図1Aは、本発明に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械システムの一部分の説明用の実例を示している。図示の部分は、パドル100の形態である衝突用質量、拘束部材102、発電装置104(リード106に電気的出力をもたらす)、および基部108(通常は、パドル100よりも数千倍も、数百万倍も大きい)を含んでいる。パドル100は、おそらくは熱伝導性であるが必ずしも熱伝導性でなくてもよい基部108へと、所定の距離の範囲内で1つ以上の方向(横方向、または上下など)へと運動できるように取り付けられている。ナノメートル・スケールのアセンブリを使用するエネルギー変換システム一式は、以下でさらに明らかになる(例えば、図5および6を参照)とおり、通常は、図1Aに示したデバイスを100万個以上含んでいる。
パドル100は、例えば、カーボンやシリコンなどの物質から構成できるが、当業者であれば、本発明の技術的思想から離れることなくパドル100の製造材料についてさまざまな変更が可能であることを、理解できるであろう。さらに、パドル100は、一般に、スパッタリング、エッチング、フォトリソグラフィ、などの公知の半導体製造技術を使用して製造することができる。
さらに、パドル100は、各辺について約5ナノメートルであるように構成でき、約1〜2ナノメートルの高さを有することができるが、この寸法は、ブラウン運動の作用がパドル100の慣性および拘束部材102のばね定数に打ち勝つために充分大きくなるように選択される。当業者であれば、パドル100に衝突する作動物質の分子の速度のランダムなばらつきの結果として、パドル100が作動物質の中で不規則に運動することができるのであれば、パドル100の特定の寸法が本発明の基本的動作にとって重要ではないことを、理解できるであろう。
さらに図1Aには、分子110がパドル100で跳ね返されて示されており、今や遅くなった速度で運動している。いくつかの分子は、衝突の結果として速度が遅くなる一方で、他の分子は速度がほとんど変化しない可能性があり、他の分子には実際には速度の増加がもたらされるかもしれないことを、当業者であれば理解できるであろう。しかしながら、一般的には、本発明によれば、分子110のパドル100との衝突は、平均すれば、速度の減少をもたらす。
この分子は、当該システムの作動物質の分子であり、好ましくは流体(すなわち、気体または液体)であるが、固体であってもよい。流体は、大気圧に保つことができ、あるいは例えば15PSI超の圧力など、高められた圧力に保ってもよい。すでに述べたように、作動流体の圧力は、システムによってもたらされる出力を左右しうる。分子110がパドル100に衝突し、分子110に速度の低下が生じる。速度の低下は、システムの作動物質の温度の低下に対応する。
分子110の速度の低下は、パドル100によって装置104との協働において生じるが、装置104は、本発明から離れることなく、さまざまな装置のうちの任意の装置であってよい。例えば、装置104は圧電装置であってよく、あるいは起電力または静電力発電機であってよい。いずれの場合も、装置104が、分子110の衝突用質量100への衝突から、衝突用質量のエネルギーを電気エネルギーに変換し、この電気エネルギーがリード106を介して出力される。
リード106を介して出力される電気エネルギーの量は、たとえ最も好都合な条件下であっても、きわめて小さい。例えば、パドル100の出力は、装置のサイズおよび他のさまざまな要因によって決まるが、約10−12ワット程度であると考えられる。したがって、このシステムが、例えば数マイクロワット程度の有用な出力をもたらすためには、このようなパドルを数百万個製造し、それらのすべてまたは事実上すべての出力を1つの出力信号へと合算できるよう、何らかのやり方で一体に接続する必要がある。
数百万のパドル100が、まとめてアレイに配置される(例えば、図5および6を参照)ならば、これらパドルのそれぞれからのエネルギーのすべてを合算するための1つのやり方は、各パドル100のリード106を抵抗素子112(図1Bを参照)に接続し、これら抵抗素子112を、熱電対116の片側114に熱的に接触させることである。次いで、熱電対116の反対側118をヒートシンクまたは周温にある他の何らかの物質(作動物質そのものも含まれる)に、熱的に接触させる。熱電対116は、温度差に応答して一対のリード間に電圧を生み出し、それらリードが負荷へと接続されているならばDC電流を発生させる熱電発電機である。
