ここで、冷凍機に設けられて冷媒を圧縮する圧縮機などのように、作動流体としてのガス冷媒と潤滑用の冷凍機油とが共に流体室内に存在する場合がある。
一方、上記特許文献1の回転式流体機械において、流体室から流体を導出するポートをブレードやシリンダの側面に完全に沿った形状とすることは、構造上の問題から困難な場合が多い。つまり、この種の回転式流体機械では、ピストンの移動に伴って流体室の容積が減少してゆく過程において、流体室の容積が最小に達する前に流体室が出口側のポートから遮断されて閉空間となってしまう。
このため、上記特許文献1の回転式流体機械を作動流体と潤滑油が流体室内に共存する用途に用いる場合には、出口側のポートから遮断された状態の流体室内に潤滑油が残存してしまい、この残存した潤滑油を圧縮してしまう状態(即ち、油圧縮状態)に陥るおそれがあった。そして、潤滑油は圧縮されても殆ど容積変化しないため、油圧縮現象が生じると、それに起因してピストンやシリンダなどの部材が破損するおそれがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、油圧縮に起因する回転式流体機械の損傷を未然に防止し、回転式流体機械の信頼性を確保することにある。
第1の発明は、内側壁部(43)及び外側壁部(42)を有して該内側壁部(43)と該外側壁部(42)の間に環状のシリンダ室(70)を形成するシリンダ(40)と、上記シリンダ(40)に対して偏心した状態で上記シリンダ室(70)に収納されて該シリンダ室(70)を外側の流体室と内側の流体室とに区画する環状のピストン(52)とを備え、上記シリンダ(40)には、内側壁部(43)から外側壁部(42)に亘って該シリンダ(40)と一体に形成されて上記各流体室(60,65)を高圧側と低圧側に区画するブレード(45)が設けられ、上記シリンダ(40)と上記ピストン(52)とが相対的に偏心回転し、上記各流体室(60,65)では高圧側と低圧側の一方へ流体が流入して他方から流体が流出する回転式流体機械を対象としている。そして、上記ブレード(45)では、上記各流体室(60,65)の高圧側と低圧側のうち流体が流出する方に面する側面が出口側面(45b)を、流体が流入する方に面する側面が入口側面(45a)をそれぞれ構成しており、上記シリンダ(40)では、上記ブレード(45)の出口側面(45b)から内側壁部(43)の外周面に亘る出口内周側の隅角部(82)と、上記ブレード(45)の出口側面(45b)から外側壁部(42)の内周面に亘る出口外周側の隅角部(81)とが窪んでいるものである。
第1の発明では、シリンダ(40)に設けられた内側壁部(43)と外側壁部(42)とブレード(45)とが一体に形成されている。シリンダ(40)において、ブレード(45)の出口側面(45b)から内側壁部(43)の外周面に亘る出口内周側の隅角部(82)と、ブレード(45)の出口側面(45b)から外側壁部(42)の内周面に亘る出口外周側の隅角部(81)とは、奥側へ凹状に窪んだ形状となっている。つまり、このシリンダ(40)では、流体室(60,65)から流体が流出してゆく側に位置する2つの隅角部(81,82)が奥側に凹んでいる。
この第1の発明では、シリンダ(40)とピストン(52)とが相対的に偏心回転する。そして、シリンダ(40)の内側壁部(43)や外側壁部(42)とピストン(52)とが互いに摺接する位置は、ブレード(45)の入口側面(45a)側から出口側面(45b)側へ向かって移動してゆく。この発明のシリンダ(40)では、ブレード(45)の出口側面(45b)側の隅角部(81,82)が窪んでおり、この隅角部(81,82)がピストン(52)と摺接することはない。つまり、シリンダ(40)の内側壁部(43)や外側壁部(42)とピストン(52)との摺接位置がブレード(45)の出口側面(45b)に最も接近した状態でも、窪んだ隅角部(81,82)とピストン(52)に挟まれた空間が残ることになる。そして、流体室内に潤滑油が存在していても、この潤滑油は、隅角部(81,82)とピストン(52)に挟まれた空間へ流れ込んでゆく。
第2の発明は、上記第1の発明において、上記シリンダ(40)では、上記ブレード(45)の入口側面(45a)から内側壁部(43)の外周面に亘る入口内周側の隅角部(84)と、上記ブレード(45)の入口側面(45a)から外側壁部(42)の内周面に亘る入口外周側の隅角部(83)とが窪んでいるものである。
第2の発明のシリンダ(40)において、ブレード(45)の入口側面(45a)から内側壁部(43)の外周面に亘る入口内周側の隅角部(84)と、ブレード(45)の入口側面(45a)から外側壁部(42)の内周面に亘る入口外周側の隅角部(83)とは、奥側へ凹状に窪んだ形状となっている。つまり、このシリンダ(40)では、流体室(60,65)へ流体が流入してくる側に位置する2つの隅角部(83,84)が奥側に凹んでいる。
第3の発明は、上記第2の発明において、上記シリンダ(40)には上記シリンダ室(70)の一端側を閉塞する鏡板部(41)が設けられ、上記内側壁部(43)、外側壁部(42)及びブレード(45)は、上記鏡板部(41)の前面から突出するように該鏡板部(41)と一体に形成されており、上記鏡板部(41)の前面では、上記入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)に隣接する部分が窪んだ窪み部(91〜94)を形成しているものである。
第3の発明では、シリンダ(40)に鏡板部(41)が設けられ、この鏡板部(41)の前面がピストン(52)と摺接する。鏡板部(41)の前面では、入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)に沿った部分が、奥側に凹んだ窪み部(91〜94)を形成している。ピストン(52)がこれら窪み部(91〜94)を覆う位置へ移動してきても、窪んだ窪み部(91〜94)とピストン(52)に挟まれた空間が残ることになる。そして、流体室内に潤滑油が存在していても、この潤滑油は、ブレード(45)の出口側面(45b)側に位置する窪み部(91,92)とピストン(52)に挟まれた空間へ流れ込んでゆく。
第4の発明は、上記第2の発明において、上記ピストン(52)は、円環の一部分を分断したC字状に形成され、上記ピストン(52)とブレード(45)の間には、ブレード(45)の側面と摺接する平坦摺動面(77)とピストン(52)の周方向の端面と摺接する円弧摺動面(76)とが形成されたブッシュ(75)が設けられる一方、上記シリンダ(40)では、上記ブッシュ(75)とブレード(45)の摺動面(46)、上記ピストン(52)と内側壁部(43)の摺動面(48)、及び上記ピストン(52)と外側壁部(42)の摺動面(47)が機械加工を施された仕上げ面になる一方、上記入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)を構成する面が生肌面となっているものである。
