒト又は動物用の単一の調剤として物理的に分離した単位を参照する。
そのような用量単位を作製する方法と組成は、当業者に従来公知である。例えば、活性成分を含むタブレット剤及び錠剤を作製する方法と組成は、標準参考文献であるChase et al.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,(16th ed.,Mack Publishing Co.,Easton.PA,U.S.A.,1980)(「Remingto’s」)の1553〜1584頁に記載されている。散剤の作製方法及びその組成は、Remingto’sの1535〜1552頁に記載されている。薬学的剤形のコーティング方法は、Remingto’sの1585〜1593頁に記載されている。
例えば、タブレット剤などの用量単位の作製には、例えば、充填剤、着色剤、ポリマー結合剤などの通常の添加剤の使用が検討される。一般に、活性化合物の機能を干渉しない任意の生理学的に許容される添加剤は、1以上の前記組成物において使用されうる。
前記組成物とともに投与できる適した担体は、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体などを含み、適した量が使用される。ラクトースは、好ましい担体である。担体の混合物もまた使用できる。
経口使用の医薬組成物の製造工程は、所定量のペプチドを所定量の担体と混合すること、及び、その混合物を第一の用量単位に(例えば、前記混合物と任意の望ましい賦形剤を充填してカプセル剤とし、又は、成形してタブレット剤とすることにより)加工することを含む。
本発明の遺伝子調節産物を製造する好ましい工程は、公知技術により望ましい用量の遺伝子調節ペプチドをタブレット剤に取り込むことを含む。異なる量又はタイプの遺伝子調節ペプチドを含むタブレット剤又はその他の用量単位は、異なる色であってよく、また、例えば、ブリスター包装などの異なる部分に保持されてもよい。
その他の実施形態において、本発明は、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む、例えば、坐薬などの直腸投与のための医薬組成物、及び、直腸投与用の医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
その他の実施形態において、本発明は、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む皮下又は経皮投与のための医薬組成物、及び、皮下又は経皮投与用の医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
ここで提供される粘膜投与用又は皮膚経由投与用の医薬組成物は、NFκB/Relタンパク質が媒介するサイトカイン活性化を阻害することによる遺伝子発現調節に特に有用である。
NFκB/Relタンパク質は、一群の実質的に関連し、進化的に保存されたタンパク質(Rel)である。cRel、RelA(p65)、RelB、NFκB1(p50及びその前駆体のp105)、及びNFκB2(p52及びその前駆体のp100)がよく知られている。ほとんどのNFκBのダイマーは、転写活性化因子であり、p50/p50及びp52/p52のホモダイマーは、これらの標的遺伝子の転写を抑制する。すべてのNFκB/Relタンパク質は、高度に保存されたNH2末端Relホモロジードメイン(RHD)を共有する。RHDは、DNA結合、ダイマー化、及びIκBとして知られる阻害タンパク質との結合に関与する。静止細胞においては、NFκB/Relダイマーは、IκBと結合しており、細胞質中に不活性型で保持される。IκBは、多重遺伝子族のメンバー(IκBα、IκBβ、IκBγ、IκBε、Bcl3及び前駆体Relタンパク質p100及びp105)である。複数コピーのアンキリン反復が存在し、RHDを経由してNFκBと相互作用する(タンパク質−タンパク質相互作用)。適切な刺激により、IκBはIκBキナーゼ(IKK)によりリン酸化され、ユビキチンリガーゼ複合体によりポリユビキチン化され、26Sプロテアソームにより分解される。NFκBは、放出され核へトランスロケーションして遺伝子発現を開始する。
NFκBの遺伝子発現制御は、先天性の免疫反応を含む。前記免疫反応は、例えば、サイトカイン、IL−1、IL−2、IL−6、IL−12、TNF−α、LT−α、LT−β、GM−CSF、接着分子(ICAM、VCAM、内皮性白血球接着分子(ELAM))、急性期タンパク質(SAA)、誘導酵素(iNOS及びCOX−2)及び抗菌ペプチド(β−デフェンシン)などにより制御される。全体的な免疫反応の制御は、アポトーシス制御に決定的な遺伝子(c−IAP−1及びc−IAP−2、Fasリガンド、c−myc、p53及びサイクリンD1)の制御を含む。
NFκB及び関連する転写因子が主要な炎症反応促進転写因子であることを考慮し、及び、本発明が、全身的にNFκBを阻害でき、同様にその他の炎症性転写因子を阻害できる(ここでは、また、NFκB阻害因子とも呼ぶ)粘膜投与に適した遺伝子調節ペプチド及び機能的アナログ又は誘導体を提供することを考慮すると、本発明は、NFκBが活性化した遺伝子発現の全身的な調節、とりわけ、その発現の阻害及び中心的な炎症促進経路の阻害のための方法及び医薬組成物を提供する。好ましい実施形態において、前記遺伝子調節ペプチドは、経口で投与され、投与された粘膜表面を越えて全身的に活性を発揮する。
粘膜、例えば、経口投与などを経由して炎症反応促進経路を全身的に阻害するこの潜在力の結果は、広く、広範囲である。
その一つとして、粘膜又は経口で適用されてNKκBが媒介する疾病を調節することに向けられた全身性の反応を生じる遺伝子調節ペプチド及び誘導体の薬学的潜在能力を利用した新規な治療上の進出が提供される。先に我々は、それぞれ及び一斉に身体の免疫反応に向けられるNFκB主導の炎症性又は抗炎症性サイトカインカスケードの特異的な上方又は下方制御の証拠が、発現プロファイル研究による遺伝子アレーにおいてインシリコで、免疫細胞の処置後インビトロで、及び、遺伝子調節ペプチドを処置された実験動物においてインビボで見出されたことを提示した。また、NFκBが、疾病の第一のエフェクターであることを考慮すると、経口又はその他の粘膜投与を経由したhCG由来の遺伝子調節ペプチドの使用は、様々なヒト及び動物の疾病の治療に対して大きな潜在能力を提供し、そして、妊娠を安全に維持するように母親の免疫システムのバランスを助けるまさにその物質の、遺伝子調節ペプチドを粘膜投与、好ましくは経口投与することによる薬学的潜在能力の開発を提供する。
NFκBにより変調された疾病の例は、第一に先に述べた炎症病状の中に見出される。
ここで提供される医薬組成物の経口治療ができる病状は、好ましくは、例えば、1型若しくは2型糖尿病、シェーグレン症候群、多発性硬化症などの亜急性又は慢性炎症性疾患、例えば、移植対宿主疾患などの移植関連免疫反応、輸血後血小板減少症、亜急性及び慢性委嘱片拒絶反応、子かん前症、関節リウマチ、炎症性大腸炎、神経又は精神疾患の炎症要素、アテローム性動脈硬化症、ぜん息、アレルギー、及び慢性自己免疫疾患があげられる。特に、全身性自己免疫疾患の経口治療は、自己免疫疾患の場合のように慢性免疫介在性炎症の患者の治療において非常に有用であろう。このように治療可能な自己免疫疾患の制限されないリストには、例えば、橋本甲状腺炎、原発性粘液腺腫甲状腺中毒症、悪性貧血、自己免疫萎縮性胃炎、アジソン病、早発閉経、インシュリン依存性糖尿病、スティッフマン症候群、グットパスチャー症候群、重症筋無力症、男性不妊、尋常性天然蒼、類天疱瘡、交感性眼炎、水晶体起因性ブドウ膜炎、多発性硬化症、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、特発性巨大結腸症、原発性胆汁性肝硬、活性慢性肝炎、特発性肝硬変、潰瘍性大腸(結腸)炎、シェーグレン症候群、関節リウマチ、皮膚筋炎、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病、円板状エリテマトーデス及び全身性エリテマトーデスが含まれる。
このように、本発明は、また、例えば、精神分裂病、躁うつ病及びその他の双極性障害、産後精神病、並びに自閉症などの神経疾患又はいわゆる神経免疫疾患の炎症性要素の治療に関連する。本発明は、対象の神経疾患を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを与えることを含む方法を提供する。本発明は、また、神経疾患の治療用医薬組成物の製造のためのNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
本発明は、対象の神経疾患を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口で与えることを含み、特に、前記調節ペプチドが、例えば、NFκB/Relタンパク質などの遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を下方制御する方法を提供する。経口治療により神経疾患を調節するための好ましいペプチドは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、又は、LAGV(配列番号10)である。前記ペプチドは、また、神経疾患の治療用医薬組成物の製造であって、特に、前記ペプチド又はアナログがLPS誘導RAW264.7細胞又はLPS非誘導RAW264.7細胞におけるNFκB下方制御活性を有するペプチドアナログからなる群から選択される製造に有用である。
本発明は、また、多発性硬化症の経口治療、特に、前記疾患の進行段階にみられる炎症性傷害の治療に関連する。前記炎症性傷害は、例えば、急性疾患の再発性の急増に見られ、古典的には、再発又は再燃として知られ、ここでは、多発性硬化症に見られる再発性/リミッティング(remitting)疾患と特定する。本発明は、対象の多発性硬化症に見られる再発性/リミッティング疾患を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを与えることを含む方法を提供する。
本発明は、とりわけ、対象の多発性硬化症に見られる再発性/リミッティング(remitting)疾患を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口で与えることを含み、特に、前記調節ペプチドが、遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を下方制御し、好ましくは、前記遺伝子転写因子が、そのトランスロケーション及び/又は活性が阻害されるNFκB/Relタンパク質を含む方法を提供する。前記対象が再燃の臨床的徴候を示している場合には、そのようなペプチド、好ましくは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、及びLAGV(配列番号10)からなる群から選択されるペプチドを経口投与することが好ましい。
本発明は、また、多発性硬化症に見られる再発性/リミッティング疾患の治療用医薬組成物の製造のためのそのようなNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
そして、本発明は、また、糖尿病の治療に関連する。本発明は、対象の糖尿病を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口で与えることを含む方法を提供する。本発明は、また、糖尿病の経口治療用医薬組成物の製造のためのNFκB可能制御ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
