JP2007033489A - 強誘電体結晶の製造方法および電気光学素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】 単分域化処理の均一性を高め、結晶中への金属の拡散およびクラックの発生を防止できる強誘電体結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の強誘電体結晶の製造方法は、基板作製工程S1と、作製した基板をVTE処理する工程S2と、基板上に電極膜を形成する工程S3と、基板を単分域化処理する分極工程S4と、アニール処理工程S5等を有している。本発明では、電極膜を導電性酸化物(ITO膜)のスパッタ膜で形成する。これにより、電極膜と基板との密着性を高めて単分域化処理の均一性を高めるとともに、酸化物どうしとして結晶と電極との間に熱膨張係数や拡散係数の差を生じさせないようにできるので、加熱時におけるクラックの発生や異種金属の拡散を防止し、デバイスの高品質化を図ることができる。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明の強誘電体結晶の製造方法は、基板作製工程S1と、作製した基板をVTE処理する工程S2と、基板上に電極膜を形成する工程S3と、基板を単分域化処理する分極工程S4と、アニール処理工程S5等を有している。本発明では、電極膜を導電性酸化物(ITO膜)のスパッタ膜で形成する。これにより、電極膜と基板との密着性を高めて単分域化処理の均一性を高めるとともに、酸化物どうしとして結晶と電極との間に熱膨張係数や拡散係数の差を生じさせないようにできるので、加熱時におけるクラックの発生や異種金属の拡散を防止し、デバイスの高品質化を図ることができる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、波長変換素子、光強度変調素子などの光学素子に用いられる強誘電体結晶の製造方法および電気光学素子に関し、更に詳しくは、強誘電体結晶の自発分極の制御方法に関する。
例えば現在、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)に代表される強誘電体結晶を用いた電気光学素子において、周期分極反転を用いたレーザー光の制御デバイスが提案、実現されつつある(下記特許文献1参照)。
周期分極反転構造の電気光学素子は、強誘電体結晶の分極方向を周期的に制御することで波長変換や光強度変調等を行う素子である。その構造は、図11に示すように、強誘電体結晶1と、この結晶中に形成されかつ光の伝搬方向に沿って周期的に配置された分極反転ドメイン2とを有し、例えば入射光の第2高調波を発生させる非線形光学結晶(波長変換素子)3として構成される。
なお、周期分極反転構造による波長変換法は、疑似位相整合(QPM:Quasi-Phase Matching)と呼ばれ、入射波と変換波の位相整合をとる方法である。QPMを用いたSHG(Second Harmonic Generation:第2高調波発生)では、光の波長を半分にできるため、赤外半導体レーザー等と組み合わせて紫外〜緑色域のSHGレーザーが実現されている。
さて、この種の周期分極反転デバイス作製のためには、強誘電体結晶の初期状態を分極方向が一方向に揃った単分極状態とする必要がある。一般に、育成後の強誘電体結晶は多分域状態であるため、育成後に自発分極を制御し、分極方向を揃える必要がある。これを単分域化処理あるいは単分極処理という。
強誘電体結晶の単分域化は、図12A,Bに模式的に示すように、結晶4の強誘電軸方向の両端部に電極5a,5bを配置し、両電極5a,5b間に直流電圧を印加することで実施することができる。これにより、強誘電体結晶4はその分極方向が強誘電軸方向へ揃えられる。このような原理を利用した単分域化処理として、これまで幾つかの方法が考案され、実際に使用されている。
従来の単分域化処理方法としては、下記特許文献2〜4に開示されているように、結晶を同種の粉末中に埋め込み、粉末の上部と底部に白金等の電極を配置して、キュリー点直下または直上の温度に加熱し電圧を印加する方法がある。また、下記特許文献5,6に開示されているように、結晶に導電ペーストを塗布し、キュリー点直下または直上の温度に加熱して電圧を印加する方法が知られている。更に、結晶に貴金属電極を蒸着し、やはりキュリー点近傍で電圧を印加する方法もある。
