JP2007160242A - バラスト水製造装置、これを搭載する船舶及びバラスト水の製造方法 - Google Patents

バラスト水製造装置、これを搭載する船舶及びバラスト水の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】微生物の除去が可能であり、海水をろ過膜に長時間通水した後、実質的に有害な薬品を使用せずに、ろ過膜の閉塞を安全な方法で回復させ、且つ安定したバラスト水量を得ることができるバラスト水製造装置、船舶及びブラスト水の製造方法を提供すること。
【解決手段】船舶が停泊する港湾域の海水をろ過膜装置でろ過して、該ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造工程と、該ろ過膜の閉塞物を酵素により洗浄する酵素洗浄工程を有するバラスト水の製造方法、これを実施する装置及び該装置を搭載する船舶。
【選択図】図1

Description

本発明は、船舶の航行時における重心安定のために積載するバラスト水の製造装置、これを搭載する船舶及びバラスト水の製造方法に関する。
原油タンカー、鉱石運搬船、自動車運搬船などは空荷や積載貨物量が少ない状態で航行する場合がある。このときの船舶は船体の浮力を調節するためバラスト水を積載して航行する。例えば、原油タンカーは産油国と消費国を往復している。原油タンカーは消費国から産油国への航行では積荷が無く、消費国や寄港地の海水をバラスト水として積載し、産油国の近海や港湾でバラスト水を排出して原油を積載する。
近年、船舶にて移動、排出されるバラスト水により、本来その海域には生息しないプランクトンや細菌類を含む生物が持ち込まれ、これにより海洋生態系の破壊が生じ、当該海域の住民生活に重大な被害を与え、さらには全世界的な海洋環境の破壊が生じており、深刻な国際問題となっている。このため、バラスト水中の微生物除去を目的として、国際的な規模で各種の方法が検討されている。
バラスト水として汲み込まれる海水中の微生物を除去する方法として、例えば、特開2005−152799号公報には、バラスト水をろ過するフィルタろ過装置と、該フィルタろ過装置のフィルタを高温水により加熱しながら逆洗浄する加熱逆洗装置とを備えた船舶用バラスト水の処理装置が開示されている。これにより、微生物を除去すると共に、逆洗浄時に加熱し、微生物を周密に集めた状態で死滅させることができる。また、海水の微生物を死滅以外の方法で除去する方法として、特開2003−154360号公報には、海水をろ過膜に通すことで海水中の微生物を除去する方法が開示されている。
特開2005−152799号公報(特許請求の範囲) 特開2003−154360号公報(特許請求の範囲)
しかしながら、特開2005−152799号公報の船舶用バラスト水の処理装置で使用されるフィルタろ過装置は、40μm程度の微生物除去に好適なアンスラサイト式ろ過方式のフィルタであるため、大きさが1μm以下の大腸菌群、コレラ菌、腸球菌、大きさが数μmのミジンコの幼生、北太平洋ヒトデの幼生、アジア昆布の幼生、ゼブラ貝の幼生及び毒性藻類等は除去できないという問題がある。
また、特開2003−154360号公報の方法で得られる膜ろ過水は魚介類の洗浄等に使用されるものであって、船舶のバラスト水に使用するものではない。また、例え海水をろ過膜を通してバラスト水を製造したとしても、海水中の固形物をろ過膜で濾し取り、処理水を得るため、長時間使用していると海水中の不純物がろ過膜の表面に付着したり細孔に詰まっていき、処理水を得ることができなくなる。また、海水中の不純物は多種多様であり、長時間使用後のろ過膜に対して、通常行われるようなバブリングや逆洗では閉塞物を除去できないという問題がある。
また、閉塞したろ過膜は、薬品洗浄によって回復することは可能であるが、ろ過膜の薬品洗浄には酸、アルカリ、酸化剤などの劇物、毒物を高濃度で複数種類必要とする場合が多く、特にバラスト水の製造装置においては、船舶に高濃度の危険な薬品を多量に積載するという問題があり、また使用した薬品や残留薬品の廃棄や処理が周辺海域へ悪影響を与える懸念がある。
従って、本発明の目的は、微生物の除去が可能であり、海水をろ過膜に長時間通水した後、実質的に有害な薬品を使用せずに、ろ過膜の閉塞を安全な方法で回復させ、且つ安定したバラスト水量を得ることができるバラスト水製造装置、これを搭載した船舶及びブラスト水の製造方法を提供することにある。