第5の発明は、上記第3の発明において、上記ピストン(52)は、円環の一部分を分断したC字状に形成され、上記ピストン(52)とブレード(45)の間には、ブレード(45)の側面と摺接する平坦摺動面(77)とピストン(52)の周方向の端面と摺接する円弧摺動面(76)とが形成されたブッシュ(75)が設けられる一方、上記シリンダ(40)では、上記ブッシュ(75)とブレード(45)の摺動面(46)、上記ピストン(52)と内側壁部(43)の摺動面(48)、上記ピストン(52)と外側壁部(42)の摺動面(47)、及び上記ピストン(52)と鏡板部(41)の摺動面(49)が機械加工を施された仕上げ面になる一方、上記入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)と該各隅角部(81〜84)に隣接する窪み部(91〜94)とを構成する面が生肌面となっているものである。
第4及び第5の各発明では、ピストン(52)とブレード(45)の間にブッシュ(75)が設けられる。このブッシュ(75)は、その円弧摺動面(76)がピストン(52)の周方向の端面と摺動し、その平坦摺動面(77)がブレード(45)の側面と摺動する。また、シリンダ(40)では、内側壁部(43)の外周面がピストン(52)の内周面と、外側壁部(42)の内周面がピストン(52)の外周面とそれぞれ摺動する。シリンダ(40)では、入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)が窪んだ形状となっている。このため、これら隅角部(81〜84)を構成する面は、ピストン(52)やブッシュ(75)と摺動しない。そこで、この発明では、粉末冶金、鋳造、鍛造などの加工法で成型された素形材の段階で各隅角部(81〜84)を形成してしまい、その素形材のうちピストン(52)やブレード(45)と摺動する面に機械加工を施すことにより、シリンダ(40)を製造するようにしている。つまり、シリンダ(40)のうち各隅角部(81〜84)を構成する面は、素形材の状態のままで切削等の機械加工が施されていない面(即ち、生肌面)となっている。
更に、第5の発明では、シリンダ(40)の鏡板部(41)の前面に窪み部(91〜94)が形成されている。この窪み部(91〜94)は、奥側に凹んだ形状となっている。このため、各窪み部(91〜94)を構成する面は、ピストン(52)の端面と摺動しない。そこで、この発明では、粉末冶金、鋳造、鍛造などの加工法で成型された素形材の段階で各窪み部(91〜94)を形成してしまっている。つまり、シリンダ(40)のうち窪み部(91〜94)を構成する面は、素形材の状態のままで切削等の機械加工が施されていない面(即ち、生肌面)となっている。
第6の発明は、上記第2の発明において、上記ピストン(52)は、円環の一部分を分断したC字状に形成され、上記ピストン(52)とブレード(45)の間には、ブレード(45)の側面と摺接する平坦摺動面(77)とピストン(52)の周方向の端面と摺接する円弧摺動面(76)とが形成されたブッシュ(75)が設けられる一方、上記ブレード(45)のうち上記ブッシュ(75)の平坦摺動面(77)と摺接する部分は、その上記内側壁部(43)寄りの端部がブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心よりも常に内側に位置し、その上記外側壁部(42)寄りの端部がブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心よりも常に外側に位置しているものである。
第6の発明では、ピストン(52)とブレード(45)の間にブッシュ(75)が設けられる。このブッシュ(75)は、その円弧摺動面(76)がピストン(52)の周方向の端面と摺動し、その平坦摺動面(77)がブレード(45)の側面と摺動する。この発明では、ブレード(45)の側面のうち窪んだ隅角部(81〜84)となる領域を適切に設定し、ブッシュ(75)と摺動するブレード(45)の摺動面(46)の長さを確保することで、ブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)から外れないようにしている。具体的には、ブッシュ(75)が内側壁部(43)に最接近した時でも円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)から内側壁部(43)側へ外れることがなく、ブッシュ(75)が外側壁部(42)に最接近した時でも円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)から外側壁部(42)側へ外れることがないように、ブレード(45)の摺動面(46)の長さが設定される。
第7の発明は、上記第2の発明において、上記ブレード(45)の入口側面(45a)と出口側面(45b)とは、内側壁部(43)の外周面及び外側壁部(42)の内周面のぞれぞれと円弧面を介して連続しているものである。
第7の発明では、ブレード(45)の各側面と内側壁部(43)の外周面や外側壁部(42)の内周面との間に円弧面が形成された状態となっている。このため、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)との隅角部(81〜84)における応力集中が緩和される。
第8の発明は、上記第7の発明において、上記ピストン(52)は、円環の一部分が分断されたC字状に形成され、上記ピストン(52)とブレード(45)の間には、ブレード(45)の側面と摺接する平坦摺動面(77)とピストン(52)の端面と摺接する円弧摺動面(76)とが形成されたブッシュ(75)が設けられる一方、上記円弧摺動面(76)の周方向におけるブッシュ(75)の各端面は、平坦摺動面(77)に連続する円弧面状の円弧端面(78)と、該円弧端面(78)と円弧摺動面(76)の間に形成された平坦端面(79)とによって形成されており、上記ブッシュ(75)における円弧摺動面(76)の周方向の各端に位置する平坦端面(79)が互いに平行となっているものである。
第8の発明では、ピストン(52)とブレード(45)の間にブッシュ(75)が設けられる。このブッシュ(75)は、その円弧摺動面(76)がピストン(52)の周方向の端面と摺動し、その平坦摺動面(77)がブレード(45)の側面と摺動する。ブッシュ(75)の各端面(即ち、円弧摺動面(76)と平坦摺動面(77)の間に位置する部分)は、それぞれが円弧端面(78)と平坦端面(79)とによって形成される。ブッシュ(75)の各端面では、平坦摺動面(77)寄りに円弧端面(78)が形成され、円弧摺動面(76)寄りに平坦端面(79)が形成される。また、ブッシュ(75)の一端側に位置する平坦端面(79)と他端側に位置する平坦端面(79)とは、互いに平行になっている。
本発明のシリンダ(40)では、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)の出口側面(45b)とで形成される隅角部(81,82)を窪んだ形状としている。従って、シリンダ(40)の内側壁部(43)や外側壁部(42)とピストン(52)との摺接位置がブレード(45)の出口側面(45b)に最も接近した状態でも、窪んだ隅角部(81,82)とピストン(52)に挟まれた空間が残ることになる。このため、流体室(60,65)内に潤滑油が存在していても、この潤滑油を隅角部(81,82)とピストン(52)に挟まれた空間へ逃がすことができ、流体室(60,65)内に残った潤滑油を圧縮してしまう油圧縮現象を回避できる。その結果、油圧縮現象によってピストン(52)やシリンダ(40)などの部材が損傷するのを回避でき、回転式流体機械(10)の信頼性を向上させることができる。
