(従来技術1)
液晶を利用した表示装置として代表的なものに、例えば図11A,Bに概略的に示すTN(twisted nematic)液晶表示装置がある。このTN液晶表示装置は、内面に透明電極を有する一対の透明基板1a,1bの間に挟まれたネマティック液晶層2をクロスニコル配置の2枚の偏光板3a,3bの間に配置した構成を有している。
そして、図11Aに示すように電場がかからないときには液晶の配向分布はねじれた配置をとり、図示しない背面光源を出て一方の偏光板3bを透過した光は他方の偏光板3aに達するまでにその偏光面が90度回転し他方の偏光板3aを透過するので、明るい表示状態となる。一方、図11Bに示すように2枚の透明基板1a,1b間に外部電源4から電圧を印加した場合には、液晶は電場の方向にその長軸を揃えた配置をとるので偏光面の回転は起こらず、光は偏光板3aで吸収されて暗い表示状態として観察される。
従来の液晶表示装置は、上述したように透過光の偏光面を切り替えることによって、光のシャッター機能を実現している。また、印加電場による液晶配向の拘束は電場の持続時間中に限られ、電場が除かれれば液晶は無電場時の配向様態に戻る。このように電場の状態それぞれに対応して液晶の安定な状態がそれぞれ一通り存在するような系は、単安定な系と呼ばれる。
ところで、TN液晶表示装置には次のような2つの不都合が知られている。すなわち、
(1)偏光板を使用するので光の利用効率が低く、明るい背面光源(バックライト)が必要になる。また、反射型として利用する場合には表示が暗い。
(2)単安定系であるため、電源を切ると表示が保持されず、静止画を表示し続けるにも電圧を印加し続ける必要がある。
(従来技術2)
上記第1の欠点を克服し、偏光板やバックライトなしに反射型で明るい表示装置を実現する方法として、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)や高分子ネットワーク液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)がある(例えば下記特許文献1,2参照)。
PDLCまたはPNLCはいずれも、図12に模式的に示すように、内面に透明電極5a,5bを有する一対の透明基板6a,6b間に、高分子フィルム7中の分散した空隙内に液晶の液滴8を充填させた材料層を挟み込んだセル構造を有している。液晶の液滴8のドメインは屈折率の異方性を有し、分子長軸方向に偏光した光に対してn// 、長軸に垂直方向の偏光に対してn⊥の屈折率を示す。この液晶を含む高分子フィルム7の屈折率nFの値をnF=n⊥になるように選んでおく。
上下の基板6a,6b間に電場を加えないときには、液晶の液滴8の配向は図12Aに示すようにランダムであり、図12A下方に示す液滴8の屈折率楕円体8Pは高分子フィルム7の屈折率楕円体7に対してさまざまな向きにその光学主軸を向けて傾いている。従って、高分子フィルム7と液晶の液滴8との屈折率は一致していないので、この複合媒質に正面の基板6a側から入射する外光は散乱され、観察者の目には白濁した表示状態として観察される。
一方、上下の基板6a,6b間に電場を与えると、液晶の液滴8の配向は図12Bに示すように電場方向に揃い、これに伴ってその屈折率楕円体8Pの主軸も基板6a,6bに垂直方向に揃う。このとき、正面の基板6a側から入射する外光は、液晶の屈折率としてn⊥を感じる。先に述べたように、nF=n⊥に設計されているので、この光に対して高分子フィルム7と液晶の液滴8の複合材料は均一な屈折率をもつ媒質であって、光が散乱されることはない。すなわち、この材料は透明な状態にある。表示素子として用いる場合には基板6b側の裏面に黒色層9を設けることにより、黒色表示状態を実現できる。
上記従来技術2において説明したPDLCあるいはPNLC表示装置は、バックライトを用いず明るい環境で視認性のよい表示を実現することには成功したが、TN液晶表示装置について指摘された上記第2の欠点である静止画の保持機能は持ち合わせていない。静止画保持機能は、特に電源の容量が限られる携帯機器、車載機器等での要求が高く、次に示すような実現法が提案されている。
(従来技術3)
ネマティック液晶セルを構成する基板表面に高さと周期が1μm程度の凹凸構造(周期的な溝構造など)を設けることにより、電場が印加されていない場合に安定に存在する液晶の配向様態が2通り存在するようになし得ることが知られている(下記特許文献3〜6参照)。
図13A,Bに下記特許文献3に記載のセル構造を示す。液晶層10は上下の基板11a,11b間に挟まれており、下側の基板11bには第1電極構造12と隆起部13とが形成され、隆起部13の上には第2電極構造14が配置されている。隆起部13は、液晶層10の下部を部分的に収容する溝を形成している。図13Aに示す安定状態では、下側基板11b付近で液晶分子15は紙面に垂直方向に向いており、上側基板11a付近では基板に垂直方向に向いている。また、図13Bに示す安定状態では、液晶分子15は紙面に平行な方向に向いている。
図13A,Bに示す液晶分子15の2通りの配向様態は、セルの基板面に設けられた第1,第2電極構造12,14間に印加される電場パルスによって切り替えられる。隆起部13による凹凸構造で、パルスが終了し電場が除かれた後も、液晶の配向様態は安定に存続する。このことを指して「系がメモリ性をもつ」または「双安定である」という。
また、同様にネマティック液晶を用いて双安定化する方法の一つとして、液晶層の界面に弱い界面アンカリングを用いる方法が報告されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、上記従来技術3で説明した液晶の双安定性を利用した表示装置においては、光シャッター機能の実現に偏光の切替えを利用しているので、偏光板と組み合わせて用いる必要があり、バックライトの必要性がある点と明るい場所での低い視認性が問題となる。
そこで、反射型でありかつ液晶の双安定を実現する方式に、次に示す構造のものが提案されている(下記特許文献7参照)。
(従来技術4)
下記特許文献7には、偏光板を必要としない反射型動作に適した散乱型液晶表示装置であって、双安定性を兼備したセル構造が提案されている。双安定の実現機構としては、上述のような器壁から液晶への作用を利用しており、同時に2つの安定状態における光散乱性の違いを表示状態の切替えに用いている。
