以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。なお、図1,図4,図5,図8における左側(エンジン側)を入力側あるいは上流側と称し、右側(車輪側)を出力側あるいは下流側と称して説明する。また、下記および図2,図3,図6,図7に示すギヤ比、変速比および入出力比は、それぞれ減速比になっており、1よりも大きいとき、入力側(駆動側)の回転が出力側(従動側)に減速されて伝達されることを示す。
図1に示すように、第1構成例の自動変速機TM1は、入力軸1を有した平行軸式変速機構PTM1と、平行軸式変速機構PTM1の下流側に設けられて出力軸5が接続された複列式遊星歯車機構PGとから構成され、入力軸1の回転を変速して出力軸5に伝達する。入力軸1は、図示しないエンジンからの駆動力が伝達されて所定方向に所定回転速度(Neとする)で回転し、出力軸5は、図示しない差動機構に接続されている。差動機構は図示しないアクセルシャフトを介して図示しない左右の車輪と接続されており、出力軸5の回転がこれら差動機構およびアクセルシャフトを介して左右の車輪に伝達される。出力軸5が入力軸1と同じ方向に回転するとき、車両を前進させるように車輪に回転が伝達され、出力軸5が入力軸1と逆方向に回転するとき、車両を後進させるように車輪に回転が伝達される。
また、この自動変速機TM1は、二点鎖線で外郭の一部を示す変速機ケーシング40の内部空間に収容されている。変速機ケーシング40は、内部空間を仕切る隔壁41,42を有しており、第1隔壁41の上流側に平行軸室が形成され、下流側にプラネタリ室40aが形成される。平行軸室はさらに第2隔壁42により二分されており、第2隔壁42の上流側に第1平行軸室40bが形成され、下流側に第2平行軸室40cが形成されている。第1および第2平行軸室40b,40cに平行軸式変速機構PTM1が収容され、プラネタリ室40aに複列式遊星歯車機構PGが収容される。
平行軸式変速機構PTM1は、入力軸1と、入力軸1に平行に設けられるカウンタ軸2と、入力軸1と同軸上に設けられる第1センタ軸3と、第1センタ軸3上を相対回転可能に設けられた第2センタ軸4と、入力軸1の回転をカウンタ軸2に伝達する第1および第2ギヤ列G1,G2と、カウンタ軸2の回転を第2センタ軸4に伝達する第3ギヤ列G3と、第1〜第4クラッチC1〜C4とから構成される。なお、車両に搭載された状態の変速機ケーシング40の内部空間において、カウンタ軸2の上方に入力軸1が位置し、カウンタ軸2の下方に内部空間の底部に溜められた潤滑用オイルの油面が臨む。
入力軸1は、第1平行軸室40bの内部に設けられ、上流側外壁43に保持されたベアリング51と、第2隔壁42に保持されたベアリング52とにより回転自在に支持されている。カウンタ軸2は、第2隔壁42を貫通するようにして第1および第2平行軸室40b,40cの内部に設けられ、上流側外壁43に保持されたベアリング53と、第2隔壁42に保持されたベアリング54と、第1隔壁41に保持されたベアリング55とにより3点で回転自在に支持されている。第1および第2センタ軸3,4は、第2平行軸室40cの内部に設けられ、第1隔壁41に保持されたベアリング56により第2センタ軸4が回転自在に支持され、第2センタ軸4の軸心内部に第1センタ軸3が相対回転自在に設けられる。
第1ギヤ列G1は、入力軸1上に相対回転可能に設けられた第1ドライブギヤ11と、第1ドライブギヤ11に噛合してカウンタ軸2上に連結されてカウンタ軸2と一体回転可能な第1ドリブンギヤ12とから構成される。また、第1ドライブギヤ11は、入力軸1上に設けられた第1クラッチC1に接続されており、第1クラッチC1が係合されると、第1ドライブギヤ11が入力軸1と一体回転し、入力軸1の回転が第1ギヤ列G1を介してカウンタ軸2に伝達され、カウンタ軸2が入力軸1と逆方向に回転する。第1ギヤ列G1は、ギヤ比が1よりも大きい値に設定される。
第2ギヤ列G2は、入力軸1上に相対回転可能に設けられた第2ドライブギヤ13と、第2ドライブギヤ12と噛合してカウンタ軸2上に連結されてカウンタ軸2と一体回転可能な第2ドリブンギヤ14とから構成される。また、第2ドライブギヤ13は、入力軸1上に設けられた第2クラッチC2に接続されており、第2クラッチC2が係合されると、第2ドライブギヤ13が入力軸1と一体回転し、入力軸1の回転が第2ギヤ列G2を介してカウンタ軸2に伝達され、カウンタ軸2が入力軸1と逆方向に回転する。第2ギヤ列G2は、ギヤ比が1よりも小さい値に設定される。
第3ギヤ列G3は、カウンタ軸2上に連結されてカウンタ軸2と一体回転可能な第3ドライブギヤ15と、第3ドライブギヤ15と噛合して第2センタ軸4上に連結されて第2センタ軸4と一体回転可能な設けられた第3ドリブンギヤ16とから構成される。第3ギヤ列G3により、カウンタ軸2の回転が第2センタ軸4に伝達され、第2センタ軸4がカウンタ軸2と逆方向、すなわち、入力軸1と同じ方向に回転する。第3ギヤ列G3には、所定のギヤ比が設定される。
第1および第2ギヤ列G1,G2は、第1平行軸室40bの内部に設けられ、第3ギヤ列G3は、第2平行軸室40cの内部に設けられる。第1〜第3ギヤ列G1〜G3の動力伝達時に生じる反力は、第1および第2隔壁41,42が受ける。したがって、第1および第2隔壁41,42は、このような反力を十分に受けるだけの剛性が確保された構造になっている。
第1〜第4クラッチC1〜C4はそれぞれ、湿式の多板クラッチで構成されており、取り付ける軸に連結されて一体回転可能なクラッチガイドと、クラッチガイドの内側に設けられて取り付ける軸に対して相対回転可能なクラッチインナと、クラッチインナを軸方向に押圧するピストンとから構成され、ピストンに作動油が供給されると、クラッチインナに設けられたインナプレートとクラッチガイドに設けられたアウタプレートとが係合し、クラッチガイドおよびクラッチインナが一体回転する。第1および第2クラッチC1,C2は、第1平行軸室40bの内部に収容され、第3および第4クラッチC3,C4は、第2平行軸室40cの内部に収容されており、第3クラッチC3は、第2隔壁42に沿って設けられている。
第1および第2クラッチC1,C2は、入力軸1上に設けられており、互いのクラッチガイドの背面が一体化されている。第3クラッチC3は、入力軸1の出力側端部に設けられており、第3クラッチC3のクラッチガイドが入力軸1と一体回転する。第4クラッチC4は、クラッチガイドが第1センタ軸3に接続され、クラッチインナが第2センタ軸4に接続されている。また、第3および第4クラッチC3,C4は、第3クラッチC3のクラッチインナと第4クラッチC4のクラッチガイドとが一体化されている。
