JP2007278934A - 生体分子含有試料の試料調製方法 - Google Patents

生体分子含有試料の試料調製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】試料液中に存在する微量の測定対象分子を、測定対象分子に特異的に結合する「キャプチャー」分子との複合体を形成させて、濃縮(分離)し、該複合体から測定対象分子を離脱させ、回収する工程において、その後に施す、等電点電気泳動の分離能、ならびに、質量分析における定量性、測定感度に影響を及ぼさない、離脱・回収手段の提供、ならびに、該回収工程後、バイオチップによる等電点電気泳動を施し、分離される測定対象分子を質量分析用試料に調製する方法の提供。
【解決手段】測定対象分子と「キャプチャー」分子との複合体から、測定対象分子を離脱させ、回収する手段として、測定対象分子自体の変性を引き起こすことなく、該複合体中の「キャプチャー」分子の構造を選択的に変化させる薬剤を「キャプチャー」分子に作用させ、「キャプチャー」分子の測定対象分子に対する結合能を喪失させる離脱手段を利用する。
【選択図】図1

Description

本発明は、試料液中に含まれる生体分子を分析するための分析用試料を調製する方法に関する。特には、試料液中に含まれる測定対象分子を、予め濃縮した上で、キャピラリーに代えて、バイオチップを泳動路として利用する、等電点電気泳動法を採用して分離し、該測定対象分子を対象とする質量分析用の試料に調製する方法に関するものである。
試料液中に含まれる生体分子、例えば、タンパク質分子や核酸分子を特定し、その含有濃度を決定する目的で、種々の分析手法が開発されている。通常、試料液中に含まれる生体分子の含有濃度は、然程高くなく、従って、分析に先立ち、試料液中に含まれる生体分子を濃縮した上で、適用される分析手法に適する分析用試料を調製している。
例えば、測定対象分子が特定の塩基配列を有する核酸分子である場合、アルコール沈澱法を利用して、試料中に含まれる核酸分子を分離(濃縮)した上で、更に、該核酸分子を鋳型として、特定の塩基配列を有する核酸分子の選択的増幅処理を施し、測定対象の核酸分子を高濃度で含有する分析用試料を調製することができる。更に、特定の塩基配列を有する核酸分子の選択的増幅処理を施した後、電気泳動法を採用して、核酸鎖の長さの差異に基づき、特定の塩基配列を有する核酸分子を単離した上で、特定の塩基配列を有する核酸分子のみを含有する分析用試料を調製することができる。
一方、測定対象分子がタンパク質分子である場合、試料中に含まれるタンパク質分子の分離手段として、電気泳動法が一般的に利用されている。個々のタンパク質分子は、特定のアミノ酸長(分子量)と、等電点(pI)を有しており、ゲル・プレート上における、二次元泳動法を適用して、測定対象のタンパク質分子を単独スポットとして、分離(濃縮)することが可能である。このゲル・プレート上における、二次元泳動法を利用するタンパク質分子の分離方法は、有効な手段であるものの、その後、分析用試料を調製する際、ゲル・プレート上の単離スポットを切り出し、該スポットから対象のタンパク質分子を溶出する処理が必要となる。また、単離スポットの存在を確認するためには、当初の試料液中に含まれる、当該タンパク質分子の含有濃度が、ある水準以上であることが必要である。
一方、生体分子、特に、タンパク質分子を分析する手段として、質量分析法の応用が進められている。質量分析法では、測定対象分子であるタンパク質分子に由来するイオン種のMi/Zi値(Mi:イオン種式量、Zi:イオン種の電荷数)を測定した上で、測定対象分子であるタンパク質分子の分子量Mを特定する。従って、質量分析を行う分析用試料中に、分子量Mが相違する複数種のタンパク質分子が共存している場合であっても、これら複数種のタンパク質分子について、それぞれ分子量Mを特定することが可能である。また、各タンパク質分子に由来するイオン種の存在比率に基づき、複数種のタンパク質分子の存在比率を定量的に評価することも可能である。
この質量分析法の特徴を利用して、試料液中に含有されている、測定対象のタンパク質分子を、等電点電気泳動法を適用して、単一スポット点に分取した後、分取された、特定の等電点を示すタンパク質分子を含む分析用試料を利用して、測定対象のタンパク質分子の分子量Mの特定と、その含有比率を定量的に評価する手法が、既に提案されている。特に、ポリアクリルアミドゲルを用いる等電点電気泳動法に代えて、バイオチップ上に形成されているキャピラリー状のマイクロ流路を利用する、キャピラリー型等電点電気泳動法を採用すると、泳動操作に要する試料液の液量は遥かに少なく量で同等の分離性能が発揮される。この特徴を生かし、バイオチップを泳動路として利用する、等電点電気泳動法を採用して、測定対象のタンパク質分子を分離した上で、バイオチップ上のマイクロ流路において、そのまま凍結乾燥し、質量分析用試料に調製することができる。このバイオチップを利用するキャピラリー型等電点電気泳動法と、タンパク質分子の分析に適する質量分析手段、MALDI−TOF MS(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time−of−Flight Mass Spectrometry;マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)とを組み合わせる生体分子検出手法を利用すると、測定対象のタンパク質分子に対して、等電点(pI)と、該タンパク質分子に由来するイオン種のM/Z値の二次元的な情報が簡単な操作により入手できる。すなわち、微量な試料液を用いて、該試料液中に含有されている多種類のタンパク質分子について、その等電点(pI)と該タンパク質分子に由来するイオン種のM/Z値、イオン強度に基づき、その特定が可能であり、また、存在比率の定量的な解析を可能としている(非特許文献1)。
試料液中に含有されるタンパク質分子の含有濃度が極度に低い場合には、等電点電気泳動に先立ち、予め、対象となるタンパク質分子を、ある水準以上の濃度に濃縮することが必要となる。試料液中に含まれる特定のタンパク質分子を特異的に濃縮する手段としては、固相基材粒子の表面に、該タンパク質分子に対して、特異的な結合能を示す「キャプチャー」分子を固定化し、この基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を利用する手法がある。すなわち、試料液中に、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を添加し、対象のタンパク質分子を該「キャプチャー」分子と結合させ、該「キャプチャー」分子との結合を介して、基材粒子上に固定化する。試料液中に含まれる対象のタンパク質分子の量より、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子の添加量を十分に多くすると、対象のタンパク質分子は、ほぼ全量が、該「キャプチャー」分子との結合を介して、基材粒子上に固定化される。最終的に、固/液相分離し、添加した固相基材粒子を分離し、回収し、「キャプチャー」分子と結合しない、他の成分を洗浄により除去すると、回収される基材粒子上に、対象のタンパク質分子が濃縮される。
この基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を利用する濃縮方法において、利用可能な「キャプチャー」分子として、抗体(非特許文献2)、核酸アプタマー(非特許文献3)、レクチン(非特許文献4)などを用いた事例が報告されている。具体的には、対象のタンパク質分子と「キャプチャー」分子との特異的な結合によって、複合体が形成される過程は、結合/解離の平衡状態となっており、その解離平衡定数:Kdis.=[対象のタンパク質分子]・[「キャプチャー」分子]/[複合体]に従う。「キャプチャー」分子として、好適に利用される抗体、核酸アプタマーは、対象のタンパク質分子と特異的な結合能を有し、その解離平衡定数:Kdis.が極めて小さなものである。また、糖結合性タンパク質であるレクチンは、該レクチン・タンパク質が高い結合能を示す糖鎖、ならぶに糖鎖修飾がなされている糖タンパク質分子に対する「キャプチャー」分子として利用されている。
例えば、対象のタンパク質分子に対する特異的な抗体を、「キャプチャー」分子として、固相基材粒子のSepharose粒子上に固定化した、抗体−Sepharose粒子を利用する免疫沈降法(非特許文献5)は、確立されたタンパク質分子の分離手法となっている。この免疫沈降法を利用すると、抗体−Sepharose粒子上に結合・固定されている対象のタンパク質分子の量と、試料液中に残留している、対象のタンパク質分子の量の比率を、100:1程度にすることが可能である。すなわち、「見かけの濃縮率」に換算すると、およそ100倍に濃縮することが可能である。
「キャプチャー」分子を固定化している基材粒子の表面には、対象のタンパク質分子以外の生体分子が、非特異的に吸着している。この非特異的な吸着過程の解離平衡定数:Kdis.は、対象のタンパク質分子と「キャプチャー」分子との特異的な結合過程の解離平衡定数:Kdis.と比較すると、数桁も大きい。従って、最終的に、固/液相分離し、添加した固相基材粒子を分離し、回収し、バッファ溶液を用いて、手早く洗浄すると、非特異的な吸着過程により付着している他の成分は、洗浄により、除去される。一方、「キャプチャー」分子との特異的な結合過程により固定化されている対象のタンパク質分子は、極僅かな比率が解離するのみである。結果的に、洗浄を終えた基材粒子上には、対象のタンパク質分子のみが、濃縮(固定)された状態で残留する。
基材粒子上に、「キャプチャー」分子との複合体を形成して、固定化されている、対象のタンパク質分子を回収する手段としては、対象のタンパク質分子に対するタンパク質変性剤、例えば、酸、アルカリ(塩基)、尿素などの変性剤、あるいは、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を作用させる手法が知られている(非特許文献6)。対象のタンパク質分子を変性させ、その本来の立体構造、フォールディングが損なわれると、対象のタンパク質分子に対する「キャプチャー」分子の結合能が急速に低下するため、「キャプチャー」分子との複合体形成は解消され、例えば、部分的に変性した対象のタンパク質分子として、解離される。この溶出過程では、洗浄処理後の固相基材粒子を、変性剤を含む少量の液中に浸すことによって、複合体から解離される、部分的に変性した対象のタンパク質分子は、少量の溶出液中に回収される。最終的に、固/液相分離し、固相基材粒子を除去すると、複合体から解離される、部分的に変性した対象のタンパク質分子を、相対的に高い濃度で含有する少量の液が採取される。以上に述べた、一連の操作によって、当初の試料液中における含有濃度よりも、遥かに高い濃度に「濃縮」された対象のタンパク質分子を含む溶液が得られる。
フジタ エム 他, 18 インターナショナル・シンポジウム・オン・マイクロスケール・バイオセパレーションズ 2005年 頁185(Fujita M. et al. 18th International Symposium on Microscale Bioseparations, 2005, pp.185) 分子生物学実験プロトコールII, 丸善 1997年 pp.392−397 ヤマモト アール 他, ジーンズ セルズ 2000年 第5巻 頁389−396(Yamamoto R. et al. Genes Cells, 2000, Vol.5 pp. 389-396) ウーラー エム 他, ジャーナル・オブ・クロマトグラファー・ビー アナリティカル・テクノロジー・バイオメディカル・ライフ・サイエンス 2005年 第825巻 頁124−133(Wuhrer M. et al. J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. 2005, Vol.825 pp.124-133) アンチボディズ ア ラボラトリマニュアル, コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリ 1988年 頁423−429(Antibodies A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988, pp.423-429) アンチボディズ ア ラボラトリマニュアル コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリ 1988年 頁547−552(Antibodies A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988, pp.547-552)
基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を利用し、測定対象のタンパク質分子と該「キャプチャー」分子との複合体を形成し、濃縮(分離)を行う工程の後、測定対象のタンパク質分子に対する変性剤を作用させて、該タンパク質分子を変性させることにより、複合体から該タンパク質分子を離脱する手法は、次のような問題を内在している。
まず、離脱されたタンパク質分子は、部分的に変性されているため、そのまま、等電点電気泳動を利用する分離工程に供することは困難である。タンパク質分子が示す等電点(pI)は、該タンパク質分子の立体構造に依存しており、部分的に変性したタンパク質分子が示す等電点は、当然、変性していないタンパク質分子が示す等電点と相違している。加えて、変性の程度により、部分的に変性したタンパク質分子が示す等電点は分布を示すため、等電点電気泳動において、部分的に変性したタンパク質分子は、単一のスポットとして、分離することは困難である。
従って、変性剤が添加されている溶出液中に回収されている、部分的に変性したタンパク質分子に対して、この溶出液中に含まれる変性剤を取り除き、該タンパク質分子の固有の立体構造を回復する処理、所謂、巻き戻し(refolding)処理を施す必要がある。変性剤によって変性したタンパク質分子の巻き戻し(refolding)の効率は、必ずしも、100%ではなく、タンパク質分子の種類によっては、巻き戻し(refolding)によって、本来の立体構造を回復できないこともある。
変性剤として、酸あるいはアルカリ(塩基)を利用した際には、変性剤によって変性したタンパク質分子を含む溶出液に中和処理を施すことによって、系内に存在する、変性剤:酸あるいはアルカリ(塩基)の実効的な濃度を低下させ、変性したタンパク質分子の巻き戻し(refolding)を行う手法が利用されている。例えば、変性剤:酸を含有する場合には、該酸と混合した際、水溶性の塩を形成可能なアルカリ(塩基)を徐々に添加し、系内に存在する、変性剤:酸の実効的な濃度を低下させ、変性したタンパク質分子の巻き戻し(refolding)を進行させている。この中和処理による、タンパク質分子の巻き戻し(refolding)が完了した時点では、系内に溶存している、電解質、水溶性の塩に起因するイオン種の総量は増加する。
一般に、タンパク質分子を溶解している水溶液中において、溶存している電解質、水溶性の塩に起因するイオン種の総濃度が一定水準以上に高くなると、タンパク質分子の溶解度を低下させ、塩析を引き起こす。測定対象のタンパク質分子を濃縮する目的で、前記溶出液中に含有される該タンパク質分子の濃度を高めているため、場合によっては、前記塩析効果のため、該タンパク質分子の析出(沈澱)が起こることもある。例えば、溶出液中に含有される該タンパク質分子の濃度を更に高めるため、逆浸透処理を施し、溶媒を除去する場合、塩析効果に起因する、該タンパク質分子の溶解度低下が、濃縮率の制約となる。