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、(1)海水を微生物ろ過膜に長時間通水すると、微生物が除去された大量のバラスト水が得られるものの、ろ過膜自体が閉塞して使えなくなり、回生処理が必要となること、(2)回生処理として、ろ過膜の二次室から一次室へろ過膜の透過水などの清澄水を圧送して閉塞物を押し出す洗浄(逆洗)や、ろ過膜の一次室から気泡を供給してろ過膜面をバブルするバブリング方法を行っても閉塞物は完全には除去できないこと、(3)除去できない閉塞物は、一次側のろ過膜面に付着した蛋白質や多糖類等の有機物であること、(4)該ろ過膜の閉塞物は、酵素剤で酵素洗浄すれば、閉塞物が酵素により分解して、ろ過膜から除去し易くなること、(5)酵素は低濃度でも有効に作用し、且つ無害であることから、港湾域で使用する場合にも周辺海域への安全が配慮できること等を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明(1)は、船舶が停泊する港湾域の海水をろ過膜装置でろ過して、ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造装置において、ろ過膜へ酵素を断続又は連続で供給する酵素添加手段を備えること特徴とするバラスト水製造装置を提供するものである。
また、本発明(2)は、前記バラスト水製造装置を搭載することを特徴とする船舶を提供するものである。
また、本発明(3)は、船舶が停泊する港湾域の海水をろ過膜装置でろ過して、該ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造工程と、該ろ過膜の閉塞物を酵素により洗浄する酵素洗浄工程を有すること特徴とするバラスト水の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、該ろ過膜の閉塞物は、ろ過面に付着した蛋白質等の有機物等であるため、二次室から一次室へろ過水を供給する逆洗や一次室からろ過膜面に気泡を供給するバブリングでは完全に除去できないものの、ろ過膜に酵素を供給することにより、閉塞物が分解して除去されるため、ろ過膜が回復する。また、バラスト水の製造は、出港前の船舶が停泊中に行われ、航海中はバラスト水製造装置は停止していることが多いことから、この比較的長い航海中の停止期間を利用して、ろ過膜の閉塞物を除去して次ぎのバラスト水の製造に備えることができ効率的である。また、酵素洗浄工程中又は該工程前にバブリング工程を行うか、又は酵素洗浄工程前に逆洗工程を行えば、酵素洗浄工程での閉塞物の除去が一層容易となる。また、酵素洗浄工程後、洗浄水を排出した後にバブリング工程又は逆洗工程を行えば、例え閉塞物の除去残部があったとしても容易に除去できる。また、酵素洗浄を特定の温度、接触時間及び特定のpH条件下で行えば、ろ過膜面の閉塞物の分解除去を促進する。また、ろ過膜として微生物ろ過膜を使用すれば、微生物が除去されたバラスト水が得られ、積荷港の海域の環境を汚染することがない。また、逆洗によりでる排水や酵素洗浄排水を、更に加温して排出すれば、微生物を死滅させて放流でき、航行途中の海域の環境を汚染することがない。
本発明において、船舶が停泊する港湾域の海水としては、特に制限はないが、魚類、プランクトン類、細菌類、その他の海洋性生物のほか、濁度が1〜100度の海水である。本発明において、細菌類とは、大腸菌、コレラ菌、腸球菌などの5μm未満の微小生物を指し、最も小さいもので0.3〜0.5μm程度である。
本発明において、ろ過膜装置としては、特に制限されず、例えば、ろ過膜により原水側の一次室と処理水側の二次室に区画されるハウジングと、該ハウジングの一次室に接続される水供給配管と、該ハウジングの二次室に接続されるろ過水流出配管を備えるものが挙げられる。ろ過膜としては、精密ろ過膜、限外ろ過膜及び逆浸透膜など液体処理に用いられる、様々な微生物ろ過膜が適用可能であり、分画分子量数千程度から分離孔径数μmのろ過膜が好適であり、特に孔径1.0μm以下のろ過膜が好適である。
海水をろ過装置に通す方法としては、特に制限されないが、ろ過膜を組み込んだろ過装置の2基以上を並列配置するようにしてもよい。この場合、一のろ過装置が逆洗工程であっても、他のろ過装置はバラスト水製造工程を実施することができ、多量の膜ろ過水を連続して得ることができる。膜ろ過によりバラスト水を得る際の制御方法としては、特に制限されず、例えばろ過水流量計と原水ポンプとの回転数を制御をする方法、定流量弁を用いる定流量制御及びろ過膜への海水の供給圧力を一定にする定圧制御など、あらゆる制御方法を適用することができる。
