JP2007056785A - 内燃機関の運転制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 エンジンの高出力化を図りながらも、燃焼圧力によるシリンダボア内壁の変形を防止することができる内燃機関の運転制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジン2の冷却水通路1bを流れる冷却水温度の降下速度が所定値よりも高い場合に、燃料噴射タイミングを基本燃料噴射タイミングよりも遅角させて、膨張行程時における気筒内圧力を降下させ、シリンダボア内壁に作用する応力を低下させる。また、燃料噴射タイミングの遅角制御の実行中に、冷却水温度の降下速度が所定値よりも低くなった際、この状況が所定時間継続された後に燃料噴射タイミングを基本燃料噴射タイミングに戻す。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車用エンジン等に代表される内燃機関の運転制御装置に係る。特に、本発明は、シリンダボア内壁(気筒内壁)に作用する燃焼圧力によるシリンダボア内壁の変形を防止するための対策に関する。
一般に、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関では、図2(シリンダブロック1とシリンダヘッド5との締結部分を破断した気筒列方向から見たエンジンの側面図)に示すように、シリンダブロック1の上面に、ガスケット7を介してシリンダヘッド5が複数のヘッドボルト9,9により締結されている。つまり、ヘッドボルト9の締結力によってシリンダブロック1とシリンダヘッド5とは強固に締結されて一体化され、シリンダブロック1に形成されている複数のシリンダボア1a(図2では一つのみを示している)の上部をシリンダヘッド5によって閉塞して各気筒を構成している(例えば下記の特許文献1及び特許文献2を参照)。
また、シリンダブロック1には、冷却水通路1bとなる凹部がシリンダボア1aの外周囲を囲むように形成されており、図2に示すような冷却水通路1bが上方に開放された所謂オープンデッキタイプのシリンダブロック1では、このシリンダブロック1の上面にシリンダヘッド5が締結されることで冷却水通路(ウォータジャケット)1bが形成されている。
また、このようなシリンダブロック1にあっては、各気筒に対する冷却性能を高く得るために(筒内の燃焼熱を効果的に回収するために)、冷却水通路1bはシリンダボア1aに近接した位置に形成されており、それに伴い、ヘッドボルト9を挿入するためのボルト孔1cは冷却水通路1bの外側に形成されている。
尚、以下の説明では、シリンダブロック1のうち、シリンダボア1aと冷却水通路1bとの間の隔壁部分をシリンダボア内壁Aと呼び、冷却水通路1bよりも外側の部分(上記ボルト孔1cが形成される部分)をブロック外壁Bと呼ぶこととする。
特開2002−188506号公報 特開2005−113856号公報
内燃機関の運転時にあっては、各気筒の膨張行程時に筒内圧力が急激に高くなり、シリンダボア1aには外周側に向かう大きな応力(ボア径を拡大する方向の応力)が作用することになる。特に、高圧縮比で運転されるディーゼルエンジンにあっては筒内圧力は非常に高くなっている。
上述したオープンデッキタイプのシリンダブロック1を備えたエンジンにあっては、冷却水通路1bよりもシリンダ側(シリンダボア1a側)は、ヘッドボルト9による締結は行われていないため、膨張行程時にはこの部分が外周側に撓み、それ以外の行程ではその反動で内周側に撓むといった現象が生じる可能性がある(図中の矢印参照)。以下、この撓み現象の発生原理について説明する。
シリンダブロック1の全体が略均一な温度である場合には、シリンダブロック1全体の膨張割合(熱膨張量)も略均一であるため、ヘッドボルト9の締結力はシリンダボア内壁
Aにも十分に及んでおり、シリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との間の接触力も十分に確保されているため上記撓み現象は生じ難い。ところが、シリンダブロック1の外周側(上記ブロック外壁B)が高温であるのに対し、内周側(上記シリンダボア内壁A)がそれに比べて低温である状況では、ブロック外壁Bに比べてシリンダボア内壁Aが収縮して(熱膨張量が小さくなって)おり、このシリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との間の接触力が低くなり、その分、ヘッドボルト9の締結力がシリンダボア内壁Aに及び難い状況を招いてしまう。言い換えると、ヘッドボルト9の締結力を高くしても、シリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との間の接触力が十分に得られない状況となる。このため、このような状況では、膨張行程時にシリンダボア内壁Aに上記撓み現象が発生してしまう可能性がある。
