JP2007063026A - 硫化鉄粒子含有溶液、その製造方法、及びそれを用いた重金属処理剤並びに重金属の処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
従来の硫化鉄粒子含有溶液では、高濃度とすると沈降しやすく、粘度が高く、低温時において凍結しやすいため、重金属固定化処理剤として用いるには、操作性に問題があった。
【解決の手段】
硫化鉄濃度が1wt%以上50wt%以下であり、100μm以上の粗大粒子の割合が全粒子に対して5%未満であり、かつ共存塩濃度が1wt%以上15wt%以下である硫化鉄粒子含有溶液では、沈降しにくく、粘度が低く、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、なおかつ冬季、寒冷地の使用において凍結しにくい。その様な硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを一定のpH範囲を保つように混合してスラリーを得、当該スラリーを濾過、解砕処理することにより得られる。
【選択図】なし
従来の硫化鉄粒子含有溶液では、高濃度とすると沈降しやすく、粘度が高く、低温時において凍結しやすいため、重金属固定化処理剤として用いるには、操作性に問題があった。
【解決の手段】
硫化鉄濃度が1wt%以上50wt%以下であり、100μm以上の粗大粒子の割合が全粒子に対して5%未満であり、かつ共存塩濃度が1wt%以上15wt%以下である硫化鉄粒子含有溶液では、沈降しにくく、粘度が低く、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、なおかつ冬季、寒冷地の使用において凍結しにくい。その様な硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを一定のpH範囲を保つように混合してスラリーを得、当該スラリーを濾過、解砕処理することにより得られる。
【選択図】なし
Description
本発明は、灰や土壌、或いは排水中に含まれる重金属を不溶化することによる無害化処理に用いるのに適した硫化鉄粒子含有溶液、その製造方法、及びそれを用いた重金属類処理剤、並びに当該重金属類処理剤を用いた各種重金属類を含む廃棄物の無害化処理方法に関する。
硫化鉄粒子を含有する溶液には、硫化鉄粒子が水等の分散媒体中に安定に分散して沈降分離しない硫化鉄コロイド溶液や、静置しておくと硫化鉄が沈降分離する硫化鉄スラリーとがある。硫化鉄粒子が水等の分散媒に分散している硫化鉄粒子含有溶液は、重金属で汚染された土壌、焼却灰等に混合しやすく、重金属処理剤として適している。
従来、これらの硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩水溶液と、硫黄イオンを含む水溶液を混合することにより得られていたが、硫化鉄粒子が凝集したものであった。そのため、一定の流動性を維持するためには硫化鉄の濃度が高められず、その濃度は10重量%程度が限界であった。また沈降しやすい粗大粒子の生成を防ぐために原料を希釈して希薄な硫化鉄濃度となければならず、工業的な重金属処理剤としての用途には輸送コストが高くつき、硫化鉄濃度が高くなると、凝集粒子の粒度分布が広くなり、特に粗大粒子を含んだ沈降性の硫化鉄スラリーとなり不適当であった。特に後者の硫化鉄スラリーでは、攪拌しても粗大粒子が沈降し、スラリー中の硫化鉄分布を均一にすることが困難であった。その様なスラリーを重金属処理剤として用いた場合、硫化鉄の濃度分布が生じ、安定な重金属処理が困難であり、さらに粗大粒子が配管中等で目詰まりを起こすという問題があった。
これまで硫化鉄を重金属汚染物と混合し、各種重金属を不溶化(無害化)処理することは広く知られており、例えば工業用硫化鉄(ピロータイト構造)や、鉄(II)イオンを含んだ溶液と硫黄イオンを含んだ溶液から製造した硫化鉄(マキナワイト構造)を用いて水溶液中のPb、Cd、Cr、Hg、As等の有害な重金属を処理する方法が知られている。(例えば特許文献1〜3参照)しかし、ピロータイト構造の硫化鉄は重金属処理活性が低いために大量に用いる必要があり、また、マキナワイト構造の硫化鉄では腐食性や悪臭のある共存塩が大量に存在し、重金属処理剤として用いるにはまだ課題があった。ここで過剰の共存塩は濾過・洗浄により取り除けば良いが、従来の硫化鉄スラリーは濾過性が極めて悪いため、共存する塩の含有量を濾過・洗浄で調整することは困難であった。