ろ過膜への通水方式は内圧型、外圧型などあらゆる通水方式が適用可能であり、クロスフローろ過やデッドエンドろ過などあらゆるろ過方法が適用可能である。また、ろ過膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、スパイラル膜が挙げられる。このうち、中空糸膜が、単位容量当りのろ過面積を最も大とすることができる点で好ましい。
中空糸膜は、中空構造を有し、更に該中空構造を形成する孔に連通して、膜面の該孔に連通する細孔を多数形成したものであり、外圧式と内圧式とがある。本発明において、ろ過膜として精密ろ過膜を用いる場合、中空糸膜の細孔の径としては、0.01〜0.4μm、好ましくは0.01〜0.3μmである。また、限外ろ過膜を用いる場合は、中空糸膜の細孔の径としては、0.002〜0.01μmである。海水中に生息する細菌や幼生等の微生物の大きさは通常数μm、最小のものでも0.3〜0.5μm程度であり、従って、上記細孔径の中空糸膜を使用すれば、海水中のこれらの細菌、幼生等の微生物をほぼ完全に除去することができる。また、膜面に付着した微生物を除去して、そのろ過能力を回復するために逆洗を行うこともあるが、本逆洗とは別に、ろ過中に膜面の外側から気泡でバブリングして膜面に付着した微生物を剥離除去する操作ができる点で外圧式中空糸膜を使用することが好ましい。
精密ろ過膜の素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、セラミック、各種金属などろ過膜に用いられているあらゆる素材が適用可能である。
また、バラスト水製造装置の前処理装置として、流木やごみ、海洋生物を除去するための粗ろ過装置を設置することも可能であり、スクリーンやオートストレーナ、金属フィルタなどが適用可能である。
本発明で用いる酵素としては、ろ過膜面に閉塞した汚染物を効果的に分解除去できるものであれば、特に制限されず、例えばアミラーゼ、プロテアーゼ及びデキストラナーゼが挙げられる。これらの酵素は、海水ろ過に伴うろ過膜の汚染物である蛋白質や多糖類を効果的に除去するという観点から好適である。これらの酵素は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明において、酵素剤とは、上記酵素の1種又は2種以上を含む剤型を言い、酵素単独のものも含まれる。酵素剤は蛋白質や多糖類の分解用として市販されているものが使用できる。本発明において、酵素洗浄で用いる酵素濃度としては、酵素の種類、洗浄温度、洗浄時間、洗浄pH及び汚染度合いにより適宜決定される。また、酵素剤として使用する場合、酵素の種類、酵素含有量、酵素の力価が異なるため一概には決定できないが、概ね、1〜5000μl/l、好ましくは1〜3000μl/lである。
本発明において、酵素添加手段としては、ろ過膜へ酵素を断続又は連続で供給する手段であり、例えば、ハウジングの一次室又は二次室を酵素含有水で満たすものが挙げられる。具体的には、加圧ポンプにより酵素剤又は酵素剤を希釈した水を一次室又は二次室に配管注入する方法、エゼクター又は重力添加により酵素剤又は酵素剤を希釈した水を一次室又は二次室に注入する方法、一次室又は二次室に直接、酵素剤を添加する方法、ろ過膜装置の直前に槽を設けて加温水と酵素剤を攪拌混合した後、一次室又は二次室に送水する方法などが挙げられる。このうち、加圧ポンプにより酵素剤又は酵素剤を希釈した水を一次室又は二次室に配管注入する方法が、水(海水)供給配管を利用でき、設置コストを抑制して、酵素濃度が調整された液を確実にろ過膜へ供給することができる点で好ましい。
酵素剤を希釈した水を一次室又は二次室に配管注入する方法において、酵素を希釈する希釈水としては、特に制限されず、例えば海水、淡水又はその混合水が挙げられる。このうち、海水が、船舶が停泊する港湾域の海水や汲み上げられた海水などをそのまま使用することができる点で好ましい。
本発明のバラスト水製造装置において、酵素含有水を加温する手段としては、特に制限されず、例えば酵素剤貯留槽、酵素剤供給ポンプ、酵素剤供給配管などが挙げられる。また、酵素含有水のpHを調整するpH調整手段としては、特に制限されず、例えば酸性薬剤貯留槽、酸性薬剤供給ポンプ、酸性薬剤供給配管などが挙げられる。
本発明のバラスト水の製造方法において、酵素洗浄工程における洗浄において、洗浄温度は好ましくは30〜75℃、特に好ましくは35〜70℃の範囲であり、pHは好ましくは2.5〜7.5、特に好ましくは3〜7であり、洗浄時間は好ましくは7分以上、特に好ましくは10分以上であることが、洗浄効果が高まる点で好ましい。酵素洗浄温度が30℃未満では、ろ過膜面の閉塞物を分解し難く、閉塞物除去効果が低下する。一方、温水の温度が75℃を超えると、ろ過膜などが熱損傷を受けるようになる。
