JP2007048658A - 電解質基含有炭化水素系重合体及びリン酸基含有重合体を有する固体高分子電解質膜 - Google Patents

電解質基含有炭化水素系重合体及びリン酸基含有重合体を有する固体高分子電解質膜 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐メタノール透過性及びプロトン伝導性に優れた固体高分子電解質膜及びその用途を提供する。
【解決手段】 電解質基含有炭化水素系重合体をリン酸基含有重合体により接着してなる固体高分子電解質膜。
【選択図】 なし

Description

本発明は、一次電池、二次電池、燃料電池等の電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜等に好適な固体高分子電解質膜に関し、特に耐メタノール透過性及びプロトン伝導性に優れた固体高分子電解質膜に関する。
直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、メタノールを直接燃料として供給するため、水素型燃料電池で必要な燃料改質器が不要であり、小型軽量化が可能である。そのため携帯機器用電源、輸送用電源等への応用が期待されている。DMFCに用いる固体高分子電解質膜に求められる特性の中で最も重要なのは耐メタノール透過性である。メタノールが膜を透過すると、燃料損失が大きくなり、性能が低下する。しかし現在固体高分子電解質膜として主に用いられているフッ素樹脂系高分子電解質膜は、耐メタノール透過性が不十分であった。
このような状況下、特開2003-86021号(特許文献1)は分子内に1個以上のリン酸基及び1個以上のエチレン性不飽和結合を有するリン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のスルホン酸基及び1個以上のエチレン性不飽和結合を有するスルホン酸基含有不飽和単量体との共重合体からなる固体高分子電解質膜を提案している。この固体高分子電解質膜は比較的安価に製造できるだけでなく、伝導性が著しく高く、導電率の温度依存性が低く、耐熱性及び耐溶剤性に優れている点で従来の固体高分子材料と一線を画すものであった。しかしながら、一層耐メタノール透過性に優れた固体高分子電解質膜が求められている。
特開2003-86021号公報
従って、本発明の目的は、耐メタノール透過性及びプロトン伝導性に優れた固体高分子電解質膜を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、電解質基含有炭化水素系重合体をリン酸基含有重合体により接着すると、耐メタノール透過性及びプロトン伝導性に優れた固体高分子電解質膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の固体高分子電解質膜は、(a) 電解質基を含有する炭化水素系重合体、及び(b) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるリン酸基含有重合体を含む組成物からなり、前記電解質基含有炭化水素系重合体が前記リン酸基含有重合体により接着されてなることを特徴とする。
前記リン酸基含有不飽和単量体は、下記一般式(1):
Figure 2007048658
(ただしR1は水素基又はアルキル基であり、R2は置換又は無置換のアルキレン基であり、xは1〜6の整数である。)により表されるものが好ましい。R1は−H基又は−CH3基であり、R2は−(CH2)2−基、−CH2CH2(CH3)−基、−CH2CH2(CH2Cl)−基又は−(CH2)4−基であるのが好ましい。
本発明の固体高分子電解質膜は、従来のスルホン酸基含有フッ素樹脂系高分子電解質膜とほぼ同レベルのプロトン伝導性が得られ、かつスルホン酸基含有フッ素樹脂系高分子電解質膜に比べて耐メタノール透過性が格段に優れている。本発明の固体高分子電解質膜は、スルホン酸基含有炭化水素系重合体の高プロトン伝導性、高耐熱性及び高機械的強度と、リン酸基含有重合体の高い耐メタノール透過性、高柔軟性及び高加工性とを兼備しており、燃料電池用途に好適である。
[1] 電解質基含有炭化水素系重合体
電解質基含有炭化水素系重合体は、固体高分子電解質の基材を構成するものであり、電解質基を有し、かつ重合体を構成する分子鎖のいずれかにC-H結合を有するものを意味する。電解質基含有炭化水素系重合体はリン酸基を除く他の電解質基を有するのが好ましく、他の電解質基としてはスルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられる。中でもスルホン酸基が好ましい。
このような電解質基含有炭化水素系重合体としては、得られる固体高分子電解質のプロトン伝導性の観点から、分子内に1個以上のスルホン酸基及び1個以上のエチレン性不飽和結合を有するスルホン酸基含有不飽和単量体を必須成分として重合してなるもの(以下特段の断りがない限り、これを「スルホン酸基含有重合体」と呼ぶ)が好ましい。