一方、本発明者等は、鉄(II)イオンを含んだ溶液と硫黄イオンを含んだ溶液から製造したマキナワイト構造の硫化鉄の重金属処理能力を維持しつつ、耐久性を向上させる方法を報告している。(例えば特許文献4参照)マキナワイト構造の硫化鉄は重金属固定化能力が高いが、酸化され易く、粉末として取り出した場合、大気中で重金属固定能力の低い水酸化鉄と硫黄に分解するという問題があった。本発明者等はそのような酸化を防止するために、酸化防止用添加剤(例えばCa塩等)を加えることにより、高い活性を維持することを報告している。しかし、このような添加物を加えた硫化鉄でも水溶液中で硫化鉄は凝集沈殿するため、硫化鉄粒子を水媒体中で沈降しないで安定に分散した溶液として得ることは出来ていなかった。
また、従来の硫化鉄粒子含有溶液は一般に分散媒が水であり、冬季には凍結の問題があった。凍結を防ぐために、不凍成分を添加することが考えられるが、通常、不凍成分の添加は硫化鉄粒子の凝集を促進し、沈降、あるいは粘度上昇の問題を生じた。そのため、これまで知られている硫化鉄粒子含有溶液において、硫化鉄粒子濃度が高く、粗粒子を含んでおらず硫化鉄粒子が沈降しにくく、粘度が低く、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、なおかつ凍結しにくい特性を合わせもったものは知られていなかった。
本発明の目的は、高濃度で、粗大粒子を含んでおらず、粘度が低く、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、なおかつ凍結しにくい、重金属処理特性に優れた硫化鉄粒子含有溶液を提供するものである。
本発明者らは、重金属処理剤として用いる硫化鉄粒子含有溶液について鋭意検討した結果、高濃度で、粗大粒子を含んでおらず、粘度が低く、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、なおかつ凍結しにくい硫化鉄粒子含有溶液を見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、硫化鉄の濃度が1wt%以上、50wt%以下のものである。硫化鉄濃度が1wt%未満では重金属処理剤として用いる際に大量に使用する必要があり、また輸送や貯蔵のコストが多大なものとなる。硫化鉄濃度は高いほど好ましくより好ましく、5wt%以上、更に10wt%以上であることが好ましい。一方、硫化鉄濃度が高すぎた場合は、硫化鉄粒子含有溶液の粘度が上がりすぎてハンドリングが困難となるため、硫化鉄濃度の上限としては50wt%以下、より好ましくは40wt%以下、更には30wt%以下の濃度が好ましい。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、硫化鉄に対する共存塩の濃度が1wt%以上15wt%以下のものである。共存塩の濃度が1%未満の場合、冬季に凍結しやすくなり好ましくなく、高過ぎる場合は粘度が上がりやすくなり、取り扱いが困難となるだけでなく、腐食性の増加及び悪臭の原因となる。硫化鉄に対する共存塩とは、硫化鉄を晶析させる際に副生する塩や未反応の原料等のことであり、共存塩としては、例えば、硫化鉄を晶析させる際に用いる、鉄塩の鉄の対イオンと、硫黄化合物の硫黄に対する対イオンにより形成される塩で、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が例示される。さらに未反応の硫化ナトリウム等も共存塩に該当する。共存塩の含有量は通常の化学組成分析、例えばICPによる分析や、塩分計による分析によれば良い。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液中は、粗大な粒子の少ないものであり、100μm以上の粗大粒子の割合が全粒子に対して5%未満のものである。溶液中での粒子の沈降速度を求めたストークスの式によると、粒子の沈降速度は粒子径の2乗に比例する。従って、粗大な粒子が硫化鉄粒子含有溶液中に含まれていると、溶液を攪拌していても、液の上昇速度が不足した部分に粗大粒子が沈降し濃度のむらが生じる。粒子径が100μm以上の硫化鉄は沈降速度が約1cm/s以上になり、攪拌によって均一なスラリーとして保持しておくために多大な動力と攪拌設備を必要となるだけでなく、送液中の配管等で目詰まりが生じやすくなる。