JP2007079620A - 匂い提示システム - Google Patents

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Abstract

【課題】バーチャルリアリティ(VR)空間を利用する者に、匂い提示により当該空間の構成物に関する情報をより多く記憶させることを狙いとする。
【解決手段】道路と建物などを構成物とする3次元地理空間データベースと、当該構成物に予め割り当てられた匂い情報データベースと、当該3次元地理空間データベースから構成物を選択し、視点から当該構成物を見たときの3次元画像を生成し表示する手段と、当該視点と当該構成物との距離、または、触覚提示手段の動きに連動した3次元カーソルと当該構成物との距離を計算する手段と、当該距離が所定条件を満たしたときに前記匂い情報データベースから適切な匂いを選択し放出する匂い提示装置とから構成される。構成物の属性によって匂いの種類が変化し、当該距離によって匂いの強度が変化する。匂いの放出に連動して音声ガイダンスを流しても良い。
【選択図】図1

Description

本発明は、バーチャルリアリティ空間の構成物に匂いをつける匂い提示システムに関し、当該空間を利用する人間が、当該構成物に関する情報をより多く記憶できるようにすることを狙いとしたものである。
近年、計算速度の高速化、メモリの大容量化などにより、コンピュータによって生成されるバーチャルリアリティ空間(VR空間と呼ぶ)は大型化、高精細化の傾向にある。例えば、大きなビルや街並をVRで生成し、視覚的にはあたかもその中に居る感覚を作り出せるようになってきつつある。しかし、VR空間が大きくなり、当該空間の利用が広がるにつれて、現実の空間とは異なる違和感が生じる問題も指摘され始めている。
現実の空間では、視覚以外にも様々な感覚刺激が得られるため、新しい地理空間でも一度訪れれば記憶に残りやすい。例えば、街並を歩行する場合は、能動的に歩行することによって得られる体性感覚、各店舗などから発生される音、匂いなどが視覚と結びついて、記憶として定着されやすい。
一方、VR空間では、従来、視覚的な情報提示が中心であったため現実感に限界があり、新しい地理空間に入って所定時間を過ごしても当該地理空間の構成物に関する情報が記憶に残りにくい問題がある。今後、VR空間が更に大きくなり、生活の一部として身近に利用されるようになってくる場合に、この問題は大きくなると思われる。現実空間で生活するのと同じように空間構成物が記憶に定着されやすいシステムを実現していく必要がある。しかし、VR地理空間を提示する感覚刺激量と当該空間構成物の記憶量との関係は、あまり研究されていない。
以下では、様々な感覚情報を提示するバーチャルリアリティ技術について、本発明に関連する従来例について具体的に説明する。
視覚と音響を提示するシステムとしては、特許文献1の例がある。当該文献には、仮想空間において使用者の携帯部の3次元位置が予め定めた所定条件になったときに、仮想物体との接触があったと判定し、振動および音響によって提示する制御方式が開示されている。
視覚と力感覚を提示するシステムとしては、特許文献2の例がある。当該文献には、仮想空間においてデータグローブを用いて作業する環境において、仮想空間に表示された手に加えられる仮想触覚刺激に連動させて、実際の手にデータグローブによって触覚刺激を同期させることで、現実感を与えようとする制御方式が開示されている。
この他、聴覚情報と触覚情報を提示して空間を知覚させるシステムも視覚障害者支援などの分野で開発されている。
しかし、これらの技術は、利用者が広い空間を能動的に移動するためと言うよりも、比較的狭い限定された空間において作業する場合に、作業効率を向上させることや臨場感を向上させることを目的とする場合が多い。
VR技術で大きな地理空間を構成し、利用者が当該空間を能動的に探索する際にその構成物が記憶に残りやすいようにすることを目的としたマルチモーダル技術については従来少ない。特に、VR空間の構成物に匂いをつけ、視覚、聴覚、触覚、および、嗅覚刺激の提示によって、広い空間の構成物が記憶に残りやすいようにする技術は例が見当たらない。