このような撓み現象の発生は、エンジンの高負荷運転状態(例えば自動車の登坂走行時)から低負荷運転状態(例えば自動車の降坂走行時)に移った場合に生じやすい。その理由は、上述した如く、冷却水通路1bは、筒内の燃焼熱を効果的に回収するためにシリンダボア1aに近接した位置に形成されているため、ブロック外壁Bに対する冷却効果よりもシリンダボア内壁Aに対する冷却効果の方が高くなっている。そして、高負荷運転状態では、筒内の燃焼温度が高く、それに伴いシリンダボア内壁Aの温度はブロック外壁Bの温度よりも大幅に高くなっている。この状態で冷却水通路1bを流れる冷却水によって冷却を行うため、冷却効果の高いシリンダボア内壁Aに対しては効果的に冷却が行われ、その結果、シリンダボア内壁Aの温度とブロック外壁Bの温度との間には大きな差が生じない。つまり、シリンダボア内壁Aとブロック外壁Bとの熱膨張量に大きな差が生じないため、シリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との間の接触力を高く維持できることになる。
そして、このような高負荷運転状態から低負荷運転状態に移った場合、筒内の燃焼温度が低くなり、シリンダボア内壁Aへの流入熱量が小さくなる。このため、冷却効果の高いシリンダボア内壁Aに対する冷却が進んだ場合に、シリンダボア内壁Aの温度がブロック外壁Bの温度に比べて低くなる。つまり、シリンダボア内壁Aとブロック外壁Bとの熱膨張量に差が生じ、シリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との間の接触力が低くなって、その分、ヘッドボルト9の締結力がシリンダボア内壁Aに及び難い状況を招くことになる。このため、膨張行程時にシリンダボア内壁Aに上記撓み現象が発生してしまうことになる。
このような撓み現象が頻繁に発生する状況では、冷却水漏れの発生、ブローバイガスの増大、シリンダボア1aの真円度の悪化を招いてしまう虞がある。
これらの不具合を回避するために、筒内圧力が常時低くなるようにエンジンを設計(例えば圧縮比を低く設計したり、燃料噴射量を少なく設計する)ことが考えられるが、これでは、エンジンの高出力化を図ることができなくなってしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの高出力化を図りながらも、燃焼圧力によるシリンダボア内壁の変形を防止することができる内燃機関の運転制御装置を提供することにある。
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決手段は、シリンダボア内壁の温度がブロック外壁の温度に比べて降下することと、内燃機関の冷却水温度の降下速度とに相関があることに着目し、この冷却水温度の降下速度が高くなっている状況においてのみ筒内圧力を低下させる制御に移行し、シリンダボア内壁に作用する応力を抑制するようにし
ている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、シリンダボアの外周囲を囲むように形成された冷却水通路を流れる冷却水により、気筒内の燃焼熱を回収するようにした内燃機関の運転制御装置を前提とする。この内燃機関の運転制御装置に対し、冷却水温度の単位時間あたりの降下温度を算出する冷却水温度降下速度算出手段と、この冷却水温度降下速度算出手段によって算出された冷却水温度の単位時間あたりの降下温度が所定の急冷判定値よりも大きいときには、膨張行程時における気筒内圧力を降下させる燃焼圧降下制御を実行する筒内圧力降下手段とを備えさせている。
