本発明に係る多種燃料内燃機関の実施例1を図1から図4に基づいて説明する。この多種燃料内燃機関とは性状の異なる少なくとも2種類の燃料を使用して運転される内燃機関であり、ここでは、全燃料に占める夫々の燃料の割合を運転条件に応じて変化させながら燃焼制御されるものについて例示する。
この多種燃料内燃機関は、図1に示す電子制御装置(ECU)1によって燃焼制御等の各種制御動作が実行される。その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
最初に、ここで例示する多種燃料内燃機関の構成について図1に基づき説明を行う。尚、その図1においては1気筒のみを図示しているが、本発明は、これに限らず、多気筒の多種燃料内燃機関にも適用可能である。本実施例1においては、複数の気筒を具備しているものとして説明する。
この多種燃料内燃機関には、燃焼室CCを形成するシリンダヘッド11,シリンダブロック12及びピストン13が備えられている。ここで、そのシリンダヘッド11とシリンダブロック12は図1に示すヘッドガスケット14を介してボルト等で締結されており、これにより形成されるシリンダヘッド11の下面の凹部11aとシリンダブロック12のシリンダボア12aとの空間内にピストン13が往復移動可能に配置される。そして、上述した燃焼室CCは、そのシリンダヘッド11の凹部11aの壁面とシリンダボア12aの壁面とピストン13の頂面13aとで囲まれた空間によって構成される。
本実施例1の多種燃料内燃機関は、機関回転数や機関負荷等の運転条件及び燃焼モードに従って空気と燃料を燃焼室CCに送り込み、その運転条件等に応じた燃焼制御を実行する。その空気については、図1に示す吸気通路21とシリンダヘッド11の吸気ポート11bを介して外部から吸入される。一方、その燃料については、図1に示す燃料供給装置50を用いて供給される。
先ず、空気の供給経路について説明する。本実施例1の吸気通路21上には、外部から導入した空気に含まれる塵埃等の異物を除去するエアクリーナ22と、外部からの吸入空気量を検出するエアフロメータ23と、が設けられている。この多種燃料内燃機関においては、そのエアフロメータ23の検出信号が電子制御装置1へと送られ、その検出信号に基づいて電子制御装置1が吸入空気量や機関負荷等を算出する。
また、その吸気通路21上におけるエアフロメータ23よりも下流側には、燃焼室CC内への吸入空気量を調節するスロットルバルブ24と、このスロットルバルブ24を開閉駆動するスロットルバルブアクチュエータ25と、が設けられている。本実施例1の電子制御装置1は、そのスロットルバルブアクチュエータ25を運転条件及び燃焼モードに従って駆動制御し、その運転条件等に応じた弁開度(換言すれば、吸入空気量)となるようにスロットルバルブ24の開弁角度を調節させる。例えば、そのスロットルバルブ24は、その運転条件等に応じた空燃比と混合気量を成す為に要する吸入空気量の空気を燃焼室CCに吸入させるべく調節される。この多種燃料内燃機関においては、そのスロットルバルブ24の弁開度を検出し、その検出信号を電子制御装置1に送信するスロットル開度センサ26が設けられている。
更に、吸気ポート11bはその一端が燃焼室CCに開口しており、その開口部分に当該開口を開閉させる吸気バルブ31が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に吸気バルブ31が配備される。従って、この多種燃料内燃機関においては、その吸気バルブ31を開弁させることによって吸気ポート11bから燃焼室CC内に空気が吸入される一方、その吸気バルブ31を閉弁させることによって燃焼室CC内への空気の流入が遮断される。
ここで、その吸気バルブ31としては、例えば、図示しない吸気側カムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動されるものがある。この種の吸気バルブ31においては、その吸気側カムシャフトとクランクシャフト15の間にチェーンやスプロケット等からなる動力伝達機構を介在させることによってその吸気側カムシャフトをクランクシャフト15の回転に連動させ、予め設定された開閉時期に開閉駆動させる。本実施例1の多種燃料内燃機関においては、このようなクランクシャフト15の回転に同期して開閉駆動される吸気バルブ31を適用する。
