JP2007303900A - 眼鏡レンズの光学性能評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リファレンスレンズと被験レンズのそれぞれについて物体側のレンズ面側から入射した複数の光線がそれぞれ眼球側のレンズ面から出射された際の同各光線毎の屈折による変位をマッピングする。そして、両レンズのマッピングされた個々のマッピングポイントとにおけるS度数、C度数及び乱視軸の各データを算出し、算出されたデータ同士の差分データを求める。このようにして得られた各マッピングポイント毎の差分データに基づいて当該マッピングポイント毎に差分レンズモデルを想定し、同差分レンズモデルとシミュレーションレンズモデルを組み合わせて空間シミュレーションモデルを構築し、同空間シミュレーションモデルを透過する光線の追跡シミュレーションを行う。
【選択図】 図1
Description
このようなレンズの評価のため従来からいくつかの装置が用いられている。その一例として例えば特許文献1を挙げる。特許文献1に開示される3次元測定器200はプローブ(探針)で実際にレンズ内外面をスキャンし、レンズの曲面データを得て補間計算をすることでレンズの形状を計算するというものである。そして、この眼鏡レンズ評価装置によって算出されたレンズの形状データに基づいてレンズをシミュレーションし光学性能を分析するというものである。
また、他の一例として特許文献2を挙げる。特許文献2に開示される眼鏡レンズ評価装置は被検レンズに対して直接所定の光線を照射し、被検レンズを透過した光線に基づいて仮想的なレンズ空間モデルとの比較の上で被検レンズの度数分布の誤差分布を算出するというものである。
また、他の一例として特許文献3を挙げる。特許文献3ではレンズメータにレンズをセットする際にレンズを透過する光線が、実際に眼が物を見る際と同じ向きになるようにするために、同特許文献2の図12に示すようにレンズ回旋保持機構を使用して眼球回旋想定点を中心にレンズを回旋可能に保持するようにしたものである。つまり眼鏡レンズの実際の装用状態と同じ眼回旋中心を通過する光(透過光)となるように測定光束に対してレンズを傾動させることを可能としたものである。これによって得られた分析結果に基づけば実際にレンズを装用した状態での光学性能評価が可能となるというものである。
1)特許文献1の技術では実際に形状をプローブでスキャンするのであるがそのデータは離散的であるため補間計算をしなければならず、その計算は非常に複雑である。また、プローブでのスキャン自体が非常に面倒で時間がかかる操作となるとともに、測定のばらつきが大きいためその値に基づいて算出される分析結果も誤差が大きくなってしまう。また、形状を実際にプローブでスキャンする場合には表面と裏面の両方を形状測定しなくてはならず、誤差が蓄積されて大きくなってしまう。また、一般にこのような装置は非常に高額で眼鏡店等で容易に所有できるものではない。
2)特許文献2の技術ではそもそも透過光を考慮した評価とはならない。このような評価は2つのレンズの光学特性の比較はできるものの、実際に装用した際の光学特性の比較をすることはできない。
3)特許文献3の技術では特許文献1と異なり実際に形状をプローブでスキャンするのではなく、なおかつ透過光を考慮した評価ができるので理論的には実際に装用した際の光学特性を得ることが可能である。しかし、現実にはレンズを保持し傾動させるための専用のアタッチメントを作製しなければならず、更にレンズは非常に高精度に傾動操作させられなければならない。つまり、斜めに入射する光線は垂直な光に比べてわずかな角度のズレで大きく度数や収差が変化してしまうためからである。また、多くの側点が必要であるため特許文献1と同様非常に面倒で時間がかかる操作となってしまう。
更に、装用者によってよって異なる装用条件、例えば眼とレンズの距離の違いなどに対応させるためには可変設定が可能な治具が必要となる。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、形状が必ずしも明確ではない眼鏡レンズについて装用状態を考慮した光学性能を迅速かつ正確に評価することができる眼鏡レンズの光学性能評価方法を提供することである。
また請求項2の発明では、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記空間シミュレーションモデルにおいて前記差分レンズモデルが前記入射光に対して前記シミュレーションレンズモデルよりも前方に配置される場合には同入射光に対して垂直あるいはほぼ垂直となるように同差分レンズモデルのレンズ面が配置され、前記差分レンズモデルが前記入射光に対して前記シミュレーションレンズモデルよりも後方に配置される場合には同射出光に対して垂直あるいはほぼ垂直となるように同差分レンズモデルのレンズ面が配置されることをその要旨とする。