しかしながら、上述した同種粉末中に結晶を埋め込んで電圧を印加する方法や、結晶に導電ペーストを塗布して電圧を印加する方法では、粉末や導電ペーストと結晶との密着が不十分であるため、結晶内に均一に電界が印加されずに一部が多分域状態になるという問題がある。また、不均一な電界印加は、結晶表面にひずみ層を発生させ、結果として強誘電ヒステリシス特性の悪化(特にヒステリシス左右非対称、角型性の不良、ノイズの発生など)を招くという問題がある。
さらに、結晶基板に導電ペーストの塗布膜や貴金属の蒸着膜を形成しこれを電極とする方法では、酸化物である強誘電体結晶と電極金属との間の熱膨張係数および拡散係数の違いから、金属が基板中に拡散し、基板の透過率の低下やクラックの発生が起こるという問題がある。
その他、上記特許文献7には、ニオブ酸カリウム単結晶を半絶縁性物質で単分域化する方法が記載されているが、他の強誘電体結晶については記載されていない。
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、単分域化処理の均一性を高め、結晶中への金属の拡散およびクラックの発生を防止できる強誘電体結晶の製造方法および電気光学素子を提供することを課題とする。
以上の課題を解決するに当たり、本発明の強誘電体結晶の製造方法は、強誘電性酸化物結晶上に形成した一対の電極間に電圧を印加して結晶の自発分極を制御する工程を有する強誘電体結晶の製造方法において、一対の電極のうち少なくとも一方の電極を導電性酸化物で形成することを特徴とする。
本発明では、分極制御用の電極材料を導電性酸化物で形成し、結晶と同じ酸化物同士としているので、結晶と電極間の熱膨張係数、拡散係数の差がほとんど生じず、結晶中への電極元素の拡散が抑えられ、透過率等の光学特性の低下やクラック等の結晶の破損の防止が図れるようになる。
また、上記導電性酸化物は、スパッタ法等の真空薄膜形成プロセスを用いて結晶基板上に形成することにより、電極と結晶との間の密着性向上が図られ、これにより電極と結晶表面との間の空隙が低減されることから、多分域状態の残存をなくしより均一な単分域状態を形成することができる。さらに、結晶に均一な電圧を印加することが可能となり、結晶表面のひずみ層の低減を図ることができる。
ここで、導電性酸化物としては、インジウム−スズ酸化物、スズ酸化物、セレン酸化物、亜鉛酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、イリジウム酸化物、モリブデン酸化物、ランタン−ストロンチウム−コバルト酸化物、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物のいずれか、またはそれらの混合物が挙げられる。
また、強誘電性酸化物としては、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸リチウム(Li(Nb1-xTax)O3)、チタン酸燐酸カリウム(KTP:KTiOPO4)等の光学結晶として広く用いられる酸化物系強誘電体が適用可能である。
分極制御方法としては、結晶上に形成した導電性酸化物からなる一対の電極間に所定の電圧を印加する。印加電圧の大きさや処理温度等は、結晶材料の種類に応じて適宜設定される。ここで、結晶のキュリー点より低い温度で分極処理を行う場合、印加電圧としては抗電界以上の大きな電界強度が必要となる。この場合、結晶に高周波電圧を先に印加することで結晶中のバイドメインを取り除いた後、直流電圧を印加することで、比較的低温度での単分域化処理が実施可能となる。
一方、単分域化後の結晶内部には、ひずみ、残留電界、酸素欠損等が発生しており、それらの緩和・除去の目的でアニール処理を行うことが好ましい。ただし、このアニール処理に際して、結晶の焦電効果により、分域が一部反転するマイクロドメインが発生する場合がある。
そこで本発明では、アニール処理の際に、結晶上に形成した上記導電性酸化物からなる電極間を互いに短絡させることで結晶表面を等電位に維持し、焦電効果によるマイクロドメインの発生を抑制する。なお、導電性酸化物からなる電極は、高温による酸化等の劣化がないので、アニール処理の際に結晶に悪影響を与えることはない。
さらに、本発明の電気光学素子は、分極処理に用いた上記導電性酸化物からなる電極を例えば光強度変調器等の光学デバイスの駆動電極として備えることを特徴とする。この構成により、分極処理後の電極膜除去工程を廃止でき、かつデバイス作製時に駆動電極の形成工程が不要となるので、デバイスの生産性を高めることができる。また、結晶の単分域化処理を均一に行えるので、デバイスの設計自由度および動作信頼性を高めることが可能となる。
