JP2007095500A - 有機電界発光素子のシミュレーション方法およびその装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機電界発光素子の発光特性を精度よくシミュレーションする。
【解決手段】有機電界発光素子の取り出し光の発光特性を求めるシミュレーション方法であって、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求める。
【選択図】 なし
【解決手段】有機電界発光素子の取り出し光の発光特性を求めるシミュレーション方法であって、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求める。
【選択図】 なし
Description
本発明は、表示素子、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機、光信号発生器などの分野に利用可能な有機電界発光素子の発光特性を予測するシミュレーション方法およびその装置に関する。
基板上に形成された第一電極(一般には陽極)から注入された正孔と、第二電極(一般には陰極)から注入された電子とが、両極に挟まれた有機蛍光体や有機リン光体内で再結合する際に発光する原理を利用する有機電界発光素子の研究が近年活発に行われている。この素子は、薄型化が可能であり、低駆動電圧下での高輝度発光が可能であり、蛍光材料を選ぶことにより多色発光が可能であるという特徴を有している。
有機電界発光素子が高輝度に発光することは、コダック社のC.W.Tangらによって初めて示された(例えば、非特許文献1参照)。コダック社の提示した有機電界発光素子の代表的な構成は、ITOガラス基板上に正孔輸送性のジアミン化合物、発光層であり、かつ電子輸送性も併せ持ったトリス(8−キノリノラト)アルミニウム、および陰極としてのMg:Agを順次設けたものであり、10V程度の駆動電圧で1000cd/m2の緑色発光が可能であった。現在の有機電界発光装置は、基本的にはコダック社の上記構成を踏襲しており、基板上に第一電極と、発光層を含む薄膜層と、第二電極とが順次積層された構造を有している。そして、薄膜層は、発光層のみの単層構造であってもよいが、多くの場合には正孔輸送層や電子輸送層を設けた、複数層からなる積層構造である。
ところで、有機電界発光素子においては、素子内部で光が干渉するため、同一材料を用いて素子を作製しても、素子構造によって発光スペクトル、色度、輝度などの発光特性が変化することが知られている。そして、この光学干渉による発光特性の変化をシミュレーションする方法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1の方法は、発光面の法線方向に対してある角度θで発光面から観察側に放射される直接光と、前記発光面から放射されて光反射層で一度以上反射された後、前記直接光と同じ角度θで観察側に向う反射光との振幅比もしくは位相差を、複素屈折率を用いてフレネルの式から導かれる有機電界発光素子を構成する各層界面での反射、透過時の振幅、位相の変化と、光吸収と、光路差とに加えて、発光面から放射された光が光反射層によって反射される際に正反射以外の角度に散乱されて生じる散乱光を考慮して求めるシミュレーション方法であり、発光分子から放射される光の振幅に異方性はなく等方的であるとし、光反射層によって反射される際に正反射以外の角度に散乱されて生じる散乱光の存在を考慮して任意の角度方向の発光特性を予測しようというものである。
特開2005−38659号公報
アプライド・フィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)51(12)21,913(1987)
しかしながら、上記のように散乱光をも考慮する特許文献1のシミュレーション方法では、発光量子収率の大きな発光材料を用いた時、シミュレーションで得た基板法線方向の輝度の有機電界発光素子を構成する各層膜厚依存性と実際の発光素子で得られる基板法線方向の各層膜厚依存性との間には大きな違いがあり、シミュレーションとしての精度は必ずしも高いものではなかった。
本発明は、励起状態から基底状態へ光子を放出して遷移する単位時間あたりの確率を求め、さらに励起状態から基底状態へ無輻射で遷移する単位時間あたりの確率を考慮することで、実測値と合致する精度のよいシミュレーション結果を得ることができるシミュレーション方法およびその装置を提供することを目的としている。
すなわち本発明は、構成が既知の有機電界発光素子の取り出し光の発光特性を求めるに当たって、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求めることを特徴とする有機電界発光素子のシミュレーション方法である。
λminは発光分子から放出されることが可能な最短波長を、λmaxは発光分子から放出されることが可能な最長波長を表す。
また、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求める手段を含むことを特徴とする有機電界発光素子のシミュレーション装置である。
本発明によれば、実際に得られる有機電界発光素子の発光特性と高精度に合致するシミュレーション結果を得ることができる。
以下、添付図面を参照して、本発明の有機電界発光素子のシミュレーション方法およびその装置の実施の形態を詳細に説明する。
本発明でいう取り出し光の発光特性とは、ある任意の膜厚構成の素子から発光面の法線方向に対してある角度で外部に出射される光の発光スペクトル、色度、輝度の少なくとも1つを含む概念として使用される。換言すれば、取り出し光の発光特性は、外部に出射される光の発光スペクトル、色度、輝度の少なくとも1つの膜厚依存性である。
以下では、まず発光量子収率の小さな発光材料を用いて素子を作製した時に利用できる双極子モデルについて述べ、続いて本発明である発光量子収率の大きな発光材料を用いて素子を作製した時に利用できる輻射遷移の失活速度定数算出モデルについて述べる。
発光面(図1中の2を参照)の法線方向に対してある角度θで発光面から観察側(図1中の5を参照)に放射される直接光(図1中の4を参照)と、発光面から放射されて光反射層(図1中の1を参照)で一度以上反射された後、直接光と同じ角度θで観察側に向う反射光(図1中の3を参照)とは、一般に振幅と位相が異なるが、それは下記三要素の影響である。
本発明における第一の要素とは、複素屈折率を用いてフレネルの式から導かれる、有機電界発光素子を構成する各層界面での反射、透過時の振幅、位相の変化であり、以下の数式(2)から数式(6)により表される。
複素屈折率N0の媒質0(図2、図3中の6を参照)から複素屈折率N1の媒質1(図2、図3中の7を参照)へ角度θ0で光が入射して角度θ1で透過する場合(図2、図3参照、なお、矢印はベクトルを表し、丸印中に黒丸の記号は、紙面に対して垂直に紙面手前側へ向かうベクトルを表し、丸印中に×印の記号は、紙面に対して垂直に紙面向こう側へ向かうベクトルを表す。これらの表記規約は、以下、他の図においても同様に適用される。)(また、図2、図3中、8は入射光を、9は反射光を、10は透過光を、それぞれ表す)、添え字s、pにより光の電場の入射面に垂直な成分(S偏光)と平行な成分(P偏光)とをそれぞれ表すと、振幅反射率及び振幅透過率は下記数式(2)から数式(5)のようになる。なお、rsはS偏光の光の振幅反射率、tsはS偏光の光の振幅透過率、rpはP偏光の光の振幅反射率、tpはP偏光の光の振幅透過率である。また、図においてEは電場、Hは磁場をそれぞれ表し、図2に示すようにS偏光における電磁場の正方向を定義し、図3に示すようにP偏光における電磁場の正方向を定義する。数式(6)はスネルの法則である。
