本発明は、放射性核種の付着抑制方法に係り、特に、沸騰水型原子力発電プランの構成部材表面へのフェライト皮膜の形成に適用するのに好適な放射性核種の付着抑制方法に関する。
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、「BWR」と略記する。)では、原子炉圧力容器(以下、圧力容器という)内に燃料棒を収容してなる原子炉内に、再循環ポンプやインターナルポンプによって冷却水を強制循環することにより、燃料で発生した熱を効率的に冷却水に移動させるようにしている。このようにして原子炉内で発生した冷却水の蒸気の大部分は、発電機が連結される蒸気タービンの駆動に利用される。蒸気タービンから排出される蒸気は復水器で凝縮される。蒸気の凝縮により得られた復水は、復水器内でほぼ完全に脱気されて、再び原子炉の冷却水として給水される。その際、復水器内では、炉心で水の放射線分解によって発生した酸素及び水素もほぼ完全に除去される。また、原子炉に戻される復水は、原子炉における放射性腐食生成物の発生を抑制するため、脱塩器などのイオン交換樹脂濾過装置で主として金属不純物が除去され、200℃近くまで加熱されて原子炉に給水される。
また、放射性腐食生成物は、圧力容器内や再循環系等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材は腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製の原子炉圧力容器には、ステンレス鋼の内面肉盛りがなされ、低合金鋼が直接炉水と接触することを防いでいる。こうした材料上の配慮に加えて、炉水の一部を炉水浄化装置によって浄化し、炉水中に僅かに生成する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上記した腐食対策を講じても、炉水中の極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が金属酸化物として燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属元素は、燃料棒内の核燃料から放射される中性子の照射を受けて原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種を生成する。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかし、一部の放射性核種は取り込まれている酸化物の溶解度にしたがって冷却水に溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出される。炉水中の放射性物質は、炉水浄化系によって取り除かれる。除去されなかった放射性物質は、炉水とともに再循環系などを循環している間に構成部材の接水部表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。従事者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられた状況下、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法や、炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水中に注入して、炉水と接触する再循環系配管表面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60やコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が、例えば特許文献1により提案されている。また、冷却水中に放射性核種が溶出ないし放出される状態になる前に、運転中に炉水が流れる再循環系配管及び炉水浄化系配管の内面に、予め一定条件で酸化皮膜を形成させることが、例えば特許文献2により提案されている。
しかし、特許文献1に記載された亜鉛などの金属イオンを炉水中に注入する方法の場合は、亜鉛自体の放射化を避けるため、高価な同位体分離した亜鉛イオンを運転中に連続注入する必要がある。また、特許文献2に記載された酸化皮膜を形成させる方法の場合は、例えばBWRの運転温度域(250〜300℃)において酸化皮膜を形成させる必要がある。
そこで、より低コストで放射性核種の付着速度を低減できる方法として、100℃以下の低温で材料の表面にフェライトの緻密な皮膜を形成させる手法を検討した。金属表面にフェライト皮膜を形成した試験片では図2に示すように炉水環境での放射性核種の付着が大きく抑制できることがわかった。
特開昭58-79196号公報
特開昭62-95498号公報
放射性核種の付着を抑制したい部分にフェライト皮膜を形成させるためには、当該部位でFe(II)イオンとFe(III)イオンの濃度比を制御しながら、pH5.5から9.0の範囲に調整する必要がある。このため、大気中の酸素によるFe(II)イオンの余分な酸化を抑制する必要がある。図3にフェライト皮膜形成を大気中の酸素と反応液が接触しないようにして行った場合と大気開放系で行った場合のフェライト皮膜量を比較した結果を示す。また、Fe(II)イオンの対イオンとしては常温で気体または水に分解できるものが廃棄物量低減の観点から好ましい。
本発明の第1の課題は、安全性を向上でき、原子力プラントの運転停止期間の予想外の延長を防止できる放射性核種の付着抑制方法を提供することにある。
本発明の第2の課題は、金属部材へフェライト皮膜を形成する際に必要なFe(II)イオンを含む薬剤を、フェライト化反応を制御できるように、Fe(II)イオンがFe(III)イオンに酸化されるのを防ぎながら調製し、使用時まで保管し、使用場所まで運搬し、使用することを課題とし、更に、Fe(II)イオンの対イオンとして常温で気体または水に分解できるもので供給することにある。
上記した第1の課題を解決する本発明の特徴は、非放射線管理区域から原子力プラントが設置されている放射線管理区域内に搬入された、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を充填している第1薬剤容器を、鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤を充填する第2薬剤容器、及びpHを調整する第3の薬剤を充填する第3薬剤容器を有して放射線管理区域内に存在する皮膜形成装置に接続し、原子力プラントの構成部材の、原子力プラント内で用いられる冷却材が接する表面に、第1の薬剤、第2の薬剤液及び前記第3の薬剤が混じった処理液を接触させ、構成部材の表面にフェライト皮膜を形成することにある。