パドル100への分子の衝突の変化によって、抵抗素子112の温度の上昇が生じ、次いでこの温度上昇が熱電対116によって電気エネルギーに変換され、リード120を介して出力される。抵抗素子の使用の利点の1つは、抵抗性の負荷が電流/極性の方向と無関係であり、各パドルに整流器を組み合わせる必要がない点にある。すなわち、本発明によれば、パドル100への分子110の衝突によって生み出される電圧がきわめて小さくても、抵抗素子を有用な値にまで加熱するために使用できる。次いで、アレイ内の熱電対のそれぞれが、DC電圧を有する出力を生み出し、電気的負荷へと接続されているならば電流を生み出す。次いで、これらの出力のすべてを、まとめて直列に接続し、少なくとも数マイクロワットの出力を生み出すことができる。
さらなる出力が必要であれば、パドルからなるサブアセンブリを多数、まとめて直列に組み合わせることができる。例えば、所与のサブアセンブリが、パドル・アセンブリのアレイを含むように構成され、各アセンブリが約100平方ナノメートルを占めている場合、1平方センチメートルのアセンブリは、大まかに1兆のパドル・アセンブリを含むであろう。次いで、1平方センチメートルのサブアセンブリを、任意の数だけまとめて、所望の電圧および電流の比を実現すべ直列または並列に接続できる。
さらに、約700mV程度の組み合わせの出力ゆえ、1平方センチメートルの組立体のそれぞれの出力を、通常の半導体スイッチを使用して操作することさえ可能である。このように、薄くて柔軟なシート状の材料(アルミニウムなど)上に、連続プロセスにて1平方センチメートルのアセンブリを多数隣接して形成することによって、所与のコンポーネントを製造することができる。次いで、或る種のキャパシタの製造プロセスと同様に、得られたシート状の材料を切断して、筒へと巻き上げることができる。
これらの装置の単位表面積当たりの電気的出力が、流体の圧力、流体の平均温度、パドルの振動数、および使用される流体分子の質量(流体が気体であるか、液体であるかにかかわらず)に比例することを、当業者であれば理解できるであろう。単位面積当たりの出力は、パドルのサイズおよびパドル材料の密度に反比例する。したがって、キセノンなど重たい分子の気体を選択することによって、あるいは炭素分子を多く抱えた空気など、粒子状物質を大量に含んだ流体を使用することによって、さらには/あるいはパドルを例えば大気圧の100倍などに圧力を高めた気体中に浸漬することによって、ユニットの出力を、空気中で大気圧で動作するユニットに比べ、100倍以上に増加させることができる。
図2は、図1に示したパドル・アセンブリの他の実施の形態を示している。とくに、図2のアセンブリは、拘束部材102が、基部108ではなくハウジング208へと接続されている点で、図1のアセンブリと異なっている。ハウジング208は、熱の入力(図2に「Q」で示されている)を受け取る能力を備えている熱伝導性の部屋である。この実施の形態においては、熱Qの流入が電気エネルギーに変換され、リード106のそれぞれによって出力される。さらに、図1に示したアセンブリはハウジングを備えていないが、アセンブリをハウジング内に配置することは、アセンブリを汚染から守るためにも、必須ではないまでも望ましい。
図2に示した実施の形態は、本発明のナノメートル・スケールのエネルギー変換システムをヒート・ポンプとして使用することができるという、本発明の利点の1つを説明するために使用することができる。例えば、熱伝導性のハウジング208が、パドル100への分子の衝突ならびに引き続くパドルの運動エネルギーの電気エネルギーへの変換の結果として、冷却される。温暖または高温の空気を、ハウジング208を横切るように吹きつけることによって、冷却することができる。一方で、抵抗性の負荷112をリード106と直列に接続することができ、抵抗性の負荷112の温度の上昇がもたらされる。抵抗性の負荷112へと吹きつけることによって、冷たい空気を暖めることができる。このようなやり方で、同じアセンブリを、外部の物質を加熱するために使用でき、あるいは外部の物質を冷却するために使用できる。