スルホン酸基含有不飽和単量体の例としては、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸ブチル-4-スルホン酸、(メタ)アクリロオキシベンゼンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。これらのスルホン酸基含有不飽和単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。スルホン酸基は解離していてもよいし、錯塩を形成していても良い。錯塩を形成する場合、アルカリ金属と錯塩を形成するのが好ましい。
電解質基含有炭化水素系重合体としては、上記スルホン酸基含有重合体の他に、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、スルホン酸基含有ポリ(4-フェノキシベンゾイル-1,4-フェニレン)等が挙げられる。中でもスルホン酸基含有ポリ(4-フェノキシベンゾイル-1,4-フェニレン)(以下特段の断りがない限り、「S-PPBP」と表記する。)が好ましい。
S-PPBPは、下記式(2):
Figure 2007048658
(ただしnは重合度を示す。)により表されるポリ(4-フェノキシベンゾイル-1,4-フェニレン)(以下特段の断りがない限り、「PPBP」と表記する。)にスルホン酸基を導入してなる。
PPBPにスルホン酸基を導入する方法は特に制限されないが、例えばPPBPを濃硫酸に浸漬する方法が挙げられる。浸漬温度は通常室温でよいが、必要に応じて加熱してもよい。浸漬時間は50時間以上とするのが好ましい。
S-PPBPは、下記式(3):
Figure 2007048658
(ただしn'及びn''は0以上の整数を示し、n'及びn''の合計は上記式(2)中のnである。)により表されるものが好ましい。
式(3)により表されるS-PPBPは、下記式:n''/(n'+n'')×100により表されるスルホン化率が90モル%以上であるのが好ましく、95モル%以上であるのがより好ましい。式(3)により表されるS-PPBPはスルホン化率が100モル%、すなわち下記式(4):
Figure 2007048658
(ただしnは上記式(2)と同じである。)により表されるのものが特に好ましい。式(4)に表されるS-PPBPはポリフェニレンからなる主骨格を有し、各フェニレン基にカルボニル基を介して、フェノキシベンゾイル基の末端がスルホン化された側鎖が結合している。スルホン化率は、S-PPBPのイオン交換容量を測定し、得られたイオン交換容量から算出できる。
S-PPBPの質量平均分子量(Mw)は、耐熱性及び機械的強度の観点から2×103〜1×106であるのが好ましく、2×104〜8×105であるのがより好ましい。
[2] リン酸基含有重合体
リン酸基含有重合体は、分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなる。
(1) リン酸基含有不飽和単量体
リン酸基含有不飽和単量体は下記一般式(1):
Figure 2007048658
(ただしR1は水素基又はアルキル基であり、R2は置換又は無置換のアルキレン基であり、xは1〜6の整数である。)により表すことができる。R1は−H基又は−CH3基であるのが好ましい。アルキレン基R2について、「置換又は無置換」であるとは、直鎖状又は分岐状であることも含む。アルキレン基R2の炭素数は2〜4が好ましい。
式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体は、下記一般式(5):
Figure 2007048658
(ただしR1は水素基又はアルキル基であり、R2'は水素基又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、xは1〜6の整数である。)により表される化合物が好ましい。式(5)により表されるリン酸基含有不飽和単量体において、R2'はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。
一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体のうち代表的なものの構造式及び物性をそれぞれ表1及び表2に示す。これらの単量体はユニケミカル株式会社から商品名Phosmer(登録商標)として販売されている。ただし本発明に使用できるリン酸基含有不飽和単量体はこれらに限定されるものではない。一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体は単独で用いることができるが、2種以上を併用しても良い。
Figure 2007048658
Figure 2007048658
一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体のうち、アシッド・ホスホオキシブチルアクリレートもユニケミカル株式会社から商品名Phosmer BAとして入手可能である。
