JP2007114014A - 残留動物用薬剤測定のための抽出液 - Google Patents

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Abstract

【課題】 畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出に使用される抽出液を提供する。
【解決手段】 本発明の抽出液はpH8〜10、好ましくはpH8.5〜9.5の緩衝液からなり、複数の動物用薬剤を一斉に抽出し得る抽出液である。特に、残留動物用薬剤がアミノグリコシド系抗生物質である場合の抽出に好適に使用される。本発明の抽出液によれば、複数の動物用薬剤の安定性を問題になる程に損なうことなく且つ効率的に一斉抽出することができ、畜水産物中の残留動物用薬剤の測定の迅速化・簡便化を図ることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は残留動物用薬剤測定のための抽出液に関する。より詳細には、特定のpHの緩衝液からなり、畜水産物中に残留する動物用薬剤を測定する際に使用される抽出液に関する。
近年、畜水産物の疾病の予防・治療又は飼育促進のために種々の動物用薬剤が使用されている。畜水産物中の動物用薬剤の残留量を測定(定量)することは、食の安全性を確保する上で極めて重要である。このような状況から、畜水産物中に残留する動物用薬剤に関するポジティブリスト制の導入に伴い、200品目を超える動物用薬剤の残存量の暫定基準値が定められることとなったが、それらの薬剤について個別に分析を行う公定法では時間的、労力的に対応できなくなる。そこで、多成分を同時にかつ簡易・迅速に分析できる残留物質の分析法の確立が望まれている。
動物用薬剤の中でも、特に抗菌性物質(例えば抗生物質、合成抗菌剤等)は、現在の大量飼育方式により種類・使用量ともに増加傾向がみられており、畜水産物への残留の可能性が指摘されている。
しかし、現在、食品衛生法で定められている動物用薬剤の中でも、スピラマイシン、チルミコシン、ゲンタマイシン、スペクチノマイシン、ネオマイシンなどの抗生物質類やキノキサリンカルボン酸、シロマジンなど極性の高い化合物を多成分同時に分析する手法は開発されておらず、問題となっている。係る多成分同時分析を行うには、検体である畜水産物から複数の残留動物用薬剤を一斉に抽出する必要がある。有機溶媒に可溶性の動物用薬剤については、抽出液として有機溶媒を使用することにより、係る問題を解消し得ることが明らかとなった(例えば、非特許文献1参照)。しかし、有機溶媒難溶性の薬剤については、有機溶剤は使用し得ないので、抽出工程に問題があった。
Howells, L., Sauer, M. J., Analyst, 126, 155-160 (2001)
上述のように、有機溶媒可溶性の動物用薬剤については、抽出液として有機溶媒を使用することにより問題が解消しえるが、水溶性の動物用薬剤についても一斉抽出液が望まれている。しかし、動物用薬剤の中でも抗菌性物質などは、各々の薬剤が安定に存在し得る条件がそれぞれ異なるので、複数の残留動物用薬剤を変性させることなく且つ効率よく、一斉に抽出することが困難であるという問題があった。
本発明者らは、係る問題点を解消するために種々検討した結果、特定の性状からなる抽出液を使用することにより、複数の残留動物用薬剤を変性させることなく且つ効率よく、一斉に抽出することが可能であることを見出している。
しかし、アミノグリコシド系抗生物質は、検体である畜水産物との親和性が高く、畜水産物の性状、即ち、肉種(例えば牛肉、豚肉、魚肉等)の相違、部位(例えばもも肉、肩肉等)の違い、脂肪含量の違いなどによって、抽出率が異なることがあり、データのバラツキが認められることがある。
本発明は係る問題点を解消するものであり、本願発明者らは種々検討したところ、抽出液としてpH8〜10の緩衝液を使用すると、畜水産物検体からアミノグリコシド系抗生物質を効果的に抽出できることが明らかとなった。
この現象は、pH8〜10の緩衝液を使用することでアミノグリコシド系抗生物質の溶解性が高まることによるものではなく、当該pHの緩衝液を使用することにより、畜水産物検体の性状が変化し、検体からのアミノグリコシド系抗生物質の遊離/放出が促進されることによると推察される。