この平行軸式変速機構PTM1において、第1クラッチC1が係合されると、入力軸1の回転が、第1ギヤ列G1、カウンタ軸2および第3ギヤ列G3を介した経路で第2センタ軸4に伝達される。第2センタ軸4は、入力軸1に対して第1変速比r1に応じて変速されて入力軸1と同じ方向に回転する。第1変速比r1は、第1および第3ギヤ列G1,G3のギヤ比の積から求められ、1よりも大きい値に設定される。この経路を減速用経路とし、この減速用経路を介して伝達されることにより入力軸1の回転に対して減速された回転速度を第1回転速度R1(=Ne×1/r1)とする。
第2クラッチC2が係合されると、入力軸1の回転が、第2ギヤ列G2、カウンタ軸2および第3ギヤ列G3を介した経路で第2センタ軸4に伝達される。これにより、第2センタ軸4は、入力軸1に対して第2変速比r2に応じて変速されて入力軸1と同じ方向に回転する。第2変速比r2は、第2および第3ギヤ列G2,G3のギヤ比の積から求められ、1よりも小さい値に設定される。この経路を増速用経路とし、この増速用経路を介して伝達されることにより入力軸1の回転に対して増速された回転速度を第2回転速度R2(=Ne×1/r2)とする。
第3クラッチC3が係合されると、第3クラッチC3を介して第1センタ軸3が入力軸1と一体回転する。このときの変速比を第3変速比r3とするが、この第3変速比r3は1となる。このように入力軸1の回転が直接的に第1センタ軸3に伝達される経路を中速用経路とし、この中速用経路を介した伝達されることにより回転する第1センタ軸3の回転速度を第3回転速度R3(=Ne(×1/r3))とする。
このように、第1〜第3変速比r1〜r3は、r2<r3(=1.000)<r1の関係にあり、第1〜第3回転速度R1〜R3は、R1<R3(=Ne)<R2の関係にある。また、この平行軸式変速機構PTM1においては、入力軸1が入力要素として機能し、第1および第2センタ軸3,4がそれぞれ独立した出力要素として機能する。ここで、第1センタ軸3を第1出力要素とし、第2センタ軸4を第2出力要素とする。なお、第2センタ軸4を回転駆動する第3ドリブンギヤ16を第2出力要素として捉えてもよい。
第1〜第3クラッチC1〜C3は、入力要素から出力要素に回転を伝達するための経路を減速用経路、中速用経路および増速用経路の3つの経路から選択し、出力要素に伝達される回転速度を3つの回転速度R1〜R3から選択するための係合要素として機能する。第1クラッチC1は、入力要素の回転を減速して第2出力要素に伝達するための係合要素として、第2クラッチC2は、入力要素の回転を増速して第2出力要素に伝達するための係合要素として、第3クラッチC3は、入力要素の回転を同じ回転速度で第1出力要素に伝達するための係合要素として機能する。
また、第4クラッチC4が係合すると、第1および第2センタ軸3,4が一体回転する。このように第1構成例において第4クラッチC4は、相対回転可能な2つの出力要素間において一方の出力要素の回転を他方の出力要素に伝達するための係合要素として機能する。これにより、第1センタ軸3を第1あるいは第2回転速度R1,R2で回転させることができ、第2センタ軸4を第3回転速度R3で回転させることができる。すなわち、2つの出力要素のいずれにも、3つの速度R1〜R3の回転を伝達できるようになっている。
複列式遊星歯車機構PGは、第1プラネタリギヤ20と、第1プラネタリギヤ20に対して同軸上であって下流側に設けられる第2プラネタリギヤ30とを組み合わせて構成されており、両プラネタリギヤ20,30はプラネタリ室40aの内部に設けられている。
両プラネタリギヤ20,30は、それぞれ3軸シングルピニオン構造で構成され、同じ構成要素からなる。両プラネタリギヤ20,30は、第1センタ軸3上に位置する回転軸を中心に回転可能なサンギヤ21,31と、サンギヤ21,31と噛合してサンギヤ21,31の周りを自転しながら公転するピニオンギヤ22,32と、ピニオンギヤ22,32を回転自在に保持するとともにサンギヤ21,31の回転軸と同軸上に位置する回転軸を中心にピニオンギヤ22,32と同じ速度で公転するキャリア23,33と、ピニオンギヤ22,32と噛合する内歯を有してサンギヤ21,31の回転軸と同軸上に位置する回転軸を中心に回転可能なリングギヤ24,34とからなる。なお、両プラネタリギヤ20,30にはそれぞれ、リングギヤの歯数をサンギヤの歯数で除することにより求められる所定のギヤ比r20,r30が設定される。
両サンギヤ21,31は、軸方向に並んで設けられ、それぞれの回転軸に第1センタ軸3が接続されている。これにより、両サンギヤ21,31は、第1センタ軸3とともに一体回転する。第2プラネタリギヤ30のサンギヤ31は、第1センタ軸3の出力側端部に接続され、第1プラネタリギヤ20のサンギヤ21の下流側に位置している。
第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24は、連結部61を介して第2センタ軸4に接続されており、第2センタ軸4と一体回転する。また、この連結部61は、プラネタリ室40aの内部に設けられて変速機ケーシング40の内壁面を固定部材とした湿式の係合要素である第1ブレーキB1に接続されている。第1ブレーキB1が係合すると、リングギヤ24が固定保持される。
第1プラネタリギヤ20のキャリア23は、連結部62を介して第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34に連結されており、このリングギヤ34と一体回転する。また、この連結部62は、プラネタリ室40aの内部に設けられて変速機ケーシング40の内壁面を固定部材とした湿式の係合要素である第2ブレーキB2に接続されている。第2ブレーキB2が係合すると、第1プラネタリギヤ20のキャリア23と、第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34とが固定保持される。
第2プラネタリギヤ30のキャリア33は、回転軸に下流側に延びる出力軸5が接続されている。このように、この自動変速機TM1は、入力軸1と出力軸5とが同軸上に設けられる。このため、しばしば入力軸1の接続部と出力軸5の接続部とが同軸上に配置されるFR型車両に対する搭載性がよい。
