JP2007248998A - 光学製品の製造方法および光学製品 - Google Patents

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Abstract


【課題】プラスチック製の光学製品の耐擦傷性を向上させることができる光学製品の製造方法およびこの製造方法により製造された光学製品を提供すること。
【解決手段】プラスチック製の基材上にハードコート層が形成された光学製品である眼鏡レンズを製造する。ハードコート層形成工程は、ハードコート液を基材上へ塗布する塗布工程と、前記塗布工程後に前記基材上へ塗布された前記ハードコート液を乾燥して塗膜を得る乾燥工程と、前記乾燥工程後に前記塗膜に含まれる硬化成分を縮合反応により予備硬化させ予備硬化ハードコート層を得る第1焼成工程と、前記第1焼成工程後に前記予備硬化ハードコート層へ水分を添加し水分含有予備硬化ハードコート層を得る水分添加工程と、前記水分添加工程後に前記水分含有予備硬化ハードコート層を更なる縮合反応により硬化を完結させる第2焼成工程とを備える。
【選択図】なし

Description

本発明は、光学製品の製造方法および光学製品に関する。
従来、眼鏡レンズ等の光学製品の基材として、プラスチック製の基材が使用されている。プラスチック製の基材は、ガラス製の基材に比べ、軽量であり、成形性にも優れるものの、表面が非常に傷つきやすい。そこで、一般に、プラスチック製の基材上にハードコート層を形成し、耐擦傷性の向上を図っている。
例えば、プラスチック製の基材に硬化前のハードコート液を塗布した後、所定の加熱処理によりハードコート液中の硬化成分を硬化させることでハードコート層を形成する方法がよく用いられる。この硬化反応が不十分であると、ハードコート層による耐擦傷効果が十分に発揮できない。
そこで、ハードコート液を硬化させる工程を2段階に分けて、硬化反応をより完全に行う方法が提案されている(例えば特許文献1)。
特開平5−019212号公報(第7頁)
しかしながら、特許文献1の方法によってもハードコート液の硬化は完全ではないため、ハードコート層の耐擦傷性が十分であるとはいえなかった。また、ハードコート層の上には、一般に反射防止層が形成されるため、ハードコート層自身の硬度や反射防止層との密着性が十分でないと、光学製品が外界から物理的刺激を受けた場合に、いわゆる膜剥離を起こす可能性もある。特に、有機反射防止層をハードコート層の上に形成した場合は、無機反射防止層にくらべて表面が柔らかいため、ハードコート層の影響を強く受ける。
そこで、本発明の目的は、ハードコート層を十分に硬化して、光学製品の耐擦傷性を向上させることができる光学製品の製造方法、およびこの製造方法により製造された光学製品を提供することにある。
本発明の光学製品の製造方法は、プラスチック製の基材と、この基材上に形成されるハードコート層とを備える光学製品の製造方法であって、前記ハードコート層は、前記ハードコート層を形成するためのハードコート液を前記基材上へ塗布する塗布工程と、前記塗布工程後に前記基材上へ塗布された前記ハードコート液を乾燥して塗膜を得る乾燥工程と、前記乾燥工程後に前記塗膜に含まれる硬化成分を縮合反応により予備硬化させ予備硬化ハードコート層を得る第1焼成工程と、前記第1焼成工程後に前記予備硬化ハードコート層へ水分を添加し水分含有予備硬化ハードコート層を得る水分添加工程と、前記水分添加工程後に前記水分含有予備硬化ハードコート層を更なる縮合反応により硬化を完結させる第2焼成工程と、を含むハードコート層形成工程により形成されることを特徴とする。
本発明によれば、基材上に塗布されたハードコート液を乾燥し、その後に焼成を行うが、この焼成工程を第1焼成工程と第2焼成工程の2段階に分けて行うとともに、第1焼成工程と第2焼成工程の間に水分添加工程を設けている。そのため、第2焼成工程後は非常に硬いハードコート層となり、ハードコート層に反射防止層を形成した場合であっても、光学製品としての耐擦傷性に非常に優れる。
ここで、本発明における第1焼成工程は、第2焼成工程に近い加熱条件で基材を焼成することが好ましく、その前段階の乾燥工程とは区別されるものである。
第1焼成工程における加熱温度は、100〜140℃が好ましく、115〜125℃がより好ましい。加熱温度が100℃より低いと、ハードコート層の予備硬化が不十分であり、加熱温度が140℃を越えるとレンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。また、第1焼成工程における加熱時間としては、15〜180分間が好ましく、30〜60分間であることがより好ましい。加熱時間が15分未満であると、ハードコート層の硬化が不十分であり、加熱時間が180分間を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
第2焼成工程における加熱温度は、110〜140℃が好ましく、115〜125℃がより好ましい。加熱温度が110℃未満では、水分添加工程時に発生するレンズ基材の歪(変形)が解消されにくい。一方、本焼成温度が140℃を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。また、加熱時間としては15〜180分間が好ましく、60〜90分間がより好ましい。加熱時間が15分未満では、ハードコート層の硬化が十分ではなく、加熱時間が180分間を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
なお、最終的に目的とする基材の硬さによっては、第2焼成工程における加熱時間を短縮してもよい。
本発明では、ハードコート層を形成するためのハードコート液が以下の(A)成分と(B)成分とを含むハードコート液を前記基材上へ塗布する工程を含むことが好ましい。
(A)一般式:RSiX で示される有機ケイ素化合物
(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、例えば、炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは、加水分解性基を示す。)
