JP2007524708A - 血管新生を阻害するラクトアルブミン - Google Patents

血管新生を阻害するラクトアルブミン Download PDF

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Abstract

増殖性疾患、及び特に膀胱癌又は悪性メラノーマのような粘膜癌、及び神経膠芽細胞腫のような内部器官の腫瘍の治療において、並びに血管新生の阻害において使用するための薬剤の製造における、HAMLET(腫瘍細胞を致死させるヒトα−ラクトアルブミン)若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性複合体の使用。

Description

本発明は、ヒトの望ましからざる細胞又は組織増殖を伴う状態を治療する方法、及びそのような状態の治療のための薬物の製造における生物学的に活性のある複合体の使用に関する。特に、これらの状態は、膀胱癌、メラノーマ、内部器官の癌のような、悪性粘膜腫瘍又は癌、特に、脳腫瘍、及びその他の状態、例えば血管新生の阻害が望ましい癌を含む。
血管新生は、新しい血管を形成する過程である。それは、通常、人体において、発生及び成長における特定の時期に生じる。例えば、胚は動脈、静脈及び毛細血管の広大なネットワークを必要とする。脈管形成と呼ばれる過程は、将来主要な血管となる血管内皮細胞の最初のネットワークを創成する。後程、血管新生は、このネットワークを、小児の循環系を完成する小さな新しい血管又は毛細血管へと作り直す。
新しい血管の増殖は、また、成人でも起こる。婦人においては、新しい血管が排卵周期の期間に、子宮の内面に形成するので、血管新生が各月に数日間活性となる。また、血管新生は、創傷治癒の間に組織の修復又は再生に必要である。
血管内皮細胞は、血管新生によって刺激されない限り、殆んど分裂しない。血管新生は、活性化因子及び阻害分子の両者によって制御されている。通常、阻害分子が優性で、成長を妨害している。新しい血管の必要性が生じた場合、血管新生活性化因子の数が増し、阻害分子が減少し、かくして血管内皮細胞の増殖及び分裂が起こるように促し、最終的に、新しい血管の形成が起こる。
1960年代以前には、癌研究者は、単に既存の血管が拡張して血液が腫瘍に到達すると信じていた。しかしその後の実験は、癌性の腫瘍が成長を保ち、広がっていくために、血管新生が必要であることを示した。
腫瘍血管新生は、栄養及び酸素を供給し、老廃物を除去する癌性増殖に浸透する血管のネットワークの増殖である。それは、腫瘍細胞が、新しい血管の増殖を促すためにある種の遺伝子やタンパク質を活性化するよう、周辺の正常な宿主組織に信号を送る分子を放出する場合に始まる。
癌細胞によって産生される小活性化分子が、周囲の組織における血管新生の信号を送る。十数個の異なったタンパク質、及びいくつかのより小さな分子が「血管形成性」として同定されている。これらの中には、血管内皮増殖因子(VEGF)及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)がある。VEGF及びbFGFは、多くの癌細胞によって産生され、そしてある種の型の正常細胞によっても産生される。
VEGF及びbFGFは、最初腫瘍細胞内部で合成され、次いで周囲の組織に分泌される。VEGF又はbFGFのいずれも適切な受容体に結合して、内皮細胞の核への情報伝達カスケードを活性化する。核の情報は、究極的には、新しい内皮細胞増殖に必要とされる産物をつくるよう一群の遺伝子を促す。
VEGF及びbFGFによる内皮細胞の活性化は、新しい血管の創成に向かって一連のステップを動かす。先ず、活性化された内皮細胞は、特殊なクラスの分解酵素である、マトリックスメタロプロテイナーゼ類(MMP)を産生する。これらの酵素は、次いで、内皮細胞から周囲の組織へと放出される。MMPは、細胞間の空間を満たしており、そしてタンパク質及び多糖類でつくられている細胞外マトリックス支持物質を分解する。
このマトリックスの分解は、内皮細胞の移動を可能とする。それらが周囲の組織へと移動するにつれて、活性化された内皮細胞は分裂を始める。すぐにそれらは組織化して中空管となり、中空管は血管の成熟したネットワークへと徐々に発達する。
多くの腫瘍は、VEGF及びbFGFのような血管新生性分子を産生するが、それらの存在は、血管増殖を開始するには充分でない。血管新生を開始するためには、これらの活性化分子は、通常は血管増殖を抑止する種々の血管新生阻害分子に打ち勝たなければならない。
十数個の天然に存在する殆んどのタンパク質が、血管新生を阻害することができる。この分子の群の中で、アンジオスタチン、エンドスタチン及びトロンボスタチンと呼ばれているタンパク質が、特に重要であるように見える。血管新生阻害分子の濃度とVEGF及びbFGFのような活性化分子の濃度の間を精密に調整したつり合いは、腫瘍が新しい血管の増殖を誘導することができるかどうかを決める。血管新生の引き金を引くためには、活性化分子の産生が阻害分子の産生を減少するように増加しなければならない。
血管新生阻害分子の発見は、そのような分子が癌の増殖を治療的に停止又は抑止するであろうかという疑問を惹き起こす。研究者は、動物を含んだ多くの実験でこの疑問に取り組んでいる。一つの特筆すべき研究で、数種の異なった癌の種類を持ったマウスをエンドスタチンの注射で治療した。2、3サイクルの治療の後に、注射された癌細胞の部位に生じた最初(原発)の腫瘍は殆んど消失し、再使用の後に、その動物は、エンドスタチンの効果に対する抵抗性を発現しなかった。
エンドスタチンのような血管新生阻害分子が原発性腫瘍の増殖を抑止することができるという発見は、そのような阻害分子が腫瘍転移を遅延させることができるかもしれないという可能性を提起する。
原発腫瘍に由来する癌細胞は、別の器官に広がることができ、長期にわたって休眠状態のままにいることができる小さな微視的な腫瘍塊(転移)を形成することができることが長年にわたり知られている。この腫瘍休眠についての同様な説明は、血管新生は起こらず、従って小腫瘍は継続した増殖に必要な新しい血管が欠けているというものであった。
腫瘍休眠についての一つの可能性のある理由は、いくつかの原発腫瘍は血流中に阻害分子アンジオスタチンを分泌し、次いで身体中を循環し、そして別の部位で血管増殖を阻害すると云うものである。これが、微視的転移の目に見える腫瘍への増殖を防止可能にする。
血管新生の過程を妨害することによって腫瘍増殖を停止できるという考えに対する付加的な支持が、マウスの遺伝子の研究からもたらされている。科学者は、最近、ID1及びID3と呼ばれる、2つの遺伝子を欠くマウスの系統で、その欠損が血管新生を妨害するものを創成した。マウス乳癌細胞をそのような血管新生欠損突然変異マウスに注射すると、短い腫瘍増殖の期間があるが、しかし腫瘍は2、3週間後に完全に退行し、マウスは癌の影も形もなくなって健康を維持している。対照的に、同じ乳癌細胞を注射した正常マウスは、2、3週間以内に癌で死亡する。
同じ系統の血管新生欠損突然変異マウスに肺癌細胞を注射すると、結果は若干異なっている。肺癌細胞は、突然変異マウスの腫瘍に成長するが、しかし腫瘍は正常マウスにおけるよりもよりゆっくりと増殖し、他の臓器に広がる(転移する)ことができない。その結果、突然変異マウスは、同じ種類の肺癌細胞を注射された正常マウスよりもより長く生存する。
結果として、血管新生を阻害すると、ヒトにおける癌細胞の増殖及び広がりを遅くする又は防止することができると現在信じられており、その結果として、多くの血管新生阻害剤が、目下癌患者において試験されている。
試験されている阻害剤は、それらの作用機作によっていくつかの異なった範疇に分類される。或るものは内皮細胞を直接阻害し、他のものは血管新生情報伝達カスケードを阻害し、又は細胞外マトリックスを破壊する内皮細胞の能力を妨害する。
HAMLET(腫瘍細胞を致死させるヒトα−ラクトアルブミン)(以前はMALとして知られていた)は、形質転換細胞におけるアポトーシスを誘導するが、しかし健康な分化細胞には危害を加えないアルファ・ラクトアルブミン(α−ラクトアルブミンとしても表される)の活性なフォールディング変異体である(M. Svensson, et al., (2000), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 4221-6)。HAMLETは、腫瘍細胞の表面に結合すること、細胞質中に転位すること及び細胞核中に蓄積すること、その結果DNA断片化をもたらすこと、が示されている(M. Svensson, et al., (2000), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 4221-6)。ミルク及び特にヒトのミルクから得られる、この型の生物活性のある複合体は、抗菌剤としての使用と共に、例えば、欧州特許第0776214号に記載されている。