このように構成される複列式遊星歯車機構PGは、互いに異なる回転速度で回転可能な4つの回転要素からなる4軸構造になっている。4つの回転要素は、両サンギヤ21,31からなる第1回転要素RE1と、第2プラネタリギヤ30のキャリア33からなる第2回転要素RE2と、第1プラネタリギヤ20のキャリア23および第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34からなる第3回転要素RE3と、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24からなる第4回転要素RE4とからなる。そして、複列式遊星歯車機構PGにおいては、平行軸式変速機構PTM1の2つの出力要素が接続される第1および第4回転要素RE1,RE4の2つの回転要素が入力要素として機能し、出力軸5が接続される第2回転要素RE2が出力要素として機能する。さらに、第1回転要素RE1は、中速用経路を介した動力伝達により独立して回転可能な第1出力要素からの回転が入力される要素として機能し、第4回転要素RE4は、減速用経路あるいは増速用経路を介した動力伝達により独立して回転可能な第2出力要素からの回転が入力される要素として機能する。
第1ブレーキB1は、入力要素の1つである第4回転要素RE4の回転速度のパターンを増加させるための係合要素として機能する。すなわち、第4回転要素RE4の回転速度は、第2出力要素から伝達される3つの回転速度R1〜R3に、第1ブレーキB1の係合により固定保持されて無回転となる状態を加えた4パターンから選択することができる。また、第2ブレーキB2は、入力要素でない第3回転要素RE3の回転速度を入力要素の回転速度に関わらず制御するための係合要素として機能する。
なお、自動変速機TM1には、図示しない制御装置と、各係合要素C1〜C4,B1,B2に作動油を給排するための油圧回路が備えられている。制御装置は、車両各部に設けられたセンサからの入力情報に応じ、油圧回路を構成するソレノイドバルブに作動制御信号を出力する。このような制御装置により、車両状態や運転者の操縦意図に応じ、係合要素C1〜C4,B1,B2に供給される作動油量が調整されて係合要素C1〜C4,B1,B2の係脱制御が行われ、車両の変速制御が行われる。
ここで、例えば第1〜第3変速比r1〜r3および両プラネタリギヤ20,30のギヤ比r20,r30がそれぞれ、r1=1.962、r2=0.622、r3=1.000、r20=2.467、r30=2.733に設定されるとする。このように構成される自動変速機TM1において、図2に示すように、制御装置による係合要素C1〜C4,B1,B2の係脱制御により、前進6速(Low〜6th)および後進1速(Rvs)の変速レンジが設定される。図2に変速レンジとともに記載される数値は、各変速レンジにおける入出力比を示している。また、図2の○印は、係合要素が係合状態にあることを示している。図2に示すように各変速レンジは、2つの係合要素の係合により設定される。また、○印とともに記載される数値は、入力トルクに対する容量比を示している。この数値が示すように、第1〜第4クラッチC1〜C4においては、いずれも1以下であり、第1〜第4クラッチC1〜C4を介して入力トルクを超える動力伝達が行われない。
図3に、複列式遊星歯車機構PGの速度線図を示している。図3の4本の縦軸N1〜N4は、左側から順に第1〜第4回転要素RE1〜RE4の回転速度を示し、横軸Xから上下に離れるほど高速となる。縦軸の脇に示される四角で囲まれた数値は、入力軸1の回転速度に対する変速比を示し、横軸Xから上下に離れるほど値が小さくなる。回転速度は、入力軸1の回転方向を正としており、出力軸5が接続される第2回転要素RE2が正の方向に回転するとき車両が前進する。縦軸の脇に示される丸で囲まれた数値は、両プラネタリギヤ20,30の構成要素の符号に対応する。すなわち、3軸シングルピニオン型の第1プラネタリギヤ20において、サンギヤ21の回転速度が最も左側に位置する第1縦軸N1に示され、リングギヤ24の回転速度が最も右側に位置する第4縦軸N4に示され、キャリア23の回転速度が両軸N1,N4の間に位置する第3縦軸N3に示される。同じく3軸シングルピニオン型の第2プラネタリギヤ30において、サンギヤ31の回転速度が第1縦軸N1に示され、リングギヤ34の回転速度が第3縦軸N3に示され、キャリア33の回転速度が両軸N1,N3の間に位置する第2縦軸N2に示される。また、丸で囲まれた数値間に示される四角で囲まれた数値は、縦軸間の間隔比を示すが、第1および第3縦軸N1,N3の間隔と第3および第4縦軸N3,N4の間隔との比は、第1プラネタリギヤ20のギヤ比r20に対応し、第1および第2縦軸N1,N2の間隔と第2および第3縦軸N2,N3の間隔との比は、第2プラネタリギヤ30のギヤ比r30に対応する。上記のようにギヤ比r20,r30が設定されることにより、第1および第2縦軸N1,N2の間隔と第2および第3縦軸N2,N3の間隔と第3および第4縦軸N3,N4の間隔との比は、2.733:1.000:1.513になる。
1速レンジ(Low)は、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により設定される。第3クラッチC3の係合により、第1センタ軸3が入力軸1と一体回転し、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が第3回転速度R3で正の方向に回転する。第2ブレーキB2の係合により、第1プラネタリギヤ20のキャリア23および第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34(第3回転要素RE3)が固定保持される。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第3縦軸N3上の2点を結ぶ直線L1と、第2縦軸N2との交点(プロットLow)で示される回転速度で回転する。このプロットLowが示す回転速度と入力軸1の回転速度との比が、図2に示す1速レンジの入出力比になる。他の変速レンジにおいても、第2縦軸N2上のプロットと入出力比とが同様の関係になっている。
2速レンジ(2nd)は、第3クラッチC3および第1ブレーキB1の係合により設定される。第3クラッチC3の係合により、1速レンジと同様に、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が第3回転速度R3で正の方向に回転する。第1ブレーキB1の係合により、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が固定保持される。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線L2と、第2縦軸N2との交点(プロット2nd)で示される回転速度で回転する。