本発明の船舶は、上記バラスト水製造装置を搭載したものである。バラスト水製造装置の船舶の種類としては、特に制限されず、貨物船、原油タンカー等が挙げられる。船舶が原油タンカーである場合、加温酵素含有水を得る熱源として、ふんだんにある原油の固化防止用の蒸気又は排熱あるいはエンジンの排熱を利用することができ、別途の熱源を設ける必要がなく、エネルギーコストを低減できる。
本発明のバラスト水製造方法は、船舶が停泊する港湾域の海水をろ過装置でろ過して、該ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造工程と、該ろ過膜の閉塞物を酵素で分解除去する酵素洗浄工程を有する。酵素洗浄工程は回生工程の一工程である。回生工程は、酵素洗浄工程の他、ろ過膜の閉塞物を酵素分解処理した洗浄排水又は海水と共に一次側に接続される排水流出配管から排出する排出工程が挙げられる。バラスト水製造工程は、海水中の固形物をろ過膜で濾し取り、処理水を得るため、長時間使用していると海水中の不純物がろ過膜の細孔に詰まっていき、処理水を得ることができなくなる。該ろ過膜の閉塞物は、ろ過面に付着した蛋白質等の有機物であるため、逆洗やバブリングでは完全に除去できないものの、ろ過膜面と酵素を接触させれば、閉塞物が酵素により分解され、ろ過膜から容易に除去でき、ハウジングの一次室から系外へ容易に排出できる。
バラスト水製造工程は、通常港湾に停泊中に行われる。回生工程はバラスト水が全て製造された後に行ってもよく、バラスト水の製造途中にろ過を停止して行ってもよい。この中、バラスト水が全て製造された後に回生工程を行えば、航海中の長い期間を利用して実施することができ、次回のバラスト水の製造に備えることができる。バラスト水の製造途中にろ過を停止して行う場合、回生工程後、再度バラスト水の製造を行う。
本発明のバラスト水製造方法において、酵素洗浄工程途中、又は酵素洗浄工程の前後において、ろ過膜の一次室から気泡を供給してろ過膜面をバブルするバブリング工程を行うことができる。また、酵素洗浄工程の前後において、ろ過膜の二次室からろ過水を供給してろ過膜を逆洗する逆洗工程を行うこともできる。このような前処理を行うことにより、微生物等の汚染物を膜面から除去でき、更にその後実施される酵素洗浄工程におけるろ過膜の閉塞物の除去が一層容易となる。バブリング工程及び逆洗工程を行う順序は特に制限されず、バブリング工程の後に逆洗工程を行ってもよく、逆洗工程の後にバブリング工程を行ってもよく、またバブリング工程と逆洗工程を同時に行ってもよい。また、バラスト水製造工程、バブリング工程及び逆洗工程を1サイクルとして、これを複数サイクル繰り返すことで、ろ過効率は一層向上する。
次に、本発明のバラスト水製造装置の一例を図1を参照して説明する。図1のバラスト水製造装置10は、ろ過膜12により原水側の一次室11と処理水側の二次室(不図示)に区画されるハウジング13を備えるろ過装置1と、酵素剤貯留槽91と、空気貯槽2と、一端がハウジング13の一次室11に接続される海水取水配管(水供給配管)3と、一端がハウジング13の二次室に接続されるろ過水流出配管4と、一端がハウジング13の一次室11の上部に接続されるガス抜き配管5と、一端がハウジング13の一次室11の底部に接続される排水流出配管6と、排水流出配管6と空気貯槽2を接続するバブリング用配管7と、ろ過水流出配管4と空気貯槽2を接続する逆洗用配管8と、酵素剤貯留槽91と海水取水配管3を接続する酵素剤供給配管9を備える。バブリング用配管7と逆洗用配管8は、空気貯槽2側の共有配管78と共有配管78から分岐する分岐配管からそれぞれ形成されている。また、海水取水配管3には、ろ過装置1側から順にバルブ33、熱交換器(加温器)32及びポンプ31が付設され、酵素剤供給配管9には酵素剤供給ポンプ92とバルブ93が付設され、ろ過水流出配管4にはバルブ41が付設され、ガス抜き配管5にはバルブ51が付設され、バブリング用配管7にはバルブ71が付設され、逆洗用配管8にはバルブ81が付設されている。海水取水配管3の他端は装置10の稼動時、海水中に位置し、ろ過水流出配管4の他端はバラスト水製造装置10を搭載する船舶のバラスト室に接続されている。
