(発明の詳細な説明)
本発明は、乳房細胞のガン状態と関連する、表1に示される、新規に開発された乳癌マーカーに関する。任意のこれらのマーカーまたはこれらのマーカーの組み合わせの発現が正常なレベルよりも高ければ、患者の乳癌と相関するということが発見されている。さらに、本発明は、乳房細胞のガン状態と関連する、表2に示される新規に発見された乳癌マーカーに関する。任意のこれらのマーカーまたはこれらのマーカーの組み合わせの発現が正常なレベルよりも高ければ、患者の進行性の乳癌と相関するということが発見されている。サンプル中の乳癌の存在、サンプル中の乳癌の非存在、乳癌の病期を検出するため、乳癌が転移しているか否かを評価するため、乳癌患者のありそうな臨床的転帰を推測するため、そして患者における乳癌の予防、診断、特徴付けおよび治療に関する乳癌の他の特徴を用いる方法が提供される。乳癌を処置する方法もまた提供される。
表1は、非乳癌患者サンプル(例えば、非乳癌患者サンプル、非癌性の乳房細胞、他の非乳癌患者サンプル)に比べて、乳癌患者サンプルにおいて過剰に発現される、本発明のマーカーを列挙している。表1は、乳癌の存在についてスクリーニングするのに特に有用なマーカー(「スクリーニングマーカー(screening markers)」)を列挙している。表2は、正常なサンプル(例えば、良好な転帰の乳癌患者サンプル、非乳癌患者サンプル、非癌性乳房細胞)に比べて、転帰の劣る乳癌患者サンプルにおいて過剰発現される、本発明のマーカーを列挙している。表2は、乳癌の病期を評価するのにおいて特に有用なマーカー(「病期分類マーカー(staging markers)」)を列挙している。表1および表2は、ヌクレオチド転写物のcDNA配列の配列表識別子、および各々のマーカーによってコードされるかまたは各々のマーカーに相当するタンパク質のアミノ酸配列、ならびにcDNA配列内のタンパク質コード配列の位置を示している。表1は、本発明のマーカーを同定し(配列番号1〜66)、そして表2は、本発明のマーカーを同定しており(配列番号67〜96)、これは(「マーカー(Marker)」)という名称で指定されており、この名称は、遺伝子は、通常、あてはまる場合(「遺伝子名(Gene Name)」)として、このマーカーによってコードされるかまたはこのマーカーに相当するヌクレオチド転写物のcDNA配列の配列表識別子(「配列番号(ヌクレオチド)(SEQ ID NO(nts))」)、ヌクレオチド転写物によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列の配列表識別子(「配列番号(アミノ酸)(SEQ ID NO(AAs))」)、およびこのcDNA配列内のタンパク質コード配列の位置(「CDS」)として知られる。
表1.乳癌スクリーニングマーカー
定義
本明細書において用いる場合、以下の用語の各々は、この節においてそれと関連している意味を有する。
本明細書において用いられる「1つの(「a」および「an」)」という項目は、この項目の文法上の目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)をいう。例えば、「1つのエレメント(an element)」とは、1つのエレメントまたは2つ以上のエレメントを意味する。
「マーカー(marker)」とは、組織または細胞におけるその遺伝子の発現のレベルの、正常なまたは健常な組織もしくは細胞におけるその発現レベルからの変更が、癌のような疾患状態と関連している遺伝子である。「マーカー核酸(marker nucleic acid)」とは、本発明のマーカーによってコードされるか、またはそのマーカーに相当する核酸(例えば、mRNA、cDNA)である。このようなマーカー核酸としては、
のいずれかの全体もしくは部分的配列、またはこのような配列の相補体を含むDNA(例えば、cDNA)が挙げられる。このマーカー核酸としてはまた、
のいずれかの全体もしくは部分的配列、またはこのような配列の相補体を含むRNAが挙げられ、ここでは全てのチミジン残基がウリジン残基で置換されている。マーカータンパク質は、
のいずれかの全体または部分的配列を含む。「タンパク質(protein)」および「ポリペプチド(polypeptide)」という用語は、交換可能に用いられる。
「マーカーセット(marker set)」とは、2つ以上のマーカーの群である。
「プローブ(probe)」という用語は、特に意図される標的分子、例えば、マーカーによってコードされるかまたはマーカーに相当するヌクレオチド転写物またはタンパク質に選択的に結合し得る任意の分子をいう。プローブは、当業者によって合成されてもよいし、または適切な生物学的調製に由来してもよい。標的分子の検出の目的のために、プローブは、本明細書に記載されるとおり、標識されるように特別に設計されてもよい。プローブとして利用可能な分子の例としては、限定はしないが、RNA、DNA、タンパク質、抗体および有機分子が挙げられる。
本明細書において用いる場合「乳癌(Breast cancer)」としては、癌腫(例えば、上皮内癌、浸潤癌、転移性癌)および前癌状態が挙げられる。
「乳房に関連する、乳房関連性(breast−associated)」体液とは、患者の身体内にある場合、乳房細胞に接触するかまたはそれを通過するか、または乳房細胞から脱落した核酸またはタンパク質が通過し得る細胞へ通過する液である。例示的な乳房関連性の体液としては、血液、リンパ液、嚢胞液および乳首吸引液が挙げられる。
「サンプル(sample)」または「患者サンプル(patient sample)」は、患者から得られた細胞、例えば、腫瘤生検、血液、リンパ液および嚢胞液を含む体液、ならびに乳首吸引液を含む。さらなる実施形態では、患者サンプルはインビボである。
マーカーの「正常な(normal)」発現レベルは乳癌に罹患していないヒト被験体または患者の乳房細胞におけるマーカーの発現のレベルである。
マーカーの「過剰発現(over−expression)」または「有意に高レベルの発現(significantly higher level of expression)」とは、発現を評価するために使用されるアッセイの標準誤差よりも大きい、そして好ましくは、コントロールサンプル(例えば、疾患に関連するマーカーを有さない健常被験体由来のサンプル)中のマーカーの発現レベルの少なくとも2倍、より好ましくは3倍、4倍、5倍または10倍の試験サンプル中での発現レベル、そして好ましくはいくつかのコントロールサンプルにおけるマーカーの平均発現レベルをいう。
マーカーの「有意に低いレベルの発現(significantly lower level of expression)」とは、コントロールサンプル(例えば、疾患に関連するマーカーを有さない健常被験体由来のサンプル)中のマーカーの発現レベルの少なくとも2倍、より好ましくは3倍、4倍、5倍または10倍小さい試験サンプルの発現レベル、そして好ましくはいくつかのコントロールサンプルにおけるマーカーの平均発現レベルをいう。
本明細書において用いる場合、「プロモーター/制御配列(promoter/regulatory sequence)」という用語は、このプロモーター/制御配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要である核酸配列を意味する。ある場合には、この配列は、コアプロモーター配列であってもよく、そして他の場合には、この配列はまた、遺伝子産物の発現に必要である、エンハンサー配列および他の制御エレメントを含んでもよい。このプロモーター/制御配列は、例えば、組織特異的様式において遺伝子産物を発現するものであってもよい。
「構成的(constitutive)」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結された場合、この遺伝子産物が、細胞のほとんどのまたは全ての生理学的条件下において生きたヒト細胞中で生成されるようにするヌクレオチド配列である。
「誘導性(inducible)」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結された場合、このプロモーターに対応するインデューサーが細胞中に存在する場合にのみ実質的に、この遺伝子産物が、生きたヒト細胞中で生成されるようにするヌクレオチド配列である。
「組織特異的(tissue−specific)」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結された場合、この細胞がこのプロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合にのみ実質的に、この遺伝子産物が生きたヒト細胞中で生成されるようにするヌクレオチド配列である。
「転写されたポリヌクレオチド(transcribed polynucleotide)」または「ヌクレオチド転写物(nucleotide transcript)」とは、本発明のマーカーの転写、およびもしあればRNA転写物の正常な転写後プロセシング(例えば、スプライシング)、およびRNA転写物の逆転写によって作製された成熟mRNAの全てもしくは一部に対して相補的であるか、または相同であるポリヌクレオチド(例えば、mRNA、hnRNA、cDNAまたはRNAもしくはcdNAのようなアナログ)である。
「相補的な(complementary)」とは、2つの核酸鎖の領域の間、または同じ核酸鎖の2つの領域の間の配列相補性の広範な概念をいう。第一の核酸領域のアデニン残基は、その第一の領域に対して逆平行である第二の核酸領域の残基と、その残基がチミンまたはウラシルである場合に、特定の水素結合(「塩基対合(base pairing)」)を形成し得るということが公知である。同様に、第一の核酸鎖のシステイン残基は、その第一の鎖に対して逆平行である第二の核酸鎖の残基と、その残基がグアニンである場合に、塩基対合し得るということが公知である。核酸の第一の領域は、同じまたは異なる核酸の第二の領域に対してこの2つの領域が逆平行様式で整列されるとき、この第一の領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基が第二の領域の残基と塩基対合し得る場合に、相補的である。好ましくは、この第一の領域は、第一部分を含み、そして第二の領域は、第二部分を含み、それによって、この第一および第二の部分が逆平行方式で整列される場合、この第一の部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、そして好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%が、この第二の部分におけるヌクレオチド残基と塩基対合され得る。さらに好ましくは、この第一の部分の全てのヌクレオチド残基は、この第二の部分におけるヌクレオチド残基と塩基対合し得る。
本明細書において用いる場合、「ホモログ(homologous)」とは、同じ核酸鎖の2つの領域の間、または2つの異なる核酸鎖の領域の間のヌクレオチド配列類似性をいう。両方の領域におけるヌクレオチド残基の位置が、同じヌクレオチド残基で占有されれば、この領域はその位置でホモログである。第一の領域は、各々の領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基位置が同じ残基によって占有される場合、第二の領域に対して相同である。2つの領域の間の相同性は、同じヌクレオチド残基によって占有される2つの領域のヌクレオチド残基位置の割合として表される。例えば、ヌクレオチド配列5’−ATTGCC−3’を有する領域、およびヌクレオチド5’−TATGGC−3’を有する領域は50%の相同性を共有する。好ましくは、この第一の領域は、第一部分を含み、そして第二の領域は、第二部分を含み、それによって、この各々の部分のヌクレオチド残基位置のうち少なくとも約50%、そして好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%が、同じヌクレオチド残基によって占有される。さらに好ましくは、この部分の各々のうち全てのヌクレオチド残基位置が同じヌクレオチド残基によって占有される。
分子は、基質からの分子解離の実質的な画分なしに、液体(例えば、標準的な生理食塩水 クエン酸、pH7.4)でリンスされ得るように、分子がこの基質と共有結合的にまたは非共有結合的に結合される場合、このような基質に「固定される(fixed)」かまたは「付加される(affixed)」。
本明細書において用いる場合、「天然に存在する(naturally−occurring)」核酸分子とは、天然に見出される有機物に存在するヌクレオチド配列を有するRNAまたはDNA分子をいう。
ガンは、このガンの少なくとも1つの症状が、緩和されるか、終結されるか、遅らせられるか、または防止される場合に、「阻害される(inhibited)」。本明細書において用いる場合、乳癌はまた、このガンの再発または転移が、軽減されるか、遅らせられるか、または防止される場合にも「阻害される(inhibited)」。
キットとは、少なくとも1つの試薬、例えば、本発明のマーカーの発現を特異的に検出するための、プローブを含む任意の製品(例えば、パッケージまたは容器)である。このキットは、本発明の方法を行なうためのユニットとして宣伝、配布または販売され得る。
「本発明のタンパク質(proteins of the invention)」とは、マーカータンパク質およびそのフラグメント;改変体マーカータンパク質およびそれらのフラグメント;マーカーまたは改変体マーカータンパク質の少なくとも15アミノ酸セグメントを含むペプチドおよびポリペプチド;ならびにマーカーもしくは改変マーカータンパク質を含む融合タンパク質、またはマーカーもしくは改変マーカータンパク質の少なくとも15個のアミノ酸のセグメントを包含する。
本明細書において他に特定されない限り、「抗体(単数および複数)」という用語は広義には、抗体の天然に存在する形態(例えば、IgG、IgA、IgM、IgE)、および組み換え抗体、例えば、単鎖抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体、および多価抗体、ならびに前述の全てのフラグメントおよび誘導体であって、少なくとも抗原結合部位を有するフラグメントおよび誘導体を包含する。抗体誘導体は、抗体に結合体化されたタンパク質または化学部分を含んでもよい。
本発明は部分的には、正常な(すなわち、非癌性)乳房細胞における発現に比較して、乳癌細胞において過剰発現される、新規に同定されたマーカーに基づく。乳房細胞におけるこれらのマーカーの1つ以上の発現の増大は本明細書において、組織の癌性状態と相関している。本発明は、乳房細胞(例えば、ヒトから得た細胞、培養されたヒト細胞、保管されるかまたは保存されたヒト細胞、およびインビボ細胞)の癌性状態を評価するため、ならびに乳癌に罹患している患者を処置するための組成物、キットおよび方法を提供する。
本発明の組成物、キットおよび方法は、とりわけ以下の用法を有する:
ヒト患者における乳癌の状態を評価する工程;
ヒト患者における乳癌の病期を評価する工程;
患者における乳癌のグレードを評価する工程;
患者における乳癌の良性または悪性の性質を評価する工程;
患者における乳癌の転移能力を評価する工程;
リンパ節に乳癌が転移しているか否かを決定する工程;
乳癌患者の臨床的転帰を予測する工程;
患者が乳癌に罹患しているか否かを評価する工程;
患者における乳癌に罹患している新生物の組織学的タイプを評価する工程;
乳癌を処置するために有用な抗体、抗体フラグメントまたは抗体誘導体を作製する工程、および/または患者が乳癌に罹患しているか否かを評価する工程;
乳癌細胞の存在を評価する工程;
患者における乳癌を阻害するための1つ以上の試験化合物の有効性を評価する工程;
患者における乳癌を阻害するための治療の有効性を評価する工程;
患者における乳癌の進行をモニタリングする工程;
患者における乳癌を阻害するための組成物または治療を選択する工程;
乳癌に罹患している患者を処置する工程;
患者における乳癌を阻害する工程;
試験化合物の乳癌発癌能力を評価する工程;および
乳癌を発症するリスクを有する患者における乳癌の発現を防止する工程。
従って、本発明は、乳癌に罹患している患者の乳癌細胞を評価する方法を包含する。この方法は、患者サンプルにおける本発明のマーカー(表1に列挙される)の発現のレベルと、コントロール、例えば、非乳癌サンプルまたは非癌正常サンプルにおけるマーカーの発現の正常レベルとを比較する工程を包含する。正常なレベルの発現と比較した、患者サンプル中のマーカーの有意に高レベルの発現は、患者が乳房腫瘍に罹患しているということの指標である。
乳癌に罹患している患者における乳癌細胞の進行性を評価する方法がさらに提供される。この方法は、患者サンプルにおける本発明のマーカー(表2に列挙される)の発現のレベルと、コントロール、例えば、非乳癌サンプルまたは無痛性乳癌サンプルにおけるマーカーの発現の正常レベルとを比較する工程を包含する。正常なレベルの発現と比較した、患者サンプル中のマーカーの有意に高レベルの発現は、患者が進行性の乳房腫瘍に罹患しているということの指標である。
本発明の配列(例えば、
)またはこのような配列の相補体のいずれかのうちの全体、または15個以上のヌクレオチドのセグメントを含む核酸、ならびに
の配列のいずれかのうちの全体または10個以上のアミノ酸を含むポリペプチドを含む、遺伝子送達ビヒクル、宿主細胞および組成物(全て本明細書に記載される)もまた、本発明によって提供される。
本明細書において用いる場合、患者における乳癌は、本発明の1つ以上のマーカーの発現のレベルの増大を伴っている。しかし、上記で考察されるように、発現レベルにおけるこれらの変化のいくつかは、乳癌の発生から生じ、これらの変化のうちの他のものは、乳癌細胞の癌性状態を誘導、維持および促進する。従って、本発明の1つ以上のマーカーの発現のレベルにおける増大によって特徴付けられる乳癌は、マーカーの発現、および/またはこれらのマーカーによってコードされるタンパク質の機能を軽減するか、および/または妨害することによって阻害され得る。
本発明のマーカーの発現は、当該分野で一般に公知である多数の方法において阻害され得る。例えば、RNA干渉オリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドは、マーカー(単数または複数)の転写、翻訳またはその両方を阻害するために乳癌細胞に提供され得る。あるいは、マーカータンパク質に特異的に結合し、そして適切なプロモーター/調節性領域と作動可能に連結される、抗体、抗体誘導体、または抗体フラグメントをコードするポリヌクレオチドが、このタンパク質の機能または活性を阻害する細胞内抗体を生成するために細胞に提供され得る。マーカーの発現および/または機能はまた、マーカータンパク質に特異的に結合するペプチドまたは抗体、抗体誘導体または抗体フラグメントを用いて乳癌細胞を処置することによって阻害され得る。本明細書に記載の方法を用いて、種々の分子、特に細胞膜を横切ることが可能な十分に小さい分子を含む分子をスクリーニングして、マーカーの発現を阻害するか、またはマーカータンパク質の機能を阻害する分子を同定することができる。このように同定された化合物は、患者の乳癌細胞を阻害するために患者に提供され得る。
本発明の任意のマーカーまたはマーカーの組み合わせ、ならびに本発明のマーカーと組み合わせた任意の公知のマーカーが、本発明の組成物、キットおよび方法において用いられ得る。一般に、乳癌細胞におけるマーカーの発現のレベルと、正常な乳房細胞における同じマーカーの発現のレベルとの間の相違ができるだけ大きいマーカーを用いることが好ましい。この相違は、マーカーの発現を評価するための方法の検出限界と同じ程度に小さくでもよいが、その相違は、評価方法の標準誤差よりも少なくとも大きく、そして好ましくは正常な乳房組織における同じマーカーの発現のレベルよりも少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、100倍、500倍、1000倍またはそれ以上の相違であることが好ましい。
特定のマーカータンパク質が、乳房細胞(すなわち、正常および癌性細胞の一方または両方)から細胞を囲む細胞外腔へ分泌されることが理解される。これらのマーカーは好ましくは、このようなマーカータンパク質が、組織生検サンプルよりもヒト患者から容易に収集され得る乳房関連性体液サンプルにおいて検出され得るという事実に起因して、本発明の組成物、キットおよび方法の特定の実施形態において用いられる。さらに、マーカータンパク質の検出のための好ましいインビボ技術は、このタンパク質に対する標識された抗体を被験体中に導入する工程を包含する。例えば、被験体中の存在および位置が標準的な画像化技術によって検出され得る放射性マーカーを用いて抗体は標識されてもよい。
任意の特定のマーカータンパク質が分泌タンパク質であるか否かを決定することは当業者には簡単な問題である。この決定を行なうために、マーカータンパク質は、例えば、哺乳動物細胞、好ましくはヒト乳癌細胞株において発現される、細胞外液が収集され、そして細胞外液中のタンパク質の有無が評価される(例えば、タンパク質に特異的に結合する標識された抗体を用いて)。
以下は、タンパク質の分泌を検出するために用いられ得る方法の1例である:約8×105個の293T細胞を、5%(v/v)CO2、95%空気雰囲気下で約60〜70%コンフルエンスまで、増殖培地(10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地{DMEM})を含むウェル中において37℃でインキュベートする。次いで、1ウェルあたり、タンパク質をコードする発現ベクターを含む2μgのDNAおよび10μlのLipofectAMINE(商標)(GIBCO/BRLカタログ番号18342−012)を含む標準トランスフェクション混合物を用いてこの細胞をトランスフェクトする。このトランスフェクション混合物を約5分間維持し、次いで新鮮増殖培地で置換し、空気雰囲気中で維持する。各々のウェルを、メチオニンもシステイン(DMEM−MC;ICNカタログ番号16−424−54)も含まないDMEMで穏やかに2回リンスする。約1mlのDMEM−MCおよび約50μlのTrans−35S(商標)試薬(ICNカタログ番号51006)を、各々のウェルに添加する。このウェルを上記の5%CO2雰囲気下で維持して、37℃で選択した期間インキュベートする。インキュベーション後、150μlの馴化培地を取り出し、遠心分離して、流動している細胞および砕片を除去する。上清中のタンパク質の存在は、タンパク質が分泌されるということの指標である。分泌されたタンパク質の検出のためのさらなる方法および代替的方法が、当該分野で公知であり、そしてこの方法に加えて、またはこの方法の代わりに用いられてもよい。
乳房細胞を含む患者サンプルは、本発明の方法において用いられ得ることが理解される。これらの実施形態では、マーカーの発現レベルは、乳房細胞サンプル、例えば患者から得られた乳房生検中のマーカーの量(例えば、絶対的な量または濃度)を評価することによって決定され得る。細胞サンプルは、当然ながら、サンプル中でのマーカーの量を評価する前に、種々の周知の収集後調製技術および貯蔵技術(例えば、核酸および/またはタンパク質抽出、固定、貯蔵、凍結、超遠心、濃縮、エバポレーション、遠心分離、など)に供され得る。同様に、乳房生検はまた、収集後の調製および貯蔵技術、例えば固定に供されてもよい。
本発明の組成物、キットおよび方法は、マーカータンパク質を発現する細胞の表面上に提示される、そのマーカータンパク質の少なくとも一部を発現を検出するために用いてもよい。マーカータンパク質、またはその一部が細胞表面に曝露されるかを決定することは当業者には簡単な問題である。例えば、全細胞上でこのようなタンパク質を検出するために、免疫学的方法を用いてもよいし、または少なくとも1つの細胞外ドメイン(すなわち、分泌タンパク質および少なくとも1つの細胞表面ドメインを有するタンパク質の両方を含む)の存在を予測するために周知のコンピューターベースの配列分析方法を用いてもよい。マーカータンパク質を発現する細胞の表面上に提示される少なくとも1部を有するこのマーカータンパク質の発現は、この細胞を溶解する必要なしに検出され得る(例えば、タンパク質の細胞表面ドメインと特異的に結合する標識された抗体を用いて)。
本発明のマーカーの発現は、転写された核酸またはタンパク質の発現を検出するための任意の広範な種々の周知の方法によって評価され得る。このような方法の非限定的な例としては、分泌された、細胞表面、細胞質の、または核タンパク質の検出のための免疫学的方法、タンパク質精製方法、タンパク質機能または活性のアッセイ、核酸ハイブリダイゼーション方法、核酸逆転写方法、および核酸増幅方法が挙げられる。
好ましい実施形態では、マーカーの発現は、その正常な翻訳後改変の全てまたは一部を受けているマーカータンパク質を含む、マーカータンパク質またはそのフラグメントと特異的に結合する、抗体(例えば、放射線標識抗体、発色団標識抗体、発蛍光団標識抗体、または酵素標識抗体)、抗体誘導体(例えば、基質とのまたはタンパク質−リガンド対{例えば、ビオチン−ストレプトアビジン}のタンパク質もしくはリガンドとの結合体化された抗体)、または抗体フラグメント(例えば、単鎖抗体、単離された抗体超可変ドメイン、など)を用いて評価される。
別の好ましい実施形態では、マーカーの発現は、患者サンプルにおける細胞からmRNA/cDNA(すなわち、転写されたポリヌクレオチド)を調製することによって、そしてマーカー核酸の相補体またはそのフラグメントである参照ポリヌクレオチドとこのmRNA/cDNAをハイブリダイズすることによって、評価される。cDNAは必要に応じて、この参照ポリヌクレオチド(好ましくは、これは増幅されない)とのハイブリダイゼーションの前に任意の種々のポリメラーゼ連鎖反応方法を用いて増幅され得る。1つ以上のマーカーの発現は同様に、マーカー(単数または複数)の発現のレベルを評価するために定量的PCRを用いて検出され得る。あるいは、本発明のマーカーの変異または改変体(例えば、一塩基多型、欠失、など)を検出する任意の多くの公知の方法が、患者におけるマーカーの出現を検出するために用いられ得る。
関連の実施形態では、サンプルから得られた転写ポリヌクレオチドの混合物を、マーカー核酸の少なくとも一部(例えば、少なくとも7、10、15、20、25、30、40、50、100、500またはそれ以上のヌクレオチド残基)に対して相補的であるかまたはそれと相同であるポリヌクレオチドを固定している基板と接触させる。相補的であるか相同なポリヌクレオチドが基板上で示差的に検出可能(例えば、異なる発色団もしくは発蛍光団を用いて検出可能であるか、または異なる選択された位置に固定される)であれば、複数のマーカーの発現のレベルは、単独の基板(例えば、選択された位置に固定されたポリヌクレオチドの「遺伝子チップ(gene chip)」マイクロアレイ)を用いて同時に評価可能である。1つの核酸と別の核酸とのハイブリダイゼーションを包含する、マーカー発現を評価する方法が用いられる場合、ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で行なうことが好ましい。
