JP2007504485A5 - - Google Patents
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Description
本発明は、プログレッシブ眼鏡ガラスの製造方法ばかりでなく、対応するプログレッシブ眼鏡ガラスにも関するものである。
プログレッシブ眼鏡ガラスは、この眼鏡ガラスが遠用部集束領域と呼ばれる遠方を見るための領域と、近用部集束領域と呼ばれる近くを見るための領域を有し、これらの領域が、所謂、プログレッシブ帯によって互いに接続されていると言う事実により特徴づけられる。プログレッシブ帯では、眼鏡レンズの屈折力は、遠用部測定基準点BFの値から、主線と呼ばれるヘリカルラインに沿って近用部領域に配置されている近用部測定基準点BNの値まで増加する。遠用部測定基準点と近用部測定基準点との屈折力の差は加入度数と呼ばれる。
一般に、遠用部集束領域は、眼鏡レンズの使用位置の上方領域に、一方、近用部領域は下方領域に配置される。そのようなプログレッシブ眼鏡ガラスは、当業界では周知である。1例だけを挙げると、ミュンヘン市、ローデンストック有限責任会社(Rodenstock GmbH)の特許文献1が参考になる。
一般に、そのようなプログレッシブ眼鏡ガラスは、初めに触れた遠用部測定基準点及び近用部測定基準点の他に、プリズム測定基準点及び心取り点を有する。用語及び定義に関しては、本明細書では前記の特許文献1が参考になり、この特許文献1では、遠用測定基準点及びプリズム測定基準点並びに心取り点は、欧州規格(EN Standard)ISO 13666でも使用されていて、一般に常用されている名称を表わしている。遠用部測定基準点BFでは、遠用部集束屈折力、即ち眼鏡ガラスの球面屈折力及び/又は円柱屈折力が広く使用されている。近用部測定基準点BNでは、近用屈折力、即ち遠用屈折力に加えた加入度数が広く使用されている。プリズム測定基準点では、プリズム屈折力、即ち、処方されたプリズムと薄肉プリズムが広く使用されている。
心取り点Bzは、眼鏡ガラスを心取りするのに使用され、従って、眼に対して眼鏡ガラスの局所的位置を定義する点を表す。一般に、頭と身体の位置が正常であるとき、所謂、ゼロ視力の方向の場合(即ち、視力が水平であるとき)、心取り点が眼の瞳孔中心の前方になるように眼の前方に配置されるように、プログレッシブ眼鏡ガラスは眼の前方の中心にある。
特許文献では、異なる用語が同じ意味に一部では使用されている。例えば、特許文献2では、用語“遠方視力基準点、近方視力基準点及び取り付け十文字(mounting cross)”が使用される。しかしながら、これらの用語は同じ意味を有する。
一般に、そしてこの適用の目的のために、測定基準点は、眼鏡ガラスを通る垂直断面図の中で次の高さを有する;即ちxy平面上の投影面でのy座標:遠用部測定基準点BF y=8mm、心取り点Bz y=4mm、プリズム測定基準点y=0及び近用部測定基準点BN y=14mm。この場合、ガラスの所謂、水平線Hはゼロ点として使用されるので、水平線Hの空間的位置及び方向は、主経線の横方向に一般に17mmの距離にある永久マーキング(permanent marking)によって定義されるのが普通である。ガラスの水平線上にある永久マーキング間の中心にガラスの中心があり、この中心は、大抵の場合(アンカット偏心されていないガラス(glasses not predecentered))、フレームのないガラスの表面の幾何学的中心である。この場合、ガラスの中心点はプリズム測定基準点と合致する。
試験により、一般に、主視力の方向は、ゼロ視力の方向から具体的に5〜10度下方に逸れることが分った。このことは、2mm〜−1mmのほぼy座標に相当する。ここでも再び書くが、一般に、主視力の役目は遠用部にある。
従って、屈折値が、他でもよく見かけることではあるが、遠用部測定基準点BFのすぐ下から上昇を開始することなく、少しだけ遅れて開始することが有利であることは、ローデンストック有限責任会社(Rodenstock GmbH)の特許文献1の中で既に認識されていた。従って、或る状況のもとでは、焦点深度を利用しながら、主視力方向でもこの既知の眼鏡ガラスによって(遠用部)もやはり見ることが可能になる。特許文献2での実施態様のような他の従来のプログレッシブ眼鏡ガラスの場合、このことは、一般に、もはや可能ではない。前記の特許文献2の場合(図6及び図9を比較されたい)、主視力方向では0.3ディオプトリの曇り(fogginess)が存在するが、これは、焦点深度によって最良の光線条件とコントラストのもとでのみ補償され得る(約+/−0.3ディオプトリ)。