HAMLETの細胞標的は、共焦点顕微鏡及び細胞下分画法の組合せによって試験されている(Hakansson et al., 1999, Exp. Cell Res. 246, 451-60)。HAMLETは細胞表面に結合し、細胞質に入り、そこでミトコンドリアと相互作用しそれを活性化する。最後に、タンパク質が細胞核に入り、そこで蓄積する。
本出願人は、抵抗性細胞及び感受性細胞がそれらの表面に同じような効率でHAMLETを結合し、これが特異な事象ではないことを示唆しているのを見出した。対照的に、核への蓄積は、死細胞のみに起こり、このステップにより、感受性腫瘍細胞が抵抗性細胞から区別されることを示唆している。共焦点顕微鏡によって、核への蓄積は不可逆的に現れ、このことは、核分画においてHAMLETを結合及び保持する核標的の存在を示唆している。
今日まで、HAMLETについて報告された研究は、インビトロで、形質転換細胞はHAMLETに感受性であり、それが癌治療に応用されることを示唆していることを示している。しかし、インビトロで見られた効果及びインビボで観察された効果の相関関係は、特に、インビボで見出された状態が腫瘍の性質及び部位によって変化するので必ずしも直接的なものではない。例えば、身体の異なった器官に見出される異なった状態によって、いずれの治療剤においても、その安定性、及びそれ故にその効果が影響されうる。
しかしながら、本出願人は、HAMLETがヒト細胞に対してインビボで活性を保持し、それ故にそれが、特にある種の例において、有用な抗癌療法であることを見出した。
更に、今や見出されたことは、HAMLETが、また、血管新生に対して阻害効果を有しているようであり、それは、以前に注目されていた殺腫瘍活性から単純に期待されるであろうよりも大きいものであると信じられることである。このことは、分子の細胞効果の高度に選択的な性質を考えると、意外なことである。結果として、それは複合体の潜在的な治療範囲を拡大するものである。
本発明の第一の態様によれば、動物、特にヒトの、増殖性疾患の治療に使用するための及び/又は血管新生を阻害するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用が提供される。
増殖性疾患の特別な例は癌である。
一つの態様において、本発明は、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片を腫瘍に適用することによる、インビボでの、特にヒトにおける癌を治療する方法を提供する。この目的のために、生物活性のある複合体が、癌療法において使用するための薬剤の製造において使用される。
本出願人は、HAMLET及びこの型の複合体は、粘膜腫瘍、特に膀胱腫瘍の治療に使用するとき予想外に良好な結果を生じることを見出した。
本発明の第二の態様によれば、ヒトの粘膜癌の治療において使用するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用が提供される。
粘膜表面で見出される状態は、pHその他のような性質に関して非常にユニークな可能性がある。粘膜表面は、とりわけ、鼻腔において、口、咽喉、食道、肺、胃、大腸、膣及び膀胱において見出される。本発明によって治療され得る特別な粘膜表面は、咽喉、肺、大腸及び膀胱表面の腫瘍を包含する。本発明は、特に、膀胱癌の治療に応用し得る。
しかしながら、今や見出されたことは、HAMLETは、血管新生に対して阻害効果も有しているようであり、それは、以前に注目されていた殺腫瘍活性から単純に期待されるであろうよりも大きいものであると信じられることである。このことは、分子の細胞効果の高度に選択的な性質を考えると、意外なことである。結果として、それは複合体の潜在的な治療範囲を拡大するものである。
本発明の第四の態様によれば、血管新生の阻害のための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体が提供される。
そのような薬剤は、癌、特に固形癌、及び特に急速に増殖しつつある固形癌の治療のために使用することができる。そうでない場合でも、それに加えて、腫瘍転移を遅延させるために投与することもできる。
HAMLET又はその生物活性のある改変体がこの結果を達成する機構は判っていない。ある種の効果は腫瘍細胞によって媒介されているであろうことが期待され得る。特に、HAMLETは腫瘍細胞を殺すので、血管新生活性化分子の供給が減少する。しかしながら、注目した効果は、付加的な効果が生じつつあることを示唆している。例えば、HAMLETは急速に増殖しつつある血管細胞に対して、直接的な効果を有している可能性があるようである。
HAMLET又はその生物活性のある改変体は、また、血管新生阻害が望ましいその他の疾患を治療するために使用することもできる。
主として天然に存在するタンパク質として、HAMLETは、完全合成薬よりも低毒性であろうと信じられる。更に、複合体の免疫原性は低いと信じられる。
本発明の第四の態様によって製造される薬剤は、好適には、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、又は水性若しくは油性液剤若しくは懸濁剤のような局所使用するのに適した形態をした医薬組成物である。これらは、医薬として許容される、一般に知られた担体、充填剤及び/又は補助剤(expedients)を包含することができる。
局所用液剤又はクリーム剤は、好適には希釈剤又はクリーム基剤と共にタンパク質複合体用の乳化剤を含有する。
活性化合物の1日量は、患者、標準的治療法に従い治療される状態の性質等によって変化し、そして依存する。通例、2から200mg/doseの生物活性のある複合体が、各投与に対して使用される。
本発明の更なる態様において、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を、必要とする患者に投与することを含む、血管新生を阻害する方法が提供される。
生物活性のある複合体の好ましい例は、上記に明らかにされている。好ましくは、生物活性のある複合体は、上にも記載したように、局所用組成物の形態で投与される。
本明細書で使用されるものとして、用語「HAMLET」は、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体(このものは起源がヒトであっても、そうでなくてもよい)を表し、pH4.6で沈殿したミルクのカゼイン分画から単離することによって、例えばEP−A−0776214に記載されているような陰イオン交換クロマトグラフィーとゲル・クロマトグラフィーの組合せによって、又は、国際公開第99/26979号に記載されたようなC18:1脂肪酸として特徴づけられるヒトミルクカゼイン由来の補助因子の存在下で、α−ラクトアルブミンをイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって、得ることができる。類似の活性を有するこの複合体の変異体又は誘導体は、例えば、国際特許出願第PCT/IB03/01293号に記載されている。
α−ラクトアルブミンは、ヒト、ウシ、ヒツジ及びヤギのミルクを含む種々の哺乳類源から得られるが、好ましくは、ヒト又はウシであり、最も好ましくはヒトから得られる。タンパク質の組換え体の形態も、また、採用してもよい。
他の試薬及び特にオレイン酸のような脂質が、ヒトα−ラクトアルブミンのHAMLETへの変換に有用であることも見出されている。特に、オレイン酸(C18:1:9シス)がHAMLET産生に必要であることが以前に報告されている(M. Svensson, et al., (2000), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 4221-6)。より最近になって、他の脂肪酸が同様に補助因子として作用するであろうことが見出されている。α−ラクトアルブミンのHAMLETへの変換のための至適な補助因子は、9位又は11位においてシス立体配置の二重結合を有するC18:1脂肪酸である。
α−ラクトアルブミンは、4つのジスルフィド結合(61−77;73−91;28−111及び6−120)によって連結された、4つのα−ヘリックス(残基1−34、86−123)及び逆平行β−シート(残基38−82)を有する14.2kDaの球状タンパク質である(K. R. Acharya, et al., (1991), J. Mol. Biol., 221, 571-81)。α−ラクトアルブミンの天然の立体配座は、Asp82、Asp87及びAsp88の側鎖カルボン酸、Lys79及びAsp84のカルボニル酸素、及び2つの水分子によって配位された、高親和性Ca2+結合部位によって規定される(K. R. Acharya, et al., (1991), J. Mol. Biol., 221, 571-81)。タンパク質は、低pHに曝された場合の、又は強く結合したCa2+イオンを放出するキレート剤の存在下でのHAMLETにおいて見出される、いわゆるアポ配座をとる(D. A. Dolgikh, et al., (1981), FEBS Lett., 136, 311-5; K. Kuwajima, (1996), Faseb J., 10, 102-09)。
