本発明は、新規な研磨材に関するものである。詳しく述べると、本発明は、高い硬度を有しかつ粒度調整が容易な各種精密研磨用の研磨材に関する。
一般に、半導体デバイス用基板表面、光学レンズ表面、液晶パネル表面、液晶表示素子用フィルター表面、その他、一般的な金属、ガラス等からなる製品の表面は、その特性向上のために表面研磨に供せられる。
また、近年、半導体基板(Si等)上に配線構造体を形成する方法として、CMP(Chemical Mechanical Polishing)技術ないしECMP(Electro Chemical Mechanical Polishing)技術を用いた製造工程(ダマシンプロセス)が開発され、実用化されている。
上述したような研磨処理、特に、精密研磨処理においては、従来、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の微粉を砥粒として用いて、研磨が行われているが、これらの材質は、その砥粒としての硬度が十分なものではなく、処理に長時間を要したり、また、研磨処理の過程で粉砕により発生した粉体が、被処理表面等に付着して容易に除去できない等の問題が生じている。
また、砥粒としてダイアモンド粉を用いることも多く行われている。ダイアモンド粉はその硬度が高く、研磨処理時間の短縮化の上では有効であるが、その硬度が高いために、所定の粒度のものを調整することが困難であり、かつまた、材質的に高価であるために、砥粒を固定化し、繰り返し使用できるような形態等を除き、多用されることは少ない。
また、砥粒の一部として繊維状のものを用いることも種々提案されている。
例えば、特許文献1には、アルミナ繊維、アルミナシリカ繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、ボロン繊維、炭素繊維および炭化ケイ素繊維からなる群から選ばれた無機繊維とゴム基材とからなり、この無機繊維の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする無機繊維含有ゴムよりなる研磨材が提案されている。この研磨材においては、砥粒として繊維状のものを用いることで、粒状の砥粒と比較してゴム基材からの脱落を防止し、研磨時における粉塵の発生を防止しようとするものである。しかしながら、特許文献1においては、繊維自体を砥粒とするものであるため、その粒度の調整は、繊維の裁断等によって行うしかなく、硬度の高い繊維を用いる程、粒度調整が困難となるものであり、また、ゴム基材中へ配合する際に、繊維が均一分散せず、各研磨材粒子相互における繊維の含有率、分散性が異なり、その性能にバラツキが生じる虞れが高いものであった。
また、特許文献2には、外径が2〜500nm、アスペクト比が5〜15000で中心部に中空構造を有する多層構造の炭素繊維と砥粒と母材を含むことを特徴とする研磨用複合材が提案されている。特許文献2の研磨用複合材においては、炭素繊維を含むことで、摺動性、弾力性、導電性、熱伝導性及び耐食性が向上し、砥粒の脱落を抑制し、摩擦抵抗を低減させ、研磨ムラを抑えて被研磨面を高平坦化させ、高精度の研削若しくは研磨加工が可能との効果が示されている。しかしながら、特許文献2においては、上記したような所定形状の微細炭素繊維を含むものの、この微細炭素繊維は、砥粒自体としては作用せず、研磨時における砥粒の作用を補助すべく機能するものであって、直接の研磨作用は、任意に選択される砥粒によってもたらされるものであるため、上述したような砥粒の硬度や粒度調整の問題は依然残るものであった。
特開平10−128669号公報
特開2004−181584号公報
従って、本発明は、上述したような従来技術における課題を解決してなる新規な研磨材を提供することを課題とする。本発明はさらに、その硬度が高い一方で、粒度調整が容易であり、精密研磨用として好適な研磨材を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明は、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体、および/またはその粉砕物(以下、炭素繊維構造体等という)を、砥粒として含有することを特徴する複合材料である。
本発明はまた、好ましくはパウダー、固形体、スラリーまたはペーストの形態である上記研磨材を提供するものである。
本発明はさらに、好ましくはラマン分光分析法(アルゴンレーザーの5144nmの波長を用いて測定)で測定されるID/IGが、0.2以下であることを特徴とする上記複合材料を提供するものである。
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有する炭素繊維構造体を、砥粒のベースとするものであるために、ダイアモンドと同等の非常に高い硬度を有する一方で、この炭素繊維構造体は、一般的な粉砕方法によって、上記したような粒状部を中心とする3次元構造は保持しつつも比較的容易に粉砕されるため、その粒度調整が非常に容易である。
また、炭素繊維構造体は高硬度であるため、研磨加工時において、当該炭素繊維構造体から、より微細な研磨粉が発生することは少ないため、これらが被研磨物表面等に付着してしまうことはなく、研磨処理後に例えば、超音波洗浄等によって容易に除去可能であり、その作業性が良好なものである。
さらに、これら炭素繊維構造体ないしその粉砕物は、樹脂ないしゴム等の有機物、水性および油性の液状媒体、金属等の各種研磨材中に配合した場合に、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま容易に分散し、少量の添加量においても、研磨材中に炭素繊維構造等を安定に均一分散することができる。このため、本発明に係る研磨材は、その組成が均一であり、安定した特性を発揮することが可能である。
また、炭素繊維構造体が優れた熱伝導性、電気的特性を有することによって、研磨加工時における静電気の発生、加熱等の問題も防止することが可能である。
このため、本発明により、各種微細加工に有用な研磨材が得られるものである。
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の研磨材は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体、および/またはその粉砕物を砥粒として含有することを特徴するものである。
なお、本発明に係る研磨材は、当該炭素繊維構造体、および/またはその粉砕物を砥粒として含有するものであれば、その形態としては特に限定されるものではなく、この砥粒そのままのパウダー状、あるいは樹脂ないしゴム、金属等に分散配合してなる固形状、あるいは水性および油性の液状体ないし粘性体等の分散媒体中に分散配合してなるスラリーないしペースト状等、任意の形態に調製することが可能である。
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径が15〜100nmの範囲の場合に、後述するように炭素繊維の断面が多角形状となり、良好な研磨性能が達成されるので、砥粒として適当であるためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、各種研磨材に配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cm3から2.1g/cm3に増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、各種研磨材中において、移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、各種の研磨材中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のまま研磨材中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の硬度、電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示すことができる。
