近年、半導体微細加工技術の進展により、半導体などの基板にミクロンオーダーの微細な冷陰極構造を多数集積化する真空マイクロエレクトロニクス技術が注目を集めている。これらの技術によって得られる微小冷陰極構造を備えた電界放出型電子源アレイは、平面型の電子放出特性や高い電流密度が期待できること、熱陰極とは異なりヒーター等の熱源を必要としないこと等から、低消費電力型の次世代フラットディスプレイ用電子源、センサ、平面型撮像装置用電子源として期待が集まっている。
このような電界放出型電子源アレイを用いた真空装置としては特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に示される電界放出型電子源表示装置や、特許文献5等に示される電界放出型電子源撮像装置や、特許文献6に示される発光素子等が知られている。
一般的にこのような電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置は、図13に示す様に、前面パネル101と、背面パネル105と、側面外周器104とを備え、これらはフリットガラスやインジウム等の封着材料109により固着固定され、その内部が真空に保持されている。
前面パネル101の内面には、例えば外部からの入射光を透過する陽極電極102が形成され、その表面にターゲット103が形成されている。一般にターゲット103は、電界放出型電子源表示装置として使用される場合には3色に発光する蛍光体が規則正しく配列された蛍光体層であり、電界放出型電子源撮像装置として使用される場合には入射光を信号電荷に変換する光電変換膜である。
背面パネル105の内面には、複数の冷陰極素子(エミッタ)107と、各冷陰極素子107の周辺に形成された絶縁層及び冷陰極素子107から電子を取り出す為の電圧を印加するゲート電極等からなる周辺素子108とが集積一体化された電界放出型電子源アレイが形成された半導体基板106が設置されている。冷陰極素子107から放出された電子ビームをターゲット103にランディングさせることにより、電界放出型電子源表示装置では蛍光体を発光させて画像を映し出し、電界放出型電子源撮像装置では光電変換膜上に入射光として結像した画像を読み取ることができる。
電界放出型電子源としては、一般的に、半導体基板上に、先端が先鋭な冷陰極素子を形成し、その周りに絶縁層及びこの絶縁層上にゲート電極を形成して、冷陰極素子とゲート電極との間に電圧を印加して冷陰極素子の先端から電子放出を行なうスピント(Spindt)型を代表例として挙げることができる。その他には、カソード電極とゲート電極との間に絶縁層を形成し、絶縁層に電圧を印加してトンネル効果により電子放出を行なうMIM(Metal Insulator Metal)型、カソード電極とエミッタ電極との間に微小ギャップを設け、これら電極間に電圧を印加して微小ギャップから電子放出を行なうSCE(Surface Conduction Electron Source)型、あるいは電子源にDLC(Diamond Like Carbon)やCNT(Carbon Nanotube)等の炭素系材料を用いた電界放出型電子源を例として挙げることができる。
このような冷陰極を含む電界放出型電子源は、個々の冷陰極素子からの電子放出量が微量であることから、電界放出型電子源表示装置として使用する場合や、電界放出型電子源撮像装置として使用する場合には、複数の電界放出型電子源を一単位とするセル(電子源セル)を形成し、所定の動作を行うのに必要な電流量を確保している。
このセルは平面上に、例えばマトリクス状に配置される。詳細には、縦方向に延びた複数のエミッタラインが横方向に等ピッチで配置され、横方向に延びた複数のゲートラインが縦方向に等ピッチで配置され、これら複数のエミッタラインと複数のゲートラインとが交差する各位置にセルが配置される。電界放出型電子源装置の駆動時には、エミッタライン及びゲートラインを順次選択していくことにより、選択されたエミッタラインとゲートラインとが交差する位置のセルから電子ビームが順次放出される。本明細書では、このようにして電子ビームを放出するセルを、以下「指定セル」と呼ぶ。以上により、電界放出型電子源表示装置においては画像を映し出すことができ、電界放出型電子源撮像装置においては結像された画像を読み出すことができる。
電界放出型電子源では、冷陰極素子とゲート電極との間に形成される強電界により電子を電界放出するので、個々の冷陰極素子から電子は所定の広がり(この広がり角度を「発散角」といい、例えばスピント型電界放出型電子源の場合30度程度である)をもって放出される。
図13とは異なり、電界放出型電子源アレイとターゲットとの間にシールドグリッド電極を設けた電界放出型電子源アレイを用いた真空装置が特許文献1及び特許文献5に示されている。
図14に特許文献5に示された、電界放出型電子源撮像装置として使用される電界放出型電子源装置の断面図を示す。
真空容器118は、透光性の前面パネル115と、背面パネル117と、メッシュ状のシールドグリッド電極120を保持するスペーサー部を兼用した側面外周器116とを備え、これらはフリットガラスからなる封着材料133及びインジウムからなる封着材料119により固着固定され、その内部が真空に保持されている。
前面パネル115の内面には、外部からの入射光111を透過する陽極電極113と、その表面に形成された光電変換膜112とからなる光電変換ターゲット114が形成されている。
背面パネル117の内面には、冷陰極素子124と、冷陰極素子124に電位を供給する陰極導体125と、冷陰極素子124の周囲を囲むように陰極導体125上に形成された絶縁層126と、絶縁層126上に冷陰極素子124の周囲を囲むように配置されたゲート電極128とからなる電界放出型電子源アレイ129が形成されている。
光電変換ターゲット114と電界放出型電子源アレイ129との間に、シールドグリッド電極120が配置されている。シールドグリッド電極120には、ゲート電極128に印加される電圧よりも高い電圧が印加されている。
シールドグリッド電極120は複数の貫通孔120aを備える。
図14の電界放出型電子源装置は以下の問題を有している。