また、バラスト水製造装置10において、ハウジングの一次室11又は一次室11と二次室を酵素含有水で満たす手段Aは、本例では酵素剤貯留槽91、酵素剤供給ポンプ92、バルブ93、熱交換器32、バルブ33、酵素剤供給配管9及び海水取水配管3から構成される。また、排水流出配管6は、一次室11の海水又は洗浄水を系外へ排出する配管であり、その一部はバブリング用配管を兼ねるものである。バブリング手段Bは、本例では、空気貯槽2、バルブ71及びバブリング用配管7から構成される。また、逆洗手段Cは、本例では空気貯槽2、バルブ81及び逆洗用配管8から構成される。熱交換器32は、海水を30〜75℃、特に35〜70℃に加温する能力があればよい。
バラスト水製造装置10において、ろ過装置1のハウジング13の一次室11周りに一次室11内の流体を加温する手段を付設してもよい。このような加温手段としては、一次室11周りにジャケットを形成し、このジャケットに例えば30〜75℃の加温流体を流通させる方法などが挙げられる。これにより、常温の酵素含有海水又は酵素含有水を一次室11に満たした後、所定の温度に加温できる。ジャケットに流される加温流体としては、蒸気や温水等が挙げられる。また、一次室11に満たされた酵素含有加温水の温度低下があったとしても、そのままの状態で更に加温することが可能となる。一次室11周りに一次室11内の流体を加温する手段を付設した場合、熱交換器32の設置は省略することもできる。なお、熱交換器32や一次室11内の流体を加温する手段には、通常、公知の温度制御装置が付設される。これにより、熱交換器32から出た酵素含有加温水や一次室11内に満たされた酵素含有加温水を一定の温度に制御、維持することができる。
逆洗手段Cは、図1記載の空気貯槽2を使用する形態に限定されず、例えば、ろ過水貯留槽とろ過水貯留槽のろ過水を二次室から一次室へ流す加圧ポンプを備える形態のものであってもよい。
バラスト水製造装置10において、ハウジング13の一次室11のろ過膜面に酸性薬液を供給する酸性薬液供給手段を設けてもよい。酸性薬液供給手段としては、酸性薬液貯留槽、酸性薬液供給ポンプ及び酸性薬液貯留槽とハウジング13の一次室11を接続する酸性薬液供給配管からなるものが挙げられる。
次に、本発明のバラスト水製造方法の一例を図1を参照して説明する。先ず、バラスト水製造工程を実施する。バラスト水製造工程では、熱交換器32へは熱源は供給されておらず、バルブ33、バルブ41が開となり、バルブ51、61、71、81、93は閉となっている。当該工程においては、海水Xはポンプ31で取水され、海水取水配管3を通り、ろ過装置1のハウジング13の一次室11に供給される。次いで、ろ過膜12を透過したろ過海水はバルブ41を通り、船舶内のバラスト水貯留槽(不図示)に供給される。
必要なバラスト水量を得るまで前記バラスト水製造工程は継続するが、ろ過膜は一定時間毎に、バブリング工程及び逆洗工程で洗浄される。バブリング工程は、ポンプ31を停止し、バルブ33、41、61、81を閉、バルブ51、71を開とする。空気貯層2からハウジング13の一次室11へ圧縮空気が送り込まれ、ろ過膜12を空気揺動させ、ろ過膜面の汚れを剥離する。
バブリング工程に続いて、逆洗工程を実施する。逆洗工程では、ポンプ31は停止のままで、バルブ33、41、71は閉とし、バルブ51、61、81は開とする。逆洗工程ではろ過膜12のろ過側である二次室から圧縮空気を供給し、ハウジング13の二次室に貯留するろ過膜のろ過水によって、ろ過膜12を逆洗する。これにより、一次室側のろ過膜面に付着した汚れ物質等を除去することができる。バブリング工程及び逆洗工程の実施により、ろ過膜12より剥離した汚れ物質は、排水流出配管(温水配管)6をとおって排水Yとして系外へ排出される。
バラスト水製造工程、バブリング工程及び逆洗工程を1サイクルとした工程を繰返し、必要とするバラスト水量を得た後、酵素含有水による酵素洗浄工程を実施する。これにより、バブリング工程や逆洗工程によっても排除できなかったろ過膜の閉塞物質を除去することができる。なお、ろ過膜の閉塞物質は、主にプランクトン由来の蛋白質や多糖類などの有機物である。これは公知の分析方法により確認することができる。酵素洗浄工程では、バルブ33、51、93を開として、バルブ41、61、71、81は閉とし、熱交換器32へ例えば蒸気等の熱源を供給する。ポンプ31で取水された海水Xは、酵素剤供給手段Aから酵素剤の供給を受ける。酵素含有水は熱交換器32を経て例えば30〜75℃の温度に昇温され、ハウジング13の一次室11へ送られ、一次室11内を酵素含有温海水で満たす。これにより、ろ過膜12の一次室側の膜面はハウジング13内で酵素含有温海水に浸漬された状態となる。この時点でポンプ31と熱交換器32への熱源供給を停止する。