本発明は、生成された鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を充填している第1薬剤容器を非放射線管理区域から原子力プラントが設置されている放射線管理区域内に搬入し、放射線管理区域内に存在する皮膜形成装置に接続するので、第1の薬剤の生成に伴う水素の発生がその放射線管理区域において生じることはない。このため、その水素に基づいた火災または爆発がその放射線管理区域内では起こりえなく、原子力プラントの運転停止期間がそのような事故によって予想外に延長されることを防止することができる。また、本発明は、皮膜形成装置に接続された第1薬剤容器からの第1の薬剤、及び皮膜形成装置に設けられている第2薬剤容器からの第2の薬剤及び第3薬剤容器からの第3の薬剤が混じった処理液を用いて、原子力プラントの構成部材の、冷却材が接する表面にフェライト皮膜を形成することができる。これによって、構造部材の表面への放射性核種の付着を抑制できる。
上記した第2の課題は、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、鉄(II)イオンの一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、第1の薬剤と該第2の薬剤を混合した処理液のpHを5.5から9.0の範囲内に調整する第3の薬剤とを混合した処理液を用いて、金属部材の表面にフェライト皮膜を形成する際に、
第1の薬剤を調製する容器内に酸性の水溶液を収納し、その水溶液を加熱し、この加熱により溶存酸素が除去された水溶液に鉄を加えて溶解液を調製し、溶解液が酸素と触れないように隔離することを特徴とするフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法により、達成される。
この方法によれば、フェライト皮膜を形成するのに必要なFe(II)イオンを含む薬剤を、フェライト皮膜の生成の制御を妨げるFe(III)の生成を防いだ状態で調整することができるという有利な効果を奏することができると共に、放射性廃棄物を低減することができる。
本発明によれば、安全性を向上でき、原子力プラントの運転停止期間の予想外の延長を防止することができる。
Fe(II)を含む塩を水に溶かすと溶存酸素の影響を受けて(1)式の反応でFe(III)が生成してしまう。
4Fe2++O2+2H2O→4Fe3++4OH− ……(1)
この反応を抑制するためには水溶液中の溶存酸素を除去する必要がある。そのための方法として水溶液を沸騰させて酸素の溶解度を下げる方法、窒素やアルゴン、二酸化炭素などのFe(II)イオンの酸化に不活性な気体をバブリングすることにより、溶存酸素と置換する方法がある。しかし、これらの方法だけでは気液界面における大気中の酸素によるFe(II)イオンの酸化を抑制することができない。そこで、これらの方法に加えて、水溶液に接触している気相を窒素やアルゴン、二酸化炭素などのFe(II)イオンの酸化に不活性な気体で被覆する必要がある。
(1)式の反応はFe(II)イオンが水に溶けていると起こるため、Fe(II)を含む塩を水に溶かす時だけでなく、溶かした水溶液を保管、運搬、使用したりする時にも酸素があると起こる。このため、保管、運搬、使用中も大気中の酸素と接触するのを防ぐ必要があり、窒素やアルゴン、二酸化炭素などのFe(II)イオンの酸化に不活性な気体を封入して密閉するか、不活性な気体を流通させた状態を保っておく必要がある。
水溶液中の溶存酸素を除去するのに窒素やアルゴン、二酸化炭素などのFe(II)イオンの酸化に不活性な気体をバブリングした場合、その後の保管、運搬、使用時もその気体をバブリングし続ければ酸素との接触を防ぐことができるものと考えられる。しかし、本発明の発明者らの実験によると、バブリング部分では、気泡が離れた瞬間にFe(II)を含む塩の水溶液で気泡発生部分の壁面が一瞬、濡らされ、再び気泡が成長する時に気液界面で乾燥が起こりFe(II)を含む塩が濃縮される。これを繰り返していると、Fe(II)を含む塩の溶解度を超えて濃縮され、Fe(II)を含む塩が析出してくる。この塩の析出により不活性ガスの流入が停止し、大気中からの酸素の進入を許す結果となってしまう。このため水溶液中の溶存酸素を除去するのに窒素やアルゴン、二酸化炭素などのFe(II)イオンの酸化に不活性な気体をバブリングした場合は、Fe(II)イオン溶解後に気体の噴出口を気相部へ取り出した状態で気体を流通させる方が好ましいことが分かった。
Fe(II)イオンの対イオンは、フェライト皮膜を形成するためだけであれば特に制限されるものではなく、例えば、塩素イオンや硫酸イオンでもよい。これらの場合はFe(II)の無機塩を使用できる。しかし、原子力発電所の一次冷却水系で使用する場合は、使用したものを放射性廃棄物として処理しなければならないため、対イオンは気体や水に分解できるものが好ましい。その候補としては酸化分解によって二酸化炭素と水に分解できるカルボン酸がある。ただし、化学除染で使っているシュウ酸のようなジカルボン酸ではFe(II)と錯塩を作ってFe(II)イオンの溶解度が低くなってしまう。このため、錯塩を形成しにくいモノカルボン酸が好ましい。分解のしやすさを考えると炭素鎖ができるだけ短いものの方がよく、ギ酸を用いるのが最も好適であることがわかった。
カルボン酸とFe(II)の塩は市販されていない場合も有るので、その場合はカルボン酸の水溶液に金属の鉄を溶解させた溶解液を使うことが考えられる。この場合、前述のような方法で溶存酸素の除去を行い、さらに溶解液を大気中の酸素から隔離することが必要である。
カルボン酸を用いたFe(II)の薬剤の水溶液は、減圧蒸留によって水を除去することによりFe(II)のカルボン酸塩として取り出して、保管、運搬することができる。減圧蒸留の際は溶液中に酸素が流入しないように不活性ガスが減圧蒸留容器内に流入するようにしておく。また、析出してきたFe(II)のカルボン酸塩は、大気中の酸素と触れないように、密閉式の容器で保管、運搬を行う。フェライト皮膜形成用の処理液として使用する際は、使用場所で溶存酸素を取り除いた水に溶解し、溶解後に酸素と接触しないようにして使用する。
発明者らが考えたフェライト皮膜を形成する処理液を調製し保管し運搬し使用する方法の一つは、気体の導入口と排出口、薬剤の導入口があり、それぞれの口にはバルブが設けてある密閉式の容器に、酸性の水溶液を入れ、容器の気相部には窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスのうち、いずれか1種類以上の気体を流通させて酸素と水溶液が接触するのを防ぎながら水溶液を加熱して溶存酸素を除去し、その後に鉄を加えて溶解させることで前記薬剤の調製を行い、鉄溶解後は流通させている気体で常圧よりも加圧した状態で気体の導入口と排出口に設けたバルブを閉じるか、またはこれらの気体を流通させた状態で薬剤の保管と運搬を行って使用場所に設置し、使用場所でも気体の導入口と排出口を通じて前記気体を流通させ、薬剤排出口をフェライト皮膜を形成する対象部に繋がる配管に接続して使用することを特徴とするものである。
この方法によれば、フェライト皮膜を形成するのに必要なFe(II)イオンを含む薬剤を、フェライト皮膜の生成の制御を妨げるFe(III)の生成を防いだ状態で調整することができるという有利な効果を奏することができると共に、放射性廃棄物を低減することができる。
本発明のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の実施例を、図1、図4、図5及び図6を用いて以下に説明する。