図14に示される様に、電界放出型電子源アレイ129が形成された絶縁性の背面パネル117と、この電界放出型電子源アレイ129と対向する光電変換ターゲット114が形成された前面パネル115とは、これらの外周部間に側面外周器116を介して接合されて、真空容器118の内部は高真空に保持されている。
この際、背面パネル117と側面外周器116との間に封着材料133としての低融点フリットガラスを付与して、400℃程度の温度で焼成することで、背面パネル117と側面外周器116とを接着し、真空容器内を気密に保持する。また、側面外周器116の段部121上にシールドグリッド電極120を位置決めして固定する場合にも、低融点フリットガラスが用いられる。従って、電界放出型電子源アレイ129とシールドグリッド電極120との距離は、背面パネル117と側面外周器116との間の低融点フリットガラスの厚み、及び側面外周器116の段部121とシールドグリッド電極120との間の低融点フリットガラスの厚みに依存することになる。
従って、電界放出型電子源アレイ129とシールドグリッド電極120との間の平行度や距離にバラツキが生じてしまう。
この結果、電界放出型電子源装置ごとに光電変換ターゲット114上での電子ビームの拡がり具合(フォーカス特性)が異なったり、1つの電界放出型電子源装置内であっても光電変換ターゲット114上の位置によって電子ビームの拡がり具合が異なったりする。従って、電界放出型電子源撮像装置として使用した場合には、撮像した画像が装置ごとにばらついたり、撮像画像内において部分的にばらついたりする。
更に、図14の電界放出型電子源装置には別の以下の問題も存在する。
即ち、図14に示される様に、光電変換ターゲット114を含む第1空間135と電界放出型電子源アレイ129を含む第2空間136とは、シールドグリッド電極120で分離されている。背面パネル117の電界放出型電子源アレイ129が形成された面とは反対側の面には、真空容器内の余分なガスやイオンを吸着除去するゲッターポンプ132を収納したゲッターポンプ容器131が取り付けられている。ゲッターポンプ容器131内のゲッターポンプ132を含む第3空間137は、背面パネル117に形成された通気孔130を介して第2空間136と繋がっている。
従って、光電変換ターゲット114を含む第1空間135内において、光電変換ターゲット114に電子ビームが照射されることにより発生するガスや、散乱電子によって周辺ガラス部材から放出されるガスやイオンは、シールドグリッド電極120の貫通孔120a及び第2空間136を通過してゲッターポンプ132を含む第3空間137に到達する。よって、駆動中の冷陰極素子124の周辺にこれら光電変換ターゲット114からのガスや周辺ガラス部材から放出されたガスやイオンが到達することにより、電界放出型電子源アレイ129のガスやイオンによる劣化や、電界放出能力の低下、更には各電極間の放電発生等の耐電圧特性の劣化の問題が発生する。
そしてこの問題は、ターゲットにアモルファス構造等を有する光電変換膜を備えた電界放出型電子源撮像装置において特に顕著となる。
特開平9−270229号公報
特開平9−69347号公報
特開平6−111735号公報
特開2000−251808号公報
特開2000−48743号公報
特開2002−313263号公報
本発明の第1の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置は、電界放出型電子源アレイと、前記電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームにより所定の動作を行なうターゲットと、前記電界放出型電子源アレイと前記ターゲットとの間に配置され、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームが通過する複数の貫通孔が形成された補助電極とを有する。前記電界放出型電子源装置は、更に、前記電界放出型電子源アレイ、前記ターゲット、及び前記補助電極を収納する真空容器と、前記真空容器内に配置され、余分なガスを吸収除去するゲッターポンプとを有する。前記ターゲットから発生したガスが前記電界放出型電子源アレイを含む空間を通らずに前記ゲッターポンプに吸収されるように、前記電界放出型電子源アレイを含む空間と前記ターゲット及び前記ゲッターポンプを含む空間とは前記補助電極により実質的に分離されている。
かかる第1の好ましい形態によれば、補助電極が、電界放出型電子源アレイを含む空間とゲッターポンプを含む空間とを実質的に分離している。これにより、電界放出型電子源アレイを含む空間に対して外の空間において発生したガスやイオンが電界放出型電子源アレイにほとんど影響を及ぼさない。
即ち、電界放出型電子源アレイを含む空間に対して外の真空容器内の空間には、ターゲットやこれ以外のガラス部材等が存在し、これらに電子が衝突することによりガスやイオンが発生する可能性がある。特に電界放出型電子源装置の駆動中には、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビーム中の電子は、ターゲットだけでは無く、散乱電子となってこれ以外のガラス部材等に衝突し、ガスやイオンの発生を招くことになる。
例えば図14に示した従来の電界放出型電子源装置の真空容器内の空間は、側面外周器116に固定されたシールドグリッド電極120によって、光電変換ターゲット114を含む第1空間135と電界放出型電子源アレイ129を含む第2空間136とに分離されている。真空容器内の余分なガスを吸着除去するゲッターポンプを収納したゲッターポンプ容器131内の第3空間137は、背面パネル117に形成された通気孔130を介して第2空間136と繋がっている。
従って、第1空間135内において光電変換ターゲット114に電子ビームが照射されることにより発生するガスや、散乱電子によって周辺ガラス部材から放出されるガスやイオンは、ゲッターポンプを含む第3空間137に到達する前に、必ず第2空間136を通過する。よって、これらのガスやイオンが電界放出型電子源アレイ129に吸着されることによってエミッション特性の劣化などの重大な問題が生じる可能性がある。