3速レンジ(3rd)は、第3クラッチC3および第1クラッチC1の係合により設定される。第3クラッチC3の係合により、1速レンジと同様に、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が第3回転速度R3で正の方向に回転する。第1クラッチC1の係合により、第2センタ軸4が第1回転速度R1で入力軸1と同じ方向に回転するため、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が第1回転速度R1で正の方向に回転する。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線L3と、第2縦軸N2との交点(プロット3rd)で示される回転速度で回転する。
4速レンジ(4th)は、第3クラッチC3および第4クラッチC4の係合により設定される。第3クラッチC3の係合により、1速レンジと同様に、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が第3回転速度R3で正の方向に回転する。第4クラッチC4の係合により、第1センタ軸1と第2センタ軸2とが一体回転するため、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)も第3回転速度R3で正の方向に回転する。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線L4と、第2縦軸N2との交点(プロット4th)で示される回転速度で回転する。この自動変速機TM1は、2つの係合要素の係合により変速レンジが設定されるため、その一方が第4クラッチC4であることにより、第1〜第4回転要素RE1〜RE4のすべてを同じ回転速度で回転させることができるようになっている。
5速レンジ(5th)は、第3クラッチC3および第2クラッチC2の係合により設定される。第3クラッチC3の係合により、1速レンジと同様に、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が第3回転速度R3で正の方向に回転する。第2クラッチC2の係合により、第2センタ軸4が第2回転速度R2で入力軸1と同じ方向に回転するため、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が第2回転速度R2で正の方向に回転する。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線L5と、第2縦軸N2との交点(プロット5th)で示される回転速度で回転する。
6速レンジ(6th)は、第2クラッチC2および第4クラッチC4の係合により設定される。第2クラッチC2の係合により、5速レンジと同様に、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が第2回転速度R2で正の方向に回転する。第4クラッチC4の係合により、4速レンジと同様に、第1センタ軸4と第2センタ軸1とが一体回転するため、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)も第2回転速度R2で正の方向に回転する。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4における2点を結ぶ直線L6と、第2縦軸N2との交点(プロット6th)で示される回転速度で回転する。このときも、第4クラッチC4は、第1〜第4回転要素RE1〜RE4のすべてを同じ速度で回転させるための係合要素として機能する。
後進レンジ(Rvs)は、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により設定される。第1クラッチC1の係合により、3速レンジと同様に、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が第1回転速度R1で正の方向に回転する。第2ブレーキB2の係合により、第1プラネタリギヤ20のキャリア23および第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34(第3回転要素RE3)が固定保持される。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第3縦軸N3および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線LRVSと、第2縦軸N2との交点(プロットRvs)で示される回転速度で回転する。このとき、キャリア33は負の方向に回転し、出力軸5が入力軸1と逆方向に回転して車両が後進する。
このように第1構成例の自動変速機TM1は、入力軸1を入力要素として第1および第2センタ軸3,4をそれぞれ出力要素とする平行軸式変速機構PTM1が上流側に設けられ、その下流側に4軸構造の複列式遊星歯車機構PGが設けられている。平行軸式変速機構PTM1は、3つの伝達経路を有し、これら伝達経路のそれぞれに設定される変速比r1〜r3に応じて入力要素の回転を互いに速度が異なる第1〜第3回転速度R1〜R3のいずれかに変速して2つの出力要素に伝達するように構成されている。3つの伝達経路からどの経路を介して出力要素に回転を伝達するかの選択は、第1〜第4クラッチC1〜C4の係脱制御により行われる。複列式遊星歯車機構PGは、2つの入力要素が平行軸式変速機構PTM1の2つの出力要素にそれぞれ接続されている。
このような4軸構造の複列式遊星歯車機構PGを有した自動変速機TM1において、複列式遊星歯車機構PGの入力要素を2つとし、この2つの入力要素に3つの回転速度R1〜R3のいずれかが伝達される。このため、複列式遊星歯車機構PGに入力回転を伝達するための軸を多重管構造にする必要なく複数の変速レンジを設定できる。これにより、これらの軸を回転支持するための構造などを簡略化できる。また、多重管構造の回避により、軸を径方向に小型化できるため、第1〜第4クラッチC1〜C4の小径化を図ることができる。さらには、入力トルクの小さい上流側の平行軸式変速機構PTM1に第1〜第4クラッチC1〜C4が設けられており、これらクラッチC1〜C4を小径化しても動力伝達を十分に行わせることができる。このようなことから、クラッチ容量に応じた最適なサイズにクラッチを設計することができる。