塩析効果に起因する、該タンパク質分子の析出(沈澱)に至らない場合であっても、等電点電気泳動においては、試料液中に含まれる電解質、水溶性の塩の濃度(イオン強度)が高いと、タンパク質分子の等電点に基づく、分離能が低下する。すなわち、試料液中に含まれる電解質、水溶性の塩の濃度(イオン強度)が高くなると、対象タンパク質分子を狭い「単一のスポット」として、分離することが困難となる。
勿論、等電点電気泳動に供する液中に含まれるタンパク質分子は、本来の立体構造を回復した状態とする必要があり、離脱過程において、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いる場合も、部分的に変性されたタンパク質分子に、巻き戻し(refolding)処理を施すことが必要である。なお、酸あるいはアルカリ(塩基)以外の変性剤、例えば、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いる場合、これらの変性剤の濃度を徐々に低下させ、タンパク質分子の巻き戻し(refolding)処理を施すためには、液全体を希釈する手法しかなく、測定対象のタンパク質分子を高い濃度で含む液の調製という目的と相反するものとなる。
さらに、等電点電気泳動に供する液中に、変性剤、例えば、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が相当濃度で含まれていると、泳動後、マイクロチップの泳動用流路全体に、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が分布した状態となる。泳動終了後、マイクロチップの泳動用流路内で分離されている、測定対象のタンパク質分子を凍結乾燥する際、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤は蒸散せず、タンパク質分子とともに、乾燥される。従って、測定対象のタンパク質分子は、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤と混合した状態で分析用試料に調製され、この分析用試料を質量分析すると、測定対象のタンパク質分子に対する測定感度は低下する。具体的には、分析用試料中には、少量の測定対象のタンパク質分子が、多量に存在する、尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤と混合された状態となっており、例えば、測定対象のタンパク質分子のイオン化効率は、共存する尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤に対する混合比率に依存するため、結果的に、測定対象のタンパク質分子のイオン化効率は、相対的に低下する。すなわち、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を利用し、測定対象のタンパク質分子の濃縮を行っているが、離脱処理に用いた尿素や塩酸グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が多量に残留する状態では、質量分析を行った際、相対的な測定感度の低下が引き起こされ、全体として、濃縮処理を施した効果が相殺されてしまう。
加えて、複合体から離脱する際、タンパク質変性剤を作用させて、一旦変性された測定対象のタンパク質分子に対して、巻き戻し(refolding)処理を施す際、その巻き戻し(refolding)の高い再現性と、高い効率が必要である。巻き戻し(refolding)の再現性は、測定対象のタンパク質分子の種類に依存しており、質量分析における定量性を損なう要因ともなる。
以上に説明するように、マイクロチップを利用する等電点電気泳動により、測定対象のタンパク質分子を単一スポットとして分離し、次いで、分離された測定対象のタンパク質分子を分析用試料に調製し、該分析用試料中のタンパク質分子を質量分析する際、当初の試料液中に含まれる測定対象のタンパク質分子を、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子を利用して、予め濃縮する処理を設けることは、微量な測定対象のタンパク質分子を分析する上では、有用な手段である。その際、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱させ、回収する際、該タンパク質分子に、タンパク質変性剤、例えば、酸、アルカリ(塩基)、尿素などの変性剤、あるいは、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を作用させる手法を利用すると、幾つかの問題を内在している。これらの問題点を回避して、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱させることができ、その後、マイクロチップを利用する等電点電気泳動を施し、質量分析に用いる分析用試料を調製する手法の開発が待望されている。
本発明は前記の課題を解決するもので、本発明の第一の目的は、試料液中に含まれる測定対象分子、特には、測定対象のタンパク質分子を予め濃縮する目的で、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱させ、回収する際、該タンパク質分子に、タンパク質変性剤、例えば、酸、アルカリ(塩基)、尿素などの変性剤、あるいは、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を作用させる手法に代わり、上述するタンパク質変性剤の利用に起因する不具合を本質的に回避可能な、複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱する新規な手段を提供することにある。また、本発明の最終的な目的は、かかる複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱する新規な手段を応用して、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱させ、回収した上で、該測定対象のタンパク質分子が濃縮されている液を用いて、マイクロチップを利用する等電点電気泳動を施し、測定対象のタンパク質分子を単一スポットとして分離し、次いで、分離された測定対象のタンパク質分子を質量分析に適する分析用試料に調製する方法を提供することにある。
本発明者らは、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と複合体を形成している、測定対象のタンパク質分子を離脱させ、回収する際、従来の手法では、測定対象のタンパク質分子を変性させ、該測定対象のタンパク質分子の「キャプチャー」分子に対する結合能を喪失させていたが、逆に、「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる手段を用いると、複合体から測定対象のタンパク質分子を離脱させることが可能となることを見出した。この「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる手段として、例えば、「キャプチャー」分子に構造変化を誘起させる試薬を、測定対象のタンパク質分子を溶解可能な緩衝液に添加し、溶出液として利用することが可能であることを、本発明者らは見出し、その有効性を確認した。
例えば、「キャプチャー」分子として、測定対象のタンパク質分子に対して、特異的な反応性(抗原−抗体反応性)を有する、抗体分子を使用する場合、該抗体分子を構成する重鎖と軽鎖の鎖間を連結するS−S結合(Cys−Cys結合)を還元すると、重鎖と軽鎖の鎖間を連結が損なわれ、結果的に、抗原−抗体反応性の喪失が引き起こされることを確認した。例えば、前記抗体分子を構成する重鎖と軽鎖の鎖間を連結するS−S結合(Cys−Cys結合)を還元する処理は、汎用の還元剤、例えば、ジチオスレイトール(DTT:threo−1,4−dimercapto−2,3−butanediol)や2−メルカプトエタノール(HS−CH2−CH2−OH)を適量添加した、希釈リン酸緩衝食塩水(PBS:Phosphate buffered saline solution)を利用することが可能である。
また、「キャプチャー」分子として、測定対象のタンパク質に対して、特異的な結合能を示す核酸アプタマーを利用する際には、該核酸アプタマーの立体構造を構成している核酸鎖を開裂させると、その立体構造に付随する結合能の喪失が引き起こされることを確認した。例えば、核酸鎖の開裂処理には、核酸アプタマーを構成する一本鎖核酸の開裂を行う核酸分解酵素タンパク質を適量、希釈PBS緩衝液中に溶解したものを利用することが可能である。
さらには、ペプチド鎖を構成するアミノ酸残基の側鎖上に糖鎖修飾を有する、糖修飾タンパク質分子が、測定対象のタンパク質であり、「キャプチャー」分子として、測定対象の糖修飾タンパク質分子と、該糖鎖との結合を介して、複合体を構成することが可能な糖結合タンパク質、特には、レクチンを利用する際には、該糖修飾タンパク質分子を修飾する糖鎖部分を選択的に切断すると、該糖鎖部分を介する、レクチンの結合能は、実質的に喪失されることを確認した。なお、糖鎖部分の選択的な切断処理には、対応する糖残基に対する糖分解酵素タンパク質を適量、希釈PBS緩衝液中に溶解したものを利用することが可能である。
上記の「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる手段は、測定対象のタンパク質分子の立体構造を変化させる機能(作用)は無く、また、複合体から離脱される測定対象のタンパク質分子は、該タンパク質分子を溶解可能な緩衝液中に溶解させて、回収することができる。
すなわち、試料液中に含まれる、微量の測定対象のタンパク質分子を予め濃縮(分離)する工程において、測定対象のタンパク質分子を「キャプチャー」分子と結合させ、複合体として、複合体中の該「キャプチャー」分子を、基材粒子表面に結合させた形態として、固/液相分離処理によって、回収される基材粒子表面に固定化した状態で濃縮(分離)する。次いで、「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる処理を施し、基材粒子表面に固定化した状態の複合体から、測定対象のタンパク質分子を離脱させ、該タンパク質分子を溶解可能な緩衝液中に溶解させて、回収する。この離脱処理に用いる溶出液は、「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる機能を有する試薬成分と、前記緩衝液を構成する電解質成分とを含む水溶液とする。その際、「キャプチャー」分子の測定対象のタンパク質分子に対する結合能を喪失させる機能を有する試薬成分、緩衝液を構成する電解質成分は、何れも、測定対象のタンパク質分子の変性を引き起こす作用の無い物質から選択することにより、回収される測定対象のタンパク質分子は、変性がなされてなく、本来の立体構造を保持したものとできることを見出した。加えて、緩衝液を構成する電解質成分の含有濃度を、該測定対象のタンパク質分子が塩析によって、析出を引き起こすことの無い範囲に選択する、特には、緩衝液を構成する電解質成分の含有濃度は、該溶出液中のイオン強度が0.01M以上、0.1M以下の範囲で、所望のpH値を維持できる組成に選択することで、一旦、回収された測定対象のタンパク質分子が、次の工程:マイクロチップを利用する等電点電気泳動処理を行う前に、部分的に析出を引き起こす不具合を回避可能であることも見出した。
加えて、マイクロチップを利用する等電点電気泳動処理を行う過程において、当該タンパク質分子を泳動する際、その溶媒は、低イオン強度条件とすることが一般的であり、従って、前記回収操作で採取される測定対象のタンパク質分子を含む回収液自体、この低イオン強度条件を満たすことが必要とされる。用いる溶出液中のイオン強度を、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択することにより、等電点電気泳動処理において、一般的に要求される低イオン強度条件を満足することが可能となることも確認した。
勿論、前記の溶出液を用いて、回収される測定対象のタンパク質分子は、変性がなされてなく、本来の立体構造を保持したものとなっており、次の工程:マイクロチップを利用する等電点電気泳動処理を行うことで、該測定対象のタンパク質分子が示す等電点(pI)に従って、マイクロチップの流路上において、単一のスポットとして、分離できることも確認した。この等電点電気泳動処理によって、単一のスポットとして、分離される測定対象のタンパク質分子は、例えば、マイクロチップの流路を覆っている蓋シートを取り外し、流路上において、そのまま凍結乾燥処理を施し、最終的に、例えば、MALDI−TOF MS用のマトリクス材を付与して、質量分析用試料とすることができることも確認した。
本発明者らは、上記の一連の知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、
本発明にかかる生体分子の質量分析用試料の調製方法は、
生体分子を含有する試料液中に含まれる、特定の測定対象分子を質量分析するための質量分析用試料を調製する方法であって、
該測定対象分子は、等電点電気泳動を施した際、単一のスポットを形成可能な生体分子であり、
該測定対象分子を質量分析するための質量分析用試料を調製する方法は、
該測定対象分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子を利用し、前記試料液中に含まれる、該測定対象分子に前記「キャプチャー」分子を結合させてなる複合体を形成し、
該複合体を固相基材粒子表面に、該複合体中の「キャプチャー」分子と固相基材粒子表面との結合を介して、該複合体を該固相基材粒子表面に固定化する工程;
該固相基材粒子と、前記試料液とを、固/液相分離処理によって分離し、該固相基材粒子を分取する工程;
前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液を用いて、分取される該固相基材粒子の表面に固定化されている、前記複合体から、前記「キャプチャー」分子との結合を解消して、該測定対象分子を離脱させ、
前記溶出液と、該固相基材粒子とを、固/液相分離処理によって分離し、前記溶出液を分取し、
離脱された該測定対象分子が回収されている回収液とする工程;
離脱された該測定対象分子が回収されている回収液を、マイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理し、
該マイクロチップの流路上に、該測定対象分子を単一のスポットとして、等電点電気泳動分離する工程;
該マイクロチップの流路上に、単一のスポットとして、等電点電気泳動分離されている該測定対象分子を凍結乾燥し、
該マイクロチップの流路上において、凍結乾燥処理された、単一のスポットに分離されている該測定対象分子を質量分析用試料に調製する工程と
を具え、
前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液は、
前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分として、前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分と、
離脱される該測定対象分子を溶解させる緩衝液成分のみを含み、
前記試薬成分と緩衝液成分とは、いずれも、離脱される該測定対象分子が示す前記等電点電気泳動における分離特性を本質的に損なう作用を有していない物質であり、
前記試薬成分は、離脱される該測定対象分子に対して、結合能を示さない物質であり、
前記溶出液中に含まれる緩衝液成分は、液のpHを所定値に維持する機能を有する電解質物質の組成を有し、該電解質物質の組成に由来する該溶出液中のイオン強度は、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択されている
