(第1の実施形態)
本発明に係るフィルタ装置の第1の実施形態について、図1〜図12を参照しながら以下に説明する。
本実施形態では、例えば家庭内やオフィスなどに設置された複数の通信装置の間で通信を行う通信システムに本発明を適用する場合を想定しており、特に通信用の伝送路として電力線を利用する場合を想定している。すなわち、家庭内などにおいては商用交流電源(AC100V)を供給するための電灯線などの屋内配線(電力線)が各部屋に敷設されており、屋内配線と接続するためのコンセントも設けられている。従って、電力線を通信用の伝送路として利用する場合には、通信装置のACコードを電源のコンセントに差し込むだけで伝送路を確保することができる。
なお、家庭内などにおいては商用交流電源を供給するための電力線などの他にも、伝送路として利用可能な配線が敷設されている場合が多い。例えば、テレビ受像器とアンテナとを接続するための同軸ケーブルや、電話用の配線などは電力線などと同様にデータ通信用の伝送路として利用可能である。
ところが、例えばマンションやアパートのような集合住宅で通信システムを利用する場合には、複数の家庭が電気的に共通に接続された電力線を共用している場合が多いので、そのような環境では共通の伝送路を複数の家庭で共有することになる。
この場合、同じ集合住宅に住んでいる複数の家庭全てが同一のメーカの製造した通信装置を利用するとは限らない。しかし、電力線を利用して通信するための通信装置に関しては明確な規格が定まっていないのが実情であるため、通信装置が用いる変調形式や、通信速度や、通信プロトコルなどはそれを製造するメーカ毎に異なると考えられる。また、規格が策定された後でも、メーカ毎に異なる通信方式のものが並存することも想定される。つまり、メーカ毎に種類の異なる通信装置をユーザに提供することになる。従って、集合住宅に住んでいるユーザのような環境においては、互いに種類の異なる複数グループの通信装置が共通の電力線に接続される可能性がある。また、一つの家庭内でも複数種類の通信装置を併用することも考えられる。
図1は通信システムの利用環境の具体例を示すブロック図である。この図1の通信システムの環境においては、Aグループのマルチキャリア通信装置であるA方式の電力線通信用モデム(PLCモデム)100A1,100A2と、Bグループのマルチキャリア通信装置であるB方式の電力線通信用モデム(PLCモデム)100B1,100B2とが共通の電力線107に接続されている場合を想定している。つまり、Aグループの通信システムはマルチキャリア通信装置100A1と100A2との間で電力線107を介して通信を行い、Bグループの通信システムはマルチキャリア通信装置100B1と100B2との間で電力線107を介して通信を行う。
このような環境においては、Aグループの通信システムとBグループの通信システムとが共通の電力線107を同時に使用するので次のような問題が発生する。
(1)データ通信用に送出される信号の周波数帯域がAグループとBグループとの間で部分的にもしくは全帯域で重なっている場合に、グループ間で信号の衝突が発生する。通信信号の変調形式や通信速度や通信プロトコルが全て同一でない限りその信号を受信側で正しく復調することはできないので、種別の異なる(例えばメーカが異なる)他のグループの通信装置が送出した信号は単なるノイズと同様に扱われることになる。従って、S/N(信号電力対雑音電力比)が大幅に劣化したり、通信ができない状態になる。
(2)共通の電力線107に複数の通信装置を接続する場合に、各通信装置と電力線107との接続部分においてインピーダンスの整合がとれていないと、信号の吸収や反射が生じるためS/Nなどの通信性能が劣化する。インピーダンスが整合するように通信装置を設計することは可能であるが、種別の異なる複数グループの通信装置が混在する場合には、相手グループの通信装置のインピーダンスが不明であるためインピーダンスの不整合が生じる。
上記のような問題を解消するために、本実施形態のフィルタ装置を使用する。このフィルタ装置は、各通信装置と電力線107との間に挿入して使用される。一部の通信装置と電力線107との間にだけフィルタ装置を挿入する場合もあるし、全ての通信装置と電力線107との間にフィルタ装置を挿入する場合もある。
図2は第1の実施形態におけるフィルタ装置主要部の概略構成を示すブロック図である。本実施形態のフィルタ装置50は、第2の端子の一例に相当する電力線接続端子11と、第1の端子の一例に相当するモデム接続端子12と、第1のフィルタの一例に相当する帯域制限フィルタ26と、第2のフィルタの一例に相当するインピーダンスアッパ27と、フィルタ切り替え部の一例に相当するスイッチ部24と、バイパス線路25とを有して構成される。
帯域制限フィルタ26は、所定の周波数帯域を遮断し、目的の周波数帯域を通過させるフィルタ素子であり、データ通信に用いる信号(PLC搬送波信号)の伝送に使用可能な周波数帯域の一部を制限するものである。インピーダンスアッパ27は、商用交流電源周波数以下の周波数成分(電力)のみを通過し、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなって遮断するものである。これらの帯域制限フィルタ26とインピーダンスアッパ27とが並列に接続されて設けられている。スイッチ部24は、通信用の信号が帯域制限フィルタ26を通過するか、バイパス線路25を通過するかを選択的に切り替えるものである。
この構成において、通信方式や通信周波数が異なる複数種類の通信装置が共通の伝送路に接続された場合に、帯域制限フィルタ26によって通信信号に使用可能な周波数帯域の一部を制限することで、互いの信号の衝突を防止できる。また、インピーダンスアッパ27によって電源周波数成分のみを通過させ、通信信号の周波数帯域ではハイインピーダンスにすることによって、線路に接続される他の通信装置や他の電気機器の電源回路によるインピーダンス変動の影響を防止できる。