また請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記シミュレーションレンズモデルは前記第1のレンズとレンズ形状特性及びレンズの素材特性が互いに同一又は近似することをその要旨とする。
また請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記シミュレーションレンズモデルにおいて追跡シミュレーションを行う光線は同シミュレーションレンズモデルの物体側のレンズ面側から入射して眼球側のレンズ面から出射され眼回旋中心を通過する光線あるいは同シミュレーションレンズモデルの眼回旋中心を発して眼球側のレンズ面側から入射して物体側のレンズ面から出射する光線を使用することをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記第1のレンズ及び第2のレンズのレンズ形状特性及びレンズの素材特性は互いに同一又は近似していることをその要旨とする。
また請求項7の発明では請求項1〜6のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記第1のレンズ及びシミュレーションレンズモデルのS度数は同じ度数に設定されていることをその要旨とする。
また請求項8の発明では請求項1〜6のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記第2のレンズが累進屈折力レンズである場合においては前記第1のレンズ及び前記シミュレーションレンズモデルは累進屈折力レンズとして設計されており、前記第1のレンズ及び同シミュレーションレンズモデルの遠用度数及び近用度数は同じであることをその要旨とする。
次いで、第1のマッピングデータ算出工程によって第1のマッピング工程においてマッピングされた個々の点(以下、マッピングポイントとする)のS度数、C度数及び乱視軸の各データを算出する。同様に、第2のマッピングデータ算出工程によって第2のマッピング工程においてもマッピングポイントのS度数、C度数及び乱視軸の各データを算出する。そして差分算出工程で第1のレンズと前記第2のレンズのそれぞれ測定位置が対応するマッピングポイントについて得られたデータ同士の差分データを求める。例えば、第1のレンズを透過したある光線Pをマッピングした際のS度数、C度数及び乱視軸の各データと、同様に第2のレンズについて光線Pと測定位置が対応する光線pをマッピングした際のS度数、C度数及び乱視軸の各データとの差分データを求める。
そして、シミュレーションレンズモデルを想定し各マッピングポイント毎に差分レンズモデルとシミュレーションレンズモデルとを組み合わせて空間シミュレーションモデルを構築する。組み合わせ手法としては、まず各マッピングポイント毎の差分データに基づいてシミュレーションレンズモデルに差分レンズモデルを合成することが想定される。合成とは具体的にシミュレーションレンズモデルの表面又は裏面の三次元形状にサグ量を加えることを意味する(これを第1のシミュレーション方法とする)。
また、他の組み合わせ手法としては差分を各マッピングポイント位置においてシミュレーションレンズモデルに合成させずに差分データに基づいて独立したレンズ(以後、仮想レンズとする)モデルを想定するというものである(これを第2のシミュレーション方法とする)。
そして、各マッピングポイントについてシミュレーションレンズモデルを透過する光線の追跡シミュレーションを行うことで前記第2のレンズの光学性能評価をする。
シミュレーションの計算上においては透過する面が少ない上記第1のシミュレーション方法が望ましい。
マッピングデータ算出工程における測定用の光線がレンズ面に対して垂直あるいは垂直に近い光線である場合には上記第1のシミュレーション方法が望ましい。しかし、レンズ面に対してあまり垂直に近くない光線を使用した場合には第2のシミュレーション方法を使用することが好ましい。
具体的には例えばレンズを透過して眼回旋中心を通過する光線(透過光)のように実際に物を見るための光について必要とされる眼鏡レンズの光学性能(透過光性能)を前提に第1のレンズと第2のレンズとの間で比較が可能となる。