また、上記第3の発明では、シリンダ(40)の鏡板部(41)に窪み部(91〜94)を形成している。従って、ブレード(45)の出口側面(45b)側に位置する窪み部(91,92)を覆う位置へ移動してきても、これら窪み部(91,92)とピストン(52)に挟まれた空間が残ることになる。このため、流体室(60,65)内に潤滑油が存在していても、この潤滑油を隅角部(81,82)とピストン(52)に挟まれた空間だけでなく、窪み部(91,92)とピストン(52)に挟まれた空間へも逃がすことができる。そして、流体室(60,65)内に比較的多くの潤滑油が存在する時でも、流体室(60,65)内に残った潤滑油を圧縮してしまう油圧縮現象を回避することが可能となる。その結果、油圧縮現象によってピストン(52)やシリンダ(40)などの部材が損傷するのを一層確実に防ぐことができ、回転式流体機械(10)の信頼性を更に向上させることができる。
また、上記第4の発明では、シリンダ(40)を製造する際に、機械加工を施される前の素形材の段階で入口内周側、入口外周側、出口内周側、及び出口外周側の各隅角部(81〜84)を窪んだ形状に成型してしまい、これら隅角部(81〜84)を構成する面を生肌面のままとしている。従って、この発明によれば、シリンダ(40)に窪んだ形状の隅角部(81〜84)を形成するための余分な加工工程が不要となり、シリンダ(40)の製造コストが上昇するのを抑えることができる。
ここで、内側壁部(43)と外側壁部(42)とブレード(45)とが一体となったシリンダ(40)を製造する場合には、粉末冶金、鋳造、鍛造などの加工法で成型された素形材に切削等の機械加工を施してゆくことになる。その場合、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)とで形成される隅角部は、回転工具の軌跡に添った円弧面となる。この円弧面となった隅角部の曲率半径が大きいと、その隅角部がブッシュ(75)と干渉し、回転式流体機械(10)が円滑に動作しなくなるおそれがある。その対策としては隅角部を形成する円弧面の曲率半径を小さくすることが考えられるが、そのためには出来る限り細径の回転工具を用いる必要がある。
ところが、回転工具は細径になるほど剛性が低くなるため、機械加工時の回転工具の送り速度を低くしなければない。このため、隅角部を加工するときに細径の回転工具を使うと、その分だけシリンダ(40)の加工に要する時間が増加し、シリンダ(40)の製造コストの上昇を招いていた。
これに対し、上記第4の発明では、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)とで形成される隅角部(81〜84)が奥側に凹んだ形状となっているため、これら隅角部(81〜84)が回転式流体機械(10)の運転中にブッシュ(75)と干渉することはない。また、機械加工を施される前の素形材の状態で各隅角部(81〜84)は奥側へ凹んだ形状に形成されており、その段階で隅角部(81〜84)は既にブッシュ(75)と干渉しない形状となっているため、隅角部(81〜84)に機械加工を施す必要は無いことになる。従って、この第4の発明によれば、比較的大径の回転工具を使ってシリンダ(40)の仕上げ加工を行うことができ、シリンダ(40)の製造コストを引き下げることが可能となる。
上記第5の発明によれば、内側壁部(43)、外側壁部(42)、及びブレード(45)と一体の鏡板部(41)がシリンダ(40)に設けられている場合であっても、上記第4の発明と同様の効果を得ることができる。
つまり、この第5の発明では、シリンダ(40)を製造する際に、機械加工を施される前の素形材の段階で各窪み部(91〜94)を凹んだ形状に成型してしまい、鏡板部(41)の前面のうち窪み部(91〜94)を構成する部分を生肌面のままとしている。従って、この発明によれば、シリンダ(40)の鏡板部(41)に窪んだ形状の窪み部(91〜94)を形成するための余分な加工工程が不要となり、シリンダ(40)の製造コストが上昇するのを抑えることができる。
また、鏡板部(41)の前面を機械加工で仕上げる場合も、回転工具が用いられる。このため、太い回転工具を使うと鏡板部(41)の前面のうち隅角部(81〜84)に隣接する部分を切削できなくなる一方、細い回転工具を使うと加工時間の延長を招くおそれがある。これに対し、第5の発明では、鏡板部(41)の前面のうち隅角部(81〜84)に隣接する部分が奥側へ窪んだ窪み部(91〜94)となっており、これら窪み部(91〜94)が回転式流体機械(10)の運転中にブッシュ(75)と干渉することはない。また、機械加工を施される前の素形材の状態で各窪み部(91〜94)は奥側へ凹んだ形状に形成されており、その段階で窪み部(91〜94)は既にブッシュ(75)と干渉しない形状となっているため、窪み部(91〜94)に機械加工を施す必要は無いことになる。従って、この第5の発明によれば、比較的大径の回転工具を使ってシリンダ(40)の鏡板部(41)に仕上げ加工を施すことができ、シリンダ(40)の製造コストを引き下げることが可能となる。
ここで、第6の発明のシリンダ(40)では、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)とによって形成される隅角部(81〜84)が窪んだ形状となっている。このため、ブッシュ(75)が内側壁部(43)や外側壁部(42)に最も近付いた状態では、平坦摺動面(77)の一部がブレード(45)の摺動面(46)から外れて隅角部(81〜84)の上方へ突き出た状態となる。そして、ブッシュ(75)が内側壁部(43)に最接近した時に円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)よりも更に内側壁部(43)寄りに位置したり、ブッシュ(75)が外側壁部(42)に最接近した時に円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)よりも更に外側壁部(42)寄りに位置すると、窪んだ隅角部(81〜84)へブッシュ(75)が倒れ込んでしまい、ブッシュ(75)が引っ掛かって損傷するおそれがある。
これに対し、第6の発明では、ブッシュ(75)がどの位置にあっても円弧摺動面(76)の曲率中心がブレード(45)の摺動面(46)から外れることがないように、ブレード(45)の摺動面(46)の長さを確保している。従って、この発明によれば、凹状に窪んだ隅角部(81〜84)にブッシュ(75)が倒れ込んで損傷するを回避でき、回転式流体機械(10)の信頼性を確保することができる。
また、上記第7の発明では、内側壁部(43)側や外側壁部(42)側に位置するブレード(45)の根元部分に円弧面を形成している。従って、この発明によれば、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)との隅角部(81〜84)における応力集中を緩和することができる。
また、上記第8の発明では、ブッシュ(75)の各端部の平坦摺動面(77)寄りに円弧端面(78)を形成している。つまり、ブッシュ(75)の各端部では、ブレード(45)と摺動する平坦摺動面(77)に近い側が円弧面となっている。ブッシュ(75)の端部のうち平坦摺動面(77)寄りの部分は、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)とで形成される隅角部(81〜84)に対面する。このため、この部分を円弧面状に形成すれば、ブッシュ(75)の端部とシリンダ(40)の干渉を回避した上で、ブレード(45)の側面と内側壁部(43)の外周面や外側壁部(42)の内周面とを繋ぐ円弧面の曲率半径を出来るだけ大きくすることができる。従って、この発明によれば、内側壁部(43)や外側壁部(42)とブレード(45)との境界付近における応力集中を確実に緩和することができる。