但し、この多種燃料内燃機関は、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を変更可能な所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備してもよく、これにより、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を運転条件及び燃焼モードに応じた好適なものへと可変させることができるようになる。更にまた、この多種燃料内燃機関においては、かかる可変バルブ機構と同様の作用効果を得るべく、電磁力を利用して吸気バルブ31を開閉駆動させる所謂電磁駆動弁を利用してもよい。
続いて、燃料供給装置50について説明する。この燃料供給装置50は、性状の異なる複数種類の燃料を燃焼室CCに導くものである。本実施例1にあっては、所定の燃料混合比率で混合した性状の異なる2種類の燃料(第1燃料タンク41Aに貯留された第1燃料F1と第2燃料タンク41Bに貯留された第2燃料F2)を燃焼室CC内に直接噴射させるべく構成したものについて例示する。
具体的に、この燃料供給装置50は、第1燃料F1を第1燃料タンク41Aから吸い上げて第1燃料通路51Aに送出する第1フィードポンプ52Aと、第2燃料F2を第2燃料タンク41Bから吸い上げて第2燃料通路51Bに送出する第2フィードポンプ52Bと、その第1及び第2の燃料通路51A,51Bから各々送られてきた第1及び第2の燃料F1,F2を混ぜ合わせる燃料混合手段53と、この燃料混合手段53にて生成された混合燃料を加圧して高圧燃料通路54に圧送する高圧燃料ポンプ55と、その高圧燃料通路54の混合燃料を夫々の気筒に分配するデリバリ通路56と、このデリバリ通路56から供給された混合燃料を燃焼室CC内に噴射する各気筒の燃料噴射弁57と、を備える。
この燃料供給装置50は、その第1フィードポンプ52A,第2フィードポンプ52B及び燃料混合手段53を運転条件及び燃焼モードに従って電子制御装置1に駆動制御させ、これにより、その運転条件等に対応させた燃料混合比率の混合燃料が生成されるように構成する。例えば、その電子制御装置1には、第1及び第2のフィードポンプ52A,52Bに第1及び第2の燃料F1,F2を各々吸い上げさせ、その第1及び第2の燃料F1,F2を運転条件等に応じた燃料混合比率となるよう燃料混合手段53に混合させる。ここで、本実施例1の燃料供給装置50においては、運転条件等に応じた燃料混合比率に準ずる量の第1及び第2の燃料F1,F2を第1及び第2の第1フィードポンプ52A,52Bから各々吸い上げさせ、その第1及び第2の燃料F1,F2が運転条件等に応じた燃料混合比率で混合されるように燃料混合手段53で最終的な調節を行わせてもよい。
このように、本実施例1にあっては、その第1フィードポンプ52A,第2フィードポンプ52B,燃料混合手段53及び電子制御装置1によって、全燃料(生成された混合燃料)に占める夫々の燃料の混合割合を調節(即ち、第1燃料F1と第2燃料F2の燃料混合比率を制御)する燃料混合比率制御手段が構築される。
また、この燃料供給装置50は、その高圧燃料ポンプ55及び燃料噴射弁57を運転条件及び燃焼モードに従って電子制御装置1に駆動制御させ、これにより、その運転条件等に対応させた燃料噴射量,燃料噴射時期及び燃料噴射期間等の燃料噴射条件で上記の生成された混合燃料が噴射されるように構成する。例えば、その電子制御装置1には、その混合燃料を高圧燃料ポンプ55から圧送させ、運転条件等に応じた燃料噴射条件で燃料噴射弁57に噴射を実行させる。
ところで、内燃機関の燃焼モードは、一般に、拡散燃焼モードと予混合火花点火燃焼モードとに大別される。