(B)ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物粒子
この発明によれば、ハードコート液が、所定の硬化成分である有機ケイ素化合物およびルチル型の結晶構造の酸化チタンを含有する無機酸化物粒子を含んでいるので、第1焼成工程および第2焼成工程における硬化後のハードコート層として十分な硬度を持つことができ、光学製品表面の耐擦傷性を向上させることができる。すなわち、ハードコート液の調合段階で、硬化成分中で加水分解反応により生成された反応基が、第1焼成工程および第2焼成工程によって縮合反応が促進されることにより、ハードコート層の硬化が促進される。
本発明では、前記水分添加工程による前記予備硬化ハードコート層への水分の添加が、前記第1焼成工程後の前記基材を水に浸漬することにより行われることが好ましい。
この発明によれば、水分の添加が、基材を水に浸漬することにより行われるため、水分添加のための処理時間が短くてすむ。
浸漬時間は、1〜30分間程度が好ましく、3〜10分間がより好ましい。浸漬時間が1分間未満であると、後の第2焼成工程における硬化反応が不十分となるおそれがある。一方、浸漬時間が30分間を越えても、後の第2焼成工程における硬化反応へのさらなる効果は期待できず、生産性が悪化するだけである。
ここで、水温が低いとハードコート層への含水率が低くなるため、第2焼成工程での硬化反応が十分でなく、本焼成後のハードコート層の耐擦傷性が低くなる。逆に、水温が高すぎると本焼成後のハードコート層にクラックが生じやすくなる。また、100℃以上の水温に設定するためには加圧設備が必要となる。それ故、40〜100℃の水を用いることが好ましく、85〜95℃の熱水が好ましい。
本発明の光学製品は、前記したいずれかの光学製品の製造方法により製造されたことを特徴とする。
このような本発明の光学製品は、前記したいずれかの光学製品の製造方法により製造されているので、ハードコート層が硬く、さらにハードコート層と基材、反射防止層との密着性が向上している。それ故、ハードコート層が基材や反射防止層とはがれにくく、耐擦傷性が向上したものとなっている。
光学製品としては、表面の耐擦傷性を向上させるためにハードコート層を必要とするものであれば任意である。例えば、プラスチック眼鏡レンズや、プラスチック製ディスプレイパネル、光ディスク等が挙げられる。光ディスクとしては、例えば、CD系光ディスクやDVD系光ディスク等が挙げられる。
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態の光学製品は、プラスチック眼鏡レンズであり、透明なプラスチック製の基材と、この基材上に形成されたプライマー層と、ハードコート層と、このハードコート層上に形成された有機反射防止層、及び撥水層とを備えている。
(1.基材)
基材の材質としては、プラスチック製であればよく、特に限定されないが、屈折率が1.6以上の透明な素材を使用することが好ましい。例えば、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチック、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを、重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチックを基材の素材として使用することができる。
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアナート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
また、エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
本発明における基材の重合方法としては、特に限定される物ではなく、一般に基材の製造に用いられている重合方法が、何ら制限なく使用される。例えば、ビニル系モノマーを用いる場合には、有機過酸化物等の熱重合開始剤を用いて、熱硬化を行い、基材を製造することができる。また、ベンゾフェノン等の光重合開始剤を用いて、紫外線を照射することによってモノマーを硬化させ、基材を製造することもできる。
イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチックを、基材の素材として使用する場合には、イソシアネート基または、イソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を混合した後、ウレタン樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱硬化することによって製造できる。
硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合させることによって得られる、エピスルフィド系のプラスチックを基材の素材として使用する場合には、エピスルフィド基を持つ化合物を単独で、または、エピスルフィド基と共重合可能な他のモノマーと混合した後、エポキシ樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。
エポキシ樹脂用の硬化触媒は特に制限はないが、具体例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、トリジメチルアミノメチルフェノール等の3級アミン、エチルメチルイミダゾール等のイミダゾール類、などが挙げられる。
また、エピスルフィド基を持つ化合物と共重合可能な他のモノマーとしては、水酸基を持つ化合物、メルカプト基を持つ化合物、1級または2級アミン、カルボキシル基を持つ化合物などが挙げられる。