本発明の組成物、キットおよび方法は、本発明の1つ以上のマーカーの発現レベルの相違の検出に基づくので、マーカーの発現のレベルは、正常な乳房細胞および癌性の乳房細胞のうちの少なくとも1つにおける発現を評価するために用いられる方法の最小検出限界よりも有意に大きいことが好ましい。
本発明のマーカーの1つ以上を用いてさらなる患者サンプルの慣用的スクリーニングをすることによって、特定のマーカーが、特定の乳癌を含む種々のタイプのガン、ならびに肺癌、卵巣癌などの他のガンで過剰発現されるということが理解される。例えば、本発明のマーカーのいくつかは、乳癌のほとんど(すなわち、50%以上)または実質的に全て(すなわち、80%以上)で過剰発現されることが確認される。従って、本発明の組成物、キットおよび方法は、患者における乳房腫瘍の良性または悪性の性質を特徴付けるのに有用である。
さらに、本発明の特定のマーカーは、乳癌の種々の病期(すなわち、病期0、I、II、IIおよびIVの乳癌、ならびに小分類IIA、IIB、IIIAおよびIIIB、乳癌の原発性癌腫についてのFIGO Stage Groupingシステムを用いて;(Breast,In:American Joint Committee on Cancer:AJCC Cancer Staging Manual.Lippincott−Raven Publishers,第5版、1997、pp171〜180を参照のこと)、乳癌の種々の組織学的サブタイプ(例えば、悪性乳房腫瘍の分類についてのWHO/FIGOシステム;Scully,Atlas of Tumor Pathology、第3シリーズ、Washigton DCを用いる、漿液、粘液、類内膜および明細胞サブタイプ、ならびに小分類および別の分類の腺癌、乳頭腺癌、乳頭嚢胞腺癌、表在性乳頭状癌、悪性腺線維腫、嚢胞線維腫、腺癌、嚢胞腺癌、腺棘細胞腫、類内膜間質肉腫、中胚葉性(ミュラー型)混合腫瘍、中腎性腫瘍、悪性癌腫、ブレンナー腫瘍、混合上皮腫瘍および未分化癌)、および種々のグレード(すなわち、グレードI{十分分化した}、グレードII{中程度によく分化した}、そしてグレードIII{周囲の正常組織からの分化が乏しい}))に関連していることが確認される。さらに、多数の患者サンプルが本発明のマーカーの発現について評価されており、そのサンプルが得られた個々の患者の転帰が相関されているので、本発明の特定のマーカーの発現の変化が悪性の癌と強力に相関していること、および本発明の他のマーカーの発現の変化が良性腫瘍と強力に相関していることが確認される。従って、本発明の組成物、キットおよび方法は、患者における乳癌の病期(stage)、グレード(grade)、組織学的タイプ、および良性/悪性の性質のうちの1つ以上を特徴付けるために有用である。
本発明の組成物、キットおよび方法が、患者における乳房腫瘍の病期(stage)、グレード(grade)、組織学的タイプ、および良性または悪性の性質のうちの1つ以上を特徴付けるために有用である場合、本発明のマーカーまたはマーカーのパネルは、少なくとも約20%、そして好ましくは少なくとも約40%、60%もしくは80%、そしてさらに好ましくは、相当する病期、グレード、組織学的タイプ、または良性もしくは悪性の性質の乳房腫瘍に罹患している実質的に全ての患者において、陽性の結果が得られるように選択されることが好ましい。好ましくは、本発明のマーカーまたはマーカーのパネルは、一般的集団について約10%を超える陽性的中率(positive predictive value)(PPV)が得られる(より好ましくは80%を超えるアッセイ特異性を加えて)ように選択される。
本発明の複数のマーカーが本発明の組成物、キットおよび方法において用いられる場合、患者サンプル中の各々のマーカーの発現のレベルは、同じタイプの非癌性のサンプル中の複数のマーカーの各々の発現の正常なレベルと、単独の反応混合物中で(すなわち、各々のマーカーについて、異なる蛍光プローブのような試薬を用いて)、または1つ以上のマーカーに相当する個々の反応混合物中のいずれかで比較され得る。1実施形態では、相当する正常なレベルに対する、サンプル中の複数のマーカーの2つ以上の発現のレベルの有意な増大は、この患者が乳癌に罹患しているということの指標である。複数のマーカーを用いる場合、2、3、4、5、8、10、12または15以上の個々のマーカーを用いることが好ましい。少なくとも20、25、30、40、50またはそれ以上の個々のマーカーが用いられるマーカーセットを含むようにさらにマーカーが用いられ得る。
本発明の組成物、キットおよび方法の感度(すなわち、患者サンプル中の非乳房由来の細胞に起因し得る妨害による)を最大化するために、本明細書において用いられる本発明のマーカーは組織分布が限定されている、例えば、通常は非乳房組織では発現されないマーカーであることが好ましい。
乳癌に関連していることが公知のマーカーはごく少数である(例えば、BRCA1およびBRCA2)。これらのマーカーは、当然ながら、本発明のマーカー内に含まれるが、それらは、本発明の1つ以上のマーカーと一緒に、例えばマーカーのパネル内で用いられ得る。特定のタイプの遺伝子、例えば、癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、成長因子様遺伝子、プロテアーゼ様遺伝子、およびタンパク質キナーゼ様遺伝子がしばしば種々のタイプの癌の発症と関係していることは周知である。従って、本発明のマーカーのうち、公知の癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子によってコードされる公知のタンパク質に似ているタンパク質に対応するマーカー、ならびに成長因子、プロテアーゼおよびプロテインキナーゼを模倣するタンパク質に対応するマーカーの使用が好ましい。
本発明の組成物、キットおよび方法は、乳癌を発症するリスクが増大している患者および彼らの医学的顧問に対して特に有用であることが理解される。乳癌を発症するリスクが増大していると認識される患者としては、例えば、乳癌の家族歴を有する患者、変異癌遺伝子(すなわち、少なくとも1つの対立遺伝子)を有することが特定された患者、および高齢の患者(すなわち、約50歳または60歳を超える女性)が挙げられる。
正常な(すなわち、非癌性)乳房組織におけるマーカーの発現のレベルは種々の方法で評価され得る。1実施形態では、この正常なレベルの発現は、非癌性であると思われる乳房細胞の一部におけるマーカーの発現レベルを評価することによって、およびこの正常なレベルの発現と、癌性であると疑われる乳房細胞の一部における発現のレベルとを比較することによって決定される。あるいは、そして詳細には、本明細書に記載される方法の慣用的な能力の結果としてさらなる情報が利用可能であるので、本発明のマーカーの正常な発現の集団平均値が用いられ得る。他の実施形態では、マーカーの「正常な(normal)」発現レベルは、ガンに罹患していない患者から得られた患者サンプル、患者中の乳癌の発現が疑われる前にその患者から得られた患者サンプル、保管された患者サンプル由来などの患者サンプル中のマーカーの発現を評価することによって決定され得る。
本発明はサンプル(例えば、保管された組織サンプルまたは患者から得られたサンプル)中の乳癌細胞の存在を評価するための組成物、キットおよび方法を包含する。この組成物、キットおよび方法は、組成物、キットおよび方法が患者サンプル以外のサンプルとの使用に適合されることが必要な場合を除いて、上記のものと実質的に同じである。例えば、用いられるサンプルがパラフィン処理された、保管されたヒト組織サンプルである場合、本発明のキットにおける本発明の組成物中での化合物の比を、本発明のキット、またはサンプル中のマーカー発現のレベルを評価するために用いられる方法において調節することが必要であり得る。このような方法は、当該分野で周知であり、当業者の技術の範囲内である。
本発明は、乳癌細胞の存在を(例えば、患者サンプルのようなサンプル中で)評価するためのキットを包含する。このキットは、複数の試薬を含み、その各々が、マーカーの核酸またはタンパク質と特異的に結合し得る。マーカータンパク質との結合のために適切な試薬としては、抗体、抗体誘導体、抗体フラグメントなどが挙げられる。マーカー核酸(例えば、ゲノムDNA、mRNA、スプライシングmRNA、cDNAなど)との結合のために適切な試薬としては、相補的な核酸が挙げられる。例えば、核酸試薬としては、基質に固定されたオリゴヌクレオチド(標識または非標識)、基質と結合されていない標識オリゴヌクレオチド、PCRプライマーの対、分子ビーコンプローブ(molecular beacon probes)などが挙げられる。
本発明のキットは必要に応じて、本発明の方法を行なうために有用なさらなる組成物を含む。例えば、このキットは、相補的な核酸をアニーリングするため、または抗体とそれが特異的に結合するタンパク質とを結合するために適切な液体(例えば、SSC緩衝液)、1つ以上のサンプル区画、本発明の方法の実施を記載する説明書、正常な乳房細胞のサンプル、乳癌細胞のサンプルなどを備えてもよい。
本発明はまた、患者が乳癌に罹患しているか否かを評価するために有用な抗体を生成する単離されたハイブリドーマを作製する方法を包含する。この方法では、マーカータンパク質の全体またはセグメントを含むタンパク質またはペプチドが合成されて単離される(例えば、そのタンパク質が発現される細胞からの精製によって、または公知の方法を用いる、インビボまたはインビトロでのタンパク質またはペプチドをコードする核酸の転写および翻訳によって)。脊椎動物、好ましくは、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギまたはヒツジは、タンパク質またはペプチドを用いて免疫される。脊椎動物は必要に応じて(そして好ましくは)、タンパク質またはペプチドを用いて少なくともさらに1回免疫され得、その結果この脊椎動物はタンパク質またはペプチドに対する強固な免疫応答を示すようになる。当該分野で周知の任意の種々の方法を用いて、この免疫された脊椎動物から脾細胞を単離して、不死化細胞株と融合してハイブリドーマを形成する。次いで、この方式で形成されたハイブリドーマを標準的な方法を用いてスクリーニングして、マーカータンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する抗体を生成する1つ以上のハイブリドーマを同定する。本発明はまた、この方法によって作製されたハイブリドーマ、およびこのようなハイブリドーマを用いて作製された抗体を包含する。
本発明はまた、乳癌細胞を阻害するための試験化合物の有効性を評価する方法を包含する。上記のように、本発明のマーカーの発現のレベルにおける相違は、乳房細胞の癌性状態と相関する。本発明の特定のマーカーの発現のレベルにおける変化は、乳房細胞の癌性状態から生じる可能性が高いということが認識されるが、本発明の他のマーカーの発現のレベルの変化は、それらの細胞の癌性の状態を誘導、維持および促進することが同様に理解される。従って、患者の乳癌を阻害する化合物は、本発明のマーカーの1つ以上の発現のレベルを、そのマーカーの正常な発現レベルに近いレベル(すなわち、非癌性乳房細胞におけるマーカーの発現のレベル)まで変化させる。
従って、この方法は、第一の乳房細胞サンプルにおけるそして試験化合物の存在下で維持されたマーカーの発現と、第二の乳房細胞サンプルにおけるそして試験化合物の存在下で維持されたマーカーの発現とを比較する工程を包含する。試験化合物の存在下での本発明のマーカーの発現の有意な低下は、この試験化合物が乳癌を阻害するということの指標である。乳房細胞サンプルは、例えば、患者から得られた正常な乳房細胞の単独細胞のアリコート、患者から得られた正常な乳房細胞のプールされたサンプル、正常な乳房細胞株の細胞、患者から得られた乳癌細胞の単独のサンプルのアリコート、患者から得られた乳癌細胞のプールされたサンプル、乳癌細胞株の細胞などであってもよい。1実施形態では、サンプルは、患者から得られた乳癌細胞であり、そして種々の乳癌を阻害するために有効であることが公知の複数の化合物のうちの1つ以上が試験されて、患者の乳癌を最もよく阻害する可能性が高い化合物が同定される。
本方法は、患者の乳癌を阻害するための治療の有効性を評価するために同様に用いられ得る。この方法では、対のサンプル(1つを治療に供し、もう一方は治療に供さない)において本発明の1つ以上のマーカーの発現のレベルを評価する。試験化合物の有効性を評価する方法と同様に、本発明のマーカーの有意に低レベルの発現が治療によって誘導されるならば、この治療は、乳癌を阻害するために有効である。このように、選択された患者由来のサンプルをこの方法に用いるならば、患者の乳癌を阻害するために最も有効であると思われる治療を選択するためにインビトロで別の治療が評価され得る。
上記のように、ヒト乳房細胞の癌性状態は、本発明のマーカーの発現のレベルの変化と相関している。本発明は、試験化合物のヒト乳房細胞発癌性能力を評価するための方法を包含する。この方法は、試験化合物の有無においてヒト乳房細胞の別々のアリコートを維持する工程を包含する。アリコートの各々において本発明のマーカーの発現を比較する。試験化合物の存在下で維持したアリコートにおける本発明のマーカーの有意に高レベルの発現(試験化合物の非存在下で維持したアリコートに対して)は、この試験化合物がヒト乳癌細胞発癌性能力を有するということの指標である。種々の試験化合物の相対的な発癌性能力は、関連のマーカーの発現のレベルの増強もしくは阻害の程度を比較することによって、発現のレベルが増強されるかもしくは阻害されるマーカーの数を比較することによって、またはその両方を比較することによって、評価され得る。
本発明の種々の局面は、以下の小節においてさらに詳細に記載される。
単離された核酸分子
本発明の1局面は、マーカータンパク質またはその一部をコードする核酸分子を含む、単離された核酸分子に関している。本発明の単離された核酸はまた、マーカー核酸分子を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとしての使用に十分な核酸分子、およびマーカー核酸分子のフラグメント、例えば、マーカー核酸分子の増幅または変異のためのPCRプライマーとしての使用のために適切な核酸を含む。本明細書において用いる場合、「核酸分子(nucleic acid molecule)」という用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えば、mRNA)およびヌクレオチドアナログを用いて生成される、DNAまたはRNAのアナログを含むことを意図する。核酸分子は、単鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
「単離された(isolated)」核酸分子とは、核酸分子の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離されている核酸分子である。好ましくは「単離された(isolated)」核酸分子とは、その核酸が由来する生物体のゲノムDNAにおいてその核酸に天然に隣接する配列(すなわち、核酸の5’および3’末端に位置する配列)(好ましくはタンパク質コード配列)を有さない。例えば、種々の実施形態では、単離された核酸分子は、その核酸が由来する細胞のゲノムDNAにおいてその核酸分子に天然に隣接するヌクレオチド配列の約5kB、4kB、3kB、2kB、1kB、0.5kBまたは0.1kB未満を含んでもよい。さらに、「単離された(isolated)」核酸分子、例えば、cDNA分子は、組み換え技術によって生成される場合、他の細胞物質も培養培地も実質的に含まないか、または化学的に合成される場合、化学的前駆体も他の化合物も実質的に含まないことができる。
本発明の核酸分子は、本明細書に記載される標準的な分子生物学的技術およびデータベース記録の配列情報を用いて単離され得る。このような核酸配列の全てまたは一部を用いて、本発明の核酸分子は、標準的なハイブリダイゼーションおよびクローニングの技術を用いて単離され得る(例えば、Sambrookら編、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989に記載されるように)。
本発明の核酸分子は、標準的なPCR増幅技術に従って、テンプレートおよび適切なオリゴヌクレオチドプライマーとしてcDNA、mRNAまたはゲノムDNAを用いて増幅され得る。そのように増幅された核酸は、適切なベクター中にクローニングされ、そしてDNA配列分析によって特徴付けられてもよい。さらに、本発明の核酸分子の一部または全てに対応するヌクレオチドは、例えば、自動DNAシンセサイザーを用いて、標準的な合成技術によって調製され得る。
別の好ましい実施形態では、本発明の単離された核酸分子は、マーカー核酸のヌクレオチド配列に対して、またはマーカータンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を有する核酸分子を含む。所定のヌクレオチド配列に相補的な核酸分子とは、この所定のヌクレオチド配列にハイブリダイズし、これによって安定な二重鎖を形成し得る、この所定のヌクレオチド配列に対して実質的に相補的な核酸分子である。
さらに、本発明の核酸分子は、その全長核酸配列がマーカー核酸を含むか、またはマーカータンパク質をコードする核酸配列のごく一部を含んでもよい。このような核酸は、例えば、プローブまたはプライマーとして用いられ得る。プローブ/プライマーは代表的には、1つ以上の実質的に精製されたオリゴヌクレオチドとして用いられる。このオリゴヌクレオチドは代表的には、本発明の核酸の少なくとも約7、好ましくは約15、さらに好ましくは約25、50、75、100、125、150、175、200、250、300、350もしくは400またはそれ以上連続するヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。
本発明の核酸分子の配列の基づくプローブは、本発明の1つ以上のマーカーに対応する転写物またはゲノム配列を検出するために用いられ得る。このプローブは、それに結合された標識基、例えば、放射性同位体、蛍光化合物、酵素、または酵素補因子を含む。このようなプローブは、被験体由来の細胞のサンプル中でこのタンパク質をコードする核酸分子のレベルを測定すること、例えば、mRNAレベルを決定すること、またはタンパク質をコードする遺伝子が変異されているかまたは欠失されているかを決定することなどによって、タンパク質を誤って発現する細胞または組織を同定するための診断試験キットの一部として用いられ得る。
本発明は、遺伝子コードの縮重に起因して、マーカータンパク質(例えば、
の配列を有するタンパク質)をコードする核酸のヌクレオチド配列とは異なり、これによって同じタンパク質をコードする核酸分子をさらに包含する。
アミノ酸配列における変化を誘導するDNA配列多形性が集団(例えば、ヒト集団)内に存在し得るということが当業者によって理解される。このような遺伝子多形性は、天然の対立遺伝子のバリエーションに起因して集団内の個体間に存在し得る。対立遺伝子とは、所定の遺伝子座で代替的に存在する遺伝子の群の1つである。さらに、RNA発現レベルに影響するDNA多形性がまた存在し得、これがその遺伝子の全体的発現レベルに影響し得る(例えば、調節または分解に影響することによって)ということが理解される。
本明細書において用いる場合、「対立遺伝子改変体(alleic variant)」という句は、所定の遺伝子座に存在するヌクレオチド配列またはこのヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドをいう。
本明細書において用いる場合、「遺伝子(gene)」および「組み換え遺伝子(recombinant gene)」という用語は、本発明のマーカーに相当するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子をいう。このような天然の対立遺伝子のバリエーションは代表的には、所定の遺伝子のヌクレオチド配列において1〜5%の相違を生じ得る。別の対立遺伝子は、多数の異なる個体において目的の遺伝子を配列決定することによって同定され得る。これは、種々の個体において同じ遺伝子座を同定するためのハイブリダイゼーションプローブを用いることによって容易に行なうことができる。天然の対立遺伝子改変体の結果であり、機能的活性を変更しない、ありとあらゆるこのようなヌクレオチドのバリエーションおよび得られたアミノ酸の多形性または改変体は、本発明の範囲内であると考えられる。
別の実施形態では、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも7、15、20、25、30、40、60、80、100、150、200、250、300、350、400、450、550、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3500、4000、4500またはそれ以上のヌクレオチド長であり、そしてマーカー核酸にまたはマーカータンパク質をコードする核酸に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。本明細書において用いる場合、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする(hybridizes under stringent conditions)」という用語は、お互いに対して少なくとも60%(65%、70%、好ましくは75%)同一であるヌクレオチド配列が代表的には、お互いに対してハイブリダイズしたままである、ハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を記載するものである。このようなストリンジェントな条件は、当業者に公知であり、そしてCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y,(1989)の6.3.1−6.3.6の節に見出すことができる。好ましい、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で約45℃でのハイブリダイゼーション、その後の0.2×SSC、0.1%SDS中での50〜65℃における1回以上の洗浄である。
集団に存在し得る本発明の核酸分子の天然に存在する対立遺伝子改変体に加えて、当業者はさらに、配列変化が変異によって導入され得、これによってコードされたタンパク質の生物学的活性が変化することなく、このコードされたタンパク質のアミノ酸配列における変化がもたらされることを理解する。例えば、「非必須(non−essential)」アミノ酸残基でのアミノ酸置換をもたらすヌクレオチド置換を作製することができる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物学的活性の変化なしに野生型配列から変化し得る残基であるが、「必須(essential)」アミノ酸残基は、生物学的活性に必要である。例えば、種々の種のホモログの間で保存されていないかまたは半分だけ保存されているアミノ酸残基は、活性について必須ではないかもしれず、従っておそらく変更のための標的である。あるいは、種々の種(例えば、マウスおよびヒト)のホモログの間で保存されるアミノ酸残基は、活性に必須であるかもしれず、従っておそらく変更の標的ではないと思われる。
従って、本発明の別の局面は、活性に必須ではないアミノ酸残基の変化を含む改変体マーカータンパク質をコードする核酸分子に関する。このような改変体マーカータンパク質は、天然に存在するマーカータンパク質とはアミノ酸配列が異なるが、依然として生物学的活性を保持する。1実施形態では、このような改変体マーカータンパク質は、マーカータンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも約40%同一、50%、60%、70%、80%、90%、95%または98%同一であるアミノ酸配列を有する。
改変体マーカータンパク質をコードする単離された核酸分子は、1つ以上のアミノ酸残基の置換、添加または欠失がコードされたタンパク質中に導入されるように、1つ以上のヌクレオチド置換、付加または欠失をマーカー核酸のヌクレオチド配列に導入することによって作製され得る。変異は、部位指向性変異誘発およびPCR媒介性変異誘発のような標準的な技術によって、導入され得る。好ましくは、保存的アミノ酸置換は、1つ以上の予想される非必須アミノ酸残基で行なわれる。「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」とは、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されている置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当該分野で規定されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。あるいは、変異は、コード配列の全てまたは一部にそって、例えば、飽和変異誘発によって、無作為に導入され得、そして得られた変異体は、活性を保持する変異体を同定する生物学的活性についてスクリーニングされ得る。変異誘発後、コードされたタンパク質は、組み換え的に発現され得、そしてタンパク質の活性が決定され得る。
本発明は、アンチセンス核酸分子、すなわち、本発明のセンス核酸に相補的であり、例えば、二本鎖マーカーcDNA分子のコード鎖に相補的であるかまたはマーカーmRNA配列に対して相補的である分子を包含する。従って、本発明のアンチセンス核酸は、本発明のセンス核酸に対して水素結合(すなわち、アニーリング)し得る。アンチセンス核酸は、全体的コード鎖に対して、またはその一部のみに対して、例えば、タンパク質コード領域(またはオープンリーディングフレーム)の全てまたは一部に対して相補的であり得る。アンチセンス核酸分子はまた、マーカータンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の非コード領域の全てまたは一部に対してアンチセンスであり得る。非コード領域(「5’および3’非翻訳領域(5’and3’ untranslated regions)」)は、コード領域に隣接してアミノ酸に翻訳されない5’および3’配列である。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45もしくは50、またはそれ以上のヌクレオチド長であってもよい。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順を用い、化学合成および酵素連結反応を用いて、構築され得る。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増大するように、もしくはアンチセンスとセンス核酸との間で形成された二重鎖の物理的安定性を増大するように設計された種々に改変されたヌクレオチドを用いて化学的に合成されてもよく、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが用いられてもよい。アンチセンス核酸を生成するために用いられ得る改変ヌクレオチドの例としては、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウチジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル(pseudouracil)、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンが挙げられる。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向にサブクローニングされている発現ベクターを用いて生物学的に生成され得る(すなわち、挿入された核酸から転写されたRNAは、以下の節にさらに記載される、目的の標的核酸に対してアンチセンス方向である)。