その拡散燃焼モードとは、燃焼室CC内に形成された高温の圧縮空気の中に高圧の燃料を噴射することにより燃料の一部を自己着火させ、その燃料と空気を拡散混合させながら燃焼を進行させる燃焼形態のことである。ここで、燃焼室CC内の圧縮空気と燃料は瞬時に混合され難いので、燃料の噴射開始直後においては、所々で空燃比に濃淡が生じてしまう。一方、拡散燃焼させる際には下記の如く着火性に優れた燃料が使用されるので、その燃料は、全噴射量が噴射し終わるのを待つことなく、燃焼に適した空燃比の部分において自ら発火してしまう。これが為、この拡散燃焼モードにおいては、燃焼に適した空燃比の部分の燃料が先に自己着火し、これにより形成された火炎が残りの燃料と空気を巻き込みながら徐々に燃焼を進行させる。
この拡散燃焼モードで運転させる為には、発火点が圧縮空気の圧縮熱よりも低い着火性の良好な燃料が必要になる。例えば、その着火性の良い燃料としては、軽油やジメチルエーテルなどが考えられる。更に、近年、軽油の代替燃料としてGTL(Gas To Liquids)燃料が注目されており、このGTL燃料は、所望の性状のものとして生成し易い。これが為、着火性の良い燃料には、着火性を高めるべく生成されたGTL燃料を使用することもできる。このような着火性の良好な燃料は、拡散燃焼を可能にするだけでなく、拡散燃焼モードで運転する際に窒素酸化物(NOx)の発生量を減少させ、更に、燃焼時の騒音や振動を抑えることができる。
一方、予混合火花点火燃焼モードとは、燃料と空気を予め混ぜ合わせた燃焼室CC内の予混合気に火花点火にて火種を与え、その火種を中心にして火炎を伝播させながら燃焼を進行させる燃焼形態のことである。この予混合火花点火燃焼モードには、均質に混ぜ合わされた予混合気に対して点火を行う均質燃焼や、点火手段の周囲に濃度の高い予混合気を形成すると共に更にその周囲に希薄予混合気を形成し、その濃い予混合気に対して点火を行う成層燃焼などの燃焼形態も含む。
この予混合火花点火燃焼モードに適している燃料としては、一般に、ガソリンに代表される蒸発性の高い燃料が考えられる。ここで、蒸発性の高い燃料は、空気と混合され易いので、燃料の過濃領域を減少させ、PMやスモーク、NOxや未燃炭化水素(未燃HC)の抑制に寄与する。従って、この蒸発性の高い燃料を拡散燃焼モードで用いることによって、拡散燃焼時にPM等の発生を抑制することができるようになる。その蒸発性の高い燃料としては、そのガソリン以外に、蒸発性の高い性状のものとして生成されたGTL燃料やジメチルエーテルなどが知られている。
ここで、拡散燃焼モードは、予混合火花点火燃焼モードに比べて圧縮比を高く設定できるので、熱効率が高く、中高負荷・低回転や高負荷・高回転等の運転条件のときには有用であるが、低負荷・低回転等を含む全ての運転条件において有用であるとは限らない。これに対して、予混合火花点火燃焼モードは、その拡散燃焼モードが苦手とする低負荷・低回転や低中負荷・高回転等の運転条件のときに、その拡散燃焼モードよりも効果的な燃焼状態を保つことができる。
そこで、本実施例1においては、拡散燃焼モードと予混合火花点火燃焼モードの双方を多種燃料内燃機関の燃焼モードとして用意する。
従って、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、少なくとも拡散燃焼モードに好適な着火性の良い燃料と予混合火花点火燃焼モードに好適な蒸発性の高い燃料の2種類の燃料を使用する。ここでは、第1燃料F1に着火性の良い燃料を用い、第2燃料F2に蒸発性の高い燃料を用いる。
また、本実施例1の多種燃料内燃機関には、予混合火花点火燃焼モードでの運転を可能にする為、予混合気に対して火花点火させる図1に示す点火プラグ61を配設する。この点火プラグ61は、電子制御装置1の指示に従い、予混合火花点火燃焼モード時の運転条件に応じた点火時期になると火花点火を実行する。
更に、その電子制御装置1には、上述した夫々の燃焼モードを運転条件に従って切り替えさせる。この燃焼モードの選択は、例えば、運転条件(機関回転数及び機関負荷)をパラメータにした図2に示す如きマップデータを利用して行う。このマップデータは、中高負荷・低回転や高負荷・高回転等の運転条件のときに拡散燃焼モードで運転させ、低負荷・低回転や低中負荷・高回転等の運転条件のときに予混合火花点火燃焼モードで運転させるように予め実験やシミュレーションに基づき設定されたものである。