以上述べたように、本発明によれば、強誘電体結晶の分極処理を均一に行うことができるので、素子特性の向上と動作信頼性の向上を図ることができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態による強誘電体結晶の製造方法の工程フローを示している。本実施の形態では、強誘電性酸化物結晶の基板を作製する工程S1と、作製した基板をVTE(Vapor Transport Equilibration)処理する工程S2と、基板上に電極膜を形成する工程S3と、基板を単分域化処理する分極工程S4と、アニール処理工程S5と、後加工工程S6とを有している。
以下、各工程について説明する。
(基板作製工程S1)
図2に示すように、基板10はウェーハ状に切り出して作製される。本実施の形態ではチョクラルスキー法(溶融引き上げ法)で育成された直径2インチのタンタル酸リチウム結晶基板をz面で1mmの厚みで切り出した。なお、結晶の育成法、基板の径、厚さ等はデバイスの用途に応じて任意に決定することができる。また、結晶はタンタル酸リチウム(LiTaO3)に限らず、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸リチウム(Li(Nb1-xTax)O3)、チタン酸燐酸カリウム(KTP:KTiOPO4)等の他の強誘電性酸化物結晶が適用可能である。
図2に示すように、基板10はウェーハ状に切り出して作製される。本実施の形態ではチョクラルスキー法(溶融引き上げ法)で育成された直径2インチのタンタル酸リチウム結晶基板をz面で1mmの厚みで切り出した。なお、結晶の育成法、基板の径、厚さ等はデバイスの用途に応じて任意に決定することができる。また、結晶はタンタル酸リチウム(LiTaO3)に限らず、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸リチウム(Li(Nb1-xTax)O3)、チタン酸燐酸カリウム(KTP:KTiOPO4)等の他の強誘電性酸化物結晶が適用可能である。
(VTE処理工程S2)
上記基板作製工程で得られる単結晶タンタル酸リチウム結晶基板10は、一致溶融組成(congruent lithium tantalite:cLT)と呼ばれ、Li/Ta比が0.94程度である。この基板に、VTE処理と呼ばれるリチウム蒸気中熱処理を施すことにより、化学量論組成(stoichiometric lithium tantalite:sLT)の基板(Li/Ta比がほぼ1)へと組成変化させる。sLT基板は、cLT基板と比較して抗電界Ecが2桁以上低い約80mV/mmという値を持ち(M.Katzelal.,Opt.Lett.29,1775(2004))、光デバイスへの応用が非常に有利となる。
上記基板作製工程で得られる単結晶タンタル酸リチウム結晶基板10は、一致溶融組成(congruent lithium tantalite:cLT)と呼ばれ、Li/Ta比が0.94程度である。この基板に、VTE処理と呼ばれるリチウム蒸気中熱処理を施すことにより、化学量論組成(stoichiometric lithium tantalite:sLT)の基板(Li/Ta比がほぼ1)へと組成変化させる。sLT基板は、cLT基板と比較して抗電界Ecが2桁以上低い約80mV/mmという値を持ち(M.Katzelal.,Opt.Lett.29,1775(2004))、光デバイスへの応用が非常に有利となる。
(電極膜形成工程S3)
次に、図3に示すように、得られたsLT基板10のz面の両面(強誘電軸の軸方向両端面)に電極膜11を形成する。この電極膜11は導電性酸化物で形成され、特に本実施の形態では、インジウム−錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)膜で形成されている。電極膜11の膜厚は、例えば100nmである。
次に、図3に示すように、得られたsLT基板10のz面の両面(強誘電軸の軸方向両端面)に電極膜11を形成する。この電極膜11は導電性酸化物で形成され、特に本実施の形態では、インジウム−錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)膜で形成されている。電極膜11の膜厚は、例えば100nmである。
導電性酸化物は、ITOに限らず、Sn(スズ)酸化物、Se(セレン)酸化物、Zn(亜鉛)酸化物、Ru(ルテニウム)酸化物、Re(レニウム)酸化物、Ir(イリジウム)酸化物、Mo(モリブデン)酸化物、LaSrCo(ランタン−ストロンチウム−コバルト)酸化物、LaSrMn(ランタン−ストロンチウム−マンガン)酸化物のいずれか、またはそれらの混合物など、他の導電性酸化物が適用可能である。導電性酸化物の膜厚は、単分域化に十分な電界強度を与えられる導電率を持つ厚みとされ、導電性酸化物の種類、強誘電体結晶の種類、結晶厚などによって決定される。