本発明のアンチセンス核酸分子は、代表的には、被験体に投与されるか、またはインサイチュで生成され、その結果それらは細胞のmRNAおよび/またはマーカータンパク質をコードするゲノムDNAとハイブリダイズするかまたはそれに対して結合して、それにより、例えば、転写および/または翻訳を阻害することによってマーカーの発現を阻害する。ハイブリダイゼーションは、安定な二重鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性によるものであってもよく、または例えば、DNA二重鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの主要な溝における特異的な相互作用によるものであってもよい。本発明のアンチセンス核酸分子の投与の経路の例としては、組織部位への直接注射、またはアンチセンス核酸分子の乳房関連体液への注入が挙げられる。あるいは、アンチエンス核酸分子は、選択された細胞を標的するように改変され、次いで全身に投与されてもよい。例えば、全身投与のためには、アンチセンス分子は、例えば、細胞表面レセプターまたは抗原に結合するペプチドまたは抗体に対してこのアンチセンス核酸分子を結合することによって、それらのアンチセンス分子が、選択された細胞表面で発現されるレセプターまたは抗原と特異的に結合するように改変されてもよい。アンチセンス核酸分子はまた、本明細書に記載のベクターを用いて細胞に送達され得る。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するためには、アンチセンス核酸分子が強力なpol IIまたはpol IIIプロモーターの制御下におかれるベクター構築物が好ましい。
本発明のアンチセンス核酸分子は、αアノマー核酸分子であってもよい。αアノマー核酸分子は、相補的RNAとの特異的な二本鎖ハイブリッドを形成するが、ここでは通常のαユニットとは対照的に、この鎖はお互いに並行になっている(Gaultierら,1987,Nucleic Acids Res.15:6625〜6641)。アンチセンス核酸分子はまた、2’−o−メチルリボヌクレオチド(Inoueら,1987,Nucleic Acids Res.15:6131〜6148)またはキメラRNA−DNAアナログ(Inoueら.,1987,FEBS Lett.215:327〜330)を含んでもよい。
本発明はまた、リボザイムを含む。リボザイムは、それらが相補的領域を有するmRNAのような単鎖核酸を切断できる、リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNA分子である。従って、リボザイム(例えば、HaselhoffおよびGerlach,1988,Nature 334:585〜591に記載されるようなハンマーヘッドのリボザイム)は、触媒性にmRNA転写物を切断して、それによってこのmRNAにコードされるタンパク質の翻訳を阻害するために用いられ得る。マーカータンパク質をコードする核酸分子に特異性を有するリボザイムは、このマーカーに相当するcDNAのヌクレオチド配列に基づいて設計され得る。例えば、活性部位のヌクレオチド配列が、切断されるヌクレオチド配列に対して相補的であるTetrahymena L−19 IVS RNAの誘導体が構築され得る(Cech et al.,米国特許第4,987,071号;およびCechら米国特許第5,116,742号を参照のこと)。あるいは、本発明のポリペプチドをコードするmRNAは、RNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを選択するために用いられ得る(例えば、BartelおよびSzostak,1993,Science 261:1411〜1418を参照のこと)。
本発明はまた、三重らせん構造を形成する核酸分子を包含する。例えば、本発明のマーカーの発現は、標的細胞において遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成するマーカー核酸またはタンパク質をコードする遺伝子の制御領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に対して相補的なヌクレオチド配列を標的することによって阻害され得る。一般的には、Helene(1991)Anticancer Drug Des.6(6)569〜84;Helene(1992)Ann.N.Y.Acad.Sci.660:27〜36;およびMaher(1992)Bioassays 14(12):807〜15を参照のこと。
種々の実施形態では、本発明の核酸分子は、例えば、この分子の安定性、ハイブリダイゼーションまたは溶解度を改善するように、塩基部、糖部分またはリン酸骨格で改変されてもよい。例えば、核酸のデオキシリボースリン酸骨格は、ペプチド核酸を生成するために改変されてもよい(Hyrupら,1996,Bioorganic & Medicinal Chemistry 4(1):5〜23を参照のこと)。本明細書において用いる場合、「ペプチド核酸(peptide nucleic acids)」または「PNAs」という用語とは、核酸模倣物、例えば、DNA模倣物であって、デオキシリボースリン酸骨格がシュードペプチド(pseudopeptide)骨格によって置換されており、4つの天然の核酸塩基のみが保持されている模倣物をいう。PNAの天然の骨格は、低イオン強度の条件下でDNAおよびRNAに対する特異的なハイブリダイゼーションを可能にすることが示されている。PNAオリゴマーの合成は、Hyrupら(1996)前出;Perry−O’Keefeら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:14670〜675に記載されるような標準的な固相ペプチド合成プロトコールを用いて行なわれ得る。
PNAは、治療および診断の適用において用いられ得る。例えば、PNAは、例えば、転写もしくは翻訳の停止を誘導すること、または複製を阻害することによって、遺伝子発現の配列特異的改変のためのアンチセンスまたはアンチジーン(antigene)因子として用いられ得る。PNAはまた、例えば、PNA指向性PCRクランプによる遺伝子の一塩基対変異の分析において用いられ得る;他の酵素、例えばS1ヌクレアーゼと組み合わせて用いる場合人工的制限酵素として(Hyrup(1996)、前出;またはDNA配列およびハイブリダイゼーションのためのプローブもしくはプライマーとして(Hyrup,1996,前出;Perry−O’Keefe et al.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:14670〜675)用いられ得る。
別の実施形態では、PNAは、例えば、それらの安定性または細胞取り込みを増強するために、PNAに対して脂肪親和性または他のヘルパー基を結合することによって、PNA−DNAキメラの形成によって、またはリポソームもしくは当該分野で公知の薬物送達の他の技術の使用によって、改変され得る。例えば、PNAおよびDNAの有利な特性をあわせ得る、PNA−DNAキメラが生成され得る。このようなキメラによってDNA認識酵素、例えばRNase HおよびDNAポリメラーゼがDNA部分と相互作用することが可能になるが、一方PNA部分は、高い結合親和性および特異性を提供する。PNA−DNAキメラは、塩基スタッキング、核酸塩基の間の結合数および方向に関して選択された適切な長さのリンカーを用いて連結され得る(Hyrup,1996、前出)。PNA−DNAキメラの合成は、Hyrup(1996)前出、およびFinnら(1996)Nucleic Acids Res.24(17)3357〜63に記載されるように行なわれ得る。例えば、DNA鎖は、標準的なホスホラミダイトカップリング化学および改変されたヌクレオシドアナログを用いて固体支持体上で合成され得る。5’−(4−メトキシトリチル)アミノ−5’−デオキシ−チミジンホスホラミダイトのような化合物が、PNAとDNAの5’末端との間の連結として用いられ得る(Magら1989,Nucleic Acids Res.17:5973〜88)。次いで、PNAモノマーを段階的な方式でカップリングさせて、5’PNAセグメントおよび3’DNAセグメントを有するキメラ分子を生成する(Finnら,1996,Nucleic Acids Res.24(17):3357〜63)。あるいは、キメラ分子は、5’DNAセグメントおよび3’PNAセグメントを用いて合成され得る(Peterserら,1975,Bioorganic Med.Chem.Lett.5:1119〜11124)。
他の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、他の付加基、例えば、ペプチド(例えば、インビボで宿主細胞レセプターを標的するため)、または細胞膜を横切る輸送を促進する因子(例えば、Letsinger et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6553〜6556;Lemaitre et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:648〜652;PCT公開番号WO88/09810を参照のこと)または血液脳関門(例えば、PCT公開番号WO89/10134を参照のこと)を含んでもよい。さらに、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション誘発切断因子(hibridization−triggered cleavage agents)(例えば、Krolら,1988,Bio/Techniques 6:958〜976を参照のこと)またはインターキレート剤(例えば、Zon,1988,Pharm.Res.5:539〜549を参照のこと)を用いて改変され得る。このために、オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、ハイブリダイゼーション誘発切断因子などに対して結合体化され得る。
本発明はまた、分子ビーコン核酸を含むが、この核酸は、分子ビーコンがサンプル中の本発明の核酸の存在を定量するために有用であるように、本発明の核酸に対して相補的である少なくとも1つの領域を有する。「分子ビーコン(molecular beacon)」核酸は、相補的領域の対を含み、かつそれに会合する発蛍光団および蛍光性クエンチャーを有する核酸である。発蛍光団およびクエンチャーは、相補的領域がお互いにアニーリングする場合に発蛍光団の蛍光がクエンチャーによってクエンチされるような方向で、核酸の異なる部分と会合される。核酸の相補的な領域がお互いとアニーリングしない場合、発蛍光団の蛍光は、低い程度までクエンチされる。分子ビーコン核酸は、例えば、米国特許第5,876,930号に記載される。
単離されたタンパク質および抗体
本発明の1局面は、単離されたマーカータンパク質およびその生物学的に活性な部分、ならびにマーカータンパク質またはそのフラグメントに対する抗体を惹起する免疫原としての使用に適切なポリペプチドフラグメントに関する。1実施形態では、ネイティブなマーカータンパク質は、標準的なタンパク質精製技術を用いて適切な精製スキームによって細胞または組織供給源から単離され得る。別の実施形態では、マーカータンパク質の全体またはセグメントを含むタンパク質またはペプチドが、組み換えDNA技術によって生成される。組み換え発現に代わって、このようなタンパク質またはペプチドは、標準的なペプチド合成技術を用いて化学的に合成されてもよい。
「単離された(isolated)」または「精製された(purified)」タンパク質またはその生物学的に活性な部分は、そのタンパク質が由来する細胞もしくは組織供給源由来の細胞性物質もしくは他の混入するタンパク質を実質的に含まず、または化学的に合成された場合、化学的な前駆体もしくは他の化合物を実質的に含まない。「実質的に細胞物質を含まない(substantially free of cellular material)」という用語は、タンパク質が、そのタンパク質が単離されるかもしくは組み換え生成される細胞の細胞成分から分離されている、タンパク質の調製物を包含する。従って、細胞性物質を実質的に含まないタンパク質としては、異種タンパク質(本明細書においては「混入するタンパク質(contaminating protein)」としても言及される)の約30%、20%、10%または5%未満(乾燥重量として)を有するタンパク質の調製物が挙げられる。タンパク質またはその生物学的に活性な部分が組み換え生成される場合、これはまた、培養培地を実質的に含まない、すなわち、培養培地がタンパク質調製の容積の約20%、10%または5%未満であることが好ましい。タンパク質が化学合成によって生成される場合、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない、すなわち、タンパク質の合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されていることが好ましい。従って、このタンパク質のこのような調製物は、目的のポリペプチド以外の化学的前駆体または化合物の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量として)未満を有する。
マーカータンパク質の生物学的に活性な部分は、全長タンパク質よりも含むアミノ酸が少なく、かつ対応する全長タンパク質の活性の少なくとも1つを示す、マーカータンパク質のアミノ酸配列と実質的に同一であるかまたはそのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。代表的には、生物学的に活性な部分は、対応する全長タンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。本発明のマーカータンパク質の生物学的に活性な部分は、例えば、10、25、50、100またはそれ以上のアミノ酸長であるポリペプチドであってもよい。さらに、他の生物学的に活性な部分であって、マーカータンパク質の他の領域を欠く部分は、組み換え技術によって調製されて、そのマーカータンパク質のネイティブ型の機能的活性の1つ以上について評価され得る。
好ましいマーカータンパク質は:
のいずれか1つの配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列によってコードされる。他の有用なタンパク質は、これらの配列のうちの1つに対して実質的に同一(例えば、少なくとも約40%、好ましくは50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%)であり、そして対応する天然に存在するマーカータンパク質の機能的活性を保持するが、天然の対立遺伝子改変体または変異誘発に起因してアミノ酸配列が異なる。
2つのアミノ酸配列のまたは2つの核酸の同一性パーセントを決定するためには、配列は最適比較目的(optimal comparison purposes)について整列される(例えば、第二のアミノ酸または核酸配列との最適アラインメントのために、第一のアミノ酸または核酸配列の配列中にギャップが導入されてもよい)。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。第一の配列における位置が第二の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有されるならば、この分子はその位置で同一である。2つの配列の間の同一性パーセントは、この配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一位置の数/位置の総数(例えば、重複する位置)×100)。1実施形態では、この2つの配列は同じ長さである。
2つの配列の間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成され得る。2つの配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの好ましい、非限定的な例は、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5877のように改変された、KarlinおよびAltschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264〜2268のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410のBLASTNおよびBLASTXプログラムに組み込まれる。BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12で行なって、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、BLASTNプログラム、スコア=50、ワード長=3で行なって、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためのギャップアラインメントを得るためには、Gapped BLASTと呼ばれるBLASTアルゴリズムの新規なバージョンは、プログラムBLASTN、BLASTPおよびBLASTXのギャップの局所アルゴリズムを行なうことができるAltschulら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389〜3402に記載されるように利用され得る。あるいは、PSI−Blastを用いて、分子の間の遠い関係を検出する繰り返し検索(iterated search)を行なってもよい。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI−Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、BLASTXおよびBLASTN)のデフォールトパラメーターを用いてもよい。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照のこと。配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例は、MyersおよびMiller,(1988)CABIOS 4:11〜17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれる。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120ウェイト残余表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティー、および4のギャップペナルティーを用いてもよい。局所配列類似性の領域およびアラインメントを同定するためのさらに別の有用なアルゴリズムは、PearsonおよびLipman(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444〜2448に記載されるようなFASTAアルゴリズムである。ヌクレオチドまたはアミノ酸配列を比較するためのFASTAアルゴリズムを用いる場合、PAM120ウェイト残余表は例えば、2のk−tuple値で用いられ得る。
2つの配列の間の同一性パーセントは、ギャップを可能にするか否かの、上記の技術と同様の技術を用いて決定され得る。同一性パーセントを算出するのにおいては、正確なマッチングのみをカウントする。
本発明はまた、マーカータンパク質またはそのセグメントを含むキメラまたは融合タンパク質を提供する。本明細書において用いる場合、「キメラタンパク質(chimeric protein)」または「融合タンパク質(fusion protein)」は、異種ポリペプチド(すなわち、マーカータンパク質以外のポリペプチド)に作動可能に連結されたマーカータンパク質の全てまたは一部(好ましくは生物学的に活性な部分)を含む。融合タンパク質内では、「operably linked(作動可能に連結された)」という用語とは、マーカータンパク質またはそのセグメントおよび異種ポリペプチドがお互いにインフレームで融合されることを示すこととする。異種ポリペプチドは、マーカータンパク質またはセグメントのアミノ末端またはカルボキシル末端に融合され得る。
1つの有用な融合タンパク質は、GST融合タンパク質であり、マーカータンパク質またはセグメントが、GST配列のカルボキシル末端に融合される。このような融合タンパク質は、本発明の組み換えポリペプチドの生成を促進し得る。
別の実施形態では、この融合タンパク質は、そのアミノ末端に異種シグナル配列を含む。例えば、マーカータンパク質のネイティブなシグナル配列が取り除かれて、別のタンパク質由来のシグナル配列で置換されてもよい。例えば、バキュロウイルスエンベロープタンパク質のgp67分泌性配列は、異種シグナル配列として用いられ得る(Ausubelら編、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY,1992)。真核生物異種シグナル配列の他の例としては、メチリンおよびヒト胎盤アルカリホスファターゼの分泌配列が挙げられる(Stratagene;La Jolla,California)。さらに別の例では、有用な原核生物異種シグナル配列としては、phoA分泌シグナル(Sambrook et al.,前出)およびプロテインA分泌シグナル(Pharmacia Biotech;Piscataway,New Jersey)が挙げられる。
さらに別の実施形態では、融合タンパク質は、マーカータンパク質の全てまたは一部が免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列に融合されている免疫グロブリン融合タンパク質である。本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、リガンド(可溶性または膜結合性)と細胞表面のタンパク質(レセプター)との間の相互作用を阻害し、それによってインビボにおけるシグナル伝達を抑制するために、薬学的組成物中に組み込まれて、被験体に投与されてもよい。免疫グロブリン融合タンパク質は、マーカータンパク質の同族のリガンドのバイオアベイラビリティーに影響するように用いられ得る。リガンド/レセプター相互作用の阻害は、増殖性および分化上の障害を処置するために、そして細胞生存を調節する(例えば、促進するかまたは阻害する)ための両方のために、治療上有用であり得る。さらに、本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、被験体中でマーカータンパク質に対する抗体を生成するための免疫原として、リガンドを精製するために、そしてスクリーニングアッセイにおいては、マーカータンパク質とリガンドとの相互作用を阻害する分子を同定するために、用いられ得る。
本発明のキメラおよび融合タンパク質は、標準的な組み換えDNA技術によって生成され得る。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動DNAシンセサイザーを含む従来の技術によって合成され得る。あるいは、遺伝子フラグメントのPCR増幅は、2つの連続した遺伝子フラグメントの間の相補的なオーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて行なわれ得、これがキメラ遺伝子配列を生成するために引き続いてアニーリングされ、そして再増幅され得る(例えば、Ausubel et al.,前出を参照のこと)。さらに、融合部分(例えば、GSTポリペプチド)をすでにコードする多くの発現ベクターが市販されている。本発明のポリペプチドをコードする核酸は、融合部分が本発明のポリペプチドに対してインフレームで連結されるように、このような発現ベクター中にクローニングされてもよい。
シグナル配列を用いて、マーカータンパク質の分泌および単離を容易にし得る。シグナル配列は代表的には、一般的に1つ以上の切断事象において分泌の間に成熟タンパク質から切断される、疎水性アミノ酸のコアによって特徴付けられる。このようなシグナルペプチドは、成熟タンパク質が分泌経路を通過する際、その成熟タンパク質からのシグナル配列の切断を可能にするプロセシング部位を含む。従って、本発明は、マーカータンパク質、融合タンパク質またはシグナル配列を有するそのセグメントに、そしてシグナル配列がタンパク質分解性に切断されているこのようなタンパク質(すなわち、切断産物)に関する。1実施形態では、シグナル配列をコードする核酸配列は、目的のタンパク質、例えばマーカータンパク質またはそのセグメントに対して発現ベクター中で作動可能に連結され得る。このシグナル配列は、発現ベクターがその中に形質転換されている真核生物宿主などからのタンパク質の分泌に関連し、そしてこのシグナル配列は引き続きまたは同時発生的に切断される。次いで、このタンパク質は、当該分野で認識された方法によって細胞外培地から容易に精製され得る。あるいは、シグナル配列は、GSTドメインなどを用いる精製を容易にする配列を用いて目的のタンパク質に対して連結され得る。
本発明はまた、マーカータンパク質の改変体に関与する。このような改変体は、アゴニスト(模倣物)またはアンタゴニストのいずれかとして機能し得る変更されたアミノ酸配列を有する。バリアントは、変異誘発、例えば、別個の点突然変異(ポイントミューテーション)または切断によって生成され得る。アゴニストは、タンパク質の天然に存在する形態の生物学的活性が実質的に同じのままであるか、またはサブセットであり得る。タンパク質のアンタゴニストは、例えば、目的のタンパク質を含む細胞シグナル伝達カスケードの下流または上流メンバーに対して競合的に結合することによって、タンパク質の天然に存在する形態の活性の1つ以上を阻害し得る。従って特定の生物学的効果は、種々の限定機能での処置によって誘発され得る。このタンパク質の天然に存在する形態の生物学的活性のサブセットを有する改変体を用いる被験体の処置は、このタンパク質の天然に存在する形態での処置に対して被験体において副作用が少なくなり得る。