下記特許文献4に記載のセル構造を図14A,Bに示す。図において17a,17bは基板、18a,18bは電極、19は液晶、20は下側基板18b表面に形成された凹凸構造部である。図示の例においては、基板17a,17bの間にネマティック液晶19を満たせてセルを構成し、基板間に与える電場によって、凹凸構造部20上の液晶の配向様態を切り替えている。
下側基板17bの凹凸構造部20上に位置する液晶は、電場を除いた状態では基板面に対して概ね平行な様態と概ね垂直な様態との2通りをとり双安定である。しかし、凹凸構造部20の無い領域の液晶は単安定であり、無電場状態の配向様態は一通り(図の例では基板面にほぼ垂直)に決まっている。
従って、双安定領域の配向様態が単安定領域の配向様態と共通の場合(図14Aの例)には、基板17a,17b間の液晶19は場所に依存なく均質であり、ここを透過する光は散乱を受けない。一方、双安定領域の配向様態が単安定領域と異なっている場合(図14Bの例)には、PDLCやPNLCの場合と同じように基板17a,17b間の液晶19に屈折率の揺らぎがあるので、光は散乱される。このようにして、セル全体として、光を透過するか散乱するかの2通りの状態をもつ双安定表示素子が実現されるとしている。
特開2004−302402号公報
特開2001−154219号公報
特開2001−51289号公報
特開2003−66492号公報
特開2001−296563号公報
特表2004−505297号公報
特表2003−515788号公報
R.Barberi, M.Giocondo, and G.Durand, Applied Physics Letters Vol.60, p.1085 (1992)
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して説明する。以下の各実施の形態では、電気光学材料として液晶材料を例に挙げて説明する。また、本発明は以下の実施の形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態による複合電気光学材料の概略構成を示す要部斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態の複合電気光学材料30は、板状の支持材料31と、この支持材料31に形成された複数の孔(図の例では貫通孔)32と、これら複数の孔32に各々充填された液晶材料33とを含む複合材料で構成されている。従って、この複合電気光学材料30は、画像を形成する表示面Sにおいて、液晶材料33の占有領域が支持材料31内に複数分散配置された構成を有している。
まず、この複合電気光学材料30の光学的性質について以下説明する。
この例では、支持材料31が屈折率1.51のPMMA(ポリメチルメタクリレート)で形成されており、液晶材料33はネマティック液晶からなり、液晶分子長軸方向の屈折率n//が1.75、液晶分子短軸方向の屈折率n⊥が1.51であるとする。また、液晶の誘電率は、液晶分子長軸方向の誘電率をε// 、液晶分子短軸方向の誘電率をε⊥とすると、ε// >ε⊥(すなわち、Δε>0)であるとする。さらに、孔32の形状は、円筒形状とする。
液晶材料33のダイレクタ(液晶分子の配向(長軸方向)の向き)が円筒(孔)32の軸に平行に揃っている状態では、この軸に沿って円筒32に入射する平面波に対する屈折率は偏光面に依らずn⊥=1.51である。従って、非液晶材料である支持材料31の領域も含めて全ての領域で屈折率が均一であるから、表示面Sから見て、この複合電気光学材料30では散乱が生じず透明に見えることになる。
一方、液晶材料33のダイレクタが円筒32の軸に平行に揃っていない場合には、円筒32の軸に沿って入射する光に対する液晶の屈折率は、n//=1.75とn⊥=1.51の間の何らかの値を示し、もはや支持材料31と同じ屈折率ではなくなる。従って、光の散乱が生じる。この屈折率の相違の大きさは、PDLCにおいて生じているものと同等であるから、この複合電気光学材料30を適切な厚さにすることで十分な散乱強度が得られることになる。
次に、ここに示した光散乱の大きいまたは小さい配向様態を、それぞれ双安定な状態のひとつとして得る原理について説明する。
図2および図3は、円筒形状の孔32内部における液晶材料33の配向様態を示しており、液晶分子の長軸が平均的に向いている方向を線分(ダイレクタ)Dを用いて描かれている。
まったく自由なネマティック液晶は、その全域でどちらか任意の方向に配向を平行に揃えようとする。双安定性を実現するためには、周囲から液晶の配向になんらかの拘束力を加えることが必要である。それは、液晶が占め得る領域の形状や器壁に対する濡れ性、あるいは、器壁に対して分子軸を特定の方向に向きやすく束縛すること(アンカリング)によって実現される。
まず、円筒32内の液晶が側壁や上下の底面からその向きに対する束縛を受けない場合には、液晶が全域で向きを揃える。例えば図2Aの配向様態においては弾性エネルギーが最低で、もっとも安定である。しかし、円筒32の側壁に接する液晶分子を壁面に対して垂直に立てるようなアンカリング32Aを導入すると、図2Bのようになり、液晶のダイレクタDが円筒32の軸に完全に平行には揃っていない配向様態が安定となる。
なお、図2Bにおいて、円筒領域の外側に描いた短い線分(アンカリング32A)の方向が、その壁面の内側で液晶分子が束縛される方向を示している。図3A,Bにおいても同様とする。
同じアンカリングのもとで、図2Bに示したダイレクタDの配向様態を上下反転した配向様態も同様に最低エネルギー状態として実現するので、系は双安定である。なお、図2Bとそれを上下反転した配向様態は、どちらも光を完全に透過するわけでもなく、また強く散乱するわけでもないので、これら2つの配向様態を別箇の表示状態として利用するか否かは、用途に応じて決定される。
円筒32の壁面や上下の底面のアンカリング処理は、後に詳述するように様々な化学処理によって液晶分子に対する束縛の強度や方向を制御できるので、液晶に対する制御の自由度は大きい。そこで、アンカリング処理を施す場所を様々に変えてみると、例えば図3A,Bに示すように、円筒32側面の上下両端付近と上下底面(表示セルを構成する場合は基板の電極形成面)にそれぞれ垂直アンカリング処理32A1,32A2,32A3,32A4を施した場合には、図3Aと図3Bとで光の散乱強度が顕著に異なる2通りの配向様態が安定となり、表示材料に適した双安定が達成されることがわかる。なお、図示の例において、垂直アンカリング力は(32A1部分)<(32A2部分)の関係になっている。
