以下、本発明の一実施形態を図面を参照して詳細に説明する。以下の実施形態の説明では、送受信機の動作原理を説明するために具体的な周波数および構成を例に挙げているが、この周波数の値や回路構成は、本発明の適用範囲を限定するものではない。図1は、本発明の第1の実施形態の無線システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この実施形態の無線システム1は、送信装置2と受信装置3とを備えている。送信装置2は、信号入力部11、ベースバンド信号処理部12、ローカル信号生成部13、周波数変換部14、ローカル信号遅延部15、ローカル信号重畳部16、電力増幅部17、送信信号分岐部18、アンテナ19および送信信号検出部20を具備している。受信装置3は、アンテナ21、高周波増幅部22、二乗検波部23、ベースバンド信号処理部24および信号出力部25を具備している。
まず送信装置2について説明する。信号入力部11は、デジタル情報を取り込む入力手段である。信号入力部11は、送信装置2の外部から情報を取り込むインタフェースとして機能する。ベースバンド信号処理部12は、信号入力部11から取り込まれたデジタル情報をベースバンド信号に変換するとともにPSK変調して、ベースバンドのPSK信号を出力するデジタル変調手段である。ベースバンド信号処理部12は、ベースバンド信号をPSK系変調するものであればどのような構成のものでもよい。
ローカル信号生成部13は、ベースバンド信号処理部12によりPSK変調されたベースバンド信号を所望の送信周波数に変換するための局部発振器である。この実施形態の送信装置2では、ベースバンド信号を直接送信周波数に変換するため、ローカル信号生成部13は、送信周波数と略同一の周波数のローカル信号を生成する。ローカル信号生成部13は、PLL発振器(周波数シンセサイザ)や、PLL発振器と逓倍器(周波数逓倍器)とを組み合わせたものなどを用いることができる(例えば、「移動通信の基礎」 奥村善久/進士昌明 監修 社団法人電子情報通信学会 参照)。
なお、この実施形態の無線システム、送信装置では、ローカル信号生成部13にて生成されるローカル信号を分岐して送信用および受信用ローカル信号を生成している。以下の説明において、送信信号を周波数変換するためのローカル信号を「送信用ローカル信号」(Sc)、受信装置において受信信号を再生するために送信信号に重畳されるローカル信号を「受信用ローカル信号」(Sc’)と呼ぶ。
周波数変換部14は、ベースバンド信号処理部12によりPSK変調されたベースバンド信号Sbを所望の送信周波数に変換するミキサーである。周波数変換部14は、当該ベースバンド信号Sbとローカル信号生成部13により生成された送信用ローカル信号Scとを乗算して周波数を変換する。周波数変換部14としては、例えばギルバートセル乗算器などトランジスタにより構成されたミキサーや、ダブルバランストミキサーなどダイオードにより構成されたミキサーなどを用いることができる(例えば、「アナログ集積回路設計技術(下)」 P.R.グレイ/R.G.メイヤー共著 永田穣 監訳 培風館 参照)。
ローカル信号遅延部15は、ローカル信号生成部13により生成されたローカル信号を遅延制御して受信装置3の受信用ローカル信号Sc’を出力する位相制御手段である。また、ローカル信号重畳部16は、周波数変換部14により送信周波数に変換された送信信号とローカル信号遅延部15から出力される受信用ローカル信号とを合成(加算)する加算手段である。
この実施形態の無線システムでは、ローカル信号重畳部16が、受信装置のための受信用ローカル信号Sc’を送信信号に重畳している。しかし、受信装置が当該重畳された受信用ローカル信号Sc’を用いて元のベースバンド信号Sbを極力誤りなく得るためには、周波数変換部14において周波数変換に用いられた送信用ローカル信号Scと、ローカル信号重畳部16により重畳される受信用ローカル信号Sc’とが互いに同期していることが望ましい。ローカル信号遅延部15は、ローカル信号重畳部16において送信信号に重畳される受信用ローカル信号Sc’の位相を制御し、送信用ローカル信号Scと受信用ローカル信号Sc’とを同期させる機能を有する。
電力増幅部17は、ローカル信号重畳部16により受信用ローカル信号が重畳された送信信号を所定の送信電力まで増幅する増幅手段である。この実施形態では、送信信号がPSK変調されているから、効率的なC級動作の電力増幅器を用いることができる(例えば、「マイクロ波半藤対回路 基礎と展開」 小西良弘 監修 本城和彦 著 日刊工業新聞社 参照)。
送信信号分岐部18は、電力増幅部17により増幅された送信信号をアンテナ19に送るとともにローカル信号遅延部15の制御用に信号の一部を分岐する信号分岐手段である。送信信号分岐部18がローカル信号遅延部15のために分岐する送信信号は、受信用ローカル信号の遅延制御の必要最小限でよい。送信信号分岐部18としては、例えば高周波用電力分配器やブランチラインカプラなどを用いることができる(例えば「マイクロウェーブ技術入門講座(基礎編)」 森栄二 著 CQ出版社 参照)。
アンテナ19は、送信信号分岐部18を通過した送信信号を放射する空中線である。アンテナ19は、送信する周波数と無線システムの設置形態(送信装置と受信装置との距離等)に応じて適宜選択される。
送信信号検出部20は、ローカル信号遅延部15での受信用ローカル信号の位相制御量(遅延量)を制御する遅延制御手段である。送信信号検出部20は、送信信号分岐部18から分岐された送信信号に基づいて、ローカル信号遅延部15での受信用ローカル信号の遅延量を決定して制御する機能を有する。
続いて受信装置3について説明する。アンテナ21は、送信装置2からの信号を受信するアンテナである。アンテナ21は、送信装置2のアンテナ19と対応するが、同一の形式である必要はない。
高周波増幅部22は、アンテナ21により受信された受信信号を所定のレベルまで増幅する増幅手段である。高周波増幅部22は、低雑音のものが望ましく、複数段に分けて増幅してもよい。
二乗検波部23は、高周波増幅部22により増幅された受信信号を二乗検波する検波器である。二乗検波部23は、受信用ローカル信号が重畳された受信信号からベースバンドのPSK信号に変換する。すなわち、二乗検波部23は、受信周波数をベースバンドに変換する周波数変換機能を有する。
ベースバンド信号処理部24は、二乗検波部23から出力されたベースバンドのPSK信号をPSK復調し、得られたベースバンド信号から元のデジタル情報に変換する復調手段である。ベースバンド信号処理部24は、送信装置2のベースバンド信号処理部12と対応する。信号出力部25は、ベースバンド信号処理部24から出力される元のデジタル情報を外部に出力するインタフェースである。