幸いなことに、ヒトの眼だけが2と7mmとの間で変動する小さい開口を有する。しかしながら、ヒトの眼それ自体は、比較的高次の異常を有するので、ヒトの視力系は、物理的開口の上に“感覚開口(sensory aperture)”も重ね合わせられる。この現象は、スタイルズ−クロフォード(Stiles-Crawford)効果として知られていて、円錐−光導波路のような−は瞳孔中心の方向を向いていて、従って、そこから入射する光線に対して明らかに感じ易くなることによる。これによって、瞳孔の必要開口値が僅か2〜5mmで済むことになる。
国際公開第01/81981号パンフレット
欧州特許公告(EP)第0911670B1号明細書
典型的注文及び製造順序を考慮に入れながら、一様に、注文顧客のための改善された光学結像特性を有し、屈折異常、特にプラスの屈折異常に対して特に更に影響を受けないプログレッシブ眼鏡ガラスとなるプログレッシブ眼鏡ガラスの製造方法を提示することが本発明の目的である。
この目的は、請求項1に記載されている特徴を有する方法によるばかりでなく、各々、請求項9及び13に記載されている特徴を有するプログレッシブ眼鏡ガラスによっても達成される。好ましい実施態様は従属請求項の目的である。
本発明により、プログレッシブ眼鏡ガラスの製造方法は次の諸工程からなる:
− プログレッシブ眼鏡ガラスの遠用部測定基準点BFでの平均装着時度数に対する注文値を定義する工程;
− 遠用部測定基準点BFでの平均装着時度数の計算値を考慮に入れながらプログレッシブ眼鏡ガラスを計算するとともに、前記計算値が遠用部測定基準点BFでの注文値に対して0.03ディオプトリ〜0.2ディオプトリのマイナスの所望屈折偏位を有する工程;及び
− 計算したプログレッシブ眼鏡ガラスを製造する工程。
− プログレッシブ眼鏡ガラスの遠用部測定基準点BFでの平均装着時度数に対する注文値を定義する工程;
− 遠用部測定基準点BFでの平均装着時度数の計算値を考慮に入れながらプログレッシブ眼鏡ガラスを計算するとともに、前記計算値が遠用部測定基準点BFでの注文値に対して0.03ディオプトリ〜0.2ディオプトリのマイナスの所望屈折偏位を有する工程;及び
− 計算したプログレッシブ眼鏡ガラスを製造する工程。
マイナスの所望屈折偏位は、0.08ディオプトリ〜0.12ディオプトリが好ましい。本発明によってプログレッシブ眼鏡ガラスを製造する方法の場合、従って、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算は、遠用部測定基準点BFでの平均装着時度数の注文値に基づくのではなく、注文値に対してマイナスの所望屈折偏位を有する、所謂、計算値に基づいている。言い換えれば、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算及び最適化は、眼鏡装用者に対して処方された遠用部測定基準点BFの平均装着時度数の注文値から始めるではなく、そこから逸れていて、注文値に対して予め定められた所望屈折偏位だけ減少される計算値から始められる。従って、計算及び最適化の工程は、遠用部測定基準点BFでの、処方された使用中央値に対応しない平均装着時度数に基づいて行なわれる。
しかしながら、驚くことには、計算工程で遠用部測定基準点BFでのこのようなマイナスの所望屈折偏位を導入すると、一様に、典型的注文及び製造方法を考慮に入れながら眼鏡装用者に対する更に良い光学結像特性を有するプログレッシブ眼鏡ガラスが得られる。本発明によって得られるプログレッシブ眼鏡ガラスは、小さい屈折異常、特にプラスの屈折偏位に対して殆ど影響を受けないことが明らかになっている。
本発明の考えでは、平均装着時度数Dは、通常、物体距離、従って物体側距離、S、を差し引いた像側距離S´1及びS´2の逆数値の平均であり、次が適用される