図3は第1の実施形態におけるフィルタ装置主要部の具体的構成を示す電気回路図である。フィルタ装置50は、主要な構成要素として、第2の端子の一例に相当する電力線接続端子11と、第1の端子の一例に相当するモデム接続端子12と、第3の端子の一例に相当する電気機器接続端子13と、第1のフィルタの一例に相当する通信用フィルタ21と、第2のフィルタの一例に相当する電源用フィルタ22と、第3のフィルタの一例に相当する電源用フィルタ23と、フィルタ切り替え部の一例に相当するスイッチ部24と、バイパス線路25とを備えている。ここで、通信用フィルタ21が図1の帯域制限フィルタ26に相当し、電源用フィルタ22、23が図1のインピーダンスアッパ27に相当する。電力線接続端子11とモデム接続端子12との間に通信用フィルタ21が設けられ、この通信用フィルタ21と並列に電源用フィルタ22、23が設けられた構造となっている。
通信用フィルタ21は、フィルタ装置50に接続されるマルチキャリア通信装置100がデータ通信に用いる信号の伝送に使用可能な周波数帯域の一部を制限するための回路である。具体的には、通信用フィルタ21は複数のコンデンサ(キャパシタ)と複数のコイル(インダクタ)とを用いて構成されたハイパスフィルタ(HPF)で構成される。
このフィルタ装置50の電力線接続端子11は、例えば家庭内の電灯線のような電力線107のコンセントと接続される。また、フィルタ装置50のモデム接続端子12は、電力線通信を行う際に用いる通信装置、例えばマルチキャリア通信装置(電力線通信用モデム)の交流電源入力端子あるいはACコードと接続される。フィルタ装置50の電気機器接続端子13は、様々な電気機器、例えばテレビ受像器、冷蔵庫、電子レンジなどの交流電源入力端子あるいはACコードと接続される。
ここで、本実施形態のフィルタ装置の変形例をいくつか示す。図3に示したフィルタ装置50において、電気機器接続端子13は必要不可欠な要素ではないので、以下の変形例では図2と同様に電気機器接続端子13を省略した形態を示す。
図4(a)〜(c)は本実施形態のフィルタ装置における第1〜第3変形例の構成を示す電気回路図である。図4(a)に示す第1変形例のフィルタ装置50は、図3の通信用フィルタ21と同様に、複数のコンデンサ(キャパシタ)と複数のコイル(インダクタ)とを用いたハイパスフィルタで構成された帯域制限フィルタからなる通信用フィルタ21Aを備えている。この場合、通過帯域に応じた所定定数のコンデンサを伝送路に対して直列に、所定定数のコイルを伝送路に対して並列に接続した構成となる。そして、この通信用フィルタ21Aと電源用フィルタ23とが並列に接続されている。
また、本実施形態のフィルタ装置50は、ハイパスフィルタによる通信用フィルタ21Aの代わりに、ローパスフィルタ(LPF)やパンドパスフィルタ(BPF)を用いることもできる。
図4(b)に示す第2変形例のフィルタ装置50は、ローパスフィルタで構成された帯域制限フィルタからなる通信用フィルタ21Bを備え、電源用フィルタ23と並列に接続されている。この場合、通過帯域に応じた所定定数のコイルを伝送路に対して直列に、所定定数のコンデンサを伝送路に対して並列に接続した構成となる。図4(c)に示す第3変形例のフィルタ装置50は、パンドパスフィルタで構成された帯域制限フィルタからなる通信用フィルタ21Cを備え、電源用フィルタ23と並列に接続されている。この場合、通過帯域に応じた所定定数のコンデンサ及びコイルを伝送路に対して直列に接続するとともに、所定定数のコンデンサ及びコイルを伝送路に対して並列に接続した構成となる。
また、図5(a)〜(c)は本実施形態のフィルタ装置における第4〜第6変形例の構成を示す電気回路図である。本実施形態のフィルタ装置50は、スイッチ部24及びバイパス線路25を省略し、通信用フィルタ21及び電源用フィルタ23のみを備える構成とすることもできる。
図5(a)に示す第4変形例のフィルタ装置50は、ハイパスフィルタで構成された通信用フィルタ21Aを備える構成である。図5(b)に示す第5変形例のフィルタ装置50は、ローパスフィルタで構成された通信用フィルタ21Bを備える構成である。図5(c)に示す第6変形例のフィルタ装置50は、パンドパスフィルタで構成された通信用フィルタ21Cを備える構成である。
一方、本実施形態のフィルタ装置50に設けられる電源用フィルタ23は、コイルなどのインダクタンス素子から構成され、モデム接続端子12と電気機器接続端子13との間、あるいはモデム接続端子12と電力線接続端子11との間に接続される。この電源用フィルタ23は、マルチキャリア通信装置100に対して電力線107からの商用交流電力を供給し、それ以外の周波数成分を遮断するための経路を形成する。すなわち、電源用フィルタ23は、例えば60Hz以下の周波数帯域(直流も含む)の電力成分に対してはインピーダンスが低く、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなる特性を有する。
さらに、もう一つの電源用フィルタ22は、電源用フィルタ23と同様にコイルなどのインダクタンス素子から構成され、電気機器接続端子13と電力線接続端子11との間に接続される。この電源用フィルタ22は、電気機器接続端子13に接続される電気機器に対して電力線107からの商用交流電力を供給し、それ以外の周波数成分を遮断するための経路を形成する。すなわち、電源用フィルタ22は、例えば60Hz以下の周波数帯域(直流も含む)の電力成分に対してはインピーダンスが低く、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなる特性を有する。
図6は図3に示したフィルタ装置主要部の変形例の構成を示す電気回路図である。図3のフィルタ装置50では、電源用フィルタ23の一端23aと電気機器接続端子13との接続点より電力線接続端子11側の位置に電源用フィルタ22が設けられている。この場合、モデム接続端子12と電力線接続端子11との間の経路において、フィルタとして電源用フィルタ23及び電源用フィルタ22が直列接続されて共に用いられる。このため、それぞれのフィルタによる通信に使用可能な周波数帯域における減衰量を、電源用フィルタ22がα[dB]、電源用フィルタ23がβ[dB]とすると、モデム接続端子12と電力線接続端子11との間の経路において、通信用フィルタ21の通過帯域を除く通信に使用可能な周波数帯域における減衰量はα+β[dB]となる。即ち、モデムに対する、電力線から発生するノイズの影響を少なくすることが出来る。
