図1及び図2に断面を示すデジタルカメラ70のズームレンズ鏡筒71は、カメラボディ72から被写体側へ繰り出される図1の撮影状態と、カメラボディ72内に収納される図2の収納(沈胴)状態とになる。図1では、ズームレンズ鏡筒71の上半断面がテレ端、下半断面がワイド端の撮影状態を示している。図8に示すように、ズームレンズ鏡筒71は、2群直進案内環10、カム環11、第1外筒12、第2外筒13、直進案内環14、第3外筒15、ヘリコイド環18、固定環22といった略同心の複数の環状(筒状)部材を備えており、これらの環状部材の共通中心軸を鏡筒中心軸Z0として図示している。
ズームレンズ鏡筒71の撮影光学系は、物体側から順に第1レンズ群LG1、シャッタS及び絞りA、第2レンズ群LG2、第3レンズ群LG3、ローパスフィルタLG4及びCCD(固体撮像素子)60を備えており、さらに撮影状態において第2レンズ群LG2と第3レンズ群LG3の間に挿脱可能な挿入光学要素としてマクロレンズ(挿入光学要素)MLを備えている。マクロレンズMLを除く第1レンズ群LG1からCCD60までの各光学要素は、撮影状態において共通の撮影光軸(共通光軸)Z1上に位置する通常光学要素を構成している。この撮影光軸Z1は、鏡筒中心軸Z0と平行であり、かつ該鏡筒中心軸Z0に対して下方に偏心している。ズーミングは、第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2を撮影光軸Z1に沿って所定の軌跡で進退させることによって行い、フォーカシングは同方向への第3レンズ群LG3の移動で行う。なお、以下の説明中で光軸方向という記載は、撮影光軸Z1と平行な方向を意味している。また、以下の説明中での前後方向とは撮影光軸Z1に沿う方向を意味し、被写体側を前方、像面側を後方とする。
図1及び図2に示すように、カメラボディ72内に固定環22が固定され、この固定環22の後部にCCDホルダ21が固定されている。CCDホルダ21上にはCCD60とローパスフィルタLG4が支持されており、CCDホルダ21の後部には、画像や撮影情報を表示するLCD20が設けられている。
CCDホルダ21と固定環22の間には、それぞれが撮影光軸Z1と平行をなすAFガイド軸52と回り止め軸53が固定されている。第3レンズ群LG3を保持するAFレンズ枠(3群レンズ枠)51は、AFガイド軸52に摺動可能に嵌まるガイド孔51aと、回り止め軸53に摺動可能に嵌まる回り止め孔51bを有し、光軸方向に直進案内されている。図11に示すように、AFレンズ枠51を駆動させるAFモータ160は撮影光軸Z1と平行なドライブシャフト160aを有し、このドライブシャフト160aの外周面に形成した送りねじに対してAFナット54が螺合している。AFレンズ枠51は光軸方向へのガイド溝51mを備え、このガイド溝51mに対してAFナット54の回転規制突起54aが摺動可能に嵌まっており、AFナット54はAFモータ160のドライブシャフト160aの正逆回転により光軸方向へ進退する。AFレンズ枠51はさらに、AFナット54の後方に位置するストッパ突起51nを有する。AFレンズ枠51は、AF枠付勢ばね55によって前方へ付勢されており、ストッパ突起51nがAFナット54に当て付くことによってAFレンズ枠51の前方移動端が決定される。そして、AFモータ160のドライブシャフト160aの回転に応じてAFナット54が後方へ移動されると、AFレンズ枠51はAFナット54に押圧されて後方へ移動される。逆にAFナット54が前方へ移動されると、AFレンズ枠51は、AF枠付勢ばね55の付勢力によってAFナット54に追随して前方へ移動される。以上の構造により、AFレンズ枠51を光軸方向に進退移動させることができる。
図7に示すように、固定環22の上部には、ズームモータ150と減速ギヤボックス74が支持されている。減速ギヤボックス74は内部に減速ギヤ列を有し、ズームモータ150の駆動力をズームギヤ28(図8、図11〜図13)に伝える。ズームギヤ28は、撮影光軸Z1と平行なズームギヤ軸29によって固定環22に枢着されている。
図11及び図12に示すように、固定環22の内周面には、撮影光軸Z1に対して傾斜する雌ヘリコイド22a、撮影光軸Z1と平行な3本の直進案内溝22b、雌ヘリコイド22aと平行な3本の斜行溝22c、及び各斜行溝22cの前端部に連通する周方向への回転摺動溝22dが形成されている。雌ヘリコイド22aは、固定環22前部の無ヘリコイド領域22z(図12)には形成されていない。
図11及び図13に示すように、ヘリコイド環18は、雌ヘリコイド22aに螺合する雄ヘリコイド18aと、斜行溝22c及び回転摺動溝22d内に位置される回転摺動突起18bとを外周面に有している。雄ヘリコイド18a上には、ズームギヤ28と螺合する環状ギヤ18cが形成されている。従って、ズームギヤ28から環状ギヤ18cへ回転力が与えられたときヘリコイド環18は、雌ヘリコイド22aと雄ヘリコイド18aが螺合関係にある状態では回転しながら光軸方向へ進退し、雄ヘリコイド18aが無ヘリコイド領域22zに達するまで前方に移動すると、雄ヘリコイド18aが雌ヘリコイド22aから外れ、回転摺動溝22dと回転摺動突起18bの係合関係によって鏡筒中心軸Z0を中心とする周方向回転のみを行う。斜行溝22cは、雌ヘリコイド22aと雄ヘリコイド18aが螺合する段階で回転摺動突起18bと固定環22の干渉を避けるために形成された逃げ溝である。
ヘリコイド環18の前端部内周面に形成した回転伝達凹部18d(図11)に対し、第3外筒15の後端部から後方に突設した回転伝達突起15a(図11、図14)が嵌入されている。図11において回転伝達凹部18dは一つのみが図示されているが、回転伝達凹部18dと回転伝達突起15aはそれぞれ、周方向に位置を異ならせて3箇所設けられており、周方向位置が対応するそれぞれの回転伝達突起15aと回転伝達凹部18dは、鏡筒中心軸Z0に沿う方向への相対摺動は可能に結合し、該鏡筒中心軸Z0を中心とする周方向には相対回動不能に結合されている。すなわち、第3外筒15とヘリコイド環18は一体に回転する。また、ヘリコイド環18には、回転摺動突起18bの内径側の一部領域を切り欠いて嵌合凹部18eが形成されており、該嵌合凹部18eに嵌合する嵌合突起15bは、回転摺動突起18bが回転摺動溝22dに係合するとき、同時に回転摺動溝22dに係合する(図3参照)。
第3外筒15とヘリコイド環18の間には、互いを光軸方向での離間方向へ付勢する3つの離間付勢ばね25(図4、図6、図11及び図13)が設けられている。離間付勢ばね25は圧縮コイルばねからなり、その後端部がヘリコイド環18の前端部に開口するばね挿入凹部18fに収納され、前端部が第3外筒15のばね当付凹部15cに当接している。この離間付勢ばね25によって、回転摺動溝22dの前側壁面に向けて嵌合突起15bを押圧し、かつ回転摺動溝22dの後側壁面に向けて回転摺動突起18bを押圧している。
