本発明者らは、この発明の上記目的を達成するために、容器内面に形成する有機樹脂被覆層に含める添加剤の種別、その量と分布、および面積比率の関係を詳細に検討した結果、従来の知見にない発泡性飲料の発泡状態を良好にする添加剤の種別、その量と分布、および面積比率が存在することが分った。そして、検討の成果に基づく特定の添加剤を用い、かつ検討の成果に基づくその添加剤の量と分布、および面積比率を発泡性飲料用の缶体の内面に付与することで、缶のままで飲用しても、発泡性飲料から好適な発泡性を得て、発泡性飲料の風味、飲用感や、清涼感が向上するという知見を得た。
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態に係る発泡性飲料用の缶体について説明する。図1はこの実施の形態に係る発泡性飲料用の缶体の要部を拡大して示す要部拡大図である。この実施の形態の発泡性飲料用の缶体1は、例えば現在、一般に用いられているアルミニウムやスチール等の金属板、あるいは、アルミ合金等の金属板から成形されたものである。缶体1は、特にビールや発泡酒等の発泡性飲料用として好適であり、例えば、詳しくは図示しないが缶蓋に残置型開封片を設けたSOT(Stay on Tab)型の缶体である。なお、図1に示す缶体1は、その例えば円周状の側面の一部を拡大して示す。
図1に示す缶体1の内面2の例えば略全域(缶蓋内面を省く)には、粒径および融点の相違する複数の添加剤を含む有機樹脂被覆層3が形成されており、加熱処理された有機樹脂被覆層3により、缶体1の内面2に凹凸粗さ4が形成されている。凹凸粗さ4については、図1に示す形態(1)、(2)、(3)の場合を例として詳しくは後述する。
有機樹脂被覆層3には、この例では、第1に缶内面積の20〜60%に一つの添加剤として粒径0.3〜7.0μmの粒子(以下、大径粒子と記す)11のポリエチレン系ワックスまたはポリエステル系ワックスのいずれか一方、もしくは、双方の配合からなる有機系ワックスを0.5〜5.0PHR(有機樹脂に対する添加割合:%)含む有機樹脂被覆材12、および、第2に残りの缶内面積に一つの添加剤として粒径0.03〜0.2μmの粒子(以下、小径粒子と記す)21のポリエチレン系以外の例えばカルナバ、マイクロクリスタリン、ラノリン等のいずれか一つ、もしくは、いずれか複数の配合からなる有機系ワックスを例えば0.1〜10PHR含む有機樹脂被覆材22を含めて形成されている。
なお、図1では、有機樹脂被覆層3を一つの被覆層として示すが、これは双方の有機樹脂被覆材21,22が混合されて一つの有機樹脂被覆層3となっている場合を例示する。したがって、本発明における有機樹脂被覆層は、大径粒子11を含有する有機樹脂と小径粒子21を含有する有機樹脂とを、上記の割合で、缶内面に塗り分け、あるいは付着させた構成と、面積割合が上記の割合となるように、各有機樹脂を混合し、一つの被覆層として缶内面に塗布もしくは付着させた構成との両方を含む。
上記の大径粒子11は、融点が例えば100〜130℃であり、これに対して小径粒子21は、融点が例えば5〜85℃である。また、有機樹脂被覆層3の母材には、例えば、エポキシアクリル系またはエポキシフェノール系あるいは塩化ビニル系の有機材料のいずれか一種もしくは二種以上の樹脂と、前記各粒子よりも高融点のポリエチレン系またはポリエステル系の一種もしくは二種以上の樹脂との少なくともいずれか一方が好適である。
加熱処理された有機樹脂被覆層3により、缶体1の内面2に凹凸粗さ4が形成されることは既に述べた通りであるが、図1には、加熱温度、および加熱時間を相違させた三通りの形態(1)、(2)、(3)の各々における凹凸粗さ4の状態が示されている。図1に示す例において、形態(1)の場合は、有機樹脂被覆層3に与える加熱温度が205〜255℃、その加熱時間が20〜80秒であり、形態(2)の場合は、有機樹脂被覆層3に与える加熱温度が180〜195℃、その加熱時間が50〜90秒であり、形態(3)の場合は、有機樹脂被覆層3に与える加熱温度が195〜205℃、その加熱時間が25〜50秒である。
形態(1)の場合、有機樹脂被覆層3の表面の有機系ワックスの粒径0.3〜7.0μmの粒子11は完全に溶解もしくは揮発して離脱しており、かつ他の有機系ワックスの粒径0.03〜0.2μmの粒子21も完全に溶解もしくは揮発して離脱している。その結果、缶体1の内面2に凹部Rが形成される。なお、各溶融した粒子11,21は、詳しくは図示しないが有機樹脂被覆層3の表面に流れ出して凸部を形成する場合もあり、その場合には、比較的大きな凹凸粗さ4が形成されている。
形態(2)の場合、有機樹脂被覆層3の表面の大径粒子11はあまり溶解もしくは揮発しておらず、その結果、ここに凸部Pが形成されている。これに対して小径粒子21は完全に溶解もしくは揮発して離脱している。その結果、小径粒子21の離脱した箇所には、凹部Rが形成される。なお、各溶融した粒子11,21は、詳しくは図示しないが有機樹脂被覆層3の表面に流れ出して凸部を形成する場合もあり、その場合には、比較的大きな凹凸粗さ4が形成されている。
形態(3)の場合、有機樹脂被覆層3の表面の大径粒子11は大部分が溶解されるものの、少量が残っており、そのために、凹部Rが浅くなっている。これに対して小径粒子21は完全に溶解されて、その離脱した部分に凹部Rが形成されている。なお、各溶融した粒子11,21は、詳しくは図示しないが有機樹脂被覆層3の表面に流れ出して凸部を形成する場合もあり、その場合には、比較的大きな凹凸粗さ4が形成されている。
なお、有機樹脂被覆層3の表面の粒子11,21のうち半分以上に大きく溶融した部分は、凹凸粗さ4のうち凹部Rの一部を形成している。
一方、缶体1の内面2に、凹凸粗さ4を形成する場合、缶体1の姿勢は、垂直の上方へ向けた姿勢、あるいは斜め上方へ向けた姿勢でもよく、もしくは適宜の姿勢で適度に回転させるという態様を用いてもよい。
このように、有機樹脂被覆層3の加熱温度、加熱時間(加温維持時間)を適宜に制御することで、最良の凹凸粗さ4を任意に形成することができ、これにより、発泡性飲料から良質な発泡を得ることができる。
いずれにしても、上記態様(1)、(2)、(3)のいずれの場合の凹凸粗さ4においても、開缶時の発泡性飲料内の炭酸ガスCO2が、圧力低下によって気化して発泡するが、大径粒子11の有機系ワックス、および小径粒子21の有機系ワックスの割り合いが適正であるため、発泡性飲料の充填時には、発泡量がゼロであるか、あるいは非常に少なく、すなわち問題とならず、開缶時には、泡立ち性を良好に向上させ、特に微細かつクリーミーで持続性のある良好な発泡を得ることができる。