この導電性酸化物からなる電極膜11の形成は、スパッタリング法、真空蒸着法、ゾルゲル法、PLD(パルスレーザーデポジション)法などの成膜方法が適用可能であり、特にスパッタリング法、蒸着法などの真空薄膜形成プロセスを採用することにより、結晶基板上に密着性高く、膜厚が一様な電極膜11を形成することができる。
(分極処理工程S4)
次に、図4に示すように、電極膜11を両面に形成した結晶基板10を電気炉12の内部に設置し、電圧源13に電極膜11をそれぞれ接続する。そして、電極膜11,11に所定電圧を印加し基板10の自発分極を制御する処理を行う。本実施の形態では、この分極処理工程で、結晶基板10を単分域化する。
次に、図4に示すように、電極膜11を両面に形成した結晶基板10を電気炉12の内部に設置し、電圧源13に電極膜11をそれぞれ接続する。そして、電極膜11,11に所定電圧を印加し基板10の自発分極を制御する処理を行う。本実施の形態では、この分極処理工程で、結晶基板10を単分域化する。
基板10の分極処理は室温あるいは加熱雰囲気下で行われる。加熱温度は、基板10のキュリー点(Tc:本例では665℃)以下で行う場合には、50℃以上400℃以下、好ましくは80℃以上250℃以下とする。このように分極処理をTc以下の低温雰囲気で行うことにより、基板10と電極膜11との間の熱膨張率差に起因する基板10へのクラック発生を抑えられる。
特に、本実施の形態では電極膜11を導電性酸化膜(ITO)で形成し、基板10と同じ酸化物同士としているので、基板10と電極膜11間の熱膨張係数、拡散係数の差がほとんど生じず、基板10中への電極膜11構成元素の拡散を防止できる。これにより、基板10の光学特性あるいは電気光学特性の低下や、クラック等に起因する基板10の破損を防止できる。
分極処理をTc以下の温度で行う際、基板10の抗電界以上の高い電界強度が必要となる。この場合、印加電圧としては基板10の電界強度の20倍以下、好ましくは2倍〜10倍とする。本実施の形態では、上述したように育成したcLT基板をVTE処理してsLT組成に変化させる工程を挿入しているので、基板10の電界強度を低下でき、これにより分極時の印加電圧低減を図ることができる。
本実施の形態では、導電性酸化物からなる電極膜11をスパッタリング法等の真空薄膜形成プロセスを用いて形成しているので、下地の基板10との密着性が高められている。これにより、従来の粉末を介在させた電極配置例や導電性ペーストの塗布による電極形成に比べて、基板10表面と電極膜11間の空隙を大幅に低減でき、多分域状態の残存をなくして、より均一な単分域状態を形成することができる。また、基板10に均一な電圧を印加することができるので、基板10の表面ひずみ層の低減を図ることができる。
さらに、通常の分極処理では、基板10に直流電圧を印加して行われるが、あらかじめRF(高周波)電圧を基板10に印加することで、基板10中のバイドメインの除去を図ることができる。これにより、直流電圧印加時に基板10の分極方向を均質化でき、Tc以下の加熱温度においても単分域化処理の均一性を高められることになる。
一方、この分極処理をTc以上の加熱温度下で行ってもよく、この場合、加熱温度は、(Tc+100℃)以下の温度とするのが好ましい。分極処理をTc以上の加熱温度下で行うことにより、結晶の抗電界より低い電界強度で基板10の単分域化処理が可能となる。
ここで本実施の形態においては、上述しているように、電極膜11を導電性酸化膜で形成し、基板10と同じ酸化物同士としているので、耐熱性に優れ、基板10と電極膜11間の熱膨張係数や拡散係数の差がほとんど生じず、したがって基板中への電極膜11構成元素の拡散やクラック等に起因する基板10の破損を抑制することができる。すなわち、Tc以上の高温雰囲気においても基板10を劣化させることなく分極処理を行える点で、非常に有利となる。
(アニール処理工程S5)
アニール処理は、分極処理した基板10を所定温度に加熱することで、基板10中に生じた内部ひずみや残留電界、酸素欠損を緩和することを目的として行われる。アニール条件は特に限定されないが、アニール温度は高温であるほど効果が高く、例えばTc近傍、あるいは(Tc−100℃)以上(Tc+100℃)以下の温度が好ましい。