ことを特徴とする生体分子の質量分析用試料の調製方法である。
特には、質量分析を行う前記測定対象分子は、タンパク質分子、修飾を有するタンパク質分子、およびペプチドのいずれかであることが望ましい。
上記の本発明にかかる生体分子の質量分析用試料の調製方法においては、
質量分析を行う前記測定対象分子として、特定のタンパク質分子を選択する際、
該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する形態を選択することができる。この「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する形態では、
前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、前記抗体分子を構成する重鎖と軽鎖との鎖間を連結するCys−Cysのジスルフィド結合を還元し、該重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することが可能な還元剤を選択し、該抗体分子の重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することで、該抗体分子の有する前記測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を喪失させる態様を選択することが好ましい。なお、前記抗体分子を構成する重鎖と軽鎖との鎖間を連結するCys−Cysのジスルフィド結合を還元し、該重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することが可能な還元剤を用いる態様では、前記溶出液中に含有される該還元剤の濃度は、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択することが望ましい。
また、質量分析を行う前記測定対象分子として、特定のタンパク質分子を選択する際、
該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する形態を選択することができる。この「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する形態では、
前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、前記核酸アプタマー分子を構成する一本鎖核酸の開裂を行う核酸分解酵素タンパク質を選択し、前記核酸分解酵素の作用により、前記一本鎖核酸の開裂を行って、該核酸アプタマー分子の立体構造に起因する、前記測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を喪失させる態様を選択することが好ましい。
一方、質量分析を行う前記測定対象分子として、特定の糖鎖修飾タンパク質分子を選択する際には、
該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、前記修飾糖鎖部分との結合を介して、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を発揮するレクチンを利用する形態を選択することもできる。この「キャプチャー」分子として、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子が有する、前記修飾糖鎖部分に対する特異的な結合能を有するレクチンを利用する形態では、
前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、前記糖鎖修飾タンパク質分子とレクチンと複合体において、レクチンによって結合されている、前記修飾糖鎖部分の選択的な開裂を行う糖分解酵素タンパク質を選択し、前記糖分解酵素の作用により、前記糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂を行って、該修飾糖鎖部分との結合を介する、レクチンの前記測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を喪失させる態様を選択することが好ましい。
また、本発明にかかる生体分子の質量分析用試料の調製方法においては、
前記等電点電気泳動分離する工程では、
離脱された該測定対象分子が回収されている回収液と、等電点電気泳動緩衝液とを、所定の混合比率で予め混合した混合液を調製し、
泳動流路として利用する、前記マイクロチップの流路に、該混合液を導入した上で、等電点電気泳動処理を行う手法を採用することができる。
あるいは、前記等電点電気泳動分離する工程では、
離脱された該測定対象分子が回収されている回収液と、等電点電気泳動緩衝液とを、所定の液量比率で用い、
泳動流路として利用する、前記マイクロチップの流路に、先ず、所定液量の前記等電点電気泳動緩衝液を導入し、
引き続き、前記液量比率に従って選択される、前記回収液の所定液量を、泳動流路の一端から、前記マイクロチップの流路に導入した上で、等電点電気泳動処理を行う手法を採用することもできる。
本発明にかかる生体分子含有試料の分析用試料の調製方法を利用すると、予め試料液中に含まれる測定対象分子を濃縮する目的で、「キャプチャー」分子と測定対象分子とからなる複合体から、測定対象分子を離脱させ、回収する際、測定対象分子の変性を引き起こすことなく、また、測定対象分子の塩析を起こすことなく、前記離脱を行うことが可能となる。次いで、測定対象分子が濃縮されている回収液中から、マイクロチップを用いる等電点電気泳動を行う際、測定対象分子の等電点分離を阻害する成分、あるいは、分離能の低下を引き起こす成分は、回収液中に含まれないものとできる。加えて、マイクロチップを用いる等電点電気泳動を行った後、分離される測定対象分子を、質量分析用の試料に調製した場合、調製された質量分析用の試料中への、該測定対象分子の質量分析の測定感度を低下させる夾雑物(電解質成分)の混入を抑制することができ、微量の測定対象分子に関して、高い定量性、高い測定感度を有する質量分析を実施することを可能とする。
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明の分析用試料の調製方法は、生体分子を含有している試料液(一次試料)に含まれている、特定の生体分子について、質量分析法を適用して、分析を行うため、該質量分析に適する形態の分析用試料(最終試料)に調製する手法に相当する。特に、生体分子を含有している試料液(一次試料)中における、測定対象分子の含有濃度が低く、そのまま、質量分析に適する形態の分析用試料を調製するに十分な含有濃度に満たない際に、一旦、試料液(一次試料)中に含まれる測定対象分子を濃縮(分離)した上で、質量分析に適する形態の分析用試料(最終試料)に調製する手法に相当している。
また、本発明の分析用試料の調製方法は、予め、試料液(一次試料)中に含まれる測定対象分子を濃縮(分離)して、測定対象分子の含有濃度が高められた二次試料液を採取し、この二次試料液中に含有される測定対象分子を、等電点電気泳動法を適用して、単一のスポットとして、分離し、この単一のスポットとして、分離された測定対象分子を用いて、質量分析に適する形態の分析用試料(最終試料)に調製する際に、好適な手段である。
測定対象分子を、等電点電気泳動法を適用して、単一のスポットとして、分離する点から、本発明の方法は、該測定対象分子は、等電点電気泳動を施した際、単一のスポットを形成可能な生体分子に限定されている。具体的には、「等電点」を示す生体分子が対象となり、主に、タンパク質分子、修飾を有するタンパク質分子、およびペプチドのいずれかを対象とする。
種々の生体分子のうちでも、等電点電気泳動法を適用して、単一のスポットとして分離する手段の適用に適するものは、タンパク質分子である。すなわち、本発明の分析用試料の調製方法は、生体分子を含有している試料液(一次試料)に含まれている、タンパク質分子について、質量分析法を適用して、分析を行う際に、好適に利用可能な方法である。
本発明においては、生体分子を含有している試料液(一次試料)中に含有されている、測定対象分子を濃縮(分離)して、測定対象分子の含有濃度が高められた二次試料液を採取する際、該測定対象分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子を利用している。具体的に、該測定対象分子を、「キャプチャー」分子に結合させることで複合体を形成し、この複合体は、該複合体中の「キャプチャー」分子と固相基材粒子表面との結合を介して、該固相基材粒子表面に固定化された状態とする。すなわち、生体分子を含有している試料液(一次試料)中において、該測定対象分子を「キャプチャー」分子と結合させ、複合体を形成する反応を行わせ、また、形成された複合体は、固相基材粒子の表面に「キャプチャー」分子と固相基材粒子表面との結合を介して、固定化されている状態とする。この固相基材粒子は、液中に均一に分散されているが、固/液相分離処理を施すと、その表面に前記複合体が固定化された状態で、試料液から分離、採取することができる。
この複合体形成と、該複合体の固相基材粒子表面への固定化は、生体分子を含有している試料液(一次試料)中に、「キャプチャー」分子と、固相基材粒子を添加して、二つの反応を併行して行わせる形態とすることができる。あるいは、予め、固相基材粒子の表面に「キャプチャー」分子を固定化した上で、この「キャプチャー」分子を固定化した固相基材粒子を、生体分子を含有している試料液(一次試料)中に添加して、「キャプチャー」分子と該測定対象分子との複合体形成を行わせる形態とすることもできる。
いずれの形態でも、「キャプチャー」分子と該測定対象分子との複合体形成によって、生体分子を含有している試料液(一次試料)中に含有される測定対象分子の殆ど全ては、複合体を形成することが好ましい。その際、該測定対象分子と「キャプチャー」分子とから、複合体(測定対象分子:「キャプチャー」)が形成される際、
系内に存在する測定対象分子の濃度:[測定対象分子]、「キャプチャー」分子の実効的濃度:[「キャプチャー」]、複合体の実効的濃度:[複合体]は、
結合過程:結合反応の速度定数ka
(測定対象分子)+(「キャプチャー」) → (測定対象分子:「キャプチャー」)
解離過程:解離反応の速度定数kd
(測定対象分子)+(「キャプチャー」) ← (測定対象分子:「キャプチャー」)
最終的には、前記の二つの過程が平衡した状態となっており、
d[複合体]/dt=ka[測定対象分子]×[「キャプチャー」]−kd[複合体]
=0
で表記可能な解離平衡状態となっており、その解離平衡定数Kdis.により支配されている。すなわち、下記の式で表記される、平衡濃度となる。
dis.={[測定対象分子]eq×[「キャプチャー」]eq}/[複合体]eq
=kd/ka
最終的に、[測定対象分子]eq/[複合体]eqの比率は、少なくとも、1/100以下となるように、用いている「キャプチャー」分子の種類に依存する解離平衡定数Kdis.に応じて、「キャプチャー」分子の添加濃度:{[「キャプチャー」]eq+[複合体]eq}を選択することが好ましい。
勿論、前記解離平衡定数Kdis.が小さな、「キャプチャー」分子を選択することが必要であり、通常、前記解離平衡定数Kdis.は、Kdis.≦1×10-6(M)、すなわち、Kdis.≦1(μM)となる、測定対象分子に対して、特異的で且つ高い結合能を示す「キャプチャー」分子を利用することが好ましい。
また、固相基材粒子の表面への「キャプチャー」分子の結合を介した、複合体の固定化は、固相基材粒子の表面への「キャプチャー」分子の結合により、「キャプチャー」分子の測定対象分子に対する結合能が影響を受けない形態であることが好ましい。加えて、固相基材粒子の表面への「キャプチャー」分子の結合過程に関しても、この固定化過程の解離平衡定数Kdis.(solidification)は、十分に小さいことが必要である。固相基材粒子表面への「キャプチャー」分子固定化では、Kdis.(solidification)≦100×10-9(M)、すなわち、Kdis.(solidification)≦100(nM)であることが好ましい。例えば、固相基材粒子表面への「キャプチャー」分子の固定化は、共有結合的になされていると、解離は行われないので、より好ましいものである。
固相基材粒子表面への複合体の固定化後、固/液相分離処理を行う際、試料液(一次試料)が僅かに残余しているため、洗浄液として、緩衝液を用いて、洗浄処理を施す。この洗浄処理の間には、固相基材粒子の表面に固定化されている複合体自体の解離は進まないとしても、複合体を形成している、測定対象分子と「キャプチャー」分子との間での解離は極僅か進行する。この洗浄処理の間、前記の解離過程により、遊離される測定対象分子の量と、複合体を形成した状態に保持されている測定対象分子の量との比率は、少なくとも、1/100以下となることが好ましい。洗浄処理の間、洗浄液として用いる緩衝液と接する時間の総和をΔtwashingとすると、その間に遊離する測定対象分子の量、すなわち、解離を受ける複合体の量:Δ[複合体]は、
Δ[複合体]≒kd[複合体]eq×Δtwashing
と近似的に表記でき、従って、洗浄により溶出される比率は、下記のように近似できる。
Δ[複合体]/[複合体]eq≒kd×Δtwashing
洗浄により溶出される比率を、少なくとも、1/100以下とする上では、
kd×Δtwashing≦1/100
Δtwashing≦(1/100)×(1/kd)
を満たすように、「キャプチャー」分子の種類に依存する解離反応の速度定数kdに応じて、洗浄処理において、緩衝液と接する時間の総和:Δtwashingを選択することが好ましい。通常、洗浄処理において、緩衝液と接する時間の総和:Δtwashingは、少なくとも、500秒間以上、2000秒間以下の範囲に選択する場合も、洗浄により溶出される比率を、少なくとも、1/100以下とするためには、解離反応の速度定数kdが、
kd≦(1/100)×(1/Δtwashing) (s-1
kd≦5×10-6 (s-1
を満たすことがより好ましい。すなわち、測定対象分子に対して、特異的で、かつ高い結合能を有し、その際、形成される結合は強固である「キャプチャー」分子、具体的には、前記解離平衡定数Kdis.は、Kdis.≦1(μM)であり、
その際、解離反応の速度定数kdは、kd≦5×10-6 (s-1)であるものを用いることがより好ましい。
次に、固/液相分離処理、緩衝液を利用する洗浄処理を終えた後、分取された固相基材粒子の表面に固定化されている、複合体から、測定対象分子を離脱させ、回収する。この離脱、回収工程では、本発明では、複合体から測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液を用いて、「キャプチャー」分子との結合を解消して、測定対象分子を離脱させる。その際、複合体から測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液の液量は、当初の試料液(一次試料)の液量より、有意に少なく量とすることで、該溶出液中に回収される測定対象分子の含有濃度は、当初の試料液(一次試料)中における含有濃度よりも、有意に高くなる。すなわち、当初の試料液(一次試料)中に含有される測定対象分子を選択的に濃縮、分離した二次試料液とすることができる。
本発明では、この複合体から測定対象分子を離脱させる試薬成分として、「キャプチャー」分子の有する、測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分を利用している。また、複合体から離脱される測定対象分子を、溶出液中に溶解させるため、この溶出液は、緩衝液成分を含んだものとしている。