また、電界放出型電子源アレイ129を含む第2空間136内には、側面外周器116や背面パネル117等のガラス部材が露出しており、これらのガラス部材から発生したガスやイオンが、ゲッターポンプを含む第3空間137に到達する前に、電界放出型電子源アレイ129に吸着されることによってエミッション特性の劣化などの重大な問題が生じる可能性がある。
また、光電変換ターゲット114や周辺ガラス部材に電子ビーム又は散乱電子が衝突して発生したイオンが電界放出型電子源アレイ129近傍に近づくことによって、冷陰極素子124とゲート電極128との間に放電が発生するなどの耐電圧特性上の問題が発生する可能性がある。
これに対して、本発明の第1の好ましい形態では、電界放出型電子源アレイを含む空間は、ゲッターポンプを含む空間及び主要なガスやイオンの発生源であるターゲットや露出したガラス面を含む空間とは補助電極により実質的に分離されている。従って、ターゲットや露出したガラス面から発生したガスやイオンは、電界放出型電子源アレイを含む空間を通ることなく、ゲッターポンプを含む空間に到達することができる。従って、上記の従来の電界放出型電子源装置に比べて、真空容器内で発生したガスやイオンの、電界放出型電子源アレイのエミッション特性に対する影響を抑えることができる。
また、ターゲットや露出したガラス面に電子ビーム又は散乱電子が衝突して発生した電離したイオンは、その電荷により、一定の電位に保持された補助電極にトラップされるか、あるいはこれから反発する作用を受けるので、補助電極に形成された貫通孔を通過して電界放出型電子源アレイを含む空間に侵入し、電界放出型電子源アレイに到達することは困難である。
このように、電離したイオンが電界放出型電子源アレイに近づくことが防止されるので、電離イオンが電界放出型電子源アレイ近傍に近づくことによって発生する、冷陰極素子とゲート電極との間の放電や、補助電極と電界放出型電子源アレイとの間の放電などの耐電圧特性上の問題を防止することができる。
そしてこの作用は、貫通孔の開口径に対して電子ビーム通過行路の長さ(即ち、補助電極の厚み)が長くなるにしたがって顕著となる。従って、貫通孔の開口径に対する電子ビーム通過行路長の比が大きい方が好ましい。
本発明の第2の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置は、上記第1の好ましい形態において、更に、前記電界放出型電子源アレイが形成された基板を有する。前記補助電極は、前記電界放出型電子源アレイと前記複数の貫通孔の開口とを離間させるスペーサー部を一体に備える。前記補助電極は前記スペーサー部を介して前記基板上に設置されている。
かかる第2の好ましい形態によれば、上記の第1の好ましい形態の効果に加えて、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離のバラツキを少なくし、高精度に設定することができる。例えば、図14に示した従来の電界放出型電子源装置では、電界放出型電子源アレイ129とシールドグリッド電極120との距離は、電界放出型電子源アレイ129が形成された背面パネル117と側面外周器116との接着精度(即ち、低融点フリットガラス133の厚みバラツキ)、側面外周器116の段部121とシールドグリッド電極120との接着精度(即ち、低融点フリットガラスの厚みバラツキ)、及び、側面外周器116の背面パネル117と接着される下面から段部121までの寸法の製作精度(即ち、寸法バラツキ)の3つのバラツキによって変化する。
これに対して、本発明の第2の好ましい形態では、補助電極がスペーサー部を一体に備えているので、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離は、電界放出型電子源アレイとスペーサー部との間の接着精度、及びスペーサー部の厚みの製作精度(即ち、寸法バラツキ)の2つのバラツキによって変化する。即ち、精度が最も劣る低融点フリットガラスによる接着部分がない。従って、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離精度が向上する。
また、本発明の第2の好ましい形態によれば、補助電極の機械的強度が向上する。
即ち、例えばVGA(水平方向640ドット×垂直方向480ドット)、外形対角サイズが1インチの電界放出型電子源撮像装置を考えると、一つの画素のサイズは0.02mm程度となる。補助電極の厚みは、その機能を考慮すると1画素のサイズの1倍〜10倍程度が適当と思われるので、0.02mm〜0.2mm程度になる。補助電極の寸法は12mm×10mmよりも若干大きい程度であり、この補助電極に多数の貫通孔が形成されていることを考慮すれば、補助電極の機械的強度は非常に小さい。従って、電界放出型電子源装置の組み立て工程における補助電極の単体での取り扱いは、その機械的強度不足故に、非常に困難である。
ところが、本発明の第2の好ましい形態では、補助電極は、その周囲に枠状のスペーサー部を一体に備えている。従って、スペーサー部が補助電極の機械的強度を向上させるので、電界放出型電子源装置の組み立て工程における補助電極の単体での取り扱いの困難性という問題が解消される。
本発明の第3の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第2の好ましい形態において、前記スペーサー部と前記基板とは導電性材料を用いて接合されており、前記導電性材料を介して前記基板から前記補助電極の少なくとも一部に給電されている。
かかる第3の好ましい形態によれば、補助電極への電圧供給を、電界放出型電子源アレイが形成された基板から行うことが可能になり、電圧供給のためのワイヤーボンディングが不要になる。従って、ワイヤーボンディングを行うための費用を省くことができ、またワイヤーボンディングした場合のワイヤー倒れ等の不良の発生を回避することができる。
以下、本発明を、実施の形態を示しながら詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
