JP2007152913A - 圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】圧電体層の結晶性を向上し良好な変位特性が安定して得られる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】下電極膜60上に第1の強誘電体膜71aとする工程と、この第1の強誘電体膜上にレジスト膜を形成すると共にこのレジスト膜をマスクとして第1の強誘電体膜及び下電極膜をエッチングして所定形状に形成する工程と、レジスト膜を酸素プラズマアッシングによって除去する工程と、第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に一定時間浸漬させる工程と、残りの強誘電体膜を形成する工程と、圧電体層70上に上電極膜80を形成後、上電極膜及び圧電体層をパターニングする工程とを有するようにする。
【選択図】図3

Description

本発明は、強誘電材料からなる圧電体層を具備する圧電素子の製造方法、及び圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料等の強誘電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。また、インクジェット式記録ヘッドとしては、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
ここで、圧電素子を構成する圧電体層としては、例えば、複数の強誘電体膜を積層することによって形成されたものがある。その製造方法としては、次のようなものがある。まず、基板上に設けられた下電極膜上に有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥およびゲル化(脱脂)して強誘電体前駆体膜を形成し、その後、高温で熱処理して結晶化させて最下層の強誘電体膜(第1の強誘電体膜)を形成する。次に、第1の強誘電体膜及び下電極膜をエッチングすることによってこれら第1の強誘電体膜及び下電極膜を所定形状に形成する。その後、再び、有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥及びゲル化(脱脂)する工程を少なくとも一回以上実施し、その後、高温で熱処理して結晶化させる。そして、これらの工程をさらに複数回繰り返し実施することで所定厚さの圧電体層を得ている方法がある(例えば、特許文献1参照)。
このような方法で圧電体層を形成する場合、第1の強誘電体膜及び下電極膜を、第1の強誘電体膜上に形成されたレジスト膜をマスクとしてエッチングし、レジスト膜を、例えば、酸素プラズマアッシング装置等を用いて除去した後、第1の強誘電体膜上に残りの強誘電体膜を形成する。
そして、このように酸素プラズマアッシング装置を用いてレジスト膜を除去した後に第1の強誘電体膜上に残りの強誘電体膜を形成すると、第1の強誘電体膜の表面がダメージを受けているせいか、圧電体層の結晶配向等の結晶性が低下してしまうという問題がある。すなわち、第1の強誘電体の結晶性が、残りの強誘電体層に引き継がれず、圧電体層の結晶性が低下してしまうという問題がある。
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子だけでなく、あらゆる装置に用いられる圧電素子の製造方法において、同様に存在する。
特開2005−014265号公報
本発明はこのような事情に鑑み、圧電体層の結晶性を向上し良好な変位特性が安定して得られる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、基板の表面に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に強誘電体前駆体膜を所定厚さで形成しそれを脱脂及び焼成することで圧電体層を構成する複数の強誘電体膜のうちの最下層である第1の強誘電体膜とする工程と、この第1の強誘電体膜上にレジストを塗布し露光及び現像することにより所定形状のレジスト膜を形成すると共にこのレジスト膜をマスクとして前記第1の強誘電体膜及び前記下電極膜をエッチングして所定形状に形成する工程と、前記レジスト膜を酸素プラズマアッシングによって除去する工程と、前記第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に一定時間浸漬させる工程と、少なくとも前記第1の強誘電体膜上に強誘電体前駆体を所定厚さで形成しそれを脱脂及び焼成して強誘電体膜を形成する工程を複数回繰り返すことにより前記圧電体層を構成する残りの強誘電体膜を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極膜を形成後、該上電極膜及び前記圧電体層をパターニングする工程とを有することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第1の態様では、酸素プラズマアッシングによってレジスト膜を除去する際に第1の強誘電体膜の表面に形成される変質層が、第1の強誘電体膜を所定の薬液に浸漬されることで除去される。これにより、圧電体層を構成する各強誘電体膜の結晶が連続的に形成されて圧電体層の結晶性が向上する。
