図3は光透過性の基板6の一面側に光透過性の電極3、ホール輸送層12、発光層10、電子輸送層13、光反射性の電極2が順次形成された有機エレクトロルミネッセンス素子Aを示す。図中の矢印は、光の進路を模式的に示したものである。この図3を参照して、従来の有機エレクトロルミネッセンス素子Aの設計方法を説明する。
特許文献1では、光反射性の電極2と、これに隣接する有機層11(ここでは電子輸送層13)の界面で光が反射する際には、外面反射であるので反射前後で位相シフトπが生じることを前提とし、発光層10から基板6側へ向かう光と、発光層10から光反射電極2へ向かった後にこの電極2の表面で反射されてから基板6側に向かう光とが干渉して強めあうようにしている。このために、発光層10における発光源15と光反射性の電極2の表面との間の膜厚dに屈折率を乗じて導出される光学膜厚Dを光の波長λの1/4の奇数倍と略等しくなるようにし、これにより基板6から正面方向に外部へ出射する光の成分の量が極大値となるようにしている。
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、光反射性の電極2での反射の際の位相シフトが正確に考慮されておらず、この方法に従って発光源15から光反射性の電極2の表面までの寸法を設計しても、基板6から正面方向に外部へ出射する光の成分の量を極大値とすることができないという問題がある。すなわち、特許文献2で説明されているように、光反射性の電極2の表面で生じる位相シフトはπではなく、有機層11(電子輸送層13)の屈折率n1と消衰係数k1、並びに光反射電極2の屈折率n2と消衰係数k2に基づき、次の式(1)で表される位相シフトφである。
特許文献2ではこの位相シフトφを考慮して、基板6から外部へ出射する光の成分の量が極大値となるようにするために、発光源15から電極2の表面までの光学膜厚Dが次の式(2)〜(4)を満たすようにすることが記載されている。
2π/9≦φ≦15π/18 …(2)
F=φ×λ/4 …(3)
0.73F≦D≦1.15F …(4)
これらの特許文献1、2に記載された設計方法では、基板6から正面方向に外部へ出射する光の成分の量が極大値となるように発光源15から光反射電極2の表面までの光学膜厚Dを決定している。
図3に示す有機エレクトロルミネッセンス素子Aにおける、発光層10の発光源15から基板6側へ斜めに出射する光の伝搬について説明する。実際には光反射性の電極2への光も存在するが、ここでは省略する。
屈折率の高い媒質から屈折率の低い媒質へ光が伝搬する場合、その界面では媒質間の屈折率により、スネルの法則から臨界角が決定され、その臨界角以上の光は界面で全反射し、屈折率の高い媒質に閉じ込められ、導波光として失われる。
ここで、有機エレクトロルミネッセンス素子Aに使用される基板6は、優れた透明性、強度、低コスト、ガスバリア層、耐薬品性、耐熱性等の観点から、もっぱらガラスが用いられる。一般的なソーダライムガラス等の屈折率は1.52程度である。光透過性の電極3には酸化インジウムに酸化錫をドープした酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)が、その優れた透明性と電気伝導性から広く用いられている。
ITOやIZOの屈折率は、その組成、成膜方法、結晶構造等により変化するが、ITOではおよそ1.7〜2.3、IZOではおよそ1.9〜2.4であり、非常に高い屈折率を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの発光層10やその他の有機層11を構成する発光材料、電子輸送性材料、ホール輸送性材料等の屈折率は、一般的なベンゼン環をその分子構造内に多く含んだπ共役結合系の材料であるため、屈折率はおよそ1.6〜2.0程度のものが多く、一般的な有機材料に比べて屈折率が高い。
従って、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子Aにおいては、各層の屈折率の大小関係は、大気14<基板6<有機発光層11<光透過性の電極3となり、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの発光層10の発光源15から斜めに高角度に出射した光は、基板6と大気14の界面及び光透過性の電極3と基板6の界面で全反射する。
つまり、図3において、有機発光層4(ホール輸送層12、発光層10、電子輸送層13)の屈折率を1.7、光透過性の電極3の屈折率を1.9、基板6の屈折率を1.52、大気14の屈折率を1とすると、発光層10の発光源15から斜めに出射した光は、有機発光層4より光透過性の電極3の方が屈折率が高いため全反射が起こらず、全て光透過性の電極3に到達する。一方、光透過性の電極3の屈折率は基板6の屈折率よりも高いため臨界角が存在し、その臨界角は53°となる。この臨界角以上の入射角の光は光透過性の電極3と基板6との界面で全反射して光透過性の電極3内に閉じ込められる。また、基板6の屈折率は大気14の屈折率よりも高いため臨界角が存在し、その臨界角は41°となる。この臨界角以上の入射角で入射する光は基板6と大気14との界面で全反射して基板6内に閉じ込められる。
このような素子内に閉じ込められる導波光を外部へ取出すための手段として、例えば光透過性の電極3の有機発光層4とは反対側に光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を設けることが挙げられる。例えば図1に示される有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは基板6の外面側に光の反射・屈折角を乱れさせる領域5が設けられ、図2に示される有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは光透過性の電極3と基板6との間に光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を介在させている。この場合、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5ではスネルの法則が崩され、本来光透過性の電極3と基板6を導波して失われる光が外部に出射されるようになる。このような光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を形成する手法としては、例えば透光性基体上に単粒子層を並べた拡散部材により光拡散層を形成する方法(特許文献3)が挙げられる。