水酸基を持つ化合物の具体例としては、イソプロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の多価アルコール類が挙げられる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、チオフェノール、エチルチオグリコレート、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン等が挙げられる。
なお、上述したプラスチック製の基材には、必要に応じて染色処理が施される。染色は、基材に直接行うこともあるが、後述するプライマー層やハードコート層等を形成した後に行うこともある。
(2.プライマー層)
プライマー層は必須ではないが、一般に基材とハードコート層との密着性の向上、耐衝撃性の向上、染色性の改善等の目的で設けられる。
このようなプライマー層は、例えば、極性基を有する有機樹脂ポリマーや酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ケイ素等の金属酸化物微粒子を含んでいてもよい。
極性基を有する有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基材に対する密着性とフィラーとなる金属酸化物微粒子の分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
ポリエステル樹脂では、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基が基材(プラスチック眼鏡レンズの表面分子)と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。一方、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物微粒子が安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よってプライマー樹脂中に金属酸化物微粒子が局在化せずに均質に分散した状態となり、プライマー層の架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性が向上する。
プライマー層を構成する組成物には、樹脂材料、硬化触媒、溶媒、金属微粒子のコロイド状分散体、およびその他の添加物が含まれている。プライマー層用組成物は溶媒により希釈して使用することが一般的であるが、希釈溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等が挙げられ、その他の溶媒も使用可能である。特に好ましくは、水、メタノール、ジアセトンアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトンであるがこれらは単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒としてもよい。
さらに、プライマー層用組成物には、塗布性を改善するためのレベリング剤や耐候性向上のための紫外線吸収剤や酸化防止剤を添加してもよい。
プライマー層用組成物の塗布方法は、スプレー法、スピンコート法、ディッピング法等の公知の方法が用いられる。また、必要に応じて、プラスチックレンズの基材をアルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理、無機微粒子による表面研磨処理等によって前処理してもよい。
プライマー層は、プライマー層用組成物を前記した方法で基材に塗布した後、硬化することによって得られる。これらの硬化には、硬化触媒を使用しても良い。硬化触媒としては、第三級アミン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、過塩素酸アンモニウム、カチオン光重合開始剤、ラジカル光重合開始剤が用いられる。
プライマー層を形成するには、プライマー層用組成物を基材に塗布した後、70℃〜140℃、好ましくは100〜130℃で加熱する。70℃より低い温度では、硬化反応が進行しにくい。また、140℃より高い温度では、基材が変形する。硬化に必要な時間は、加熱する温度によって異なるが、15〜90分間である。
また、プライマー層としての必要な膜厚は、0.05〜5μmであり、好ましくは0.1〜1μmである。0.05μmより薄いとハードコート層との密着力が十分ではなく、5μmよりも厚いと面精度が低下する。
(3.ハードコート層)
本実施形態のハードコート層は、以下の(A)成分と(B)成分とから形成される。
(A)一般式:RSiX で示される有機ケイ素化合物
(式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基であり、Xは、加水分解性基を示す。)
(B)ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物粒子
(A)成分は、ハードコート層のバインダー剤としての役割を果たす。
(A)成分の化学式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は1〜6である。Rはビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。
また、Xは、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等があげられる。
(A)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。
この(A)成分の有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
(B)成分の酸化チタンの平均粒径は、1〜200nm、好ましくは5〜30nmである。また、(B)成分の無機酸化物粒子は、酸化チタンのみを含有するものであってもよく、酸化チタンと他の無機酸化物とを含有するものであってもよい。
例えば、酸化チタンと、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等金属の酸化物を混合して使用してもよい。