この特定事項により、例えば内燃機関の高負荷運転から低負荷運転に移った場合、筒内の燃焼温度が低くなることに伴い、冷却水通路の内側の領域であるシリンダボア内壁の温度が、冷却水通路の外側の領域であるブロック外壁の温度に比べて降下することになる。また、この場合には、筒内の燃焼温度が低くなっているため、冷却水により回収される熱量も少なく、冷却水温度は急激に降下していく。このため、この冷却水温度の単位時間あたりの降下温度を冷却水温度降下速度算出手段によって算出しておき、この降下温度が所定値(上記撓み現象が発生する可能性のある降下温度:急冷判定値)よりも大きいとき、つまり、冷却水温度の急降下時には、シリンダボア内壁の熱収縮量がブロック外壁の熱収縮量よりも大きくなってシリンダボア内壁に燃焼圧の影響による撓みが生じる可能性があると判断し、膨張行程時における気筒内圧力を降下させる燃焼圧降下制御を実行させる。この燃焼圧降下制御の実行によりシリンダボア内壁に作用する応力が低下し、シリンダボア内壁の撓みは抑制されることになる。このように、本解決手段では、シリンダボア内壁に撓みが生じない運転状態にあっては、膨張行程時の燃焼圧が高くなることを許容して内燃機関の高出力化を図る一方、シリンダボア内壁に撓みが生じる可能性のある運転状態となった際には、膨張行程時の燃焼圧を低く設定する制御を行うことでシリンダボア内壁の撓みを抑制することができる。
また、上記燃焼圧降下制御を解除するための構成として具体的には以下のものが挙げられる。つまり、燃焼圧降下制御の実行中に、冷却水温度の単位時間あたりの降下温度が急冷判定値以下になった際、この状況が所定時間継続された後に燃焼圧降下制御を解除する構成としている。
これは、冷却水温度の単位時間あたりの降下温度が急冷判定値以下になった際に直ちに燃焼圧降下制御を解除してしまうと、未だ、シリンダボア内壁の熱膨張量がブロック外壁の熱膨張量に近付いていない可能性があり、シリンダボア内壁に撓みが発生する可能性が残っていることを考慮したものである。つまり、この両者の熱膨張量が略一致するまでの間、燃焼圧降下制御を継続することにより、シリンダボア内壁の撓みの発生を確実に回避できるようにしたものである。
上記筒内圧力降下手段により実行される燃焼圧降下制御として具体的には以下のものが挙げられる。先ず、内燃機関がディーゼルエンジンである場合に、燃焼室内に噴射される燃料の噴射タイミングを遅角させる制御である。また、内燃機関がガソリンエンジンである場合に、点火栓の点火タイミングを遅角させる制御である。また、過給圧力を可変とするアクチュエータを有する過給圧可変型過給機を内燃機関に備えさせた場合に、過給圧可変型過給機の過給圧力を低下させるようにアクチュエータを制御するものである。更に、吸気系に備えられたスロットルバルブのバルブ開度を閉方向に移行させるものである。
これらの各燃焼圧降下制御は、何れか一つを選択的に実施するようにしてもよいし、複数の燃焼圧降下制御を並行させるようにしてもよい。
本発明では、内燃機関の冷却水通路を流れる冷却水温度の降下速度が所定値よりも高い場合に、燃料噴射タイミングの遅角(ディーゼルエンジンの場合)、点火栓の点火タイミングの遅角(ガソリンエンジンの場合)等といった燃焼圧降下制御を実行することにより、膨張行程時における気筒内圧力を降下させてシリンダボア内壁に作用する応力を低下させるようにしている。つまり、燃焼圧力によるシリンダボア内壁の撓みが発生しない状況での内燃機関の高出力化を図りながらも、シリンダボア内壁の撓みが発生する可能性のある状況ではこの撓みを抑制することができ、内燃機関の高性能化と高い信頼性とを両立することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば4気筒)ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成説明−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン2及びその制御系統の概略構成図である。
このエンジン2におけるシリンダ2aとピストン2cとの間で形成される燃焼室3には、吸気系として、吸気バルブ4aを介して吸気通路4が接続されている。この吸気通路4には、上流側より、吸入空気を濾過するエアクリーナ6、吸入空気量GNを検出するための吸入空気量センサ8、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ10、燃焼室3内に導入される吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ14がそれぞれ設けられている。
スロットルバルブ14は駆動機構16によって開閉駆動される。この駆動機構16は、ステップモータ18及びこのステップモータ18とスロットルバルブ14とを駆動連結するギア群を備えて構成されている。尚、ステップモータ18は、エンジン2の各種制御を行うための電子制御装置(以下「ECU」という)20によって駆動制御される。また駆動機構16には、スロットルバルブ14が全開位置となることでオン状態となる全開スイッチ22が設けられている。