次に、本明細書では、後に産業への応用例として、VR技術を用いた視覚障害者支援システムを挙げるので、同システムの背景についても説明する。弱視者を含む視覚障害者が社会の中で積極的に生きることを支援するシステムとして、地理情報事前学習システムがある。このシステムの目的は、外出に先立って、その日に行動する予定の地理情報を事前に学習し、地理上の構成物をできるだけ多く記憶してもらい、行動しやすくすることである。視覚障害者にとって、これから外出しようとする実空間を、バーチャルな環境で体験し、記憶に定着させる作業は重要である。視覚は利用できないものの、その他の感覚刺激情報を用いて、地理空間の記憶を支援しようとするシステムがいくつか提案されている。
従来、触地図、電話による音声案内、点字による説明などが利用されている。触地図は、距離と方向の情報や地形の形状を凸凹で表現するもの、音声案内は、目的地に電話し最寄駅からの道順や指標を案内してもらうもの、点字は、当該情報を点字資料から読み取るものである。しかし、これらの手段は別々に用いられることが多く、その場合相当の訓練をしないと記憶に残りにくく使い難い問題がある。また、触地図は作成が難しく費用が掛かる問題もある。
一方、聴覚と触覚を同時に利用したマルチモーダル技術としては、特許文献3に開示されている視覚障害者用地図認識音声装置などがある。この装置では音声と突起触覚を用いて建物の位置と名称、方向、距離などの情報を表現することが可能である。しかし、現実空間と対応つけて記憶するには相当の訓練を必要とするという問題は同様である。
特願2000−273028 特願2002−139209 特開2003−140546号公報
以上のような技術的背景を踏まえ、本発明のシステムは、VR技術で生成された広い地理空間を利用者が能動的に移動する状況において、当該空間の構成物の位置やその特徴を匂い提示を含むマルチモーダル技術によって効率よく記憶できるようにするものである。感覚提示情報としては、視覚、嗅覚情報を基本とするシステムであるが、聴覚、触覚情報を組み合わせて使用することも可能とする。具体的な課題は以下の通りである。
VR空間の構成物に匂いをつける場合、どのような種類の匂いを、どの程度の強さで、どのようなタイミングで提示すると現実空間に近くなり記憶しやすいか、そのためにどのようなシステム構成にすると融通性、拡張性があるかなどが大きな課題である。
また、現実の地理空間を歩行する状況においては、歩行者が移動するにつれて、匂いは頻繁に変化するため、VR空間の構成物に匂いを付加する場合、匂いを高速度で切り替えて提示する技術が課題になる。更に、他の感覚情報との連携も課題である。
<手段1> 本発明に係わる請求項1に記載の匂い提示システムは、図1および図2に対応付けて説明すると、3次元データベース(10)と、当該3次元データベース(10)から必要な構成物(A、Bm)を選択しバーチャルリアリティ空間を構成する3次元空間構成処理手段(21)と、視点位置を定義する手段(V)と、当該視点位置から見た3次元空間を透視投影して画面表示する表示手段(30)と、当該視点(V)または当該視点付近に設定する3次元カーソル(K)と前記構成物(A、Bm)との距離を計算する構成物距離計算手段(23)と、当該距離が所定条件を満たしたときに匂い制御情報を出力する匂い制御情報生成手段(24)と、当該匂い制御情報を入力として所定の匂いを放出する匂い提示装置(50)と、からなることを特徴とする。
手段1において、構成物に付ける匂い制御情報は、現実空間で感じるのと同様な種類、および、強度の匂いを出力するように制御する情報であり、予め、当該構成物と当該匂い制御情報を対応付けてデータベース化しておくことが望ましい。
<手段2> 請求項2に記載の匂い提示システムは、図1および図2に対応付けて説明すると、請求項1に記載の発明に加えて、前記バーチャルリアリティ空間は3次元地理空間であって、前記構成物は、道路(A)および建物(Bm)を含み、当該建物の座標には匂い種類情報(Em)が割り当てられ、前記匂い制御情報生成手段(24)は、前記構成物距離計算手段(23)によって計算される距離が所定以下になった場合に当該匂い種類情報(Em)および当該匂いの濃度情報(Fn)を含む匂い制御情報を生成することを特徴とする。
また、前記視点(V)または前記3次元カーソル(K)が特定の建物(Bm)に近づく際に、前記建物(Bm)に割り当てられた匂い種類(Em)の匂い強度は、周辺の建物に割り当てられた匂い種類の匂い強度に対して相対的に強くなるように制御されることが望ましい。