リン酸基は解離していてもよいし、錯塩を形成していても良い。錯塩を形成する場合、電荷を中和させるため、例えば第1級、第2級、第3級又は第4級のアルキル基、アリル基、アラルキル基等を含有するアンモニウムイオンやモノ、ジ又はトリアルカノールアミン残基と錯塩を形成するのが好ましく、特にN+R4-f(OH)f(但しRは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基及び炭素数6〜12の脂環族基からなる群から選ばれた少なくとも一種を表し、fは1〜3の正の整数を表す。)が好ましい。
リン酸基含有不飽和単量体としては、下記一般式(6):
Figure 2007048658
(ただしR3及びR6はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R4及びR5はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキレン基であり、x'及びx''はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有ジエステル系不飽和単量体、下記一般式(7):
Figure 2007048658
(ただしR7及びR10はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R8及びR9はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキレン基であり、y及びy'はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表されるピロリン酸基含有不飽和単量体、及び下記一般式(8):
Figure 2007048658
(ただしR11、R13及びR15はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R12、R14及びR16はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキレン基であり、z、z'及びz''はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有トリエステル系不飽和単量体も使用可能である。各アルキレン基R4、R5、R8、R9、R12、R14及びR16の炭素数は2〜4が好ましい。
一般式(6)により表されるリン酸基含有ジエステル系不飽和単量体としては、下記一般式(9):
Figure 2007048658
(ただしR3及びR6はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R4'及びR5'はそれぞれ独立に水素基又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、x'及びx''はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表される化合物が好ましい。
一般式(7)により表されるピロリン酸基含有不飽和単量体としては、下記一般式(10):
Figure 2007048658
(ただしR7及びR10はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R8'及びR9'はそれぞれ独立に水素基又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、y及びy'はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表される化合物が好ましい。
一般式(8)により表されるリン酸基含有トリエステル系不飽和単量体としては、下記一般式(11):
Figure 2007048658
(ただしR11、R13及びR15はそれぞれ独立に水素基又はアルキル基であり、R12、R14及びR16はそれぞれ独立に水素基又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、z、z'及びz''はそれぞれ独立に1〜6の整数である。)により表される化合物が好ましい。
リン酸基含有ジエステル系不飽和単量体としては、ジ(メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート及びジ(アクリロイルオキシエチル)ホスフェートが好ましい。ピロリン酸基含有不飽和単量体としては、ジ(メタクリロイルオキシエチル)アシッド・ピロホスフェート及びジ(アクリロイルオキシエチル)アシッド・ピロホスフェートが好ましい。