複素屈折率はNj=nj−i・kjで表される。ここでnjは屈折率、kjは消衰係数であり、iは虚数単位である。そして、屈折率と消衰係数をまとめて光学定数と呼ぶ。光反射層はもちろん、有機電界発光素子を構成する各層の消衰係数は一般には0ではないので、一般に複素屈折率Njは複素数である。そのため振幅反射率、振幅透過率も複素数となり、反射、透過時の位相のずれの情報を含む。入射光の振幅に対する反射光の振幅の比、透過光の振幅の比はそれぞれ振幅反射率、振幅透過率の絶対値である。また、振幅反射率、振幅透過率の偏角を求めれば反射、透過時の位相のずれの値を求めることができる。有機電界発光素子の各層界面での反射、透過時の振幅、位相の変化を求めるには有機電界発光素子を構成する各層の光学定数の値が必要であるが、これは例えば偏光解析法(エリプソメトリ)等により求めることができる。
第二の要素とは光吸収である。有機電界発光素子を構成する各層の消衰係数は一般には0ではないので、光波の進行に伴ない光が吸収される。波長λの光波が消衰係数kの媒質中を距離dだけ進行すると振幅はexp(−2πkd/λ)倍となる。また光反射層での反射時には一部の光は反射されずに吸収される。反射時のエネルギー反射率は振幅反射率の絶対値の二乗であり、エネルギー吸収率は1からエネルギー反射率を差し引けば求まる。これら光吸収の結果、光の振幅が減少する。
第三の要素とは光路差である。光路差の分だけ位相が異なることになる。例えば図4に示すように屈折率nの媒質中にある発光面(図4中の12を参照)の法線方向に対して角度θで発光面から観察側(図4中の15を参照)に放射される直接光(図4中の14を参照)と、発光面から放射されて光反射層(図4中の11を参照)で反射された後、角度θ
で観察側に向う反射光(図4中の13を参照)とは光路差2nd・cosθを有する(dは発光面から光反射層までの距離である)。したがって直接光と反射光とは位相差
4πnd・cosθ/λを有する(ここでλは光の波長である)。
で観察側に向う反射光(図4中の13を参照)とは光路差2nd・cosθを有する(dは発光面から光反射層までの距離である)。したがって直接光と反射光とは位相差
4πnd・cosθ/λを有する(ここでλは光の波長である)。
本発明においては、上記三要素に加えて、第四の要素として、発光分子から放射される光の振幅の異方性を考慮する。これまでの検討によると、発光分子から放射される光の振幅は等方的ではなく、異方的であることが判明した。そこで本発明は、従って実際と類似の、あるいは合致したシミュレーション結果を得るには、発光分子から放射される光の振幅の異方性を考慮することとした。この考え方に基づく、下記に説明する各数式を用いるシミュレーション方法では、発光面の法線方向に対してある角度θで発光面から観察側に放射される直接光と、前記発光面から放射されて光反射層に向かう光(光反射層で反射された後は前記直接光と同じ角度θで観察側に向かう光)との振幅比は一般に1ではなくなり、また、出射角度に応じて放射される光の振幅の値が異なることになる。従来の散乱光を考慮したシミュレーション技術では、発光面の法線方向に対してある角度θで発光面から観察側に放射される直接光と、前記発光面から放射されて光反射層に向かう光との振幅比は常に1であり、また、出射角度に応じて放射される光の振幅の値も常に一定としていたが、これは発光分子から光が放射されるという現象を物理的にとらえるならば正しい結果をもたらすことはできなかった。
有機電界発光素子を構成する各層の膜厚、光学定数、発光層内の膜厚方向の発光強度分布、発光層から発せられる光スペクトル、発光分子数の方向分布を用い(これらは、設計データとして与えられているので、実際には、図示しないメモリに保持させておき、必要に応じてメモリから読み出してシミュレーションのための処理部に供給する)、上記四要素を考慮することで、素子内部の全界面での反射、透過を考慮した内部発光干渉モデルを構成することができ、取り出し光の発光特性を求めることができる。計算の際には、S偏光とP偏光はそれぞれ独立に計算することができ、最後に足し合わせればよい。発光分子から放射される光の電場振幅は一般に異方的であり、本発明では電気双極子遷移による発光の場合を説明する。この場合、発光分子の遷移双極子モーメントが発光面の法線方向に対して垂直である場合を除き、発光面(図5中の18を参照)の法線方向に対してある角度θで発光面から観察側(図5中の21を参照)に放射される直接光(図5中の20を参照)と、前記発光面から放射されて光反射層(図5中の17を参照)に向かう光との振幅比は1ではなく、遷移双極子モーメント(図5中の22を参照)の方向に応じて変化を受けることになる(図5)。図5には発光分子からの放射パターンの概念図を示したが、ここではS偏光の光とP偏光の光を足し合わせた全体の光エネルギーの放射パターンとして示した。後述の数式(20)から(23)に示すように、本発明に記載の座標系での計算式においてはS偏光については発光面から観察側に放射される直接光と前記発光面から放射されて光反射層に向かう光との振幅比は常に1となるが、P偏光についてはこの振幅比が遷移双極子モーメントの方向および光の出射方向に応じて変化する。
発光スペクトルを求めるには、各波長の発光エネルギーを計算するが、その際、まず発光層の屈折率(一般に波長依存性を有する)と発光界面の湧き出し光の電場振幅の二乗との積が、発光分子の遷移双極子モーメントの向きに対して湧き出し光の向きがなす角度に応じて定まった大きさになるようにして各波長の発光エネルギーを求める。次にこの値に発光層から発せられるスペクトル値(着目する波長のエネルギー)を掛けて発光スペクトルを求める。発光層から発せられるスペクトルとしては、発光層と同一の材料からなる膜の光励起発光スペクトルを使用すればよい。なお、発光分子は一般に様々な方向を向いているので、以下のようにする。
まず、遷移双極子モーメントの2つの偏角(方向)をそれぞれいくつかに分割し、遷移双極子モーメントが各角度方向を向いている場合の発光スペクトルを前記方法でそれぞれ独立に求める。次に各発光スペクトルにその角度方向を向いている発光分子数を乗じた後、この値を角度方向に亘って積分して、全方向からの寄与を足し合わせた全体での発光スペクトルを求める。
また、発光強度分布は以下のように取り扱えばよい。まず発光層を何層かに分割し、各層界面のみが発光している場合の発光スペクトルを前記方法でそれぞれ独立に求める。次に各発光スペクトルにその界面での発光強度を乗じた後、この値を厚み方向に亘って積分して、全界面からの寄与を足し合わせた全体での発光スペクトルを求める。このスペクトルから色度・輝度を求めることができる。
以上のようにすれば双極子放射による内部発光干渉モデル(双極子モデル)を構成することができる。Alq3を発光層に用いた素子を作製し、素子の様々な視野角方向の発光効率を測定すると、視野角変化に対する発光効率の変化の仕方は双極子モデルによる計算と実験でよく一致し、実際の発光素子とほぼ同じ数値を得ることができた。これはAlq3の発光量子収率が小さいためである。しかし、発光量子収率の高いクマリン545Tをゲスト材料としてAlq3をホスト材料として発光層に用い、下記構造の化合物(化1)を電子輸送材料に用い、電子輸送層の膜厚を様々に変化させた素子を作製し、素子の基板法線方向の発光効率を測定すると、膜厚変化に対する発光効率の変化の仕方は計算と実験とでは大きな差が見られ、散乱を考慮する従来技術(散乱モデル)と同様の結果であった。
双極子モデルにおいては、発光分子がどのような向きにあっても、発光分子から基板正面方向へ放出される光と電極側に放出される光の振幅は同じになる。(後述の数式(20)から数式(23)参照)このため、基板正面方向の発光特性の膜厚依存性に関する限り、双極子モデルを用いても前記第一〜第三の要素のみからなる内部発光干渉モデルと同じ結果になる。散乱モデルとの相違は散乱光の存在の有無であるが、散乱光の比率が非散乱光と比べて小さい場合(特許文献1の実施例に記載のAlq3素子の場合など)干渉により発光効率が低くなった部分での発光特性に違いが出るに留まるのである。しかし、双極子モデルは発光量子収率が小さな発光材料を用いて作製した素子においては、その基板法線方向に対して任意の視野角方向の発光特性を正確に予測することができ、有用である。