<手段3> 請求項3に記載の匂い提示システムは、図7に対応付けて説明すると、請求項1に記載の発明に加えて、匂い提示装置(50)は、複数の香料を蓄積する香料容器(531、532、533)と、当該複数の香料を所定量ずつ混合して気化させる混合ガス槽(52)と、砲筒(51)と、当該砲筒に瞬間的な気流を発生させ当該混合ガス槽の香料ガスを塊として放出する気流発生手段(55)とから構成され、当該混合ガスは、前記匂い制御情報に基づいて生成されることを特徴とする。
前記手段1および手段3において、前記構成物に割り当てられる匂い種類情報(Em)は、複数の基調香料の成分比で与えることができる。
<手段4> 請求項4に記載の匂い提示システムは、図1に対応付けて説明すると、請求項1から請求項3に記載の発明に加えて、音響提示手段(70)を備え、前記構成物距離計算手段(23)によって計算される距離が所定以下になった場合に、当該音響提示手段は、当該建物に関する情報をアナウンスすることを特徴とする。
当該音響提示手段は、前記匂いの提示と同期させることができる。また、当該アナウンス内容は、建物の種類、業種、名称、高さなどが可能である。
<手段5> 請求項5に記載の匂い提示システムは、図1に対応付けて説明すると、請求項1から請求項3に記載の発明に加えて、体性感覚提示手段を備え、前記3次元カーソル(K)と前記建物(Bm)との距離が所定以下になった場合に、当該体性感覚提示手段は、当該建物に関する情報を力触覚(40)によって提示することを特徴とする。
また、当該3次元カーソル(K)は当該体性感覚提示手段によって制御されてもよい。当該体性感覚提示は、前記匂いの提示と同期させることができる。また、当該体性感覚提示内容は、建物の境界、ドア部、階段などを力触覚で提示することが可能である。
<手段1および手段2の効果>
(ア)視点から3次元空間を透視投影した画像を利用者に提示する環境において、利用者の視点または当該視点付近に設定する3次元カーソルと前記構成物との距離を計算し、当該距離によって、予め当該構成物に割り当てられた種類の匂いを当該匂いの強度を変えて利用者に放出するため、現実空間を散策する際の匂いを再構成できる。例えば、花屋と病院の並ぶ街並の場合、利用者が所定の距離内に入ると、2つの建物に割り当てられた匂いが混ざり合って提示され、花屋に近づくにつれ、花系の匂いが強くなり、バラ売り場に近づくと、バラの匂いが鮮明になる、などの匂いの演出が可能である。
(イ)大脳の中で匂いを処理する中枢系は、情動を司る中枢系の近くに位置するため、匂いは過去の体験(エピソード)とともに記憶としてしっかり定着されており、似たような匂いを嗅ぐと当該過去の体験が想起されやすい性質がある。従って、利用者に提示しているVR空間の構成物に、適切な匂いを連動させて提示すると、前記過去の体験記憶(エピソード記憶)が想起し、当該VR空間はより現実的なものとして知覚される。そこで、新たなVR体験があれば、当該体験は新たな記憶として再構成され定着されやすい。
また、本発明は、視覚と嗅覚提示を基本とし、触覚、聴覚を適宜加えて構成できるシステムであるが、その応用としては、視覚提示機能を利用せず、嗅覚、触覚、聴覚提示機能を用いることも可能である。例えば、視覚障害者が外出する際の地理学習支援にも適用でき、学習時間を短縮する効果がある。
具体的には、利用者は触覚等の体性感覚を通じて認知しようとしている歩行目印対象から現実空間で知覚されると同様な匂いが提示されると、記憶の呼び起こし(プルースト効果)が起き、地理情報は効率よく記憶される。従って、地理を直感的に自然に理解しやすく、長期の学習と訓練を必要とせず構成物に関する情報を記憶することができる。
<手段3の効果>
(ウ)複数の香料を所定量ずつ混合して気化させる混合ガス槽と、当該混合ガス槽の香料ガスを瞬間的に塊として放出する気流発生手段とから構成される匂い提示装置を用いるため、匂いが空間に広がることが少なく、時間的にも空間的にもピンポイントで匂いを提示できる。利用者の嗅覚器の位置を検出し、当該嗅覚器を追跡するように所定の匂いを提示することができる。VR空間の構成物に予め匂いを割り当てておき、利用者が当該VR空間を散策するのに合わせて匂いを切り替えると、当該構成物があたかもそこにあるかのような匂いを提示することができる。