更に、この第8の発明では、ブッシュ(75)の各端部に平坦端面(79)を形成し、各平坦端面(79)を互いに平行にしている。このため、ブッシュ(75)を加工する際の基準面として平坦端面(79)を利用することができ、ブッシュ(75)の加工精度を容易に確保することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、冷凍機の冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するためのものであって、本発明に係る回転式流体機械を構成している。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機(10)は、いわゆる全密閉型に構成されている。この圧縮機(10)は、縦長の密閉容器状に形成されたケーシング(11)を備えている。このケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された円筒部(12)と、椀状に形成されて円筒部(12)の両端を塞ぐ一対の端板部(13)とによって構成されている。上側の端板部(13)には、該端板部(13)を貫通する吐出管(14)が設けられている。円筒部(12)には、該円筒部(12)を貫通する吸入管(15)が設けられている。
ケーシング(11)の内部には、下から上へ向かって順に、圧縮機構(30)と電動機(20)とが配置されている。また、ケーシング(11)の内部には、上下方向に延びるクランク軸(25)が設けられている。圧縮機構(30)と電動機(20)は、クランク軸(25)を介して連結されている。本実施形態の圧縮機(10)は、いわゆる高圧ドーム型となっている。つまり、圧縮機構(30)で圧縮された冷媒は、ケーシング(11)の内部空間へ吐出され、その後に吐出管(14)を通ってケーシング(11)から送り出される。
クランク軸(25)は、主軸部(26)と偏心部(27)とを備えている。偏心部(27)は、クランク軸(25)の下端寄りの位置に設けられ、主軸部(26)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(27)は、その軸心が主軸部(26)の軸心から所定量だけ偏心している。クランク軸(25)の内部には、図示しないが、クランク軸(25)の下端から上方へ延びる給油通路が形成されている。この給油通路の下端部は、いわゆる遠心ポンプを構成している。ケーシング(11)の底に溜まった潤滑油は、この給油通路を通って圧縮機構(30)へ供給される。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の円筒部(12)の内壁に固定されている。ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置されてクランク軸(25)の主軸部(26)と連結されている。
圧縮機構(30)は、フロントヘッド(35)と、リアヘッド(50)と、シリンダ(40)とを備えている。この圧縮機構(30)では、フロントヘッド(35)とリアヘッド(50)が上下に重なって設けられ、フロントヘッド(35)とリアヘッド(50)で囲まれた空間にシリンダ(40)が収容されている。
フロントヘッド(35)は、平板部(36)と周縁部(38)と軸受部(37)とを備え、支持部材を構成している。平板部(36)は、厚肉の円板状に形成されており、その外径がケーシング(11)の内径とほぼ等しくなっている。この平板部(36)は、溶接等によってケーシング(11)の円筒部(12)に固定されている。また、クランク軸(25)の主軸部(26)は、平板部(36)の中央部を貫通している。周縁部(38)は、平板部(36)の周縁付近に連続する短い円筒状に形成されており、平板部(36)の前面(図1における下面)から下方へ突設されている。周縁部(38)には該周縁部(38)を径方向へ貫通する吸入ポート(39)が形成されており、この吸入ポート(39)に吸入管(15)が挿入されている。軸受部(37)は、主軸部(26)に沿って延びる円筒状に形成され、平板部(36)の背面(図1における上面)から上方へ突設されている。この軸受部(37)は、主軸部(26)を支持する滑り軸受を構成している。
リアヘッド(50)は、鏡板部(51)とピストン(52)とを備えている。鏡板部(51)は、厚肉の円板状に形成されており、その外径がケーシング(11)の内径よりもやや小さくなっている。この鏡板部(51)は、フロントヘッド(35)にボルト等で連結されており、その前面(図1における上面)にフロントヘッド(35)の周縁部(38)が当接している。また、クランク軸(25)の主軸部(26)が鏡板部(51)の中央部を貫通しており、この鏡板部(51)は、主軸部(26)を支持する滑り軸受を構成している。ピストン(52)は、鏡板部(51)と一体に形成されており、鏡板部(51)の前面から突出している。このピストン(52)は、比較的短い円筒の一部分を切除したような形状となっており、平面視でCの字形状となっている。ピストン(52)の詳細については後述する。
シリンダ(40)は、鏡板部(41)と、外側壁部である外側シリンダ部(42)と、内側壁部である内側シリンダ部(43)と、ブレード(45)とを備えている。このシリンダ(40)は、フロントヘッド(35)の周縁部(38)の内側に形成された空間に配置されている。フロントヘッド(35)のの周縁部(38)の内周面とシリンダ(40)の外周面との間には、空間が形成されている。この空間は、吸入ポート(39)と連通しており、吸入空間(57)を構成している。
鏡板部(41)は、径方向の幅がやや広いドーナツ型で厚肉の平板状に形成されている。鏡板部(41)は、図1における下面が前面となり、同図における上面が背面となっている。
図2にも示すように、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)は、それぞれがやや厚肉で比較的短い円筒状に形成されている。外側シリンダ部(42)は、鏡板部(41)の前面の外周部分に突設されており、その外周面が鏡板部(41)の外周面に連続している。内側シリンダ部(43)は、鏡板部(41)の前面の内周部分に突設されており、その内周面が鏡板部(41)の内周面に連続している。
外側シリンダ部(42)の内径は内側シリンダ部(43)の外径よりも大きくなっており、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の間にシリンダ室(70)が形成されている。このシリンダ室(70)は、横断面(即ち、シリンダ(40)の軸方向と直交する断面、あるいはシリンダ(40)の鏡板部(41)と平行な断面)の形状が環状となっている。鏡板部(41)の前面は、このシリンダ室(70)に面している。また、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の先端面(図1における下端面)は、共にリアヘッド(50)の鏡板部(51)と摺接している。