原子力発電プラントは、図4に示すように、燃料棒を圧力容器に収容している原子炉1と、原子炉1に連結された主蒸気配管2と、主蒸気配管2に連結された蒸気タービン3と、蒸気タービン3の蒸気排出口に連結された復水器4と、蒸気タービン3に連結された発電機を備えている。復水器4で凝縮された復水は、復水ポンプ5によって昇圧され、復水浄化装置6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8、高圧給水加熱器9を順次有してなる給水配管系10を通って原子炉1に給水として戻される。低圧給水加熱器8と高圧給水加熱器9の熱源は、蒸気タービン3の抽気により賄われる。
原子炉1内の冷却水を循環する炉水再循環系は複数設けられ、原子炉1の底部に連結された複数の再循環ポンプ21により抜き出された炉水を、それぞれの再循環ポンプ21に連結された炉水再循環配管22を介して原子炉1の上部に戻して循環するように構成されている。また、原子炉1の炉水を浄化する炉水浄化系は、炉水再循環配管22に連結された浄化系ポンプ24により抜き出された炉水を再生熱交換器25と非再生熱交換器26を通して冷却し、冷却された炉水を炉水浄化装置27で浄化し、浄化された炉水を再生熱交換器25で昇温した後、給水系の高圧給水加熱器9よりも下流側で給水配管10に導くように構成されている。再生熱交換器25で昇温された炉水は、給水配管10を経て原子炉1に供給される。
図4は、マグネタイトを主成分とするフェライト皮膜を炉水再循環系の炉水再循環配管22の内面に形成する場合を示している。本実施例のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法により、調整し、保管し、運搬して使用箇所に用意した図6に示された薬剤調整装置を取り付けて図5に示された成膜装置30を構成し、これを炉水再循環系に仮設配管で連結する。原子炉1の供用運転が停止されたとき、例えば炉水再循環配管22から分岐されている炉水浄化系配管のバルブ23のボンネットを開放して炉水浄化装置27側を閉止してバルブ23のフランジを用いて仮設配管を連結して成膜装置30への流入路を形成する。他方、再循環ポンプ21の下流側にあるドレン配管や計装配管などを切り離し、その切り離された枝管に処理液を循環可能に仮設配管を接続して成膜装置30の流出側を形成する。
図5に示されたフェライト皮膜形成装置(成膜装置)30は、化学除染処理にも兼用できるように、処理に用いる水が充填されるサージタンク31と、サージタンク31の水を抜き出してバルブ33、34を通じて炉水再循環配管22の一端に供給する循環ポンプ32を備え、バルブ33、34を結ぶ処理液配管35には、バルブ38と注入ポンプ39を通じて化学除染に用いられる薬液タンク40が連結され、薬液タンク40にはpH調整のためのヒドラジンが貯留され、また、循環ポンプ32の吐出側からバルブ36、エゼクタ37を介してサージタンク31に戻る流路が形成され、エゼクタ37には配管内の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸又は配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸を投入するためのホッパが設けられ、更に、処理液配管35には、バルブ41、42と注入ポンプ43、44を介して、フェライト皮膜生成に用いられる薬液タンク45、46が連結されているものである。
図5は、Fe(II)イオンを含む薬剤の調製、保管、運搬を経て使用中の状態にある薬液タンク45を示しており、窒素供給装置71から窒素供給ライン72に接続しているバルブ73を開いて薬液タンク45内に窒素を導入し、窒素排出ライン74のバルブ75を開いて該窒素を排出し、薬液タンク45内に大気中の酸素が流入しないようにしている。また、薬液タンク46には、フェライト皮膜を生成する際に用いる酸化剤としての過酸化水素が貯蔵されている。薬液タンク40には、フェライト皮膜を生成する際に必要なpH調整としてヒドラジンが貯蔵されている。
循環ポンプ32によって炉水再循環配管22の一端に供給された処理液は、炉水再循環配管22内を通って他端からバルブ47に戻される。バルブ47からの処理液は、循環ポンプ48により、加熱器53とバルブ55、56、49、57を順次通過してサージタンク31に戻される。加熱器53とバルブ55の流路には、冷却器58とバルブ59の流路が並列に連結される。バルブ56には、カチオン交換樹脂塔60とバルブ61の流路と、混床樹脂塔62とバルブ63の流路が、それぞれ並列に連結される。バルブ49には、バルブ50とフィルタ51の流路が並列に接続される。バルブ57には、バルブ65と分解装置64の流路が並列に接続される。薬液タンク46に接続された注入ポンプ44の吐出側とバルブ54を介して接続された管路を通じて、薬液タンク46に貯留された過酸化水素水を分解装置64に注入することができる。この例では、フェライトメッキに必要な酸化剤と分解に必要な酸化剤が同一の過酸化水素であるため薬液タンクと注入ポンプを共用しているが、設置場所により接続配管が長くなる場合には分けて設置してもよい。
酸化剤を注入するバルブ42の位置は、Fe(II)イオンを注入するバルブ41の下流側であって、pHを調整する薬剤を注入するバルブ38の上流側に設定する。また、pHを調整する薬剤を注入するバルブ38の位置は、かかるpH調整が反応開始の条件となるので、単に酸化剤を注入するバルブ42の下流側であるだけでなく、処理対象部位にできるだけ近い位置に設定することが好ましい。また、フェライトメッキ施工時には循環ポンプ48の下流側にあるフィルタ51を通水可能とすることが好ましい。サージタンク31には、水溶液中の酸素を除去するために、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることが好ましい。また、分解装置64は、Fe(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸とpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。ここでは、Fe(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減を考慮して水や二酸化炭素に分解できる有機酸又は気体として放出可能で廃棄物量を増やさない炭酸を用いている。
次に、本発明のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の実施の形態である実施例1について、図1に示されたフローチャートにしたがって説明する。本実施例の方法を実施するに際して、図6が示すような不活性ガスの導入ライン72と排出ライン74とフェライト皮膜を形成する薬剤の導入口79を有する密閉可能な薬液タンク45を用いる。