図11及び図14に示すように、第3外筒15の内周面には、内径方向に突出する相対回動案内突起15dと、鏡筒中心軸Z0を中心とする周方向溝15eと、撮影光軸Z1と平行な3本の回転伝達溝15fとが形成されている。相対回動案内突起15dは、周方向に位置を異ならせて複数が設けられている。回転伝達溝15fは、回転伝達突起15aに対応する周方向位置に形成されており、その後端部は、回転伝達突起15aを貫通して後方へ向け開口されている。また、ヘリコイド環18の内周面には鏡筒中心軸Z0を中心とする周方向溝18gが形成されている(図4、図6及び図11参照)。この第3外筒15とヘリコイド環18の結合体の内側には直進案内環14が支持される。図3ないし図6、図11及び図15に示すように、直進案内環14の外周面には光軸方向の後方から順に、外径方向へ突出する3つの直進案内突起14aと、それぞれ周方向に位置を異ならせて複数設けた相対回動案内突起14b及び14cと、鏡筒中心軸Z0を中心とする周方向溝14dとが形成されている。直進案内環14は、直進案内突起14aを直進案内溝22bに係合させることで、固定環22に対し光軸方向に直進案内される。また第3外筒15は、周方向溝15eを相対回動案内突起14cに係合させ、相対回動案内突起15dを周方向溝14dに係合させることで、直進案内環14に対して相対回動可能に結合される。周方向溝15eと相対回動案内突起14c、周方向溝14dと相対回動案内突起15dはそれぞれ、光軸方向には若干相対移動可能なように遊嵌している。さらにヘリコイド環18も、周方向溝18gを相対回動案内突起14bに係合させることで、直進案内環14に対して相対回動可能に結合される。周方向溝18gと相対回動案内突起14bは光軸方向には若干相対移動可能なように遊嵌している。
直進案内環14には、内周面と外周面を貫通する3つの貫通ガイド溝14eが形成されている。図15に示すように、各貫通ガイド溝14eは、周方向へ向け形成された平行な前後の周方向溝部14e-1及び14e-2と、この両周方向溝部14e-1及び14e-2を接続するリード溝部14e-3とを有する。それぞれの貫通ガイド溝14eに対し、カム環11の外周面に設けたカム環ローラ32が嵌まっている。図10及び図16に示すように、カム環ローラ32は、ローラ固定ねじ32aを介してカム環11に固定されており、周方向へ位置を異ならせて3つ設けられている。カム環ローラ32はさらに、貫通ガイド溝14eを貫通して第3外筒15の回転伝達溝15fに嵌まっている。図14に示すように、各回転伝達溝15fの前端部付近には、ローラ付勢ばね17に設けた3つのローラ押圧片17aが嵌っている。ローラ付勢ばね17は、カム環ローラ32が周方向溝部14e-1に係合するときに、ローラ押圧片17aによってカム環ローラ32を後方へ押圧し、カム環ローラ32と貫通ガイド溝14e(周方向溝部14e-1)との間のバックラッシュを取る(図3参照)。
以上の構造から、固定環22からカム環11までの繰り出しの態様が理解される。すなわち、図2、図5及び図6に示す鏡筒収納状態において、ズームモータ150によってズームギヤ28を鏡筒繰出方向に回転駆動すると、雌ヘリコイド22aと雄ヘリコイド18aの関係によってヘリコイド環18が回転しながら前方に繰り出される。ヘリコイド環18と第3外筒15はそれぞれ、周方向溝14d、15e及び18gと相対回動案内突起15b、14c及び14dの係合関係によって、直進案内環14に対して相対回動可能かつ回転軸方向(鏡筒中心軸Z0に沿う方向)へは共に移動するように結合されているため、ヘリコイド環18が回転繰出されると、第3外筒15も同方向に回転しながら前方に繰り出され、直進案内環14はヘリコイド環18及び第3外筒15と共に前方へ直進移動する。また、第3外筒15の回転力は回転伝達溝15fとカム環ローラ32を介してカム環11に伝達される。カム環ローラ32は貫通ガイド溝14eにも嵌まっているため、直進案内環14に対してカム環11は、リード溝部14e-3の形状に従って回転しながら前方に繰り出される。前述の通り、直進案内環14自体も第3外筒15及びヘリコイド環18と共に前方に直進移動しているため、結果としてカム環11には、リード溝部14e-3に従う回転繰出分と、直進案内環14の前方への直進移動分とを合わせた光軸方向移動量が与えられる。
以上の回転繰出動作は雄ヘリコイド18aと雌ヘリコイド22aが螺合している間行われ、このとき回転摺動突起18bは斜行溝22c内を移動している。ヘリコイド環18が図1、図3及び図4に示す撮影位置まで繰り出されると、雄ヘリコイド18aと雌ヘリコイド22aの螺合が解除されて、回転摺動突起18bが斜行溝22cから回転摺動溝22d内へ入る。すると、ヘリコイドによる回転繰出力が作用しなくなるため、ヘリコイド環18及び第3外筒15は、回転摺動突起18bと回転摺動溝22dの係合関係によって光軸方向の一定位置で回動のみを行うようになる。また、回転摺動突起18bが斜行溝22cから回転摺動溝22d内へ入るのとほぼ同時に、カム環ローラ32は貫通ガイド溝14eの周方向溝部14e-1に入る。すると、カム環11に対しても前方への移動力が与えられなくなり、カム環11は第3外筒15の回転に応じて一定位置で回動のみ行うようになる。
ズームギヤ28を鏡筒収納方向に回転駆動させると、以上と逆の動作が行われる。そして、カム環ローラ32が貫通ガイド溝14eの周方向溝部14e-2に入るまでヘリコイド環18に回転を与えると、各部材が図2、図5及び図6に示す収納位置まで後退する。
続いて、カム環11より先の構造を説明する。図11及び図15に示すように、直進案内環14の内周面には、撮影光軸Z1と平行な3つの第1直進案内溝14fと6つの第2直進案内溝14gが、それぞれ周方向に位置を異ならせて形成されている。第1直進案内溝14fは、6つのうち3つの第2直進案内溝14gの両側に位置する一対の溝部からなっており、この3つの第1直進案内溝14fに対し、2群直進案内環10に設けた3つの直進案内突起10a(図10、図20)が摺動可能に係合している。一方、第2直進案内溝14gに対しては、第2外筒13の後端部外周面に突設した6つの直進案内突起13a(図9、図18)が摺動可能に係合している。したがって、第2外筒13と2群直進案内環10はいずれも、直進案内環14を介して光軸方向に直進案内されている。そして、2群直進案内環10は、第2レンズ群LG2を支持する2群レンズ移動枠8を光軸方向に直進案内し、第2外筒13は、第1レンズ群LG1を支持する第1外筒12を光軸方向へ直進案内する。