本発明においては、発光量子収率の大きな発光材料を用いて作製した素子の発光特性を予測するために、励起状態にある発光分子が基底状態へ遷移する単位時間当たりの確率(失活速度定数)の素子構成に応じた変化を考慮する。励起状態から基底状態への遷移には光子放出を伴うものと伴わないものとがある。本発明では前者の輻射遷移の失活速度定数が素子構成に応じて変化することを特に考慮する。後者の無輻射遷移の失活速度定数が変化することも考慮してもよいが、本発明においては、素子内部で電界発光する場合の発光分子の無輻射遷移の失活速度定数は、波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた励起状態の発光分子の無輻射遷移の失活速度定数と同じであるとして話をすすめる。
励起状態にある発光分子から光子が放出される時、どの方向に放出されるかを決定することは原理的にできないが、方向を定めれば、その方向へ光子が放出される確率は求めることができる。発光分子が励起状態から角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとする。krs(θ,ψ,λ)dΩdλとkrp(θ,ψ,λ)dΩdλを加えて、全方向全波長で積分すると、発光分子が励起状態から光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率krtotal(輻射遷移の失活速度定数)が求まる。ここで(θ,ψ)は球面座標系における二つの偏角である。
無輻射遷移の失活速度定数をktとすると全失活速度定数はkt+krtotalとなる。従って、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλは(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される輻射遷移の失活速度定数(krs(θ,ψ,λ)dΩdλ+krp(θ,ψ,λ)dΩdλ)を全輻射遷移の失活速度定数(kt+krtotal)で割ることにより求まり、前記数式(1)となる。
以下、まず双極子モデルについて詳細に述べる。その後、本発明の、励起状態から基底状態へ光子を放出して遷移する単位時間あたりの確率を求め、さらに励起状態から基底状態へ無輻射で遷移する単位時間あたりの確率を考慮するモデル(輻射遷移の失活速度定数算出モデル)について詳細に述べる。
以下双極子モデルの説明であるが、まず発光分子の遷移双極子モーメントがある特定の方向を向いていて厚さ方向に発光分布がなく、発光がある界面に集中している場合、すなわちある方向を向いた発光分子が一つだけある場合について述べ、次にこれを用いて様々な方向を向いた発光分子が多数存在し発光分布が厚さ方向に広がっている場合について拡張する。
基板上に、m層の薄膜層と陰極とを有する有機電界発光素子において、図6、図7のように層番号をつける。j=1〜mについて、第j層の膜厚をdjとおく。同様にj=0〜m+1について、波長λにおける屈折率をnj(λ)、消衰係数をkj(λ)とおき、複素屈折率をNj(λ)=nj(λ)−i・kj(λ)とおく。(ここでiは虚数単位である。)素子外部の波長λにおける屈折率をn(λ)とおく。(通常は空気であり、減衰率(k(λ))=0と近似し、又、真空の屈折率と同じであると近似して、N(λ)=n(λ)=1である。)。
まず、発光が第(h−1)層/第h層界面に集中している場合を考え、発光する面を第(h−1)層/第h層界面とする。ここでは図8、図9に示すように第(h−2)層、第(h−1)層、第h層、第(h+1)層の計4層を発光層とし、N(h−1)(λ)およびNh(λ)を実数にとる。すなわち、N(h−2)(λ)=N(h+1)(λ)を発光層本来の複素屈折率とし、N(h−1)(λ)=Nh(λ)=Re[N(h−2)(λ)]=Re[N(h+1)(λ)](k(h−1)(λ)=kh(λ)=0)とする。(ここでReは実数部分を示す。)そのかわり、複素屈折率の値を変化させた(吸収を0にした)ことによる影響を少なくするために、第(h−1)層および第h層の膜厚を0とする。すなわち、d(h−1)(λ)=dh(λ)=0とする。発光層の消衰係数は一般に0ではないが、発光界面の消衰係数が値をもつ場合、θhを実数にとると、基板に出射される方向θ0や外部に出射される方向θが複素数となってしまい、所望の実数の角度方向を計算することができないからである。θ方向の取り出し光に寄与する波長λの光の各界面での電場をEsj α(λ)、Epjj α(λ)で表す{ここでs、pはそれぞれs偏光、p偏光を表す(s偏光とは電場がyz面に垂直な光であり、p偏光とは磁場がyz面に垂直な光である)。なお、下付き添え字jは層番号を表す。また、上付き添え字αは0か1の値を持ち、0はz軸の負の方向に向う光を、1はz軸の正の方向に向う光を示す}。θ方向の波長λの取り出し光に寄与する光の各層での方向θj(θ,λ)に対して、sinθj(θ,λ)、cosθj(θ,λ)を数式(8)、数式(9)から(11)を用いて求める。
次に発光分子から発せられる光の振幅を求める。発光分子の遷移双極子モーメントが図10に示すようにM方向(θTM,ψTM)を向いている場合を考える。θTMおよびψTMはMの偏角である。(図中において太字はベクトルであることを示す。以下も同様である。)着目するのはkh0方向、kh1方向に向かって発せられる光である。ここでkh0方向に向かうS偏光の光の電場方向の単位ベクトルをes0、P偏光の光の電場方向の単位ベクトルをep0としている。また、kh1方向に向かうS偏光の光の電場方向の単位ベクトルをes1、P偏光の光の電場方向の単位ベクトルをep1としている。kh0、kh1は波数ベクトルである。それぞれのベクトルのxyz成分は数式(12)から数式(18)のようになる。
なお、遷移双極子モーメントMとは量子力学で光放射を伴う遷移の遷移確率を計算する際に現れる量で、双極子モーメントの演算子の始状態と終状態との間の行列要素として定義されるものであり、数式(19)で与えられる。
ここでek、xkは、k番目の粒子の電荷および位置ベクトルを表す。またψf、ψiは、それぞれ系の終状態および始状態の波動関数を表す。
本発明は、第四の要素として発光分子から放射される光の振幅の異方性を考慮するが、この要素は以下の数式(数式(20)から数式(23))で表され、シミュレーションの一要素として含まれる。
励起分子の、ある角度方向への光子放出の失活速度は、放出される光子の電場方向の単位ベクトルをeとした場合|e・M|2に比例するので、発せられる光の振幅は|e・M|に比例すると考えることができる。すなわち、m0=1とすると、kh0方向に向かうS偏光の光の電場振幅をvs0、P偏光の光の電場振幅をvp0、kh1方向に向かうS偏光の光の電場振幅をvs1、P偏光の光の電場振幅をvp1として数式(20)から数式(23)のようになる。
次に実際のシミュレーションについてその手順を含め、以下に説明する。下記(1)〜(4)の場合における方程式(数式(24)から数式(39))を満たすas(θ,λ)、ap(θ,λ)を求め、その時のEs0 0(θ,λ)、Ep0 0(θ,λ)を求める。これらは多層膜内から発光して基板に到達した光の電場である。
次に数式(40)から数式(43)を用いて角度θ0(θ,λ)で基板内をz軸の負の方向に向う波長λのs偏光の光の、基板から外部への透過率Ts(λ)、反射率Rs(λ)、p偏光の光の基板から外部への透過率Tp(λ)、反射率Rp(λ)を求める。