さらに、(B)成分の無機酸化物粒子は、酸化チタンと他の無機酸化物との複合粒子であってもよい。
複合粒子を使用する場合には、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等の金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用すればよい。
(B)成分を(A)成分と混合して、ハードコート層を形成するためのハードコート液を調製する際には、(B)成分が分散したゾルと、(A)成分とを混合することが好ましい。
(B)成分であるルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物粒子を分散媒、例えば、水、アルコールもしくはその他の有機溶媒に分散させる。無機酸化物粒子の分散安定性を高めるために、無機酸化物粒子の表面を有機ケイ素化合物、アミン系化合物で処理してもよい。
この際、使用される有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が例示できる。
アミン系化合物としては、アンモニウム、エチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが例示できる。
これらの有機ケイ素化合物、アミン化合物の添加量は、無機酸化物粒子との総質量に対して1〜15質量%程度の範囲であることが好ましい。
(B)成分の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率等により決定されるものであるが、ハードコート液中の固形分の5〜80質量%、特に10〜50質量%であることが好ましい。配合量が少なすぎると、ハードコート層の硬さや耐磨耗性が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層にクラックが生じることがある。また、ハードコート層を染色する場合には、染色性が低下する場合もある。
さらに、ハードコート層は、(A)成分、(B)成分だけでなく、(C)成分として、多官能性エポキシ化合物を含有してもよい。
多官能性エポキシ化合物は、基材に対するハードコート層の密着性を向上させるとともに、ハードコート層の耐水性を向上させることができる。
ハードコート層上の反射防止層を有機層で形成した場合には、反射防止層の膜厚が非常に薄くなることが多く、特に、反射防止層に内部空洞を有するシリカ系微粒子を使用する場合には、水を通すために、ハードコート層に耐水性が必要となる。
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのトリグリシジルエーテル、等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
なかでも、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのトリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
さらに、ハードコート層に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
この中でも最も好ましい硬化触媒としては、過塩素酸マグネシウム、Al(III),Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセトナートが挙げられる。中でも、Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセナートを使用することが好ましい。
硬化触媒の添加量は、ハードコート液の固形分濃度の0.01〜5.0質量%の範囲内が望ましい。
ハードコート層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。0.05μm未満では、基材を保護するというハードコート層の基本的機能が発揮できず、30μmを超えると、ハードコート層の表面の平滑性が損なわれることとなる。
(4.反射防止層)
本実施形態における反射防止層は、有機反射防止層であって、単層の有機層で構成されており、ハードコート層よりも0.10以上屈折率が低く、膜厚は50〜150nmである。
有機反射防止層の屈折率は、ハードコート層よりも、0.10以上低ければよいが、0.15以上低いことが好ましく、さらには、0.20以上低いことが特に、好ましい。
有機反射防止層は、以下の(D)成分、(E)成分を含有する。
(D)一般式:R SiX 3−n(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である)で示される有機ケイ素化合物
(E)内部空洞を有するシリカ系微粒子
(D)成分のRの重合可能な反応基を有する有機基は、例えば、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。
(D)成分のRの炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ブチル
基、ビニル基、フェニル基等が例示できる。
さらに(D)成分のXとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキ
シ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等があげられる。
(D)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等があげられる。これら2種類以上を混合して用いてもよい。
(E)成分の内部空洞を有するシリカ系微粒子の平均粒径は、以下のようであることが好ましい。
(平均粒径)=(設計波長(nm)/反射防止層屈折率)×1/4
有機反射防止層には、上記(D)成分、(E)成分の他に、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の樹脂や、これらの樹脂の原料となるメタアクリレート類、アクリレート類、エポキシ類、ビニル類等の各種モノマーを添加することが可能である。