ブレード(45)は、シリンダ室(70)をその径方向へ横断するように配置されている。具体的に、ブレード(45)は、外側シリンダ部(42)の内周面から内側シリンダ部(43)の外周面に亘ってシリンダ(40)の径方向へ延びる平板状に形成され、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)と一体になっている。また、ブレード(45)は、鏡板部(41)の前面から突出した状態となっており、鏡板部(41)とも一体になっている。
シリンダ(40)では、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)とブレード(45)とで形成される隅角部(81〜84)が凹状に窪んだ形状となっている。また、シリンダ(40)の鏡板部(41)では、これら隅角部(81〜84)に隣接する部分が凹状に窪んだ窪み部(91〜94)となっている。シリンダ(40)の隅角部(81〜84)と窪み部(91〜94)については後述する。
クランク軸(25)の偏心部(27)は、シリンダ(40)を貫通している。偏心部(27)の外周面は、鏡板部(41)及び内側シリンダ部(43)の内周面と摺接している。偏心部(27)に係合するシリンダ(40)は、クランク軸(25)の回転に伴って偏心回転運動を行う。
上述したように、ピストン(52)は、平面視でCの字形状となっている(図2を参照)。ピストン(52)は、その外径が外側シリンダ部(42)の内径よりも小さく、その内径が内側シリンダ部(43)の外径よりも大きくなっている。このピストン(52)は、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の間に形成されたシリンダ室(70)へ図1の下方から挿入された状態となっている。シリンダ室(70)は、ピストン(52)の外側と内側に区画されており、ピストン(52)の外側が外側流体室(60)となり、ピストン(52)の内側が内側流体室(65)となっている。
ピストン(52)は、その軸心がクランク軸(25)の主軸部(26)の軸心と一致するように配置されている。このピストン(52)は、その外周面が外側シリンダ部(42)の内周面と1箇所で摺接すると共に、その内周面が内側シリンダ部(43)の外周面と1箇所で摺接している。ピストン(52)と外側シリンダ部(42)の摺接箇所は、ピストン(52)と内側シリンダ部(43)の摺接箇所に対し、ピストン(52)の軸心を挟んだ反対側、即ち位相が180°ずれた箇所に位置している。
また、ピストン(52)は、その分断された箇所をブレード(45)が貫通するように配置されている(図2を参照)。外側流体室(60)と内側流体室(65)は、ブレード(45)によってそれぞれが高圧側の高圧室(61,66)と低圧側の低圧室(62,67)とに区画されている。
ピストン(52)の周方向の端面と、ブレード(45)の側面(図2における左右の側面)との隙間には、一対のブッシュ(75)が挿入されている。つまり、ブッシュ(75)は、図2におけるブレード(45)の左右に1つずつ配置されている。
図4にも示すように、ブッシュ(75)は、外側面が円弧面に形成されて内側面が平面に形成された小片である。ブッシュ(75)では、円弧面状の外側面が円弧摺動面(76)となり、平面状の内側面が平坦摺動面(77)となっている。また、ブッシュ(75)における円弧摺動面(76)の周方向の各端部には、円弧端面(78)と平坦端面(79)とが形成されている。平坦端面(79)は、円弧摺動面(76)に連続して形成されている。ブッシュ(75)の各端部に1つずつ形成された平坦端面(79)は、互いに平行となっている。一方、円弧端面(78)は、平坦端面(79)と平坦摺動面(77)を繋ぐように両者に連続して形成されている。
ピストン(52)の周方向の端面は円弧面となっており、このピストン(52)の端面がブッシュ(75)の円弧摺動面(76)と摺動する。一方、ブッシュ(75)の平坦摺動面(77)は、ブレード(45)の側面と摺動する。また、図5及び図6に示すように、ブレード(45)の両側に配置された一対のブッシュ(75)は、それぞれの円弧摺動面(76)の曲率中心が互いに一致するように配置されている。このブッシュ(75)により、ブレード(45)がピストン(52)に対して回動自在で且つ進退自在に支持される。なお、図5及び図6では、各ブッシュ(75)における円弧摺動面(76)の曲率半径が互いに等しくなっているが、各ブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心が互いに一致してさえいれば、各ブッシュ(75)における円弧摺動面(76)の曲率半径が相違していてもよい。
外側シリンダ部(42)には、貫通孔(44)が形成されている(図2を参照)。貫通孔(44)は、図2におけるブレード(45)の右側近傍に形成され、外側シリンダ部(42)を径方向へ貫通している。この貫通孔(44)は、外側流体室(60)の低圧室(62)を吸入空間(57)と連通させている。また、ピストン(52)には、貫通孔(53)が形成されている。貫通孔(53)は、図2におけるブレード(45)の右側近傍に形成され、ピストン(52)を径方向へ貫通している。この貫通孔(53)は、内側流体室(65)の低圧室(67)を外側流体室(60)の低圧室(62)と連通させている。
リアヘッド(50)の鏡板部(51)には、外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)とが形成されている。外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)は、それぞれが鏡板部(51)を厚み方向へ貫通している。鏡板部(51)の前面において、外側吐出ポート(54)は、ピストン(52)の外周寄りの位置で且つ図2におけるブレード(45)の左側に隣接する位置に開口している。また、内側吐出ポート(55)は、ピストン(52)の内周寄りの位置で且つ図2におけるブレード(45)の左側に隣接する位置に開口している。そして、外側吐出ポート(54)は外側流体室(60)の高圧室(61)に連通し、内側吐出ポート(55)は内側流体室(65)の高圧室(66)に連通している。また、外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)は、図外の吐出弁によって開閉される。
リアヘッド(50)の下側には、マフラー(31)が取り付けられている。このマフラー(31)は、リアヘッド(50)を下側から覆うように設けられ、リアヘッド(50)との間に吐出空間(32)を形成している。また、フロントヘッド(35)とリアヘッド(50)との外縁部には、吐出空間(32)をフロントヘッド(35)よりも上側の空間に接続する接続通路(33)が形成されている。
−シリンダの詳細構造−
図5,図6に示すように、シリンダ(40)において、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)とブレード(45)とで形成される4つ隅角部(81〜84)は、それぞれ凹状に窪んだ形状となっている。この点について説明する。