次に外部/基板界面に到達して反射された光が再度多層膜で反射される際の多層膜反射率を求める。図11、図12に、波長λの光が角度θ0(θ,λ)で基板から多層膜に入射した場合を示す。各界面での電場をE(1)sj α(θ,λ)、E(1)pj α(θ,λ)で表す。
次に下記(5)(6)の場合における方程式(数式(44)から数式(52))を満たすE(1)s0 0(θ,λ)、E(1)s0 1(θ,λ)、E(1)p0 0(θ,λ)、E(1)p0 1(θ,λ)を求める。E(1)s0 1(θ,λ)、E(1)p0 1(θ,λ)は多層膜への入射光の電場を表し、E(1)s0 0(θ,λ)、E(1)p0 0(θ,λ)は多層膜で反射された反射光の電場を表す。
角度θ0(θ,λ)で基板内をz軸の正の方向に向う波長λのs偏光の光の多層膜での反射率rs(θ,λ)、p偏光の光の多層膜での反射率rp(θ,λ)は数式(53)から数式(54)のようになる。
基板の厚さは通常光の波長よりも遥かに大きいため外部/基板界面で一度以上反射された光は他の光との干渉性がなくなると考えてよい。外部/基板界面と多層膜とで順次反射された光はインコヒーレントに加えることができ、全経路を足し合わせるとθ方向の発光スペクトルIEL’(λ)は数式(55)で表すことができる。ここでIF(λ)は発光層から発する光のスペクトルである。
n0(λ)cosθ0(θ,λ)/nh(λ)cosθh(θ,λ)の項が入る理由について以下に説明する。発光界面においてθh(θ,λ)方向へ湧き出すS偏光の光の電場の振幅はvs0であるので、進行方向に垂直な面を通過する単位面積あたりのエネルギーの時間平均はポインティングベクトルの時間平均であり数式(56)に比例する。
一方、基板に取り出されたS偏光の光の、進行方向(θ0(θ,λ)方向)に垂直な面を通過する単位面積あたりのエネルギーの時間平均はポインティングベクトルの時間平均であり数式(57)で表される。
また、図13に示すように、発光分子から放出された光の光線としての太さを考慮すると、発光界面においてひとつの発光分子からθh(θ,λ)方向へ放出される光の光線の太さはcosθh(θ,λ)に比例し、基板内をcosθ0(θ,λ)方向へ進行する光の光線の太さはcosθ0(θ,λ)に比例するので、ひとつの発光分子からθh(θ,λ)方向へ放出される光のエネルギー(時間平均)は数式(58)に比例する。
ひとつの発光分子から放出され基板内に到達する光エネルギー(時間平均)は数式(59)に比例する。従ってひとつの発光分子から放出された光エネルギーのうち基板内に到達する光エネルギーの割合は、数式(60)に比例する。
ここで発光分子から放出される光エネルギーの波長分散を考え、発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた発光材料から発する光スペクトルをIF(λ)とすると、上記有機電界発光素子内のひとつの発光分子からθh(θ,λ)方向(kh0方向)へ放出される光のエネルギーはその遷移双極子モーメントの方向まで考慮するとIF(λ)|vs0|2に比例する。従って、基板に取り出されるS偏光の光のスペクトルは数式(61)に比例する。
これらはP偏光においても同様である。以上を考慮するとひとつの発光分子から放出され外部に到達する波長λの光のエネルギーの時間平均(発光スペクトル)は、数式(55)で表すことができる。
ところで、発光界面に多数の発光分子が並んでいる場合、図14に示すように、同じスポット径が見込む発光分子数は角度θh(θ,λ)に応じて変化し、1/cosθh(θ,λ)に比例する。従って、全体としての発光スペクトルIEL(λ)は数式(62)で表すことができる。
発光分子の向きが様々であり、遷移双極子モーメントが様々な方向を向いている場合は以下のようにする。まず、任意の遷移双極子モーメントの方向M(θTM,ψTM)を向いた発光分子数をg(θTM,ψTM)とおく。遷移双極子モーメントの向きをM(θTM,ψTM)とした場合について数式(62)を用いてθ方向の発光スペクトルを求めてIEL’(θ,θTM,ψTM,λ)とおく。さらに数式(63)を用いて角度方向で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。
発光分子が配向しておらず、向きがランダムな場合はg(θTM,ψTM)を定数とすればよい。
発光領域が厚さ方向(Z軸方向)に広がりを有している場合は以下のようにする。発光領域が第(h−3)層/第(h−2)層界面から第h層/第(h+1)層界面の間に広がっているとし、この領域内の任意の面dh−2{第(h−1)層/第h層界面}における発光強度をf(dh−2)とおく。{dh−2は第(h−3)層/第(h−2)層界面から第(h−1)層/第h層界面までの距離である。ここでは第(h−1)層/第h層界面を可動としている。}発光面{前記発光領域が第(h−1)層/第h層界面に限られる場合の第(h−1)層/第h層界面}を数式(63)の領域内の面dh−2とした場合について、数式(63)を用いてθ方向の発光スペクトルを求めてIEL’(θ,dh−2,λ)とおく。さらに数式(64)を用いて発光領域内で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。ここでdemlは発光層のトータル膜厚であり、deml=dh−2+dh−1+dh+dh+1である。
遷移双極子モーメントの向きおよび発光領域に関する積分をまとめると以下のようである。すなわち、数式(62)を用いて面dh−2における遷移双極子モーメントM(θTM,ψTM)の発光分子からの発光スペクトルを求めてIEL’(θ,θTM,ψTM,dh−2,λ)とおく。さらに数式(65)を用いて角度方向および発光領域内で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。
発光スペクトルIEL(θ,λ)から数式(66)から数式(69)を用いてCIE1931表色系における3刺激値X(θ)、Y(θ)、Z(θ)を求め、θ方向の色度座標(x(θ),y(θ))、相対輝度L(θ)を求めることができる。なおバー付きのx(λ),y(λ),z(λ)はCIE1931表色系における等色関数である。
次に本発明である、励起状態から基底状態へ光子を放出して遷移する単位時間あたりの確率(輻射遷移の失活速度定数)を求め、さらに励起状態から基底状態へ無輻射で遷移する単位時間あたりの確率(無輻射遷移の失活速度定数)を考慮するモデル(輻射遷移の失活速度定数算出モデル)について述べる。
発光分子の遷移双極子モーメントが図10のようにM(θTM,ψTM)方向を向いている場合を考える。発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に発光分子が置かれた場合、発光分子が励起状態にある時に、kh0方向を含む微小立体角dΩ内にS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率は、数式(20)から数式(23)に記載のvs0を用いて表すと、|vs0|2dΩ/2に比例する。同様にkh1方向を含む微小立体角dΩ内にS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率は、|vs1|2dΩ/2に比例する。また、kh0方向を含む微小立体角dΩ内にP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率は、|vp0|2dΩ/2に比例する。同様にkh1方向を含む微小立体角dΩ内にP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率は、|vp1|2dΩ/2に比例する。