さらに、これらの成分以外に、必要に応じて、硬化触媒、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダートアミン、ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料、油溶染料、蛍光染料、顔料等を添加し、耐光性、塗布性の向上を図ってもよい。
(5.撥水層)
前述のような有機反射防止層の上には、水滴をはじくための撥水層が形成される。撥水層を形成するための撥水剤としては、フッ素系撥水剤が好適に用いられる。フッ素系撥水剤の具体例としては、GE東芝シリコーン株式会社製TSL8233、TSL8257やダイキン工業株式会社製オプツールDSXなどが上げられる。
(6.プラスチック眼鏡レンズの製造方法)
以上のようなプラスチック眼鏡レンズは以下のようにして製造される。ここでは、ハードコート層形成工程以降について詳述する。
(6-1.ハードコート層形成工程)
本実施形態では、ハードコート層形成工程は、以下のように、調製工程、塗布工程、乾燥工程、第1焼成工程、水添加工程、および第2焼成工程に分かれる。なお、基材とハードコート層との間に、密着性や耐衝撃性向上を目的として、前記したプライマー層を一層設けても良い。
(6-1-1.調製工程)
まず、ハードコート層を形成するためのハードコート液を調製する。
(A)成分の有機ケイ素化合物を有機溶剤に溶かし、水や塩酸等を添加して加水分解させて、加水分解物を生成する。この加水分解物に(B)成分の無機酸化物粒子が分散したゾルを添加する。
さらに、必要に応じて、硬化触媒、多官能性エポキシ化合物等を添加する。硬化触媒としては、Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセナートがハードコート液のポットライフを長くすることができる点で好適である。
(6-1-2.塗布工程)
ハードコート液を基材上に塗布する方法は、任意であるが、例えば、ディッピング法(浸漬法)、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法等があげられる。
基材とハードコート層との密着性を高めるために、ハードコート液を塗布するまえに、基材にアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、プラズマ処理等を行っても良い。
(6-1-3.乾燥工程)
ハードコート液を塗布後、ハードコート液の乾燥を行って塗膜を得る。乾燥のための加熱手段は、ハードコート液の種類によって選択されるが、熱風によるもの、赤外線によるものなどがある。乾燥温度としては、60℃以上、100℃未満に設定する。乾燥温度が60℃未満であると乾燥が不十分である。また、加熱時間としては10〜50分間が好ましい。10分間未満では乾燥が不十分であり、乾燥時間が50分間を越えても乾燥効果は特に向上しない。
(6-1-4.第1焼成工程)
乾燥工程後に、乾燥工程で得られた塗膜から予備硬化ハードコート層を得るための焼成を行う。この焼成の加熱手段は、ハードコート液の種類によって選択されるが、熱風によるもの、赤外線によるものなどがある。
第1焼成工程における加熱温度としては、100〜140℃が好ましく、115〜125℃がより好ましい。加熱温度が100℃より低いと、ハードコート層の予備硬化が不十分となり、後述する水添加工程でハードコート層が白化するおそれがある。加熱温度が140℃を越えるとレンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
また、加熱時間としては15〜180分間が好ましく、30〜60分間であることがより好ましい。加熱時間が15分間未満であると、ハードコート層の硬化が不十分で、後述する水添加工程でハードコート層が白化するおそれがある。加熱時間が180分間を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
なお、第1焼成工程の状態においては、アセトン等の有機溶媒で予備硬化ハードコート層の拭取りを行っても表面から膜が剥がれることもなく、予備硬化ハードコート層表面の洗浄が可能である。前工程の乾燥のみの状態では、アセトン等の有機溶媒で拭取りを行うと、乾燥ハードコート層の表面が溶解し、もしくは、表面に傷が付き、乾燥ハードコート層が白化するおそれがある。
(6-1-5.水分添加工程)
本工程により、予備硬化ハードコート層に水分を添加して、水分含有予備硬化ハードコート層を得る。
水分の添加方法としては、基材を所定の温度の水に浸漬してもよいし(温水浸漬法)、所定の温度・相対湿度下に保持してもよい(加湿法)。
温水浸漬法の場合、水の温度は40〜100℃であることが好ましく、85〜95℃であることがより好ましい。ここで、水温が40℃未満では、ハードコート層の含水率が低いため、第2焼成工程での硬化反応が十分でなく、ハードコート層の耐擦傷性を上げることが困難である。逆に、水温が100℃を越えるとハードコート層にクラックが生じやすい。また、水温を100℃より上げるには、加圧設備が必要となり、コスト的にも問題がある。
水添加工程における処理時間としては、1〜30分間であることが好ましく、3〜10分間であることがより好ましい。処理時間が1分未満では、硬化反応が十分ではない。処理時間が30分間を越えてもさらなる硬化は期待できず、むしろ生産性が悪化する。
なお、温水浸漬法を適用する場合は、温水中に、後述する第2焼成工程での硬化反応を阻害する物質が存在しないことが好ましい。例えば、染色剤には硬化反応を阻害するものがあるので、温水浸漬時には染色剤を添加しない温水(例えば、蒸留水のような純水)を用いることが好ましい。
(6-1-6.第2焼成工程)
第2焼成工程における加熱温度としては、110〜140℃が好ましく、115〜125℃がより好ましい。加熱温度が110℃未満では、例えば温水浸漬時に発生するレンズ基材の歪(変形)が解消されにくい。一方、加熱温度が140℃を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