ブレード(45)では、高圧室(61,66)に臨む側面が出口側面(45b)となり、低圧室(62,67)に臨む側面が入口側面(45a)となっている。そして、シリンダ(40)では、ブレード(45)の出口側面(45b)から外側シリンダ部(42)の内周面に亘る出口外周側の隅角部が第1隅角部(81)を、ブレード(45)の出口側面(45b)から内側シリンダ部(43)の外周面に亘る出口内周側の隅角部が第2隅角部(82)をそれぞれ構成している。また、シリンダ(40)では、ブレード(45)の入口側面(45a)から外側シリンダ部(42)の内周面に亘る入口外周側の隅角部が第3隅角部(83)を、ブレード(45)の入口側面(45a)から内側シリンダ部(43)の外周面に亘る入口内周側の隅角部が第4隅角部(84)をそれぞれ構成している。
シリンダ(40)では、外側シリンダ部(42)や内側シリンダ部(43)に繋がるブレード(45)の根元部分に円弧面が形成されている。つまり、第1隅角部(81)ではブレード(45)の出口側面(45b)と外側シリンダ部(42)の内周面が円弧面を介して連続し、第2隅角部(82)ではブレード(45)の出口側面(45b)と内側シリンダ部(43)の外周面が円弧面を介して連続し、第3隅角部(83)ではブレード(45)の入口側面(45a)と外側シリンダ部(42)の内周面が円弧面を介して連続し、第4隅角部(84)ではブレード(45)の入口側面(45a)と内側シリンダ部(43)の外周面が円弧面を介して連続している。
ブレード(45)では、入口側面(45a)のうち第1隅角部(81)及び第2隅角部(82)を除いた部分と、出口側面(45b)のうち第3隅角部(83)及び第4隅角部(84)を除いた部分とが、ブッシュ(75)の平坦摺動面(77)と摺動する摺動面(46)となっている。外側シリンダ部(42)では、内周面のうち第1隅角部(81)及び第3隅角部(83)を除いた部分が、ピストン(52)の外周面と摺動する摺動面(47)となっている。内側シリンダ部(43)では、外周面のうち第2隅角部(82)及び第4隅角部(84)を除いた部分が、ピストン(52)の内周面と摺動する摺動面(48)となっている。
このように、第1隅角部(81)及び第3隅角部(83)は、ブレード(45)の摺動面(46)と外側シリンダ部(42)の摺動面(47)から一段低くなっている。また、第2隅角部(82)及び第4隅角部(84)は、ブレード(45)の摺動面(46)と内側シリンダ部(43)の摺動面(48)から一段低くなっている。
ブレード(45)の摺動面(46)は、シリンダ室(70)の径方向の長さが、ブレード(45)の移動距離よりも長くなっている。
具体的に、この摺動面(46)の外側シリンダ部(42)側の端部は、ブッシュ(75)が最も外側シリンダ部(42)寄りに位置する状態での円弧摺動面(76)の曲率中心Obよりも、更に外側(即ち、外側シリンダ部(42)側)に位置している。この状態における円弧摺動面(76)の曲率中心Obと摺動面(46)の端部との距離をL1とする(図5を参照)。また、摺動面(46)の内側シリンダ部(43)側の端部は、ブッシュ(75)が最も内側シリンダ部(43)寄りに位置する状態での円弧摺動面(76)の曲率中心Obよりも、更に内側(即ち、内側シリンダ部(43)側)に位置している。この状態における円弧摺動面(76)の曲率中心Obと摺動面(46)の端部との距離をL2とする(図6を参照)。
ここで、ブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心Obからブレード(45)の摺動面(46)へ下ろした垂線の長さ、即ち曲率中心Obから摺動面(46)までの距離をL0とする。図5及び図6では、距離L1及び距離L2が距離L0よりも短く設定されているが、ブッシュ(75)をより一層スムーズに移動させるためには、これら距離L1及び距離L2を距離L0以上に設定するのが望ましい。
シリンダ(40)の鏡板部(41)には、4つの窪み部(91〜94)が形成されている。鏡板部(41)の前面は、第1隅角部(81)に隣接する部分が第1窪み部(91)を、第2隅角部(82)に隣接する部分が第2窪み部(92)を、第3隅角部(83)に隣接する部分が第3窪み部(93)を、第4隅角部(84)に隣接する部分が第4窪み部(94)をそれぞれ構成している。より詳細に説明すると、鏡板部(41)の前面は、第1隅角部(81)の両端を結ぶ直線よりも奥側の領域が第1窪み部(91)を、第2隅角部(82)の両端を結ぶ直線よりも奥側の領域が第2窪み部(92)を、第3隅角部(83)の両端を結ぶ直線よりも奥側の領域が第3窪み部(93)を、第4隅角部(84)の両端を結ぶ直線よりも奥側の領域が第4窪み部(94)をそれぞれ構成している。
鏡板部(41)の前面のうち、これら4つの窪み部(91〜94)以外の部分は、ピストン(52)の先端面と摺動する摺動面(49)を構成している。そして、シリンダ(40)の鏡板部(41)に形成された窪み部(91〜94)は、ピストン(52)の先端面と摺動する摺動面(49)から一段低くなっている。
−シリンダの加工−
シリンダ(40)は、いわゆるニアネットシェイプ加工によって製造される。つまり、シリンダ(40)は、最終的なシリンダ(40)に近い形状の素形材を鋳造によって成型し、その素形材のうち摺動面(46,47,48,49)に相当する部分にエンドミルで切削仕上げ加工を施すことによって製造される。窪んだ形状の隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)は、鋳造工程で成型される。従って、シリンダ(40)のうち隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)を構成する部分の表面は、鋳肌のままとなっている。
ここで、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)とブレード(45)とで形成される隅角部が窪んでいない従来のシリンダをエンドミルで加工する場合、これら隅角部は、回転工具の軌跡に添った円弧面となる。この円弧面となった隅角部の曲率半径が大きいと、その隅角部がブッシュ(75)と干渉し、圧縮機(10)が円滑に動作しなくなるおそれがある。その対策としては隅角部を形成する円弧面の曲率半径を小さくすることが考えられるが、そのためには出来る限り細径の回転工具を用いる必要がある。
ところが、回転工具は細径になるほど剛性が低くなるため、切削加工時の回転工具の送り速度を低くしなければならない。そこで、従来は、図7(A)に示すように、隅角部以外の部分を切削加工する際には大径のエンドミル(101)を用いる一方、隅角部を切削加工する際には細径のエンドミル(102)に取り替えることが行われていた。そして、細径のエンドミル(102)を使った加工に時間を要するため、シリンダ(40)の加工に要する時間がかかって製造コストの上昇を招いていた。
これに対し、本実施形態のシリンダ(40)では、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)とブレード(45)とで形成される隅角部(81〜84)が奥側に凹んだ形状となっている。また、このシリンダ(40)では、鏡板部(41)のうち隅角部(81〜84)に隣接する部分が窪み部(91〜94)となっている。そして、シリンダ(40)の隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)は、切削加工を施さなくても圧縮機(10)の運転中にブッシュ(75)と干渉しない状態になっている。このため、本実施形態のシリンダ(40)を加工する際には、図7(B)に示すように、切削加工の途中でエンドミルを取り替える必要が無く、比較的大径のエンドミル(101)だけを用いて全ての摺動面(46,47,48,49)に仕上げ加工を施すことができる。