更に、眼鏡装用時の眼鏡レンズと眼の距離(頂間距離)、レンズの角度(前傾角)、さらには眼に対するレンズの配置(フィッティング)といった条件を細かく変えたシミュレーションを素早く実施することも可能である。
また、例えばマッピング測定結果ではある測定点の乱視度数が大きかったとしても、その乱視度数が透過光に作用する結果は、乱視軸によっては増加することもあればキャンセルされて低減することもあるためマッピング測定結果のみを元に合否判定するのは合理性に欠けることとなる。つまり、測定結果が基準値からどれほどズレても問題ないかは、透過光性能の目標値からのズレを基準に判定するのが合理的である。本発明によれば、マッピング測定で製品検査を行う際に、測定結果を元に透過光性能をシミュレーションし、その結果の実際の見え方における平均度数のズレや乱視度数の大きさを元に合否判定することができる。
また、例えばあるレンズデータに従って正確にレンズを作製してそのレンズをマッピング測定した場合とシミュレーションした場合では必ずしも同じ光学性能が得られるものではなく、マッピング測定した結果とシミュレーション結果には相違が起こりえる。相違が発生する要因としては、i)マッピング測定装置の寸法や動作上の機械的な誤差、ii)屈折による光線の変位を感知するセンサーの計測上の誤差、iii)マッピング測定のメカニズムを完全に正確にはシミュレーションできない(他の会社が製造した機器なので細部を把握しきれない)といったことが考えられる。こうした相違には毎回の測定ごとのバラツキ要素もあるが、それ以外の要素として「似た形状のレンズを測定すれば、毎回同じ程度の誤差を生ずる」といった固定的な傾向の誤差要素もある。固定的な傾向の誤差要素は第1のレンズと第2のレンズのマッピング測定結果にほぼ等量含まれるから、本発明によればそれを相殺することが可能である。
「近似する」という場合には経験上面屈折力±0.5ディオプター以内、中心厚±0.5mm以内、屈折率±0.05以内程度に収まることを意味する。
また、差分データをシミュレーションレンズモデルの当該マッピングポイント位置のS度数、C度数及び乱視軸の各データに合成する際に、差分データに基づきシミュレーションレンズの表面又は裏面に配置されるサグ量の三次元曲面は少なくとも瞳径(通常3〜7mm)内に極大値(頂点)が存在することが好ましい。これはシミュレーションレンズモデルを透過する光線になるべくプリズム効果(光の方向を曲げる効果)の影響を与えないようにするためである。
また、差分レンズモデルは少なくとも中心の厚みを理論上0として計算することがプリズム効果を持たせず結果の誤差を軽減するために好ましい。
また、仮想レンズモデルとシミュレーションレンズモデルとを重複的に配置する場合(第2のシミュレーション方法)にはプリズム効果をなるべく持たせないようにするために近接あるいは密着させた状態で配置することが好ましい。また、近接あるいは密着させる場合に仮想レンズモデルとシミュレーションレンズモデルの対向面のカーブは同じカーブに設定することが更に好ましい。
また、第1のレンズ及びシミュレーションレンズモデルのS度数は同じ度数に設定されていることが好ましい。より正確なシミュレーション結果を得るためである。
また、第2のレンズが累進屈折力レンズである場合には第1のレンズ及びシミュレーションレンズモデルは累進屈折力レンズとして設計されており、両レンズの遠用度数及び近用度数は同じであることが好ましい。正確なシミュレーション結果を得るためである。第2のレンズが累進屈折力レンズではない場合には第1のレンズ及びシミュレーションレンズモデルは累進屈折力レンズとして設計されていないことが好ましい。
つまり、シミュレーションに用いる光線として、物体側から発した光線が眼球回旋点を通過する条件を求める場合のみならず眼球回旋点を発した光線がレンズを通過してどこに進んでいくかを求めるような計算(いわゆる逆追跡)をすることも想定しており、さらにどちらの条件においても差分レンズモデルをシミュレーションレンズモデルのi)前方に配置すること、ii)後方に配置すること、iii)差分レンズの作用を適当な配分または成分によって分割して前方と後方の両方に配置することを想定している。
差分レンズモデルのレンズ面が入射光に対して垂直となるとは、入射光が差分レンズモデルの光学中心を通過していることと考えても良い。レンズの光学中心とは表面と裏面が平行な位置、すなわちプリズム効果を持たない位置である。従って、「ほぼ垂直」とはプリズム効果が計算結果に大きな影響がない程度に収まる範囲を意味する。