また、このように、第1〜第4クラッチC1〜C4が小径化されることにより、各クラッチの構成要素であるピストンを小型化できる。その結果、プレート間を係合させるために必要となる作動油量も少なくすることができるため、制御装置の変速指令に対する各クラッチC1〜C4の作動応答性の向上が図られる。このため、変速制御を容易化してその応答性を高めるために従来の自動変速機に設けられていたワンウェイクラッチを省略できる。これにより、部品点数が削減され、自動変速機の小型軽量化が図られる。
なお、第1および第2クラッチC1,C2がいずれも入力軸1上に設けられている。これにより、クラッチ容量も入力トルクを超えることがなく、コンパクトに設計できる。また、カウンタ軸2上に配置されると、カウンタ軸2の下方に蓄えられている潤滑オイルを掻き揚げながら回転するおそれがあり、このオイル掻き揚げにより出力損失を招くおそれがある。また、第3および第4クラッチも、入力軸1と同軸上の第1センタ軸3上に設けられていることから、同様にして潤滑用オイルの掻き揚げが回避される。さらに、第1および第2クラッチC1,C2と、第3および第4クラッチC3,C4とはそれぞれ、構成部材が一体化されている。これにより、同軸上に並んで設けられる複数のクラッチを有した自動変速機において軸方向への小型化が図られる。
また、各変速レンジは、6つの係合要素C1〜C4,B1,B2のうち2つを係合させることにより設定される。このように、各変速レンジを設定するために係合させる必要のある係合要素の数がいずれも少なく、制御性を向上させることができる。また、前進段において隣り合うレンジ間では、1つの係合要素を係合させたままで残りの係合要素を係脱させるだけで、変速レンジを変更できるようになっている。特に、1速〜5速レンジはいずれも第3クラッチC3の係合により設定されるため、この5段の間では、常に第3クラッチC3を係合させたままで残りの係合要素を係脱させるだけで、変速レンジを変更できる。また、6速レンジにおいても、4速および5速レンジに対し、1つの係合要素を係合させたままで変速レンジを変更できる。したがって、アクセルペダルの踏込操作に応じて変速レンジを2レンジ以上低速側にシフトさせることにより加速を助けるキックダウン制御を含め、車両状態や運転者の操縦意図に応じた変速制御をスムーズに行わせることができる。
さらに、1速〜5速レンジが第3クラッチC3の係合により設定されることにより、多数の変速レンジにおいて第1回転要素RE1の回転速度が入力軸1と同じ速度である第3回転速度R3で共通される。このため、この自動変速機TM1では、図3に示すように、1速レンジの入出力比が第2プラネタリギヤ30のギヤ比r30にのみ従属して設定され、2速レンジの入出力比が両プラネタリギヤ20,30のギヤ比r20,r30にのみ従属して設定される。したがって、両プラネタリギヤ20,30のギヤ比r20,r30が一度設定されると、第1および第2変速比r1,r2の設定に関わらず、1速および2速レンジの入出力比が固定される。すなわち、3速〜6速および後進レンジの入出力比は、1速および2速レンジの入出力比の設定に影響を及ぼすことなく変更できる。
また、3速レンジが第1および第3クラッチC1,C3の係合により設定され、6速レンジが第2および第4クラッチC2,C4の係合により設定されるようになっており、両レンジの設定に同じ係合要素が用いられておらず、3速レンジでは、減速用経路および中速用経路を介して第1および第4回転要素RE1,RE4に回転が伝達されるのに対し、6速レンジでは、増速用経路のみを介して第1および第4回転要素RE1,RE4に回転が伝達されている。このため、減速用経路に専用の構成要素である第1ギヤ列G1のギヤ比の変更により、1速、2速および4速〜6速レンジの入出力比の設定に影響を及ぼすことなく、3速レンジの入出力比を変更できる。同様に、増速用経路に専用の構成要素である第2ギヤ列G2のギヤ比の変更により、1速〜4速および後進レンジの入出力比の設定に影響を及ぼすことなく、6速レンジの入出力比を変更できる。したがって、例えば2速レンジと3速レンジとのクロスレシオにする要求に対しても、第1ギヤ列G1のギヤ比を変更することにより、2速レンジの入出力比を固定したままで対応できる。同様に、例えば1速および6速レンジ間の入出力比の幅(図3におけるプロットLow,6thの間隔)を変更する要求に対しても、第2ギヤ列G2のギヤ比を変更することにより、1速レンジの入出力比を固定したままで対応できる。
このように自動変速機TM1は、各変速レンジの入出力比が各比r1〜r3,r20,r30に応じて設定されるが、複列式遊星歯車機構PGの入力要素が2つであり、両入力要素のうち第1回転要素RE1が多数の変速レンジにわたって第3回転速度R3で回転し、第4回転要素RE4が4つの回転速度から適宜選択された速度で回転する。このため、他の変速レンジへの影響を少なくして入出力比の設定を変更でき、入出力比の設定自由度が高い自動変速機を提供できる。特に、最高速段の6速レンジは、変速レンジ間の入出力比の幅を設定するための重要な変速レンジであり、3速レンジは、通常走行時に頻繁に設定される中速段であって車両の特性に応じた入出力比の最適設定に対する要求が高い変速レンジである。この自動変速機TM1によると、これら3速および6速レンジの入出力比の設定を、1速および2速レンジの入出力比を固定したままで、互いに独立して変更できるようになっている。このため、車両の特性に応じた最適な入出力比の設定が容易になる。しかも、第1あるいは第2ギヤ列G1,G2のギヤ比を変更するだけで最適な入出力比が設定されて同じ複列式遊星歯車機構PGを異なる車両の変速機と共用できる可能性もあり、構成部品の汎用性の向上と生産性の向上が図られる。
