[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る製造方法によって製造される薄膜デバイスについて説明する。図1は、本実施の形態における薄膜デバイスの断面図である。図1に示したように、本実施の形態における薄膜デバイス1は、基板2と、この基板2の上に配置された絶縁材料よりなる平坦化膜3と、この平坦化膜3の上に設けられたキャパシタ4とを備えている。キャパシタ4は、平坦化膜3の上に配置された下部導体層10と、この下部導体層10の上に配置された誘電体膜20と、この誘電体膜20の上に配置された上部導体層30とを有している。
下部導体層10と上部導体層30は、それぞれ所定の形状にパターニングされている。誘電体膜20は、下部導体層10の上面および側面ならびに平坦化膜3の上面を覆うように配置されている。上部導体層30は、下部導体層10との間で誘電体膜20を挟む位置に配置されている。下部導体層10と上部導体層30は、キャパシタ4において誘電体膜20を挟んで対向する一対の電極を構成する。
薄膜デバイス1は、更に、誘電体膜20の上に配置された有機絶縁体層5を備えている。この有機絶縁体層5は、下部導体層10の上方に配置された開口部5aを有している。上部導体層30の一部は、開口部5a内に配置されて、誘電体膜20を介して下部導体層10に対向している。
基板2は、例えば絶縁材料(誘電体材料)によって構成されている。基板2を構成する絶縁材料は、無機材料でもよいし有機材料でもよい。基板2を構成する絶縁材料としては、例えばAl2O3を用いることができる。また、基板2は、半導体材料によって構成されていてもよい。
平坦化膜3を構成する絶縁材料は、無機材料でもよいし有機材料でもよい。平坦化膜3を構成する無機材料としては、例えばAl2O3を用いることができる。平坦化膜3の材料として無機材料を用いる場合には、物理気相成長法(以下、PVD法と記す。)または化学気相成長法(以下、CVD法と記す。)を用いて平坦化膜3を形成することが好ましい。平坦化膜3を構成する有機材料としては、例えば樹脂を用いることができる。この場合、樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれでもよい。平坦化膜3の材料として樹脂等の有機材料を用いる場合には、平坦化膜3を構成する有機材料を、流動性を有する状態で、基板2の上に塗布し、その後、有機材料を硬化させることによって、平坦化膜3を形成することが好ましい。また、平坦化膜3は、スピン・オン・グラス(SOG)膜で構成してもよい。また、平坦化膜3は、インクジェット技術によって形成してもよい。
平坦化膜3の上面の最大高さ粗さRzは、基板2の上面の最大高さ粗さRzよりも小さい。なお、最大高さ粗さRzは、表面粗さを表すパラメータの1つであり、基準長さにおける輪郭曲線の山の高さの最大値と谷深さの最大値との和と定義される。また、平坦化膜3の厚みは、0.01〜50μmの範囲内であることが好ましい。
なお、基板2の上面の表面粗さが十分に小さい場合には、平坦化膜3を設けずに、基板2の上に直接、下部導体層10を配置してもよい。
下部導体層10と上部導体層30は、Cu等の導電材料によって構成されている。誘電体膜20は誘電体材料によって構成されている。誘電体膜20を構成する誘電体材料は、無機材料であることが好ましい。誘電体膜20を構成する誘電体材料としては、例えば、Al2O3、Si4N3またはSiO2を用いることができる。
誘電体膜20の厚みは、下部導体層10の厚みよりも小さく、例えば0.02〜1μmの範囲内であることが好ましく、0.05〜0.5μmの範囲内であることがより好ましい。下部導体層10の厚みは、5〜10μmの範囲内であることが好ましい。上部導体層30の厚みは、5〜10μmの範囲内であることが好ましい。