なお、ここでは素形材を成型する加工法として鋳造を用いているが、この加工法は鋳造に限定されるものではなく、例えば粉末冶金(焼結)や鍛造などの加工法で素形材を成型してもよい。
これらの加工法は、金型等の「型」を用いて素材を成型するものである。これらの加工法で用いられる「型」には、成型したものが「型」から抜け易くなるように「抜け勾配」が設けられる。一方、上記シリンダ(40)を製造する際には、切削加工を施される前の素形材の段階で隅角部(81〜84)が窪んだ形状に形成される。つまり、シリンダ(40)を製造する際に用いられる「型」では、隅角部(81〜84)を成型する部分に「抜け勾配」が設けられる。従って、シリンダ(40)のうち隅角部(81〜84)を構成する面は、外側シリンダ部(42)、内側シリンダ部(43)、及びブレード(45)の基端側(鏡板部(41)側)から先端側へ向かって傾斜した傾斜面となる。
−運転動作−
上述したように、上記圧縮機(10)は、冷凍機の冷媒回路に設けられている。そして、この圧縮機(10)は、蒸発器で蒸発した冷媒を吸入して圧縮し、圧縮されて高圧となったガス冷媒を凝縮器へ向けて吐出する。
ここでは、圧縮機(10)が冷媒を圧縮する動作について、図3を参照しながら説明する。電動機(20)へ通電すると、クランク軸(25)によってシリンダ(40)が駆動される。シリンダ(40)は、図3における右回りへ公転する。
先ず、内側流体室(65)へ冷媒を吸入して圧縮する工程について説明する。
図3(A)の状態からシリンダ(40)が僅かに移動すると、内側流体室(65)の低圧室(67)へ冷媒が吸入され始める。吸入ポート(39)へ流入した冷媒は、吸入空間(57)、外側シリンダ部(42)の貫通孔(44)、外側流体室(60)、ピストン(52)の貫通孔(53)を順に通過して低圧室(67)へ流入する。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて低圧室(67)の容積が拡大してゆき(同図の(B)(C)(D)を参照)、同図(A)の状態に戻ると内側流体室(65)への冷媒の吸入が終了する。
シリンダ(40)が更に公転し、内側シリンダ部(43)とピストン(52)の摺接箇所がピストン(52)の貫通孔(53)を過ぎると、内側流体室(65)の高圧室(66)内で冷媒が圧縮され始める。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて高圧室(66)の容積が縮小してゆき(同図の(B)(C)(D)を参照)、高圧室(66)内の冷媒が圧縮されてゆく。その過程で高圧室(66)の内圧がある程度高くなると、吐出弁が開いて内側吐出ポート(55)が開口状態となり、高圧室(66)の冷媒が内側吐出ポート(55)を通って吐出空間(32)へ吐出されてゆく。同図(A)の状態に戻ると、高圧室(66)からの冷媒の吐出が終了する。
次に、外側流体室(60)へ冷媒を吸入して圧縮する工程について説明する。
図3(C)の状態からシリンダ(40)が僅かに移動すると、外側流体室(60)の低圧室(62)へ冷媒が吸入され始める。吸入ポート(39)へ流入した冷媒は、吸入空間(57)、外側シリンダ部(42)の貫通孔(44)を順に通過して低圧室(62)へ流入する。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて低圧室(62)の容積が拡大してゆき(同図の(D)(A)(B)を参照)、同図(C)の状態に戻ると外側流体室(60)への冷媒の吸入が終了する。
シリンダ(40)が更に公転し、外側シリンダ部(42)とピストン(52)の摺接箇所がピストン(52)の貫通孔(53)を過ぎると、外側流体室(60)の高圧室(61)内で冷媒が圧縮され始める。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて高圧室(61)の容積が縮小してゆき(同図の(D)(A)(B)を参照)、高圧室(61)内の冷媒が圧縮されてゆく。その過程で高圧室(61)の内圧がある程度高くなると、吐出弁が開いて外側吐出ポート(54)が開口状態となり、高圧室(61)の冷媒が外側吐出ポート(54)を通って吐出空間(32)へ吐出されてゆく。同図(C)の状態に戻ると、高圧室(61)からの冷媒の吐出が終了する。
内側流体室(65)や外側流体室(60)から吐出空間(32)へ吐出された冷媒は、接続通路(33)を通ってフロントヘッド(35)の上側の空間へ流入し、その後に吐出管(14)を通ってケーシング(11)の外部へ吐出される。
ここで、内側流体室(65)の高圧室(66)から冷媒を吐出する過程において、内側吐出ポート(55)の開口位置によっては、図3(A)の状態に戻る前に内側シリンダ部(43)とピストン(52)の摺接箇所が内側吐出ポート(55)を通り過ぎる場合がある。内側シリンダ部(43)とピストン(52)の摺接箇所が内側吐出ポート(55)を通り過ぎてから図3(A)の状態に戻るまでの間は、高圧室(66)が閉空間となる。
同様に、外側流体室(60)の高圧室(61)から冷媒を吐出する過程において、外側吐出ポート(54)の開口位置によっては、図3(C)の状態に戻る前に外側シリンダ部(42)とピストン(52)の摺接箇所が外側吐出ポート(54)を通り過ぎる場合がある。外側シリンダ部(42)とピストン(52)の摺接箇所が外側吐出ポート(54)を通り過ぎてから図3(C)の状態に戻るまでの間は、高圧室(61)が閉空間となる。
一方、シリンダ(40)が移動するにつれて容積が小さくなる高圧室(61,66)には、非圧縮性の冷凍機油が残存している場合が殆どである。このため、高圧室(61,66)に閉じ込められた冷凍機油の逃げ場が無いと、いわゆる油圧縮の状態に陥り、シリンダ(40)等の破損を招くおそれがある。
これに対し、本実施形態のシリンダ(40)では、ブレード(45)の根元の出口側面(45b)側に位置する第1,第2隅角部(81,82)が窪んだ形状となっており、更には鏡板部(41)のうち第1,第2隅角部(81,82)に隣接する部分に窪み部(91,92)が形成されている。このため、内側流体室(65)の高圧室(66)に冷凍機油が閉じ込められた場合は、この冷凍機油を第2隅角部(82)や第2窪み部(92)で形成された空間へ逃がすことができる。また、外側流体室(60)の高圧室(61)に冷凍機油が閉じ込められた場合は、この冷凍機油を第1隅角部(81)や第1窪み部(91)で形成された空間へ逃がすことができる。従って、本実施形態の圧縮機(10)では、いわゆる油圧縮が未然に防止され、油圧縮に起因するシリンダ(40)等の損傷が回避される。
ここで、シリンダ(40)のうち隅角部(81〜84)を構成する面は、上述したように、外側シリンダ部(42)、内側シリンダ部(43)、及びブレード(45)の基端側(鏡板部(41)側)から先端側へ向かって傾斜した傾斜面となっている。つまり、シリンダ(40)のうち隅角部(81〜84)を構成する面とピストン(52)との間の隙間は、外側シリンダ部(42)や内側シリンダ部(43)の先端側(図1における下側)へ向かうに従って広くなってゆく。このため、高圧室(61,66)に閉じ込められた冷凍機油は、第1,第2隅角部(81,82)で形成された空間へ流れ込むだけでなく、外側シリンダ部(42)や内側シリンダ部(43)の先端側へ向かって押し出されてゆき、これら隅角部(81,82)で形成された空間から冷凍機油を積極的に排出されることになる。
