本発明に係る多種燃料内燃機関の実施例1を図1から図3に基づいて説明する。この多種燃料内燃機関とは、性状の異なる少なくとも2種類の燃料の内の少なくとも1種類を燃焼室に導いて又は当該少なくとも2種類の燃料からなる混合燃料を燃焼室に導いて運転される内燃機関である。本実施例1にあっては、後者の多種燃料内燃機関を例に挙げて説明する。
この多種燃料内燃機関は、図1に示す電子制御装置(ECU)1によって燃焼制御等の各種制御動作が実行される。その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
最初に、ここで例示する多種燃料内燃機関の構成について図1に基づき説明を行う。尚、その図1においては1気筒のみを図示しているが、本発明は、これに限らず、多気筒の多種燃料内燃機関にも適用可能である。本実施例1においては、複数の気筒を具備しているものとして説明する。
この多種燃料内燃機関には、燃焼室CCを形成するシリンダヘッド11,シリンダブロック12及びピストン13が備えられている。ここで、そのシリンダヘッド11とシリンダブロック12は図1に示すヘッドガスケット14を介してボルト等で締結されており、これにより形成されるシリンダヘッド11の下面の凹部11aとシリンダブロック12のシリンダボア12aとの空間内にピストン13がコネクティングロッド15を介して往復移動可能に配置される。そして、上述した燃焼室CCは、そのシリンダヘッド11の凹部11aの壁面とシリンダボア12aの壁面とピストン13の頂面13aとで囲まれた空間によって構成される。
本実施例1の多種燃料内燃機関は、機関回転数や機関負荷等の運転条件及び燃焼モードに従って空気と燃料を燃焼室CCに送り込み、その運転条件等に応じた燃焼制御を実行する。その空気については、図1に示す吸気通路21とシリンダヘッド11の吸気ポート11bを介して外部から吸入される。一方、その燃料については、図1に示す燃料供給装置50を用いて供給される。
先ず、空気の供給経路について説明する。本実施例1の吸気通路21上には、外部から導入した空気に含まれる塵埃等の異物を除去するエアクリーナ22と、外部からの吸入空気量を検出するエアフロメータ23と、が設けられている。この多種燃料内燃機関においては、そのエアフロメータ23の検出信号が電子制御装置1へと送られ、その検出信号に基づいて電子制御装置1が吸入空気量や機関負荷等を算出する。
また、その吸気通路21上におけるエアフロメータ23よりも下流側には、燃焼室CC内への吸入空気量を調節するスロットルバルブ24と、このスロットルバルブ24を開閉駆動するスロットルバルブアクチュエータ25と、が設けられている。本実施例1の電子制御装置1は、そのスロットルバルブアクチュエータ25を運転条件及び燃焼モードに従って駆動制御し、その運転条件等に応じた弁開度(換言すれば、吸入空気量)となるようにスロットルバルブ24の開弁角度を調節させる。例えば、そのスロットルバルブ24は、運転条件や燃焼モードに応じた空燃比を成す為に必要な吸入空気量の空気が燃焼室CCに吸入されるよう調節される。この多種燃料内燃機関においては、そのスロットルバルブ24の弁開度を検出し、その検出信号を電子制御装置1に送信するスロットル開度センサ26が設けられている。
更に、吸気ポート11bはその一端が燃焼室CCに開口しており、その開口部分に当該開口を開閉させる吸気バルブ31が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に吸気バルブ31が配備される。従って、この多種燃料内燃機関においては、その吸気バルブ31を開弁させることによって吸気ポート11bから燃焼室CC内に空気が吸入される一方、その吸気バルブ31を閉弁させることによって燃焼室CC内への空気の流入が遮断される。
ここで、その吸気バルブ31としては、例えば、図示しない吸気側カムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動されるものがある。この種の吸気バルブ31においては、その吸気側カムシャフトとクランクシャフト16の間にチェーンやスプロケット等からなる動力伝達機構を介在させることによってその吸気側カムシャフトをクランクシャフト16の回転に連動させ、予め設定された開閉時期に開閉駆動させる。本実施例1の多種燃料内燃機関においては、このようなクランクシャフト16の回転に同期して開閉駆動される吸気バルブ31を適用する。
但し、この多種燃料内燃機関は、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を変更可能な所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備してもよく、これにより、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を運転条件及び燃焼モードに応じた好適なものへと可変させることができるようになる。更にまた、この多種燃料内燃機関においては、かかる可変バルブ機構と同様の作用効果を得るべく、電磁力を利用して吸気バルブ31を開閉駆動させる所謂電磁駆動弁を利用してもよい。
続いて、燃料供給装置50について説明する。この燃料供給装置50は、性状の異なる複数種類の燃料を燃焼室CCに導くものである。本実施例1にあっては、性状の異なる2種類の燃料(第1燃料タンク41Aに貯留された第1燃料F1と第2燃料タンク41Bに貯留された第2燃料F2)を予め所定の燃料混合比率で混合して、その混合燃料を燃焼室CC内に直接噴射させるべく構成したものについて例示する。
具体的に、この燃料供給装置50は、第1燃料F1を第1燃料タンク41Aから吸い上げて第1燃料通路51Aに送出する第1フィードポンプ52Aと、第2燃料F2を第2燃料タンク41Bから吸い上げて第2燃料通路51Bに送出する第2フィードポンプ52Bと、その第1及び第2の燃料通路51A,51Bから各々送られてきた第1及び第2の燃料F1,F2を混ぜ合わせる燃料混合手段53と、この燃料混合手段53にて生成された混合燃料を加圧して高圧燃料通路54に圧送する高圧燃料ポンプ55と、その高圧燃料通路54の混合燃料を夫々の気筒に分配するデリバリ通路56と、このデリバリ通路56から供給された混合燃料を燃焼室CC内に噴射する各気筒の燃料噴射弁57と、を備える。
この燃料供給装置50においては、その第1フィードポンプ52A,第2フィードポンプ52B及び燃料混合手段53を電子制御装置1に駆動制御させ、これにより、所定の燃料混合比率の混合燃料が燃料混合手段53で生成されるように構成する。例えば、この燃料供給装置50は、その第1フィードポンプ52Aと第2フィードポンプ52Bの夫々の吐出量を電子制御装置1に加減させることによって混合燃料の燃料混合比率を調節してもよく、電子制御装置1の指示に従って燃料混合手段53に第1及び第2の燃料F1,F2の夫々の混合割合を加減させて混合燃料の燃料混合比率を調節してもよい。ここで、その燃料混合比率は、予め設定されている一定値であってもよく、運転条件や燃焼モードに応じて変わる変動値であってもよい。
また、この燃料供給装置50は、その高圧燃料ポンプ55及び燃料噴射弁57を運転条件及び燃焼モードに従って電子制御装置1に駆動制御させ、これにより、その運転条件等に対応させた燃料噴射量,燃料噴射時期及び燃料噴射期間等の燃料噴射条件で上記の生成された混合燃料が噴射されるように構成する。例えば、その電子制御装置1には、その混合燃料を高圧燃料ポンプ55から圧送させ、運転条件等に応じた燃料噴射条件で燃料噴射弁57に噴射を実行させる。
そのようにして燃焼室CCに供給された混合燃料は、上述した空気と相俟って燃焼モードに対応する着火モードの着火動作によって燃焼させられる。そして、その燃焼された後の筒内ガスは、燃焼室CCから図1に示す排気ポート11cへと排出される。ここで、この排気ポート11cには、燃焼室CCとの間の開口を開閉させる排気バルブ61が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に上述した排気バルブ61が配備される。従って、この多種燃料内燃機関においては、その排気バルブ61を開弁させることによって燃焼室CC内から排気ポート11cに燃焼後の筒内ガスが排出され、その排気バルブ61を閉弁させることによって筒内ガスの排気ポート11cへの排出が遮断される。
ここで、その排気バルブ61としては、上述した吸気バルブ31と同様に、動力伝達機構を介在させたもの、所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備したものや所謂電磁駆動弁を適用することができる。
ところで、内燃機関においては、一般に、拡散燃焼モードと火炎伝播燃焼モードとに燃焼モードが大別され、その夫々に対応する着火モードとして圧縮自着火モードと予混合火花点火モードとが用意される。以下においては、それらを一括して燃焼モードと総称し、各々圧縮自着火拡散燃焼モード、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードと称する。
先ず、圧縮自着火拡散燃焼モードとは、燃焼室CC内に形成された高温の圧縮空気の中に高圧の燃料を噴射することによって燃料の一部を自己着火させ、その燃料と空気を拡散混合させながら燃焼を進行させる燃焼形態のことである。ここで、燃焼室CC内の圧縮空気と燃料は瞬時に混合され難いので、燃料の噴射開始直後においては、所々で空燃比に濃淡が生じてしまう。一方、拡散燃焼させる際には一般的に下記の如き着火性に優れた燃料を使用することが好ましく、そのような着火性の良好な燃料は、全噴射量が噴射し終わるのを待つことなく、燃焼に適した空燃比の部分において自ら発火してしまう。これが為、この圧縮自着火拡散燃焼モードにおいては、燃焼に適した空燃比の部分の燃料が先に自己着火し、これにより形成された火炎が残りの燃料と空気を巻き込みながら徐々に燃焼を進行させる。
この圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる為には、通常、発火点が圧縮空気の圧縮熱よりも低い着火性の良好な燃料が必要とされる。例えば、その着火性の良い燃料としては、軽油やジメチルエーテルなどが考えられる。更に、近年、軽油の代替燃料としてGTL(Gas To Liquids)燃料が注目されており、このGTL燃料は、所望の性状のものとして生成し易い。これが為、着火性の良い燃料には、着火性を高めるべく生成されたGTL燃料を使用することもできる。このような着火性の良好な燃料は、圧縮自着火拡散燃焼を可能にするだけでなく、圧縮自着火拡散燃焼モードで運転する際にNOxの発生量を減少させ、更に、燃焼時の騒音や振動を抑えることができる。
一方、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードとは、燃料と空気を予め混ぜ合わせた燃焼室CC内の予混合気に火花点火にて火種を与え、その火種を中心にして火炎を伝播させながら燃焼を進行させる燃焼形態のことである。この予混合火花点火火炎伝播燃焼モードには、均質に混ぜ合わされた予混合気に対して点火を行う均質燃焼や、点火手段の周囲に濃度の高い予混合気を形成すると共に更にその周囲に希薄予混合気を形成し、その濃い予混合気に対して点火を行う成層燃焼などの燃焼形態も含む。
この予混合火花点火火炎伝播燃焼モードに適している燃料としては、一般に、ガソリンに代表される蒸発性の高い燃料が考えられる。ここで、蒸発性の高い燃料は、空気と混合され易いので、燃料の過濃領域を減少させ、PMやスモーク、NOxや未燃炭化水素(未燃HC)の抑制に寄与する。このような蒸発性の高い燃料としては、ガソリン以外に、蒸発性の高い性状のものとして生成されたGTL燃料やジメチルエーテルなどが知られている。
本実施例1の多種燃料内燃機関は、その双方の燃焼モードでの運転を可能にすべく構成する。これが為、本実施例1の多種燃料内燃機関には、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードでの運転を可能にする為、予混合気に対して火花点火させる図1に示す点火プラグ71を配設する。この点火プラグ71は、電子制御装置1の指示に従い、予混合火花点火火炎伝播燃焼モード時の運転条件に応じた点火時期になると火花点火を実行する。
また、本実施例1の電子制御装置1には、燃焼モードを設定する燃焼モード設定手段が用意されている。ここで例示する燃焼モード設定手段には、運転条件(機関回転数及び機関負荷)をパラメータにした図2に示す如き燃焼モードマップデータを利用して、運転条件に応じた最適な燃焼モードを選択させる。例えば、この燃焼モードマップデータは、中高負荷・低回転や高負荷・高回転等の運転条件のときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させ、低負荷・低回転や低中負荷・高回転等の運転条件のときに予混合火花点火火炎伝播燃焼モードで運転させるように、予め実験やシミュレーションに基づき設定されたものである。その機関回転数については、図1に示すクランク角センサ17の検出信号から把握することができる。このクランク角センサ17は、クランクシャフト16の回転角度を検出するセンサである。一方、機関負荷については、上述したエアフロメータ23の検出信号から把握することができる。
また更に、この電子制御装置1には、その運転条件と燃焼モードに基づいて吸入空気量,燃料混合比率及び燃料噴射条件を設定させる。これらについては、例えば、運転条件(機関回転数及び機関負荷)をパラメータにした燃焼モード毎のマップデータを利用して各々設定する。
ここで、圧縮自着火拡散燃焼モードでの運転の可否については、上述したが如く、燃焼室CC内に導かれる燃料の燃料特性(着火性)に影響される。即ち、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が良好なときには圧縮空気中で自己着火するので拡散燃焼させることができるが、その燃料の着火性が悪いときには自己着火できないので燃焼自体が行われなくなる可能性がある。
尚、燃料の着火性の悪さの度合いによっては自己着火できる場合もある。しかしながら、かかる場合であっても、自己着火の後に失火に至ることがあり、その際に振動や騒音を増大させてしまう。また、着火性の悪い燃料は、所謂ディーゼルノックを引き起こし、燃焼時の振動や騒音を増大させてしまう。
ところで、圧縮空気中で燃料を自己着火させる為には、その燃料の着火性の善し悪しだけでなく、その圧縮空気の温度についても重要な要素になる。即ち、燃料の自己着火は高温の圧縮空気とこの圧縮空気の圧縮熱よりも発火点が低温の燃料とによって為し得るものであり、その発火点よりも低温の圧縮空気中では燃料が自己着火されない。
このように、燃料の自己着火は、燃料の着火性と圧縮空気の温度との間の相関関係により成り立つ。これが為、自己着火不可能な状況下において燃料の自己着火を実現させる為には、少なくとも燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性の向上(即ち、発火点の低下)又は圧縮空気の温度上昇が必要になる。
ここで示す「燃焼室CC内に導かれる燃料」とは、図1に示す多種燃料内燃機関のように燃料混合手段53で混合された各燃料F1,F2の混合燃料が燃焼室CCへと送られる形態を採っているときにはその混合燃料のことをいい、また、後述する図6に示す多種燃料内燃機関のように各燃料F1,F2が個別に燃焼室CCへと供給される形態を採っているときにはその供給された各燃料F1,F2の全体のことをいう。例えば、ここでは、第1燃料タンク41Aに着火性が良好で蒸発性の悪い燃料(第1燃料F1)を貯留させ、第2燃料タンク41Bに着火性が悪く蒸発性の良好な燃料(第2燃料F2)を貯留させた場合について例示する。かかる場合、燃焼室CC内に導かれる燃料は、第1燃料F1のみが燃焼室CC内に供給されれば着火性が良好で蒸発性の悪い燃料特性となり、第2燃料F2のみが燃焼室CC内に供給されれば着火性が悪く蒸発性の良好な燃料特性となる。一方、燃焼室CC内に導かれる燃料の燃料特性については、その各燃料F1,F2の燃料混合比率に依存して変化する。これが為、かかる場合の燃焼室CC内に導かれる燃料は、例えば、第1燃料F1の燃料混合割合が多ければ着火性が良好で蒸発性の悪い燃料特性となり、第2燃料F2の燃料混合割合が多ければ着火性が悪く蒸発性の良好な燃料特性となる。
本実施例1においては、圧縮空気の温度を上昇させることによって着火性の悪い燃料についても自己着火させるように構成する。
ここで、圧縮空気の温度は、通常、ピストン13が上死点に向かうにつれて高くなり、その上死点にて最高温度に達する。更に、吸入空気の温度や燃焼室CCの壁面温度によって圧縮空気の温度は上下動するが、これは、大きな温度差を生じさせるものではなく、また、任意の温度へと制御できるものでもない。従って、圧縮空気は、クランク角度毎の温度が略一定の値を示し、また、その最高温度が実圧縮比によって略一定の温度に決められてしまう。
一方、圧縮空気の温度は、実圧縮比との間においても相関関係があり、実圧縮比が高くなるにつれて最高温度が上昇し、実圧縮比が低くなるにつれて最高温度が低下する。そして、近年においては、実圧縮比を変化させる可変圧縮比機関なるものの存在が知られており、この可変圧縮比機関には実圧縮比を任意の圧縮比に変化させる圧縮比可変手段が配備されている。この圧縮比可変手段は、如何様な構造や態様のものであってもよいが、例えば、電子制御装置1の駆動制御指令に従ってピストン13の上死点位置を任意に変化させ、これにより実圧縮比を変化させる構造のものが一例として考えられる。例えば、この種の圧縮比可変手段としては、長さを伸縮し得る構造のコネクティングロッドと、このコネクティングロッドを伸縮させるリンク機構と、このリンク機構を駆動制御する電動モータと、を備えた可変圧縮比機構(前述した特許文献2)が知られている。
従って、そのような圧縮比可変手段を設けることによって実圧縮比を高めることができるようになり、これにより、圧縮空気の最高温度やクランク角度毎の温度を実圧縮比の変更前よりも上昇させることができる。そして、発火点が高く実圧縮比の変更前に自己着火不可能であった燃料については、変更後に上昇した圧縮空気の温度が燃料の発火点よりも高温になっていれば、その圧縮空気中で自己着火させることができるようになる。また、元々自己着火は可能であったが着火性に劣っていた燃料については、失火やディーゼルノックを発生させることなく正常な拡散燃焼を行わせることができるようになる。
そこで、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、上記のような圧縮比可変手段81を設けると共に、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性の良否を検出する燃料特性検出手段とその着火性の良否に応じて圧縮比可変手段81を駆動制御する圧縮比制御手段とを電子制御装置1に設ける。
先ず、燃料特性検出手段について説明する。
燃料の着火性については、その良否を指数化した指数値(以下、「着火性指数値」という。)Pcを用いて表すことができる。これが為、本実施例1の燃料特性検出手段には、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性指数値Pcを検出させ、基準となる着火性判断時の閾値(以下、「着火性判断基準値」という。)Pc0との比較により着火性の良否を判断させる。ここでは、その着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が拡がれば拡がる程、燃料の着火性が良く又は悪くなっていく。
ここで、その着火性判断基準値Pc0としては、例えば、基準圧縮比のときの圧縮空気中で自己着火させることのできる燃料の着火性指数値を設定する。その基準圧縮比は、設定頻度の高い圧縮比や可変範囲内における中間の圧縮比等のように、基準として定めることの可能な圧縮比のことをいう。また、そのような自己着火可能な燃料が複数種類存在する場合には、例えば、その燃料の当該機関における使用頻度、その燃料の入手し易さや性状安定性等を考慮して、最適な燃料の着火性指数値を着火性判断基準値Pc0に設定すればよい。
具体的に、着火性指数値Pcとしては、燃料のセタン価や拡散燃焼時の着火遅れ期間を利用することができる。
例えば、燃料のセタン価は、給油時に燃料特性検出手段が認識した夫々の燃料F1,F2の性状から把握可能である。しかしながら、本実施例1にあっては、その夫々の燃料F1,F2が燃料混合手段53において所定の燃料混合比率で混合された後に燃焼室CCへと送られるので、その燃料混合比率も考慮しなければ燃焼室CC内に導かれる燃料(混合燃料)の正確なセタン価を把握することができない。これが為、本実施例1の燃料特性検出手段には、夫々の燃料F1,F2のセタン価とこれらの燃料混合比率に基づいて燃焼室CC内に導かれる燃料(混合燃料)のセタン価を算出させる。尚、給油時に燃料特性検出手段が取得する夫々の燃料F1,F2のセタン価については、例えば、給油作業者に各燃料F1,F2の性状を入力させる入力装置を車輌に設けて認識させてもよく、給油燃料の種別や性状、給油量等の給油情報を給油設備から車輌に夫々の通信装置を介して送受信させることで認識させてもよい。かかる場合には、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも大きくなっていれば、燃料のセタン価が基準のセタン価よりも大きくなっているので、その燃料の着火性が基準の着火性よりも良好になっていることを表す。一方、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも小さくなっているときには、燃料のセタン価が基準のセタン価よりも小さくなっているので、その燃料の着火性が基準の着火性よりも悪化していることを表す。
また、拡散燃焼時の着火遅れ期間については、拡散燃焼時に図1に示す燃焼圧センサ18から検出することができる。この場合には、着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0の大小関係の意味(Pc>Pc0であれば着火性良好、Pc<Pc0であれば着火性悪化)を便宜上上記セタン価のときと共通にする為に、検出された着火遅れ期間の逆数を着火性指数値Pcとする。かかる場合には、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも大きくなっていれば、着火遅れ期間が基準の着火遅れ期間よりも短くなっているので、その燃料の着火性が基準の着火性よりも良好になっていることを表す。一方、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも小さくなっているときには、着火遅れ期間が基準の着火遅れ期間よりも長くなっているので、燃料の着火性が基準の着火性よりも悪化していることを表す。尚、その着火遅れ期間は、着火時期を光学的に検出する着火時期センサ(図示略)の検出信号や、クランク角速度の変動を検知した際のクランク角センサ17の検出信号から検出してもよい。
続いて、圧縮比制御手段について説明する。
本実施例1の圧縮比制御手段は、実圧縮比が燃料の着火性に応じた最適な圧縮比となるように圧縮比可変手段81を駆動制御する電子制御装置1の制御機能である。
この圧縮比制御手段は、上述した実圧縮比と圧縮空気の温度との関係性に基づいて、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が悪化していれば、実圧縮比が高くなるように圧縮比可変手段81を駆動制御して圧縮空気の温度を上昇させる。ここでは、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも小さく且つこれらの差が拡大すればする程に着火性が悪化していくので、例えば、燃料の着火性(Pc−Pc0)に対応する目標圧縮比を予め定めた圧縮比設定マップデータを利用して、その着火性の悪化につれて実圧縮比が基準圧縮比よりも高くなっていくように駆動制御させる。
一方、多種燃料内燃機関においては、高圧縮比化に伴って機械損失や最大筒内圧Pmaxが増大してしまうので、機関出力等の機関性能や燃費性能を悪化させてしまう可能性がある。そこで、本実施例1の圧縮比制御手段は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が良好であれば、実圧縮比が低くなるように圧縮比可変手段81を駆動制御して機械損失や最大筒内圧Pmaxの増大を防がせる。ここでは、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも大きく且つこれらの差が拡大すればする程に着火性が良くなっていくので、例えば、上記の圧縮比設定マップデータを利用して、その着火性が良くなるにつれて実圧縮比が基準圧縮比よりも低くなっていくように駆動制御させる。
例えば、この圧縮比制御手段は、圧縮比可変手段81が上述した可変圧縮比機構である場合、所望の圧縮比を実現させるピストン13の上死点位置になるまで、リンク機構を電動モータの駆動力で作動させてコネクティングロッド15を伸縮させる。この場合、この圧縮比制御手段は、例えば、圧縮比とリンク機構の作動量や電動モータの駆動方向及び駆動時間等とをパラメータにしたマップデータを利用して、所望の圧縮比になるようピストン13の上死点位置を移動させる。
以下に、本実施例1の電子制御装置1の圧縮比変更制御動作の一例を図3のフローチャートに基づき説明する。
先ず、本実施例1の電子制御装置1は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性指数値Pcを燃料特性検出手段によって上記の如くして検出し(ステップST5)、更に、RAM等に記憶されている着火性指数値Pc1を呼び出す(ステップST10)。
このステップST10で呼び出した着火性指数値Pc1とは、圧縮比変更制御を前回行ったときにステップST5で検出された着火性指数値Pcのことをいう。従って、本実施例1の電子制御装置1は、ステップST5で着火性指数値Pcを検出した後、この着火性指数値Pcを着火性指数値Pc1としてRAM等に記憶させる。この着火性指数値Pc1については、ステップST5の演算処理が行われる度に新しく検出された着火性指数値Pcへと書き替える。
本実施例1の電子制御装置1は、今回の着火性指数値Pcと前回の着火性指数値Pc1とを比較して、これらが同一の値であるか否か判定する(ステップST15)。
ここで、これらが同一の値を示しているということは、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が前回の圧縮比変更制御時から変化していないということを表している。これが為、今回の着火性指数値Pcと前回の着火性指数値Pc1とが同じ値になっているときには現状の圧縮比から変更する必要がなく、従って、本実施例1の電子制御装置1は、この圧縮比変更制御を一端終了させる。
一方、今回の着火性指数値Pcと前回の着火性指数値Pc1とが異なる値になっているときには、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が前回の圧縮比変更制御時から変わっているということを表している。これが為、本実施例1の電子制御装置1は、その燃料の着火性に応じた最適な圧縮比へと変更させる為に、先ず、この多種燃料内燃機関の機関回転数Neと機関負荷Klを検出する(ステップST20)。そして、この電子制御装置1の燃焼モード設定手段は、その機関回転数Neと機関負荷Kl(現在の運転条件)を例えば図2に示す燃焼モードマップデータに照らし合わせて、その運転条件に最適な燃焼モードを選択する(ステップST25)。
ここで、この電子制御装置1は、そのステップST25にて圧縮自着火拡散燃焼モードを選択した場合、上記ステップST5で検出された着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0とを燃料特性検出手段に比較させる(ステップST30)。
そして、その結果、着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0と同じ値になっていれば、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準として定めた着火性と同じであると燃料特性検出手段によって判定されるので、この電子制御装置1の圧縮比制御手段は、圧縮比可変手段81に駆動制御指令を送って実圧縮比を基準圧縮比へと変更させる(ステップST35)。
また、上記ステップST30にて着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも小さければ、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準の着火性よりも悪いと燃料特性検出手段によって判定されるので、その圧縮比制御手段は、圧縮比可変手段81に駆動制御指令を送って実圧縮比を基準圧縮比よりも高い圧縮比へと変更させる(ステップST40)。ここで、このときの着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなればなるほど燃料の着火性は悪くなるので、圧縮比制御手段は、上述したが如く、その差が大きくなるにつれて実圧縮比が高くなっていくように圧縮比可変手段81を駆動制御する。
一方、上記ステップST30にて着火性指数値Pcが着火性判断基準値Pc0よりも大きければ、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準の着火性よりも良好であると燃料特性検出手段によって判定されるので、その圧縮比制御手段は、圧縮比可変手段81に駆動制御指令を送って実圧縮比を基準圧縮比よりも低い圧縮比へと変更させる(ステップST45)。ここで、このときの着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなればなるほど燃料の着火性は良くなるので、圧縮比制御手段は、上述したが如く、その差が大きくなるにつれて実圧縮比が低くなっていくように圧縮比可変手段81を駆動制御する。
ところで、本実施例1の電子制御装置1は、上記ステップST25にて圧縮自着火拡散燃焼モード以外の他の燃焼モードを選択した場合、その燃焼モードに応じた圧縮比を選択すると共に、その圧縮比となるように圧縮比可変手段81を駆動制御する(ステップST50)。
例えば、本実施例1の多種燃料内燃機関においては、圧縮自着火拡散燃焼モード以外の燃焼モードとして予混合火花点火火炎伝播燃焼モードが用意されている。しかしながら、この予混合火花点火火炎伝播燃焼モードで運転させる際には、圧縮比が高くなるにつれて、特に高負荷域で異常燃焼によるノッキングが発生し易くなる。一方、そのようなノッキングは、耐ノック性に優れた燃料(例えば、レギュラーガソリンに対するハイオクガソリン)を使用することによって抑制することができる。
そこで、ステップST25にて予混合火花点火火炎伝播燃焼モードが選択された場合には、例えば、燃焼室CC内に導かれる燃料の耐ノック性に応じて実圧縮比が変更されるように圧縮比制御手段を構成する。かかる場合、その燃料の耐ノック性が基準の耐ノック性よりも優れていれば実圧縮比を高くし、その燃料の耐ノック性が基準の耐ノック性よりも劣っていれば実圧縮比を低くする。これにより、耐ノック性が良好なときには、ノッキングの発生を抑えつつ実圧縮比を高くすることができるので、この圧縮比の上昇に伴い熱効率が向上して高トルク化及び高出力化を図ることができる。また、耐ノック性が悪いときには、実圧縮比を下げることによってノッキングの発生を抑えることができる。
ここで、耐ノック性については、燃料のオクタン価から把握することができる。この場合、そのオクタン価が耐ノック性指数値となり、前述したセタン価の場合と同様にして検出させる。また、この耐ノック性については、ノックセンサ(図示略)の検出信号に基づき行われるノック制御時のトレースノック点火時期の情報を利用しても把握することができる。この場合、そのノック制御時のトレースノック点火時期と基準点火時期との関係が耐ノック性指数値となり、例えば、指標となる良好な耐ノック性を発揮する燃料で良好な予混合火花点火火炎伝播燃焼が行われているときの上記の関係を耐ノック性判断基準値として設定する。
以上示した本実施例1の多種燃料内燃機関においては、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が悪いときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合、その着火性が悪い程に実圧縮比を高くしていく。これが為、この多種燃料内燃機関によれば、その燃料の着火性が悪い程に燃焼室CC内の圧縮空気の温度が上昇していくので、着火性の悪い燃料でも圧縮空気中で自己着火し易くなる。従って、この多種燃料内燃機関においては、圧縮自着火拡散燃焼モードでの運転が可能になり、また、圧縮自着火拡散燃焼時に失火やディーゼルノックが引き起こされなくなるので、燃焼時の騒音や振動の増大を防ぐことができるようになる。
また、この多種燃料内燃機関においては、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が良いときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合、その着火性が良い程に実圧縮比を低くしていく。これが為、この多種燃料内燃機関によれば、機械損失が低減され且つ最大筒内圧Pmaxが低下するので、機関性能や燃費性能を向上させることができる。
このように、本実施例1の多種燃料内燃機関よれば、燃焼室内に導かれる燃料の着火性に応じて実圧縮比を可変させることで良好な圧縮自着火運転を行うことができるようになる。
ところで、本実施例1の多種燃料内燃機関においては実圧縮比を変更する為に圧縮比可変手段81を配備しているが、例えば、前述した可変バルブ機構を具備する場合には、これを圧縮比可変手段81として利用してもよい。この場合、圧縮比制御手段は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性に応じて吸気バルブ31の閉弁時期を変化させることによって実圧縮比の変更を実行させる。ここでは、吸気バルブ31が早閉じされれば実圧縮比が低くなり、遅閉じされれば実圧縮比が高くなる。
本発明に係る多種燃料内燃機関の実施例2を図4及び図5に基づいて説明する。
一般に、内燃機関は、圧縮比を高めることによって熱効率が向上するので高トルク化及び高出力化を図ることができる。これが為、前述した実施例1の多種燃料内燃機関においては、燃料の着火性が悪いときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合、実圧縮比が高く変更されるので高トルク化及び高出力化が図れる。
一方、この実施例1の多種燃料内燃機関において燃料の着火性が良好なときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合には、実圧縮比を低く変更して機械損失や最大筒内圧Pmaxの減少に伴う機関出力等の機関性能の向上を図っているが、大方の場合、その向上代以上に熱効率の低下に伴う機関性能低下の影響が強くなる。
そこで、本実施例2の多種燃料内燃機関は、実施例1の多種燃料内燃機関において排気ターボ過給機や電動機付過給機(所謂スーパーチャージャー)等の過給装置を配備することで機関性能の向上を図る。ここでは、図4に示す如く排気ターボ過給機90を設けた場合について例示するが、その排気ターボ過給機90に替えて電動機付過給機を設けてもよく、その排気ターボ過給機90と共に電動機付過給機も設けてもよい。
本実施例2の排気ターボ過給機90は、吸気通路21と排気通路101との間に配備され、その排気通路101上に配置したタービン91と、このタービン91と同期して回転する回転軸92と、この回転軸92を介してタービン91と共に回転する吸気通路21上のコンプレッサ93と、を備えている。これにより、この排気ターボ過給機90は、排気ガスのエネルギを利用してタービン91及びコンプレッサ93が回転され、そのコンプレッサ93で過給された大量の空気を燃焼室CC内へと強制的に供給して高トルク化及び高出力化を図る。
ここで、本実施例2においても、実施例1の多種燃料内燃機関と同様に、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性の善し悪しに応じて実圧縮比を変更させる。これが為、燃料の着火性が良好なときの圧縮自着火拡散燃焼モード運転時に良好な機関性能となるべく排気ターボ過給機90の過給圧を設定すると、実圧縮比が高められる燃料の着火性が悪いときの圧縮自着火拡散燃焼モード運転時には、過剰な過給効果によって機関本体が破損してしまう虞がある。即ち、排気ターボ過給機90で過給空気を燃焼室CC内に供給するということは実圧縮比を高めることと同じ意味を為すので、過度の高圧縮比化によって機関本体に負担が掛かり破損する可能性がある。
従って、本実施例2においては、多種燃料内燃機関の圧縮比に応じて、換言すれば燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性の善し悪しに応じて、最適な過給圧へと変化させる過給圧制御手段を電子制御装置1に設ける。具体的には、例えば、基準圧縮比のとき{基準の着火性のとき(Pc=Pc0)}に機関性能と耐久性の均衡を取ることが可能な基準となる過給圧の上限値(以下、「基準過給圧上限値」という。)を設定して、その基準圧縮比よりも高圧縮比のとき{着火性が悪いとき(Pc<Pc0))}には過給圧上限値を基準過給圧上限値よりも低く設定させ、その基準圧縮比よりも低圧縮比のとき{着火性が良好なとき(Pc>Pc0))}には過給圧上限値を基準過給圧上限値よりも高く設定させる。
ここで、一般的な排気ターボ過給機は、過給圧の上限値がウエストゲートバルブ等の過給限界の制御装置によって設定されており、その上限値よりも大きな過給圧が掛からないようになっている。これが為、過給圧の変更を行うには、過給圧の上限値を任意に可変させる過給限界の制御装置が必要になる。本実施例2においては、そのような過給限界制御装置94を排気ターボ過給機90に設ける。例えば、その過給限界制御装置94は、電子制御装置1の指示に従って開弁角度を変更可能な可変バルブを備えており、これを作動させることによって過給圧の上限値を可変させる。
以下に、本実施例2の電子制御装置1の圧縮比変更制御動作及び過給圧変更制御動作の一例を図5のフローチャートに基づき説明する。尚、本実施例2においても圧縮比変更制御動作については前述した実施例1と同じであるので、以下においてはその相違点に関して説明する。
本実施例2の電子制御装置1は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準として定めた着火性と同じ(Pc=Pc0)場合、ステップST35にて実圧縮比を基準圧縮比に変更する。かかる場合、この電子制御装置1の過給圧制御手段は、排気ターボ過給機90の過給圧の上限値を基準過給圧上限値に設定する(ステップST36)。
また、本実施例2の電子制御装置1は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準の着火性よりも悪い(Pc<Pc0)場合、ステップST40にて実圧縮比を基準圧縮比よりも高い圧縮比に変更する。かかる場合、過給圧制御手段は、排気ターボ過給機90の過給圧の上限値を基準過給圧上限値よりも低く設定する(ステップST41)。ここで、このときの着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなればなるほど燃料の着火性は悪くなるので、その差が大きくなるにつれてステップST40では実圧縮比を高くしている。これが為、このステップST41においては、着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなる(実圧縮比を高くする)につれて過給圧の上限値を低下させていく。
一方、本実施例2の電子制御装置1は、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が基準の着火性よりも良い(Pc>Pc0)場合、ステップST45にて実圧縮比を基準圧縮比よりも低い圧縮比に変更する。かかる場合、過給圧制御手段は、排気ターボ過給機90の過給圧の上限値を基準過給圧上限値よりも高く設定する(ステップST46)。ここで、このときの着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなればなるほど燃料の着火性は良くなるので、その差が大きくなるにつれてステップST45では実圧縮比を低くしている。これが為、このステップST46においては、着火性指数値Pcと着火性判断基準値Pc0との差が大きくなる(実圧縮比を低くする)につれて過給圧の上限値を高くしていく。
更に、本実施例2の電子制御装置1は、圧縮自着火拡散燃焼モード以外の他の燃焼モードを選択した場合、ステップST50にて実圧縮比が燃焼モードに応じた圧縮比に変更する。かかる場合、過給圧制御手段は、例えば圧縮自着火拡散燃焼モード運転時と同様の考えに基づいて、実圧縮比を高めるのであれば過給圧の上限値を下げ、実圧縮比を低くするのであれば過給圧の上限値を上げる(ステップST51)。従って、この多種燃料内燃機関においては、上記の圧縮自着火拡散燃焼モード運転時と同様に、機関本体の耐久性を確保しながらも高トルク化及び高出力化を図ることができるようになる。
