JP2007326801A - 水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 - Google Patents
水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2007326801A JP2007326801A JP2006158630A JP2006158630A JP2007326801A JP 2007326801 A JP2007326801 A JP 2007326801A JP 2006158630 A JP2006158630 A JP 2006158630A JP 2006158630 A JP2006158630 A JP 2006158630A JP 2007326801 A JP2007326801 A JP 2007326801A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- mannosyl erythritol
- soluble
- water
- erythritol lipid
- lipid
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Granted
Links
Landscapes
- Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
- Saccharide Compounds (AREA)
Abstract
生分解性が高く、低毒性で環境に優しく、従来のマンノシルエリスリトールリピッドに不足していた高い水溶性を示し、異なる界面活性作用を有する新規構造のマンノシルエリスリトールリピッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
次の式(1)で表される水溶性マンノシルエリスリトールリピッド。
(式中、R1は炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、R2は水素又はアセチル基を表す。)
Description
非イオン性界面活性剤の高機能化の手段として、一般的にはHLBの調節や他成分との混合等を施すことで乳化、可溶化、分散化、洗浄能の向上が図られている。糖脂質型バイオサーファクタントの場合では、親油基である脂肪酸由来ドメインの結合数や結合位置、鎖長等の違いによって界面活性の幅広い制御が可能となる。例えば、脂質ドメインの結合数、鎖長の減少は水溶性の増大に繋がり、洗浄剤への用途展開が広がるほか水溶性物質の油中への可溶化を促進することが出来る。これにより、化粧品素材や水溶性塗料の開発といった水溶性が必須の用途への応用が期待される。
これらの構造改変は化学的な手法を用いても理論上では可能であるが、糖脂質の場合では反応を位置・立体選択的に制御することが極めて困難であり、また糖骨格を維持したまま構造改変を行うためには多段階の複雑な保護・脱保護反応を必要とする。これに対して、微生物生産では精巧な生合成経路を経由するため、位置・立体構造が完全に制御された特殊構造を維持し、かつHLB等の性質の異なる同族体を、一段階のステップのみで製造する方法を提供でき、バイオサーファクタントのバリエーションの拡張に繋がる極めて有効な手段と成り得る。
〔1〕次の式(1)で表される水溶性マンノシルエリスリトールリピッド。
(式中、R1は、炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、R2は水素又はアセチル基を表す。)
〔2〕上記式中、R1で示される置換基が、 炭素数6〜20の飽和又は不飽和脂肪族アシル基からなることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド。
〔3〕シュードザイマ属に属し、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を、グルコースあるいはグリセロールを含有し、脂肪酸及び脂肪酸エステル不含培地で培養し、培養物から上記〔1〕又は〔2〕に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを採取することを特徴とする、水溶性マンノシルエリスリトールリピッドの生産方法。
〔4〕培地組成及び培養条件が、以下に示されるものであることを特徴とする、上記〔3〕に記載の生産方法。
酵母エキス:0.1〜2g/L
硝酸ナトリウム:0.1〜1g/L
リン酸2水素カリウム:0.1〜2g/L
硝酸マグネシウム:0.1〜1g/L
グルコースあるいはグリセロール:20〜200g/L
培養温度:26〜32℃
〔5〕上記培養液から菌体の除去と加熱殺菌処理を施す工程を含むことを特徴とする、上記〔3〕又は〔4〕に記載の生産方法。
〔6〕菌体の除去と殺菌処理を施した上記培養液をフィルターろ過して請求項1又は2に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを採取することを特徴とする、上記〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載の生産方法。
〔7〕上記培養物に有機溶剤を添加し、次いで有機溶剤可溶物質を除去する工程を含むことを特徴とする、上記〔3〕〜〔6〕のいずれかに記載の生産方法。
〔8〕上記〔1〕または〔2〕に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピドと、分子中に炭素数6〜20の脂肪族アシル基を2以上有するマンノシルエリスリトールリピッドとからなることを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド混合物。
〔9〕上記〔1〕又は〔2〕に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを10〜50%含むことを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド混合物。
本発明によって、水溶性の高いマンノシルエリスリトールリピッド液を製造することが可能になり、これまで既知の従来型マンノシルエリスリトールリピッドが2個の上記脂肪族アシル基を持つことに起因していた低水溶性によって制限されていた用途開発に対して大きく貢献することができる。