図3は、本発明の原理に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械システム300の一部分の他の実施の形態を示している。図3に示したシステム300の一部分は、それぞれが1つのピエゾ発電機304、324および344に接続されている3つのパドル・アセンブリ302、322および342を備えている。各パドル・アセンブリ302、322および342は、図3に示した各パドル・アセンブリが、やはり事実上平坦な表面を分子の衝突に応答して運動できるように所定の位置に保持して備えている点で、図1のパドル・アセンブリ100と幾らか類似している。この場合には、パドル・アセンブリ302、322および342が、図3において広く番号380で示されている一端において、取り付けられている。
ピエゾ発電機はそれぞれ、圧電性材料からなる部位および抵抗アセンブリから構成されている。例えば、発電機324は、発電機304および344とほぼ同様であるが、圧電性材料326と抵抗アセンブリ328との間の区分を示すように図示されている。しかしながら、圧電性の部位と抵抗アセンブリとの間の区分は、図3において発電機304および344についても観察することができる。
抵抗アセンブリ308、328および348はそれぞれ、異なる材料から作られた2つのワイヤに接続されている。例えば、ワイヤ307、327および347のそれぞれが1つの材料から作られる一方で、ワイヤ309、329および349はすべて、別の材料から作られる。すべてのワイヤの他端は、一連のヒートシンク360へと接続されており、ヒートシンクそのものは、基板370(例えば、シリコン基板であってよい)に機械的に接続されている。パドル・アセンブリ302、322および342が、例えば容易に上下に振動できるよう、広く参照番号380にて示されている一端においてのみ基板370に接続されている点に、注意すべきである。
システム300は、以下のとおり本発明に従って動作する。システム全体を、流体(すなわち、液体または気体中)すなわち作動物質中に浸漬させる。例えば、パドル302に衝突する作動物質分子の速度における統計的ばらつきが、パドル302の自由端を上下に振動させる。このパドル302の上下運動が、圧電材料306に歪みを生じさせ、この材料306の下部導電外側層385と上部導電層387との間に電圧を生じさせる。
材料306の外側導電層385および387は、抵抗アセンブリ308に接しており、したがって電流が、材料306から抵抗308を通って再び材料306へと流れる。電流の通過によって抵抗308が加熱されるが、この抵抗は、ワイヤ307および309(すでに述べたとおり、異なる材料から作られている)によって形成される熱電発電機の片側に接続されている。熱電発電機(熱電対と称することも可能である)の反対側は、より低い温度にあるヒートシンク360に接続されている。本発明の技術的思想から離れることなく、ここに説明した熱電発電機ではなく、熱から電気へのヒート・エンジン(例えば、熱電子ヒート・エンジンなど)など他の装置を使用してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。
この温度差によって、熱電発電機が電圧を発生させ、この電圧が、以下でさらに詳しく説明するとおり他のパドル・アセンブリからの電圧と組み合わされ、システムの出力電圧がもたらされる。本発明によれば、これらの電圧をまとめて直列に接続し、システム300から有用なレベルの電気的出力を生み出すことができる。各パドル・アセンブリからの電圧の合算のプロセスは、図5および6に関して以下でさらに詳しく説明される。
システム300を、衝突用質量の運動エネルギー(作動物質中に浸漬させた衝突用質量のブラウン運動からもたらされる)をAC電気エネルギーへと変換し、熱エネルギーへと変換し、さらにDC電気エネルギーに変換するシステムとして説明したが、小さな変更によって、システム300がこの運動エネルギーの結果として直接DC電気エネルギーを生み出しうることを、当業者であれば理解できるであろう。
とくに、上方へと動き、次いで静止位置へと下方に動くパドル302の運動によって、或る1つの極性の電圧が生み出される点に、注意すべきである。下方へと動き、次いで静止位置へと上方へ戻る運動は、反対の極性の電圧を生み出す。このように、本発明によれば、パドル302が、中立点(すなわち、静止位置)とただ1つの極限点との間の運動に事実上限られている(通常の振動が、第1の極限点から中立点を通過して第2の極限点へと進み、また戻るのに対し)。