具体的には、用いる溶出液は、「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分と、離脱される測定対象分子を溶解させる緩衝液成分のみを含んでいる液とされる。加えて、試薬成分と緩衝液成分とは、いずれも、離脱される該測定対象分子を変性させる作用を有していない物質であり、溶出液中に含まれる緩衝液成分は、液のpHを所定値に維持する機能を有する電解質物質の組成を有し、電解質物質の組成に由来する該溶出液中のイオン強度は、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択されている。なお、該溶出液中のイオン強度は、各イオン種のモル濃度ciとその電荷数Ziにより、(1/2)ΣZi2×ci (mol/dm-3)で定義される。
なお、前記試薬成分と緩衝液成分とは、いずれも、離脱される該測定対象分子が示す前記等電点電気泳動における分離特性を本質的に損なう作用を有していない物質が用いられる。すなわち、次の過程で、測定対象分子は、等電点電気泳動により、単一のスポットとして分離する必要があり、この単一スポットとして分離される特性を損なう作用を有するものは、利用できない。
加えて、前記試薬成分には、離脱される該測定対象分子に対して、結合能を示さない物質を利用する。最終的に、測定対象分子は質量分析を行うため、該測定対象分子が単独で存在する状態で、等電点電気泳動により分離される状態とする。例えば、該測定対象分子に対して、結合能を示す物質と複合体を形成している状態では、質量分析を行った際、該測定対象分子自体に由来するイオン種、前記複合体に由来するイオン種の双方が生成される。その際、質量分析スペクトルの解析を行う過程で、それぞれのイオン種の生成効率を考慮する必要が生じる。この解析上の煩雑さを回避する観点から、前記試薬成分には、離脱される該測定対象分子に対して、結合能を示さない物質を利用する形態を選択する。
この溶出液中に含まれる緩衝液成分は、液のpHを、測定対象分子が、変性を起こさず、本来の立体構造を維持する状態で溶解することが可能なpH範囲になるように選択される。勿論、緩衝液成分自体は、液のpHを、前記の所定のpH範囲から選択される所定のpH値に維持することが可能な組成とされる。特定のpH値に維持可能な緩衝液成分の組成は、種々存在するが、本発明では、この緩衝液成分の組成を構成する電解質物質に起因するイオン種の総量に関して、イオン強度として、0.01M以上、0.1M以下の範囲になるものを選択している。すなわち、測定対象分子がタンパク質分子である場合、その水溶液中に共存している電解質物質に由来するイオン濃度が必要以上に増すと、所謂、「塩析効果」が起こり、溶解度が減少し、析出を起こす。この「塩析効果」に起因する析出が生じることを回避するため、イオン強度として、0.01M以上、0.1M以下の範囲になるものを選択している。
一方、タンパク質分子は、電解質濃度が低い領域では、電解質濃度を増すと、その溶解度が増す「塩溶効果」が起こる。本発明では、測定対象分子がタンパク質分子である場合、溶出液中に高い含有濃度で溶解させるため、イオン強度として、0.01M以上、0.1M以下の範囲のうち、前記の「塩溶効果」が発揮されるイオン強度の範囲に選択することがより好ましい。すなわち、その水溶液中に共存している電解質物質に由来するイオン強度を、0.02M以上、0.1M以下の範囲に選択することがより好ましい。
複合体から測定対象分子を離脱させる試薬成分は、測定対象分子に作用して、変性させる機能はないが、「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分が利用される。
「キャプチャー」分子の有する、測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる手段として、
(a)「キャプチャー」分子の構造を変化させ、その結合能を喪失させる手法;
(b)「キャプチャー」分子自体を部分的に分解して、その結合能を喪失させる手法;
(c)「キャプチャー」分子と測定対象分子との結合は、該測定対象分子に修飾付加された部位を介している際には、この修飾付加された部位を分解して、実効的に結合能を喪失させる手法が、利用可能である。
具体的には、溶出液中には、勿論、当初測定対象分子は含まれていないため、固相基材粒子の表面に固定化されている複合体に該溶出液を接触させると、上述する解離過程によって、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子と、遊離された測定対象分子が系内に生成される。単位時間Δt1の間に生成される固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子の量:Δ[「キャプチャー」](Δt1)は、下記のように近似的に表記できる。
Δ[「キャプチャー」](Δt1)≒kd[複合体]×Δt1
この生成された固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子に、「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分を作用させると、例えば、
(a)「キャプチャー」分子の構造を変化させ、その結合能を喪失させる手法;
(b)「キャプチャー」分子自体を部分的に分解して、その結合能を喪失させる手法;
においては、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子自体が、速やかに変化して、「結合能の損なわれたキャプチャー」分子に変質する。
その結果、溶出液中には、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子が実施的に存在しない状態となる。従って、再び、次の単位時間Δtの間に、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子と、遊離された測定対象分子が系内に生成される。次の単位時間Δt2の間に、生成される固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子の量:Δ[「キャプチャー」](Δt2)も、速やかに「結合能の損なわれたキャプチャー」分子に変質する。
この二つの素過程が繰り返される結果、最終的には、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子は、全て変質され、「結合能の損なわれたキャプチャー」分子が固相基材粒子の表面に固定化されている状態となる。この「結合能の損なわれたキャプチャー」分子は、測定対象分子に対する結合能を持たないので、溶出液中には、遊離された測定対象分子が蓄積される。
上述する機構により、溶出液中には、遊離された測定対象分子が蓄積される場合、溶出されていない複合体の実効的濃度は、近似的に、前記解離反応の速度定数kdに相当する「速度定数」で減少すると想定される。従って、溶出処理を行う時間は、少なくとも、4×(1/kd)程度に選択することが望ましい。
一方、上述する解離過程によって、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子と、遊離された測定対象分子が系内に生成される。単位時間Δt1の間に生成される「遊離された測定対象分子」の量:Δ[測定対象分子](Δt1)は、下記のように近似的に表記できる。
Δ[測定対象分子](Δt1)≒kd[複合体]×Δt1
その際、(c)「キャプチャー」分子と測定対象分子との結合は、該測定対象分子に修飾付加された部位を介している際には、この修飾付加された部位を分解して、実効的に結合能を喪失させる手法においては、遊離された測定対象分子に修飾付加されている部位が、速やかに分解除去され、「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」に変換される。
その結果、溶出液中には、「修飾付加部位を保持している測定対象分子」が実施的に存在しない状態となる。従って、再び、次の単位時間Δtの間に、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている「キャプチャー」分子と、遊離された測定対象分子が系内に生成される。次の単位時間Δt2の間に、生成される「遊離された測定対象分子」の量:Δ[測定対象分子](Δt2)も、速やかに「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」に変換される。
この二つの素過程が繰り返される結果、最終的には、「修飾付加部位を保持している測定対象分子」は、全て、「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」に変換された状態となる。この「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」に対しては、「キャプチャー」分子は結合能を持たないので、溶出液中には、遊離状態の「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」が蓄積される。
上述する機構により、溶出液中には、遊離された測定対象分子が蓄積される場合、溶出されていない複合体の実効的濃度は、近似的に、前記解離反応の速度定数kdに相当する「速度定数」で減少すると想定される。従って、溶出処理を行う時間は、少なくとも、4×(1/kd)程度に選択することが望ましい。
上記の(a)〜(c)の手法を用いた際、溶出液中に蓄積される、遊離状態の測定対象分子、「修飾付加部位を欠失した測定対象分子」は、変性を受けていないため、次のマイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理を施した際、それぞれ単一のスポットとして、分離される。マイクロチップの流路上に、測定対象分子は、単一のスポットとして、等電点電気泳動分離されているので、この単一のスポットとして、等電点電気泳動分離されている該測定対象分子を凍結乾燥し、マイクロチップの流路上において不動化することができる。この凍結乾燥処理された、単一のスポットに分離されている該測定対象分子は、例えば、バイオチップ流路全体に、MALDI−TOF MS型質量分析用のマトリクス溶液(例えば、シナピン酸を30%アセトニトリル/0.3%トリフルオロ酢酸に溶解した物)を噴霧した後、再度乾燥する。この再度乾燥を行った、マイクロチップの流路上において、前記の単一スポット部分は、該測定対象分子がマトリクス材料中に分散された状態の質量分析用試料に調製されている。
本発明にかかる生体分子の質量分析用試料の調製方法においては、
質量分析を行う測定対象分子が、タンパク質分子である場合には、この測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する形態を選択することができる。
この「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する場合、(a)「キャプチャー」分子の構造を変化させ、その結合能を喪失させる手法として、還元剤を好適に利用することができる。
抗体分子は、重鎖と軽鎖が、鎖間において、Cys−Cysのジスルフィド結合により連結され、また、二つ重鎖の間も、鎖間において、Cys−Cysのジスルフィド結合により連結され、(Fab)2型のイムノグロブリン分子を構成している。抗原であるタンパク質分子と、抗体分子との抗原−抗体反応では、Cys−Cysのジスルフィド結合により連結されている、「重鎖の可変領域」と「軽鎖の可変領域」が、タンパク質分子上のエプトープとの結合に関与している。そのため、重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合を開裂させ、軽鎖部分が失われると、抗原であるタンパク質分子に対する反応性が喪失される。
この重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合を開裂させる手段は、ジスルフィド結合を還元する手法が好適に利用される。このCys−Cysのジスルフィド結合を還元する際、還元剤としては、汎用のチオール型還元剤、例えば、ジチオスレイトール(DTT:threo−1,4−dimercapto−2,3−butanediol;threo−1,4−disulfanyl−2,3−butanediol)や2−メルカプトエタノール(2−sulfanylethanol:HS−CH2−CH2−OH)を利用することが好ましい。特に、前記の汎用のチオール型還元剤のうちでも、DTTや2−メルカプトエタノールは、タンパク質分子のペプチド鎖間に形成されている、Cys−Cysのジスルフィド結合を還元する際、有効である。加えて、汎用のチオール型還元剤、例えば、DTTや2−メルカプトエタノールは、タンパク質分子のペプチド鎖内に形成されている、Cys−Cysのジスルフィド結合を還元する際にも、有効な還元剤である。
抗体分子の重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合の還元は、上述するように、溶出液中において、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている抗体分子において、チオール型還元剤の作用によって進行する。そのほか、抗原のタンパク質分子と結合し、複合体を形成している抗体分子においても、チオール型還元剤の作用によって、重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合の還元は進行可能である。
通常、これら汎用のチオール型還元剤の添加濃度を、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択すると、固相基材粒子の表面に固定化されている抗体分子自体、ならびに、抗原のタンパク質分子と結合し、複合体を形成している抗体分子のいずれの形態であっても、該抗体分子の重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合を確実に還元可能な条件となる。
該抗体分子の重鎖と軽鎖とを連結しているCys−Cysのジスルフィド結合の開裂がなされると、抗原タンパク質との結合能が損なわれ、その結果として、抗原タンパク質の離脱が加速度的に促進される。後述するように、抗体分子は、固相基材粒子の表面にその重鎖のC末部分を利用して固定化されており、最終的に、固相基材粒子の表面には、軽鎖を失った、抗体分子由来の重鎖のみが固定された状態となる。
一方、測定対象のタンパク質分子が、その分子内にCys−Cysのジスルフィド結合を有する場合、前述する汎用のチオール型還元剤の添加濃度は、一般的に該タンパク質分子内のCys−Cysのジスルフィド結合を還元することが可能な範囲となっている。従って、測定対象のタンパク質分子が、その分子内にCys−Cysのジスルフィド結合を有する場合、溶出液中には、その分子内に含まれるCys−Cysのジスルフィド結合が還元を受け、本来の三次元構造を失ったペプチド鎖の形態となったものが溶存している。また、溶出液中には、抗体分子由来の軽鎖ペプチドも高い濃度で溶存している状態となる。
例えば、抗体分子を5μg使用し、固相基材粒子のアガロースビーズ表面への結合能を80%と見積もると、固相基材粒子の表面に固定化されている抗体分子の量は、27pmol(4μg/150000)と見積もられる。溶出過程では、固相基材粒子の表面に固定化されている抗体分子の全てに、チオール型還元剤を用いて、還元処理を施す必要がある。一方、濃度10mM DTTを含む溶出液20μl中には、200nmolのDTTが含まれている。また、抗体分子中には、合計16個のS−S結合が存在しているので、S−S結合:DTTのモル比は、約1:460となる。すなわち、S−S結合の還元によって、極一部のチオール型還元剤DTTは、消費されるが、溶出液中に残余しているチオール型還元剤DTTの濃度は、実質的な減少が無いと見做せる。換言するならば、溶出液中には、再酸化に起因する、S−S結合の再生を回避するに十分なチオール型還元剤DTTの濃度に保持されている。