−実施形態の効果−
本実施形態のシリンダ(40)では、ブレード(45)の根元に位置する隅角部(81〜84)が奥側へ凹んだ形状となり、更には、鏡板部(41)のうち隅角部(81〜84)に隣接する部分が奥側へ凹んだ窪み部(91〜94)となっている。そして、内側流体室(65)の高圧室(66)や外側流体室(60)の高圧室(61)から冷媒を吐出する過程では、これら高圧室(61,66)に閉じ込められた冷凍機油を第1,第2隅角部(81,82)や第1,第2窪み部(91,92)へ逃がすことができる。従って、本実施形態によれば、高圧室(61,66)内に残った冷凍機油を圧縮してしまう油圧縮を回避することができ、油圧縮に起因するシリンダ(40)等の破損を予防して圧縮機(10)の信頼性を向上させることができる。
また、本実施形態では、シリンダ(40)を製造する際に、第1〜第4の各隅角部(81〜84)や第1〜第4の各窪み部(91〜94)を鋳造の段階で窪んだ形状に成型してしまい、これら隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)を構成する面を鋳肌のままとしている。従って、本実施形態によれば、シリンダ(40)に隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)を形成するための余分な加工工程が不要となり、シリンダ(40)の製造コストの上昇を抑制することができる。
また、本実施形態のシリンダ(40)を製造する過程では、鋳造工程が完了して切削加工が施される前の段階で、ブレード(45)の根元に位置する隅角部(81〜84)が既に窪んだ形状となり、更には、鏡板部(41)のうち隅角部(81〜84)に隣接する部分が既に窪んだ形状の窪み部(91〜94)となっている。つまり、このシリンダ(40)において、隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)は、切削加工を施す前から既にブッシュ(75)やシリンダ(40)と干渉しない形状となっている。このため、本実施形態のシリンダ(40)に切削仕上げ加工を施す際には、隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)に相当する部分をエンドミルで切削する必要が無くなり、比較的大径のエンドミル(101)だけを用いて全ての摺動面(46,47,48,49)に仕上げ加工を施すことが可能となる。
つまり、従来は、シリンダ(40)の隅角部(81〜84)や窪み部(91〜94)に相当する部分を切削するための小径のエンドミル(102)と、その他の部分を切削するための大径のエンドミル(101)とを使い分ける必要があったのに対し、本実施形態では大径のエンドミル(101)だけを使ってシリンダ(40)に切削加工を施すことができる。従って、本実施形態によれば、シリンダ(40)の切削加工に要する時間を短縮することができ、シリンダ(40)の製造コストを削減することができる。
ここで、本実施形態のシリンダ(40)では、ブレード(45)の根元に位置する隅角部(81〜84)が窪んだ形状となっており、ブレード(45)の側面のうち隅角部(81〜84)以外の部分がブッシュ(75)と摺動する摺動面(46)になっている。このため、ブッシュ(75)が外側シリンダ部(42)に最接近した状態(図5に示す状態)や、ブッシュ(75)が内側シリンダ部(43)に最接近した状態(図6に示す状態)において、ブッシュ(75)の平坦摺動面(77)は、その一部分がブレード(45)の摺動面(46)から外れて隅角部(81〜84)の上方へ突き出た状態になる。仮に、図5に示す状態でブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心Obがブレード(45)の摺動面(46)よりも更に外側に位置したり、図6に示す状態でブッシュ(75)の円弧摺動面(76)の曲率中心Obがブレード(45)の摺動面(46)よりも更に内側に位置していると、窪んだ隅角部(81〜84)へブッシュ(75)が落ち込み、隅角部(81〜84)の端部に形成された段差にブッシュ(75)の平坦摺動面(77)が引っ掛かって、ブッシュ(75)の損傷を招くおそれがある。
これに対し、本実施形態では、ブッシュ(75)の位置にかかわらず円弧摺動面(76)の曲率中心Obがブレード(45)の摺動面(46)から外れることがないように、ブレード(45)の摺動面(46)の長さを確保している。従って、本実施形態によれば、凹状に窪んだ隅角部(81〜84)にブッシュ(75)が落ち込んで損傷するを回避でき、圧縮機(10)の信頼性を確保することができる。
また、本実施形態のシリンダ(40)では、外側シリンダ部(42)や内側シリンダ部(43)に繋がるブレード(45)の根元部分に円弧面を形成している。このため、本実施形態によれば、シリンダ(40)のブレード(45)の根元部分における応力集中を緩和できる。
また、本実施形態では、ブッシュ(75)の各端部の平坦摺動面(77)寄りに円弧端面(78)を形成している。つまり、ブッシュ(75)の各端部では、ブレード(45)と摺動する平坦摺動面(77)に近い側が円弧面となっている。ブッシュ(75)の端部のうち平坦摺動面(77)寄りの部分は、シリンダ(40)のブレード(45)の根元に位置する隅角部(81〜84)に対面する。このため、この部分を円弧状に形成すれば、ブッシュ(75)の端部とシリンダ(40)の干渉を回避した上で、ブレード(45)の根元部分に形成された円弧面の曲率半径を出来るだけ大きくすることができる。従って、本実施形態によれば、シリンダ(40)のブレード(45)の根元部分における応力集中を確実に緩和することができる。
また、本実施形態では、ブッシュ(75)の各端部に平坦端面(79)を形成し、各平坦端面(79)を互いに平行にしている。このため、ブッシュ(75)を加工する際の基準面として平坦端面(79)を利用することができ、ブッシュ(75)の加工精度を容易に確保することが可能となる。
−実施形態の変形例−
本実施形態の圧縮機(10)では、ピストン(52)を固定してシリンダ(40)を偏心回転させる構造を採っているが、この構造に代えて、シリンダ(40)を固定してピストン(52)を偏心回転させる構造を採用してもよい。つまり、この圧縮機(10)は、ピストン(52)とシリンダ(40)が相対的に偏心回転する構造になってさえいれば、ピストン(52)とシリンダ(40)のどちらを回転させてもよい。
また、本実施形態では、本発明に係る回転式流体機械によって冷凍装置用の圧縮機(10)を構成しているが、本発明に係る回転式流体機械の用途は圧縮機(10)に限定されるものではない。例えば、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられて高圧冷媒から動力を回収する膨張機を、本発明に係る回転式流体機械によって構成してもよい。膨張機を構成する回転式流体機械では、ブレード(45)の側面のうち高圧室(61,66)側に位置する方が入口側面となり、低圧室(62,67)側に位置する方が出口側面となる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。