本発明の第2の態様は、前記薬液が、酸素プラズマアッシングによって前記レジスト膜を除去した後に前記第1の強誘電体膜の表面に残る有機成分を除去する有機剥離剤を兼ねていることを特徴とする第1の態様の圧電素子の製造方法にある。
かかる第2の態様では、第1の強誘電体膜の表面の変質層と共に有機成分が除去され、これにより、圧電体層の結晶性がより確実に向上する。
本発明の第3の態様は、前記第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に一定時間浸漬させる工程では、当該第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に複数回浸漬させることを特徴とする第1又は2の態様の圧電素子の製造方法にある。
かかる第3の態様では、第1の強誘電体膜の表面の変質層がより確実に除去される。
本発明の第4の態様は、前記圧電体層を構成する各強誘電体膜を、結晶面方位が(100)配向となるように形成することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第4の態様では、変位特性に優れた圧電素子を形成することができる。
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第5の態様では、液滴の吐出特性を向上した液体噴射ヘッドを実現することができる。
以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図であり、図3は、圧電素子の層構造を示す概略図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼(SUS)などからなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
ここで、本実施形態に係る圧電素子300を構成する下電極膜60は、圧力発生室12の両端部近傍でそれぞれパターニングされ、圧力発生室12の並設方向に沿って連続的に設けられている。また、本実施形態では、各圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の端面は、絶縁体膜55に対して所定角度で傾斜する傾斜面となっている。
圧電体層70は、圧力発生室12毎に独立して設けられ、図3に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電材料からなる複数層の強誘電体膜71(71a〜71d)で構成され、それらのうちの最下層である第1の強誘電体膜71aは下電極膜60上のみに設けられている。そして、この第1の強誘電体膜71aの端面は、下電極膜60の端面に連続する傾斜面となっている。また、この第1の強誘電体膜71a上に形成される第2〜4の強誘電体膜71b〜71dは、第1の強誘電体膜71a上から絶縁体膜55上まで、第1の強誘電体膜71a及び下電極膜60の傾斜した端面を覆って設けられている。
なお、上電極膜80は、圧電体層70と同様に圧力発生室12毎に独立して設けられている。そして、各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなる絶縁体膜55上まで延設されるリード電極90がそれぞれ接続されている。
また、流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。なお、この圧電素子保持部31は密封されていてもよいが、密封されていなくてもよい。また、保護基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。さらに、保護基板30上には、剛性が低く可撓性を有する材料で形成される封止膜41と金属等の硬質の材料で形成される固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。なお、固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以下、このような本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、圧電素子の形成方法について図4〜図8を参照して説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化して弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を全面に形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとからなる下電極膜60を絶縁体膜55上に形成する。この下電極膜60の材料としては、白金、イリジウム等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、本実施形態のように、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金、イリジウム等が好適である。
次いで、下電極膜60上に圧電体層70を形成する。圧電体層70は、上述したように複数層の強誘電体膜71a〜71dを積層することによって形成され、本実施形態では、これらの強誘電体膜71をいわゆるゾル−ゲル法を用いて形成している。すなわち、金属有機物を触媒に溶解・分散しゾルを塗布乾燥しゲル化して強誘電体前駆体膜72を形成し、さらにこの強誘電体前駆体膜72を脱脂して有機成分を離脱させた後、焼成して結晶化させることで各強誘電体膜71を得ている。