言い換えれば、本発明の製造方法により、計算又は最適化が基礎としている計算値は、プログレッシブ眼鏡ガラスの遠用部測定基準点BFでの使用位置の屈折力の注文値に対して、0.03ディオプトリ〜0.2ディオプトリのマイナスの予め定められた所望屈折偏位が差し引かれている。従って、計算又は最適化工程は、注文する眼鏡装用者にとって、名目上、予め定められた量のマイナスの目標屈折異常を有する平均装着時度数の計算値に基づいている。計算及び最適化工程が基礎としている屈折値の分布は、例えば、前記特許文献1に記載されているのと同じでよい。
本発明が基礎としている認識と動機ばかりでなく、本発明による概念の実施態様の詳細な説明を下記で行なう。
本発明による方法の好ましい実施態様により、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程が計算加入度数を考慮に入れながら行なわれ、注文加入度数と比較して遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量が少なくとも増加される。従って、近用部測定基準点BNにおいて、計算及び最適化工程が基準とする平均装着時度数(又は使用位置での屈折値)は、例えば近用部測定基準点BNでの処方された又は注文された平均装着時度数に等しい。この目的のために、計算工程が基準とする計算加入度数は、遠用部測定基準点の屈折力が、名目上、減少されたその量増加される。
本発明による方法の特に好ましい実施態様により、計算加入度数は、注文加入度数に対して、
● 遠用部測定基準点BFでのマイナスの所望屈折偏位の量と、
● 0.02ディオプトリ〜0.1ディオプトリ、好ましくは0.05ディオプトリのプラスの所望屈折偏位との合計が増加される。
● 遠用部測定基準点BFでのマイナスの所望屈折偏位の量と、
● 0.02ディオプトリ〜0.1ディオプトリ、好ましくは0.05ディオプトリのプラスの所望屈折偏位との合計が増加される。
従って、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程は、使用位置での(計算)屈折値を基準にして行なわれるが、この屈折値は、処方された(注文)値から、遠用部測定基準点でばかりでなく、近用部測定基準点でも異なる。従って、遠用部測定基準点での注文値に対して名目上、マイナスの屈折偏位が存在し、近用部測定基準点での注文値に対して名目上、プラスの屈折偏位が存在する。
本発明による計算工程での所望屈折偏位の導入に到る認識及び動機を、下記で詳細に説明する。
好ましくは、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程が、予め定められた所望の屈折異常を考慮に入れながら眼鏡ガラスの垂直断面に沿うy座標の関数として主線上で行なわれる。従って、この特に好ましい実施態様により、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算は、眼鏡ガラスの主線又は主経線に沿う予め定められた目標屈折異常を考慮して行なわれるが、所望の屈折異常はyの(即ち、垂直軸の)関数である。この場合、予め定められた目標屈折異常は、次のように設定されるのが好ましい、即ち、遠用部測定基準点では平均装着時度数の計算値の場合には、対応する注文値に対してマイナスの所望屈折偏位が得られ、一方、近用部測定基準点の場合には、対応する注文値に対して計算値のプラスの所望屈折偏位が得られる。そのような計算又は最適化の場合、所望の屈折異常に対する、所謂、二重漸近関数がこの形式のyの関数として使用されるのが特に好ましい、
プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程は、製造される眼鏡ガラスの平均装着時度数が、遠用部領域で水平な視力偏向の場合、可能な限り殆ど増加しないように行なわれる。水平視偏向の場合、遠用部測定基準点での高さで製造される眼鏡ガラスの平均装着時度数は、遠用部測定基準点での平均装着時度数と比較して0.25ディオプトリ未満、好ましくは0.15ディオプトリ未満増加するのが好ましい。特に、計算工程は、+0.2ディオプトリの(追加的)屈折異常が重ね合わせられる時(例えば、製造の変動のために)、遠用部領域は5%以下、好ましくは3%以下減少するように行なわれ得る。
本発明の別の実施態様により、遠用部測定基準点を持つ遠用視力部、近用視力部及びプログレッシブ帯を有するプログレッシブ眼鏡ガラスが示唆され、プログレッシブ眼鏡ガラスは、遠用部測定基準点での平均装着時度数の計算値を考慮に入れながらその眼鏡ガラスの計算が行なわれ、その計算値は、遠用部測定基準点での平均装着時度数の予め定義された注文値に対して0.03ディオプトリ〜0.2ディオプトリのマイナスの所望屈折偏位を有する。