(エ)建物に割り当てられる匂い種類情報は、予め決められた複数の基調香料の成分比で指定でき、匂い発生装置は、当該基調香料を蓄積しておき、当該成分比情報を基に当該香料を混合して提示できるため、提示できる匂いの種類は極めて多い。融通性や拡張性に富んでいる。
<手段4の効果>
(オ)音響提示手段を備え、匂いの提示に同期して当該匂いに対応する構成物の情報を聴覚器官に提示することができるため、より効率的に記憶することができる。
<手段5の効果>
(カ)体性感覚提示手段を備え、匂いの提示に同期して当該匂いに対応する構成物の情報を体性感覚器官に提示することができるため、より効率的に記憶することができる。
以下本発明の匂い提示システムの実施例について、図1および図2を参照しながら説明する。図1において、3次元データベース10には、建物や道路を構成物とする3次元VR空間の地理情報が蓄積されており、当該構成物は、XYZ世界座標系で定義される。利用者の視点Vが決まると、当該建物や道路は、処理装置20の3次元空間構成処理手段21によって透視投影変換され、その結果が3次元表示装置30の表示画面31に表示される。
利用者の視点Vの検出手段としては、3次元位置追跡装置60で利用者の頭部の動きを検出し、視覚器(眼)の3次元位置を推計することが可能である。60は、磁界発生装置61と当該装置から発生される磁気を計測する磁気センサ62から構成される。61を所定の場所に固定し、62を頭部に装着することによって、利用者の視点Vの動きが検出できる。
また、広い地理空間を散策する目的を考えると、椅子などに座った状態で頭部を動かして視点を移動させるのは限界があるため、当該視点Vの移動操作に関しては、利用者の足や手の動きを連動させることもできる。45は表示空間切り替え入力装置で、キーボード、マウス、ジョイスティック、フットスイッチなどで構成される。当該入力装置を操作することで、利用者が前記3次元VR空間の中を移動することを可能にしている。例えば、椅子に座った状態で、フットスイッチを、前後または左右に操作することで視点の移動を実現することができる。フットスイッチの操作は歩行動作に対応させ、磁気センサ62の位置検出は、頭部を動かして視点を変える動作に対応させることができる。つまり、フットスイッチと磁気センサによってVR空間内を広く移動することが可能である。
更に、手の動きに関しては、力触覚提示装置40を用いることが可能である。41は利用者の取っ手で3次元の移動と回転の6自由度を有している。利用者が当該装置の取っ手41を握って手を動かすと、当該41の位置KはXYZ世界座標系に変換されて計測される。つまり、41の動きは3次元VR空間内の手の動きKに対応づけることができる。処理装置20の3次元カーソル提示処理手段22は、当該手の動きを3次元カーソルで可視化し、表示画面31に提示するための処理を行う。
図2は、3次元VR空間の表示例であり、MAPは街並の一部を示したものである。Aは道路に設置された突起状の触覚目印歩行板である。当該道路の両側には、花屋B1、医院B2、靴屋B3、八百屋B4が配置されている。利用者は、最初、当該3次元VR空間に対応つけて、V1の視点位置に居るものとする。K1は、利用者の手の位置を示す。利用者は、フットスイッチやキーボードを操作して視点をV2、V3、V4と移動して行く。
視点V1、V2から見たときの表示画面を(ア)に示す。同図では、表示画面に表示する空間が大きくなると計算コストが大きくなるため、視点Vの移動に伴って、Vの近くの3次元VR空間の一部分BKを表示する例を示している。実空間であれば、V1から道路方向を見ると、遠方左側に花屋B1や医院B2が見えるため、VR空間でも表示すべきであるが、(ア)では、計算コストを少なくするため、表示していない。視点がV3、V4に移動したときの、表示画面はそれぞれ(イ)(ウ)で、この場合には各構成物が表示されている。
次に匂い提示方法について説明する。図2において、利用者が匂いを発する構成物に近づいて行き、匂いを発生させるべき条件が整うと、図1において、50より利用者に匂いが提示される。当該匂いを発生させる条件は、構成物が匂いを発生する属性を持っているか、利用者の位置と構成物との距離が所定範囲にあるか等である。利用者の位置は、3次元VR空間内での前記視点V、または、前記3次元カーソルKの位置で定義され、当該利用者の位置と構成物Bmとの距離は、前記処理装置20の構成物距離計算処理手段23によって計算される。