これに対し、図6の変形例のフィルタ装置50xのように、電源用フィルタ23の一端23aと電気機器接続端子13との接続点より電気機器接続端子13側の位置に電源用フィルタ22を配置することも可能である。この場合、モデム接続端子12と電気機器接続端子13との間の経路において、フィルタとして電源用フィルタ23及び電源用フィルタ22が直列接続されて共に用いられる。このため、モデム接続端子12と電気機器接続端子13との間の経路において、通信用フィルタ21の通過帯域を除く通信に使用可能な周波数帯域における減衰量がα+β[dB]となる。即ち、モデムに対する、電気機器が発生するノイズの影響を少なくすることが出来る。なお、図2等に示した構成のように、電気機器接続端子13を省略する場合には電源用フィルタ22は不要である。
また、本実施形態のフィルタ装置50においては、スイッチ部24を切り替えることにより、通信用の信号が通信用フィルタ21を通過するか、バイパス線路25を通過するかを選択できるようになっている。例えば、一種類のマルチキャリア通信装置100だけが電力線107に接続されているような環境では、通信に用いる周波数帯域を制限しなくても信号の衝突などは生じない。従って、そのような環境ではスイッチ部24を切り替えて通信用の信号がバイパス線路25を通過するようにしておけば、マルチキャリア通信装置100は最大の性能を発揮することができる。なお、スイッチ部24は省略してもよい。
ここで、フィルタ装置50を使用する場合の通信に用いる周波数帯域の具体例について、図7〜図9を参照しながら説明する。図7は通信用の周波数帯域の割り当ての具体例を示す模式図である。図8は通信用の周波数帯域の帯域制限の一例を示す模式図である。図9は通信用の周波数帯域の帯域制限の他の例を示す模式図である。図7〜図9において、通信に利用可能な周波数帯域の上限周波数をfHで示し、下限周波数をfLで示してある。電力線通信を行う場合には、具体例として上限周波数fHは28MHz、下限周波数fLは2MHzが想定される。
例えば、1つの電力線107に一種類のマルチキャリア通信装置100だけが接続されているような環境では、図7(a)に示す下限周波数fLから上限周波数fHまでの全周波数帯域を通信に利用することができる。このような環境では、フィルタ装置50のスイッチ部24を切り替えて通信信号がバイパス線路25を通過する状態を選択しておけばよい。
一方、種類の異なる複数グループのマルチキャリア通信装置100が共通の電力線107に接続される環境では、図7(a)に示す下限周波数fLから上限周波数fHまでの全周波数帯域を複数の帯域に区分してグループ毎に異なる帯域を使用すれば、グループ間で信号の衝突が生じるのを防止できる。
図7(b)に示す例では、fLからfHまでの全周波数帯域を低域の帯域BLと高域の帯域BHとの2つに区分し、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末が高域の帯域BHを使用する場合を想定している。このような周波数特性を実現するためには、例えば図3に示すようにフィルタ装置50の通信用フィルタ21としてハイパスフィルタを用いればよい。すなわち、通信用フィルタ21の周波数−インピーダンス特性により、高域の帯域BHの信号成分のみを通過し、低域の帯域BLの信号成分を遮断する。これにより、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末は高域の帯域BHを使用でき、低域の帯域BLは他のグループの通信端末が利用できるので、グループ間で使用する周波数帯域を区別し、信号の衝突を防止できる。
また、図7(c)に示す例では、fLからfHまでの全周波数帯域を低域の帯域BLと高域の帯域BHとの2つに区分し、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末が低域の帯域BLを使用する場合を想定している。このような周波数特性を実現するためには、例えば図4に示すようにフィルタ装置50の通信用フィルタ21Bとしてローパスフィルタを用いればよい。すなわち、通信用フィルタ21Bの周波数−インピーダンス特性により、低域の帯域BLの信号成分のみを通過し、高域の帯域BHの信号成分を遮断する。これにより、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末は低域の帯域BLを使用でき、高域の帯域BHは他のグループの通信端末が利用できるので、グループ間で使用する周波数帯域を区別し、信号の衝突を防止できる。
なお、通信用フィルタ21Bとしてローパスフィルタを用いる場合であっても、下限周波数fLより低い周波数成分が通過しないように、通信用フィルタ21B自体の周波数特性を定めるか、あるいはフィルタ装置50に接続するマルチキャリア通信装置100の内部のフィルタにそのような周波数特性を持たせる必要がある。
また、図7(d)に示す例では、fLからfHまでの全周波数帯域を低域の帯域BLと中域の帯域BMと高域の帯域BHとの3つに区分し、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末が中域の帯域BMを使用する場合を想定している。このような周波数特性を実現するためには、例えば図5に示すようにフィルタ装置50の通信用フィルタ21Cとしてバンドパスフィルタを用いればよい。すなわち、通信用フィルタ21Cの周波数−インピーダンス特性により、中域の帯域BMの信号成分のみを通過し、低域の帯域BL及び高域の帯域BHの信号成分を遮断する。これにより、フィルタ装置50のモデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100の属しているグループの通信端末は中域の帯域BMを使用でき、低域の帯域BL及び高域の帯域BHは他のグループの通信端末が利用できるので、グループ間で使用する周波数帯域を区別し、信号の衝突を防止できる。