しかし、特許文献1〜3に記載の方法では、基板6や光透過性の電極3を導波して失われる光の成分は考慮されておらず、このため光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を設けて本来失われる光を取出すようにした場合には、光取出し効率が必ずしも最も高くなるとはいえないという問題がある。
そこで、特許文献4及び特許文献5では、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5が形成される場合に、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの発光量を向上するための設計方法が提案されている。この設計方法では、基板6から大気14へ出射される発光の正面輝度値と50〜70°方向の輝度値が次の式(5)の関係を満たすようにし、或いはさらに発光源15と光反射性の電極2の表面との間の寸法をd、発光層10に含まれている発光材料の蛍光発光スペクトルのピーク波長をλ、発光層10と光反射性の電極2との間の有機層11の屈折率をnとした場合に次の式(6)の関係を満たすようにするものである。
(正面輝度値)<(50〜70°方向の輝度値) …(5)
(0.3/n)λ<d<(0.5/n)λ …(6)
この設計方法では、正面方向の光は干渉により弱めあうものの、通常は導波光として素子A内に閉じ込められる高角度成分の光が強めあうようにし、この光を光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を介して外部に出射するようにして、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの全体的な光の取出し効率を向上しようとしている。
しかし、この特許文献4及び特許文献5に記載の方法では、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5によって光の取出し効率を向上するにあたり、干渉効果によって変化する光の成分の量の一つの極大値しか利用されていない。このためこの方法では、発光層15と光反射性の電極2の表面との間の寸法を前記極大値とすることができない場合、例えば発光層10を複数層設ける場合のように発光源15と光反射性の電極2の表面との間の寸法が前記極大値を取り得る寸法を超えざるを得ないような場合にまでは対応することができないという問題がある。
このように従来は有機エレクトロルミネッセンス素子Aから出射される光の成分の量が所望の程度になるように素子A設計をおこなうことは困難なものであった。
特開2000−243573号公報
特開2004−165154号公報
特開2001−356207号公報
特開2004−296423号公報
特開2004−296429号公報
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子A(有機EL素子A)の設計方法を、図3に示す有機EL素子Aに基づいて説明する。
この有機EL素子Aは、光透過性の基板6の一面側に、光透過性電極3、有機発光層4、光反射性の電極2が、この順に積層しており、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5は設けられていない。前記有機発光層4は、発光材料を含む発光層10に必要に応じてホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等の適宜の有機層11を積層して構成される。図示の例では、光反射性の電極2と発光層10との間に電子輸送層13を介在させ、光透過性電極3と発光層10との間にホール輸送層12を介在させている。
有機EL素子Aを構成する各層の材質は、有機EL素子Aに適用されている適宜のものを採用することができ、特に制限されない。
このような有機EL素子Aに光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を設けるにあたり、本発明では、光学伝搬解析をおこなうことにより、有機EL素子Aの光透過性電極3内部を導波する光の成分の量(光透過性電極導波成分量)と、基板6内部を導波する光の成分の量(基板導波成分量)と、基板6から外部に出射する光の成分の量(出射成分量)との和と、上記発光点から光反射性の電極2の表面までの寸法(発光点位置寸法)との間の関係を求め、前記関係に基づいて有機発光層4の厚みの設計をおこなうものである。
ここで、上記の光の成分とは、有機エレクトロルミネッセンスの発光を評価するための成分であり、例えば視感度を考慮した光束、量子効率を求めるための光子数、或いは光のエネルギー(放射束)等、必要に応じて適宜のものが選択される。
上記光学伝搬解析をおこなうにあたっては、基板6、光透過性電極3、発光層10及び前記発光層10以外の有機層11を有する場合はその有機層11の各厚み、屈折率及び消衰係数、並びに前記光反射性の電極2の厚み、屈折率及び消衰係数と、発光層10における発光材料のフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)と、発光層10における発光点の位置及び発光分布とを、ファクターとする。
発光層10における発光点の位置及び発光分布については、発光点としては発光層10内に一つの発光点を設定し、発光分布としては前記発光点を基準にした発光層10内における厚み方向の発光源15の分布を設定したものを用いることができる。発光点の位置は、通常は発光層10内の最も強く発光する位置又はそれに相当する位置に設定することができる。また、発光分布としては、例えばデルタ分布、矩形分布、ガウス分布、発光点をピークとして指数関数的に減少する分布など、有機EL素子Aの構成に応じて発光源10の分布をよく反映するものを設定することができる。
