JP2007095335A - 電子顕微鏡 - Google Patents

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Abstract

【課題】 望ましくない収差の混入を防いで、効率良く動作する球面収差補正系を有する電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】 伝達光学系14は、例えば磁界型レンズからなる第1のレンズ14a及び第2のレンズ14bを用いてなり、球面収差補正装置13と対物レンズ15との間に挿入される。第1のレンズ14aには多極子内において軸から距離r0を通過する電子が入射され、第2のレンズ14bには対物レンズに対する入射点の光軸からの距離r1で電子が入射される。この距離r0と距離r1の比Mは1以上とされる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、球面収差補正装置を有する、透過電子顕微鏡(TEM)、透過走査電子顕微鏡(STEM)のような電子顕微鏡に関する。
透過電子顕微鏡(TEM)、透過走査電子顕微鏡(STEM)(以下電子顕微鏡と総称する)における球面収差補正装置には、下記特許文献1により開示されているように、複数個(4、8、12等)の磁性体にコイルを巻き光軸に対する垂直面上に配置した、いわゆる磁界型多極子(以下多極子と呼称)が用いられる。
これより以下の記述にて球面収差補正装置および球面収差補正系と記した場合、多極子により6極場を発生させての透過電子顕微鏡(TEM)用の球面収差補正装置に関するものである。
図3は、電子顕微鏡における、多極子を用いた球面収差補正系50の構成図である。図3に示すように、球面収差補正系50は収束レンズ51、収差補正装置52、伝達光学系53、対物レンズ54、試料55の順に配置される。透過電子顕微鏡(TEM)の場合は試料から収差補正装置に向かって収差のない像が形成され、透過走査電子顕微鏡(STEM)および走査電子顕微鏡(SEM)の場合は収差補正装置から試料に向かって光源の像が収差なく形成される。
特開2003−92078号公報
ところで、前記電子顕微鏡の球面収差補正系に構成される伝達光学系は、収差補正装置の作用面と対物レンズの収差導入面を、1次軌道の範囲内においての光学的な等価面とする働きを持ち、通常2枚または1枚の主面をもつ(磁界型)レンズをもって伝達光学系を構成する。図3に示した伝達光学系53では、第1レンズ53aと第2レンズ53bの2枚からなる。ここにおいて、レンズで構成される伝達光学系が、本来レンズとして備えている拡大(縮小)能力の利用は考慮されておらず、対物レンズ54と球面収差補正装置52を倍率1で結像させるような光学系になっている。あるいは倍率が1でないような場合でも、およそ1程度である。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、望ましくない収差の混入を防いで、効率良く動作する球面収差補正系を有する電子顕微鏡の提供を目的とする。
本発明に係る電子顕微鏡は、前記課題を解決するために、多極子を用いてなる球面収差補正装置と対物レンズを有するものであって、前記多極子と前記対物レンズとの間に伝達光学系を設け、当該伝達光学系にあっては前記多極子内において光軸から距離r0を通過する電子の前記対物レンズに対する入射点の光軸からの距離r1の比(M=r1/r0)を1以上として、前記球面収差補正装置からの寄与Xを含む前記対物レンズの球面収差係数Cstが所定値以下となるように、前記多極子のコイル電流Iおよび多極子のボア半径bの少なくとも一つを定める。
前記所定値は、0.05mmであることが好ましい。
前記所定値は、0.01mmであることが好ましい。
前記所定値は、0.005mmであることが好ましい。
前記比Mが1.5以上であることが好ましい。
多極子による6極場型球面収差補正装置を有し、前記多極子のボア半径bを2mm〜3mmとすることが好ましい。
多極子による6極場型球面収差補正装置を有し、前記対物レンズの焦点距離f,前記多極子の光軸沿いの長さZ,真空の透磁率u,前記多極子のコイル電流I,前記対物レンズの球面収差C,前記電子の磁気剛性R,前記多極子のボア半径bについて、前記比Mを、
M=[6f/(C)]1/4とすることが好ましい。