なお、例えばAグループに属する通信端末とBグループに属する通信端末との2種類の通信端末が共通の電力線107に接続される場合には、図8(a)に示すように2種類の通信端末がそれぞれ通信に使用する周波数帯域が一部分だけ重なる場合と、図9(a)に示すように2種類の通信端末がそれぞれ通信に使用する周波数帯域の全体が重なる場合とが考えられる。
図8(a)に示すような環境では、フィルタ装置50を用いることにより、図8(b)、図8(c)、図8(d)に示すように周波数帯域を区分することができる。すなわち、ローパスフィルタを備えたフィルタ装置50をAグループの通信端末と電力線107との間に接続することにより、Aグループの通信端末が通信に使用する高域側がフィルタ装置50により遮断されて帯域制限されるので、Aグループの使用する帯域とBグループの使用する帯域とが図8(b)に示すように区分される。この場合、Aグループの通信端末だけにフィルタ装置50を接続し、Bグループの通信端末にはフィルタ装置50を接続する必要はない。
また、ハイパスフィルタを備えたフィルタ装置50をBグループの通信端末と電力線107との間に接続することにより、Bグループの通信端末が通信に使用する低域側がフィルタ装置50により遮断されて帯域制限されるので、Aグループの使用する帯域とBグループの使用する帯域とが図8(c)に示すように区分される。この場合、Bグループの通信端末だけにフィルタ装置50を接続し、Aグループの通信端末にはフィルタ装置50を接続する必要はない。
また、ローパスフィルタを備えたフィルタ装置50をAグループの通信端末と電力線107との間に接続し、ハイパスフィルタを備えたフィルタ装置50をBグループの通信端末と電力線107との間に接続することにより、Aグループの通信端末が通信に使用する高域側がフィルタ装置50により帯域制限されるとともに、Bグループの通信端末が通信に使用する低域側がフィルタ装置50により帯域制限されるので、Aグループの使用する帯域とBグループの使用する帯域とが図8(d)に示すように区分される。
図9(a)に示すような環境では、フィルタ装置50を用いることにより、図9(b)、図9(c)に示すように周波数帯域を区分することができる。すなわち、ローパスフィルタを備えたフィルタ装置50をAグループの通信端末と電力線107との間に接続し、ハイパスフィルタを備えたフィルタ装置50をBグループの通信端末と電力線107との間に接続することにより、Aグループの通信端末が通信に使用する高域側がフィルタ装置50により遮断され、Bグループの通信端末が通信に使用する低域側がフィルタ装置50により遮断されるので、Aグループの使用する帯域とBグループの使用する帯域とが図9(b)に示すように区分される。
また、ハイパスフィルタを備えたフィルタ装置50をAグループの通信端末と電力線107との間に接続し、ローパスフィルタを備えたフィルタ装置50をBグループの通信端末と電力線107との間に接続することにより、Aグループの通信端末が通信に使用する低域側がフィルタ装置50により遮断され、Bグループの通信端末が通信に使用する高域側がフィルタ装置50により遮断されるので、Aグループの使用する帯域とBグループの使用する帯域とが図9(c)に示すように区分される。
ところで、電力線通信においては、実際に通信を行うマルチキャリア通信装置100自体が動作するために必要な電源電力は、電力線107からフィルタ装置50を介して供給される。しかし、フィルタ装置50に備わった通信用フィルタ21は、商用交流電源のような低い周波数成分(50Hz/60Hz)を通さない。また、前述のようにマルチキャリア通信装置100自体の電源回路などのインピーダンスによってインピーダンスの不整合が生じると、信号の反射などによって通信に悪影響が現れる。
そこで、フィルタ装置50には図3に示すようにインピーダンスアッパの機能を持つ電源用フィルタ22,23が設けてある。この「インピーダンスアッパの機能」とは、PLCで使用可能な周波数帯域において、商用電源の周波数帯域で比較的低いインピーダンスを有するフィルタの機能をいい、即ち、インピーダンスアッパは、商用電力を通過させるローパスフィルタである。このため、電力線107から供給される商用交流電力(50Hz/60Hz)は、電力線接続端子11から電源用フィルタ22,23を通り、モデム接続端子12を介してマルチキャリア通信装置100の電源回路に供給される。
前述のように、電源用フィルタ23は例えば60Hz以下の周波数帯域(直流も含む)の電力成分に対してはインピーダンスが低く、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなる電気的特性を有している。従って、通信に使用する周波数帯域(fL−fHの間)の信号に対しては、電源用フィルタ23は非常にインピーダンスが高くなり、通信用の信号は電源用フィルタ23を通過しない。従って、電力線107側からフィルタ装置50を見た場合のインピーダンスは、通信用の周波数帯域では通信用フィルタ21の特性によって定まり、マルチキャリア通信装置100自体のインピーダンスは大きな影響を及ぼさない。また、マルチキャリア通信装置100側からフィルタ装置50を見た場合のインピーダンスは、通信用の周波数帯域では通信用フィルタ21の特性によって定まり、電力線107に接続される他の通信端末などのインピーダンスは大きな影響を及ぼさない。
さらに、フィルタ装置50を使用することにより、種類の異なる通信端末の間では、図8及び図9に示すように通信に用いる周波数帯域が区分され、通信に使用しない周波数帯域については、フィルタ装置50内部の通信用フィルタ21のインピーダンスが高くなるので、1つのグループに属する通信端末から電力線107側を見ると、他のグループに属する通信端末のインピーダンスの影響は通信に利用する周波数帯域には現れない。従って、インピーダンスの不整合が生じるのを防止することができる。
また、図3に示すフィルタ装置50を使用する場合には、様々な電気機器を電気機器接続端子13を介して電力線107に接続することができる。電気機器内部の電源回路などに存在するインピーダンスは、電力線107に接続することによりインピーダンスの不整合を発生する可能性があり、電気機器が発生するノイズは悪通信に影響を及ぼす。しかし、電気機器をフィルタ装置50を介して電力線107に接続することにより、電気機器がマルチキャリア通信装置100の通信に及ぼす影響を軽減できる。