図2において、視点がV1にある場合、各構成物Bmは遠方なので、匂いは発生させない。視点がV2に移動すると、当該視点と花屋B1、または、医院B2との距離D1−2、D2−2は、前記所定距離に入ったと判断し、花屋と医院の典型的な匂いを提示する。E1は、花屋の典型的な花系の匂い、E2は、医院で使用する薬品系の匂いである。図1の制御装置20の匂い制御情報生成手段24は、花系の匂いと薬品の匂いを混合した匂い制御情報を生成する。
視点がV3に近づくに従って、V3と花屋B1との距離D1−3、および、V3と医院B2との距離D2−3は、D1−2、D2−2に比べて小さくなり、かつ、両者の平均的な距離に対して両者の間隔距離は相対的に大きくなる。つまり、2((D2−2)−(D1−2))/(D1−2)+(D2−2)<2((D2−3)−(D1−3))/(D1−2)+(D2−2)となる。
実空間において人が感じる匂い強度(感覚量)は、匂い物質に近づくに従って、当該匂い物質からの距離に概ね比例して強くなる。前記例では、視点がV2からV3になると、花系の匂いと薬品の匂いがそれぞれ強くなると共に、医院に比べて花屋との距離の方が近いので、薬品に比べて花系の匂いをより強く感じるようになる。
そこで、図1の制御装置20の匂い制御情報生成手段24は、視点Vが花屋に近づくにしたがって、花屋の花系の匂いを強くし、相対的に医院の薬品系の匂いが弱くなるように制御する。
匂いの制御方法に関しては、ウエーバー・フェヒナーの法則、即ち、人間の感覚量は受容器への刺激量の対数に比例すると言う法則を利用する。yを感覚量、xを刺激量とすると、y=αLog(x)+Cなる関係式が成立する。αは比例係数、Cは定数である。本発明では、yを匂いの感覚量、xを嗅覚器に提示する匂い濃度として適用する。例えば、利用者がV2からV3に移動したとき、花系の匂いが匂い感覚量で2倍になったとすれば、当該利用者に提示する匂い濃度はV2で提示していた濃度の概ね2乗になるように制御する。
図2において、視点がV3に至ると、(イ)の表示画面になるが、さらに、(イ)の中に侵入すると花屋B1との距離は極めて近くなるため、具体的な花の種類まで表示することが望ましい。これに合わせて、匂いは、花系のあいまいな匂いから当該具体的な花の匂いに換える。同図には示していないが、花屋の道路近くに水仙があり、その奥にバラがあるとすれば、水仙の匂いを一番強く、次にバラの匂いが強くなるように提示する。医院B2の匂いは相対的にかなり弱くする。
また、人には、嗅覚順応があり同じ匂いを提示しいていると、数10秒の短い時間で匂い感覚が低下することが知られている。一方、匂いの変化に対して、嗅覚は比較的良く反応することが知られている。そこで、利用者への匂い提示は、利用者が1箇所に留まっている場合には、数秒〜数10秒程度を1単位として間欠的に提示するように制御する。また、VR空間を移動することによって、利用者と匂い物質との距離が変化している場合には、当該距離をパラメータとして、前記のように、匂い濃度を変化させて提示するように制御する。
図2において、視点がV4に移った場合は、表示画面は(ウ)のように変化させる。匂い提示において、視点V1からV3までは、視点Vから構成物Bまでの距離をパラメータとして、匂い制御情報を生成したが、表示画面が(ウ)の例では、図1の構成物距離計算処理手段23は、3次元カーソルK4と構成物B3、B4との距離を計算し、匂い濃度情報作成に反映させている。このように、本発明では、視点の代わりに視点の付近に設けた3次元カーソルと構成物と距離を計算し、匂い制御情報の生成に反映させてもよい。
前記のようにして匂いを提示することに加えて、当該匂い提示のタイミングにあわせて、あるいは、その前後に、匂いに対応する構成物に関する情報をアナウンスしてもよい。図1の70は音響提示手段で、前記構成物距離計算手段(23)によって計算される距離が前記匂い提示の所定条件を満たした場合に、当該建物に関する情報をアナウンスすることができる。当該アナウンスの内容は、建物の種類、業種、名称、高さなどが可能である。