ここで、下部導体層10および上部導体層30の厚みが上記の範囲内であることが好ましい理由について説明する。本実施の形態に係る薄膜デバイスは、例えば、無線LAN(ローカルエリアネットワーク)用や携帯電話機用のバンドパスフィルタに利用される。無線LANでは、2.5GHz帯の周波数帯が使用されている。この周波数帯における通過損失を考慮すると、下部導体層10および上部導体層30の厚みは3μm以上であることが必要となる。すなわち、下部導体層10および上部導体層30の厚みが3μm未満の場合には、通過損失が大きくなりすぎる。また、携帯電話機では、800MHz〜1.95GHzの周波数帯域が使用される。この周波数帯域のうちの特に低周波側でのノイズの抑制やバンドパスフィルタの減衰特性の向上のためには、下部導体層10および上部導体層30の厚みは5μm以上であることが必要となる。そのため、下部導体層10および上部導体層30の厚みは5μm以上であることが好ましい。一方、下部導体層10および上部導体層30が厚すぎると、下部導体層10および上部導体層30の各上面の表面粗さが大きくなって、下部導体層10および上部導体層30の表皮抵抗が増大する。あるいは、下部導体層10および上部導体層30の各上面の表面粗さを低減するための平坦化処理の工程が必要になり、その平坦化処理のための手間がかかる。従って、実用的には、下部導体層10および上部導体層30の厚みは10μm以下であることが好ましい。
有機絶縁体層5は、有機絶縁材料によって構成されている。有機絶縁体層5を構成する有機絶縁材料としては、例えば樹脂を用いることができる。この場合、樹脂は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれでもよい。有機絶縁体層5の材料として用いられる樹脂としては、例えば、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、四ふっ化エチレン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマ、変性ポリイミドを用いることができる。また、有機絶縁体層5の材料として用いられる樹脂は、感光性樹脂であってもよい。
次に、図2ないし図11を参照して、本実施の形態に係る薄膜デバイス1の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、各層の材料と厚みの一例を挙げているが、本実施の形態における薄膜デバイス1の製造方法は、それらに限定されるわけではない。
図2は、本実施の形態に係る薄膜デバイス1の製造方法における一工程を示す断面図である。薄膜デバイス1の製造方法では、まず、図2に示したように、基板2の上に平坦化膜3を形成する。ここでは、一例として、平坦化膜3を構成する絶縁材料を、無機材料であるAl2O3とし、平坦化膜3をPVD法またはCVD法を用いて形成するものとする。このようにして形成された平坦化膜3は、セラミックに比べて非常に緻密である。この時点における平坦化膜3の厚みは、例えば5.5μmとする。
次に、図3に示したように、平坦化膜3の上面を、研磨することによって平坦化する。その場合の研磨方法としては、例えば化学機械研磨(以下、CMPと記す。)が用いられる。研磨後の平坦化膜3の厚みは、例えば2.0μmになるようにする。また、ここでは、一例として、研磨後の平坦化膜3の上面の最大高さ粗さRzが30nmになるようにするものとする。なお、平坦化膜3の上面の研磨方法は、CMPに限らず、バフ研磨、ラップ研磨、ダイス研磨等の他の研磨方法であってもよい。また、平坦化膜3の上面の平坦化の処理は、2種類以上の研磨方法を組み合わせて行ってもよい。なお、平坦化膜3の上面を平坦化しなくても、平坦化膜3の上面の最大高さ粗さRzが十分に小さくなる場合には、平坦化膜3の上面を研磨によって平坦化しなくてもよい。
また、平坦化膜3の材料としては、樹脂等の有機材料を用いてもよい。この場合には、平坦化膜3を構成する有機材料を、流動性を有する状態で、基板2の上に塗布し、その後、有機材料を硬化させることによって、平坦化膜3を形成してもよい。また、平坦化膜3は、スピン・オン・グラス(SOG)膜で構成してもよい。また、平坦化膜3は、インクジェット技術によって形成してもよい。これらの場合には、平坦化膜3の上面を研磨しなくても、平坦化膜3の上面の最大高さ粗さRzを十分に小さくすることが可能である。
次に、図4に示したように、例えばスパッタ法によって、基板2の上に、第1の電極膜11と第2の電極膜12を順に成膜する。これら電極膜11,12は、後に電気めっき法によってめっき膜を形成する際における電極として用いられると共に、下部導体層10の一部を構成するものである。第1の電極膜11の材料としては、例えばTiが用いられる。第1の電極膜11の厚みは、例えば5nmである。第2の電極膜12の材料としては、例えばCuまたはNiが用いられる。第2の電極膜12の厚みは、例えば100nmである。なお、電極膜11,12の代わりに、1層の電極膜を形成してもよい。