はじめに、薬液タンク45内にギ酸水溶液を加えて加熱器78により加熱する(S1)。次に窒素供給装置71からの窒素をバルブ73を開いて薬液タンク45へ導入し、窒素排出ライン74からバルブ75を開いて排出する。溶存酸素をなくすようにギ酸水溶液の温度を80℃以上としてから、金属鉄を加え(S3)、撹拌子77を使って金属鉄の溶解を行い(S4)、金属鉄が溶解しなくなるまで継続する(S5)。金属鉄の溶解後、室温まで冷却してから窒素の排出ライン74のバルブ75を閉じて圧力ゲージ76を見て薬液タンク45内を加圧し、窒素を供給する導入ライン72のバルブ73を閉じて加圧状態にする(S6)。この状態で薬液タンク45を窒素供給装置71から切り離して、加圧状態のまま保管を行い(S7)、図5に示されたフェライト皮膜を形成する装置30の使用場所まで運搬し(S8)、この装置に図5が示すように装着し(S9)、窒素の導入口72へ再び窒素供給装置71を接続し、窒素排出ライン74からバルブ75を開いて窒素を排出する(S10)。その後、フェライト皮膜を形成する薬剤の導入口79のバルブ80を開いて、フェライト皮膜を形成する対象部へ処理液を導入する管路にこの薬剤を供給する(S11)。
以上のとおりして、図4、図5が示す原子力発電プラントの再循環系配管に取り付けられたフェライト皮膜を形成する装置である成膜装置を用いて、フェライト皮膜の形成処理を行うが、その前に、皮膜を形成する対象部の化学除染を実施することが好ましいが、これに限るものではなく、研磨などの機械的な処理で除染処理を行ってもよい。要は、フェライト皮膜形成処理を実施する前に、フェライト皮膜の形成対象である金属部材の表面が露出されていればよいのである。
化学除染は周知の方法であるが、ここで簡単に説明する。まず、バルブ33、34、47、55、56、49、57を開き、他のバルブを閉じた状態で、循環ポンプ32、48を起動して、化学除染の対象となる炉水再循環系22内にサージタンク31内の処理液を循環させる。そして、加熱器53により処理液の温度を約90℃まで昇温する。次いで、バルブ36を開いてエゼクタ37のホッパから必要量の過マンガン酸カリウムをサージタンク31に注入する。そうすると、サージタンク31で溶解した薬剤が循環して除染の対象となる炉水再循環系に形成されている酸化皮膜などの汚染物が酸化溶解される。
以上の汚染物の酸化溶解が終了すると、処理液中に残っている過マンガン酸イオンを分解するため、上記ホッパからシュウ酸をサージタンク31に注入し、続いて汚染物の還元溶解を行うために上記ホッパからシュウ酸を更に処理液中に注入するとともに、処理液のpHを調整するため、バルブ38を開いて、注入ポンプ39を起動し、薬液タンク40からヒドラジンを処理液中に注入する。このようにして、シュウ酸とヒドラジンを注入した後、バルブ61を開くと同時にバルブ56の開度を調整して、処理液の一部をカチオン交換樹脂塔60に通して処理液中に溶出してきた金属陽イオンをカチオン交換樹脂に吸着させて処理液中から除去する。
還元溶解が終了した後、処理液中のシュウ酸を分解するため、分解装置64の入口側のバルブ65と分解装置64のバイパス弁であるバルブ57の開度を調整して、処理液の一部を分解装置64に通流させる。この際、バルブ54を開け注入ポンプ44を起動して、薬液タンク46の過酸化水素を分解装置64に流入する処理液中に注入し、分解装置64でシュウ酸とヒドラジンを分解する。シュウ酸とヒドラジンが分解された後、処理液中の不純物を除去するため、加熱器53をオフとしてバルブ55を閉じ、同時に、冷却器58のバルブ59を開けて、処理液を冷却器58に通してその温度を下げる。このようにして、処理液の温度を混床樹脂塔62に通水できる温度(例えば、60℃)まで下げた後、カチオン樹脂塔60のバルブ61を閉じ、混床樹脂塔62のバルブ63を開いて、処理液を混床樹脂塔62に通流させて処理液中の不純物を除去する。
上記の一連の昇温から酸化溶解、酸化剤分解、還元溶解、還元剤分解、浄化運転までの処理操作を2〜3回程度繰り返すことにより、除染対象となる部位の金属部材の酸化皮膜を含む汚染物を溶解して除去する。
皮膜形成の対象となる金属部材の酸化皮膜を含む汚染物を除去する上記の処理を完了した後、フェライト皮膜を生成する処理に切り換える。まず、最後の浄化運転終了後、バルブ50を開き、バルブ49を閉じてフィルタ51への通水を開始すると共に加熱器53を使って処理液を所定温度となるように調整する。フィルタ51への通水は水中の微細な固形物が残留していると、フェライト皮膜の生成処理の際に固形物表面でも皮膜生成が生じ、無駄な薬剤が使用されることになるため、これを防止する目的で使用される。フィルタ51への通水を除染中に実施すると、溶解してきた高い放射能を含む固形物によってフィルタの線量率が高くなりすぎる恐れがあるため適切ではない。また、浄化系運転で使用していた混床樹脂塔62への通水は、バルブ56を開いて63を閉止することにより停止する。
上記の所定温度については、生成されるフェライト皮膜に、原子炉の供用運転時の炉水中の放射性核種が取り込まれ難い程度に、結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいので、その上限は、少なくとも200℃以下が好ましく、その下限は常温でもよいが、膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。そして、100℃以上では処理液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず仮設設備の耐圧性が要求されるようになり設備コストが大きくなるため好ましくない。そうすると、所定温度としては100℃程度が好ましいが、これに限られるものではない。
フェライト皮膜を形成させるためには、Fe(II)イオンが成膜する対象部の表面に吸着する必要がある。しかし、溶液中のFe(II)イオンは溶存酸素によって、(1)式によりFe(III)イオンに酸化されるが、Fe(III)イオンはFe(II)イオンに比べて溶解度が低いため、下記の(2)式の反応により水酸化鉄として析出してしまうから、フェライト皮膜の形成に寄与しなくなってしまう。そこで、処理液中の溶存酸素を除去するため、不活性ガスのバブリング又は真空脱気を行うことが好ましい。
Fe3++3OH−→Fe(OH)3 ……(2)
循環される処理液の温度が所定温度に達したら、バルブ41を開いて注入ポンプ43を起動し、本実施例によって調製、保管、運搬して、成膜装置30に接続した薬液タンク45から鉄をギ酸で溶解して調製したFe(II)イオンを含む薬剤を処理液中に注入する。続いて、処理対象の金属部材表面に吸着したFe(II)イオンをフェライト化させるため、バルブ42を開いて注入ポンプ44を起動し、薬液タンク46内に貯留されている酸化剤の過酸化水素水を処理液中に注入する。最後に反応開始条件となる処理液のpHを5.5から9.0に調整するため、バルブ38を開け、注入ポンプ39を起動して、薬液タンク40のヒドラジンを処理液中に注入する。このとき、ヒドラジン注入後の処理液のpH値をpH計66によってモニターし、処理液のpHを5.5から9.0の範囲のpH値となるようにヒドラジンの注入速度を調整する。こうして、マグネタイトを主成分とするフェライト皮膜の生成反応が生じる処理液を作り、処理対象となる部位の金属表面にこの皮膜を形成する。