すなわち、缶体1の有機樹脂被覆層3は、缶内面積の20〜60%に粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックス12を0.2〜5.0PHR含んでいることから発泡性飲料の発泡性は良好である。一方、粒径0.03〜0.2μmの粒子21の有機系ワックス22も、缶内面積の全領域のうち適正な面積を占めるため、発泡性飲料を缶体1に充填する時の発泡は非常に少なく問題とならず、開封後の飲用時に、微細かつクリーミーで持続性のある泡を発生することができる。
ところで、缶内面積の20〜60%に大径粒子11を0.2〜5.0PHR含む有機樹脂被覆材12を有しているが、その缶内面積に占める割合が20%を下回ると発泡性が低下して、微細かつクリーミーで十分な発泡量を得ることができない。また、反対に、缶内面積に占める割合が60%を上回ると発泡性飲料を充填する際に、その凹凸粗さ4の発泡促進性により発泡量が増加して入り味量(充填量)が変わったり、開缶時に多量の泡が発生して発泡性飲料が噴き出したりする可能性がある。
缶体1の有機樹脂被覆層3は、残りの缶内面積を占める小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を有するが、この有機系ワックスに、同じくポリエチレン系の有機系ワックスを用いると、その発泡促進性が許容できる範囲を超えて悪くなり、発泡が増加して入り味量が変わったり、開缶時に発泡性飲料が噴き出す等の可能性がある。このため、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21の有機系ワックスには、カルナバ、マイクロクリスタリン、あるいは、ラノリン等を用いることが好ましい。
少なくとも大径粒子11の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材12、少なくとも小径粒子21の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22の面積比率は、開封後の飲用時に、微細かつクリーミーで持続性のある泡を発生させ、さらに発泡性飲料を充填する時の発泡が問題とならないようにするために重要である。
さらに、本発明で、前記大径粒子11の粒径が0.3μmを下回ると発泡性が低下して、微細かつクリーミーで十分な発泡量を得ることができない。また、反対に、その粒径が7.0μmを上回るとスプレー塗装や押し出しコーティング時に作業性が低下して、生産性の面で問題となるため好ましくない。
他方、本発明で、前記小径粒子21の粒径が0.2μmを上回ると、その発泡促進性により発泡して入り味量が変わったり、開缶時に発泡性飲料が噴き出したりする可能性があり、コントロールが難しく好ましくない。なお、前記小径粒子21の粒径の下限値を0.03μmとしているのは、0.03μmを下回ると、適度な乱流が発生せずクリーミーな泡とならないからである。
有機樹脂被覆材12に対するポリエチレン系の有機ワックスの添加量が、0.2PHRを下回ると発泡性が低下して、微細かつクリーミーで十分な発泡量を得ることができない。より好ましくは、1.0PHR以上であれば、良好で、微細かつクリーミーで十分な発泡量を得ることができる。5.0PHR以上では、その発泡促進性により発泡して入り味量が変わったり、開缶時に発泡性飲料が噴き出したりする可能性がある。より好ましくは、3.0PHR以下であれば、良好で、微細かつクリーミーで十分な発泡量を得ることができる。また、有機樹脂被覆材22に対するポリエチレン系以外の有機系ワックスの添加量は、通常用いられている量(0.5〜1.5PHR)であれば、特に問題ない。
他方、ポリエチレン系およびポリエステル系以外の有機ワックスである前記小径粒子21の有機樹脂に対する添加割合は、0.1〜10PHRが好ましく、0.1PHRを下回ると、その成形性が悪くなるうえに、発泡促進機能が実質的に生じなくなる。また10PHRを上回れば、発泡促進機能が実質的に生じず、また塗装性が低下して缶体の生産性が損なわれる可能性が生じる。
有機樹脂被覆層3を例えば180〜240℃で15秒〜40秒間加熱することにより、添加剤である大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスは、融点が100〜130℃であるため溶解もしくは揮発する。この溶解もしくは揮発した大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスは、有機樹脂被覆層3の表面から離脱することにより、有機樹脂被覆層3の表面に凹部Rを複数形成し、あるいは有機樹脂被覆層3を局部的に押し上げて凸部Pを形成する。この際、小径粒子21の有機系ワックスは、融点が5〜85℃であり、その粒径も小さいため、それだけでは、溶解しても発泡性飲料の発泡性に影響するような凹部を形成することができない。
大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスの溶解は、有機樹脂被覆層3の表面に凹形状あるいは凸形状を形成する。小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスの溶融による凹部Rの適正な比率は、発泡性飲料に乱流を発生させ、これにより、開封後の飲用時に、発泡性飲料用の缶体1の内面2の有機樹脂被覆層3で、微細かつクリーミーで持続性のある良好な泡を発生させることができる。その結果、発泡性飲料の充填時に発泡して入り味量が変わったり、開缶時に発泡性飲料が噴き出したりする可能性のない理想的な缶体1の内面2を作ることができる。
すなわち、缶体(容器)1が開封されて、発泡性飲料の加圧状態が解除される時に、有機樹脂被覆層3の凹部Rで発泡性飲料中の炭酸ガスが突沸現象を生じ、発泡性飲料中に加圧溶解されていた炭酸ガスが気化して発泡性飲料の液面上に微細かつクリーミーで持続性のある泡を発生することができる。融点の高いポリエチレン系の有機ワックスの代替として、融点210〜255℃であるポリエステル系の有機系ワックスを使用することも可能である。
次に、下記の図2および図3を参照して、本発明者らによる各種実験の結果について説明する。まず、下記の図2に本発明を適宜実施した各実施例および比較例の内容を示す。なお、この実験では、DI缶用エポキシアクリル系の水性内面スプレー塗料に、粒径0.5〜7.0μmの大径粒子11の有機系ワックス、および、粒径0.05〜2.0μmの小径粒子21の有機系ワックスを種々の割り合いで含有させ、これを缶体1の内面2に塗布した後、発泡性飲料として約5℃のビールを充填した。加熱条件は、カムアップ(昇温)が230℃で15秒、キーピング(加温維持)が230℃で30秒であり、最低でも200℃、30秒保持が主条件である。
図2に示すように、実施例1においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径7.0μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.05μm、及びPHR0.15%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が190℃で60秒とした。