具体的には、まず、図5(a)に示すように、下電極膜60上に、チタン又は酸化チタンからなる結晶種(層)65をスパッタ法により形成する。次いで、図5(b)に示すように、例えば、スピンコート法等の塗布法により未結晶状態の強誘電体前駆体膜72aを所定の厚さとなるように形成する。例えば、本実施形態では、焼成後の強誘電体膜71aの膜厚が110nm程度になるような膜厚で強誘電体前駆体膜72aを形成した。この強誘電体前駆体膜72aを所定温度で所定時間乾燥させて溶媒を蒸発させる。強誘電体前駆体膜72aを乾燥させる温度は、例えば、150℃以上200℃以下であることが好ましく、好適には180℃程度である。また、乾燥させる時間は、例えば、5分以上15分以下であることが好ましく、好適には10分程度である。
そして、乾燥した強誘電体前駆体膜72aを所定温度で脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、強誘電体前駆体膜72aの有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。なお、脱脂時の流路形成基板用ウェハ110の加熱温度は、300℃〜500℃程度であることが好ましい。温度が高すぎると強誘電体前駆体膜72aの結晶化が始まってしまい、温度が低すぎると十分な脱脂が行えないためである。例えば、本実施形態では、ホットプレートによって流路形成基板用ウェハ110を400℃程度に加熱して、強誘電体前駆体膜72aの脱脂を行った。
このように強誘電体前駆体膜72aの脱脂を行った後、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置等に挿入し、強誘電体前駆体膜72aを約700℃の高温で焼成して結晶化することにより、最下層の強誘電体膜である第1の強誘電体膜71aを形成する。
次に、下電極膜60と第1の強誘電体膜71aとを同時にパターニングする。まず図5(c)に示すように、第1の強誘電体膜71a上にレジストを塗布し、露光及び現像することにより所定パターンのレジスト膜200を形成する。ここで、レジストは、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により塗布して形成し、レジスト膜200は、その後、所定のマスクを用いて露光・現像・ベークを行うことにより形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。なお、本実施形態では、レジスト膜200の端面が所定角度で傾斜するように形成している。
そして、図6(a)に示すように、このようなレジスト膜200を介して下電極膜60及び第1の強誘電体膜71aをイオンミリングによってパターニングする。このとき、これら下電極膜60及び第1の強誘電体膜71aは、レジスト膜200の傾斜した端面に沿ってパターニングされ、これらの端面は、振動板に対して所定角度で傾斜する傾斜面となる。
次に、図6(b)に示すように、第1の強誘電体膜71a上のレジスト膜200を除去する。具体的には、第1の強誘電体膜71a上のレジスト膜200を、酸素(O)プラズマアッシングによって除去する。なお、本実施形態では、酸素プラズマアッシング装置として、東京応化工業株式会社製のTCA−7822Cを使用した。
ここで、このように酸素プラズマアッシングにより第1の強誘電体膜71a上のレジスト膜200を除去すると、第1の強誘電体膜71aの表層部分に、第1の強誘電体膜71aが変質(損傷)した変質層75が形成されてしまう。
このため、本発明では、次に、図6(c)に示すように、少なくともこの第1の強誘電体膜71aの表面を所定の薬液250に所定時間浸漬することにより、この変質層75を除去する工程を実施するようにした。なお、薬液250に浸漬する時間は、使用する薬液の種類に応じて適宜決定されればよいが、第1の強誘電体膜71aを薬液250に複数回浸漬させるようにするのが好ましい。本実施形態では、第1の強誘電体膜71aの表面を薬液に5分間浸漬させる工程を2回繰り返して行うようにした。このような薬液250としては、第1の強誘電体膜71aの変質層75を除去できるものであれば特に限定されないが、例えば、本実施形態では、下記原料を所定の割合で含む薬液を用いている。
(薬液の原料)
1−メチル−2−ピロリジノン(NMP) 30〜65%
モノエタノールアミン 10〜60%
ピロカテコール 5%未満
複素還元系有機溶剤 5〜50%
このように、第1の強誘電体膜71aを薬液250に所定時間浸漬させるようにすることで、第1の強誘電体膜71a表面の変質層75を除去することができる。これにより、以下の工程で第1の強誘電体膜71a上に形成される第2〜第4の強誘電体膜71b〜71dが、第1の強誘電体膜71aの結晶性を引き継いで形成されるため、極めて良好な結晶性を有する圧電体層70が形成される。
ここで、図10に第1の強誘電体膜71aの表面のSEM像を示す。なお、図10(a)は、酸素プラズマアッシングによってレジスト膜200を除去した後のものであり、図10(b)は、酸素プラズマアッシングによってレジスト膜200を除去した後、さらに上記薬液250に浸漬させる工程を実施したものである。