本発明は、対象の糖尿病を調節する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口で与えることを含み、特に、前記調節ペプチドが、例えば、NFκB/Relタンパク質などの遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を下方制御する方法を提供する。経口治療により糖尿病を調節するための好ましいペプチドは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、又は、LAGV(配列番号10)である。前記ペプチドは、また、糖尿病の経口投与による治療用の医薬組成物の製造であって、特に、前記ペプチド又はアナログがLPS誘導RAW264.7細胞又はLPS非誘導RAW264.7細胞におけるNFκB下方制御活性を有するペプチドアナログからなる群から選択される製造に有用である。
本発明は、また、例えば、骨粗しょう症などの更年期病状又は更年期後の病状の治療方法であって、本発明の遺伝子調節ペプチドによる経口又は粘膜治療を含み、全身性の調節と破骨細胞の分化阻害を可能とし、TNF−αが誘導する骨芽細胞アポトーシスを阻害し、それにより骨格の溶解を制限する方法を提供する。さもなければ、更年期後の女性に非常に顕著なように、もはやhCGの天然源を有さず、したがって、ここで示すようなhCGに由来するシグナル分子の調節効果を欠く。本発明は、このように、また、例えば、(限定されるわけではないが、しばしば、更年期後の女性に見られる)骨粗しょう症などの骨疾患の粘膜又は経口治療の方法を提供する。さらに、ここで提供するNO及びTNF−αの調節因子は、歯周炎における炎症反応及び骨量減少を阻害する。さらに、TNF−α活性と強直性脊椎炎における臨床症状の重症度との相関関係を考慮すると、本発明は、ここで提供するような遺伝子調節ペプチドを使用した脊椎炎の治療を提供する。更年期、更年期後又は骨粗しょう症病状を経口治療により調節する好ましいペプチドは、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、又はLAGV(配列番号10)である。
本発明は、また、例えば、脳卒中や心筋梗塞などの虚血性事象の経口又は粘膜治療に関連する。
虚血性事象は、組織への血液供給が遮断される事象を参照する。この閉塞により、罹患した血管を裏打ちする内皮組織が「粘着性(sticky)」となり、循環する白血球細胞を引き付けはじめる。内皮に結合した白血球は、最終的には、罹患した組織に入り込み、重大な組織破壊を引き起こす。急性心筋梗塞も脳卒中も炎症により直接引き起こされることは無いけれども、急性虚血性事象後に起こる多くの病変及び損傷は、再潅流、すなわち罹患した器官への血流回復の間の急性炎症反応により引き起こされる。虚血性組織への血流の早期原状回復は、酸素供給と栄養配送の減少に伴う細胞性傷害の進行を中断するためには必須である。この事実は、虚血時間を最小にすることが虚血性傷害の範囲を減らす唯一の診療であるという従来の見解の基礎を提供する。しかしながら、現在では、虚血性組織の再潅流が皮肉なことに組織を傷つける複雑な一連の反応を起こすことが、よく認識されている。虚血−再潅流傷害の病因を説明するいくつかのメカニズムが提案されているが、ほとんどの注意は、活性酸素及び窒素の代謝物並びに炎症性白血球に集中している。局所組織傷害に加え、とりわけ、虚血後組織(例えば、腸)の炎症反応の強度が強い場合には、遠位の器官も影響されうる。虚血−再潅流傷害の間接的効果は、肺と(心臓又は脳の)脈管系において最も頻繁に観察され、全身性炎症反応症候群(SIRS)及び多臓器不全症候群(MODS)の進行という結果となりうる。これら2つの症候群は、第三次照会集中治療室における死亡率の30〜40%を占める。
本発明は、対象におけるそのような虚血性事象を調節又は治療する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口で与えることを含み、特に、前記ペプチドが、遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を下方制御し、好ましくは、前記遺伝子転写因子が、そのトランスロケーション及び/又は活性が阻害されるNFκB/Relタンパク質を含む方法を提供する。粘膜又は経口投与には、特に、前記対象が前記虚血性事象後に起こる再潅流傷害を受ける危険性がある場合には、前記ペプチドは、LPS誘導RAW264.7細胞におけるNFκB下方制御活性を有するペプチドからなる群から選択されることが好ましい。
経口又は粘膜投与による迅速な臨床診療を達成するためには、前記ペプチドは、LPS非誘導RAW264.7細胞におけるNFκB下方制御活性を有するペプチドからなる群から選択されることが好ましく、そして、例えば、血栓溶解剤が組織プラスミノゲン活性を含む場合には、その血栓溶解剤を前記対象に与えることができる。
さらに、本発明は、対象の虚血性事象後に起こる再潅流傷害の経口又は粘膜治療用の医薬組成物の製造のための、好ましくは、NFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログを含む遺伝子調節ペプチドの使用を提供する。例えば、再潅流傷害などの経口治療に最も好ましいペプチドは、AQGV(配列番号2)である。
本発明は、さらに、外傷や大手術後にみられるような免疫抑制効果の経口又は粘膜治療に関連する。米国では、外傷後敗血症が、外傷後のすべての死亡の60%に関与する。外傷患者の敗血症の感受性は、少なくとも一部分は、外傷、やけど及び出血後にしばしば見られる細胞性免疫の激しい抑制により引き起こされると見られる。外傷やその他の生命を脅かす事象後に続く神経と免疫システムとの関係は、ほとんど理解されておらず、研究中である。最近の概説は、外傷後に組織損傷部位から求心性神経に沿って脊髄により媒介されて下垂体−副腎軸から産出されるホルモンとカテコールアミンの驚異的な急上昇の複雑な性質を強調している。また、しばしば、免疫システムの全身性機能低下が存在する。本発明は、対象の免疫抑制病状の経口又は粘膜治療の方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを与えることを含む方法を提供する。このような治療は、前記対象が外傷や大手術を経験し免疫抑制病状となりそうな場合に特に有用である。前記ペプチド又はアナログは、例えば、NFκBタンパク質、AP−1タンパク質などの遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を上方制御することが好ましい。より好ましい実施形態において、前記ペプチドは、LPS非誘導RAW264.7細胞におけるNFκB上方制御活性を有するペプチドからなる群から選択されることが好ましい。そのような治療は、また、前記対象がカウンター抗炎症反応症候群となる危険性がある場合、特に、前記ペプチドがLPS誘導RAW264.7細胞におけるNFκB上方制御活性を有するペプチドからなる群から選択される場合に、非常に有用である。さらなる治療は、例えば、薬剤が活性型プロテインC活性を含む場合に、播種性血管内凝固症候群に対して向けられた前記薬剤を対象に与えることを含む。また、本発明は、対象の免疫抑制病状又はカウンター抗炎症反応症候群の経口又は粘膜治療用の医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド、とりわけ、NFκB上方制御活性を有するペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
本発明は、また、医学(獣医学)の分野に関連し、医原病を患う、すなわち、医学治療に起因する問題や合併症を経験する対象(ヒトでも動物でもよい)の経口又は粘膜治療に関連する。例えば、医師や外科医などの活動に起因する医原性事象は、現代医学においてありふれており、しばしば不可避である。例えば、誤った治療の選択や実行、外科手術中の外科用具の配置ミスや取り忘れなどの医療過誤や怠慢が原因で、様々な悪条件が起こりうる。しかしながら、ほとんどの治療的又は外科的介入は、それらがうまく選択され適切に実行されたとしても、それらの有益な効果を超えて、患者につらい病状であって、しばしば炎症性の病状を引き起こす。さらに、例えば、抗生物質や抗ウイルス薬を用いた治療などの感染症における試みられテストされる治療は、医原性の副作用があり、しばしば、使用対象として設計されているまさにその微生物の溶解は破壊に関連し、付加的な炎症性サイトカイン放出を誘導する微生物の膜断片及び/又は毒素の放出に関連する。その原因が何であれ、ほとんどの医原性事象、すなわち、ここで医薬組成物を用いたヒト若しくは動物対象の治療に起因する、又は、医学的若しくは外科的処置による疾患若しくは疾病と定義するものは、前記対象の細胞又は組織の損傷、破壊若しくは溶解をもたらし、付加的な炎症性サイトカイン放出をもたらす。
本発明は、対象の医原性事象の治療方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口又は粘膜投与で与えることを含み、特に、前記ペプチドが、例えば、NFκB/Relタンパク質などの遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を調節し、又は、NFκB/Relタンパク質が媒介するサイトカイン遺伝子発現を阻害する方法を提供する。前記医原性事象が、前記対象又は前記対象が宿主となる病原体の細胞若しくは組織の破壊若しくは溶解を含む場合、例えば、前記溶解が、対象の医薬組成物を用いた治療に起因し、前記医薬組成物が、抗原、ワクチン、抗体、抗凝固剤、抗生物質、抗毒素、抗菌剤、駆虫剤、抗原虫剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、細胞溶解剤、血栓溶解剤からなる群から選択される場合、対象を経口又は粘膜投与で治療することが非常に有用である。そのような治療は、また、前記溶解が、例えば、溶菌性ファージなどのウイルスを用いた治療に起因する場合にも有用である。本発明は、また、対象の医原性事象後に起こる炎症性サイトカイン反応の経口又は粘膜治療用の医薬組成物の製造のためのNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログを含むシグナル分子の使用を提供する。
ここで提供する医薬組成物を粘膜又は経口投与して治療しうる疾病又は疾患のその他の例は、(超)急性移植片拒絶反応などのような急性炎症性疾患、例えば、やけど損傷及び急性自己免疫疾患後の敗血症/SIRSを含む。
とりわけ、本発明は、敗血症/SIRSなどのような急性全身性疾患の経口又は粘膜治療を提供する。敗血症/SIRSは、様々な有害な損傷(とりわけバクテリア感染などのような感染起源の損傷であるが、非感染性損傷もよく知られよく見られる)に対する急性全身性炎症反応である。敗血症/SIRSに見られる全身性炎症反応は、サイトカイン、ケモカイン、一酸化窒素及びその他の身体の免疫伝達化学物質などのような様々な免疫伝達物質により活性化される免疫過程により引き起こされる。これらの免疫伝達物質は、概して、敗血症/SIRSに見られる生命を脅かす全身性疾患を引き起こすと見られる。