例えば、発光層10内の発光材料としてAlq3等を用いる場合のように発光層10における電子移動度がホール移動度に比べて遙かに大きくなる場合には、主としてホール輸送層12と発光層10の界面で電子とホールの再結合が起こり最も強い発光が生じると考えられる。この場合、発光点の位置をホール輸送層12と発光層10の界面に設定し、発光分布をデルタ分布と設定することができる。
また、発光層10の厚みが1nm程度、或いはそれ以下の場合のように極く薄い場合には、発光層10の厚み方向の中心に発光点を設定すると共に、発光分布は発光層10の厚みと同一幅の矩形分布とみなして設定したり、或いは発光源は発光点のみに分布するもの(分布なし)と設定してもよい。
また、発光層10内の発光点の位置と発光分布が不明な場合は、あらかじめ設計対象となる構成の有機EL素子Aを作製して、この素子から取り出される光の成分の量の角度特性を実測しておき、一方で後述する光学伝搬解析によって前記構成の有機EL素子Aについて発光層10での発光点の位置と発光分布を変化させながら光の成分の量の角度特性を求め、両者を対比することで実測と一致する発光点の位置と発光分布とを設定してもよい。
また、発光層10における発光材料のPLスペクトルとしては文献値を使用してもよいが、実測値を使用することが好ましい。実測をおこなう場合には、例えばガラス製の基板上に発光層10のみを蒸着法等により厚み数十nmに成膜し、この発光層10に紫外線を照射して発光させ、その発光を積分球等を用いて計測することで発光材料の発光スペクトルを測定することができる。
また、光透過性電極3、発光層10、有機層11及び光反射性の電極2の、屈折率及び消衰係数については、文献値を利用してもよいが、実測値を使用することが好ましい。実測する場合には、例えばガラス製の基板上に各層を形成するための材料のみを蒸着法等により厚み数十nmに成膜し、この層について分光法とエリプソメータや垂直入射式透過反射屈折率計とを用いて透過率と反射率を計測し、ローレンツモデルから誘電率を決定し、その値から逆算して屈折率と消衰係数とを求めることができる。屈折率と消衰係数は、波長ごとに求める。
これらのファクターを用いた光学伝搬解析にあたっては、有機EL素子Aでは基板6を除き各層の厚みは数nm〜数100nm程度であり、可視光の波長380〜780nmと同程度であるため、有機EL素子A内では光の多重干渉が生じる。
そこで、上記ファクターを用いることにより、有機EL素子Aの各層の材料の波長ごとの屈折率及び消衰係数と、発光層10での発光点の位置、発光分布及びPLスペクトルとを考慮した光の成分の量の角度特性を解析する光学伝搬解析をおこなうものである。この光学伝搬解析にあたっては、例えば、フレネル理論と特性マトリクス計算を組み合わせた波動光学に基づく理論計算(フレネル理論解析)やマクスウェル方程式を時間領域差分法で解く数値計算(FDTD法)等を適用することができる。
光学伝搬解析により光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係を求めるにあたっては、光学伝搬解析のためのプログラムを用いたコンピュータによる情報処理によっておこなうことができる。この場合の、コンピュータが実行する手順のフローの一例について、図4を参照して説明する。
(S1)まず作業者がコンピュータ上で光学伝搬解析プログラムを起動する。
(S2)次に作業者によって、設計する有機EL素子Aの層構成と、各層の材料、構成、膜厚の値とが入力されると、その入力値を光学伝搬解析のファクターとして設定する。このとき、有機層11の厚みについては、発光点位置寸法と相関する有機層11の厚みは変数とし、残りの有機層11の厚みを設定する。例えば図3に示す構成の有機EL素子Aにおいては、発光層10と光反射性の電極2との間に介在する電子輸送層13の厚みを変数とし、また発光層10と光反射性の電極2との間に複数の有機層11が介在する場合にはこれらの各有機層11の厚みを変数とする。
(S3)次に作業者によって前記各層の材料について波長ごとの屈折率と消衰係数が入力されると、その入力値を光学伝搬解析のファクターとして設定する。尚、コンピュータのメモリや適宜の記憶媒体等に予め有機EL素子Aに汎用される材料の波長ごとの屈折率と消衰係数を記憶させておき、上記材料の設定の際に設定された材料についての波長ごとの屈折率と消衰係数を自動的に読み込んで設定するものであってもよい。
(S4)次に作業者によって、発光層10に用いる材料のPLスペクトルが入力されると、これらを光学伝搬解析のファクターとして設定する。
(S5)次に作業者によって発光点の位置及び発光分布が入力されると、これらを光学伝搬解析のファクターとして設定する。
(S6)次に、作業者によって取得する光の成分の種類が入力されると、この光の成分の種類を設定する。
(S7)次に、作業者によって発光点位置寸法の範囲(初期値及び最大値)と刻み幅が入力されると、この寸法範囲と刻み幅を設定する。尚、作業者による入力を不要とし、あらかじめ寸法範囲と刻み幅を設定しておいてもよい。例えば初期値を40nm、最大値を740nm、刻み幅を10nmと設定することができる。
(S8)次に発光源位置寸法を、S7で設定された初期値に設定すると共に、S2において変数とされている電子輸送層13等の有機層11の厚みを、発光源位置寸法の前記設定値と合致する値に設定する。尚、二層以上の有機層11の厚みが変数とされている場合には、例えばこの二層以上の有機層11同士の厚みの比率を一定に保ったり、特定の一つの有機層11の厚みを変更して他の有機層4の厚みを固定するなど、適宜の手法により有機層11の厚みを設定することができる。
上記S2〜S8を実行する順序は上記のものに限られず、適宜順序を入れ替えてもよい。