図5は、次の工程を示す。この工程では、まず、電極膜12の上に、例えば8μmの厚みのフォトレジスト層を形成する。次に、フォトリソグラフィによってフォトレジスト層をパターニングして、フレーム40を形成する。このフレーム40は、形成すべき下部導体層10の形状に対応した形状の溝部41を有している。
次に、図6に示したように、電極膜11,12を電極として用いて、電気めっき法によって、溝部41内にめっき膜13を形成する。めっき膜13の材料としては、例えばCuが用いられる。めっき膜13の厚みは、例えば9〜10μmとする。
次に、図7に示したように、めっき膜13の上面を、研磨することによって平坦化する。その場合の研磨方法としては、例えばCMPが用いられる。研磨後のめっき膜13の厚みは、例えば8μmになるようにする。なお、めっき膜13の上面の研磨方法は、CMPに限らず、バフ研磨、ラップ研磨、ダイス研磨等の他の研磨方法であってもよい。また、めっき膜13の上面の平坦化の処理は、2種類以上の研磨方法を組み合わせて行ってもよい。なお、めっき膜13の上面は、研磨によって平坦化しなくてもよい。
なお、図6に示した工程において、めっき膜13の厚みがフレーム40の厚みよりも大きくなるようにめっき膜13を形成した場合には、図7に示した工程において、めっき膜13のうち、フレーム40の溝部41からはみ出した部分を研磨して、めっき膜13の厚みがフレーム40の厚みと一致した時点で研磨を終了してもよい。この場合には、めっき膜13によって形成される下部導体層10の厚みを正確に制御することが可能になる。また、フレーム40の研磨量が多いと、砥石等の研磨部材の目詰まりが生じ、その結果、めっき膜13の上面の平坦化が妨げられる場合がある。めっき膜13の厚みがフレーム40の厚みと一致した時点で研磨を終了することにより、このような不具合の発生を防止することができる。
図8は、次の工程を示す。この工程では、まず、フレーム40を剥離する。次に、めっき膜13に対して、水等を用いた洗浄工程および乾燥工程を行って、硫酸銅、リン、塩素、ナトリウム等のめっき浴の残渣成分を、めっき膜13から除去する。次に、めっき膜13に対して熱処理を施す。この熱処理は、めっき膜13を160〜400℃の範囲内の温度で加熱する処理である。この熱処理は、めっき膜13を200〜400℃の範囲内の温度で加熱することが好ましい。また、熱処理は、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられる際に下部導体層10が達する温度以上の温度でめっき膜13を加熱する。また、熱処理では、例えば30〜60分間、めっき膜13の温度を上記の温度範囲内の温度に保持する。この熱処理の条件については、後で詳しく説明する。ここでは、一例として、熱処理は、めっき膜13を200℃の温度で60分間加熱する処理とする。
次に、図9に示したように、ドライエッチングまたはウェットエッチングによって、電極膜11,12のうち、めっき膜13の下に存在している部分以外の部分を除去する。これにより、残った電極膜11,12およびめっき膜13によって下部導体層10が形成される。
次に、図10に示したように、例えばスパッタ法によって、下部導体層10の上面および側面ならびに平坦化膜3の上面を覆うように、誘電体膜20を成膜する。誘電体膜20の厚みは、例えば0.1μmとする。
図11は、次の工程を示す。この工程では、まず、誘電体膜20の上に、加熱された後に有機絶縁体層5となる有機絶縁体膜5Pを形成する。有機絶縁体膜5Pの材料は、有機絶縁体層5と同様である。有機絶縁体膜5Pの材料として熱硬化性樹脂や感光性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pは、例えば、誘電体膜20の上に熱硬化性樹脂や感光性樹脂を塗布することによって形成される。有機絶縁体膜5Pの材料として熱可塑性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pは、例えば、熱可塑性樹脂よりなるフィルムを誘電体膜20の上に被せることによって形成される。