すなわち、溶出液中に添加するチオール型還元剤の濃度は、抗体分子のS−S結合を還元するためには、濃度10mMでも、十分ではあるが、同時に、測定対象のタンパク質分子中に存在するS−S結合をも還元するためには、チオール型還元剤の濃度を10mM以上とすることが好ましい。但し、チオール型還元剤の濃度を不必要に高くすることは不要であり、高くとも、チオール型還元剤の濃度を100mM以下とする。
溶出液中に回収される、測定対象のタンパク質分子がCys残基を有する場合には、共存している抗体分子由来の軽鎖ペプチドのCys残基との間で、再酸化によって、Cys−Cys結合が形成されると、測定対象のタンパク質分子と抗体分子由来の軽鎖ペプチドとが鎖間のS−S結合により連結されたものとなる。通常、溶出液中に回収される、測定対象のタンパク質分子は、引き続き、マイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理を施される。このマイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理は、キャピラリーを利用する等電点電気泳動処理に相当しており、後述するように、泳動時間を2分間以上、10分間以下の範囲に選択しても、目的とする測定対象のタンパク質分子を単一のスポットとして分離できる。一方、ゲル上を泳動させる、従来の等電点電気泳動処理に要する泳動時間は、少なくとも、2時間以上、通常、3時間〜12時間の範囲となる。
従って、溶出液中に回収後、マイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理を終え、測定対象のタンパク質分子と抗体分子由来の軽鎖ペプチドとを分離するまでに要する時間は、少なくとも、10分間以内となっているので、その間に、再酸化によって、Cys−Cys結合が形成され、測定対象のタンパク質分子と抗体分子由来の軽鎖ペプチドとが鎖間のS−S結合により連結されたヘテロな分子種が生成される頻度は低い。但し、再酸化過程に起因する、測定対象のタンパク質分子と抗体分子由来の軽鎖ペプチドとが鎖間のS−S結合により連結されたヘテロな分子種の生成、あるいは、測定対象のタンパク質分子に由来するペプチド鎖中に存在する複数のCys残基間における誤ったCys−Cys結合の形成を排除することが必要な場合もある。
一般に、再酸化過程に起因する、Cys−Cys結合の形成を排除する手段としては、Cys残基側鎖のスルファニル基(−SH)に対して、S−アルキル化処理を施す手法が広く利用されている。例えば、S−アルキル化処理として、ヨードアセトアミド(IAA;I−CH2−CONH2:分子量185)を作用させ、−S−CH2−CONH2の形態に変換する手法が利用できる。このS−アルキル化処理では、例えば、回収された溶出液中に、ヨードアセトアミドを最終濃度20〜25mMとなるように添加する。具体的には、回収された溶出液に対して、250mMのIAA溶液を1/10量加え、室温で15分間〜30分間反応させる。この処理によって、Cys残基側鎖のスルファニル基(−SH)は、全て、−S−CH2−CONH2に変換される。その後、等電点電気泳動処理を施す際、酸あるいは塩基を接触させても、この−S−CH2−CONH2の解離、分解は起こらない。すなわち、測定対象のタンパク質分子に由来するペプチド鎖は、そのCys残基が修飾を受けた状態で、等電点電気泳動処理を施され、単一のスポットとして、分離される。
なお、固相基材粒子の表面への抗体分子の固定化は、重鎖のC末部分で構成されている定常領域部分において行うことができる。例えば、固相基材粒子として、抗体分子の固定化に適する、ポリアクリルアミドーアガロースなどのビーズ状粒子を利用することが好ましい。これら汎用のビーズ状粒子表面に、予め抗体分子を固定化する形態を採用する場合には、グルタルアルデヒドなどを利用して、粒子表面に活性化処理を施し、重鎖のC末部分を共有結合的に固定化する方法を利用することができる。
一方、試料液中に、抗体分子と、固相基材粒子とを添加し、タンパク質分子との抗原−抗体反応と、固相基材粒子の表面に該抗体の重鎖のC末部分で構成されている定常領域部分による固定化を併行して行うこともできる。この形態では、抗原のタンパク質分子の固定化は実質的に起こらず、抗体分子が選択的に固定化可能な固相基材粒子を利用する。この用途に適する固相基材粒子として、プロテインA−アガロースなどを挙げることができる。
該タンパク質分子に対して、特異的な反応性を有する抗体分子としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体の何れも用いることが可能である。また、該抗体分子は、固相基材粒子の表面に該抗体の重鎖のC末部分で構成されている定常領域部分による固定化を行うため、(Fab)2型のイムノグロブリン分子である必要があるが、そのタイプはいずれであっても利用可能である。通常、IgG型の抗体分子を利用することが望ましい。なお、対象とするタンパク質分子に特異的な反応性を有する抗体分子が複数種存在する場合、反応性がより高いものを使用することが一般に好ましい。
前記の測定対象のタンパク質分子を、特異的な結合能を有する抗体分子に結合させた後、チオール型還元剤を抗体分子に作用させて、測定対象のタンパク質分子を離脱、回収する方法は、分子内にCys−Cys結合を含んでいる「キャプチャー」分子を利用する系に転用することも可能である。
例えば、哺乳動物の細胞表面に表出されている各種レセプター・タンパク質は、所謂、膜タンパク質であり、そのレセプター活性に関与する「細胞外」レセプター部分は、リガンドのタンパク質分子との結合能を保持する上で、鎖内のS−S結合を有する構造を有するものが相当数報告されている。例えば、神経細胞接着分子(N−CAM:鎖内に4〜5個のS−S結合あり、N−CAM同士を認識する)、MHCタンパク質、CD4分子、CD8分子(いずれも、Igスーパーファミリーに属する膜蛋白質であり、抗体と非常に良く似た構造を有している)が知られている。これらのレセプター・タンパク質は、該レセプターに結合する、リガンド・タンパク質分子を濃縮・分離する際、「キャプチャー」分子として利用することができる。その際、溶出過程では、前記抗体分子を「キャプチャー」分子として利用する場合と同様に、チオール型還元剤を作用させ、該「細胞外」レセプター部分に存在する鎖内のS−S結合を還元し、リガンド・タンパク質分子に対する結合能を喪失させる手法が利用できる。
また、質量分析を行う測定対象分子が、タンパク質分子である場合には、この測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する形態を選択することができる。この「キャプチャー」分子として、利用される核酸アプタマー分子には、RNA鎖で構成されるRNAアプタマー分子と、DNA鎖で構成されるDNAアプタマー分子が含まれる。いずれも、核酸鎖が三次元的な構造を形成した上で、対象のタンパク質分子に対する特異的な結合しており、その三次元的な構造が損なわれると、結合能を喪失する。
この特徴を利用して、(b)「キャプチャー」分子自体を部分的に分解して、その結合能を喪失させる手法を応用して、核酸鎖が形成している三次元的な構造を損なう手段として、該核酸アプタマー分子を構成する一本鎖核酸の開裂を行う核酸分解酵素タンパク質を利用することができる。上で説明したように、溶出液を用いて、測定対象のタンパク質分子を回収する際には、対象のタンパク質分子と該核酸アプタマー分子とで構成される複合体の一部が、解離した際、生成する固相基材粒子の表面に固定化されている核酸アプタマー分子に核酸分解酵素タンパク質を作用させ、その一本鎖核酸の開裂を行う。この一本鎖核酸の開裂がなされると、本来の三次元的な構造を形成することができないため、対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能は喪失される。
RNA鎖で構成されるRNAアプタマー分子を構成する、RNA鎖の開裂に利用できるRNA分解酵素タンパク質としては、大腸菌由来のRNaseI、ウシ膵臓由来のRibonuclease Aなどを挙げることができる。また、DNA鎖で構成されるDNAアプタマー分子を構成する、DNA鎖の開裂に利用できるDNA分解酵素タンパク質としては、例えば、ウシ膵臓由来のDeoxyribonuclease I、ブタ脾臓由来のDeoxyribonuclease IIなどを挙げることができる。
この「キャプチャー」分子として、測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する形態では、固相基材粒子として、核酸アプタマー分子の固定化に適する、セファロース CL−2B(Sepharose CL−2B)などのビーズ状粒子を利用することが好ましい。これらビーズ状の固相基材粒子表面に、予め核酸アプタマー分子を固定化した上で、測定対象のタンパク質分子と複合体を形成させる形態を採用することが好ましい。その際、ブロモシアン(CNBr)などを利用して、粒子表面に活性化部位を導入する処理を施し、核酸アプタマー分子を構成する核酸鎖の末端を共有結合的に固定化する方法を利用することができる。なお、この共有結合的に固定化する際には、その固定化に関与する核酸アプタマー分子を構成する核酸鎖の末端、例えば、DNA鎖の3’末端に対して、ポリA(poly−dA)など、RNA鎖の3末端に対して、ポリU(poly−dU)などを利用して、リンカーを付加した上で、このリンカーを介して、固定化を行うことが望ましい。すなわち、かかるリンカーの利用によって、核酸アプタマー分子の有する三次元的構造を利用する、対象のタンパク質分子との複合体形成の過程において、固相基材粒子表面に対する、対象のタンパク質分子の非選択的な相互作用(あるいは、立体的障害)の影響を排除することが可能となる。
なお、タンパク質分子に対して、特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子の例として、標的タンパク質Tat−HIVと結合する、塩基配列:5’ACGAAGCUUGAUCCCGUUUGCCGGUCGAUCGCUUCGA3’(配列番号:1)のRNAアプタマー分子(Kdis.=0.12nM)、標的タンパク質コートプロテインPP7(PP7 coat protein)と結合する、塩基配列:5’CCAGUAGAGCGAAUAUGUGCCUCUACAUGG3’ (配列番号:2)のRNAアプタマー分子(Kdis.=25nM)など、さらには、標的タンパク質バソプレシン(vasopressin)と結合する、塩基配列:5’TCACGTGCATGATAGACGGCGAAGCCGTCGAGTTGCTGTGTGCCGATGCACGTGA3’(配列番号:3)のDNAアプタマー分子などを挙げることができる。これら核酸アプタマー分子の核酸鎖の末端に、ポリA(poly−dA)などのリンカーを付加する際には、その核酸鎖を化学的に合成する際、前記リンカー部分を導入することが可能である。
また、核酸分解酵素タンパク質による、核酸アプタマー分子の核酸鎖の開裂は、上述するように、溶出液中において、複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている核酸アプタマー分子において進行する。その他、核酸アプタマー分子に作用させる核酸分解酵素として、ウシ膵臓由来のRibonuclease Aを利用すると、RNAアプタマー分子が対象のタンパク質分子の表面に結合して、複合体を形成している状態でも、そのRNA鎖の開裂を行うこともできる。また、核酸分解酵素として、ウシ脾臓由来のDeoxyribonuclease Iを利用すると、DNAアプタマー分子が対象のタンパク質分子の表面に結合して、複合体を形成している状態でも、そのDNA鎖の開裂を行うこともできる。
なお、核酸分解酵素タンパク質による、核酸アプタマー分子の核酸鎖の開裂反応自体は、核酸分解酵素タンパク質の酵素活性部位に核酸鎖が結合して進行するため、その反応速度は、酵素反応の速度定数kcatに加えて、該基質である核酸鎖のミカエリス定数Km、あるいは、酵素反応が二段階機構で近似される際には、基質定数Ksに依存する。複合体の一部は解離され、固相基材粒子の表面に固定化されている核酸アプタマー分子に、核酸分解酵素タンパク質を作用させる際には、用いる核酸分解酵素タンパク質に対する基質である核酸鎖のミカエリス定数Kmが、Km≦10×10-3 (M)を満たすものを用いることが望ましい。また、核酸アプタマー分子が対象のタンパク質分子の表面に結合して、複合体を形成している状態に、核酸分解酵素タンパク質を作用させる際でも、用いる核酸分解酵素タンパク質に対する基質である核酸鎖のミカエリス定数Kmが、Km≦10×10-3 (M)を満たすものを用いることが望ましい。溶出液中に添加する核酸分解酵素タンパク質の濃度は、該核酸分解酵素タンパク質の酵素活性を考慮して、適宜選択すべきものであるが、通常、0.1mM〜10mMの範囲に選択することが望ましい。
さらには、核酸分解酵素タンパク質の酵素活性は、pH依存性を示すこともあり、溶出液のpHは、該核酸分解酵素タンパク質の至適pHを考慮した上で選択することが好ましい。通常、溶出液のpHは、5〜8の範囲に選択することが好ましい。
一方、タンパク質を構成するペプチド鎖に、糖が共有結合したものは、広義に「糖タンパク質」と総称されるが、狭義の「糖タンパク質」は、糖部分が単糖15〜20残基までからなるオリゴ糖のものを意味する。この狭義の「糖タンパク質」が有する糖鎖部分は、直鎖状、あるいは、分枝状のものが知られている。質量分析を行う測定対象分子が、かかる狭義の「糖タンパク質」、糖鎖修飾タンパク質分子である形態の一例を以下に示す。
質量分析を行う前記測定対象分子が、糖鎖修飾タンパク質分子である際には、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、前記修飾糖鎖部分との結合を介して、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を発揮するレクチンを利用する形態を選択することもできる。この「キャプチャー」分子として、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子が有する、前記修飾糖鎖部分に対する特異的な結合能を有するレクチンを利用する形態では、上述の(c)「キャプチャー」分子と測定対象分子との結合は、該測定対象分子に修飾付加された部位を介している際には、この修飾付加された部位を分解して、実効的に結合能を喪失させる手法を応用することが好ましい。すなわち、前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、前記糖鎖修飾タンパク質分子とレクチンと複合体において、レクチンによって結合されている、前記修飾糖鎖部分の選択的な開裂を行う糖分解酵素タンパク質を選択することが好ましい。糖分解酵素の作用により、糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂を行って、該修飾糖鎖部分との結合を介する、レクチンの前記測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を喪失させることができる。
上で説明したように、溶出液を用いて、測定対象のタンパク質分子を回収する際には、対象の糖鎖修飾タンパク質分子とレクチンとで構成される複合体の一部が、解離した際、遊離された糖鎖修飾タンパク質分子に、その修飾糖鎖部分を開裂することが可能な糖分解酵素を作用させ、その糖鎖の開裂を行う。この糖鎖の開裂がなされると、該修飾糖鎖部分との結合を介する、レクチンの前記測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能は喪失される。