ここで、その機関回転数については、図1に示すクランク角センサ16の検出信号から把握することができる。このクランク角センサ16は、クランクシャフト15の回転角度を検出するセンサである。一方、機関負荷については、上述したエアフロメータ23の検出信号から把握することができる。
また更に、この電子制御装置1には、その運転条件と燃焼モードに基づいて吸入空気量,燃料混合比率及び燃料噴射条件を設定させる。これらについては、例えば、運転条件(機関回転数及び機関負荷)をパラメータにした燃焼モード毎のマップデータを利用して各々設定する。
ここで、予混合火花点火燃焼モードにおいては、予め燃料と空気を十分に混合させるので、PMやスモークの排出を抑えることができる。
一方、拡散燃焼モードにおいては、圧縮空気中に燃料が噴射されるので蒸発性の低い燃料を使用した場合には燃料と空気の混合状態が均一になり難く、更に、拡散燃焼期間と後燃え期間で燃焼室CC内の温度と圧力が低下する為に、不完全燃焼を引き起こしてPMやスモークが発生され易くなってしまう。特に、PMやスモークの発生量は、混合燃料の蒸発性が低下するほど増加していく。これが為、この拡散燃焼モードにおいては、上述した蒸発性の高い燃料を着火性の良い燃料に混ぜ合わせて混合燃料の蒸発性を高めることによって、その混合燃料と空気の混合が促進されて混合燃料の過濃領域が減少されるので、PMやスモークの発生量を減少させることができる。
しかしながら、その蒸発性の高い燃料の混合割合が高くなればなるほど混合燃料の着火性は低下するので、その混合割合如何では、PMやスモークの発生を抑えることができる一方で、混合燃料が自己着火できなくなってしまう可能性もある。また、自己着火の不可能な状態にまで至らずとも、着火性の低い混合燃料は、着火性が低ければ低いほど着火遅れ期間(燃料噴射から着火開始までの時間)を長期化させるので、急峻な燃焼を引き起こしてNOxの発生量を増大させてしまう。更に、そのような着火性の低い混合燃料を用いた場合には、燃焼時の騒音や振動の悪化を招き、また、着火が不安定になって激しいトルク変動を引き起こしてしまうので、安定した機関運転が不可能になる。
ここで、この拡散燃焼モードにおいては、上述したが如く着火性が低いほど着火遅れ期間が長期化するにも拘わらず、機関回転数が高回転になればなるほど噴射された燃料の自己着火に至るまでの時間が短くなり、着火遅れ期間の余裕が無くなっていくので、機関回転数が高回転になるにつれて上述したNOx発生量の増大等の各種不都合が顕著に表れてしまう。
このように、拡散燃焼モードにおいては、蒸発性の高い燃料の混合割合を高めていくことによってPMやスモークの発生量が減少されるが、その一方でNOx発生量の増大等を招いてしまうので、その混合割合を必要以上に高めることは好ましくない。他方、近年においては、DPF(Diesel Particulate Filter)でPMを捕集することによってPMやスモークの大気への放出を抑制する技術が進展しており、これを利用することができる。
そこで、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、蒸発性の高い燃料も利用して拡散燃焼モードにおけるPMやスモークの発生量を減少させる一方、DPF等の他の技術を用いることによって、高回転時等のように混合燃料に良好な着火性が求められる場合には着火性を高めてPMやスモークの発生量の増加を是認する。これにより、この多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モードで運転する際に、上述したNOx発生量の増大等の各種不都合を改善することができる。
本実施例1にあっては、機関回転数が高回転になればなるほど噴射された燃料の自己着火に至るまでの時間が短くなるので、高回転になるにつれて着火性の良好な燃料の混合割合が高く設定されるように電子制御装置1を構成する。例えば、本実施例1の電子制御装置1には、その機関回転数と着火性の良好な燃料(高着火性燃料)の混合割合との対応関係を予め実験やシミュレーションで求めておいた図2に示すマップデータから混合割合を設定させる。