ところで、このような自動変速機に設けられる4軸構造の複列式遊星歯車機構PGとして、CR−CR型あるいはラビニヨ型の複列式遊星歯車機構を採用しても、前進6速および後進1速の変速レンジを設定できる。なお、CR−CR型とは、入力側の第1プラネタリギヤおよび出力側の第2プラネタリギヤとしてともに3軸シングルピニオン型のプラネタリギヤを備え、一方のキャリアと他方のリングギヤとがともに連結された形態をいう。ラビニヨ型とは、第1プラネタリギヤとして3軸ダブルピニオン型のプラネタリギヤを備え、第2プラネタリギヤとして3軸シングルピニオン型のプラネタリギヤを備え、第1プラネタリギヤの外側のピニオンギヤと第2プラネタリギヤのピニオンギヤとが共用され、互いのリングギヤを共用した形態をいう。両形態を上記構成例と同様の4軸構造とするには、両サンギヤを互いに独立した入力要素(上記第1および第4回転要素RE1,RE4に対応)とする必要があり、第1プラネタリギヤのサンギヤを平行軸式変速機構PTM1の第2出力要素に接続し、第2プラネタリギヤのサンギヤを平行軸式変速機構PTM1の第1出力要素に接続する必要がある。このため、両形態の速度線図(図示せず)は、図3を参照すれば、第4縦軸N4に対応する軸に第1プラネタリギヤのサンギヤの回転速度が示される。CR−CR型では、第1および第2縦軸N1,N2の間隔と第2および第3縦軸N2,N3の間隔と第3および第4縦軸N3,N4の間隔との比が、r30:1:r20になり、ラビニヨ型では、第1および第2縦軸N1,N2の間隔と第2および第4縦軸N2,N4の間隔との比が、r30:r20になる。
ここで、CR−CR型において、各変速レンジにおける入出力比を図2,図3と同じに設定すると、第1プラネタリギヤのギヤ比を1.513に設定する必要があることからピニオンギヤの小型化を招き、第1プラネタリギヤの強度確保が難しい。一方、ピニオンギヤの大径化を図ると第3および第4縦軸N3,N4の間隔が広がり、適切な入出力比の設定が難しい。また、ラビニヨ型においては、第1プラネタリギヤのサンギヤが第2プラネタリギヤのサンギヤよりも小さいことが構造上の前提となるため、第2および第4縦軸N2,N4の間隔が第1および第2縦軸N1,N2の間隔よりも大きくなり、適切な入出力比の設定が難しい。このような特性を持つ両形態においては、特に、1速および2速レンジの入出力比の差が大きくなる傾向にあり、発進時などにおけるドライバビリティの悪化を招くおそれがある。このようなことから、両サンギヤ21,31を一体回転させて1つの回転要素として機能させる複列式遊星歯車機構PGを設けた第1構成例の自動変速機TM1は、CR−CR型あるいはラビニヨ型の複列式遊星歯車機構を設けるときと比べ、入出力比をより適切に設定できるとともにピニオンギヤなどの強度を容易に確保でき、実用性がより高くなっている。
図4には、第2構成例の自動変速機TM2を示している。この自動変速機TM2は、平行軸式変速機構PTM2における第3クラッチC3の配設位置が変更されていることを除き、第1構成例と同一の構成となっており、同一の部材には同一の符号を付して重複説明を省略する。
第3クラッチC3は、第2平行軸室40cの内部において第1センタ軸3上に設けられており、互いのクラッチガイドが一体化されている。第3クラッチC3のクラッチインナは、入力軸1の出力側端部に接続されており、入力軸1と一体回転する。
この自動変速機TM2においても、図2に示す係合要素C1〜C4,B1,B2の係脱制御により、前進6段および後進1段の変速レンジが設定される。また、複列式遊星歯車機構PGの4つの回転要素RE1〜RE4を図3に示す速度線図に応じて回転させることができ、第1構成例と同様の入出力比が設定される。このため、第1構成例と同様の効果を得ることができる。ただし、6速レンジが設定されたときに、第3クラッチC3が入力軸1より高速の回転速度R2で回転するため、第3クラッチC3は、第1構成例の自動変速機TM1と比べて最高回転速度が大きくなり、大径化させる必要がある。したがって、第1構成例の自動変速機TM1は、第3クラッチC3を第1センタ軸3上に設ける形態の第2構成例に比べ、第3クラッチC3をコンパクトに構成でき、自動変速機の全体をより小型化できる。
次に、図5〜図7を参照して第3構成例の自動変速機TM3について説明する。この自動変速機TM3は、新たに係合要素が1つ追加されていることを除き、第1構成例と基本的な構造が同一であり、同一部材には同一の符号を付して重複説明を省略する。
図5に示すように、第2平行軸室40cの内部において第4クラッチC4のクラッチガイドの外周側に、例えばブレーキバンドなどで構成される第3ブレーキB3が設けられている。第3ブレーキB3が係合されると、第4クラッチC4のクラッチガイドが固定保持されるため、このクラッチガイドに連結される第1センタ軸3と、第1センタ軸3に接続される両サンギヤ21,31とがともに固定保持される。第3ブレーキB3は、入力要素の1つである第1回転要素RE1の回転速度のパターンを増加させるための係合要素として機能する。すなわち、第1回転要素RE1の回転速度は、第1出力要素から伝達される3つの回転速度R1〜R3に、第3ブレーキB3の係合により固定保持されて無回転となる状態を加えた4パターンから選択される。
この自動変速機TM3には、例えば第1〜第3変速比r1〜r3および両プラネタリギヤ20,30のギヤ比r20,r30がそれぞれ、r1=2.204、r2=0.585、r3=1.000、r20=2.467、r30=2.733に設定されるとする。すなわち、平行軸式変速機構PTM1において第1〜第3ギヤ列G1〜G3のギヤ比が変更される一方、両プラネタリギヤ20,30が同一の構成になっている。この設定においても、第1〜第3変速比r1〜r3は、r2<r3<r1の関係を満たし、第1〜第3回転速度R1〜R3は、R1<R3<R2の関係を満たす。
また、この自動変速機TM3には、図6に示すように、制御装置による係合要素C1〜C4,B1〜B3の係脱制御により、前進7速(Low〜6th,SL)および後進1速(Rvs)の変速レンジが設定される。図7に、図3と同じ要領で作成された複列式遊星歯車機構PGの速度線図を示している。上記各比r1〜r3,r20,r30の設定により、各変速レンジに対する入出力比が、図6の数値や図7のプロットLow〜6th,Rvs,SLに示すように設定される。
図2,図6に示すように、1速〜6速および後進レンジは、第1構成例と同様にして設定される。スーパーローレンジ(SL)は、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により設定される。第1クラッチC1の係合により、3速レンジと同様に、第2センタ軸4が第1回転速度R1で入力軸1と同じ方向に回転するため、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24(第4回転要素RE4)が第1回転速度R1で正の方向に回転する。第3ブレーキB3の係合により、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)が固定保持される。したがって、第2プラネタリギヤ30のキャリア33(第2回転要素RE2)は、これら回転速度に対応する第1縦軸N1および第4縦軸N4上の2点を結ぶ直線LSLと、第2縦軸N2との交点(プロットSL)で示される回転速度で回転する。このとき、キャリア33は、1速レンジよりも低速の回転速度で正の方向に回転する。スーパーローレンジが設定されることにより、1速レンジが設定されるときよりも大きな駆動力を車輪に伝達でき、この自動変速機TM3が搭載された車両により、例えば他の車両を牽引させることも可能になる。