一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体と、一般式(6)〜(8)により表されるリン酸基含有不飽和単量体からなる群から選ばれた少なくとも一種とを併用してもよい。このような併用により膜のプロトン伝導性と耐メタノール透過性と膜強度のバランスが向上する。中でも一般式(1)及び(6)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を併用するのが好ましい。一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体と、一般式(6)〜(8)により表されるリン酸基含有不飽和単量体からなる群から選ばれた少なくとも一種とを併用する場合、式[一般式(1)により表されるリン酸基含有不飽和単量体]/[一般式(6)〜(8)により表されるリン酸基含有不飽和単量体の合計]により表される配合モル比は1/0.05〜1/2であるのが好ましい。
(2) 共重合可能なその他の不飽和化合物
リン酸基含有重合体は、リン酸基含有不飽和単量体と共重合可能なその他の不飽和化合物を含む共重合体であってもよい。その他の不飽和化合物として、(a) 分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有するが酸性基を有しない不飽和化合物、及び/又は(b) 分子内にエチレン性不飽和結合と酸性基とを各々1個以上有する不飽和化合物であるのが好ましい。上記(a)の酸性基を有しない不飽和化合物としては、例えば(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル、アルキルアミノ基含有不飽和単量体、共役ジエン系不飽和化合物又はその水素化物、ビニル化芳香族−共役ジエン系不飽和化合物又はその水素化物、置換又は無置換のスチレン、ハロゲン化ビニル、脂肪酸置換ビニルエステル、フッ素基含有不飽和単量体等が挙げられる。上記(b)の酸性基を有する不飽和化合物はホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基及び硼酸基からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸性基を有するのが好ましい。
(3) リン酸基含有(共)重合体の調製方法
リン酸基含有不飽和単量体の(共)重合体を調製する方法は特に制限されず、例えば特開2003-138088号に記載の方法が挙げられる。(共)重合体の分子量に特に制限はないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の有機溶媒に溶解する程度であるのが好ましい。
[3] 配合割合
電解質基含有炭化水素系重合体及びリン酸基含有(共)重合体の配合割合は、膜化が可能である限り特に制限はなく、固体高分子電解質膜に求める耐メタノール透過性、プロトン伝導性、機械的強度、耐熱性等の特性に応じて適宜選択すればよい。通常は(電解質基含有炭化水素系重合体)/(リン酸基含有重合体)により表される質量比が10/90〜90/10であるのが好ましく、20/80〜85/15であるのがより好ましい。この比を10/90未満とすると、プロトン伝導性が低下する。一方この比を90/10超とすると、耐メタノール透過性が不十分となる。
[4] 固体高分子電解質膜の製造方法
本発明の固体高分子電解質膜は、電解質基含有炭化水素系重合体及びリン酸基含有重合体を溶媒に溶解又は分散した混合液を調製し、得られた混合液を水平なテフロン(登録商標)製シートやガラス板上にキャストし、溶媒を蒸発させることにより製造することができる。溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。溶媒は、キャストした混合液を減圧したり、加熱したりすることにより蒸発させることができる。例えば溶媒としてDMSO又はDMAcを用いる場合、30〜100℃で7日間加熱乾燥した後、さらに80〜150℃で24時間減圧乾燥する。
[5] 混合できる他の重合体
固体高分子電解質膜を製造する際の造膜性や、得られる固体高分子電解質膜の強度、疎水性、耐溶剤性等を一層向上させるために、固体高分子電解質膜が含む電解質基含有炭化水素系重合体及びリン酸基含有重合体と相溶できるその他の重合体を混合することができる。その他の重合体としてはポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、メラミン樹脂、セルロース及びその変性物、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、直鎖型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、架橋型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、直鎖型ポリスチレン樹脂、架橋型ポリスチレン樹脂、直鎖型ポリ(トリフルオロスチレン)樹脂、架橋型(トリフルオロスチレン)樹脂、ポリ(2, 3-ジフェニル-1, 4-フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(フェニルキノキサリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン-グラフト-エチレンテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン-グラフト-ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン-グラフト-テトラフルオロエチレン樹脂等を挙げることができる。