本発明によって得られる水溶性マンノシルエリスリトールリピッド液を従来型マンノシルエリスリトールリピッド液と混合することで、その水溶性を容易に調節することも可能である。したがって、本発明は、医薬、食品、化粧品分野等、水溶性の調節が必須である種々用途への使用が期待される、バイオサーファクタントの用途開拓の進展に大いに貢献するものである。
〈糖脂質〉
MELはMEL生産菌の培養によって得られ、従来型MELの化学構造の代表例は以下の式(2)に示され、4−O−β−D−マンノピラノシル−meso−エリスリトールをその基本構造とするものである。
一方、本発明の水溶性MELは、以下の式(1)で表され、従来型MELがマンノース2’、3’位に脂肪酸残基が2個置換されているのを特徴とするのに対して、脂肪酸残基が3’位に1つだけ結合している点で、従来型MELと明らかに区別される。脂肪酸残基が1つのMELはこれまで存在が知られておらず、本発明が最初の報告である。
本発明のもう一つの特徴として、MEL生産微生物をグルコースあるいはグリセロールを含み、油脂を含まない培地で培養することが挙げられる。そのため、本糖脂質中の脂肪酸残基は原料から供給されるものではなく、微生物の複雑な生合成経路を経て産出された物質であると考えられる。そのため脂肪酸残基部分は、鎖長、不飽和度にある一定のばらつきのある混合物の形態となる。また、このような油脂を含まない培地で培養して得られるMEL混合物中には、本発明の水溶性MELが10〜50%の高濃度で含まれる。
(式中、R1は、炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、R2は水素又はアセチル基を表す。)
なお、上記式中の置換基R1は、直鎖飽和脂肪族アシル基であっても同不飽和脂肪族アシル基であってもよい。
本発明の使用微生物については、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えばシュードザイマ属に属する微生物が挙げられ、このうち特に好ましい微生物としては、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica)に属する微生物を挙げることができる。該微生物はマンノシルエリスリトール生産微生物として知られているが、脂肪族アシル基の数が一個のマンノシルエリスリトールリピッドを生産できることについては、本発明が最初の報告である。
本発明における使用微生物の培養においては、培地に、炭素源としてグルコースあるいはグリセロールを含み、脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド等の脂肪酸エステル類、あるいは植物油等の油脂類を含まないが、このほかの条件については、特に制限はなく、適宜選定することができる。例えば、酵母に対して一般に用いられる培地を使用でき、このような培地として、例えば、YPD培地(イーストイクストラクト10g、 ポリペプトン20g、及びグルコース100g)を挙げることができる。
これらの培養における、培地、培養条件を例示すると以下のとおりである。
a)種培養;グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管に1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行う。
b)本培養;所定量のグルコースあるいはグリセロールと、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間培養を行う。
c)マンノシルエリスリトールリピッド生産培養;所定量のグルコースあるいはグリセロールと酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム 0.5g/Lの組成の液体培地1.4Lが入ったジャーファメンターに接種して、30℃で800rpmの撹拌速度で培養を行う。この培養においては、培養途中からグルコースあるいはグリセロールを培養容器中に流下させて、培地中のグルコースあるいはグリセロール濃度を20〜200g/Lに保持することが望ましい。
培養終了後、等〜4容積倍の酢酸エチルで脂質成分を抽出し、酢酸エチルを、エバポレーターを用いて留去して脂質及び糖脂質成分を回収する。この脂質成分を等量のクロロホルム:アセトン(50:50)混合溶媒に溶解し、これをシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム:アセトン(30:70)、アセトンの順で溶出させる。各溶液を薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートにチャージし、クロロホルム:メタノール:アンモニア水=65:15:2(容積比)で展開する。展開終了後、アンスロン硫酸試薬で糖脂質の存在を確認する。
糖脂質の含まれる溶出液を集め、溶媒を留去して糖脂質成分を得る。このうち、水溶性MELは極性の高い成分のため、アセトン溶出液中に多量に含まれることから、これらを回収しさらに精製することで単一成分を回収できる。
上記により得られる糖脂質成分の構造決定は、以下のようにして行う(シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica KM-34(FERMP-20730)株)を用いてグルコースを炭素源として培養して得られた水溶性MELの構造決定手法を例にして以下説明する)。
単離した糖脂質成分は、TLCプレート上で、アンスロン硫酸試薬で青緑色に呈色することにより糖脂質成分であると判断できる。この糖脂質について、1H、13C、二次元NMR解析を行い、得られたスペクトルと、構造既知である従来型のマンノシルエリスリトールリピッド(MEL−A〜D)(式2)のスペクトルとを比較することで、構造解析を行う。
糖脂質の糖組成の決定は、アルカリ(NaOCH3)でケン化して得られた糖鎖のNMR解析により行う。得られた糖脂質と従来型のMELの糖鎖のNMRスペクトルを比較することで、本発明のMELの糖鎖部分の構造が、従来型MELと同じ4−O−β−D−マンノピラノシル−meso−エリスリトール構造を有し、本糖脂質が新規構造のMELであることを確認できる。
一方、脂質部分の組成は、得られた糖脂質を塩酸メタノールでメタノリシスし、ヘキサンで抽出して得られた脂肪酸メチルエステルのGC/MSで分析することにより決定する。