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp2結合およびsp3結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する第一中間体および第二中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される)。
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに好ましくは1〜1000個程度、より好ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、好ましくは1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の好ましくは1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等の研磨材中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したまま研磨材中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍以下の場合に、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれず、研磨材中への添加剤、配合剤として適当なものとなる。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で好ましくは20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で好ましくは0.2〜1、より好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が好ましくは50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、好ましくは0.5〜300μm、より好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5〜300μmの範囲において、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態となるため、例えば、研磨材中において安定な分散状態となり、かつ研磨材中に分散配合させる際に、研磨材の粘性を高くさせず、研磨材中における炭素繊維構造体等の分散性が良好であるため好ましい。
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が好ましくは0.0001〜0.05g/cm3、より好ましくは0.001〜0.02g/cm3であることが望ましい。嵩密度が.0001〜0.05g/cm3の場合、研磨作用が高く、被研磨表面に対して良好な弾性、摺動性を持って接することができ、被研磨表面に必要以上の大きさでキズを付けないため好ましい。
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cm3において測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法(アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定)で測定されるID/IG比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=ID/IG)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体を得、これをさらに高温熱処理する。
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6〜18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
後述する第一中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する第一中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた第一中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
すなわち、例えば、この第一中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程、さらには所期の粒度を得るために、0.1〜50μm程度に微粉砕する工程とを経ることで、極めて容易に所望の円相当平均径を有する砥粒とすることができる。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理ないし微粉砕処理を行っても良い。
本発明の研磨材は、上記したような炭素繊維構造体、および/またはその粉砕物を砥粒として有するものであり、その使用用途等に応じて、上述したように各種の形態とすることができる。
固形物の形態とする場合には、前述のごとき炭素繊維構造体ないしその粉砕物を分散させる、炭素繊維構造体等の分散媒体(以下、分散媒体という)として、有機ポリマー、金属、液体(油性成分、水)等を使用することができ、その配合量としては、特に限定されるものではないが、例えば、全体の0.1〜20質量%程度である。
有機ポリマーとして、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセテート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリ(メタ)アクリレート及び液晶ポリマー等の各種熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂およびユリア樹脂等の各種熱硬化性樹脂、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム、エチレンアクリルゴム、ノルボルネンゴム及び熱可塑性エラストマー等の各種エラストマーが挙げられる。
また、分散媒体が金属である場合、適切な金属としては、アルミニウム、銅並びにこれらの合金及び混合物等の軟質金属ないし合金が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
また、スラリー状とする場合には、水性媒体あるいは油性媒体等の各種の液状媒体を分散媒体とすることができ、その場合の砥粒の配合量としては、特に限定されるものではないが、例えば、全体の0.1〜5質量%程度である。配合量がこの範囲において、十分な研磨性能を発揮させることができ、スラリーの粘度が上昇せず、その処理プロセスにもよるが、処理工程時の問題が発生せず、かつ過剰な研磨材を使用することにならないので、経済的であるため好ましい。
特に限定されるものではないが、水性媒体としては、水、例えば、エタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの炭素数が1〜10程度の1価アルコール類、エチレングリコール、グリセリンなどの炭素数3〜10程度の多価アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられ、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。油性媒体としては、例えば、各種鉱油、植物油、シリコーンオイル等などが挙げられ、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。シリコーンオイルを分散媒体として使用する場合、使用場面によるが、シリコーンオイルの粘度(25℃)は好ましくは2〜1000センチポイズ、より好ましくは5〜500センチポイズであることが、研磨性及び研磨材中の炭素繊維構造体の分散安定性の観点より望ましい。