すなわち、図3Aの配向様態では、円筒32の軸方向にダイレクタDが向いた領域の体積は小さく、液晶材料33の占める領域(第1の領域)とその周囲の非液晶材料の占める領域(第2の領域)とで屈折率は異なり、両者の混合媒質は顕著な光散乱を生じさせる。一方、図3Bの配向様態では、液晶のダイレクタDは大半が概ね円筒32の軸に平行に揃っており、円筒32の軸に沿って入射する平面波に対し液晶領域の屈折率はほぼn⊥であり、周囲の非液晶材料(支持材料31)の屈折率に近いので光を透過する。
以上、層状の支持材料31に形成された円筒形の孔32にネマティック液晶材料33を充填した試料の場合を例にとって、光を透過する状態と光を散乱する状態との両方が安定に存在する複合電気光学材料30の光学的性質について説明した。
次に、光を透過する状態と散乱する状態とを、外部から複合電気光学材料30に印加する電場によって切り替える方法を説明する。
図4A,Bは、上記構成の複合電気光学材料30を利用した液晶表示装置35の概略断面図である。液晶表示装置35は、一対の透明基板36a、36bと、これら一対の透明基板36a,36bに挟まれた複合電気光学材料30と、透明基板36a,36bの内面側にそれぞれ形成された透明電極37a,37bと、透明基板36bの外面側に設けられた黒色層38とを備えている。
図4A,Bに示す液晶表示装置35は、一対の透明基板36a,36b間に本発明に係る複合電気光学材料30を挟み込んで表示セルを構成したもので、両側の透明基板36a,36b上の電極37a,37b間に正または負の電圧パルスを印加することによって、複合電気光学材料30の円筒形状の孔32に充填された液晶材料33の配向状態を図4A,Bに示したように制御することができる。また、電圧パルスの印加を終了した後も、図4A,Bに示した液晶材料33の配向状態をそれぞれ保持することができる。
液晶材料33の配向状態を図4Aと図4Bとの間で切り替えるための電圧は、パルス電源39とスイッチ40とを有する駆動回路41によって供給される。駆動回路41は、透明電極37a,37b間に接続されている。なお、この駆動回路41は基板36a,36bに一体形成されていてもよいし、基板36a,36bに後付けで設置されてもよい。
図4Aに示した液晶材料33の配向状態は、図3Aに示した無電場安定状態1に対応している。この安定状態において、液晶材料33のダイレクタは基板法線方向と垂直な成分が少なく、正面側の基板36a側から入射する光を散乱させる光散乱性配向分布をもつ。この場合、観察者の目には表示面Sが白濁表示として認識される。
一方、図4Bに示した液晶材料33の配向状態は、図3Bに示した無電場安定状態2に対応している。この安定状態において、液晶材料33のダイレクタのほとんどは基板法線方向に平行に配向し、入射光を透過させる光透過性配向分布をもつ。この場合、透過光は黒色層38で吸収され、観察者の目には表示面Sが黒表示として認識される。
図3A,Bのダイレクタ分布図の右上隅の部分を注意深く観察するとわかるが、図3Bの配向様態では、右上隅のダイレクタ方向を結ぶと下方に凸の曲線が得られる。このように液晶のダイレクタ分布が湾曲している場合には、それに伴って曲率中心の方向に決まった極性を持つ撓電分極が生じる。従って、駆動回路41によって印加する電場の極性によって、この分極に決まったトルクを与え、配向様態を決まった方向へ変化させることができる。このおかげで、逆極性パルスの印加によって図3Aに示した配向様態と図3Bに示した配向様態の間の遷移を生じさせることができる。
孔32に閉じ込められた液晶の2安定状態の詳細は以下のように考えることができる。
孔に閉じ込められた液晶は、孔内壁と上下面(基板表面)からの束縛力(アンカリング力)と液晶の弾性的なエネルギーの影響とを受け、これらの総和のエネルギーにおいて安定状態が図3A,Bに示したように2通り存在する。その安定な2状態間を撓電効果による分極反転を利用して極性を持ったパルスで相互に反転させることができる。図3Aでは液晶のダイレクタDが基板面の法線から傾いているので、非液晶材料(支持材料31)の屈折率と液晶材料の屈折率とが一致せず、入射光に散乱が生じて白濁化する。一方、図3Aの状態から孔32の軸方向へ極性パルスを印加すると、図3Bに示したように液晶内部の撓電効果の分極により液晶が電場方向(Δn>0の場合)に配列するが、電圧を取り除いた後も液晶が電場方向に揃った状態を保持する。図3Bでは、液晶のダイレクタDが基板面の法線方向と一致しているので、非液晶材料の屈折率と液晶材料の屈折率とが一致し、透明状態となる。
このように、本実施の形態では、複合電気光学材料30を液晶材料33と非液晶材料である支持材料31との複合材料で形成し、液晶材料33の占有する領域を支持材料31の面内複数箇所に分散させることで、液晶材料33の充填空間を支持材料31からなる隔壁で細かく仕切り、液晶材料33の双安定化を実現し易くしている。
以上の例では、図1に示した支持材料31の孔32の形状、アンカリング処理、液晶材料33の選択にしたがって、液晶を充填した円筒孔の軸方向、すなわち表示セルの厚さ方向の電場により表示状態間の遷移が駆動される様子を説明したが、状態切替えの目的で複合電気光学材料30に印加される電場の方向はセルの厚さ方向には限定されない。適切にパターン形成された電極によって、例えば、下側基板と上側基板の間で基板法線に対して斜め方向への電場印加も可能であるし、あるいは片側の基板上にある間隔を空けて形成された電極間に概ね基板面に平行な電場を印加することもできる。更に、これに加えて対向基板上の電極も利用した3面の電極を利用して液晶配列状態を反転させることもできる。
電圧の印加方向は、それによって駆動しようとする分極がどちら方向にできているかに合わせて選択するものであるから、複合電気光学材料の中で(例えば孔形状を設計することによって)液晶にどのような分極をもつ配向様態をとらせるかによって幾通りもの可能性がある。孔32を基板法線方向に対して斜めに形成するのも、その一例である。
孔32の形状は円柱状に限らず、三角柱状や四角柱状、六角柱状(ハニカム)などの多角形構造でもよい。丸形状に比べて多角形状は、孔内壁に垂直配向処理を施した場合、基板面に対しての面内配向を形成しやすいことが分かっている。
背面基板36bと対向基板36aに挟まれた第3の面による液晶材料と非液晶材料の複合材料の断面(表示面S)において、液晶が占める領域の断面積(面積)の比が、
0.1<(液晶領域)/(非液晶領域)<10
であることが好ましい。より好ましくは、
0.3<(液晶領域)/(非液晶領域)<3
である。さらに好ましくは、
0.5<(液晶領域)/(非液晶領域)<2