前述のように、電源用フィルタ22は例えば60Hz以下の周波数帯域(直流も含む)の電力成分に対してはインピーダンスが低く、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなる電気的特性を有している。従って、通信に使用する周波数帯域(fL−fHの間)の信号に対しては、電源用フィルタ22は非常にインピーダンスが高くなり、通信用の信号は電源用フィルタ22を通過しない。
従って、電気機器接続端子13に様々な電気機器を接続した場合であっても、電力線107側からフィルタ装置50を見た場合のインピーダンスは、通信用の周波数帯域では通信用フィルタ21の特性によって定まり、電気機器自体のインピーダンスは大きな影響を及ぼさない。
また、モデム接続端子12に接続されたマルチキャリア通信装置100側からフィルタ装置50を見た場合のインピーダンスは、通信用の周波数帯域では通信用フィルタ21の特性によって定まり、電気機器接続端子13に電気機器を接続した場合であっても、電気機器のインピーダンスは大きな影響を及ぼさない。
図10〜図12はマルチキャリア通信装置の具体的な構成例を示す図であり、図10はマルチキャリア通信装置を正面側から見た斜視図、図11はマルチキャリア通信装置を背面側から見た斜視図、図12はマルチキャリア通信装置の電気回路の構成例を示すブロック図である。
このマルチキャリア通信装置100は、本実施形態のフィルタ装置50と電力線107を利用して通信を行う通信端末であり、具体的にはモデム(PLCモデム)として構成されている。勿論、本実施形態のフィルタ装置は、モデムに限らず、モデムを備えた電気機器(例えばテレビなどの家電機器)に接続して利用することもできる。
マルチキャリア通信装置100は、図10及び図11に示すような筐体101の中に、図12に示すような電気回路の回路モジュール200が内蔵されている。筐体101の前面には、図10に示すようにLED(Light Emitting Diode)などで構成された表示部105が設けられている。また、筐体101の背面には、図11に示すように電源コネクタ102と、RJ45などのLAN(Local Area Network)ケーブル接続用のモジュラージャック103と、シリアルケーブル接続用のDsubコネクタ104とが設けられている。電源コネクタ102には、図11に示すように、平行ケーブルなどで構成されるACコード106が接続される。モジュラージャック103には、図示しないLANケーブルが接続される。Dsubコネクタ104には、図示しないシリアルケーブルが接続される。
図12に示すように、マルチキャリア通信装置100の内部には、回路モジュール200及びスイッチング電源300が備わっている。電源コネクタ102に接続されたACコード106は、前述した本実施形態のフィルタ装置50を経由してACコンセント108と接続され、電力線107と接続される。したがって、スイッチング電源300は、電力線107からフィルタ装置50を経由して商用交流電力(AC100V)の供給を受け、+1.2V、+3.3V、+12Vの各直流電圧を生成し、これらの電圧を回路モジュール200に供給する。
回路モジュール200の内部には、メイン集積回路(Integrated Circuit)201と、AFE(Analog Front End)集積回路202と、ローパスフィルタ(LPF)203と、ドライバ集積回路205と、カプラ206と、バンドパスフィルタ(BPF)207と、増幅器(AMP IC)209と、AD変換集積回路(ADC IC)210と、メモリ211と、イーサネット(登録商標)物理層集積回路(PHY IC)212とが設けられている。
また、メイン集積回路201は、CPU(Central Processing Unit)201aと、PLC・MAC(Power Line Communication・Media Access Control)ブロック201bと、PLC・PHY(Power Line Communication・Physical layer)ブロック201cとを有して構成されている。AFE集積回路202は、D/A変換器(DAC)234と、A/D変換器(ADC)231と、可変ゲイン増幅器(VGA)232とを有して構成されている。カプラ206は、コイルトランス206aとコンデンサ206bとを有して構成されている。
図12に示す回路モジュール200は、例えばOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)信号のようなマルチキャリア信号を用いて他端末との間でデータの送受信を行うことができる。このデータ通信には、通信用の伝送路として電力線107を用い、この電力線上の所定の周波数帯域を使用する。従って、通信のために特別な伝送路を用意する必要がない。なお、例えば電力線107を利用して好ましい通信品質が得られないような場合には、他の線路、例えばテレビアンテナとテレビ受像器とを接続するために配線された同軸ケーブルによるアンテナ線や、電話機を接続するために配線された電話ケーブルなどをデータ通信のために補助的に利用することも可能である。また、電力線107以外を通信に利用する場合であっても、フィルタ装置50を使用することもできる。
上述したように、本実施形態のフィルタ装置では、電力線通信装置と伝送路である電力線などとを接続することにより、電力線通信装置がデータ通信に使用する周波数帯域は、通信用フィルタ21の周波数特性によって所定帯域のみ通過するように制限される。また、交流もしくは直流の電源電力は、電力線から電源用フィルタ22を介して電力線通信装置に供給される。したがって、電力線通信装置が実際のデータ通信に使用する周波数帯域をこのフィルタ装置の通信用フィルタ21の特性により決定付けることができる。また、電力線通信装置や他の電気機器に設けられる電源回路などのインピーダンスは比較的低く、このインピーダンスが電力線通信装置や他の通信装置の通信に影響を及ぼす可能性がある。しかし、他の電気機器を電気機器接続端子13に接続した状態で、本実施形態のフィルタ装置を使用することにより、他の電気機器と電力線接続端子11やモデム接続端子12との間に電源用フィルタ22、23が設けられるので、電源回路などのインピーダンスの影響を防止でき、電気機器からのノイズ等が電力線通信装置に影響を及ぼしたり、電力線からのノイズ等が電力線通信装置に影響を及ぼすことを抑制できる。