実施例2においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率60%、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率40%、および粒径0.15μm、及びPHR0.1%のラノリンを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
実施例3においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率40%、粒径5.0μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率60%、および粒径0.05μm、及びPHR0.2%のマイクロクリスタリンを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が210℃で60秒とした。
実施例4においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径0.5μm、およびPHR5%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.1μm、及びPHR2%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
実施例5においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径0.5μm、およびPHR2%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.20μm、及びPHR5%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
一方、図2に示すように、比較例1においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率10%で、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率90%、および粒径0.15μmのカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
比較例2においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%で、粒径0.05μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.15μm、及びPHR0.15%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が210℃で60秒とした。
比較例3においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%で、粒径0.5μm、およびPHR8%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.15μm、及びPHR0.2%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が190℃で60秒とした。
比較例4においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%で、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%で、粒径0.5μm、及びPHR8%のポリエチレンを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
比較例5においては、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率90%で、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率10%で、粒径0.15μm、及びPHR0.1%のカルナバを用い、加熱条件としてキーピング(加温維持)が200℃で30秒とした。
これらの実施例1〜5、および比較例1〜5について、飲用時の発泡性、泡の質、泡持続性、充填時発泡性、味覚を評価した。結果を図3に示す。なお、図3に示す評価結果は、発泡性飲料として所定量のビールを充填し、熱殺菌した後に開口し、その時点の泡の状態の評価結果である。
図3で、飲用時発泡高さは、約5℃のビールを充填した缶体の缶蓋を開封し、30秒間放置した時の泡の発泡高さを測定した。泡の質は、約5℃のビールを充填した缶体の缶蓋を開封し、30秒間放置した時の発泡状態を目視観察して、「無:×」、「粗:△」、「細:○」、「微細:◎」の4段階で評価した。また、発砲量が多く充填不可能なものについては、測定対象から外されるため、「対象外:−」と評価した。泡持続性は、約5℃のビールを充填した缶体の缶蓋を開封し、5分間放置した後の泡の残存状態を目視観察して、泡残存率75%以上を「非常に良い:◎」、泡残存率50〜74%を「良い:○」、泡残存率25〜49%を「普通:△」、泡残存率0〜24%を「悪い:×」の4段階で評価した。充填時発泡性は、約5℃のビールを充填する際に溢れ出たビール(泡)の量を測定した。味覚は、約5℃のビールを充填した缶を用いて、飲用時の風味、美味しさを「非常に良い:◎」、「良い:○」、「普通:△」、「悪い:×」の4段階で評価した。
図3に示すように、各実施例1〜実施例5においては、いずれも、飲用時発泡高さは適量な高さの範囲にあり、泡の質、泡持続性ともに高い評価が得られ、かつ風味、美味しさともに高い評価を得た。また、いずれも、充填時発泡量に高い評価を得た。殊に実施例2,3においては、充填時発泡量が2mlまたは1mlであるが、これも問題にならない範囲であった。すなわち、この発明の範囲内にある各実施例1〜5では、飲用時発泡性、泡の質、泡持続性、充填時発泡性、および味覚の各々の評価は、いずれも満足のいくものであった。
一方、図3に示すように、各比較例1〜5においては、風味、美味しさが普通以下であり、飲用時発泡高さも非常に低いか非常に大きく吹きこぼれるかであり、特に比較例3〜5の場合、充填時発泡量が多く、充填不可であり、したがって、全て製品化としては不適格であった。すなわち、特に飲用時発泡性と充填時発泡性が劣る結果であり、飲用時に微細かつクリーミーで持続性のある泡が発生して味を良くするとともに、発泡性飲料の充填時には発泡しない発泡性飲料用の缶体を提供する目的を達成することはできなかった。