所定時間、静置した後、ろ過膜12の閉塞物は酵素により分解され、ろ過膜12から除去される。所定時間内において、酵素含有温海水の温度が、例えば30℃を下回るようであれば、適宜一次室11内の温度が所定温度となるよう温度調整する。このような温度調整方法としては、例えば、図1において、バルブ61を開として、温海水の一部を系外へ排出し、ポンプ31を稼動し新たなより高温の酵素含有温海水を補充する方法などが挙げられる。所定の時間経過後、バルブ61を開として、酵素含有温海水又はこれを置換して満たされた海水を排水流出配管6から排出し、次回のバラスト水の製造へ備える。
バラスト水製造工程、バブリング工程及び逆洗工程の各工程時間は、許容時間内に必要なバラスト水量が得られる条件であれば、特に制限はないが、バラスト水製造装置の稼働時間や回収率を考えると、バラスト水製造工程は1〜24時間、バブリング工程は30〜600秒、逆洗工程は5〜60秒の値が好適である。
また、本発明のバラスト水製造方法の排出工程において、酵素含有加温水を更に加熱して微生物を死滅後、排出することが、通常排出する場所が航海中の海であることから、海洋環境を保護する点で好ましい。加熱温度は、通常60〜90℃である。また、逆洗工程において、逆洗済み排水を加熱して微生物を死滅後、排出することが、海洋環境を保護する点で好ましい。
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
図1のバラスト水製造装置を用い、下記仕様及び実験条件の下、模擬実験を行った。この実施例1〜3及び比較例1及び2は、運転時間と共に変化する膜間差圧を測定することで、ろ過膜の閉塞に与える酵素の接触温度の影響を見たものである。なお、バラスト水製造工程に該当するろ過工程、バブリング工程及び逆洗工程はこれを1サイクルとして、8サイクル繰り返した後、酵素洗浄工程を実施した。なお、酵素洗浄工程における一次室の酵素含有温水は静置状態とした。その結果を図2に示す。なお、図2中、横軸の運転時間は、酵素洗浄工程の時間を省略した時間である。図2から、実施例1は運転時間70時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、安定した運転ができた。
原水;伊勢湾海水(濁度1.5度)
ろ過膜;外圧中空糸精密ろ過膜ステラポア(三菱レイヨン社製)
ろ過工程;ろ過流速2.4m/日、ろ過時間3時間
バブリング工程;バブリング時間80秒
逆洗工程;逆洗時間10秒
酵素洗浄工程(酵素含有温海水による浸漬);酵素含有温海水の温度35℃、浸漬時間(酵素接触時間)60分
酵素含有水;酵素剤としてデキストラナーゼ2F(三共ライフテック社製)を使用し、海水希釈で酵素濃度10mg/Lとしたもの
実施例2及び実施例3
酵素含有温海水の温度35℃に代えて、酵素含有温海水の温度40℃(実施例2)又は60℃(実施例3)とした以外は、実施例1と同様の条件及び方法で行った。その結果を図2に示す。図2から、実施例2、実施例3はそれぞれ運転時間72時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、実用上、安定した運転ができた。
比較例1及び比較例2
酵素含有温海水の温度35℃に代えて、酵素含有温海水の温度、常温の20℃(比較例1)又は80℃(比較例2)とした以外は、実施例1と同様の条件及び方法で行った。その結果を図2に示す。図2から、比較例1及び比較例2は、最初の酵素洗浄工程を実施しても、ろ過膜の目詰まりは解消せず、運転時間50時間経過後、膜間差圧の異常上昇のため実験を中止した。
図2から明らかなように、酵素洗浄工程における浸漬時間60分の下、浸漬温度を35〜60℃以上とすれば、ろ過によって上昇した膜間差圧は、酵素洗浄工程でほぼ初期値へ回復し、安定した連続運転が継続できることを確認した。また、酵素洗浄工程における浸漬温度が20℃及び80℃では、膜間差圧は回復しなったことから、浸漬温度(酵素含有温海水の温度)の臨界温度は下限値が30℃前後、上限値が75℃前後にあるものと推察できる。
実施例4
酵素洗浄工程における浸漬時間60分に代えて、浸漬時間10分とした以外は、実施例3と同様の条件及び方法で行った。すなわち、実施例4〜6及び比較例3及び4は、運転時間と共に変化する膜間差圧を測定することで、ろ過膜の閉塞に与える酵素含有温海水の浸漬時間の影響を見たものである。その結果を図3に示す。図3から、実施例4は運転時間70時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、実用上、安定した運転ができた。