アニール処理は、分極処理した基板10を所定温度に加熱することで、基板10中に生じた内部ひずみや残留電界、酸素欠損を緩和することを目的として行われる。アニール条件は特に限定されないが、アニール温度は高温であるほど効果が高く、例えばTc近傍、あるいは(Tc−100℃)以上(Tc+100℃)以下の温度が好ましい。
図5に示すように、アニール処理時、基板10はアニール処理炉14の内部に基板10が設置され上記所定温度に加熱される。このとき、結晶の焦電効果により、分域が一部反転するマイクロドメインが発生することがある。本実施の形態では、アニール中は図示するように両面の電極膜11を導線15を介して互いに短絡させ、基板10の両面を等電位に維持している。これにより、焦電効果によるマイクロドメインの発生を抑制するとともに基板10の破損を防止することができる。
なお、このアニール処理工程は、分極処理をキュリー点以下の温度で行った際の後工程として効果的なものであるので、分極処理をキュリー点以上の温度で行った場合には、必要に応じて省略可能である。
(後加工工程S6)
この後加工工程は、基板10の表面を機械研磨することで、基板10の電極膜11を除去すると同時に、単分域化処理時に発生した基板10の表面ひずみ層を除去する目的で行われる。電極膜11除去後の基板10表面の除去加工量(深さ)は、5μm以上300μm以下、好ましくは30μm以上100μm以下とする。これら表面ひずみ層および電極膜11の除去は、機械研磨のほか、塩酸、塩化鉄水溶液などを用いたウェットエッチングもしくはドライエッチング、あるいはその両方を用いて行ってもよい。
この後加工工程は、基板10の表面を機械研磨することで、基板10の電極膜11を除去すると同時に、単分域化処理時に発生した基板10の表面ひずみ層を除去する目的で行われる。電極膜11除去後の基板10表面の除去加工量(深さ)は、5μm以上300μm以下、好ましくは30μm以上100μm以下とする。これら表面ひずみ層および電極膜11の除去は、機械研磨のほか、塩酸、塩化鉄水溶液などを用いたウェットエッチングもしくはドライエッチング、あるいはその両方を用いて行ってもよい。
なお、この後加工工程においては、作製した単分極基板10に周期反転ドメインを形成する工程を入れてもよい。この場合、基板表面に分極反転用の電極膜が周期的に形成される。また、この後加工工程においては、ウェーハ状の基板10をチップ状に個片化しデバイス化する工程が含まれていてもよい。
一方、本実施の形態によれば、電極膜11を導電性酸化物で形成することにより、分極処理時における結晶の表面ひずみ層の発生を抑制できるので、当該後加工工程を省略することができる。この場合、分極処理に用いた電極膜11を、以上のようにして作製された強誘電体結晶すなわち電気光学素子の駆動電極として用いることができる。
例えば図6は、上述の各工程を経て製造された強誘電体結晶10Aを用いて光強度変調器20を構成した例を示している。この光強度変調器20は、強誘電体結晶10Aの光軸(強誘電軸)をz軸方向に向けて配置されており、その表裏面に形成されている駆動電極11A,11Aに駆動電源21からの信号電圧が印加される。結晶10Aに電圧が印加されると、強誘電体結晶10Aの有する電気光学効果により結晶10Aの屈折率が変化し、x軸方向へ伝播する光ビームの光路長に応じて位相差を生じさせる。結晶10Aに直線偏光が入射した場合は、位相差により偏光面が回転して出力され、検光子22で検出されることで強度変調器として利用される。
このような構成の光強度変調器20においては、駆動電極11Aが強誘電体結晶10Aの自発分極制御工程に用いた導電性酸化物薄膜で形成されている。従って、強誘電体結晶10Aの作製後に従来実施されていた電極膜の除去が不要となるので、強誘電体結晶10Aの製造工程を簡素化でき生産性の向上が図れるようになる。また、この駆動電極11Aを用いて強誘電体結晶10Aの分極処理が行われており、強誘電体結晶10Aの素子特性の劣化が抑えられることから、光強度変調器20としての動作信頼性の向上を図ることができるようになる。
以上のように本実施の形態によれば、結晶基板10と電極膜11との間の密着性の向上により、単分域化の際に問題とされていたような多分域領域の残存の発生を抑えられ、基板全体にわたる均一な単分域化が可能となる。
また、電極膜11が一様な膜厚を持ち、分極処理の際に基板10に対して均一な電界印加が可能となるため、基板表面のひずみ層の発生緩和を図ることができる。特に、表面ひずみ層は強誘電ヒステリシスに影響を及ぼし、ヒステリシスの非対称化、角型性の悪化、さらに分極の移動がひずみによって妨げられるバルクハウゼンノイズが発生する。ひずみ層抑制の効果は、強誘電ヒステリシスの非対称性の改善、良好な角型性、そしてバルクハウゼンノイズの低減を図ることができる。