本発明にかかわる電子顕微鏡によれば、球面収差の補正を適切に行い、且つ、補正に伴っての望ましからぬ収差の発生を最小限に抑えることができ、すなわち性能、精度、効率の良い球面収差補正動作が達成できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の電子顕微鏡が有する収差補正系10の構成図である。この球面収差補正光学系10は、照射光学系(光源11及び集束レンズ12)と、球面収差補正装置13と、球面収差補正装置13による収差補正項を含む電子ビームを対物レンズ15に伝達する伝達光学系14と、伝達光学系14からの電子ビームが入力される対物レンズ15と、対物レンズ15によって収束された電子線が照射される試料55とからなる。なお、図では、偏向系や一部集束系などを省略している。
光源11から光軸に沿って入射された電子線は、集束レンズ12によってほぼ平行光束となされ、球面収差補正装置13に入射する。球面収差補正装置13は、後述するように例えば12極子コイルからなる補正子を用いて、前記入射された電子線の球面収差を補正し、伝達光学系14に供給する。
伝達光学系14は、例えば磁界型レンズからなる第1のレンズ14a及び第2のレンズ14bを用いてなり、球面収差補正装置13と対物レンズ15との間に挿入される。第1のレンズ14aには多極子内において軸から距離r0を通過する電子が入射され、第2のレンズ14bには対物レンズに対する入射点の光軸からの距離r1で電子が入射される。この距離r0と距離r1の比Mは後述するように例えば1.5以上とされる。このM=r1/r0は、第1のレンズ14aの焦点距離f1、第2のレンズ14bの焦点距離f2の比f2/f1と等しい。よって、M=f2/f1を1.5以上としてもよい。
従来、球面収差補正系の設計においては、図3に示したように球面収差補正装置52を光軸からの距離r0で通過する電子が、対物レンズ54に光軸Oからの距離r1で入射する際、通常は倍率1の結像、すなわち、r0=r1で設計されているが、r0<r1となるような設計も可能である。従来、r0<r1とすることによる利点が指摘されたことはなく、また、技術的見地に立ったr1/r0の適切な設計値も検討されていなかった。
図1に示した収差補正系10では、前述したように、r1/r0=Mとして、r0<r1なる伝達光学系14を球面収差補正装置13と対物レンズ15との間に配置している。このM=r1/r0は、前述したとおり、第1のレンズ14aの焦点距離f1、第2のレンズ14bの焦点距離f2の比f2/f1と等しい。この場合、第一に検討すべき光学的効果は収差の伝達である。
すなわち、球面収差補正装置13にて発生した収差係数Cは、その次数がn次の場合(n次収差)、対物レンズ15における収差係数Xに、(1/M)n+1を係数として換算される。
=(1/M)n+1C (1)
つまり、M=r1/r0を大きくとればそれだけ球面収差補正装置13にて発生する収差が試料面に換算して小さくなる。球面収差補正装置13は、これにより、対物レンズ15に対して逆符号の球面収差を発生させて、球面収差同士を互いに相殺するための装置である。
図2は、球面収差補正装置13を構成する12極子の補正子20の断面図である。この補正子20は、12個の磁極を用いて6つの極場を作るために偏向コイルを光軸の周りに配置したものである。すなわち、この補正子20は、M,M・・・M12の12個の磁極を外ヨーク21から光軸に向けて配置している。各コア22から光軸に向けて、各磁極による極子24が形成される。各極子24に付された矢印は、磁界の向きを示している。この補正子20では、特に、磁極M及びM、磁極M及びM、磁極M及びM10による磁界の発生方向を同じとするように各コア12に励磁コイル23を巻き、磁界が逆の発生方向になるように磁極M及びM、磁極M及びM、磁極M11及びM12の各コア22に励磁コイル23を巻き回している。よって、6つの極子24が形成され、6極場が光軸Oの周りに形成される。これにより、補正子20を有する球面収差補正装置13は、6極場型球面収差補正装置と呼ばれる。
この12極子の補正子20によって構成される球面収差補正装置13は、集束レンズ12を通って球面収差補正装置13に入射する電子線に下記の寄与Xをもたらすことによって、対物レンズ15の固有の球面収差係数Cを寄与Xを含む球面収差係数Cst=C+Xとすることにより、この球面収差係数Cstを所定値以下にして実質的にキャンセルすることができる。ここで、前記所定値は、0.05が好ましく、0.01がより好ましく、0.005がさらに好ましい。
例えば、図3の収差補正系50を考えた場合、対物レンズ54の球面収差係数がC=1.Ommであった場合、球面収差補正装置52でCsc=-1.0mmの球面収差を発生させて倍率M=(r1/r0)=1としたとする。そうすれば、球面収差補正装置52からの寄与を含む対物レンズ54の球面収差係数Cstは、球面収差が3次の収差すなわちn=3であることも考えて、