また水性スラリーの場合、砥粒の分散安定性を向上させるために、必要に応じて各種界面活性剤、トリポリリン酸塩のような高分子分散剤、ヘキサメタリン酸塩などのリン酸塩、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル類、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などの添加剤を添加することも可能である。
さらに、CMPやECMP用途に応じては、必要に応じて、従来公知の組成と同様に、有機酸、例えば、カルボン酸、ヒドロキシル基及びカルボキシル基を含有するヒドロカルボン酸ならびにアミノ基を含有するアミノ酸等;スラリーのpHを7〜12程度に調整するためのpH調節剤としての塩基、たとえば水酸化アンモニウム、アルキル置換アンモニウムイオンを含有する塩基、アルカリ金属イオンを含有する塩基、アルカリ土類金属イオンを含有する塩基等を配合することができる。
さらに、スラリー中にはその他、各種公知の添加剤を配合することは可能である。
また、ペースト状とする場合にも、同様に、各種水性基体あるいは油性基体等の各種のものを分散媒体とすることができ、その場合の砥粒の配合量としては、特に限定されるものではないが、例えば、全体の5〜20質量%程度である。配合量がこの範囲において、十分な研磨性能を発揮させることができ、ペーストとしての展開が困難となるほど粘度が上昇しないため、その処理プロセスにもよるが、処理工程時の問題が発生せず、かつ過剰な研磨材を使用することにないので経済であるため好ましい。
特に限定されるものではないが、水性の分散媒体としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリグリコール類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル類、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子等が、また、油性基体としては、各種動物性および植物性の半固形油脂、シリコーングリース等を用いることが可能である。
本発明に係る研磨材は、上記したように、その硬度が高い一方で、粒度調整が容易であり、精密研磨用として好適なものであるから、例えば、半導体デバイス用基板表面、光学レンズ表面、液晶パネル表面、液晶表示素子用フィルター表面、あるいは、CMPないしECMPを用いたダマシンプロセスによる配線加工、その他、一般的な金属、ガラス等からなる製品の表面の精密研磨加工に好適に用いられるものである。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40L、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cm3の密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cm3に圧縮したときの抵抗を測定することとする。
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
<導電性>
得られた試験片を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学製)を用いて塗膜表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
<抗折強度>
得られた試験片を、10mm幅の短冊に切り出し、引張試験機により抗折強度(kg/mm2)を測定した。
<熱伝導率>
試験片所定の形状に切り出し、レーザーフラッシュ法にて熱伝導率(W/mK)を測定した。
<表面粗さ>
テーラー・ホブソン社製、探針式粗さ計タリステップにより極大、極小値それぞれの平均値の差を求めた。
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
上記のようにして合成された第一中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm3、ラマンID/IG比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cm3であった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例1で測定した各種物性値を表1及び2にまとめた。
合成例2
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH4 7.5%、C6H6 0.3%、C2H2 0.7%、C2H6 0.1%、CO 0.3%、N2 3.5%、H2 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH4/C6H6(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH4:C6H6=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C2H2、C2H6およびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
そして、合成例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図8に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、実施例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す合成例1の結果とほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm3、ラマンID/IG比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cm3であった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例2で測定した各種物性値を表3及び4にまとめた。
実施例1 研磨材の製造1
合成例1で得られた炭素繊維構造体1gと鉱油99g(粘度10cps、25℃)からなる分散体に平均粒径5mmのジルコニアをかさ容量で70mL加え、周速10m/sのビーズミルにて50分間粉砕した。メッシュによりジルコニアを除去し、SEMより求めたD
50が6.4μm、単分散度が1.2の研磨材スラリーを得た。
実施例2 研磨材の製造2
合成例2で得られた炭素繊維構造体1gとシリコーンオイル9g(粘度300cps、25℃)からなる混合物を240MPaの圧力にて水平対向させたダイアモンドライクカーボンをスパッタした100μmの細孔より吐出、衝突させた。SEMより求めたD50が0.3μmの研磨材ペーストを得た。
研磨試験例1
実施例1で得られたスラリー数滴をナイロン織物に添加し、300mmφ×5mm厚の石英を中心荷重500g、100rpmのアステロイド軌跡により研磨した。研磨面の表面粗さは46秒後に11μmであった。
研磨試験例2〜4
表5の条件を適用し研磨試験例1に準じて研磨した。いづれの場合も迅速に研磨材に所望の表面粗さが得られた。
比較試験例1〜3
表6の条件を適用し研磨した。いづれの場合も研磨試験例に比較し長時間の研磨後における表面粗度が粗かった。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体の第一中間体のSEM写真である。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体の第一中間体のTEM写真である。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
(a)(b)は、それぞれ本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
本発明の複合材料に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
符号の説明
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離