アゴニスト(模倣物)として、またはアンタゴニストとして機能するマーカータンパク質の改変体は、アゴニストまたはアンタゴニスト活性について本発明のタンパク質の変異体、例えば、短縮変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定され得る。1実施形態では、改変体の変化に富んだライブラリーは、核酸レベルでのコンビナトリアル変異誘発によって生成され、そして変化に富んだ遺伝子ライブラリーによってコードされる。改変体の変化に富んだライブラリーは、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を遺伝子配列に酵素的に連結することによって生成され得、その結果可能性のあるタンパク質配列の変性セットは、個々のポリペプチドとして、あるいはより大きい融合タンパク質のセットとして(例えば、ファージディスプレイについて)発現可能である。変性オリゴヌクレオチド配列由来のマーカータンパク質の潜在的な改変体のライブラリーを生成するために用いることができる種々の方法が存在する。変性オリゴヌクレオチドを合成するための方法は当該分野で公知である(例えば、Narang,1983,Tetrahedron 39:3;Itakura et al.,1984,Annu.Rev.Biochem.53:323;Itakuraら,1984,Science 198:1056;Ike et al.,1983 Nucleic Acid Res.11:477を参照のこと)。
さらに、マーカータンパク質のセグメントのライブラリーを用いて、改変体マーカータンパク質またはそのセグメントのスクリーニングおよび引き続く選択のためのポリペプチドの変化に富んだ集団を生成することができる。例えば、コード配列フラグメントのライブラリーは、1分子あたり約1回だけのニックが生じる条件下でヌクレアーゼを用いて、目的のコード配列の二本鎖PCRフラグメントを処置すること、二本鎖DNAを変性すること、異なるニック産物由来のセンス/アンチセンス対を含み得る二本鎖DNAを形成するDNAを復元すること、S1ヌクレアーゼでの処置によって再形成された二重鎖から一本鎖部分を除去すること、そして得られたフラグメントライブラリーを発現ベクターに連結することによって生成され得る。この方法によれば、目的のタンパク質の種々のサイズのアミノ末端フラグメントおよび内部フラグメントをコードする発現ライブラリーが誘導され得る。
点変異または短縮(切断)によって作製されるコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするため、および選択された特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするためには、いくつかの技術が当該分野で公知である。大きい遺伝子ライブラリーをスクリーニングするための、ハイスループット分析になじみ易い、最も広範に用いられる技術は代表的には、複製可能な発現ベクターへ遺伝子ライブラリーをクローニングする工程、得られたベクターのライブラリーで適切な細胞を形質転換する工程、およびその遺伝子産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が所望の活性の検出によって容易になる条件下で、このコンビナトリアル遺伝子を発現する工程を包含する。ライブラリーにおける機能的変異の頻度を増強する技術である、再帰的アンサンブル変異誘発(recursive ensemble mutagenesis)(REM)をスクリーニングアッセイと組み合わせて用いて、本発明のタンパク質の改変体を同定することができる(ArkinおよびYourvan,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7811〜7815;Delgraveら,1993,Protein Engineering 6(3):327〜331)。
本発明の別の局面は、本発明のタンパク質に対する抗体に関係する。好ましい実施形態では、この抗体は、マーカータンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する。本明細書において互換可能に用いる場合、「抗体(単数または複数)」という用語は、免疫グロブリン分子、ならびに免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を含むそのフラグメントおよび誘導体をいう(すなわち、このような部分は、マーカータンパク質、例えばマーカータンパク質のエピトープのような抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む)。本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体は、このタンパク質に結合するが、通常このタンパク質を含むサンプル、例えば生物学的サンプル中の他の分子には実質的に結合しない抗体である。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の例としては、限定はしないが単鎖抗体(scAb)、F(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。
本発明の単離されたタンパク質またはそのフラグメントは、抗体を生成するための免疫原として用いられ得る。全長タンパク質が用いられてもよく、あるいは本発明は免疫原としての使用のための抗原性ペプチドフラグメントを提供する。本発明のタンパク質の抗原性ペプチドは、本発明のタンパク質のうちの1つのアミノ酸配列の少なくとも8つ(好ましくは10、15、20または30以上)のアミノ酸残基を含み、そしてこのタンパク質の少なくとも1つのエピトープを包含し、その結果このペプチドに対して惹起された抗体は、このタンパク質と特異的な免疫複合体を形成する。抗原性ペプチドによって包含される好ましいエピトープは、タンパク質の表面上に位置する領域、例えば親水性領域である。疎水性配列分析、親水性配列分析、または同様の分析を用いて親水性領域を同定することができる。好ましい実施形態では、単離されたマーカータンパク質またはそのフラグメントは、免疫原として用いられる。
免疫原は代表的には、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物もしくは脊椎動物のような適切な(すなわち、イムノコンピテント(免疫応答性))被験体を免疫することによって抗体を調製するために用いられる。適切な免疫原性調製物は、例えば、組み換え発現されるかまたは化学的に合成されたタンパク質またはペプチドを含んでもよい。この調製物はさらに、アジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントもしくはフロイント不完全アジュバント、または同様の免疫刺激因子をさらに含んでもよい。好ましい免疫原組成物は、例えば、本発明のタンパク質の組み換え発現のために非ヒト宿主細胞を用いて作製された免疫原組成物のような他のヒトタンパク質を含まない組成物である。このような方式では、得られた抗体組成物は、本発明のタンパク質以外のヒトタンパク質の結合が少ないかまたは結合しない。
本発明は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。本明細書において用いる場合、「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」または「モノクローナル抗体組成物(monoclonal antibody composition)」という用語は、特定のエピトープと免疫反応し得る抗原結合部位のうち1種のみを含む抗体分子の集団をいう。好ましいポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体組成物とは、本発明のタンパク質に対する抗体を選択しているものである。特に好ましいポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体調製物とは、マーカータンパク質またはそのフラグメントに対する抗体のみを含むものである。
ポリクローナル抗体は、免疫原として本発明のタンパク質を用いて適切な被験体を免疫することによって調製され得る。免疫された被験体における抗体力価は、免疫されたポリペプチドを用いる酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いるような標準的な技術によって経時的にモニターされ得る。免疫後適切な時点で、例えば、特定の抗体力価が最高であるとき、抗体産生細胞は、被験体から得て、標準的な技術、例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495〜497にもともと記載されるハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al.,1983,Immunol.Today 4:72を参照のこと)、EBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc,1985のpp77〜96を参照のこと)またはトリオーマ技術によってモノクローナル抗体(mAb)を調製するために用いられ得る。ハイブリドーマ産生のための技術は周知である(一般には、Current Protocols in Immunology,Coliganら編、John Wiley&Sons,New York,1994を参照のこと)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば、標準的なELISAアッセイを用いて、目的のポリペプチドに結合する抗体についてハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることによって検出され得る。
ハイブリドーマを分泌するモノクローナル抗体を調製する代わりに、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体を、目的のポリペプチドを有する組み換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)をスクリーニングすることによって同定および単離してもよい。ファージディスプレイライブラリーを生成して、スクリーニングするためのキットは市販されている(例えば、Pharmacia Recombinant Phage Antibody System,カタログ番号27−9400−01;およびStratagene SurZAP Phage Display Kit,カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレイライブラリーを生成しスクリーニングするのにおける使用に特に受け入れられる方法および試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号;PCT公開番号WO92/18619;PCT公開番号WO91/17271;PCT公開番号WO92/20791号;PCT公開番号WO92/15679;PCT公開番号WO93/01288;PCT公開番号WO92/01047;PCT公開番号WO92/09690;PCT公開番号WO90/02809;Fuchsら(1991)Bio/Technology 9:1370〜1372;Hayら(1992)Hum.Antibod.Hybridomas 3:81〜85;Huseら(1989)Science 246:1275〜1281;Griffithsら(1993)EMBO J:725〜734に見出され得る。
本発明はまた、本発明のタンパク質に特異的に結合する組み換え抗体を提供する。好ましい実施形態では、この組み換え抗体は、マーカータンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する。組み換え抗体としては、限定はしないが、ヒトおよび非ヒト部分の両方を含む、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体、単鎖抗体および多価特異的抗体が挙げられる。キメラ抗体とは、異なる部分が種々の動物種に由来する分子、例えば、マウスmAbに由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体である。(例えば、その全体が参考として本明細書に援用される、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号;およびBoss et al.,米国特許第4,816,397号を参照のこと)。単鎖抗体は、抗原結合部位を有し、単独のポリペプチドからなる。それらは、当該分野で公知の技術によって、例えば、Ladner et al.,米国特許第4,946,778号(その全体が参考として本明細書に援用される);Birdら(1988)Science 242:423〜426;Whitlowら(1991)Methods in Enzymology 2:1〜9;Whitlowら(1991)Meyhods in Enzymology 2:97〜105;およびHustonら(1991)Methods in Enzymology Molecular Design and Modeling:Concepts and Applications 203:46〜88に記載の方法を用いて生成され得る。多価特異的抗体は、種々の抗原に特異的に結合する少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体分子である。このような分子は、当該分野で公知の技術によって、例えば、Segal、米国特許第4,676,980号(その開示は全体が参考として本明細書に援用される);Holligerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444〜6448;Whitlowら(1994)Protein Eng.7:1017〜1026および米国特許第6,121,424号に記載の方法を用いて生成され得る。
ヒト化抗体とは、非ヒト種由来の1つ以上の相補性決定領域(CDRs)およびヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する非ヒト種由来の抗体分子である(例えば、その全体が参考として援用される、Queen,米国特許第5,585,089号を参照のこと)。ヒト化モノクローナル抗体は、当該分野で公知の組み換えDNA技術によって、例えばPCT公開番号WO87/02671;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT公開番号WO86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Betterら(1988)Science 240:1041〜1043;Liuら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3439〜3443;Liuら(1987)J.Immunol.139:3521〜3526;Sunら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:214〜218;Nishimuraら(1987)Cancer Res.47:999〜1005;Woodら(1985)Nature 314:446〜449;およびShawら(1988)J.Natl.Cancer Inst.80:1553〜1559);Morrison(1985)Science 229:1202〜1207;Oiら(1986)Bio/Techniques 4:214;米国特許第5,225,539号;Jonesら(1986)Nature 321:552〜525;Verhoeyanら(1988)Science 239:1534;およびBeidlerら(1988)J.Immunol.141:4053〜4060に記載の方法を用いて、生成され得る。
さらに詳細には、ヒト化抗体は、例えば、内因性の免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子を発現できるが、ヒト重鎖および軽鎖の遺伝子を発現できるトランスジェニックマウスを用いて生成され得る。トランスジェニックマウスは、選択された抗原、例えば、本発明のマーカーに相当するポリペプチドの全てまたは一部を用いて正常な様式で免疫される。抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。トランスジェニックマウスによって保持されるヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の間に再配列して、引き続きクラス切り替えおよび体細胞変異を受ける。従ってこのような技術を用いて、治療上有用なIgG、IgAおよびIgE抗体を生成することが可能である。ヒト抗体を生成するためのこの技術の概説については、LonbergおよびHuszar(1995)Int.Rev.Immunol.13:65〜93)を参照のこと。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を生成するためのこの技術の、そしてこのような抗体を生成するためのプロトコールの詳細な考察については、例えば、米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許第5,661,016号;および米国特許第5,545,806号を参照のこと。さらに、Abgenix,Inc.(Freemont,CA)のような会社は、上記の技術と同様の技術を用いて、選択された抗原に対するヒト抗体を提供することに関与し得る。
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「ガイド選択(guided selection)」と呼ばれる技術を用いて生成され得る。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択をガイドする(Jespersら,1994,Bio/technology 12:899〜903)。
本発明の抗体は、産生(例えば、被験体の血液または血清からの)または合成後に単離されて、そして周知の技術によってさらに精製され得る。例えば、IgG抗体は、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製され得る。本発明のタンパク質に特異的な抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって選択、または(例えば、部分的に精製され)または精製され得る。例えば、本発明の組み換え発現された、そして精製された(または特に精製された)タンパク質は、本明細書に記載のように生成され、そして例えば、クロマトグラフィーカラムのような固体支持体に対して共有結合されるかまたは非共有結合される。次いで、このカラムは、多数の異なるエピトープに対する抗体を含むサンプルから本発明のタンパク質に特異的な抗体をアフィニティー精製して、これによって実質的に精製された抗体組成物、すなわち、混入した抗体を実質的に含まない抗体組成物を生成するために用いられ得る。実質的に精製された抗体組成物とは、この文脈では、この抗体サンプルが、本発明の所望のタンパク質のエピトープ以外のエピトープに対する抗体の混入が多くとも30%(乾燥重量による)を含み、そして好ましくはこのサンプルの多くとも20%、さらに好ましくは多くとも10%、そして最も好ましくは多くとも5%(乾燥重量による)が混入している抗体である。精製された抗体組成物とは。この組成物における抗体の少なくとも99%が本発明の所望のタンパク質に対するものであるということを意味する。
好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、本発明のタンパク質のシグナルペプチド、分泌された配列、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインまたは細胞膜に特異的に結合し得る。特に好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列の選択された配列または細胞外ドメインに特異的に結合する。さらに好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、マーカータンパク質のアミノ酸配列の分泌された配列または細胞外ドメインに特異的に結合する。
本発明のタンパク質に対する抗体は、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降のような標準的な技術によってタンパク質を単離するために用いられ得る。さらに、このような抗体は、マーカータンパク質またはそのフラグメント(例えば、細胞溶解液または細胞上清において)を検出して、マーカーの発現のレベルおよびパターンを評価するために用いられ得る。抗体はまた、例えば、所定の処置レジメンの有効性を評価するために、臨床試験手順の一部として、組織または体液中(例えば、乳房関連性体液中)のタンパク質レベルをモニターするために診断的に用いられ得る。検出は、検出可能な物質に結合された本発明の抗体を含む、抗体誘導体の使用によって容易にできる。検出可能物質の例としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、蛍光体、生物発光物質および放射性物質が挙げられる。適切な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられ;適切な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコトリエンが挙げられ;発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ;生体発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが挙げられ、そして適切な放射性物質の例としては、125I、131I、35Sまたは3Hが挙げられる。
本発明の抗体はまた、ガンを処置するのにおいて治療剤として有用であり得る。好ましい実施形態では、本発明の完全ヒト抗体は、ヒトガン患者、特に乳癌を有する患者の治療的な処置のために用いられる。別の好ましい実施形態では、マーカータンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する抗体は、治療上の処置に用いられる。さらに、このような治療抗体は、細胞毒、治療剤または放射性金属イオンのような治療部分に結合された抗体を含む抗体誘導体または免疫毒素であってもよい。細胞毒素または細胞毒性剤としては、細胞に有害である任意の因子が挙げられる。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン(colchicin)、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン(dihydroxy anthracin dione)、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにそれらのアナログまたはホモログが挙げられる。治療剤としては限定はしないが、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシルデカルバジン(5−fluorouracil decarbazine)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa)クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、ならびにcis−ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(anthramycin)(AMC))、ならびに抗有糸分裂剤(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。
本発明の結合体化した抗体は、所定の生物学的応答を改変するために用いられ得、薬物部分については、古典的な化学的治療剤に限定されると解釈されるべきではない。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリぺプチドであってもよい。このようなタンパク質としては、例えば、毒素、例えば、リボソーム阻害タンパク質(その開示が全体として本明細書に援用される、Better et al.,米国特許第6,146,631号を参照のこと)、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、またはジフテリア毒素;タンパク質、例えば、腫瘍壊死因子、α−インターフェロン、β−インターフェロン、神経発育因子、血小板由来増殖因子、組織プラスミノゲンアクチベーター;または生物学的応答改変剤、例えばリンホカイン、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G−CSF」)、または他の増殖因子などが挙げられる。
抗体に対してこのような治療部分を結合体化するための技術は、周知であり、例えば、Arnon et al.,「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeldら(編)pp243〜56(Alan R,Liss,Inc.1985);Hellstrom et al.,「Antibodies For Drug Delivery」Controlled Drug Delivery(第2版),Robinsonら(編)、pp623〜53(Marcel Dekker,Inc.1987);Thorope,「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」Monoclonal Antibodies ’84:Biological And Clinical Applications、Pincheraら(編)、475〜506頁(1985);「Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、pp303〜16(Academic Press 1985)、およびThorpe et al.,「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody−Toxin Conjugates」、Immunol.Rev.62:119〜58(1982)を参照のこと。