信号入力部11から入力されたデジタル情報は、ベースバンド信号処理部12によりベースバンドのPSK信号に変換される。一方、ローカル信号生成部13は、ベースバンド信号を送信周波数の信号に変換するためのローカル信号を生成する。周波数変換部14は、当該ローカル信号(送信用ローカル信号)に基づき、ベースバンドのPSK信号を送信周波数の信号に変換する。ローカル信号遅延部15は、送信信号検出部20からの位相制御情報に基づき、ローカル信号の位相を制御(遅延)して受信用ローカル信号を生成する。ローカル信号重畳部16は、周波数変換部14により変換された送信周波数の信号に受信用ローカル信号を重畳して送信信号として出力する。電力増幅部17は、送信信号を所定の電力まで増幅する。増幅された送信信号は、送信信号分岐部18を経てアンテナ19から空間に放射される。送信信号検出部20は、送信信号分岐部18から検出される送信信号に基づき、送信信号に含まれる送信用ローカル信号の成分および受信用ローカル信号の成分が互いに同期するように、ローカル信号遅延部15に対し受信用ローカル信号の位相制御を指示する。
一方、空間からアンテナ21を介して取り込まれた送信信号(受信信号)は、高周波増幅部22により所定の電力まで増幅される。二乗検波部23は、増幅された受信信号を二乗検波してベースバンド信号を生成する。ベースバンド信号処理部24は、生成されたベースバンド信号から元のデジタル情報を復元し、信号出力部25を介して出力する。
このように、この実施形態の無線システム、送信装置によれば、PSK変調されたベースバンド信号と送信用ローカル信号を乗算して送信信号を生成するとともに、当該送信信号に受信用ローカル信号を重畳するので、受信装置側の受信用ローカル信号生成手段を省略することができる。特に、この実施形態の無線システム、送信装置では、ベースバンド信号を送信用ローカル信号により直接送信周波数に変換しているから、送信周波数とローカル信号周波数とがほぼ同一となる。すなわち、周波数変換された送信信号と当該送信信号に重畳される受信用ローカル信号とがほぼ同一の周波数となるので、送信装置の電力増幅部、アンテナ等、および受信装置の高周波増幅部等の設計が容易になり、構成を簡略化することができる。
また、この実施形態の無線システム、送信装置、受信装置によれば、送信信号に重畳する受信用ローカル信号の位相を、周波数変換に用いた送信用ローカル信号と同期させているので、受信装置側で十分な復調出力を得ることができる。特に、この実施形態の無線システム、送信装置、受信装置では、受信用ローカル信号の位相制御(同期制御)を送信直前の送信信号に基づいて行っているので、受信装置側の受信状態に即した制御が可能になる。
さらに、この実施形態の無線システム、受信装置では、受信信号に重畳された受信用ローカル信号を利用してベースバンド信号に変換しているので、受信用ローカル信号生成手段を省略することができ、受信装置の構成を簡略化することができる。特に、受信用ローカル信号生成手段が生成するローカル信号の質(安定度、雑音信号の量など)が受信装置のS/Nの悪化要因となるから、S/Nの悪化を抑えることも可能になる。
続いて、この実施形態の無線システムにおける送信装置について詳細に説明する。図2は、この実施形態の送信装置におけるベースバンド信号処理部12の構成を示すブロック図である。図2に示すように、この実施形態のベースバンド信号処理部12は、直列接続されたデジタル信号処理部31、D/A変換部32およびLPF33を備えている。
デジタル信号処理部31は、信号入力部11を介して取り込まれたデジタル情報がPSK変調されたベースバンド信号をデジタル信号として出力する変調手段である。デジタル信号処理部31は、DSP(ディジタルシグナルプロセッサ)などにより実現され、すべてデジタル処理によりベースバンドのPSK信号を生成する。
D/A変換部32は、デジタル信号処理部31によりデジタル信号として生成されたベースバンドのPSK信号を、PSK変調されたアナログのベースバンド信号に変換する変換手段である。
LPF33は、D/A変換部32によりベースバンド信号がD/A変換される際に生じるエイリアシングを抑圧するためのローパスフィルタである。
このように、この実施形態の無線システム、送信装置では、PSK変調されたベースバンド信号がデジタル信号として生成され、D/A変換によりアナログのベースバンド信号に変換され、D/A変換により生じたエイリアシング抑圧することで、ベースバンドのPSK変調信号を得ているが、これには限定されない。例えば、ベースバンドの正弦波アナログ信号について、信号入力部11が取り込んだデジタル情報に基づいてPSK変調を施すとともに、帯域制限を施すことによりベースバンドのPSK変調信号を得てもよい。
次に、この実施形態の送信装置におけるローカル信号遅延部15について詳細に説明する。図3は、この実施形態の送信装置におけるローカル信号遅延部15の構成を示すブロック図、図4は、このローカル信号遅延部15の遅延特性の一例を示す図である。
図3に示すように、この実施形態のローカル信号遅延部15は、入力整合回路41、バイポーラトランジスタ42、出力整合回路43、チョークインダクタ44およびバイアス回路45を備えている。この実施形態のローカル信号遅延部15は、トランジスタのベースバイアス電圧に依存して変化する群遅延特性を利用した遅延回路により構成されている。
入力整合回路41は、ローカル信号生成部13の出力と接続され、例えばインダクタやキャパシタなどを組み合わせて構成される整合回路である。入力整合回路41は、ローカル信号生成部13とインピーダンスなどのマッチングをとり、信号の反射を抑えるための回路である。入力整合回路41の出力は、バイポーラトランジスタ42のベースと接続されている。
バイポーラトランジスタ42は、ベースが入力整合回路41の出力およびバイアス回路45の出力が接続され、エミッタが接地され、コレクタがチョークインダクタ44の一端および出力整合回路43の入力が接続されたトランジスタである。バイポーラトランジスタ42は、例えばNPN型のトランジスタである。
出力整合回路43は、入力がバイポーラトランジスタ42のコレクタおよびチョークインダクタ44の一端と接続され、出力がローカル信号重畳部16と接続された、例えばインダクタやキャパシタなどを組み合わせて構成される整合回路である。出力整合回路43は、ローカル信号重畳部16とインピーダンスなどのマッチングを取り、信号の反射を抑えるための回路である。
チョークインダクタ44は、一端がバイポーラトランジスタ42のコレクタおよび出力整合回路43の入力と接続され、他端がVCC(電源)に接続されたインダクタである。チョークインダクタ44は、バイポーラトランジスタ42のコレクタとVCCとを高周波的に分離する。すなわち、バイポーラトランジスタ42に対してコレクタバイアス電圧を供給する際にバイポーラトランジスタ42の特性(動作)が電源のインピーダンスの影響を受けないようにする作用をする。
バイアス回路45は、入力が送信信号検出部20の出力と接続され、出力が入力整合回路41の出力およびバイポーラトランジスタ42のベースと接続された、バイアス制御回路である。バイアス回路45は、増幅器のバイアス回路として一般的に利用されているもので、例えばエミッタフォロアなどで構成されるバイアス回路を用いることができる。バイアス回路45は、送信信号検出部20から送られる制御信号に基づいて、バイポーラトランジスタ42のバイアス電流を制御する機能を有する。より具体的には、バイアス回路45は、バイポーラトランジスタ42にバイアス電流を供給すると共に、送信信号検出部20からの制御信号の電圧変化に対するバイポーラトランジスタ42の群遅延特性の感度を下げる作用をする。