また、本発明者らは、検討を重ねた結果、この発明の検討に基づく有機ワックスを用いるとともに、発泡性を好適にする缶蓋の最適な飲み口の開口面積が存在することも分った。下記の図4および図5を参照して、飲み口の開口面積を含めた各実施例の実験について説明する。まず、下記の図4に各実験の内容を示す。この場合の発泡性飲料にも、約5℃のビールを用い、かつ上記図2の場合と同様の各条件を採用した。
図4に示すように、実施例6においては、蓋部の飲み口の開口面積が1250mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径6.0μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.05μmのカルナバを用いた。
実施例7においては、蓋部の飲み口の開口面積が1250mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率60%、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率40%で、粒径0.15μmのラノリンを用いた。
実施例8においては、蓋部の飲み口の開口面積が3500mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率30%、粒径5.0μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率70%で、粒径0.05μmのマイクロクリスタリンを用いた。
一方、図4に示すように、比較例6においては、蓋部の飲み口の開口面積が330mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径0.5μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.15μmのカルナバを用いた。
比較例7においては、蓋部の飲み口の開口面積が330mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率60%、粒径7.0μm、およびPHR1%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率40%、および粒径0.15μmのカルナバを用いた。
比較例8においては、蓋部の飲み口の開口面積が1250mm2で、一方の添加剤Aに、有機樹脂被覆層3に対する含有率20%、粒径0.5μm、およびPHR0.05%のポリエチレンを用い、他方の添加剤Bに、有機樹脂被覆層3に対する含有率80%、および粒径0.15μmのカルナバを用いた。
次に、下記の図5に示す上記各実験の結果について説明する。なお、図5においても、発泡性飲料として所定量のビールを充填し、熱殺菌した後、ビールの飲用時発泡性、泡の質、泡持続性、充填時発泡性、味覚を評価を示している。各々の評価基準は、図3に示す場合と同様であり、詳しい説明は省略する。
図5に示すように、各実施例6〜実施例8においては、いずれも、飲用時発泡高さが適量な高さの範囲にあり、泡の質、泡持続性のいずれも良好で、かつ風味、美味しさ共に良好であり、充填時発泡量も高い評価結果を得た。特に実施例7においては、充填時発泡量が2mlであったが、これも問題にならない範囲であり、したがって、飲み口の開口面積は、1250mm2以上であることが好ましい。
一方、図5に示すように、各比較例6〜8においては、飲用時発泡高さが不十分であるか、あるいは、泡の質、泡持続性、風味、美味しさのいずれも評価が低く、特に比較例7においては、充填時発泡量が多すぎて発泡性飲料の充填性が良好ではなく、また、開口面積が小さいと開蓋時に泡が発生する際、蓋内面により泡が発生する空間が覆われている為、泡の発生時に蓋内面に泡が接して矯正されることで、泡の質に影響して、更に、飲用時に開口面積が小さいと液体と一緒に泡が口内部に流入することを妨げることになり味覚にも影響する。したがって、全て製品化には不適格であるという結果であった。
次に、図1、図6を参照して、本実施の形態における発泡性飲料用の缶体1の製造方法について説明する。まず、缶体成形工程(S11)は、金属板から缶体1を成形する工程であり、通常の缶体成形工程を適用することができる。例えば、DI缶の缶体1の缶体成形工程(製缶工程:S11)は、金属板を所定の寸法に打ち抜く打ち抜き工程と、該打ち抜き工程で打ち抜かれた金属板を所定の寸法の缶状体に絞る絞り工程と、該缶状体を更にしごき加工して缶体1としての形状を整えるしごき成形工程とを含むものである。
また、本実施の形態の場合、缶体成形工程(S11)は、金属板から缶状体を成形した後、硫酸と硫酸鉄あるいはフッ酸、ノニオン系界面活性剤、硝酸、過酸化水素等を含んだ脱脂処理剤で50〜80℃にて脱脂処理を行う脱脂処理工程と、脱脂処理後の缶体1に、水洗処理を施した後、リン酸、ジルコンフッ酸、クロム酸、水溶性樹脂等を含んだ化成処理剤で30〜65℃にて化成処理を施す化成処理工程とを含む。
また、近年では、アルミ合金やスチール鋼板にPET等を貼り付けた後、打ち抜き加工、絞り成形、しごき成形を順に行い、フランジ加工して缶体とする方法も実用されており、さらには、口部にネジ加工してボトル缶等に用いられている。この発明は、それらの缶体(ボトル缶)にも適用することが可能である。
一方、上記のような表面処理の工程により得られた缶体1、あるいは、アルミ合金やスチール鋼板にPETフィルム等を被覆した後、打ち抜き加工、絞り成形、しごき成形を順に行い、フランジ加工した缶体1に、次に外面塗装、もしくは、ポリエステル系等のバーニッシュ塗装が施される。しかし、缶体1の外表面には、グラビア方式にて印刷塗装されたPETフィルム等を印刷・塗装の代わりに貼り付ける方法も既に提案されており、このような方法を採用してもよい。すなわち、第1の有機樹脂被覆工程および乾燥工程(S12)は、このような缶外面の塗装あるいはフイルムの貼付を含む工程である。
次いで第2の有機樹脂被覆工程(S13)は、まず、缶体1の内面2に、有機樹脂被覆層3として、エポキシアクリル系やエポキシフェノール系、塩化ビニル系等の塗料を塗布する内面塗布工程を行う。これには例えば缶体1の開口(後に缶蓋が締められる開口)から缶体1の内部に進入する噴射ノズル(図示省略)等でその塗料を缶体1の内面2の略全領域に亘り噴霧して塗布するという態様がある。内面塗布工程の後は、缶体1を、一旦冷却(自然冷却でもよい)し、有機樹脂被覆層3を固化(凝固)させる。
一方、本実施の形態では、有機樹脂被覆工程(S13)の内面塗布工程にて、缶内面積の20〜60%に粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックスを0.2〜5.0PHR含む有機樹脂被覆材12の塗布、および、残りの缶内面積に粒径0.03〜0.2μmのポリエチレン以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22の塗布を同時に行う。