図1に示すように、本実施の形態1に係る電界放出型電子源装置は、光透過性のガラス部材からなる前面パネル1と、背面パネル5と、側面外周器4とで形成された真空容器を備える。前面パネル1と側面外周器4、及び、背面パネル5と側面外周器4は、例えば高温焼成用のフリットガラスや、低温封着用のインジウムなどの真空封着材7により固着され封着されて、真空容器内は真空に保たれている。以下の説明の便宜のために、前面パネル1及び背面パネル5の法線方向と平行な軸をZ軸と呼ぶ。
背面パネル5の内面上には、電界放出型電子源アレイ10が形成された半導体基板6が設置されている。半導体基板6上には、スペーサー部8aを一体に備える補助電極8が設置固定されている。前面パネル1の補助電極8と対向する内面上には、透光性の陽極電極2とターゲット3とが形成されている。ターゲット3は、電界放出型電子源アレイから放出された電子を受け取り所定の有益な動作を行なう層であり、例えば蛍光体層又は光電変換膜である。
前面パネル1、背面パネル5、側面外周器4からなる真空容器内には、余分なガスを吸着除去することにより、内部を高真空に保持する為のゲッターポンプ80が設置されている。
図2は補助電極8の電界放出型電子源アレイに対向する側の面から見た概略斜視図である。補助電極8は、略平板状の電極であり、中央の薄肉のトリミング部9と、トリミング部9の周囲に連続して形成され、トリミング部9よりも厚い枠状のスペーサー部8aとを備える。トリミング部9には複数の貫通孔が形成されている。
スペーサー部8aは、補助電極8の単体での機械的強度を向上させる機能と、電界放出型電子源アレイとトリミング部9に形成された複数の貫通孔の開口とを離間し、且つ両者間の距離を高精度に維持する機能とを備えている。
図3は補助電極8のトリミング部9の一部拡大斜視図である。トリミング部9には、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームが通過するための、トリミング部9の表裏を貫通する多数の貫通孔90が形成されている。多数の貫通孔90は格子点状に配置されている。
図4はトリミング部9のZ軸方向の一部拡大断面図である。各貫通孔90は、トリミング部9の電界放出型電子源アレイ側の面に形成された開口91と、開口91からトリミング部9の厚さ方向に連続した電子ビーム通過行路92とを備えている。本明細書において、開口91とは、貫通孔90のうち、トリミング部9の電界放出型電子源アレイ側の面上に含まれる部分を意味し、Z軸方向成分は含まれない。また、電子ビーム通過行路92とは、貫通孔90のうち、トリミング部9の表裏面間の間の部分を意味する。
電子ビーム通過行路92の長さは、開口91の径Dよりも十分に大きい。ここで、電子ビーム通過行路92の長さとは、電子ビーム通過行路92に沿った長さを意味する。従って、電子ビーム通過行路92が屈曲している場合にはトリミング部9のZ軸方向の厚さより長くなる。
電子ビーム通過行路92の長さが開口91の径Dよりも十分に大きいことにより、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームのうち、電子ビーム通過行路92の延設方向(本実施の形態ではZ軸方向)に対して大きな角度をなす方向に進行する電子ビームを電子ビーム通過行路92の側壁に衝突させて吸収し除去することができる。例えば、開口91の径Dが16μm、電子ビーム通過行路92の長さが100μmのとき、Z軸に対して約9.2度以上の角度をなす方向に進行する電子ビームを電子ビーム通過行路92の側壁に衝突させて吸収し除去することができる。
図5は、本実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の分解斜視図である。図5を用いて、電界放出型電子源装置の組み立て方法の一例を簡単に説明する。
背面パネル5上にフリットガラス7aを付与し、この上に環状の側面外周器4を載置して、約400℃程度の高温で焼成して、背面パネル5と側面外周器4とをフリットガラス7aを介して接合する。
補助電極8のスペーサー部8aと半導体基板6とを例えば陽極接合や共晶接合などの接合方法により接合する。背面パネル5上の側面外周器4で囲まれた部分に、補助電極8が搭載された半導体基板6を、ダイボンディングして設置固定する。
トリミング部9への給電は、半導体基板6から、補助電極8のスペーサー部8aと半導体基板6との接合部及びスペーサー部8aを介して行われる。補助電極8へ給電するための半導体基板6上の配線パターンは、背面パネル5上に形成された配線パターンとワイヤーボンディング(図示せず)により接続される。これにより、補助電極8への給電は、真空容器の外側より行なうことができる。
半導体基板6上には、複数のセルをマトリクス状に並べた電界放出型電子源アレイが形成されている。各セルは、複数(例えば100個)の冷陰極素子(エミッタ)を含む。
半導体基板6上の電界放出型電子源アレイの複数のセルと、補助電極8の複数の貫通孔90とは一対一に対応している。各セルの中心を通るZ軸と平行な軸が、このセルと対応する補助電極8の貫通孔90のほぼ中心を通るように(例えば、本実施の形態では、セルの中心を通るZ軸と平行な軸に対する貫通孔90の中心の位置ずれ量が3μm程度以下となるように)、半導体基板6と補助電極8とは高精度に位置合わせされる。
このようにして組み立てられた背面パネル5、側面外周器4、補助電極8、及び半導体基板6からなる背面パネル構造体は、真空装置内で約120℃〜350℃程度の温度でガス出しの為の空焼きされる。
空焼きが済んだ背面パネル構造体は、真空内にて、前面パネル1と、インジウムを付着させた金属リング7bにより接合一体化されて、内部が真空に封着された真空容器となる。
半導体基板6上に形成される電界放出型電子源アレイは、図6に示される様に、先端が先鋭化された冷陰極素子(エミッタ)15と、冷陰極素子15の周辺に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に設けられ、冷陰極素子15を取り囲む開口が形成されたゲート電極12等からなる多数のエミッター部が集積されてなる。