以上はミラーが存在しない場合であるが、発光波長オーダーの距離にミラーが存在する場合、一般にこれら輻射遷移の単位時間当たりの確率は変化する。前述の双極子モデルにおいても実はこれらの変化が盛り込まれている。双極子モデルは、下記に述べる輻射遷移の失活速度定数算出モデルにおいて輻射遷移の発光失活速度定数よりも無輻射遷移の発光失活速度定数が非常に大きい場合、すなわち発光量子収率が非常に小さい場合の極限にあたる。
まず、発光分子から外部に放出される経路に光子が放出される場合を考える。すなわちkh0方向に放出された光子は素子内部で吸収されなければ、素子外部に取り出されることが可能な経路であるとする。この時、双極子モデルで行ったように、まず、発光分子から数式(20)から数式(23)のような電場振幅をもった光波が放出されるとして計算を行う。計算に必要なのはkh0およびkh1方向に放出される光波である。これらはミラーが存在すると反射して互いに同方向になり干渉するからである。
発光分子からkh0方向、kh1方向(θh方向)に放出された光による、波長λの光の各界面での電場をEsj α(θh,λ)、Epj α(θh,λ)で表す(図6、図7参照){ここでs、pはそれぞれs偏光、p偏光を表す(s偏光とは電場がyz面に垂直な光であり、p偏光とは磁場がyz面に垂直な光である)。なお、下付き添え字jは層番号を表す。また、上付き添え字αは0か1の値を持ち、0はz軸の負の方向に向う光を、1はz軸の正の方向に向う光を示す}。θ方向の波長λの取り出し光に寄与する光の各層での方向θj(θh,λ)に対して、sinθj(θh,λ)、cosθj(θh,λ)を数式(70)、数式(71)を用いて求める。
次に発光分子から発せられる光の振幅を求める。kh0方向に湧き出すS偏光の光の電場振幅をvs0、P偏光の光の電場振幅をvp0、kh1方向に湧き出すS偏光の光の電場振幅をvs1、P偏光の光の電場振幅をvp1として数式(20)から数式(23)のようになる。
次に下記(1)〜(4)の場合における方程式(数式(74)から数式(89))を満たすas(θh,λ)、ap(θh,λ)を求める。
数式(74)から数式(89)を用いるとEs(h−1) 0(θh,λ)、Es(h−1) 1(θh,λ)、Ep(h−1) 0(θh,λ)、Ep(h−1) 1(θh,λ)が求まる。発光分子からkh0方向、kh1方向への光の湧き出しエネルギーは、発光界面の取り出し側の面およびその反対面でポインティングベクトルの時間平均を差し引けば求まる。kh0方向へ湧き出す波長λのS偏光の光のエネルギーをSs0(θh,θTM,ψTM,λ)、kh1方向へ湧き出す波長λのS偏光の光のエネルギーをSs1(θh,θTM,ψTM,λ)、kh0方向へ湧き出す波長λのP偏光の光のエネルギーをSp0(θh,θTM,ψTM,λ)、kh1方向へ湧き出す波長λのP偏光の光のエネルギーをSp1(θh,θTM,ψTM,λ)とすると、
と書くことができる。なお、ここではエネルギーの波長依存性をなくすために、ポインティングベクトルであれば本来掛けておかなければならない発光層の屈折率nhを右辺に含めていない。(nhは一般に波長に応じて変化する。)また、数式(20)から数式(23)のvs0等をθh,θTM,ψTMの関数をしてvs0(θh,θTM,ψTM)等と記した。以降もこの表記を用いる。
ミラーが存在しない時に発光材料から発せられる発光スペクトルをIF(λ)とすると、有機電界発光素子内の発光分子から実際に湧き出す光のエネルギーは数式(90)から数式(93)にIF(λ)を掛けたものに比例すると考えることができる。また、さらにhc/λで割るとエネルギーを光子数に変換することができ、これが励起状態にある発光分子がkh0方向、およびkh1方向に波長λの光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率に比例するものとなる。
以上をまとめると以下のようになる。すなわち、遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子から、角度kh0方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs0(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλ、角度kh1方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs1(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλ、角度kh0方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp0(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλ、角度kh1方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp1(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλと記載すると下記数式(94)から数式(97)のようになる。
以上は外部に放出される経路に光子が放出される場合(外部放出モード)であったが、基板内には到達するが基板/外部界面で全反射を繰り返し基板内を横方向に導波する経路の場合(基板導波モード)についても同様に扱うことができる。さらに本発明においては、発光層を含む薄膜内部に閉じ込められ、基板/第1電極および第2電極で反射を繰り返し、薄膜層内を横方向に導波する経路の場合(薄膜導波モード)についても同様に扱う。
遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子がその方向を問わず光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率kr(θTM)(輻射遷移の失活速度定数)は数式(98)となる。
kr(θTM)を求めるには発光分子の遷移双極子モーメントの向きをある方向に固定してkh0およびkh1の方向を様々に変化させて、各方向へ輻射遷移の失活速度定数を求めて足し合わせればよいが、ここでは以下のように計算を行った。すなわち、kh0およびkh1に関してはzx平面内に固定しθhの値を0〜90°まで変化させ、z軸を軸に回転はさせないが、代わりに遷移双極子モーメントMをz軸を軸に360°回転させる。また、輻射遷移の失活速度定数はθTMのみに依存しψTMには依存しないのでkr(θTM)と記載した。
発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率(無輻射遷移の失活速度定数)をktとすると、遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた発光分子が励起状態になった後に光子を放出する確率φall(θTM)(発光量子収率)は数式(99)となる。
有機電界発光素子内の発光分子の発光量子収率φall(θTM)は発光分子が発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた場合の発光量子収率φoutと一般に値は異なっている。なお、本発明においては無輻射遷移の失活速度定数ktの値は、発光分子が光励起された場合と、有機電界発光素子内で正孔と電子が再結合することにより励起された場合とで値は変化しないとして話を進める。
ktの値を定めるには例えば以下のようにすればよい。すなわち、発光分子が発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた場合の輻射遷移の失活速度定数kroutを数式(100)により求める。
さらに発光分子が発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた場合の発光量子収率φoutから数式(101)によりktを求める。
遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子が角度kh0方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子を放出する確率φ0(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλは、
同様に、遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子が角度kh1方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子を放出する確率φ1(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλは、以下のようになる。
kh0方向が取り出し側の外部放出モードである場合、遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子が角度kh0方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子を放出しその光子が基板に到達する確率φsub(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλは数式(104)のようになる。
ここでn0(λ)cosθ0(θh,λ)/nh(λ)cosθhの項が含まれることについて説明をする。cosθ0(θh,λ)/cosθhの項は図13に示すように屈折により光線の太さが変化することにより挿入される項である。そしてポインティングベクトルの時間平均が例えばS偏光の基板取り出し光、光源の湧き出し光について、それぞれ数式(105)、数式(106)
で表されるため、光源でkh0方向に湧き出した波長λのS偏光の光エネルギーのうちどれだけの割合が基板に到達するかを計算するには数式(107)を求めればよい。P偏光の光についても同様である(数式(108))。
以上の考察から数式(104)にn0(λ)cosθ0(θh,λ)/nh(λ)cosθhの項が含まれることが説明された。
基板に到達した光は全てが外部に到達するわけではなく、一部は基板/外部界面で反射されて素子内部に戻り、戻った光のうち一部がまた再度多層膜で反射されて基板に戻る。これらが繰り返されることになる。
そこで、双極子モデルで述べたのと同様に、数式(109)から数式(112)を用いて角度θ0(θh,λ)で基板内をz軸の負の方向に向かう波長λのs偏光の光の、基板から外部への透過率Ts(θh,λ)、反射率Rs(θh,λ)、p偏光の光の、基板から外部への透過率Tp(θh,λ)、反射率Rp(θh,λ)を求める。
次に、外部/基板界面に到達して反射された光が再度多層膜で反射される際の多層膜反射率を求める。波長λの光が角度θ0(θh,λ)で基板から多層膜に入射した場合を示す。各界面での電場をE(1)sj α(θh,λ)、E(1)pj α(θh,λ)で表す(図11、図12)。
次に下記(5)(6)の場合における方程式(数式(113)から数式(121))を満たすE(1)s0 0(θh,λ)、E(1)s0 1(θh,λ)、E(1)p0 0(θh,λ)、E(1)p0 1(θh,λ)を求める。E(1)s0 1(θh,λ)、E(1)p0 1(θh,λ)は多層膜への入射光の電場を表し、E(1)s0 0(θh,λ)、E(1)p0 0(θh,λ)は多層膜で反射された反射光の電場を表す。
角度θ0(θh,λ)で基板内をz軸の正の方向に向う波長λのs偏光の光の多層膜での反射率rs(θh,λ)、p偏光の光の多層膜での反射率rp(θh,λ)は数式(122)から数式(123)のようになる。
これらを考慮すると、遷移双極子モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた励起状態にある発光分子が角度kh0方向(θh)を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子を放出しその光子が外部に到達する確率φEL(θh,θTM,ψTM,λ)dΩdλは数式(124)のようになる。ここで外部の屈折率n=1、消衰係数k=0とした。
φEL(θh,θTM,ψTM,λ)は光子数表示のELスペクトルに対応する。これを通常の表示であるエネルギー表示のELスペクトルIEL(θh,θTM,ψTM,λ)に変換するには、以下のようにすればよい。
発光界面の光の進行方向がθhの場合、外部出射光の進行方向はθ(θh,λ)となり、波長によって出射角度θ(θh,λ)が異なるが、外部出射光の角度をθに固定するなら、発光界面の光の進行方向はθh(θ,λ)と書くことができる。改めて書き直すと、遷移モーメントがM(θTM,ψTM)を向いた発光分子から角度θ方向に光が取り出される時、そのELスペクトルは、数式(126)のようになる。
発光界面に多数の発光分子が並んでいる場合、図14に示すように、同じスポット径が見込む発光分子数は角度θh(θ,λ)に応じて変化し、1/cosθh(θ,λ)に比例する。従って、数式(126)のひとつの発光分子による発光スペクトルをIEL ’(θ,θTM,ψTM,λ)と書けば、全体としての発光スペクトルIEL(θ,θTM,ψTM,λ)は数式(127)で表すことができる。
発光分子の向きが様々であり、遷移双極子モーメントが様々な方向を向いている場合は以下のようにする。
まず、任意の遷移双極子モーメントの方向M(θTM,ψTM)を向いた発光分子数をg(θTM,ψTM)とおく。遷移双極子モーメントの向きをM(θTM,ψTM)とした場合について数式(127)を用いてθ方向の発光スペクトルを求めてIEL’(θ,θTM,ψTM,λ)とおく。さらに数式(128)を用いて角度方向で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。
発光分子が配向しておらず、向きがランダムな場合はg(θTM,ψTM)を定数とすればよい。
発光領域が厚さ方向(Z軸方向)に広がりを有している場合は以下のようにする。発光領域が第(h−3)層/第(h−2)層界面から第h層/第(h+1)層界面の間に広がっているとし、この領域内の任意の面dh−2{第(h−1)層/第h層界面}における発光強度をf(dh−2)とおく。{dh−2は第(h−3)層/第(h−2)層界面から第(h−1)層/第h層界面までの距離である。ここでは第(h−1)層/第h層界面を可動としている。}発光面{前記発光領域が第(h−1)層/第h層界面に限られる場合の第(h−1)層/第h層界面界面}を発光領域内の面dh−2とした場合について、数式(125)を用いてθ方向の発光スペクトルを求めてIEL’(θ,dh−2,λ)とおく。さらに数式(126)を用いて発光領域内で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。ここでdemlは発光層のトータル膜厚であり、deml=dh−2+dh−1+dh+dh+1である。
遷移双極子モーメントの向きおよび発光領域に関する積分をまとめると以下のようである。すなわち、数式(127)を用いて面dh−2における遷移双極子モーメントM(θTM,ψTM)の発光分子からの発光スペクトルを求めてIEL’(θ,θTM,ψTM,dh−2,λ)とおく。さらに数式(130)を用いて角度方向および発光領域内で積分し、θ方向の発光スペクトルIEL(θ,λ)を求める。
発光スペクトルIEL(θ,λ)から数式(131)から数式(134)(数59参照)を用いてCIE1931表色系における3刺激値X(θ)、Y(θ)、Z(θ)を求め、θ方向の色度座標(x(θ),y(θ))、相対輝度L(θ)を求めることができる。なおバー付きのx(λ),y(λ),z(λ)はCIE1931表色系における等色関数である。