である。この比が0.1以下の場合、液晶の割合が少なく、非液晶と液晶の界面が少なく、光散乱が弱くなり白濁状態が薄い傾向にある。また、上記比が10以上の場合は非液晶の比率が少ないので、欠陥なく均一に孔構造を作製しにくい場合が生じる。
また、液晶が充填される孔が多角形状である場合、丸形状である場合に比べて、面内の孔密度を高くしやすいので、光の散乱性能の点では優れる。また、孔サイズを意図的に段階的かつエリア毎に区分して配置することにより、ある電圧により反転するエリアを変化させることもできるので、これを用いて階調を持たせることも可能である。
孔の高さは、3μm以上50μm以下の範囲にあることが好ましい。3μmより低い場合は十分な光散乱性が得られず、50μmより高い場合は、駆動電圧が高くなりすぎ汎用駆動用ICが使用できず、デバイスコストが増加してしまう傾向がある。
光散乱性の観点からは、孔密度が高く、孔の高さ(深さ)は高い方が好ましいが、駆動電圧、配向処理法の観点からは孔高さは低い方が好ましく、これらパラメータにより適宜調整することができる。好ましくは10μm以上40μm以下、さらに好ましくは15μm以上30μmである。また、孔の底面の差し渡し(底面径)に対する高さの比は、
(高さ)/(底面径)>1
であることが好ましい。
液晶を充填する孔形状が円筒形でなく、図5Aに示すように孔32’が円錐台形や角錐台形の錐体形状など径が軸に沿って一様でない構造には特有の利点がある。まず、軸方向に印加される電場の極性に依存して決まった向きに液晶の配向様態が切り替えられるためには、その配向様態は軸の反転に関して非対称でなければならない。ところが、孔が円錐台や角錐台の形状をもつ場合には、液晶が充填される領域の構造自体が軸の反転に関して非対称であるので、配向処理剤の非対称な塗布などによらず、その形状によって確実に非対称配向様態の実現が期待されるからである。エッチングで孔を形成する場合に生じるテーパー形状も、この目的で積極的に利用することができる。なお、図5Bに示すように、円筒形状の孔32と円錐台形状の孔32’を組み合わせて用いることも可能である。
また、孔32が支持材料31を貫通しないような形態も、場合によっては有用である。エッチング後の孔の底がすり鉢状に形成され、その内部の液晶が支持材料と異なる屈折率を持つ場合には、このすり鉢状の界面はレンズの表面のように働く。すなわち、セルのほぼ正面から入射する光に対して、異なる屈折率をもつ境界面が傾斜して位置するため、垂直に入射する場合に比べて屈折による光の偏向が顕著になり、結果として散乱が効果的に生じるという利点がある。
更に、孔32が非貫通孔である場合、支持材料31の表裏双方の面に互いにオーバーラップしないように分散して形成されていてもよい。
次に、以上のように構成される複合電気光学材料30の製造方法について説明する。
本実施の形態の形態の複合電気光学材料30は、円筒形状の孔32が複数形成されることで、支持材料31の層内に複数の柱状空間を備えている。この柱状空間を有する支持材料層の形成方法としては、トラックエッチ法、フォトリソグラフィー法、レーザー加工法、LIGA(Lithography Galvanic forming)法、TIEGA(Teflon Include Etching and Galvanic forming)法、インプリントなどの金型成形法などを用いることができる。
トラックエッチ法とは、アクセレータで加速した重イオン(例えばArなど)を基板上または独立したポリマー膜に照射して欠陥を形成し、その後アルカリ溶液などに浸漬して欠陥を中心に溶解させて孔パターンを形成する。孔径は、浸漬時間やアルカリ溶液の濃度などにより調整することができる。なお、重イオンの照射後、ポリマーのTg(ガラス転移温度)以上に加熱した後、フォトマスクを介してUV(紫外線)露光することで孔パターンを形成することもできる。
フォトリソグラフィー法では、(1)ポリマーフィルムをRIE(Reactive Ion Etching)法によりエッチングする、(2)レジスト材料そのものをパターニングする、などの方法がある。(1)の方法では、ポリマーフィルム上にRIEのマスクとしてのメタル膜パターンを形成して、酸素などのガスを用いてRIE加工することができる。また、(2)の方法では、液体レジスト、ドライフィルムレジストのどちらも使用できるが、作製パターンにより選択できる。レジスト材料は表示装置の画像性能に影響を及ぼさない程度に呈色していてもよいが、透明であることが望ましい。例えば、化薬マイクロケム株式会社製のSU−8などを好ましく用いることができる。
LIGAおよびTIEGAプロセスは、放射光を用いた微細加工技術で、非常に高アスペクトの加工が可能であるので、孔高さが高く、孔径が小さいパターンの形成に向いている。LIGAではPMMA膜やレジスト材料を直接加工して、これ自身を表示材料として用いてもよいが、加工したPMMAやレジスト材料に電鋳、モールドすることにより金型を作製して、この金型を用いて孔パターンを作製してもよい。量産性という観点では、金型を用いる方法が好ましい。金型の作製方法は、前述のLIGAプロセス、Si(シリコン)のフォトリソグラフィー加工、機械切削などの方法を用いることができる。
支持材料31は、液晶材料33との屈折率整合が必要である。例えば、図1に示した構造でΔεが正の液晶材料を用いた場合、液晶の常光屈折率(n⊥)と支持材料の屈折率を整合することが必要である。これらの屈折率差はできるだけ小さくゼロに近いことが望ましいが、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下である。
支持材料31の材質としては、上記の加工方法と関連するが、透明なプラスチック材料を好ましく用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ノルボルネン樹脂、UV硬化樹脂、などの透明樹脂を用いることができる。
液晶材料33は特に限定されるものではないが、光散乱性の観点からできるだけ複屈折(Δn=n//−n⊥)が大きいことが望ましい。例えば次のような液晶材料を用いることができる。
