JP2007269706A - 抗下痢症組成物及びその含有物と下痢症予防方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 自然食品由来で副作用なく、特に下痢の多くを占める分泌性下痢に有効な抗下痢症組成物と、それを含有する抗下痢症医薬組成物、抗下痢症組成物含有食品、並びに、それを用いた下痢症予防方法を提供すること。
【解決手段】 下痢症を緩和する組成物であって、メントール及びメントンのうち少なくとも一方が、それを摂取する生体の消化管に作用をもたらすに足る有意な量含有され、大腸Cl-分泌を抑制することを特徴とする。メントール及びメントンのうち少なくとも一方を、ペパーミント或いは和種ハッカの精油成分で構成してもよい。
【選択図】 図6

Description

本発明は、下痢症を改善する抗下痢症組成物と、それを含有する抗下痢症医薬組成物或いは抗下痢症組成物含有食品、並びに、それを用いた下痢症予防方法に関する。
下痢症は、あらゆる年齢の人々や家畜等の動物一般に共通した問題である。
成人にとってはストレスによって生じることもあり、乳幼児によっては、重い脱水症状につながり生命の維持が脅かされることもある。
通常、健康的な成人の糞便量は約150g/日、糞便中の水分量は約100〜150ml/日に濃縮されている。下痢症は、1日の糞便中の水分量が200ml以上であるか、または、1日の糞便の重量が200g以上であることが目安とされている。
小腸に流入する1日の水分量は、およそ、経口摂取の水分量2L、唾液量1L、胃液量2L、膵液量2L、胆汁1Lであり、その他腸液が1L分泌される。回盲部を通過する水分量は1.5〜2Lであるので、小腸で7〜8Lの水分が吸収され、更に大腸で1.5L程度が吸収されている。
下痢症は、その発生機序から浸透圧性下痢、滲出性下痢、分泌性下痢、腸管運動異常による下痢、active ion transport異常による下痢、病態生理不明なその他の下痢の6タイプに分類されている。これらのメカニズムが単独で作用することはほとんどなく、いくつかが組み合わさって生じることが多い。
浸透圧性下痢は、吸収されにくい高浸透圧性の溶質が腸管内に多量に存在することにより、水分が腸管内腔に移動して起こる下痢である。下痢は食物摂取により起こり、絶食により抑制可能である。
滲出性下痢は、腸の炎症により腸管壁の透過性が亢進し、多量の滲出液が管腔内に排出されることで起こる。便には、血液、膿、粘液が付着することが多い。下痢は食事により増強するが、絶食しても完全には止まらない。
分泌性下痢は、消化管粘膜の分泌の異常亢進によって起こる。cyclic AMP(抗アレルギー物質)を介する場合と介さない場合の2つの機序があり、各種消化管ホルモンやエンテロトキシンなどが関与している。大量の水様性下痢が特徴的で、絶食しても止まらない。
腸管運動異常による下痢は、腸管運動の亢進によって起こる場合と、低下によって起こる場合とがある。腸管運動の低下によって起こる場合では、小腸内容物の通過遅延によって小腸内に細菌が増殖し胆汁酸の脱抱合を惹起するため、脂肪や水の吸収障害が起こり下痢となる。
active ion transport異常による下痢は、先天的にClの回腸における吸収が障害されているために起こる。小児にみられる稀な疾患で、絶食により軽減する。
病態生理不明なその他の下痢は、Addison病、副甲状腺機能低下症、肝硬変、Mg欠乏症などでみられている。
下痢の多くを占める分泌性下痢においては、大腸Cl-分泌の異常な活性化がその主因とみられている。
下痢症に対する従来の自然食品由来医薬としては、下記の特許文献1〜3がある。
特許文献1は、刺梨、または刺梨とヨモギ或いはキャベツをそれぞれ含有する組成物によって、人や動物等に安全な消化管機能調節剤を提供することを開示している。
特許文献2は、胆汁末、胆汁エキス、胆汁酸、ゴオウ、人工ゴオウを含有する組成物によって、抗下痢剤を提供することを開示している。
特許文献3は、高度免疫処置を施したトリから得られた卵製品によって、抗下痢剤を提供することを開示している。
特開平6−116157「消化管機能調節剤」 特開2005−281278「栄養剤、消化器剤、抗うつ剤、抗更年期障害剤、抗老人性痴呆症剤、抗アルツハイマー剤、強筋肉剤、抗炎症剤」 特表2002−514604「下痢止め薬およびそれを使用するための方法」
しかし、従来技術による抗下痢症組成物は、副作用を伴ったり、必ずしも万人に好適に作用するものとは言い難かった。
そこで、本発明は、自然食品由来で副作用なく、特に、下痢の多くを占める分泌性下痢に有効な抗下痢症組成物と、それを含有する抗下痢症医薬組成物、抗下痢症組成物含有食品、並びに、それを用いた下痢症予防方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の抗下痢症組成物は次の構成を備える。 すなわち、下痢症を緩和する組成物であって、メントール及びメントンのうち少なくとも一方が、それを摂取する生体の消化管に作用をもたらすに足る有意な量含有され、大腸Cl-分泌を抑制することを特徴とする。
ここで、メントール及びメントンのうち少なくとも一方を、ペパーミント(Mentha piperita)の精油成分で構成してもよい。
また、メントール及びメントンのうち少なくとも一方を、和種ハッカ(Mentha arvensis)の精油成分で構成してもよい。
このような抗下痢症組成物を、薬品の主成分として、他の組成物に混合して、抗下痢症医薬組成物を製造してもよい。
また、他の飲食物材料に混合して、抗下痢症組成物含有食品を製造してもよい。
以上のような抗下痢症組成物或いは抗下痢症医薬組成物或いは抗下痢症組成物含有食品を、消化管に作用をもたらすに足る有意な量、予め生体に摂取させて、その大腸Cl-分泌を抑制することで、人や家畜等の動物の下痢症予防に利用してもよい。
本発明の抗下痢症組成物、または、それを含有する抗下痢症医薬組成物、抗下痢症組成物含有食品によると、メントールまたはメントンの大腸Cl-分泌抑制作用によって、副作用なく有効に、分泌性下痢等の下痢症緩和に寄与する。また、それを予め所定量摂取することによって、下痢症の予防にも寄与する。
以下に、図面を基に本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、適宜設計変更可能である。
本発明者は、抗下痢症組成物としてミントに注目し、その有効性について検証実験を行った。
ミントは、シソ科ハッカ属に分類される植物であり、主なものとしては、和種ハッカ(Mentha arvensis)、ペパーミント(Mentha piperita)、スペアミント(Mentha spicata)、ペニーロイヤル(Mentha puleium)が挙げられる。
メントール及びメントンを多く含有している種は、ペパーミント及び和種ハッカであり、スペアミントやペニーロイヤルにはメントールはあまり含まれていない。スペアミントの主要な精油成分はカルボンであり、ペニーロイヤルではプレゴンである。これらの成分は化学構造が類似していて、共にミント特有の清涼感を誘発する。このように同じハッカ属であっても、精油成分の組成は大きく異なっている。
例えば、精油用として近年栽培量が増えているのは、丈夫で収油量の多いブラックミントのミッチャム種というペパーミントである。
主な構成成分は、炭化水素類として、モノテルペン類:αピネン0.2〜2%、βピネン0.3〜4%、リモネン0.6〜6%、メンテン フェランドレン サビネン<1%、ミルセン<1%、シス‐オシメン微量〜1.5%、ρシメン微量〜0.5%、テルピノレン微量〜0.2%、αテルピネン1%、γテルピネン1%、 セスキテルペン類:βカリオフィレン<1%、トランスβファルネセン微量〜0.5%、αムウロレン微量〜0.5%、ゲルマクレンD2.1〜4.3%、γカジネン微量〜0.7%、βボールボネン<1%、アルコール類として、モノテルペノ‐ル類:メンソール28〜46%、イソメンソール ネオ‐メンソール2〜7.7%、ピペリトール ピペリテノール イソピペリテノール α‐テルピネオール 0.1〜1.9%、リナロール<1%、テルピネン‐4‐オール0〜2.4%、セスキテルペノ‐ル類:ビリテ゛ィフロロール0.5〜1.3%、10‐α‐カジノール微量〜0.3%、3‐オクタノ‐ル<1%、ケトン類として、メントン16〜36%、イソ‐メントン4〜10.4% ネオメントン2〜3%、ピペリトン0.5〜1.2%、イソピペリトン フ゜ルゴン、酸化物として、1,8‐シネオール3〜7.4%、メントフラン<3%、ピペリテノン微量〜0.7%、トランス‐ピペリトンオキサイド0.5〜3.1%、カリオフィレンオキサイド微量〜0.5%、エステル類として、メンチルアセテート1.6〜10%、ネオメンチルアセテート イソメンチルアセテート メンチルブチレート メンチルイソバレレート、クマリン類として、エスクレチン、その他に、メントフラン0.1〜5.7%、トランス‐ザビネンハイドレート0.2〜1.4%、シス‐サビネンハイドレート微量〜0.8%が例示できる。
ペパーミントの成分としてのメントールは、清涼感が知られていて、スギ花粉への抗アレルギー作用が認められている。また、ペパーミント油の主成分であるメントール、シネオール、メントンにはアレルギー反応を抑えるヒスタミン遊離抑制作用が認められている。メントールやメントンには、他に、肝臓刺激作用、皮膚過敏緩和作用、去痰作用、駆風作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗感染作用、抗菌作用、抗痙攣作用、抗催乳作用、抗真菌作用、抗発熱作用、子宮強壮作用、充血作用、昇血圧作用、消化刺激作用、神経強壮作用、生殖器系刺激作用、鎮痛作用、粘膜溶解作用、防虫作用、ホルモン様作用などが期待されているが、大腸Cl-分泌の抑制作用については報告がなかった。
メントール及びメントンにCl-分泌抑制が確認されれば、それらが抗下痢効果を有することが期待できるので、メントール及びメントンが大腸Cl-分泌を抑制するか否かを検討した。
次のように、大腸粘膜標本を作製した。
マウスを頚椎脱臼し、腹部切開後、盲腸を摘出した。盲腸と小腸及び、大腸との境界部分を切断して、盲腸を摘出した。盲腸内にハサミを入れてシート状に切り開いた。内容物を完全に除去するために、盲腸をピンセットでつまみ、代用液で洗浄した。ラバーの敷かれたシャーレに代用液を入れて、漿膜側を上にして貼り付けた。常にシャーレ内の代用液に95% O2/5% CO2を通気した状態で、ピンセットを用いて筋層を剥離し、粘膜及び粘膜下層からなる標本を作製した。これを4分割して実験に用いた。なお、小腸、大腸のすべての部位にCl-分泌活性が存在するので、盲腸での結果は小腸大腸すべての部位に当てはまる。
この標本を用いて、電気的解析を行った。
図1は、Ussing chamberによる短絡電流(Isc)測定形態を示す説明図である。
窓の面積0.5 cm2、代用液5 mLを含む2つのUssing type のチャンバーの間に粘膜標本を装着した。電位差測定用には、チャンバーの両側に一対のカロメル電極を1MKCl/2%寒天溶液塩橋によって接続した。通電用には1M NaCl /2 %寒天溶液塩橋によって接続したAg/AgCl電極を装着した。これらをボルテージクランプ装置に接続し、短絡電流Iscを測定した。Iscは粘膜側より漿膜側への電流を正とした。
投与溶液は、Stock Solutionとして目的終濃度の1000倍に調製した。
すなわち、ForskolinをDMSOで5mMに調製、Tetrodotoxinを蒸留水で300μMに調製、l-MentholをDMSOで1000mM、500mM、250mM、100mM、50mM、5mMに調製、l-MenthoneをDMSOで1000mM、500mM、250mM、100mM、50mMに調製、ブメタニドをDMSOで50mMに調整した。
測定結果は、平均±標準誤差(mean±SEM)で表した。検定はスチューデントt-testを用い、p<0.05をもって有意差ありとした。
図2は、マウス大腸粘膜標本にメントールを漿膜側に投与した際のIs変化を示すグラフである。
管腔側へのメントール投与、及び漿膜側へのメントール250μM以下の濃度では応答を示さなかった。500μMメントールを漿膜側へ投与したところ、Iscに若干の減少が見られたが、大きな変化は確認できなかった。
図3は、フォルスコリン(Forskolin,FK)投与後における漿膜側メントール投与のIscに及ぼす効果を示すグラフである。
細胞内cAMPを上昇させるフォルスコリンを漿膜側に投与すると、Iscは大きく上昇した。このcAMP依存性のIsc上昇の少なくとも一部はCl-分泌機構活性化によるものである。その後、500μMメントールを漿膜側へ投与すると、Iscの大きな減少が観察された。Isc減少値は72.07±6.78μMであった。
図4は、フォルスコリン投与後におけるメントール漿膜投与によるIsc抑制効果の用量依存性を示すグラフであり、図5は、フォルスコリン投与後におけるメントン漿膜投与によるIsc抑制効果の用量依存性を示すグラフである。
図4に示されるように、フォルスコリンによって上昇したIscに対するメントールの抑制効果は濃度依存的であった。更に、図5に示されるように、メントンの漿膜側投与も、フォルスコリンで上昇したIscを濃度依存的に減少させた。
以上の結果は、メントール及びメントンはcAMPで活性化される大腸Cl-分泌を抑制する効果を有することを示唆している。
図6は、テトロドトキシン(Tetrodotoxin,TTX)前投与がメントールの効果に及ぼす影響を示すグラフであり、図7は、テトロドトキシン前投与がメントンの効果に及ぼす影響を示すグラフである。
テトロドトキシンは神経伝導遮断薬である。これを前投与した時の影響を見ることにより、上記のメントールによるIsc応答が神経を介するものかどうかについて検討した。
図示の通り、テトロドトキシン存在下においても、フォルスコリンにより増大したIscを、メントールとメントンは濃度依存的に抑制した。従って、神経を介する効果ではないと考えられる。
図8は、ブメタニド存在下でのメントールの効果を示すグラフであり、図9は、ブメタニド存在下でのメントンの効果を示すグラフである。
図示の通り、フォルスコリンで活性化される大腸Cl-分泌は、ブメタニドで抑制されることが知られている。フォルスコリンで活性化されたIsc上昇の一部が漿膜側ブメタニド投与により抑制された条件下では、その後に投与したメントールあるいはメントンによるIsc抑制効果はほぼ消失した。
更に、図6及び7に示したように、メントール或いはメントン投与後は、ブメタニドによるIsc抑制効果は顕著に減弱した。このことは、メントール及びメントンがcAMPで活性化される大腸Cl分泌を抑制するとの仮説を支持している。
以上のように、メントール及びメントンが、cAMPにより活性化された大腸Cl-分泌を抑制することが示された。下痢の原因の多くを占める分泌性下痢は、大腸Cl-分泌の異常な活性化が原因と考えられるので、それを有意な所定量含有する本発明による飲食物類は、下痢症の緩和や予防に有効であり、産業上非常に有用である。
Ussingchamberによる短絡電流測定形態を示す説明図 マウス大腸粘膜標本にメントールを漿膜側に投与した際のIs変化を示すグラフ フォルスコリン投与後における漿膜側メントール投与のIscに及ぼす効果を示すグラフ フォルスコリン投与後におけるメントール漿膜投与によるIsc抑制効果の用量依存性を示すグラフ フォルスコリン投与後におけるメントン漿膜投与によるIsc抑制効果の用量依存性を示すグラフ テトロドトキシン前投与がメントールの効果に及ぼす影響を示すグラフ テトロドトキシン前投与がメントンの効果に及ぼす影響を示すグラフ ブメタニド存在下でのメントールの効果を示すグラフ ブメタニド存在下でのメントンの効果を示すグラフ

Claims (6)

  1. 下痢症を緩和する組成物であって、
    メントール及びメントンのうち少なくとも一方が、それを摂取する生体の消化管に作用をもたらすに足る有意な量含有され、大腸Cl-分泌を抑制する
    ことを特徴とする抗下痢症組成物。
  2. メントール及びメントンのうち少なくとも一方が、ペパーミント(Mentha piperita)の精油成分である
    請求項1に記載の抗下痢症組成物。
  3. メントール及びメントンのうち少なくとも一方が、和種ハッカ(Mentha arvensis)の精油成分である
    請求項1に記載の抗下痢症組成物。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載の抗下痢症組成物が、薬品の主成分として、他の組成物に混合されて製造された
    ことを特徴とする抗下痢症医薬組成物。
  5. 請求項1ないし3のいずれかに記載の抗下痢症医薬組成物が、他の飲食物材料に混合されて製造された
    ことを特徴とする抗下痢症組成物含有食品。
  6. 請求項1ないし5のいずれかに記載の抗下痢症組成物或いは抗下痢症医薬組成物或いは抗下痢症組成物含有食品を、消化管に作用をもたらすに足る有意な量、予め生体に摂取させて、その大腸Cl-分泌を抑制することで、下痢症を予防する
    ことを特徴とする下痢症予防方法。
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