一方、上記燃焼室3には、排気系として、排気バルブ24aを介して排気通路24が接続されている。この排気通路24からはEGR(排気再循環)通路26が分岐している。このEGR通路26は、吸気通路4におけるスロットルバルブ14の下流側に接続されている。EGR通路26には、ECU20によって制御されるアクチュエータ28により開閉駆動されるEGRバルブ30が設けられている。上記スロットルバルブ14によって吸入空気量を、また、このEGRバルブ30によってEGR量をそれぞれ調整することで、燃焼室3内に導入される吸入空気量とEGR量との割合を自在に設定することが可能となる。このことによりエンジン2の全運転領域にわたって適切な吸入空気量及びEGR量の制御が行えるようになっている。
エンジン2には、複数の気筒(本実施形態のものは4気筒であるが、1気筒のみ図示している)♯1,#2,#3,♯4が設けられており、各気筒♯1〜♯4の燃焼室3に対してインジェクタ32がそれぞれ配設されている。インジェクタ32からエンジン2の各気筒♯1〜♯4への燃料噴射は、噴射制御用電磁弁32aのオン・オフにより制御される。
上記インジェクタ32は、各気筒共通の蓄圧配管としてのコモンレール34に接続されており、上記噴射制御用電磁弁32aが開いている間、コモンレール34内の燃料がインジェクタ32より燃焼室3内へ噴射されるようになっている。上記コモンレール34には、燃料噴射圧に相当する比較的高い圧力が蓄積されている。この蓄圧を実現するために、コモンレール34は、供給配管35を介してサプライポンプ36の吐出ポート36aに接続されている。また、供給配管35の途中には、逆止弁37が設けられている。この逆止弁37の存在により、サプライポンプ36からコモンレール34への燃料の供給が許容され、且つ、コモンレール34からサプライポンプ36への燃料の逆流が規制されている。
上記サプライポンプ36は、吸入ポート36bを介して燃料タンク38に接続されており、その途中にはフィルタ39が設けられている。サプライポンプ36は、燃料タンク38からフィルタ39を介して燃料を吸入する。また、これとともに、サプライポンプ36は、エンジン2の出力軸であるクランク軸からの回転駆動力を受けてプランジャを往復運動させ、燃料圧力を要求される圧力にまで高め、高圧燃料をコモンレール34に供給している。
更に、サプライポンプ36の吐出ポート36a近傍には、圧力制御弁40が設けられている。この圧力制御弁40は、吐出ポート36aからコモンレール34へ吐出される燃料圧力(すなわち噴射圧力)を制御するためのものである。この圧力制御弁40が開かれることにより、吐出ポート36aから吐出されない分の余剰燃料が、サプライポンプ36に設けられたリターンポート36cからリターン配管41を経て燃料タンク38へと戻されるようになっている。
エンジン2の燃焼室3には、グロープラグ42が配設されている。このグロープラグ42は、エンジン2の始動直前にグローリレー42aに電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置である。
尚、エンジン2のクランク軸には、このクランク軸の回転に同期して回転するロータが設けられ、このロータの外周面に形成された凸部を検出してその回転速度に対応したパルス信号を出力する電磁ピックアップからなる回転数センサ44が設けられている。この回転数センサ44の出力は、エンジン2の回転数の算出に寄与する信号としてECU20に取り込まれる。
その他、ECU20には、上述した吸入空気量センサ8によって検出される吸入空気量情報や吸気温センサ10によって検出される吸気温度情報をはじめ、アクセル開度センサ46によって検出されるアクセル開度情報(アクセルペダルの踏み込み量情報)やIG(イグニッション)スイッチ48のオン・オフ情報、スタータスイッチ50のオン・オフ情報、シリンダブロック1に設けられた冷却水温センサ52によって検出される冷却水温度情報、トランスミッションに設けられたシフトポジションセンサ54によって検出されるシフトポジション情報及び車速センサ56の信号により検出されている車速情報、リターン配管41に設けられた燃温センサ58により検出される燃料温度情報、コモンレール34に設けられた燃圧センサ60により検出される燃料の圧力(噴射圧力PC)情報等の情報も併せて取り込まれるようになっている。
−燃料噴射タイミング制御−
本実施形態の特徴は、上記インジェクタ32の燃料噴射タイミング制御動作にある。以下、この燃料噴射タイミング制御動作について説明する。