ローカル信号生成部13からローカル信号が入力されると、ローカル信号は、入力整合回路41を介してバイポーラトランジスタ42のベースに入力される。バイポーラトランジスタ42のコレクタにはチョークインダクタ44を介してVCCが接続されているから、ベースに入力されたローカル信号に応じてコレクタ電流が流れる。コレクタ電流が流れると、出力整合回路43を介してローカル信号重畳部16にローカル信号に対応する信号が出力される。
一般に、p型半導体とn型半導体を接合したpn接合半導体における接合間容量は、その両端に印加される電圧値に依存して変化することが知られている(例えば「RF Circuit Design」Reinhold Ludwig/Ravel Bretchko著 Prentice Hall参照)。
トランジスタは、pn接合およびnp接合を組み合わせて作られているため、例えばバイポーラトランジスタの場合、ベース端子またはコレクタ端子に印加されるバイアス電圧が変化すると、それに応じて寄生容量が変化する。寄生容量が変化すると、トランジスタに入力された信号が出力される際に信号の位相進み量が変化することになり、結果として、入力信号に対する出力信号の遅延量が変化することになる。
そこで、この実施形態の無線システム、送信装置では、バイアス回路45が、送信信号検出部20からの位相制御信号に基づいてバイポーラトランジスタ42のバイアス電流を変化させ、結果的にコレクタを経て出力されるローカル信号の位相を変化させている。
図4に示すのは、この実施形態の無線システム、送信装置におけるローカル信号遅延部の遅延特性の特性例を示す図である。図4に示すように、送信信号検出部20から送られる制御信号に対して、ローカル信号の遅延量が比例する特性が好適である。
なお、この実施形態の無線システム、送信装置では、ローカル信号遅延部15にバイポーラトランジスタを用いているが、これには限定されない。すなわち、トランジスタやダイオードなどpn接合半導体を用いた素子や、アクティブ素子を利用するものであってもよい。
次に、この実施形態の送信装置における送信信号検出部20について詳細に説明する。図5は、この実施形態の送信信号検出部20の構成を示すブロック図、図6は、この送信信号検出部20におけるLPF52の構成例を示す回路図、図7は、この送信信号検出部20における電圧レベル判定部54の構成例を示す回路図である。
図5に示すように、この実施形態の送信信号検出部20は、直列接続された二乗検波部51、LPF52、DC遮断部53、電圧レベル判定部54および制御信号出力部55を備えている。
二乗検波部51は、入力が送信信号分岐部18と接続され、出力がLPF52と接続されている。二乗検波部51は、出力電圧が入力電圧の2乗に比例する二乗検波(自乗検波)特性を有する検波器である。この実施形態では、ローカル信号を使用せずに周波数変換する変換器としても機能させて用いている。二乗検波部51は、振幅変調波の復調などに使用される、ダイオードを用いた二乗検波器などを用いることができる。
LPF52は、一端が二乗検波部51の出力と接続され、他端がDC遮断部53の入力と接続され、所定の周波数よりも低域側を通過させるローパスフィルタである。図6に示すように、この実施形態のLPF52は、二乗検波部51およびDC遮断部53の間に直列接続された抵抗器61と、一端が抵抗器61のDC遮断部53接続端と接続され、他端が接地されたキャパシタ62により構成されている。ただし、LPF52は、図6に示すようなRC型ローパスフィルタには限定されない。
DC遮断部53は、入力がLPF52と接続され、出力が電圧レベル判定部54に接続されている。DC遮断部53は、入力された信号から直流成分を除去する作用をする。DC遮断部53としては、例えば信号線路に直列に挿入されたキャパシタなどを用いることができる。
電圧レベル判定部54は、入力がDC遮断部53の出力と接続され、出力が制御信号出力部と接続されている。電圧レベル判定部54は、入力された信号の電圧レベルを判定して、制御信号出力部55に当該電圧レベルに応じた制御信号を出力させる作用をする。図7に示すように、この実施形態の電圧レベル判定部54は、アノードがDC遮断部53の出力と接続され、カソードが制御信号出力部55の入力と接続されたダイオード63と、一端がダイオード63のアノードと接続され、他端が接地された抵抗器64と、それぞれ一端がダイオード63のカソードと接続され、それぞれ他端が接地されたキャパシタ65および抵抗器66とを備え、ダイオードを用いた一般的なダイオード検波器を構成している。図7に示す電圧レベル判定部54は、入力された信号をダイオード63により整流し、出力側に備えられたキャパシタ65に充電する事により、入力信号の振幅電圧レベルを検出することができる。すなわち、電圧レベル判定部54は、入力された電圧レベルに応じた電圧を出力する
制御信号出力部55は、入力が電圧レベル判定部54の出力と接続され、出力がローカル信号遅延部15と接続されている。制御信号出力部55は、電圧レベル判定部54から出力される信号に基づいて、ローカル信号遅延部15における受信用ローカル信号の遅延量を制御する信号を出力する作用をする。
送信信号分岐部18から送信信号の一部が入力されると、二乗検波部51は、当該送信信号を二乗して出力する。LPF52は、二乗された送信信号から当該送信信号の高調波成分を除去する。DC遮断部53は、高調波成分が除去された送信信号から直流成分を除去する。その結果、DC遮断部53は、PSK変調された元のベースバンド信号に対応した参照信号を出力することになる。この参照信号は、送信信号分岐部18から分岐された送信信号から、受信装置3と同一の手順により生成されるから、参照信号が十分なレベルとなるように受信用ローカル信号の位相が制御することで、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号の同期を取ることが可能になる。電圧レベル判定部54は、参照信号の電圧レベルを判定して直流電圧を出力し、その直流電圧に基づいて制御信号出力部55は制御信号をローカル信号遅延部15に出力する。
続いて、この実施形態の無線システムにおける受信装置について詳細に説明する。図8は、この実施形態の受信装置における二乗検波部23の構成を示すブロック図である。図8に示すように、この実施形態の二乗検波部23は、二乗検波器71、LPF72、DC遮断部73および電圧レベル判定部74を備えている。図8に示すように、この実施形態の受信装置3における二乗検波部23の基本構成は、同じく送信装置2における送信信号検出部20の基本構成とほぼ同一である。