例えば、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、第1燃料F1に軽油を使用し、これよりも着火性に劣るが蒸発性の高いガソリンを第2燃料F2に使用する組み合わせが考えられる。かかる組み合わせの場合には、機関回転数が高回転になるにつれて軽油の混合割合を高くする。
また、上述したが如く、ジメチルエーテルは、着火性も良いが蒸発性も高い。更に、GTL燃料については着火性と蒸発性の双方の性能を高めることもできるので、その双方の性能に優れるGTL燃料を作り出すことができる。従って、第1燃料F1に軽油を使用し、第2燃料F2にジメチルエーテルや着火性及び蒸発性の双方に優れるGTL燃料を使用する組み合わせとなる場合もあり得る。これが為、かかる組み合わせの場合には、その第1燃料F1と第2燃料F2の内のどちらの混合割合を高めてもよいが、上述したPM等の発生を抑えるとの観点からすれば、蒸発性にも優れている第2燃料F2の混合割合を高くすることが好ましい。これにより、拡散燃焼モードで運転する際には、上述したNOx発生量の増大等の各種不都合を改善するだけでなく、PM等の発生を抑制することもできるようになる。尚、3種類以上の燃料で運転させる場合には、その第1燃料F1と第2燃料F2の双方の混合割合を高めてもよい。
他方、そのようなジメチルエーテルや着火性及び蒸発性の双方に優れるGTL燃料を第1燃料F1と第2燃料F2に各々使用する事も可能である。これが為、かかる組み合わせの場合には、例えば、着火性の向上により得られる効果を優先させるのであれば第1燃料F1と第2燃料F2の内で最も着火性の良好な方の混合割合を高め、着火性の向上による効果はどちらの燃料を増やしても達成し得るのであればPM等の抑制を求めて最も蒸発性の高い方の燃料の混合割合を高くすることが好ましい。
以下に、本実施例1の多種燃料内燃機関における燃料の混合制御動作について図4のフローチャートを用いて説明する。
先ず、本実施例1の電子制御装置1は、運転条件(機関回転数と機関負荷)を図2に示すマップデータに照らし合わせ、要求される燃焼モードが拡散燃焼モードであるか否か判断する(ステップST1)。
ここで、この電子制御装置1は、そのステップST1で拡散燃焼モードと判断した場合、その際の機関回転数を図3に示すマップデータに照らし合わせて第1燃料(高着火性燃料)F1の混合割合を求め、第1燃料F1と第2燃料F2の燃料混合比率を算出する(ステップST2)。本実施例1にあっては、上述したが如く、機関回転数が高回転になればなるほど着火性の良好な第1燃料F1の混合割合を高く設定する。そして、この電子制御装置1は、その燃料混合比率となるように第1フィードポンプ52A,第2フィードポンプ52B及び燃料混合手段53を駆動制御し、第1燃料F1と第2燃料F2をその燃料混合比率で混合させる(ステップST3)。その混合燃料は、電子制御装置1によって駆動制御された高圧燃料ポンプ55からデリバリ通路56へと圧送される。
本実施例1の電子制御装置1は、その燃料の混合制御を行うと共に、スロットルバルブアクチュエータ25を駆動制御してスロットルバルブ24を運転条件に応じた開弁角度にする。従って、吸気バルブ31が開弁した際には、その運転条件に応じた吸入空気量の空気が燃焼室CCに吸入される。その吸入空気は、吸気バルブ31が閉弁した後に、ピストン13が吸気行程の圧縮上死点に近づくに従い圧縮されて高温になる。しかる後、その電子制御装置1は、その運転条件に応じた燃料噴射時期になると燃料噴射弁57を駆動制御して、上記の燃料混合比率からなる混合燃料を燃焼室CC内の圧縮空気の中へと噴射させる。これにより、本実施例1の多種燃料内燃機関は、その混合燃料が自己着火して拡散燃焼を行う。
ここで、この多種燃料内燃機関においては、機関回転数の上昇に従って第1燃料(高着火性燃料)F1の混合割合が高くなり混合燃料の着火性が高まっていくので、機関回転数が高回転化していっても着火遅れ期間を短縮させていくことができる。従って、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モードでの運転時に機関回転数が上昇していった際にも、急峻な燃料が引き起こされないのでNOxの発生量が増大せず、また、燃焼騒音も悪化しなくなる。更に、この多種燃料内燃機関においては、その際の着火が安定するので、トルク変動を発生させずとも済む。