液晶の種類としては、例えば、ノンキラル棒状液晶(ネマチック)、キラル棒状液晶、円盤状(ディスコチック)液晶、金属錯体液晶、エキゾチック液晶、高分子液晶などがある。液晶化合物は、環と連結基と末端基を有する。環、連結基、末端基を変化させることで、屈折率差(Δn)、粘度、誘電率差(Δε)、弾性定数K33/K11を変化させることができる。通常、環としては、六員環を用いる。六員環としては、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ピリミジン環、ジオキサン環、ピリジン環などを用いることができる。そのなかでも、ベンゼン環、ピリミジン環、ピリジン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環を主骨格に持つものが望ましい。また、1分子内の環の個数は、2個以上が好ましい。連結基としては、エステル基、エチニレン基(アセチレン)、エチレン基、エテニレン基、メチルエーテル基、ジアセチレン基、アゾメチレン基(フッフ塩基)、アゾ基、アゾキシ基などが用いられる。そのなかでも、エステル基、エチニレン基、エチレン基、アゾ基がより好ましい。さらに、末端基には、シアノ基、フルオロ基、アルキル基、酸素原子を含む基等を用いることができる。これらの環、連結基、末端基を持った液晶化合物を単一または複数混合して用いる。
次に、例えば図4Aに模式的に示した本実施の形態の表示装置35の製造方法について説明する。
透明基板36a,36bとしては、ガラス基板、プラスチック基板を用いることができる。ガラス基板としては青板ガラス、無アルカリガラス、プラスチック基板としてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)などを用いることができる。基板からの溶出イオン防止や水蒸気透過抑制を目的として、SiO2やSiNなどのバリア膜を形成してもよい。
まず、透明基板36a,36b上に、透明電極37a,37bの電極パターンを形成する。電極材料としては透明材料が好ましく、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)、IZO(Indium Zinc Oxide)などを用いることができるが、透過率と比抵抗の観点からITOが最適である。ここでは、上下基板の電極としてITOを用いる場合に限らず、下側基板36bには非透明電極を用いることもできる。例えば、金、銀、銅、タングステン、モリブデン、アルミニウムなどの単体金属やこれらを含んだ合金を用いることができる。電極のパターニング法も特に限定はされないが、フォトリソ法、スクリーン印刷法、インクジェット法などを使用できる。
パターニングされた電極の上に、液晶配向用の材料を形成することができる。配向膜材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、SiO膜、長鎖アルキルシラン化合物、臭化セチルアンモニウム、塩化N,N−ジメチル−N−オクタデシル−3−トリメトキシプロピルアンモニウム(DMOAP)、メトキシシンナマート基を持つ化合物からなるもの等を用いることができる。
続いて、上述の支持材料31を基板36b(又は36a)上に形成する。あるいは、フリースタンディング(自己支持性)の支持材料31を準備する。この支持材料31の表面にも、液晶配向制御を目的に表面修飾処理を行ってもよい。
次に、液晶材料33を支持材料31の孔32へ充填する。充填方法としては、支持材料31に真空中または減圧下で液晶を滴下、対向基板と貼り合わせる方式や、あらかじめ対向基板と貼り合わせ真空中で毛細管現象を利用して注入する方法などが使用できる。さらに、液晶注入口を封口する。
なお、液晶注入時の液晶配列欠陥解消や配向状態の均一化を目的として液晶注入したセルを加熱することもできる。さらに、電場や磁場を印加しながら昇温および/または降温することも、液晶配向状態制御という点では好ましい。
最後に、フレキシブルケーブル、駆動回路41を実装することで、表示装置35が完成となる。
以上述べたように、本実施の形態によれば、無電場状態で光透過性配向分布と光散乱性配向分布とを得ることができるため、バッテリレスで静止画像を表示することが可能となる。これにより、携帯電話等の携帯機器の表示パネルや広告板、電子書籍等の幅広い分野で応用が可能となる。
また、本実施の形態によれば、偏光板を必要とすることなく画像の明暗を形成することができるため、外光ないしは室内光のもとで明るく自然で視認容易な画像を表示させることができる。また、セルのギャップ長(基板36a,36bの対向距離)に依存する偏光面回転を利用していないので、ギャップ長の変化を生じるような使用条件にも耐えられる。例えば表面を押されたり、可撓性基板が採用された場合には基板を曲げられても、表示状態が変わって見えることがない利点を持っている。
さらに、生産工程の面においては、偏光板の貼り合わせが不要なため、工程が簡略化される。また、ギャップの調整に寛容度が高いので、プラスチックフィルムを基板としたロール供給および巻取り方式の工程にも適性が高い。
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。図6および図7A,Bは本発明の第2の実施の形態による複合電気光学材料50の概略構成を示しており、図6は複合電気光学材料50をその表示面側から見た要部平面図、図7A,Bはこの複合電気光学材料50を備えた表示装置の要部断面図である。
本実施の形態の複合電気光学材料50は、非液晶材料からなる支持材料(例えばPMMA)51とこの支持材料51に収容された液晶材料53との複合材料からなる。この例では、支持材料51は、底部51Aとこの底部51A上の複数箇所に突設された柱状体51Bとを備え、柱状体51Bが液晶材料53からなる層の厚さ方向に突出形成されることで液晶層内に島状に分散配置されている(図6において柱状体51Bは斜線部にて図示)。従って、液晶材料53は、この柱状体51Bの周囲を囲むように分布し、かつ隣接する柱状体51Bの間を介して他の領域の液晶材料53と連絡する(図6参照)。柱状体51Bと液晶材料53とは、上述の第1の実施の形態と同様に、屈折率整合がとられている。
液晶材料53が占有する領域の境界面となる柱状体51Bの側面には、液晶分子を柱状体51Bの側面に対して垂直方向に配向させる配向処理が施されることで、液晶分子を基板36a,36bの面内で束縛するアンカリング力を発現させ、図7A,Bに示す2つの安定化状態を創出させる。図7Aは、光散乱性配向分布状態を示し、図7Bは光透過性配向分布状態を示している。
図7Aに示した配向様態では、液晶のダイレクタはほぼ基板36a,36bの面内に向いており、セルに垂直入射する光に対しては柱状体51Bの部分と異なった屈折率を示すので光を散乱し白濁して見える。一方、図7Bに示した配向様態では、ダイレクタはほぼ基板36a,36bに垂直に揃い、垂直入射光に対して液晶材料53と柱状体51Bの屈折率はぼぼ等しくなって、透明状態が実現する。