有機絶縁体膜5Pの材料として熱硬化性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pの形成後、有機絶縁体膜5Pを硬化させるために有機絶縁体膜5Pを加熱する。有機絶縁体膜5Pの材料として熱可塑性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pの形成後、有機絶縁体膜5Pを誘電体膜20に貼り付けるために有機絶縁体膜5Pを加熱する。有機絶縁体膜5Pの材料として感光性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pのプリベークのために有機絶縁体膜5Pを加熱する。
次に、有機絶縁体膜5Pをパターニングする。有機絶縁体膜5Pの材料として熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pのパターニングは、例えば有機絶縁体膜5Pを選択的にエッチングすることによって行われる。有機絶縁体膜5Pの材料として感光性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pのパターニングは、フォトリソグラフィによって行われる。有機絶縁体膜5Pの材料として感光性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜5Pのパターニング後、有機絶縁体膜5Pのポストベークのために有機絶縁体膜5Pを加熱する。
このように有機絶縁体膜5Pがパターニングされて、図12に示したように、開口部5aを有する有機絶縁体層5が形成される。上述のように有機絶縁体膜5Pを加熱する工程では、有機絶縁体膜5Pを、例えば180〜350℃の範囲内の温度で加熱する。このとき、下部導体層3の温度も、例えば180〜350℃の範囲内の温度に達する。図8に示した工程におけるめっき膜13に対する熱処理では、上述のように有機絶縁体膜5Pを加熱する工程において下部導体層3が達する温度以上の温度でめっき膜13を加熱する。
次に、図13に示したように、誘電体膜20の上であって、下部導体層10との間で誘電体膜20を挟む位置に、上部導体層30を形成する。上部導体層30の形成方法は、平坦化の処理を除いて、下部導体層10の形成方法と同様である。すなわち、まず、誘電体膜20の上に、電極膜31,32を、この順に成膜する。電極膜31,32の材料および厚みは、電極膜11,12と同様である。次に、電極膜32の上に、例えば8μmの厚みのフォトレジスト層を形成する。次に、フォトリソグラフィによってフォトレジスト層をパターニングして、図示しないフレームを形成する。このフレームは、形成すべき上部導体層30の形状に対応した形状の溝部を有している。このフレームの溝部は、その内側に有機絶縁体層5の開口部5aを含むように形成される。次に、電極膜31,32を電極として用いて、電気めっき法によって、溝部内にめっき膜33を形成する。めっき膜33の材料としては、例えばCuが用いられる。めっき膜33の厚みは、例えば8μmとする。次に、フレームを剥離する。次に、ドライエッチングまたはウェットエッチングによって、電極膜31,32のうち、めっき膜33の下に存在している部分以外の部分を除去する。これにより、残った電極膜31,32およびめっき膜33によって上部導体層30が形成される。
以上説明したように、本実施の形態では、下部導体層10を形成する工程は、電気めっき法によって、下部導体層10を構成するめっき膜13を形成する工程と、このめっき膜13を160〜400℃の範囲内の温度で加熱する熱処理を行う工程とを含んでいる。この熱処理は、めっき膜13を200〜400℃の範囲内の温度で加熱することが好ましい。
形成直後のめっき膜13中には、金属結晶の成長の過程が完了せずに、平衡状態に達していない部分が存在する場合がある。そのため、めっき膜13の形成後、めっき膜13に対して熱処理を行わずに、比較的短時間のうちに、めっき膜13の上に誘電体膜20を成膜すると、めっき膜13中の平衡状態に達していない部分に存在する未反応の残留物質が誘電体膜20に拡散し、その結果、誘電体膜20の誘電率、誘電正接等の特性が変化して、この特性が意図していたものと異なってしまう場合が生じ得る。
また、めっき膜13の形成後、めっき膜13に対して熱処理を行わずに、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられると、以下のような問題が発生する。