[6] 固体高分子電解質膜の特性
本発明の固体高分子電解質膜は、50〜90%の相対湿度及び30〜80℃の温度条件下においてプロトン導電率が10-3S/cm以上であり、優れたプロトン伝導性を有し、かかるプロトン導電率の温度依存性が小さい。特に90%の相対湿度では、ほぼ10-1 S/cmのプロトン導電率が得られる。中でも電解質基含有炭化水素系重合体の含有量が比較的高い場合、従来のスルホン酸基含有フッ素樹脂系高分子電解質膜と同レベルのプロトン伝導性が得られる。ここで導電率とは、複素インピーダンス法を用いて測定して得られたデータを平面複素インピーダンス解析し、その結果をcole-cole プロット図形処理をして得られたサンプルの抵抗値から求めたものである。
本発明の固体高分子電解質膜は、スルホン酸基含有フッ素樹脂系高分子電解質膜に比べて耐メタノール透過性が格段に優れている。特にリン酸基含有重合体の含有量が増加するに従い、耐メタノール透過性が向上する。本発明の固体高分子電解質膜は、電解質基含有炭化水素系重合体の高プロトン伝導性、高耐熱性及び高機械的強度と、リン酸基含有重合体の高い耐メタノール透過性、高柔軟性及び高加工性とを兼備しており、燃料電池用途に好適である。固体高分子電解質膜の厚さは通常300μm以下であり、好ましくは10〜200μmである。
[7] 燃料電池
燃料電池の構造は公知のものでよい。通常燃料電池は複数個の単位燃料電池(膜−電極接合体)を、セパレータを介して積層することにより形成することができる。単位燃料電池は、固体高分子電解質膜と、その両側に接合されたアノード電極及びカソード電極とから構成される。電極は、ガス拡散層(多孔性の炭素系材料等)と触媒層(白金粒子等)とからなる。触媒層はガス拡散層上に触媒粒子が塗布されることにより形成される。
セパレータは、燃料ガス(水素、メタン、メタノール等)と酸化剤ガス(酸素又は空気)とを分離すると共に、燃料ガス及び酸化剤ガスの流路を確保し、さらに燃料電池セルで発電した電気を外部へ伝達する役割を担う。従ってセパレータは、炭素材料、炭素複合材料(カーボンと熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂との複合材料等)、金属材料、金属複合材料(金属とカーボンとの複合材料等)等の導電性材料から形成される。またセパレータの表面には電極との接触部分に燃料ガス及び酸化剤ガスの流路をなす溝(反応ガス流路)が形成されている。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1
(S-PPBPの調製)
粉末状PPBPに濃硫酸を加え、窒素雰囲気下室温で75時間撹拌した後、水洗し、乾燥させた。PPBP及び得られたS-PPBPについて、FT-IR測定を行った。結果を図1に示す。濃硫酸処理後は1,000 cm-1付近、1,020 cm-1付近及び1,120 cm-1付近にS=O結合によるピークが検出され、スルホン酸基が導入されたことが確認された。側鎖末端のベンゼン環のC-H結合によるピークは濃硫酸処理前に750 cm-1付近に検出されたが、濃硫酸処理後に830 cm-1付近にシフトしており、側鎖末端のベンゼン環にスルホン酸基が導入されたことが確認された。得られたS-PPBPについて、1H-NMR測定により求めたイオン交換容量は2.78 meq/gであった。このイオン交換容量に基づき算出したスルホン化率は98.4 mol%であった。得られたS-PPBPについて、GPC法により測定したMwは168,000であり、Mw/Mnは1.99であった。得られたS-PPBPの元素分析を行った。結果を表3に示す。
Figure 2007048658
表3から、実測値は、イオン交換容量から算出した計算値とほぼ一致していることが分かる。
(リン酸基含有重合体の調製)
Phosmer PP(ユニケミカル(株)製、表1参照)にDMSOを加え、窒素雰囲気下2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を共存させながら、78℃の温度で24時間撹拌することにより重合させた。得られた重合体(以下特段の断りがない限り、「PPHP」と表記する。)について、GPC法により測定したMwは98,000であり、Mw/Mnは1.31であった。
(固体高分子電解質膜の作製)
上記のようにして調製したS-PPBPの0.50質量%DMSO溶液、及びPPHPの0.10質量%DMSO溶液を調製し、S-PPBPとPPHPの質量比がS-PPBP/PPHP=1/1となるように各溶液を混合した。得られた混合液をテフロンシートにキャストし、40〜80℃で7日間加熱乾燥した後、さらに120℃で24時間減圧乾燥し、固体高分子電解質膜(厚さ:123μm)を作製した。