マイナスの屈折偏位は、0.08ディオプトリ〜0.12ディオプトリが好ましい。プログレッシブ眼鏡ガラスは、その計算が、注文加入度数と比較して遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量が少なくとも増加される計算加入度数を考慮に入れながら行なわれるように設計されるのが好ましい。
計算加入度数は、注文加入度数に対して、
● 遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量と、
● 0.02ディオプトリ〜0.1ディオプトリのプラスの所望屈折偏位との合計が増加されることが好ましい。
● 遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量と、
● 0.02ディオプトリ〜0.1ディオプトリのプラスの所望屈折偏位との合計が増加されることが好ましい。
本発明の別の実施態様により、遠用視力部、近用視力部及びプログレッシブ帯を有するプログレッシブ眼鏡ガラスが示唆され、プログレッシブ眼鏡ガラスは、+0.2ディオプトリの屈折異常が重ね合わせられるとき、遠用部領域は、5%以下、好ましくは3%以下減少するように設計される。
次では、例として好ましい実施例の添付図面を参照しながら本発明を説明する。
表1は、加入度数が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力、Sph、が−4.0、−1.0、2.0及び5.0ディオプトリで、瞳孔の開口が微量である場合の、遠用部測定基準点BF、心取り点Bz及び近用部測定基準点BNでの使用位置の屈折値の一覧である。
表2は、加入度数が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力、Sph、が−1.0及び2.0で、瞳孔の開口が3.5mmの場合の、遠用部測定基準点BF、心取り点Bz及び近用部測定基準点BNでの使用位置の屈折値の一覧である。
表3は、加入度数が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力、Sph、が−4.0、−1.0、2.0及び5.0ディオプトリで、瞳孔の開口が6mmの場合の、遠用部測定基準点BF、心取り点Bz及び近用部測定基準点BNでの使用位置の屈折値の一覧である。
図1は、従来のプログレッシブ眼鏡ガラス(図1a)の、及び本発明によって製造された好ましい眼鏡ガラス(図1b)の、各々の使用位置での屈折値分布の図である。
図2は、従来のプログレッシブ眼鏡ガラス(図2a)の、及び図1に図示されている眼鏡ガラスで、本発明のよって製造された好ましい眼鏡ガラス(図2b)の、各使用位置での非点収差分布の図である。
図3は、従来のプログレッシブ眼鏡ガラス(図3a)の、及び本発明による好ましいプログレッシブ眼鏡ガラス(図3b)の結像異常(非点収差偏位及び屈折偏位)の結果としての視力の相対減少の分布の図である。
図4は、−0.2ディオプトリの追加の屈折異常が起こる時の従来のプログレッシブ眼鏡ガラス(図4a)の、及び本発明による好ましいプログレッシブ眼鏡ガラス(図4b)の結像異常の結果としての視力の相対減少の分布の図である。
図5は、+0.2ディオプトリの追加の屈折異常が起こる時の従来のプログレッシブ眼鏡ガラス(図5a)の、及び本発明による好ましいプログレッシブ眼鏡ガラス(図5b)の結像異常の結果としての視力の相対減少の分布図である。
図6aは、図1〜5による本発明の好ましい眼鏡ガラスのキャンバーを示す図である。
図6bは、図1〜5による本発明の好ましい眼鏡ガラスの平均面屈折値を示す図である。
図6cは、図1〜5による本発明の好ましい眼鏡ガラスの面非点収差を示す図である。
図7は、遠用部測定基準点での球面屈折力、Sph、=−1.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
図8は、心取り点での球面屈折力、Sph、=−1.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