まず、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられる場合としては、誘電体膜20の成膜過程で下部導体層10に熱が加えられる場合がある。この場合には、誘電体膜20の成膜過程でめっき膜13が加熱されて、めっき膜13中の平衡状態に達していなかった部分の状態が変化し、めっき膜13の上面の形状が変化する場合がある。このように、誘電体膜20の成膜過程でめっき膜13の上面の形状が変化すると、誘電体膜20の厚みの分布が不均一になる場合がある。
また、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられる場合としては、有機絶縁体膜5Pを加熱する工程において下部導体層10に熱が加えられる場合がある。この場合には、有機絶縁体膜5Pを加熱する工程においてめっき膜13が加熱されて、めっき膜13中の平衡状態に達していなかった部分の状態が変化し、めっき膜13の上面の形状が変化する場合がある。この場合には、既に形成されている誘電体膜20の形状も変化してしまい、誘電体膜20に歪みが発生したりクラック等の欠陥が発生したりする。また、これにより、誘電体膜20の絶縁不良が発生する場合もある。
また、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられる場合としては、薄膜デバイス1を半田付け等によってマザーボードに実装する際に下部導体層10に熱が加えられる場合がある。この場合も、有機絶縁体膜5Pを加熱する工程において下部導体層10に熱が加えられる場合と同様の問題が発生する場合がある。
これに対し、本実施の形態では、めっき膜13に対して熱処理を施した後に、めっき膜13の上に誘電体膜20を成膜している。めっき膜13に対する熱処理は、160〜400℃の範囲内の温度であって、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられる際に下部導体層10が達する温度以上の温度でめっき膜13を加熱する。この熱処理によって、めっき膜13中の平衡状態に達していなかった部分は平衡状態に達する。従って、本実施の形態によれば、めっき膜13中の未反応の残留物質が誘電体膜20に拡散したり、下部導体層10の形成後において下部導体層10に熱が加えられた際に、めっき膜13中の平衡状態に達していなかった部分の状態が変化したりすることを防止することができる。これにより、本実施の形態によれば、めっき膜13の平衡状態に達していない部分に起因して、誘電体膜20の特性が変化したり誘電体膜20の厚みの均一性が低下したりすることを防止することができる。その結果、本実施の形態によれば、キャパシタ4の特性が意図していたものと異なったり、キャパシタ4の耐電圧が低下したり、製品間におけるキャパシタ4の特性や耐電圧のばらつきが増大したりすることを抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、めっき膜13中の未反応の残留物質が誘電体膜20に拡散することによる影響を低減するために誘電体膜20を厚くする必要がない。また、本実施の形態によれば、誘電体膜20の厚みを均一化することができる。これらのことから、本実施の形態によれば、キャパシタ4の耐電圧を十分な大きさに維持したままで、誘電体膜20を薄くすることが可能になる。これにより、同じキャパシタンスのキャパシタを実現する場合において、下部導体層10と上部導体層30が誘電体膜20を介して対向する領域の面積を小さくしたり、導体層と誘電体膜の積層数を減らしたりすることができる。従って、本実施の形態によれば、薄膜デバイスの小型化、低背化が可能になる。
また、本実施の形態によれば、めっき膜13に熱処理を施した後、直ちに誘電体膜20を成膜することが可能になる。従って、本実施の形態によれば、薄膜デバイス1の製造に必要な時間を短縮することができる。
ここで、図14を参照して、本実施の形態における他の効果について説明する。図14は、下部導体層10の上面の表面粗さと誘電体膜20の上面の表面粗さを強調して示す薄膜デバイス1の断面図である。図14に示したように、本実施の形態では、めっき膜13に対して熱処理を施すことにより、めっき膜13に対して熱処理を施さない場合に比べて、めっき膜13の上面、すなわち下部導体層10の上面の表面粗さが大きくなる。このような下部導体層10の上に誘電体膜20を形成することにより、誘電体膜20の上面の表面粗さも、めっき膜13に対して熱処理を施さない場合に比べて大きくなる。ただし、本実施の形態では、誘電体膜20の成膜時には、下部導体層10の上面の表面粗さはほとんど変化しないので、誘電体膜20の厚みは、めっき膜13に対して熱処理を施さない場合に比べて均一化することができる。以上のことから、本実施の形態によれば、めっき膜13に対して熱処理を施さない場合に比べて、誘電体膜20の厚みを均一化しながら、下部導体層10と誘電体膜20との界面の面積および誘電体膜20と上部導体層30との界面の面積を大きくすることができる。その結果、本実施の形態によれば、めっき膜13に対して熱処理を施さない場合に比べて、例えば10%程度、キャパシタ4の単位面積あたりのキャパシタンスを増加させることができる。