生物活性のある複合体を形成するために、α−ラクトアルブミンは、一般的に、立体配座の変化又はフォールディングの変化の両者、並びに脂質の存在を必要とする。立体配座の変化は、α−ラクトアルブミンからカルシウムイオンの脱離によって好適に起こる。好ましい実施態様において、このことは、機能的カルシウム結合部位を有していないα−ラクトアルブミンの変異体を使用して好適に促進される。
そのような変異体を含有する生物活性のある複合体は、本明細書において使用されるように用語HAMLETの「改変体」に包含される。しかし、本出願人は、一度形成すると、機能的カルシウム結合部位の存在、及び/又はカルシウムの存在は、複合体の安定性又は生物活性に影響しないことを見出した。生物活性のある複合体は、活性を失うことなく、カルシウムに対する親和性を保持することが見出されている。それ故、本発明の複合体は、更にカルシウムイオンを含んでもよい。
それ故、特に、本発明は、α−ラクトアルブミン若しくはアポフォールディング状態(apo folding state)であるα−ラクトアルブミンの変異体、又はこれらのいずれか一方の断片、及び生物活性のある形態での複合体を安定化する補助因子を含み、但し、α−ラクトアルブミン又はその変異体のいずれかの断片は、α及びβドメインの間に接点を形成するα−ラクトアルブミンの領域に相当する領域を含む、生物活性のある複合体を使用する。
好適には、補助因子は、シスC18:1:9、又はC18:1:11脂肪酸又は類似の立体配置を有する異なった脂肪酸である。
特に便利な実施態様において、本発明において使用される生物活性のある複合体は、
(i)シスC18:1:9又はC18:1:11脂肪酸又は類似の立体配置を有する異なった脂肪酸;及び
(ii)カルシウムイオンが放出されたα−ラクトアルブミン、又はカルシウムイオンが除去されたか又は機能性カルシウム結合部位を有していないα−ラクトアルブミンの変異体;又はこれらのいずれか一つの断片、但し、このいずれか一つの断片は、α及びβドメインの間に接点を形成するα−ラクトアルブミンの領域に相当する領域を含むものである;
を含む。
本明細書において使用されるように、表現「変異体」は、好適にはヒト又はウシα−ラクトアルブミンであるが、しかしながら、それらが由来する基本配列とは配列内の1つ又はそれ以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているという点で異なっている、基本タンパク質に相同であるポリペプチド又はタンパク質を表す。アミノ酸の置換は、「保存的」とされていてもよく、その場合アミノ酸が広範囲に類似した性質を有する異なったアミノ酸で置換される。非保存的置換は、アミノ酸が異なった型のアミノ酸で置換されるものである。大まかに云って、より少数の非保存的置換が、ポリペプチドの生物活性を変更することなく可能であろう。好適には、変異体は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、なおより好ましくは80%又は85%、及び特に好ましくは90%、95%又は98%、又はそれ以上同一であろう。
同一性の程度を決定する目的でアミノ酸配列を比較するとき、BESTFIT及びGAPのようなプログラム(両者は、Wisconsin Genetics Computer Group(GCG)ソフトウエアパッケージである)がある。例えば、BESTFITは、2つの配列を比較し、最も類似したセグメントの最適なアラインメントを作る。GAPは、配列の全長に沿って配列のアラインメントを可能にし、必要に応じて配列のいずれかにスペースを挿入することによって最適なアラインメントを見出す。好適には、本発明の関連で配列の同一性を考察する場合、比較は、配列の全長に沿った配列のアラインメントによって行われる。
用語「その断片」は、完全なα−ラクトアルブミンアミノ酸配列を包含する複合体に類似する活性を有する複合体を形成するであろう、与えられたアミノ酸配列のいずれかの部分を表す。断片は、互いに連結した全長のタンパク質内から1つ又はそれ以上の部分を含んでいてもよい。部分は、好適には、基本配列から少なくとも5個の、好ましくは少なくとも10個の連続的アミノ酸を含む。
好適な断片は、長さで少なくとも20アミノ酸、及びより好ましくは少なくとも100アミノ酸を好適に含む欠失変異体であろう。断片は、タンパク質からの小領域又はそれらの組合せを包含する。
αドメインとβドメインの間の接点を形成する領域は、ヒトα−ラクトアルブミンにおいて、構造においてアミノ酸34〜38及び82〜86によって規定される。それ故、好適な断片は、これらの領域、及び好ましくは天然のタンパク質のアミノ酸34〜86からの完全領域を包含する。
特に好ましい実施態様において、生物活性のある複合体は、カルシウム結合部位がカルシウムに対する親和性が減少するように又は最早機能的でないように改変されたα−ラクトアルブミンの変異体を含む。
ウシα−ラクトアルブミンにおいて、カルシウム結合部位は、残基K79、D82、D84、D87及びD88によって配位されている。それ故、この部位の改変又は非ウシα−ラクトアルブミンにおけるその等価物は、例えば1つ又はそれ以上の酸性残基を除去することによって、カルシウムに対する部位の親和性を減じることができ、或いは完全に機能を除去することができ、この型の変異体は本発明の好ましい態様である。
ウシα−ラクトアルブミンのCa2+結合部位は、2つのヘリックスを分離する短いターン領域を有する310ヘリックス及びαヘリックスからなる(Acharya, K. R. et al., (1991), J. Mol. Biol., 221, 571-81)。それは、分子のこの部分をかなり曲がりにくくする2つのジスルフィド架橋によって挟まれている。Ca2+を配位する7個の酸素グループの内5個は、Asp82、87及び88の側鎖カルボキシレート又はLys79及びAsp84のカルボニル酸素によって与えられている。2つの水分子は残りの2個の酸素を供給している(Acharya, K. R. et al., (1991), J. Mol. Biol., 221, 571-81)。
87位のアスパラギン酸のアラニン(D87A)への部位特異的突然変異誘発は、強力なカルシウム結合部位を不活化することが以前に示されており(Anderson P. J., et al., (1997), Biochemistry 36, 11648-11654)、変異タンパク質はアポ立体配座をとっている。
それ故に、特別な実施態様において、ウシα−ラクトアルブミンタンパク質配列内のアミノ酸の87位のアスパラギン酸残基は、非酸性残基、特に、非極性又は電荷を持たない極性側鎖に変異する。
非極性側鎖としては、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン又はシステインが挙げられる。特に好ましい例は、アラニンである。電荷を持たない極性側鎖としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン又はチロシンが挙げられる。
突然変異タンパク質における構造歪みを最小化するために、D87は、カルボキシル基の中和されていない負電荷を欠くが、同じ側鎖体積及び幾何配置を有する、アスパラギン(N)によって置換されている(Permyakov S. E., et al., (2001), Proteins Eng., 14, 785-789)。変異タンパク質(D87N)は、カルシウムと低親和性(K−Ca2×105-1)で結合することが示された(Permyakov S. E., et al., (2001), Proteins Eng., 14, 785-789)。そのような変異体は、本発明の更に好ましい実施態様における生物活性のある複合体の構成要素である。
それ故、本発明の複合体において使用するための特に好ましい変異体は、α−ラクトアルブミンのD87A及びD97N変異体、又はこの変異体を包含する断片である。
分子のこの領域は、ウシタンパク質とヒトタンパク質の間で異なっており、3つの塩基性アミノ酸の1つ(R70)が、ウシα−ラクトアルブミンにおいてS70に変化しており、それ故1つの配位側鎖が除かれている。それ故に、ウシα−ラクトアルブミンを本発明の複合体において使用する場合、S70R変異体を使用するのが望ましい場合がある。