本発明は、対象の敗血症/SIRSを治療する方法であって、前記対象に遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを経口又は粘膜投与で与えることを含み、特に、前記ペプチドが、NFκB/Relタンパク質などのような遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を調節し、又は、NFκB/Relタンパク質が媒介するサイトカイン遺伝子発現を阻害する方法を提供する。前記敗血症/SIRSが、前記対象又は前記対象が宿主となる病原体の細胞若しくは組織の破壊若しくは溶解に基づく場合、対象を経口又は粘膜投与で治療することが非常に有用である。本発明は、また、対象の全身性炎症反応症候群又は敗血症の治療用の医薬組成物の製造のための遺伝子調節ペプチド、とりわけ、NFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログの使用を提供する。
遺伝子調節ペプチド、とりわけ、LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、VVCからなる群から選択されるものなどのようなNFκB制御ペプチドの遺伝子調節活性は、次の方法により明示される。古典的には、多くの遺伝子は、細胞に入るシグナル分子ではなく、細胞表面の特異的受容体に結合する分子により制御される。細胞表面受容体とそれらのリガンドとの相互作用の後には、いわゆるセカンドメッセンジャー(ジアシルグリセロール、Ca2+、サイクリックヌクレオチド)の細胞内濃度の変動を含む細胞内事象のカスケードが続く。前記セカンドメッセンジャーは、次に、サイクリックAMP、サイクリックGMP、カルシウム依存性プロテインキナーゼ、ジアシルグリセロールにより活性化されるプロテインキナーゼCの作用を通してタンパク質のリン酸化反応における変化を導く。細胞表面受容体のリガンド結合に対するこれらの古典的反応の多くは細胞質性であり、核内の即座の遺伝子活性化を含まない。しかしながら、いくつかの受容体−リガンド相互作用は、特異的かつ制限された遺伝子のセットについて迅速な核の転写活性を引き起こすことが知られている。しかしながら、どのようにこのような活性化が達成されているかを正確に解決することについての進歩は遅い。少数のケースにおいて、細胞表面シグナルに反応する転写因子タンパク質が特徴付けされている。
細胞表面相互作用に続く既に存在する不活性型転写因子の活性化の最も明確な例の一つが、核因子(NF)κBである。NFκBは、最初は、Bリンパ球のκクラスの免疫グロブリン軽鎖をコードする遺伝子の転写を誘導するものとして同定された。NFκBのκ遺伝子における結合部位ははっきりしており(例えば、P.A.Baeuerle and D. Baltimore, 1988, Science 242:540参照)、活性化因子の存在のアッセイも提供されている。この因子は、阻害因子との複合体としてリンパ球の細胞質に存在する。穏やかな変性条件で単離された複合体をインビトロで処理すると複合体が解離され、そして、フリーとなったNFκBがそのDNA部位に結合する。活性型NFκBの細胞における放出は、現在では、細胞内ホスホキナーゼを刺激する化学分子(例えば、ホボール(phobol)エステル)同様、バクテリアリポ多糖(LPS)及び細胞外ポリペプチドで細胞を処理することを含む様々な刺激の後で生じることが知られている。このように、多くの起こりうる刺激によりトリガーされるリン酸化反応事象は、NFκBの活性化状態への変化を説明する。その活性化因子は、次に、細胞核へトランスロケーションし、活性型NFκBの結合部位を有する遺伝子の転写のみを誘導する。我々は、上述した様々な短いペプチドがNFκB活性にたいして調節活性を発揮することを見出した。
炎症反応が伝達物質の連続的な放出及び循環する白血球の動員を含み、それにより、炎症部位で前記白血球が活性化されてさらに伝達物質が放出される(Nat. Med. 7:1294;2001)ことを考慮すると、我々は、例えば、医学における医薬組成物及び使用方法を提供することにより、医学におけるNFκB制御ペプチドの使用を提供する。NFκBが多くの人に疾病の一次的エフェクターであると考えられている(A.S. Baldwin, J. Clin. Invest., 2001, 107:3−6)ことを考慮すると、慢性及び急性疾患状況の治療に使用するための安全なNFκB阻害因子を開発するため、多数の試みが進行中である。
例えば、潅流液で移植片を潅流する方法と同時又は別に、本発明は、ここで、前記移植片の被移植者を経口又は粘膜使用の医薬組成物を用いた治療を提供する。前記医薬組成物は、少なくとも一つの遺伝子調節ペプチド、好ましくは、ここで提供するNFκB下方制御ペプチドを含む。移植片及び/又は被移植者のNFκBの活性化に起因する虚血性又は移植後損傷は、その後、大幅に減少し、より長い生存とその移植片の使用を可能とする。前記使用が、また、慢性移植片拒絶反応の危険性を軽減し、移植片の活着を上昇できることも、ここで、提供する。本発明は、移植片の急性拒絶及びとりわけ慢性拒絶を回避し、前記移植片の被移植者における移植片の活着を向上する方法であって、前記被移植者に経口又は粘膜投与でここではシグナル分子ともいう遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを与えることを含む。前記ペプチドは3〜15アミノ酸長であることが好ましく、より好ましくは前記ペプチドは3〜9アミノ酸長であり、最も好ましくは前記ペプチドは4〜6アミノ酸長である。前記シグナル分子は、NFκB/Relタンパク質活性を阻害できることが特に好ましい。
ここで、機能的アナログは、例えば、NFκBアッセイのNFκBやAP−1アッセイのAP−1などのように関連する転写因子の核トランスロケーションを測定することにより、または、ここで提供するその他の方法により測定できるシグナル分子効果又は活性に関連する。断片は、機能的活性を維持しつつ、一端又は両端からいくらか(即ち、1又は2アミノ酸)短く又は長くすることができる。本発明の一つの実施形態において、シグナル分子又は遺伝子調節ペプチドとして使用されるペプチドは、化学修飾されたペプチドである。ペプチド修飾は、(例えば、Tyr、Ser又はThr残基の)リン酸化、N末端のアセチル化、C末端のアミド化、C末端のヒドラジド化、C末端のメチルエステル化、脂肪酸の結合、(チロシンの)スルホン化、N末端のダンシル化、N末端のスクシニル化、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイン化(PAM3 Cys−OH)及びCys残基のファルネシル化を含む。ペプチド最適化の工程においては、例えば、ペプチドの体系的な化学修飾が実施できる。
合成ペプチドは、従来公知の様々な手段を使用して得ることができる。これらは、固相ペプチド合成(SPPS)及び液相有機合成(SPOS)を含む。SPPSは、ペプチド及び小さなタンパク質を合成する迅速で簡便なアプローチである。通常C末端のアミノ酸は架橋ポリスチレン樹脂にリンカー分子による酸に不安定な結合を介して取り付けられる。この樹脂は、合成に使用する溶媒では不溶であり、過剰な試薬や副産物を洗い流すことを比較的簡単かつ迅速とする。前記ペプチド又はその機能的アナログ、修飾物若しくは誘導体は、そのまま、又は、生理学的に許容される酸若しくは塩基付加塩として投与することができる。前記酸若しくは塩基付加塩は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸など)若しくは有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸など)との反応により、又は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムなど)若しくは有機塩基(例えば、モノ−、ジ−、トリアルキル及びアリールアミン並びに置換エタノールアミンなど)との反応により形成できる。選択したペプチド及び任意の由来物は、DMSO、トランスロケーションペプチド、糖、脂質、その他のポリペプチド、核酸、及び、PNAと複合化され、in−situで複合物として機能してもよく、標的組織若しくは器官に到達後、局所的に放出されてもよい。
様々な病態生理学的及び発生シグナルに反応して、転写因子のNFκB/Relファミリーは、活性化され、異なるタイプのヘテロ及びホモダイマーをそれら同士で形成し、κB特異的結合部位を含む標的遺伝子の発現を制御する。NFκB転写因子は、Relホモロジードメインで特徴付けされる関連したタンパク質ファミリーのヘテロ又はホモダイマーである。それらは2つのサブファミリーを形成する。活性化ドメインを含むもの(p65−RELA、RELB、及びc−REL)と活性化ドメインを欠くもの(p50、p52)である。原型的なNFκBは、p65(RELA)とp50(NFκB1)とのヘテロダイマーである。活性型NFκBダイマーの中で、p50−p65ヘテロダイマーは標的遺伝子の転写の促進に関与することが知られており、p50−50ホモダイマーは転写抑制に関与することが知られている。しかしながら、p65−p65ホモダイマーは標的遺伝子に対して転写活性及び抑制の両方の活性で知られている。異なるNFκBに対して様々な親和性を有するκBDNA結合部位がいくつかの真核生物遺伝子のプロモーターにおいて発見されており、活性型NFκBのホモ及びヘテロダイマー間のバランスが最終的には細胞内の遺伝子発現の性質とレベルを決定する。「NFκB調節ペプチド」の用語は、ここで使用される場合、転写因子のNFκB/Relファミリーのメンバーの活性化を調節できるペプチド又はその機能的アナログ若しくは修飾物若しくは誘導体を参照する。本発明の方法又は組成物においてとりわけ有用であるそのようなペプチドの例は、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、VVC、MTRV(配列番号20)、及びMTRからなる群から選択される。NFκBの活性化の調節は、標的遺伝子の発現の促進をもたらす。また、それは標的遺伝子の転写抑制ももたらす。NFκBの活性化は、複数のレベルで制御できる。例えば、IκBタンパク質による不活性型NFκBダイマーの細胞質と核との間の動的なシャトリングとリン酸化およびプロテアソームによる分解によるその終結、直接的リン酸化、NFκB因子のアセチル化、並びに活性型NFκBダイマー間でのNFκBサブユニットの動的な再編成は、すべて、NFκB活性化、ひいては、NFκB媒介転写プロセスにおけるキーとなる調節ステップであるとして同定された。したがって、NFκB調節ペプチドは、転写因子のNFκB/Relファミリーのコントロール下にある遺伝子の転写を調節できる。前記調節には、転写の上方制御又は下方制御を含む。