(S9)次に有機EL素子A内の光についてフレネル理論解析等の光学伝搬解析を実行し、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和を取得する。ここでは光学伝搬解析としてフレネル理論解析を用いる。
このS9における処理は、例えば下記T1〜T7の手順を実行することでおこなうことができる。このとき、発光層10内の発光源15は、上記発光点の位置及び発光分布に従って分布する点光源であり、全方位に向けて等方的に光を放射するものと仮定する。また、同一の発光源15からは全方位に向けて光が同位相で放射され、発光層10内で多重干渉が生じるが、異なる発光源15から放射される光同士は干渉しないと仮定する。また、各層間の界面は平坦であると仮定する。
また、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和を導出する際には、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量とをそれぞれ導出した後、これらを足し合わせることで導出することもできるが、下記T1〜T6の手順では、光透過性の電極3の外面側に配置されている層(すなわち光透過性の基板6及び大気14)がこの電極3と同一の屈折率及び同一の消衰係数を有すると仮定した場合に、この電極3から出射される光の成分の量を導出し、これを光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和としている。
(T1)まず、発光源15からの上層側及び下層側への光の放射角度、発光波長、及び発光源15の発光層10内での位置をパラメータとし、各値の初期値を設定する。
(T2)次に、上記の光の放射角度、発光波長、及び発光源15の発光層10内での位置の設定値と、光透過性の電極3、発光層10、光反射性の電極2、及び発光層10以外の有機層11(電子輸送層13、ホール輸送層12等)の、各厚み、屈折率及び消衰係数の設定値とに基づき、光透過性の電極3の外面側に配置されている層(すなわち光透過性の基板6及び大気14)がこの電極3と同一の屈折率及び同一の消衰係数を有すると仮定した上で発光層10よりも下層と上層の各多層膜をそれぞれ光学的に等価な単層膜に変換し、特性マトリクス計算を実行することで、有効フレネル係数として、発光層10とその上層との界面での光の反射係数及び透過係数、並びに発光層10とその下層との界面での反射係数を導出する。
このとき、まず発光層10とその上層との界面での有効フレネル係数を導出するにあたっては、発光層10よりも上層側に配置されている光透過性の電極3までの層数sの多層膜について、j番目の層の特性マトリクスMj及び多層膜の特性マトリクスMを下記式(7)、(8)から導く。式中のλは発光波長の設定値である。djはj番目の層の厚みの設定値である。nj、kjはそれぞれj番目の層の屈折率及び消衰係数の設定値である。θjはj番目の層からの光の入射角であって、光の放射角度の設定値に基づき、各層につきスネルの法則から導かれるものである。
この特性マトリクスMを用い、規格化された電界及び磁界の各振幅B,Cを、下記式(9)から導く。式中のθsは基板6からの光の入射角である。
この結果に基づき、発光層10とその上層の仮想的な単層膜との界面での有効フレネル係数である反射係数ρAと位相変化φAを下記式(10)、(11)にて算出する。式中のn0、k0はそれぞれ発光層10の屈折率及び消衰係数の設定値である。θ0は発光層10からの光の入射角であって、光の放射角度の設定値に基づいて導かれるものである。
また、発光層10とその下層との界面での有効フレネル係数を導出するにあたっては、上記と同様にして、発光層10よりも下層側に配置されている光反射性の電極2までの多層膜について特性マトリクス計算をおこない、発光層3とその下層の仮想的な単層膜との界面での反射係数ρBと位相変化φBを算出する。
(T3)次に、設定波長に基づき、上記導出された有効フレネル係数を境界条件として、発光源15から上面側と下面側にそれぞれ同一角度で放射される光につき、下記式(12)に示すような多重干渉計算を実行することにより、発光源15から有機EL素子Aの外部に出射される光のエネルギー透過率Tが算出される。この光のエネルギー透過率Tに、発光材料のフォトルミネッセンススペクトルから取得される設定波長での光のエネルギーを積算することで有機EL素子Aから外部に出射される光のエネルギーを算出する。尚、有機EL素子Aから外部に出射される光のエネルギーの精度を上げるために、発光層10と光透過性電極3の屈折率差に伴う立体角の変化を補正してもよい。下記式中のn0は発光層10の屈折率の設定値である。θ0は発光層10からの光の入射角であって、光の放射角度の設定値に基づいて導かれるものである。d0は発光層10の膜厚である。Zは発光源15から電子輸送層13までの界面までの距離であって、発光源15の位置の設定値に基づいて導かれるものである。
尚、この算出される光の成分の量には、後述する光の反射・屈折角を乱れさせる領域5の角度特性に基づく補正を施してもよい。この場合、更に正確に有機EL素子Aの設計をおこなうことができる。例えば、予め基板6上に領域5と光透過性電極3を積層したものについて、光透過性電極3側から入射角を変化させながら光を照射すると共に入射角ごとに出射光の光の成分の量を計測したり、FDTD法等による解析をおこなったりするなどして、領域5から出射される光の成分の量の角度特性を導出し、この角度特性に基づき、光の成分の量を補正することができる。
(T4)次に、発光源15の位置の設定値を変更し、上記T2〜T3の手順を繰り返す。この手順はて全ての発光源15の位置が順次設定されるまで繰り返しおこなう。ここで、発光源15の位置は、設定されている発光点の位置と発光分布とに基づいて導出されたものを用いる。
(T5)次に、発光波長の設定値を変更し、上記T2〜T4の手順を繰り返す。このとき発光波長の設定値は、例えば可視光の波長380〜780nmの範囲で順次変更する。
(T6)次に、発光源15からの放射角度の設定値を変更し、上記T2〜T5の手順を繰り返す。このとき放射角度の設定値は例えば0°〜90°の範囲で順次変更する。