本実施形態における燃料噴射タイミング制御の基本動作としては、上記回転数センサ4
4からの信号に基づいて検知されるエンジン回転数と、エンジン負荷率とに基づいて基本燃料噴射タイミング(INJbse)が求められる。上記エンジン負荷率は、エンジン2の最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値であって、例えば、上記吸入空気量センサ8により検出される吸入空気量とエンジン回転数とに基づいた負荷率マップを参照して算出される。また、エンジン回転数とエンジン負荷率とによる上記基本燃料噴射タイミング(INJbse)の算出処理は、例えばエンジン回転数及びエンジン負荷率をマップ点とし基本燃料噴射タイミングをマップ値とする2次元マップを用いて算出される。
そして、本実施形態では、上述の如く算出された基本燃料噴射タイミング(INJbse)に対し、上記冷却水温センサ52によって検出された冷却水温度情報に基づいて求められる冷却水温度の降下速度(冷却水温度の単位時間あたりの降下温度:Δt)に応じて、燃料噴射タイミングの遅角補正量(ainj)を求め、この遅角補正量分だけ燃料噴射タ
イミングを補正するようになっている(筒内圧力降下手段による燃焼圧降下制御)。以下、この燃料噴射タイミングの補正動作について図3のフローチャートに沿って説明する。尚、この燃料噴射タイミングの補正動作は、所定時間毎、例えば、数sec毎に実行される。
先ず、ステップST1において、冷却水温センサ52によって検出された冷却水温度を読み込み、ステップST2で、今回読み込んだ冷却水温度(Tn)から前回読み込んだ冷却水温度(Tn−1)を減算し、その温度差から冷却水温度の降下速度(冷却水温度の単位時間あたりの降下温度:Δt)を算出する。尚、過去複数回読み込まれた冷却水温度の履歴から冷却水温度の降下速度(Δt)を算出するようにしてもよい。この降下速度(Δt)は、冷却水温度が低下している状況では「−(負)」の値となり、冷却水温度が上昇している状況では「+(正)」の値となるものである。また、その絶対値が大きいほど冷却水温度の変化速度が大きいものとして得られる。
その後、ステップST3で、この冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいか否か、つまり、冷却水温度の降下速度が所定速度よりも高くなっているか否か(本発明でいう単位時間あたりの降下温度が急冷判定値よりも大きいか否か)を判定する。この判定がYESである場合には、ステップST4に移り、現在の燃料噴射量Qが所定値Qaよりも大きいか否かを判定する。この判定がYESである場合には、ステップST5で、燃料噴射タイミング補正量(ainj)として所定値βを設定し、ステップST6に
おいて、この燃料噴射タイミング補正量ainj(=β)だけ上記基本燃料噴射タイミング
(INJbse)に対して遅角側への補正を行って燃料噴射タイミング(INJ)を遅角させる。このように燃料噴射タイミングが遅角されることにより、膨張行程での燃焼圧力が低くなり、筒内圧力が低下してシリンダボア内壁Aに上記撓み現象が発生することを回避できる。
上述したステップST3〜ST5の一連の動作は、冷却水温度の降下速度が高い場合には、シリンダブロック1の外周側(上記ブロック外壁B:図2参照)が高温であるのに対し、内周側(上記シリンダボア内壁A)がそれに比べて低温である状況が想定される。つまり、ブロック外壁Bに比べてシリンダボア内壁Aが収縮して(熱膨張量が少なくなって)おり、このシリンダボア内壁Aの上面とシリンダヘッド5の下面との接触力が低くなり、その分、ヘッドボルト9の締結力がシリンダボア内壁Aに及び難い状況を招いてしまっている可能性が考えられる。即ち、膨張行程時にシリンダボア内壁Aに上記撓み現象が発生してしまう可能性があると考えられる。このため、冷却水温度の降下速度が高い場合には、燃料噴射タイミングを遅角させて筒内圧力を低下させる制御に切り換えるようにしている。
但し、現在の燃料噴射量Qが所定値Qa以下であった場合には、燃料噴射タイミングを
遅角させたとしても筒内圧力の降下割合は十分に期待できないため、現在の燃料噴射量Qが所定値Qaよりも大きい場合に限り、燃料噴射タイミングを遅角させるようにしている。尚、この燃料噴射量Qは、吸入空気量やエンジン負荷率等に基づいた燃料噴射量マップを参照して算出されている。