従って、1局面では、本発明は、その全てが本発明のタンパク質、そして好ましくはマーカータンパク質に特異的に結合する、実質的に精製された抗体、抗体フラグメントおよび誘導体を提供する。種々の実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体、またはそのフラグメントもしくは誘導体は、ヒト抗体であっても、非ヒト抗体であっても、キメラ抗体であっても、および/またはヒト化抗体であってもよい。別の局面では、本発明は、その全てが本発明のタンパク質、そして好ましくはマーカータンパク質に特異的に結合する、非ヒト抗体、抗体フラグメントおよび誘導体を提供する。このような非ヒト抗体は、ヤギ、マウス、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ウサギまたはラットの抗体であってもよい。あるいは、本発明の非ヒト抗体は、キメラおよび/またはヒト化抗体であってもよい。さらに、本発明の非ヒト抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。さらなる局面では、本発明は、その全てが本発明のタンパク質、そして好ましくはマーカータンパク質に特異的に結合する、モノクローナル抗体、抗体フラグメントおよび誘導体を提供する。モノクローナル抗体は、ヒト抗体であっても、ヒト化抗体であっても、キメラ抗体であっても、および/または非ヒト抗体であってもよい。
本発明はまた、検出可能物質に結合体化された本発明の抗体および使用説明書を備えるキットを提供する。本発明のなお別の局面は、本発明の抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物である。1実施形態では、この薬学的組成物は、本発明の抗体、治療部分および薬学的に受容可能なキャリアを含む。
組み換え発現ベクターおよび宿主細胞
本発明の別の局面は、マーカータンパク質(またはそのようなタンパク質の一部)をコードする核酸を含む、ベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書において用いる場合、「ベクター(vector)」という用語は、それに結合している別の核酸を運搬する能力のある核酸分子を指す。ベクターの一つのタイプは「プラスミド(plasmid)」であり、これは、さらなるDNAセグメントが結合し得る環状の二重鎖DNAループを指す。ベクターの別のタイプはウイルスベクターであり、ここではさらなるDNAセグメントをウイルスゲノムの中に結合し得る。特定のベクターは、それらを導入した宿主細胞中で自律増幅することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌のベクターおよび哺乳動物のエピゾームベクター)。他のベクター(例えば、哺乳動物の非エピゾームベクター)は、宿主細胞中への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれて、それによって宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、特定のベクターいわゆる発現ベクターは、それらが作動し得るように連結した遺伝子の発現を指示する能力がある。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターはしばしば、プラスミドの形態である(ベクター)。しかし、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製能を欠いたレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターを含むこととする。
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞中における核酸の発現に適した形態で本発明の核酸を含む。これは組換え発現ベクターが、発現に用いられる宿主細胞に基づいて選択され、発現すべき核酸配列に対して作動可能に連結されている、一つ以上の制御配列を含むことを意味する。組換え発現ベクター内において、「作動可能に連結された(operably linked)」とは、目的のヌクレオチド配列がこのヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で(例えばインビトロ転写/翻訳システムでまたはベクターを宿主細胞に導入する場合には宿主細胞中で)制御配列(単数または複数)に結合されていることを意味するものとする。「制御配列(regulatory sequence)」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むものとする。このような制御配列は、例えば、GoeddelのMethods in Enzymology:Gene Expression Technology:第185巻、Academic Press, San Diego,CA(1990)に記載されている。制御配列としては、多くのタイプの宿主細胞中でヌクレオチド配列の構成的発現を指示する配列および特定の宿主細胞中でのみヌクレオチド配列の発現を指示する配列(例えば、組織特異的制御配列)が挙げられる。発現ベクターのデザインが、形質転換されるべき宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどのような要因に依存し得ることを当業者は理解する。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入して、それにより本明細書に説明されるように、核酸によってコードされる融合タンパク質またはペプチドを含む、タンパク質またはペプチドを産生し得る。
本発明の組換え発現ベクターを、原核生物(例えば、E.coli)または真核生物の細胞(例えば、昆虫細胞{バキュロウイルス発現ベクターを用いる}、酵母細胞または哺乳動物細胞)中に、マーカータンパク質またはそのセグメントの発現のために設計し得る。適切な宿主細胞は、Goeddel、前出、にさらに考察されている。あるいは、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター制御配列およびT7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写して、翻訳してもよい。
真核細胞中におけるタンパク質の発現はほとんどの場合、E.coli中で、融合タンパク質または非融合タンパク質のどちらかの発現を指示する構成的または誘導性プロモーターを含有するベクターを用いて行われる。融合ベクターは、その中にコードしたタンパク質に多数のアミノ酸を、通常には組換えタンパク質のアミノ末端に付加する。そのような融合ベクターは代表的には三つの目的に役立つ:1)組換えタンパク質の発現を増大するため;2)組換えタンパク質の溶解度を増大するため;および3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって組換えタンパク質の精製を助けるため。しばしば、融合発現ベクターにおいては、タンパク質分解性の切断部位を融合部分および組換えタンパク質の接合部に導入して、融合部分から組換えタンパク質の分離に引き続いて融合タンパク質の精製を可能にする。そのような酵素、およびそれらと同種の認識配列としては、第Xa因子(Factor Xa)、トロンビンおよびエンテロキナーゼが挙げられる。代表的な融合発現ベクターとしては、それぞれ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを標的の組換えタンパク質に融合させる、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith and Johnson,1988.Gene 67:31〜40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,MA)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,N.J.)が挙げられる。
適切な誘導性非融合E. coli発現ベクターの例としては、pTrc(Amann et al.,(1988)Gene 69:301〜315)およびpET11d(Studier et al.,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA.1991)が挙げられる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存する。pET 11dベクターからの標的遺伝子発現は、同時発現されたウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)によって媒介される、T7 gn10−lac融合プロモーターからの転写に依存する。このウイルスポリメラーゼは、宿主株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)によって、T7 gn1遺伝子を保持する常在性プロファージから、lacUV5プロモーターの転写制御下で供給される。
E. coliにおける組み換えタンパク質発現を最大にする一つのストラテジーは、組換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力が損なわれた宿主細菌中でタンパク質を発現することである(Gottesman,p119−128,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press, San Diego,CA,1990を参照のこと。別のストラテジーとは、各々のアミノ酸についての個々のコドンがE.coliで優先的に使用されるように、発現ベクターに挿入する核酸の核酸配列を変更することである(Wada et al.,1992,Nucleic Acids Res.20:2111〜2118)。本発明の核酸配列のそのような変更は、標準的なDNA合成技法によって行なうことができる。
別の実施形態では、この発現ベクターは酵母の発現ベクターである。酵母であるS.cerivisae中の発現のためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldari,et al.,1987.EMBO J.6:229−234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,1982.Cell 30:933−943)、pJRY88(Schultz et al.,1987.Gene 54:113−123)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,CA)、およびpPicZ(InVitrogen Corp,San Diego,CA)が挙げられる。
あるいは、この発現ベクターはバキュロウイルス発現ベクターである。培養された昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)中でのタンパク質発現に利用可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smith,et al.,1983.Mol.Cell.Biol.3:2156−2165)およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers,1989.Virology 170:31−39)が挙げられる。
別の実施形態では、本発明の核酸を、哺乳動物の発現ベクターを用いて哺乳動物細胞中で発現する。哺乳動物の発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,1987.Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman,et al.,1987.EMBO J.6:187−195)が挙げられる。哺乳動物細胞中で用いる場合、発現ベクターの制御機能はしばしば、ウイルスの調節エレメントによって提供される。例えば、通常用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40に由来する。原核生物のおよび真核生物の細胞の両方にとって適切な他の発現系については、Sambrook,et al.前出の第16章および17章を参照のこと。
別の実施形態では、組換え哺乳動物表現ベクターは、特定の細胞タイプ中で優先的に核酸の発現を指示する能力がある(例えば、組織特異的調節エレメントは核酸を発現するために用いられる)。組織特異的調節エレメントは当該分野において公知である。適切な組織特異的プロモータの非限定的な例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert,et al.,1987.Genes Dev.1:268−277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame and Eaton,1988.Adv.Immunol.43:235−275)、詳細には、T細胞レセプター(Winoto and Baltimore,1989.EMBO J.8:729−733)および免疫グロブリン(Banerji,et al.,1983.Cell 33:729−740;Queen and Baltimore,1983.Cell 33:741−748)のプロモーター、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne and Ruddle,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473−5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund,et al.,1985.Science 230:912−916)、ならびに乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号および欧州出願公開第264,166号)が挙げられる。例えば、マウスのhoxプロモーター(Kessel and Gruss,1990.Science 249:374−379)およびα−フェトプロテインプロモーター(Campes and Tilghman,1989.Genes Dev.3:537−546)の発生上調節されるプロモーターも包含される。
本発明はさらに、発現ベクターの中にアンチセンスの配向でクローニングされた本発明のDNA分子を含む組換え発現ベクターを提供する。すなわち、DNA分子は、本発明のポリペプチドをコードするmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現(DNA分子の転写による)を可能にするような様式で、制御配列に対して作動可能に連結される。種々の細胞タイプ中のアンチセンスRNA分子の連続的発現を指示する、アンチセンスの配向にクローニングされた核酸に作動可能に連結された制御配列が選択され得、例えば、ウイルスのプロモーターおよび/もしくはエンハンサー、またはアンチセンスRNAの構成的な、組織特異的もしくは細胞タイプ特異的な発現を指示する制御配列を選択することができる。アンチセンス発現ベクターは、ベクターを導入した細胞タイプによって活性が決定され得る高効率調節領域の制御下でアンチセンス核酸を生産する、組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒化ウイルスの形態であってもよい。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の調節の考察については、Weintraub,et al.,1986,Trends in Genetics,Vol.1(1)を参照のこと。
本発明の別の局面は、本発明の組換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。用語「宿主細胞(host cell)」および「組換え宿主細胞(recombinant host cell)」は、本明細書において互換的に使用される。そのような用語は、特定の対象の細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または潜在的な子孫をも指すことが理解される。突然変異または環境の影響のいずれかに起因して後の世代に特定の改変が生じるかもしれないため、そのような子孫は、実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書において使用する用語の範囲内になお包含される。
宿主細胞は任意の原核細胞(例えば、E.coli)または真核細胞(例えば、昆虫細胞、酵母または哺乳動物細胞)であってもよい。
ベクターDNAを、従来の形質転換または形質移入技術を介して原核生物細胞または真核生物細胞の中に導入してもよい。本明細書において用いる場合、「形質転換(transformation)」および「トランスフェクション(transfection)」という用語は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションを含む、外来の核酸を宿主細胞に導入するために当該分野で認める種々の技術を指すものとする。宿主細胞を形質転換するか、またはトランスフェクションするための適切な方法は、Sambrook,et al.,(前出)および他の実験室マニュアルに見出すことができる。
哺乳動物細胞の安定的なトランスフェクションのためには、使用される発現ベクターおよびトランスフェクションの技法に依存して、細胞のごく小さい画分が外来性DNAをそのゲノムの中に組み込み得ることが公知である。これらの組み込み体を同定し選択するために、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する抵抗性)をコードする遺伝子が一般的に、目的の遺伝子と一緒に宿主細胞に導入される。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートのような薬物に対する抵抗性を付与するマーカーが挙げられる。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって同定することができる(例えば、選択マーカーを組み込んでいる細胞は生き残るが、一方他の細胞は死滅する)。
培地中で、原核生物細胞または真核生物細胞のような本発明の宿主細胞を用いて、マーカータンパク質またはそのセグメントを生産することができる。従って、本発明は、本発明の宿主細胞を用いるマーカータンパク質またはそのセグメントの産生の方法をさらに提供する。一実施形態では、その方法は、本発明の宿主細胞(その中にマーカータンパク質またはそのセグメントをコードする組換え発現ベクターを導入されている)を、そのマーカータンパク質を生産するのに適切な培地中で培養する工程を包含する。別の実施形態では、その方法はさらに、培地または宿主細胞からマーカータンパク質またはそのセグメントを単離する工程をさらに包含する。
本発明の宿主細胞を用いてまた、非ヒトトランスジェニック動物を産生してもよい。例えば、一実施形態では、本発明の宿主細胞は、その中にマーカータンパク質またはそのセグメントをコードする配列が導入されている受精した卵母細胞または胚性幹細胞である。次いで、そのような宿主細胞を用いて、その中に本発明のマーカータンパク質をコードする外因性の配列がそのゲノムの中に導入されている非ヒトトランスジェニック動物、またはマーカータンパク質をコードする内因性の遺伝子(単数または複数)が変更されている相同組換え動物を創成することができる。そのような動物は、マーカータンパク質の機能および/または活性の研究に、そしてマーカータンパク質の修飾因子の同定および/または評価に有用である。本明細書において用いる場合「トランスジェニック動物(transgenic animal)」とは、動物の一つ以上の細胞が導入遺伝子を含む非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはラットまたはマウスのようなげっ歯類である。トランスジェニック動物の他の例としては、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、ニワトリ、両棲類などが挙げられる。導入遺伝子とは、トランスジェニック動物が発生する細胞のゲノムの中に取り込まれ、そして成熟動物のゲノム内に残存して、それによってトランスジェニック動物の1つ以上の細胞タイプまたは組織中においてコードされた遺伝子産物の発現を指令する外来性のDNAである。本明細書において用いる場合、「相同組換え動物(homologous recombinant animal)」とは、内因性の遺伝子が内因性の遺伝子と、動物の細胞、例えば、動物の胚細胞の中に動物の発生前に導入された外因性DNA分子との間で相同組換えにより変更されている非ヒト動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはマウスである。
本発明のトランスジェニック動物は、受精した卵母細胞の雄性前核の中に、マーカータンパク質をコードする核酸を例えば、マイクロインジェクション、レトロウイルス感染によって導入して、卵母細胞が偽妊娠雌性仮親動物の体内で発生することを可能にすることにより、創成することができる。イントロン配列およびポリアデニル化シグナルもまた、導入遺伝子の発現効率を増加するために導入遺伝子中に含まれてもよい。組織特異的制御配列(単数または複数)をこの導入遺伝子に対して作動可能に結合させて、特定の細胞に対して本発明のポリペプチドの発現を指示することができる。胚の操作およびマイクロインジェクションを介した、トランスジェニック動物、特にマウスのような動物の作成方法は当該分野において従来的となっており、そして例えば、米国特許第4,736,866号;および同第4,870,009号、米国特許第4,873,191号において;そしてHogan,Manipulating the Mouse Embryo,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986において記載されている。類似の方法を他のトランスジェニック動物の生産に用いる。初代のトランスジェニック動物を、ゲノム内の導入遺伝子の存在および/またはその動物の組織または細胞中におけるこの導入遺伝子をコードするmRNAの発現に基づいて、同定し得る。次いで、初代トランスジェニック動物を、この導入遺伝子を担持するさらなる動物の繁殖に用いてもよい。さらに、この導入遺伝子を担持するトランスジェニック動物は、他の導入遺伝子を担持する他のトランスジェニック動物にさらに繁殖され得る。
相同組換え動物を創成するために、その中に欠失、付加または置換が導入されていて、それによって遺伝子を変化させる、例えば、機能的に破壊するマーカータンパク質をコードする、遺伝子の少なくとも一部を含むベクターを調製する。好ましい実施形態では、相同組み換えの際に、内因性遺伝子が機能的に破壊されるように、このベクターをデザインする(すなわち、もはや機能的なタンパク質をコードしない;「ノックアウト」ベクターとも呼ばれる)。代替的には、相同組換えの際に内因性遺伝子が変異されるかそうでなければ変更されるが、依然として機能性タンパク質をコードしている(例えば、上流の調節領域を変更してそれにより内因性タンパク質の発現を変更してもよい)ようにベクターを設計してもよい。相同組換えベクターでは、この遺伝子の変更された部分は、この遺伝子のさらなる核酸がその5’および3’末端に隣接しており、ベクターにより担持される外因性遺伝子と胚性幹細胞中の内因性遺伝子との間で相同組換えが起こることが可能になる。さらに別の隣接する核酸配列は、内因性遺伝子との首尾よい相同組換えが起きるように十分な長さである。代表的には、数キロベースの隣接するDNA(5’末端および3’末端の両方とも)がベクターに含まれる(相同組換えベクターの記載については、例えば、Thomas and Capecchi,1987.Cell 51:503を参照のこと)。ベクターは、胚性幹細胞株に(例えば、エレクトロポレーションにより)導入され、そしてその中に導入された遺伝子が内因性の遺伝子と相同組み換えされている細胞が選択される(例えば、Li,et al.,1992.Cell 69:915を参照のこと)。次いで、この選択された細胞を動物(例えば、マウス)の胚盤胞の中に注射して、凝集キメラを形成する(例えば、Bradley,Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach,Roberston編、IRL,Oxford,1987,pp113−152を参照のこと)。次いで、キメラ胚を適切な偽妊娠の雌性仮親動物に移植して、胚を出産させる。生殖細胞内に相同組換えしたDNAを保持している子孫を用いて、動物の全ての細胞が導入遺伝子の生殖系列を介した伝達により相同組換えされたDNAを含む動物を繁殖させることができる。相同組換えベクターおよび相同組換え動物を構築する方法は、Bradley(1991)Current Opinion in Bio/Technology 2:823−829に;そしてPCT公開番号WO90/11354号;WO91/01140号;WO92/0968号;およびWO93/04169号にさらに記載される。
別の実施形態では、導入遺伝子の調節発現を可能にする、選択した系を有するトランスジェニック非ヒト動物を生産し得る。そのような系の1例は、バクテリオファージP1のcre/loxPリコンビナー系である。cre/loxPリコンビナーゼ系の記載については、例えば、Lakso,et al.,(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232−6236を参照のこと。リコンビナーゼ系の別の例は、Saccharomyces cerevisiaeのFLPリコンビナーゼ系である(O’Gorman,et al.,1991.Science 251:1351−1355)。cre/loxPリコンビナーゼ系を用いて導入遺伝子の発現を調節する場合、Creリコンビナーゼおよび選択したタンパク質の両方をコードする導入遺伝子を含有する動物が必要となる。そのような動物は、例えば、1つは選択したタンパク質をコードする導入遺伝子を含有し、もう一方はリコンビナーゼをコードする導入遺伝子を含有する2つのトランスジェニック動物を交配させることによる、「ダブル(double)」トランスジェニック動物の構築によって得ることができる。
本明細書に記載される非ヒトトランスジェニック動物のクローンはまた、Wilmut,et al.(1997)Nature 385:810−813およびPCT公開番号WO97/07668およびWO97/07669号に記載された方法に従って生産することができる。
薬学的組成物