本発明は透明基板上に透明な第一電極、有機化合物からなる薄膜層、光反射層が積層された構造の素子において効果的であるが、基板上に光反射層、有機化合物からなる薄膜層、透明な第二電極が積層されたトップエミッション構造の有機電界発光素子に対しても効果的である。
以上のモデルを用いて実際にシミュレーションするには、コンピュータを用いて本発明のシミュレーション方法を反映したプログラムを実行すればよい。具体的には、例えば以下のようにして実施する。まず、有機電解発光素子を構成する各層の膜厚、光学定数、発光層内の膜厚方向の発光強度分布、発光層から発せられる光スペクトル、発光分子数の方向分布、着目する視野角をキーボード等の入力手段により数値データとしてコンピュータのハードディスク内に記憶させる。
次にあらかじめハードディスク内に記憶させている本発明のシミュレーションを反映したプログラムを起動し、ハードディスク内に記憶されたデータを使用し、計算処理を実行させる。計算処理は、コンピュータ内のハードディスク、メモリ、CPUを用いて行われるが、その内容はおおよそ次の通りである。まず、発光層内のある位置におけるある方向を向いた発光分子による着目する視野角方向の発光スペクトルを求め、そこにその発光分子の存在確立を乗じる。これを種々の位置、種々の方向の発光分子について順次求めて行き、最後に、求めたものをすべて足し合わせることにより、素子の着目する視野角方向の発光スペクトルが得られる。また、その発光スペクトルから輝度および色度が得られる。得られた結果については、モニタ等の出力手段により表示させることで確認できる。また、本発明は発光量子収率の高い発光材料を用いた素子の発光特性のシミュレーションに有効である。
なお、本発明による数値計算を行う際には、以下の2点の近似を行うこととした。1点目は、発光分子が励起状態からある方向へ光子を放出して基底状態へ遷移する単位時間あたりの確率は、発光分子が波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な場合の遷移確率の25倍以下とする近似である。図15に示すように符号25の位置にある発光分子が反射率100%の完全なミラーに挟まれた状態にあり、かつ点線で示す右側に放射された光波がミラーに反射されて左側に進行する際、実線で示す左側に放射された光波と位相が一致し強めあう場合、光の吸収がないとすると図の符号25の位置において初めの光波の電場振幅はEであったが、図の符号26の位置において5Eになる。図には記載していないが、反射を繰り返すにつれ電場振幅はより大きくなって行く。もしミラーが存在しなければ、発光分子から図の左の角度方向へ光子が放出される単位時間あたりの遷移確率(失活速度)は|E|2に比例するが、ミラーが存在する場合、符号26の位置で観測を行うと、左の角度方向へ光子が放出される失活速度は25|E|2となる。観測位置が図の上の方になる程、失活速度は大きくなって行く。本発明においては、実際の有機電界発光素子においては大きく強めあうような理想的な干渉が起こらないであろうと推測し、ミラーが存在しない場合の失活速度の25倍より大きくはならないと近似した。なお、これはS偏光の光について、P偏光の光についてそれぞれ独立に近似した。具体的には下記数式(135)の場合数式(136)、数式(137)の場合数式(138)、数式(139)の場合数式(140)、数式(141)の場合数式(142)とするよう近似した。
2点目は、発光分子が励起状態からθhの大きな方向すなわち基板法線方向に対して垂直に近い方向へ光子を放出して基底状態へ遷移する単位時間あたりの確率は、発光分子が波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な場合の遷移確率の1倍以下とする近似である。図16に示すようにθhが大きい場合発光分子から放出された光波はミラーで反射されるまでに長い距離を進む必要があり、ミラーで反射されるまでにホスト分子に吸収される確率が高くなる。ミラーで反射されなければ干渉も起きず、その方向への輻射遷移の失活速度が変化することもない。従って、θhが大きい場合その方向への輻射遷移の失活速度はミラーがない場合と同じになる可能性が高く、ここではθh≧85°の場合に、kh0方向またはkh1方向のどちらかへの輻射遷移の失活速度がミラーがない場合の速度を上回る場合に、kh0方向およびkh1方向両方についてその輻射遷移の失活速度をミラーがない場合の速度と同じ値になるよう修正することとした。
具体的には下記数式(143)または数式(144)の場合、数式(145)および数式(146)とするように、また、下記数式(147)または数式(148)の場合、数式(149)および数式(150)とするように近似した。
以下、実施例および比較例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
スパッタリング法によりITO透明導電膜を109nm積層したガラス基板を38×46mmに切断した後、ITOの不要部分をエッチング除去した。得られた基板をアルカリ洗浄液で10分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV/オゾン処理し、真空装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず銅フタロシアニン(CuPc)を6nm蒸着し、続いて正孔輸送材料としてN,N’−ジ−(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)を62nm蒸着し、続いて発光層として、ホスト材料トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)に、ゲスト材料10−(2−ベンゾチアゾリル)−1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H,11H−〔l〕ベンゾピラノ〔6,7,8−ij〕キノリジン−11−オン(クマリン545T)を0.5wt%ドーピングした膜を25nm蒸着し、続いて電子輸送材料として上記に示した化1で表される化合物を4.75nm蒸着した。陰極用マスクを装着し、フッ化リチウムの蒸気にさらしてドーピングした後、アルミニウムを150nm蒸着して陰極とした。このようにして作製した有機電界発光素子を素子1と呼ぶ。電子輸送材料の蒸着膜厚を下記表1のように4.75nm〜209nmの間の値に変えた以外は同様にして素子2〜素子20を作製した。
このようにして作製した有機電界発光素子(素子1〜素子20)を10mA/cm2の電流密度で発光させ、基板表面の法線方向の輝度を測定したところ、図17の(1)のようであった。輝度は電子輸送層膜厚0〜100nmにおいて最も高い輝度を示した素子の輝度を1として規格化している。
実施例1
上記構成の有機電界発光素子(素子1〜素子20)について本発明のモデルによるシミュレーションを行い、ミラーが存在しない時の発光層の発光量子効率が0.999であるとして、基板表面の法線方向の輝度を求めたところ図17の(2)のようになり、実際の発光素子に近い数値が得られた。電子輸送層膜厚を厚くしていった時に、輝度は一度高くなり(第1のピーク)、より厚くすれば次第に低くなってゆく。さらに厚くすると、再び高くなって行き第2のピークが現れる。実測データでは第2ピークが第1ピークより高くなっているが、実施例においても同様に第2ピークが第1ピークより高くなっている。なお、輝度は電子輸送層膜厚0〜100nmにおいて最も高い輝度を示した素子の輝度を1として規格化して示した。
