JP2007030131A - 高反応性被削材の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製歯切工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】表面被覆超硬合金製歯切工具が、炭化タングステン基超硬合金製歯切工具基体の表面に、(a)いずれも(Ti,Al,Ta)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、上記薄層Aは、組成式:[Ti1-(A+B)AlATaB]Nを満足する(Ti,Al,Ta)N層、上記薄層Bは、組成式:[Ti1-(C+D)AlCTaD]Nを満足する(Ti,Al,Ta)N層、からなり、(c)上記下部層は、単一相構造を有し、組成式:[Ti1-(E+F)AlETaF]Nを満足する(Ti,Al,Ta)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる。
【選択図】なし
Description
従来、一般に自動車や航空機、さらに各種駆動装置などの構造部材として各種歯車が用いられ、これら歯車の歯形の歯切加工に被覆超硬歯切工具(ソリッドホブ)が用いられている。
また、被覆超硬歯切工具としては、例えば図3に概略斜視図で示される通り、回転軸に対して放射状に、かつ長さ方向に沿って複数の歯溝が形成され、それぞれの歯溝間に、前記歯溝に面し、回転方向に対して前面がすくい面となる前後面と、逃げ面となる頂面(歯先歯面)および両側面(左右歯面)で構成された歯部が、長さ方向に沿って連続的に複数形成された形状に機械加工された炭化タングステン基超硬合金製歯切工具本体(以下、超硬歯切基体という)の表面に、各種の硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆超硬歯切工具が知られている。
組成式:[Ti1-(X+Y) AlX TaY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.65、Yは0.01〜0.09を示す)、
を満足するTiとAlとTaの複合窒化物[以下、(Ti,Al,Ta)Nで示す]層からなる硬質被覆層を2〜8μmの平均層厚で蒸着形成することが知られており、前記(Ti,Al,Ta)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さおよび耐熱性、同Tiによって高温強度が向上し、さらに同Taによって被削材との間の反応性抑止効果が発揮されるようになることも知られている。
(a)硬質被覆層を構成する(Ti,Al,Ta)N層において、Ta成分の含有割合を多くすればするほど高反応性被削材との反応性は低下するようになるが、上記の従来(Ti,Al,Ta)N層における1〜9原子%程度のTa含有割合では、前記高反応性被削材との反応を、高熱発生を伴う高速歯切加工で満足に抑制することはできず、高速歯切加工で前記高反応性被削材との反応を十分抑制するには前記1〜9原子%をはるかに越えた50〜70原子%のTa含有が必要であり、一方50〜70原子%のTa成分を含有した(Ti,Al,Ta)N層を硬質被覆層として実用に供するには、所定量のTiを含有させて所定の高温強度を確保する必要があるが、この場合Al成分の含有割合は著しく低い状態となるのが避けられず、この結果高温硬さおよび耐熱性のきわめて低いものとなること。
組成式:(Ti1-(C+D)AlCTaD)N(ただし、原子比で、Cは0.30〜0.45、Dは0.20〜0.35を示す)を満足する、相対的にAl成分の含有割合を多くし、一方所定量のTi成分を含有させて高温強度を確保するためにTa成分の含有割合を相対的に低くした(Ti,Al,Ta)N層、
を、それぞれの一層平均層厚を5〜20nm(ナノメーター)の薄層とした状態で、交互積層すると、この結果の(Ti,Al,Ta)N層は、薄層の交互積層構造によって、上記の高Ta含有の(Ti,Al,Ta)N層(以下、薄層Aという)のもつすぐれた被削材反応性抑制効果と、前記薄層Aに比して相対的にTa含有割合を低く、かつAl含有割合を高くした(Ti,Al,Ta)N層(以下、薄層Bという)のもつ相対的に高い高温硬さおよび耐熱性とを具備するようになるので、硬質被覆層として実用に供することができるようになること。
組成式:[Ti1-(E+F)AlETaF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.09を示す)を満足する、単一相構造の(Ti,Al,Ta)N層、
を設けた構造にすると、この結果の硬質被覆層は、一段とすぐれた被削材反応性抑制効果に加えて、高温硬さと耐熱性、さらに高温強度を備えたものとなるので、この硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆超硬歯切工具は、上記の高反応性被削材の高熱発生を伴う高速歯切加工でも、前記高反応性被削材と硬質被覆層との反応摩耗が著しく抑制された状態で歯切加工が行われるので、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)いずれも(Ti,Al,Ta)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも5〜20nm(ナノメ−タ−)の層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(A+B)AlATaB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.50〜0.70を示す)を満足する(Ti,Al,Ta)N層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(C+D)AlCTaD]N(ただし、原子比で、Cは0.30〜0.45、Dは0.20〜0.35を示す)を満足する(Ti,Al,Ta)N層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(E+F)AlETaF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.09を示す)を満足する(Ti,Al,Ta)N層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、高反応性被削材の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬歯切工具(表面被覆超硬合金製歯切工具)に特徴を有するものである。
(a)下部層の組成式および層厚
上記の通り、硬質被覆層を構成する(Ti,Al,Ta)N層におけるAl成分には高温硬さおよび耐熱性を向上させ、一方同Ti成分には高温強度、さらに同Ta成分には特に被削材との反応性を著しく低減させる作用があり、下部層ではAl成分の含有割合を全体的に多くして、高い高温硬さおよび耐熱性を具備せしめるが、Alの含有割合を示すE値がTiとTaとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.50未満では、相対的にTiの割合が多くなって、高速歯切加工に要求されるすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方Alの割合を示すE値が同0.65を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、E値を0.50〜0.65と定めた。
また、Taの割合を示すF値がTiとAlとの合量に占める割合で、0.01未満では、所定の被削材反応性抑制効果を確保することができず、一方同F値が0.09を超えると、高温強度が急激に低下するようになることから、F値を0.01〜0.09と定めた。
さらに、その層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱性を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その層厚が6μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その層厚を2〜6μmと定めた。
上部層の薄層Aの(Ti,Al,Ta)NにおけるTa成分は、上記の通りその含有割合をできるだけ高くして、被削材反応性抑制効果を一段と向上させ、もって高熱発生を伴う高反応性被削材の高速歯切加工での反応摩耗低減を図る目的で含有するものであり、したがってB値が0.50未満では所望のすぐれた被削材反応性抑制効果を確保することができず、一方B値が0.70を越えると、相対的にTi成分の含有割合が少なくなり過ぎて、層自体が具備すべき高温強度を確保することができなくなることから、B値を0.50〜0.70と定めた。