また、本実施の形態によれば、上述のように下部導体層10と誘電体膜20との界面の面積および誘電体膜20と上部導体層30との界面の面積を大きくすることができることから、下部導体層10と誘電体膜20との間の密着性および誘電体膜20と上部導体層30との間の密着性を向上させることができる。これにより、薄膜デバイス1の信頼性を向上させることができる。
ここで、めっき膜13に対する熱処理の条件について詳しく説明する。前述のように、めっき膜13に対する熱処理は、めっき膜13を160〜400℃の範囲内の温度で加熱するものである。また、この熱処理は、めっき膜13を200〜400℃の範囲内の温度で加熱することが好ましい。まず、熱処理における温度の下限値が160℃であることの意味について説明する。一般的に、めっき膜の形成後には、めっき膜を乾燥させる工程が行われる。この乾燥工程では、通常、150℃以下の温度でめっき膜が加熱される。熱処理における温度の下限値が160℃であるというのは、この熱処理が、めっき膜の形成後の乾燥工程とは異なるものであることを表している。
次に、図15を参照して、熱処理における温度の下限値を160℃とする、もう1つの理由について説明する。図15は、めっき膜13に対する熱処理における温度と、めっき膜13の上面の算術平均粗さRaとの関係を調べた実験結果を示す特性図である。図15において、横軸は熱処理における温度(℃)を表し、縦軸はめっき膜13の上面の算術平均粗さRa(nm)を表している。図15から分かるように、熱処理における温度が160℃になるとめっき膜13の上面の算術平均粗さRaが大きくなり始め、熱処理における温度が160℃以上では、熱処理における温度が高くなるほどめっき膜13の上面の算術平均粗さRaは大きくなる。従って、めっき膜13の状態が明確に変化する熱処理における温度の下限値は160℃と考えられる。これが、熱処理における温度の下限値を160℃とする、もう1つの理由である。
次に、熱処理における温度は200℃以上であることが好ましい理由について説明する。薄膜デバイス1をマザーボードに実装する方法としては、リフローによる半田付けが一般的である。この半田付けの際には、薄膜デバイス1も加熱され、そのとき薄膜デバイス1の内部の温度は200℃程度に達する。熱処理における温度が200℃よりも低いと、上記の半田付けの際に、熱処理時よりも高い温度でめっき膜13が加熱され、その結果、めっき膜13の状態やめっき膜13の上面の形状が変化して、キャパシタ4の特性が変化する可能性がある。これを防止するために、熱処理における温度は200℃以上であることが好ましい。
次に、熱処理における温度の上限値を400℃とする理由について説明する。めっき膜13を平衡状態にすることを促進する観点からは、熱処理における温度は高い方が好ましい。しかし、図15から分かるように、熱処理における温度が高くなるほど、めっき膜13の上面の表面粗さが大きくなる。従って、熱処理における温度が高すぎることは、めっき膜13の上面の表面粗さが大きくなりすぎるため、好ましくない。
一方、例えばスパッタ法によって誘電体膜20を成膜する際には、めっき膜13が加熱される場合がある。誘電体膜20の成膜方法によるが、誘電体膜20の成膜時におけるめっき膜13の温度は最高で400℃程度に達する。熱処理における温度が、誘電体膜20の成膜時におけるめっき膜13の温度よりも低いと、誘電体膜20の成膜時に、熱処理時よりも高い温度でめっき膜13が加熱され、その結果、めっき膜13の状態やめっき膜13の上面の形状が変化して、熱処理による効果が低減されてしまう。そのため、熱処理における温度は、誘電体膜20の成膜時におけるめっき膜13の温度以上であることが好ましい。そのため、誘電体膜20の成膜方法によっては、熱処理における温度を400℃程度にまで上げる必要性が生じる。以上のことから、本実施の形態では、熱処理における温度の上限値を400℃としている。