つまり、例えば互いに種類が異なり通信に用いる周波数帯域が一部または全部重なる複数の通信装置が共通の伝送路に接続されるような場合であっても、複数種類の通信装置の少なくとも1つと伝送路との間に本実施形態のフィルタ装置を接続することにより、通信用フィルタ21によってお互いの通信に用いる周波数帯域を区分して周波数帯域が重なるのを防止することができ、伝送路上での信号の衝突を回避できる。また、他の電気機器を電気機器接続端子13に接続した状態では、フィルタ装置に備わった電源用フィルタ22、23により、通信に用いる周波数帯域において電源回路のインピーダンスの影響を無くすことができ、複数の機器の接続によって通信信号が減衰するなどの悪影響を防止できる。
よって、本実施形態のフィルタ装置によれば、プロトコルや変調形式などが異なる複数種類の通信装置や他の機器が電力線等の共通の伝送路に接続される可能性のある環境において、伝送路において複数の通信方式の通信信号が混在して伝送される場合などに、通信用フィルタによって複数の通信方式のそれぞれに割り当てた周波数帯域を区分して伝送することができる。このため、互いの通信信号が衝突してノイズになったり反射や吸収が生じるなどの干渉の影響を防止でき、S/Nの低下を防止できる。さらに、通信用フィルタと並列に電源用フィルタを設けることによって、他の通信装置(例えば異なる通信方式の電力線通信装置)や機器が電力線に接続された場合のインピーダンス変動の影響を防止することができる。これにより、それぞれの通信装置における通信品質の劣化を抑制することができる。
(第2の実施形態)
本発明に係るフィルタ装置の第2の実施形態について、図13を参照しながら以下に説明する。図13は第2の実施形態におけるフィルタ装置主要部の構成を示すブロック図である。
第2の実施形態は第1の実施形態の変形例であり、図13において第1の実施形態と対応する要素は同一の符号を付けて示してある。第1の実施形態と異なる要素及び動作について以下に説明する。
図13に示すフィルタ装置50Aは、3つの帯域制限フィルタ31,32,33と、スイッチ部34a,34bと、インピーダンスアッパ35とを備えている。帯域制限フィルタ31,32,33は、第1の実施形態における通信用フィルタ21と同じ機能を果たす構成要素であり、それぞれ所定の周波数帯域を遮断し、目的の周波数帯域を通過させるフィルタ素子で構成され、データ通信に用いる信号(PLC搬送波信号)の周波数帯域を制限するものである。インピーダンスアッパ35は、第1の実施形態における電源用フィルタ23と同じ機能を果たす構成要素であり、商用交流電源周波数以下の周波数成分(電力)のみを通過し、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなって遮断するものである。この実施形態は、複数の帯域制限フィルタをスイッチ部で選択的に切り替えて接続し、通過させる帯域を可変とした例である。
3つの帯域制限フィルタ31,32,33は、互いに異なる周波数特性を有している。具体例としては、図7(d)に示す3つの帯域BL,BM,BHのそれぞれに3つの帯域制限フィルタ31,32,33を割り当てることが考えられる。すなわち、帯域制限フィルタ31は、図7(d)に示す低域BLの周波数成分のみを通過し、それ以外の周波数成分は遮断するローパスフィルタとして構成し、帯域制限フィルタ32は、図7(d)に示す中域BMの周波数成分のみを通過し、それ以外の周波数成分は遮断するバンドパスフィルタとして構成し、帯域制限フィルタ33は、図7(d)に示す高域BHの周波数成分のみを通過し、それ以外の周波数成分は遮断するハイパスフィルタとして構成する。
スイッチ部34a,34bは、フィルタ切り替え部及び特性切り替え部の機能を有するもので、電力線接続端子11とモデム接続端子12との間で通信用の信号の経路を切り替える。すなわち、バイパス線路25及び3つの帯域制限フィルタ31,32,33のいずれか1つの経路を通信用の信号が通るように選択する。なお、3つの帯域制限フィルタ31,32,33のうちの複数を同時に選択し、複数の周波数帯域を通過させるように、スイッチ部34a,34bで経路を切り替えるように構成することもできる。
従って、例えば上述のように、帯域制限フィルタ31をローパスフィルタとして構成し、帯域制限フィルタ32をバンドパスフィルタとして構成し、帯域制限フィルタ33をハイパスフィルタとして構成する場合には、スイッチ部34a,34bの切り替えにより、図7(a)に示すfLからfHまでの全域と、図7(d)に示す低域BMと、図7(d)に示す中域BMと、図7(d)に示す高域BHとの4種類の帯域の中から、通信に使用する帯域を適宜選択することができる。
なお、図13に示したフィルタ装置50Aにおいては、独立した3つの帯域制限フィルタ31,32,33を設けたが、可変インピーダンス素子等を有してなる周波数特性が可変の帯域制限フィルタを用いれば、単一の帯域制限フィルタだけで図13に示すフィルタ装置50Aと同等の機能を実現することができる。
つまり、帯域制限フィルタの構成要素として可変抵抗器、可変インダクタ、可変コンデンサ等の可変インピーダンス素子を用いれば、フィルタの周波数特性を変更することができる。実際には、抵抗器やインダクタやコンデンサとして互いに特性の異なる複数の素子を用意しておき、複数の素子をスイッチで切り替えればよい。また、スイッチドキャパシタや、トランジスタや、バリキャップダイオードなどをフィルタの構成要素として採用することにより、電気的な制御でフィルタの周波数特性を変更することが可能になる。従って、スイッチなどの切り替えにより、単一の帯域制限フィルタの周波数特性を変更することが可能になる。
なお、図13に示したフィルタ装置50Aにおいては、fL−fHの周波数帯域を帯域制限フィルタにより3分割する場合を想定しているが、分割する帯域の数については、共通の電力線107に接続される通信端末のグループ数と同数だけ用意する必要がある。