「医薬組成物」の用語は、ここで使用される場合、活性のある調節ペプチド若しくはアナログだけのもの、又は、調節ペプチド若しくはアナログを、生理学的に許容される担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに含む組成物の両方をカバーすることを目的としている。ペプチドの許容される希釈剤は、例えば、生理的食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水である。前記遺伝子転写因子がNFκB/Relタンパク質を含む場合、医薬組成物を提供することは、特に有用である。例えば、脳死移植提供者に由来する場合などの移植片の虚血−再潅流傷害に対抗するために、又は、移植片の低温貯蔵及び運搬中の虚血−再潅流傷害を防止するために、ここでは、前記NFκB/Relタンパク質のトランスロケーション及び/又は活性を阻害する医薬組成物を提供することが望ましい。そのような組成物は、ここで記載するように、遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含む移植片保存液又は潅流液であってもよい。前記ペプチドは、LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、VVCのペプチド又はその機能的アナログからなる群から選択することが有用であるが、その他の遺伝子調節ペプチドもまた選択できる。上述のとおり、一定の環境下では前記医薬組成物は高浸透圧であることが好ましい。前記潅流液にヘパリンなどのような抗凝固剤を添加することもまた有用であり、又は、移植片の播種性血管内凝固症候群(DIC)が予測される(死体移植提供者などのような)条件では、(組換え型の)活性型プロテインCをここで提供する潅流液に添加することも好ましい。活性型プロテインCが虚血をもたらす広範囲の凝固を解消した場合、前記潅流液中のNFκB調節ペプチドが再潅流傷害を低減することに役立つ。ほとんどの状況下では、前記保存又は潅流液を用いた前記治療は、前記移植片が移植提供者から取り出された後に、前記移植片に前記シグナル分子を供給することを含む。前記被移植者を上述の古典的に知られる医薬組成物でさらに治療し、移植片拒絶反応の危険性を低減することが特に有用である。移植片のHLA型が被移植者のHLA型とミスマッチの場合はとりわけである。
本発明は、また、シグナル分子として遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性が調節できるペプチド又は機能的アナログを含む移植片保存液又は移植片潅流液を提供する。
特定の実施形態において、とりわけ前記遺伝子転写因子がNFκB/Relタンパク質又はAP−1タンパク質を含む場合、そのような液は、また、(組換え型)活性型プロテインCを含む。そのような液に添加するペプチド、例えば、LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、VVCNYRDVRFESIRLPGCPRGVNPVVSYAVALSCQCAL(配列番号24)、RPRCRPINATLAVEKEGCPVCITVNTTICAGYCPT(配列番号25)、SKAPPPSLPSPSRLPGPS(配列番号26)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、SIRLPGCPRGVNPVVS(配列番号27)LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、及びVVC並びにその他のペプチドは、例えば、固相合成により調製される。
様々な病態生理学的及び発生シグナルに反応して、転写因子のNFκB/Relファミリーは、活性化され、異なるタイプのヘテロ及びホモダイマーをそれら同士で形成し、κB特異的結合部位を含む標的遺伝子の発現を制御する。NFκB転写因子は、Relホモロジードメインで特徴付けされる関連したタンパク質ファミリーのヘテロ又はホモダイマーである。それらは2つのサブファミリーを形成する。活性化ドメインを含むもの(p65−RELA、RELB、及びc−REL)と活性化ドメインを欠くもの(p50、p52)である。原型的なNFκBは、p65(RELA)とp50(NFκB1)とのヘテロダイマーである。活性型NFκBダイマーの中で、p50−p65ヘテロダイマーは標的遺伝子の転写の促進に関与することが知られており、p50−50ホモダイマーは転写抑制に関与することが知られている。しかしながら、p65−p65ホモダイマーは標的遺伝子に対して転写活性及び抑制の両方の活性で知られている。異なるNFκBに対して様々な親和性を有するκBDNA結合部位がいくつかの真核生物遺伝子のプロモーターにおいて発見されており、活性型NFκBのホモ及びヘテロダイマー間のバランスが最終的には細胞内の遺伝子発現の性質とレベルを決定する。「NFκB調節ペプチド」の用語は、ここで使用される場合、転写因子のNFκB/Relファミリーのメンバーの活性化を調節できるペプチド又はその機能的アナログ若しくは修飾物若しくは誘導体を参照する。NFκBの活性化の調節は、標的遺伝子の発現の促進をもたらす。また、それは標的遺伝子の転写抑制ももたらす。NFκBの活性化は、複数のレベルで制御できる。例えば、IκBタンパク質による不活性型NFκBダイマーの細胞質と核との間の動的なシャトリングとリン酸化およびプロテアソームによる分解によるその終結、直接的リン酸化、NFκB因子のアセチル化、並びに活性型NFκBダイマー間でのNFκBサブユニットの動的な再編成は、すべて、NFκB活性化、ひいては、NFκB媒介転写プロセスにおけるキーとなる調節ステップであるとして同定された。したがって、NFκB調節ペプチドは、転写因子のNFκB/Relファミリーのコントロール下にある遺伝子の転写を調節できる。前記調節には、転写の上方制御又は下方制御を含む。好ましい実施形態において、本発明のペプチド又はその機能的誘導体若しくはアナログは、医薬組成物の製造のために使用される。そのような医薬組成物に含まれる有用なNFκB下方制御ペプチドの例は、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VVC、MTR及び環状のLQGVLPALPQVVC(配列番号17)である。さらなる遺伝子調節ペプチド及び機能的アナログは、ここで提供するようなNFκBトランスロケーションアッセイなどの(バイオ)アッセイにより見出すことができる。NFκB下方制御ペプチドの中で最も顕著であるのが、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、及び、VLPALP(配列番号4)である。これらは、また、細胞によるNO産生を低減させることができる。またここで、それぞれがNFκBを下方制御できる少なくとも2つのオリゴペプチド又はその機能的アナログを含み、それにより細胞によるNO及び/又はTNF−αの産生を低減する組成物であって、とりわけ、少なくとも2つのオリゴペプチドがLQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、及びVLPALP(配列番号4)からなる群から選択される組成物の使用を提供する。有用なNFκB上方制御ペプチドは、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、及びMTRV(配列番号20)である。示したとおり、さらなる遺伝子調節ペプチドは、適当な(バイオ)アッセイにより見出すことができる。ここで使用する遺伝子調節ペプチドは短いことが好ましい。好ましくはそのようなペプチドは、3〜15アミノ酸長であって、細胞内でサイトカインなどのような遺伝子の発現を調節できる。好ましい実施形態において、ペプチドは、細胞の細胞膜を行き来できるシグナル分子であり、言い換えれば、膜透過性ペプチドである。前記リードペプチドは3〜9アミノ酸長が好ましく、より好ましくは4〜6アミノ酸長である。
ここで、機能的誘導体又はアナログは、例えば、NFκBアッセイのNFκBやAP−1アッセイのAP−1などのように関連する転写因子の核トランスロケーションを測定することにより、または、ここで提供するその他の方法により測定できるシグナル分子効果又は活性に関連する。断片は、機能的活性をしつつ、一端又は両端からいくらか(即ち、1又は2アミノ酸)短く又は長くすることができる。そのようなバイオアッセイは、ペプチド又はその修飾物の遺伝子発現調節能力やその傾向について情報を得るためのアッセイを含む。例えば、15mer又は12mer又は9mer又は8mer又は7mer又は6mer又は5mer又は4mer又は3merのペプチドを用いたスキャンは、相互作用部位を形成するアミノ酸の線状の広がりについて有益な情報をもたらすことが可能であり、遺伝子発現調節に対する能力又は傾向を有する遺伝子調節ペプチドの同定を可能にする。遺伝子調節ペプチドは、その遺伝子発現調節に対する能力又は傾向を調節するために修飾することができ、前記能力又は傾向は、レポーターアッセイなどのようなインビトロバイオアッセイにおいて容易に検査できる。例えば、ある部分のあるアミノ酸は、その他の同様な又は異なる特性のアミノ酸と置換することができる。各アミノ酸からAla残基への体系的な置換を伴うアラニン(Ala)−置換スキャニングは、遺伝子発現調節可能なシグナル分子の探索において遺伝子調節ペプチドのアミノ酸組成を修飾する適切なアプローチである。もちろん、そのような置換スキャニング又はマッピングは、Ala以外のアミノ酸、例えば、D−アミノ酸などでも同様に行うことができる。一つの実施形態において、自然に生じるポリペプチドに由来するペプチドが、細胞内において遺伝子の遺伝子発現調節ができるものとして同定される。その後、この遺伝子調節の様々な合成Ala変異体が製造される。これらのAla変異体は、遺伝子調節ポリペプチドと比較して向上又は改善された遺伝子発現調節能力についてスクリーニングされる。
さらに、遺伝子調節ペプチド又はその修飾物若しくはアナログは、D及び/又はL立体異性体を用いて化学合成されてもよい。例えば、自然起源のオリゴペプチドのレトロ−インバーソ(retro−inverso)型の遺伝子調節ペプチドが製造される。ペプチドのレトロ−インバージョン(天然Lアミノ酸含有親配列のDアミノ酸を使用して逆順序の組立)の概念は、うまく合成ペプチドに適用された。ペプチド結合のレトロ−インバーソ修飾は、進歩して、広く使用される新規生物活性分子デザインのためのペプチド模倣アプローチとなり、生物学的に活性なペプチドの多くのファミリーに適用されている。これらの配列、アミノ酸組成及びペプチドの長さは、正しい組立及び精製が実行可能かどうかに影響を与える。これらの因子は、また、最終産物の溶解度を決定する。粗ペプチドの純度は、一般的に、長さが増すとともに減少する。15残基未満の配列のペプチドの収率は、通常満足できるものであり、そのようなペプチドは、通常困難なく作製できる。ペプチドの全体的なアミノ酸組成は、重要な設計変数である。ペプチドの溶解度は、組成に強く影響される。Leu、Val、Ile、Met、Phe及びTrpなどのような疎水性残基の含有量が高いペプチドは、水性溶液において溶解度が制限されるか、又は、完全に不溶性である。これらの条件下では、実験にそのペプチドを使用することは困難となる場合があり、必要な場合にそのペプチドを精製することが困難となりうる。良好な溶解度を達成するため、疎水性アミノ酸含量を50%未満とし、かつ、5アミノ酸ごとに少なくとも1つの荷電残基があるようにすることが望ましい。生理的pHでは、Asp、Glu、Lys、及びArgは、すべて荷電側鎖を有する。AlaをGlyに置換するなどのような一残基の保存的置換、又は、一揃いの極性残基のN若しくはC末端への付加は、また、溶解度を改善しうる。複数のCys、Met若しくはTrp残基を含むペプチドは、また、高純度で得ることが困難となりうる。その部分的理由は、これらの残基が、酸化及び/又は副反応を受けやすいからである。可能であれば、これらの残基が最小となる配列を選択すべきである。あるいは、保存的置換は、いくつかの残基に対して行うことができる。例えば、ノルロイシンは、Metの替わりに使用でき、Serは、時として、より小さい反応性のCysの置換物として使用できる。タンパク質配列から多くの連続的又は重複的ペプチドが作製される場合、各ペプチドの開始点を変化させることにより、親水性及び疎水性残基間のよりよいバランスを作り出せる。同一ペプチド内に含まれるCys、Met及びTrp残基の数の変化は、同様の効果を生み出す。本発明のその他の実施形態において、遺伝子発現調節可能な遺伝子調節ペプチドは、化学修飾されたペプチドである。ペプチド修飾は、(例えば、Tyr、Ser又はThr残基の)リン酸化、N末端のアセチル化、C末端のアミド化、C末端のヒドラジド化、C末端のメチルエステル化、脂肪酸の結合、(チロシンの)スルホン化、N末端のダンシル化、N末端のスクシニル化、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイン化(PAM3 Cys−OH)及びCys残基のファルネシル化を含む。遺伝子調節ペプチド最適化の工程においては、例えば、遺伝子調節ペプチドの体系的な化学修飾が実施できる。