また、加熱時間としては15〜180分間が好ましく、60〜90分間がより好ましい。加熱時間が15分間未満では、ハードコート層の硬化が十分ではない。一方、加熱時間が180分間を越えると、レンズ基材が黄変して透明性が低下するおそれがある。
なお、最終的に目的とする基材の硬さによっては、第1焼成工程や第2焼成工程における加熱時間を短縮してもよい。
(6-2.反射防止層形成工程)
まず、以下のようにして有機反射防止層用コーティング液を調製する。
(D)成分の有機ケイ素化合物を有機溶剤で希釈して、必要に応じて水、塩酸等を添加し、加水分解を行う。その後、この加水分解物に(E)成分である内部空洞を有するシリカ系微粒子が分散したゾルを添加する。また、必要に応じて、硬化触媒、界面活性剤、帯電防止剤等を添加してもよい。これにより、有機反射防止層のコーティング液が完成する。
次に、このコーティング液を前記ハードコート層上に塗布する。塗布する方法は、任意であるが、例えば、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法等があげられる。
そして、コーティング液を熱、紫外線等により硬化させることで有機反射防止層が完成する。加熱によりコーティング液を硬化させる場合には、50〜140℃で加熱する。
(6-3.撥水層形成工程)
前述の有機反射防止層を形成した基材を洗浄し、撥水加工を行う。撥水処理液(例えば、ダイキン工業株式会社製オプツールDSXの0.1%パーフロロヘキサン溶液)を調整し、プラスチックレンズを浸積して、所定時間放置後引き上げ、室温に放置して乾燥することで撥水層が形成される。
以上の工程により、ハードコート層、反射防止層および撥水層を備えたプラスチック眼鏡レンズが製造される。
上述のような実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
第2焼成工程後に非常に硬いハードコート層が得られ、ハードコート層に反射防止層を形成した場合であっても、プラスチック眼鏡レンズの耐擦傷性に非常に優れる。
この理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。一般に、(A)成分同士の結合が不十分である場合には、結合が弱い部分からハードコート層がはがれる可能性があり、特にチオウレタン系のプラスチック製の基材およびエピスルフィド系のプラスチック製の基材上では密着性が得られないことが多い。これに対し、本実施形態のように、乾燥工程で余分の水分を除去した後に第1焼成工程を行うことで、ある程度の硬さのハードコート層が得られるが、その後の水分添加工程により水分を予備硬化ハードコート層に含ませるため、未反応のハードコート液成分が、第2焼成工程で水分と反応して硬化反応を完結させたものと考えられる。すなわち、水分添加工程と第2焼成工程により、(A)成分の有機ケイ素化合物の未反応の加水分解性基の加水分解が促進され、シロキサン結合が十分に形成され、結果としてハードコート層をより硬く、基材・反射防止層との密着性をさらに向上させることができ、プラスチック眼鏡レンズとしての耐擦傷性が向上するものと思われる。
本実施形態においては、最終的に目的とする耐擦傷性のレベルによって、第1焼成工程や第2焼成工程における加熱時間を短縮してもよい。すなわち、本実施形態によれば、極めて表面が硬く、耐擦傷性にも非常に優れたプラスチック眼鏡レンズが得られるが、短時間で焼成を終えても十分に硬度や耐擦傷性に優れたプラスチック眼鏡レンズを提供できる。それ故、プラスチック眼鏡レンズの生産性を重視する場合に有効である。
また、本実施形態では、有機反射防止層を湿式法により形成しているため、ハードコート層、反射防止層を連続して湿式法で形成できるので、プラスチック眼鏡レンズの製造が容易である。それ故、乾式法で使用する真空装置等の大型設備が不要となり、製造にかかるコストを低減させることが可能となる。
さらには、乾式法で形成される無機物を主成分とする反射防止層に比べ、湿式法で形成される有機反射防止層は、ハードコート層との熱膨張率差が小さいことから、加熱によるクラックの発生が起こりにくくなるので耐熱性に優れたプラスチック眼鏡レンズとすることができる。
有機反射防止層を構成する(E)成分であるシリカ系微粒子は、内部空洞を有するので、シリカよりも屈折率の低い気体、溶媒を包含することができる。これにより、内部空洞を有するシリカ系微粒子は、内部空洞を有しないシリカ系微粒子よりも屈折率が低くなり、有機反射防止層を構成する有機薄膜の屈折率が低くなる。有機薄膜の屈折率を低くすることで、ハードコート層との屈折率の差が大きくなり、反射防止機能を向上させることができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、水分の添加処理法としては、温水浸漬法の代わりに、水分を含んだ適当な有機溶剤やエマルジョンに基材を浸漬してもよい。それにより、水分のハードコート層への浸透速度を広範囲に制御することができる。
さらに、前記実施形態では、反射防止層を単層の有機薄膜で構成される有機反射防止層としたが、これに限らず、反射防止層は無機物を主成分とするものとしてもよい。例えば、SiO2 ,SiO,ZrO2 ,TiO2,TiO,Ti23,Ti25,Al23,Ta25,CeO2,MgO,Y23,SnO2 ,MgF2 ,WO3等の無機物を主成分とする無機反射防止層を形成してもよい。これらの無機物を単独で用いてもよく、又は、2種以上を混合して用いてもよい。
例えば、基材から大気に向かって順に、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2、SiO2の5層を有する反射防止層としてもよい。
このような無機物を主成分とする反射防止層を形成する際には、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて、反射防止層を形成することができる。なお、真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、基材上にプライマー層、ハードコート層、有機反射防止層および撥水層を形成したプラスチック眼鏡レンズを製造した。