st=C+X=1-(1/1)3+1=0 (2)
となり、球面収差補正が行われるわけである。
これに対して、図1に示した本実施の形態の収差補正系10にあって、Mを1より大きくとると、(1)式でXを-1mmに保つためには、球面収差補正装置13が発生させるべき球面収差係数Cscを、Mが1の場合と比べて、Mの4乗倍だけ大きくする必要がある。すなわち、Mを1より大きくすると要求される補正力が大きくなり、C補正に要求される補正装置の補正効率でいえば不利であるということになる。このことは、従来の収差補正系50がM=1で設計されている背景にもなっている。
ところで一方、図1及び図3の球面収差補正装置13及び52からは、補正に必要な球面収差以外の望ましからぬ複数の収差も発生する。これらの望ましからぬ収差のうち、球面収差補正装置13及び52の性能に影響を与えうるものは、主として3次のスターアベレーション(以下Sと記述)、3次の4回非点収差(以下Aと記述)である。1次の非点収差(A1)、2次のコマ収差(B2)も発生するが、これらは補正が容易であり主たる問題とはならない。
以上より、Mを大きくとると、図1の球面収差補正装置13で発生するCsc,S,Aの試料面上での値は小さくなる。例えば従来の設計(M=1)に比べて、M=70/30とすれば、試料面上でのCsc,S,Aの試料面での値は、およそ(1/M)3+1=3.4%程度になる。したがって、M=70/30とした場合、M=1の収差補正系50よりM3+1(=約30)倍の球面収差補正力をもつ収差補正装置を設計する必要がある。
M=70/30とすることにともない、コイルに流す電流Iを増加させる、あるいは、多極子のボア半径bを小さくするなどして球面収差の補正力(すなわち補正装置が発生する球面収差係数Csc)をM3+1(=約30)倍させたとき、望ましからぬ収差であるSとAの増加分が何倍になるかが問題である。もしS,Aらの増大分が、M3+1(=約30)倍を下回れば、球面収差補正装置13として、収差補正力Cscに対して望ましからぬ収差SとAが相対的に小さい装置となる。また球面収差補正装置13の補正力を増加させるにあたり、補正装置の外観上の大きさを変えないようにすることが、付加価値上重要である。
200kV〜300kVクラスのTEM又はSTEMにおいて、現在M=1にて設計されている収差補正装置の外観形状を変更することなく、補正能力を向上させるには、収差補正装置に構成されている多極子のコイル電流Iを増大させる、及び、多極子のボア径bを小さくする方法がある。球面収差補正力Cscとコイル電流Iおよびボア径bの関係は、比例定数をCとして、以下のように表される。
sc=C/b (3)
ここで、比例定数Cには、加速電圧で決まる電子の磁気剛性R、多極子の光軸沿いの長さZ、真空の透磁率u、対物レンズの焦点距離fが含まれる。
=6f/R (4)
一方、SとA
=CI/b (5)
=CI/b (6)
となり、球面収差補正力と比べて、電流Iとボア半径bの依存関係が異なる。
比例定数C,CはFを磁場のフリンジ効果を表す係数として、以下のようになる。
=2FfZu/R (7)
=4ufZ/R (8)
式(3),(5),(6)より,Cの補正力Cscを、電流Iを大きくすること、あるいは多極子のボア径bを小さくすることでm倍にした場合、これに伴う3次のスターアベレーションS及び3次の4回非点収差Aの増加分は、以下の表1のようになる。
Figure 2007095335
表1より電流を大きくしてCscをm倍した場合SおよびAはm1/2倍で増加するのに対して、ボア半径を小さくしてCscを大きくした場合、SおよびAは、それぞれ、m1/3倍およびm1/6倍で増加する。したがって、ボア半径bを小さくすることで、より効率的にCscに対するS,Aの値を小さくできる。
要約すれば、収差補正装置の設計にあたっては、多極子のボア半径bを可能な限り小さくし、そのうえで、補正電流Iを大きくとり、小さなボア径と大きな電流で発生する大きな収差補正力を、下記(9)式で与えられる伝達光学系のMで換算することで、補正装置にて発生する望ましからぬ収差であるS,Aの実効値が小さくなる。
M=[6f/(C)]1/4 (9)
Mをいくらか大きくとることに(あるいは小さくとることに)、実際の設計上、実用範囲での困難はないが、ボア半径bを小さくするには、技術的に限界がある。したがって、多極子のボア半径を達成可能な下限に決めてから収差補正装置の設計を考えると、S,Aの絶対量が小さな収差補正条件を達成できることになる。