(T7)次に、導波成分量と出射成分量との和を導出し、メモリや各種記憶媒体に記憶させる。このとき、上記S6において光の成分の量として光のエネルギーが設定されている場合には、T2〜T6の手順で順次算出した光のエネルギーの積分値を光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和として導出する。また、上記S6において光の成分の量として光子数が設定されている場合には、前記光のエネルギーをchν(c:光速、h:プランク定数、ν:波長の逆数)の値で除することで、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和を導出する。また、上記S6において光の成分の量として光束が設定されている場合には、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和は、T2〜T6の手順で順次算出した光のエネルギーからCIE標準比視感度と最大視感度とに基づいて導出する。
(S10)次に、この時点で設定されている発光点位置寸法の値を、S8で設定された発光点位置寸法の最大値と比較する。
(S11)S10において、発光点位置寸法の設定値が前記最大値よりも小さいと判定されたら、この設定値をS7で設定された刻み幅分だけ増大させた値に変更すると共に、電子輸送層13等の発光点位置寸法と相関する有機層11の厚みの設定値をS8と同様にして発光点位置寸法の前記設定値と合致する値に変更し、その後、上記S9(T1〜T7)の処理を繰り返す。これにより、発光点位置寸法の設定範囲内における、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係が記録される。尚、S11においては、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の極大値付近では発光点位置寸法の設定値を前記設定された刻み幅よりも小さな値だけ増大させることで、極大値付近の光の成分の量を詳細に導出するようにしてもよい。
(S12)また、S10において、設定値が前記最大値まで達していると判定されたら、上記のようにして得られた、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係を、メモリや適宜の記憶媒体等に電子データとして記憶させて保存する。
このS11の処理においては、上記光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の極大値と、この極大値に対応する発光点位置寸法との組み合わせを導出し、これをメモリや適宜の記憶媒体等に電子データとして記憶させて保存してもよい。このとき、光の干渉効果により有機発光層5の膜厚の設定範囲内で複数の極大値が現れている場合には、各極大値につき、この極大値と、対応する発光点位置寸法との組み合わせを保存する。また、極大値ごとに、この極大値に対応する発光点位置寸法を中心とした一定幅(例えば±40nm)の発光点位置寸法の範囲、或いはこの範囲内における光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係を導出して保存してもよい。また、これらの結果をディスプレイ等の表示装置に出力して表示してもよい。
以上のようにして得られた光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係は、図1,2に示すように、有機EL素子Aの基板6に光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を積層して設ける場合の有機発光層5の厚みの設計に利用する。図1に示す有機EL素子Aでは、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5は基板6の外面に積層して設けられている。また、図2に示す有機EL素子Aでは、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5は光透過性の電極3と基板6との間に介在するように設けられている。
この光の反射・屈折角を乱れさせる領域5は、図1に示す例では基板6内からのこの基板6とその外部との界面に到達した光を拡散させるなどすることにより本来前記界面で反射して基板6内を導波する光を外部に出射させる機能を発揮し、図2に示す例では光透過性電極3内からのこの光透過性電極3とその外部との界面に到達した光を拡散させるなどすることにより本来前記界面で反射して光透過性電極3を導波する光を外部に出射させる機能を発揮する。この光の反射・屈折角を乱れさせる領域5としては、例えばシリカやアルミナ等の透光性微粒子を透光性を有する結着剤中に分散させるなどして構成される光拡散層を形成することができる。
有機発光層4の厚みの設計は、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が所望の値となるように発光点位置寸法を調整することでおこなうことができる。この発光点位置寸法の調整は、発光点位置寸法の値と相関する電子輸送層13等の有機層11の厚みを、所望の発光点位置寸法と対応する値になるように設定することでおこなうことができる。
このように有機発光層4の厚みを設計するにあたり、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が極大値あるいはその近傍の値をとるように有機発光層4の厚みを設計することで、有機EL素子Aの基板6に光の反射・屈折角を乱れさせる領域5を積層して設ける場合に有機EL素子Aから外部に出射される光の成分の量を著しく向上することができる。
ここで、光学伝搬解析の際に発光点位置寸法の設定範囲を広くとっていれば、上記極大値として第一の極大値だけでなく、第二の極大値或いは第三以降の極大値と、発光点位置寸法との関係も導出される。このため、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が、複数の極大値のうちのいずれかの値又はその近傍の値をとるように、有機発光層4の厚みを設計することができる。