Ca2+結合部位は、異なった種からのα−ラクトアルブミンにおいて100%保存されており(Acharya, K. R. et al., (1991), J. Mol. Biol., 221, 571-81)、タンパク質のためのこの機能の重要性を明らかにしている。それは5つの異なったアミノ酸及び2つの水分子によって配位されている。D88と共にD77の側鎖カルボン酸は、最初にカルシウムイオンを陽イオン結合部位にドッキングさせ、構造を安定化する内部水素結合を形成する(Anderson P. J., et al., (1997), Biochemistry 36, 11648-11654)。D87又はD88のいずれか1つを失うと、Ca2+結合を妨げ、分子を部分的に折り畳まれていない状態で安定にすることが示されている(Anderson P. J., et al., (1997) Biochemistry 36, 11648-11654)。
更に、ウシα−ラクトアルブミンのカルシウム結合部位における2つの異なった点突然変異を有する変異タンパク質を使用してもよい。例えば、87位のアスパラギン酸をアラニン(D87A)で置換すると、カルシウム結合を完全に崩壊し、タンパク質の三次構造を破壊することが見出されている。アスパラギン酸をアスパラギンによって置換すると、タンパク質(D87N)はカルシウムになお結合しているが、しかし、低親和性であり、D87N変異体に対するほど顕著ではないが、三次構造の消失を示した(Permyakov S. E., et al., (2001), Proteins Eng., 14, 785-789)。変異タンパク質は、両アミノ酸は同じ平均体積125(オングストローム)3を有するので、充填体積において最小の変化を示し、アスパラギンのカルボン酸側鎖がタンパク質をカルシウムと配位するのを可能とするが、しかし効率が悪い(Permyakov S. E., et al., (2001), Proteins Eng., 14, 785-789)。両変異タンパク質は、生理温度でアポ立体配座で安定であったが、この立体配座変化にもかかわらず、それらは生物学的に不活性であった。これらの結果は、アポ立体配座への立体配座変化のみでは、生物活性を誘導するには充分でないことを明らかにしている。
α−ラクトアルブミンの構造は、当該技術分野で知られており、本明細書において表されている残基の正確なアミノ酸番号付けは、例えば、前記Anderson等及び前記Permyakov等によって示された構造を参照することによって同定することができる。
本発明の第二の態様に従って製造される薬剤は、好適には、治療される特定の悪性粘膜腫瘍に局所投与するのに好適な形態の医薬組成物である。例えば、組成物は、膀胱癌が治療されている膀胱に点滴注入するために好適な形態であってもよい。これらは、医薬として許容される普通に知られた担体、充填剤及び/又は補助剤を包含する。しかし好適には、膀胱に点滴注入される組成物は、活性物質の滅菌水又は生理食塩水溶液を含む。
局所用液剤又はクリーム剤は、好適には、希釈剤又はクリーム基剤と共にタンパク質複合体用の乳化剤を含有し、これは他の悪性粘膜腫瘍に適用するのにより好適であり得る。そのような製剤は、腫瘍に直接適用することができる。
加えて、そのような局所組成物は、悪性皮膚腫瘍、特にメラノーマを治療するために適用され得る。本出願人は、HAMLETがメラノーマ細胞に対して特に有効であることを見出した。このようにこれら組成物の使用は、本発明の更なる態様を形成している。
活性化合物の1日量は、患者、標準的治療法に従って治療される癌の性質等によって変化し、依存する。通例、200mgから1g/doseの生物活性のある複合体が、1日当たりの投与量として、好ましくは膀胱内点滴注入によって、少なくとも3日、好ましくは少なくとも5日の期間にわたって、使用される。特に、1日当たり750mgのHAMLET、5日間を含む投与計画が有益であることが証明されている。
本出願人は、膀胱癌に対する局所HAMLET治療の効果について研究した。以下に報告するように、膀胱内点滴注入に続く効果は極めて良好であった。
本発明の更なる態様において、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を、必要とする患者に投与することを含む、粘膜癌を治療する方法、及び特に膀胱癌を治療する方法が提供される。複合体は、好適には膀胱内に投与される。
生物活性のある複合体の好ましい例は、上記に例示されている。好ましくは、生物活性のある複合体は、上記にも記載された、局所組成物の形態で投与される。
本出願人は、HAMLET及びこの型の複合体が、インビボで内部器官の腫瘍に直接注入された場合に極めて良好な結果を生じることを見出した。特に、脳に見出される液体は活性を妨害しないことを見出している。
本発明の第三の態様によれば、腫瘍に注入するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用が提供される。
そのような生物活性のある複合体を直接腫瘍に注入することによって、腫瘍の大きさを減少可能であることが見出され、プロテアーゼを包含し得る体液の存在にもかかわらず、アポトーシスを誘導するHAMLETの効果が生じていることを示している。結果として、この治療は、脳、肝臓、腎臓、前立腺及び卵巣のような内部器官の固形腫瘍、並びにメラノーマにおける治療に特に好適である。
そのような複合体の効果の選択的な性質は、隣接する健全な組織が、複合体と接触するとしても、影響を受けないことを意味している。
特に、本発明は、脳腫瘍の治療において、及び毒素誘発肝臓腫瘍においても有用である。脳に見出される液体は、特に、驚くべき程度まで、HAMLETの効果を妨害するようには見えない。
悪性脳腫瘍は、選択的又は効果的な治療が得られないという点で、主要な治療的挑戦目標を表している。頭蓋内腫瘍の大部分は、神経膠細胞に由来しており、神経膠腫として知られる異質群を形成している。それらは、全ての原発性脳腫瘍の60%を超える割合を占めており、最も予後不良である。神経膠芽腫(GBM)は、平均生存期間が1年未満の膠芽腫の最も悪性なものであり、それらは神経外科及び神経病理学系列において全ての頭蓋内腫瘍のおよそ1/4を構成している。近年、脳腫瘍の外科手術は著しい技術的進歩をなしている。顕微外科及びニューロナビゲーション並びに新しい診断用高分解能画像技術が、死亡率を減少させているが、しかし生存期間は改善していない。GBMは、それらの侵襲性及び広範な浸潤性増殖の故に、完全な手術除去は手が届かないで残っている。結果として、これらの患者の目下の治療は、部分的腫瘍切除、放射線療法及び化学療法を包含する姑息的なものである。
しかしながら、本出願人は、HAMLETのような生物活性のある複合体が、特に、GBMの治療における新しい手段を提供することを見出した。HAMLETは、インビトロでアポトーシス様機構によってGBM腫瘍細胞を殺し、効果は選択的で、健全な細胞は傷付かない。更に、HAMLETは、ヒトGBM異種移植片モデルにおいて、インビボでこれらの性質を保持していた。確立されたヒトGMB腫瘍へのHAMLETの局所注入は、腫瘍進行及び圧迫症状の発症を顕著に遅延させた。HAMLETは、TUNELアッセイ及び組織病理によって示されるように、インビボにおいてアポトーシス様機構によって腫瘍細胞を殺傷した。壊死の証拠はなく、組織病理的変化は周囲の無傷の脳において検出されなかったので、効果は選択的であった。生検スフェロイドのインビトロ処置で、良性髄膜腫に比較して、HAMLETによる悪性細胞の効率的な殺傷が確認された。結果は、それ故、HAMLETはGBMを治療するのに使用できることを示唆している。
本発明の第三の態様によって製造される薬剤は、好適には、治療される特定の固形腫瘍に、腫瘍内投与するのに適した形態の医薬組成物である。例えば、組成物は、腫瘍中に注入するのに好適な形態である。これらは、医薬として許容される普通に知られた担体、充填剤及び/又は補助剤を包含する。しかし好適には、注入用組成物は、活性物質の生理食塩水溶液を含む。
活性化合物の1日量は、患者、標準的治療法に従って治療される癌の性質等によって変化し、依存する。通例、2mgから200mg/doseの生物活性のある複合体が、各1回につき腫瘍に注入される。
本明細書において報告された研究は、ヒトGBM異種移植片モデルにおけるHAMLETの治療効果を探求したものである。HAMLETは、脳液と接触するにもかかわらず、インビボでGBMのアポトーシス様死を選択的に誘導する能力を保持していることを示している。HAMLETの腫瘍内投与は、腫瘍細胞アポトーシスの選択的誘導によって、ヒト神経細胞膠芽腫(GBM)を有するラットにおいて生存期間を延長することが見出された。侵襲的に増殖するヒトGBMを、ヒト生検スフェロイドの異種移植によって、ヌードラットに確立し、HAMLETの治療効果をα−ラクトアルブミン;同じタンパク質の天然のフォールディング変異体、と比較した。
HAMLETの、脳内、運搬促進送達(convection enhanced delivery)は、担腫瘍ラットにおいて、頭蓋内腫瘍体積を劇的に減少させ、圧迫症状の発症を遅らせた。HAMLETは、健全なラットの脳に治療濃度のHAMLETを注入した後、腫瘍に隣接した健全な脳組織においてはアポトーシスを誘導せず、かつ有毒な副作用を惹き起こさなかった。この結果により、HAMLETが癌療法、特にGBM進行を制御するための潜在的な新しい道具であると確認できる。