また、Alの割合を示すA値がTiとTaとの合量に占める割合で、0.01未満では、最低限の高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗促進の原因となり、一方同A値が0.10を超えると、高温強度が低下するようになり、チッピング発生の原因となることから、A値を0.01〜0.10と定めた。
上部層の薄層Bにおいては、上記薄層Aに比してTa成分の含有割合を相対的に低くし、かつAl成分の含有割合を相対的に高く維持することで、前記薄層Aに不足する高温硬さおよび耐熱性を具備せしめ、隣接する薄層Aの高温硬さおよび耐熱性不足を補強し、もって、前記薄層Aの有するすぐれた被削材反応性抑制効果と、前記薄層Bの有する相対的に高い高温硬さおよび耐熱性を具備した上部層を形成するものであるが、組成式におけるAlの含有割合を示すC値が0.30未満になると、所定の高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗進行が促進するようになり、一方同C値が0.45を越えると、上部層全体の高温強度低下は避けられず、チッピング発生の原因となることから、C値を0.30〜0.45と定めた。
また、Taの割合を示すD値がTiとAlとの合量に占める割合で、0.20未満では、上部層全体の被削材反応性抑制効果の低下が避けられず、一方同D値が0.35を超えると、上部層全体の高温強度が急激に低下するようになることから、D値を0.20〜0.35と定めた。
それぞれの層厚が5nm未満ではそれぞれの薄層を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果上部層に所望のすぐれた被削材反応性抑制効果、さらに所定の高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、またそれぞれの層厚が20nmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温硬さと耐熱性不足、薄層Bであれば被削材反応性抑制効果不足が層内に局部的に現れ、これが原因でチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進するようになることから、それぞれの層厚を5〜20nmと定めた。
その層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた被削材反応性抑制効果および所定の高温硬さと耐熱性を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その層厚が1.5μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その層厚を0.5〜1.5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Ti−Al−Ta合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬歯切基体表面を前記Ti−Al−Ta合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Ti−Al−Ta合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬歯切基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,Ta)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層A形成用Ti−Al−Ta合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記超硬歯切基体の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、前記薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層B形成用Ti−Al−Ta合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し(この場合薄層Bの形成から開始してもよい)、再び前記薄層A形成用Ti−Al−Ta合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層B形成用Ti−Al−Ta合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記超硬歯切基体の表面に、層厚方向に沿って表2に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表2に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆超硬歯切工具1〜10をそれぞれ製造した。
(a)材質がJIS・AC9B(組成、質量%で、Al−19%Si−1%Cu−1%Mg−1%Ni)であり、
モジュール:1.5、圧力角:14.5度、歯数:27、ねじれ角:25度右捩れ、歯幅:20mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
切削速度(回転速度): 500m/min、
送り: 1.5mm/rev、
加工形態:クライム、シフトなし、ドライ(エアーブロー)、
の条件(歯切条件A)で高速歯切加工(上記JIS・AC9BのAl合金の歯車の加工の場合の切削速度は通常 350m/min)を行い、また、
(b)材質がJIS・SUS303であり、
モジュール:1.5、圧力角:14.5度、歯数:29、ねじれ角:30度右捩れ、歯幅:22.5mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
切削速度(回転速度): 450m/min、
送り: 1.2mm/rev、
加工形態:クライム、シフトなし、ドライ(エアーブロー)、
の条件(歯切条件B)で高速歯切加工(上記材質JIS・SUS303の歯車の加工の場合の切削速度は通常 350m/min)を行い、
上記(a)、(b)の高速歯切加工において、逃げ面摩耗幅が 0.1mmに至るまでの歯車加工数を測定した。
この測定結果を表2、3にそれぞれに示した。
この結果得られた本発明被覆超硬歯切工具1〜10の(Ti,Al,Ta)Nからなる硬質被覆層を構成する上部層の薄層Aおよび薄層B、さらに同下部層の組成、並びに比較被覆超硬歯切工具1〜10の(Ti,Al,Ta)Nからなる硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、上記の硬質被覆層の構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
上述のように、この発明の表面被覆超硬合金製歯切工具(本発明被覆超硬歯切工具)は、各種の炭素鋼や低合金鋼、さらに普通鋳鉄などの通常の条件での歯切加工は勿論のこと、特に上記の高反応性被削材の高熱発生を伴う高速歯切加工条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた性能を示すものであるから、歯切加工装置の高性能化、並びに歯切加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金製歯切工具基体の表面に、
(a)いずれもTiとAlとTaの複合窒化物からなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(A+B)AlATaB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.50〜0.70を示す)を満足するTiとAlとTaの複合窒化物層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(C+D)AlCTaD]N(ただし、原子比で、Cは0.30〜0.45、Dは0.20〜0.35を示す)を満足するTiとAlとTaの複合窒化物層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(E+F)AlETaF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.09を示す)を満足するTiとAlとTaの複合窒化物層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなることを特徴とする高反応性被削材の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製歯切工具。
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