電界放出型電子源アレイは、例えばVGA(水平方向640ドット×垂直方向480ドット)の撮像を行なう平面型撮像装置であれば、マトリックス状に配置された各画素位置に縦横方向寸法がいずれも20μm程度の1つのセルがそれぞれ配置される。ゲート電極12は、水平方向(又は垂直方向)に延びたストライプ状に複数形成され、エミッタ電極14は、ゲート電極12の長手方向と直交する方向に延びたストライプ状に複数形成される。Z軸と平行な方向から見て、複数のゲート電極12と複数のエミッタ電極14との交点位置にセルが1つずつ配置される。各セルには、エミッタ電極14上の縦横方向寸法がいずれも10μm程度の領域内に複数の冷陰極素子15がほぼ均等に分布するように配置されている。
同一セル内の複数の冷陰極素子15には例えば30Vの基準電位から0Vに低下するパルス状のエミッタ電位が印加され、冷陰極素子15を取り囲む絶縁層13上に形成されたゲート電極12には例えば30Vの基準電位から中位の60Vに上昇するパルス状のゲート電位が印加される。冷陰極素子15とゲート電極12との間に形成される電位差により、冷陰極素子15の先端から電子が放出される。
ゲート電極12及びエミッタ電極14は、背面パネル5上に、真空容器の内外を繋ぐように形成された配線パターンと接続されている。冷陰極素子15に与えられるエミッタ電位及びゲート電極12に与えられるゲート電位は、真空容器の外側からこの配線パターンを介して供給される。
補助電極8には、ゲート電極12に印加される最大電圧よりも若干高い、中位の150〜500V程度の電圧が印加される。電界放出型電子源アレイから、補助電極8のトリミング部9に形成された複数の貫通孔の電界放出型電子源アレイ側の面までの距離は100μm程度である。
補助電極8へ印加される電圧が高すぎると、補助電極8と電界放出型電子源アレイとの間の耐電圧特性上の問題を引き起こす可能性がある。更に、電界放出型電子源撮像装置として使用する場合にはターゲット3との間での耐電圧特性も問題となる可能性がある。逆に、補助電極8へ印加される電圧が低すぎると、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームを加速させる効果が薄れ、電子ビームの発散角が大きくなってしまい、補助電極8を通過する電子ビーム量が少なくなり、電子ビームの電流量を十分確保できない可能性がある。このため、発明者らは実験を通じて補助電極8へ印加される電圧の好適値が上述の範囲であることを確認している。
ターゲット3は補助電極8から150〜数百μm程度離れて配置される。前面パネル1とターゲット3との間には、透明な陽極電極2が形成されている。陽極電極2には補助電極8に印加される電圧よりも高い、高位の例えば数100V〜数kV程度の電圧が前面パネル1を貫通する電極43(図5参照)を介して印加される。
電界放出型電子源アレイの冷陰極素子15とゲート電極12とにそれぞれ所定の電圧を印加すると、冷陰極素子15から電子ビーム11aが放出される。電子ビーム11aは、電界放出型電子源アレイからZ軸方向に100μm程度離れた、100μm程度の厚みを有する補助電極8の貫通孔90の開口91に入射し、開口91から連続する電子ビーム通過行路92内を通過する。そして、補助電極8から出射した電子ビーム11bは、補助電極から150〜数百μm程度離れたターゲット3に到達する。
図7に示すように、電界放出型電子源アレイの1つのセル(指定セル)から放出された電子ビーム11aは所定の発散角を有して補助電極8に向かって進行し、補助電極8に形成された複数の貫通孔90に入射する。
指定セルから放出された電子ビーム11aのうち、Z軸に対して斜めに進行し、この指定セルを通りZ軸と平行な直線から外れた位置にある貫通孔90に入射した電子ビームは、貫通孔90の電子ビーム通過行路92の側壁に衝突し、吸収され除去される。
一方、指定セルから放出された電子ビーム11aのうち、Z軸とほぼ平行に進行し、この指定セルを通りZ軸と平行な直線上に位置する貫通孔(以下、この貫通孔を「指定セルに対応する貫通孔」という)90に入射した電子ビームは、Z軸と平行に延びた電子ビーム通過行路92内を通過し、補助電極8を出射してターゲット3に到達する。この補助電極8を出射した電子ビーム11bの発散角は小さく、進行方向がほぼ揃っており、ターゲット3に到達する過程で進行方向と垂直な方向の断面積が拡大することはない。
このように、本実施の形態1の電界放出型電子源装置では、補助電極8が無い場合と比較して、発散角の小さな電子ビーム11bをターゲット3に入射させることができる。そのため、ターゲット3上において電子ビームのスポット径を小さくすることができる。従って、ターゲットに蛍光体を備えた電界放出型電子源表示装置においては高精細な画像を表示することができ、ターゲットに光電変換膜を備えた電界放出型電子源撮像装置においては高精細な画像を撮像することができる。
また、補助電極8を出射した電子ビーム11bの発散角が小さいので、例えば組み立て誤差により背面パネル5と前面パネル1との距離がばらついた場合や、大気圧によって背面パネル5及び/又は前面パネル1が湾曲変形した場合であっても、ターゲット3上での電子ビームのスポット径はほとんど変化しない。従って、均一な画質を表示できる電界放出型電子源表示装置、及び均一な画質を撮像できる電界放出型電子源撮像装置を提供することができる。
次に、補助電極8について詳細に説明する。
補助電極8は、シリコン基板を用いて、半導体技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術により作成できる。即ち、N型又はP型にドープして抵抗を低下させたシリコン基板に対して半導体技術を用いて微細加工を行い、図3に示すような貫通孔90を形成することができる。
このように補助電極8をシリコン基板を用いて半導体技術であるMEMS技術により作成することにより、以下のような利点がある。
第1に半導体技術を用いたミクロン、サブミクロンオーダーの微細加工を行なうことが可能になる。これにより、例えば20μm角程度の1セル内に多数(例えば100個)の冷陰極素子15を備えたVGAの電界放出型電子源装置の場合、補助電極8の開口91の開口径Dは例えば16μm程度となり、その成形精度はサブミクロンオーダーである必要がある。MEMS技術を用いれば、このような微細加工が可能である。