図9は、近用部測定基準点での球面屈折力、Sph、=−1.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
図10は、遠用部測定基準点での球面屈折力、Sph、=+2.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
図11は、心取り点での球面屈折力、Sph、=+2.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
図12は、近用部測定基準点での球面屈折力、Sph、=+2.0ディオプトリ、並びに加入度数1、2及び3ディオプトリの場合の瞳孔直径の関数とする使用位置の屈折値偏位を示す図である。
本発明によるプログレッシブ眼鏡ガラスを製造するための前記の好ましい実施態様により、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算及び最適化工程は、遠用部測定基準点及び近用部測定基準点での平均装着時度数に対して、対象とする方法で、対応する注文値又は処方値と各々、異なる計算値に基づいて行なわれる。従って、本発明による好ましい方法により、遠用部測定基準点での使用位置の屈折値に対する計算値は、対応する注文値に対して予め定められたマイナスの所望屈折偏位によって差し引かれ、そして計算が基準としている計算
加入度数は、処方加入度数に対して少なくとも同じ量増加する(注文加入度数)。計算加入度数は、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算が、対応する注文屈折値と比較して近用部測定基準点での使用位置の屈折値のプラスの所望屈折偏位を基準としているように注文加入度数に対して増加さえするのが好ましい。
加入度数は、処方加入度数に対して少なくとも同じ量増加する(注文加入度数)。計算加入度数は、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算が、対応する注文屈折値と比較して近用部測定基準点での使用位置の屈折値のプラスの所望屈折偏位を基準としているように注文加入度数に対して増加さえするのが好ましい。
従って、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算及び最適化は、遠用部測定基準点及び近用部測定基準点での平均装着時度数の計算値に基づいて行なわれ、これらの計算値は、本発明の好ましい方法により処方された注文値とは異なるけれども、普通、眼鏡の装用者には改善された光学特性、及び特に、僅かの追加の屈折偏位に対して比較的低い感度を有するプログレッシブ眼鏡ガラスが得られることは驚きである。
次では、本発明が基盤としている、幾つかの本質的認識及び動機を考察する。
一方、本発明は、プログレッシブ眼鏡ガラスの使用位置で、視力のある眼の瞳孔の開口によって決まる、それ自体は公知である認識に基づいている。この基本的関係は前記表1〜3での例の方法の中で説明されている。
表1は、従来のプログレッシブ眼鏡ガラスの加入度数、Add、が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力、Sph、が−4.0、−1.0、2.0及び5.0ディオプトリで、瞳孔の開口が微量である場合の、遠用部測定基準点BF、心取り点Bz及び近用部測定基準点BNでの使用位置の屈折値を示している。この表では、表の各行の球面屈折力、Sph、及び表の各列の加入度数、Add,は一定である。表2は、加入度数、Add、が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力、Sph、が−1.0及び2.0ディオプトリで、瞳孔の開口が3.5mmの場合の、前記の各測定基準点での使用位置の屈折値を示している。最後に、表3は、加入度数が1.0、2.0及び3.0ディオプトリ、並びに球面屈折力が−4.0、−1.0、2.0及び5.0ディオプトリで、瞳孔の開口が6mmの場合の、前記の各測定基準点での使用位置の屈折値を示している。
対応する関係を、再び、図7〜12に図示している。図7〜12は、所与の球面屈折力の場合に各々表示された基準点での種々の加入度数に対して視力を持つ眼の瞳孔直径の関数として使用位置の屈折値の偏位を示している。図7〜9では、球面屈折力は−1.0ディオプトリに等しく、表示されている加入度数、Add、(各々の差込図の中に図示されているように)は、−1、2及び3ディオプトリに等しい。