図10及び図20に示すように、第2レンズ群LG2を直進案内する2群直進案内環10は、3つの直進案内突起10aを接続するリング部10bから前方へ向けて、3つの直進案内キー10cを突出させている。図3及び図5に示すように、リング部10bの外縁部は、カム環11の後端部内周面に形成した周方向溝11eに対し相対回転は可能で光軸方向の相対移動は不能に係合しており、直進案内キー10cはカム環11の内側に延出されている。各直進案内キー10cは、撮影光軸Z1と平行な一対のガイド面を側面に有しており、このガイド面を、カム環11の内側に支持された2群レンズ移動枠8の直進案内溝8a(図10、図21)に係合させることによって、2群レンズ移動枠8を光軸方向に直進案内している。
カム環11の内周面には2群案内カム溝11aが形成されている。図17に示すように、2群案内カム溝11aは、光軸方向及び周方向に位置を異ならせた前方カム溝11a-1と後方カム溝11a-2からなっている。この2群案内カム溝11aに対して、2群レンズ移動枠8の外周面に設けた2群用カムフォロア8bが係合している。図21に示すように、2群用カムフォロア8bは、光軸方向及び周方向に位置を異ならせた前方カムフォロア8b-1と後方カムフォロア8b-2からなっており、前方カムフォロア8b-1は前方カム溝11a-1に係合し、後方カムフォロア8b-2は後方カム溝11a-2に係合するように光軸方向及び周方向の間隔が定められている。2群レンズ移動枠8は2群直進案内環10を介して光軸方向に直進案内されているため、カム環11が回転すると、2群案内カム溝11aの形状に従って、2群レンズ移動枠8が光軸方向へ所定の軌跡で移動する。
2群レンズ移動枠8の内側には、第2レンズ群LG2を保持する2群レンズ枠6が支持されている。図10に示すように、2群レンズ枠6は、第2レンズ群LG2を支持するレンズ筒6a、中心に軸孔6dが形成された揺動中心筒6b、レンズ筒6aと揺動中心筒6bを接続する揺動アーム6c、レンズ筒6aから外径方向に延出されたストッパアーム6eを有している。ストッパアーム6eの後面側にはストッパ突起6fが設けられている(図24、図25)。2群レンズ枠6におけるレンズ筒6aと揺動中心筒6bは互いの中心軸が平行な筒状体であり、その中心軸は撮影光軸Z1と平行である。揺動中心筒6bの軸孔6dは、退避回動軸33に対して相対回動可能に嵌まっている。退避回動軸33の前端部と後端部はそれぞれ2群レンズ枠支持板36、37に支持されており、この前後の2群レンズ枠支持板36、37は、支持板固定ビス66によって2群レンズ移動枠8に固定されている。つまり、2群レンズ枠6は退避回動軸33を中心として回動(揺動)可能に2群レンズ移動枠8に支持されている。退避回動軸33は撮影光軸Z1から偏心した位置にあり、2群レンズ枠6は、退避回動軸33を回動中心として、第2レンズ群LG2の光軸を撮影光軸Z1と一致させる撮影用位置(図1、図24ないし図27、図32及び図33)と、第2レンズ群LG2の光軸を撮影光軸Z1から偏心した位置(退避光軸Z2)にさせる収納用退避位置(図2、図28及び図29)との間で回動することができる。図24ないし図29に示すように、2群レンズ移動枠8には、ストッパアーム6eに当接して2群レンズ枠6を撮影用位置で回動規制する回動規制ピン35が設けられている。揺動中心筒6bの周りにはトーションばねからなる2群レンズ枠戻しばね39(図10)が設けられており、この2群レンズ枠戻しばね39によって、2群レンズ枠6はストッパアーム6eを回動規制ピン35に当接させる方向、すなわち撮影用位置へ回動付勢されている。また、2群レンズ移動枠8に対する2群レンズ枠6の光軸方向でのバックラッシュ除去のため、圧縮コイルばねからなる軸方向押圧ばね38によって揺動中心筒6bが光軸方向前方(2群レンズ枠支持板36側)に押圧されている。
2群レンズ枠6は、光軸方向には2群レンズ移動枠8と一体に移動する。CCDホルダ21には2群レンズ枠6に係合可能な位置にカム突起19(図11)が前方に向けて突設されており、2群レンズ移動枠8が収納方向に移動してCCDホルダ21に接近すると、カム突起19が2群レンズ枠6を押圧して、2群レンズ枠戻しばね39の付勢力に抗して収納用退避位置に回動させる(図28、図29参照)。
詳細には、図24ないし図29に示すように、カム突起19の先端部には光軸に対して傾斜する退避カム面19aが形成され、該退避カム面19aに連続する一方の側面には、光軸と平行な退避位置保持面19bが形成されている。カム突起19は、退避回動軸33を中心とする円筒の一部をなす湾曲した断面形状を有しており、退避カム面19aは、この筒状体の端面にリード面として形成されている。退避カム面19aは、撮影光軸Z1に近い側から遠い側へ進むにつれて徐々に光軸方向前方へ突出する形状となっている。また、カム突起19の下面(凸面)側には、光軸と平行なガイドキー19cが設けられている。2群レンズ枠支持板36、37にはそれぞれ、カム突起19に対応する位置にカム突起挿脱開口36a、37aが形成されている。また、2群レンズ枠支持板37にはさらに、カム突起挿脱開口37aの一部にガイドキー19cが進入可能なガイドキー進入溝37bが形成されている。
また、2群レンズ枠6の揺動中心筒6bの外周面には、2群レンズ枠戻しばね39とは別に回転伝達ばね40が取り付けられている。回転伝達ばね40は固定ばね端部40aと可動ばね端部40bを有するトーションばねであり、固定ばね端部40aが2群レンズ枠6の揺動アーム6cに固定され、可動ばね端部40bは、2群レンズ枠6が上記の撮影用位置にあるときにカム突起挿脱開口37aに臨む位置にある(カム突起19の前方に位置する)。
以上の構造から、ズームレンズ鏡筒71の撮影状態から収納状態への移行に際して2群レンズ移動枠8が光軸方向後方に移動してCCDホルダ21に接近すると、2群レンズ枠支持板37のカム突起挿脱開口37aにカム突起19が挿入され(図28、図29)、カム突起19の先端部の退避カム面19aが回転伝達ばね40の可動ばね端部40bに当接する。可動ばね端部40bと退避カム面19aが当接した状態で2群レンズ枠6が後退すると、退避カム面19aの形状に従って可動ばね端部40bを退避回動軸33の径方向へ押圧する分力が生じ、固定ばね端部40aを介して2群レンズ枠6に回動力が伝達される。回動力を受けた2群レンズ枠6は、2群レンズ移動枠8の後退動作に伴い、前述の撮影用位置(図1、図24ないし図27、図32及び図33)から収納用退避位置(図2、図28及び図29)へ向けて、2群レンズ枠戻しばね39の付勢力に抗して退避回動軸33を中心として回動する。2群レンズ枠6が収納用退避位置まで回動すると、可動ばね端部40bが退避カム面19aを乗り越えて退避位置保持面19bに係合し、以降は2群レンズ移動枠8が後退動作を行っても2群レンズ枠6に退避方向の回動力が与えられなくなる。この2群レンズ枠6の退避回動動作は、2群レンズ枠6が後方のAFレンズ枠51の位置まで後退する前に完了するように設定されており、2群レンズ枠6とAFレンズ枠51が干渉することはない。2群レンズ移動枠8は、2群レンズ枠6が退避位置に達した後も、図2の収納位置に達するまで引き続き後退する。2群レンズ枠6は、可動ばね端部40bが退避位置保持面19bに係合した状態で退避位置に保たれつつ、2群レンズ移動枠8と共に後退する。ズームレンズ鏡筒71が図2の収納状態まで達すると、図28及び図29のようにカム突起19が2群レンズ枠支持板36のカム突起挿脱開口36aから前方に突出する。