以上のマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜の生成が完了すると、廃液処理工程に進む。廃液処理は、除染系統にある分解装置64を用い、ギ酸は二酸化炭素と水に、ヒドラジンは窒素と水に、それぞれ分解処理することが好ましい。これにより、混床樹脂塔62の負荷を減らしてイオン交換樹脂の廃棄物量を減らすことができる。分解処理は、シュウ酸の分解と同様に、処理液の一部を分解装置64に流入させるため、分解装置64をバイパスするバルブ57と分解装置64のバルブ65の開度を調整し、分解装置64に流入する処理液中に過酸化水素を注入することにより、ギ酸とヒドラジンの分解を行う。
実施例1は、以上のようにして、イオン交換樹脂の廃棄物や放射性廃棄物の発生量を抑制しながら、処理対象とする部位の金属表面にマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜を形成し、形成されたマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜は、通常の原子炉供用運転中における金属部材の表面に放射性核種、つまり放射性コバルトイオンの付着を抑制する方法を実施するに際し、容器内のFe(II)イオンを酸化させることなく、薬液を調製し保管し運搬し使用することができる方法を提供するものである。
本実施例の方法によれば、フェライト皮膜を形成するのに必要なFe(II)イオンを含む薬剤を、フェライト皮膜の生成の制御を妨げるFe(III)の生成を防いだ状態で調整することができるという有利な効果を奏することができると共に、放射性廃棄物を低減することができる。
本発明のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の他の実施の形態である実施例2は、図1が示す実施例1のフローチャートのS6において、バルブを閉めて容器を密閉して窒素供給装置から切り離すことなく、窒素を流した状態を維持し、そのまま保管し運搬し使用する方法である。
図7は、実施例2に用いられる薬剤調整装置の構成図を示すものであり、この薬剤調整装置は、図6が示す実施例1に用いられる薬剤調整装置と比較して、圧力ゲージ76がない点で異なるものであり、更に、運用方法の違いとして、実施例1に用いられる薬剤調整装置は、金属鉄の溶解後にバルブ73、75を閉じて薬液タンク45を窒素供給装置71から切り離す方法を含むが、実施例2に用いられる薬剤調整装置は、バルブ73、75を閉じることなく薬液タンク45から窒素供給装置71も切り離すことなく、保管中、運搬中も窒素を流したままにしておくという方法である。
このようにして、実施例2の方法は、実施例1の方法と同様に、容器内のFe(II)イオンを酸化させることなく、薬液を調製し保管し運搬し使用することができる方法を提供するものである。
本発明のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の他の実施の形態である実施例3は、図1が示す実施例1のフローチャートのS2において、まず不活性ガスのうちの一種類以上の気体を容器内の水溶液中にバブリングさせると共に水溶液を加熱して溶存酸素を除去するものであって、同じくS6において、かかる加熱を行うヒーターを該容器から外すと共に該気体を該容器内の気相部に流通させる状態とし、この状態を維持したまま保管し運搬し使用する方法である。
図8は、実施例3に用いられる薬剤調整装置を示すものであり、この薬剤調整装置は、図7が示す実施例2に用いられる薬剤調整装置と比較して、薬液タンク45内での窒素の噴出し口を水溶液中に設けて散気管81を通して水溶液中に窒素の微細気泡を生成させることにより、水溶液中の溶存酸素を除去し、水溶液中の溶存酸素を除去した後に鉄を加えて溶解させるが、バブリングはこのときまで行うこと、更に、鉄の溶解完了後には、薬液タンク45を加熱装置78から外すと共に散気管81を水中から気相部へ取り出すことについて異なり、その余で同じものである。
実施例3では、鉄の溶解完了後は気相部へ取り出された散気管81から窒素を流通させる状態となり、この状態を維持したまま保管し運搬し使用する段階に入るものである。この際に、散気管81を水溶液中に沈めたままにしてバブリングを継続すると、散気管81の部分で気泡が離れた瞬間にFe(II)を含む塩の水溶液で気泡発生部分の壁面が一瞬濡らされ、再び気泡が成長する時に気液界面で乾燥が起こりFe(II)を含む塩が濃縮される。これを繰り返していると、Fe(II)を含む塩の溶解度を超えて濃縮され、Fe(II)を含む塩の析出が始まる。この析出が進行すると、析出した塩により散気管81が閉塞して窒素の流入を妨げ、その結果、大気中からの酸素の進入を許す状態が発生する。このため水溶液中の溶存酸素を除去するのに窒素をバブリングした場合、Fe(II)イオン溶解後には気体の噴出口を気相部へ取り出した状態で気体を流通させることが好ましいのである。
以上のようにして、実施例3の方法は、実施例1及び2の方法と同様に、容器内のFe(II)イオンを酸化させることなく、薬液を調製し保管し運搬し使用することができる方法を提供するものである。
本発明のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の他の実施の形態である実施例4は、図1が示す実施例1のフローチャートにおいて、溶解完了を判断するところまでは同じであるが、S6において、容器内を減圧して溶解液の減圧蒸留を行って水を除去し、該容器内にFe(II)を含む塩を析出させ、該塩を酸素と触れないように不活性ガスを導入しつつ濾別し乾燥して密閉保管し、その状態で使用場所へ運搬し、使用場所で溶存酸素を除去した水に該塩を溶解して薬剤を調製し、フェライト皮膜を形成する対象部に繋がる配管に供給するものである。
図9は、実施例4に用いられる薬剤調整装置を示すものであり、この薬剤調整装置は、前記した実施例に用いられる前記の薬剤調整装置と比較して、窒素排出ライン74の先に減圧蒸留装置が取り付けられていることが主要な違いであり、鉄溶解後のFe(II)イオンを含む水溶液を、下記する減圧蒸留を行って溶媒である水を除去することによりFe(II)を含む塩を析出させ、これを不活性ガス中で容器に密閉保管し、かかる密閉状態で運搬し、使用場所にて溶存酸素を除去した水に該塩を溶解させて使うものである。
減圧蒸留の方法について記載すると、鉄の溶解が完了した後、減圧ライン84の減圧ポンプ86を起動しバルブ85を開いてバルブ73を少しずつ閉じて行き、減圧槽83の減圧ゲージ87が10kPaから40kPa程度となるように調節し、加熱器78の出力を調整しながら減圧下でFe(II)イオンを含む水溶液から水を蒸発させる。蒸発した水は冷却器82で冷やされて液体に戻り減圧槽83に溜まって行く。このようにして薬液タンク45内のFe(II)イオンを含む水溶液は徐々に濃縮されて行き、やがてはFe(II)を含む塩として析出する。ギ酸を使った場合には、ギ酸鉄(II)が析出する。析出したFe(II)塩を窒素気流下で乾燥し、窒素雰囲気下で容器に密閉し、その状態で保管し運搬する。
実施例4では、実施例1に用いる薬液タンクのように加圧容器を使用する必要はなく、また、実施例2のように保管中と運搬中に窒素供給装置を備える必要がないので、Fe(II)を含む塩の保管と運搬が大いに便利となる。