第2に、補助電極8と電界放出型電子源アレイとの組立においても高精度が求められる。MEMS技術を用いることで、補助電極8の高精度成形、及び補助電極8と電界放出型電子源アレイとの高精度アセンブリが可能となり、品質の優れた電界放出型電子源装置を得ることができる。
第3に、シリコン基板を用いることにより、同じくシリコン基板を用いて作成される電界放出型電子源アレイが形成される半導体基板6と、熱膨張係数を同じにすることができる。
電界放出型電子源アレイは、シリコン基板を用いて、半導体技術によりその一部あるいは全てを作成することが精度などの信頼性を確保する上で好ましく、その半導体技術も現在では一般化され、その際に必要とされる装置も数多く市場に出回っており、コスト面においても有利である。
補助電極8の材料を、電界放出型電子源アレイが形成される基板の材料と同じにすることは、熱膨張の点で有利であり、例えば、電界放出型電子源装置の熱膨張による破壊が起こりにくくなり、また、電界放出型電子源装置の組立時におけるガス出しのためのベーキング等の焼成を高温で行うことができる。
補助電極8にはスペーサー部8aが一体に形成されており、補助電極8のスペーサー部8aは電界放出型電子源アレイが形成された半導体基板6上に直接設置される。これにより、電界放出型電子源アレイと補助電極8との間の距離精度を向上させることができる。この結果、電界放出型電子源アレイと補助電極8のトリミング部9に形成された複数の貫通孔90の開口91との間の距離を高精度に維持するというスペーサー部8aの役割を効果的に発揮させることができる。
また、スペーサー部8aは、補助電極8の周囲に連続して、トリミング部9に対して突出して形成される。このスペーサー部8aが半導体基板6と密着することにより、真空容器内において、ターゲット3を含む第1空間51と電界放出型電子源アレイを含む第2空間52とを実質的に分離することができる。従って、第2空間52外で発生したガスが電界放出型電子源アレイに影響を及ぼすのを抑制できる。
即ち、第1空間51内には、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材が存在し、電子ビーム11bや散乱電子がこれらに衝突してガスが発生する可能性がある。特に電界放出型電子源装置の駆動中には、電子ビーム11b中の電子は、ターゲット3だけでは無く、散乱電子となって側面外周器4等のガラス部材に衝突してガスが発生する可能性が高い。
例えば図14に示した従来の電界放出型電子源装置の真空容器内の空間は、側面外周器116に固定されたシールドグリッド電極120によって、光電変換ターゲット114を含む第1空間135と電界放出型電子源アレイ129を含む第2空間136とに分離されている。そして、ゲッターポンプ132を収納したゲッターポンプ容器131内の第3空間137は、背面パネル117に形成された通気孔130を介して第2空間136と繋がっている。従って、第1空間135内に露出する光電変換ターゲット114や、側面外周器116及び背面パネル117等のガラス部材から発生したガスは、第3空間137に到達する前に、必ず第2空間136を通過する。よって、これらのガスが電界放出型電子源アレイ129に吸着されることによってエミッション特性の劣化などの重大な問題が生じる可能性がある。
また、光電変換ターゲット114や周辺ガラス部材に電子ビーム又は散乱電子が衝突して発生したイオンが電界放出型電子源アレイ129近傍に近づくことによって、冷陰極素子124とゲート電極128との間に放電が発生するなどの耐電圧特性上の問題が発生する可能性がある。
これに対して、本実施の形態1では、ゲッターポンプ80はガス放出が顕著なターゲット3を含む第1空間51内に配置される。ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材を含む第1空間51内で発生したガスは、電界放出型電子源アレイを含む第2空間52を通ることなく、ゲッターポンプ80に到達する。従って、上記の従来の電界放出型電子源装置に比べて、真空容器内で発生したガスの、電界放出型電子源アレイのエミッション特性に対する影響を抑えることができる。
また、ゲッターポンプ80を含む第1空間51と電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52とが実質的に分離されているので、ゲッターポンプ80を蒸発型のゲッターを用いて形成することが容易になる。即ち、蒸発型のゲッターに通電等することによりゲッター材料を飛散させて周囲の部材にゲッター膜を形成しても、飛散したゲッター材料が電界放出型電子源アレイ10に付着するのを防止できる。
また、ターゲット3や露出したガラス面に電子ビーム又は散乱電子が衝突して発生した電離したイオンは、その電荷により、一定の電位に保持された補助電極8にトラップされるか、あるいはこれから反発する作用を受けるので、補助電極8に形成された貫通孔90を通過して電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52に侵入し、電界放出型電子源アレイ10に到達することは困難である。
このように、電離したイオンが電界放出型電子源アレイ10に近づくことが防止されるので、電離イオンが電界放出型電子源アレイ10近傍に近づくことによって発生する、冷陰極素子とゲート電極との間の放電や、補助電極8と電界放出型電子源アレイ10との間の放電などの耐電圧特性上の問題を防止することができる。
そしてこの作用は、貫通孔の開口径に対して電子ビーム通過行路の長さ(即ち、補助電極の厚み)が長くなるにしたがって顕著となる。従って、貫通孔の開口径に対する電子ビーム通過行路長の比が大きい方が好ましい。