一方、この電子制御装置1は、上記ステップST1にて拡散燃焼モードではないと判断した場合、その判断された燃焼モードにおけるその際の運転条件に応じた燃料混合比率を算出する(ステップST4)。ここでは、拡散燃焼モード以外の燃焼モードとして予混合火花点火燃焼モードが用意されているので、この予混合火花点火燃焼モードにおける燃料混合比率を求める。そして、この電子制御装置1は、上記ステップST3に進み、その燃料混合比率となるように第1燃料F1と第2燃料F2を混合させる。
本実施例1の電子制御装置1は、この予混合火花点火燃焼モードにおける燃料の混合制御を行うと共にスロットルバルブ24を運転条件に応じた開弁角度に設定させる。従って、吸気バルブ31が開弁した際には、その運転条件に応じた吸入空気量の空気が燃焼室CCに吸入される。この電子制御装置1は、その吸気行程中の所定の燃料噴射時期に燃料噴射弁57を駆動制御して、上記の燃料混合比率からなる混合燃料を燃焼室CCに噴射させる。そして、これに伴い燃焼室CC内で空気と混合燃料とが混ぜ合わされるので、この電子制御装置1は、その予混合気に対して運転条件に応じた点火時期になると点火プラグ61から点火させる。これにより、この多種燃料内燃機関においては、予混合火花点火燃焼が行われる。
そのようにして各種燃焼モードにて燃焼された後の筒内ガスは、燃焼室CCから図1に示す排気ポート11cへと排出される。ここで、この排気ポート11cには、燃焼室CCとの間の開口を開閉させる排気バルブ71が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に上述した排気バルブ71が配備される。従って、この多種燃料内燃機関においては、その排気バルブ71を開弁させることによって燃焼室CC内から排気ポート11cに燃焼後の筒内ガスが排出され、その排気バルブ71を閉弁させることによって筒内ガスの排気ポート11cへの排出が遮断される。
ここで、その排気バルブ71としては、上述した吸気バルブ31と同様に、動力伝達機構を介在させたもの、所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備したものや所謂電磁駆動弁を適用することができる。
ところで、本実施例1においては着火性の良好な燃料と蒸発性の高い燃料の2種類の燃料で運転される多種燃料内燃機関について例示したが、これらとは異なる別の燃料を更に使用する場合、その燃料については、それらと同様の性状を備えた別種の燃料を使用してもよく、また、本機関に求められる出力性能等の機関性能やエミッション性能及び燃費性能等の環境性能、燃料供給のインフラ環境(即ち、入手し易さ)などに応じて最適な性状の燃料を選択してもよい。
ここで、近年においては、上述した拡散燃焼モードと予混合火花点火燃焼モードの夫々の利点を備えた予混合圧縮着火燃焼モードと呼ばれる燃焼モードが注目されている。この予混合圧縮着火燃焼モードとは、燃焼室CCに供給された燃料と空気を混ぜ合わせ、これにより形成された予混合気をピストン13で圧縮して自己着火させる燃焼形態のことであり、所謂HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)燃焼モードと呼ばれるものである。
この予混合圧縮着火燃焼モードについては、上述した拡散燃焼モードが燃料噴射時期によって着火時期を制御でき、また、予混合火花点火燃焼モードが燃料噴射時期と点火時期によって着火時期を制御できる一方で、着火時期が予混合気の圧縮熱に依存してしまうので着火制御を行い難い。更に、この予混合圧縮着火燃焼モードは、現状では運転条件が狭く、例えば、アイドリング回転を維持し難いなどの課題も存在している。しかしながら、この予混合圧縮着火燃焼モードに関しては、熱効率に優れる拡散燃焼モードとNOxやPMの排出量が殆ど無い予混合火花点火燃焼モードの夫々の利点を活かすことのできる燃焼形態であるので、狭い領域ながらも運転条件によっては利用することが好ましい。従って、この多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モードに加え、上記の予混合火花点火燃焼モードと共に又は予混合火花点火燃焼モードに替えて予混合圧縮着火燃焼モードを用意してもよい。