二乗検波器71は、入力が高周波増幅部22と接続され、出力がLPF72と接続されている。二乗検波器71は、出力電圧が入力電圧の2乗に比例する二乗検波(自乗検波)特性を有する検波器である。この実施形態では、いわゆる復調機能ではなく、ローカル信号を使用せずに周波数変換する変換器として機能させている。二乗検波器71は、振幅変調波の復調などに使用される、ダイオードを用いた二乗検波器などを用いることができる。
LPF72は、一端が二乗検波器71の出力と接続され、他端がDC遮断部73の入力と接続され、所定の周波数よりも低域側を通過させるローパスフィルタである。このLPF72は、図6に示すLPF52と同様の構成のものを用いることができる。
DC遮断部73は、入力がLPF72と接続され、出力が電圧レベル判定部74と接続されている。DC遮断部73は、入力された信号から直流成分を除去する作用をする。DC遮断部73としては、例えば信号経路に直列に挿入されたキャパシタなどを用いることができる。
電圧レベル判定部74は、入力がDC遮断部73の出力と接続され、出力がベースバンド信号処理部24と接続されている。電圧レベル判定部74は、入力された信号の電圧レベルを検出し、当該電圧レベルに応じたベースバンド信号を出力する作用をする。この電圧レベル判定部74は、図7に示す電圧レベル判定部54と同様の構成のものを用いることができる。
高周波増幅部22から増幅された受信信号が入力されると、二乗検波器71は、当該受信信号を二乗して出力する。LPF72は、二乗された受信信号から高調波成分を除去する。DC遮断部73は、高調波成分が除去された受信信号から直流成分を除去する。電圧レベル判定部74は、半波整流された信号電圧を出力する。その結果、電圧レベル判定部74は、PSK変調された元のベースバンド信号をベースバンド信号処理部24に出力することになる。
この実施形態の受信装置3によれば、送信装置2における送信信号検出部20と同じ構成の二乗検波部23を具備し、受信用ローカル信号生成手段を省略したので、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との位相ずれに起因するS/NやC/Nの悪化を抑えることができる。
次に、この実施形態の受信装置におけるベースバンド信号処理部24について詳細に説明する。図9は、この実施形態の受信装置3におけるベースバンド信号処理部24の構成を示すブロック図である。図9に示すように、この実施形態の受信装置3のベースバンド信号処理部24は、この実施形態の送信装置2のベースバンド信号処理部12の逆の構成を有している。すなわち、この実施形態のベースバンド信号処理部24は、直列接続されたLPF75、A/D変換部76およびデジタル信号処理部77を備えている。
LPF75は、受信信号に含まれる高調波成分を除去してエイリアシングを抑圧するためのローパスフィルタである。
A/D変換部76は、高調波成分が除去されたベースバンドのPSK信号をデジタル信号に変換する変換手段である。
デジタル信号処理部77は、デジタル信号に変換されたベースバンドのPSK信号から元のデジタル情報に復調する復調手段である。デジタル信号処理部77は、DSP(ディジタルシグナルプロセッサ)などにより実現され、すべてデジタル処理によりベースバンドのPSK信号を復調処理する。
このように、この実施形態の無線システム1、受信装置3では、ベースバンドの受信信号についてエイリアシング抑圧し、A/D変換によりデジタルのベースバンド信号に変換し、デジタル化したベースバンド信号からデジタル情報を得ている。ただし、これには限定されない。A/D変換せずアナログのベースバンド信号から直接デジタル情報を取り出すように構成してもよい。
続いて、図1ないし図10を参照して、この実施形態の無線システム1の動作原理について詳細に説明する。図10は、この実施形態におけるローカル信号の位相遅れと受信信号との関係を示す図である。以下に説明する例では、送受信信号の周波数はミリ波帯の60GHzであり、ベースバンド信号は1Gbpsの伝送速度でBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調されているものとして説明する。
信号入力部11からデジタル情報が取り込まれてベースバンドのPSK変調が施されると、ベースバンド信号処理部12は、数式(1)に示すようなBPSK変調信号を出力し、周波数変換部14に入力する。
数式(1)に示すBPSK変調信号は、ベースバンド信号処理部12に備えられているデジタル信号処理部31での信号処理とベースバンドフィルタ(LPF33)により帯域制限された、有限な周波数信号帯域を有するベースバンド信号である。この例では、1Gbpsの伝送速度でBPSK変調されているため、数式(1)のベースバンド信号には少なくともDCから500MHzまでの周波数成分を有している変調信号となる。
ここで、ローカル信号生成部13は、数式(2)に示すローカル信号を生成し、送信用ローカル信号として周波数変換部14に入力する。数式(2)に示すローカル信号周波数fcは、この例では60GHzである。
周波数変換部14は、数式(1)に示すベースバンド信号S
bと数式(2)に示す送信用ローカル信号S
cとを乗算し、数式(3)に示すようなRF送信信号S
RFを生成する。生成されたRF送信信号S
RFは、ローカル信号重畳部16に入力される。
一方、ローカル信号生成部13は、ローカル信号遅延部15に受信用ローカル信号を入力する。ローカル信号遅延部15は、入力された受信用ローカル信号に対して、送信信号検出部20から出力される位相制御信号に応じた遅延量の遅延を与える。その結果、ローカル信号遅延部15は、送信用ローカル信号と位相同期が取れた受信用ローカル信号をローカル信号重畳部16に入力する。なお、説明をわかりやすくするため、以下の説明では、ローカル信号遅延部15が有する特性は図4に示すような特性であるものとする。この例では、図3に示すローカル信号遅延部15のチョークインダクタ44のインピーダンスが十分に高い値である必要がある。すなわち、数式(4)で計算される60GHzにおけるチョークインダクタ44のインピーダンスが、例えば1000[Ω]より十分高い値となるように選択する。具体的には、例えば10[nH]のインダクタンス値を有するチョークインダクタを用いる。
以下、ローカル信号遅延部15により、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との位相同期が既に取れているものとして説明する。ローカル信号重畳部16は、数式(3)に示されるRF送信信号S
RFと、送信用ローカル信号と位相同期の取れた受信用ローカル信号S
c’を重畳し、数式(5)に示すような受信用ローカル信号が重畳されたRF送信信号S
RF+LOを生成して電力増幅部17へ入力する。
電力増幅部17は、数式(5)に示す受信用ローカル信号が重畳されたRF送信信号SRF+LOを電力増幅し、送信信号分岐部18へ入力する。
送信信号分岐部18に入力された受信用ローカル信号が重畳されたRF送信信号SRF+LOは、信号の一部が分岐されて送信信号検出部20に入力され、残りはアンテナ19を介して空間中に放射される。