次に、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上である場合の制御手順について説明する。上記ステップST3において、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上であるNO判定がなされた場合には、ステップST7に移って、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上である状態が所定時間(γsec)だけ継続されたか否かを判定する。この判定がNOである間(Δt≧−αの状態がγsec継続していない場合)は上記ステップST4に移り、現在の燃料噴射量Qが所定値Qaよりも大きい場合に、燃料噴射タイミング補正量(ainj)として所定値βを設定する。一方、冷却水
温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上である状態が所定時間(γsec)だけ継続されてステップST7でYES判定された場合には、ステップST8に移り、燃料噴射タイミング補正量(ainj)として「0」を設定する。つまり、燃料噴射タイミングを補
正することなく、上記基本燃料噴射タイミング(INJbse)での燃料噴射動作を実行させるようにする。
これらステップST3、ST7、ST4の一連の動作は、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上となった場合に直ちに燃料噴射タイミングの補正量を「0」にしてしまうと(遅角補正していた燃料噴射タイミングを基本燃料噴射タイミングに戻してしまうと)、未だ、シリンダボア内壁Aの熱膨張量がブロック外壁Bの熱膨張量に近付いていない状況で筒内圧力が上昇してしまう可能性があるため、この両者の熱膨張量が略一致するまでの間、燃料噴射タイミングを遅角させて筒内圧力を低下させる制御を継続するようにしたものである。
図4は、本実施形態に係るエンジン2を搭載した自動車が、登坂走行(エンジン2の高負荷運転)から降坂走行(エンジン2の低負荷運転)に移った際における冷却水温度及び燃料噴射タイミングの時間的変化を示した図である。
先ず、登坂走行時には、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上である状態が継続されているため、燃料噴射タイミング補正量(ainj)は「0」に設定される。
つまり、燃料噴射タイミングを補正することなく、基本燃料噴射タイミングでの燃料噴射動作(INJ=INJbse)が実行される。これにより、高いエンジン出力が得られて登坂性能が確保される。
この状態から自動車が降坂走行に移ると(図中のタイミングX)、冷却水温度は降下(低下)していき、この冷却水温度の降下速度が高い状況(図中の線図の勾配が急な領域)では、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいため、燃料噴射タイミング補正量(ainj)は「β」に設定される。つまり、燃料噴射タイミング補正量(β
)だけ基本燃料噴射タイミング(INJbse)に対して遅角側への補正を行って燃料噴射タイミングを遅角させ、この補正された燃料噴射タイミングでの燃料噴射動作(INJ=INJbse−β)が実行される。これにより、膨張行程での燃焼圧力が低くなり、筒内圧力が低下してシリンダボア内壁Aに上記撓み現象が発生することを回避する。
その後、冷却水温度の降下速度が徐々に低くなっていく状況(図中の線図の勾配が緩やかになっていく領域)では、あるタイミング(図中のタイミングY)で冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上となる。この場合、直ちに燃料噴射タイミングの補正量を「0」にしてしまうのではなく、この冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上となっている状態が所定時間(γ)だけ継続するまでの間、燃料噴射タイミングの
遅角制御を継続し、この所定時間(γ)の経過後に(図中のタイミングZ)、燃料噴射タイミング補正量(ainj)を「0」に戻して、基本燃料噴射タイミングでの燃料噴射動作
(INJ=INJbse)を開始させる。
以上説明したように、本実施形態では、シリンダボア内壁Aに撓みが生じない運転状態にあっては、膨張行程時の燃焼圧が高くなることを許容してエンジンの高出力化を図る一方、シリンダボア内壁Aに撓みが生じる可能性のある運転状態となった際には、膨張行程時の燃焼圧を低く設定する制御を行うことでシリンダボア内壁Aの撓みを抑制することができる。また、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」以上となっている状態が所定時間(γ)だけ継続するまでの間、燃料噴射タイミングの遅角制御を継続することにより、基本燃料噴射タイミングでの燃料噴射動作に復帰した際のシリンダボア内壁Aの撓みを確実に回避することができる。