本発明では100μm以上の粗大粒子の割合が全粒子に対して5%未満、より好ましくは3%未満、さらに好ましくは1%未満である。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液中では硫化鉄粒子の粒度分布が重要であり、硫化鉄粒子の粒度分布が、粒子径5〜30μmにメインピークを有し、粒子径5〜30μmに占める硫化鉄粒子の割合が50%以上であることが好ましい。このような粒度分布の硫化鉄粒子含有溶液では、硫化鉄粒子含有溶液中の単位体積当たりの粒子個数が抑えられており、粘度が低く、取り扱いの良好な硫化鉄粒子含有溶液となる。メインピークの粒子径が5μm未満であった場合は粘度が上がりやすくなり好ましくなく、また、メインピークの粒子径が30μmよりも大きければ粒子が沈降しやすくなるために好ましくない。また、粒子径5〜30μmに占める粒子の割合が50%未満であれば粒度分布が広くなりすぎ、より大きな粒子が多ければ沈降しやすくなり、微粒子が多ければ粘度が上がりやすくなり好ましくない。
また、粒度分布において、さらに粒子径1〜3μmにサブピーク及び/又はショルダーピークを有し、サブピーク及び/又はショルダーピークに占める硫化鉄粒子の割合が1%以上50%以下であることが好ましい。1〜3μmの粒子径の硫化鉄粒子は共存塩のため柔らかなフロックを形成し、硫化鉄粒子含有溶液を静置保存した際にメインピークである5〜30μmの硫化鉄粒子の隙間に存在し、再分散を促進する働きを有していると推定される。
ここでいう粒子径とは硫化鉄粒子の凝集粒子径であり、例えばレーザー回折法等により測定することが出来る。
次に、本発明の硫化鉄粒子含有溶液の硫化鉄の結晶構造はマキナワイト構造であることが特に好ましい。ピロータイト構造の硫化鉄を湿式微粉砕することにより本発明の硫化鉄粒子含有溶液を調製することも不可能ではないが、粉砕に多大なコストを必要とするだけで無く、マキナワイト構造の硫化鉄の方が重金属固定能力が高いため、本発明の目的である重金属処理剤としての用途に特に適している。
共存塩の濃度は、硫化鉄粒子含有溶液の導電率と相関し、本発明の硫化鉄粒子含有溶液の導電率は10mS/cmよりも大きく200mS以下であることが好ましい。導電率が10mS/cm以下の場合、冬季に凍結しやすくなり、導電率が200mS/cmよりも大きい場合、粘度が上がりやすくなり、取り扱いが困難となるだけでなく、腐食性の増加及び悪臭の原因となる。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、上記の物性を有することにより、凍結温度が−10℃未満で、特に冬季、寒冷地での使用において適したものである。
次に本発明の硫化鉄の製造方法について詳細に説明する。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを一定のpH範囲を保つように混合して硫化鉄を含むスラリーとし、当該スラリーを濾過後、硫化鉄ケーキを解砕することにより製造することができる。
本発明の方法で用いる2価の鉄塩、水溶性の2価の鉄塩であれば特に限定されず、具体的には塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)酢酸鉄(II)等を例示することができる。この中で、塩化鉄(II)は溶解度が高いため高濃度の溶液とすることができ、また、工業的にも入手が容易で、安価なために好ましい。また、鉄屑等を塩酸で溶解した溶液や、鉄板を塩酸で洗浄した後の廃液等も好ましく用いることができる。
2価の鉄塩水溶液の濃度は特に限定されないが、濃度が薄すぎると得られる硫化鉄スラリー中の硫化鉄濃度が低下し、一定量の硫化鉄を得るためには大量のスラリー処理が必要であり、濾過に長時間を必要とし、生産性が低下する。一方、濃度が濃すぎると、共存塩の析出量が多くなり、また硫化鉄スラリーの粘度が高くなり濾過が困難となる。そのため、2価の鉄塩の濃度としては、鉄換算で1〜25wt%、より好ましくは3〜20wt%の範囲を用いることが好ましい。