また、上記のように光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が極大値又はその近傍をとるようにするだけでなく、この値が適宜の値をとるように有機発光層4の厚みを設計することもできる。この場合、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との間の関係から、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が充分に大きくなるように有機発光層4の厚みを設計することで、有機EL素子Aから出射される光の成分の量を向上することができる。
また、有機EL素子Aの構成によっては発光点位置寸法が制限される場合がある。その具体的な例としては、有機EL素子Aが複数の発光層10を含むことで、この有機EL素子Aの各発光層10における発光点ごとの発光点位置寸法の範囲が一定の範囲に制限される場合が挙げられる。このような場合であっても、上記のように有機発光層4の厚み設計を広い範囲でおこなうことができるので、各発光層10ごとに、その発光点位置寸法の制限範囲内で、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が極大値又はその近傍をとるように、或いはこのような値でなくても光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が前記制限範囲内で最も高い値をとるなどのように充分に大きい値をとるように、有機発光層4の厚みの設計をおこなうことができる。
ここで、複数の発光層10から発せられる光の成分のうち、全ての発光層10からの光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が極大値をとるように厚み設計をすると、光の取り出し効率を非常に高くすることができるが、少なくとも一つの発光層10からの光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が極大値をとるようにすれば、光の取り出し効率の向上に寄与することができる。また、複数の発光層10からの光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和がいずれも極大値をもとることができない場合でも、上述のように有機EL素子Aから出射される光の成分の量が所望のものとなるように有機発光層4の厚みを設計することができる。
以下に、有機EL素子Aの設計の具体例を示す。
[第1例]
有機EL素子Aとして、膜厚0.7mmのガラスの基板6上に、ITOからなる膜厚150nmの光透過性電極3、α−NPD(4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル)からなる膜厚40nmのホール輸送層8、ルブレン(Rubrene、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)を6重量%ドープしたAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体)からなる膜厚30nmの発光層3、下記[化1]に示されるTpPyPhBからなり膜厚が変数となる電子輸送層13、Alからなる膜厚80nmの光反射性電極2を積層したものを想定する。
このとき、発光層10に用いられるルブレンを6重量%ドープしたAlq3の、PLスペクトルを実測すると、図5に示すようなものとなり、スペクトルのピーク波長は559nmである。尚、図5の縦軸は光のエネルギーの規格化強度を示す。
また、発光層10内の発光点の位置と発光分布は、本例のようにAlq3を用いる場合には発光層10における電子移動度がホール移動度より3桁程度大きくなるため、発光点の位置をホール輸送層12と発光層10の界面に設定し、発光分布はデルタ分布と設定することができる。
図6中のA1は、上記のような形態の有機EL素子Aにおいて、電子輸送層13の厚みを変化させることにより発光点位置寸法を変化させた場合の、光束の光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との関係を、上記のようなフレネル理論解析により導出した結果を示す。図6の縦軸は光束の相対値を示している。尚、このフレネル理論解析においては光の反射・屈折角を乱れさせる領域5の角度特性に基づく補正は行っていない。
また、図6中のB1は、光束の出射成分量と、発光点位置寸法との関係を示す。ここで、光束の出射成分量は、上記のようなフレネル理論解析における特性マトリクス計算において基板6が直接大気14に接触していると仮定することで導出することができる。
図示のように、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、出射成分量とは、共に発光点位置寸法が増大するに従って変化してそれぞれ複数の極大値をとるが、その変化の傾向は相違しており、極大値をとる発光点位置寸法の値にずれが生じている。
すなわち、出射成分量については、発光点位置寸法が65nmで第一の極大値が現れ、195nmで第二の極大値が現れるが、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和については発光点位置寸法が85nmで第一の極大値が、280nmで第二の極大値が現れる。このため、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係に基づけば、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の極大値をとるように有機発光層4の厚みを設計することで、出射成分量のみに基づく場合よりも、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5が設けられた有機EL素子Aから出射される光束を増大させることができる。