上述したように、本実施形態のフィルタ装置によれば、周波数特性を可変とした通信用フィルタを設けることによって、接続される通信装置に応じて通信信号の帯域を変化させることができる。このため、伝送路に接続される通信装置の通信方式の種類や数に応じて、適切に通信信号の帯域を割り当てて干渉の影響を防止することができる。
(第3の実施形態)
本発明に係るフィルタ装置の第3の実施形態について、図14を参照しながら以下に説明する。図14は第3の実施形態におけるフィルタ装置主要部の構成を示すブロック図である。
第3の実施形態は第1の実施形態及び第2の実施形態の変形例であり、図14において第1の実施形態及び第2の実施形態と対応する要素は同一の符号を付けて示してある。第1の実施形態又は第2の実施形態と異なる要素及び動作について以下に説明する。
図14に示すフィルタ装置50Bは、3つの帯域制限フィルタ31,32,33と、スイッチ部36a,36bと、インピーダンスアッパ35とを備え、さらにマルチキャリア通信装置100を接続するための端子として、2つのモデム接続端子12A,12Bを備えている。
インピーダンスアッパ35は、第1の実施形態における電源用フィルタ23と同じ機能を果たす要素であり、商用交流電源周波数以下の周波数成分のみを通過し、それ以外の周波数成分に対してはインピーダンスが高くなる。また、3つの帯域制限フィルタ31,32,33の機能については、第2の実施形態と同様である。
スイッチ部36a,36bは、フィルタ切り替え部及びフィルタ特性設定部の機能を有するものである。一方、スイッチ部36aはモデム接続端子12Aに接続されるマルチキャリア通信装置100の通信信号の経路を切り替えるために設けてあり、他方のスイッチ部36bはモデム接続端子12Bに接続されるマルチキャリア通信装置100の通信信号の経路の切り替えるために設けてある。
すなわち、スイッチ部36aはモデム接続端子12Aに接続されるマルチキャリア通信装置100の通信信号が、バイパス線路25及び3つの帯域制限フィルタ31,32,33のいずれか1つの経路を通るように選択的に切り替える。また、スイッチ部36bはモデム接続端子12Bに接続されるマルチキャリア通信装置100の通信信号が、バイパス線路25及び3つの帯域制限フィルタ31,32,33のいずれか1つの経路を通るように選択的に切り替える。
従って、互いに種類の異なるAグループの通信端末とBグループの通信端末とが共通の電力線107を伝送路として使用する場合には、例えばフィルタ装置50Bのモデム接続端子12AをAグループに属する通信端末(マルチキャリア通信装置100)を接続するために割り当て、モデム接続端子12BをBグループに属する通信端末を接続するために割り当てることもできる。
その場合、Aグループに属する通信端末が通信に使用する帯域とBグループに属する通信端末が通信に使用する帯域とが重ならないように、予めスイッチ部36a,36bで信号経路を定めておけばよい。これにより、ユーザは自分の使用するマルチキャリア通信装置100が属するグループに応じて、フィルタ装置50Bに対するマルチキャリア通信装置100の接続口をモデム接続端子12A,12Bの中から選択するだけで、複数グループ間で信号が衝突しないように適切に帯域を選択できる。
なお、図14に示したフィルタ装置50Bにおいては、独立した3つの帯域制限フィルタ31,32,33を設けたが、周波数特性が可変の帯域制限フィルタを用いれば、モデム接続端子12A,12Bの数と同数の帯域制限フィルタを設けるだけで図14に示すフィルタ装置50Bと同等の機能を実現することができる。
つまり、帯域制限フィルタの構成要素として可変抵抗器や可変インダクタや可変コンデンサを用いれば、フィルタの周波数特性を変更することができる。実際には、抵抗器やインダクタやコンデンサとして互いに特性の異なる複数の素子を用意しておき、複数の素子をスイッチで切り替えればよい。また、スイッチドキャパシタや、トランジスタや、バリキャップダイオードなどをフィルタの構成要素として採用することにより、電気的な制御でフィルタの周波数特性を変更することが可能になる。従って、スイッチなどの切り替えにより、各々の帯域制限フィルタの周波数特性を変更することが可能になる。
上述したように、本実施形態のフィルタ装置によれば、複数の通信装置接続部を設け、それぞれの通信装置接続部に対して通信用フィルタの周波数特性を可変とすることによって、接続された複数の通信装置の種類に応じてそれぞれ通信信号の帯域を変化させることができる。このため、複数種類の通信装置を併用する場合に、伝送路に接続される通信装置の通信方式の種類や数に応じて、適切に通信信号の帯域を割り当てて干渉の影響を防止することができる。
(第4の実施形態)
本発明に係るフィルタ装置の第4の実施形態について、図15を参照しながら以下に説明する。図15は第4の実施形態におけるフィルタ装置主要部の構成を示すブロック図である。
第4の実施形態は第3の実施形態の変形例であり、図15において第3の実施形態と対応する要素は同一の符号を付けて示してある。第3の実施形態と異なる要素及び動作について以下に説明する。
図15に示すフィルタ装置50Cは、機器種別識別部の一例に相当するモデム種別識別部37を備えている。また、スイッチ部36a,36bは、フィルタ切り替え部及びフィルタ特性設定部の機能を有するもので、電気的な制御により切り替え可能に構成されている。モデム種別識別部37の入力は、モデム接続端子12A及びモデム接続端子12Bと接続されている。このモデム種別識別部37は、モデム接続端子12Aに接続される通信端末及びモデム接続端子12Bに接続される通信端末からそれぞれ出力される信号を検出して、各端子に接続された通信端末の種別を識別する。
この第4の実施形態では、各モデム接続端子12A,12Bに接続される通信端末(マルチキャリア通信装置100)のそれぞれが自分の属しているグループすなわち種類を特定するための特有の情報を送出する場合を想定している。接続される通信端末から出力される特定の信号等による種別情報を検出することにより、モデム種別識別部37は各モデム接続端子12A,12Bに接続された通信端末のグループあるいは種別、通信方式等を自動的に識別する。そして、モデム種別識別部37は識別結果に応じてスイッチ部36a,36bの選択状態を自動的に切り替える。