例えば、糖鎖修飾タンパク質分子に対する「キャプチャー」分子として、利用可能なレクチンタンパク質とそれが結合する糖鎖の例として、結合能の指標:konが、400/s〜800/sである、L−selectinによるβ2−integrinの結合(Taylor A.D., Neelamegham S., Hellums J.D., Smith C.W., Simon S.I., “Molecular dynamics of the transition from L-selectin- to β2-integrin- dependent neutrophil adhesion under defined hydrodynamic shear”, Biophysical Journal Vol.71 pp.3488-3500 (1996) を参照)、sialinによるシアル酸の結合(Kdis.≒1.5mM)(Morin P., Sagne C., Gasnier B., “Functional characterization of wild-type and mutant human sialin” EMBO Journal 23, 4560-4570 (2004) を参照)を挙げることができる。なお、糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分を開裂する結果、溶出液中には、前記の解離反応の速度定数kdに相当する速度定数で、修飾糖鎖部分が酵素的に分解を受けた反応生成物(対象タンパク質)の蓄積が進行する。
糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂に利用できる糖分解酵素タンパク質としては、糖鎖の構成糖:シアル酸に対する分解能を有する、ビブリオコレラ(Vibrio cholerae)由来のシアリダーゼ(ノイラミダーゼ)、あるいは、糖鎖の構成糖:D−ガラクトース(α−D−ガラクトラピノース)に対する分解能を有する、カビ(Dectylium dendroides)由来のガラクトースオキシダーゼなどを挙げることができる。
糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分に対する特異的な結合能を有するレクチンとしては、糖鎖の構成糖:シアル酸に特異的な結合能を有する、カブトガニ(Carcinoscorpiusrotunda cauda)由来のシアル酸結合レクチン、あるいは、糖鎖の構成糖:L−フコースに特異的な結合能を有する、ミヤコグサ(Lotus tetragonolobus)由来のL−フコース結合性レクチンなどを挙げることができる。一方、これらレクチンと糖鎖部分の結合を介して、複合体形成可能な糖鎖修飾タンパク質分子としては、主にD−マンノースとN−アセチル−D−ガラクトサミンを構成糖として含む糖鎖修飾を有する、ニワトリ卵白由来のオボアルブミン、あるいは、フコースを構成糖として含む糖鎖修飾を有する、ラット胃由来のムチンなどを挙げることができる。
この「キャプチャー」分子として、糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分に対する特異的な結合能を有するレクチンを利用する形態では、固相基材粒子として、たんぱく質分子の固定化に適する、セファロース(Sepharose)などのビーズ状粒子を利用することが好ましい。これらビーズ状の固相基材粒子表面に、予めレクチン分子を固定化した上で、測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子と複合体を形成させる形態を採用することが好ましい。その際、タンパク質の固定化は、カップリング試薬ブロモシアン(BrCN)などを利用して、粒子表面に活性化部位を導入する処理を施し、タンパク質分子のペプチド鎖中のアミノ基部位を共有結合的に固定化する方法を利用することができる。
また、糖分解酵素タンパク質による、糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂は、上述するように、溶出液中において、複合体の一部は解離され、遊離された糖鎖修飾タンパク質分子において進行する。その他、修飾糖鎖部分の開裂を行わせる糖分解酵素タンパク質として、ビブリオコレラ(Vibrio cholerae)由来のシアリダーゼ(ノイラミダーゼ)を利用すると、対象の糖鎖修飾タンパク質分子中の当該修飾糖鎖部分がレクチンの結合部位に結合して、複合体を形成している状態でも、その修飾糖鎖部分の開裂を行うこともできる。
なお、糖分解酵素タンパク質による、糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂反応自体は、糖分解酵素タンパク質の酵素活性部位に基質の糖鎖が結合して進行するため、その反応速度は、酵素反応の速度定数kcatに加えて、該基質である糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖のミカエリス定数Km、あるいは、酵素反応が二段階機構で近似される際には、基質定数Ksに依存する。複合体の一部は解離され、遊離された糖鎖修飾タンパク質分子に、糖分解酵素タンパク質を作用させる際には、用いる糖分解酵素タンパク質に対する基質である当該糖鎖部分のミカエリス定数Kmが、Km≦10×10-3 (M)を満たすものを用いることが望ましい。また、対象の糖鎖修飾タンパク質分子中の当該修飾糖鎖部分がレクチンの結合部位に結合して、複合体を形成している状態に、糖分解酵素タンパク質を作用させる際でも、用いる糖分解酵素タンパク質に対する基質である核酸鎖のミカエリス定数Kmが、Km≦10×10-3 (M)を満たすものを用いることが望ましい。溶出液中に添加する糖分解酵素タンパク質の濃度は、該糖分解酵素タンパク質の酵素活性に依存するが、通常、0.01mM〜10mMの範囲に選択することが望ましい。
さらには、糖分解酵素タンパク質の酵素活性は、pH依存性を示すこともあり、溶出液のpHは、該糖分解酵素タンパク質の至適pHを考慮した上で選択することが好ましい。通常、溶出液のpHは、4〜8の範囲に選択することが好ましい。
上記の溶出処理によって、複合体から離脱され、溶出液中に溶出された測定対象分子は、固/液相分離によって、固相基材粒子を除去して、分取される回収液として、回収される。この回収液中には、測定対象分子に加えて、複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分、ならびに、溶出操作に付随して、副生された「キャプチャー」分子に由来する断片などが含まれている。従って、測定対象分子を他の成分と分離するため、回収液に、マイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理を施し、測定対象分子を単一のスポットとして分離する。
この等電点電気泳動処理を施した際、単一のスポットとして分離するため、溶出処理を施す際、用いる溶出液に含まれる成分として、該測定対象分子の変性を引き起こす機能を有する物質は使用していない。変性が生じないため、回収液中に濃縮されている測定対象分子は、本来の立体構造を保持し、その等電点(pI)も、該立体構造に由来する単一の値を示す。等電点電気泳動処理を施した際、単一のスポットとして分離するため、マイクロチップの流路を利用している、泳動流路中に形成されるpH勾配の範囲(上限、下限のpH値)は、該測定対象分子が本来の立体構造を保持する際に示す、その等電点(pI)をその範囲に含むように選択される。
また、この等電点電気泳動処理に利用される、等電点電気泳動緩衝液も、当然、測定対象分子の変性を引き起こすことが無い組成とされる。加えて、等電点電気泳動を行う際、測定対象分子が、その等電点(pI)に相当するpH値以外の領域において、塩析効果によって析出を起こさないように、泳動流路中の電解質濃度を選択する。具体的には、等電点電気泳動を行う際、少なくとも、利用される等電点電気泳動緩衝液中に含有される電解質物質に起因するイオン強度は、0.03M以下の範囲に選択することが好ましい。
また、本発明では、測定対象分子は、等電点電気泳動による分離が可能なものであることが必要であり、従って、本発明においては、測定対象分子は、タンパク質分子、該タンパク質分子に種々の修飾がなされている、糖鎖修飾タンパク質分子などの、各種修飾を有するタンパク質分子であると、好ましい形態である。
また、等電点電気泳動分離する工程では、等電点電気泳動用の泳動流路として利用する、マイクロチップの流路内に、離脱された該測定対象分子が回収されている回収液と、等電点電気泳動緩衝液とを、所定の混合比率で予め混合し、混合液を調製した上で導入し、等電点電気泳動処理を行う形態とすることができる。その際、回収液と等電点電気泳動緩衝液との混合比率は、回収液:緩衝液が、1:100〜1:10の範囲に選択することができる。この形態では、マイクロチップの流路内に、混合液を導入した領域に対して、その両端に、陽極液と、陰極液とをそれぞれ導入し、陽極端と陰極端の間に、平均的な電解強度が、50V/mm〜60V/mmの範囲となるように、電圧を印加して、泳動を行うことが好ましい。前記の条件において、マイクロチップの流路において、陽極端と陰極端の間の流路長は、15mm〜60mmの範囲に選択すると、印加される電圧は、750V〜3600Vの範囲とできる。
あるいは、等電点電気泳動分離する工程では、等電点電気泳動用の泳動流路として利用する、マイクロチップの流路内に、等電点電気泳動緩衝液と回収液とを予め混合ぜず、所定の液量比率で導入する形態とすることもできる。すなわち、等電点電気泳動緩衝液と回収液との液量の合計を予め決め、回収液と等電点電気泳動緩衝液との液量比率として、回収液:緩衝液を、1:1〜1:10の範囲に選択することができる。先ず、マイクロチップの流路内に、所定液量の前記等電点電気泳動緩衝液を導入し、引き続き、目的の液量比率となるように、回収液の所定液量を、泳動流路の一端から、マイクロチップの流路に導入する。この形態では、マイクロチップの流路内に、回収液/等電点電気泳動緩衝液とが導入されている領域に対して、その両端に、陽極液と、陰極液とをそれぞれ導入し、陽極端と陰極端の間に、平均的な電解強度が、50V/mm〜60V/mmの範囲となるように、電圧を印加して、泳動を行うことが好ましい。前記の条件において、マイクロチップの流路において、陽極端と陰極端の間の流路長は、15mm〜60mmの範囲に選択すると、印加される電圧は、750V〜3600Vの範囲とできる。
本発明においては、等電点電気泳動用の泳動流路として用いる、マイクロチップの流路断面形状は、幅50μm〜500μm、深さ5μm〜20μmの範囲に選択し、その上面は、蓋シールで密閉したものとすることが好ましい。従って、この泳動流路を用いた等電点電気泳動は、キャピラリー等電点電気泳動に相当するものとなる。また、泳動終了後、蓋シールを取り外し、マイクロチップの流路の上面を開放し、流路内を満たしている液試料に凍結乾燥処理を施す。凍結乾燥処理によって、マイクロチップの流路上において単一のスポットに分離されている、測定対象分子は、不動化する。従って、マイクロチップの流路内を、その流路に沿って、例えば、MALDI−TOF MS型質量分析を利用して、イオン化用のレーザー光の照射スポットを走査すると、前記単一のスポット部位で、測定対象分子に由来するイオン種のイオン強度がピークを示す。実際の測定に先立ち、マイクロチップの流路内に、マトリクス溶液(例えば、シナピン酸を30%アセトニトリル/0.3%トリフルオロ酢酸に溶解した物)を噴霧した後、再度乾燥する。この再度乾燥を行った、マイクロチップの流路上において、前記の単一スポット部分は、該測定対象分子がマトリクス材料中に分散された状態となっており、MALDI−TOF MS分析用試料に調製されている。
加えて、本発明の実施形態の一例を以下に図を参照して、説明する。
図1に、本発明の試料調製プロセスにおける各工程の目的、工程のフローを概念的に示す。本発明の試料調製プロセスを応用し、試料中に含まれる測定対象分子の質量分析を行う際、その工程のフローは、
(工程1)試料中の測定対象分子をキャプチャーに結合させる工程;
(工程2)キャプチャーから測定対象分子を遊離させ、測定対象分子を回収する工程;
(工程3)回収した測定対象分子をバイオチップによる等電点電気泳動で分離する工程;
(工程4)分離した測定対象分子を質量分析で分析する工程;
となる。
図2に、工程1において、試料中の測定対象分子を「キャプチャー」に結合させる操作により形成される複合体を、固相基材粒子上に固定化した状態を図示す。
アガロースビーズ等の固相基材粒子2−2の表面に固定化されている抗体分子2−3、核酸アプタマー分子2−4、またはレクチン2−5を、試料液中の測定対象分子2−1に作用させると、各「キャプチャー」分子が特異的な結合能を示す測定対象分子2−1が、それぞれ、「キャプチャー」分子と複合体を形成し、結果的に、固相基材粒子2−2の表面に固定化される。この液を、例えば、遠心して、固/液相分離すると、各「キャプチャー」分子との複合体形成を介して、固相基材粒子2−2の表面に固定化されている測定対象分子2−1は、固相成分として、分離される。測定対象分子以外の、試料中に含まれる他の生体分子は、固定化されていないので、固相成分(複合体が固定化されている固相基材粒子2−2)を洗浄すると、除去される。
図3に、工程2において、測定対象分子と「キャプチャー」との複合体から、測定対象分子を遊離させ、測定対象分子を回収する際に利用される機構を図示す。
「キャプチャー」として抗体を用いている場合、測定対象分子と「キャプチャー」の複合体に、0.1M以下の濃度のジチオスレイトール(DTT)もしくは2−メルカプトエタノールなどの還元剤を作用させることで、抗体3−2のジスルフィド結合が切断され、測定対象分子が遊離される。
「キャプチャー」として核酸アプタマーを用いている場合、測定対象分子と「キャプチャー」の複合体に、核酸分解酵素(DNaseもしくはRNase)を作用させることで、核酸アプタマーが分解され、測定対象分子が遊離される。
「キャプチャー」としてレクチンを用いている場合、測定対象分子と「キャプチャー」の複合体に糖分解酵素(グリコシダーゼ)を作用させることで、測定対象分子(糖タンパク質)の修飾糖鎖部分が分解され、測定対象分子(糖タンパク質)のタンパク質部分が遊離される。
図4は、工程3において、工程2で回収した測定対象分子を、バイオチップによる等電点電気泳動で分離する操作を図示す。
工程2で回収した測定対象分子を含む回収液を等電点電気泳動緩衝液と混合した後、バイオチップの泳動路4−4に、混合溶液4−1を直接導入して、等電点電気泳動を行う。もしくは、予めバイオチップの泳動路4−4に等電点電気泳動緩衝液4−3を導入しておき、その上から回収した測定対象分子を含む回収液4−2を重層した後、等電点電気泳動を行う。
工程4では、工程3の等電点電気泳動後、バイオチップを凍結乾燥させて、測定対象分子の等電点電気泳動パターンを固定化し、バイオチップに質量分析用のマトリクスを作用させて、MSスペクトルの測定を行う。
以下に、具体例を挙げて、本発明の原理をより詳しく説明する。なお、以下に示す具体例は、本発明の最良の実施の形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲は、かかる形態に限定されるものではない。
(実施態様1)
[「キャプチャー」分子の抗体を利用する、GFPの濃縮、還元剤を利用した、抗体に結合したGFPの回収、ならびに、回収されたGFP分子の蛍光観測による検出]
以下に、
「キャプチャー」分子として、抗体を用いて、GFPを基材粒子表面に固定化し、濃縮(分離)する工程;
基材粒子表面に、抗体との複合体として固定化されているGFPを、還元剤を利用して、離脱させ、回収する工程;