1H−NMRスペクトルでは、一般に糖アルコール上の還元末端以外のプロトンは3.5ppm前後にまとまって検出されるが、水酸基の水素がアシル基とエステル結合すると、そのα−プロトンのシグナルは低磁場にシフトすることが知られている。本糖脂質の1H−NMRスペクトルを、従来型MEL(MEL−A)等のものと比較し、各プロトンに由来するピークの化学シフトを帰属した後、どの水酸基に何分子アシル基が結合しているかを類推する。また、2.1ppm付近に観測されるアセチル基(−COCH 3)由来のシグナルを確認することで、結合しているアシル基の何分子が酢酸で、何分子が脂肪酸であるかを予測する。
単離した新規MELの水溶液を疎水性のフィルム上にスポットし、その表面張力の変化を観察する。また、コントロールとして水、及び従来型MELの水溶液をそれぞれスポットして比較する。
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(Pseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株の培養)
a)保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)に保存しておいたPseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株を、グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウムム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管に1白金耳接種し30℃で振とう培養を行い、次いで、
b)得られた菌体培養液を所定量のグルコースあるいはグリセロールと酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地20mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で振とう培養を行った。
上記a)とb)の各培養により得られた菌体培養液を使用して、以下の試験を行った。
(Pseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株のマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)生産能の確認)
a)の培養を1日間行った後、b)の培養をグルコース培地で7日間行った後の培養液を採取し、これを用いてPseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株のバイオサーファクタントの生産を薄層クロマトグラフィーで確認した。展開溶媒はクロロホルム:メタノール:7Nアンモニア水=65:15:2を用い、指示薬には糖脂質を青緑色に発色させるアンスロン硫酸試薬を用いた。マンノシルエリスリトールリピッドの標準として、Pseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株を大豆油添加培地で培養し、原料油脂等の不純物を取り除いた精製標品を用いた。マンノシルエリスリトールリピッド標準における、MEL−A〜Dはそれぞれ式2に表される化合物を示す。
結果を図1に示す。これによれば、Pseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株は炭素源がグルコースでも、大豆油でもマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を生産している。特に、炭素源がグルコースの場合、既知のマンノシルエリスリトールリピッドを示す位置とは異なり、より展開速度が遅い、すなわち極性の高い糖脂質が生産されている。
(マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)生産用培地で同リピッドの生産)
Pseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株を用い、a)の培養を1日間行った後、b)の培養を7日間行った。培養液を採取し、精製後、生産されたMELを高速液体クロマトグラフィーで検出した。また、比較例として大豆油を炭素源として培養したPseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株の培養液を、同様にして高速液体クロマトグラフィーで検出した。結果を図2に示す。なお、図2は、培養液中の酢酸エチル可溶成分を精製後、高速液体クロマトグラフィーで検出した結果であり、既知のマンノシルエリスリトールリピッドのものと一致する。図2によれば、グルコースを炭素源としてPseudozyma antarcticaKM-34(FERMP-20730)株を培養すると、公知のマンノシルエリスリトールリピッドのほかに、溶出時間の遅い位置に、すなわち極性の高い別の糖脂質由来のピークが確認できる。
(Pseudozyma antarctica JCM 10317株の培養とマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)生産能の確認)
実施例1に記載の方法に対し、Pseudozyma antarctica JCM 10317株を用いて同様に培養を行った。a)の培養を1日間行った後、b)の培養をグリセロール培地で7日間行った後の培養液を採取し、これを用いて実施例2に記載の方法と同様に、Pseudozyma antarctica JCM 10317株のバイオサーファクタントの生産を薄層クロマトグラフィーで確認した。
結果を図3に示す。これによれば、Pseudozyma antarctica JCM 10317株は炭素源がグリセロールでも、大豆油でもマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を生産している。特に、炭素源がグリセロールの場合、既知のマンノシルエリスリトールリピッドを示す位置とは異なり、より展開速度が遅い、すなわち極性の高い糖脂質が生産されている。
(構造不明の高極性糖脂質の単離・精製)
実施例2で得られたマンノシルエリスリトールリピッドの精製を、既知の精製手法によって分離した。すなわち、上記酢酸エチル抽出物をシリカゲルカラムに供し、クロロホルムとアセトンの混合液を展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーで精製した。クロロホルムとアセトンの割合は、30:70で脂肪酸及びMEL-A、-B、-Cを分離回収し、続いてアセトンで従来型MELよりも極性の高い成分を分離回収した。そして、それぞれの回収した画分を上記TLCに供した(図4)。これによれば、構造不明の糖脂質はアセトン溶出画分に検出できた。さらにこれらの精製を繰り返すことで、単一成分を得た。