従って、実際にフィルタ装置50Cの各モデム接続端子12A,12Bに接続された通信端末の種別に適した帯域を利用して通信するように、各通信端末に対するフィルタ特性を自動的に選択することができる。
例えば、図8(a)に示すように比較的低い周波数帯域を通信に使用するAグループの通信端末と比較的高い周波数帯域を通信に使用するBグループの通信端末とが共通の電力線107に接続されたような環境では、図8(b),(c),(d)に示すように帯域を割り当てることによりfL−fHの範囲の全周波数帯域を有効に利用できる。従って、このような場合には、Aグループの通信端末の信号を通す経路で高域を遮断して図8(b)に示すような帯域割り当て状態で使用するか、又はBグループの通信端末の信号を通す経路で低域を遮断して図8(c)に示すような帯域割り当て状態で使用するか、もしくはAグループの通信端末の信号を通す経路で高域を遮断すると共に、Bグループの通信端末の信号を通す経路で低域を遮断して図8(d)に示すような帯域割り当て状態で使用するように自動的に制御することができる。
上述したように、本実施形態のフィルタ装置によれば、複数の通信装置接続部を設け、それぞれの通信装置接続部に接続される通信装置の種別を識別し、識別結果に応じて通信用フィルタの周波数特性を可変とすることによって、接続された複数の通信装置の種類に応じてそれぞれ通信信号の帯域を変化させることができる。このため、複数種類の通信装置を併用する場合に、伝送路に接続される通信装置の通信方式の種類や数に応じて、使用者が切り替え操作を行う手間をかけずに、適切に通信信号の帯域を割り当てて干渉の影響を防止することができる。
(現実的な構成例)
前述したフィルタ装置50に関する現実的な構成例を図16〜図19に示す。これらの構成例について以下に説明する。
図16は本実施形態のフィルタ装置の現実的な第1構成例を示す電気回路図である。図16に示す第1構成例のフィルタ装置50Dは、電力線接続端子11にACコンセント108と接続するためのコンセントプラグ51が設けてあり、モデム接続端子12にはコンセント52が設けてある。そして、電気機器接続端子13にはACコード53を介してコンセントタップ54が接続してある。
図17は本実施形態のフィルタ装置の現実的な第2構成例を示す電気回路図である。図17に示す第2構成例のフィルタ装置50Eは、電力線接続端子11にACコード61が接続されて延出され、ACコンセント108と接続するためのコンセントプラグ62が設けてあり、モデム接続端子12にはコンセント52が設けてある。そして、電気機器接続端子13にはACコード53を介してコンセントタップ54が接続してある。
図18は本実施形態のフィルタ装置の現実的な第3構成例を示す電気回路図である。図18に示す第3構成例のフィルタ装置50Fは、電力線接続端子11にACコード61が接続されて延出され、ACコンセント108と接続するためのコンセントプラグ62が設けてあり、モデム接続端子12にはコンセント52が設けてある。そして、電気機器接続端子13には複数のコンセント63を接続して設けてある。この第3構成例では、フィルタ装置50Fにコンセント63が内蔵され、フィルタ装置50F自体をコンセントタップとして一体に構成してある。
図19は図16〜図18に示したフィルタ装置の外観構成例を示す説明図である。図19(a)は図16に示した第1構成例に対応するものである。図19(b)は図17に示した第2構成例に対応するものである。図19(c)は図18に示した第3構成例に対応するものである。
このように、本実施形態のフィルタ装置をAC電源ケーブルが接続されるコンセントやテーブルタップ、AC電源ケーブルのコンセントプラグ、あるいはこれらの中間部などに配設して構成し、フィルタ装置を容易に利用可能にすることができる。
上述したように、本実施形態のフィルタ装置では、所定の通信信号の周波数帯域を通過させる第1のフィルタと、商用電源周波数では低インピーダンスであり通信信号の周波数帯域では高インピーダンスである第2のフィルタとを備える構成となっている。このため、例えば互いにプロトコルや変調形式などの通信方式が異なり、通信に用いる周波数帯域が部分的に重なる複数種類の通信装置が線路に共通に接続されるような場合であっても、複数種類の通信装置の少なくとも1つと線路との間に本実施形態のフィルタ装置を接続することにより、それぞれの通信装置において通信に用いる周波数帯域が重なるのを防止することができ、線路上での信号の衝突を回避できる。これにより、それぞれの通信装置におけるS/Nの低下を防止できる。
また、フィルタ装置に設けた第2のフィルタの特性により、線路に接続される他の通信装置や他の電気機器の電源回路によるインピーダンス変動の影響が通信に用いる周波数帯域には及ばないようになる。これにより、複数の通信装置を共通の線路に接続した場合でも、通信用の信号が他の通信装置や電気機器のインピーダンスの影響を受けて線路上で減衰するのを防止できる。
家庭内の電灯線のような電力線を通信用の伝送路として用いる通信システムを構成する場合には、本実施形態のフィルタ装置を介して通信装置を電力線に接続することにより、各通信装置が通信に使用可能な周波数帯域の一部を制限することができる。従って、種類の異なる複数グループの通信端末が共通の電力線に接続されるような環境においては、本実施形態のフィルタ装置を利用することにより、グループ間で通信に使用する帯域が重ならないように区分することができ、複数グループの共存が可能になる。また、複数グループの通信端末が共通の電力線に接続されるような環境においても、インピーダンスの不整合が生じるのを防止できるため、良好な通信品質が確保できる。さらに、通信に影響を及ぼす電気機器などをフィルタ装置の第2のフィルタに対応する特定の端子に接続することにより、電気機器が及ぼす影響(ノイズやインピーダンスの変動)を軽減することが可能になる。従って、例えばマンションやアパートのような集合住宅に住むユーザに対して通信システムを提供するような場合に、本実施形態のフィルタ装置は大きな利用価値がある。