回収されたGFPを、バイオチップを用いた等電点電気泳動によって、バイオチップの流路上、単一のスポットとして分離する工程;
バイオチップの流路上、単一のスポットとして分離されるGFPを、該GFP由来の蛍光を観測することにより検出する工程に関して、その一例を説明する。
濃縮対象のタンパク質分子として、オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来の緑色蛍光蛋白質(GFP:Green fluorescent protein)と、「キャプチャー」分子として、該GFPに対する抗体(抗GFP抗体)を用いる。GFPは、蛍光性マーカータンパク質として利用可能な組み換え発現型タンパク質として、市販されている。また、抗GFP抗体も、該GFPのイムノブロット検出、ELIZA分析に使用する試薬タンパク質として、市販されている。
ここでは、BDバイオサイエンス社(BD Bioscience)から市販されている、野生型GFP(wtGFP:wild type GFP)と、該野生型GFPに対する特異的な反応性を示す抗GFP抗体(Living Colors Full−Length A.v. Polyclonal Antibody)を利用している。
野生型GFPは、β−シートで構成されるカン構造において、このカンの内部空間に蛍光団が形成されたα−へリックスが位置しており、かかる立体構造中には、Cys−Cys結合は含まれていない。一方、抗GFP抗体は、IgG型のイムノグロブリンタンパク質であり、軽鎖と重鎖の鎖間の連結、ならびに、二つの重鎖の鎖間の連結は、何れも、Cys−Cys結合を介している。IgG型のイムノグロブリンタンパク質においては、軽鎖と重鎖の鎖間を連結しているCys−Cys結合は、還元剤DTTを10mM以上の濃度で添加すると、そのS−S結合(Cys−Cys結合)は還元を受ける。また、二つの重鎖の鎖間を連結しているCys−Cys結合は、還元剤DTTを10mM以上の濃度で添加すると、そのS−S結合(Cys−Cys結合)は還元を受ける。
対象のタンパク質分子の「キャプチャー」分子との複合体をその表面に固定化する、基材粒子として、アガロースビーズ(Protein LA Agarose:BD Bioscience社)を利用している。該アガロースビーズの表面に対して、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子を、その重鎖の定常領域の部分を利用して、高い結合能で結合可能である。なお、抗原分子と反応させ、抗原−抗体複合体を形成している、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子を、その重鎖の定常領域の部分を利用して、高い結合能で結合可能である。該アガロースビーズの表面への結合は、抗体分子の重鎖の定常領域部分を利用しているため、両者の結合能は、本質的に差異が無いものとなっている。一方、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子の結合能と比較し、該アガロースビーズの表面への野生型GFPの結合能は、約1000:1であり、格段に低くなっている。
PBS緩衝液(58mM Na2HPO4、17mM NaH2PO4、68mM NaCl、pH7.4)中に溶解した、1μgのGFPを、2〜5μgの抗GFP抗体とマイクロチューブ中で混合し、次いで、マイクロチューブ中に、25μLのアガロースビーズ(Protein LA Agarose:BD Bioscience社)を加える。マイクロチューブを回転させながら、4℃で、4時間〜一晩(12時間)インキュベートする。この間に、GFPと抗GFP抗体との抗原抗体反応、ならびに、アガロースビーズ表面上に、前記抗GFP抗体の重鎖C末(定常領域)を介して、抗原−抗体複合体の固定化がなされる。
マイクロチューブを遠心して、アガロースビーズをチューブの底に集め、上澄み液を除去する。マイクロチューブに、1mLのPBS緩衝液を加えて、2分間インキュベートした後、遠心して上澄み液を除去する。この洗浄操作を、5回繰り返す。
0.2×PBS緩衝液(12mM Na2HPO4、3.4mM NaH2PO4、14mM NaCl、pH7.4)に、最終濃度10mMになるようにジチオスレイトール(DTT:Sigma社)を添加し、0.2×PBS−DTT液を調製する。0.2×PBS−DTT液20μLを、マイクロチューブに加える。マイクロチューブを回転させながら、室温で1時間インキュベートする。その後、遠心して、アガロースビーズをチューブの底に集め、上澄み液を回収する。なお、回収液中に含まれるイオン濃度は、前記0.2×PBS−DTT液(20μL)のイオン濃度、Na+:41.4mM; HPO4 2-:12mM; H2PO4 -:3.4mM; Cl-:14mMの合計、70.8mMと、洗浄後、僅かに残余するPBS緩衝液(0.5μL)のイオン濃度338mMを、加重平均したものに相当する。すなわち、回収液中の各イオン濃度は、Na+:45.7mM; HPO4 2-:13.4mM; H2PO4 -:3.8mM; Cl-:15.6mMと見積もられる。さらに、この回収液において、(1/2)ΣZi2×ci (mol/dm-3)で定義されるイオン強度は、59.3(mM)と見積もられる。
還元剤DTTにより、抗GFP抗体のジスルフィド結合が還元され、上澄み液中にGFPが回収される。すなわち、抗体分子の軽鎖と重鎖の鎖間のCys−Cys結合が開かれ、該抗体の結合能が桁違いに低下し、抗原の野生型GFPが解離される。結果的に、回収液中には、本来の立体構造を保持している、野生型GFPと、抗GFP抗体由来の軽鎖ペプチドとが含まれている。
等電点電気泳動緩衝液には、cIEF3−10Kit(ベックマンコールター社)を用いる。回収液8μLに、キャリア・アンフォライト1μLとcIEFゲル41μLを加え、電気泳動サンプル溶液を作製する。等電点電気泳動用のバイオチップ流路を電気泳動サンプル溶液で満たす。陽極液として、300μLのcIEFゲルと30μLの1M リン酸の混合物を、陰極液として、300μLの純水と6μLの1M NaOH混合物をそれぞれ用いる。両極間に3000Vの電圧を印加し、等電点電気泳動を行う。
図5に、蛍光顕微鏡でバイオチップ流路を観測し、流路上における緑色蛍光強度の分布を測定した結果を示す。図5中において、流路上における緑色蛍光強度の分布は、単一のピーク5−1を示している。この単一ピーク5−1は、GFPのアミノ酸配列から計算される理論的等電点pI=6.06を考慮すると、変性せずに本来の立体構造を保ったまま単一スポットとして、分離されているGFPに由来する蛍光スポットと判断される。
バイオチップ流路の全長は、60mmであり、当初、該流路に充填される電気泳動サンプル溶液のpHは、含まれるPBS緩衝液により、pH=7.4である。当初、前記陽極液で満たされる、陽極端は、pH=1、一方、前記陰極液で満たされる、陰極端は、pH=12であり、電圧の印加によって、該流路内にpH勾配が形成される。
泳動開示前(0分)の時点では、当初、電気泳動サンプル溶液が充填されている流路部分、陽極側から4mm〜56mmの領域全体に蛍光が観察され、蛍光強度のピークは見出されない。等電点泳動の開始後、1/2分間が経過する時点で、陽極側から約36mmの位置に、既に、蛍光強度のピークが出現している。その後、泳動時間の経過とともに、蛍光強度のピーク強度は増加し、同時に、該ピークは、陽極側へシフトしている。
すなわち、泳動時間の経過とともに、陰極側から陽極側へと形成される電位勾配(電界)により、Na+イオン濃度勾配は、陰極端から陽極側へ、また、リン酸イオン(H2PO4 -、HPO4 2−)濃度勾配は、陽極端から陰極側へと形成されていく。それに付随して、流路内に形成されているpH勾配も変化し、等電点pI=5.5のタンパク質分子が形成するスポットの位置もシフトしている。勿論、泳動時間の経過とともに、スポット点の集積されているタンパク質分子の量も増加する結果、GFPに由来する蛍光スポットのピーク強度も増加している。
等電点泳動において、単一の蛍光スポットが形成され、泳動時間の経過とともに、該スポットの蛍光強度が増加することは、DTTを含む回収液中に含有されるGFPは、本来の立体構造を保持していることが確認される。その結果、本体の立体構造に由来する等電点を示すと同時に、GFP自体の蛍光特性も保持されていると判断される。
また、泳動時間4分間が経過した時点で、前記単一の蛍光スポットを示す部位のpHは、pH=7.5と推定される。該スポットにおける、緩衝液成分は、pH=7.2のリン酸緩衝食塩水溶液の組成:1.9mM Na2HPO4、0.54mM NaH2PO4、2.2mM NaClに相当すると推定される。該スポットにおける、イオン強度は、4.6mMと見積もられ、かかるイオン強度では、GFPの塩析は生じていないと判断される。
(実施態様2)
[「キャプチャー」分子の抗体を利用する、トリプシンインヒビターの濃縮、還元剤を利用した、抗体に結合したトリプシンインヒビターの回収、ならびに、回収されたトリプシンインヒビター分子の質量分析による検出]
以下に、
「キャプチャー」分子として、抗体を用いて、トリプシンインヒビターを基材粒子表面に固定化し、濃縮(分離)する工程;
基材粒子表面に、抗体との複合体として固定化されているトリプシンインヒビターを、還元剤を利用して、離脱させ、回収する工程;
回収されたトリプシンインヒビターを、バイオチップを用いた等電点電気泳動によって、バイオチップの流路上、単一のスポットとして分離する工程;
バイオチップの流路上、単一のスポットとして分離されるトリプシンインヒビターを、質量分析用試料に調製し、質量分析により検出する工程に関して、その一例を説明する。
濃縮対象のタンパク質分子として、ダイズ(Glycine max)由来のトリプシンインヒビターと、「キャプチャー」分子として、該トリプシンインヒビターに対する抗体(抗トリプシンインヒビター抗体)を用いている。
ここでは、Sigma社から市販されている、組み換え発現型トリプシンインヒビターと、コスモバイオ社から市販されている、抗トリプシンインヒビター抗体を利用している。
Kunitz型およびBowman−Birk型トリプシンインヒビターの多くは、ペプチド鎖内にCys−Cys結合(S−S結合)を有する構造をとっている。例えば、ウシ膵液由来のトリプシンを阻害する蛋白性インヒビター:BPTIの構造解析がなされており、該Kunitz型トリプシンインヒビターの分子内にCys−Cys結合(S−S結合)が3箇所形成されることで三次元構造を構成し、トリプシンの活性部位に対して、Cys−Lys−Ala−Arg−Ile(P2−P1−P1’−P2’−P3’)の部位において、結合していることが判明している。
なお、ダイズ(Glycine max)由来のトリプシンインヒビターについても、Kunitz型およびBowman−Birk型トリプシンインヒビターの二種が存在することが報告されている。上記の組み換え発現型トリプシンインヒビターは、Kunitz型トリプシンインヒビターであり、その結晶構造解析が報告されており、その立体構造中には、Cys−Cys結合部位が存在していることが、確認されている(Song, H.K., Suh, S.W., J. Mol. Biol. Vol.275 pp.347-363, 1998を参照)。この大豆由来のトリプシンインヒビターのタンパク質フォールディングに関与する鎖内のS−S結合(Cys−Cys結合)も、還元剤DTTを10mM以上の濃度で添加すると、還元を受ける。
また、抗トリプシンインヒビター抗体は、IgG型のイムノグロブリンタンパク質であり、軽鎖と重鎖の鎖間の連結、ならびに、二つの重鎖の鎖間の連結は、何れも、Cys−Cys結合を介している。IgG型のイムノグロブリンタンパク質においては、軽鎖と重鎖の鎖間を連結しているCys−Cys結合は、還元剤DTTを10mM以上の濃度で添加すると、そのS−S結合(Cys−Cys結合)は還元を受ける。また、二つの重鎖の鎖間を連結しているCys−Cys結合は、還元剤DTTを10mM以上の濃度で添加すると、そのS−S結合(Cys−Cys結合)は還元を受ける。
対象のタンパク質分子の「キャプチャー」分子との複合体をその表面に固定化する、基材粒子として、アガロースビーズ(Protein LA Agarose:BD Bioscience社)を利用している。該アガロースビーズの表面に対して、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子を、その重鎖の定常領域の部分を利用して、高い結合能で結合可能である。なお、抗原分子と反応させ、抗原−抗体複合体を形成している、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子を、その重鎖の定常領域の部分を利用して、高い結合能で結合可能である。該アガロースビーズの表面への結合は、抗体分子の重鎖の定常領域部分を利用しているため、両者の結合能は、本質的に差異が無いものとなっている。一方、IgG型のイムノグロブリンタンパク質分子の結合能と比較し、該アガロースビーズの表面へのトリプシンインヒビターの結合能は、約1000:1であり、格段に低くなっている。
PBS緩衝液(58mM Na2HPO4、17mM NaH2PO4、68mM NaCl、pH7.4)中に溶解した、2μgのトリプシンインヒビターを、6μgの抗トリプシンインヒビター抗体とマイクロチューブ中で混合し、次いで、マイクロチューブ中に、25μLのアガロースビーズ(Protein LA Agarose:BD Bioscience社)を加える。マイクロチューブを回転させながら、4℃で、4時間〜一晩(12時間)インキュベートする。この間に、トリプシンインヒビターと抗トリプシンインヒビター抗体との抗原抗体反応、ならびに、アガロースビーズ表面上に、前記抗トリプシンインヒビター抗体の重鎖C末(定常領域)を介して、抗原−抗体複合体の固定化がなされる。
マイクロチューブを遠心して、アガロースビーズをチューブの底に集め、上澄み液を除去する。マイクロチューブに、1mLのPBS緩衝液を加えて、2分間インキュベートした後、遠心して上澄み液を除去する。この洗浄操作を、5回繰り返す。
0.2×PBS緩衝液(12mM Na2HPO4、3.4mM NaH2PO4、14mM NaCl、pH7.4)に、最終濃度10mMになるようにジチオスレイトール(DTT:Sigma社)を添加し、0.2×PBS−DTT液を調製する。0.2×PBS−DTT液20μLを、マイクロチューブに加える。マイクロチューブを回転させながら、室温で1時間インキュベートする。その後、遠心して、アガロースビーズをチューブの底に集め、上澄み液を回収する。なお、回収液中に含まれるイオン濃度は、前記0.2×PBS−DTT液(20μL)のイオン濃度、Na+:41.4mM; HPO4 2-:12mM; H2PO4 -:3.4mM; Cl-:14mMの合計、70.8mMと、洗浄後、僅かに残余するPBS緩衝液(0.5μL)のイオン濃度338mMを、加重平均したものに相当する。すなわち、回収液中の各イオン濃度は、Na+:45.7mM; HPO4 2-:13.4mM; H2PO4 -:3.8mM; Cl-:15.6mMと見積もられる。さらに、この回収液において、(1/2)ΣZi2×ci (mol/dm-3)で定義されるイオン強度は、59.3(mM)と見積もられる。
還元剤DTTにより、抗トリプシンインヒビター抗体のジスルフィド結合が還元され、上澄み液中にトリプシンインヒビターが回収される。すなわち、抗体分子の軽鎖と重鎖の鎖間のCys−Cys結合が開かれ、該抗体の結合能が桁違いに低下し、抗原のトリプシンインヒビターが解離される。一方、回収されたトリプシンインヒビター分子も、そのペプチド鎖内にはS−S結合(Cys−Cys結合)があり、還元を受け、本来の立体構造は損なわれ、一本のペプチド鎖の状態となっている。結果的に、回収液中には、一本のペプチド鎖となっているトリプシンインヒビター分子と、抗トリプシンインヒビター抗体由来の軽鎖ペプチドが含まれている。
等電点電気泳動緩衝液には、cIEF3−10Kit(ベックマンコールター社)を用いる。回収液9μLに、キャリア・アンフォライト1μLを加え、電気泳動サンプル溶液を作製する。一方、キャリア・アンフォライト1μLとcIEFゲル49μLとを混合して、電気泳動緩衝溶液を作製する。等電点電気泳動用のバイオチップ流路中に、予め電気泳動緩衝溶液を導入する。次いで、電気泳動サンプル溶液を、予め導入している電気泳動緩衝溶液上に重層する。また、陽極液として、300μLのcIEFゲルと30μLの1M リン酸の混合物を、陰極液として、300μLの純水と6μLの1M NaOH混合物をそれぞれ用いる。両極間に3000Vの電圧を印加し、等電点電気泳動を行う。
3分間の泳動後、バイオチップ流路を覆っている蓋シールを除去し、流路内の等電点電気泳動処理済みのサンプル液に凍結乾燥処理を施す。次いで、バイオチップ流路全体に、質量分析用のマトリクス溶液(シナピン酸を30%アセトニトリル/0.3%トリフルオロ酢酸に溶解した物)を噴霧した後、再度乾燥する。
バイオチップ流路の全長は、60mmであり、この流路に沿って、当初、電気泳動緩衝溶液とその後重層される電気泳動サンプル溶液が占めている流路部分、すなわち、陽極側から4mm〜56mmの領域全体を、質量分析装置(Voyager:アプライド・バイオサイエンス社)を用いて走査し、0.1mm毎にスペクトルを測定する。その際、MALDI−TOF MS法により、バイオチップ流路上に存在するタンパク質分子をイオン化した際、生成する陽イオン種のスペクトルを、各測定点において測定する。その結果、陽極側から18mmの部位において測定されるスペクトルは、図6に示すように、m/Z値が20×103以上の領域に、明確なピークとして、唯一、m/Z値が21,200のイオン種のピークが観測されている。該トリプシンインヒビターのアミノ酸配列から、推定される分子量(理論値)は、21,500であり、また、本来の立体構造を保持している、組み換えトリプシンインヒビターを別途、同様の条件で質量分析した際、観測されるイオン種のm/Z値は、21,200である。両者を比較すると、前記等電点電気泳動後、バイオチップ流路上、陽極側から18mmの部位において測定されるm/Z値が21,200のイオン種は、回収されたトリプシンインヒビター分子に由来すると判断される。
また、かかるm/Z値が21,200のイオン種は、走査したバイオチップ流路上、陽極側から17mm〜19mmの狭い範囲のみで観測されている。従って、回収液中に含有されているトリプシンインヒビター分子は、前記等電点電気泳動処理により、前記の狭い領域に分離されていると判断される。なお、トリプシンインヒビター分子は、アミノ酸配列から計算される理論的な等電点として、等電点pI=6.1を示す。従って、上記の濃縮、回収工程において、トリプシンインヒビター分子は、その鎖内のS−S結合(Cys−Cys結合)は還元を受け、その本来の立体構造は損なわれているが、等電点電気泳動処理においては、単一のスポッとして、分離されていると判断される。
一方、回収液中に混在している、抗トリプシンインヒビター抗体由来の軽鎖ペプチドに起因するイオン種は、m/Z値22,300に観測される。このm/Z値22,300のイオン種は、走査したバイオチップ流路上、陽極側から22mm〜23mmの範囲のみで観測されている。
また、泳動時間3分間が経過した時点で、トリプシンインヒビター分子が前記単一スポットを形成する部位のpHは、pH=4.6と推定される。該スポットにおける、緩衝液成分は、pH=7.2のリン酸緩衝食塩水溶液の組成:1.9mM Na2HPO4、0.54mM NaH2PO4、2.2mM NaClに相当すると推定される。該スポットにおける、イオン強度は、4.6mMと見積もられ、かかるイオン強度では、トリプシンインヒビター分子の塩析は生じていないと判断される。
本発明にかかる生体分子の質量分析用試料の調製方法は、試料液中に含まれる微量の生体分子を分析するための分析用試料、特に、質量分析するための分析用試料を調製する際、該分析用試料中に含まれる測定対象分子は、変性を受けてなく、また、質量分析の測定感度を低下する、不必要に高い濃度の電解質成分の混入を抑制できるため、高い定量性、高い測定感度を有する質量分析を実施することを可能とする。
本発明にかかる生体分子の質量分析に利用される分析用試料の調製プロセスの基本構成を示す概念図である。 本発明にかかる質量分析用の生体分子を含有する分析用試料の調製プロセスにおいて利用される、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と、測定対象分子との複合体形成の機構の一例を模式的に示す図である。 本発明において利用可能な、基材粒子上に固定化した「キャプチャー」分子と、測定対象分子との複合体から、該測定対象分子を離脱させ、回収する手段の一例を模式的に示す図である。 バイオチップを利用する等電点電気泳動により、回収された測定対象分子を分離する工程の概要を模式的に示す図である。 抗体との複合体から、還元剤を用いた還元処理によって回収されたオワンクラゲ緑色蛍光蛋白質(GFP)を含む回収液について、等電点電気泳動を施した際、泳動時間経過とともにGFPが単一のスポットとして分離される過程を、GFP由来の蛍光観察によって、検出した結果を示す図である。 抗体との複合体から、還元剤を用いた還元処理によって回収されたトリプシンインヒビターを含む回収液について、等電点電気泳動を施した際、トリプシンインヒビターは単一のスポットとして分離されていることを、質量分析スペクトル中に観測される、トリプシンインヒビター由来のイオン種のピーク強度に基づき、確認した結果を示す図である。
符号の説明
2−1 測定対象分子
2−2 「キャプチャー」分子の固定化に利用される基材粒子
2−3 抗体
2−4 核酸アプタマー
2−5 レクチン
3−1 測定対象分子
3−2 還元剤によりジスルフィド結合が還元された抗体
3−3 核酸分解酵素により分解された核酸アプタマー
3−4 糖分解酵素により分解された測定対象分子の糖鎖修飾部分
4−1 電気泳動路に導入した回収液と等電点電気泳動緩衝液の混合物
4−2 重層した回収溶液
4−3 電気泳動路に予め導入した等電点電気泳動緩衝液
4−4 電気泳動路
5−1 等電点電気泳動により分離されるGFPのスポットに由来する蛍光ピーク
6−1 トリプシンインヒビターに由来するイオン種のピーク

Claims (11)

  1. 生体分子を含有する試料液中に含まれる、特定の測定対象分子を質量分析するための質量分析用試料を調製する方法であって、
    該測定対象分子は、等電点電気泳動を施した際、単一のスポットを形成可能な生体分子であり、
    該測定対象分子を質量分析するための質量分析用試料を調製する方法は、
    該測定対象分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子を利用し、前記試料液中に含まれる、該測定対象分子に前記「キャプチャー」分子を結合させてなる複合体を形成し、
    該複合体を固相基材粒子表面に、該複合体中の「キャプチャー」分子と固相基材粒子表面との結合を介して、該複合体を該固相基材粒子表面に固定化する工程;
    該固相基材粒子と、前記試料液とを、固/液相分離処理によって分離し、該固相基材粒子を分取する工程;
    前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液を用いて、分取される該固相基材粒子の表面に固定化されている、前記複合体から、前記「キャプチャー」分子との結合を解消して、該測定対象分子を離脱させ、
    前記溶出液と、該固相基材粒子とを、固/液相分離処理によって分離し、前記溶出液を分取し、
    離脱された該測定対象分子が回収されている回収液とする工程;
    離脱された該測定対象分子が回収されている回収液を、マイクロチップの流路を泳動流路として利用する等電点電気泳動処理し、
    該マイクロチップの流路上に、該測定対象分子を単一のスポットとして、等電点電気泳動分離する工程;
    該マイクロチップの流路上に、単一のスポットとして、等電点電気泳動分離されている該測定対象分子を凍結乾燥し、
    該マイクロチップの流路上において、凍結乾燥処理された、単一のスポットに分離されている該測定対象分子を質量分析用試料に調製する工程と
    を具え、
    前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分を含む溶出液は、
    前記複合体から該測定対象分子を離脱させる試薬成分として、前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分と、
    離脱される該測定対象分子を溶解させる緩衝液成分のみを含み、
    前記試薬成分と緩衝液成分とは、いずれも、離脱される該測定対象分子が示す前記等電点電気泳動における分離特性を本質的に損なう作用を有していない物質であり、
    前記試薬成分は、離脱される該測定対象分子に対して、結合能を示さない物質であり、
    前記溶出液中に含まれる緩衝液成分は、液のpHを所定値に維持する機能を有する電解質物質の組成を有し、該電解質物質の組成に由来する該溶出液中のイオン強度は、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択されている
    ことを特徴とする生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  2. 質量分析を行う前記測定対象分子は、タンパク質分子、修飾を有するタンパク質分子、およびペプチドのいずれかである
    ことを特徴とする、請求項1に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  3. 質量分析を行う前記測定対象分子として、特定のタンパク質分子を選択する際、
    該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する
    ことを特徴とする、請求項2に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  4. 「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を有する抗体分子を利用する際、
    前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、
    前記抗体分子を構成する重鎖と軽鎖との鎖間を連結するCys−Cysのジスルフィド結合を還元し、該重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することが可能な還元剤を選択し、該抗体分子の重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することで、該抗体分子の有する前記測定対象のタンパク質分子に対する特異的な反応性を喪失させる
    ことを特徴とする、請求項2に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  5. 前記抗体分子を構成する重鎖と軽鎖との鎖間を連結するCys−Cysのジスルフィド結合を還元し、該重鎖と軽鎖との鎖間の連結を解消することが可能な還元剤を用いる際、
    前記溶出液中に含有される該還元剤の濃度は、0.01M以上、0.1M以下の範囲に選択する
    ことを特徴とする、請求項4に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  6. 質量分析を行う前記測定対象分子として、特定のタンパク質分子を選択する際、
    該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する
    ことを特徴とする、請求項2に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  7. 「キャプチャー」分子として、該測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を有する核酸アプタマー分子を利用する際、
    前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、
    前記核酸アプタマー分子を構成する一本鎖核酸の開裂を行う核酸分解酵素タンパク質を選択し、前記核酸分解酵素の作用により、前記一本鎖核酸の開裂を行って、該核酸アプタマー分子の立体構造に起因する、前記測定対象のタンパク質分子に対する特異的な結合能を喪失させる
    ことを特徴とする、請求項6に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  8. 質量分析を行う前記測定対象分子として、糖鎖修飾タンパク質分子を選択する際、
    該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を有する「キャプチャー」分子として、
    前記修飾糖鎖部分との結合を介して、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を発揮するレクチンを利用する
    ことを特徴とする、請求項2に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  9. 「キャプチャー」分子として、該測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子が有する、前記修飾糖鎖部分に対する特異的な結合能を有するレクチンを利用する際、
    前記「キャプチャー」分子の有する、該測定対象分子に対する特異的な結合能を喪失させる作用を有する成分として、
    前記糖鎖修飾タンパク質分子とレクチンと複合体において、レクチンによって結合されている、前記修飾糖鎖部分の選択的な開裂を行う糖分解酵素タンパク質を選択し、前記糖分解酵素の作用により、前記糖鎖修飾タンパク質分子が有する修飾糖鎖部分の開裂を行って、該修飾糖鎖部分との結合を介する、レクチンの前記測定対象の糖鎖修飾タンパク質分子に対する特異的な結合能を喪失させる
    ことを特徴とする、請求項8に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  10. 前記等電点電気泳動分離する工程では、
    離脱された該測定対象分子が回収されている回収液と、等電点電気泳動緩衝液とを、所定の混合比率で予め混合した混合液を調製し、
    泳動流路として利用する、前記マイクロチップの流路に、該混合液を導入した上で、等電点電気泳動処理を行う手法を採用する
    ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
  11. 前記等電点電気泳動分離する工程では、
    離脱された該測定対象分子が回収されている回収液と、等電点電気泳動緩衝液とを、所定の液量比率で用い、
    泳動流路として利用する、前記マイクロチップの流路に、先ず、所定液量の前記等電点電気泳動緩衝液を導入し、
    引き続き、前記液量比率に従って選択される、前記回収液の所定液量を、泳動流路の一端から、前記マイクロチップの流路に導入した上で、等電点電気泳動処理を行う手法を採用する
    ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体分子の質量分析用試料の調製方法。
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