以上示した如く、本実施例1によれば、着火性の良好な燃料とこれとは異なる性状の燃料を使用して運転される多種燃料内燃機関において、その着火性の良好な燃料の混合割合を機関回転数が高回転になるほど高めることによって混合燃料の着火性が向上されるので、その機関回転数の上昇に伴い顕著になっていく着火不良を解消することができる。これが為、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、機関回転数が高回転に伴う上述したNOx発生量の増大等の各種不都合が改善される。
次に、本発明に係る多種燃料内燃機関の実施例2を図5及び図6に基づいて説明する。
本実施例2の多種燃料内燃機関は、拡散燃焼時には機関負荷が低負荷になればなるほど着火性が悪化してしまい、前述した実施例1にて説明したようなNOx発生量の増大等の各種不都合が生じる、という点に着目したものであり、それに係る構成を前述した実施例1の多種燃料内燃機関に対して変更したものである。即ち、本実施例2の多種燃料内燃機関は、前述した実施例1の多種燃料内燃機関において拡散燃焼モード運転時の着火性の向上制御に係る構成を変更したものであり、それ以外については実施例1と同様に構成する。
そこで、本実施例2の多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モード運転時に機関負荷が低負荷になればなるほど混合燃料の着火性を高め、これにより、低負荷になるにつれて悪化していく混合燃料の自己着火性の改善を図ってNOx発生量の増大等の各種不都合を改善させる。
本実施例2にあっては、機関負荷が低負荷になるにつれて着火性の高い燃料(高着火性燃料)の混合割合を高く設定させるように電子制御装置1を構成する。例えば、本実施例2の電子制御装置1においても、実施例1と同様に、その高着火性燃料の混合割合を図5に示すマップデータに基づいて求めさせる。このマップデータは、予め実験やシミュレーションから求めた良好な着火性を確保し得る機関負荷毎の高着火性燃料の混合割合について設定したものである。
ここで、本実施例2の多種燃料内燃機関においても、実施例1と同様に、第1燃料F1に着火性の良い燃料を使用し、第2燃料F2に蒸発性の高い燃料を使用した場合について例示する。従って、この本実施例2の多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モード運転時には機関負荷が高負荷になればなるほど着火性の良い第1燃料F1の混合割合が低下していくので、混合燃料の着火性が悪化していく。しかしながら、一般に機関負荷が高負荷になるにつれて吸入空気の温度や圧力が高くなるので、拡散燃焼モードにおいては、着火性の低い混合燃料を使用しても安定した着火を行うことができる。また、本実施例2の多種燃料内燃機関においては、これに伴い、高負荷になるに従って蒸発性の高い第2燃料F2の混合割合が高められるので、高負荷になるにつれて増加する虞のあるPMやスモークの発生を抑えることができる。このように、本実施例2の多種燃料内燃機関は、高負荷側で安定した着火を保ちつつPMやスモークの発生を抑えることもできる。
一方、この多種燃料内燃機関においては、拡散燃焼モード運転時に機関負荷が低負荷になるほど着火性の良好な第1燃料F1の混合割合を高めるので、これに伴って蒸発性の高い第2燃料F2の混合割合が低下し、PMやスモークの発生量が増加するのではないかと懸念される。しかしながら、そのPMやスモークの発生量は低負荷側では高負荷側よりも少ないので、第2燃料F2の混合割合を下げても問題はない。これが為、この多種燃料内燃機関においては、低負荷側においても安定した着火を保ちながらPMやスモークの発生を抑えることができる。
以下に、本実施例2の多種燃料内燃機関における燃料の混合制御動作について図6のフローチャートを用いて説明する。ここでも、実施例1と同様に、燃焼モードとして拡散燃焼モードと予混合火花点火燃焼モードが設定されている場合を例示する。