すなわち、内面塗布工程では、予め有機樹脂被覆材12,22を上記比率となるよう混合し、この混合を含む有機樹脂被覆層3を、缶体1の内面2の例えば略全領域に対し例えば通常のスプレー塗装方法を用いて噴霧し塗布する。この場合、有機樹脂被覆層3は所謂塗膜として形成される。その有機樹脂被覆層3の厚さは、1〜10μmの範囲であることが好ましい。1μmより薄い場合には、塗膜不良を発生し、塗膜健全性を維持できず、また反対に10μmを超えると塗膜性能が向上しないにもかかわらずコストが高くなり、経済性の点で不都合が生じる。
有機樹脂被覆層3が固化した後、粗さ形成工程(S14)では、缶体1の内面2に凹凸粗さ4を形成する。すなわち、まず、加熱工程で、例えば加熱オーブン(図示省略)等により缶体1を所定温度で焼付ける処理、すなわち加熱する処理を行う。加熱工程(粗さ形成工程)では、有機樹脂被覆材12の融点が100〜130℃、有機樹脂被覆材22の融点が5〜85℃であることを考慮して、加熱オーブン内で、例えばカムアップ(昇温)が230℃で15秒、その後、キーピング(加温維持)が230℃で30秒を継続する。その結果、有機樹脂被覆材12,22中の前記粒子11,21が、例えば図1に示す各形態(1)、(2)、(3)のいずれかのように溶融もしくは揮発する。したがって、加熱工程(粗さ形成工程)では、缶体1を加熱して粒子11,21が溶融もしくは揮発することにより、凹凸粗さ4が形成される。
なお、加熱工程(粗さ形成工程)では、有機樹脂被覆層3に対する加熱の調節で、缶体1の内面2に形成する凹凸粗さ4の状態を適宜に調整するプロセスを含む。それらのプロセスの結果として、図1に示す各形態(1)、(2)、(3)のいずれかが得られる。
粗さ形成工程(S14)では、加熱工程の終了後、冷却工程で、缶体1を冷却し、缶体1および有機樹脂被覆材12,22の冷却で、缶体1の内面2に、凝固状の凹凸粗さ4を形成する。冷却工程(粗さ形成工程)による缶体1および有機樹脂被覆材12,22の冷却には、例えば冷風を送る強制冷却、または外気による自然冷却等がある。
次いで、ネッキング工程(S15)で、缶体1の開口部側をネッキング成形し、併せてフランジ成形を行う。あるいはボトル型缶の場合には、ネッキング成形に続けて、ネジ・ビード工程で、ネジ・ビード成形を行う。その後、缶体1に発泡性飲料を充填する充填工程(S16)に進む。
なお、第2の有機樹脂被覆工程(S13)は、通常のスプレー塗装方法にて行うことが望ましいが、ロール塗装方法や、その他の方法を用いることも可能である。スプレー塗装方法、ロール塗装方法や、その他の方法であっても、有機系ワックスを塗布する場合は、塗布面積比率で別々の有機系ワックスごとに塗布してもよく、あるいは、全ての有機系ワックスをその面積比率に応じた配合比で混ぜ合わせて塗布してもよい。焼付け方法(加熱方法)については、例えば、180〜240℃で15秒〜40秒の加温条件の範囲内として、使用する有機樹脂被覆層3が含む有機系ワックスの各融点に合わせた条件にて行うことが望ましい。
本実施の形態では、缶体1の内面2で、缶内面積の20〜60%に粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックスを0.2〜5.0PHR含む有機樹脂被覆材12、および、残りの缶内面積に粒径0.03〜0.2μmのポリエチレン以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を混合した有機樹脂被覆層3の塗布を行うので、生産が簡易であり、かつ高い精度をもって、缶体1の内面2に、最適な量と分布、および面積比率で、粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックス、および、粒径0.03〜0.2μmのポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆層3を形成することができる。
適正な割合いに設定した粒径0.3〜7.0μmの粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスの溶融または揮発と、および粒径0.03〜0.2μmの粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスの溶融または揮発とを、加熱温度、および加熱時間の制御で同時に自在に制御することが可能であり、その結果、容易かつ確実に、缶体1の内面2に良好な凹凸粗さ4を形成することができる。良好な凹凸粗さ4が形成された缶体1は、発泡性飲料の充填時には過剰に泡を発生させることがなく、良好な充填性を得ることができ、かつ、開缶時には微細かつクリーミーで十分に持続性のある良好な泡を発生させ、発泡性飲料の風味、飲料感や、清涼感を向上させることができる。
次に、図1、図7を参照して、第2の実施の形態に係る発泡性飲料用の缶体1の製造方法について説明する。なお、本実施の形態の発泡性飲料用の缶体1の構成も、基本的には図1に示す例と同様であり、したがって既に説明した部分についての詳しい説明は省略する。本例の場合、有機樹脂被覆層3は、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材12、および粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22が別々の層として形成されている点が相違し、このため、缶体1の製造方法が若干相違するものである。
なお、大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスの有機樹脂被覆材12、および粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン以外の有機系ワックスの有機樹脂被覆材22は、双方が互いに完全に分離されていてもよく、あるいは一部境界側が互いに重なっていてもよい。
図7に示すように、本実施の形態の缶体1の製造方法において、まず、缶体成形工程(S11)は、金属板から缶体1を成形する工程であり、通常の缶体成形工程を適用することができる。同じく、DI缶の缶体1の缶体成形工程(製缶工程:S11)は、金属板を所定の寸法に打ち抜く打ち抜き工程と、該打ち抜き工程で打ち抜かれた金属板を所定の寸法の缶状体に絞る絞り工程と、該缶状体をさらにしごいて缶体1としての形状を整えるしごき成形工程とを含むものである。
また、本実施の形態の場合、缶体成形工程(S11)は、金属板から缶状体を成形した後、硫酸と硫酸鉄あるいはフッ酸、ノニオン系界面活性剤、硝酸、過酸化水素等を含んだ脱脂処理剤で50〜80℃にて脱脂処理を行う脱脂処理工程と、脱脂処理後の缶体1に、水洗処理を施した後、リン酸、ジルコンフッ酸、クロム酸、水溶性樹脂等を含んだ化成処理剤で30〜65℃にて化成処理を施す化成処理工程とを含む。