合成ペプチドは、従来公知の様々な手段を使用して得ることができる。これらは、固相ペプチド合成(SPPS)及び液相有機合成(SPOS)を含む。SPPSは、ペプチド及び小さなタンパク質を合成する迅速で簡便なアプローチである。通常C末端のアミノ酸は架橋ポリスチレン樹脂にリンカー分子による酸に不安定な結合を介して取り付けられる。この樹脂は、合成に使用する溶媒では不溶であり、過剰な試薬や副産物を洗い流すことを比較的簡単かつ迅速とする。
LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、VVCNYRDVRFESIRLPGCPRGVNPVVSYAVALSCQCAL(配列番号24)、RPRCRPINATLAVEKEGCPVCITVNTTICAGYCPT(配列番号25)、SKAPPPSLPSPSRLPGPS(配列番号26)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、SIRLPGCPRGVNPVVS(配列番号27)、LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、及びVVCなどのような本文書で述べるペプチドは、2−クロロトリチルクロライド樹脂を固相支持体として使用するフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)/t−ブチルに基づく方法論を使用した固相合成により調製された。グルタミン側鎖は、トリチル基で保護した。前記ペプチドは手動で合成した。各カップリングは次のステップからなる;(1)αアミノFmoc保護を、ジメチルホルムアミド(DMF)中のピペリジンにより除去し、(2)Fmocアミノ酸(3eq)とジイソプロピルカルボジイミド(DIC)/1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とを、DMF/N−メチルホルムアミド(NMP)中でカップリングし、(3)残りのアミノ基を、DMF/NMP中で無水酢酸/ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)によりキャッピングする。合成完了後、ペプチド樹脂をトリフルオロ酢酸(TFA)/H2O/トリイソプロピルシラン(TIS)95:2.5:2.5の混合物で処理した。前記溶液を真空で蒸発し、ペプチドをジエチルエーテルで沈殿させた。粗ペプチドは、水に溶解し(50〜100mg/ml)、逆相高性能液相クロマトグラフィー(RP−HPLC)で精製した。HPLCの条件は、カラム:Vydac TP21810C18(10x250mm)、溶出系:水に溶解した0.1%TFA(v/v)(A)とアセトニトリル(ACN)に溶解した0.1%TFA(v/v)(B)の濃度勾配系、流速:6ml/分であって、吸光度は、190〜370nmで検出した。濃度勾配系は、異なるものを使用した。例えば、LQG、及びLQGV(配列番号1)のペプチドには、10分間の100%のAとそれに続く50分間のBの0〜10%線形勾配とした。例えば、VLPALP(配列番号4)、及びVLPALPQ(配列番号13)のペプチドには、5分間の5%のBとそれに続く毎分1%のBの線形勾配とした。回収した画分は、40℃減圧下の回転フィルム蒸発により約5mlにまで濃縮した。残りのTFAは、酢酸型の陽イオン交換樹脂(MerckII)カラムで2回溶出することにより酢酸と交換した。その溶出物を濃縮し、28時間凍結乾燥した。その後、使用するペプチドは、それらをPBSに溶解して調製した。
米国菌株保存機関(ATCC、マナッサス、VA)より得たRAW264.7マクロファージを、37℃、5%CO2下で10%FBS及び抗生物質(100U/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシン)を使用して培養した。細胞(1×106/ml)をペプチド(10μg/ml)とともに2mlの容量で培養した。8時間の培養後、細胞を洗浄し、核抽出物を調製した。
核抽出物及びEMSAは、Schreiber et al.の方法(Schrieber et al. 1989, Nucleic Acids Research 17)に従って準備した。簡単には、ペプチド刺激又は非刺激マクロファージの核抽出物は、細胞溶解した後に核溶解を行い調製した。細胞を400μlのバッファー(10mM HEPES(pH7.9)、10mM KCl、0.1mM KCL、0.1mM EDTA、0.1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF及びプロテアーゼ阻害剤)に懸濁し、15秒間の激しいボルテクスの後、15分4℃で静置し、15,000rpmで2分間遠心分離した。ペレット化した核をバッファー(20mM HEPES(pH7.9)、10%グリセロール、400mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF及びプロテアーゼ阻害剤)に再懸濁して氷上に30分静置し、次に、その溶解物を15,000rpmで2分間遠心分離した。可溶化した核タンパク質を含む上清を、電気泳動移動度偏移検定(EMSA)に使用するまで−70℃で保存した。
電気泳動移動度偏移検定は、コントロール(RAW264.7)及びペプチド処理したRAW264.7細胞から調製した核抽出物と、NFκB結合配列を代表して合成された32P標識二本鎖プローブ(5’−AGCTCAGAGGGGGACTTTCCGAGAG−3’(配列番号28))とインキュベーションすることにより行った。手短には、前記プローブは、製造業者(プロメガ、マジソン、WI)の指示に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼにより末端標識した。アニールしたプローブを次のようにして核抽出物をインキュベーションした。EMSAにおいて、結合反応混合物(20μl)は、0.25μgのポリ(dI−dC)(アマシャムファルマシアバイオテク)及び20,000cpmの32P−標識DNAプローブを、5mM EDTA、20%フィコール、5mM DTT、300mM KCl及び50mM HEPESからなるバッファー中に含む。結合反応は、細胞抽出物(10μg)の添加により開始し、室温で30分続けた。DNA−タンパク質複合体は、6%ポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動によりフリーのオリゴヌクレオチドから分離した。そのゲルは、乾燥後、X線フィルムに感光させた。
転写因子NFκBは、様々な遺伝子の転写調節に関与する。核タンパク質抽出物は、LPS及びペプチド処理RAW264.7細胞又はLPS処理RAW264.7細胞から調製した。ペプチドがNFκBの核へのトランスロケーションを調節するかどうか決定するために、これらの抽出物でEMSAを行った。ここで、我々は、実際にペプチドがNFκBのトランスロケーションを調節できることを目撃する。なぜなら、NFκBに対する標識化オリゴヌクレオチドの量が減少するからである。この実験において、NFκBのトランスロケーションの調節を示したペプチドは、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、VVC、MTRV(配列番号20)、MTRである。
RAW264.7マウスマクロファージを10%又は2%のFBS、ペニシリン、ストレプトマイシン及びグルタミンを含むDMEM中、37℃、5%CO2下で培養した。細胞を12ウェルプレートに総容量1mlで播種し(3×106細胞/ml)、2時間後、LPS(E.coli O26:B6、ディフコラボラトリーズ、デトロイト、MI、米国)及び/又は遺伝子調節ペプチド(1μg/ml)で刺激した。30分のインキュベーション後、プレートを遠心分離し、核抽出物のため細胞を回収した。核抽出物及びEMSAは、Schreiber et al.に従って準備した。細胞をチューブに回収し、5分間、2,000rpm(回/分)、4℃で遠心分離した(Universal 30 RF, Hettich Zentrifuges)。そのペレットを氷冷Tris緩衝生理食塩水(TBS、pH7.4)で洗浄し、400μlの低張バッファーA(10mM HEPES pH7.9、10mM KCl、0.1mM EDTA、0.1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(コンプリート(商標)ミニ、ロシュ))に再懸濁し、氷上に15分間静置した。25μlの10%NP−40を添加し、その試料を遠心分離した(2分間、4000rpm、4℃)。その上清(細胞質画分)を回収し、−70℃で保存した。核を含むペレットは、50μlのバッファーAで洗浄し、50μlのバッファーC(20mM HEPES pH7.9、400mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF、プロテアーゼ阻害剤カクテル及び10%グリセロール)に再懸濁した。その試料は、少なくとも60分間、4℃で振とうした。最後にその試料を遠心分離してその上清(核画分)を−70℃で保存した。
ブラッドフォード試薬(シグマ)を使用して前記抽出物の最終タンパク質濃度を測定した。電気泳動移動度偏移検定のため、NFκB結合配列を代表するオリゴヌクレオチド(5’−AGCTCAGAGGGGGACTTTCCGAGAG−3’(配列番号28))を合成した。100pmolのセンス及びアンチセンスオリゴをアニールし、製造業者(プロメガ、マジソン、WI)の指示に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用してγ−32P−dATPで標識した。核抽出物(5〜7.5μg)と75000cpmのプローブとを、0.5μgポリdI−dC(アマシャムファルマシアバイオテク)及び結合バッファーBSB(25mM MgCl2、5mM CaCl2、5mM DTT、および20%フィコール)を含む結合反応混合物(20μl)中、室温で、30分間インキュベーションした。DNA−タンパク質複合体は、4〜6%ポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動によりフリーのオリゴヌクレオチドから分離した(150V、2〜4時間)。そして、そのゲルは、乾燥後、X線フィルムに感光させた。転写因子NFκBは、様々な遺伝子の転写調節に関与する。核タンパク質抽出物は、LPS(1mg/ml)及びペプチド(1mg/ml)又はLPSのどちらかをペプチド処理及び被処理RAW264.7細胞と組み合せて調製した。ペプチドがNFκBの核へのトランスロケーションを調節するかどうか決定するために、これらの抽出物でEMSAを行った。ペプチドは、NFκBの基礎レベルもLPS誘導レベルも同様に調節することができる。この実験において、LPSが誘導するNFκBのトランスロケーションの阻害を示したペプチドは、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VVC、MTR、及び、環状のLQGVLPALPQVVC(配列番号17)である。この実験において、LPSが誘導するNFκBのトランスロケーションの促進を示したペプチドは、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、及び、MTRV(配列番号20)である。核内のNFκBの基礎レベルが減少したのは、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、及び、LQGV(配列番号1)、及びVLPALP(配列番号4)であり、一方、核内のNFκBの基礎レベルが増加したのは、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALPQ(配列番号13)、GVLPALP(配列番号16)、VVC、MTRV(配列番号20)、MTR、及び、VLPALPQVVC(配列番号21)である。その他の実験において、QVVCもまた、NFκBの核へのトランスロケーションの調節を示した(データ示さず)。