以降、最も極性の高い成分(3)(図4)について詳細に説明する。
(構造不明糖脂質の構造解析)
1)糖組成の解析
実施例5で得られた糖脂質を、メタノール中でナトリウムメトキシドによって加水分解を行った。反応終了後の生成物を酢酸エチル中に再沈殿させて回収し、90%エタノール中で再結晶操作を行うことにより糖鎖の結晶を得た。従来型MELについても同様の操作で糖鎖を回収し、得られた各糖鎖について、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として1H−NMR解析を行った。その結果、本糖脂質と従来型のMELの糖鎖のNMRスペクトルは完全に一致した。よって以上の結果から、実施例5で得られた構造不明糖脂質の糖鎖部分の構造は、従来型MELと同様4−O−β−D−マンノピラノシル−meso−エリスリトールであり、本糖脂質が新規構造のMELであることが予想された。
実施例5で得られた糖脂質の脂質部分の組成は、塩酸メタノール加水分解物からヘキサンで抽出して得られた脂肪酸メチルエステルのGC/MS分析により行った。分析結果を図5に示す。本糖脂質では、短〜中鎖の脂肪酸(C6〜C16)の直鎖飽和及び不飽和脂肪酸が検出され、特にC10及びC12の飽和脂肪酸が主成分であることが示された。また、不飽和脂肪酸は全体の4分の1程度含まれていることが示された。
実施例5で得られた糖脂質について、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒とするNMR解析により構造の同定を行った。1H、13C、1H−1H COSY、HMQC(Heteronuclear Multiple Quantum Coherence)、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Coherence)の各NMRスペクトル解析を行うことで、本糖脂質の構造を完全帰属した。本糖脂質の1H−NMRスペクトルを図6に示す。これによれば、本糖脂質では、アシル基とエステル結合したことで低磁場シフトしたα−プロトンのシグナルが1つだけ5.2ppm付近に観測され、これはマンノース上3’位のプロトンであることが確認された。また、2.1ppm付近にアセチル基(−COCH 3)のメチルプロトンのシグナルが見られなかった。このことは、13C−NMRスペクトルにおいても、脂肪族アシル基(R-C=O)由来の炭素のシグナルが1つだけ172.97ppmに観測され、アセチル基由来のピーク(170ppm前後と20ppm前後)が見られなかったことからも確認された。以上の結果から、本糖脂質は2本の脂肪酸エステルが結合している従来型のMELとは異なり、マンノース上の3’位に1つだけ脂肪族アシル基がエステル結合していることが示された。
(水溶性マンノシルエリスリトールリピッドの簡易回収法)
実施例4に記載の方法で培養したP.antarctica JCM10317株の培養液から、水溶性MELの回収を行った。下記のような種々の方法を用いて簡便な水溶性MELの回収方法を検討した。
(1)得られた培養液に等量の酢酸エチルを添加して抽出する方法
(2)得られた培養液を15,000rpmで遠心分離後、得られた沈殿部分に等量の酢酸エチルを添加して抽出する方法
(3)上記(2)の遠心分離後に得られた上清部分に等量の酢酸エチルを添加して抽出する方法
(4)上記(2)、(3)の上清部分を一度滅菌フィルターろ過したものに等量の酢酸エチルを添加して抽出する方法
それぞれについて得られた画分の薄層クロマトグラフィーの結果を図10に示す。(1)は公知のMEL回収法であり、MEL-A、B、Cを含む全ての糖脂質及び遊離脂肪酸が含まれる。(2)も同様にMEL-A、B、Cを含む全ての糖脂質及び遊離脂肪酸が含まれる。(3)は遠心上清部分、すなわち培養液中に溶解した状態の化合物の抽出画分であり、水溶性糖脂質が含まれる。この水溶性糖脂質は、薄層クロマトグラフィーの移動度とパターンから、上述の水溶性MELである。(4)によって、この水溶液はフィルターろ過による滅菌処理が可能である。
(界面活性能の観察)
実施例5で得られた新規MELの希釈水溶液を作成し、疎水性のフィルム上にスポットすることで、その表面張力の変化を観察した。また、コントロールとして水、及び従来型MEL(MEL−A)の水溶液をそれぞれスポットして比較した。これらの結果を図11に示す。これによれば、本発明での糖脂質は水溶液の表面張力が低下しており、界面活性剤としての機能を有することが示された。また、本糖脂質の水溶液のスポットは、従来型MELと比較するとスポットの広がりは小さくなった。本糖脂質は親油基である脂肪酸エステルの結合数が従来型MELよりも1つ少ないため、より親水的なバイオサーファクタントであると推測される。従って、疎水性フィルムとの親和力は従来型MELと比べて低く、スポットの広がりはやや小さくなるものと予想されたが、本観察の結果はそれに則するものであった。
本発明糖脂質はこれまで存在が知られていなかった新規構造を有しており、バイオサーファクタントのバリエーションの拡張をもたらすほか、高い水溶性を有することで飛躍的な用途の拡大が見込まれる。本来有する特性である分解性の高さや低毒性、環境適合性、高生理活性等を最大限に利用して、食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等に幅広く利用できる。
Claims (9)
- 次の式(1)で表される水溶性マンノシルエリスリトールリピッド。
- 上記式中、R1で示される置換基が、 炭素数6〜20の飽和又は不飽和脂肪族アシル基からなることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド。
- シュードザイマ属に属し、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を、グルコースあるいはグリセロールを含有し、脂肪酸及び脂肪酸エステル不含培地で培養し、培養物から請求項1又は2に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを採取することを特徴とする、水溶性マンノシルエリスリトールリピッドの生産方法。
- 培地組成及び培養条件が、以下に示されるものであることを特徴とする、請求項3に記載の生産方法。