次に、ローカル信号遅延部15における受信用ローカル信号の遅延量および遅延制御について詳細に説明する。
図5に示すように、数式(5)に示すRF送信信号S
RF+LOが送信信号検出部20に入力されると、二乗検波部51は、二乗検波を施す。すなわち、二乗検波部51の二乗特性により、数式(5)に示すRF送信信号S
RF+LOが二乗され、数式(6)に示すような出力信号S
2 RF+LOが得られる。
ここで、数式(6)の第1、2項目は直流(DC)成分、第4項目はBPSK変調されたベースバンド信号成分、第5〜10項目はローカル信号周波数の2倍の高調波周波数成分(この例では120GHzの周波数を持つ信号成分)である。
数式(6)で示される二乗検波部51の出力信号S
2 RF+LOは、LPF52およびDC遮断部53に入力され、第1、2項目のDC成分および第5〜10項目の2倍の周波数成分(高調波成分)が除去される。DC遮断部53は、数式(7)に示す信号S
2 RF+LOを出力して、電圧レベル判定部54に入力する。
ここで、図5および図6に示すLPF52の遮断周波数は、抵抗器61の抵抗値をR、キャパシタ62の容量値をCとしたとき、数式(8)で表される。
この例では、数式(8)で計算される遮断周波数が、数式(6)における第5〜10項目の周波数、すなわち120GHzより低く、数式(6)における第3、4項目のベースバンド信号の周波数成分、すなわち500MHzより高くなるように、インダクタンス値L、抵抗値R、および容量値Cが選択される。
また、この例におけるDC遮断部53が、信号線路に直列に挿入されたキャパシタである場合、当該キャパシタの容量値は、BPSK変調されたベースバンド信号に含まれる全ての周波数成分、すなわち最大500MHzまでの周波数成分に対して、数式(9)で計算される当該キャパシタのインピーダンスの大きさが、例えば1/1000[Ω]より十分低くなるように選択する。例えば、fc=60GHzであればC=0.01[μF]の容量であるとする。DCを除く必要な周波数帯域全てを通過させるためである。
数式(7)における定数A,B,C、すなわちベースバンド信号S
b、送信用ローカル信号S
c、および受信用ローカル信号S
c’の信号振幅が全て等しく1である場合、数式(7)は数式(10)になる。この場合、電圧レベル判定部54から出力される電圧値は、電圧レベル判定部54のダイオード63により半波整流され、0〜1.25[V]となる。電圧レベル判定部54から出力された電圧は、制御信号出力部55へ加えられる。数式(10)に示すように、この段階で、元のベースバンド信号S
bが再生されている(第2項目)。
制御信号出力部55は、電圧レベル判定部54から電圧を受けると(この例では0〜1.25Vの範囲の電圧)、ローカル信号遅延部15における遅延量の制御に必要な電圧値に変換する。すなわち、制御信号出力部55は、電圧レベル判定部54が出力する電圧を、ローカル信号遅延部15が受け入れ可能な電圧のダイナミックレンジに合わせて変換する。例えば、図3に示すようにローカル信号遅延部15がトランジスタを用いた回路により構成され、図4に示す制御電圧対遅延量の特性を有する場合、必要な制御信号電圧値の範囲は0〜2.5[V]となる。この場合、制御信号出力部55は、0〜1.25[V]の電圧範囲を0〜2.5[V]の電圧範囲へレベル変換を行う。例えば、制御信号出力部55は、電圧レベル判定部54から出力される0〜1.25[V]の範囲の出力電圧レベルが大きくなると大きくなり、小さくなると小さくなるようにレベル変換する。
ローカル信号遅延部15は、制御信号出力部55から入力された制御信号に応じた遅延量の遅延を受信用ローカル信号に与え、ローカル信号重畳部16へ出力する。そして、ローカル信号遅延部15は、制御信号出力部55から出力される制御信号に基づいて、送信信号検出部20にて二乗検波された信号の電圧レベルが大きくなるように、受信用ローカル信号に対して遅延を与える。その結果、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号とが互いに同期する。
続いて、この実施形態における受信装置3の受信動作と、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との位相同期を取る必要がある理由について詳細に説明する。
受信用ローカル信号と送信用ローカル信号との位相同期が取れておらず、送信用ローカル信号に比べて受信用ローカル信号の位相が遅れてしまっている場合、すなわち送信用ローカル信号の方が受信用ローカル信号よりも遅れてローカル信号重畳部16に入力される場合、数式(5)は数式(11)となる。
数式(11)に示す信号が図1に示す受信装置3にて受信された場合、受信信号は、高周波増幅部22で増幅された後、二乗検波部23にて二乗検波されて数式(12)に示す信号となる。なお、数式(12)にて使用される各信号の振幅値を表すA,B,Cの各定数は、送信機にて送信された各信号の振幅レベルより低くなるが、ここでは説明を簡便にするために、受信機にて受信された信号の各信号振幅を改めてA,B,Cと再定義しなおすものとする。また、高周波増幅部22は、受信信号をD倍に増幅するものとする。
二乗検波部23は、送信信号検出部20と同様に、LPF72とDC遮断部73とを備えている。二乗検波部23においては、数式(12)に含まれる第5〜10項目の2倍の周波数成分がLPF72にて除去され、第1項目の直流成分がDC遮断部73にて除去される。結果として、数式(13)に示す信号がベースバンド信号処理部24へ出力される。
説明を分かりやすくするため、数式(13)において、定数A,B,C,Dは全て1であるとすると、数式(13)は数式(14)となる。
数式(14)に示すように、ベースバンド信号処理部24に入力されるS2 RF+LOには、数式(1)に示す元のベースバンド信号Sbが再生されていることがわかる。すなわち、受信用ローカル信号Sc’を受信装置において用意しなくても、元のベースバンド信号Sbが復元されている。
なお、二乗検波部23と送信信号検出部20の構成は、制御信号出力部55を備えているか否かのみ異なり、その他の構成は同じであるが、例えばローパスフィルタを構成するインダクタのインダクタンス値やキャパシタの容量値などは、二乗検波部23と送信信号検出部20とで異なる場合が考えられる。しかし、基本的な動作と回路の働きは同様である。
そして、図9に示すように、ベースバンド信号処理部24に入力された信号S2 RF+LOは、LPF75にてA/D変換部76のエイリアシング周波数にあたる信号が除去された後、A/D変換部76にてデジタル信号に変換され、デジタル信号処理部77へ入力される。デジタル信号処理部77は、入力されたデジタル信号から元のBPSK信号を復調する。
ここで、位相遅れφの影響について説明する。数式(14)に示したベースバンド信号処理部24への入力信号の値を図10に示す。図10において、横軸は受信用ローカル信号の位相遅れφであり、縦軸は受信信号レベル(二乗値=S2)である。図10に示すように、位相遅れφの値が大きくなると、ai(t)=1のときとai(t)=0のときの信号レベルの値の差が徐々に小さくなり、φ=π/2(≒1.57)の時に等しくなり、φ=π(≒3.14)の時には完全に値が逆になってしまうことがわかる。