NFκB解析によるさらなる遺伝子調節ペプチド同定方法。
細胞:細胞は、適切な培養培地で、37℃、5%CO2下で培養する。細胞を12ウェルプレートに総容量1mlで播種し(通常1×106細胞/ml)、2時間後、LPSなどのような付加的な刺激の存在又は非存在下で、調節ペプチドで刺激する。30分のインキュベーション後、プレートを遠心分離し、細胞質又は核抽出物のため細胞を回収する。
核抽出物: 核抽出物及びEMSAは、Schreiber et al.の方法(Schrieber et al. 1989, Nucleic Acids Research 17)に従って準備することができる。細胞をチューブに回収し、5分間、2,000rpm(回/分)、4℃で遠心分離する(Universal 30 RF, Hettich Zentrifuges)。そのペレットを氷冷Tris緩衝生理食塩水(TBS、pH7.4)で洗浄し、400μlの低張バッファーA(10mM HEPES pH7.9、10mM KCl、0.1mM EDTA、0.1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(コンプリート(商標)ミニ、ロシュ))に再懸濁し、氷上に15分間静置する。25μlの10%NP−40を添加し、その試料を遠心分離する(2分間、4000rpm、4℃)。その上清(細胞質画分)を回収し、解析用に−70℃で保存する。核を含むペレットは、50μlのバッファーAで洗浄し、50μlのバッファーC(20mM HEPES pH7.9、400mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF、プロテアーゼ阻害剤カクテル及び10%グリセロール)に再懸濁する。その試料を、少なくとも60分間、4℃で振とうする。最後にその試料を遠心分離してその上清(核画分)を−70℃で保存する。
ブラッドフォード試薬(シグマ)を使用して前記抽出物の最終タンパク質濃度を測定できる。
EMSA:電気泳動移動度偏移検定のため、5’−AGCTCAGAGGGGGACTTTCCGAGAG−3’(配列番号28)などのようなNFκB結合配列を代表するオリゴヌクレオチドを合成する。100pmolのセンス及びアンチセンスオリゴをアニールし、製造業者(プロメガ、マジソン、WI)の指示に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用してγ−32P−dATPで標識する。調節ペプチドで処理した細胞又は被処理細胞由来の細胞質抽出物若しくは核抽出物(5〜7.5μg)と75000cpmのプローブとを、0.5μgポリdI−dC(アマシャムファルマシアバイオテク)及び結合バッファーBSB(25mM MgCl2、5mM CaCl2、5mM DTT、および20%フィコール)を含む結合反応混合物(20μl)中、室温で、30分間インキュベーションする。又は、被処理細胞又は刺激処理細胞由来の細胞質抽出物若しくは核抽出物を、結合反応混合物及び結合バッファー中で、プローブとインキュベーションすることも可能である。DNA−タンパク質複合体は、4〜6%ポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動によりフリーのオリゴヌクレオチドから分離する(150V、2〜4時間)。そして、そのゲルを乾燥してX線フィルムに感光させる。細胞を、次に、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、一定の刺激(LPS、PHA、TPA、抗−CD3、VEGF、TSST−1、VIP、又は既知の薬剤など)の非存在又は存在下で回収する。培養後、細胞を溶解し、200μgのタンパク質を含む細胞溶解物(全溶解物、細胞質画分又は核画分)を、50μlのニュートラアビジンプラスビーズと1時間4℃で持続的な振とうを加えてインキュベーションする。ビーズを、溶解バッファーとともに6000rpm、1分間の遠心分離により洗浄する。タンパク質を、前記ビーズを0.05N NaOH中、1分間、室温でインキュベーションしてタンパク質−タンパク質結合を加水分解することにより溶出し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析する。それに続き、アガロースが結合した抗NFκBサブユニット抗体、又は、研究標的に対する抗体で免疫沈降する。タンパク質−タンパク質結合を加水分解した後、HPLC及び質量分析法で試料を解析することができる。精製されたNFκBサブユニット又はビオチン化調節ペプチドと相互作用した細胞溶解物は、バイオセンサー技術で解析できる。ペプチドは、FITCで標識でき、異なる刺激の非存在又は存在下で細胞とインキュベーションできる。培養後、細胞は蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、フローサイトメトリー(細胞膜染色及び/又は細胞内染色)で解析でき、又は、細胞溶解物を作製し、HPLC及び質量分析法により解析できる。NFκBが遺伝子導入された(リポーター遺伝子アッセイ)細胞及び遺伝子アレー技術を、ペプチドの調節効果を測定するために使用できる。
HPLC及び質量分析解析:精製NFκBサブユニット又は細胞質/核抽出物を、(調節)ペプチドの非存在又は存在下でインキュベーションし、8Nグアニジン塩酸及び0.1%トリフルオロ酢酸で希釈(2:1)し、溶剤A(0.1%トリフルオロ酢酸)で平衡化した逆相HPLCカラム(Vydac C18)に注入し、0〜100%の濃度勾配の溶離液B(溶剤Aに溶解した90%アセトニトリル)で溶出する。NFκBサブユニットを含む画分をプールし濃縮する。次に、画分を適当な容量に溶解し、質量分析により解析することができる。
実施例
この発明は、とりわけ、多発性硬化症の治療、好ましくは経口治療に関連し、とりわけ、急性疾患の再発性の急増に見られ、古典的には、再発又は再燃として知られ、ここでは、多発性硬化症(MS)に見られる再発性/リミッティング疾患と特定する前記疾患の進行段階に見られる炎症傷害の治療、好ましくは経口治療に関連する。
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の基本型の炎症性自己免疫疾患であり、生涯リスクが400人に一人であり、若年成人の神経障害の潜在的に最も一般的な原因である。実験動物では、実験的な自己免疫/アレルギー脳脊髄炎(EAE)がMSを研究している動物に誘導されうる。EAE及びMS双方における再燃は、劇的にサイトカイン及びケモカインにより媒介される。再燃の間、TNF−αファミリー及びその他の炎症性サイトカインは、CSF中できわめて上昇する。すべて複合的な形質を示すけれども、前記疾患は、未だ同定されていない環境因子と感受性遺伝子との間の相互作用に起因する。同時に、これらの因子は事象のカスケードを引き起こし、免疫システムの関与、軸索及びグリアの急性炎症性傷害、機能回復と構造修復、炎症後グリオーシス、及び神経変性を伴う。これらの過程の逐次的な関与は、回復の発現、持続的な欠損の残存の発現、及び二次的進行により特徴付けされる臨床経過の基礎にある。これらのカテゴリーそれぞれにおける限定的な成功にもかかわらず、多発性硬化症に罹患したあらゆる人は、進歩した病因の理解を臨床管理に適用することによるよりよい結果を期待する。
現在、多発性硬化症は、世界中で約2〜5百万人の罹患者がいると認識されている。病理学者にとって、多発性硬化症は、しばしば中枢神経系(CNS)の疾患として存在し、急性病巣炎症性髄鞘脱落及び制限された髄鞘形成の軸索消失として現れ、結果的にこの病気の名前の由来となった慢性多発性硬化性プラークとなる。MSにおける髄鞘脱落は、T細胞主導の炎症過程により発達する。したがって、炎症の主要な性質は、明白であり、免疫システムを調節する治療に重要である。しかしながら、もっぱら疾病の炎症要素に対して向けられた方針の治療効力を制限するいくつかの側面がある。現在、コルチコステロイドによる免疫抑制は、インターフェロンβやコポリマーIを使用して炎症体制を止めることはできない。これらの治療は、炎症を止めるのではなく減少させる。また、現在、炎症過程をより特異的に介入することができない。なぜなら、罹患患者のCNSにおける炎症の誘因(ウイルス誘導対自己免疫)も特定の標的抗原もわかっていないからである。
患者にとって、多発性硬化症は、一見すると無限に多様性がある症状を伴うが、一定の再発性の主旋律と予測のつかない経過を伴う。神経学者にとって、多発性硬化症は、若年成人の疾病であって、異なる時間に脊髄の脳内の異なる部位に生じた少なくとも2つの髄鞘脱落損傷の臨床及び副次的臨床上の証拠に基づき診断される。臨床科学者にとって、多発性硬化症は、基礎及び臨床神経科学の研究分野の範囲にわたり得られた知識により治療の合理的方針が既に可能となった中枢神経系における基本型の炎症性自己免疫疾患である。これらのグループにとって、多発性硬化症は、解決策が見つけられそうで未だに見つけられないままである難解な疾病のままである。
乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)は、多発性硬化症の免疫攻撃の主要な標的であるが、中枢神経系において最大40までの隣接する神経軸索ミエリン鞘(髄鞘)を合成し維持する。圧縮されたミエリンは、凝縮された膜からなり、軸索の周りをらせん状になり、跳躍性の軸索伝導に必要な分節した絶縁シートを形成する。電位依存性ナトリウムチャネルが、ミエリンの分節であるランヴィエ節の無髄結節に群がり、そこから活動電位が伝播し、受身的に下方の髄鞘形成された神経分節に広がり、次の結節でもう一つの活動電位を引き起こす。髄鞘脱落の跳躍伝導に対する結果は、多くの臨床及び研究室での多発性硬化性の特徴を説明する。部分的に髄鞘脱落した軸索は、低減した速さでインパルスを伝導するが、これは、誘発電位の伝導における特徴的な遅延を説明する。髄鞘脱落した軸索は、自発的に放電でき、機械的感受性を示すが、これは、目の運動における光の閃光(眼内閃光)及び首の屈曲で脊椎や手足を流れ下る電気的感覚(レールミット症状及び徴候)を説明する。部分的に髄鞘脱落した軸索は、伝導に対する安全係数に障害が起きており、温度の上昇により誘導される膜静電容量の減少を維持できず、伝導が機能しなくなり、運動や熱浴後の症状や徴候の特徴的出現をもたらす(ウートホフ現象)。エファプス伝達(クロストーク)は、隣接する髄鞘脱落軸索間で生じることがあり、発作性の症状、すなわち、三叉神経痛、運動失調、及び構語障害、又は、1〜2分続きしばしば接触や運動により引き起こされる手足の有痛強直性体位をもたらす。多発性硬化症の人は、肉体及び認知的な仕事の期間特徴的に怒っており、回復により時間がかかる。しかしながら、ほとんど理解されておらずおそらくは多因子的である多発性硬化症における疲労は、たとえ隔離されていても、非常に無力化させうる。