酸素プラズマアッシングによってレジスト膜を除去した状態では、図10(a)に示すように、第1の強誘電体膜71aの表面に、白い斑点状の文様が確認された。すなわち、第1の強誘電体膜71aの表層が変質あるいは損傷していると考えられる。これに対し、第1の強誘電体膜71aの表面を薬液250に浸漬させる工程を実施した後では、図10(b)に示すように、斑点状の文様はほぼ確認されなかった。
このことから明らかなように、レジスト膜200をアッシングにより除去した後、第1の強誘電体膜71aを薬液250に所定時間浸漬させる工程をさらに実施することで、第1の強誘電体膜71a表面の変質層75を確実に除去することができる。
なお、本実施形態で用いた薬液250は、レジスト膜200を剥離する際等にも用いられるものであり、第1の強誘電体膜71aの表面にレジスト膜(有機成分)が残っている場合には、第1の強誘電体膜71aの表面を薬液250に浸漬させることで、変質層75と共に残っているレジスト膜も完全に除去される。
次いで、図6(d)に示すように、この第1の強誘電体膜71a上に、スピンコート法等により強誘電体前駆体膜72bを所定の厚さ、具体的には、焼成後で330nm程度の厚さとなるように形成する。本実施形態では、3回の塗布により所望の厚さの強誘電体前駆体膜72bを得ている。次いで、この強誘電体前駆体膜72bを乾燥・脱脂後、焼成して結晶化させて強誘電体膜71bとする。そして、このように、三度の塗布によって強誘電体前駆体膜72b〜72dを形成する工程と、その強誘電体前駆体膜72b〜72dを乾燥・脱脂後、焼成する工程とを複数回、本実施形態では、3回繰り返すことにより、第2〜第4の強誘電体膜71b〜71dを形成する。これにより、複数層の強誘電体膜71a〜71dからなり、厚さが約1μmの圧電体層70が形成される(図6(e))。
上述したように、本発明では、第1の強誘電体膜71aのパターニングに用いたレジスト膜200を酸素プラズマアッシングによって除去した後、第1の強誘電体膜71aの表面を薬液250に浸漬させて変質層75を除去するようにしたので、圧電体層70の結晶性が向上する。すなわち、圧電体層70を構成する第1〜第4の強誘電体膜71a〜71dの結晶は、第1の強誘電体膜71aから第4の強誘電体膜71dまで実質的に連続した柱状結晶となり且つ(100)面に優先配向する。したがって、圧電素子300の変位特性が向上し、インク吐出特性に優れたインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。
このような圧電体層70の材料としては、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、本実施形態では、圧電体層70を構成する各強誘電体膜71を、ゾル−ゲル法によって形成したが、これに限定されず、例えば、金属アルコキシド等の有機金属化合物をアルコールに溶解し、これに加水分解抑制剤等を加えて得たコロイド溶液を被対象物上に塗布した後、これを乾燥して焼成することで成膜する、いわゆるMOD(Metal-Organic Decomposition)法によって形成してもよい。
このような複数層の強誘電体膜71a〜71dからなる圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を積層形成し、圧電体層70及び上電極膜80を各圧力発生室12に対向する領域内にパターニングして圧電素子300を形成する(図7(b))。
次に、図7(c)に示すように、金(Au)からなる金属層を流路形成基板10の全面に亘って形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介してこの金属層を圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。
次いで、図8(a)に示すように、複数の保護基板30が一体的に形成される保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32等が予め形成されている。なお、保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコンウェハであり、保護基板用ウェハ130を接合することで流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、研磨及びウェットエッチングによって、流路形成基板用ウェハ110を、約70μmの厚さとなるように加工した。次いで、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(b)に示すように、このマスク膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
(試験例)
ここで、シリコンウェハ上に、下記実施例及び比較例の方法で圧電体層(強誘電体膜)を形成した実施例及び比較例に係るサンプルを作製し、各サンプルの圧電体層(強誘電体膜)のXRD回折パターンを測定し、各実施例及び比較例に係るサンプルのウェハの面内方向における(100)回折強度、(100)配向度及び(100)半価幅の分布を調べた。その結果を図11に示す。なお、図11の横軸の数値は、シリコンウェハの中心を座標(0,0)としたときの各測定箇所の座標を表す値である。
(実施例)