このような表面処理の工程により得られた缶体1は、第1の有機樹脂被覆工程および乾燥工程(S12)で、外面印刷もしくは外面塗装として、例えばポリエステル系等のバーニッシュ塗装が施される。しかし、缶体1の外表面には、グラビア方式にて印刷塗装されたPETフィルム等を印刷・塗装の代わりに貼り付ける方法を採用してもよい。
次いで第2の有機樹脂被覆工程(S21)は、その内面塗布工程で、缶体1の缶内面積の20〜60%に、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを0.5〜5.0PHR含む有機樹脂被覆材12を塗布する。
次いで第3の有機樹脂被覆工程(S22)は、その内面塗布工程で、缶体1の缶内面積の残りの80〜40%に、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を塗布する。塗布した後の双方の有機系ワックスは、一旦冷却(自然冷却でもよい)されて、双方の有機樹脂被覆材12,22が固化(凝固)される。
双方の有機樹脂被覆材12,22の成形には、例えば缶体1の開口(後に缶蓋が締められる開口)から缶体1の内部に回転可能である噴射ノズル(図示省略)を進入させ、その噴射ノズルからの有機樹脂被覆材12の塗料を缶体1の内面2に向けて20〜60%分に亘り噴霧して塗布し、かつ、缶体1を例えば他の噴射ノズル位置に搬送して、例えば缶体1の開口(後に缶蓋が締められる開口)から缶体1の内部に当該他の噴射ノズル(図示省略)を進入させ、その噴射ノズルからの有機樹脂被覆材22の塗料を缶体1の内面2の残りの80〜40%分に亘り噴霧して塗布するという態様がある。所謂スプレー塗装方法である。
第2、第3の有機樹脂被覆工程(S21,S22)の場合、二つの噴射ノズルを個別に用いて有機樹脂被覆材12,22を個別に形成する。一方の噴射ノズルは、缶体1の内面2の20〜60%分に大径粒子11の有機樹脂被覆材12を形成すべくその噴射角度が適宜に設定されている。他方の噴射ノズルは、缶体1の内面2の残り80〜40%分に小径粒子21の有機樹脂被覆材22を形成すべくその噴射角度が適宜に設定されている。
各噴射ノズルは、通常は固定式で缶体が回転することで、内面に適宜の範囲で噴霧し、或いは、水平方向に回転可能であり、缶体1の内部を例えばその下方から上方の開口の方向へと回転しながら移動する。このため、一方の噴射ノズルは、適宜回転しながら上方へ移動して缶体1の内面2に20〜60%を占める螺旋状に大径粒子11の有機系ワックスを噴霧して螺旋状の有機樹脂被覆材12を形成する。他方の噴射ノズルは、適宜回転しながら上方へ移動して缶体1の内面2の有機樹脂被覆材12の螺旋状の部分の間の螺旋状の未噴霧領域の部分を狙って小径粒子21の有機系ワックスを噴霧し、その結果、残り80〜40%を占める螺旋状の有機樹脂被覆材22を形成する。この場合、有機樹脂被覆層3は所謂塗膜として形成される。
双方の上記噴射ノズルは、別々に回転可能の二つのパイプ(図示省略)に対し噴射角度が相違する噴射ノズルを個々に備えるという態様もあるが、一つの回転可能の複式パイプ(図示省略)の各パイプ要素毎に、設置高さ、および噴射角度が相違する噴射ノズルを備えるという態様もある。後者の場合、各噴射ノズルが同時に回転しながら上方に移動するため、複式パイプから供給される大径粒子11の有機系ワックス、および小径粒子21の有機系ワックスの噴霧に基づいて螺旋状の有機樹脂被覆材12,22を同時に、その量と分布、面積比率を的確に定めて形成することが可能である。その結果、有機樹脂被覆材12,22の形成時間を短縮することが可能であり、生産性も向上する。
有機樹脂被覆層3が固化した後、粗さ形成工程(S14)では、すなわち、まず、加熱工程で、例えば加熱オーブン(図示省略)等により缶体1を所定温度で加熱する加熱処理を行う。加熱工程(粗さ形成工程)も、有機樹脂被覆材12の融点が100〜130℃、有機樹脂被覆材22の融点が5〜85℃であることを考慮して、加熱オーブン内で、例えばカムアップ(昇温)が230℃で15秒、その後、キーピング(加温維持)が230℃で30秒を継続し、例えば図1に示す各形態(1)、(2)、(3)のいずれかのように、有機樹脂被覆材12における大径粒子11、および有機樹脂被覆材22における小径粒子21を適宜に溶融もしくは揮発させる。加熱工程(粗さ形成工程)では、缶体1を加熱することで溶融した有機樹脂被覆材12,22により、缶体1の内面2に、所謂液状の凹凸粗さ4を形成する。
なお、加熱工程(粗さ形成工程)では、有機樹脂被覆層3に対する加熱の調節で、缶体1の内面2に形成する凹凸粗さ4の状態を適宜に調整するプロセスをも含むものである。
粗さ形成工程(S14)では、加熱工程の終了後、冷却工程で、缶体1を冷却し、缶体1および有機樹脂被覆材12,22の冷却で、缶体1の内面2に、凝固状の良好な凹凸粗さ4を形成する。冷却工程(粗さ形成工程)による缶体1および有機樹脂被覆材12,22の冷却にも、例えば冷風を送る強制冷却、または自然冷却等がある。
次いで、ネッキング工程(S15)で、缶体1の開口部側をネッキング成形およびフランジ成形を行うか、もしくは、ネジ・ビード工程で、ネジ・ビード成形を行うかのいずれかの工程の後、缶体1に発泡性飲料を充填する充填工程(S16)に進む。
なお、第2、第3の有機樹脂被覆工程(S21、S22)も、通常のスプレー塗装方法にて行うことが望ましいが、ロール塗装方法や、その他の方法を用いることも可能である。スプレー塗装方法、ロール塗装方法や、その他の方法であっても、有機系ワックスを塗布する場合は、塗布面積比率で別々の有機系ワックス毎に塗布してもよく、あるいは、高さ位置が相違して回転する複数のスプレー塗装を同時に行って、複数の有機系ワックスをその面積比率に応じた割合いで同時に塗布するという態様も好ましい。一方、焼付け方法(加熱方法)については、例えば同じく、180〜240℃で15秒〜40秒の加温条件の範囲内として、使用する有機樹脂被覆材12,22が含む各有機系ワックスの融点に合わせた条件にて行うことが望ましい。
本実施の形態では、缶体1の内面2側に噴射ノズルを進入させ、缶内面積の20〜60%に粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを0.2〜5.0PHR含む有機樹脂被覆材12、および、残りの缶内面積に粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を二つの工程、あるいは一つの工程で同時に形成することが可能である。このため、生産が簡易であり、かつ高い精度をもって、缶体1の内面2に、最適な量と分布、および面積比率で、粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックス、および、粒径0.03〜0.2μmのポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆層3を形成することができる。