実施例2
S-PPBPとPPHPの質量比をS-PPBP/PPHP=3/1とした以外実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜(厚さ:119μm)を作製した。
実施例3
S-PPBPとPPHPの質量比をS-PPBP/PPHP=5/1とした以外実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜(厚さ:120μm)を作製した。
比較例1
実施例1と同様にして調製したS-PPBPの0.50質量%DMSO溶液を調製し、これをテフロンシートにキャストした後、実施例1と同様にして乾燥し、S-PPBPのみからなる固体高分子電解質膜(厚さ:120μm)を作製した。
(プロトン伝導性の評価)
実施例1〜3及び比較例1で作製した固体高分子電解質膜について、プロトン導電率を測定した。プロトン導電率は複素インピーダンス法を用いて測定した。これらの固体高分子電解質膜から切り出した13 mmφの円形サンプルを2枚の白金電極に挟み、(株)日本ヒューレット・パッカード社製のインピーダンス・アナライザー HP4192Aのセルに充填した。測定周波数範囲:0.05〜13 kHz 、印加電圧:12 mV、相対湿度50〜90%、測定温度範囲:33〜80℃で、セルのインピーダンスを測定した。得られたデータを平面複素インピーダンス解析し、その結果をcole-cole プロット図形処理をして得られたサンプルの抵抗値から導電率を求めた。比較例2として、パーフルオロ骨格の側鎖にスルホン酸基を有するフッ素系高分子電解質膜(商品名「Nafion115」、デュポン株式会社製、厚さ:125μm。)についても同様にして測定した。結果を図2及び図3に示す。
図2に示すように、実施例1〜3の膜は、いずれも相対湿度90%での導電率が1×10-2 S・cm-1以上のオーダーにあり、リン酸基及びスルホン酸基を官能基とする高分子電解質としては良好な水準にあることが分かる。図2及び図3に示すように、S-PPBP含有量の増加に伴い導電率は向上しており、中でもS-PPBP含有量の多い実施例3の膜の導電率はほぼ1×10-1 S・cm-1であり、Nafion115と同等であった。ただしPPHP含有量の高い実施例1の膜は、Nafion115に比べて湿度依存性が高かった。
(メタノール膨潤試験)
各固体高分子電解質膜から切り出したサンプルを、30〜60℃の温度の1Mのメタノール水溶液に浸漬した後、取り出し、面方向長さ及び厚さをそれぞれ測定し、浸漬前の面方向長さ及び厚さに対する各膨潤比を求めた。結果を図4及び図5に示す。実施例1〜3の膜は、面方向の耐メタノール膨潤性がNafion115と同等であった。これはPPHPのリン酸基の架橋により、膨潤が抑制されたものであると考えられる。しかし実施例1〜3の膜は、厚さ方向の耐メタノール膨潤性がNafion115より低く、S-PPBP含有量の増加に伴い低下した。
(メタノール透過試験)
図6に示す、2本のチューブ20,20'、それらを連通する管21、連通管21の中間に設けられた膜ホルダ22、及びマグネチックスターラー23,23'を具備する装置2を用いてメタノール透過試験を行った。各固体高分子電解質膜から切り出したサンプル1を、膜ホルダ22に固定し、チューブ20に1Mのメタノール水溶液を入れ、チューブ20'に同量の精製水を入れ、各チューブの液体をマグネチックスターラー23,23'により撹拌した。メタノール透過率は、下記式:P=(Cw×V×L)/(Cm×A×T)[ただしPはメタノール透過率(cm2/s)を示し、Cwは精製水側のメタノール濃度(mg/L)を示し、Cmはメタノール水溶液側のメタノール濃度(mg/L)を示し、Vは精製水側の溶液量(cm3)を示し、Aは膜の断面積(cm2)を示し、Lは膜厚(cm)を示し、Tは経過時間(s)を示す。]により算出した。結果を表4に示す。
Figure 2007048658
表4から明らかなように、膜中のPPHP含有量の増加に従い耐メタノール透過性が向上した。実施例1〜3の膜はいずれもNafion115膜より耐メタノール透過性が優れており、特に実施例1の膜はNafion115膜より45%もメタノール透過率が少なかった。
(燃料電池発電試験)
カーボンペーパーにPt触媒及びNafionを塗布し、カソード電極を作製した(Pt:1.25 mg/cm2、Nafion:1.72 mg/cm2)。カーボンペーパーにPt触媒、Ru触媒及びNafionを塗布し、アノード電極を作製した(Pt:2.00 mg/cm2、Ru:1.02 mg/cm2、Nafion:2.24 mg/cm2)。図7に示すように、固体高分子電解質膜(5cm2)1の一面にカソード電極3を積層するとともに、他方の面にアノード電極4を積層し、120℃の温度及び100 kg/cm2の圧力下10分間ホットプレスして膜−電極接合体5を作製した。膜−電極接合体5、カーボンブロック製集電体6,6、及び金めっきしたステンレス鋼製セパレータ7,7を用いてセルユニット8を組み立てた。得られたセルユニット8について、1Mのメタノール水溶液及び空気(加湿なし)を供給し、電流密度を変化させながら電圧及び出力密度を測定した(セル温度:60℃、メタノール圧:0 MPaG、空気圧:0 MPaG、メタノール水溶液流量:5.0 mL/min、空気流量:500 mL/min)。結果を図8及び図9に示す。