なお、本実施の形態において、誘電体膜20を成膜する前に、逆スパッタ、紫外線洗浄等を用いて、下部導体層10の表面に存在する酸化物、有機物等の不要物質を除去すると共に、下部導体層10の表面を活性化して、下部導体層10の表面の誘電体膜20に対する密着性や誘電体膜20の均質性を向上させてもよい。この場合、特に、同一の真空チャンバ内で、下部導体層10の表面の誘電体膜20に対する密着性を向上させる処理と誘電体膜20を成膜する処理とを連続的に行うことにより、下部導体層10と誘電体膜20との密着性や誘電体膜20の均質性をより一層向上させることができる。
また、電極膜11や電極膜31を成膜する前においても、逆スパッタ等を用いて、電極膜11または電極膜31の下地の表面に存在する酸化物、有機物等の不要物質を除去すると共に、下地の表面の電極膜11または電極膜31に対する密着性を向上させてもよい。
なお、下部導体層10を形成する工程や上部導体層30を形成する工程において、電極膜のうち、めっき膜の下に存在している部分以外の部分を除去する方法としては、例えば逆スパッタが用いられる。この場合、逆スパッタの条件によっては、下部導体層10や上部導体層30や誘電体膜20の上面を荒れさせてしまうおそれがある。これを防止する方法としては、ウェットエッチングによって電極膜を除去する方法や、逆スパッタによって電極膜を除去する場合には逆スパッタにおける出力や時間を調整する方法がある。また、例えばCuよりなるめっき膜の上に、電極膜には用いられていない材料(例えばNi)よりなる膜を、例えばめっき法によって形成し、逆スパッタによって電極膜を選択的にエッチングしてもよい。また、例えばCuよりなるめっき膜の上に、例えばCuよりなるスパッタ膜を形成してもよい。この場合には、スパッタ膜における結晶粒径がめっき膜における結晶粒径よりも小さくなるので、逆スパッタによって下部導体層10や上部導体層30の上面が荒れることを防止することができる。
また、誘電体膜20の成膜後、電極膜31の形成前に逆スパッタを行う場合や、逆スパッタによって電極膜31,32を除去して上部導体層30を形成する場合には、誘電体膜20の厚みの減少や、誘電体膜20の損傷を防止するために、出力、ガス流量、処理時間等の逆スパッタの条件を調整することが必要である。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。始めに、図16を参照して、本実施の形態に係る製造方法によって製造される薄膜デバイスについて説明する。図16は、本実施の形態における薄膜デバイスの断面図である。図16に示したように、本実施の形態における薄膜デバイス1は、基板2と、この基板2の上に配置された絶縁材料よりなる平坦化膜3と、この平坦化膜3の上に設けられたキャパシタ4とを備えている。キャパシタ4は、平坦化膜3の上に配置された下部導体層10と、この下部導体層10の上に配置された誘電体膜20と、この誘電体膜20の上に配置された上部導体層30とを有している。
薄膜デバイス1は、更に、平坦化膜3と誘電体膜20の間において下部導体層10の周囲に配置された有機絶縁体層50と、誘電体膜20の上に配置された有機絶縁体層5とを備えている。有機絶縁体層5は、下部導体層10の上方に配置された開口部5aを有している。上部導体層30の一部は、開口部5a内に配置されて、誘電体膜20を介して下部導体層10に対向している。
基板2、平坦化膜3、下部導体層10および上部導体層30の材料および構成は、第1の実施の形態と同様である。有機絶縁体層50および有機絶縁体層5の材料は、第1の実施の形態における有機絶縁体層5と同様である。本実施の形態では、誘電体膜20は、下部導体層10の上面および有機絶縁体層50の上面を覆うように配置されている。下部導体層10の上面および有機絶縁体層50の上面は平坦であることが好ましい。誘電体膜20の材料および厚みは、第1の実施の形態と同様である。
次に、図17ないし図20を参照して、本実施の形態に係る薄膜デバイス1の製造方法について説明する。本実施の形態に係る薄膜デバイス1の製造方法では、図9に示したように下部導体層10を形成する工程までは、第1の実施の形態と同様である。