本発明の方法で用いる硫黄イオンを含む溶液は、硫黄イオンを含むものであれば特に限定されず、アルカリ金属塩の硫化物や水硫化物、アンモニウム塩の硫化物や水硫化物、アルカリ土類金属の硫化物や水硫化物を水に溶解したものが例示できる。中でも硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムが、工業的に入手が容易で安価なために特に好ましい。また、石油の脱硫工程で得られる硫化水素を水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に吸収させた溶液も用いることができる。
硫黄イオンを含む溶液の濃度も特に限定されないが、2価の鉄塩の濃度と同様の理由により、硫黄イオンの濃度としては、硫黄換算で1〜15wt%、より好ましくは2〜10wt%の範囲を用いることが好ましい。
2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液との混合割合は特に限定されないが、硫黄イオンが過剰の場合、原料コストが高くなるだけでなく、未反応の硫黄イオンが母液中に残存して問題がある。一方、硫黄イオンが少ない場合は過剰の鉄分が水酸化鉄として沈澱し、濾過性の低下や最終的に選られる硫化鉄粒子含有溶液の安定性の低下の問題がある。そのため鉄と硫黄の原子比は、1:0.7〜1:1.5、より好ましくは1:0.8〜1:1.3、更に好ましくは1:0.9〜1:1.1、の範囲になるように混合することが好ましい。
次に本発明では2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液を混合した反応させる際に一定のpH範囲を保つようにして析出硫化鉄粒子の凝集状態を制御した硫化鉄スラリーとする。この場合のpH範囲は7以上12以下、より好ましくは8以上11以下、更に好ましくは9以上10以下の範囲とすることが好ましい。pHの変動範囲は±1.0、より好ましくは±0.5の範囲に制御することが好ましい。
pH範囲を一定にする混合方法としては、例えばpHを調整する成分を半回分法または連続添加法で添加する方法を用いることができ、特に連続添加法が好ましい。例えば原料の2価鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを同時に反応器に添加し、生成する硫化鉄スラリーをオーバーフロー口あるいはポンプで一定速度で取り出す方法において、反応槽内部のpHが一定となるように酸あるいはアルカリを別途添加する方法や、前もって原料の2価の鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液のどちらかに酸あるいはアルカリを加えておきどちらかの溶液の添加速度を反応槽内部のpH範囲が一定となるようにする方法を例示することができる。
混合時の温度は特に限定されず、例えば10〜90℃の温度を例示することができる。また、混合時には撹拌し、硫化鉄スラリーの滞留が生じないような撹拌強度とすることが好ましい。
混合速度も特に限定されないが、混合が遅いと生産性が低下し、速すぎるとpH調整が困難となるだけでなく局部的な滞留や粘度の上昇が起きる可能性がある。例えば半回分式の場合反応時間が10〜240分の添加速度、また連続法では原料の添加速度を平均滞留時間が10〜240分、より好ましくは15〜120分が例示できる。
以上の方法により得られる硫化鉄スラリーは、5〜10nmの微細な結晶子径からなる硫化鉄が均一に凝集し、5〜30μmにピークをもつ極めて粒度分布の狭い凝集粒子径を持ったスラリーとなる。このような硫化鉄スラリーは、従来の方法によって得られる粒度分布の広いスラリーに比べて濾過性が高く、濾過・洗浄によって余分な共存塩の除去が極めて容易であるばかりでなく、これを原料に硫化鉄粒子含有溶液を調製した場合、その特異な粒度分布のために、粗大な粒子が少なく、粘度が低く取り扱いの容易な硫化鉄粒子含有溶液を調製することが可能となる。
硫化鉄を合成した場合必ず共存塩が生成し、例えば塩化鉄と硫化ナトリウムを反応させて硫化鉄を調製した場合は、理論的には重量比にして1.3倍の塩化ナトリウムが生成する。過剰の塩化ナトリウムは硫化鉄粒子含有溶液の物性に悪影響を与えるため、得られた硫化鉄スラリーを濾過して余分な共存塩及び未反応原料を母液とともに除去し、硫化鉄濾過ケーキとする。濾過の方法は特に限定されないが、例えばヌッチェを用いた減圧濾過法や、より工業的にはフィルタープレスやベルトフィルター等が例示できる。また、共存塩量をさらに下げる場合は、硫化鉄濾過ケーキに対して、さらに洗浄操作を行ってもよい。