このような配向様態の切替えは、円筒孔等の孔に垂直配向処理を施して液晶を充填した構造では、特に孔径が小さい場合に、実現しなくなるおそれがある。これは、小径の孔の中の液晶に対しては、向かい合って近接した側壁からの垂直アンカリングの影響を強く受けるため、図7Aの安定状態が図7Bの安定状態に卓越するためである。一方、図6においてR1,R2で示した液晶領域はそれぞれ4本の柱状体51Bで囲まれており、全周にわたって連続したものではない。このため、これら柱状体51Bの側壁に垂直配向処理を施した場合、基板面に平行な方向にダイレクタを束縛する作用は、上記孔の中の場合に比べて弱くなる。従って、ダイレクタを基板に垂直に立てた配向様態のエネルギーも著しく高まることはなく、双安定が実現される。
なお、柱状体51Bの側面に施す配向処理は、上述の例に限られない。例えば、液晶のダイレクタが柱状体51Bの側壁面に平行に倣い、たとえれば島の周囲を回遊する魚群に似た分布をとっていても、光を散乱する状態となる。凹凸基板の表面に垂直配向処理を施さない場合に、このような配向様態が実現しやすくなると考えられる。
本実施の形態のように、支持材料の占有する領域を液晶材料の層内に個々独立して分散配置させた柱状体51Bで形成することにより、以下の利点が得られる。
第1に、双安定性を期待される領域内の液晶に対して、側方からの束縛が比較的小さくなるように柱状体51Bの形状によって調節できるので、双安定の2状態間の遷移障壁エネルギーの大きさを調節したり、遷移閾値電圧の値を調節して双安定状態を設計する自由度が広がる利点がある。
第2に、液晶と非液晶との複合材料層中における両成分の体積比の選択範囲が広がる利点がある。すなわち、上述の第1の実施の形態のように、シート状の非液晶材料にリソグラフィの最小加工寸法に近い径の孔を開けて液晶を充填する場合には、液晶の体積割合を複合材料全体の半分以上にするのは比較的困難である。一方、最小加工寸法程度の径の柱を残す場合には、液晶の体積割合を全体の半分以上にするのは容易である。従って、とくに白濁状態の散乱性を向上させ明るい表示材料を得るための屈折率分布の設計自由度が広がる。
第3に、非液晶材料に凹凸パターンを形成する上で有利である。すなわち、柱を残して他の部分を溶解除去する工程において、新鮮な溶解液ないし洗浄液が基板に沿って柱の間を流れることができるので、液が流れにくい狭い孔の中の不要材を溶かす場合に比べて、残滓なく流し去ることができる。
第4に、注入口からセル内のいたるところまで柱の間に流路が連続しているため、セルを構成する両側の基板を貼り合わせた後にも、液晶の注入充填を行うことが可能になる。また、この流路のおかげで、大面積のセルにおいても比較的短時間で充填を完了できる。
非液晶材料に形成される柱状ないし島状の突起(柱状体51B)の寸法は、次のような範囲が望ましい。
まず、光学的な要請から、屈折率が異なる液晶との複合体として光を効率よく散乱するためには、光の波長の数倍以下の構造を持つことが望ましい。特に、後方散乱を増し表示材料として反射率を高めるためには、1μm程度の構造があることが望ましい。一方、力学的には、十μm以上のギャップ長程度の高さの突起を強固に維持するために、基板面内方向にある程度の広がりを持つことが望ましい。
従って、突起の形状は、短径が数μm以下で長径はそれより大きな形状に設計することも効果的である。表示材料として十分な反射率を得るためにギャップ長は数十μmを超える場合もあるので、柱状構造の長径も50μm程度まで大きく設計する場合がある。こうして、基板面内方向の突起の差し渡し寸法は、典型的には、1μm以上50μm以下の範囲が好ましい。
また、突起の高さはギャップ長の半分以上におよぶことが望ましい。ギャップ長の半分以上の厚さにわたって突起を含まない液晶層が存在すると、液晶領域内の相互作用を適切に分断することができなくなり、光の散乱に寄与しない体積割合が大きくなるからである。
さらに、この例に限らず、液晶の配向様態の切替えが生じる電圧が異なる2種またはそれ以上の種類の領域を表示画素の中に設けると、印加電圧パルスによって、一方の領域だけが光を散乱する状態と、両方の領域が散乱に寄与する状態とを得ることができる。これは階調表示の実現に適している。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図8および図9は本発明の第3の実施の形態による複合電気光学材料60の概略構成を示しており、図8は複合電気光学材料60の要部拡大斜視図、図9は当該複合電気光学材料60を備えた表示装置65の要部断面図である。
本実施の形態の複合電気光学材料60は、支持材料(例えばPMMA)61と、この支持材料の表面に等ピッチで形成された複数本の溝62と、この溝62内に充填された液晶材料63とを備えた複合材料で構成されている。すなわち、本実施の形態では、液晶材料の充填空間を円筒形状とした上述の第1の実施の形態に代えて、液晶材料の充填空間を溝62の内部空間としている。
溝62は、支持材料61の幅方向に等ピッチで配列する例に限られず、溝62をある一定の長さに形成し、この長さ方向にも等ピッチで溝62を配列させてもよい。また、溝の長さ方向は全て一様である場合に限らず、ランダム性があってもよい。さらに、溝幅や深さも特に制限されない。
溝62は、支持材料61の表面を凹状に加工する場合のほか、支持材料上にレジスト材料を塗布し露光・現像処理を経て塀状の突起を形成する等して形成することができる。
本実施の形態のように、液晶材料63の充填空間を溝62の内部空間とした場合、以下の利点がある。
第1に、孔の中に液晶を入れた場合(第1実施形態)や液晶中に柱が散在する場合(第2実施形態)と比べると、双安定性を期待される領域内の液晶に接する側壁の割合が異なるので、双安定状態を設計する自由度が広がるという利点がある。
第2に、これも柱状構造の場合と同様の理由で、液晶と非液晶との複合材料層中における両成分の体積比の選択範囲を広げ、最小加工寸法程度の厚さの壁を残す場合には、特に白濁状態の散乱性を向上させ明るい表示材料を得やすくなる利点がある。
第3に、非液晶材料に凹凸パターンを形成する上で有利である。すなわち、溝部分を新鮮な溶解液ないし洗浄液が基板に沿って溝の内部を流れることができるので、狭い孔の中の不要材を溶かす場合に比べて残滓なく流し去ることができる。
第4に、液晶注入の際に溝構造が液晶に連続した流路を提供するので、注入充填が容易で、大面積のセルにおいても比較的短時間で充填を完了できる。
非液晶材料に形成される溝状の凹部ないし塀状の突起の寸法は、次のような範囲が望ましい。