このように、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との位相同期を取らないとai(t)=1のときとai(t)=0のときの信号レベルの値の差が小さくなるため、受信装置にて信号を復調する際に検出誤りが生じる可能性が高くなり、最悪の場合にはデータが反転されて検出され、データが復調できなくなる。そこで、この実施形態の無線システム、送信装置および受信装置では、受信用ローカル信号に対して遅延を与えることにより位相同期を取る方法を用いている。
なお、受信用ローカル信号を遅延させて位相同期をとるためには、位相同期を取る前の状態において、温度変化やチャネル周波数変化などの外的要因に対して、送信用ローカル信号よりも受信用ローカル信号の位相が常に進んでいる状態となっている必要がある。これにより、ローカル信号遅延部15において与えられる遅延量が大きくなると、送信信号検出部20における検波出力も大きくなる関係となり、前述のとおり受信用ローカル信号と送信用ローカル信号との位相同期を取ることが可能となる。送信用ローカル信号よりも受信用ローカル信号の位相を常に進めるため、あらかじめローカル信号に遅延を与える方法としては、例えば信号線路に遅延線路を追加するなどの方法が考えられ、容易に実現することができる。
以上説明したように、この実施形態の無線システム、送信装置、受信装置、通信方法によれば、受信装置は、受信用ローカル信号を含んだRF帯の受信信号を直接二乗検波することで、ベースバンドのPSK変調信号を得ることが可能となる。そして、従来の受信装置では必要であったIF段を省略することが可能となり、安価で小型な無線システム、送信装置および受信装置を実現することが可能となる。また、この実施形態の無線システム、送信装置、受信装置、通信方法によれば、送信側において送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との同期をとるので、受信側における符号誤りを抑えることができる。
続いて、本発明の第2の実施形態について詳細に説明する。図11は、本発明の第2の実施形態の無線システムにおける送信装置のベースバンド信号処理部112の構成を示すブロック図、図12は、この実施形態の送信装置の周波数変換部114の構成を示すブロック図、図13は、この実施形態におけるローカル信号の位相遅れと受信信号との関係を示す図である。
この実施形態に係る無線システム、送信装置および受信装置は、第1の実施形態に係る無線システム、送信装置および受信装置におけるベースバンド信号処理部12および周波数変換部14の構成を変更したものである。具体的には、周波数変換部から出力されるRF送信信号に含まれる下側側波帯の項を除去するため、ベースバンド信号処理部から出力されるベースバンド信号とローカル信号生成部から出力される送信用ローカル信号とを直交変調してRF送信信号を生成するものである。以下の説明において第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
図11に示すように、この実施形態の無線システム、送信装置は、ベースバンド信号処理部112および周波数変換部114を具備している。ベースバンド信号処理部112は、デジタル信号処理部131、第1のD/A変換部132、第1のLPF133、第2のD/A変換部134および第2のLPF135を備えている。また、周波数変換部114は、第1の周波数変換部81、第2の周波数変換部82、90度移相部83および加算器84を備えている。
デジタル信号処理部131は、第1の実施形態におけるデジタル信号処理部31と対応し、信号入力部11を介して取り込まれたデジタル情報がPSK変調されたベースバンド信号をデジタル信号として出力する変調手段である。この実施形態のデジタル信号処理部131は、PSK変調されたベースバンド信号のうち、Ich(同相信号)とQch(直交信号)とを分離して出力する点において、第1の実施形態のデジタル信号処理部31と相違している。デジタル信号処理部131は、それぞれIchおよびQchのベースバンド信号を別々に生成するための回路を備えていてもよいし、Ichのベースバンド信号をヒルベルト変換することでπ/2位相のずれたQchのベースバンド信号を生成してもよい。この場合、ヒルベルト変換はFIRフィルタを用いたヒルベルト変換器が使用できる。
第1のD/A変換部132および第2のD/A変換部134は、第1の実施形態におけるD/A変換部32と対応し、デジタル信号処理部131によりデジタル信号として生成されたベースバンドのPSK信号を、PSK変調されたアナログのベースバンド信号に変換する変換手段である。第1のD/A変換部132および第2のD/A変換部134は、それぞれIchおよびQchについてD/A変換する。
第1のLPF133および第2のLPF135は、第1の実施形態におけるLPF33と対応し、第1および第2のD/A変換部132および134によりベースバンド信号がD/A変換される際に生じるエイリアシングを抑圧する。
デジタル信号処理部112は、IchとQchとを分離したまま周波数変換部114に出力する。
第1の周波数変換部81および第2の周波数変換部82は、第1の実施形態の周波数変換部14と対応し、それぞれIch信号およびQch信号を周波数変換する。
90度移相部83は、ローカル信号生成部13から生成された送信用ローカル信号のうちQch信号に用いる方について90度位相をずらす移相手段である。
加算器84は、第1および第2の周波数変換部81および82により周波数変換されたIch・Qchの信号を加算してローカル信号重畳部16に出力する。
第1の実施形態では、数式(5)に示すように下側側波帯の信号であるcos(2πfct-ai(t)π)の項がRF送信信号SRF+LOに含まれている。そのため、後述するように送信用ローカル信号と受信用ローカル信号とで位相同期が取れていない場合に発生する誤差信号の項が増えてしまう。そこで、第2の実施形態では、RF送信信号から下側側波帯の項を除去するため、直交変調を採用している。
すなわち、ベースバンド信号処理部112は、IchおよびQchのベースバンド信号を出力する。ローカル信号生成部13から出力される送信用ローカル信号は、Ich用およびQch用の互いに90度位相のずれたIch用ローカル信号およびQch用ローカル信号として、それぞれ第1および第2の周波数変換部81および82に入力される。そして、IchおよびQchのベースバンド信号がIch用およびQch用ローカル信号とそれぞれ乗算される。
以下、この実施形態の無線システムおよび送信装置におけるベースバンド信号処理部112および周波数変換部114の動作について詳細に説明する。
ベースバンド信号処理部112は、数式(15)に示すようなBPSK変調されたIchおよびQchのベースバンド信号を出力する。数式(15)に示すIchおよびQchのベースバンド信号は、互いにπ/2位相がずれた信号である。