前記匂いの提示は、3次元カーソルKと構成物Bとの距離が所定範囲に入った場合に自動的に行う方法の他、体性感覚を与えてから提示する方法も可能である。図1の力触覚提示装置40の取っ手41を利用者が3次元VR空間を歩行する際の杖と定義し、当該杖を表示画面31に表示し、当該杖が当該構成物Bの所定の場所に接触した場合に匂いを提示するような制御も可能である。例えば、建物のドア部を杖が触ってドアが開いたときに匂いを提示する、または、建物の境界や階段に杖が接触した場合に匂いを提示するなどの制御も可能である。
次に、前記匂い提示システムの処理フローの一例を図3、図4のフローチャートと図1を参照して以下に説明する。図3の処理が開始されると、ステップS1において、3次元DB(10)から必要な構成物(A,Bm)を選択し、VR空間を構成する。
次に、ステップ2では、3次元位置追跡装置60を利用し検出された利用者の頭部の3次元位置からVR空間における視点Vの位置を決定する。ステップ3では、ステップ1において構成されたVR空間と、ステップ2において検出された視点Vの位置から、VR空間のレンダリングを行い表示画面31に表示するよう3次元表示装置30を制御する。
ステップ4はVR空間移動のための判定処理で、利用者の足や手の動きと連動させた、キーボード、マウス、ジョイスティック、フットスイッチなどの表示空間切替え装置45からの入力の有無を検出し、入力が存在しない場合(N)はステップS5に進み、入力が存在した場合(Y)は入力された情報を保持してステップ2へ戻る。従って、当該表示切替え装置の作動によって3次元表示画像は変化する。
ステップ5は、VR空間の中から視点Vまたは手の動きKの近くにある構成物を選択し、距離計算の対象とする関連付け処理である。
ステップ6は、視点Vまたは手の動きKが、VR空間において目的地として定義された構成物の所定座標範囲内に存在するかどうかを判定し、存在しない場合(N)はステップ7へ進み、存在する場合(Y)はステップ10へ進み、音声等により目的地到達案内を行い終了する。
ステップ7は、力触覚提示装置40の取っ手41を握った利用者の手の動きを検出し、当該手の動きをVR空間における手の動きKに関連付け、表示画面31に3次元カーソルとして表示する処理である。
ステップ8は、視点Vと構成物Bmとの距離、または、手の動きKに関連付けられた3次元カーソルと構成物Bmとの距離を計算し、当該構成物Bmの属性と当該距離とを関連付けて所持し、ステップ9に進む。
図4は、匂い制御情報生成手段の処理フローである。ステップ11はステップ8の出力データを取得する。ステップ12は、出力データとして、構成物Bmの属性と距離の関連付けデータが存在するかどうかを確認し、存在する場合(Y)はステップ13へ進み、存在しない場合(N)は匂い制御情報生成手段終了となる。
ステップ13では、ステップ12で取得した距離データから提示する匂いの強度情報を作成する。ステップ14では、当該作成された匂い強度情報と、建物Bmの属性情報を用いて、建物Bmの匂いを提示するように匂い提示装置50を制御し、ステップ15へ進む。
ステップ15では、建物Bmに関連付けられた音声データを3次元データベース10より取得し当該音声データを提示するように音響提示装置70を制御し、ステップ11へ戻る。
次に、バーチャルリアリティ地理空間の構成物に匂いを提示することによる記憶向上効果について説明する。前記のように、匂いを発生する性質の構成物を画面に表示し、同時に実際に匂いを提示していると、利用者は当該構成物を見ただけで、無意識に匂いを意識するようになる。これを嗅覚印象の知覚予期という。知覚予期から発展的に考えると、匂いの記憶は視覚や聴覚の記憶と結び付き、当該構成物の記憶は長期間安定化すると考えられる。ここでは、これを視覚や聴覚と嗅覚の統合相互作用と呼ぶ。
しかし、従来、この効果は実験的に確認されていない。そこで、発明者らは、当該統合相互作用が存在することを、以下のような実験を行って証明した。先ず、図2のようなVR地理空間を大規模にして、当該空間を3次元マウス、または、触覚提示装置を用いて移動できるようにした。次に、道路には、数多くのビルや店などの構成物を配置し、当該構成物には特徴のある匂いを割り当て、被験者が当該構成物に近づいた際に当該匂いを提示することができるようにした。また、当該構成物には説明音声情報を付加し、被験者が当該構成物に近づいた際に当該説明音声を聞けるようにした。つまり、被験者は、当該空間を視覚、触覚、嗅覚、聴覚を利用して移動することができるようにした。