本発明は係る知見に基づくものであって、畜水産物中に残留する動物用薬剤、特にアミノグリコシド系抗生物質の一斉抽出に有用な抽出液を提供するものである。
上記の課題を解決するためになされた本発明は、pH8.0〜10.0、好ましくはpH8.5〜9.5の緩衝液からなる畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出液である。特に、残留動物用薬剤がアミノグリコシド系抗生物質である場合の抽出に好適に使用され、緩衝液としては、Atkins & Pantin緩衝液を使用するのが好ましい。
本発明の抽出液によれば、畜水産物中の残留動物用薬剤の一斉抽出が可能となり、残留量の測定の迅速化・簡便化を図ることができる。特に、従来、畜水産物検体の性状の違いにより画一的な抽出が難しかったアミノグリコシド系抗生物質に対して高い抽出効率を有し、測定精度の向上を図ることができる。
上述のように、本発明の抽出液はpH8.0〜10.0の緩衝液からなり、好ましくはpH8.5〜9.5の緩衝液からなる。
上記の緩衝液としては、畜水産物から動物用薬剤の抽出を阻害するものでなければ何れの緩衝液も使用でき、例えばマキルベン緩衝液、ヘペス緩衝液、セーレンセン緩衝液、クラーク−ラプス緩衝液、コルトフ緩衝液、Atkins & Pantin緩衝液、ブリットン−ロビンソン緩衝液、ミカエリスのベロナール緩衝液、ミカエリスのジメチルグリシン緩衝液などが挙げられる。
抽出液の好ましい態様は、pH8.5〜9.5のAtkins & Pantin緩衝液である。
本発明の抽出液は、畜水産物検体中の動物用薬剤の抽出に広く利用することができるが、特にアミノグリコシド系抗生物質の抽出において効果が顕著である。
係るアミノグリコシド系抗生物質としては、例えば、ネオマイシン、ストレプトマイシン、ジヒドロストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲンタマイシン、ヒグロマイシン、アミカシン、カナマイシン、パロモマイシン、アプラマイシンなどが例示できる。特に、慣用の抽出液では抽出し難いゲンタマイシンを効率よく抽出できるという特長を有する。
本発明の抽出液は、必要に応じて、EDTAなどのキレート剤、メタノールなどの水性有機溶媒を添加してもよい。
本発明の抽出液の使用方法は、従前の残留動物用薬剤抽出液と同様にして使用することができ、一例としては、検体である畜水産物に本発明の抽出液を添加してホモジナイズした後、遠心分離などの慣用の手段で分離することにより、抽出液を得ることができる。
上記の検体に対する抽出液の使用量としては、検体と抽出液の比が1:1〜10(w/v比、以下同様)、好ましくは1:2〜8、より好ましく1:2.5〜5程度となるように調整する。検体1に対する抽出液量が1未満であると抽出が不十分になるおそれがあり、また10を越えても抽出の点では問題はないが、抽出液量が増えて操作が煩雑になるおそれがある。
検体である畜水産物としては、畜肉(例えば牛肉、豚肉、鶏肉、兎肉、羊肉等)、水産物(例えばハマチ、鯛、河豚、海老、鰻、鯉等)が挙げられる。
かくして得られた抽出液は、カラム精製などの常法に準じて精製した後、慣用の測定装置を使用して、残留動物用薬剤が測定される。
精製法としては、例えばC18固相抽出カラムなどが使用され、この際、当該カラムに吸着させるために抽出液にイオンペア試薬であるHFBAやヘプタンスルホン酸を添加してもよい。
また、残留動物用薬剤の測定には高速液体クロマトグラフィー/質量分析法などにより行うことができる。
以下、実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は係る例に限定されるものではない。
実施例1
アミノグリコシド系抗生物質(ストレプトマイシン、ジヒドロストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲンタマイシン)の標準試料をそれぞれ200ppbの濃度に添加した、又は添加しなかった(コントロール用)検体(牛肉)5gを、Atkins & Pantin緩衝液(pH8.5)40mlでホモジナイズして抽出した。抽出後の上澄みにギ酸およびヘプタンスルホン酸をそれぞれ0.5%および1%になるように加えた。C18固相抽出カラム(12cc 500mg) に負荷した後、水10mlで洗浄し、水:メタノール(4:1)10mlならびにアセトニトリル20mlで溶出した。