一方、ローカル信号生成部13にて生成された送信用ローカル信号は、それぞれ、Ich用の第1の周波数変換部81とQch用の第2の周波数変換部82とに入力される。Qch用の送信用ローカル信号は、90度位相器83によりIch用の送信用ローカル信号に比べて90度位相がずれ、Qch用の第2の周波数変換部82に入力される。この実施形態におけるIch用の送信用ローカル信号およびQch用の送信用ローカル信号の例を数式(16)に示す。
数式(15)および数式(16)より、この実施形態における周波数変換部114から出力されるRF送信信号は数式(17)のようになる。数式(17)と数式(3)とを比較すると、第1の実施形態では、数式(3)に示すようにcos(2πf
ct-a
i(t)π)で示される下側側波帯が存在するが、第2の実施形態では数式(17)に示すように下側側波帯が無くなることが分かる。
よって、ローカル信号重畳部16から出力される受信用ローカル信号が重畳されたRF送信信号は、数式(18)のようになる。
ここで、第2の実施形態において、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との間で位相同期が取れていない場合、RF送信信号は数式(19)のようになる。
数式(19)に示すRF送信信号が受信装置側で二乗検波されると、二乗検波されて得られる受信信号は、数式(20)のようになる。
第1の実施形態の場合と同様に、数式(20)に示す受信信号のうち、直流成分および2倍の周波数成分が除去され、数式(21)に示す信号がベースバンド信号処理部24へ出力される。
数式(21)において、A,B,C,Dが全て1であるとすると、数式(22)が得られる。
第2の実施形態の数式(21)と第1の実施形態の数式(13)を比較すると、下側側波帯であるcos(2πfct-ai(t)π)の項によって生ずる誤差信号の項が無くなるため、数式(13)よりも数式(21)の方が簡素である。結果として、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号の位相差φによる受信信号の判定誤りも少なくなる。この実施形態における数式(22)に示したベースバンド信号処理部24への入力信号を図13に示す。
図13と図10とを比較すると、第1の実施形態におけるベースバンド信号処理部24への入力信号レベルは、位相遅れφ=1.3〜1.8[rad]の範囲において誤差信号の項の影響からa(t)=0とa(t)=1とで両方とも正の値をとってしまうが、図13に示す第2の実施形態では、a(t)=0とa(t)=1とで両方とも正の値をとることは無くなる。すなわち、受信信号の判定誤りが少なくなることが分かる。
この実施形態に係る無線システム、送信装置、受信装置によれば、周波数変換部から出力されるRF送信信号に含まれる下側側波帯の項を除去したので、受信信号の判定誤りを少なくすることができる。
続いて、本発明の第3の実施形態について詳細に説明する。図14は、本発明の第3の実施形態の無線システムにおける送信装置202の構成を示すブロック図、図15は、この実施形態の送信装置202におけるHPF226の構成例を示す回路図である。
この実施形態に係る無線システム、送信装置は、第1の実施形態に係る無線システムおよび送信装置おいて、周波数変換部14から出力されるRF送信信号に含まれる下側側波帯の成分を除去するハイパスフィルタ(HPF)を、周波数変換部14の出力側にさらに備えたものである。以下の説明において第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
図14に示すように、この実施形態の送信装置202は、周波数変換部14とローカル信号重畳部16との間にHPF226をさらに具備している。また、図15に示すように、この実施形態のHPF226は、周波数変換部14の出力とローカル信号重畳部16の入力との間に直列に挿入されたキャパシタ85と、一端がキャパシタ85の一端とローカル信号重畳部16の入力との間に接続され、他端が接地された抵抗器86とを組み合わせて構成してもよい。
ここで、HPF226の作用について詳細に説明する。この実施形態の無線システム、送信装置において、HPF226は、数式(3)に示すような周波数変換部14から出力されるRF送信信号から、下側側波帯の成分を抑圧し、ローカル信号重畳部16に入力する。
HPF226の遮断周波数は、抵抗器86の抵抗値をR、キャパシタ85の容量値をCとしたとき、数式(23)のように表すことができる。
HPF226を構成する抵抗器86の抵抗値、およびキャパシタ85の容量値は、数式(3)で表されるRF送信信号のうち、下側側波帯の項(数式(3)では第2項目)を抑圧し、上側側波帯の項(数式(3)では第1項目)をそのまま通過させるような値が選択される。下側側波帯の信号を抑圧する抑圧量が図15に示す1段のHPF226では足りない場合、図15に示すHPF226を多段構成にすることで抑圧量を増やすことが可能である。
HPF226から出力されるRF送信信号は、数式(3)における下側側波帯の項が抑圧された信号となるため、HPF226にて下側側波帯の成分が十分に抑圧された場合、数式(17)に示す信号と同じものとみなすことができる。
このように、この実施形態に係る無線システム、送信装置、受信装置では、第2の実施形態と同様に、周波数変換部から出力されるRF送信信号に含まれる下側側波帯の項を除去するので、受信信号の判定誤りを少なくすることができる。
続いて、本発明の第4の実施形態について詳細に説明する。図16は、本発明の第4の実施形態の無線システムにおける送信装置302の構成を示すブロック図である。この実施形態の無線システム、送信装置、受信装置は、第1の実施形態とローカル信号生成部およびローカル信号遅延部の配置を変更したもので、送信用ローカル信号と受信用ローカル信号との間の位相同期を取るローカル信号遅延部が周波数変換部とローカル信号生成部の間に配置されている。すなわち、この実施形態の無線システム、送信装置では、受信用ローカル信号に対して遅延を与えて位相同期を取るのではなく、送信用ローカル信号に対して遅延を与えて位相同期を取っている。以下の説明において第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
図16に示すように、この実施形態の無線装置302では、ローカル信号を生成するローカル信号生成部313と、生成されたローカル信号に遅延を与えて送信用ローカル信号を生成し、当該送信用ローカル信号を周波数変換部314に入力するローカル信号遅延部315と、送信用ローカル信号により周波数変換された送信用信号とローカル信号生成部313が生成したローカル信号(受信用ローカル信号)とを加算するローカル信号重畳部316と、送信信号分岐部18から分岐された送信信号に基づいてローカル信号遅延部315における送信用ローカル信号の遅延量を制御する送信信号検出部320とを具備している。すなわち、この実施形態においては、ローカル信号生成部313が生成したローカル信号が、受信用ローカル信号としてそのままローカル信号重畳部316に入力されるとともに、ローカル信号遅延部315において所定量遅延されて生成された送信用ローカル信号が周波数変換部314に入力される点が、第1の実施形態と相違している。