まず、屈折率が異なる液晶との複合体として光を効率よく散乱するために、溝あるいは塀の厚さは光の波長の数倍以下の構造をもつことが望ましい。特に、後方散乱を増し表示材料として反射率を高めるためには、1μm程度の厚さであることが望ましいが、厚さを薄くすることは構造の力学的強さを犠牲にするため、実用上は2μm以上が用いやすい。しかし、液晶が充填される領域の幅が大きくなると散乱が弱まるので、15μm以下が望ましい。溝状構造の長さに制限はないが、表示素子の典型的な画素サイズである300μm程度が適当な上限と考えられる。幅と長さの上限から、底面積の上限は4500μm2であることが好ましい。
比較的長い溝が等間隔で規則的に配列した場合には、反射が特定の方向に強く認められることがあるので、表示材料として均一な明るさと光沢を損なわないように、溝の長さは100μm程度までに抑えることがより好ましい。均一光沢を得るためには、溝の間隔や方向にゆらぎを持たせたパターンにすることも可能である。
また、溝の深さないし塀の高さは、ギャップ長の半分以上におよぶことが望ましい。ギャップ長の半分以上の厚さにわたって突起を含まない液晶層が存在すると、液晶領域内の相互作用を適切に分断することができなくなり、光の散乱に寄与しない体積割合が大きくなるからである。液晶が満たされる廊下状領域の幅が廊下の高さよりも広くなっていると、基板上の単位面積あたりに収められる廊下の数が小さく抑えられ、強い散乱を得るのに不利である。従って、
(廊下の高さ)/(廊下の幅)>1
が望ましい。
(第4の実施の形態)
図10A,Bは上述の各実施の形態で説明した複合電気光学材料を用いた表示装置の表示マトリクスの概念図である。ここで、図10Aはアクティブマトリクス型を示し、71はデータ線、72は走査線、73はTFT(Thin Film Transistor)、74は画素である。また、図10Bはパッシブマトリクス型を示しており、81はy方向電極線、82はx方向電極線、83は画素である。
図では、表示セルの基板内面の透明電極に挟まれた複合電気光学材料を画素ごとに分離した形態で描いているが、連続した基板上に形成した透明電極の短冊状(ストライプ状)のパターンによって、連続した板状の本発明の複合電気光学材料を挟んで表示装置が構成されることは言うまでもない。このとき、1画素当たりに相当する面積の複合電気光学材料表面(表示面)に、液晶材料で占有される領域が複数含まれる分布密度で、当該複合電気光学材料が構成されているものとする。
複合電気光学材料自体が表示状態の双安定性を有し、状態間の遷移に必要な電圧閾値が有限の大きさをもつ本発明の場合には、図10Aに示すような画素と配線の接続を薄膜トランジスタ(TFT)73によってON/OFFするアクティブマトリクス方式によらなくても、図10Bに示すようなパッシブ(単純)マトリクス方式によって、選択した画素の書込み(駆動)ができるという利点がある。
以下、本発明のいくつかの実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の各実施例では、本発明に係る複合電気光学材料を前面および背面の一対の基板間に挟んで表示セルを構成した。そして、複合電気光学材料の光散乱性配向分布状態における光反射率と、光透過性配向分布状態における光透過率とをそれぞれ測定した。
複合電気光学材料の駆動方法としては、前面基板と背面基板の電極パターン間に50V(0-peak)の矩形状のパルス(パルス幅5ms)を印加した。
反射率は、拡散照明光を試料表面に入射し反射した光を積分球つき素子で受光する光学系において測定した(測定器:ライトレックス社製SP62)。試料には電圧を印加しない状態で測定した。測定直径は13.5mmφである。標準白色板が基準の反射率となるように校正し、試料表面での正反射光が受光素子に入射しないように光トラップを設けた。
透過率は、波長670nmの半導体レーザーを光源に用い、3mWの直線偏光平行光をスポットサイズ1mm×3mmで試料面に垂直な方向から3°傾けて入射させ、試料背面側の立体角0.01ステラジアンの範囲内の透過光および散乱光をレンズで集光してフォトダイオードに導いて測定した。試料を置かず光源からの直接光を受けた場合の光電流を基準(透過率100%)とした。透過率測定の際には、試料を透過率の高い方の安定状態に遷移させた後、試料に電圧を印加しない状態で用いた。ただし、後述する比較例のポリマーネットワーク液晶を用いたセルでは、電圧50Vを印加した状態で測定した。
(実施例1)
まず、背面側の基板を作製した。ITO膜付き25mm角ガラス基板にドライフィルムレジストをラミネートし、フォトマスクを介してUV露光、現像した後、塩酸と硝酸からなる混合酸でITO膜をエッチングした。最後にドライフィルムレジストを剥離、水洗して線幅100μm/スペース50μmの150μmピッチのストライプ状ITOパターンを作製した。ITOパターン付きガラス基板にデシルトリメトキシシランの垂直配向処理を行った。以上と同様にして、対向基板(前面基板)も作製した。
次に、トラックエッチ法にて作製した孔径5μm、厚み15μmのポリカーボネート製フィルム(屈折率1.59)を背面基板に配置し、ディスペンサにてUV硬化性シール剤を塗布した。しかる後、ストライプ状のITOパターンが直交するように背面基板と対向基板の位置合わせを行い、UV照射することでいわゆる空セル(液晶未充填のセル)を作製した。さらに真空注入法にて、n//=1.7、n⊥=1.5の液晶材料を注入し、さらに注入口を封口剤にて封止してセルを作製した。最後に、液晶のNI点(ネマチック・等方相転移温度)よりも10℃高い温度で1時間保持した後、ゆっくり降温した。
電圧を印加しない状態では、作製後のセルは白濁していた。反射率は30%であった。背面基板をアース電位、対向基板に負極として−50Vのパルスを印加したところ、セルは白濁状態から透明状態に変化した。パルス電圧印加を停止した後も、この透明状態は保持され、電圧印加を停止してから(パルス立ち下がりから)10分経過後でも同様に透明な状態を保持した。この状態での透過率は74%であった。
次に、背面基板を正極、対向基板をアース電位として正極に50Vのパルスを印加すると、セルは白濁状態に変化した。そして、電圧印加を停止してから10分経過後においても同様に白濁状態を保持した。さらに、決まった極性のパルス電場によるセルの白濁状態と透明状態の切替えは、この後何度も可逆に繰り返すことができた。
(実施例2)
使用した非液晶材料(ポリカーボネート製フィルム)の孔径を10μm、厚みを10μmとした以外は、上述の実施例1と同様にしてセルを作製した。実験の結果、実施例1と同様に白濁状態と透明状態とを電圧により変化させることができ、電圧印加を停止後もその状態を保持することができた。なお、白濁状態での反射率は26%、透明状態での透過率は79%であった。