酵母エキス:0.1〜2g/L
硝酸ナトリウム:0.1〜1g/L
リン酸2水素カリウム:0.1〜2g/L
硝酸マグネシウム:0.1〜1g/L
グルコースあるいはグリセロール:20〜200g/L
培養温度:26〜32℃
- 上記培養液から菌体の除去と加熱殺菌処理を施す工程を含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載の生産方法。
- 菌体の除去と殺菌処理を施した上記培養液をフィルターろ過して請求項1又は2に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを採取することを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の生産方法。
- 上記培養物に有機溶剤を添加し、次いで有機溶剤可溶物質を除去する工程を含むことを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の生産方法。
- 請求項1または2に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピドと、分子中に炭素数6〜20の脂肪族アシル基を2以上有するマンノシルエリスリトールリピッドとからなることを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド混合物。
- 請求項1又は2に記載の水溶性マンノシルエリスリトールリピッドを10〜50%含むことを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド混合物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006158630A JP4803436B2 (ja) | 2006-06-07 | 2006-06-07 | 水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006158630A JP4803436B2 (ja) | 2006-06-07 | 2006-06-07 | 水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2007326801A true JP2007326801A (ja) | 2007-12-20 |
JP4803436B2 JP4803436B2 (ja) | 2011-10-26 |
Family
ID=38927528
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2006158630A Active JP4803436B2 (ja) | 2006-06-07 | 2006-06-07 | 水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4803436B2 (ja) |
Cited By (6)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008187902A (ja) * | 2007-01-31 | 2008-08-21 | Toyobo Co Ltd | 糖脂質型バイオサーファクタントの脱アシル体の製造方法 |
EP2073434A1 (en) | 2007-12-19 | 2009-06-24 | Fujitsu Ltd. | Digital signature system and digital signing method |
JP2009178093A (ja) * | 2008-01-31 | 2009-08-13 | National Institute Of Advanced Industrial & Technology | マンノシルエリスリトール異性体の製造方法 |
WO2009104284A1 (ja) | 2008-02-19 | 2009-08-27 | 富士通株式会社 | ストリームデータ管理プログラム、方法、及びシステム |
JP2010158192A (ja) * | 2009-01-07 | 2010-07-22 | Sanwa Shurui Co Ltd | 糖型バイオサーファクタント生産能を有する微生物及びそれを用いる糖型バイオサーファクタントの製造方法 |
JP2010215593A (ja) * | 2009-03-18 | 2010-09-30 | Maruzen Pharmaceut Co Ltd | 酵母由来の植物病害防除剤 |
Citations (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS6024797B2 (ja) * | 1981-03-06 | 1985-06-14 | 花王株式会社 | 糖脂質及びその発酵生産法 |
-
2006
- 2006-06-07 JP JP2006158630A patent/JP4803436B2/ja active Active
Patent Citations (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS6024797B2 (ja) * | 1981-03-06 | 1985-06-14 | 花王株式会社 | 糖脂質及びその発酵生産法 |
Cited By (6)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008187902A (ja) * | 2007-01-31 | 2008-08-21 | Toyobo Co Ltd | 糖脂質型バイオサーファクタントの脱アシル体の製造方法 |
EP2073434A1 (en) | 2007-12-19 | 2009-06-24 | Fujitsu Ltd. | Digital signature system and digital signing method |
JP2009178093A (ja) * | 2008-01-31 | 2009-08-13 | National Institute Of Advanced Industrial & Technology | マンノシルエリスリトール異性体の製造方法 |
WO2009104284A1 (ja) | 2008-02-19 | 2009-08-27 | 富士通株式会社 | ストリームデータ管理プログラム、方法、及びシステム |