本実施の形態の場合も、適正な割合いに設定した粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスの溶融と、および粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン以外の有機系ワックスの溶融とを、加熱温度、および加熱時間の制御で同時に自在に制御することが可能であり、その結果、容易かつ確実に、缶体1の内面2に良好な凹凸粗さ4を形成することができる。缶体1に、良好な凹凸粗さ4を形成した場合、上述と同様に、発泡性飲料の充填時には過剰に泡を発生させることがなく、良好な充填性を得ることができ、かつ、開缶時には微細かつクリーミーで十分に持続性のある良好な泡を発生させ、発泡性飲料の風味、飲料感や、清涼感を向上させることができる。
次に、図1、図8を参照して、第3の実施の形態に係る発泡性飲料用の缶体1の製造方法について説明する。なお、本実施の形態の発泡性飲料用の缶体1の構成も、基本的には図1に示す例と同様であり、したがって既に説明した部分についての詳しい説明は省略する。本例の場合、有機樹脂被覆層3は、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含むプライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜(PETフィルム)と、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22とを積層して形成されている点が相違し、このため、缶体1の製造方法が若干相違するものである。
図8に示すように、本実施の形態の缶体1の製造方法において、まず、樹脂被覆工程(S10)では、缶体を成形する前の金属板に樹脂被覆する際、缶内面側になる一面に、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含むプライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜(PETフィルム)を被覆する。
次いで缶体成形工程(S11)では、プライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜で被覆された金属板からそのフィルム膜が缶体内面となるように、缶体1を成形する。この缶体1の成形に際しては、通常の缶体成形工程を適用することができる。例えば、DI缶である缶体1の缶体成形工程(製缶工程:S11)は、金属板を所定の寸法に打ち抜く打ち抜き工程と、該打ち抜き工程で打ち抜かれた金属板を上記フィルム膜が缶内面となるように所定の寸法の缶状体に絞る絞り工程と、該缶状体をさらにしごいて缶体1としての形状を整えるしごき成形工程とを含むものである。
次に外面塗装として、ポリエステル系等のバーニッシュ塗装が施される。しかし、缶体1の外表面には、グラビア方式にて印刷塗装されたPETフィルム等を印刷・塗装の代わりに貼り付ける方法を採用してもよい。
次いで有機樹脂被覆工程(S31)は、その内面塗布工程で、缶体1の内面2に形成したフィルム膜の缶内面積の残り分である80〜40%に、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を塗布する。塗布した後の小径粒子21の有機系ワックスは、一旦冷却(自然冷却でもよい)されて、有機樹脂被覆材22を固化(凝固)する。
缶体1の内面2に貼り付けたフィルム膜に対する有機樹脂被覆材22の成形には、例えば缶体1の開口(後に缶蓋が締められる開口)から缶体1の内部に回転可能である噴射ノズル(図示省略)を進入させ、その噴射ノズルから有機樹脂被覆材22の塗料を缶体1の内面2、すなわちフィルム膜に向けて80〜40%分に亘り噴霧して塗布するという態様がある。所謂スプレー塗装方法である。
噴射ノズルは、例えば水平の外方に向けられて水平方向に回転可能であり、缶体1の内部を例えばその下方から上方の開口の方向へと回転しながら移動する。このため、噴射ノズルは、適宜回転しながら上方へ移動する間に、缶体1の内面2のフィルム膜に80〜40%を占める有機系ワックスを噴霧して螺旋状をなす有機樹脂被覆層を形成する。この場合、フィルム膜は上記有機樹脂被覆材12に相当し、有機樹脂被覆材22は所謂塗膜に相当する。
上記噴射ノズルは、回転可能の一つのパイプ(図示省略)に対し適度に噴射角度を設定して装着するという態様がある。噴射ノズルの回転を伴う上方移動で、フィルム膜において有機樹脂被覆材22が噴霧されなかった領域は全体の20〜60%を占める。これにより、缶体1の内面2に、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材12、および、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22による有機樹脂被覆層3が形成されることと等価の構成を得る。
有機樹脂被覆材22が固化した後、粗さ形成工程(S14)では、すなわち、まず、加熱工程で、フィルム膜の融点が例えば100〜130℃、有機樹脂被覆材22の融点が5〜85℃であることを考慮して、加熱オーブン内で、例えばカムアップ(昇温)が230℃で15秒、その後、キーピング(加温維持)が230℃で30秒を継続する。その結果、大径粒子11のプライマー材、および小径粒子21の有機樹脂被覆材22では、それぞれの内部に混入している各粒子11,21が溶融もしくは揮発し、缶体1の内面2に、凹凸粗さ4が形成される。すなわち、大径粒子11が溶融もしくは揮発して、マイグレーションにより、有機樹脂被覆材22であるフィルムを押し上げ、その結果、凸部を形成する。また、有機樹脂被覆層3の表面側で小径粒子11が溶融もしくは揮発して離脱すれば、凹部が形成される。こうして缶体1の内面2に、凹凸粗さ4が形成される。
なお、加熱工程(粗さ形成工程)では、有機樹脂被覆層3に対する加熱の調節で、缶体1の内面2に形成する凹凸粗さ4の状態を適宜に調整するプロセスをも含むものである。