本発明の核酸分子、ポリペプチドおよび抗体(本明細書においては「活性化合物(active compounds)」とも呼ばれる)は、投与に適切な薬学的組成物中に組込みまれてもよい。このような組成物は代表的には、核酸分子、タンパク質または抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む。本明細書において用いる場合、「薬学的に受容可能なキャリア(pharmaceuticall acceptable carrier)」という言葉は、薬学的な投与に適合する、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むものとする。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および因子の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体または因子がこの活性化合物に不適切である場合を除けば、この組成物におけるそれらの使用が意図される。補助的な活性化合物も、組成物の中に組み込んでもよい。
本発明は、マーカー核酸またはタンパク質の発現または活性を調節するための薬学的組成物を調製するための方法を包含する。このような方法は、薬学的に受容可能なキャリアと、マーカー核酸またはタンパク質の発現または活性を調節する因子とを処方する工程を包含する。このような組成物はさらに、さらなる活性因子を含んでもよい。従って、本発明はさらに、薬学的に受容可能なキャリアと、マーカー核酸またはタンパク質および1つ以上のさらなる活性化合物の発現または活性を調節する因子とを処方することによって、薬学的組成物を調製するための方法を包含する。
本発明はまた、(a)マーカーに結合するか、または(b)マーカーの活性に対して調節性(例えば、刺激性または阻害性)の効果を有するか、またはさらに詳細には、(c)マーカーとその天然の基質(例えば、ペプチド、タンパク質、ホルモン、補因子または核酸)の1つ以上との相互作用に対して修飾性の影響を有するか、または(d)マーカーの発現に対して修飾性の効果を有する、修飾因子、すなわち、候補物または試験化合物または因子(例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、ペプトイド、低分子または他の薬物)を同定するための方法(本明細書においては、「スクリーニングアッセイ(screening assays)」とも呼ばれる)を提供する。このようなアッセイは代表的には、マーカーと1つ以上のアッセイ成分との間の反応を包含する。他の成分は、試験化合物自体であっても、または試験化合物とマーカーの天然の結合パートナーの組み合わせであってもよい。
本発明の試験化合物は、天然の化合物および/または合成の化合物の合成ライブラリーを含む、任意の利用可能な供給源から得ることができる。試験化合物はまた、生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能を有するが、新規な非ペプチド骨格を有しており、酵素的分解に耐性があり、それにもかかわらず生物活性は保持している分子のライブラリー;例えば、Zuckermann et al.,1994,J Med.Chem.37:2678−85を参照のこと);空間的にアドレス可能な平行な固相または溶液相ライブラリー(solid phase or solution phase libraries);逆重畳を要する合成ライブラリー方法;「1層1化合物」ライブラリー方法(「one−bead one−compound」library method);およびアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー方法を含む、当該分野で公知のコンビナトリアルライブラリー方法において任意の多数のアプローチによって得ることができる。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーのアプローチは、ペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは低分子ライブラリーに適用可能である(Lam,1997,Anticancer Drug Des.12:145)。
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該分野において、例えば、DeWitt,et al.,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909、Erb,et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:11422、Zuckermann,et al.(1994)J.Med.Chem.37:2678、Cho,et al.(1993)Science 261:1303;Carrell,et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carell,et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061において;そしてGallop,et al.,1994.J.Med.Chem.37:1233において見出され得る。
化合物のライブラリーは、溶液中に(例えば、Houghten,1992.Biotechniques 13:412−421)、またはビーズ上に(Lam,1991.Nature 354:82−84)、チップ上に(Fodor,1993.Nature 364:555−556)、細菌および/または芽胞上に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、プラスミド上に(Cull,et al.,1992.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865−1869)またはファージ上で(Scott and Smith,1990.Science 249:386−390;Devlin,1990.Science 249:404−406、Cwirla,et al.,1990.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378−6382、Felici,1991.J.Mol.Biol.222:301−310、Ladner,前出)提供され得る。
1実施形態では、本発明は、マーカーまたはその生物学的に活性な部分によってコードされるかまたはそれに対応するタンパク質の基質である、候補物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。別の実施形態では、本発明は、マーカーまたはその生物学的に活性な部分によってコードされるかまたはそれに対応するタンパク質に結合する、候補物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。試験化合物がタンパク質に結合する能力を決定することは、例えば、この化合物と放射性同位元素または酵素標識とをカップリングすることによって達成され得、それによってこのマーカーへのこの化合物の結合が、複合体中の標識されたマーカー化合物を検出することにより達成され得る。例えば、化合物(例えば、マーカー基質)を、125I、35S、14Cまたは3Hで直接的にまたは間接的に標識し、そして放射性同位元素を放射線放射の直接計数またはシンチレーション計数により検出することができる。あるいは、アッセイ成分を、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼにより酵素的に標識し、そして適切な基質の生産物への変換の決定により酵素標識を検出することができる。
別の実施形態では、本発明は、マーカーの発現、またはマーカーによってコードされるタンパク質の活性、あるいはその生物学的に活性な一部を調節する候補物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。おそらく、このマーカーによってコードされるかこのマーカーに相当するタンパク質は、インビボでは、限定はしないがペプチド、タンパク質、ホルモン、補因子および核酸のような1つ以上の分子と相互作用し得る。この考察の目的については、このような細胞の分子および細胞外分子は、「結合パートナー(binding parteners)」またはマーカー「基質(substrate)」と呼ばれる。
このようなスクリーニングを達成するための本発明の1つの必要な実施形態は、マーカーよってコードされるかまたはマーカーに相当するタンパク質の使用により、このタンパク質の天然のインビボの結合パートナーを同定することである。これを達成するための、当業者に公知である多くの方法が存在する。1例は、ツーハイブリッドアッセイ(two−hybrid assay)またはスリーハイブリッドアッセイ(three−hybrid assay)(例えば米国特許第5,283,317号、Zervos,et al.,1993.Cell 72:223−232、Madura,et al.,1993.J.Biol.Chem.268:12046−12054、Bartel,et al.,1993.Biotechniques 14:920−924、Iwabuchi,et al.,1993.Oncogene 8:1693−1696、および Brent WO94/10300を参照のこと)において「ベイトタンパク質(bait protein)」としてマーカータンパク質を使用して、マーカー(結合パートナー)と結合するかまたは相互作用をして、従ってこのマーカーの天然の機能に関与する可能性がある他のタンパク質を同定することである。このようなマーカー結合パートナーはまた、このマーカータンパク質によるシグナルの伝達またはマーカータンパク質媒介性シグナル伝達性経路の下流エレメントに関与する可能性が高い。あるいは、このようなマーカータンパク質結合パートナーはまた、このマーカータンパク質のインヒビターであることが見出され得る。
このツーハイブリッドシステムは、分離可能なDNA結合および活性化ドメインからなるほとんどの転写因子のモジュールの性質に基づく。要するに、このアッセイには2つの異なるDNA構築物を利用する。1つの構築物においては、マーカータンパク質をコードする遺伝子が既知の転写因子(例えば、GAL−4)のDNA結合ドメインをコードする遺伝子に融合されている。他の構築物においては、未同定のタンパク質(「プレイ(prey)」または「サンプル(sample)」)をコードするDNA配列ライブラリー由来のDNA配列を、既知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子に融合する。「ベイト(bait)」および「プレイ(prey)」タンパク質がインビボで相互作用してマーカー依存性複合体を形成することが可能である場合、転写因子のDNA結合および活性化ドメインは近位に引き寄せられる。この近接によって、転写因子に応答性の転写調節部位に作動可能に連結されているレポーター遺伝子(例えば、LacZ)の転写が可能になる。レポーター遺伝子の発現は容易に検出され得、そして機能的転写因子を含有する細胞コロニーを単離して、そしてこれを用いてマーカータンパク質と相互作用するタンパク質をコードするクローニングされた遺伝子を得ることができる。
さらなる実施形態では、マーカータンパク質とその基質および/または結合パートナーとの間の相互作用を調節する(例えば、ポジティブにまたはネガティブに影響する)化合物を同定する目的のために、本発明の使用を通じてアッセイが考案され得る。このような化合物としては、限定はしないが、抗体、ペプチド、ホルモン、オリゴヌクレオチド、核酸およびそのアナログのような分子を挙げることができる。このような化合物はまた、天然および/または合成の化合物の体系的なライブラリーを含む、任意の利用可能な供給源から得ることができる。この実施形態における使用に好ましいアッセイ成分は、本明細書において同定された乳癌マーカータンパク質、公知の結合パートナーおよび/またはこれらの基質、ならびに試験化合物である。試験化合物は、任意の供給源から供給され得る。
マーカータンパク質とその結合パートナーとの間の相互作用を妨害する化合物を同定するために用いられるアッセイ系の基本原理は、マーカータンパク質およびその結合パートナーを含む反応混合物を、この2つの産物が相互作用して結合して、これによって複合体を形成することを可能にするのに十分な条件および時間のもとで調製する工程に関与する。因子を阻害活性について試験するために、反応混合物は、試験化合物の有無の下で調製する。試験化合物は、反応混合物に最初に含まれてもよいし、またはマーカータンパク質およびその結合パートナーの付加に続く時点で添加されてもよい。コントロール反応混合物は、試験化合物なしか、またはプラシーボとともにインキュベートされる。マーカータンパク質とその結合パートナーとの間の任意の複合体の形成が次に検出される。コントロール反応物において複合体の形成があり、ただし試験化合物を含む反応混合物ではこのような形成が少ないかまたはないことは、この化合物がマーカータンパク質およびその結合パートナーの相互作用を妨害することを示す。逆に、コントロール反応においてではなく化合物の存在下でのさらなる複合体の形成によって、この化合物がマーカータンパク質およびその結合パートナーの相互作用を増強し得ることが示される。
マーカータンパク質とその結合パートナーとの相互作用を妨害する化合物についてのアッセイは、異種または同種の方式で行なわれ得る。異種アッセイは、マーカータンパク質またはその結合パートナーのいずれかを固相の上に固定する工程と、反応の最後の時点でこの固相に固定された複合体を検出する工程とを包含する。同種アッセイでは、全体的な反応を液相中で行なう。いずれのアプローチでも、反応物の添加の順序は、試験されている化合物についての異なる情報を得るために変化され得る。例えば、マーカータンパク質と結合パートナーとの間の相互作用を妨害する(例えば、競合によって)試験化合物は、試験物質の存在下でこの反応を行なうことによって、すなわち、このマーカーとその相互作用的な結合パートナーとの前にまたは同時にこの反応混合物に対して試験物質を添加することによって、決定され得る。あるいは、事前形成された複合体を破壊する試験化合物、例えば、複合体から1つの成分を取り去る高い結合定数を有する化合物は、複合体が形成された後にこの反応混合物に試験化合物を添加することによって試験され得る。種々の形式が以前に簡単に記載されている。
異種アッセイ系では、マーカータンパク質またはその結合パートナーのいずれかを固体表面またはマトリックスの上に固定するが、他の対応する非固定成分は、直接または間接的に標識され得る。実際には、マイクロタイタープレートがしばしば、このアプローチに利用される。固定された種は、代表的には当業者に周知である、非共有結合または共有結合のいずれかの、多数の方法によって固定され得る。非共有結合はしばしば、単に、固体表面をマーカータンパク質またはその結合パートナーの溶液でコーティングさせることおよび乾燥することによって、達成され得る。あるいは、固定されるべきアッセイ成分に特異的な固定された抗体がこの目的に用いられ得る。このような表面はしばしば、前もって調製されて貯蔵されてもよい。
関連の実施形態では、1つまたは両方のアッセイ成分がマトリックスに固定されることを可能にするドメインを付加する融合タンパク質が提供され得る。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/マーカー融合タンパク質またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ/結合パートナーが、グルタチオンセファローズビーズ(Sigma Chemical,St.Louis,MO)またはグルタチオンで誘導体化したマイクロタイタープレート上に吸着されてもよく、これを次いで試験化合物と、または試験化合物および非吸着標的マーカーまたはその結合パートナーのどちらかと組み合わせ、そしてこの混合物を複合体形成を促進する条件(例えば、生理的な条件)下でインキュベートする。インキュベーション後、ビーズまたはマイクロタイタープレートウェルを洗浄して、未結合のアッセイ成分を全て除去し、固定された複合体を、例えば上記のように、直接的にまたは間接的に評価する。あるいは、複合体をマトリックスから解離し、そしてマーカー結合または活性のレベルを標準的技術を用いて決定してもよい。
マトリックス上にタンパク質を固定する他の技術をまた、本発明のスクリーニングアッセイに用いることができる。例えば、マーカータンパク質またはマーカータンパク質結合パートナーのいずれかをビオチンおよびストレプトアビジンの結合を利用して固定することができる。ビオチニル化マーカータンパク質または標的分子をビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−サクシンイミド)から当該分野で公知の技術(例えば、ビオチニル化キット、Pierce Chemicals,Rockford,IL)を用いて調製して、ストレプトアビジンをコーティングした96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェルに固定することができる。特定の実施形態では、このタンパク質固定表面は、前もって調製して保管してもよい。
このアッセイを行なうために、固定されたアッセイ成分の対応するパートナーを、試験化合物の有無のもとでこのコーティングされた表面に曝す。反応終了後、未反応のアッセイ成分を除去して(例えば、洗浄によって)、形成されたあらゆる複合体を固体表面に結合したままにする。固体表面に固定された複合体の検出は、多数の方法で達成され得る。非固定成分が事前標識されている場合、この表面上に固定された標識の検出によって、複合体が形成されたことが示される。非固定成分が事前に標識されていない場合、間接的な標識を用いて、この表面上に固定された複合体を検出することができる;例えば、最初に非固定種に特異的な標識された抗体を用いて(抗体は、次に、例えば、標識された抗Ig抗体を用いて直接標識されても、間接的に標識されてもよい)。反応成分の添加の順序次第で、複合体形成を調節する(阻害するかまたは増強する)、または事前形成された複合体を破壊する試験化合物が検出され得る。
本発明の別の実施形態では、相同なアッセイを用いてもよい。これは代表的には試験化合物の有無において液相で行なわれる上述のアッセイと類似の反応である。この形成された複合体は次いで、未反応の成分から分離され、そして形成された複合体の量が決定される。異種アッセイ系について言及される場合、液相に対する反応物の添加の順序によって、試験化合物が複合体形成を調節(阻害または増強)し、そして事前形成された複合体を破壊する情報を得ることができる。
このような相同なアッセイにおいて、反応産物は、限定はしないが:分画遠心法、クロマトグラフィー、電気泳動および免疫沈澱分離を含む任意の多数の標準的な技術によって未反応のアッセイ成分から分離され得る。分画遠心法では、分子の複合体は、複合体の種々のサイズおよび密度に基づくその複合体の分画沈殿平衡に起因して、一連の遠心分離工程を通じて複合体になっていない分子から分離され得る(例えば、Rivas,G.およびMinton,A.P.,Trends Biochem Sci 1993 Aug;18(8)284〜7を参照のこと)。標準的なクロマトグラフィー技術も、複合体化していないものから複合体分子を分離するのに利用され得る。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーは、サイズに基づいて、そして適切なゲル濾過樹脂をカラムの形態で利用することによって分子を分離する、例えば、比較的大きい複合体ほど、小さい複合体化していない成分から分離され得る。同様に、複合体化していない分子に比べて、この複合体の比較的異なる特性は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー樹脂の使用を通じて、残りの個々の反応物質から複合体を示差的に分離するように開発され得る。このような樹脂およびクロマトグラフィー技術は、当業者に周知である(例えば、Heegaard,1998、J Mol.Recognit.11:141〜148;Hage and Tweed,1997,J.Chromatogr.B.Biomed.Sci.Appl.,699:499〜525を参照のこと)。未結合の種から複合体化した分子を分離するにはゲル電気泳動も使用できる(例えば、Ausubel et al(編)Current Prptpcols in Molecular Biology,J.Wiley & Sons,New York.1999を参照のこと)。この技術では、タンパク質または核酸複合体は、例えば、サイズまたは電荷に基づいて分離される。電気泳動プロセスの間に結合相互作用を維持するため、還元剤の非存在下での非変性ゲルが代表的には好ましいが、特定の相互作用に適切な条件が当業者に周知である。免疫沈降は溶液からのタンパク質−タンパク質複合体の単離のために利用される別の共通の技術である(例えば、Ausubel et al(編)Current Prptpcols in Molecular Biology,J.Wiley & Sons,New York.1999を参照のこと)。この技術では、結合分子の1つに特異的な抗体への全てのタンパク質の結合は、遠心分離によって容易に収集され得る、ポリマービーズに対する抗体の結合体化によって溶液から沈殿される。結合アッセイ成分は、ビーズから遊離され(特定のタンパク質分解事象または複合体中のタンパク質−タンパク質相互作用を破壊しない、当該分野で周知の他の技術によって)、そして第二の免疫沈澱工程が行なわれ、この時、対応して異なる相互作用アッセイ成分に特異的な抗体を利用する。この方式では、形成された複合体のみが、ビーズに結合されたまま残るはずである。試験化合物の有無の両方における複合体形成の変動を比較し得、これによって、化合物がマーカータンパク質とその結合パートナーとの間の相互作用を調節する能力についての情報が得られる。
さらなるサンプル操作なしの同種または異種アッセイ系におけるマーカータンパク質とその天然の結合パートナーおよび/または試験化合物との間の相互作用の直接的な検出のための方法もまた本発明の範囲内である。例えば、蛍光エネルギー移動の技術が利用され得る(例えば、Lakowicz et al.,米国特許第5,631,169号;Stavrianopolus et al.,米国特許第4,868,103号を参照のこと)。一般には、この技術は、第一の「ドナー(donor)」分子に対する蛍光標識(例えば、マーカーまたは試験化合物)の付加を包含し、その結果その放射蛍光エネルギーは、第二の「アクセプター(acceptor)」分子(例えば、マーカーまたは試験化合物)上の蛍光標識によって吸着され、これが次に吸収されたエネルギーに起因して蛍光を発し得る。あるいは、「ドナー(donor)」タンパク質分子は単に、トリプトファン残基の天然の蛍光エネルギーを利用し得る。「アクセプター」分子標識が、「ドナー(donor)」のものとは識別され得るように、異なる波長の光を放射する標識が選択される。標識の間のエネルギー転移の有効性は、分子を隔てる距離に関係するので、分子の間の空間的な関係が評価され得る。分子間で結合が生じる状況では、アッセイ中の「アクセプター」分子標識の蛍光放射は最大であるはずである。FET結合事象は、当該分野で周知の標準的な蛍光検出手段によって従来のように測定され得る(例えば、蛍光計を用いて)。事前形成された複合体における種の1つの関与を増強するかまたは隠す試験物質は、バックグラウンドのシグナルに対してシグナル変異を生じる。この方法では、マーカーとその結合パートナーとの間の相互作用を調節する試験物質は、制御されたアッセイで同定され得る。
別の実施形態では、マーカー発現の修飾因子は、細胞が候補化合物と接触され、そしてマーカーのmRNAまたはタンパク質の細胞中での発現が決定される方法で同定される。候補化合物の存在下でのマーカーのmRNAまたはタンパク質の発現のレベルを、候補化合物の非存在下におけるマーカーのmRNAまたはタンパク質の発現のレベルと比較する。次いでこの候補化合物は、この比較に基づいてマーカー発現の修飾因子として同定され得る。例えば、マーカーのmRNAまたはタンパク質の発現が候補化合物の非存在下よりも存在下において大きい(統計学的に有意に大きい)場合、この候補化合物は、マーカーmRNAまたはタンパク質発現の刺激因子として同定される。逆に、マーカーのmRNAまたはタンパク質の発現が、候補化合物の非存在下よりも存在下において小さい(統計学的に有意に小さい)場合、この候補化合物は、マーカーmRNAまたはタンパク質発現のインヒビターとして同定される。細胞中のマーカーmRNAまたはタンパク質発現のレベルは、マーカーのmRNAまたはタンパク質を検出するために本明細書において記載された方法によって決定され得る。
別の局面では、本発明は、本明細書に記載される2つ以上のアッセイの組み合わせに関与する。例えば、修飾因子は、細胞ベースのアッセイまたは無細胞アッセイを用いて同定され得、そしてこの因子がマーカータンパク質の活性を調節する能力は、細胞の形質転換および/または腫瘍形成のための、例えば、動物全体モデルにおいてインビボでさらに確認され得る。
本発明はさらに、上記のスクリーニングアッセイによって同定された新規な因子に関する。従って、適切な動物モデルにおいて本明細書に記載のように同定された因子をさらに用いることは本発明の範囲内である。例えば、本明細書に記載のように同定された因子(例えば、マーカー修飾因子、アンチセンスマーカー核酸分子、マーカー特異的抗体、またはマーカー結合パートナー)は、このような因子を用いる処置の有効性、毒性または副作用を決定するための動物モデルにおいて用いられ得る。あるいは、本明細書に記載のように同定された因子は、このような因子の作用の機構を決定するために動物モデルにおいて用いられ得る。さらに、本発明は、本明細書に記載のような処置のための上記のスクリーニングアッセイによって同定された新規な因子の使用に関する。
低分子因子およびタンパク質またはポリペプチド因子の適切な用量は、習熟した医師、獣医師または研究者の知識の範囲内の多数の要因に依存することが理解される。これらの因子の用量(単数または複数)は、例えば、処置されている被験体またはサンプルの同一性、サイズおよび条件に依存して、さらに妥当な場合、この組成物が投与される経路、ならびにこの因子が本発明の核酸またはポリペプチドに対して有することを実施者が所望する効果に依存して変化する。低分子の例示的な用量は、被験体またはサンプルの重量の1kgあたり1mgまたはμgである(例えば、1kgあたり約1μg〜1kgあたり約500mg、1kgあたり約100μg〜1kgあたり約5mg、または1kgあたり約1μg〜1kgあたり約50mg)。タンパク質またはポリペプチドの例示的な用量としては、被験体またはサンプルの重量の1kgあたり1g、mgまたはμgの量が挙げられる(例えば、1kgあたり約1μg〜1kgあたり約5g、1kgあたり約100μg〜1kgあたり約500mg、または1kgあたり約1mg〜1kgあたり約50mg)。これらの因子の1つの適切な用量は、調節される発現または活性に関するこの因子の能力に依存することがさらに理解される。このような適切な用量は、本明細書に記載のアッセイを用いて決定され得る。これらの因子の1つ以上が本発明のポリペプチドまたは核酸の発現または活性を調節するために動物(例えば、ヒト)に投与される場合、医師、獣医師または研究者は、例えば、最初に比較的低用量を処方し、その後に適切な応答が得られるまでこの用量を漸増することができる。さらに、任意の特定の動物被験体についての特定の用量レベルは、使用される特定の因子の活性、被験体の年齢、体重、全身的健康状態、性別および食餌、投与の時間、投与の経路、排出経路、任意の併用薬、ならびに調節されるべき発現または活性の程度を含む種々の要因に基づくことが理解される。