ズームレンズ鏡筒71が図2の収納状態から図1の撮影状態へ繰り出されるときには、収納動作時とは逆に、カム突起19の退避カム面19aから回転伝達ばね40の可動ばね端部40bが離れるまで2群レンズ枠6が前方に移動すると、2群レンズ枠戻しばね39の付勢力によって収納用退避位置から撮影用位置まで2群レンズ枠6が回動される。このとき、2群レンズ枠6のストッパアーム6eが回動規制ピン35に当接し、2群レンズ枠戻しばね39の付勢方向への2群レンズ枠6の回動端が決まる。すなわち、2群レンズ枠戻しばね39と回動規制ピン35によって2群レンズ枠6が撮影用位置に保持される。
なお、回転伝達ばね40のばね力(硬さ)は、通常の鏡筒収納動作で2群レンズ枠6自体に作用する回転抵抗によっては撓むことなく2群レンズ枠6へ回転力を伝達するように設定されている。すなわち、回転伝達ばね40の弾性復元力は、2群レンズ枠戻しばね39が2群レンズ枠6を撮影用位置に保持する付勢力よりも強く設定されている。
図9及び図18に示すように、第1レンズ群LG1を直進案内する第2外筒13の内周面には、周方向に位置を異ならせて3つの直進案内溝13bが光軸方向へ形成されており、各直進案内溝13bに対し、第1外筒12の後端部付近の外周面に形成した3つの係合突起12aが摺動可能に嵌合している。すなわち、第1外筒12は、直進案内環14と第2外筒13を介して光軸方向に直進案内されている。また、第2外筒13の後端部付近の内周面には周方向への内径フランジ13cが形成され、この内径フランジ13cがカム環11の外周面に設けた周方向溝11c(図3、図5、図10及び図16)に摺動可能に係合することで、第2外筒13は、カム環11に対して相対回転可能かつ光軸方向の相対移動は不能に結合されている。一方、第1外筒12は、内径方向に突出する3つの1群用ローラ31を有し、それぞれの1群用ローラ31が、カム環11の外周面に3本形成した1群案内カム溝11b(図10、図16)に摺動可能に嵌合している。
第1外筒12内には、1群調整環2を介して1群レンズ枠1が支持されている。図1、図2及び図9に示すように、1群レンズ枠1には第1レンズ群LG1が固定され、その外周面に形成した雄調整ねじ1aが、1群調整環2の内周面に形成した雌調整ねじ2aに螺合している。1群レンズ枠1と1群調整環2の結合体は第1外筒12の内側に光軸方向へ移動可能に支持されており、1群抜止環3が第1外筒12に対して1群調整環2を前方に抜け止めている。
第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の間には、シャッタSと絞りAを有するシャッタユニット76が支持されている。シャッタユニット76は、2群レンズ移動枠8の内側に固定されている。
以上の構造からなるズームレンズ鏡筒71は次のように動作する。なお、カム環11が収納位置から定位置回転状態に繰り出される段階までは既に説明しているので簡潔に述べる。図2の鏡筒収納状態では、ズームレンズ鏡筒71はカメラボディ72内に完全に格納されている。この鏡筒収納状態においてデジタルカメラ70の外面に設けたメインスイッチ73(図22)をオンすると、制御回路75(図22)に制御されてズームモータ150が鏡筒繰出方向に駆動される。ズームモータ150によりズームギヤ28が回転駆動され、ヘリコイド環18と第3外筒15の結合体がヘリコイド(雄ヘリコイド18a、雌ヘリコイド22a)に従って回転繰出される。直進案内環14は、第3外筒15及びヘリコイド環18と共に前方に直進移動する。このとき、第3外筒15から回転力が付与されるカム環11は、直進案内環14の前方への直進移動分と、該直進案内環14との間に設けたリード構造(カム環ローラ32、リード溝部14e-3)による繰出分との合成移動を行う。ヘリコイド環18とカム環11が前方の所定位置まで繰り出されると、それぞれの回転繰出構造(ヘリコイド、リード)の機能が解除されて、鏡筒中心軸Z0を中心とした周方向回転のみを行うようになる。
カム環11が回転すると、その内側では、2群直進案内環10を介して直進案内された2群レンズ移動枠8が、2群用カムフォロア8bと2群案内カム溝11aの関係によって光軸方向に所定の軌跡で移動される。図2の鏡筒収納状態では、2群レンズ移動枠8内の2群レンズ枠6は、CCDホルダ21に突設したカム突起19の作用によって、撮影光軸Z1から上方へ移動させられた(第2レンズ群が退避光軸Z2上に偏心させられた)収納用退避位置に保持されており、該2群レンズ枠6は、2群レンズ移動枠8がズーム領域まで繰り出される途中でカム突起19から離れて、2群レンズ枠戻しばね39の付勢力によって第2レンズ群LG2の光軸を撮影光軸Z1と一致させる撮影用位置(図1)に回動する。以後、ズームレンズ鏡筒71を再び収納位置に移動させるまでは、2群レンズ枠6は撮影用位置に保持される。
また、カム環11が回転すると、該カム環11の外側では、第2外筒13を介して直進案内された第1外筒12が、1群用ローラ31と1群案内カム溝11bの関係によって光軸方向に所定の軌跡で移動される。
すなわち、撮像面(CCD受光面)に対する第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の繰出位置はそれぞれ、前者が、固定環22に対するカム環11の前方移動量と、該カム環11に対する第1外筒12のカム繰出量との合算値として決まり、後者が、固定環22に対するカム環11の前方移動量と、該カム環11に対する2群レンズ移動枠8のカム繰出量との合算値として決まる。ズーミングは、この第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2が互いの空気間隔を変化させながら撮影光軸Z1上を移動することにより行われる。図2の収納位置から鏡筒繰出を行うと、まず図1の下半断面に示すワイド端の繰出状態になり、さらにズームモータ150を鏡筒繰出方向に駆動させると、同図の上半断面に示すテレ端の繰出状態となる。図1から分かるように、本実施形態のズームレンズ鏡筒71は、ワイド端では第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の間隔が大きく、テレ端では、第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2が互いの接近方向に移動して間隔が小さくなる。このような第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の空気間隔の変化は、2群案内カム溝11aと1群案内カム溝11bの軌跡によって与えられるものである。このテレ端とワイド端の間のズーム領域(ズーミング使用領域)では、カム環11、第3外筒15及びヘリコイド環18は、前述の定位置回転のみを行い、光軸方向へは進退しない。ズーム領域での変倍動作は、ズームスイッチ90(図22)の操作に応じて実行される。