本発明では濾過後の硫化鉄ケーキを解砕して硫化鉄粒子含有溶液とする。解砕時には必要に応じて水を加えてもよく、また、新たに塩を添加してもよい。解砕処理方法は特に限定されず、例えばリパルプ槽での機械的分散処理、超音波分散、湿式粉砕機による分散処理等を例示することができる。また、微小セラミックビーズ又は微小ガラスビーズを用いた媒体攪拌型粉砕機による解砕処理も用いることができる。
解砕操作によって5〜30μmにピークを持つ凝集粒子が分散し、粒子径1μm〜3μmにピークを持つより小さな凝集粒子が生成する。本発明の硫化鉄粒子含有溶液を調製する場合、過度の解砕操作は好ましくなく、粒子径5μm以上30μm以下の硫化鉄粒子の割合が50%以上残存するように解砕操作を行うことが好ましい。解砕を行いすぎ、粒子径5μm以上30μm以下の粒子の割合が50%未満となると、スラリーの粘度が上昇しやすくなり好ましくない。また、1〜3μmにピークを持つより小さな凝集粒子の割合としては、1%以上50%以下であればよく、好ましくは3%以上40%以下、より好ましくは5%以上40%以下の量を例示できる。
本発明では上記したいずれかの工程で、必要によっては、さらに塩の添加を行う。塩は合成スラリーに加えても良く、濾過後のケーキに加えても良く、また、解砕後の硫化鉄粒子含有溶液に加えても良い。塩の添加は最終的な硫化鉄粒子含有溶液の共存塩濃度が1wt%以上15wt%以下、導電率で10mS/cmよりも大きく200mS/cm以下となるように行い、濾過洗浄時に、副生した塩の一部を残存するように操作した場合は省略が可能である。添加する塩の種類としては水溶性で凍結防止作用があれば特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、等を例示することができる。
次に本発明の硫化鉄粒子含有溶液を用いた重金属処理について説明する。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、重金属処理剤として用いることができる。本発明の硫化鉄粒子含有溶液を含んでなる重金属処理剤(以下、「本発明の重金属処理剤」と表記)は、種々の有害な重金属の固定化(不溶化)に効果があり、特にCr、Hg、As、Seの処理に対して有効である。重金属をそれぞれ単独に処理するだけでなく、これらが複数含まれたものを処理することも可能である。
本発明の重金属処理剤は、単独で使用するだけでなく、PbやCdと反応する有機キレート剤と混合して使用してもよい。中でもPb、CrおよびAsで複合汚染されたような廃棄物に対しては、本発明の重金属処理剤と有機キレート剤を用いて無害化処理することが効果的である。
本発明の重金属類処理剤で処理する対象物としては、重金属を含んだごみ焼却灰や飛灰が例示できる。ごみ焼却灰や飛灰中には、各種ごみに含まれていた重金属類が濃縮されており、無害化処理(重金属の不溶化処理)が必要である。飛灰や溶融飛灰は焼却炉の構造や運転方法の違いにより、アルカリ性飛灰、中性飛灰、アルカリ性溶融飛灰、中性溶融飛灰等の種類があり、また、焼却するごみの種類によって含まれる重金属類の種類と含有量は大きく異なるが、本発明の重金属類処理剤はどのような灰にも用いることができる。
本発明の重金属処理剤の添加量は、ごみ焼却灰や飛灰に含まれる重金属類の種類と総量により異なるため一概に規定できないが、通常はごみ焼却灰や飛灰の量に対して、0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%が例示できる。さらに、予めごみ焼却灰や飛灰をサンプリングしてラボテストで添加量を求め、ごみ焼却灰や飛灰に含まれる重金属類の量の変動を考慮して最適添加量を求めておくことが好ましい。ここで、本発明の重金属処理剤を過剰添加しても、水銀(Hg)が多硫化物となり可溶性となるようなことはない。
本発明の重金属処理剤への水の添加量はごみ焼却灰や飛灰の性質により異なるが、通常、ごみ焼却灰や飛灰の量に対して、10〜40wt%を例示することができる。混練の方法、時間は特に限定されず従来から知られている条件でよい。
本発明の重金属処理剤は、重金属類を含んだ土壌の処理にも有効である。重金属類を含んだ土壌に対して、本発明の重金属処理剤及び、必要に応じて水を添加し、混練して用いることができる。