本実施の形態では、次に、図17に示したように、下部導体層10および平坦化膜3の上に、加熱された後に有機絶縁体層50となる有機絶縁体膜50Pを形成する。有機絶縁体膜50Pの材料および形成方法は、第1の実施の形態における有機絶縁体膜5Pの材料および形成方法と同様である。次に、第1の実施の形態における有機絶縁体膜5Pを加熱する理由と同じ理由で、有機絶縁体膜50Pを加熱する。
次に、下部導体層10の上面が露出するように、有機絶縁体膜50Pをパターニングする。有機絶縁体膜50Pのパターニングの方法は、第1の実施の形態における有機絶縁体膜5Pのパターニングの方法と同様である。あるいは、CMP等によって、下部導体層10の上面が露出するまで有機絶縁体膜50Pを研磨することによって、有機絶縁体膜50Pをパターニングしてもよい。有機絶縁体膜50Pの材料として感光性樹脂を用いた場合には、有機絶縁体膜50Pのパターニング後、有機絶縁体膜50Pのポストベークのために有機絶縁体膜50Pを加熱する。
このように有機絶縁体膜50Pがパターニングされて、図18に示したように、有機絶縁体層50が形成される。有機絶縁体膜50Pを加熱する工程では、有機絶縁体膜50Pを、例えば180〜350℃の範囲内の温度で加熱する。本実施の形態では、有機絶縁体膜50Pを加熱する工程と同時に、めっき膜13に対する熱処理が行われる。従って、本実施の形態では、めっき膜13に対する熱処理における温度は、有機絶縁体膜50Pを加熱する際の温度と等しい。
次に、図19に示したように、例えばスパッタ法によって、下部導体層10の上面および有機絶縁体層50の上面を覆うように、誘電体膜20を成膜する。
図20は、次の工程を示す。この工程では、まず、誘電体膜20の上に有機絶縁体層5を形成する。この有機絶縁体層5の形成方法は、第1の実施の形態と同様である。次に、上部導体層30を形成する。この上部導体層30の形成方法も、第1の実施の形態と同様である。
以上説明したように、本実施の形態に係る薄膜デバイス1の製造方法は、めっき膜13の形成後に、有機絶縁体層50を形成する工程を備えている。有機絶縁体層50を形成する工程は、加熱された後に有機絶縁体層50となる有機絶縁体膜50Pを形成する工程と、有機絶縁体膜50Pを加熱する工程とを含んでいる。本実施の形態では、めっき膜13に対する熱処理は、有機絶縁体膜50Pを加熱する工程と同時に行われる。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の薄膜デバイスでは、上部導体層30の上に保護膜が設けられていてもよいし、上部導体層30が露出していてもよい。また、上部導体層30の上方に更に1以上の層が配置されていてもよい。
また、本発明では、上部導体層30の上面の上に、新たな誘電体膜と導体層を、交互に合計で2層以上形成してもよい。これにより、導体層と誘電体膜とが交互に、合計で5層以上積層されて構成されたキャパシタを形成することができる。
また、本発明における下部導体層、誘電体膜および上部導体層は、キャパシタを構成するものに限らない。例えば、下部導体層と上部導体層が、それぞれ別個の信号線を構成し、誘電体膜は下部導体層と上部導体層を絶縁するためのものであってもよい。
また、本発明の薄膜デバイスは、キャパシタ以外の素子を含んでいてもよい。薄膜デバイスに含まれるキャパシタ以外の素子は、インダクタや抵抗等の受動素子でもよいし、トランジスタ等の能動素子でもよい。また、薄膜デバイスに含まれるキャパシタ以外の素子は、集中定数素子でもよいし、分布定数素子でもよい。
また、本発明の薄膜デバイスは、側部、底面または上面に配置された端子を備えていてもよい。また、本発明の薄膜デバイスは、複数の導体層を接続するスルーホールを備えていてもよい。また、本発明の薄膜デバイスは、下部導体層10または上部導体層30を、端子や他の素子に接続するための配線用の導体層を備えていてもよい。あるいは、下部導体層10または上部導体層30の一部が端子を兼ねていてもよいし、下部導体層10または上部導体層30がスルーホールを介して端子に接続されていてもよい。
本発明の薄膜デバイスは、キャパシタとキャパシタ以外の素子とを含んでいる場合には、LC回路部品や、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の各種のフィルタや、ダイプレクサや、デュプレクサ等、キャパシタを含む種々の回路部品として利用することが可能である。
また、本発明の薄膜デバイスは、例えば、携帯電話機等の移動体通信機器や、無線LAN用の通信装置において利用される。