TEM及びSTEMの場合、対物レンズの上下には、真空シール目的のライナーチューブが構成されており、低倍率における視野確保とチューブ内部の清浄性から、技術的に使用可能なライナーチューブの外直径は4mmφである。収差補正装置に構成される多極子のボア内部をライナーチューブが通り、チューブとボアのアライメントマージンを1mm程度考慮して、ボア直径を5mm、すなわちボア半径bの下限は2.5mm程度と考えられる。
ボア半径b=2.5mmの多極子の先端に6極場生成のために与えることのできる起磁力(電流I)は100A程度であり、これに見合ったMの設計値としては、加速電圧を300kV、Z=20mm、Cs=1.Omm、f=2.5mm,b=5/2mmとして、
M=[6f/(C)]1/4=2.3 (10)
すなわち、M=r1/r0=70/30と設計すればよい。
発明の内容をまとめると、従来の球面収差補正装置では伝達光学系のMが1であるところを、本実施の形態では、Mを2.3にとり且つ多極子のボア径bを2.5mmのように小さくすることにより、望ましからぬ収差の混入が防げ、収差補正装置として効率よく働くという結果が得られた。
Mは、2.3という数値に限定されるものではなく、1以上であればよく、1.5以上であるのが好ましい。つまり、本発明の電子顕微鏡は、収差補正系として、多極子と対物レンズとの間に伝達光学系を設け、当該伝達光学系にあっては前記多極子内において軸から距離r0を通過する電子の前記対物レンズに対する入射点の光軸からの距離r1の比(M=r1/r0)を1.5以上として、対物レンズの球面収差係数Cをキャンセルするように、前記多極子のコイル電流Iと、多極子のボア半径bを定める。
特に、多極子による6極場型球面収差補正装置を有する収差補正系を備える場合には、多極子のボア半径bを2mm〜3mmのなかで、例えば、以下の(13)式とし、前記比Mを以下の(12)式のように、設定するのが好ましい。
M=[6f/(C)]1/4 (12)
b=2.5mm (13)
なお、上述の実施の形態は、本発明の一具体例を示すものであって、本発明がこれに限定されることはない。
本発明の電子顕微鏡が有する収差補正系の構成図である。 球面収差補正装置を構成する12極子の補正子の断面図である。 従来の電子顕微鏡が有する収差補正系の構成図である。
符号の説明
10 収差補正系、11 光源、12 集束レンズ、13 球面収差補正装置、14 伝達光学系、14a 第1のレンズ、14b 第2のレンズ、15 対物レンズ、16 試料

Claims (7)

  1. 多極子を用いてなる球面収差補正装置と対物レンズを有する電子顕微鏡において、
    前記多極子と前記対物レンズとの間に伝達光学系を設け、当該伝達光学系にあっては前記多極子内において光軸から距離r0を通過する電子の前記対物レンズに対する入射点の光軸からの距離r1の比(M=r1/r0)を1以上として、
    前記球面収差補正装置からの寄与Xを含む前記対物レンズの球面収差係数Cstが所定値以下となるように、前記多極子のコイル電流Iおよび多極子のボア半径bの少なくとも一つを定めること
    を特徴とする電子顕微鏡。
  2. 前記所定値は、0.05であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
  3. 前記所定値は、0.01であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
  4. 前記所定値は、0.005であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
  5. 前記比Mが1.5以上であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
  6. 多極子による6極場型球面収差補正装置を有し、前記多極子のボア半径bを2mm〜3mmとすることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
  7. 多極子による6極場型球面収差補正装置を有し、前記対物レンズの焦点距離f,前記多極子の光軸沿いの長さZ,真空の透磁率u,前記多極子のコイル電流I,前記対物レンズの球面収差C,前記電子の磁気剛性R,前記多極子のボア半径bについて、前記比Mを、
    M=[6f/(C)]1/4とする
    ことを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。
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