また、シミュレーションレンズモデルにおいて追跡シミュレーションを行う光線は同シミュレーションレンズモデルの物体側のレンズ面側から入射して眼球側のレンズ面から出射され眼回旋中心を通過する光線(あるいはこの逆をたどる光線)を使用することが好ましい。これによって実際に物を見るための光についての眼鏡レンズの性能評価が可能となる。
また、例えば、両レンズが内面累進レンズ(表面が球面で内面が累進面と乱視面の合成面)であるときには、特に表面を同じベースカーブに構成し、内面はできるだけ似た自由曲面にすることが好ましい。また、両レンズが外面累進レンズ(表面が累進面で内面が球面または乱視面)であるときには、特に表面の参照球面を同じベースカーブに構成し、同じ内面形状でレンズの度数が同じなるようにして、さらに表面をできるだけ似た自由曲面にすることが好ましい。
図1は本発明の評価方法を実現するための装置の概略ブロック図である。評価用コンピュータ1には被験レンズの度数分布を測定する度数分布測定装置2が接続されている。また、出力手段としてのモニター3と第1のレンズとしてのリファレンスレンズ4のレンズデータ、第2のレンズとしての被験レンズ5のレンズデータ及びシミュレーションレンズモデルのレンズデータを入力するための入力手段としてのキーボード7が接続されている。尚、出力手段としてはモニター3以外にプリンタや他の装置へデータを転送する出力手段等が挙げられる。また、入力手段としてはキーボード7以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。
度数分布測定装置2は図2に示すように光源10、ビームスプリッタ11、スクリーン12、CCDカメラ13とを備えている。CCDカメラ13には解析装置14が接続されている。リファレンスレンズ4及び被験レンズ5は光源10とビームスプリッタ11の間に配置される。光源10は平行な光線をビームスプリッタ11方向に向かって照射する。ビームスプリッタ11には整然と配置された複数の透孔が形成され透孔を通過した光線(光束)はスクリーン12上に投影される。この投影された光点がマッピングポイントとされる。CCDカメラ13はスクリーン12上に投影されたマッピングポイントの映像を取り込む。図3(a)及び(b)にこの映像のイメージを示す。本実施の形態では図3(a)が被験レンズ5で図3(b)がリファレンスレンズ4である。
尚、図3(a)及び(b)では実際にはスクリーン12上に投影されないレンズの度数分布図が重ね合わされている。つまり、図3(a)及び(b)ではマッピングポイントがこの度数分布に従って変位させられていることを示している。
解析装置14は各透孔位置に対するCCDカメラ13によって取り込まれた光線の対応する透孔との位置変位に基づいてリファレンスレンズ4又は被験レンズ5の光学特性を計算する。解析装置14内部には記憶手段としてのメモリ15が配設され計算によって得られたリファレンスレンズ4及び被験レンズ5の光学特性データ(S度数データ、C度数データ、乱視軸データ)を記憶する。本実施の形態ではビジョニクス社製のVM2000を使用した。
被験レンズ5は本実施の形態では所定の設計データと処方データのうち三次元形状データが不明なレンズである。その他のデータはリファレンスレンズ4と同様である。
シミュレーションレンズモデルは実際の形状のあるレンズではなくそれ自体仮想的なレンズモデルである。シミュレーションレンズモデルは所定の設計データと処方データについて明確とされており、本実施の形態では被験レンズ5と同じレンズ中心厚、レンズ縁厚、プリズム値に想定されている。また、処方データはリファレンスレンズ4と一致させられている。
評価用コンピュータ1は度数分布測定装置2によって計算されたリファレンスレンズ4及び被験レンズ5の光学特性データに基づいて両レンズの差分を計算する。
まず、ステップS1においてリファレンスレンズ4、被験レンズ5及びシミュレーションレンズモデルのそれぞれのレンズについて幾何中心肉厚(レンズ中心厚)、プリズム処方、偏心量、回旋中心距離、前傾角、レンズの屈折率、アッベ数等のパラメータをキーボード7によって入力する。
次いで、ステップS2において解析装置14から出力されたマッピングポイントの補間計算を行う。スクリーン12上に投影されたマッピングポイントは屈折させられているため実際には図5(a)に示すように不揃いで整然と配置されてはいない。そのためデータの数値に法則性がまったくないため取り扱いが不便である。そこで、各マッピングポイントについて図5(b)に示すように格子の交差位置に整然配置されるような補間計算を行う。補間計算は公知のスプライン補間や高次多項式によって実行される。