(プライマー用組成物の調製工程)
メタノール350g、プロピレングリコールモノメチルエーテル100g、純水115gを混合し、この混合液にルチル型酸化チタン・酸化ジルコニウム・酸化ケイ素・酸化スズの複合ゾル(触媒化成工業株式会社製、商品名「オプトレイク1120Z(8RU−7・G)」250gを加え良く攪拌した。さらに市販のポリエステル樹脂水分散エマルション(高松油脂株式会社製、商品名「ペスレジンA−160P」)185gと、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤((東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L−7604」)0.3gを加え良く攪拌した後、これをプライマー用組成物とした。
(プライマー用組成物の塗布・硬化工程)
前記した方法で得られたプライマー組成物を、チオウレタン樹脂製のプラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、セイコースーパーソブリン用レンズ基材、屈折率1.67)上に浸漬法により塗布した(引き上げ速度20cm/min)。塗布後のレンズ基材を80℃で20分間乾燥して、レンズ基材上に0.7μm厚のプライマー層を形成した。
(ハードコート液の調製工程)
ブチルセロソルブ87g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン117gを混合し、この混合液に0.1規定塩酸水溶液53gを加え4時間撹拌した。さらにこの混合液にルチル型酸化チタン・酸化ジルコニウム・酸化ケイ素および酸化スズからなる複合ゾル(触媒化成工業株式会社製、商品名「オプトレイク1120Z(8RU−25・A17)」713gとシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「FZ−2164」)0.3gを加え1時間攪拌した。さらにこの混合液に市販のエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−313」25gを加え、1時間撹拌した。さらにこの混合液に、Fe(III )アセチルアセトネート2.5g、マンガン(III )アセチルアセトネート0.8gを添加し1時間撹拌後、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業株式会社製、商品名「アンテージクリスタル」)1.3gを加え、2時間攪拌し、これをハードコート液とした。
(ハードコート層形成工程)
前記した調製工程により得られたハードコート液を用いて以下のようにハードコート層を形成した。
<塗布工程>
プライマー層形成後の基材をハードコート液に浸漬し、引き上げ速度30cm/minで引き上げた。
<乾燥工程>
ハードコート液を塗布したレンズ基材を80℃で30分間乾燥して、レンズ基材上に2.0μmの塗膜を形成した。
<第1焼成工程>
プライマー層および塗膜を形成したレンズ基材を125℃に設定されたオーブンで60分間加熱して、レンズ基材上に予備硬化ハードコート層を形成した。
<水分添加工程>
予備硬化ハードコート層形成後のレンズ基材を、95℃の温水に10分間浸漬した。その後、温水から取り出して室温(25℃)まで冷却した。
<第2焼成工程>
水添加処理後のレンズ基材を、室温(25℃)から5℃/minで昇温し、125℃に設定したオーブン内で120分間加熱して本焼成を行った。なお、水添加処理後の第2焼成工程では、急に高温に加熱すると焼成後のハードコート層にクラックが発生しやすい。
(有機反射防止層形成工程)
まず、以下のようにして、有機反射防止層形成用の組成物(コーティング液)を調製した。
ステンレス製容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル5000重量部およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100重量部を加え、撹拌しながら0.01モル/リットルの塩酸299重量部を添加して一昼夜撹拌を続け、シラン加水分解物を得た。
別の容器内で内部空洞を有するシリカ系微粒子のゾル(触媒化成工業(株)製)100重量部にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング製 L−7001)1重量部と鉄(III)を中心金属原子とするアセチルアセトナート1重量部とを加え一昼夜撹拌を続けたのち、前記シラン加水分解物と合わせ、さらに一昼夜撹拌した。その後3μmのフィルターでろ過を行い、コーティング液を得た。
次に、上述した第2焼成工程でハードコート層が形成されたレンズ基材を、コーティング液に浸漬し、30秒後に引き上げ速度10cm/minで引き上げ、さらに120℃に設定したオーブン内で2時間加熱して有機反射防止層を形成した。この反射防止層の厚みは、100nmである。
(撥水層形成工程)
撥水処理液はダイキン工業株式会社製オプツールDSXを使用した。0.1%溶液(溶媒はパーフロロヘキサン)を調整し、眼鏡レンズ基材を浸積して1分間放置後、10cm/minで引き上げた。その後24時間室温に放置した。
[実施例2]
レンズ基材にプライマー層を形成せず、直接ハードコート層を形成した。その他の条件は、実施例1と同じである。
[実施例3]
実施例3では、以下のようにして、ハードコート層の上に無機反射防止層と撥水層を形成した。その他の条件は実施例1と同じである。
(無機反射防止層形成工程)