上記のFe(II)塩を使用する際には、フェライト皮膜を形成する装置である成膜装置30に付属の薬液タンク45に水を貯留し、この水を窒素ガスでバブリングして溶存酸素を除去してから、上記のとおりに作製したFe(II)塩、例えばギ酸鉄(II)を加えて溶解させることにより薬液を調製して使用するものである。
以上のようにして、実施例4の方法は、実施例1ないし3の方法と同様に、容器内のFe(II)イオンを酸化させることなく、特に保管と運搬に便利であるように、薬液を調製し保管し運搬し使用することができる方法を提供するものである。
本発明の一実施例である放射性核種の付着抑制方法を、図10を用いて説明する。本実施例の放射性核種の付着抑制方法によるフェライト皮膜の形成は、実施例1でその対象となっている原子力発電プラント(例えば、沸騰水型原子力発電プラント)の例えば炉水再循環配管22で行われる。この原子力発電プラントの構成は実施例1で図4を用いて説明しているので、本実施例ではその説明を省略する。原子力発電プラントの図4に示す構成のうち、原子炉1、原子炉格納容器11、炉水再循環系及び炉水浄化系は、放射線管理区域である原子炉建屋15内に設置されている。図4に示す残りの構成である蒸気タービン3、復水器4、及び給水配管10に設置された復水ポンプ5、復水浄化装置6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9は、放射線管理区域であるタービン建屋16内に設置されている。主蒸気配管2及び給水配管10は原子炉建屋15及びタービン建屋16の両方に配置されている。以上に述べた原子力発電プラントは、放射線管理区域内に設置されている。炉水再循環配管22に実施例1と同様に接続される成膜装置30は、実施例1で用いた成膜装置30(図5参照)と同じ構成を有する。
本実施例の放射性核種の付着抑制方法は、原子力発電プラントの運転がそのプラントの定期検査のために停止された後、成膜装置(フェライト皮膜形成装置)30が、実施例1と同様に、炉水再循環配管22に接続されることによって行われる。成膜装置30の処理液配管35が炉水再循環配管22に、成膜装置30の処理液配管19(図10参照)が炉水浄化系18の浄化系配管20にそれぞれ接続される。処理液配管19は浄化系配管20に設けられた、バルブ23を取り付けるフランジに接続される。炉水再循環配管22の両端は、フェライト皮膜形成を行っている際に、炉水再循環配管22内に原子炉圧力容器内の炉水が浸入しないように、それぞれ、プラグ(図示せず)で封鎖される。
処理液配管35は、サージタンク31に接続され、バルブ34,33及び循環ポンプ32が順次設けられる。処理液配管19もサージタンク31に接続される。バルブ47、循環ポンプ48、加熱器53、バルブ55、56、49、57が処理液配管19に順次設置されている。炉水浄化系18の浄化系配管20は、炉水再循環配管22と給水配管10を連絡しており、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27を設置している。
成膜装置30の処理液配管35に連絡される薬液タンク45を含む薬剤調整装置90は、図10に示すように、薬液タンク45に接続される不活性ガスの導入ライン72、排出ライン74及び薬剤の導入口79を有する。薬剤調整装置90は実施例1で用いられる図6に示す薬剤調整装置と同じ構成である。導入ライン72は、バルブ73が設けられて窒素供給装置71に接続される。排出ライン74はバルブ75及び圧力ゲージ76を設置している。バルブ80が導入口79に設けられている。
本実施例の放射性核種の付着抑制方法においても、実施例1で行われる図1に示す各処理が実行される。本実施例においては、図1に示すステップS1〜S7の各処理が、放射線管理区域でない非放射線管理区域、例えば、製造工場17で実施される。図1に示すステップS9〜S11の各処理が放射線管理区域である原子炉建屋15内で行われる。成膜装置30は、定期検査等で原子力発電プラントの運転が停止された後に原子炉建屋15内に設置される。成膜装置30は、本実施例における放射性核種の付着抑制方法の実行が終了した後に原子炉建屋15内から撤去される。
製造工場17内において、バルブ80を開いて導入口79からギ酸水溶液を薬液タンク45内に供給し、このギ酸水溶液を加熱器78によって加熱する(ステップS1)。その後、実施例1と同様に、ステップS2〜S5の各処理が順次実施される。ステップS5の判定が「Yes」になったとき、薬液タンク45内を不活性ガスで加圧し、薬液タンク45を密閉する(ステップS6)。すなわち、鉄が溶解して生成されたFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を室温まで冷却する。その後、窒素の排出ライン74のバルブ75を閉じて圧力ゲージ76を見ながら、窒素供給装置71から導入ライン72を介して窒素を薬液タンク45内に供給する。薬液タンク45内の圧力が設定圧力まで上昇したとき、バルブ73を閉じて薬液タンク45内への窒素の供給を停止する。薬液タンク45は、内部にFe(II)イオンを含むギ酸水溶液(第1の薬剤)が充填され、その水溶液の液面より上方の空間に加圧された窒素が充填されている。この薬液タンク45は加圧状態でかつ密封状態になっている。
薬液タンク45は、その密封状態のまま、製造工場17内に保管される(ステップS7)。この薬液タンク45、すなわち、薬液調整装置90の保管は、例えば、原子炉建屋15内で成膜装置30の処理液配管19,35が前述したように浄化系配管20及び炉水再循環配管22のうち該当する配管に接続される直前まで行われる。この時点では、成膜装置30には薬液タンク45が取り付けられていない。保管状態の薬液調整装置90は、窒素供給装置71が取り除かれている。
成膜装置30のそれらの配管への接続が完了する直前に、薬液タンク45を運搬する(ステップS8)。この運搬はトラック等の自動車を用いて行われる。Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液、及び窒素が内部に充填されて密封された薬液タンク45含む薬液調整装置90が、自動車に乗せられて、該当する原子力発電プラントが存在する原子力発電所の敷地内に搬送され、さらに、原子炉建屋15内に搬入される。この薬液調整装置90は、原子炉建屋15内の天井クレーンを用いて成膜装置30が設置されている場所まで移動される。薬液調整装置90の移送時には、加熱器78、導入ライン72、排出ライン74及び導入口79は薬液タンク45に設置されている。窒素供給装置71を導入ライン72に接続した状態で、薬液タンク45を運搬することも可能である。
搬送された薬液タンク45を成膜装置30に取り付ける(ステップS9)。成膜装置30が設置されている場所まで薬液調整装置90が移送された後、薬液タンク45は、導入口80が注入ポンプ43に接続されることによって、成膜装置30に接続される。この接続状態では、バルブ80,41を開いた場合に、薬液タンク45内のFe(II)イオンを含むギ酸水溶液が処理液配管35内に注入される状態になっている。その後、薬液タンク45内に不活性ガスである窒素を供給する(ステップS10)。原子炉建屋15内で、窒素供給装置71を導入ライン72に接続する。バルブ73,75を開いて、窒素供給装置71から薬液タンク45内に窒素を供給し、排出ライン74から排出する。