本発明では、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52とターゲット3及びゲッターポンプ80を含む第1空間51とは補助電極8により実質的に分離されている。ここで、「実質的に分離されている」とは、ターゲット3から発生したガスが電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通らずにゲッターポンプ80に吸収されるようなガスの流動経路が真空容器内に形成されていることを意味する。従って、電界放出型電子源アレイ10とターゲット3との間の補助電極8のトリミング部9に複数の貫通孔90が形成されていることは何ら問題がなく、更に、貫通孔90以外に第1空間51と第2空間52とを繋ぐ孔や隙間が補助電極8(例えばトリミング部9又はスペーサー部8a)や補助電極8を保持する部材などに形成されていても良い。即ち、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材などから発生したガスやイオンが電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通らずにゲッターポンプ80に吸収されれば良い。例えば、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材などを含む第1空間51から電界放出型電子源アレイを含む第2空間52を通らずにゲッターポンプ80に至る経路において、断面積が最も狭い部分(最小経路部分)での空間的なコンダクタンス(即ち、(最小経路部分の断面積)/(最小経路部分の経路長))C1が、第1空間51から第2空間52に至る経路において、断面積が最も広い部分(最大経路部分、本実施の形態では貫通孔90が該当する)での空間的なコンダクタンス(即ち、(最大経路部分の断面積)/(最大経路部分の経路長))C2に比較して十分に大きいことが好ましい。具体的には、上記コンダクタンスC1,C2がC1/C2≧10を満足することが好ましい。
上述した実施の形態では、電界放出型電子源が先端の尖った冷陰極素子15とその先端を囲む開口が形成されたゲート電極12とを備えたスピント型を例に説明したが、本発明の電界放出型電子源はこれに限定されない。例えばカソード電極とゲート電極との間に絶縁層を形成し、絶縁層に電圧を印加してトンネル効果により電子放出を行なうMIM(Metal Insulator Metal)型、カソード電極とエミッタ電極との間に微小なギャップを設け、これら電極間に電圧を印加して微小ギャップから電子放出を行なうSCE(Surface Conduction Electron Source)型、あるいは電子源にDLC(Diamond Like Carbon)やCNT(Carbon Nanotube)等の炭素系材料を用いた電界放出型電子源であっても良い。
更に、上記の実施の形態では、Z軸方向から見た前面パネル1の形状が円形であったが、本発明はこれに限定されず、例えば四角形であっても良い。
また、上記の実施の形態では、補助電極8は電界放出型電子源アレイ10が形成された半導体基板6上に設置されていたが、本発明はこれに限定されず、例えば背面パネル5上に半導体加工技術を用いてスピント型等の電界放出型電子源アレイを直接形成し、電界放出型電子源アレイを形成した背面パネル5上に補助電極8を設置しても良い。
また、上述の実施の形態では、前面パネル1、背面パネル5、及び側面外周器4により形成される真空容器内のターゲット3を含む第1空間51内に、余分なガスを吸着除去して真空容器内を高真空に保持するゲッターポンプ80が配置されている例を示した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
例えば、図8に示すように、背面パネル5の半導体基板6が搭載されている側とは反対側の面に、ゲッターボックス側壁部47及びゲッターボックス底部48からなるゲッターボックスを設置し、このゲッターボックス内の第3空間53内にゲッター50を配置しても良い。ゲッター50に接続されたゲッターリード49がゲッターボックス外に導出されている。電界放出型電子源装置の外からこのゲッターリード49に所定の電流を流すことで、ゲッター50を飛散させゲッターボックスの内壁に付着させる。これにより、真空容器内の余分なガスを吸着除去するゲッターポンプが形成される。
背面パネル5の半導体基板6が搭載されていない領域に通気孔46が形成され、この通気孔46を介して第1空間51とゲッターポンプを含む第3空間53とが接続される。
図8に示す電界放出型電子源装置では、真空容器内の真空容量を増加させることができるので、真空容器内で発生したガスによる真空度の劣化を抑制できる。また、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材を含む第1空間51内で発生したガスは、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通ることなく、ゲッターポンプを含む第3空間53に到達することができる。従って、真空容器内で発生したガスの、電界放出型電子源アレイ10のエミッション特性に対する影響を抑えることができる。
また、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52内にも更にゲッターポンプを配置しても良い。これにより、電界放出型電子源アレイ10と補助電極8との間で発生する可能性があるごく微量のガスの影響をも抑えることができる。
更に、上述の例では、補助電極は電界放出型電子源アレイが形成された半導体基板6上に直接設置されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図9に示すように補助電極8と半導体基板6との間に電子ビームの予備集束を行なうフォーカス電極26を設けても良い。この場合も、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52とターゲット3及びゲッターポンプ80を含む第1空間51とが補助電極8により分離されているので、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材を含む第1空間51内で発生したガスは、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通ることなく、ゲッターポンプに導き吸着除去することができる。即ち、真空度の劣化を抑制することができる点において上記の例となんら変わらない。