−変形例−
上述した実施形態では、シリンダボア内壁Aに撓みが生じる可能性のある運転状態となった際に実行される燃焼圧降下制御としては、燃料噴射タイミングを遅角させるようにしていた。その他の燃焼圧降下制御として以下の制御を行うようにしてもよい。
(1) 内燃機関がガソリンエンジンである場合に、点火プラグの点火タイミングを遅角させる制御である。つまり、エンジン回転数やエンジン負荷率に基づいて設定される基本点火タイミングに対して、所定の遅角補正量(例えば10°)だけ遅角側への補正を行って点火プラグの点火タイミングを遅角させ、これによって膨張行程時の燃焼圧を低く抑えるものである。
(2) また、過給圧力を可変とする可変ノズル型ターボチャージャを備えたエンジン(例えば、特開2005−171893号公報に開示されているもの等)の場合に、ノズルベーンの開度を大きくするものである。この可変ノズル型ターボチャージャは、アクチュエータを駆動してノズルベーンの開動角度を変化させることによって排気ガス流路面積を変更し、タービンホイールに吹付けられる排気ガスの流速を可変とすることで過給圧を調整するものであるが、このノズルベーンの開度を大きくするようにアクチュエータを駆動することにより、タービンホイールに吹付けられる排気ガスの流速を低下させて過給効果を低減させ、これによって燃焼室内への空気の充填効率を抑えて膨張行程時の燃焼圧を低くするものである。
(3) 更に、吸気系に備えられたスロットルバルブ14のバルブ開度を閉方向に移行させるものも挙げられる。つまり、このスロットルバルブ14の閉弁動作により気筒内への吸入空気量を低減させ、膨張行程時の燃焼圧を低くするものである。
燃焼圧降下制御としては、これらに限られるものではなく、膨張行程時の燃焼圧を低く抑えることのできる制御であれば他の制御動作を適用することも可能である。例えばEGR量の調整、バルブ開閉タイミングやバルブリフト量の調整、燃料噴射量の調整などが挙げられる。
−その他の実施形態−
上述した実施形態では、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジン2に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、その他の形式のディーゼルエンジンやガソリンエンジンにも適用可能である。また、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型、V型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、冷却水温度の降下速度を算出するための冷却水温度情報を得る冷却水温センサ52の配設位置としては、特に限定されるものではないが、エンジン2が高負荷運転から低負荷運転へ移行した際の冷却水温度の変化が最も顕著に現れる箇所に配設することが好ま
しい。これによれば、冷却水の温度変化に対して迅速に燃焼圧降下制御を開始させることができ、シリンダボア内壁Aに撓み現象が発生する前に筒内圧力を低下させることができる。具体的な配設位置としては、冷却水通路1bの出口側(ラジエータへの戻り側)部分等が挙げられる。また、冷却水温センサ52を複数箇所に配設し、これら冷却水温センサ52の配設箇所のうち1箇所でも冷却水温度の降下速度が所定速度よりも高くなった場合には燃焼圧降下制御を開始させるようにしてもよい。
また、上述した実施形態における燃焼圧降下制御としては、燃料噴射タイミングの補正量を一定値(上記実施形態のものではβ)とするものに限らず、冷却水温度の降下速度に応じて燃料噴射タイミングの補正量を変更するようにしてもよい。つまり、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいほど(冷却水温度の降下速度が高いほど)燃料噴射タイミングの補正量を大きくし、燃料噴射タイミングの遅角量を大きくしていくものである。また、上記点火プラグの点火タイミングを遅角させる上記変形例のものでは、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいほど点火タイミングの遅角量を大きくしていく。また、可変ノズル型ターボチャージャのノズルベーンの開動角度を変化させる上記変形例のものでは、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいほどノズルベーンの開動角度を大きくして排気ガス流路面積を拡大していく。更に、スロットルバルブ14のバルブ開度を閉方向に移行させる上記変形例のものでは、冷却水温度の降下速度(Δt)が所定値「−α」よりも小さいほどバルブ開度を小さくしていく。