多発性硬化症は、男性よりも2倍女性に罹る。この説明がつかないバイアスは、多くのその他の推定上の自己免疫疾患において見られることと同様である。この疾患の発生率は、毎年100000人に約7人であって、有病率は、100000人に約120人であって、生涯リスクは、400人に一人である。80%の患者が、再発性/リミッティング疾患を示し、一般的に、その病気は、完全な回復の再発、持続的な欠損の再発及び二次的な進行を通過する。約1/4の患者では、多発性硬化症は、日常生活の活動に影響を及ぼさない。反対に、最大15%は、短期間で重篤な障害となる。症状はランダムな間隔で発生し、最初は、平均年1回であり、その後安定して減少する。20%の患者では、前記疾患は発症から進行性であり、それゆえ、一次進行性と呼ばれる。これは、脊髄に影響を与えるが、頻度は少ないが、視神経、大脳、又は小脳にも影響を与える。疾患の発病は、通常30〜40代であるが、2%の多発性硬化症の患者は10歳前に、5%は16歳前に発症する。子供において、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)は、しばしば続いて起こる自然経過の観察のみにより確立されうる。全体的に見て平均余命は、発症開始から少なくとも25年であり、ほとんどの患者は関係のない原因で死亡する。
正常個体は、自己反応性ミエリンT細胞を収容し、正常では調節性T細胞により抑制されていると推定されている。これらの自己免疫疾患における免疫制御の崩壊を説明する仮説の1つは、分子擬態であり、この仮説は、ペプチド(環境因子)が、特定のHLA/MHCクラスII分子(遺伝的リスクの1要素である)の溝に提示され、免疫学的に自己抗原の区別がつかなくなり、それゆえ、感染症への適切な反応が、乏突起膠細胞−ミエリン単位のある構成成分に対する不適当な炎症を生み出すことを提案する。すべての臓器特異的自己免疫疾患と共通して、この全身性欠陥は、標的臓器全体への持続的な自己免疫攻撃ではなく、むしろ、時間的及び空間的に分離した炎症性病変をもたらす。
調節の障害は、自己反応性T細胞の増殖、活性化及び血液循環への侵入をもたらす。これらは、接着分子を発現し、そして、内皮の相互変化を誘導し、血液脳関門を通過して中枢神経系へのアクセスを可能にする。そこで、活性化T細胞が抗原と再度接触し、マイクログリア(CNSマクロファージ)を活性化する。これらは、次に、クラスII分子を発現して、T細胞に抗原を再提示し、炎症性ループを設立し、活性化T細胞及びマイクログリアが豊富な浸潤物に、いくつかの好中球をもたらす。
毒性炎症伝達物質は、放出されると、血液脳関門の崩壊を持続し、軸索及びグリアの損傷をもたらす。一酸化窒素は、正常又はミエリン形成減少の軸索に直接作用し、一時的に伝導をブロックし、そして可逆的に既に障害が起きた経路に起因する欠損を増加させる。急性の炎症が消失すると、経路は一酸化窒素が誘導した生理学的伝導ブロックから開放される。残存した機能的経路が細胞及び系レベルで再構成されるにつれ、症状も同様に改善する。同時に、これらのメカニズムは、疾病初期の寛解を説明する。しかし、組織の脆弱性は、容易に露見する。高頻度の軸索発火により悪化した場合、一酸化窒素は構造的(それゆえ不可逆的)変化を軸索にもたらす。急性炎症プラークにおける軸索の横断面が神経分光マーカーであるN−アセチルアスパラギン(NAA)の還元により組織学的及び放射線学的に示される。これらの横断された軸索は、後に続く18ヶ月間ウォーラー変性を受けるが、この作用は、病変を拡大したりや臨床欠損を決定することはないようである。
サイトカイン及び成長促進因子は、反応性星状細胞及びミクログリア細胞から急性炎症過程の一部として放出され、内因性の再髄鞘形成を促進する。しかし、時間が経つと、星状細胞の反応性が病変をふさぎ、グリオーシスが更なる再髄鞘形成の物理的障壁となり、累積する欠損を調整する能力を低減し、持続的な欠損の段階への移行のマークとなる。
永久的な能力喪失状態は、疾病の発現からの不完全な回復に起因しうるから、再発頻度は、多発性硬化症の再発性/リミッティング期の期間の障害の蓄積と相関することとなる。I型インターフェロンは、ウイルス感染が再発を引き起こす傾向を考慮して、その抗ウイルス作用のために最初に多発性硬化症に使用された。実際、それらの作用機序は免疫学的かつ複合的であり、我々は、炎症性サイトカインの機能的拮抗と、クラスIIMHC抗原発現の下方制御の証拠を選択する。しかし、血液脳関門(BBB)に対する影響を含むその他の作用様式も同等に十分議論できる。
インターフェロンβ−1aではなく、2つのインターフェロンβ−1a製剤の試みにおいてのみ、この再発率の変化に、障害の蓄積の減少が同様に伴っていた。しかし、この減少は、二次的進行への影響よりもむしろ、再発関連欠損の蓄積の減少により説明されうる。
3つのその他の薬剤が、再発性/リミッティング多発性硬化症における再発頻度及び障害の蓄積を減少する。それぞれは、βインターフェロンと同様の効率と、許容できる逆効果プロフィールとを示す。グラチラマーアセテート(Glatiramer acetate;Copaxone、Teva)は、合成ペプチドの混合物であるが、思いがけなくも実験的な自己免疫/アレルギー脳脊髄炎を抑制することが見出された。おそらくは、ミエリン基礎タンパク質(MBP)のT細胞受容体への結合を阻害するか、又は、ミエリン自己反応性T細胞の表現型を変化させると思われる。この薬剤は、年再発率を治療群において25%減少させた251人の患者の試験の結果に基づき、米国及び欧州で再発性/リミッティング多発性硬化症の治療への使用が許可されている。
アザチオピリン(Azathioprine)は、プリン合成を阻害することによりリンパ球増殖を阻害し、おそらくは、βインターフェロンと同様な効率を有するが、試験データが、厳密性をより欠く方法で得られ、より率直に報告された。
ミトキサントロン(Mitoxantrone)は、DNAトポイソメラーゼIIの阻害を通して分裂細胞及び非分裂細胞においてDNA修復及び合成を阻害する。これは、βインターフェロンよりも潜在的にβインターフェロンよりもずっと毒性があるが、侵攻期の再発性頻度が高い患者を含む侵攻性の再発性疾患の治療への米国の使用許可を有する。
再発を抑制し、それらの結果を制限する能力が部分的であるという事実を考慮すると、(それらの業績にもかかわらず)βインターフェロンが多発性硬化症の根治治療であることを、情報に基づき合理的に結論したアナリストはいない。製薬業界は、出資した確立された薬剤の組み合せ(例えば、βインターフェロンとシクロホスファミド)の研究であって、相乗的利益について有力な証拠がない研究により、新規な免疫療法の戦略への著しい投資とともに、今日まで反応している。インタフェロンβ−1b及びβ−1a並びにグラチラマーアセテートは、再発性MSの患者に対して、北アメリカで広く処方されている。しかしながら、これらの薬剤は、著しい制限がある。例えば、コスト(11000USドル/年)、不便さ(非経口投与)、逆効果の頻度(とりわけ、多くの患者における各インタフェロン注射後の数時間にわたる「インフルエンザに似たような」症状)及び比較的穏やかな疾病経過に対する全体的な影響(例えば、35%未満の再発率の減少)が含まれる。さらに、治療開始から1年を超えた後のインターフェロンβの再発性/リミッティングMSにおける治療効果は不明である。米国多発性硬化症協会は、臨床的に深刻な再発性MSのすべての患者によるこれらの薬剤の使用を勧める診療指示書を発行した。MSに対して向けられたその他の治療は、TNF−α、IL−6又はIL−12などのようなサイトカインに対して向けられた(モノクローナル)抗体を用いたMS患者の治療を含む。しかしながら、抗TNF−α治療などのようなこれらのサイトカイン遮断薬の使用がMS患者の治療において重要な治療的補強であることに異論を唱える者はほとんどいないけれども、単一サイトカイン中和治療に関連する逆効果も明らかになってきた。また、未知の理由により、単一サイトカイン遮断タンパク質は、抗dsDNA抗体の形成を引き起こし得る。そして、繰り返された治療の後、累積的ANAの発生率は、50%にも達しうる。それにもかかわらず、抗TNF−α抗体治療は、ループス(狼瘡)様症状に使用される。また、髄鞘脱落疾患及び再生不良性貧血は、このように治療された患者はわずかしか報告されていない。治療用のキメラ抗体を繰り返し投与することの主要な問題は、免疫原性である。最大60%の抗体治療患者が、注入反応に関連して治療効果を低減するヒト抗キメラ抗体(HACA)を産生する。
本発明は、多発性硬化症を患うと見られる対象、好ましくはヒトの治療方法であって、再発又は再燃の頻度の低減、その永続効果の制限、再発期間の付加的な炎症性サイトカインの放出により引き起こされる症状の緩和、再発後の疾病進行に起因する障害の予防、及び再発後の組織の修復という具体的な目的がある方法を提供する。本発明は、対象、好ましくは、ヒトの再発性/リミッティング多発性硬化症の再発期間の経口治療用の医薬組成物を提供し、また、例えば、MS又はEAEを患う霊長類における付加的な炎症性サイトカイン放出を伴う再燃の再発期間の経口治療方法であって、対象に本発明のシグナル分子、好ましくは、そのようなシグナル分子の混合物を受けさせることを含む方法と提供する。再発期間の経口治療に最も好ましいのは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、又は、LAGV(配列番号10)のペプチドからなる群から選択されるペプチド又はその混合物である。
さらに、本発明は、必要であると見られる対象の多発性硬化症の進行を予防する方法であって、とりわけ、例えば、視神経炎が観察されたがMSが発生していないような、神経学的障害の徴候の後のヒトの治療の方法を提供する。また、本発明は、多発性硬化症の予防用の医薬組成物の製造のための本発明のシグナル分子の使用であって、対象、好ましくはヒトに起こる再発性/リミッティング多発性硬化症の治療用の医薬組成物を提供する。また、本発明は、付加的な炎症性サイトカインの放出を伴う再燃の治療方法、とりわけ、ヒトの治療方法を提供する。
そのようなシグナル分子又は混合物の投与は、好ましくは、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下投与など、全身的に行い、再燃期間の付加的に放出される炎症性サイトカイン効果の鈍化をもたらす。いくつかのケースでは、髄腔内投与を考慮してもよい。しかしながら、最も好ましい治療は、粘膜投与、好ましくは経口投与を含む。