例えば、出射成分量のみを基準にしてその第一の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をした場合と比較して、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が第一の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をおこなうと、理想的には有機エレクトロルミネッセンスから出射される光束を1.11倍増加させることができる。
また、出射成分量のみを基準にしてその第二の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をした場合と比較して、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が第二の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をおこなうと、理想的には有機エレクトロルミネッセンスから出射される光束を1.42倍増加させることができる。
また、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の、第一の極大値を中心とした範囲、例えば膜厚70〜100nmの範囲では、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が大きくなっており、この範囲において、有機発光層4の厚みを設計すれば、有機エレクトロルミネッセンスから出射される光束を充分に大きくすることができる。
また、出射成分量の値は各極大値の間で大きく落ち込んでいるが、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の値は、例えば第二の極大値と第三の極大値との間では変化がなだらかで値の落ち込みが小さくなっている。このため、ここに挙げた例では、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和に基づけば、第二の極大値と第三の極大値の間、並びにその近傍を含む、導波成分量と出射成分量との和が充分に大きな範囲、例えば発光点位置寸法が230〜380nmの範囲において、有機発光層4の厚みを設計すれば、有機EL素子Aから出射される光束を充分に大きくすることができる。すなわち、出射成分量と発光点位置寸法との関係に基づいて有機EL素子Aを設計する場合では充分な光束が出射されないと判断されるような発光点位置寸法であっても、実際にはその発光点位置寸法では充分に大きな光束が出射されることを見出して、有機EL素子Aを設計することができるものである。
このようにして導出された光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との関係が、実際の有機EL素子Aから出射される光の成分の量を反映していることを、以下に検証する。
図7中のA2は、上記構成を有する有機EL素子Aを実際に作製し、この有機EL素子Aから出射される、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和に相当する光の成分の量を計測した結果を示す。図7の縦軸は光束の相対値を示している。この計測は次のようにしておこなったものである。
まず、基板6としてITOと同等の屈折率を有する高屈折率ガラス基板7を使用した以外は図6に示す関係を導出するために想定したものと同一の構成を有する有機EL素子Aを、電子輸送層13の厚みを異ならせて複数個作製する。
各有機EL素子Aにつき、図8に示すように、基板7の表面に半球レンズ16を設ける。この半球レンズ16は基板7と同一の材質で形成したものであり、一面側が平面、他面側が球面となったレンズである。この半球レンズ16は、その平面部分を基板7の表面と密接させるようにして基板7に設ける。
この状態で有機EL素子Aを発光させて、光を半球レンズ16から出射させ、出射光を積分球を用いて計測する。このとき、電極3と基板7の屈折率は同等であるから、電極3から基板7側へ入射する光の殆どは基板7内へ出射される。また、基板7の屈折率は約1.9であるから、半球レンズ16を設けない場合はスネルの法則により基板7から大気14側へ出射する光の臨界角は約32°となり、入射角θが臨界角よりも小さい光20は大気14側に出射されるが、入射角θが臨界角よりも大きい光20は基板7と大気14との界面で全反射して基板7内を導波する。しかし、前記半球レンズ16を設けることで本来全反射するはずの光20も半球レンズ16内へ出射される。また半球レンズ16内へ出射された光20は球面側から外部へ出射するため、半球レンズ16から大気14への入射角が低減され、半球レンズ16内へ出射された光20の殆どを球面側から大気14に出射することができる。このため、半球レンズ16から出射される光の成分の量は、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和に相当するものとなる。
また、図7中のB2は、同様に通常のガラス基板6を使用して有機EL素子Aを作製し、半球レンズ16を使用せずに有機EL素子Aからの出射光を計測した結果を示す。このとき出射される光の成分の量は、出射成分量に相当するものになる。
図6と図7を対比すると、光学伝搬解析にて導出された図6に示す光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係は、図7に示す実測結果と非常によく近似しており、光学伝搬解析にて導出される光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係に基づけば、有機EL素子Aの設計を正確におこなうことができることを確認することができる。
[第2例]