図7は、遠用部測定基準点BFでの瞳孔直径への使用位置の屈折値の偏位依存度を示している。図8は、心取り点Bzでの前記の同じ依存度を示している。そして図9は、近用部測定基準点BNでの前記の同じ依存度を示している。図10〜12は、球面屈折力を除いて、全ての対応する値で各図7〜9に対応しているが、この球面屈折力は、図10〜12では各々の場合、+2.0ディオプトリに等しい。
表1〜3ばかりでなく、図7〜12も、プログレッシブ眼鏡ガラスの場合、使用位置での屈折値は、遠用部測定基準点でばかりでなく、心取り点でも瞳孔の開口の拡大と共に増加するのに対して、その屈折値は近用部測定基準点では漸減する。瞳孔直径が小さいと、即ち最適の光線及びコントラスト条件下では、使用位置での屈折値の偏位は極めて小さいのに対して、瞳孔が開(瞳孔直径=6mm)のときは屈折値の著しい偏位が見られる。平均装着時度数は瞳孔直径に依存するので、瞳孔直径が大きい場合、これらの偏位は、使用位置での屈折値が、遠用部測定基準点及び心取り点ではプラスの屈折異常を有し、一方、近用部測定基準点ではマイナスの屈折異常を有すると言う効果がある。
しかしながら、従来のプログレッシブ眼鏡ガラスの屈折値分布の場合、そのようなプラスの、又はマイナスの屈折異常の発生は、光学的結像特性を損なう深刻な問題に繋がる。前記特許文献1及び独国特許出願公開公報第10250093.2号明細書の教示によって構成されている最近のプログレッシブ眼鏡ガラスの場合でさえ、使用位置での屈折値は瞳孔直径に依存するので、そのような屈折異常は主透視点で問題となるが、この点は最大でy=−1〜+2mmである。とりわけ、光線条件及びコントラストが充分でなく、瞳孔の開口が大きくなるときに、前記のような光学的結像品質の欠陥が発生する。
本発明による製造方法の特に好ましい実施態様により、本発明は、プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程で、マイナスの所望屈折偏位は遠用部測定基準点に導入され、プラスの所望屈折偏位は近用部測定基準点に導入されると言う点で前記のような負の影響を相殺する。対象とする方法で導入されたそのような所望の屈折偏位は、それに対応して製造されたプログレッシブ眼鏡ガラスが、瞳孔の開口は大きい場合でも眼鏡ガラスの装用者のために光学的結像特性を著しく改善したと言う結果をもたらす。
本発明は、プラスの屈折異常(曇り)が、マイナスの反応異常より光学的結像特性に遥かに重大な影響を及ぼすという認識にも基づいている。この理由は、プラスの異常は焦点深度によってのみ補償され得ることである。しかしながら、焦点深度は瞳孔の開口の増大と共に大幅に減少する。
対照的に、焦点深度に加えて、マイナスの偏位は、遠近調節によって更に補償され得る。しかしながら、後者の調節は、眼鏡の装用者の年齢と共に漸減し、そしてプログレッシブ眼鏡ガラスが何故必要なのかと言う理由でもある。それは、残存している遠近調節能力が、約3マイナス加入度数になるので、最大加入度数3ディオプトリまでは小さいマイナスの屈折異常を補償するために充分な遠近調節能力が矢張り存在すると言う経験則である。更に、プログレッシブ眼鏡ガラスの装用者は、自身の視力とそれに関連する屈折値の増加を下げることにより、小さいマイナスの異常を補償できる。このことは、プラスの屈折異常の場合にはできない。
更に、本発明は、プラスの異常が比較的重要なばかりでなく、比較的頻発もすると言う認識を利用する。この理由は、特に、処方値又は注文値を決めるための屈折測定である。一般に、屈折測定は、5〜6mの視力試験距離を持つ室内で行なわれる。視力試験は無限遠の距離ではなくて、限られた距離で行なれ、プラスの屈折は約0.15〜0.2ディオプトリで起こる。完全な屈折測定は、無限遠に関する検査を含むが、これは頻繁にも又は一般的にも行なわれない、従ってこの異常そのまま残される。
屈折は、僅か+/−0.12ディオプトリまで正確に測定できるが、約−0.1〜0.25ディオプトリの不確かさが存在する。
最後に、プログレッシブ眼鏡ガラスの製造過程での製造偏差は、先行の異常に重ね合わせられるが、避けることはできない。遠用部領域では、これらもプラスの反応異常の方向に向かう傾向がある。