土壌に対する本発明の重金属処理剤の添加量も、土壌に含まれる重金属類の総量により異なるため一概に規定できないが、例えば処理すべき土壌の量に対して0.1〜20wt%を例示することができる。さらに、予め土壌をサンプリングしてラボテストで最小添加量を求め、安全を見込んで若干過剰となる量を添加することが好ましい。土壌に含まれる水分が少ない場合は、土壌の種類によっても異なるが、必要に応じて水を添加し、土壌に含まれる水分の量が通常10〜60wt%となるようにすることが好ましい。混練の方法、時間は特に限定されず従来から知られている方法を用いることができる。
本発明の重金属処理剤は、重金属類を含んだ排水の処理にも適用可能である。排水に対する重金属処理剤の添加量も、排水に含まれる重金属類の総量により異なるため一概に規定できないが、予め排水をサンプリングしてラボテストで最小添加量を求め、安全を見込んで若干過剰量を添加することが好ましい。この時に、排水のpHが低いと硫化鉄が分解し硫化水素の生成の可能性があるため、排水のpHを前もって調整しておくことが好ましく、その場合には排水のpHは3.0以上、より好ましくは6.0以上となるようにすることが好ましい。混合の方法、時間は特に限定されず従来から知られている方法を用いることができる。また、通常、凝集沈澱処理の際に使用される無機系凝集沈澱剤、例えば塩化第2鉄、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド等を併用し、あるいは凝集速度を速める高分子凝集剤等を併用することも可能である。
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、粗大な粒子径の凝集粒子が少なく、粘度が低く取り扱いやすく、長期保存後に沈降しても容易に再分散でき、また冬季、寒冷地における使用において凍結の問題がない。そのため焼却灰、土壌、排水等の重金属処理(不溶化処理)における操作性に優れ、また重金属の処理能力が高い。
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
実効内容積750mLで上部にオーバーフロー口を有したステンレス製連続反応容器を50℃に保ち、攪拌しながら塩化鉄(II)水溶液(35.0wt%)を600g/hで、水硫化ナトリウム水溶液(10.0wt%)を880g/hで連続的に添加するとともに、反応槽のスラリーpHが9.5±0.5を保つように水酸化ナトリウム水溶液(48.0wt%)を流量制御しながら連続的に添加し、生成したマキナワイト構造の硫化鉄スラリーをオーバーフロー口より回収した。
実効内容積750mLで上部にオーバーフロー口を有したステンレス製連続反応容器を50℃に保ち、攪拌しながら塩化鉄(II)水溶液(35.0wt%)を600g/hで、水硫化ナトリウム水溶液(10.0wt%)を880g/hで連続的に添加するとともに、反応槽のスラリーpHが9.5±0.5を保つように水酸化ナトリウム水溶液(48.0wt%)を流量制御しながら連続的に添加し、生成したマキナワイト構造の硫化鉄スラリーをオーバーフロー口より回収した。
得られた硫化鉄スラリーは、硫化鉄9.5wt%、塩化ナトリウム12.7wt%を含み、また、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布は18μmにピークをもつ極めてそろった凝集粒子であり、100μm以上の凝集粒子を全く含んでいなかった。得られた硫化鉄スラリーの粒度分布を図1に示した。
次に、得られたスラリーをヌッチェで濾過し、塩化ナトリウムを含んだ母液を除去した。濾過後の硫化鉄ケーキをポリエチレン製容器に入れ、水を加えて攪拌リパルプした後、さらにラボ用ホモジナイザを用いて1分間解砕処理を行い、硫化鉄粒子含有溶液を得た。
得られた硫化鉄粒子含有溶液の物性を測定した結果、硫化鉄濃度が15wt%、塩化ナトリウム濃度が6.4wt%、レーザー回折法で測定した硫化鉄の粒度分布は17μmにピークを持ち、1.2μmにショルダーピークをもつ分布であった。このときの、硫化鉄粒子含有溶液の粒度分布を図2に示した。また、簡易導電率計で測定した導電率は104mS/cmであり、B型粘度計で測定した調整直後の粘度は510mPa・Sで、流動性は良好であった。
この硫化鉄粒子分散溶液を1週間静置保存すると沈降が生じ、上部より容器の高さの1割程度透明な層が観察された。沈降部分の状態を観察したが、きわめて柔らかな沈降物であり、攪拌羽根で攪拌すると1分以内に均一な分散溶液となり、この時の粘度は520mPa・Sであり良好な流動性であった。