結果は、また、HAMLETとα−ラクトアルブミンを投与された異種移植ラットの間に疾病進行において顕著な相異があったことを示している(p<0.001)。このことは、生物活性における相異がタンパク質フォールディングの変化から、及びオレイン酸のような特異的補助因子との関連から、どのようにして起こることができるかを明らかにしている。
本発明の更なる態様において、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を、腫瘍又はその領域に注入することを含む癌を治療する方法が提供される。
特に、複合体は、適切な注入器具を使用して投与するのに適しており、そして特に、運搬促進送達技術(CED)が、特に効果的であることが見出された。
生物活性のある複合体の好ましい例は、上記において、明らかにされている。
本発明の第四の態様によれば、血管新生を阻害するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体が提供される
そのような薬剤は癌、特に固形癌、及び急速に増殖しつつある固形癌を治療するために使用することができる。そうでない場合でも、これに加えて、腫瘍転位を遅延させるために投与することもできる。
HAMLET又はその生物活性のある改変体がこの結果を達成する機構は判っていない。ある種の効果は腫瘍細胞によって媒介されるであろうことが期待され得る。特に、HAMLETは腫瘍細胞を殺すので、血管新生活性化分子の供給が低下する。しかしながら、認められた効果から、付加的な効果が生じつつあることを示しているように見える。例えば、HAMLETは急速に増殖している血管細胞に対して、直接的な効果を持っている可能性があるようである。
HAMLET又はその生物活性のある改変体は、また、血管新生阻害が望ましい他の疾患を治療するために使用することもできる。
主として天然に存在するタンパク質として、HAMLETは、完全合成薬よりは低毒性であろうと信じられる。更に、複合体の免疫原性は、低いと信じられる。
本発明の第四の態様によって製造される薬剤は、好適には、例えばクリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、又は水性若しくは油性液剤若しくは懸濁剤のような局所使用するのに適した形態をした医薬組成物である。それらは、医薬として許容される、一般に知られた担体、充填剤及び/又は補助剤を包含する。
局所用液剤又はクリーム剤は、好適には、希釈剤又はクリーム基剤と共にタンパク質複合体用の乳化剤を含有する。
活性化合物の1日量は、患者、標準的治療法に従い治療される状態の性質等によって変化し、そして依存する。通例、2から200mg/doseの生物活性のある複合体が、各投与に対して使用される。
本発明の更なる態様において、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を、必要とする患者に投与することを含む、血管新生を阻害する方法が提供される。
生物活性のある複合体の好ましい例は、上記に明らかにされている。好ましくは、生物活性のある複合体は、また、上に記載したように、局所用組成物の形態で投与される。
次に、本発明を、添付する図を参照しながら例示する方法により、詳細に説明する。
図1は、本発明による治療前後にとった、膀胱癌の内腔の写真を示す。
図2.HAMLET−ヒトGBM腫瘍異種移植片のインビトロ及びインビボにおける構造及び機能
(a)HAMLETがCa2+の脱離により、及びC18:1,9シス脂肪酸の付加により天然のα−ラクトアルブミンから形成される。図はα−ラクトアルブミンの結晶構造に基づく。
(b)HAMLETに対するGBM細胞株の感受性。LD50=6/24時間における細胞の50%を殺すに必要な濃度。(c及びd)ヒトGBM腫瘍スフェロイド(矢印のところで注射した)を、HAMLET(n=10)又はα−ラクトアルブミン(n=10)を24時間注入前に1週間定着させた。α−ラクトアルブミン(1〜4)又はHAMLET(5〜8)で処置したラットにおいて個々の腫瘍のMRIスキャンを、注入後2ヵ月実施した。(e)平均腫瘍サイズは、α−ラクトアルブミン処置群におけるよりもHAMLETの点滴注入動物において有意に小さかった(p<0.01)。(f)頭蓋内圧上昇の症状を記録し、そしてα−ラクトアルブミン対照において約2ヵ月後に生じたが、圧迫症状の発症はHAMLETの点滴注入されたラットでは遅延した(p<0.001)。
図3.HAMLETによるアポトーシス誘導
(a)脳組織切片を、HAMLET又はα−ラクトアルブミンのCED後12時間に、担癌ラットから得た。HAMLETは、TUNEL染色によって示されるように、腫瘍領域内にアポトーシス(緑の蛍光、左パネル)及び核濃縮アポトーシス腫瘍細胞核(右パネル、倍率600×)を豊富にした。HAMLET処置動物及びα−ラクトアルブミン処置群において腫瘍の周辺の健全な脳組織にアポトーシスは観察されなかった。細胞核を、細胞DNAのプロピジウムヨージド染色を用いて目に見えるようにした(赤い蛍光)。
(b)GBMスフェロイドを、インビトロでHAMLET又はα−ラクトアルブミンで処置し、アポトーシス誘導を試験した。HAMLET誘導アポトーシス(緑の蛍光)が、ヒトGBMスフェロイド全体に見られたが、良性髄膜腫由来のスフェロイドにはなかった。
(c)α−ラクトアルブミンは、GBM又は髄膜腫スフェロイドのいずれにおいてもアポトーシスを促進しなかった(倍率360×)。多染色体細胞及び核濃縮アポトーシス細胞(bの矢印)が、HAMLET処置スフェロイドにおいて見出されたが、α−ラクトアルブミン群においては見られなかった(倍率450×)。
図4.HAMLET又はα−ラクトアルブミンでの前処置に続くGBMスフェロイドの異種移植
各群6動物を、HAMLET又はα−ラクトアルブミンで3時間前処置した、樹立ヒトGBMスフェロイド(各群4−5)で異種移植した。α−ラクトアルブミン前処置GBM細胞を注入された全てのラットは、大きな腫瘍を発現した(a、1〜4)。HAMLET処置スフェロイドを注入された6動物中4動物は、腫瘍発現の徴候を示さず、少なくとも210日間生存した(b、5〜8)。腫瘍をともかく発現したHAMLET群の2ラットは、有意により小さな腫瘍を示した(c、p<0.01)、そして圧迫症状の発症は遅延した(d、p<0.01)。
図5.放射能標識HAMLETの分布
健全ラットの脳へ注入後の放射能標識HAMLET(2〜10×106PPM)の分布(n=3、倍率90×)を示す。文字は切片の位置、xは注入部位を示す。(a)前頭葉、(b)大脳基底核、(c)視床、及び(g)黒質。
図6.毒性の評価
健全ラットをHAMLET0.7mM、α−ラクトアルブミン0.7mM又はNaCl0.15M(各群n=5)で処置した。潜在的な毒性は注入後3週間で分析した。
(a)MR画像のT2強調シグナルは、注入部位に小嚢胞性病変を示したが、毒性の放射線学的徴候はなかった。
(b)注入脳半球由来の連続脳切片での組織病理は、健全な脳における毒性の証拠は示されなかったが、注入部位に隣接していくつかの組織損傷が見られた(矢印、ヘマトキシリン−エオジン染色、倍率100×及び400×)。
(c)肝機能及び腎機能の生化学マーカーは、有意な毒性効果を現さなかった(両群において、p>0.05)。
(d)体重増加は、群間で差はなかった(p>0.5)。ハッチの棒(hatched bar)は、注入前の体重値、及び塗りつぶした棒(filled bar)は、注入後3週間の値である。
(e)運動のオープンフィールド試験は影響なかった(p>0.05、ネズミ色=HAMLET、薄い灰色=α−ラクトアルブミン、白=NaCl)。
図7〜図9は、局所HAMLET処置、5日間後のヒト膀胱乳頭腫における血管の分解を図解した、次第に拡大した組織切片を示す。
膀胱癌を有する患者におけるHAMLETの膀胱内注入
物質の製造及び患者の無作為化
母乳のドナーは、非喫煙者であり、HAMLETの製造前にHIVについてスクリーニングした。α−ラクトアルブミンは、硫酸アンモニウム沈殿に次いでフェニル・セファロース・クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーによってヒトミルクホエーから精製された。ホスピタル・ミルクバンクからの余剰ミルクを未熟児に投与するための規則に従って使用した。HAMLETは、文献に記載されたようにして、オレイン酸で調節したイオン交換クロマトグラフィーで天然のα−ラクトアルブミンから生成したものである。溶離した分画を蒸留水に対して透析し、凍結乾燥し、−20℃で保存した。
更に、HAMLETを、細菌汚染についてスクリーニングし、−20℃で乾燥物質として保存した。
研究デザイン:
新しく診断された、又は再発した膀胱の尿路上皮癌の手術待機患者を、研究に参加させるために招いた。インフォームドコンセントの後、患者に膀胱鏡検査を行って腫瘍サイズを評価し、そして内腔写真撮影(endoluminal photography)で病変を記録した。処置後、及び手術前に、膀胱鏡検査を繰り返して、腫瘍の大きさを再評価し、そして内腔写真撮影を実施した。
HAMLETの膀胱内点滴注入を、厳重な観察下に外来診療で実施した。点滴注入は、1日1回行い、5日間繰り返した。導尿後、膀胱を完全に空にし、尿を分析のために集めた。HAMLET(25mg/ml、30ml)を膀胱に貯め、カテーテルを除去し、患者に、少なくとも2時間点滴注入を保持するよう求めた。利尿を減らすため、患者には、点滴注入前4時間及び点滴注入直後は液体摂取しないよう求めた。尿試料は、点滴注入前、及び各点滴注入後最初の排尿から、採取された。
HAMLETの点滴注入は、患者の通常の取り扱いを妨害することなく、又遅延することのないように計画した。
患者:7名の男性患者を研究に含めた。標準腫瘍分類に基づいて、患者は、3つの群、A、B及びCに割り当てた。
患者A1及びA2(92才及び86才)は、膀胱の分化の乏しい筋肉侵襲尿路上皮癌(T4g3)であった。高齢であるので、これらの患者には、腫瘍の経尿道的電気切除術(T−TUR)の繰り返しのような、暫定処置、鎮痛剤及び臨床観察を行った。両患者とも、頻回及び刺激性の軽い下部尿路症状を罹患していたが、高齢にもかかわらず、これ以外は健康であった。
患者B1、B2、B3及びB4(それぞれ、37才、75才、70才、82才)は表在性乳頭腫状膀胱腫瘍(TAg1−2)を有していた。患者B1及びB3は、新しく診断された腫瘍であり、患者B2及びB4は、以前から知られていた高度分化、表在性膀胱腫瘍(TAg1)の再発であった。患者B1及びB4は、それらの腫瘍以外は健康であったが、患者B2は、心硬化症と合併した高血圧に罹っていた。患者B3は、高血圧症及び慢性気管支炎に罹患していた。患者C1(72才)は、以前から判っている膀胱の上皮内癌(CIS)の多病巣性徴候を有していた。彼は、加わる前1年間に、カルメット−ゲラン桿菌(BCG)の膀胱内注入を受けていた。膀胱生検では、最初BCG治療に対する反応を示した。加わる前に、CISの再発が、生検試料で診断されていた。この患者は、その他の点では健康であった。
治療結果:
全ての患者は、5日間、HAMLETの膀胱内注入を毎日受けた。点滴注入の副作用は、どの患者も経験しなかった、そしてCRP、発熱又は末梢好中球数のような全身性炎症パラメーターの反応はなかった。
患者A1及びA2は、下部尿路機能不全のために膀胱にHAMLET溶液を保持することが困難であった。治療効果は評価することができなかった。患者B1は、5日間のHAMLETの点滴注入後、腫瘍のほぼ完全な縮小を示した。
患者B2は、腫瘍サイズの縮小は小さかったが、しかし腫瘍の性質の顕著な変化がみられた。治療前、腫瘍は、接触に対して、出血したが、治療後は、表面は「乾燥」した。患者B3は、1枚の写真ではとらえるには余りにも大きすぎる、左膀胱壁の乳頭腫を担癌していた。膀胱内HAMLETの点滴注入後、目で見た腫瘍の大きさの評価で、約50%の大きさの減少を示した。患者B4は、左膀胱頸部に2つの小さな外向発育腫瘍を有していた。腫瘍の大きさの明らかな縮小はなかったが、表面萎縮性の腫瘍の性質において著しい変化があった。
患者C1は、外向発育腫瘍の増殖がないので、評価するのは困難であった。HAMLETの点滴注入の前に、3/3膀胱生検(「地図作成」)では、上皮内癌を示したが、しかし、5日間の治療後、1/3生検のみが陽性であった。
TUNEL陽性、アポトーシス性癌細胞が検出された。
肉眼的には健全な膀胱粘膜からの生検を、患者5名について行った。これらの生検において同定されたHAMLET治療の効果はなかった。
本発明者等は、HAMLET治療は膀胱癌細胞にアポトーシスを誘導し、腫瘍の体積及び肉眼的外観に顕著に影響すると結論づけた。
HAMLETの製造
HAMLETを、C18:1,9シス脂肪酸(Svensson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:4221-4226)で、前調整処理したDEAE−トリスアクリルM(BioSepra, France)のイオン交換クロマトグラフィーによって、アポα−ラクトアルブミンから製造した。HAMLET(1mg/ml)の125I標識は、ラクトペルオキシダーゼ法(Hakansson et al., Proc. Natl. Sci. USA 92:8064-8068)によった。
腫瘍組織及び細胞株
Haukeland University Hospital (Bergen, Norway) で、その医学倫理委員会の許可を得て、右前頭葉及び側矢状髄膜腫のGBMから腫瘍生検を集めた。直径300μmのスフェロイドを培養し、移植に使用した(Bjerkvig et al., J. Neurosurg. 72:463-475)。神経膠腫細胞株は、ATCC・CRL・2365、D−54MG及びU−251MGであった。A549肺癌株はATCC・CCL・185であった。充分に分化したネズミ脳細胞の単個細胞浮遊液を、完全に成長したマウスの脳を解剖し、1%トリプシン(Sigma Chemicals Inc., St. Louis, MO, USA)でDMEM培地(GibcofBRL, Life Technologies Ltd. Paisley, Scotland)中で、30分間、室温にて解離し、0.24%DNase及び1%FCS(Sigma Chemicals Inc., St. Louis, MO, USA)を加え、次いで機械的破壊によって、調製した。生存率は>99%であった。
ヒトGBMのヌードラットへの異種移植
全ての実験は、国立動物研究委員会によって承認されており、科学的目的のために使用される脊椎動物の保護に関するヨーロッパ条約に従って行われた。Haukland Hospitalで飼育された、ヌードラット(Han: rnu/rnu Rowett)を、Equitisinの腹腔内注射によって麻酔し、穿孔術のために定位フレーム(David Kopf, model 900, Tujunga, CA, USA)におき、5生検スフェロイドを含有したPBS約5〜10μlを線条体に注射した。ラットを、無抵抗、不器用及び不全麻痺のような頭蓋内圧の亢進症状を発症するまで毎日モニターした。1.5テスラのSiemens Magnetom Vision装置(Erlangen, Germany)及び脳解析用フィンガーコイルを使用して、腫瘤を磁気共鳴スキャンによって定量した。約100万細胞の移植から圧迫症状までの平均時間は、約2ヵ月であって、その時点で、動物を殺処分した。
無処置の脳へのHAMLETの運搬促進送達
HAMLET又はα−ラクトアルブミン(0.15M・NaCl中0.7mM)を、浸透圧ミニポンプ(ADO1, Alzet Inc., Mountainview, CA, USA)に接続した26ゲージカニューレを通して投与した。腫瘍の領域には、カニューレを外す前24時間にわたって8μl/時間で注入した。125I放射能標識HAMLET(0.15M・NaCl中0.7mM、2〜10×106PPM)を記載したようにして投与した。HAMLETの分布を、全体に注入した脳半球からの連続脳切片のオートラジオグラフィーによって確認した。
組織分析
脳をTissue-Tec(Sakura Finetek Inc., Torrance, CA, USA)に急速に包埋し、液体窒素で凍結した。連続軸方向10μm切片を、Reichert Jung Cryostat(Reichert, Vienna, Austria)でカットした。アポトーシスを起こした細胞をTUNELアッセイ(Roche, Basel, Switzerland)によって検出し、封入剤と共にカバーグラスをした(Vectashield, Vector Labs Inc., Burlingame, CA, USA)。細胞核をプロピジウムヨージド(Propidium iodide)(10μg/ml、30秒間)で対比染色し、Leicaスキャナーで試験した。並列切片を、ヘマトキシリン−エオジンで染色し、Entellan(Merck, Darmstadt, Germany)に封入した。凍結アーチファクトがなく、FITC(TUNEL)とTRITC(プロピジウムヨージド)に対する許容されるシグナル/ノイズ比を有する切片を特定し、各腫瘍又はスフェロイドの中心からの代表的な切片1つを形態計測解析にかけた。FITC及びTRTTC陽性核プロフィールがバックグランド上に明確に視認でき、プリントした絵から計測した。結果は、プロピジウムヨージド陽性核のパーセントのTUNEL陽性として表される。
HAMLETでのインビトロ処置