デジタルカメラ70は、測光測距スイッチ95とシャッタレリーズスイッチ96(図22)を有している。ズームレンズ鏡筒71がズーム領域にあるとき、測光測距スイッチ95を操作することにより、測光モジュールによる測光動作と測距モジュールによる測距動作が行われ、得られた被写体輝度情報や被写体距離情報が制御回路75に入力される。制御回路75は、被写体距離に応じてAFモータ160を駆動することにより、第3レンズ群LG3(AFレンズ枠51)を撮影光軸Z1に沿って移動させてフォーカシングを実行する。また、シャッタレリーズスイッチ96を操作することにより、シャッタSが開いてCCD60を介した撮像処理が実行される。この測光測距スイッチ95とシャッタレリーズスイッチ96は、共通のシャッタレリーズボタンの半押し操作と全押し操作でそれぞれオンさせることができる。
メインスイッチ73をオフすると、ズームモータ150が鏡筒収納方向に駆動され、ズームレンズ鏡筒71は上記の繰出動作とは逆の収納動作を行い、図2の収納状態になる。この収納位置への移動の途中で、2群レンズ枠6がカム突起19によって収納用退避位置に回動され、2群レンズ移動枠8と共に後退する。ズームレンズ鏡筒71が収納位置まで移動されると、第2レンズ群LG2は、光軸方向において第3レンズ群LG3やローパスフィルタLG4と同位置に格納される(鏡筒の径方向に重なる)。この収納時の第2レンズ群LG2の退避構造によってズームレンズ鏡筒71の収納長が短くなり、図2の左右方向におけるカメラボディ72の厚みを小さくすることが可能となっている。
ズームレンズ鏡筒71はさらに、撮影状態において第2レンズ群LG2と第3レンズ群LG3の間の撮影光路上に挿脱可能なマクロレンズMLを有している。マクロレンズMLは、2群レンズ枠6と共通の退避回動軸33を中心として回動可能なマクロレンズ保持枠80に保持されている。このマクロレンズMLの駆動機構を説明する。
図23に示すように、マクロレンズ保持枠80は前方支持板80aと後方支持板80bからなっており、前方支持板80aの一端部に、退避回動軸33に対して相対回動自在に嵌まる軸孔80cを有している。前方支持板80aは、軸孔80cを中心とする円筒突起80c-1を有しており、後方支持板80bは、軸孔80cに対向する位置に円形孔80c-2を有している。前方支持板80aと後方支持板80bはそれぞれ、軸孔80cを中心とする径方向に延出された揺動アーム80dと、該揺動アーム80dに連続して設けられ円形開口80eを有するレンズ挟持部80fを有している。前方支持板80aにはさらに、軸孔80cと反対側の端部に位置するストッパ部80gと、レンズ挟持部80fにおける支持板80bとの対向面側に形成したレンズ保持環部80kとが設けられている。レンズ保持環部80kは、円形開口80eを囲む環状をなしている。前方支持板80aと後方支持板80bは、係止爪80hを係止孔80iに係合させた状態で、固定ねじ80jによって互いに固定される。そして、前方支持板80aと後方支持板80bを組み合わせた状態で、軸孔80cと円形孔80c-2に対して退避回動軸33を挿入することによって、マクロレンズ保持枠80が退避回動軸33を中心として回動可能に支持される。
マクロレンズMLは、前方支持板80aと後方支持板80bのそれぞれの円形開口80eに臨むようにしてレンズ保持環部80kの内側に保持されている。そして、前方支持板80aと後方支持板80bのそれぞれのレンズ挟持部80fが、マクロレンズMLを前後方向に抜け止めしている。
マクロレンズ保持枠80には、前方支持板80aと後方支持板80bの間にフリクションギヤ82、アイドルギヤ83及び回動制御ギヤ84が設けられている。フリクションギヤ82にはアイドルギヤ83が噛合し、アイドルギヤ83には回動制御ギヤ84が噛合している。フリクションギヤ82とアイドルギヤ83はそれぞれ、前方支持板80aに突設した回転軸82xと回転軸83xによって軸支されている。また、回動制御ギヤ84は、前方支持板80aに設けた円筒突起80c-1に対して回転自在に嵌まっている。円筒突起80c-1は退避回動軸33と同心であるため、回動制御ギヤ84は退避回動軸33を中心として回転される。回動制御ギヤ84にはアイドルギヤ85が噛合しており、アイドルギヤ85には駆動ギヤ86が噛合している。アイドルギヤ85の回転軸85xと駆動ギヤ86の回転軸86xはそれぞれ、2群レンズ枠支持板36、37に形成した軸孔によって支持されている。各ギヤの回転軸82x、83x、85x、86xの軸線はそれぞれ撮影光軸Z1と平行であり、回動制御ギヤ84の回転中心である円筒突起80c-1(退避回動軸33)の軸線も撮影光軸Z1と平行である。したがって、フリクションギヤ82から駆動ギヤ86までのギヤ列を構成する各ギヤは、いずれも撮影光軸Z1と平行な回転中心によって回転される。フリクションギヤ82は、ワッシャばね82aによって後方支持板80b側に押圧付勢されており、所定の大きさの回転抵抗が作用している。
駆動ギヤ86は、2群レンズ移動枠8に搭載されたマクロレンズ駆動モータ87(図22)によって正逆に回転駆動される。マクロレンズ駆動モータ87は、シャッタSや絞りAを駆動するアクチュエータと共に、シャッタユニット76内に設けられている。図24、図26及び図28に示すように、シャッタユニット76とマクロレンズ保持枠80は、2群レンズ枠6を挟んで光軸方向に離間した位置関係にあり、駆動ギヤ86は、シャッタユニット76側のマクロレンズ駆動モータ87から、マクロレンズ保持枠80側のアイドルギヤ85へ駆動力を伝達するべく、光軸方向に長いギヤ部材として形成されている。駆動ギヤ86が回転されると、アイドルギヤ85を介して回動制御ギヤ84が回転する。ここで、フリクションギヤ82はワッシャばね82aによって回転抵抗が与えられているため、回動制御ギヤ84が回転すると、該回動制御ギヤ84とアイドルギヤ83が太陽ギヤと遊星ギヤの関係になってアイドルギヤ83が回動制御ギヤ84の周面上を移動(公転)する。その結果、駆動ギヤ86の正逆回転に応じてマクロレンズ保持枠80が退避回動軸33を中心として往復回動され、2群レンズ枠6に保持された第2レンズ群LG2と同様に、マクロレンズMLが、撮影光軸Z1上に進出する挿入位置(図26、図27、図30及び図32)と、退避光軸Z2上へ移動された離脱位置(図24、図25、図28、図29、図31及び図33)とに移動される。具体的には、図31ないし図33におけるK1方向に駆動ギヤ86が回転すると、マクロレンズMLが撮影光軸Z1上に進出し、K2方向に駆動ギヤ86が回転すると、マクロレンズMLが退避光軸Z2側へ離脱する。