また、得られた硫化鉄粒子含有溶液を、−10℃で5時間保存したが、凍結および粘度上昇は観察されなかった。
比較例1
2Lのガラス製反応容器に水硫化ナトリウム水溶液1.6mol、水酸化ナトリウム1.76mol、水770gを入れ、攪拌溶解した。この溶液を攪拌しながら、35wt%塩化鉄(II)水溶液1.6molを30分かけて特にpH制御せずに添加し、得られたマキナワイト構造の硫化鉄を含む溶液をそのままで硫化鉄粒子含有溶液とした。反応におけるスラリーのpH変化は、初期pH14であったが、反応終期にはpH9まで変化した。
2Lのガラス製反応容器に水硫化ナトリウム水溶液1.6mol、水酸化ナトリウム1.76mol、水770gを入れ、攪拌溶解した。この溶液を攪拌しながら、35wt%塩化鉄(II)水溶液1.6molを30分かけて特にpH制御せずに添加し、得られたマキナワイト構造の硫化鉄を含む溶液をそのままで硫化鉄粒子含有溶液とした。反応におけるスラリーのpH変化は、初期pH14であったが、反応終期にはpH9まで変化した。
得られた硫化鉄スラリーは、硫化鉄9wt%、塩化ナトリウム11.7wt%を含み、また、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布は、平均粒子径91μmの極めてブロードな凝集粒子であり、100μm以上の凝集粒子の占める割合は30%であった。得られた硫化鉄スラリーの粒度分布を図3に示した。
次に、上記スラリーをそのままラボ用ホモジナイザを用いて1分間解砕処理を行い、硫化鉄粒子含有溶液とした。得られた硫化鉄粒子含有溶液の物性を測定した結果、硫化鉄の粒度分布は平均粒子径72μmの極めてブロードな凝集粒子で、100μm以上の凝集粒子の占める割合は25%であった。このときの、硫化鉄粒子含有溶液の粒度分布を図4に示した。また、簡易導電率計で測定した導電率は160mS/cmであり、B型粘度計で測定した調整直後の粘度は550mPa・Sで、実施例1で得られた硫化鉄粒子含有溶液よりも硫化鉄濃度が低いにもかかわらず高粘度であった。また、この硫化鉄粒子含有溶液を1日放置すると、沈降が生じ上部に透明な水の層が生成した。実施例1と同一条件で攪拌して硫化鉄粒子含有溶液の均一化を図ったが、底部に硫化鉄の沈殿が残存し、再分散しなかった。また、得られた硫化鉄粒子含有溶液を、−10℃で5時間保存したが、凍結は観察されなかった。
比較例2
比較例1の硫化鉄スラリーをヌッチェで濾過・洗浄した。洗浄途中より濾紙が目詰まりを生じろ過が不能であった。洗浄を中断した硫化鉄スラリーに水を加えて分散処理を試みたが、クリーム状となり分散処理できなかった。
比較例1の硫化鉄スラリーをヌッチェで濾過・洗浄した。洗浄途中より濾紙が目詰まりを生じろ過が不能であった。洗浄を中断した硫化鉄スラリーに水を加えて分散処理を試みたが、クリーム状となり分散処理できなかった。
比較例3
原料水溶液の濃度を比較例1の100分の1にした他は、比較例1と同様の操作を行った。
原料水溶液の濃度を比較例1の100分の1にした他は、比較例1と同様の操作を行った。
得られた硫化鉄含有溶液はコロイド状態であり、物性を測定した結果、硫化鉄の平均粒子径は2.5μm、導電率は1.72mS/cm、硫化鉄濃度は約0.1wt%であった。また、調製直後の粘度は1mPa・Sであった。また、希薄な硫化鉄含有溶液は硫化鉄含有量が極めて低いため重金属処理剤としての特性が低かった。
実施例2
六価クロムを含有したアルカリ性飛灰を用い、実施例1及び比較例1、2の硫化鉄含有溶液を用いて重金属類の処理特性の検討を行なった。アルカリ性飛灰100重量部に対し、硫化鉄粒子含有溶液を加え、さらに水を水+処理剤40重量部となるように加えた後、混練し重金属処理を行なった。処理飛灰に対し、環境庁(現在環境省)告示第13号溶出試験(1973年)を行なった。溶出液中に含まれる六価Crをジフェニルカルバジド法で、トータルCrをICP発行分析法で測定しその結果を表1に示した。
六価クロムを含有したアルカリ性飛灰を用い、実施例1及び比較例1、2の硫化鉄含有溶液を用いて重金属類の処理特性の検討を行なった。アルカリ性飛灰100重量部に対し、硫化鉄粒子含有溶液を加え、さらに水を水+処理剤40重量部となるように加えた後、混練し重金属処理を行なった。処理飛灰に対し、環境庁(現在環境省)告示第13号溶出試験(1973年)を行なった。溶出液中に含まれる六価Crをジフェニルカルバジド法で、トータルCrをICP発行分析法で測定しその結果を表1に示した。