樹立したスフェロイド(各群4〜5)を無血清培地に移し、HAMLET又はα−ラクトアルブミンと3時間インキュベートし、直ちにヌードラットの脳内に移植した。アポトーシスを分析するために、スフェロイドをDMEMに戻し、更に21時間インキュベートし、連続切片作成後、形態計測でTUNELアッセイによって試験した。細胞株を記載されたようにして培養し(Hakansson et al. 前述)、剥離し、収集し、洗浄し、そしてHAMLET又はα−ラクトアルブミンに24時間曝露した。アポトーシスを、トリパンブルー排除によって評価した細胞生存の喪失(計数細胞100当たりの死亡細胞の%)として測定し、DNA断片化を電気泳動によって検出した(Zhivotovsky et al., FEBS Lett. 351:150-154)。
毒性試験
HAMLET(0.7mM)、α−ラクトアルブミン(0.7mM)又はNaCl(0.15M)をラットに与え、注入後3週間分析した。腫瘤を、1.5テスラのSiemens Magnetom Vision装置(Erlangen, Germany)及び脳解析用フィンガーコイルを使用して、磁気共鳴スキャンによって定量した。組織病理を、ヘマトキシリン−エオジンを用いて上に記載したようにして検討した。肝機能及び腎機能の生化学マーカー及びCRPを定量した。体重を注入前及び注入後3週間記録した。脳機能をオープンフィールドテストで評価した。ラットを、黒い壁(20cm)で囲まれたオープンフィールド箱(100×100cm)中においた。床は、白いストライプによって25の同じ区域(20×20cm)に分けた。動物を中心の区域におき、彼らの動きを6分間、手作業で点数付けした。各運動性のカウントは、両後肢で区域の境界を横断したことで表され、方向を右又は左として記録した。実験は、盲検法で、防音室中で午前10時及び午前2時の間に行った。
統計解析
群はT検定、一元配置分散分析(事後最小有意差)で比較し、生存率はカプラン・マイヤー分析によった。
結果
GBM異種移植モデル
二つの実験モデルがインビボでGBM治療を研究するために開発された。神経膠腫細胞株はインビトロで効率的に増殖し、移植後脳内腫瘍をいつも産生する;しかし、これらの腫瘍は、インビボでは非侵襲性であり、それ故に、ヒト疾患のモデルとしては余り好適ではない。ヒトGBM生検スフェロイドは、対照的に、ヌードラットに異種移植後侵襲性増殖挙動を保持している。インビトロスフェロイド培養ステップは、再現可能な腫瘤を得るため、及び臨床症状の出現を同調させるために必須である。このモデルは、それ故、ヒトGBM疾患に関連する治療モデルを提供し、腫瘍領域への治療分子のCEDと組み合わせることができる。
HAMLETはヒト神経膠腫異種移植片の増殖を阻害する
実験的GBMが、ヒトGBM生検スフェロイドのヌードラット脳への異種移植によって確立された(Engebraaten et al., J. Neurosurg. 90:125-132)。異種移植片はヒトGBMの浸潤性増殖を示し(図2c)、対照ラットは、約2ヵ月後発症した(図2f)。
CEDは、HAMLET(0.7mM)を脳の異種移植した領域に投与するのに使用された。天然の、折り畳まれたα−ラクトアルブミンが対照として使用された。処置前に、腫瘍細胞は、宿主の脳内に一体化するよう1週間おかれた。
HAMLET又はα−ラクトアルブミンを24時間CEDによって投与した。各群の2動物は、麻酔中に死亡し、各群の4動物は、12時間後殺処分した。それらの脳を、組織検査、TUNELアッセイ及び形態計測解析用に、直ちに凍結した。
残りの動物は、2ヵ月間毎日モニターされ、腫瘍体積を、α−ラクトアルブミン処理対象動物が発症したときの7週間後MRIによって評価した。高T2強調シグナルを有する大きなGBM移植体が、全てのα−ラクトアルブミン処置動物において観察することができ、平均腫瘍体積は456(範囲292〜485)mm3を有していた(図2c及びe)。HAMLET注入ラットは、有意に小さい腫瘍体積を示した(図2d及びe、平均63、範囲10〜131mm3、p<0.01)。HAMLET処置は、また、圧迫症状の発症を遅延させた。α−ラクトアルブミンを投与されたラットは、第59日に発症し、第69日に全ての動物が殺処分された。このとき、HAMLET治療群の全動物は、無症候のままであった(図2f、p<0.01)。HAMLET処置ラットは、最終的には、圧迫症状を発症し、典型的なGBM腫瘍で死亡し、組織学的試験で多型細胞型及び偽柵状構造を示した。
ヒトGBM異種移植片における選択的腫瘍細胞アポトーシス
アポトーシス誘導を、DNA鎖切断を標識したTUNELアッセイを用いてインビボで試験した。CED完了の12時間後に得られた組織の形態計測解析は、HAMLET処置GBM細胞の33±7%が、α−ラクトアルブミン群における2±2%に比較して、TUNEL陽性であった(図3a、p<0.001)。アポトーシス効果は、通常の組織病理学によって確認され、HAMLET処置動物において典型的な核濃縮及び核凝縮を示した(図3a)。腫瘍を囲んでいる宿主の脳は、移植脳半球内へのHAMLET又はα−ラクトアルブミンのCED後アポトーシス又は壊死の証拠を示さなかった(図3a)。
HAMLETは、インビトロでGBM生検スフェロイドにおけるアポトーシス様死を誘導する
GBM細胞におけるアポトーシスを誘導するHAMLETの能力を、インビトロで確認した。同じヒトのGBM由来の生検スフェロイドをインビトロでHAMLETに曝露し、アポトーシス細胞をTUNELアッセイによって同定し、同時にプロピジウムヨージド対比染色で総細胞集団を可視化した。HAMLET処置GBMスフェロイドは、スフェロイドの全体積の至るところに豊富なTUNEL染色を示した(図3b)。形態計測によって、核の93±7%(平均±SD)がアポトーシスになっていることが見出された。TUNEL陽性細胞が、0.35mM又はそれより高い濃度でGBMスフェロイドの全体積の至るところに観察され、治療研究のために選択された濃度の妥当性が確認された。組織病理によって、核濃縮及び核凝縮が、HAMLETに曝露されたGBMに観察された(図3bの矢印を参照)。
α−ラクトアルブミンで処置された対照のスフェロイドは、表面から少数のアポトーシス細胞が抜け落ちているのが見られたが、しかしTUNEL陽性細胞はスフェロイドの内部には見られなかった。そしてα−ラクトアルブミンに曝露されたGBMスフェロイドと媒体対照との間に、アポトーシス細胞の頻度に差はなかった。両者は、HAMLET処理スフェロイドと有意に差があった(p<0.001)。HAMLETは、良性髄膜腫の患者由来の生検スフェロイドでアポトーシスを誘発しなかった(図3c)。
GBMスフェロイドのインビトロ前処置で治療効果を確認した
GBM生検スフェロイドを、3時間インビトロでHAMLETに曝露し、記載されているようにして、ヌードラットの脳に異種移植した。α−ラクトアルブミンで処置したスフェロイドを対照とした。腫瘍の大きさは、2ヵ月後MRIスキャンによって推定した。腫瘍は、α−ラクトアルブミン処置スフェロイドを投与された全てのラットに発症した(図4a)。腫瘍の平均的な大きさは、496(範囲286〜696)mm3であり、そしてラットは第56日から症状を発現した(図4c及びd)。この時点では、HAMLET処置スフェロイドは、検出可能な腫瘍を有しており、これらの腫瘍は、平均体積31(範囲28〜34)mm3を有し、α−ラクトアルブミン対照におけるよりも小さかった(図4b及びc)。より小さい腫瘍を有するラットは、84日後圧迫症状を発症した。残りの動物は、移植後210日の殺処分の時点で腫瘍はなく、無症候性であった(図4d、p<0.01)。
HAMLETは注入した脳半球の至るところに到達する
CEDによるHAMLET投与の効率を調べた。125I放射標識HAMLET(2〜10×106PPM)を線条体に挿入した針を用いてCEDによって注入し、脳全体のHAMLETの分布を、連続脳切片に対するオートラジオグラフィーによって検出した(図5)。HAMLETは、CEDの完了後12時間で、前脳から中脳までの全ての注入した半球に到達したことが示された。
HAMLETの治療濃度は健康な脳組織に対して有毒でない
HAMLETの潜在的な脳毒性を、健全なラットの線条体に入れたCED後3週間、MRI及び組織病理によって試験した。先の実験と同様に、α−ラクトアルブミン又は生理食塩水を対照とした。MRIによって、小嚢胞性病変が注入部位に見られたが、注入カニューレによって貫通された大脳皮質を含めて周辺の脳に浮腫又は組織損傷の徴候はなかった(図6aのT2強調スキャンを参照)。HAMLETと対照群の間に放射性の差はなかった。
注入された脳の組織病理学的分析は、反応性小神経膠細胞、マクロファージ及び少数の反応性星状細胞を含む亢進した細胞充実性を伴なって、注入部位に隣接していくつかの組織損傷を示した。周辺部脳実質に有意な毒性の神経病理学的徴候はなく、HAMLET処置群と対照群の間に差はなかった(図6b)。
生化学マーカー及び体重変化を、注入後3週間モニターした。HAMLET、α−ラクトアルブミン及びNaCl処置ラットの間に差は見られなかった(全群において、p>0.05)(図6c及びd)。