マクロレンズ保持枠80がマクロレンズMLの挿入位置まで回動されると、図32に示すように2群レンズ枠6のストッパ突起6fに対してストッパ部80gが当接し、挿入方向へのマクロレンズ保持枠80の回動が規制される。また、マクロレンズ保持枠80がマクロレンズMLの離脱位置まで回動されると、図33に示すように、2群レンズ移動枠8の内周面に設けたストッパ突起8cに対してストッパ部80gが当接し、離脱方向へのマクロレンズ保持枠80の回動が規制される。
以上の構造により、ズームレンズ鏡筒71が図1の撮影状態にあるときには、第1レンズ群LG1、第2レンズ群LG2、第3レンズ群LG3を駆動させるズーミングやフォーカシング用の駆動機構とは独立して、撮影光軸Z1上へのマクロレンズMLの挿脱動作(マクロレンズ保持枠80の回動)を任意に行うことができる。具体的には、撮影状態においてマクロレンズMLが撮影光軸Z1から離脱している状態が図24、図25及び図33であり、撮影状態においてマクロレンズMLが撮影光軸Z1上に挿入されている状態が図26、図27及び図32である。これらの図から分かるように、マクロレンズ保持枠80は2群レンズ移動枠8の内側で往復回動しているため、図1に示すワイド端からテレ端までのズーム領域全般において、第3レンズ群LG3など他の光学要素の作動を妨げることなくマクロレンズMLを任意に挿脱移動させることが可能である。そして、マクロレンズMLの挿入状態では、マクロレンズMLが第2レンズ群LG2の直後に位置し、第2レンズ群LG2からの出射光束がマクロレンズMLを通って第3レンズ群LG3に入射する。一方、マクロレンズMLの離脱状態では、撮影光束はマクロレンズMLを通らない。
デジタルカメラ70は、マクロレンズMLの挿脱操作手段としてマクロレンズ挿入スイッチ88とマクロレンズ離脱スイッチ89を備えている(図22)。マクロレンズ挿入スイッチ88とマクロレンズ離脱スイッチ89の操作に応じて、マクロレンズ駆動モータ87が正転及び逆転駆動される。具体的には、マクロレンズ挿入スイッチ88を操作すると、マクロレンズ駆動モータ87によって駆動ギヤ86が前述のK1方向に回転され、マクロレンズ離脱スイッチ89を操作すると、マクロレンズ駆動モータ87によって駆動ギヤ86が前述のK2方向に回転される。マクロレンズ駆動モータ87はパルスモータであり、制御回路75は、マクロレンズ挿入スイッチ88のオン信号(マクロレンズ挿入信号)が入力されたときには、マクロレンズ保持枠80を前述の離脱位置から挿入位置まで回動させるようにマクロレンズ駆動モータ87の駆動パルス数を制御し、マクロレンズ離脱スイッチ89のオン信号(マクロレンズ離脱信号)が入力されたときには、マクロレンズ保持枠80を挿入位置から離脱位置まで回動させるようにマクロレンズ駆動モータ87の駆動パルス数を制御する。
デジタルカメラ70が図1の撮影状態にあるとき、制御回路75は、マクロレンズ挿入スイッチ88のオン信号に応じて、マクロレンズ駆動モータ87を挿入方向に駆動させてマクロレンズML(マクロレンズ保持枠80)を撮影光軸Z1上に挿入させ、マクロレンズ離脱スイッチ89のオン信号に応じて、マクロレンズ駆動モータ87を離脱方向に駆動させてマクロレンズML(マクロレンズ保持枠80)を撮影光軸Z1上から退避光軸Z2側へ離脱させる。
マクロレンズ保持枠80が撮影光軸Z1上の挿入位置にある状態で図1の撮影状態から図2の収納状態への移行信号が出された場合、すなわちマクロレンズ挿入スイッチ88がオンの状態でデジタルカメラ70のメインスイッチ73がオフされた場合、制御回路75は、マクロレンズ駆動モータ87を離脱方向に駆動して、マクロレンズML(マクロレンズ保持枠80)を撮影光軸Z1上の挿入位置から退避光軸Z2上の離脱位置まで移動させる。制御回路75は、続いてズームモータ150を鏡筒収納方向に駆動し、2群レンズ移動枠8が光軸方向後方へ後退される。すると前述したように、カム突起19の作用によって、2群レンズ枠6が撮影光軸Z1上の撮影用位置から退避光軸Z2側の収納用退避位置へと退避回動を行う。なお、メインスイッチ73がオフされたときに既にマクロレンズ保持枠80が退避光軸Z2上の離脱位置にあるときには、制御回路75はマクロレンズ駆動モータ87の駆動を省略してズームモータ150による鏡筒収納動作を行わせる。こうして2群レンズ枠6とマクロレンズ保持枠80の両方が撮影光軸Z1に対して退避された状態が図28及び図29である。同図から分かる通り、第2レンズ群LG2とマクロレンズMLは、退避回動軸33を中心として同方向へ退避移動され、その結果、互いに退避光軸Z2上において前後方向に隣接して位置している。このように第2レンズ群LG2とマクロレンズMLを同方向に退避させることで、互いに別方向へ退避させる場合よりも退避用の駆動スペースを小さくすることができる。また、2群レンズ枠6とマクロレンズ保持枠80は、退避回動軸33という共通の回動軸によって軸支されているため、部品点数を少なくして支持構造を簡略化することができる。
制御回路75は、2群レンズ枠6の退避回動が完了した後も引き続きズームモータ150を鏡筒収納方向に駆動させる。すると、2群レンズ移動枠8が2群レンズ枠6とマクロレンズ保持枠80を伴ってさらに後退し、最終的に図2に示す位置に達する。図2の鏡筒収納状態では、第2レンズ群LG2が第3レンズ群LG3及びローパスフィルタLG4と略同じ光軸方向位置(鏡筒径方向に重なる位置)まで後退され、マクロレンズMLがCCD60と略同じ光軸方向位置(鏡筒径方向に重なる位置)まで後退されている。つまり、実質的に第2レンズ群LG2とマクロレンズMLの厚み分だけズームレンズ鏡筒71の収納長が短縮されており、これによりデジタルカメラ70を薄型化することが可能になっている。図2の鏡筒収納状態では、制御回路75は、マクロレンズ挿入スイッチ88、マクロレンズ離脱スイッチ89のいずれの操作信号が入力されてもマクロレンズ駆動モータ87を駆動させない。