なお、薬液調整装置90から窒素供給装置71だけでなく、撹拌子77及び加熱器78を薬液調整装置90から取り外し、バルブ73を有する導入ライン72、バルブ75を有する排出ライン75及びバルブ80を有する導入口79が取り付けられている薬液タンク45を、ステップS7で保管してもよい。この場合には、ステップS8において、導入ライン72、排出ライン75及び導入口79を有する薬液タンク45を、自動車にて搬送し、放射線管理区域内の上記の所定の場所まで移送する。この薬液タンク45が、ステップS9において、成膜装置30に取り付けられる。
これで、成膜装置30が使用できる状態になり、炉水再循環配管(原子力発電プラントの構造部材)22の、炉水と接触する内面へのフェライト皮膜の形成が可能になる。バルブ80,43を開いて注入ポンプ43を駆動することによって、Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液が処理液配管35内に供給される(ステップS11)。実施例1と同様に、バルブ42,38が開いて注入ポンプ44,39が駆動されるので、薬液タンク46,40から処理液配管35内に過酸化水素(第2の薬剤)及びヒドラジン(第3の薬剤)がそれぞれ供給される。循環ポンプ32が駆動されているので、処理液配管35内に供給されたFe(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンは混合されて処理液となり、フェライト皮膜を形成する対象の炉水再循環配管22内に供給される。この処理液は、炉水再循環配管22内を通って処理液配管19に排出され、サージタンク31へと戻される。フェライト皮膜の形成処理を行っている間、薬液タンク45,46,40からそれぞれ供給される各薬剤を含む処理液が炉水再循環配管22内に供給される。本実施例におけるフェライト皮膜の形成処理は、成膜装置30を用いて、実施例1と同様に行われる。炉水浄化系18の浄化系配管20の内面にフェライト皮膜を形成する場合にも、本実施例は適用可能である。
特開2006−38483号公報は、本願の実施例1〜4に対しては公知例ではないが、本実施例(実施例5)に対しては公知例となる。特開2006−38483号公報の段落番号0047、図8(または段落番号0049、図9)には、鉄をギ酸水溶液に溶出する金属溶解タンク及びFe(II)イオンを含むギ酸水溶液が充填される薬液タンク内に窒素をバブリングすることが記載されている。発明者らは、この公知例においては、以下の新たな課題が生じることを見出した。本実施例は、この新たな課題を解消するために、発明者らが考え付いたものである。鉄をギ酸水溶液に溶解させると、水素が発生する。このため、成膜装置30に接続された状態の薬液タンク45、すなわち、放射線管理区域である原子炉建屋15内に置かれた薬液タンク45内で鉄をギ酸水溶液に溶解させてFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を生成する場合では、万が一、鉄の溶解時に発生した水素が、薬液タンク45が設置されている原子炉建屋15内の部屋内に漏洩し、この部屋内の水素濃度が高くなったとき、火災または爆発が生じる可能性がある。放射線管理区域で火災または爆発が生じた場合には、原子力発電プラントの停止期間が長くなり、原子力発電プラントの稼働率が低下する。
このような特開2006−38483号公報に対し、本実施例は、非放射線管理区域である製造工場17において薬液タンク45内でギ酸水溶液に鉄を溶解させるので、製造工場の建屋内に発生した水素が漏れても放射線管理区域内の部屋よりも換気がし易く、安全性が高い。本実施例は、非放射線管理区域内で鉄をギ酸水溶液に溶解させてFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を生成している。すなわち、生成されたFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を充填している薬液タンク45を放射線管理区域である原子炉建屋15内に搬入する。このため、本実施例は、放射線管理区域である原子炉建屋15内において、Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成に伴う水素の発生は生じない。原子炉建屋15内で上記の水素による火災または爆発は、本実施例では起こりえない。本実施例は、定期検査における原子力発電プラントの運転停止期間がその水素によってもたらされる火災または爆発に起因して予想外に延長されることを防止できる。本実施例は、原子炉建屋内で鉄をギ酸水溶液に溶解させる場合に比べて、原子力発電プラントの稼働率を向上できる。
また、Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成を前述したように非放射線管理区域である製造工場17内で行うので、その生成に必要な作業の効率が向上し、Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成を放射線管理区域で行うよりもその生成を短時間で行うことができる。
また、本実施例は、成膜装置30に接続された薬液タンク45からのFe(II)イオンを含むギ酸水溶液、及び成膜装置30に設けられている薬液タンク46からの過酸化水素及び薬液タンク40からのヒドラジンが混じった処理液を用いて、原子力発電プラントの炉水再循環配管22の、冷却水が接する内面にフェライト皮膜を形成することができる。これによって、炉水再循環配管22の内面への放射性核種の付着を抑制できる。
本実施例は、実施例1と同様に、比較的長い時間を要するFe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成時に薬液タンク45内に不活性ガスである窒素を供給しているので、その生成時においてFe(II)イオンが酸素と接触することを回避できる。薬液タンク45内でのFe(II)イオンの酸化が防止される。このため、薬液タンク45を成膜装置30に取り付けてFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を処理液配管35内に供給したとき、皮膜形成対象物である炉水再循環配管22の内面に吸着されるFe(II)イオンの量が増大する。フェライト皮膜の生成反応が起こりやすくなり、フェライト皮膜形成に要する時間が短縮できる。本実施例は、Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液を充填した状態で薬液タンク45を保管するとき、及びそれを運搬するときも、薬液タンク45の液面情報の空間に窒素が充満しているので、薬液タンク45内のFe(II)イオンが酸素と接触して酸化されることを防止できる。これによっても、炉水再循環配管22の内面に吸着されるFe(II)イオンの量を増大させることができる。