本発明の薬学的組成物は、投与の意図される経路に適合するように処方される。投与の経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、口腔(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜および直腸の投与が挙げられる。非経口、皮内または皮下適用のために用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含んでもよい:滅菌希釈液、例えば、注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重硫酸ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン−四酢酸;緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩および毒性の調節のための因子、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで調整され得る。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチックからなる、アンプル、ディスポーザブルシリンジまたは複数回投与用バイアルに入れられてもよい。
注射用に適切な薬学的組成物としては、滅菌注射用水または分散の即時的調製のための滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散剤および滅菌粉末が挙げられる。静脈内投与のためには、適切なキャリアとしては、生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(BASF;Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合に、この組成物は、滅菌でなければならず、そして容易にシリンジに適合する程度まで液体でなければならない。これは、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、そして細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。このキャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびその適切な混合物を含む、溶媒であっても分散媒体であってもよい。適切な液体は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、そしてサーファクタントの使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、等張性剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムをこの組成物に含むことが好ましい。注射可能組成物の長期の吸収は、吸収を遅延させる因子、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含むことによって達成され得る。
滅菌注射用液は、活性化合物(例えば、ポリペプチドまたは抗体)を必要な量で適切な溶媒中に、必要に応じて、上に列挙される成分の1つまたは組み合わせとともに組み込むことによって、その後に濾過滅菌によって調製され得る。一般には、分散は、基本的分散培地を含む滅菌ビヒクル中に活性化合物を組み込むこと、次いで上に列挙された成分由来の必要な他の成分を組み込むことによって調製される。滅菌注射用水の調製のための滅菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、減圧乾燥および凍結乾燥であり、これによって活性成分に任意のさらなる所望の成分を加えた粉末が、その以前に滅菌濾過された溶液から得られる。
経口組成物は一般に、不活性希釈液または食用キャリアを含む。それらは、ゼラチンカプセルに包含されても、または錠剤に圧縮されてもよい。経口治療投与の目的のために、活性化合物は、賦形剤とともに組み込まれて、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で用いられてもよい。経口成分はまた、液体キャリア中の化合物が経口的に加えられて、濯がれて、吐き出されるかまたは飲み込まれる、口腔洗浄液としての使用のための液体キャリアを用いて調製されてもよい。
薬学的に適合する結合剤、および/またはアジュバント物質は、この組成物の一部として含まれてもよい。錠剤、丸剤、カプセル、トローチなどは、以下のいずれかの成分、または同様の性質の化合物を含んでもよい:結合剤、例えば、微結晶性セルロース、ガムトラガカントまたはゼラチン;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトース、崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotes;流動促進剤、例えば、コロイド性二酸化ケイ素;甘味料、例えば、スクロースまたはサッカリン;あるいは芳香剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料。
吸入による投与のためには、化合物は、適切な噴霧剤、例えば、二酸化炭素のようなガスを含む圧縮容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
全身投与はまた、経粘膜または経皮的手段によっても可能である。経粘膜投与または経皮投与のためには、障壁に浸透させるのに適切な浸透剤が処方物中で用いられる。このような浸透剤は一般には、当該分野で公知であるが、例えば、経粘膜投与のためには、界面活性剤、胆汁塩およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経皮投与は、経鼻噴霧または坐剤の使用を通じて達成され得る。経皮投与のために、活性化合物は、当該分野で一般に公知のような、軟膏(ointments、salves)、ゲル、またはクリーム中に処方される。
化合物はまた、坐剤(例えば、ココアバターおよび他のグリセリドのような従来の坐剤基剤を含む)または直腸送達のための滞留浣腸剤の形態で調製されてもよい。
1実施形態では、活性化合物を、化合物を身体からの迅速な排泄から防止するキャリア、例えば、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤とともに調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ酢酸のような、生物分解性で生体適合性のポリマーを使用し得る。そのような製剤を調製する方法は当業者に明らかである。材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から市販で入手可能である。リポソームの懸濁液(リポソームであって、その中または上にモノクローナル抗体を組み込まれているリポソームを含む)をまた、薬学的に受容可能なキャリアとして用いてもよい。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に記載のように、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
経口または非経口組成物を、投与および投与量の均一性の容易さのために投薬単位形態で処方することが特に有利である。本明細書において用いられる投薬単位形態とは、処置されるべき被験体のための単位投薬量として適した物理的に別個の単位を指す;各々の単位は、必要な薬学的キャリアと組み合わせて、所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の予め決定された量を含む。本発明の投薬単位形態のための仕様は、活性化合物の固有の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個々の処置についてこのような活性化合物からなる当該分野の固有の限界によって示され、そしてそれらに直接依存する。
抗体については、好ましい投薬量は、体重1kgあたり0.1mg〜100mg(通常は10mg/kg〜20mg/kg)である。抗体が脳において作用する場合、50mg/kg〜100mg/kgの投薬量が通常適切である。一般には、部分的ヒト抗体および完全ヒト抗体は、他の抗体よりもヒト身体内で長い半減期を有する。従って、少ない投薬量および少ない投与頻度がしばしば可能である。脂質化のような改変が、抗体を安定化して、取り込みおよび組織浸透を増強するために用いられ得る。抗体の脂質化のための方法は、Cruikshank et al.(1997)J.Acquired Immune Deficiency Syndromes and Human Retrovirology 14:193によって記載される。
本発明はまた、乳癌の予防および/または処置のためのワクチン組成物を提供する。本発明は、乳癌に対する免疫応答を刺激するために、表1のマーカーのタンパク質、または表1のマーカーのタンパク質の組み合わせが被験体に導入されている乳癌ワクチン組成物を提供する。本発明はまた、表1に同定されるマーカーまたはマーカーのフラグメントを発現する遺伝子発現構築物が、被験体に導入され、その結果表1のマーカーによってコードされるタンパク質またはタンパク質のフラグメントが被験体のトランスフェクトされた細胞によって正常より高いレベルで生成され、免疫応答を誘発する乳癌ワクチン組成物を提供する。
1実施形態では、乳癌ワクチンは、乳癌の予防のための免疫治療因子として提供されて使用される。別の実施形態では、乳癌ワクチンは、乳癌の処置のための免疫治療因子として提供されて使用される。
例えば、表1のマーカーのタンパク質からなる乳癌ワクチンは、種々の経路、例えば、経皮的に、皮下的にまたは筋肉内によってワクチンを投与することによって被験体における乳癌の予防および/または処置のために使用され得る。さらに、乳癌ワクチンは、ワクチンの活性および被験体の応答をブーストするために、アジュバントおよび/または免疫調整剤と一緒に投与され得る。1実施形態では、徐放性放出または間欠放出に適切な、ワクチンを含むデバイスおよび/または組成物は、身体内へのこのような物質の比較的遅い放出のために身体に組み込まれてもよく、またはそこに局所適用されてもよい。ガンを排除するのにおいてさらに有効である応答を生成するために生成された、免疫応答のタイプを変更し得る乳癌ワクチンは、免疫調節化合物とともに導入されてもよい。
別の実施形態では、表1のマーカーの発現構築物からなる乳癌ワクチンは、筋肉への注射によって、またはマイクロプロジェクタイル(microprojectile)上にコーティングすることおよび高速で皮膚にプロジェクタイル(projectiles)を発射する目的用に設計されたデバイスを用いることによって導入され得る。次いで、本発明の細胞は表1のマーカーのタンパク質(単数または複数)またはタンパク質のフラグメントを発現して、免疫応答を誘導する。さらに、乳癌ワクチンは、免疫応答を増大するか、またはガンを排除するのに有効である応答を生成するために生成されたタイプの免疫応答を調節し得る、サイトカインのような免疫調節分子のための発現構築物とともに導入されてもよい。
マーカー核酸分子は、ベクターに挿入されてもよく、そして遺伝子治療ベクターとして用いられてもよい。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈注射、局所投与によって(米国特許第5,328,470号)、または定位的注射によって(例えば、Chen et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3054−3057を参照のこと)被験体に送達され得る。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は、受容可能な希釈物中に遺伝子治療ベクターを含んでもよいし、またはこの遺伝子送達ビヒクルが包含されている徐放性マトリックスを含んでもよい。あるいは、完全な遺伝子送達ベクター、例えばレトロウイルスベクターが、組み換え細胞からインタクトに生成され得る場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を生成する1つ以上の細胞を含んでもよい。
薬学的組成物は、投与のための説明書とともに容器、パックまたはディスペンサーに含まれ得る。
予測医学
本発明は、診断アッセイ、予後アッセイ、薬理ゲノム学、および臨床試験のモニタリングを予後的(予測的)目的で使用し、これによって個体を予防的に処置する、予測医学の分野に関する。従って、本発明の1つの局面は、個体が乳癌を発症するリスクがあるか否かを決定するために、マーカータンパク質または核酸の1つ以上の発現のレベルを決定するための診断アッセイに関する。このようなアッセイは、それによってガンの発現の前に個体を予防的に処置するための予後または予測の目的のために用いられ得る。
本発明のさらに別の局面は、薬剤(例えば、乳癌を阻害するために、または任意の他の障害を処置もしくは予防するために投与される、薬物または他の化合物{すなわち、このような処置が有し得る任意の乳癌発癌性効果を理解するため})の臨床トライアルにおける本発明のマーカーの発現または活性に対する影響をモニタリングすることに関する。これらおよび他の薬剤については以下のセクションでさらに詳細に説明する。
診断的アッセイ
生物学的サンプル中におけるマーカータンパク質または核酸の有無を検出するための例示的な方法は、試験被験体から生物学的サンプル(例えば、乳房関連体液)を得る工程と、生物学的サンプルをこのポリペプチドまたは核酸(例えば、mRNA、ゲノムDNA、またはcDNA)を検出する能力のある化合物または薬剤と接触させる工程とを包含する。従って、本発明の検出方法は、インビトロおよびインビボにおいて、例えば、生物学的サンプル中のmRNA、タンパク質、cDNAまたはゲノムDNAを検出するために用いられ得る。例えば、mRNAの検出のためのインビトロ技術としては、ノーザンハイブリダイゼーションおよびインサイチュハイブリダイゼーションが挙げられる。マーカータンパク質を検出するためのインビトロ技術としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット、免疫沈降、および免疫蛍光が挙げられる。ゲノムDNAの検出のためのインビトロ技術としては、サザンハイブリダイゼーションが挙げられる。さらに、マーカータンパク質を検出するためのインビボ技術は、被験体中へこのタンパク質またはそのフラグメントに対する標識抗体を導入する工程を包含する。例えば、抗体を、被験体中のその存在および位置を標準的な造影技術で検出し得る放射活性マーカーで標識することができる。
このような診断および予測アッセイの一般的原理は、サンプルまたはマーカーおよびプローブを含み得る反応混合物を、このマーカーおよびプローブが相互作用して結合することを可能にするのに適切な条件および十分な時間のもとで調製して、これによって反応混合物中で除去されるか、および/または検出され得る複合体を形成する工程を包含する。これらのアッセイは、種々の方法で行なうことができる。
例えば、このようなアッセイを行なうための1方法は、基質とも呼ばれる固相支持体上にマーカーまたはプローブを固定する工程、および反応の終わりの時点で固相上に固定された標的マーカー/プローブ複合体を検出する工程を包含する。このような方法の1実施形態では、マーカーの存在および/または濃度についてアッセイすべき、被験体由来のサンプルを、キャリアまたは固相支持体上に固定してもよい。別の実施形態では、逆の状態が可能であり、ここではプローブが固相に固定されてもよく、そして被験体由来のサンプルはアッセイの未固定成分として反応されてもよい。
固相に対してアッセイ成分を固定するための多くの方法が確立されている。これらとしては、限定はしないが、ビオチンおよびストレプトアビジンの結合を通じて固定されているマーカーまたはプローブの分子が挙げられる。このようなビオチニル化アッセイ成分は、ビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−サクシンイミド)から当該分野内で公知の技術(例えば、ビオチニル化キット、Pierce Chemicals,Rockford,IL)を用いて調製して、ストレプトアビジンをコーティングした96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェルに固定化することができる。特定の実施形態では、アッセイ成分が固定されている表面は、前もって調製されて保管されてもよい。
このようなアッセイのための他の適切なキャリアまたは固相支持体としては、マーカーまたはプローブが属する分子のクラスに結合し得る任意の物質が挙げられる。周知の支持体またはキャリアとしては、限定はしないが、ガラス、ポリスチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、デキストラン、アミラーゼ、天然および改変されたセルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩(gabbros)および磁鉄鉱が挙げられる。
上記のアプローチを用いてアッセイを行なうために、固定されていない成分を固相に添加して、その際第二の成分を固定する。反応の終了後、複合体化していない成分を、形成されたあらゆる複合体が固相に固定したままであるような条件下で、除去してもよい(例えば、洗浄によって)。固相に固定されたマーカー/プローブ複合体の検出は、本明細書に概説される多数の方法で達成され得る。
好ましい実施形態では、プローブは、未固定のアッセイ成分である場合、本明細書において考察されており、当業者に周知である検出可能標識を用いて直接または間接的に、アッセイの検出および読み取りの目的のために標識され得る。
例えば、蛍光エネルギー移動の技術(例えば、Lakowicz et al.,米国特許第5,631,169号;Stavrianopolus et al.,米国特許第4,868,103号を参照のこと)を利用することによって、いずれかの成分(マーカーまたはプローブ)のさらなる操作または標識なしに、マーカー/プローブ複合体の形成を直接検出することも可能である。第一の「ドナー(donor)」分子上の発蛍光団標識は、適切な波長の入射光線での励起の際に、その発光された蛍光エネルギーが、第二の「アクセプター(acceptor)」分子上の蛍光標識によって吸着され、これが次に吸収されたエネルギーに起因して蛍光を発し得るように選択される。あるいは、「ドナー(donor)」タンパク質分子は単に、トリプトファン残基の天然の蛍光エネルギーを利用し得る。「アクセプター」分子標識が、「ドナー(donor)」のものとは識別され得るように、異なる波長の光を放射する標識が選択される。標識の間のエネルギー転移の有効性は、分子を隔てる距離に関係するので、分子の間の空間的な関係が評価され得る。分子間で結合が生じる状況では、アッセイ中の「アクセプター」分子標識の蛍光放射が最大であるはずである。FET結合事象は、当該分野で周知の標準的な蛍光検出手段によって従来のように測定され得る(例えば、蛍光計を用いて)。
別の実施形態では、プローブがマーカーを認識する能力を決定することは、リアルタイムBiomolecular Interaction Analysis(BIA)(例えば、Sjolander,S.およびUrbaniczky,C.,1991,Anal.Chem.63:2338〜2345およびSzabo et al.,1995,Curr.Opin.Struct.Biol.5:699〜705を参照のこと)のような技術を利用することによって、アッセイ成分(プローブまたはマーカー)のいずれかを標識することなく達成できる。本明細書において用いる場合、「BIA」または「表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)」は、いかなる反応体(例えばBIAcore)も標識することなく、生体特異的相互作用をリアルタイムで研究するための技術である。結合表面の質量の変化(結合事象の指標)によって、表面付近の光の屈折率の変化が生じ(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学的現象)、その結果、生物学的分子の間のリアルタイムの反応の指標として用いられ得る検出可能シグナルが得られる。
あるいは、別の実施形態では、類似の診断および予後予測アッセイが、液相中の溶質としてマーカーおよびプローブを用いて行なわれ得る。このようなアッセイでは、複合体化されたマーカーおよびプローブは、限定はしないが:分画遠心法、クロマトグラフィー、電気泳動および免疫沈澱分離を含む任意の多数の標準的な技術によって、複合体化されていない成分から分離される。分画遠心法では、マーカー/プローブ複合体は、その複合体の種々のサイズおよび密度に基づくその複合体の分画沈殿平衡に起因して、一連の遠心分離工程を通じて複合体になっていないアッセイ成分から分離され得る(例えば、Rivas,G.およびMinton,A.P.,1993,Trends Biochem Sci.18(8)284〜7を参照のこと)。標準的なクロマトグラフィー技術も、複合体化していないものから複合体分子を分離するのに利用され得る。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーは、サイズに基づいて、そして適切なゲル濾過樹脂をカラムの形態で利用することによって分子を分離する、例えば、比較的大きい複合体は、比較的小さい複合体化していない成分から分離され得る。同様に、複合体化していない成分に比べて、このマーカー/プローブ複合体の比較的異なる電荷特性が、例えば、イオン交換クロマトグラフィー樹脂の利用を通じて、複合体化されていない成分から複合体を識別するように開発され得る。このような樹脂およびクロマトグラフィー技術は、当業者に周知である(例えば、Heegaard,N.H.1998、J Mol.Recognit.Winter 11(1−6):141−8;Hage,D.S.and Tweed,S.A.J.Chromatogr.B.Biomed.Sci.Appl 1997 Oct 10;699:499−525を参照のこと)。未結合の成分から複合体化したアッセイ成分を分離するにはゲル電気泳動も使用できる(例えば、Ausubel et al(編)Current Protocols in Molecular Biology,J.Wiley & Sons,New York.1987−1999を参照のこと)。この技術では、タンパク質または核酸複合体は、例えば、サイズまたは電荷に基づいて分離される。電気泳動プロセスの間に結合相互作用を維持するためには、還元剤の非存在下での非変性ゲルマトリックス物質および条件が代表的には好ましい。特定のアッセイおよびその成分に対して適切な条件は、当業者に周知である。
特定の実施形態では、マーカーmRNAのレベルは、当該分野で公知の方法を用いて生物学的サンプル中で、インサイチュ方式およびインビトロ方式の両方で決定され得る。「生物学的サンプル(biological sample)」という用語は、被験体、ならびに被験体に存在する組織、細胞および液体から単離された、組織、細胞、生物学的液体およびその単離物を包含するものとする。多くの発現検出方法は、単離されたRNAを用いる。インビトロの方法については、乳房細胞からのRNAの精製のために、mRNAの単離に関して選択しない任意のRNA単離技術を利用し得る(例えば、Ausubel et al(編)Current Protocols in Molecular Biology,J.Wiley & Sons,New York.1987−1999を参照のこと)。さらに、当業者に周知の技術、例えば、Chomczynski(1989,米国特許第4,843,155号)の単一工程RNA単離プロセスのような技術を用いて多数の組織サンプルが容易に処理できる。
単離されたmRNAは、限定はしないが、サザン分析またはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析およびプローブアレイを含む、ハイブリダイゼーションまたは増幅のアッセイにおいて用いられ得る。mRNAレベルの検出のための1つの好ましい診断方法は、単離されたmRNAと、検出されている遺伝子によってコードされるmRNAにハイブリダイズし得る核酸分子(プローブ)とを接触させる工程を包含する。核酸プローブは、例えば全長cDNAまたはその一部、例えば、少なくとも7、15、30、50、100、250または500ヌクレオチド長であり、かつ本発明のマーカーをコードするmRNAもしくはゲノムDNAに対してストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドであり得る。本発明の診断アッセイにおける使用のための他の適切なプローブは本明細書に記載されている。プローブとのmRNAのハイブリダイゼーションによって、該当のマーカーが発現されているということが示される。
1方式では、mRNAは、例えば、アガロースゲル上で単離されたmRNAを泳動することおよびmRNAをこのゲルからニトロセルロースのようなメンブレンに転写することによって、固体表面に固定されて、プローブと接触させられる。別の方式では、プローブ(単数または複数)は、固体表面上に固定されて、mRNAが、例えば、Affymetrix遺伝子チップアレイ中でプローブ(単数または複数)と接触される。当業者は、本発明のマーカーによってコードされるmRNAのレベルを検出するのにおいて用いるために公知のmRNA検出方法を容易に適合し得る。