先ず、本実施例1の電子制御装置1は、実施例1のステップST1と同様にして、運転条件(機関回転数と機関負荷)に基づき燃焼モードが拡散燃焼モードであるか否か判断する(ステップST11)。
ここで、この電子制御装置1は、そのステップST11で拡散燃焼モードと判断した場合、その際の機関負荷を図5に示すマップデータに照らし合わせて第1燃料(高着火性燃料)F1の混合割合を求め、第1燃料F1と第2燃料F2の燃料混合比率を算出する(ステップST12)。本実施例2にあっては、上述したが如く、機関負荷が低負荷になればなるほど第1燃料F1の混合割合を高く設定する。そして、この電子制御装置1は、実施例1のステップST3と同様に、その燃料混合比率となるように第1フィードポンプ52A,第2フィードポンプ52B及び燃料混合手段53を駆動制御して、第1燃料F1と第2燃料F2をその燃料混合比率で混合させる(ステップST13)。
その後、本実施例1の電子制御装置1は、スロットルバルブアクチュエータ25や燃料噴射弁57を駆動制御し、その混合燃料を圧縮空気中に噴射させて拡散燃焼を行わせる。ここで、この多種燃料内燃機関においては、機関負荷が低負荷になるほど第1燃料(高着火性燃料)F1の混合割合が高くなる一方で、高負荷になるほど第2燃料(高蒸発性燃料)F2の混合割合が高くなるので、上述したが如く、様々な負荷条件で安定した着火を行いながらPMやスモークの発生を抑えることができる。
一方、この電子制御装置1は、上記ステップST11にて拡散燃焼モードではないと判断した場合、実施例1のステップST4と同様にして、その判断された燃焼モードに対応する燃料混合比率を算出し(ステップST14)、その燃焼モードで多種燃料内燃機関を運転させる。
以上示した如く、本実施例2の多種燃料内燃機関によれば、少なくとも着火性の良好な燃料と蒸発性の高い燃料とを使用し、機関負荷が低負荷になるほど着火性の高い燃料の混合割合を高めることによって、あらゆる機関負荷において混合燃料の良好な着火性を確保しつつPMやスモークの発生を抑制することができる。
尚、本実施例2の多種燃料内燃機関においても、実施例1と同様に3種類以上の燃料を使用してもよい。
ところで、上述した各実施例1,2においては第1燃料F1と第2燃料F2の混合燃料を燃焼室CCに直接噴射させる所謂筒内直接噴射式の多種燃料内燃機関について例示したが、その各実施例1,2における夫々の発明は、その混合燃料を燃焼室CC内だけでなく吸気ポート11bへも噴射させる多種燃料内燃機関に適用してもよい。
例えば、この種の多種燃料内燃機関は、その各実施例1,2の多種燃料内燃機関において燃料供給装置50を図7に示す燃料供給装置150へと置き換えることによって構成される。その図7に示す燃料供給装置150は、その各実施例1,2における燃料供給装置50の各種構成部品に加えて、燃料混合手段53で生成された混合燃料を燃料通路154に吐出する燃料ポンプ155と、その燃料通路154の混合燃料を夫々の気筒に分配するデリバリ通路156と、このデリバリ通路156から供給された混合燃料を吸気ポート11bに噴射する各気筒の燃料噴射弁157と、を設けたものである。この種の多種燃料内燃機関においては、例えば、拡散燃焼モードで運転する際に燃料噴射弁57を駆動制御して混合燃料を燃焼室CC内へと噴射させ、予混合火花点火燃焼モードで運転する際に燃料噴射弁157を駆動制御して混合燃料を吸気ポート11bへと噴射させる。また、予混合圧縮着火燃焼モードで運転する際には、運転条件に応じて燃料噴射弁57と燃料噴射弁157とを択一的に選択させてもよい。
また、その各実施例1,2では予め燃料混合手段53で混合しておいた混合燃料を燃料噴射弁57から燃焼室CC内へと噴射させるように燃料供給装置50を構成しているが、夫々の燃料(第1燃料F1と第2燃料F2)については、その燃料混合手段53を用いることなく個別に燃焼室CC内へと直接噴射してもよい。即ち、筒内直接噴射用の燃料噴射弁を燃料毎に配備した多種燃料内燃機関に対して、各実施例1,2における夫々の発明を適用してもよい。かかる場合の多種燃料内燃機関においては、設定された燃料混合比率となるように夫々の燃料噴射弁を駆動制御させる。