さらに、電極膜11を導電性酸化物で形成したことにより、電極膜11の熱膨張係数、拡散係数を強誘電体結晶基板10の熱膨張係数、拡散係数に近づけられるため、高温での単分域処理を行っても基板に対する悪影響を少なく抑えることができる。また、アニール時に電極11間を短絡させることにより、焦電効果によるマイクロドメインの発生を抑制することができる。これにより、デバイス化にあたって重要なパラメータである抗電界の値を精度よくコントロールすることが可能となる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
(実施例1)
チョクラルスキー法で育成された直径2インチのタンタル酸リチウム単結晶基板(LT基板)を、z面で1.0mmの厚みで切り出した。得られた単結晶LiTaO3基板にVTE処理を施すことにより、一致溶融組成から化学量論組成へ変化させた。このようにして得られたLT基板のz面の両面にそれぞれ、電極膜としてITO膜をスパッタリング法にて100nm形成した。
チョクラルスキー法で育成された直径2インチのタンタル酸リチウム単結晶基板(LT基板)を、z面で1.0mmの厚みで切り出した。得られた単結晶LiTaO3基板にVTE処理を施すことにより、一致溶融組成から化学量論組成へ変化させた。このようにして得られたLT基板のz面の両面にそれぞれ、電極膜としてITO膜をスパッタリング法にて100nm形成した。
電極膜11を形成したLT基板を電気炉中に設置し、単分域処理を行った。処理条件としては、まず室温にて1kVのRF電圧を印加した後、基板を加熱し、200℃到達時に1kVのDC電圧を印加した。電圧印加状態のまま、基板を100℃/hの冷却速度で冷却し、室温にて電圧を降下させた。続いて、VTE処理および分極処理の際に発生した内部ひずみの緩和、酸素欠損の補填を目的として、得られた基板を大気中で610℃×10時間の条件でアニールした。
以上のようにして作製されたLT基板は、検査の結果、十分な単分域状態となっていることが判明した。上記検査の方法としては、HF/HNO3混合溶液中に基板を浸漬し、エッチングパターンを観察することで判定する手法を用いた。次に、基板の両面を60μm機械研磨して電極膜および表面ひずみ層を取り除いた。
比較のため、従来広く用いられている炭素系導電ペーストを用いてLT基板の両面に電極膜を形成したサンプルを作製し、これを単分域化およびアニールの各処理を施した。単分域化およびアニールの各条件は上記実施例1と同様とした。以上のようにして作製された比較例に係るLT基板の分極状態を上記手法を用いて検査したところ、一部に多分域状態の残存が認められた。
図7に、実施例1および比較例に係る基板の強誘電ヒステリシスをそれぞれ示す。横軸は外部印加電圧を示し、縦軸は基板内の自発分極を示している。また、図7において実線は電極膜をITO膜で形成した実施例1に係るLT基板を示し、一点鎖線は電極膜を導電ペーストで形成した比較例に係るLT基板を示す。
図7に示すように、比較例に係るLT基板では、ヒステリシスの対称性が崩れており、角型性も悪く、バルクハウゼンノイズ(図中Aの部分)が認められる。導電ペーストで形成した電極膜による電圧印加が不均一であるため、表面に発生したひずみ層が表面研磨後でも残存し、特例劣化の原因となっていると考えられる。
これに対し、本実施例のように電極膜をITO膜で形成したLT基板においては、ヒステリシスの対称性が良好で、かつ角型性がよく、バルクハウゼンノイズもほとんど認められない。以上のように、導電性酸化物が単分域化を行う電極材料として非常に有効であることがわかる。
(実施例2)
実施例1と同様に、sLT基板を作製しITO膜でなる電極膜を形成した。この基板を電気炉中に設置し、単分域処理を行った。処理条件としては、基板をキュリー温度以上の750℃に加熱した後、160Vの直流電圧を印加した。そして、電圧印加状態のまま基板を100℃/hの冷却速度で冷却し、室温にて電圧を降下させた。十分な高温で処理したため、本実施例では単分域化後のアニールは行っていない。なお、酸素欠損の状態、結晶内のひずみの状態によってはアニールを行うことも有効である。
実施例1と同様に、sLT基板を作製しITO膜でなる電極膜を形成した。この基板を電気炉中に設置し、単分域処理を行った。処理条件としては、基板をキュリー温度以上の750℃に加熱した後、160Vの直流電圧を印加した。そして、電圧印加状態のまま基板を100℃/hの冷却速度で冷却し、室温にて電圧を降下させた。十分な高温で処理したため、本実施例では単分域化後のアニールは行っていない。なお、酸素欠損の状態、結晶内のひずみの状態によってはアニールを行うことも有効である。