実施例5、6
酵素洗浄工程における浸漬時間10分に代えて、浸漬時間30分(実施例5)、60分(実施例6)とした以外は、実施例4と同様の条件及び方法で行った。その結果を図3に示す。図3から、実施例5および6は運転時間70時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、実用上、安定した運転ができた。
比較例3及び4
酵素洗浄工程における浸漬時間10分に代えて、浸漬時間0分(比較例3)、5分(比較例4)とした以外は、実施例4と同様の条件及び方法で行った。その結果を図3に示す。図3から、比較例3及び4は、最初の酵素洗浄工程を実施しても、ろ過膜の目詰まりは解消せず、運転時間72時間経過後、膜間差圧の異常上昇のため実験を中止した。
図3から明らかなように、酵素洗浄工程における浸漬温度60℃の下、浸漬時間を10分以上とすれば、ろ過によって上昇した膜間差圧は、酵素洗浄工程でほぼ初期値へ回復し、安定した連続運転が継続できることを確認した。また、酵素洗浄工程における浸漬時間が5分では、膜間差圧は回復しなったことから、浸漬温度60℃下、浸漬時間の臨界点は7分前後にあるものと推察できる。
実施例7
酵素洗浄工程における酵素含有水のpHを3.0とした以外は、実施例5と同様の条件及び方法で行った。なお、pHの調整は図1の装置において、酸貯留槽、酸添加ポンプ、酸注入配管を設置して行った。また、酸の注入場所はポンプ31と熱交換器32の間の配管とした。すなわち、実施例7〜9及び比較例5及び6は、運転時間と共に変化する膜間差圧を測定することで、ろ過膜の閉塞に与える酵素含有温海水のpHの影響を見たものである。その結果を図4に示す。図4から、実施例7は運転時間70時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、実用上、安定した運転ができた。
実施例8、9
酵素洗浄工程における酵素含有水のpH3.0に代えて、pH5.0(実施例8)、pH7.0(実施例9)とした以外は、実施例7と同様の条件及び方法で行った。その結果を図4に示す。図4から、実施例8および9は運転時間70時間経過しても、膜間差圧の異常上昇は認められず、実用上、安定した運転ができた。
比較例5及び6
酵素洗浄工程における酵素含有水のpH3.0に代えて、pH8.2(比較例5)、pH2.0(比較例6)とした以外は、実施例7と同様の条件及び方法で行った。その結果を図4に示す。図4から、比較例6は、最初の酵素洗浄工程を実施しても、ろ過膜の目詰まりは解消せず、運転時間72時間経過後、膜間差圧の異常上昇のため実験を中止した。また、比較例5は、最初の酵素洗浄工程を実施しても、ろ過膜の目詰まりは完全には解消しなかった。
図4から明らかなように、酵素洗浄工程における酵素含有水の浸漬温度60℃、浸漬時間30分の下、pHを3.0〜7.0とすれば、ろ過によって上昇した膜間差圧は、酵素洗浄工程でほぼ初期値へ回復し、安定した連続運転が継続できることを確認した。また、酵素洗浄工程における酵素含有水のpHが2.0及びpH8.0では、膜間差圧は十分には回復しなったことから、浸漬温度60℃、浸漬時間30分の下、pHの臨界点は下限値が2.5前後、上限値が7.5前後にあるものと推察できる。
比較例7
酵素洗浄工程を省略した以外は、実施例3と同様の条件及び方法で行った。その結果、図での記載は省略するが、図2中の比較例1の挙動と同様に、ろ過膜の目詰まりは解消せず、運転時間50時間経過後、膜間差圧の異常上昇のため実験を中止した。実験中止後、ろ過膜面上を観察したところ、ろ過膜の一次室側の膜面にスライム状の閉塞物が付着していることを確認した。また、この閉塞物をFT-IRで分析したところ、蛋白質ならびに多糖類特有の吸収ピークを確認した。
船舶の分野においては、海洋環境を汚染することがないバラスト水を積載しており、環境基準を遵守した安全な航海を行うことができる。海洋環境の分野においては、例えば産油国の近海や港湾でバラスト水が排出されても、本来その海域には生息しないプランクトンや細菌類を含む生物が持ち込まれることはなく、海洋生態系の破壊が生じることはなく安全である。ろ過メーカーにとっては、海洋環境を汚染することがないバラスト水を製造可能なろ過装置を提供できる。