以上述べた如く、本実施の形態1では、電界放出型電子源アレイ10が設けられた半導体基板6に、補助電極8に一体に形成されたスペーサー部8aが直接設置されているので、補助電極8のトリミング部9から電界放出型電子源アレイ10までの距離を高精度に設定することができる。また、真空容器内において、ターゲット3を含む第1空間51と電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52とを分離することができる。そして、ゲッターポンプを含む空間と第2空間52とを分離することにより、ターゲット3や側面外周器4等のガラス部材を含む第1空間51内で発生したガスは、第2空間52を通ることなく、ゲッターポンプに到達する。従って、真空容器内で発生したガスの、電界放出型電子源アレイ10に対する悪影響を抑えることができる。
また、ターゲット3や露出したガラス面に電子ビーム又は散乱電子が衝突して発生した電離したイオンは、その電荷により、一定の電位に保持された補助電極8にトラップされるか、あるいはこれから反発する作用を受けるので、補助電極8に形成された貫通孔90を通過して電界放出型電子源アレイ10に到達することは困難である。従って、電離イオンが電界放出型電子源アレイ10近傍に近づくことによって発生する、冷陰極素子とゲート電極との間の放電や、補助電極8と電界放出型電子源アレイ10との間の放電などの耐電圧特性上の問題を防止することができる。
従って、信頼性の高い電界放出型電子源装置を実現することができる。
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
図10に示すように、本実施の形態2に係る別の電界放出型電子源装置は、ターゲット3を含む第1空間51と電界放出型電子源アレイを含む第2空間52とを分離する補助電極65のトリミング部66を薄くした点で、図8に示した実施の形態1に係る電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態1と同じ部分についての説明を省略する。
補助電極65のトリミング部66は無数の開口が形成された金属薄膜であり、このトリミング部66は金属製の枠であるスペーサー部65aに溶接等により固定されている。トリミング部66はスペーサー部65aから外方向に向かう張力が付与されることで、平坦面を形成している。
図8と同様に、半導体基板6とトリミング部66とで形成され、内部に電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52は、ターゲット3を含む第1空間51と補助電極65により分離されている。第1空間51は、背面パネル5の半導体基板6が搭載されていない領域に形成された通気孔46を介してゲッターポンプを含む第3空間53とが接続されている。
これにより、第1空間51内で、ターゲット3に電子ビームが衝突することにより発生したガスや、側面外周器4等のガラス部材に散乱した電子ビームが衝突することにより発生したガスは、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通ることなく、ゲッターポンプを含む第3空間53に導き、ゲッターポンプによって吸収除去することができる。従って、真空容器内で発生したガスによって電界放出型電子源アレイ10が動作不良を起こしたり劣化したりすることでエミッション特性が低下するのを抑えることができる。
半導体基板6上に補助電極65のスペーサー部65aが、金などの導電性の物質を介して設置されている。トリミング部66への給電は、半導体基板6からこの導電性の物質及びスペーサー部65aを介して行われる。
これにより、補助電極への電圧供給を半導体基板6から供給することが可能となり、電圧供給のためのワイヤーボンディングを別に設ける必要がない。従って、ワイヤーボンディングのための費用を省くことができ、またワイヤーボンディングした場合のワイヤーの倒れ等の不良を回避することができる。
本実施の形態2は、電界放出型電子源アレイを含む第2空間52がターゲット3を含む第1空間51及びゲッターポンプを含む第3空間53に対して補助電極によって分離されている点、及び、補助電極のスペーサー部と半導体基板6とが導電性の物質を介して接続され、半導体基板6からこの導電性の物質及びスペーサー部を介してトリミング部へ給電される点で、実施の形態1と同じである。本実施の形態2ではトリミング部が薄いが、実施の形態1と同じトリミング作用を得ることができる。
(実施の形態3)
図11は、本発明の実施の形態3に係る電界放出型電子源装置の断面図である。また、図12は、本実施の形態3に係る電界放出型電子源装置の側面外周器85の斜視図である。
本実施の形態の側面外周器85は、円環状の外筒上の2点間を架橋する隔壁86を備えている。側面外周器85の内周面及び隔壁86に段差85aが設けられ、この段差85aにスペーサー部を有しない補助電極25が支持される。
実施の形態1と同様に、前面パネル1と、背面パネル5と、側面外周器85とで真空容器が形成される。本実施の形態では、真空容器内に、ターゲット3を含む第1空間51と、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52と、ゲッターポンプ80を含む第3空間53とが形成されている。ターゲット3を含む第1空間51と、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52とは、補助電極25に形成された複数の貫通孔のみで通じており、これ以外の部分では補助電極25により分離されている。ターゲット3を含む第1空間51と、ゲッターポンプ80を含む第3空間53とは、隔壁86と前面パネル1との間に形成された隙間82を介して通じている。
本実施の形態3では、第1空間51内で、ターゲット3に電子ビームが衝突することにより発生したガスや、側面外周器85等のガラス部材に散乱した電子ビームが衝突することにより発生したガスは、電界放出型電子源アレイ10を含む第2空間52を通ることなく、隙間82を通って第3空間53へ移動してゲッターポンプ80に吸着され除去される。従って、真空容器内で発生したガスによって電界放出型電子源アレイ10が動作不良を起こしたり劣化したりすることでエミッション特性が低下するのを抑えることができる。