以上の鏡筒収納動作とは逆に、図2の収納状態においてメインスイッチ73がオンされて図1の撮影状態への移行信号が出された場合、制御回路75は、ズームモータ150を鏡筒繰出方向に駆動して、ズームレンズ鏡筒71を前述の撮影状態にさせる。収納状態から撮影状態に移行する途中で、2群レンズ枠6が収納用退避位置から撮影用位置へと回動され、第2レンズ群LG2が撮影光軸Z1上に進出する。この鏡筒繰出動作中においては、制御回路75がマクロレンズ駆動モータ87を駆動させず、マクロレンズ保持枠80は、マクロレンズMLを退避光軸Z2上の離脱位置に保ちながら2群レンズ移動枠8と共に光軸方向前方に移動される。
なお、図1の撮影状態から図2の収納状態になる際に、前述したマクロレンズ駆動モータ87の駆動力ではなく、2群レンズ枠6の退避回動動作によってマクロレンズ保持枠80を離脱位置へ回動させることができる。すなわち、撮影状態では図32のように2群レンズ枠6のストッパ突起6fがストッパ部80gに当接しており、2群レンズ枠6が退避回動軸33を中心として同図の時計方向に退避回動することで、ストッパ突起6fがストッパ部80gを押圧してマクロレンズ保持枠80が2群レンズ枠6と共に離脱位置まで回動される。この構成により、仮に何らかのエラーでマクロレンズ駆動モータ87が正しく駆動されない場合でも、メインスイッチ73をオフしたときには、マクロレンズMLやマクロレンズ保持枠80を確実に撮影光軸Z1外に離脱させ、後方のAFレンズ枠51やCCDホルダ21と干渉させることなく確実に鏡筒収納動作を行わせることができる。つまり、鏡筒収納時にマクロレンズ保持枠80を強制的に離脱回動させることが可能なフェイルセーフ構造を備えている。
挿脱可能なマクロレンズMLを備えた以上のズームレンズ鏡筒71では、マクロレンズMLの挿入時に他の光学要素と干渉しないようにする必要がある。具体的には、マクロレンズMLは光軸方向には第2レンズ群LG2と一体に移動し、この第2レンズ群LG2と第3レンズ群LG3の間のスペースに挿入されるため、特にマクロレンズMLと第3レンズ群LG3の干渉を防ぐ必要がある。
図34は、マクロレンズMLと第3レンズ群LG3の干渉を防ぐ第1の制御形態を示している。撮影状態でのAFモータ160による第3レンズ群LG3(AFレンズ枠51)の可動範囲は、図34の下半に一点鎖線で示す前方移動端LG3-Fと実線で示す後方移動端LG3-Rの間であり、この可動範囲を最大作動範囲R1とする。なお、図34に二点鎖線で示す第3レンズ群LG3の位置は、ズームレンズ鏡筒71の収納状態における第3レンズ群LG3の収納位置であり、この収納位置は撮影時の後方移動端LG3-Rよりも後方に位置している。
デジタルカメラ70の撮影状態では、ワイド端において最も第2レンズ群LG2が第3レンズ群LG3に接近する。図34から分かるように、撮影光学系をワイド端にさせたときには、第3レンズ群LG3の前方移動端LG3-Fは、光軸方向においてマクロレンズMLとオーバーラップする位置関係にある。
制御回路75は、図34のワイド端撮影状態においてマクロレンズMLが退避光軸Z2側に退避されているときには(マクロレンズ離脱スイッチ89のオン状態では)、前方移動端LG3-Fから後方移動端LG3-Rまでの最大作動範囲R1で第3レンズ群LG3を移動させるようにAFモータ160を制御する。マクロレンズMLの退避状態では、撮影光軸Z1上にその挿入空間を確保する必要がないため、第3レンズ群LG3を前方移動端LG3-Fまで移動させてもマクロレンズMLと干渉することがない。また、前方移動端LG3-Fまで移動させても、第3レンズ群LG3は第2レンズ群LG2と干渉することもない。一方、図34のワイド端撮影状態においてマクロレンズMLを挿入するときには(マクロレンズ挿入スイッチ88のオン状態では)、制御回路75が、AFモータ160による第3レンズ群LG3の作動範囲を最大作動範囲R1よりも狭い制限作動範囲R2に切り替えて、第3レンズ群LG3とマクロレンズMLが光軸方向においてオーバーラップしないようにする。具体的には、制限作動範囲R2では、前方移動端LG3-Fよりも若干後方の制限移動端LG3-Lよりも前方へ移動しないように、第3レンズ群LG3の移動量(AF動作範囲)が制御される。図34の上半断面に示すように、第3レンズ群LG3が制限移動端LG3-Lに位置するときには、マクロレンズMLを撮影光軸Z1上に挿入しても、第3レンズ群LG3とマクロレンズMLが互いに干渉しない。
図35は、マクロレンズMLと第3レンズ群LG3の干渉を防ぐ第2の制御形態を示している。図35における曲線LG1-QとLG2-Qはそれぞれ、撮影状態においてズームモータ150を駆動させたときの第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2の光軸方向の移動軌跡を示している。
前述の図34の形態では、マクロレンズMLの挿脱に応じて第3レンズ群LG3のAF作動範囲を切り替えているが、図35の形態では、マクロレンズMLの挿脱に応じて撮影状態でのズーム作動範囲を切り替える。すなわち、制御回路75は、マクロレンズMLの離脱状態では、撮影光学系をワイド端にさせるに当たり、図35にLG2-W1で示す最大後退位置まで第2レンズ群LG2を移動させるようにズームモータ150を制御する。一方、マクロレンズMLを挿入するときには、制御回路75は、ズームスイッチ90がワイド端側に操作されても、第2レンズ群LG2を最大後退位置LG2-W1より前方の制限後退位置LG2-W2までしか後退させず、撮影光学系がこれよりも広角側に進まないようにズームモータ150の作動を制限する。このとき第2レンズ群LG2と共に第1レンズ群LG1の作動範囲も制限され、本来のワイド端位置LG1-W1よりも後方の制限位置LG1-W2で第1レンズ群LG1が停止される。つまり、図35の形態では、マクロレンズMLの離脱状態では機械的なズーム領域全体を使ったフルズーム範囲F1で撮影光学系が駆動され、マクロレンズMLの挿入状態では、ワイド端側の作動範囲が制限された制限ズーム範囲F2で撮影光学系が駆動される。マクロレンズMLは第2レンズ群LG2と共に光軸方向に移動するので、第2レンズ群LG2の後方移動端が制限後退位置W2に制限されることにより、マクロレンズMLの後方移動端も前方にシフトされることになる。その結果、図35の上半断面に示すように、第3レンズ群LG3を前述の前方移動端LG3-F(最大移動範囲R1)まで移動させても、第3レンズ群LG3とマクロレンズMLが干渉しない。
デジタルカメラ70は作動範囲選択スイッチ91(図22)を備えており、この作動範囲選択スイッチ91の操作によって、図34のようにAF作動範囲を制限するモードと、図35のようにズーム作動範囲を制限するモードを選択することができる。なお、このような手動選択の代わりに、制御回路75が自動でモード切り替えを行うようにしてもよい。