以上のようにして単分域化処理を施したLT基板は、検査の結果、十分な単分域状態となっていることが認められた。
図8は、本実施例において作製したLT基板の強誘電ヒステリシスを一点鎖線で示す。なお上記実施例1で説明したLT基板の強誘電ヒステリシスを実線で併せて示す。本実施例においても、角型性が良好で、かつバルクハウゼンノイズもほとんど認められない。実施例1と異なるのは抗電界(自発分極0のときの印加電圧)が60%程度増加している。これは、基板に与える温度と電圧というエネルギーを制御することによって、抗電界の値を変化させることができることを示唆している。
(実施例3)
ITO膜で電極膜を形成し単分域処理したLT基板結晶を、図9に模式的に示すように光強度変調器用の電気光学素子に用いてその素子特性を評価した。なお、図9において図6と対応する部分については同一の符号を付している。すなわち本実施例においては、単分域処理に用いたITO膜からなる電極膜が、素子作製後除去されずに、デバイスの駆動電極11Aとしてそのまま使用されている。
ITO膜で電極膜を形成し単分域処理したLT基板結晶を、図9に模式的に示すように光強度変調器用の電気光学素子に用いてその素子特性を評価した。なお、図9において図6と対応する部分については同一の符号を付している。すなわち本実施例においては、単分域処理に用いたITO膜からなる電極膜が、素子作製後除去されずに、デバイスの駆動電極11Aとしてそのまま使用されている。
評価方法としては、結晶10Aに偏光軸が45度回転した直線偏光緑色レーザー(Nd−YAGレーザー光の第2高調波:532nm)を入射させたときの強度変調特性を測定した。電極膜11A,11Aは結晶10Aの光軸方向(強誘電軸方向)の両端面に形成されていることから、駆動電源21の入力電圧は結晶10Aの光軸方向に印加される。出力光の強度は検光子22で検出される。
図10は本実施例の実験結果を示している。横軸は駆動電源21の入力電圧Vを、縦軸は出力光の相対強度を示している。出力波形が滑らかで対称性も高い。これは、ITO膜を電極膜に用いたことで、結晶の均一な単分域処理を行えたことによる。また、半波長電圧(ピーク強度が得られる電圧)65Vの設計に対して、実測値70Vと良好な結果が得られた。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、基板10の両面に形成した導電性酸化物薄膜を形成し、更にその上に白金や導電ペースト等の他の電極材料を設けることで、導電性酸化物薄膜の劣化を防ぐことができる。なお、基板両面に形成される電極膜は、少なくとも一方側の面を導電性酸化物膜とするだけでも一定の効果を得ることができる。
また、基板10の両面に形成される電極膜をともに同種の導電性酸化物(ITO)とする構成に限らず、互いに異種材料からなる導電性酸化物で形成してもよい。この場合、単分域化処理時、電圧降下の際に生じるバックスイッチング現象(分極方向が逆向きになる現象)を抑制でき、より確実な単分域化が可能となる。
更に、以上の実施の形態では、結晶の両面に一対のITO電極膜11をそれぞれ形成し分極処理を行うようにしたが、この電極膜を更に複数組配置して結晶の自発分極を制御するようにしてもよい。この構成により、例えば図11に示した形態の周期分極反転構造の電気光学素子の作製が可能となる。
更に、作製された強誘電体結晶を波長変換素子や光強度変調器等の電気光学素子に適用する場合、結晶中にMgOやZnO、ScO、InO等の不純物物質を添加することで、結晶の光損傷の低減を図ることができる。
そして、結晶の単分域処理は、定電圧印加で行う場合に限らず、結晶に定電流を通電することで単分域処理を行うようにしてもよい。すなわち、Tc以上の温度では結晶内に流れる電流の制御が容易なため、定電流での単分域化が可能となる。なお、単分域化時に結晶を流れる電流が多いと結晶内に欠陥が増加する場合があるが、最適な定電流で単分域化することで結晶内の欠陥発生を制御でき、強誘電体結晶のヒステリシス特性を変化させて抗電界の値をコントロールすることが可能となる。
10…強誘電体結晶(基板),10A…強誘電体結晶、11…電極膜、11A…駆動電極、12…電気炉、13…電圧源、14…アニール処理炉、15…導線、20…光強度変調器、21…駆動電源、22…検光子。
Claims (10)