粗さ形成工程(S14)では、加熱工程の終了後、冷却工程で、缶体1を冷却し、缶体1、プライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜、および有機樹脂被覆材22の冷却で、缶体1の内面2に、凝固状の良好な凹凸粗さ4を形成する。冷却工程(粗さ形成工程)による缶体1、プライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜、および有機樹脂被覆材22の冷却にも、例えば冷風を送る強制冷却、または自然冷却等がある。なお、本例においては、有機樹脂被覆材12がプライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜で代用されているが、フィルム膜も溶融性があり上記実施の形態の場合と同様の作用を現す。
次いで、ネッキング工程(S15)で、缶体1の開口部側をネッキング成形およびフランジ成形を行うか、もしくは、ネジ・ビード工程で、ネジ・ビード成形を行うかのいずれかの工程の後、缶体1に発泡性飲料を充填する充填工程(S16)に進む。
なお、有機樹脂被覆工程(S31)も、通常のスプレー塗装方法にて行うことが望ましいが、ロール塗装方法や、その他の方法を用いることも可能である。スプレー塗装方法、ロール塗装方法や、その他の方法であっても、有機系ワックスを塗布する場合は、予め定めた塗布面積比率に応じて有機系ワックスを塗布すればよい。一方、焼付け方法(加熱方法)についても、例えば同じく、180〜240℃で15秒〜40秒の加温条件の範囲内として、使用するフィルム膜の融点、および有機樹脂被覆材22が含む各有機系ワックスの融点に合わせた条件にて行うことが望ましい。
本実施の形態では、予め粒径0.3〜7.0μmのポリエチレン系の有機系ワックスを含むプライマー材(金属板側)を備えたフィルム膜を生成して、缶体1を構成する金属板に予め加熱接着させるフィルムラミネート法を用いるため、生産が簡易であり、かつ高い精度をもって、缶体1の内面2に、最適な量と分布、および面積比率で、粒径0.3〜7.0μmの有機系ワックス、および、粒径0.03〜0.2μmのポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆層3を簡易に形成することができる。また、プライマー材とフィルム膜を含む有機樹脂被覆層3の簡易な形成をもって、缶体1の内面2に、良好かつ最適な凹凸粗さ4を形成することができる。
本実施の形態の場合も、適正な割合いに設定した粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のフィルム膜の溶融と、および粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン以外の有機系ワックスの溶融とを、加熱温度、および加熱時間の制御で同時に自在に制御することが可能であり、その結果、容易かつ確実に、缶体1の内面2に良好な凹凸粗さ4を形成することができる。その結果、缶体1は、上述と同様に、発泡性飲料の充填時には過剰に泡を発生させずに、良好な充填性を得る。また、開缶時の缶体1は、良好な凹凸粗さ4により微細かつクリーミーで十分に持続性のある良好な泡の発生を行って、発泡性飲料の風味、飲料感や、清涼感を一段と向上させることができる。
ところで、本実施の形態では、樹脂被覆工程(S10)で、金属板の一面に、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含むフィルム膜の被覆を行った後、有機樹脂被覆工程(S31)の内面塗布工程で、缶体1の内面2に形成したフィルム膜上の缶内面積の残り分である80〜40%に、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材22を塗布する場合を一例として示した。
一方、その逆に、樹脂被覆工程(S10)では、缶体を成形する前の金属板の一面に、粒径0.03〜0.2μmの小径粒子21のポリエチレン系以外の有機系ワックスを含むプライマー材を備えたフィルム膜を被覆してもよく、このため、有機樹脂被覆工程(S31)の内面塗布工程では、缶体1の内面2に形成したフィルム膜上の缶内面積の残り分である20〜60%に、粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系の有機系ワックスを含む有機樹脂被覆材12を塗布してもよく、その順序の製法を用いても上記実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
尚、缶体を成形する前の金属板の一面に粒径0.03〜0.2μmの小径粒子のポリエチレン系およびポリエステル系以外の有機系ワックスと粒径0.3〜7.0μmの大径粒子11のポリエチレン系またはポリエステル系ワックスをプライマー材(金属板側)に備えたフィルム膜を生成して有機樹脂被覆工程(S31)を除いてもよく、その際、粗さ形成工程(S13)を金属板への樹脂被覆工程(S10)の次工程にしてもよく、上記実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
以上、この発明の第1〜第3の実施の形態を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、この発明の要旨を逸脱しない範囲での変更も、この発明の技術的思想に含まれるものと解すべきである。また、本発明は、プライマー材(金属板側)に備えたフィルム膜を金属基質に被覆して被覆金属を得る方法には特に制限がないが、ポリエステル樹脂の公知の方法でフィルム状となし、これを金属基質上に加熱接着させるフィルムラミネーション法およびポリエステル樹脂を溶融させて金属基質上に押し出し、直接被覆を形成させるエキストルージョンラミネート法の採用が好ましい。なお樹脂フイルムあるいは金属基質に熱硬化系のプライマーや接着剤などを塗布した後、両者を接着させる方法が望ましい。所望によっては、仮接着、本接着というように二つ以上の異なった温度域を経る方法で被覆を完結することもできる。また、金属基質に対し直接樹脂層を熱接着する方法も可能である。
本発明でいうフィルム膜とは例えば熱可塑性樹脂であり、金属基質面にプライマー材を介して熱接着可能な限り、任意の熱可塑性樹脂を使用することができる。このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリエステルエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ハロゲン含有熱可塑性樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂はホモポリマまたはコポリマ、あるいは各樹脂相互のブレンド物であってもよい。またこれらの熱可塑性樹脂にそれぞれの必要、目的に応じて酸化防止剤、熱安定剤、粘度調節剤、可塑剤、核剤、無機微粒子、有機滑剤、顔料、染料などの添加剤を分散・配合することができる。
1…缶体、 2…内面、 3…有機樹脂被覆層、 12,22…有機樹脂被覆材、 4…凹凸粗さ、 11…大径粒子、 21…小径粒子、 14…フィルム膜、 P…凸部、 R…凹部。