なお、この実施形態におけるローカル信号生成部313、周波数変換部314、ローカル信号遅延部315、ローカル信号重畳部316および送信信号検出部320は、それぞれ第1の実施形態におけるローカル信号生成部13、周波数変換部14、ローカル信号遅延部15、ローカル信号重畳部16および送信信号検出部20と対応し、それぞれ同一のものを適用することができる。ただし、この実施形態では、送信用ローカル信号に対して遅延を与えることで位相同期を取るため、受信用ローカル信号よりも送信用ローカル信号の位相が常に進んでいる状態となっている必要ある。このような状態にしておくことにより、ローカル信号遅延部315にて与えられる遅延量が大きくなると、送信信号検出部320における検波出力も大きくなり、第1の実施形態と同様に受信用ローカル信号と送信用ローカル信号の位相同期を取ることが可能となる。この実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
続いて、本発明の第5の実施形態について詳細に説明する。図17は、本発明の第5の実施形態の無線システムにおける送信装置402の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る無線システム、送信装置、受信装置では、ローカル信号遅延部において遅延量を制御する制御信号が、ベースバンド信号処理部から与えられる点において第1の実施形態と相違している。以下の説明において第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
図17に示すように、この実施形態の送信装置402は、第1の実施形態の送信装置2におけるベースバンド信号処理部12に代えてベースバンド信号処理部412を具備している。また、この実施形態の送信装置402では、送信信号検出部を省略している。
ベースバンド信号処理部412は、信号入力部11から取り込まれたデジタル情報をベースバンド信号に変換するとともにPSK変調して、ベースバンドのPSK信号を出力するデジタル変調手段である。加えて、ベースバンド信号処理部412は、ローカル信号遅延部415における受信用ローカル信号の遅延量を制御する制御信号を出力する機能を有している。すなわち、ベースバンド信号処理部412は、温度変化や使用チャネル周波数に応じて決定される受信用ローカル信号の遅延量データを、あらかじめルックアップテーブルとして記憶している。そして、ベースバンド信号処理部412は、ルックアップテーブルに基づいて、周囲の温度変化やチャネル周波数に応じた制御信号を生成してローカル信号遅延部15に入力する。ローカル信号遅延部15は、入力された制御信号に基づいて受信用ローカル信号を遅延させ、送信用ローカル信号との位相を同期させる。
この実施形態の無線システム、送信装置によれば、送信信号分岐部および送信信号検波部を省略することができ、送信装置の構成を簡素化することができる。
続いて、本発明の第6の実施形態について詳細に説明する。図18は、本発明の第6の実施形態の無線システムにおける送信装置のローカル信号遅延部515の構成を示すブロック図である。この実施形態の無線システム、送信装置は、図3に示す第1の実施形態のローカル信号遅延部15の構成を変更したものである。以下の説明において第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
この実施形態の無線システム、送信装置は、図3に示す半導体トランジスタを用いたローカル信号遅延部15に代えて、図18に示す遅延線路を用いたローカル信号遅延部515を具備している。図18に示すように、この実施形態のローカル信号遅延部515は、切替手段91および92と、遅延線路部93とを備えている。
切替手段91は、ローカル信号生成部13の出力と接続された共通端子と、複数の出力端子とを有している。切替手段91は、ローカル信号生成部13が生成したローカル信号の通過経路を切り替えて複数の出力端子のいずれかに出力するスイッチ手段である。
遅延線路部93は、互いに独立した複数の遅延線路を備えており、それぞれの一方の端部に切替手段91の複数の出力が接続されている。複数の遅延線路は、それぞれ異なる長さ(遅延量)に形成されている。遅延線路部93は、複数の遅延線路を備える構成には限定されない。すなわち、インダクタやキャパシタなどの受動素子を組み合わせた遅延素子を備える構成としてもよい。
切替手段92は、複数の遅延線路それぞれの他端が接続された複数の入力端子と、ローカル信号重畳部16の入力が接続された共通の出力端子とを有している。切替手段92は、切替手段91と対応し、切替手段91が選択した遅延線路を通過した受信用ローカル信号をローカル信号重畳部16に入力する。
切替手段91および92は、送信信号検出部20の出力とも接続され、送信信号検出部20から送られる受信用ローカル信号の遅延の制御信号に基づき、遅延線路部93のいずれかの遅延線路を選択する。結果として、切替手段91および92は、ローカル信号生成部13からローカル信号重畳部16へ送られる受信用ローカル信号の遅延量を制御する。例えば、遅延線路93を適宜選択して図4に示す遅延特性となるように構成することで、第1の実施形態と同様の動作が実現できる。
この実施形態に係る無線システム、送信装置によれば、能動素子を用いずにローカル信号遅延部を構成するので、消費電流を低減することができる。
なお、本発明は上記実施形態のみに限定されるものではない。上記各実施形態では、ベースバンド信号処理部から出力されるベースバンド信号をBPSK変調されたものとして説明したが、これには限定されない。すなわち、多値PSK変調されたものを用いても、同様の構成で同様の効果を奏することができる。この場合、ベースバンド信号処理部から出力されるベースバンド信号は、数式(24)に示すような多値PSK変調信号で表される。
この場合、数式(15)に示したai(t)が「0」または「1」の2値だけではなく、数式(24)に示すように「0」から「2」までの範囲の値をとる。この場合、BPSK変調を用いた場合に比べて伝送速度を向上させることができる。
また、上記各実施形態では、送信用ローカル信号および受信用ローカル信号のいずれか一方を遅延させることにより両者を同期させているが、これにも限定されない。すなわち、移相器によりいずれか一方のローカル信号の位相を進めることにより実現してもよい。
1…無線システム、2…送信装置、3…受信装置、11…信号入力部、12…ベースバンド信号処理部、13…ローカル信号生成部、14…周波数変換部、15…ローカル信号遅延部、16…ローカル信号重畳部、17…電力増幅部、18…送信信号分岐部、19…アンテナ、20…送信信号検出部、21…アンテナ、22…高周波増幅部、23…二乗検波部、24…ベースバンド信号処理部、25…信号出力部。