ここで解析装置14が出力するデータを格子状に並べ替える際、平均度数Sと乱視度数Cの値を補間計算するのは位置に応じた重みを付加するだけであるため容易であるが、乱視軸データの補間にあたっては工夫が必要である。第一に、0度と180度の間の処理の問題がある。
例えば、ある直線上でほぼ等間隔のデータ点における乱視軸の値が3度、1度、179度、177度である場合、1度と179度の間のデータを補間した結果は180度が適当であり、平均値の(1+179)/2=90度はふさわしくない。
第二に、主経線の+側と−側が乱視0の状態を経て逆転するときに、乱視軸が90度切り替わる問題がある。たとえばある直線上でほぼ等間隔のデータ点における乱視軸の値が5度、2度、89度、86度である場合、2度と89度の中間点のデータは0.5度が適当であり、平均値の(2+89)/2=45.5度はふさわしくない。
また、ある直線上でほぼ等間隔のデータ点における乱視軸の値が15度、12度、99度、96度である場合、12度と99度の中間点のデータは10.5度が適当であり、平均値の(12+99)/2=55.5度はふさわしくない。
θ(i,j)は0〜180度の範囲にあるが、それを2倍した2θ(i,j)は0〜360度の範囲にある。そのため、cos2θ(i,j)とsin2θ(i,j)は−1〜+1の範囲となる。
上で述べた第一の問題の不連続点は0度と180度の間であったが、2倍した角度では0度と360度の間となる。この点においてcosの値は1、sinの値は0となり、その前後で三角関数は連続なので第一の問題は解決する。
上で述べた第二の問題の乱視軸が90度切り替わる点は、2倍した角度では180度切り替わる点となる。角度が180度切り替わるとき、cosの値は(sinの値も)符号が逆で絶対値が等しい一対の値となる。180度切り替わり点の近辺でデータの補間を行うとき、たとえば既知の2点の値から中点の値を平均値として求める計算をすると、既知の2点が切り替わりの点をはさんで反対側にあれば平均値は0に近くなり、同じ側にあればもともとその2点のcos(またはsin)の値は似た値であり、平均から求めた中点の値も直観的に自然な値として得られる。その結果、補間の結果として半端な値の角度が得られることはなくなる。また、cosとsinの値が同時に0に近くなるのは、通常の角度ではあり得ないことから、そうした補間結果が得られた場合だけ特別な処理を行うことで、乱視の軸が切り替わる点であることを直観的にわかりやすく表現できる。
この様にして、任意の位置(x,y)におけるcos2θ(x,y)とsin2θ(x,y)の値は通常の補間計算によって得ることができ、両者から角度2θ(x,y)が一意に定まる。こうして得た2θ(x,y)は0〜360度の範囲にあるが、その半分のθ(x,y)は0〜180度の範囲にある。この手順によって乱視軸を補間すると、自然な分布のデータを得ることができる。なおcos2θ(x,y)とsin2θ(x,y)の値が両方とも0に近いデータを得た場合は、乱視の軸が切り替わる点であるとして特別な表示をするか、便宜的に0として表示する。
「合成後の度数=2つのレンズのマイナス側の度数の和+乱視度数の和」となる。
1枚のレンズパワーは、+側の度数と−側の度数を持つ。平均度数とは両者の平均であり、乱視度数は両者の差である。乱視軸は+側度数の方向を表す。また、パラメータは以下の通りである。
D1 … 斜交円柱の絶対値の大きい方の円柱屈折力,P1=+側の度数, M1=−側の度数, A1=軸, D1=P1−M1 ・・・乱視度数
D2 … 斜交円柱の絶対値の小さい方の円柱屈折力,P2=+側の度数, M2=−側の度数, A2=軸, D2=P2−M2 ・・・乱視度数
2つの軸のなす角は
ε = (A2−A1)/180.×π
※ε … 斜交する両円柱軸の互いにはさむ角
C = sqrt(D12+D22+2D1D2cos2ε)
※C … 合成結果として直交する両主経の屈折力の差(円柱差)
Dmax = (D1+D2+C)/2
Dmin = (D1+D2−C)/2
※Dmax… 直交する大きい方の主経屈折力 絶対値で
※Dmin… 直交する小さい方の主経屈折力
tan2φ =(D2sin2ε)/(D1+D2cos2ε)
よって、
φ = 0.5×arctan{(D2sin2ε)/(D1+D2cos2ε)}
※φ … 合成結果の直交する大きい方の屈折力(Dmax)の主経が、斜交の
大きい方の屈折力(D1)の経線方向に対してなす角
一方、Cが0のとき、上式の分母は0になる。このとき合成後のレンズは乱視成分を持たない。したがって乱視軸は意味を持たないが、コンピュータによって計算する過程においては便宜的に0にする。
この結果、
合成後の軸 = A1+φ/π×180.