表1の結果より明らかなように、本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、従来の粒子含有溶液と比較し、硫化鉄含有量が高いため、より少ない添加量でCrの処理が可能であった。
実施例3
水銀1ppmを含む溶液、六価のクロム10ppmを含む溶液、三価の砒素10ppmを含む溶液、四価のセレン10ppmを含む溶液の4種類のモデル排水に対し、実施例1で調製した硫化鉄粒子含有溶液を0.2重量部添加し、硫化鉄による重金属類の処理特性を行なった。モデル排水に硫化鉄を加えた後、30分混合し、ガラス濾紙(アドバンテック東洋製GS−25)で濾過後、濾液中に含まれている各成分の量を測定した。その結果を表2に示した。
水銀1ppmを含む溶液、六価のクロム10ppmを含む溶液、三価の砒素10ppmを含む溶液、四価のセレン10ppmを含む溶液の4種類のモデル排水に対し、実施例1で調製した硫化鉄粒子含有溶液を0.2重量部添加し、硫化鉄による重金属類の処理特性を行なった。モデル排水に硫化鉄を加えた後、30分混合し、ガラス濾紙(アドバンテック東洋製GS−25)で濾過後、濾液中に含まれている各成分の量を測定した。その結果を表2に示した。
表2の結果から明らかなように、本発明における硫化鉄粒子含有溶液を添加することにより重金属類の含有量は大きく削減され、水銀、六価クロム、砒素、セレンを排水基準以下まで処理可能であった。
Claims (12)
- 硫化鉄濃度が1wt%以上50wt%以下であり、100μm以上の粗大粒子の割合が全粒子に対して5%未満であり、かつ共存塩濃度が1wt%以上15wt%以下である硫化鉄粒子含有溶液。
- 硫化鉄粒子の粒度分布において、粒子径5〜30μmにメインピークを有し、粒子径5〜30μmに占める硫化鉄粒子の割合が50%以上である請求項1に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
- 硫化鉄粒子の粒度分布において、さらに、粒子径1〜3μmにサブピーク及び/又はショルダーピークを有し、サブピーク及び/又はショルダーピークに占める硫化鉄粒子の割合が1%以上50%以下である請求項1〜2に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
- 硫化鉄の結晶構造がマキナワイト構造である請求項1〜3に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
- 導電率が10mS/cmよりも大きく200mS/cm以下である請求項1〜4に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
- 凍結温度が−10℃以下であることを特徴とする請求項1〜5に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
- 2価の鉄塩水溶液と硫黄イオン含有水溶液とを一定範囲のpHに保って混合し、硫化鉄粒子を晶析させ、濾過、解砕を行う請求項1〜6に記載の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法。
- 2価の鉄塩水溶液と硫黄イオン含有水溶液の混合時のpHが7以上12以下の範囲で一定に制御された請求項7に記載の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法。
- 工程のいずれかの段階でさらに塩の添加を行うことを特徴とする請求項7〜8の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の硫化鉄粒子含有溶液を含んでなる重金属処理剤。
- 重金属が、Cr、Hg、As、Seの群より選択される少なくとも1種以上である請求項10に記載の重金属処理剤。
- 請求項10〜11に記載の重金属処理剤をごみ焼却灰、飛灰、重金属含有土壌及び重金属含有排水のいずれか1種以上に添加、混練することを特徴とする重金属固定化処理方法。
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