以上示した本実施例2の多種燃料内燃機関においては、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が悪いときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合、その着火性が悪い程に実圧縮比を高くする一方で、排気ターボ過給機90の過給圧の上限値を低くしていく。これが為、この多種燃料内燃機関によれば、実施例1のときと同様に、着火性の悪い燃料でも圧縮自着火拡散燃焼させることができるようになり、また、圧縮自着火拡散燃焼時に失火やディーゼルノックが抑制されるので燃焼時の騒音や振動の増大を防ぐことができるようになる。更に、この多種燃料内燃機関によれば、実圧縮比を高くしていっても過給圧の上限値を低くしていくことによって最大筒内圧Pmaxの上昇を抑えることができるので、機関本体に致命的な負担が掛からなくなり、機関本体の耐久性を悪化させることなく実圧縮比の高圧縮比化を図ることができる。従って、この多種燃料内燃機関においては、良好な圧縮自着火拡散燃焼を実現させるだけでなく、機関本体の耐久性を確保しつつ高トルク化及び高出力化を図ることができるようになる。
また、この多種燃料内燃機関においては、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が良いときに圧縮自着火拡散燃焼モードで運転させる場合、その着火性が良い程に実圧縮比を低くする一方で、排気ターボ過給機90の過給圧の上限値を高くしていく。これが為、この多種燃料内燃機関によれば、実施例1のときと同様に、機械損失の低減や最大筒内圧Pmaxの低下に伴って機関性能や燃費性能を向上させることができる。また、この多種燃料内燃機関によれば、燃焼室CC内に導かれる燃料の着火性が良くなる程(実圧縮比が低下する程)に排気ターボ過給機90を高い過給圧で作動させることができるので、より多くの過給効果を得て高トルク化及び高出力化が図れ、実圧縮比の低圧縮比化に伴って低下してしまう機関性能を向上させることができるようになる。更に、このように過給圧の上限値を高くすると最大筒内圧Pmaxが上昇して機関本体の耐久性を悪化させてしまうが、ここでは過給圧の上限値が高くなるにつれて実圧縮比が低下していくので、最大筒内圧Pmaxの上昇を抑えることができる。従って、この多種燃料内燃機関においては、機関本体に致命的な負担が掛からなくなるので、機関本体の耐久性を悪化させることなく、低圧縮比化による機関性能や燃費性能の向上及び過給圧の上限値を高めることによる高トルク化及び高出力化が可能になる。
このように、本実施例2の多種燃料内燃機関よれば、燃焼室内に導かれる燃料の着火性に応じて実圧縮比と過給圧を可変させることで良好な圧縮自着火運転を行うことができるようになる。
ところで、実施例1にて説明した可変バルブ機構による圧縮比可変手段81は、吸気バルブ31の早閉じによって実圧縮比を低下させるが、その際に実排気量を低下させてしまい、出力低下の要因となる。しかしながら、その圧縮比可変手段81として利用される可変バルブ機構を本実施例2の多種燃料内燃機関において適用する場合には、実圧縮比を低下させる際に排気ターボ過給機90の過給圧の上限値が高められるので、実排気量の低下による機関性能の低下を補って余りあるだけの機関性能の向上を図ることができる。
ここで、上述した各実施例1,2においては圧縮自着火拡散燃焼モードと予混合火花点火火炎伝播燃焼モードの何れかで運転される多種燃料内燃機関について例示したが、本発明に係る多種燃料内燃機関は、少なくとも圧縮自着火拡散燃焼モードが燃焼モードとして用意されているものであればよい。
また、上述した各実施例1,2においては第1燃料F1と第2燃料F2の混合燃料を燃焼室CCに直接噴射させる所謂筒内直接噴射式の多種燃料内燃機関について例示したが、その各実施例1,2における夫々の発明は、その混合燃料を燃焼室CC内だけでなく吸気ポート11bへも噴射させる多種燃料内燃機関に適用してもよい。また、その各実施例1,2では予め燃料混合手段53で混合しておいた混合燃料を燃料噴射弁57から燃焼室CC内へと噴射させるように燃料供給装置50を構成しているが、夫々の燃料(第1燃料F1と第2燃料F2)については、その燃料混合手段53を用いることなく個別に燃焼室CC内へと供給してもよい。かかる場合の多種燃料内燃機関においては、設定された燃料混合比率となるように夫々の燃料噴射弁を駆動制御させる。
例えば、この種の多種燃料内燃機関は、その各実施例1,2の多種燃料内燃機関において燃料供給装置50を図6に示す燃料供給装置150へと置き換えることによって構成される。その図6に示す燃料供給装置150は、燃焼室CC内に第1燃料F1(着火性に優れる燃料)を直接噴射する第1燃料供給経路と、吸気ポート11bに第2燃料F2(蒸発性に優れる燃料)を噴射する第2燃料供給経路と、を備えている。その第1燃料供給経路は、第1燃料F1を第1燃料タンク41Aから吸い上げて第1燃料通路51Aに送出する第1フィードポンプ52Aと、その第1燃料通路51Aの第1燃料F1を高圧燃料通路54Aに圧送する高圧燃料ポンプ55Aと、その高圧燃料通路54Aの第1燃料F1を夫々の気筒に分配するデリバリ通路56Aと、このデリバリ通路56Aから供給された第1燃料F1を燃焼室CC内に噴射する各気筒の燃料噴射弁57Aと、を備える。一方、第2燃料供給経路は、第2燃料F2を第2燃料タンク41Bから吸い上げて第2燃料通路51Bに送出する第2フィードポンプ52Bと、その第2燃料通路51Bの第2燃料F2を第3燃料通路54Bに圧送する高圧燃料ポンプ55Bと、その第3燃料通路54Bの第2燃料F2を夫々の気筒に分配するデリバリ通路56Bと、このデリバリ通路56Bから供給された第2燃料F2を吸気ポート11bに噴射する各気筒の燃料噴射弁57Bと、を備える。