JP2010158192A (ja) * | 2009-01-07 | 2010-07-22 | Sanwa Shurui Co Ltd | 糖型バイオサーファクタント生産能を有する微生物及びそれを用いる糖型バイオサーファクタントの製造方法 |
JP2010215593A (ja) * | 2009-03-18 | 2010-09-30 | Maruzen Pharmaceut Co Ltd | 酵母由来の植物病害防除剤 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP4803436B2 (ja) | 2011-10-26 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Marcelino et al. | Biosurfactants production by yeasts using sugarcane bagasse hemicellulosic hydrolysate as new sustainable alternative for lignocellulosic biorefineries | |
Claus et al. | Sophorolipid production by yeasts: a critical review of the literature and suggestions for future research | |
Rapp et al. | Formation, isolation and characterization of trehalose dimycolates from Rhodococcus erythropolis grown on n-alkanes | |
Costa et al. | Production of Pseudomonas aeruginosa LBI rhamnolipids following growth on Brazilian native oils | |
JP4803436B2 (ja) | 水溶性マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 | |
Shao | Trehalolipids | |
JP2008247845A (ja) | 酸型ソホロースリピッドの生産方法 | |
JPWO2015020114A1 (ja) | 新型ソホロリピッド化合物及びそれを含有する組成物 | |
JP5344274B2 (ja) | 新規マンノシルエリスリトールリピッドおよびその製造方法 | |
JP4722386B2 (ja) | 糖脂質及びその製造方法 | |
JP5339335B2 (ja) | 新規マンノシルエリスリトール及びその製造方法 | |
Nott et al. | Enzymatic synthesis and surface properties of novel rhamnolipids | |
JP4803435B2 (ja) | 新規マンノシルエリスリトールリピッド及びその製造方法 | |
JP5622190B2 (ja) | 新規微生物及びそれを用いる糖型バイオサーファクタントの製造方法 | |
JP2007252279A (ja) | マンノシルエリスリトールリピッドの高効率生産方法 | |
JP4735971B2 (ja) | マンノシルエリスリトールリピッドの生産方法 | |
Solaiman et al. | Low‐Temperature Crystallization for Separating Monoacetylated Long‐Chain Sophorolipids: Characterization of Their Surface‐Active and Antimicrobial Properties | |
JPS63112993A (ja) | 酵素法による糖もしくは糖アルコ−ル脂肪酸エステルの製法 | |
JP4654415B2 (ja) | マンノシルエリスリトールリピッドの分離回収方法 | |
JP5051537B2 (ja) | マンノシルエリスリトールリピッド誘導体 | |
JP2923756B2 (ja) | エタノールを用いたラムノリピッドの製造方法 | |
Azran et al. | Bioconversion of cane sugar refinery by-products into rhamnolipid by marine Pseudomonas aeruginosa | |
JP6954548B1 (ja) | 新規ソホロリピッド誘導体 | |
WO2022210011A1 (ja) | 新規ソホロリピッド誘導体 | |
JP2008260715A (ja) | マンノシルアルジトールリピッド及びその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20081215 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20110419 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20110620 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821 Effective date: 20110620 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20110726 |
|
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20110727 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 4803436 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140819 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140819 Year of fee payment: 3 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
S533 | Written request for registration of change of name |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |