この発明の基本的思想.
実施の形態の詳細な説明に入る前に、この発明の基本的思想について説明する。もちろん、この基本的思想も本発明に含まれる。
ラジアルギャップ型のモータと同様に、アキシャルギャップ型モータにおいても、リラクタンストルクを有効に利用し、以てトルクや効率を高めたり、弱め磁束制御の効果を高めて運転領域を拡大するためには、いわゆる逆突極性を高めればよい。換言すれば、回転子の極性が異なる磁極同士の間を経由して外部から流れる磁束に対応するインダクタンス(d軸インダクタンス)Ldが、当該磁石を迂回して外部から流れる磁束に対応するインダクタンス(q軸インダクタンス)Lqよりも小さければよい。
ところで、ラジアルギャップ型のモータにおいて、回転子鉄心に磁石が埋め込まれた、いわゆる埋込磁石型の回転子が提案されている。図65はこのような埋込磁石型の回転子900の構造を例示する斜視図である。回転子鉄心91には埋め込み用溝92が設けられ、その各々に永久磁石93が埋め込まれている。ここでは磁石93は、回転軸が貫挿される軸孔94の周囲に、4個埋め込まれている態様が例示されている。隣接する永久磁石93は相互に極性が異なる磁極を回転子900の外側面に向けている。
回転子900においてq軸インダクタンスLqが高められている原因の一つとして、回転子鉄心91のうち、隣接する磁石93の端部同士の間にあって溝92で挟まれて突起91cとして現れている部分と、軸孔94の周囲で磁石93によって外側から囲まれて内側部91aとして現れている部分とを経由する磁路95が存在することが挙げられる。磁路95は回転子900の外側面を経由して固定子(図示せず)から供給される磁束が、磁石93を迂回して流れる経路となる。このように、磁石と磁石の間で磁石を迂回する磁路を以下、第1種磁路と称する。
また、q軸インダクタンスLqが高められている原因の他の一つとして、回転子鉄心91のうち、磁石93の外側において外側部91bとして現れている部分を経由する磁路96が存在することが挙げられる。磁路96も、固定子からの磁束が磁石93を迂回して流れる経路となる。このように、固定子から見て回転子の磁石よりも近くで当該磁石を迂回する磁路を以下、第2種磁路と称する。
従って、アキシャルギャップ型モータの回転子においても、第1種磁路や第2種磁路を設けることにより、q軸インダクタンスLqをd軸インダクタンスLdよりも大きくし、逆突極性を大きくすることができる。
第1種磁路をアキシャルギャップ型モータの回転子において設けるためには、磁石とほぼ同一平面上に磁性体を配置すればよい。この際、磁性体が軸孔をも覆ってもよいが、その場合には、通常のラジアルギャップ型モータの回転子と同様に、軸孔に貫挿される回転軸が磁路として機能しないための工夫を行うことが望ましい。
第2種磁路をアキシャルギャップ型モータの回転子において設けるためには、固定子側に向く磁極を、磁極毎に磁気的に独立した磁性体で覆えばよい。この場合アキシャルギャップが増大する観点では第1種磁路を設ける場合よりも劣るものの、その形状を工夫して、後述するような、磁石における減磁界の低減や磁石内部での渦電流発生の抑制がし易い。
このように逆突極性を有する回転子をモータに採用することにより、リラクタンストルクを有効に利用できトルクや効率を高める。また弱め磁束制御の効果を高めて運転領域を拡大する。
なお、リラクタンストルクを利用するためには、当該回転子と共にモータに採用される固定子は、磁性体でできた突極、例えばティースを有することが望ましい。
なおアキシャルギャップ型モータの回転子において第1種磁路及び第2種磁路を設けることは、ラジアルギャップ型モータの回転子に比して、マグネットトルクとリラクタンストルクの両方を大きく設計することができるという利点がある。理由を以下に述べる。
ラジアルギャップ型モータの回転子では、その円筒面において、第1種磁路95は第2種磁路96と交互に配置される。そして第1種磁路95は、埋設された磁石93同士の間で磁石93を迂回して存在する。
従って、第2種磁路96の断面積を大きくすべく、磁石93が埋め込まれる位置を、回転中心に近づけるほど、第1種磁路95の断面積は小さくなってしまう。逆に第1種磁路95の断面積を損なうことなく第2種磁路96の断面積を増大させようとすると、磁石93が埋め込まれる位置を回転中心に近づけつつも、磁石93の磁極幅(回転軸に垂直な断面での磁極の寸法であって磁石の厚みでない寸法)を狭めなければならない。これはラジアルギャップ型モータの回転子の円筒面の外形が大きくなっても同様である。第1種磁路95の磁路幅の最小値は、磁石93が埋設される位置においてほぼ決定されるからである。そしてこのように磁石93の磁極幅を狭めることは、マグネットトルクの減少を招来する。
これに対してアキシャルギャップ型モータの回転子では、第2種磁路は固定子側に向く磁極を覆う磁性体で実現され、その断面積は周方向における断面において把握される。よってこの磁性体の厚みは磁石の大きさとは無関係に増大させることができ、第2種磁路の断面積を大きくする設計において磁石の大きさや位置を変動させる必要はない。従って、磁石とほぼ同一平面上に配置される磁性体によって実現される第1種磁路の断面積(これは回転軸に垂直な断面において把握される)を狭くすることもない。よってマグネットトルクを減少させたり、第1種磁路の断面積を損なったりせずに、第2種磁路の断面積を増大させることが可能である。
またアキシャルギャップ型モータの回転子では、回転軸方向に薄型化しても、外形を大きくして磁極の面積を増大させることができるので、マグネットトルクとリラクタンストルクの両方を大きくすることができる。
更に、アキシャルギャップ型モータの回転子では、ギャップに対向する面が平面であり、加工精度や組立精度を向上させやすい。また第2種磁路が設けられないか、又はこれを実現する磁性体の厚さが薄くても、磁石の磁極面が平面であるため、当該磁石は加工しやすく、またその寸法精度も高い。
第1の実施の形態.
図1は本発明の第1の実施の形態にかかる回転子1Aの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図2及び図3はそれぞれ位置II-II及び位置III-IIIにおける断面矢視図である。
回転子1Aは磁石12a,12b、磁性体13a,13b及びこれらを載置する基板11を有している。即ち回転子1Aは極対数1(極数2)の回転子として採用できる。基板11にはその中央に軸孔10も設けられている。
複数の磁石12a,12bは、軸孔10の周囲で極性を対称にして環状に配置され、その磁極面は回転軸方向(これは軸孔10に貫挿される回転軸の延在方向となり、紙面垂直方向と平行である)に対して垂直である。磁石12aは、回転軸の一方側(紙面手前側)に第1の極性を呈する磁極面を有し、磁石12bは、回転軸の一方側に第2の極性を呈する磁極面を有する。ここでは例えば磁石12a,12bは、それぞれ固定子側(紙面手前側)にN極、S極を呈しているものとする。磁石12a,12bは例えば、希土類焼結磁石で形成される。
複数の磁性体13a,13bは回転軸方向に垂直に、より具体的には磁石12a,12bの間において延在して配置される。磁性体13a,13bは例えば鉄、圧粉鉄心などの高透磁率材料で形成される。但し鉄損を低減する観点からは圧粉鉄心を採用することが望ましい。
回転子1Aにおいてd軸方向は磁石12a,12bを結ぶ方向であり、位置III-IIIを示す仮想線にほぼ平行である(図3)。他方、q軸方向は磁性体13a,13bを結ぶ方向であり、位置II-IIを示す仮想線にほぼ平行である(図2)。
このような構造において、磁石12a,12bを回避して磁性体13a,13bを経由する磁路はq軸方向の磁路となり、磁石12a,12bを経由する磁路はd軸方向の磁路となる。そしてこれらの磁路は電気角としてみれば直交している。よって本実施の形態では磁性体13a,13bによって第1種磁路が実現されている。従ってq軸インダクタンスを増大することができ、逆突極性を高めることができる。しかも、軸方向への小型化も容易である。
磁石12a,12b及び磁性体13a,13bは、その固定子側の面が同一平面に位置することが望ましい。磁性体13a,13bの厚みが薄いとq軸インダクタンスを増大させることができない一方、磁性体13a,13bの固定子側の面が磁石12a,12bの磁極面よりも固定子側へと突出していると、回転子の磁極面と固定子の磁極面との間の距離(以下これを「電機子間距離」と仮称する)が大きくなってしまうからである。
本実施の形態において、磁石12a,12b、磁性体13a,13bの間には、磁束の流れを阻害する磁気障壁として機能するギャップG1が設けられることが望ましい。磁石12a,12bの磁極面の間で、磁性体13a,13bが介在して磁束が流れることを抑制するためである。これにより固定子と回転子との間に流れる磁束に対しては磁束漏れとして把握される、回転子内部での磁束の短絡漏れを少なくする。これにより回転子の磁極面から発生する磁束を、これらの磁極面に対向する固定子へと、効率よく供給することができる。
回転子と固定子との間は磁束が往復して流れる。また磁石12a,12bの間では磁性体13aあるいは磁性体13bの両端のギャップG1二つを渡って磁束が流れる。従ってギャップG1の幅は、電機子間距離よりも大きく選定されることが望ましい。磁性体13a(あるいは磁性体13b)を介した磁石12a,12bの間の磁気抵抗を、固定子と回転子との間の磁気抵抗よりも高めることにより、回転子内での磁束短絡を小さくするためである。
また、磁石12a,12b、磁性体13a,13bと軸孔10との間には、磁束の流れを阻害する磁気障壁として機能するギャップG2が設けられることが望ましい。軸孔10に貫挿される回転軸が鉄などの磁性材料であっても、磁石12a,12b間での磁束に短絡が生じないようにするためである。もちろん、当該回転軸が非磁性鋼であれば、ギャップG2を設ける必要はない。
ギャップG2の幅も、電機子間距離よりも大きく選定されることが望ましい。磁石12a,12bの間で当該回転軸を経由する磁束は、ギャップG2を二回渡るからである。
基板11は磁性体であってもよい。この場合、基板11は磁石12a,12bを裏打ちするヨーク、いわゆるバックヨークとして機能する。バックヨークが設けられることにより、磁石12a(あるいは磁石12b)自身において、固定子側の磁極面と、これと反対側の磁極との間で磁束が短絡することを回避する。これにより固定子側の磁極面から発生する磁束を効率よく、固定子へと供給することができる。
なお、基板11が磁性体である場合、磁石12a,12bの間では磁性体13aあるいは磁性体13bと、ギャップG1一つと基板11とを経由して磁束が流れるので、ギャップG1は、電機子間距離の二倍以上に選定されることが望ましい。同様にして、ギャップG2の幅も、電機子間距離の二倍以上に選定されることが望ましい。
また磁石12a,12bの固定子とは反対側の磁極同士の間での磁気抵抗を低減できる。これにより、パーミアンス係数を高くして磁石12a,12bの動作点を高めることができる。これはトルクの向上を招来する。
図4は回転子1Aの製造方法を例示する斜視図である。所定位置に磁性体13a,磁性体13bを搭載した基板11を準備する。そして基板11における磁性体13a,磁性体13bの間の所定位置12aP,12bPへと、それぞれ磁石12a,12bを載置する。基板11もバックヨークとして機能させる場合には、基板11と磁性体13a,磁性体13bとを一体に成形してもよい。
なお、磁石12a,12bは、基板11に接着剤などで固着すればよいが、ボンド磁石を用いる場合であれば、予め磁性体13a,13bが設けられた側で基板11において一体成形してもよい。この場合、磁石12a,12bと磁性体13a,13bとが密着し、ギャップG1が設けられなくなる。
しかし磁石12a,12bの回転軸を中心とする周方向の端部において磁束密度が非常に小さくなるように分布して着磁することにより、実質的にはギャップG1を設けることと磁気的には等価な構成を得ることができる。
なお、基板11と磁石12a,12bとを予めボンド磁石で一体に構成することも可能である。この場合いわゆる極異方配向を採用してもよい。
第2の実施の形態.
図5は本発明の第2の実施の形態にかかる回転子1Bの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図6及び図7はそれぞれ位置VI-VI及び位置VII-VIIにおける断面矢視図である。
回転子1Bは磁石120a,120b、磁性体130a,130b及びこれらを載置する基板110を有している。即ち回転子1Bも極対数1(極数2)の回転子として採用できる。基板110にはその中央に軸孔10も設けられている。
基板110と磁性体130a,130bとは、例えば鉄や圧粉鉄心などの高透磁率材料を採用して一体に形成される。つまり基板110はバックヨークとしても機能する。一体として形成する観点からも、鉄損を低減する観点からも、基板110と磁性体130a,130bには圧粉鉄心を採用することが望ましい。
基板110と磁性体130a,130bには、磁性体130a,130bが設けられた側からボンド磁石120が設けられており、こちら側に固定子(図示せず)が配置されることになる。
ボンド磁石120は磁性体130a,130bの間に挟まれた部分のみならず、磁性体130a,130bをも覆って形成される。これらを覆わずにボンド磁石120を形成してもよいが、磁性体130a,130bをそれぞれ覆う部分121a,121bが存在しても、これらの部分が薄いので、実質的には磁気抵抗が高い磁気障壁として機能する。
磁石120a,120bはボンド磁石120を着磁して実現できる。具体的には磁性体130a,130bの間に挟まれた部分に対して着磁し、部分121a,121bには実質的には着磁しない。磁性体130a,130bを介して隣接する磁石120a,120bは、異なる極性で着磁されている。
従って回転子1Bにおいても回転子1Aと同様に、磁性体130a,130bによって第1種磁路が実現されている。従ってq軸インダクタンスを増大することができ、逆突極性を高めることができる。
図8は回転子1Bの構造を周方向に沿って展開した展開図である。図中で上方が固定子側となり、記号「N」「S」は、それぞれ磁石120a,120bが固定子側に有する磁極面が呈する極性を示している。
このような極性で着磁されるため、磁石120a,120bの境界に位置するボンド磁石120、即ち磁性体130a,130bを覆う部分121a,121bは、実質的には着磁されず、磁石120a,120bの間での磁気障壁として機能する。一般にボンド磁石の材料は透磁率が小さく、部分121a,121bも薄く形成できるからである。
このような構造を採用することにより、回転子1Bにおいては磁石120a,120bとヨークとして機能する基板110との密着性が高いので、よりパーミアンス係数を高くできる。しかも、磁石を別途に基板へと接着しなくても、両者の固着性を高めて回転子1Bを形成することができる。
ボンド磁石は樹脂などのバインダに磁石の粉末を混ぜたものであるので電気抵抗が高く、焼結された希土類磁石を採用した場合と比較して渦電流損を極めて低減できる。もちろん、磁石の粉末として希土類磁石を採用してもよく、その場合には回転子が発生する磁束密度を高めることができる。
図9は本実施の形態の変形を示す展開図であり、回転子1Bの変形された構造を周方向に沿って展開した。当該構造においては磁性体130a,130bが周方向に沿って正弦波状にその表面が変動している。より具体的には、一周当たり、回転子の極数(ここでは1)と同数の周期数で正弦波が現れる。
このような基板110,磁性体130a,130bに対してボンド磁石120を形成することにより、回転子1Bから供給される磁束を回転軸の周囲で正弦波状に制御し易く、以てコギングトルクを軽減できる。
ボンド磁石120を用いることにより、磁石120a,120bの形状の自由度が高くなり、図9に示された変形のように回転子1Bから供給される磁束の分布を制御し易い。
図10及び図11は回転子1Bの製造方法を例示する斜視図である。所定位置に磁性体130a,磁性体130bが配置された基板110を準備する(図10)。そしてボンド磁石120をこれらの上部に形成する(図11)。電機子間距離を適切にするために、ボンド磁石120の固定子側表面は平坦にすることが望ましい。成型時にボンド磁石120を磁場配向してもしなくてもよく、成形後のいつでも着磁して磁石120a,120bを得ることが容易である。なお、成型時に磁場配向する場合、振動・騒音を低減するために最適化された着磁分布を与えることも容易である。
また基板に楔状の凸部または凹部を設け、その部分をボンド磁石で覆い、または流し込むことにより、ボンド磁石と基板とが分離しにくくできる。
磁性体130a,磁性体130bよりも外側にボンド磁石120があれば、その部分で基板110上にボンド磁石120が厚く形成されてしまう。よって、未着磁部分を薄くするためには、磁性体130a,130bの外縁とボンド磁石120の外縁とを一致させることが望ましい。これを簡易に実現するためには、磁性体130a,130bの外縁を基板110の外縁と一致させることが望ましい。図10では磁性体130a,130bの外縁と基板110の外縁とが一致する場合を例示した。
回転子1Bにおいても回転子1Aと同様に、軸孔10の周囲には磁石120a,120bや磁性体130a,130bとの間にギャップG2を設けておくことが望ましい。
第3の実施の形態.
図12は本発明の第3の実施の形態にかかる回転子1Cの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図13及び図14はそれぞれ位置XIII-XIII及び位置XIV-XIVにおける断面矢視図である。回転子1Cは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1〜図3)に対して、磁石12a,12bの磁極面に、磁気的に独立して設けられた磁性体14a,14bを個別に載置して覆った構造を有している。ここでは磁性体14a,14bを磁石12a,12bと同型として場合を例示している。図12は固定子側から見た平面図であるので、磁石12a,12bが磁性体14a,14bに隠れてしまっていることを、それぞれ符号14a(12a),14b(12b)として表している。回転子1Cの磁極面は磁性体14a,14bの固定子側の表面となる。
回転子1Cでは回転子1Aと同様にして磁性体13a,13bによって第1種磁路が形成される他、磁石12a,12bよりも固定子側に設けられた磁性体14a,14bによって第2種磁路が形成されている。即ち図14に示されるようにd軸方向において磁性体14a,14bが存在するため、q軸インダクタンスは回転子1Aと比較して、より大きくすることができる。
回転子1Cも回転子1Aと同様に製造することができ、磁石12a,12b上にそれぞれ磁性体14a,14bを載置する。図15はこのようにして製造される、回転子1Cの製造方法を例示する斜視図である。図15において図示される磁性体13a,13bの形状は図12において図示される磁性体13a,13bとは若干形状が異なるが、ここでは特に区別して説明しない。他の実施の形態においても同様である。
基板11を磁性体で形成し、これに磁石12a,12bに対するバックヨークとしての機能を持たせてもよい。
ここでは磁性体13aの厚さと、磁性体13bの厚さと、磁性体14aの厚さと磁石12aの厚さの和と、磁性体14bの厚さと磁石12bの厚さの和とが互いに等しく選定されている。このように磁性体14a,14bが回転子1Cにおいて固定子側に設けられていることから、電動機の軸方向の寸法を低減しにくいという不利益はあるが、以下のように、コギングトルクを低減するための工夫やスキューを得る工夫が容易となる。
また磁石12a,12bよりも固定子側に磁性体14a,14bが配置されるので、渦電流が発生したとしても磁性体14a,14bにおいて発生し易くなり、磁石12a,12b内部での渦電流発生が抑制される。これは特に電気抵抗が小さな材料、例えば焼結された希土類磁石を磁石12a,12bとして採用する場合に有利である。磁石の発熱や鉄損の増加による効率の低下を抑えることが可能だからである。換言すれば、渦電流の発生の懸念なく、焼結された希土類磁石を磁石12a,12bとして採用し、磁束密度が高い回転子を得ることができる。
もちろん、渦電流が発生し易い位置にある磁性体14a,14bには、鉄損の小さい材料、例えば鉄を用いることで渦電流損失が低減できる。
かかる利点は特にPWMインバータで駆動されるモータに回転子1Cを採用する場合に好適である。PWMインバータによって当該モータに流される電流の周波数は高く、渦電流は表皮効果によって磁性体の表面近傍で発生し易いからである。
図16乃至図19はいずれも回転子1Cの種々の変形を周方向に沿って展開した展開図である。図中で上方が固定子側となる。図16に示された第1の変形では、磁性体14a,14bが固定子側へと凸となる鼓状を呈しており、磁性体14aの周方向についての端部14aEや磁性体14bの周方向についての端部14bEが磁性体14a,14bの中央部よりも薄くなっている。これにより、ラジアルギャップ型モータにおいて固定子のティースの先端が回転子から退く工夫と同様にして、コギングトルクを低減することができる。
また、図17に示された第2の変形のように、端部14aE,14bEを面取りして、これらを磁性体14a,14bの中央部よりも薄くしてもよい。
あるいは図18に示された第3の変形のように、端部14aE,14bEの側面を軸方向に対して周方向に沿って厚み方向(回転軸方向)に対して傾斜させれば、更にスキューをも得ることができる。
図19に示された第4の変形では、いわゆる補助溝141が径方向に沿って磁性体14a,14bの固定子側表面に設けられている。補助溝141はラジアルギャップ型モータにおいて固定子のティース表面で軸方向に沿って設けられる補助溝と同様にして、コギングトルクの周期を短くし、これを低減することができる。
回転子1C及び上記変形においても、回転子1Aと同様に、ギャップG1,G2を設けることが望ましい。なお、磁性体14a,14bは必ずしも磁石12a,12bと同型である必要はないが、磁石と、第2種磁路を形成する磁性体との間の寸法の関係については後の実施の形態で説明する。
第4の実施の形態.
第3の実施の形態では第1種磁路と第2種磁路の両方が存在する場合を説明したが、第2種磁路のみを形成することができる。このような態様をラジアルギャップ型モータの埋込磁石型回転子で実現しようとすれば、却って構成を複雑にしてしまうことになる。
図20は本発明の第4の実施の形態にかかる回転子1Dの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図21及び図22はそれぞれ位置XXI-XXI及び位置XXII-XXIIにおける断面矢視図である。回転子1Dは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1〜図3)に対して、磁性体13a,13bを省略し、磁石12a,12bの磁極面に固定子側から載置されてこれらを覆う磁性板541を追加した構成を有している。
磁性板541は軸孔10に近い位置から遠い位置へと延在し、貫通して開口するスリット55a,55bを有している。そしてスリット55a,55bによって、磁性板541は軸孔10を中心として周方向に区分された磁性板541は、それぞれ磁性体54a,54bとして機能する。磁性体54a,54b同士はスリット55a,55bの外周側の端で薄肉部56a,56bを介して、軸孔10側の端で薄肉部56c,56dを介して、相互に連結される。スリット55a,55bは平面視上、磁石12a,12bの間に位置し、磁束の短絡を防いでいる。回転子1Dの磁極面は磁性体54a,54bの固定子側の表面となる。
このような構造とすることにより、第3の実施の形態で示された回転子1C(図12〜図19)の磁性体14a,14bのように個別に分離して形成する場合よりも、部品点数を少なくして磁性体54a,54bを得ることができ、磁性板541の強度を高めることができる。薄肉部56a〜56dは容易に磁気飽和するので、磁性体54a,54b同士がこれを介して連結されていても、回転子1D内部での磁束の短絡は極めて小さい。
そして磁性体54a,54bは磁性体14a,14bと同様に、磁石12a,12b内部での渦電流の発生を抑制する。もちろん、渦電流が発生し易い位置にある磁性板541には、鉄損の小さい材料、例えば圧粉鉄心や適当な方向に積層された電磁鋼板などを用いることで渦電流損失が低減できる。
しかも、磁石12a,12bの磁極面を覆う磁性体54a,54bの面積を当該磁極面の面積よりも大きくし易い。これはスリット55a,55bの存在によって回転子内部での磁束の短絡を小さくしつつも、磁極面の面積を実質的に広げるので、磁性板541内部での磁気飽和を緩和できる。
なおスリット55a,55bの周方向に沿った幅は、電機子間距離の2倍以上に選定されることが望ましい。磁石12a,12bの間で磁性体54a,54bを経由する磁路の磁気抵抗を、固定子と回転子との間の磁気抵抗よりも高めて、回転子内での磁束の短絡を小さくするためである。
図23は回転子1Dの製造方法を例示する斜視図である。回転子1Dも回転子1Cと同様に製造することができる。即ち、基板11の所定位置12aP,12bPに対して、それぞれ磁石12a,12bを載置し、磁石12a,12b上に磁性体14a,14b(図15)に代えて磁性板541を載置する。この際のスリット55a,55bの位置は上述の通りである。
もちろん、磁性体54a,54bにおいて、第3の実施の形態で図16乃至図19で示されたような形状の変形を行ってもよい。
また磁石12a,12bをリング状磁石によって一体に形成してもよい。その場合には、平面視上でスリット55a,55bが設けられる位置近傍で実質的に無着磁とすることが望ましい。この態様は、作製が容易であり、また磁石12a,12bを載置する基板11を省略できる利点もある。
実質的に無着磁とは、単に磁化されていない場合の他、軸方向と垂直に磁化され、軸方向の磁化成分を有しない場合をも含む。
また基板11を磁性体で形成し、これに磁石12a,12bに対するバックヨークとしての機能を持たせてもよい。基板11と磁石12a,12bとを予めボンド磁石で一体に構成することも可能である。この場合いわゆる極異方配向を採用してもよい。
基板11が磁性体で形成された場合には、固定子からの磁界は磁極面を覆う磁性体54a,54bから磁石12a,12bを迂回して基板11へと流れやすくなるので、磁石12a,12bが減磁しにくい。
第5の実施の形態.
図24は本発明の第5の実施の形態にかかる回転子1Eの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図25、図26及び図27はそれぞれ位置XXV-XXV、位置XXVI-XXVI及び位置XXVII-XXVIIにおける断面矢視図である。回転子1Eは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1〜図3)に対して、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bにそれぞれ固定子側から載置されてこれらを覆う他の磁性体54c,54e,54d,54fを追加した構成を有している。
具体的には、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bを固定子側から載置されてこれらを覆う磁性板542が設けられる。磁性体542は軸孔10よりも大きな孔540を有している。そして磁性板542は軸孔10に近い位置から遠い位置へと延在し、貫通して開口するスリット55c〜55fを有しており、これらによって周方向に区分された磁性板542が磁性体54c〜54fとして機能する。
より具体的には平面視上、スリット55cは磁石12aと磁性体13aとの間に位置し、スリット55dは磁石12bと磁性体13aとの間に位置し、スリット55eは磁石12bと磁性体13bとの間に位置し、スリット55fは磁石12aと磁性体13bとの間に位置している。
そしてスリット55c,55dの間に位置する磁性板542が磁性体54dとして、スリット55d,55eの間に位置する磁性板542が磁性体54eとして、スリット55e,55fの間に位置する磁性板542が磁性体54fとして、スリット55f,55cの間に位置する磁性板542が磁性体54cとして、それぞれ機能する。
なお磁性体54c,54d同士はスリット55cの外周側の端で薄肉部56eを介して、軸孔10側の端で薄肉部56iを介して、磁性体54d,54e同士はスリット55dの外周側の端で薄肉部56fを介して、軸孔10側の端で薄肉部56jを介して、磁性体54e,54f同士はスリット55eの外周側の端で薄肉部56gを介して、軸孔10側の端で薄肉部56kを介して、磁性体54f,54c同士はスリット55cの外周側の端で薄肉部56hを介して、軸孔10側の端で薄肉部56lを介して、それぞれ相互に連結される。回転子1Eの磁極面は磁性体54c54eの固定子側の表面となる。
別の見方をすれば、磁石12a,12bを覆う磁性体54c,54e同士は、磁性体13a,13bを覆う磁性体54d,54fと、上述の薄肉部とを介して、相互に連結されることになる。
スリット55c〜55fは、磁性板542において磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの間で磁束が流れることを阻む。薄肉部56e〜56lは容易に磁気飽和するので、磁性体54c〜54f同士がこれらを介して連結されていても、回転子1E内部での磁束の短絡は極めて小さい。
スリット55c〜55fの周方向の幅は、第4実施の形態で説明した場合とは異なり、電機子間距離よりも大きく選定されることが望ましい。磁石12a,12bの間で磁性体54c,54d,54eを経由する磁路は、二つのスリット55c,55dを有するからである。
図24では、スリット55c〜55fの周方向の幅を、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの境界に位置する周方向のギャップG1と等しく採用した場合を例示しているが、必ずしも両者を一致させる必要はない。スリット55c〜55fの周方向の幅は、回転子1E内の漏洩磁束を低減することを主眼として設計する場合には広く、磁石12a,12bの実質的な磁極面を広く得ることを主眼として設計する場合には狭く、それぞれ設定することができる。
このような構造とすることにより、第2種磁路の磁気インダクタンスをより大きくし、逆突極性を高めることができる。また磁性体54c〜54fを個別に分離して形成する場合よりも部品点数を少なくし、磁性板542の強度を高めることができる。もちろん、渦電流が発生し易い位置にある磁性板542には、鉄損の小さい材料、例えば圧粉鉄心や適当な方向に積層された電磁鋼板などを用いることで渦電流損失が低減できる。
図28は回転子1Eの製造方法を例示する斜視図である。回転子1Eも回転子1Dと同様に製造することができる。即ち、基板11の所定位置12aP,12bPに対して、それぞれ磁石12a,12bを載置し、磁石12a,12b及び磁性体13a,13b上に磁性板542を載置する。この際のスリット55c〜55fの位置は上述の通りである。
もちろん、磁性体54c〜54fにおいて、第3の実施の形態で図16乃至図19で示されたような形状の変形を行ってもよい。
また基板11を磁性体で形成し、これに磁石12a,12bに対するバックヨークとしての機能を持たせてもよい。基板11と磁石12a,12bとを予めボンド磁石で一体に構成することも可能である。この場合いわゆる極異方配向を採用してもよい。
なお、基板11が磁性体である場合、磁石12a,12bの間では磁性体13aあるいは磁性体13bと、スリット一つと基板11とを経由して磁束が流れるので、スリットの幅は、電機子間距離の二倍以上に選定されることが望ましい。
第6の実施の形態.
図29は本発明の第6の実施の形態にかかる回転子1Fの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。基板11の中央には軸孔10が設けられている。基板11上には4個の磁石12c,12d,12e,12fが配置され、固定子側(紙面手前側)に対して磁石12c,12eが第1の極性(例えばN極)を、磁石12d,12fが第2の極性(例えばS極)を、それぞれ呈している。よって回転子1Fは極対数2(極数4)の回転子として採用できる。
回転子1Fは、第4の実施の形態で示された回転子1D(図20〜図22)と同様に、磁石間には磁性体を有しておらず、磁性板541の代わりに磁性板543が載置されている。磁性体543は軸孔10よりも大きな孔540を有している。磁性板543は軸孔10に近い位置から遠い位置へと延在し、貫通して開口するスリット55g〜55jを有しており、これらによって周方向に区分された磁性板543が磁性体54g〜54jとして機能する。
より具体的には平面視上、スリット55gは磁石12c,12dの間に位置し、スリット55hは磁石12d,12eの間に位置し、スリット55iは磁石12e,12fの間に位置し、スリット55jは磁石12f,12cの間に位置する。
そしてスリット55j,55gの間に位置する磁性板543が磁性体54gとして、スリット55g,55hの間に位置する磁性板543が磁性体54hとして、スリット55h,55iの間に位置する磁性板543が磁性体54iとして、スリット55i,55jの間に位置する磁性板543が磁性体54jとして、それぞれ機能する。
第4の実施の形態で示された回転子1D(図20〜図23)や第5の実施の形態で示された回転子1E(図24〜図28)と同様にして、磁性体54g〜54jのうち隣接するもの同士は、スリット55g〜55jの外周側の端や軸孔10側の端で、薄肉部を介して相互に連結される。回転子1Fの磁極面は磁性体54g〜54jの固定子側の表面となる。
第4の実施の形態や第5の実施の形態で述べたスリット55a〜55fと同様に、スリット55g〜55jは、磁性板543において磁石12c〜12dの間で磁束が流れることを阻む。また回転子1Fの薄肉部においても既述の薄肉部56a〜56lと同様に容易に磁気飽和するので、磁性体54g〜54j同士がこれらを介して連結されていても、回転子1F内部での磁束の短絡は極めて小さい。
このような構造とすることにより、第4の実施の形態や第5の実施の形態と同様の効果を得ることができる。更に、本実施の形態にかかる回転子1Fでは、スリット55g〜55jが径方向に対して傾斜しているため、回転子1Fの磁極面の境界は径方向に対して傾斜することになる。よっていわゆるスキューが設けられることとなり、コギングトルクを小さくできる。
図29においては、スリット55g〜55jのそれぞれが、軸孔10側の端部と回転子1Fの中心Zとを結ぶ直線に対して、外周側の端部と中心Zとを結ぶ直線がスキュー角として示されており、15度の場合が例示されている。またスリット55g〜55jは直線状に延びている場合が図示されているが、曲線状に延びてもよい。
また磁石12c〜12dをリング状磁石によって一体に形成してもよい。その場合には、平面視上でスリット55g〜55jが設けられる位置では、無着磁とすることが望ましい。この態様は、作製が容易であり、また磁石12c〜12dを載置する基板11を省略できる利点もある。基板11を省略する場合には、磁石は極異方性配向とすることが望ましい。
スリット55g〜55jの周方向の幅は、第4実施の形態で説明した場合と同様、電機子間距離の2倍以上に選定されることが望ましい。隣接する磁石の間で短絡する磁束が流れる磁路は、スリット一つ分だからである。
もちろん、磁性体54g〜54jにおいて、第3の実施の形態で図16乃至図19で示されたような形状の変形を行ってもよい。
また基板11を磁性体で形成し、これに磁石12c〜12dに対するバックヨークとしての機能を持たせてもよい。基板11と磁石12c〜12dを予めボンド磁石で一体に構成することも可能である。この場合いわゆる極異方配向を採用してもよい。
図30は、本発明の第6の実施の形態の変形にかかる回転子1F1を示す平面図である。回転子1F1は回転子1Fのスリット55g,55h,55i,55jの幅を広げた形状を有している。具体的には一つのスリットの周方向の両端は、互いに径方向に対して傾斜している。そしてそれらのスキュー角をそれぞれ二等分する線同士が成す角度が、30度である場合が例示されている。
このようにスリットを広がることにより、磁性体54g〜54jのそれぞれの平面視上の中心へと磁束が集まって、トルクを増大できる場合もある。
第7の実施の形態.
第1乃至第6の実施の形態では、回転子1A〜1Fの構造について具体的に説明してきた。これらで例示されるような本発明にかかる回転子はいずれも従来のアキシャルギャップ型の固定子と組み合わせて、アキシャルギャップ型のモータを構成することができる。もちろん、本発明で得られる回転子のいずれについても、固定子の構造は固定子2や後述する固定子3に限定されるものではない。
本実施の形態及び第8の実施の形態においては、本発明にかかる回転子と共に採用可能である固定子の構造及び当該回転子との組み合わせによって得られるモータの構造について例示する。
図31は本発明にかかるモータに採用できる回転子1F及び固定子2の構造を例示する斜視図である。図31では回転軸中心90に沿って分解されているが、実際には回転子1F及び固定子2はそれぞれにおいて回転軸中心90に沿って積層される。
なお簡単のため、ここでは回転子1Fのスリット55g〜55jにおいてスキューを設けていない場合が例示されている。
固定子2において基板21は回転軸中心90に垂直な表面210を有し、表面210上に、回転軸中心90にほぼ平行に屹立し、回転軸中心90回りに環状に配置される磁芯221〜226が設けられている。磁芯221〜226は基板21よりも回転子側に設けられることになる。
磁芯221〜226には鉄等の高透磁率材を採用することができる。ここでは磁芯221〜226が丸みを帯びた三角柱を呈する場合が例示されているが、他の形状を採用することもできる。
基板21と磁芯221〜226とを、例えば圧粉鉄心で一体に形成してもよい。
基板21は磁性体であっても非磁性体であってもよいが、磁芯221〜226にとってのバックヨークとして機能させるためには、磁性体を採用することが望ましい。
磁芯221〜226にはそれぞれ巻線231〜236が巻回される。即ち巻線231〜236は、異なる相で全く独立して磁芯221〜226に集中巻で直接巻回されている。巻線は回転軸中心90の方向に沿って重ならずに1層ですむため、銅量が小さく、回転軸中心90の方向の寸法も小さくできる。図31では巻線231〜236のそれぞれの導線を細かく示さず、巻線毎にまとめて示している。
巻線231〜236は3相巻線として巻回されており、各相毎に対を成す。そして、この対を成す巻線は周方向で相互に180°ずれた位置に配置される。そして巻線231〜236に電流を流すことにより、それぞれ磁芯221〜226から磁束が発生する。
固定子2が極対数1の回転子と共にモータを構成する場合には、この一対の巻線によって相互に逆相の磁束を発生させる。固定子2が極対数が2の回転子と共にモータを構成する場合には、この一対の巻線によって相互に同相の磁束を発生させる。図31において例示された回転子1Fは極対数が2であるので、上記一対の巻線には同相の磁束を発生させる。
図31では固定子2において磁芯221〜226上に磁性板24を載置した場合を例示しているが、これは省略してもよい。磁性板24にはいずれもこれを貫通する中央孔250と、スリット251〜256とが設けられている。スリット251〜256は磁性板24の内周側(中央孔250側)から外周側に亘って薄肉部を残して貫通して設けられている。
回転軸中心90に沿った平面視上、中央孔250は磁芯221〜226に囲まれており、スリット251は磁芯221,222に、スリット252は磁芯222,223に、スリット253は磁芯223,224に、スリット254は磁芯224,225に、スリット255は磁芯225,226に、スリット256は磁芯226,221に、それぞれ挟まれている。
このような磁性板24を設けても、薄肉部は磁気飽和し易く、スリット251〜256も設けられているので、磁芯221〜226から発生する磁束が磁性板24によって短絡することはない。換言すれば、磁性板24は一対のスリットによって挟まれた6つの磁性体261〜266として機能し、磁性体261〜266に磁芯221〜226の磁極面を実質的に広がる機能を担わせることもできる。
周方向に沿っての磁芯221〜226同士の境界は、巻線231〜236が収納されるので小さくすることはできない。しかし固定子2の磁極面は、磁性板24の回転子側の表面として把握できる。従って磁性体261〜266によって磁極面が磁芯221〜226よりも実質的に広がることにより、回転子と固定子の間での磁束密度を均一化し易くなる。
スリット251〜256の周方向の幅G3の好適値は、電機子間距離の2倍以上に設定されることが望ましい。磁性体261〜266の二つの間で固定子内を漏洩する磁路においてはスリット一つ分の磁気障壁が存在する一方、回転子を介して流れる磁路においては固定子と回転子の間を一往復するからである。
磁性板24と磁性板543とはその内径と外径を略同一にすれば、回転子と固定子との間で磁束を効率よくやりとりさせる観点で望ましい。なお、磁性板24は巻線231〜236を保護する機能も担っている。
図32は、図31に示された構造を回転軸中心90に沿って結合して構成されたモータ100の側面図であり、電機子間距離δが図示されている。
図33は上述のモータ100が適用された圧縮機200を例示する断面図である。但しモータ100は側面図を用いて示している。
吸入管206から冷媒を供給し、モータ100で駆動される圧縮要素205にて冷媒を圧縮、圧縮された高圧冷媒は吐出管207から吐出される。ラジアルギャップ型のモータを使えば、エアギャップの上方が遮られることなく吐出管に通じているため、冷凍機油をも吐出管から出て行ってしまうという問題がある。
しかし本発明のようにアキシャルギャップ型のモータ100を採用すると、上部に配置された回転子1Fの下面から遠心力によって冷凍機油は圧縮機200の壁面にあてて滴下できるので、油上りの低減の観点から望ましい。
また、回転子1Fに固定子2と反対側で取り付けられるバランスウエイト208も、径を大きくできるので、回転軸方向の長さを小さくすることができる。
なお、圧縮要素205は、モータ100よりも下方に配置するとより好適である。回転子1Fの径が大きいので、冷凍機油を攪拌しないようにするためである。横置きとすると、回転子が冷凍機油に浸かるので、圧縮機200は縦置きとすることが望ましい。
駆動回路は3相のインバータにより駆動するとよい。単相では、回転方向が定まりにくく、4相以上では回路が複雑となるためである。トルクリプルを抑制する観点から、駆動電流波形は正弦波がよい。
このように圧縮機200では本発明にかかる回転子を採用するモータで駆動されるので、圧縮機の効率が高い。かかる圧縮機への応用は本実施の形態以外の回転子を採用しても可能なことはもちろんである。
第8の実施の形態.
図34は本発明にかかるモータに採用できる回転子1F及び固定子3の構造を例示する斜視図である。ここでは回転軸中心90に沿って分解して示されているが、実際には回転子1F及び固定子3のそれぞれにおいて、回転軸中心90に沿って積層される。図35は固定子3が有する磁性体30の構造を示す斜視図である。
なお基板11上に設けられる磁性体13a,13b(図1〜図4)は基板11に隠れているため図34においては現れていない。また巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bのそれぞれの導線を細かく示さず、巻線毎にまとめて示している。
磁性体30において基板31は回転軸中心90に垂直な表面310を有し、表面310上には第1段スペーサ311,313と、第2段スペーサ312,314とが設けられており、第1段スペーサ311,313上にそれぞれ磁芯321,324が、第2段スペーサ312,314の上にそれぞれ磁芯322,323及び磁芯325,326が、いずれも回転軸中心90にほぼ平行に屹立している。磁芯321〜326は回転軸中心90回りにこの順に環状に配置されて設けられている。磁芯321〜326は基板31よりも回転子側に設けられることになる。
第1段スペーサ311,313はいずれも表面310上に設けられ、周方向において、ほぼ180度で広がるものの相互に離隔している。また第2段スペーサ312,314はそれぞれ第1段スペーサ311,313上の周方向における端部に設けられ、周方向において、ほぼ120度で広がるものの相互に離隔している。
表面310上に、回転軸中心90にほぼ平行に屹立し、回転軸中心90回りに60度ずつ環状に配置される磁性体311〜316が設けられている。磁性体311〜316は基板31よりも回転子側に設けられることになる。
固定子3は三対の巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bを有しており、その各々がいわゆる分布巻で三個の磁性体の周囲に巻回される。例えば、図34に示されるように、予め所定の形状に巻回された巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bを準備し、これを後述する順序で回転軸中心90に沿って磁性体30へと填め込む。
具体的にはまず、磁芯321,322,323を囲んで巻線33aを設け、磁芯324,325,326を囲んで巻線33bを設ける。この際、巻線33a,33bはそれぞれ第1段スペーサ311,313の周囲に設けられることになる。
第1段スペーサ311,313の高さを巻線33a,33bの回転軸方向の幅と一致させることにより、第1段スペーサ311,313及び巻線33a,33bは第1層L1に収まる。
次に磁芯322,323,324を囲んで巻線34aを設け、磁芯325,326,321を囲んで巻線34bを設ける。この際、巻線34a,34bはいずれも第1段スペーサ311,312、巻線33a,33b上に載ることになる。上述の通り、第1段スペーサ311,313及び巻線33a,33bを第1層L1に収めることにより、巻線34a,34bを安定して配置することができる。
第2段スペーサ312,314の高さを巻線34a,34bの回転軸方向の幅と一致させることにより、第2段スペーサ312,314及び巻線34a,34bは第2層L2に収まる。
更に、磁芯323,324,325を囲んで巻線35aを設け、磁芯326,321,322を囲んで巻線35bを設ける。この際、巻線35a,35bはいずれも第2段スペーサ312,314、巻線34a,34b上に載ることになる。上述の通り、第2段スペーサ312,314及び巻線34a,34bを第2層L2に収めることにより、巻線35a,35bを安定して配置することができる。
磁芯323,326の高さを巻線35a,35bの回転軸方向の幅と一致させることにより、磁芯323,326及び巻線35,35bは第3層L3に収まる。もちろん、電機子間距離を小さくするため、磁芯321〜326の回転子1A側の頂面は巻線35a,35bから固定子1A側へとはみ出してもよい。
上述のようにして磁性体30に巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bが設けられた状態を、斜視図として図36に示した。
次に回転子1Aを回転させるために、巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bに流すべき電流について説明する。ここでは回転子1Aから固定子3を見る方向において、反時計周りで回転子1Aを回転させる場合を例挙する。
図34に示された状態において、巻線33a,33bは、磁石12a,12bに直接に対向しているため、流す電流は零とする。電流を流してもその電流によるトルクは零だからである。
一方巻線34aに流す電流は、S極を固定子3側に呈する磁石12bを吸引するため、磁芯322,323,324をN極に励磁する。つまり反時計回り方向に電流を流す。逆に巻線34bには時計回り方向に電流を流し、磁芯326,321,322をS極に励磁して、N極を固定子3側に呈する磁石12aを吸引する。
同様に巻線35aに流す電流は、磁石12bを吸引するためにN極に励磁する必要がある。従って、反時計回り方向に電流を流す。巻線35bに流す電流は、磁石12aを吸引するためにS極に励磁する必要がある。従って、時計回り方向に電流を流す。
さて回転子1Aが反時計回り方向に回転し始めると、巻線33aにはN極を呈する磁石12aが近接するため、磁芯321,322,323をS極へと励磁する。具体的には巻線33aに時計回り方向にU相電流を流す。一方、巻線34a,34bにはそれぞれ磁石12b,12aが近接するため、電流値を零に近づける。巻線35aには磁石12bとの相互の位置関係がトルク最大となる位置に近づくため,電流値を増す。巻線35bについても同様である。
即ち、回転子1Aと固定子3の周方向の位置関係が図34のようにある時点を基準にとれば、巻線33a,33b,34a,34b,35a,35bの電流位相はそれぞれ180°,0°,120°,300°,60°,240°となり、進相でも遅相でもない。
各層L1,L2,L3において巻回された一対の巻線はそれぞれの周方向において180度ずれた位置に配置される。また、巻線の対同士は相互に120度ずれた位置に配置される。巻線33a,33bに相互に逆相で(即ち電気角を180度違えて)U相電流を流し、巻線34a,34bに相互に逆相でV相電流を流し、巻線35a,35bに相互に逆相でW相電流を流すことにより、三相のアキシャルギャップ型の固定子として動作する。これらの巻線に流す励磁電流は正弦波電流であることが望ましい。トルクリプルを抑制するためである。
巻線33b、34b、35bは巻線33a、34a,35aのそれぞれ反対向きに巻回すれば、これらに流す電流として、相互に120°ずれた3相電流を採用することができる。
これらの電流を例えばインバータにより得て、周波数及び電流値を必要に応じて変化させてモータを駆動する。
さて、回転子1Aは逆突極性を有しており、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdよりも大きい。従って、電流位相を進めることにより、リラクタンストルクを有効利用できる。上述の電流位相よりも0°をこえ45°未満の角度で電流位相を進めることにより、リラクタンストルクを併用できる。q軸インダクタンスLqやd軸インダクタンスLdの設計や負荷点にも依存するが、通常は15〜30°程度進めるとトルクを最大にできる。
磁性体30及び磁性体13a,13b(図1〜4参照)には、軸方向にも磁束が流れるため、軸方向に積層した鋼板では鉄損が増大する。従って、圧粉鉄心を用いることが望ましい。
また基板11もバックヨークとして機能する場合には、これに磁石12a,12bの反磁極面の磁束が一定して流れているのに加え、磁性体13a,13bを介して固定子3の励磁電流によて変化する磁束も流れ込む。よって基板11も圧粉鉄心を採用して形成することが望ましい。
もちろん、磁芯321〜326には鉄を採用することもできる。また磁芯321〜326が丸みを帯びた三角柱を呈する場合が例示されているが、他の形状を採用することもできる。
磁性体30のうち、基板31は非磁性体であってもよいが、磁芯321〜326にとってのバックヨークとして機能させるためには、磁性体であることが望ましい。
また、第1段スペーサ311,313や第2段スペーサ312,314に非磁性体を採用することもできる。但しこれらも磁芯321〜326と同様に圧粉鉄心で形成することにより、一体成形で形成できるという利点が得られる。
もちろん、基板31を第1段スペーサ311,313及び第2段スペーサ312,314並びに磁芯321〜326と一体に圧粉鉄心で形成してもよい。
第9の実施の形態.
これまでの実施の形態で説明された回転子やモータでは、固定子が一つ設けられていた。しかしながら、特許文献1乃至4に例示されているように、回転子を挟む一対の固定子が設けられる場合にも、本発明を適用することができる。
図37は本実施の形態にかかる回転子1Gの構造を例示する斜視図である。図37では回転軸中心90に沿って分解して例示しているが、実際には回転子1Gは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Gは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1〜図4)に対し、磁石12a,12b及び磁性体13a,13b(図37においては現れない)とは反対側で、基板11に対して磁石12g,12h及び磁性体13g,13hを設けた構造を有している。基板11の一方の面における磁石12g,12h及び磁性体13g,13hの位置関係は、基板11の他方の面における磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの位置関係と同じである。
例えば磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの厚さは相互に等しく、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hの厚さは相互に等しい。あるいは更に、これらの厚さが全て等しくてもよい。
このような回転子1Gに対して、磁石12a,12b側と磁石12g,12hとの両方に固定子を設けてモータを構成することにより、基板11の両側においてトルクを発生する機構が形成される。よって当該モータはトルクを増大させ易く、あるいは少ない電流で必要なトルクを得やすい。
ここでは基板11を介して、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bと、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hとがそれぞれ対向する場合を例示するが、そのような対向は必ずしも要求されない。但し、このように対向している方が、固定子を配置する設計は容易となる。
もちろん対向する位置関係を、正対位置から若干ずらせることも、スキューを得る観点からは望ましい。あるいは回転子1Gを挟んで一対設けられる固定子が発生する回転磁界が回転子1Gを介して相互に正対していない場合にも、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bと、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hとは正対させる必要はない。
更に、基板11を磁性体で形成してバックヨークとして機能させる場合には、磁石12g,12hはそれぞれ磁石12a,12bと同一の極性を基板11と反対側で呈することが望ましい。即ち、磁石12a,12bがそれぞれN極及びS極を基板11と反対側で呈している場合には、磁石12g,12hはそれぞれN極及びS極を基板11と反対側で呈することが望ましい。
このようにして基板11を介して反対の極性の磁極が対向することにより、磁石12a,12bと磁石12g,12hとの間では基板11を介して磁束が流れにくくなるので、基板11は磁石12a,12b同士、及び磁石12g,12h同士のバックヨークとしての機能が高まる。これは基板11において磁束が磁石12a,12b,12g,12hの磁束によって飽和する領域を広げ、固定子から基板11へと流れる磁束の変化を低減できるため、前記磁束の変化に基づく渦電流損を低減できる。
図38は本実施の形態にかかる他の回転子1Hの構造を例示する斜視図である。回転子1Hは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1〜図4)から、基板11を省略した構成を有している。磁石12a,12bはその両面に磁極を有しているので、回転子1Hについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。
図38に示された構造は、回転子1Aについて説明したように、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間にギャップ(図1でギャップG1として描画)があることが望ましい。よって回転子1Hを形成するに際しては、当該ギャップに非磁性の充填材を採用し、この充填材を介して磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間を接着することが好ましい。
図39は回転子1Hの他の好ましい態様を示す斜視図である。回転子4では図38に示された磁石12a,12b及び磁性体13a,13bがこの位置関係を保って、樹脂などでモールドされている。回転子4は中央に円筒40を有しており、ここに回転軸(図示せず)が貫挿される。円筒40は図1で図示されたギャップG2に相当しており、回転軸が磁性体である場合にも、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bが磁気的に短絡することを防いでいる。
ここでは円筒40の径方向の厚みは回転子4の大部分の径方向の厚みよりも大きく、表面から突出した形状を有する態様が例示されている。しかしこれらの厚みの大小関係については種々の条件によって設計可能である。
図40は、回転子1Hと、これを両側から挟む固定子3A,3Bとを有するモータの構造を例示する斜視図であり、その厚さ方向に分解して示している。実際には回転子1Hは例えば回転子4のようにモールドされ、固定子3A,3Bのそれぞれは積層され、かつ回転子1Hと固定子3A,3Bとの間に電機子間距離を空けて保持される。
固定子3A,3Bとしては、第8の実施の形態で説明された固定子3(図34〜図36)を採用することができる。即ち固定子3Aは、磁性体30に対応して磁性体30Aを、巻線33a,33bに対応して巻線33Aを、巻線34a,34bに対応して巻線34Aを、巻線35a,35bに対応して巻線35Aを、それぞれ有している。同様にして固定子3Bは、磁性体30に対応して磁性体30Bを、巻線33a,33bに対応して巻線33Bを、巻線34a,34bに対応して巻線34Bを、巻線35a,35bに対応して巻線35Bを、それぞれ有している。
回転子1Hでは磁石12a,12b及び磁性体13a,13bが、固定子3A,3Bのいずれともトルクを発生する機構を構成するので、固定子3A,3Bの構成、特に巻線33Aと巻線33B、巻線34Aと巻線34B、巻線35Aと巻線35Bとは、回転子1Hを挟んで鏡像関係にあることが望ましい。磁石12a,12bはそれぞれ両側で異なる磁極を呈するので、巻線33Aと巻線33B、巻線34Aと巻線34B、巻線35Aと巻線35Bとは、流す電流の方向も鏡像関係にあることが望ましい。
もちろん、これらが鏡像関係からずれることも、スキューを得る観点からは望ましい設計事項である。
図41は本実施の形態にかかる他の回転子1Iの構造を例示する斜視図である。ここでは回転軸中心90に沿って分解して示しているが、実際は回転子1Iは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Iは、第3の実施の形態で示された回転子1C(図12〜図14)に対し、磁石12a,12b及び磁性体13a,13b,14a,14b(但し磁性体13aは図41においては現れない)とは反対側で、基板11に対して磁石12g,12h及び磁性体13g,13h,14g,14hを設けた構造を有している。基板11の一方の面における磁石12g,12h及び磁性体13g,13h,14g,14hの位置関係は、基板11の他方の面における磁石12a,12b及び磁性体13a,13b,14a,14bの位置関係と同じである。
例えば磁性体13aの厚さと、磁性体13bの厚さと、磁性体14aの厚さと磁石12aの厚さの和と、磁性体14bの厚さと磁石12bの厚さの和とが互いに等しく選定されている。同様に、例えば磁性体13gの厚さと、磁性体13hの厚さと、磁性体14gの厚さと磁石12gの厚さの和と、磁性体14hの厚さと磁石12hの厚さの和とが互いに等しく選定されている。これらの厚さが全て等しくてもよい。
このような回転子1Iについても回転子1G,1H等と同様に、これを挟んで両側から固定子を設けてモータを構成し、トルクを増大させ易いモータを得ることができる。
回転子1Iも回転子1Gと同様に、磁石12a,12b及び磁性体13a,13b,14a,14bが、磁石12g,12h及び磁性体13g,13h,14g,14hとそれぞれ対向する場合を例示するが、そのような対向は必ずしも要求されない。
図42は本実施の形態にかかる他の回転子1Jの構造を例示する斜視図である。図42では回転軸中心90に沿って分解して示されているが、実際には回転子1Jは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Jは、第3の実施の形態で示された回転子1C(図12〜図14)から、基板11を省略し、磁性体14g,14hを追加した構成を有している。磁性体14g,14hは、磁石12a,12bを介してそれぞれ磁性体14a,14bと対向している。回転子1Jについても回転子4と同様、その構成を樹脂などでモールドすることが望ましい。
例えば磁性体14a,14gと磁石12aの厚さの総和と、磁性体14b,14hと磁石12bの厚さの総和と、磁性体13aの厚さと、磁性体13bの厚さが相互に等しく設定される。
磁石12a,12bはその両面に磁極を有しているので、回転子1Jについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。
図43は本実施の形態にかかる他の回転子1Kの構造を例示する斜視図である。回転軸中心90に沿って分解して例示しているが、実際には回転子1Kは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Kは、第5の実施の形態で示された回転子1E(図24〜図28)に対し、磁石12a,12b及び磁性体13a,13b並びに磁性板542(但し磁性体13a,13bは図43においては現れない)とは反対側で、基板11に対して磁石12g,12h及び磁性体13g,13h並びに磁性板544を設けた構造を有している。基板11の一方の面における磁石12g,12h及び磁性体13g,13h並びに磁性板542の位置関係は、基板11の他方の面における磁石12a,12b及び磁性体13a,13b並びに磁性板544の位置関係と同じである。
例えば磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの厚さは相互に等しく、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hの厚さは相互に等しい。あるいは更に、これらの厚さが全て等しくてもよい。
磁性板544も磁性板542と同様の構成を有しており、孔540と、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hの相互の境界近傍で貫通して開口するスリットを有し、これらの上に基板11とは反対側から載置されている。
このような回転子1Kについても、これを挟んで両側から固定子を設けてモータを構成し、トルクを増大させ易いモータを得ることができる。
回転子1Kも回転子1Gと同様に、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bが、磁石12g,12h及び磁性体13g,13hとそれぞれ対向する場合を例示するが、そのような対向は必ずしも要求されない。
図44は本実施の形態にかかる他の回転子1Lの構造を例示する斜視図である。図44では回転軸中心90に沿って分解して示されているが、実際には回転子1Lは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Lは、第5の実施の形態で示された回転子1E(図24〜図28)から、基板11を省略し、磁性板544を追加した構成を有している。回転子1Lについても回転子4と同様、その構成を樹脂などでモールドすることが望ましい。
磁石12a,12bはその両面に磁極を有している。つまり磁石12a,12bが磁性板542側にそれぞれN極、S極を呈する磁極面を有している場合には、磁石12a,12bは磁性板544側にそれぞれS極、N極を呈する磁極面を有している。従って回転子1Lについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。
もちろん、磁性板542,544において、第3の実施の形態で図16乃至図19で示されたような形状の変形を行ってもよい。
図45は本実施の形態にかかる他の回転子1Mの構造を例示する斜視図である。図45では回転軸中心90に沿って分解して示されているが、実際には回転子1Mは回転軸中心90に沿って積層される。
回転子1Mは、第4の実施の形態で示された回転子1D(図20〜図23)から、基板11を省略し、磁性板545を追加した構成を有している。磁性板545は磁性板541と略同型の構成を有する。
磁性板545が有するスリットは、磁性板541のスリット55a,55bと対向して配置される。但しコギングトルクを低減する観点等から、正対位置からずらせてもよい。
磁石12a,12bはその両面に磁極を有しているので、回転子1Mについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。
もちろん、磁性板541,545において、第3の実施の形態で図16乃至図19で示されたような形状の変形を行ってもよい。また第4の実施の形態で説明されたようにして磁石12a,12bをリング状磁石によって一体に形成してもよい。
また磁性板541,545は相互に完全に同型である必要はなく、回転子1Mの表裏を区別するなどの目的で両者が相違した略同型でもよい。また若干の形状の相違があっても同様の効果が得られる程度の略同型であればよい。
第10の実施の形態.
図46はこの発明の第10の実施の形態にかかる回転子の製造方法を例示する斜視図である。これは図24に示された回転子1Eの製造方法として採用することができる。図47は、本実施の形態によって形成される場合の回転子1Eの断面図であり、図25に示される断面図と同じ位置での断面を示している。
本実施の形態においては、基板11には凹部11a,11bが設けられており、これらに磁性体13a,13bが回転軸に沿った方向に嵌合する。このようにすれば、磁性体13a,13bと基板11とを容易に位置決めし、両者を容易に結合できる。
かかる構造は、図25に示された断面図に基づいて見ると、磁性体13a,13bを回転軸に沿って延長した位置で、磁性板542側から所定長さを有する領域においては、基板11が磁性体13a,13bと同じ材質で形成された、と把握することができる。磁性体13a,13bを圧粉磁芯で構成されていれば、凹部11a,11bは圧粉磁芯で充填されることになる。
基板11を上記領域以外でも圧粉磁芯で構成してもよい。しかし上記領域以外の基板11は回転軸に垂直な鋼板を積層して構成する事が望ましい。上記領域では、回転軸に平行な方向にもこれと傾斜する方向にも磁束が流れるので圧粉磁芯を採用することが望ましい一方、上記領域以外では殆どの磁束が回転軸に垂直な方向に流れるので、積層鋼板を採用することが、回転子の磁気特性を最適化する観点で望ましいからである。
積層鋼板、特に電磁鋼板を積層した構造は、回転軸に垂直な方向の磁気特性、例えば飽和磁束密度、透磁率、鉄損に優れる。そして基板11には、固定子に流れる電流に基づく磁束を、永久磁石の磁束に対して重畳した、多くの磁束が流れる必要がある。従って基板11には積層鋼板を採用することによって基板11の厚みを小さくすることができる。
また基板11は回転軸と嵌合する場合が多いため、強度の観点からも積層鋼板を採用することが望ましい。
他方、回転子が永久磁石である場合、永久磁石の磁束の変化は特に回転子の回転によって高調波成分が多くなる。よって磁性板542の材料としては、渦電流損が小さい圧粉磁芯が望ましい。
図48はこの実施の形態の他の変形を示す断面図であり、図25、図47に対応した位置での断面を示している。基板11において凹部11a,11bはいずれも貫通孔となっており、当該貫通孔において磁性体13a,13bが回転軸に沿った方向に基板11を貫通している。このときに、上記と同様の理由により、磁性板542は圧粉磁芯で、基板11には積層鋼板を用いることが望ましい。
磁性体13a,13bは、磁性体542のうち磁性体13a,13bを覆う磁性体54d,54fと一体化されることが望ましい。磁性板542及び磁性体13a,13bと、基板11と、磁石12a,12bとを用いた回転子の組立が、磁性体13a,13bを凹部(あるいは貫通孔)11a,11bへと圧入することにより容易となるからである。
本実施の形態にかかる技術は回転子1Eのみならず、回転子1A(図1),1C(図12)、1G(図37)、1I(図41)、1K(図43)に適用することができる。
第11の実施の形態.
図49はこの発明の第11の実施の形態にかかる回転子の製造方法を例示する斜視図である。これは図24に示された回転子1Eの製造方法として採用することができる。図50は、本実施の形態によって形成される場合の回転子1Eの断面図であり、図25に示される断面図と同じ位置での断面を示している。
本実施の形態においては、磁性板542のうち磁性体13a,13bを覆う磁性体54d,54fには、磁性体13a,13b側に凹部57a,57bが設けられており、これらに磁性体13a,13bが回転軸に沿った方向に嵌合する。このようにすれば、磁性体13a,13bと磁性板542とを容易に位置決めし、両者を容易に結合できる。
磁性板542は磁性体13a,13bと共に圧粉磁芯で形成することができる。その場合、嵌合が理想的であれば磁性体13a,13bと磁性板542との境界は問題とならない。
図51はこの実施の形態の変形を示す断面図であり、図25、図50に対応した位置での断面を示している。磁性板542において凹部57a,57bはいずれも貫通孔となっており、当該貫通孔において磁性体13a,13bが回転軸に沿った方向に磁性板542を貫通している。
磁性体13a,13bは、基板11と一体化されることが望ましい。基板11及び磁性体13a,13bと、磁性板542と、磁石12a,12bとを用いた回転子の組立が容易となるからである。
本実施の形態にかかる技術は回転子1Eのみならず、回転子1K(図43)、1L(図44)に適用することができる。
第12の実施の形態.
図52はこの発明の第12の実施の形態にかかる回転子の製造方法を例示する斜視図である。これは図24に示された回転子1Eの製造方法として採用することができる。図53は、本実施の形態によって形成される場合の回転子1Eの断面図であり、図26に示される断面図と同じ位置での断面を示している。
本実施の形態においては、磁性板542のうち磁石12a,12bを覆う磁性体54d,54fには、磁石12a,12b側に凹部57c,57dが設けられており、これらに磁石12a,12bが回転軸に沿った方向に嵌合する。このようにすれば、磁石12a,12bと磁性板542とを容易に位置決めし、両者を容易に結合できる。
このように磁石を磁性板へ埋込む技術は、回転子1Eのみならず、回転子1F(図29)、1F1(図30)、1K(図43)、1L(図44)、1M(図45)に適用することができる。
図54はこの実施の形態にかかる回転子の他の製造方法を例示する斜視図である。図55は、この変形によって形成される場合の回転子1Eの断面図であり、図26に示される断面図と同じ位置での断面を示している。
この変形においては、基板11には、磁石12a,12bが回転軸に沿った方向に嵌合する凹部12aQ,12bQが設けられている。このようにすれば、磁石12a,12bと基板11とを容易に位置決めし、両者を容易に結合できる。
このように磁石を基板へ埋込む技術は、回転子1Eのみならず、回転子1A(図1)、1C(図12)、1F(図29)、1F1(図30)、1G(図37)、1I(図41)、1K(図43)に適用することができる。
図56は、本実施の形態の他の変形を示す断面図であり、図26に示される断面図と同じ位置での断面を示している。凹部57c,57d及び凹部12aQ,12bQのいずれもが設けられた構造が示され、磁石12a,12bは磁性板542、基板11にそれぞれ厚さt1,t2で埋没している。磁性板542のヨーク側と、基板11の磁性板542側との間の距離t3を導入すると、磁石12a,12bの厚さは、厚さt1,t2と距離t3との総和になる。
距離t3が小さいと、磁石12a,12bがそれぞれ自身で発生する磁束が、固定子に鎖交することなく、基板11と磁性板542との間で短絡的に流れてしまう。換言すれば、当該磁束を有効に固定子に流すためには、磁石12a,12bの厚さは、電機子距離の二倍と厚さt1,t2との総和以上に設計することが望ましい。
もちろん、基板11と磁性板542との間の距離が電機子距離の二倍以上であることが望ましいのは、本実施の形態に限らず、他の実施の形態でも同様である。付言すれば、回転子1L(図44),1M(図45)のように磁石12,12bを挟む磁性板542,544同士(あるいは磁性板541,545同士)の間隔も、電機子距離の二倍以上であることが望ましい。
第13の実施の形態.
図57はこの発明の第13の実施の形態にかかる回転子の製造方法を例示する斜視図である。図58は本実施の形態によって形成される回転子1Eの、図26の位置に相当する断面図である。ここでは図24に示された回転子1Eを例にとって説明するが、他の回転子1A(図1)、1C(図12)、1F(図29)、1F1(図30)、1G(図37)、1I(図41)、1K(図43)に適用することができる。
基板11上には、磁石12a,12bにその外周側から当接する突堤111a,111bが設けられている。突堤111a,111bにより磁石12a,12bの位置決めが容易であり、また回転子が回転して磁石12a,12bに生じる遠心力に抗して磁石12a,12bを止める。
基板11上に、磁石12a,12bにその周方向から当接する突堤112a,112b,113a,113bが設けられてもよい。これらも磁石12a,12bの位置決めを容易とする。
図59はこの実施の形態にかかる回転子の他の製造方法を例示する斜視図である。図60は図26の位置に相当する断面図である。ここでは図24に示された回転子1Eを例にとって説明するが、他の回転子1F(図29)、1F1(図30)、1K(図43)、1L(図44)、1M(図45)に適用することができる。
磁性板542上には、磁石12a,12bにその外周側から当接する突堤58a,58bが設けられている。突堤58a,58bにより磁石12a,12bの位置決めが容易であり、また回転子が回転して磁石12a,12bに生じる遠心力に抗して磁石12a,12bを止める。
磁性板542上に、磁石12a,12bにその周方向から当接する突堤59a〜59dが設けられてもよい。これらも磁石12a,12bの位置決めを容易とする。
突堤111a,111b,112a,112b,113a,113bと磁性板542との間の距離や、突堤58a,58b,59a〜59dと基板11との間の距離は、上記距離t3と同様にして、電機子距離の二倍以上であることが望ましい。磁石12a,12bから発生した磁束が固定子へ流れやすくするためである。
但し、これらの突堤が設けられる幅や長さが短ければ、上記距離は、電機子距離の二倍未満であってもよい。これらの突堤が磁気飽和し易く、磁束の通路としての機能が低いからである。
本実施の形態において磁性体13a,13bの存在は必須ではない。しかしこれらが設けられる場合には、基板11と一体化されることが、回転子の組立が容易である観点で望ましい。また磁性体13a,13bと共に磁石12a,12bを覆う磁性板が設けられる場合には、同様の観点から、当該磁性板は磁性体13a,13bと一体化されることが望ましい。
第14の実施の形態.
図61はこの発明の第14の実施の形態にかかる回転子に採用される、磁性板542の構造を例示する斜視図である。ここでは図24に示された回転子1Eを例にとって説明するが、他の回転子1D(図20)、1F(図29)、1F1(図30)、1K(図43)、1L(図44)、1M(図45)に適用することができる。
磁性板542は、回転軸に沿って見て(つまり平面視上)、磁石12a,12b(例えば図24参照)の磁極面が配置された位置において分割される磁性板部品542a,542bで構成される。例えばその分割位置は、図24に示される位置XXVI-XXVIである。
一般に圧粉磁芯は作成するものの圧縮部分の面積が小さいほどプレス圧力が小さくて済む。よって磁性板542を、寸法が小さな磁性板部品542a,542bへと分割して構成することにより、圧粉磁芯で作製しやすい。
本実施の形態において磁性体13a,13bの存在は必須ではない。しかしこれらが設けられる場合には、磁性板542と一体化されることが、磁性板部品542a,542bの位置決めや、回転子の組立が容易である観点で望ましい。
図62に示すように、磁性板部品542a,542bは、空隙を空けて相互に隣接してもよい。固定子側に空隙が対向することになる。通常、コギングトルクは固定子と回転子との間のギャップの磁気抵抗の変化によって発生するため、当該空隙は、コギングトルクの周期を短くするいわゆる補助溝として機能する。これによってコギングトルクが小さくなる。
また磁性板部品542a,542bの周方向の端部は、回転軸に沿った方向について段差を有しもよい。図63は、当該段差を有した磁性板部品542a,542bが隣接した様子を示す斜視図である。隣接する磁性板部品542a,542bの段差が相互に隣接している。そしてこれらの段差は磁性体13a,13bが設けられている側において接触し、その反対側(固定子側)において開口する凹部を形成している。この態様でも、上記のようにしてコギングトルクを小さくすることができる。更に磁石12a,12bが配置されている側で磁性板部品542a,542bが接触しているので、磁石12a,12bからの磁束を有効に利用することができる。
もちろん、かような凹部を形成することなく、図64に示すように段差が相互に噛み合って磁性板542を構成してもよい。かかる段差の噛み合いは、磁性板部品による磁性板の構成を堅固にする観点で望ましい。
種々の変形.
磁石が周方向に広がって開く角度については、磁極対数をPとして{(120±20)/P}度の範囲にあることが望ましいことが知られている。よって例えば回転子1A〜1Eでは磁石12a,12bが周方向に開く角度として(120±20)度の範囲にあることが望ましい。また回転子1F,1F1では磁石12c〜12fが周方向に開く角度として(60±10)度の範囲にあることが望ましい。
回転子内で回転軸を介して磁束が短絡することを回避するためには、上述のようにギャップG2を設けたり((図1、図5、図12等)、円筒40を設けたり(図39)、回転軸として非磁性鋼を採用することが望ましい。
ギャップG2に相当する距離を稼ぐために、基板11の軸孔10(図1、図5、図12等)の内周に非磁性のボスを設け、これを介して回転軸を軸孔10に貫挿してもよい。
なお、回転子に軸孔10を設けることは必ずしも要求されない。例えば磁石、磁性体と接触することなく軸孔の位置において、回転軸を強固に結合できればよい。また磁気軸受けのように回転軸を省略してもよい。
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。