合成後の+側の度数 = M1+M2+Dmax
合成後の−側の度数 = M1+M2+Dmin
で表される。
被験レンズ: -3.608D 1.010D 63.65度
リファレンスレンズ: -3.515D 0.910D 60.78度
まず、差分を取るためにリファレンスレンズのプラスマイナスを反転させる。乱視軸は90度変位することとなる。
-(リファレンスレンズ): +3.515D 0.910D 150.78度
これらの値からリファレンスレンズ4及び被験レンズ5のパラメータは次のように計算される。
P1 = -3.103, M1 = -4.113, A1 = 63.65, D1 =P1−M1= 1.010
P2 = +3.970, M2 = +3.060, A2 = 150.78, D2 =P1−M1 = 0.910
これらパラメータを上記プログラムに代入すれば次のように差分データが得られる。
差分レンズ: -0.094D 0.139D 84.11度
本実施の形態では差分データに基づいてシミュレーションレンズモデルの表面のマッピングポイントに対応する位置にサグ量を設定している。サグ量は以下の式によって設定した。尚、サグ量の計算に他の式を使用することも可能である。
x:マッピングポイントに対応するx座標
y:マッピングポイントに対応するy座標
p:差分レンズモデルの平均度数
c:差分レンズモデルの乱視度数
a:差分レンズモデルの+側度数の軸
xq,yq:非球面サグ値を求めたいマッピングポイントの座標
a = a/180*π・・・・式1
x1 = (xq-x)*cos(a)+(yq-y)*sin(a)・・・・式2
y1 = -(xq-x)*sin(a)+(yq-y)*cos(a)・・・・式3
この式1は軸を度からラジアンに変換させるものである。また、式2及び式3はマッピングポイントを中心とした座標に変換し、更に乱視軸を考慮して回転変換させるものである。
ここに、カーブを増減させる基準を考えるため、仮に曲率半径100mmの球面を用いる。この曲率半径はなるべくシミュレーションレンズモデルの表面の曲率半径と同じかあるいは近いものが好ましいが、得られる値との関係でそれほどの厳密さは必要とはされない。
PW=1000.*(屈折率-1.)/100.
として求めることができる。また、
度数が+側の面屈折力(PW1)= 1000.*(屈折率-1.)/100.+(p+0.5*c)
度数が−側の面屈折力(PW2)= 1000.*(屈折率-1.)/100.+(p-0.5*c)
曲率半径(mm)=1000.*(屈折率-1.)/ PW
とされる。
c1 = 1./(1000.*(屈折率-1.)/PW1)・・・式4
c2 = 1./(1000.*(屈折率-1.)/PW2)・・・式5
c3 = 1./100. ・・・式6
式4及び式5曲率半径の逆数から曲率を求め、式6から曲率半径100mmの球面の曲率を得る。これらはいずれも非球面サグ量を計算する上でのパラメータとなる。
これらから差分レンズモデルによる非球面サグ量Sは
S= (c1*x1*x1+c2*y1*y1)/(1.+sqrt(1.-c1*c1*x1*x1-c2*c2*y1*y1))
-(c3*x1*x1+c3*y1*y1)/(1.+sqrt(1.-c3*c3*x1*x1-c3*c3*y1*y1))
として求められる。
図6(b)及び(c)はシミュレーションレンズモデル表面に差分レンズモデルのサグ量を合成した状態である。実線で表示されている部分がシミュレーションレンズモデルにサグ量を合成した合成レンズとされる。図6(b)では当該マッピングポイントの座標を通る垂線と直交する合成レンズと合成前のシミュレーションレンズモデルにおける接線(面)P3,P1は平行に配置される。図6(c)では座標中心点のサグ量を0としているため合成レンズと合成前のシミュレーションレンズモデルの接線(面)は一致する。
図6(b)及び(c)のようにサグ量の極値t(差分レンズモデルの頂点)がシミュレーションレンズモデル表面と同位置かごく近い位置に存在することがサグ量によるプリズム効果の削減のために好ましい。
また、差分レンズモデルは座標付近のみの差分データで構築されているため座標から離間した位置では光学的に正しくなくなっている。もっとも、瞳径を考慮すると光学的に正しい領域は当該座標を中心とした3〜7mm程度であればよい。
シミュレーションレンズモデルの表面形状は一義的ではないのでシミュレーションレンズの表面形状の一般式をz=F(x,y)と置くと、x,yの値に基づいて差分レンズモデルとシミュレーションレンズモデル表面との合成位置が決定される。例えば、x=xq,y=yqの点において、上記式2及び式3からx1=0、y1=0となる。つまりこの点においてシミュレーションレンズモデルの表面と差分レンズモデルの頂点が一致することを意味する。
このように非球面サグ変化量が設定されたシミュレーションレンズモデルについて更に公知の手法に従ってレンズの前傾角度、回旋中心距離等を設定する。