この実験環境を用いて、被験者に当該地理空間を所定のコースで移動してもらい、道順や当該構成物をどの程度記憶できたか、当該記憶をどの程度長く保持できたかについて、当該構成物に匂いを付加した場合と付加しなかった場合について比較する実験を行った。
本実験は、視覚、聴覚、触覚など従来用いられてきた情報提示に嗅覚情報提示を加えた場合、地理空間は効率よく記憶されるかどうかを調べるものである。提示する情報の種類を替えて様々な実験を行ったが、以下では、一例として、盲人が外出する際に事前に行う地理記憶事前学習をモデル化した実験について述べる。盲人にとって、外出に先立って地理情報を記憶することは極めて大切なことである。
盲人を対象にした実験であるので、本発明システムの機能の中で、視覚情報提示機能は使わず、触覚、聴覚、嗅覚の3つの感覚器官を利用した場合と触覚、聴覚のみを利用した場合とで、VR地理空間の記憶について調べた。
被験者には、上記バーチャル技術で構成した街を所定時間で歩行してもらい、道路際にある構成物を順次記憶する学習課題を与えた。図5は、実験結果の一例である。横軸は学習回数と経過時間、縦軸は記憶している建物名の数、即ち、記憶量を示している。3回の記憶学習で記憶量は、匂い有り、無しの何れの条件でも増加するが、匂い有りの方が、増加量が大きいことが分かる。注目すべきは、3回の学習後の時間経過に対する記憶量の変化である。匂い無しの条件では、2日程経過すると半分以上を忘れてしまうのに対し、匂い有りの条件では、記憶量の減少が少ないことが特徴的である。
図6は、同様の実験で、建物の空間位置の記憶量を測定した結果である。学習による記憶量の増加は、匂い有りの方がはるかに多く、時間経過に対する記憶量の減衰は、匂い有りの方がはるかに少ない。
この実験から、構成物を説明する音声情報に適切な匂いを付加すると記憶量は増加し、一旦記憶した情報は安定し長く保持されることが分かる。
以上は、本システムにおいて、視覚提示機能を使用しない場合の実験結果であるが、刺激情報の種類を変化させ、例えば、視覚、聴覚、嗅覚の3種類と、視覚、聴覚のみの場合で比較しても、嗅覚刺激を付加した方の記憶量が増大する結果が得られた。
これらの実験から、VR空間の構成物に矛盾のない適切な匂いを付加することは、記憶量の増大、安定化に有効であることが分かる。ここで、矛盾のない適切な匂いとは、現実空間で感じるような刺激のことである。つまり、図2の例では、花屋では花系の匂い、八百屋では果物系の匂いを提示することが望ましく、これらを逆にすると、人は現実空間とVR空間の違いに混乱が生じ、前記のような作用を生じないこともある。
構成物に匂いを付加する効果としては、記憶の安定の他、臨場感の向上も挙げられる。これは、過去に同様な経験をしたことがある場合に顕著に現れる。例えば、実空間でVRと同様な構成物、同様な匂いがする場所に行った経験がある場合には、VR空間の構成物に匂いを付けるか付けないかは、利用者の認識に大きな影響を与える。匂いを付ければ、その場にいたときの記憶が甦り、臨場感が高まることを実験的に確認している。
図7は、本発明に使用する匂い提示装置の構成例である。531、532、533は、各々、花屋B1、医院B2、靴屋B3に付加する特徴的な香料液体を蓄積する香料容器である。当該容器の液体は、同図には示していない少量滴下ポンプにより、超音波振動子54の振動面に供給される。当該超音波振動子54が駆動されると、当該混合液体は霧化され複数香料が混合したガスになる。当該ガスは細い香料筒52内に溜まる。
51は太い空気筒で、52と51は中空で連結されている。55は空気ポンプで構成される気流発生手段である。552は錐形膜、554は蛇腹膜、553はソレノイドで、553が駆動されると錐形膜552が同図左側に移動し、当該筒51内の空気を左側に押し出す。52内の前記混合ガスは塊Lmとなって香料筒の前方に放出される。Lmは数mの距離、リング状の形を崩さずに飛行する。従って、利用者の鼻を目標にして放出すると、空間的にも時間的にもピンポイントで匂いを提示できる。利用者が当該塊のガスを吸ってしまうと、匂いは周辺に拡散することがないので、次々に違う匂いをガスの塊として提示することができる。
なお、図7では、香料筒52の中に超音波振動子54を実装し、筒の中で霧化させたが、当該筒の外側で数種類の香料を霧化させ混合し、当該混合ガスを香料筒52に導くようにしてもよい。