運動及び挙動における変化を、注入後3週間オープンフィールド試験によって評価した。ラットを、オープンフィールドチェッカーボードにおき、新しい区画への横断数を記録した。有意な運動障害は検出されなかった(図6e)。
膀胱癌を有する患者における腫瘍への血液供給に対するHAMLETの膀胱内点滴注入の効果
上記実施例1に報告された試験に続いて、治療した腫瘍の生検試料を、この治療の終了時にとった。結果を、図7から9に示す。これらの図から明らかなように、内膜は失われ、血球が腫瘍の中心部全体に存在しており、このことは血管新生が阻害されたことを示している。
本発明による治療前後にとった、膀胱癌の内腔の写真を示す。 HAMLET−ヒトGBM腫瘍異種移植片のインビトロ及びインビボにおける構造及び機能を示す。 HAMLETによるアポトーシス誘導を示す。 HAMLET又はα−ラクトアルブミンでの前処置に続くGBMスフェロイドの異種移植の結果を示す。 健全ラットの脳への注入後の放射能標識HAMLETの分布を示す。 健全ラットをHAMLET、α−ラクトアルブミン、又はNaClで処置した場合の毒性の評価を示す。 局所HAMLET処置5日間後のヒト膀胱乳頭腫の血管新生の阻害を組織切片で示す。 局所HAMLET処置5日間後のヒト膀胱乳頭腫の血管新生の阻害を次第に拡大した組織切片で示す。 局所HAMLET処置5日間後のヒト膀胱乳頭腫の血管新生の阻害を次第に拡大した組織切片で示す。

Claims (39)

  1. 動物、特にヒトの増殖性疾患の治療において使用するための、及び/又は血管新生を阻害するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用。
  2. 粘膜癌の治療において使用するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用。
  3. 粘膜癌が膀胱癌である、請求項2に記載の使用。
  4. 腫瘍に注入するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用。
  5. 腫瘍が内部器官の固形腫瘍である、請求項4に記載の使用。
  6. 内部器官が脳、肝臓、腎臓、前立腺及び卵巣から選択されたものである、請求項5に記載の使用。
  7. 内部器官が脳である、請求項6に記載の使用。
  8. 脳腫瘍がヒト膠芽細胞腫である、請求項7に記載の使用。
  9. 血管新生の阻害において使用するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用。
  10. 腫瘍細胞の転移を遅らせるための、請求項9に記載の使用。
  11. 生物活性のある複合体が、アポフォールディング状態であるα−ラクトアルブミン又はα−ラクトアルブミンの変異体、又はこれらのいずれか一方の断片、及び生物活性のある形態で複合体を安定化する補助因子を含み、但し、α−ラクトアルブミン又はその変異体のいずれかの断片が、α及びβドメインの間に接点を形成するα−ラクトアルブミンの領域に相当する領域を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
  12. 補助因子が、シスC18:1:9又はC18:1:11脂肪酸又は類似の立体配置を有する異なった脂肪酸である、請求項11に記載の方法。
  13. 生物活性のある複合体が、pH4.6で沈殿したミルクのカゼイン分画からの単離によって、陰イオン交換クロマトグラフィーとゲルクロマトグラフィーの組合せによってか、又はα−ラクトアルブミンを、C18:1脂肪酸の特性を示す、ヒトミルクカゼイン由来の補助因子の存在下で、イオン交換クロマトグラフィーにかけることによってのいずれかで得られ得るHAMLETを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
  14. α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体が、
    (i)シスC18:1:9又はC18:1:11脂肪酸又は類似の立体配置を有する異なった脂肪酸;及び
    (ii)カルシウムイオンが除去されたα−ラクトアルブミン、又はカルシウムイオンが除去されたか又は機能性カルシウム結合部位を有していないα−ラクトアルブミンの変異体;又はこれらのいずれか一つの断片(但し、いずれかの断片が、α及びβドメインの間に接点を形成するα−ラクトアルブミンの領域に相当する領域を含む);
    を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
  15. 生物活性のある複合体が、カルシウム結合部位が改変され、その結果カルシウムに対する親和性が減少しているか、又はそれがもはや機能的でない、α−ラクトアルブミンの変異体を包含する、請求項14に記載の使用。
  16. 変異が、ウシα−ラクトアルブミンのK79、D82、D84、D87及びD88に相当するアミノ酸の一つで変異を有する、請求項15に記載の使用。
  17. 改変が、D87A又はD87N変異体を有するα−ラクトアルブミンの変異体を包含するD87においてである、請求項16に記載の使用。
  18. 生物活性のある複合体が、α−ラクトアルブミン又はその変異体の断片を含み、その断片が天然のタンパク質のアミノ酸34〜86の全領域を包含するものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
  19. α−ラクトアルブミンが、ヒト又はウシα−ラクトアルブミン又はそれらのいずれか一方の変異体である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用。
  20. α−ラクトアルブミンがヒトα−ラクトアルブミンである、請求項19に記載の使用。
  21. α−ラクトアルブミンがS70R変異を包含する変異体ウシα−ラクトアルブミンである、請求項19に記載の使用。
  22. HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を患者に投与することを含む、ヒトの増殖性疾患を治療する、及び/又は血管新生を阻害する方法。
  23. 粘膜腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする患者の粘膜腫瘍に、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を投与することを含む、上記方法。
  24. 粘膜腫瘍が膀胱癌である、請求項23に記載の方法。
  25. 生物活性のある複合体が膀胱内点滴注入によって投与される、請求項24に記載の方法。
  26. 生物活性のある複合体が200mgから1gの単回投与単位で投与される、請求項25に記載の方法。
  27. 投与単位が少なくとも5日間繰り返される、請求項26に記載の方法。
  28. 投与単位が連続した日々に行なわれる、請求項27に記載の方法。
  29. HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を腫瘍に注入することを含む、癌を治療する方法。
  30. 複合体が担体として生理食塩水を更に含む組成物の形態で投与される、請求項29に記載の方法。
  31. 複合体が、運搬促進送達(CED)を用いて注入される、請求項29または30に記載の方法。
  32. 腫瘍が、脳、肝臓、腎臓、前立腺及び卵巣の腫瘍である、請求項29〜31のいずれか1項に記載の方法。
  33. 腫瘍が脳腫瘍である、請求項32に記載の方法。
  34. 腫瘍がヒト膠芽細胞腫である、請求項33に記載の方法。
  35. 血管新生を阻害する方法であって、それを必要とする患者に、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を投与することを含む、上記方法。
  36. 悪性皮膚腫瘍、特にメラノーマの治療において使用するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体の使用。
  37. HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片から選択される、α−ラクトアルブミンの生物活性のある複合体を、メラノーマに適用することを含む、悪性メラノーマを治療する方法。
  38. HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片を含む生物活性のある複合体を腫瘍に適用することによる、インビボで、特にヒトにおける癌を治療する方法。
  39. インビボでのヒトの癌治療において使用するための薬剤の製造における、HAMLET若しくはその生物活性のある改変体、又はそれらのいずれかの生物活性のある断片を含む生物活性のある複合体の使用。
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