(実施例3)
非液晶材料の孔を、液体レジスト(化薬マイクロケム社製SU−8)を用いたフォトリソグラフィー法にて作製し、非液晶材料の厚みを50μmにした以外は実施例1と同様にセルを作製した。使用した液体レジストの屈折率は1.57である。実施例1と同様に、白濁状態と透明状態とを電圧により変化させることができ、電圧印加を停止後もその状態を保持することができた。実施例1と同様に、白濁状態と透明状態とを電圧により変化させることができ、電圧印加を停止後もその状態を保持することができた。なお、白濁状態での反射率は24%、透明状態での透過率は60%であった。
(実施例4)
非液晶材料の孔を、精密金型にUV硬化樹脂を流し込みUV照射し成形する金型成形法を用いて形成し、非液晶材料の厚みを30μmとした以外は実施例1と同様にしてセルを作製した。使用したUV硬化樹脂の屈折率は1.51である。実施例1と同様に、白濁状態と透明状態を電圧により変化させることができ、電圧印加を停止後もその状態を保持することができた。なお、白濁状態での反射率は38%、透明状態での透過率は71%であった。
(実施例5)
非液晶材料の孔を、精密金型にUV硬化樹脂を流し込みUV照射し成形する金型成形法を用いて形成し、非液晶材料の厚みを10μmとし、さらに垂直配向処理を施した後、この孔空きフィルムを5枚重ねて非液晶材料とした以外は、実施例4と同様にしてセルを作製した。使用したUV硬化樹脂の屈折率は1.51である。実施例4と同様に、白濁状態と透明状態を電圧により変化させることができ、電圧印加を停止後もその状態を保持することができた。なお、白濁状態での反射率は50%、透明状態での透過率は65%であった。
複数枚の孔空きフィルムを積層した場合、同じ厚みの1枚のフィルムを用いた場合に比べて、1つの孔の高さ(深さ)を低くできるので、液晶の配列状態を反転させるときの電圧を低くしやすかったり、単位体積あたり孔密度を高くできるので、光反射性能の点で優れる。
(実施例6)
ITO透明電極のパターン上に屈折率1.49、厚さ22μmの透明アクリル樹脂(PMMA)厚膜を堆積し、この厚膜から長径3.5μm、短径2μm、高さ20μmの楕円柱状突起を約1.78×104個/mm2の数密度で形成した後、柱状突起表面に垂直配向処理を施した。両基板を対向させ互いに押し当てて、2つの開口部を残して周囲をシール剤で封止した後、開口部からn// =1.7、n⊥=1.5の液晶を注入した。液晶が満たされた領域の厚さは、柱状突起の高さで規定されている。注入口を封じた後、液晶のNI転移温度より10℃高い温度に1時間保持し、室温に戻してセルを完成させた。
電場を印加しない状態では、このセルは白濁を示し、標準白色板を基準として50%の反射率を示した。両基板間にプラス30Vの矩形単一パルスを印加すると、セルは透明に見えるようになった。このときセル正面から入射する光に対する透過率は73%で、パルス印加から10分後に測定した透過率もこの値にあり、外部電場が除かれた状態でも透明な表示状態が安定に保たれていることがわかった。
次に、逆極性パルスの単一矩形パルスを印加すると、セルは白濁状態に戻り、その後電場印加のない環境で10分間状態が保持されていることが確認された。更に、決まった極性のパルス電場によるセルの白濁状態と透明状態の切替えは、この後何度も可逆に繰り返すことができた。
図6を参照して説明したように、領域R2に比べて、領域R1内では、液晶が周囲の柱51Bの側面から受ける束縛が体積あたりで小さくなっている。このため、領域R1内の液晶の配向様態は、領域R2内の液晶の配向様態に比べて小さい電場で切り替えが可能であると予測された。マイナス30Vのパルスによって表示セルを白濁化させた後、偏光顕微鏡下で領域R1と領域R2の配向様態を観察しながら、印加するプラス電圧パルスの電圧をしだいに高めたところ、領域R1では13Vで切替えが生じ、領域R2では25Vになってようやく切替えが生じた。
このように、配向様態の切替えが生じる電圧が異なるような2種またはそれ以上の種類の領域を表示画素の中に設けると、印加電圧パルスによって、一方の領域だけが光を散乱する状態と、両方の領域が散乱に寄与する状態とを得ることができる。これは階調表示の実現に適している。
(実施例7)
ITO透明電極のパターン上に屈折率1.49、厚さ30μmの透明アクリル樹脂(PMMA)厚膜を堆積し、この厚膜に幅5μm、高さ25μmで長さ100μmの溝を周期100μmで形成した。対向基板としてITOストライプ電極つきの平坦なガラス基板を用意し、これには垂直配向処理を施した。両基板を対向させ互いに押し当てて、2つの開口部を残して周囲をシール剤で封止した後、開口部からn// =1.7、n⊥=1.5の液晶を注入してセルを完成させた。液晶が満たされた領域の厚さは、溝の深さで規定されている。
この試料において、白濁状態と透明状態を示す双安定性が示され、極性の異なるパルス電場を印加することによって状態が可逆に入れ替わることが確認された。白濁状態での反射率は、標準白色板を基準にして28%、また透過状態での透過率は80%であった。
正面から見た透明状態に対応する液晶の配向様態では、液晶のダイレクタは基板の法線方向に概ね揃った配向様態をとっていると考えられる。一方、白濁して見える状態では、液晶はダイレクタが基板法線から基板面内方向へ傾いた向きをとっている領域の体積割合が大きいと考えられる。この場合、液晶ダイレクタが溝幅方向を向いている配向様態か、あるいは溝の長手方向に揃っている配向様態であるのかは、溝の側壁から液晶へのアンカリング作用の性質や、液晶の弾性係数のほか、溝幅などの幾何学的形状によって決まることである。本実施例においては、この配向様態の決定にまでは立ち入らなかった。
(比較例)
ITOパターン付き基板は実施例1と同じものを使用し、複合材料として、液晶と紫外線硬化樹脂の相溶物質に紫外線を照射してポリマーネットワーク液晶を形成してセルを完成させた。作製後のセルは白濁(反射率50%)していた。パルス電圧印加により透明化(透過率60%)したが、電圧印加を停止すると、作製直後のセルと同様に白濁状態に即座に変化した。すなわち、双安定性はなかった。
30,50,60…複合電気光学材料、31,61…支持材料、32…孔、33,53,63…液晶材料、35,65…表示装置、36a,36b…基板、37a,37b…透明電極、38…黒色層、41…駆動回路、51B…柱状体、62…溝、S…表示面。