以上のように本実施形態では、マクロレンズMLの挿入時には、フォーカシングレンズ群である第3レンズ群LG3の作動範囲や第2レンズ群LG2を含むズームレンズ群の作動範囲を制限するようにしたので、挿入されるマクロレンズMLとの干渉防止用に大きなスペースを予め光学系内に確保しておく必要がなく、レンズ鏡筒の大型化を防ぐことができる。そして、マクロレンズMLを挿入しないときには、この作動範囲の制限を解除するので、撮影光学系の本来のスペック(ズーム範囲や合焦範囲)での撮影を行うことができる。
デジタルカメラ70はさらに、フォーカシング時に被写体がマクロ領域にある(近接撮影状態)か否かを自動判定して、撮影者の手動操作(マクロレンズ挿入スイッチ88のオン操作)によらずにマクロレンズMLを撮影光軸Z1上に自動的に挿入する機能を備えている。
図36と図37は、マクロ自動判定の概念を示したグラフである。これらのグラフにおいて、縦軸は、CCD60を介して得られる電子画像のMTF(Modulation Transfer Function)値、横軸は、フォーカシングレンズ群である第3レンズ群LG3の移動位置を示している。横軸方向では、第3レンズ群LG3の位置が左方に進むほど近距離の被写体位置になる。
マクロ自動判定時には、マクロレンズMLが退避光軸Z2側に退避されている状態において、制御回路75がAFモータ160を駆動させ、第3レンズ群LG3をその作動範囲全域(図34、図35での前方移動端LG3-Fから前方移動端LG3-Rまでの間)で移動させる。この第3レンズ群LG3の動作は、被写体のコントラストのピーク(ピントピーク)を得るためのスキャン動作であり、スキャン動作の結果、図36のようなMTF値が得られたものとする。図36においてコントラストのピーク値PPは、第3レンズ群LG3のスキャン範囲よりもさらに近距離側に位置しているが、第3レンズ群LG3のスキャン動作で得られるMTFデータは図中の実線の領域までであり、実際のピーク値PPを含む二点鎖線の部分はデータとしては得られていない。
制御回路75は、スキャン動作で得られたMTFデータからピントピークが検出できるか否かを判定する。この判定には、縦軸方向での基準値CRを定めておき、MTFデータにこの基準値CRを超える値があった場合に、横軸方向における当該ポイントを合焦可能なピントピーク位置(被写体距離)とする手法をとる。図36の実線部分のMTFデータでは、基準値CRに達する部分が存在しないため、通常撮影光学要素で合焦し得る通常距離ゾーンではピントピークが検出されないと判定される。
通常距離ゾーンでピントピークが検出されない場合の制御として、図38と図39のフローチャートを示す。第3レンズ群LG3によるスキャン動作(ステップS11)と、スキャン動作の結果得られるMTFデータの判定(ステップS12)については前述した通りであり、図38と図39で共通している。
図38のフローチャートは、通常距離ゾーンでのスキャン動作の結果ピントピークが検出されない場合には、被写体が近接距離ゾーン(マクロ位置)にあるとみなして、直ちにマクロレンズMLを撮影光軸Z1上に挿入するタイプの制御である。すなわち、ピントピークが検出されない場合(ステップS12のN)、制御回路75はマクロレンズ駆動モータ87を駆動させてマクロレンズMLを撮影光軸Z1上に挿入させる(ステップS21)。そして、マクロレンズMLの挿入後に、AFモータ160を駆動させて第3レンズ群LG3を光軸方向に移動させて再度スキャン動作を行わせる(ステップS22)。
図39のフローチャートは、通常距離ゾーンでのスキャン動作でピントピークが検出されない場合に、さらにMTFデータの内容を読み取って被写体がマクロ位置にあるか否かを判定するタイプの制御である。すなわち、ピントピークが検出されない場合(ステップS12のN)、続いてMTFデータの傾向をチェックする(ステップS31)。図36の実線部分のMTFデータでは、スキャン範囲のうち近距離側に進むほどMTF値が大きくなっており、スキャン範囲の最も近距離側の位置でMTF値が最大になっている。制御回路75は、この傾向から、基準値CRを超える実際のピーク値PPがより近距離側にあると判定して(ステップS31のY)、マクロレンズ駆動モータ87を駆動させてマクロレンズMLを撮影光軸Z1上に挿入させる(ステップS32)。そして、マクロレンズMLの挿入後に、AFモータ160を駆動させて第3レンズ群LG3に再度スキャン動作を行わせる(ステップS33)。
図37は、図38のステップS22や図39のステップS33における再スキャン動作の結果得られたMTFデータを示している。再スキャン動作時にはマクロレンズMLが挿入されて近接撮影状態になっているため、図36の状態ではスキャン範囲を外れていたコントラストのピーク値PPが、スキャン範囲内に検出されるようになった。制御回路75は、このピーク値PPに対応する位置で第3レンズ群LG3を停止させ、合焦状態にさせる。
なお、マクロレンズMLを挿入した再スキャンでも、基準値CRを超えるコントラストのピークが検出できない場合、マクロレンズMLを撮影光軸Z1上の挿入位置から退避光軸Z2側へ自動的に離脱させるように制御してもよい。
このように、フォーカシングに際してフォーカシングレンズ群(第3レンズ群LG3)にスキャン動作を行わせ、スキャン動作の結果、コントラストのピーク値がマクロ領域にあると判断される場合には、マクロレンズMLを自動挿入するようにしたので、マクロ撮影か否かを撮影者が判断する手間が省かれ、カメラの操作性が向上する。
以上のマクロレンズMLの自動挿入動作は、例えば、測光測距スイッチ95の操作によるAF動作時に行うようにすることができる。あるいは、測光測距スイッチ95とは別に、マクロレンズMLの自動挿入モードに入るための独立した操作部材を設けてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は図示実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて変更が可能である。例えば、図示実施形態では挿入光学要素の一例としてマクロレンズMLを用いているが、本発明は、マクロレンズ以外にも、偏光フィルタを始めとする各種フィルタやワイドコンバータなど、撮影光路に対して挿脱可能な挿入光学要素全般に適用可能である。
また、図示実施形態では、図示実施形態では、マクロレンズMLは退避回動軸33を中心とする回動動作によって光軸上に挿脱されるが、このマクロレンズMLに相当する挿入光学要素の駆動態様は回動に限られるものではなく、例えば撮影光軸と直交する方向への直進移動によって挿入光学要素の挿脱動作を行ってもよい。