また、図7の531、532、533には、嗅覚の基調となる代表的な香料を蓄積させてもよい。前記構成物に割り当てられる匂い種類情報(E1〜En)を当該基調香料の成分比として定義しておき、当該成分比になるように当該基調香料を混合してガスを生成してもよい。基調香料を組み合わせることで、極めて多くの匂いを生成することができる。
本発明は、臨場感の高い地理空間バーチャルリアリティシステムに最適である。現実の空間を散策する場合に近い嗅覚刺激を含む様々な感覚刺激が提示されるため、当該地理空間が記憶に残りやすい。特に、広いVR空間で長時間作業を行うような場合に、作業効率の向上は顕著である。また、盲人の外出時の地理情報事前学習システムとして利用できる。この場合、本システムの視覚機能は十分には作用しないものの、他の感覚提示機能を利用して、利用者に地理空間を効率よく記憶させることができる。その他、ゲーム、シミュレータなどへの利用も可能である。
本発明の実施例でシステムのハードウェア構成図である。 VRで生成された地理空間と匂い制御方法を示す図である。 本発明のソフトウエアの処理フローである。 匂い制御情報生成手段の処理フローである。 記憶量実験結果であり、建物名の回答平均正答率である。 記憶量実験結果であり、建物の空間位置の回答平均正答率である。 匂い提示装置の構成例である。
符号の説明
10 3次元データベース
20 処理装置
21 3次元空間構成処理手段
22 3次元カーソル提示処理手段
23 構成物距離計算処理手段
24 匂い制御情報生成手段
30 3次元処理装置
31 表示画面
40 力触覚提示装置
41 取っ手
45 表示空間切替え入力装置
50 匂い提示装置
51 空気筒
52 香料筒
531、532、533 香料液体を蓄積する香料容器
54 超音波振動子
55 空気ポンプ式気流発生手段
551 空気ポンプ筐体
552 錐形膜
553 ソレノイド
60 3次元位置追跡装置
61 磁気発生装置
62 磁気センサ
70 音声・音響提示装置
Lm リング状の匂いの塊

Claims (5)

  1. 3次元データベースと、
    当該3次元データベースから必要な構成物を選択しバーチャルリアリティ空間を構成する3次元空間構成処理手段と、
    視点位置を定義する手段と、
    当該視点位置から見た3次元空間を透視投影して画面表示する表示手段と、
    当該視点と前記構成物との距離、または、当該視点付近に設定する3次元カーソルと前記構成物との距離を計算する構成物距離計算手段と、
    当該距離が所定条件を満たしたときに匂い制御情報を出力する匂い制御情報生成手段と、
    当該匂い制御情報を入力として所定の匂いを放出する匂い提示装置と、
    からなることを特徴とする匂い提示システム。
  2. 請求項1において、前記バーチャルリアリティ空間は3次元地理空間であって、
    前記構成物は、道路および建物を含み、
    当該建物の座標には匂い種類情報が割り当てられ、
    前記匂い制御情報生成手段は、前記構成物距離計算手段によって計算される距離が所定以下になった場合に当該匂い種類情報および当該匂いの濃度情報を含む匂い制御情報を生成することを特徴とする匂い提示システム。
  3. 請求項1において、匂い提示装置は、複数の香料を蓄積する香料容器と、
    当該複数の香料を所定量ずつ混合して気化させる混合ガス槽と、
    砲筒と、当該砲筒に瞬間的な気流を発生させ当該混合ガス槽の香料ガスを塊として放出する気流発生手段とから構成され、
    当該混合ガスは、前記匂い制御情報に基づいて生成されることを特徴とする匂い提示システム。
  4. 請求項1から請求項3において、音響提示手段を備え、前記構成物距離計算手段によって計算される距離が所定以下になった場合に、当該音響提示手段は、当該建物に関する情報をアナウンスすることを特徴とする匂い提示システム。
  5. 請求項1から請求項3において、体性感覚提示手段を備え、前記3次元カーソルと前記構成物との距離が所定以下になった場合に、当該体性感覚提示手段は、当該構成物に関する情報を力触覚によって提示することを特徴とする匂い提示システム。
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