このように第3構成例の自動変速機TM3は、第1構成例と同様の効果を有する。さらに、複列式遊星歯車機構PGの入力要素の1つである第1回転要素RE1を固定保持する第3ブレーキB3が追加されており、第1構成例の自動変速機TM1と基本的な構造を同じままとして変速レンジが追加されている。特に、複列式遊星歯車機構PGについては、ギヤ比の設定も同じままとしている。このように、例えば副変速機など複雑な機構を備える必要がなく、簡単な構造のブレーキ装置を設けるだけで、大きな駆動力を車輪に伝達できる自動変速機を軽量かつコンパクトに構成できる。また、この第3ブレーキB3は、複列式遊星歯車機構PGの第1回転要素RE1に連結される構成要素を固定保持できるように設けられているが、この要素が平行軸式変速機構PTM1を構成する第4クラッチC4のクラッチガイドであるため、新たにブレーキ装置を追加しても複列式遊星歯車機構PGの周辺構造を複雑化させることがない。さらには、ブレーキバンドなどで構成すると、新たにブレーキ装置を追加しても自動変速機TM1の全体を大型化させることがない。
次に、図8を参照して第4構成例の自動変速機TM4について説明する。基本的な構造が同じで同一の機能を果たす部材には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
この自動変速機TM4は、上流側の平行軸式変速機構PTM3と、下流側の遊星歯車機構PGとから構成され、変速機ケーシング70の内部空間に収容されている。この変速機ケーシング70は、第1構成例において平行軸室を二分した第2隔壁42が省略された構造になっており、中央隔壁71の上流側に一体の平行軸室70bが形成され、中央隔壁71の下流側にプラネタリ室70aが形成されている。なお、第3ギヤ列G3の下流側に第3および第4クラッチC3,C4が設けられており、第3ギヤ列G3が平行軸室70bの内部に設けられ、第3および第4クラッチC3,C4がプラネタリ室70aの内部に設けられている。
平行軸室70bの内部には、入力軸1の一部と、カウンタ軸2と、第2センタ軸4の一部と、第1〜第3ギヤ列G1〜G3と、第1および第2クラッチC1,C2とが設けられる。第1〜第3ギヤ列G1〜G3は、上流側から第2ギヤ列G2、第1ギヤ列G1、第3ギヤ列G3の順で配置されている。入力軸1は、上流側外壁73に保持されたベアリング81と、平行軸室70bの内部を延びる内壁72により保持されたベアリング82により2点で支持されている。入力軸1の入力側端部は、ロックアップクラッチ7およびトルクコンバータ8を介してエンジン出力軸6が接続されている。カウンタ軸2は、上流側外壁73に保持されたベアリング83と、中央隔壁71により保持されたベアリング84とにより2点で回転自在に支持されている。また、第3ギヤ列G3を構成する第3ドリブンギヤ16は、入力軸1の外側に設けられたベアリング85により回転自在に支持されて入力軸1上を相対回転可能になっており、この第3ドリブンギヤ16が連結される第2センタ軸4は、入力軸1上を相対回転可能になっている。
プラネタリ室70aには、入力軸1の一部と、第1センタ軸3と、第2センタ軸4の一部と、出力軸5の一部と、第3および第4クラッチC3,C4と、第1および第2ブレーキB1,B2と、第1構成例と同様に第1プラネタリギヤ20および第2プラネタリギヤ30からなる複列式遊星歯車機構PGとが収容される。
入力軸1および第2センタ軸4は、中央隔壁71を貫通するようにしてプラネタリ室70aにその一部が収容される。第1ブレーキB1は、中央隔壁71に沿って設けられている。第2センタ軸4は、第1ブレーキB1に接続されており、入力軸1は、第1ブレーキB1の下流側に設けられた第3クラッチC3のクラッチガイドに接続される。第3クラッチC3のクラッチインナには、入力軸1に対して同軸上に設けられた第1センタ軸3が下流側に延びるようにして接続される。第1センタ軸3は、第3クラッチC3の下流側に設けられた第4クラッチC4のクラッチガイドが連結され、さらに下流側に設けられた複列式遊星歯車機構PGの両サンギヤ21,31に接続されている。第4クラッチC4のクラッチインナは、連結部92を介して第1プラネタリギヤ20のキャリア23に連結されている。さらに、第1プラネタリギヤ20のキャリア23は、連結部93を介して第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34と連結されている。この連結部93は、プラネタリ室70aの下流端部に設けられた第2ブレーキB2に接続されている。また、第4センタ軸4は、第3および第4クラッチC3,C4の外側を回転自在に設けられた連結部91を介して第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24に連結されている。出力軸5は、端部が第2プラネタリギヤ30のキャリア33に接続され、プラネタリ室70aの外部に向けて延びており、下流側外壁74により保持されたベアリング86により回転自在に支持される。また、出力軸5には、パーキングギヤ9が軸支されており、停止レンジへのシフト操作があるとこのパーキングギヤ9を用いて車輪の回転が制動されるようになっている。
この自動変速機TM4においても、入力軸1が平行軸式変速機構PTM3の入力要素として機能し、第1および第2センタ軸3,4が平行軸式変速機構PTM3の出力要素として機能する。また、第1クラッチC1が係合すると、減速用経路を介して入力軸1の回転が第1変速比r1に応じて第1回転速度R1に変速されて第2センタ軸4に伝達され、第2クラッチC2が係合すると、増速用経路を介して入力軸1の回転が第2変速比r2に応じて第2回転速度R2に変速されて第2センタ軸4に伝達され、第3クラッチC3が係合すると、中速用経路を介して入力軸1の回転がそのまま第1センタ軸3に伝達され、第1センタ軸3は第3回転速度R3(=Ne)で回転する。第3クラッチC3による動力伝達が第3変速比r3(=1.000)に応じて行われるとすると、第1〜第3変速比r1〜r3は、r2<r3<r1の関係にあり、第1〜第3回転速度R1〜R3は、R1<R3<R2の関係にある。また、入力軸1と出力軸5とが同軸上にあり、FR型車両への搭載性がよい。