- 強誘電性酸化物結晶上に形成した一対の電極間に電圧を印加して前記結晶の自発分極を制御する工程を有する強誘電体結晶の製造方法において、
前記一対の電極のうち少なくとも一方の電極を導電性酸化物で形成する
ことを特徴とする強誘電体結晶の製造方法。 - 前記自発分極を制御する工程は、前記結晶を単分域化処理する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記自発分極を制御する工程は、
前記一対の電極間に高周波電圧を印加する工程と、
前記結晶をキュリー点よりも低い温度に加熱する工程と、
前記一対の電極間に直流電圧を印加する工程とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記自発分極を制御する工程の後、前記結晶をアニール処理する工程を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記アニール処理工程では、前記結晶上の一対の電極間を短絡させる
ことを特徴とする請求項4に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記結晶の自発分極を制御する工程は、
前記結晶をキュリー点以上の温度に加熱する工程と、
前記一対の電極間に直流電圧を印加する工程とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記結晶には、リチウム蒸気中で熱処理されたタンタル酸リチウム結晶を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記導電性酸化物として、インジウム−スズ酸化物、スズ酸化物、セレン酸化物、亜鉛酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、イリジウム酸化物、モリブデン酸化物、ランタン−ストロンチウム−コバルト酸化物、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物のいずれか、またはそれらの混合物を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 前記電極の形成に真空薄膜形成法を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体結晶の製造方法。 - 強誘電性酸化物結晶の強誘電軸とは非平行な面に、少なくとも一対の電極が設けられた電気光学素子であって、
前記電極が導電性酸化物からなる
ことを特徴とする電気光学素子。
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JP2005212184A JP2007033489A (ja) | 2005-07-22 | 2005-07-22 | 強誘電体結晶の製造方法および電気光学素子 |
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WO2007136056A1 (ja) | 2006-05-22 | 2007-11-29 | Sharp Kabushiki Kaisha | 受信機及び受信方法 |
JP2011195348A (ja) * | 2010-03-17 | 2011-10-06 | Yukio Watabe | 酸化物強誘電体の分極電場の増大法 |
JP2013236276A (ja) * | 2012-05-09 | 2013-11-21 | Shin Etsu Chem Co Ltd | 弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶、その製造方法及び弾性表面波素子用複合圧電基板 |
JP2014154911A (ja) * | 2013-02-05 | 2014-08-25 | Shin Etsu Chem Co Ltd | 弾性表面波素子用タンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法及びその弾性表面波素子用タンタル酸リチウム単結晶基板 |
CN112965269A (zh) * | 2021-03-07 | 2021-06-15 | 天津大学 | 一种自准直空间型铌酸锂电光相位调制器及其制备方法 |
-
2005
- 2005-07-22 JP JP2005212184A patent/JP2007033489A/ja active Pending
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