溶出液を濃縮乾固した後、水/メタノール(7:3) 1mlで再溶解し、以下の条件でLC/MS/MSによる分析に供し、回収率(%)を求めた。高速液体クロマトグラフィー部分の移動層にはA液(0.3% 酢酸、10mM 酢酸アンモニウム)とB液(20%メタノール含有アセトニトリル)のグラジエントを用い、親水クロマトカラムより流速220μl/minで溶出を行った。質量分析は、装置にアプライドバイオシステムズ社API2000を、イオン化モードはESIポジティブならびにネガティブを用い、Spray Voltage (Pos):5000、ターボガス温度:550 ℃で実施した。
実施例2
実施例1において、Atkins & Pantin緩衝液(pH9.0)を使用した以外は、実施例1と同操作・同条件でLC/MS/MSによる分析に供した。
実施例3
実施例1において、Atkins & Pantin緩衝液(pH9.5)を使用した以外は、実施例1と同操作・同条件でLC/MS/MSによる分析に供した。
比較例1
抽出液として、pH6マキルベン溶液を使用し回収を行った以外は、実施例1の通り測定した。
上記の試験結果を表1に示す。表1に示されるように、ストレプトマイシン及びジヒドロストレプトマイシンに対しては、本発明の抽出液は慣用の抽出液(比較例1)よりも高い抽出率を示した。特に、ゲンタマイシンに対して、慣用の抽出液では殆ど抽出できないが、本発明の抽出液を使用すると90.8%(実施例2)という高い抽出率であった。
Figure 2007114014
実施例4
アミノグリコシド系抗生物質以外の17の抗生物質について、実施例1と同様に、pH 9のAtkins & Pantin緩衝液を抽出液として使用して添加回収試験を行った。その結果を表2に示す。
表2に示されるように、アミノグリコシド系抗生物質についても良好な抽出結果が得られた。上記の表1の結果と併せて、本発明の抽出液を使用することにより、幅広い残留動物用薬剤の抽出が可能になることを確認することができ、抗生物質等の高極性化合物であっても多成分一斉分析の実施が可能となった。
Figure 2007114014
実施例5
アミノグリコシド系抗生物質(ネオマイシン、ゲンタマイシン、パロモマイシン、アプラマイシン、カナマイシン)の標準試料をそれぞれ500ppbの濃度に添加した、又は添加しなかった(コントロール用)検体(牛肉)5gを、マキルベン緩衝液(pH5〜8)80mlでホモジナイズして抽出した。抽出後の上澄みにギ酸およびヘプタンスルホン酸をそれぞれ0.5%および1%になるように加えた。C18固相抽出カラム(12cc 500mg) に負荷した後、水10mlで洗浄し、水:メタノール(4:1)10mlならびにアセトニトリル20mlで溶出した。溶出液を濃縮乾固した後、水/メタノール(7:3)1mlで再溶解し、実施例1と同条件でLC/MS/MSによる分析に供した。
実施例6
抽出液のマキルベン緩衝液の代わりにAtkins & Pantin緩衝液(pH8.5〜10)を使用し回収を行った以外は、実施例5の通り測定した。
実施例5及び6の試験の結果を図1に示す。なお、図1において、横軸はpH、縦軸は回収率(%)であり、また図中◆は実施例5の結果、網目四角は実施例6の結果である。図1に示されるように、試験したネオマイシン、ゲンタマイシン、パロモマイシン、アプラマイシン及びカナマイシンの抽出率はpHに依存し、特にpH9の抽出液を用いることにより良好な回収率が得られることが明らかとなった。
各種抗生物質の回収率(%)のpH依存性を示す図である。

Claims (4)

  1. pH8〜10の緩衝液からなる畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出液。
  2. 動物用薬剤が抗菌性物質である請求項1記載の畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出液。
  3. 抗菌性物質が、アミノグリコシド系抗生物質である請求項2記載の畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出液。
  4. pHが8.5〜9.5であり、緩衝液がAtkins & Pantin緩衝液である請求項1〜3の何れかに記載の畜水産物中の残留動物用薬剤の抽出液。
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