ハードコート層形成後のレンズ基材上に、基材側から順に、SiO層とTiO層を交互に積層させた7層からなる反射防止層を形成した。SiO層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10−4Pa)で行った。TiO層の成膜は、イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10−3Pa)で行った。TiO層をイオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで、真空度は酸素を導入して4.0×10−3Paで保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.083λの光学膜厚を持つSiO層、第2層は0.070λの光学膜厚を持つTiO層、第3層は0.10λの光学膜厚を持つSiO層、第4層は0.18λの光学膜厚を持つTiO、第5層は0.065λの光学膜厚を持つSiO層、第6層は0.14λの光学膜厚を持つTiO層、第7層は0.26λの光学膜厚を持つSiO層を順次積層してなる無機反射防止層を形成した。設計波長λは520nmとした。得られた無機反射防止層の反射干渉色は緑色を呈し、全光線透過率は99%であった。
(撥水層形成工程)
さらに前記の無機反射防止層上に含フッ素シラン化合物からなる撥水層を真空蒸着法により形成した。
[実施例4]
実施例4では、基材上にプライマー層を形成せず、直接ハードコート層を形成した。その他の条件は、実施例3と同じである。
[実施例5]
実施例5では、第1焼成工程における加熱時間を30分間に短縮し、さらに第2焼成工程における加熱時間も30分間に短縮した。その他の条件は、実施例1と同じである。
[比較例1]
基材上にプライマー層、ハードコート層、有機反射防止層および撥水層を形成した眼鏡レンズを製造した。ハードコート層形成工程では、第1焼成工程と第2焼成工程とに分離することなく、125℃で3時間の焼成を行った。また、水分の添加は行わなかった(水分添加工程なし)。その他の条件は、実施例1と同じである。
[比較例2]
基材上にプライマー層を形成せず、直接ハードコート層を形成した。その他の条件は、比較例1と同じである。
[比較例3]
実施例3と同様にして無機反射防止層と撥水層を形成した。その他の条件は、比較例1と同じである。
[比較例4]
実施例4と同様にして無機反射防止層と撥水層を形成した。その他の条件は、比較例2と同じである。
[評価方法]
得られたハードコート層、反射防止層、撥水層付き眼鏡レンズについて、以下の方法により、耐擦傷性を評価した。結果は、表1に示す。
(耐擦傷性評価)
眼鏡レンズに、ボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール株式会社製)で9.8Nの荷重をかけ、10往復表面を摩擦し、傷の付いた程度を目視により次の段階に分けて評価した。実用上はCまでが許容範囲である。
A:摩擦した範囲に、全く傷が認められない。
B:上記範囲内に、1〜10本傷がついた。
C:上記範囲内に、10〜20本傷がついた。
D:無数の傷がついているが、平滑な面が残っている。
E:無数の傷がついていて、平滑な面が残っていない。
Figure 2007248998
[評価結果]
乾燥工程、第1焼成工程、水分添加工程および第2焼成工程を備えている実施例1〜5では、眼鏡レンズの耐擦傷性は、いずれも実用上問題のないレベルにある。また、実施例5は、短時間の焼成(第1焼成工程、第2焼成工程)を行っただけであるが、それでも実用上問題のないレベルの耐擦傷性を示している。
これに対して、比較例1〜4では、水分添加工程を備えていないため、いずれも耐擦傷性が劣っている。
すなわち、本発明から明らかなように、特定の条件下で、ハードコート層に水分添加処理を行うことで、短時間の焼成により耐擦傷性に優れるプラスチック眼鏡レンズが得られることがわかる。
本発明は、光学製品、例えば、プラスチック眼鏡レンズの製造方法として利用することができる。

Claims (4)

  1. プラスチック製の基材と、この基材上に形成されるハードコート層とを備える光学製品の製造方法であって、
    前記ハードコート層は、
    前記ハードコート層を形成するためのハードコート液を前記基材上へ塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程後に前記基材上へ塗布された前記ハードコート液を乾燥して塗膜を得る乾燥工程と、
    前記乾燥工程後に前記塗膜に含まれる硬化成分を縮合反応により予備硬化させ予備硬化ハードコート層を得る第1焼成工程と、
    前記第1焼成工程後に前記予備硬化ハードコート層へ水分を添加し水分含有予備硬化ハードコート層を得る水分添加工程と、
    前記水分添加工程後に前記水分含有予備硬化ハードコート層を更なる縮合反応により硬化を完結させる第2焼成工程と、
    を含むハードコート層形成工程により形成されることを特徴とする光学製品の製造方法。
  2. 請求項1に記載の光学製品の製造方法において、
    前記ハードコート層を形成するためのハードコート液が以下の(A)成分と(B)成分とを含むことを特徴とする光学製品の製造方法。
    (A)一般式:RSiX で示される有機ケイ素化合物
    (式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、例えば、炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは、加水分解性基を示す。)
    (B)ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物粒子
  3. 請求項1または請求項2に記載の光学製品の製造方法において、
    前記水分添加工程による前記予備硬化ハードコート層への水分の添加が、前記第1焼成工程後の前記基材を水に浸漬することにより行われることを特徴とする光学製品の製造方法。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学製品の製造方法により製造されたことを特徴とする光学製品。
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