本発明のバラスト水製造装置の一例を示すフロー図である。 運転時間と膜間差圧の関係図であり、ろ過膜の閉塞に与える酵素含有温海水の温度の影響を見た図である。 運転時間と膜間差圧の関係図であり、ろ過膜の閉塞に与える酵素含有温海水の浸漬時間の影響を見た図である。 運転時間と膜間差圧の関係図であり、ろ過膜の閉塞に与える酵素含有温海水のpHの影響を見た図である。
符号の説明
1 濾過装置
2 空気貯槽
3 海水取水配管(水供給配管)
4 濾過水流出配管
5 ガス抜き配管
6 排水流出配管
7 バブリング用配管
8 逆洗用配管
9 酵素剤供給配管
10 バラスト水製造装置
11 一次室
12 濾過膜
13 ハウジング
31 ポンプ
32 熱交換器
33、41、51、61、71、81、93 バルブ
91 酵素剤貯留槽
92 酵素剤供給ポンプ

Claims (19)

  1. 船舶が停泊する港湾域の海水をろ過膜装置でろ過して、ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造装置において、ろ過膜へ酵素を断続又は連続で供給する酵素添加手段を備えること特徴とするバラスト水製造装置。
  2. 前記ろ過膜装置は、ろ過膜により原水側の一次室と処理水側の二次室に区画されるハウジングと、該ハウジングの一次室に接続される水供給配管と、該ハウジングの二次室に接続されるろ過水流出配管と、を備えることを特徴とする請求項1記載のバラスト水製造装置。
  3. 前記酵素添加手段は、該ハウジングの一次室又は二次室を酵素含有水で満たす手段であることを特徴とする請求項2記載のバラスト水製造装置。
  4. 前記酵素含有水は、酵素剤を海水、淡水又はその混合水によって希釈したものであることを特徴とする請求項3記載のバラスト水製造装置。
  5. 前記酵素が、アミラーゼ、プロテアーゼ及びデキストラナーゼから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  6. 前記酵素含有水を加温する手段を、更に備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  7. 前記酵素含有水のpHを調整するpH調整手段を、更に備えることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  8. 前記ハウジングの一次室から気泡を供給してろ過膜面をバブルするバブリング手段を、更に備えることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  9. 前記ハウジングの二次室から一次室へ該ろ過膜のろ過水を供給して該ろ過膜を逆洗する逆洗手段を、更に備えることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  10. 前記ろ過膜が微生物ろ過膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載のバラスト水製造装置を搭載することを特徴とする船舶。
  12. 船舶が停泊する港湾域の海水をろ過膜装置でろ過して、該ろ過水をバラスト水とするバラスト水製造工程と、該ろ過膜の閉塞物を酵素により洗浄する酵素洗浄工程を有すること特徴とするバラスト水の製造方法。
  13. 前記酵素洗浄工程における洗浄は、35〜70℃の温度範囲で行うことを特徴とした請求項12記載のバラスト水の製造方法。
  14. 前記酵素洗浄工程における洗浄は、pH5±2の範囲で行うことを特徴とする請求項12又は13記載のバラスト水の製造方法。
  15. 前記酵素洗浄工程における洗浄は、一次室又は二次室を酵素含有水で満たし、浸漬状態で10分以上、加温維持することを特徴とする請求項12〜14記載のバラスト水の製造方法。
  16. 前記酵素洗浄工程の途中又は前記酵素洗浄工程の前後において、ろ過膜の一次側から気泡を供給してろ過膜表面をバブリングするバブリング工程を行うことを特徴とする請求項12〜15記載のバラスト水の製造方法。
  17. 前記酵素洗浄工程後、洗浄排水を加熱して、排出水中の微生物を死滅させることを特徴とする請求項12〜16に記載のバラスト水の製造方法。
  18. 前記酵素洗浄工程の前又は後において、ろ過膜の二次室からろ過水を供給してろ過膜を逆洗する逆洗工程を行うことを特徴とする請求項12〜17に記載のバラスト水の製造方法。
  19. 前記逆洗工程で排出される排出水を加熱して、排出水中の微生物を死滅させることを特徴とする請求項18記載のバラスト水の製造方法。
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