次いで、ステップS5において空間シミュレーションモデルに対して光線追跡シミュレーションを行う。光線追跡シミュレーションにおいて使用される入射光束は本実施の形態では回旋中心を通過させるようにする。つまり透過光に基づいたレンズの光学特性をシミュレーションを行うこととする。光学特性は回旋中心に向かう入射光束と、入射光束が空間シミュレーションモデルを透過した際の変位に基づいて求められる。
所定のマッピングポイントについてそのマッピングポイント固有の差分レンズを想定して、その非球面サグ変化量をもとにシミュレーションレンズモデルを変形し、次のマッピングポイントについては新たにそのマッピングポイント固有の差分レンズを想定して、その非球面サグ変化量をもとにシミュレーションレンズモデルを変形する。つまり、所定のシミュレーションレンズモデルをベースとして個々のマッピングポイント位置においてシミュレーションレンズモデルに変形を加えるようなシミュレーションをすべてのマッピングポイントについて行い、その結果得られたデータに基づいて更に補間計算を行い、ステップS6において表示処理を行った後ステップS7で等高線表示の度数分布図をモニター3に表示させる。このシミュレーションで得られる度数分布図は被験レンズ5のものとされる。
以下のようなデータの被験レンズ5の内面累進屈折力レンズについて、本実施の形態によるシミュレーション結果による度数分布を作製し、比較のためにVM2000を使用したマッピング測定による度数分布を作製した。その結果を図7及び図8に示す。
(1)リファレンスレンズ4について
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:13mm
・加入度:2.00D
・遠用度数:S−5.00D C−0.00D
・中心厚:1.20mm
・表面のカーブ:2.00カーブ(1.523換算)
(2)被験レンズ5について
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:14mm
・加入度:2.00D
・遠用度数:S−5.00D C−0.00D
・中心厚:1.27mm
・表面のカーブ:2.24カーブ(1.523換算)
(3)シミュレーションレンズモデルについて
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:14mm
・加入度:2.00D
・遠用度数:S−5.00D C−0.00D
・中心厚:1.27mm
・表面のカーブ:2.24カーブ(1.523換算)
差分レンズを合成する前の状態では、シミュレーションレンズモデルの表面は2.24カーブの球面とした。裏面はリファレンスレンズ4の裏面を変形させておりその変形では、参照球面を0.24カーブ深くして、非球面サグ分布(参照球面からのズレ量)はそのままとした。
実施例1の被験レンズ5は透過光性能での光学特性はVM2000を使用したマッピング測定による光の光学特性とは大きな違いが見られた。例えば遠用領域にはでは実際に必要な度数よりも強いマイナス度になっている領域がある。また、遠用アイポイント周辺では乱視度数が小さく、近用明視幅は、透過光で評価するほうが広くなっている。
以下のようなデータの被験レンズ5の内面累進屈折力レンズについて、本実施の形態によるシミュレーション結果による度数分布を作製し、比較のためにVM2000を使用したマッピング測定による度数分布を作製した。その結果を図9及び図10に示す。
(1)リファレンスレンズ4について
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:13mm
・遠用度数:S+3.00D C+0.00D
・加入度:2.00D
・中心厚:5.11mm
・表面のカーブ:4.80カーブ(1.523換算)
(2)被験レンズ5について
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:14mm
・遠用度数:S+3.00D C+0.00D
・加入度:2.00D
・中心厚:4.76mm
・表面のカーブ:4.50カーブ(1.523換算)
(3)シミュレーションレンズモデルについて
・素材屈折率:1.60
・累進帯長:14mm
・遠用度数:S+3.00D C+0.00D
・加入度:2.00D
・中心厚:4.76mm
・表面のカーブ:4.50カーブ(1.523換算)
・上記実施の形態では差分データをシミュレーションレンズモデルに合成することで被験レンズ5と同じ光学特性となる空間シミュレーションモデルを構築するようにしたが、図11に示すように、差分データに基づいて仮想レンズ11を想定し、シミュレーションレンズモデルと重複状に配置するような空間シミュレーションモデルを構築してもよい。この時、仮想レンズ11はマッピング測定での入射光に対して垂直あるいはほぼ垂直となるようにレンズ面が配置されることが好ましい。
・眼球の位置を移動させた場合には移動前の光線では回旋中心を通過しなくなる可能性がある。そのため、図12に示すように入射光線の角度を調整して回旋中心を通る光線を見つけるようにしてもよい。