好ましい実施形態において、本発明は、必要であると見られる対象におけるMSの再発性/リミッティング疾患を調節する方法であって、前記対象に短い遺伝子調節ペプチド又はその機能的アナログを含むシグナル分子を与えることを含み、医原性事象を調節するに十分量の前記シグナル分子を経口投与することを含む。シグナル分子は、好ましくは短いペプチドであって、好ましくは、最大限でも30アミノ酸長のペプチド、又は、その機能的アナログ若しくは誘導体である。より好ましい実施形態において、前記ペプチドは、約3〜約15アミノ酸長であって、好ましくは4〜12であり、より好ましくは4〜9であり、さらに好ましくは4〜6アミノ酸長のペプチド、又は、その機能的アナログ若しくは誘導体である。当然ながら、このようなシグナル分子は、より長いものでもよく、例えば、(N及び/又はC末端を)さらにアミノ酸又はその他の側鎖で延長して、例えば、その分子が最終目的地に進入したときに(酵素により)切断してもよい。とりわけ、前記シグナル分子が遺伝子転写因子のトランスロケーション及び/又は活性を調節する方法を提供する。前記遺伝子転写因子が、NFκB/Relタンパク質又はAP−1タンパク質を含む場合にとりわけ有用である。多くの再発性/リミッティング事象が、上述のとおり、NFκB及びAP−1の活性化に起因して炎症性サイトカインの発現増大を誘導する。好ましい実施形態においては、本発明は、NFκB/Relタンパク質又はAP−1タンパク質のトランスロケーション及び/又は活性が阻害される方法を提供する。1つの実施形態において、前記ペプチドは、LQG、AQG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、LQGA(配列番号3)、VLPALP(配列番号4)、ALPALP(配列番号5)、VAPALP(配列番号6)、ALPALPQ(配列番号7)、VLPAAPQ(配列番号8)、VLPALAQ(配列番号9)、LAGV(配列番号10)、VLAALP(配列番号11)、VLPALA(配列番号12)、VLPALPQ(配列番号13)、VLAALPQ(配列番号14)、VLPALPA(配列番号15)、GVLPALP(配列番号16)、LQGVLPALPQVVC(配列番号17)、LPGCPRGVNPVVS(配列番号18)、LPGC(配列番号19)、MTRV(配列番号20)、MTR、VVCのペプチドからなる群から選択される。経口投与に最も好ましいのは、LQG、QVV、PALP(配列番号34)、AQG、LAG、LQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)又はLAGV(配列番号10)から選択されるペプチドである。述べたとおり、付加的な炎症性サイトカインの発現は、しばしば、NFκB及びAP−1に起因する。炎症性サイトカインは、内皮細胞(例えば、外傷により)、血管周囲細胞及び接着性又は移動性白血球により発現され、多くの炎症性及び凝結促進効果を誘導する。同時に、これらの効果は、炎症、血栓症及び出血を生じやすくさせる。臨床的及び医学的に興味及び価値があるが、本発明は、生体対象、好ましくは霊長類の組織及び器官におけるNFκB依存性遺伝子発現を選択的にコントロールする機会であって、IL−10などに媒介されるような抗炎症反応を本質的に上方制御し、TFN−α、一酸化窒素(NO)、IL−5、IL−6及びIL−1βなどに媒介されるような炎症反応を本質的に下方制御する機会を提供する。
例えば、抗TNF−α、抗IL−5、抗IL−6、抗IL−12、抗IL−23、抗IL12p40、抗IL−23p40又は抗IL−1β抗体などを使用する単一サイトカイン治療と比較して、本発明のNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログは、炎症性サイトカインの大きなネットワークが下方制御されるという大きな利点がある。
本発明は、よって、MSに見られる再発性/リミッティング疾患の治療、好ましくは、霊長類における治療用の医薬組成物の製造のためのNFκB調節ペプチド又はその誘導体の使用を提供し、また、MSに見られる再発生/リミッティング疾患の治療方法、とりわけ、霊長類における治療方法を提供する。治療方法は、対象にNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログを含む医薬組成物を投与することが好ましい。有用なNFκB下方制御ペプチドの例は、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、GVLPALPQ(配列番号23)、VLPALP(配列番号4)、VVC、MTR及び環状のLQGVLPALPQVVC(配列番号17)である。さらなる遺伝子調節ペプチド及び機能的アナログは、ここで提供するような方法より見出すことができる。NFκB下方制御ペプチドの中で最も顕著であるのが、VLPALPQVVC(配列番号21)、LQGVLPALPQ(配列番号22)、LQG、LQGV(配列番号1)、及び、VLPALP(配列番号4)である。これらは、また、細胞によるNO産生を低減させることができる。
1つの実施形態として、本発明は、MSの再発期間に見られる再発生/リミッティング疾患を患う対象の治療方法であって、本発明のシグナル分子を、単一サイトカイン遮断タンパク質、例えば、抗TNF−α、抗IL−5、抗IL−6、抗IL−12、抗IL−23、抗IL12p40、抗IL−23p40若しくは抗IL−1β抗体又はその機能アナログと同時に又は少なくとも適時に使用する治療方法を提供する。ここでまた、MSを患うと見られる対象であって、抗TNF−α、抗IL−5、抗IL−6、抗IL−12、抗IL−23、抗IL12p40、抗IL−23p40又は抗IL−1β抗体による治療を受ける対象の治療用の医薬組成物の製造のための本発明のシグナル分子の使用を提供する。ここでまた、それぞれがNFκBを下方制御できる少なくとも2つのオリゴペプチド又はその機能的アナログを含み、それにより細胞によるNO及び/又はTNF−αの産生を低減する組成物であって、とりわけ、少なくとも2つのオリゴペプチドがLQGV(配列番号1)、AQGV(配列番号2)、及びVLPALP(配列番号4)からなる群から選択される、MSにみられる再発性/リミッティング疾患の治療用の組成物の使用を提供する。MSにみられる再発性/リミッティング疾患の過程において身体が受け取る様々なシグナルに反応して、転写因子のNFκB/Relファミリーは、活性化され、異なるタイプのヘテロ及びホモダイマーをそれら同士で形成し、κB特異的結合部位を含む標的遺伝子の発現を制御する。NFκB転写因子は、Relホモロジードメインで特徴付けされる関連したタンパク質ファミリーのヘテロ又はホモダイマーである。それらは2つのサブファミリーを形成する。活性化ドメインを含むもの(p65−RELA、RELB、及びc−REL)と活性化ドメインを欠くもの(p50、p52)である。原型的なNFκBは、p65(RELA)とp50(NFκB1)とのヘテロダイマーである。活性型NFκBダイマーの中で、p50−p65ヘテロダイマーは標的遺伝子の転写の促進に関与することが知られており、p50−50ホモダイマーは転写抑制に関与することが知られている。しかしながら、p65−p65ホモダイマーは標的遺伝子に対して転写活性及び抑制の両方の活性で知られている。異なるNFκBに対して様々な親和性を有するκBDNA結合部位がいくつかの真核生物遺伝子のプロモーターにおいて発見されており、活性型NFκBのホモ及びヘテロダイマー間のバランスが最終的には細胞内の遺伝子発現の性質とレベルを決定する。「NFκB調節ペプチド」の用語は、ここで使用される場合、転写因子のNFκB/Relファミリーのメンバーの活性化を調節できるペプチド又はその機能的アナログ若しくは修飾物若しくは誘導体を参照する。NFκBの活性化は、向上した標的遺伝子の転写をもたらす。また、それは、標的遺伝子の転写抑制ももたらす。調節は、上方制御及び下方制御を含む。好ましい実施形態において、本発明のペプチド又はその機能的誘導体若しくはアナログは、MSにみられる再発性/リミッティング疾患の治療用の経口使用する医薬組成物の製造のために使用される。NFκB調節ペプチドは、その他のMS治療に同時に与えることができ、前記ペプチド(又はアナログ)の濃度は、好ましくは、約1〜約1000mg/lであるが、前記ペプチドは、また、例えば、ボーラス注入法でそのまま投与できる。最初は、例えば、8時間ごとのボーラス注入や輸液による1〜5mg/kg体重の用量を患者が安定するまで投与することが好ましいが、しかしながら、経口治療の潜在能力が、その後の経口投与への迅速な移行を可能とする。例えば、大きな逆反応が予測又は診断される場合には、治療患者の血漿中の例えば、TNF−α、IL−6又はIL−10濃度などのサイトカインプロフィールをモニターすること、及び、それらの濃度が正常になった場合に本発明の治療を止めることが好ましい。好ましい実施形態において、重篤で急性の再燃(再発)を経験している患者に、AQGV(配列番号2)、LQGV(配列番号1)、又はVLPALP(配列番号4)などのようなNFκB下方制御ペプチド2mg/kg体重をボーラス注入で与え、AQGV(配列番号2)、LQGV(配列番号1)、又はVLPALP(配列番号4)などのようなNFκB下方制御ペプチド又はその機能的アナログを1mg/kg体重の用量で8時間ごとの注入を続けることを提供する。経口治療は、0.01〜10mg/kg体重の用量で、好ましくは、0.1〜1mg/kg体重の用量で開始し、再発が安定するまでおこなう。投与量は、例えば、患者の血漿又はCSF中のサイトカインプロフィールのモニタリングの結果に依存して増やしたり減らしたりしてもよい。もちろん、再発が穏やかな性質のようであれば、経口治療が最初の選択となる。述べたとおり、実験的な自己免疫/アレルギー脳脊髄炎(EAE)及びMS双方における再燃及び疾病の進行は、サイトカイン及びケモカインにより劇的に媒介されるMSの再燃の期間、TNF−αファミリーは、CSF及び血漿中で極めて上昇する。IL−12活性もまた、しばしば高くなる。これらのサイトカイン及びケモカインの下方制御又はT細胞制御は、T細胞及び樹状細胞がCNSに達するのを防ぎ、次にさらに、脳及び脊髄の髄鞘脱落をもたらす炎症性反応を下方制御する。細胞がCNSへ移動し、そして炎症性サイトカイン及びケモカインを放出するというこのモデルは、特に再発性/リミッティング疾患の過程に見られ、本発明のペプチドによりNFκBの調節、T調節細胞の発達、及びC−jun又はC−ergなどのような初期又は前遺伝子の発現の治療を通して治療できる。ここで与えられる治療方法のプロトコールは、その他の疾病についても使用することができる。前記疾病としては、多発性硬化症の再燃及びその変形に似た又は含む疾病、EAE並びにその他の感染症及び/又は免疫に基づく髄膜脳障害における付加的炎症性サイトカインの放出があげられ、前記髄膜脳障害は、例えば、麻疹、SSPE、おたふくかぜ、出血性ウイルス、侵攻性多病巣脳障害、乳頭腫ウイルス(JCウイルス)病、細菌性心内膜炎が誘導する免疫脳障害、大脳障害が伴うマラリア、アンギオストロンギルス症及びその他の寄生虫脳炎、ライム病、EBV、CMV及びHHV6を含む単一様ウイルスを含むヘルペス1〜8病、リケッチア症、発疹チフス、ロッキー山発疹熱、Q熱、クラミジア病、トラコーマ、NSU、クラミジア肺炎、マイコプラズマ関節炎及び脳炎、HIV−1及び2脳炎及び痴呆、アルボウイルス病、トガウイルス病及びその他のレンチウイルス又はブンヤウイルス又はフラビウイルス病などの感染症に見ることができる。感染性及び/又は炎症性の髄膜−脳脊髄炎のその他の形態は、急性バクテリア感染症、スピロヘータ感染症(neurolues、ライム 神経ボレリア、ヒト型結核菌)、ウイルス感染症(エンテロウイルス、おたふくかぜ、単純ヘルペス2型、トガウイルス(アルボウイルス)、HIV1及び2型、HTLV−1感染症)、真菌感染症(クリプトコックス・ネオフォルマンス、コクシジオイデス・イミティス、ブラストミセス・デルマチチジス、ブラジルパラコクシジオイデス、スポロトリクス・センスキ、ヒストプラスマ・カプスラーツム、シュードアレシェリア・ボイジ及び皮膚炎菌、ほとんどの日和見感染、例えば、カンジダ及びアプペルギルス種及び接合菌)、原虫感染症(脳マラリア、トキソプラズマ症、トリパノソーマ種、ネグレリア種及び蠕虫)、神経サルコイドーシス、クロイツフェルト−ヤーコプ病及びワクチン後の神経合併症などがあげられる。