薬液調整装置90の替りに図7、図8及び図9に示されるいずれかの薬液調整装置を用いても、本実施例と同様な効果を得ることができる。
図10に示す実施例では、薬液タンク45内でのFe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成を非放射線管理区域である製造工場17内で行っている。この薬液タンク45内でのFe(II)イオンを含むギ酸水溶液の生成を、該当する原子力発電プラントが存在する原子力発電所の敷地内における非放射線管理区域で行ってもよい。原子力発電所の敷地内における非放射線管理区域は、その敷地内において原子炉建屋15及びタービン建屋16等の放射線管理区域の外側に存在する区域である。その場合には、薬液調整装置90をトラックの荷台に乗せて原子力発電所の敷地内の非放射線管理区域に搬入し、薬液調整装置90をトラックの荷台に乗せたまま、薬液タンク45内でFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を生成する。その後、成膜装置30が炉水再循環配管22に接続される直前に、前述したように、薬液調整装置90が原子炉建屋15内に搬送され、薬液タンク45が成膜装置30に取り付けられる。Fe(II)イオンを含むギ酸水溶液が薬液タンク45から炉水再循環配管22内に供給される。
本発明の他の一実施例である放射性核種の付着抑制方法を、図10、図11及び図12を用いて説明する。本実施例の放射性核種の付着抑制方法によるフェライト皮膜の形成も、原子力発電プラント(例えば、沸騰水型原子力発電プラント)の例えば炉水再循環配管22で行われる。本実施例における放射性核種の付着抑制方法は、図11に示す各処理が実行される。図11に示す処理手順は、実施例5で実行された図1に示す処理手順においてステップS5とステップ6の間にステップ12の処理を追加したものである。
本実施例も、ステップS1〜S7の各処理は、非放射線管理区域である製造工場17内で行われる。ステップ12の処理も製造工場17内で行われる。このステップ12の処理を詳細に説明する。ステップ12では、薬液調整装置90の薬液タンク45内のFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を、運搬容器94の薬液タンク45に移送する作業が行われる。運搬容器94は、薬液調整装置90から撹拌子77及び加熱器78を取り除いた構成を有している。すなわち、運搬容器94は、バルブ73を有する導入ライン72、バルブ75を有する排出ライン75及びバルブ80を有する導入口79を薬液タンク45に接続している。圧力ゲージ76もその排出ライン75に設けられる。薬液調整装置90のバルブ80に溶液移送配管92が接続される。移送ポンプ91が溶液移送配管92に設けられている。溶液移送配管92の他端は、運搬容器94の薬液タンク45に設けられたバルブ93に接続される。運搬容器94のバルブ73,80は閉じられている。薬液調整装置90のバルブ80及びバルブ93を開いて移送ポンプ91を駆動することによって、薬液調整装置90の薬液タンク45内のFe(II)イオンを含むギ酸水溶液が溶液移送配管92内を通って運搬容器94の薬液タンク45内に供給される。この薬液タンク45内へのFe(II)イオンを含むギ酸水溶液の移送が完了した時点で、薬液調整装置90のバルブ80及びバルブ93を閉じる。溶液移送配管92をバルブ92から取り外す。
ステップ12の作業が終了した後、製造工場17内で実施例5と同様に、ステップS6,S7の処理が製造工場17内で実行される。ステップS8においては、運搬容器94が、自動車に乗せられて原子力発電所内で原子炉建屋15の側まで搬送され、さらに、放射線管理区域である原子炉建屋15内に移送される。原子炉建屋15内の所定の位置に置かれている成膜装置30の位置まで移送された運搬容器94の薬液タンク45は、ステップS9において、実施例5と同様に、その成膜装置30の注入ポンプ43に接続される。その後、実施例5と同様に、この薬液タンク45内のFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を用いたフェライト皮膜形成処理が実施される。
本実施例も、実施例5で生じる効果を得ることができる。本実施例は、運搬容器94を用いてFe(II)イオンを含むギ酸水溶液を原子炉建屋15内の所定位置まで移送するので、薬液調整装置90を移送する場合に比べて重量も軽く移送が容易である。
実施例5及び6は、沸騰水型原子力発電プラントだけでなく加圧水型原子力発電プラントの構造部材の、冷却材と接する表面(例えば、系統の配管の内面)にフェライト皮膜を形成する場合にも適用することができる。
本発明の好適な一実施例である実施例1のフェライト皮膜を形成する薬剤を調製し保管し運搬し使用する方法の手順を示すフローチャートである。
ステンレス鋼表面にマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜を形成したものと形成していないものについて、BWR供用運転条件の高温水中に浸漬してCo−60の付着量を調べた実験結果を示す図である。
ステンレス鋼表面にマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜を形成する際に、大気開放の有無が皮膜の形成に与える影響を示した図である。
マグネタイトを主成分とするフェライト皮膜を形成する再循環配管を有する原子力発電プラントの系統構成図である。
図4に示す原子力発電プラントの再循環配管に接続された、フェライト皮膜を形成する装置である成膜装置の詳細系統図である。
本発明の実施例1に用いる薬剤調製装置と窒素供給装置の構成図である。
本発明の実施例2に用いる薬剤調製装置と窒素供給装置の構成図である。
本発明の実施例3に用いる薬剤調製装置と窒素供給装置の構成図であり、(A)は散気管を水溶液中に下降させてバブリング中の状態を示す説明図、(B)は該散気管を液面上に上昇させて気相部に窒素ガスを流通させている状態を示す説明図である。
本発明の実施例4に用いる薬剤調製装置とこれに取り付けられた減圧装置の構成図である。
本発明の一実施例である実施例5における放射性核種の付着抑制方法を示す説明図である。
本発明の他の実施例である実施例6における放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。
実施例6のステップ12におけるギ酸水溶液の運搬容器への移送を示す説明図である。
符号の説明
1…原子炉、3…蒸気タービン、4…復水器、10…給水配管、11…原子炉格納容器、15…原子炉建屋(放射線管理区域)、16…タービン建屋(放射線管理区域)、17…製造工場(非放射線管理区域)、21…再循環ポンプ、22…再循環配管、30…成膜装置(フェライト皮膜形成装置)、31…サージタンク32、48…循環ポンプ、19,35…処理液配管、39,43,44…注入ポンプ、40,45,46…薬液タンク、64…分解装置、72…窒素供給ライン、74…窒素排出ライン、77…撹拌子、78…加熱器、79…薬剤導入口、81…散気管、82…冷却器、83…減圧槽、84…減圧ライン、86…減圧ポンプ、90…薬液調整装置、94…運搬容器。