本発明による製造方法の説明した実施態様により、名目上、遠用部測定基準点ではマイナスの屈折異常を有し、近用部測定基準点ではプラスの反応異常を有するプログレッシブ眼鏡ガラスを製造できる。このことは、一方では、瞳孔の開口が拡大されるとき、屈折値の増加と減少を考慮に入れ、もう一方では、設計は小さい屈折偏位には殆ど影響を受けなくなる。
更に、屈折値が、横方向の視力偏向の場合に遠用部では極く僅かしか増加しないように眼鏡ガラスの周縁部の屈折値分布を制御することは必然的に考えられる。従って、横方向の視力偏向の過程での曇りはさほど急速には起こらない。
次では、本発明による好ましい製造方法によって製造されたプログレッシブ眼鏡ガラスを、例として対応する従来の眼鏡ガラスと比較して説明する。
図1aは屈折値の分布を示し、図2aは使用位置での各々の場合の従来のプログレッシブ眼鏡ガラスの非点収差の分布を示している。眼鏡ガラスは、ローデンストック有限責任会社(Rodenstock GmbH)のプログレッシブ眼鏡ガラスであり、商品名マルチグレッシブ・アイ・エル・ティ(Multigressiv ILT)で販売されている。図1b及び図2bは、変更された屈折値分布を持ち、基準点でのマイナスの及びプラスの目標屈折異常を重ね合わせている、本発明による好ましい眼鏡ガラスを対応して示している。
本発明による好ましいプログレッシブ眼鏡ガラスの場合、0.1ディオプトリのマイナスの所望屈折偏位が、遠用部測定基準点の中に導入されていて、この偏位は図1bではヘリカル主線上で上方の円によって輪郭が描かれている。同時に、計算加入度数は注文加入度数と比較して0.1ディオプトリ増加した。近用部測定基準点は、主線上の下方円によって特徴付けられている。従来の眼鏡ガラスばかりでなく、本発明による眼鏡ガラスも0.50ディオプトリの球面(注文)遠用屈折力及び2.00ディオプトリの(注文)加入度数を有する。
図1bは、遠用部測定基準点での屈折値が図1aによる従来の眼鏡ガラスと比較して小さいことを示している。図2bに示しているように、本発明の場合のやや高い加入度数によって、図1aによる従来の眼鏡ガラスと比較して、やや狭いプログレッシブ領域となる。このような欠点を防ぐことはできない。
図3a(従来の眼鏡ガラス)及び図3b(本発明による好ましい眼鏡ガラス)は、各々、図1及び2に示しているプログレッシブ眼鏡ガラスの結像異常(非点収差偏位及び屈折偏位)の結果としての視力の相対減少の分布を示している。眼鏡の装用者の視力の相対減少は、眼鏡の装用者の視力が眼鏡ガラスの結像異常(非点収差異常及び屈折異常)によってどれほど減少するのかを示す。図3a〜図5bの中で、例えば0.9の等値線は、視力が眼鏡装用者の初期視覚の90%に減少することを意味する。もし、例えば、完全に補正した眼鏡ガラスを装用している眼鏡装用者が1.6の視力(視力)を有するならば、視力減少が0.9に達する点で眼鏡ガラスを通して見る時、この装用者の視力はただ単に0.9*1.6、即ち1.44、のままである。同様に、この装用者の初期視力が1.25ならば、1.25*0.9=1.125であり、或いは2.0の初期視力で、0.5の視力減少の場合は、視力はたったの0.5*2.0=1.0になる。このような事例では、教授である、イー・ハルトマン(E.Hartmann)博士による“コンセクエンシーズ・オブ・スモール・フォルティ・レフラクションズ(Consequences of Small Faulty Refractions)”,“デル・アウゲンオプチケル(Der Augenoptiker)”、1988年11月、p.20−24、の報文が参考になる。図3a及び図3bでは、各々のケースで最適補正が考えられる;即ち、追加の重ね合わせ補正異常は起こらない。
図4a及び図4bは、図3に図示しているプログレッシブ眼鏡ガラスの場合、各々、−0.2ディオプトリの追加のマイナスの屈折異常が起こる時の視力の相対減少の分布を示している。図3による最適補正と比較して実質的に差異は見られない。既存の遠近調節能力が残っているために、これらの異常は補償され得る。
図5a及び図5bは、図3に図示しているプログレッシブ眼鏡ガラスの場合、各々、+0.2ディオプトリの追加のプラスの屈折異常が起こる時の視力の相対減少の分布を示している。図5bは、小さいプラスの屈折異常に対する、本発明による眼鏡ガラスの鈍感性を示している。図5aの従来の眼鏡ガラスの場合、遠用部領域は明らかに減少しているけれども、本発明による眼鏡ガラスの場合は殆ど変化しないままである。この場合、遠用部領域は、心取り点(図5の中で十文字で示されている)より下方4mmの位置にある点の周りの半径20mmの半円内部で、この点を通る水平線の上方の領域として定義され、その相対視力は0.9ディオプトリを超える。