上記構成の有機電界発光素子(素子1〜素子20)について本発明のモデルによるシミュレーションを行い、ミラーが存在しない時の発光層の発光量子効率が0.999であるとして、基板表面の法線方向の輝度を求めたところ図17の(2)のようになり、実際の発光素子に近い数値が得られた。電子輸送層膜厚を厚くしていった時に、輝度は一度高くなり(第1のピーク)、より厚くすれば次第に低くなってゆく。さらに厚くすると、再び高くなって行き第2のピークが現れる。実測データでは第2ピークが第1ピークより高くなっているが、実施例においても同様に第2ピークが第1ピークより高くなっている。なお、輝度は電子輸送層膜厚0〜100nmにおいて最も高い輝度を示した素子の輝度を1として規格化して示した。
ここで発光分子の向きはランダムとして数式(128)におけるg(θTM,ψTM)=1とし、θTMについてはθTM=0、15、30、45、60、75、90°の場合を、ψTMについてはψTM=0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180°の場合をそれぞれ独立に計算して足し合わせた。空間的対称性によりψTMの範囲は0〜180°でも0〜360°と同じ結果が得られるので0〜180°の範囲とした。また、ここで発光層内での発光強度分布f(dh−2)はNPD/発光層界面で強く発光層/電子輸送層界面に近づくに従って減少し、膜厚に関する指数関数分布として数式(151)のように表せると仮定した。
ここでf0は定数であり、dh−2はNPD/発光層界面を0として発光層/電子輸送層界面に向って測った距離のnm単位の数字である。なお、発光スペクトルは最終的には規格化されるからf0は如何なる値であってもよいが、ここでは1とした。また指数関数の分母の10という値は、発光領域の広がりが10nm程度であると仮定することにより定めた。
すなわちNPD/発光層界面から発光層/電子輸送層界面に向って10nm進んだ地点で発光強度は1/eに減少するとした。計算では発光層を等間隔に4つに分割し、計5面が発光界面である場合をそれぞれ独立に計算して足し合わせた。
なお、波長については400〜800nmについて5nm毎に計算を行った。また発光面から放射される光スペクトルとして、石英板上にAlq3にクマリン545Tを0.5wt%ドーピングした膜を25nm積層し、光励起スペクトルを測定して得られたスペクトル(図18)を用いた。また、有機電界発光素子を構成する各層の光学定数として、ガラス基板上に各層をそれぞれ100nm積層し偏光解析により光学定数を測定して得られた値を用いた。
比較例1
この構成の有機電界発光素子について、特許文献1の段落0066〜0103に記載の方法でシミュレーションを行い、素子1〜素子20の基板表面の法線方向の輝度を求めたところ図17の(3)のようになった。なお、光反射層界面全体の面積に対して正反射が起こる面積の比r2は特許文献1に記載の0.87とした。輝度は電子輸送層膜厚0〜100nmにおいて最も高い輝度を示した素子の輝度を1として規格化して示した。本実施例と比べると第1ピークと第2ピークの輝度の値の大小関係において実測との差が大きい。
この構成の有機電界発光素子について、特許文献1の段落0066〜0103に記載の方法でシミュレーションを行い、素子1〜素子20の基板表面の法線方向の輝度を求めたところ図17の(3)のようになった。なお、光反射層界面全体の面積に対して正反射が起こる面積の比r2は特許文献1に記載の0.87とした。輝度は電子輸送層膜厚0〜100nmにおいて最も高い輝度を示した素子の輝度を1として規格化して示した。本実施例と比べると第1ピークと第2ピークの輝度の値の大小関係において実測との差が大きい。
1、11、17 光反射層
2、12、18 発光面
3、19 反射光
4、20 直接光
5、15、21 観察側
6 媒質0:複素屈折率N0
7 媒質1:複素屈折率N1
8 入射
9 反射
10 透過
13 反射光B
14 直接光A
16 屈折率n
22 遷移双極子モーメント
23 cosθ0
24 cosθh
25 発光分子の位置
26 光波が進行した位置
27 電場振幅E
28 電場振幅5E
29 光吸収
2、12、18 発光面
3、19 反射光
4、20 直接光
5、15、21 観察側
6 媒質0:複素屈折率N0
7 媒質1:複素屈折率N1
8 入射
9 反射
10 透過
13 反射光B
14 直接光A
16 屈折率n
22 遷移双極子モーメント
23 cosθ0
24 cosθh
25 発光分子の位置
26 光波が進行した位置
27 電場振幅E
28 電場振幅5E
29 光吸収
Claims (4)
- 有機電界発光素子の取り出し光の発光特性を求めるシミュレーション方法であって、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求めることを特徴とする有機電界発光素子のシミュレーション方法。
- 発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた(θTM,ψTM)方向を向いた発光分子のkrs(θ,ψ,λ)、およびkrp(θ,ψ,λ)の値から光学薄膜理論を用いて有機電界発光素子の発光層内に置かれた(θTM,ψTM)方向を向いた発光分子のkrs(θ,ψ,λ)、およびkrp(θ,ψ,λ)の値を算出して用いることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子のシミュレーション方法。
- 有機電界発光素子の取り出し光の発光特性を求めるシミュレーション装置であって、発光層内に存在する発光分子が励起状態から無輻射で基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkt、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのS偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrs(θ,ψ,λ)dΩdλ、角度(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλのP偏光の光子を放出して基底状態に遷移する単位時間あたりの確率をkrp(θ,ψ,λ)dΩdλとして、励起状態にある発光分子から(θ,ψ)方向を含む微小立体角dΩ内へ波長λからλ+dλの光子が放出される確率φ(θ,ψ,λ)dΩdλを数式(1)より求める手段を含むことを特徴とする有機電界発光素子のシミュレーション装置。
- 発光波長オーダーの距離にミラーの存在しない、あるいはミラーによる反射が微小な位置に置かれた(θTM,ψTM)方向を向いた発光分子のkrs(θ,ψ,λ)、およびkrp(θ,ψ,λ)の値から光学薄膜理論を用いて有機電界発光素子の発光層内に置かれた(θTM,ψTM)方向を向いた発光分子のkrs(θ,ψ,λ)、およびkrp(θ,ψ,λ)の値を算出して用いる手段を含むことを特徴とする請求項3記載の有機電界発光素子のシミュレーション装置。
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JP2005283732A JP2007095500A (ja) | 2005-09-29 | 2005-09-29 | 有機電界発光素子のシミュレーション方法およびその装置 |
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---|---|---|---|---|
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2005
- 2005-09-29 JP JP2005283732A patent/JP2007095500A/ja active Pending
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