図8から明らかなように、開放電圧(OCV)に関して、実施例1〜3は、比較例1及び2に比べて大きかった。特に膜中のPPHP含有量増加に従って、開放電圧は大きくなった。図9から明らかなように、実施例2では比較例1及び2に比べて最大出力密度が高かった。また実施例3は実施例1に比べて最大出力密度が高かった。60℃の作動温度において、実施例2の膜は開放電圧が0.806 Vであり、最大出力密度が85.3 mW/cm2であり、実施例1,2及び比較例1,2より優れた特性が得られた。
また上記の発電試験条件で開放電圧(OCV)の経時変化を調べた。結果を図10に示す。実施例1〜3では、比較例1及び2に比べて、OCVの経時変化が小さかった。図10中のOCVが初期値から低下してほぼ一定に至るまでの傾きは、メタノールがアノード側からカソード側に到達する早さを示す。この傾きに関して、実施例1〜3は、比較例1及び2に比べて小さく、メタノール透過率が小さいことが分かる。特に膜中のPPHP含有率が高いほど、メタノール透過率が小さいことが分かる。これは、PPHP中のリン酸基によるメタノール吸着、及びリン酸基の架橋による膜の膨潤抑制によるものであると考えられる。またメタノール透過抑制によりOCVの経時変化が小さくなるものと考えられる。
実施例1のPPBP及びS-PPBPのFT-IRスペクトルを示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の固体高分子電解質膜について、温度T(℃)と導電率log(σ/S・cm-1) との関係をcole-cole プロットにより示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の固体高分子電解質膜について、相対湿度(%)と導電率log(σ/S・cm-1) との関係をcole-cole プロットにより示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の固体高分子電解質膜について、温度T(℃)とメタノールによる面方向の膨潤比との関係を示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の固体高分子電解質膜について、温度T(℃)とメタノールによる膜厚方向の膨潤比との関係を示すグラフである。 メタノール透過試験装置を示す斜視図である。 実施例1〜3及び比較例1,2の膜を用いた燃料電池セルユニットの構成を示す概略図である。 実施例1〜3及び比較例1,2の膜を用いた燃料電池の電圧−電流特性を示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の膜を用いた燃料電池の出力密度−電流密度特性を示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1,2の膜を用いた燃料電池の開放電圧の経時変化を示すグラフである。
符号の説明
1・・・固体高分子電解質膜
2・・・メタノール透過試験装置
20、20'・・・チューブ
21・・・連通管
22・・・膜ホルダ
23、23'・・・マグネチックスターラー
3・・・カソード電極
4・・・アノード電極
5・・・膜−電極接合体
6・・・カーボンブロック製集電体
7・・・ステンレス鋼製セパレータ
8・・・セルユニット

Claims (3)

  1. (a) 電解質基を含有する炭化水素系重合体、
    及び(b) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるリン酸基含有重合体
    を含む組成物からなり、前記電解質基含有炭化水素系重合体が前記リン酸基含有重合体により接着されてなることを特徴とする固体高分子電解質膜。
  2. 請求項1に記載の固体高分子電解質膜において、前記リン酸基含有不飽和単量体は、下記一般式(1):
    Figure 2007048658
    (ただしR1は水素基又はアルキル基であり、R2は置換又は無置換のアルキレン基であり、xは1〜6の整数である。)により表されることを特徴とする固体高分子電解質膜。
  3. 請求項2に記載の固体高分子電解質膜において、R1は−H基又は−CH3基であり、R2は−(CH2)2−基、−CH2CH2(CH3)−基、−CH2CH2(CH2Cl)−基又は−(CH2)4−基であることを特徴とする固体高分子電解質膜。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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