有機EL素子Aとして、膜厚0.7mmのガラスの基板6上に、ITOからなる膜厚150nmの光透過性電極3、α−NPD(4,4'−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル)からなる膜厚40nmのホール輸送層8、ルブレン(Rubrene、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)を6重量%ドープしたAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体)からなる膜厚30nmの発光層3、下記[化2]に示されるTmPyPhBからなり膜厚が変数となる電子輸送層13、Alからなる膜厚80nmの光反射性電極2を積層したものを想定する。
また、発光層10内の発光点の位置と発光分布は、本例のようにAlq3を用いる場合には発光層10における電子移動度がホール移動度より3桁程度大きくなるため、発光点の位置をホール輸送層12と発光層10の界面に設定し、発光分布はデルタ分布と設定することができる。
図9中のA3は、上記のような形態の有機EL素子Aにおいて、電子輸送層13の厚みを変化させることにより発光点位置寸法を変化させた場合の、光束の光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、発光点位置寸法との関係を、上記のようなフレネル理論解析により導出した結果を示す。図9の縦軸は光束の相対値を示している。尚、このフレネル理論解析においては光の反射・屈折角を乱れさせる領域5の角度特性に基づく補正は行っていない。
また、図9中のB3は、光束の出射成分量と、発光点位置寸法との関係を示す。ここで、光束の出射成分量は、上記のようなフレネル理論解析における特性マトリクス計算において基板6が直接大気14に接触していると仮定することで導出することができる。
この図9に示すように、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と、出射成分量とは、共に発光点位置寸法が増大するに従って変化してそれぞれ複数の極大値をとるが、その変化の傾向は相違しており、極大値をとる発光点位置寸法の値にずれが生じている。
すなわち、出射成分量については、発光点位置寸法が70nmで第一の極大値が現れ、255nmで第二の極大値が現れるが、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和については発光点位置寸法が95nmで第一の極大値が、275nmで第二の極大値が現れる。このため、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係に基づけば、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和の極大値をとるように有機発光層4の厚みを設計することで、出射成分量のみに基づく場合よりも、光の反射・屈折角を乱れさせる領域5が設けられた有機EL素子Aから出射される光束を増大させることができる。
例えば、出射成分量のみを基準にしてその第一の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をした場合と比較して、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が第一の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計を行うと、理想的には有機エレクトロルミネッセンスから出射される光束を1.12倍増加させることができる。
また、出射成分量のみを基準にしてその第二の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計をした場合と比較して、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和が第二の極大値をとるように有機発光層4の厚み設計を行うと、理想的には有機エレクトロルミネッセンスから出射される光束を1.04倍増加させることができる。
このようにして導出された光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係が、実際の有機EL素子Aから出射される光の成分の量を反映していることを、以下に検証する。
図10中のA4は、上記構成を有する有機EL素子Aを実際に作製し、この有機EL素子Aから出射される、光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和に相当する光の成分の量を計測した結果を示す。図10の縦軸は光束の相対値を示している。この計測は次のようにして行ったものである。
まず、図9に示す関係を導出するために想定したものと同一の構成を有する有機EL素子Aを、ITOと同等の屈折率を持つ高屈折率ガラス基板7上に電子輸送層9の厚みを異ならせて複数個作製する。
各有機EL素子Aにつき、図8に示すように、基板7の表面に半球レンズ16を設ける。この半球レンズ16は基板7と同一の材質で形成したものであり、一面側が平面、他面側が球面となったレンズである。この半球レンズ16は、その平面を基板7の表面と密接させるようにして基板7に設ける。
この状態で有機EL素子Aを発光させた場合の半球レンズ16から出射される光の成分の量は、導波成分量と出射成分量との和に相当するものとなる。
また、図10中のB4は、同様に通常のガラス基板6を使用して有機EL素子Aを作製し、半球レンズ16を使用せずに有機EL素子Aからの出射光を計測した結果を示す。このとき出射される光の成分の量は、出射成分量に相当するものになる。
図9と図10を対比すると、光学伝搬解析にて導出された図9に示す光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係は、図10に示す実測結果と非常によく近似しており、光学伝搬解析にて導出される光透過性電極導波成分量と基板導波成分量と出射成分量との和と発光点位置寸法との関係に基づけば、有機EL素子Aの設計を正確に行うことができることを確認することができる。