また、第1構成例と同様に、複列式遊星歯車機構PGにおいて、両サンギヤ21,31が第1回転要素RE1として機能し、第2プラネタリギヤ30のキャリア33が第2回転要素RE2として機能し、第1プラネタリギヤ20のキャリア23および第2プラネタリギヤ30のリングギヤ34が第3回転要素RE3として機能し、第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24が第4回転要素RE4と機能し、第1および第4回転要素RE1,RE4が入力要素として機能し、第2回転要素RE2が出力要素として機能する。また、第1ブレーキB1は、入力要素の一つである第4回転要素RE4を固定保持可能になっており、第2ブレーキB2は、入力要素でない第3回転要素RE3を固定保持可能になっている。第4クラッチC4が係合すると、第1および第3回転要素RE1,RE3を一体回転させることができる。
この自動変速機TM4においても、第1構成例と同様にして各比r1〜r3,r20,r30が設定される。また、図2に示す係合要素C1〜C4,B1,B2の係脱制御により、前進6段および後進1段の変速レンジが設定される。また、複列式遊星歯車機構PGの4つの回転要素RE1〜RE4を図3に示す速度線図と同様にして回転させることができ、第1構成例と同様の入出力比が設定される。
なお、第4クラッチC4の係合により設定される4速および6速レンジについては、複列式遊星歯車機構PGの作動が第1〜第3構成例と相違する。第4クラッチC4が係合すると、両サンギヤ21,31(第1回転要素RE1)と第1プラネタリギヤ20のキャリア23(第3回転要素RE3)とが一体回転するため、4速レンジにおいては、図3のプロットAで示すように第1および第3回転要素RE1,RE3が第3回転速度R3で回転し、6速レンジにおいては、図3のプロットBで示すように第1および第3回転要素RE1,RE3が第2回転速度R2で回転する。このように作動は相違するが、本構成例の第4クラッチC4も第1構成例と同様に、直線L4,L6に示すように第1〜第4回転要素RE1〜RE4のすべてを同じ速度で回転させるための係合要素として機能する。
このため、第4構成例の自動変速機TM4についても、第1構成例と同様の効果を得ることができる。さらに、この自動変速機TM4は、第3ギヤ列G3を平行軸室70bの内部に設けて第3および第4クラッチC3,C4をプラネタリ室70aの内部に設けており、カウンタ軸2が2点で支持されている。これにより、カウンタ軸2の撓み剛性が向上し、変速機ケーシングの強度確保が容易となり、構造を複雑化することなく自動変速機を構成できる。また、このように第3および第4クラッチC3,C4をプラネタリ室70aの内部に設けることにより、第1構成例のようにクラッチがギヤ列により挟み込まれたレイアウトが回避されるとともに、第1構成例において反力を受けるために剛性を確保するような構造になっていた隔壁の間に挟まれたレイアウトが回避されている。第1構成例では、このようなレイアウトであることから、隔壁の剛性確保とクラッチの組立性を両立させる必要があるが、本構成例では、中央隔壁71のみにより変速機ケーシング70の内部空間が仕切られており、その中央隔壁71の上流側に第1〜第3ギヤ列G1〜G3が設けられ、中央隔壁71の下流側に第3および第4クラッチC3,C4を設けているため、第3および第4クラッチC3,C4の組立性と中央隔壁71の剛性確保を両立させることができる。
さらに、第4クラッチC4のクラッチインナが、第1〜第3構成例では第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24に連結されていたのに対し、第1プラネタリギヤ20のキャリア23を連結されるようになっている。なお、第4クラッチC4のクラッチインナを第1〜第3構成例と同様に第1プラネタリギヤ20のリングギヤ24に連結させるには、連結部分にスプライン嵌合などの分割構造にすることが考えられる。また、クラッチ容量の上ではリングギヤ24に接続するほうが有利となり、高トルク低回転の自動変速機を構成する場合に有利となる。一方、第4構成例のように、キャリア23に直接連結用のハブを設けることができ、スプライン嵌合などの分割構造を回避して組み立てることができる。また、第4クラッチC4が開放しているときの相対回転はキャリア23に連結されるほうが有利となり、低トルク高回転の自動変速機を構成する場合に有利となる。本構成例のような第4クラッチC4の接続により、低トルク高回転の自動変速機を構成する上で有利となるとともに、組立性のよい自動変速機を構成することができる。
本発明に係る自動変速機は、上記の構成に限られない。例えば、第1〜第3構成例において第1ギヤ列G1および第1クラッチC1が上流側に設けられ、第4構成例では第2ギヤ列G2および第2クラッチC2が上流側に設けられているが、いずれの構成例についても両者の配設位置を反転させて構成してもよい。また、第3ギヤ列G3は、各スケルトン図において第3ドリブンギヤ16が第3ドライブギヤ15よりも大径に示され、1よりも大きいギヤ比が設定されているように示されているが、このギヤ比は、第1〜第3変速比r1〜r3がr2<r3<r1の関係を満たせばどのように設定されていてもよく、適宜設定を変更できる。この第3ギヤ列G3のギヤ比の調整を併せて行うことにより、より木目細かに入出力比を設定できる。
なお、第1〜第3構成例を示す図1,図4,図5には、第4構成例で示すエンジン出力軸6、ロックアップクラッチ7、トルクコンバータ8およびパーキングギヤ9が図示されていないが、第1〜第3構成例においても同様にして、入力軸1は、ロックアップクラッチおよびトルクコンバータを介してエンジン出力軸に接続され、エンジンからの駆動力が伝達されるように構成されており、出力軸5は、パーキングギヤを軸支し、停止レンジ設定時に車輪の回転を制動させることができるように構成されている。
図2,図3,図6,図7に示された入出力比は、本発明の実施例として一例を示したものであって図示した値に限られず、第1〜第3ギヤ列G1〜G3や両プラネタリギヤ20,30のギヤ比の設定を変更することにより、搭載される車両に合わせて容易に適宜設定を変更できる。