下電極膜上に形成した第1の強誘電体膜の表面を酸素プラズマアッシングで処理した後、第1の強誘電体膜の表面を上述した薬液に5分間浸漬させた。その後、第1の強誘電体膜上に、スピンコート法による塗布を3度繰り返して強誘電体前駆体膜を形成し、この強誘電体前駆体膜を乾燥、脱脂、焼成することによって第2の強誘電体膜を形成したものを実施例のサンプルとした。
(比較例)
第1の強誘電体膜の表面を薬液に浸漬させる工程を実施しない以外は、実施例と同様の工程によって作製したものを比較例のサンプルとした。
図11に示すように、実施例のサンプルと比較例のサンプルとは、(100)半価幅は殆ど変わらないものの、実施例に係るサンプルの(100)回折強度及び(100)配向度は、測定位置に拘わらず、比較例のサンプルよりも明らかに高くなっていた。
この結果から明らかなように、本発明のように、酸素プラズマアッシングによる処理の後に、薬液によって第1の強誘電体膜の表層の変質層を除去することで、圧電体層の結晶性を向上することができる。すなわち、圧電体層を良好に(100)面に配向させて、圧電素子の変位特性を向上することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、第1の強誘電体膜上の強誘電体膜(第2〜第4の強誘電体膜)は、それぞれ三度の塗布により強誘電体前駆体膜を形成後、この強誘電体前駆体膜を焼成することによって形成されているが、勿論、各強誘電体膜は、一度の塗布により形成した強誘電体前駆体膜をそれぞれ焼成することよって形成されていてもよい。また、上述の実施形態では、第1の強誘電体膜及び下電極膜の端面が振動板に対して傾斜するように形成したが、勿論、振動板に対して略垂直な端面であってもよい。また、上述の実施形態では、下電極膜が並設された圧力発生室に対応する領域に亘って連続的に設けられているが、これに限定されず、例えば、下電極膜を櫛歯状に形成し、各圧力発生室に対向する領域の下電極膜が実質的に独立するようにしてもよい。
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。さらに、本発明は、液体噴射ヘッドに利用される圧電素子だけでなく、他のあらゆる装置、例えば、マイクロホン、発音体、各種振動子、発信子等に搭載される圧電素子の製造方法にも適用できることは言うまでもない。
実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。 実施形態1に係る圧電素子の層構造を示す概略図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 第1の強誘電体膜の表面のSEM像である。 実施例及び比較例のサンプルのXRD解析結果を示すグラフである。
符号の説明
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 強誘電体膜、 72 強誘電体前駆体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 200 レジスト膜、 250 薬液、 300 圧電素子

Claims (5)

  1. 基板の表面に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に強誘電体前駆体膜を所定厚さで形成しそれを脱脂及び焼成することで圧電体層を構成する複数の強誘電体膜のうちの最下層である第1の強誘電体膜とする工程と、この第1の強誘電体膜上にレジストを塗布し露光及び現像することにより所定形状のレジスト膜を形成すると共にこのレジスト膜をマスクとして前記第1の強誘電体膜及び前記下電極膜をエッチングして所定形状に形成する工程と、前記レジスト膜を酸素プラズマアッシングによって除去する工程と、前記第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に一定時間浸漬させる工程と、少なくとも前記第1の強誘電体膜上に強誘電体前駆体を所定厚さで形成しそれを脱脂及び焼成して強誘電体膜を形成する工程を複数回繰り返すことにより前記圧電体層を構成する残りの強誘電体膜を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極膜を形成後、該上電極膜及び前記圧電体層をパターニングする工程とを有することを特徴とする圧電素子の製造方法。
  2. 前記薬液が、酸素プラズマアッシングによって前記レジスト膜を除去した後に前記第1の強誘電体膜の表面に残る有機成分を除去する有機剥離剤を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
  3. 前記第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に一定時間浸漬させる工程では、当該第1の強誘電体膜の表面を所定の薬液に複数回浸漬させることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子の製造方法。
  4. 前記圧電体層を構成する各強誘電体膜を、結晶面方位が(100)配向となるように形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
  5. 請求項1〜4の何れかに記載の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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