予め定められた所望屈折偏位の重ね合わせは、或る限られた程度に限り、勿論、可能である。従って、図2及び3が、プログレッシブ領域は、加入度数増加の結果として僅かに小さくなることを既に示している。更に、追加の屈折異常に対しては−例えば、製造の変動のために−“逆の場合”も起こる場合があると言う注意を、勿論、払うべきである。例えば、屈折測定は、実際、無限遠視力試験距離に対して行なうことができるが、その後は、眼鏡ガラスは限られた空間の中だけで使用できる。この場合、眼鏡ガラスは、既に遠用部は0.1〜0.2ディオプトリのマイナスの屈折異常を有していて、測定の不正確さによって0.12ディオプトリをここでも加えることが可能である。遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位がそのような眼鏡ガラスに重ね合わせられるならば、このことは、特に遠近調節能力が不足しているために更に大きい加入度数の場合には、不適合に繋がることがある。従って、導入される所望屈折の重ね合わせは、遠用部測定基準点で0.03〜0.2ディオプトリ、好ましくは0.08〜0.12ディオプトリであるべきなのが好ましい。
図6a、b及びcは、本発明による前記の好ましい眼鏡ガラスのキャンバー(camber)、平均面屈折値及び面非点収差を示している。
Claims (8)
- − プログレッシブ眼鏡ガラスの遠用部測定基準点での平均装着時度数に対する注文値を定義する工程、
− 前記遠用部測定基準点での前記平均装着時度数の計算値を考慮に入れながら前記プログレッシブ眼鏡ガラスを計算するとともに、前記計算値が前記遠用部測定基準点での注文値に対して0.03ディオプトリ〜0.2ディオプトリのマイナスの所望屈折偏位を有する工程、及び
− 前記計算したプログレッシブ眼鏡ガラスを製造する工程、
とからなることを特徴とするプログレッシブ眼鏡ガラスの製造方法。 - 前記マイナスの屈折偏位が0.08ディオプトリ〜0.12ディオプトリであることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 前記プログレッシブ眼鏡ガラスの計算は計算加入度数を考慮に入れながら行なわれ、前記計算加入度数は、注文加入度数に対して前記遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量が少なくとも増加されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
- 前記計算加入度数は、前記注文加入度数に対して、
● 前記遠用部測定基準点でのマイナスの所望屈折偏位の量と、
● 0.02ディオプトリ〜0.1ディオプトリのプラスの所望屈折偏位との合計が増加されることを特徴とする請求項3記載の方法。 - 前記プラスの所望屈折偏位が約0.05ディオプトリになることを特徴とする請求項4記載の方法。
- 前記プログレッシブ眼鏡ガラスのコンピューター処理工程は、予め定められた目標屈折異常を考慮に入れながら眼鏡ガラスの垂直断面に沿うy座標の関数として主線上で行なわれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
- 前記プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程は、製造される眼鏡ガラスの平均装着時度数が、遠用部領域での水平視偏向の場合に可能な限り殆ど増加しないように行なわれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
- 前記プログレッシブ眼鏡ガラスの計算工程は、前記遠用部測定基準点での高さで製造される眼鏡ガラスの平均装着時度数が、水平視偏向の場合に遠用部測定基準点での平均装着時度数に対して0.25ディオプトリ未満、好ましくは0.15ディオプトリ未満増加するように行なわれることを特徴とする請求項7記載の方法。
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