・仮想レンズ11はシミュレーションレンズモデルの裏面(眼球側)に配置するようにしてもよい。
・差分レンズモデルはシミュレーションレンズモデルの裏面(眼球側)で合成するようにしてもよい。
・差分レンズモデル及び仮想レンズ11はシミュレーションレンズモデルを挟んだ両側に配置するようにしてもよい。
・実施例ではリファレンスレンズ4、被験レンズ5及びシミュレーションレンズモデルはいずれも同じ処方であったが、必ずしも同じである必要はない。しかし、少なくともリファレンスレンズ4及びシミュレーションレンズモデルの度数は同じであることが好ましい。
・上記実施の形態では回旋中心を通過する光線(いわゆる透過光)についての評価を行ったが、これ以外の光線について評価を行うことも自由である。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
Claims (8)
- 第1のレンズについて物体側又は眼球側のレンズ面側から入射した複数の光線がそれぞれ眼球側又は物体側のレンズ面から出射された際の同各光線毎の屈折による変位をマッピングする第1のマッピング工程と、
第2のレンズについて物体側又は眼球側のレンズ面側から入射した前記第1のマッピング工程における入射光と同じ光跡の複数の光線が眼球側又は物体側のレンズ面から出射された際の同各光線毎の屈折による変位をマッピングする第2のマッピング工程と、
前記第1のマッピング工程においてマッピングされた個々の点(以下、マッピングポイントとする)におけるS度数、C度数及び乱視軸の各データを算出する第1のマッピングデータ算出工程と、
前記第2のマッピング工程においてマッピングされたマッピングポイントのS度数、C度数及び乱視軸の各データを算出する第2のマッピングデータ算出工程と、
前記第1のレンズと前記第2のレンズのそれぞれ測定位置が対応するマッピングポイントについてそれらの前記第1及び第2のマッピングデータ算出工程で算出されたデータ同士の差分データを求める差分算出工程と、
前記差分算出工程において算出された前記各マッピングポイント毎の差分データに基づいて当該マッピングポイント毎に差分レンズモデルを想定し、同差分レンズモデルとシミュレーションレンズモデルを組み合わせて空間シミュレーションモデルを構築し、同空間シミュレーションモデルを透過する光線の追跡シミュレーションを行うことで前記第2のレンズの光学性能評価をする光学性能評価工程を備えたことを特徴とする眼鏡レンズの光学性能評価方法。 - 前記空間シミュレーションモデルにおいて前記差分レンズモデルが前記入射光に対して前記シミュレーションレンズモデルよりも前方に配置される場合には同入射光に対して垂直あるいはほぼ垂直となるように同差分レンズモデルのレンズ面が配置され、前記差分レンズモデルが前記入射光に対して前記シミュレーションレンズモデルよりも後方に配置される場合には同射出光に対して垂直あるいはほぼ垂直となるように同差分レンズモデルのレンズ面が配置されることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記差分レンズモデルは前記シミュレーションレンズモデルを挟んだ前方及び後方位置に配置されることを特徴とする請求項2に記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記シミュレーションレンズモデルは前記第1のレンズとレンズ形状特性及びレンズの素材特性が互いに同一又は近似することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記シミュレーションレンズモデルにおいて追跡シミュレーションを行う光線は同シミュレーションレンズモデルの物体側のレンズ面側から入射して眼球側のレンズ面から出射され眼回旋中心を通過する光線あるいは同シミュレーションレンズモデルの眼回旋中心を発して眼球側のレンズ面側から入射して物体側のレンズ面から出射する光線を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記第1のレンズ及び第2のレンズのレンズ形状特性及びレンズの素材特性は互いに同一又は近似していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記第1のレンズ及びシミュレーションレンズモデルのS度数は同じ度数に設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
- 前記第2のレンズが累進屈折力レンズである場合においては前記第1のレンズ及び前記シミュレーションレンズモデルは累進屈折力レンズとして設計されており、前記第1のレンズ及び同シミュレーションレンズモデルの遠用度数及び近用度数は同じであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の眼鏡レンズの光学性能評価方法。
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