実施形態に係るディーゼルエンジンの概略構成を示す図である。 シリンダブロックとシリンダヘッドとの締結部分を破断した気筒列方向から見たエンジンの側面図である。 燃料噴射タイミングの補正動作の手順を示すフローチャート図である。 実施形態において自動車が登坂走行から降坂走行に移った際における冷却水温度、燃料噴射タイミングの時間的変化を示す図である。
符号の説明
1a シリンダボア
1b 冷却水通路
2 エンジン(内燃機関)
3 燃焼室
14 スロットルバルブ

Claims (6)

  1. シリンダボアの外周囲を囲むように形成された冷却水通路を流れる冷却水により、気筒内の燃焼熱を回収するようにした内燃機関の運転制御装置において、
    冷却水温度の単位時間あたりの降下温度を算出する冷却水温度降下速度算出手段と、
    上記冷却水温度降下速度算出手段によって算出された冷却水温度の単位時間あたりの降下温度が所定の急冷判定値よりも大きいときには、膨張行程時における気筒内圧力を降下させる燃焼圧降下制御を実行する筒内圧力降下手段とを備えていることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
  2. 上記請求項1記載の内燃機関の運転制御装置において、
    筒内圧力降下手段は、燃焼圧降下制御の実行中に、冷却水温度の単位時間あたりの降下温度が急冷判定値以下になった際、この状況が所定時間継続された後に燃焼圧降下制御を解除するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
  3. 上記請求項1または2記載の内燃機関の運転制御装置において、
    内燃機関はディーゼルエンジンであって、
    筒内圧力降下手段により実行される燃焼圧降下制御は、燃焼室内に噴射される燃料の噴射タイミングを遅角させる制御であることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
  4. 上記請求項1または2記載の内燃機関の運転制御装置において、
    内燃機関はガソリンエンジンであって、
    筒内圧力降下手段により実行される燃焼圧降下制御は、点火栓の点火タイミングを遅角させる制御であることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
  5. 上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の運転制御装置において、
    内燃機関には過給圧力を可変とするアクチュエータを有する過給圧可変型過給機が備えられており、
    筒内圧力降下手段により実行される燃焼圧降下制御は、過給圧可変型過給機の過給圧力を低下させるようにアクチュエータを制御するものであることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
  6. 上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の運転制御装置において、
    筒内圧力降下手段により実行される燃焼圧降下制御は、吸気系に備えられたスロットルバルブのバルブ開度を閉方向に移行させるものであることを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2013136979A (ja) * 2011-12-28 2013-07-11 Toyota Motor Corp 点火時期制御装置
JP2013185540A (ja) * 2012-03-09 2013-09-19 Mazda Motor Corp ターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置
JP2013217231A (ja) * 2012-04-05 2013-10-24 Isuzu Motors Ltd 自動変速機の制御システム

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