サンプル中のmRNAマーカーのレベルを決定するための別の方法は、例えば、rtPCR(Mullis,1987,米国特許第4,683,202号に示される実験的実施形態)、リガーゼ連鎖反応(Barany,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:189−193)、自己保存配列複製(self sustained sequence replication)(Guatelli et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874−1878)、転写増幅システム(transcriptional amplification system)(Kwoh et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173−1177)、Q−Beta Replicase(Lizardi et al.,1988,Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル複製(roling circle replication)(Lizardi et al.,米国特許第5,854,033号)または任意の他の核酸増幅方法による核酸増幅のプロセス、その後の当該分野で周知の技術を用いるこの増幅された分子の検出を包含する。これらの検出スキームは、核酸分子が極めて少数しか存在しない場合、このような核酸分子の検出のために特に有用である。本明細書において用いる場合、増幅プライマーは、遺伝子の5’または3’領域にアニーリングされ得る核酸分子の対(それぞれプラス鎖およびマイナス鎖、逆も真)であると規定され、そして間に短い領域を含む。一般に、増幅プライマーは、約10〜30ヌクレオチド長であり、約50〜200ヌクレオチド長の領域に隣接する。適切な条件下で適切な試薬を用いれば、このようなプライマーは、そのプライマーに隣接するヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を可能にする。
インサイチュの方法のためには、mRNAは、検出の前に乳房細胞から単離される必要はない。このような方法では、細胞または組織サンプルは、公知の組織学的方法を用いて調製/処理される。次いで、サンプルは支持体、代表的にはガラススライドに固定されて、次いでマーカーをコードするmRNAに対してハイブリダイズされ得るプローブと接触される。
マーカーの絶対的発現レベルに基づく決定を行なう代わりに、マーカーの正規化した発現レベルに基いて決定を行なってもよい。発現レベルは、マーカーの発現をマーカーではない遺伝子、例えば恒常的に発現されるハウスキーピング遺伝子の発現に対して比較することによりマーカーの絶対的発現レベルを補正することによって、正規化される。正規化のために適切な遺伝子としては、アクチン遺伝子、または上皮細胞特異的遺伝子のようなハウスキーピング遺伝子が挙げられる。この正規化によって、1サンプル、例えば患者サンプル中の発現レベルと、別のサンプル、例えば、非乳癌サンプルとの比較、または種々の供給源由来のサンプル間の比較が可能になる。
あるいは、発現レベルは、相対的発現レベルとして提供されてもよい。マーカーの相対的発現レベルを決定するため、マーカーの発現のレベルは、該当のサンプルについての発現レベルの決定の前に、ガン細胞単離物に対して10個以上の正常のサンプル、好ましくは50個以上のサンプルについて決定した。多数のサンプルにおいてアッセイされた遺伝子の各々の平均発現レベルを決定して、これをマーカーのベースラインの発現レベルとして用いる。次いで、試験サンプルについて決定されたマーカーの発現レベル(絶対的レベルの発現)を、そのマーカーについて得られた平均発現値で割る。これによって、相対的な発現レベルが得られる。
好ましくは、ベースライン決定において用いられるサンプルは、乳癌に由来するか、または乳房組織の非乳癌細胞に由来する。細胞供給源の選択は、相対的発現レベルの使用に依存する。平均発現スコアとして正常な組織で見出される発現を用いて、アッセイされたマーカーが(正常な細胞に対して)乳房特異的であるか否かを確証することが補助される。さらに、さらなるデータを蓄積すれば、平均発現値が改訂され得、蓄積されたデータに基いて相対的発現値が改善される。乳房細胞からの発現データによって、乳癌状態の重篤度を分類するための手段が得られる。
本発明の別の実施形態では、マーカータンパク質が検出される。本発明のマーカータンパク質を検出するための好ましい因子は、このようなタンパク質またはそのフラグメントに結合し得る抗体であって、好ましくは検出可能レベルの抗体である。抗体は、ポリクローナル抗体であっても、さらに好ましくはモノクローナル抗体であってもよい。インタクトな抗体、またはそのフラグメントもしくは誘導体(例えば、FabまたはF(ab’)2)が用いられ得る。プローブまたは抗体に関して「標識された(labeled)」という用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリングする(すなわち物理的に連結する)ことによってこのプローブまたは抗体を直接的に標識する工程、ならびに直接標識されている別の試薬との反応性によってプローブまたは抗体を間接的に標識する工程を包含するものとする。間接的な標識の例としては、蛍光標識した二次抗体を用いる一次抗体の検出、および蛍光標識したストレブトアビジンで検出できるように、ビオチンでDNAプローブを末端標識する工程が挙げられる。
乳房細胞由来のタンパク質は、当業者に周知である技術を用いて単離され得る。使用されるタンパク質単離方法は、例えば、HarlowおよびLane(Harlow and Lane,1988,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)に記載される方法などであってもよい。
所定の抗体に結合するタンパク質をサンプルが含むか否かを決定するためには種々の形式が使用され得る。このような形式の例としては、限定はしないが、酵素免疫測定法(エンザイムイムノアッセイ)(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット分析および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が挙げられる。当業者は、乳房細胞が本発明のマーカーを発現するか否かを決定するのにおける使用のために公知のタンパク質/抗体検出方法を容易に適合させることができる。
1つの形式では、抗体、または抗体フラグメントもしくは誘導体をウエスタンブロットまたは免疫蛍光測定技術のような方法において用いて、発現されたタンパク質を検出することができる。このような用途においては、固体支持体上の抗体またはタンパク質のいずれかを固定することが一般に好ましい。適切な固相支持体またはキャリアとしては、抗原または抗体に結合し得る任意の支持体が挙げられる。周知の支持体またはキャリアとしては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩(gabbros)および磁鉄鉱が挙げられる。
当業者には、抗体または抗原に結合するための多くの他の適切なキャリアが公知であり、そして本発明との使用のためにこのような支持体を適合させることができる。例えば、乳房細胞から単離されたタンパク質は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動上で泳動されて、ニトロセルロースのような固相支持体の上に固定され得る。次いで、この支持体を適切な緩衝液で洗浄し、続いて検出可能に標識した抗体で処理してもよい。次いで固相支持体を2回目に緩衝液で洗浄して未結合の抗体を除いてもよい。次いで固体支持体上に結合した標識の量は、従来の手段によって検出され得る。
本発明はまた、生物学的サンプル(例えば、乳首吸引液のような乳房関連体液)中でマーカータンパク質または核酸の存在を検出するためのキットを包含する。このようなキットは、被験体が乳癌に罹患しているか、または乳癌を発症するリスクが増大しているかを決定するために用いられ得る。例えば、このキットは、生物学的サンプル中でマーカータンパク質または核酸を検出できる標識された化合物または因子、およびサンプル中のタンパク質またはmRNAの量を決定するための手段を備えてもよい(例えば、タンパク質もしくはそのフラグメントに結合する抗体、またはこのタンパク質をコードするDNAもしくはmRNAに結合するオリゴヌクレオチドプローブ)。キットはまた、このキットを用いて得られる結果を解釈するための説明書を備えてもよい。
抗体ベースのキットについては、このキットは、例えば:(1)マーカータンパク質に結合する第一の抗体(例えば、固体支持体に結合される);および、必要に応じて(2)このタンパク質または第一の抗体のいずれかに結合して、検出可能な標識に対して結合体化される、第二の異なる抗体、を含んでもよい。
オリゴヌクレオチドベースのキットについては、このキットは、例えば:(1)マーカータンパク質をコードする核酸配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、例えば、検出可能に標識されたオリゴヌクレオチド、または(2)マーカー核酸分子を増幅するために有用なプライマーの対、を含んでもよい。このキットはまた、例えば、緩衝化剤、防腐剤、またはタンパク質安定化剤を含んでもよい。このキットはさらに、検出可能標識(例えば、酵素または基質)を検出するために必要な成分をさらに含んでもよい。このキットはまた、アッセイされて、試験サンプルに比較され得る、コントロールサンプルまたは一連のコントロールサンプルを含んでもよい。キットの各々の成分は、個々の容器内に包含され得、そして種々の容器の全ては、このキットを用いて行なわれるアッセイの結果を解釈するための説明書とともに、単独のパッケージ内であってもよい。
薬理ゲノム学
本発明のマーカーはまた、薬理ゲノム学のマーカーとしても有用である。本明細書において用いる場合、「薬理ゲノム学マーカー(pharmacogenomic marker)」とは、その発現レベルが患者における特定の臨床薬物応答または感受性と相関している客観的生物化学マーカーである(例えば、McLeod et al.,(1999)Eur.J.Cancer 35(12):1650〜1652を参照のこと)。薬理ゲノム学マーカーの発現の存在または量は、患者の予想される応答、さらに詳細には特定の薬物または薬物のクラスでの治療に対する患者の腫瘍の予想される応答に関している。患者において1つ以上の薬理ゲノムマーカーの発現の存在または量を評価することによって、その患者に最も適切な、またはさらに大きい程度の成功を有すると推測される薬物療法が選択され得る。例えば、患者における特定の腫瘍マーカーによってコードされるRNAまたはタンパク質の存在または量に基づいて、患者に存在する可能性が高い特定の腫瘍の処置のために適している、薬物または処置のコースが選択され得る。従って、薬理ゲノム学マーカーの使用によって、種々の薬物もレジメンも試みることなく、各々のガン患者について最も適切な処置を選択または設計することが可能になる。
別の局面の薬理ゲノミクスでは、薬物に対して体が反応する方法を変更する遺伝的状態を取り扱う。これらの薬理ゲノミクス状態は、まれな欠陥として、または多形性として存在し得る。例えば、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症は、よくみられる遺伝性酵素異常症であり、そこでは主な臨床的合併症は、酸化剤(抗マラリア剤、スルホンアミド剤、鎮痛剤、ニトロフラン類)の摂取後およびソラマメ摂食後の溶血である。
例示的実施形態として、薬物代謝酵素の活性は、薬の作用の強度および持続期間の両方についての主な決定因子である。薬の代謝酵素の遺伝的多型性(例えば、N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)ならびにチトクロームP450酵素であるCYP2D6およびCYP2C19)の発見によって、なぜある患者は標準かつ安全な用量の薬物摂取後に期待した薬の効果を得られないかまたは過剰な薬物応答および重篤な毒性を示すのかについての説明が得られた。これらの多型性は、人口集団で高代謝群(EM)および低代謝群(PM)の2つの表現型で表現される。PMの存在比率は異なる集団間で異なる。例えば、CYP2D6をコードする遺伝子は高度に多型性であり、そしていくつかの変異は、機能的なCYP2D6の非存在を全てがもたらすPMにおいて同定されている。CYP2D6およびCYP2C19の低代謝群は、標準的な用量の投与を受けた際、極めて頻繁に過剰な薬の応答および副作用を経験する。代謝物が活性な治療成分である場合、CYP2D6が形成する代謝物であるモルヒネによって媒介されるコデインの鎮痛作用について実証されるとおり、PMは治療応答を示さない。それと全く正反対なのが、標準の用量に応答しないいわゆる超高速代謝群である。近年では、超高速代謝群の分子的根拠は、CYP2D6遺伝子増幅に起因することが確認されている。
従って、個体における本発明のマーカーの発現のレベルが決定されて、それによってその個体の治療的または予防的な処置のために適切な薬剤(単数または複数)が選択され得る。さらに、薬理遺伝学的研究を用いて、薬の代謝酵素をコードする遺伝子多型の対立遺伝子の遺伝子型決定を、個体の薬の応答性の表現型の同定に応用することができる。この知識を投薬量および薬の選択に適用する場合、本発明のマーカーの発現の調節因子を用いて被験体を処置する際に、有害作用または治療の失敗を避け、これによって治療的または予防的効率を増強することができる。
臨床試験のモニタリング
本発明のマーカーの発現のレベルに対する因子(例えば、薬物化合物)の影響をモニタリングすることは、基礎的な薬物スクリーニングに応用できるだけでなく、臨床試験にも応用できる。例えば、マーカー発現に影響する因子の有効性は、乳癌の処置を受けている被験体の臨床試験においてモニターし得る。好ましい実施形態では、本発明は、ある因子(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、ペプチド模倣物、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子、または他の薬候補物)で被験体を処置することの有効性をモニタリングする方法を提供し、この方法は、(i)この因子の投与前に被験体から投与前サンプルを得る工程と;(ii)投与前サンプル中において本発明の1つ以上の選択されたマーカーの発現レベルを検出する工程と;(iii)この被験体から1つ以上の投与後サンプルを得る工程と;(iv)この投与後サンプル中のマーカー(単数または複数)の発現のレベルを検出する工程と;(v)投与前サンプル中のマーカー(単数または複数)の発現のレベルを投与後サンプル(単数または複数)中のマーカー(単数または複数)の発現のレベルと比較する工程と;(vi)この被験体へのこの因子の投与を適宜変更する工程とを包含する。例えば、処置の経過の間のマーカー遺伝子(単数または複数)の発現の増大は、投薬量が無効であること、および投薬量を漸増することが望ましいことを示し得る。逆に、マーカー遺伝子(単数または複数)の発現の減少は、処置が有効であること、および投与量を変化する必要性がないことを示し得る。
電子装置読み取り可能媒体およびアレイ
本発明のマーカーを含む電子装置読み取り可能な媒体も提供される。本明細書において用いる場合、「電子装置読み取り可能な媒体(electronic apparatus readable media)」とは、電子装置によって直接読んでアクセスすることが可能であるデータまたは情報を記憶、保持、または備えるための任意の適切な媒体をいう。このような媒体としては、限定はしないが:磁気記憶媒体、例えばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク記憶媒体、および磁気テープ;光学記憶媒体、例えば、コンパクトディスク;電子記憶媒体、例えば、RAM、ROM、EPROM、EEPROMなど;一般的ハードディスクおよびこれらのカテゴリーのハイブリッド、例えば、磁気/光学記憶媒体を挙げることができる。この媒体は、本発明のマーカーをその上に記録するように適合または構成される。
本明細書において用いる場合、「電子装置(electronic apparatus)」という用語は、データおよび情報を記憶するために構成されるかまたは適合された、任意の適切な計算または処理の装置または他のデバイスを包含するものとする。本発明で利用するのに適切な電子装置の例としては、スタンドアロン(独立型)コンピュータ装置;ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)インターネット、イントラネットおよびエクストラネットを含むネットワーク;電子器具、例えば、携帯情報端末(PDAs)、携帯電話、ポケベルなど;ならびに局所および分散処理システム、が挙げられる。
本明細書において用いる場合、「記録された(recorded)」とは、電子装置読み取り可能媒体上に情報を記憶またはコード化するためのプロセスをいう。当業者は、本発明のマーカーを含む製品を生成するために公知の媒体上に情報を記録するために、任意の現在公知の方法を容易に適合させることができる。
種々のソフトウェアプログラムおよびフォーマットを用いて、本発明のマーカー情報を電子装置読み取り可能媒体上に記憶させることができる。例えば、マーカー核酸配列は、ワードプロセシングのテキストファイルに提示されてもよいし、WordPerfectおよびMicroSoft Wordのような市販のソフトウェアにフォーマットされてもよいし、またはDB2、Sybase,Oracleなどのようなデータベースアプリケーションに記憶されたASCIIファイルの形式で、そして他の形式で提示されてもよい。多数のデータープロセッサー構造形式(例えば、テキストファイルまたはデータベース)を使用して、その上に本発明のマーカーが記録されている媒体を得るかまたは作製することができる。
本発明のマーカーを読み取り可能形態で提供することによって、種々の目的のためにこのマーカー配列情報に慣用的にアクセスすることができる。例えば、当業者は、本発明のヌクレオチドまたはアミノ酸配列を、読み取り可能な形態で使用して、標的配列または標的構造モチーフと、このデータ記憶手段に記憶された配列情報とを比較することができる。検索手段を用いて、特定の標的配列または標的モチーフにマッチする、本発明の配列のフラグメントまたは領域を同定する。
従って、本発明は、被験体が乳癌を有するか、乳癌の前段階の傾向があるかを決定するための方法を行なうための指示を保持するための媒体を提供するが、この方法は、マーカーの有無を決定する工程と、そのマーカーの有無に基づいて、この被験体が乳癌を有するかまたは乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定する工程と、そして/あるいは乳癌または前乳癌状態のための特定の処置を推奨する工程とを包含する。
本発明はさらに、電子システムおよび/またはネットワークにおいて、被験体が乳癌を有するか、マーカーに関連する乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定するための方法であって、マーカーの有無を決定する工程と、そのマーカーの有無に基づいて、この被験体が乳癌を有するかまたは乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定する工程と、そして/あるいは乳癌または前乳癌状態のための特定の処置を推奨する工程とを包含する方法を提供する。本発明はさらに、被験体に関連する表現型情報を受け取る工程と、そして/または被験体に関連する表現型情報をネットワークから獲得する工程とを包含する。
本発明はまた、ネットワークにおいて、被験体が乳癌を有するか、マーカーに関連する乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定するための方法であって、マーカーに関連する情報を受け取る工程と、被験体に関連する表現型情報を受け取る工程と、マーカーおよび/もしくは乳癌に対応する情報をこのネットワークから獲得する工程と、そして1つ以上の表現型情報、マーカーおよび獲得された情報に基づいて、この被験体が乳癌を有するかまたは乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定する工程とを包含する方法を提供する。この方法はさらに、乳癌または前乳癌状態の特定の処置を推奨する工程を包含し得る。
本発明はまた、被験体が乳癌か、進行性の乳房腫瘍かまたは乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定するための職業的方法であって、マーカーに関連する情報を受け取る工程と、被験体に関連する表現型情報を受け取る工程と、マーカーおよび/もしくは乳癌に相当する情報をこのネットワークから獲得する工程と、そして1つ以上の表現型情報、マーカーおよび獲得された情報に基づいて、この被験体が乳癌を有するかまたは乳癌に対する前段階の傾向を有するかを決定する工程とを包含する方法を提供する。この方法はさらに、乳癌または前乳癌状態の特定の処置を推奨する工程を包含し得る。
本発明はまた、本発明のマーカーを含むアレイを包含する。このアレイは、このアレイにおいて1つ以上の遺伝子の発現をアッセイするために用いられ得る。1実施形態では、このアレイは、組織中の遺伝子発現をアッセイして、このアレイ中の遺伝子の組織特異性を確認するために用いられ得る。この方式では、最大約7600個の遺伝子が発現について同時にアッセイできる。これによって、1つ以上の組織において特異的に発現される遺伝子の集合を示すプロフィールを発達させることが可能になる。
このような定量的決定に加えて、本発明は、遺伝子発現の定量を可能にする。従って、組織特異性だけでなく、組織中における遺伝子の集団の発現のレベルも確認可能である。従って遺伝子は、その組織におけるその遺伝子の組織発現自体および発現のレベルに基づいて分類され得る。これは例えば、組織間および組織内の遺伝子発現の関係を確認するのに有用である。従って、1つの組織が混乱され得、そして第二の組織において遺伝子発現の影響が決定され得る。この状況では、生物学的刺激に応答する、1つの細胞タイプの別の細胞タイプに対する効果が決定され得る。このような決定は、例えば、遺伝子発現のレベルにおいて細胞間相互作用の効果を知るために有用である。ある因子が1つの細胞タイプを処置するために治療的に投与されるが、別の細胞タイプに対しては望ましくない効果を有する場合、本発明は、この望ましくない効果の分子的基礎を決定するアッセイを提供し、これによって中和剤(counteracting agent)を同時投与するか、そうでなければこの望ましくない効果を処置する機会が得られる。同様に、単独の細胞タイプにおいてさえ、望ましくない生物学的効果が分子レベルで決定され得る。これによって、標的遺伝子以外の発現に対する因子の効果が確認されて、相殺され得る。
別の実施形態では、アレイ中で1つ以上の遺伝子の発現の時間経過をモニターするためにアレイが用いられ得る。これは、本明細書に考察されるような、種々の生物学的状況、例えば、乳癌の発達、乳癌の進行、および乳癌に関連する細胞トランスフォーメーションのような過程で生じ得る。
このアレイは、同じ細胞または異なる細胞における他の遺伝子の発現に対する遺伝子の発現の効果を確認するためにも有用である。これによって、最終的なまたは下流の標的が調節できない場合、例えば、治療的介入のための別の分子標的の選択が得られる、
このアレイはまた、正常なまたは異常な細胞における1つ以上の遺伝子の種々の発現パターンを確認するためにも有用である。これによって、診断または治療の介入のための分子標的として役立ち得る遺伝子の集団が得られる。
代用のマーカー
本発明のマーカーは、1つ以上の障害または疾患状態のための、または疾患状態にいたる状態のための、そして詳細には乳癌における代用マーカーとして役立ち得る。本明細書において用いる場合、「代用マーカー(surrogate marker)」とは、疾患もしくは障害の有無に関連するか、または疾患もしくは障害の進行に(例えば、腫瘍の有無に)関連する客観的生物化学マーカーである。このようなマーカーの存在または量は、疾患とは無関係である。従って、これらのマーカーは、処置の特定の経過が疾患状態または障害を減少させるのに有効であるか否かを示すのに役立ち得る。代用マーカーは、疾患状態または障害の存在または程度が標準的な方法論によって評価するのが困難である場合(例えば、初期段階の腫瘍)、または疾患の進行の評価が潜在的に危険な臨床的終点に達する前に所望される場合に特に有用である(例えば、心筋梗塞または完全に進行したAIDSの望ましくない臨床転帰に十分先んじて、心血管系の疾患の評価は、代用マーカーとしてコレステロールレベルを用いて行なわれ得、そしてHIV感染の分析は、代用マーカーとしてHIV RNAレベルを用いて行なわれ得る)。当該分野における代用マーカーの使用の例としては以下が挙げられる:Koomen et al.,(2000)J.Mass.Spectrom.35:258−264;ならびにJames(1994)AIDS Treatment News Archive 209。
本発明のマーカーはまた、薬力学的マーカーとしても有用である。本明細書において用いる場合、「薬力学的マーカー(pharmacodynamic marker)」とは、薬物効果と特異的に相関する客観的な生物化学マーカーである。薬力学的マーカーの存在または量は、薬物が投与されている疾患状態または障害に関係しない;従って、マーカーの存在または量は、被験体における薬物の存在または活性の指標である。例えば、薬力学的マーカーは、そのマーカーが、その薬物のレベルに関係してその組織中で、発現されるかもしくは転写されるか、または発現されないかもしくは転写されないという点で、生物学的組織における薬物の濃度の指標であり得る。この方式では、薬物の分布または取り込みは、薬力学的マーカーによってモニターされ得る。同様に、薬力学的マーカーの存在または量は、薬物の代謝産物の存在または量に関連し得、その結果そのマーカーの存在または量は、インビボにおけるその薬物の相対的分解速度の指標である。薬力学的マーカーは、特に薬物が低用量で投与される場合、薬物効果の検出の感度を増大するのにおいて特に有用である。少量の薬物でさえ複数回のマーカーの転写または発現を活性化するのに十分であり得るので、増幅されたマーカーは、その薬物自体よりも容易に検出可能な量であり得る。また、このマーカーはマーカー自体の性質に起因して容易に検出され得る;例えば、本明細書に記載される方法を用いて、抗体はタンパク質マーカーの免疫ベースの検出システムにおいて使用されてもよく、またはマーカー特異的な放射性標識プローブは、mRNAマーカーを検出するために用いられてもよい。さらに、薬力学的マーカーの使用によって、潜在的な直接の観察の範囲を越えて、薬物処置に起因する機序に基づく危険性予測を得ることができる。当該分野における薬力学的マーカーの使用の例としては、Matsuda et al.,米国特許第6,033,862号;Hattis et al.,(1991)Env.Health Perspect.90:229〜238;Schentag(1999)Am.J.Health−Syst.Pharm.56 Suppl.3:S21−S24;およびNicolau(1999)Am,J.Health−Syst.Pharm.56 Suppl.3:S16−S20:が挙げられる。