したがって、パドル302が、物体を位置303(すなわち、パドル302の自由端付近)に置くことによって「上方」運動に制限されるならば、出力電圧が或る1つの極性(本質的に、パルス状のDC)に限定される。そのような構成においては、圧電発電機(発電機304など)の出力を、まとめて直列に接続することができ、整流回路を必要とすることなく有用なレベルの電気的出力を依然としてもたらしつつ、例えば抵抗アセンブリ308、ワイヤ307および309、ならびにヒートシンク360を不要にすることができる。
図4は、本発明の原理に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械システム400の一部分の他の実施の形態を示している。図4に示したシステム400の一部分は、それぞれが1つのピエゾ発電機304、324および344(図3に関してすでに説明した)に接続されている3つのパドル・アセンブリ402、422および442を備えている。
図4に示すとおり、パドル・アセンブリ402、422および442のそれぞれは、衝突用質量490および衝突用質量490にほぼ直交するように取り付けられた多数のナノチューブ492を備えている。ナノチューブ492はそれぞれ、約2ナノメートルの直径および約25〜50ナノメートルの高さを有する例えばカーボンなどの材料で構成できる(ナノチューブ492の寸法を、本発明の技術的思想から離れることなく変更できることを、当業者であれば理解できるであろう)。さらに、ナノチューブ492の剛性および整列を、図7に示されて以下に説明されるものなど、静的な電圧の印加によって制御することができる。
システム400は、システム300についてすでに説明したものと、きわめて同じやり方で動作する。パドル402、422および442の周辺のガス圧の統計的なばらつきが、パドル402の自由端を上下に振動させ、圧電材料に歪みを生じさせて、圧電材料の導電外側層に電圧を生じさせる。しかしながら、システム400においては、システム400のパドルの上下運動を、さらなる分子の衝突を引き起こすナノチューブ492によって、強調することができる。
圧電材料の外側導電層は、抵抗アセンブリに接しており、したがって電流が流れて抵抗が加熱される。例えばワイヤ307および309によって形成された熱電発電機が、加熱された抵抗と低温にあるヒートシンク360との間に位置している。この温度差によって、熱電発電機が電圧を生み出す。
図5および6は、それぞれナノメートル・スケールの電気機械システム500および600という2つの類似する構成を示しており、どちらも本発明の原理に従って構成されている。システム500および600はそれぞれ、多数のパドル・アセンブリ302を発電機304に接続して備えており、発電機304そのものは、ヒートシンク360へと接続されたワイヤ307および309に接続されている。これは、例えば図3に示したシステム300の一部分を見つけることができる場所を示している破線による囲み部分を眺めることによって、さらに明らかになるであろう。図5および6に示すとおり、システム500および600は、それぞれ90のパドル・アセンブリ302および関連のコンポーネント(すなわち、発電機、ワイヤ、およびヒートシンク)を備えている。
実際には、本発明に従って構成されるナノメートル・スケールの電気機械システムは、百万以上のパドル・アセンブリを1つの基板上に備えることができる。本発明によれば、1つの基板上のそれぞれの熱電発電機から延びる各組のワイヤにまたがる出力電圧が、直列にまとめて接続されて、システムのただ1つの出力信号をもたらす。この出力信号は、使用される個々のコンポーネントの数およびそれらのコンポーネントを製造するために使用される特定の製造技術によって決まるが、ボルトのオーダでありうる電圧を有しうる。システム500と600との間の主たる相違は、システム500が負荷抵抗502を有する一方で、システム600が有していない点にある。
負荷抵抗502が基板370に搭載されて示されているが、負荷抵抗502によって放散された熱が作動流体の温度を左右することがないよう、負荷抵抗を基板370が浸漬される作動流体から絶縁することが好ましいかもしれないということを、当業者であれば理解できるであろう。
図7は、本発明の原理に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械システム700の他の実施の形態を示している。システム700は、キャパシタ708の上側プレート704と下側プレート706との間に位置するナノチューブ702のアレイと、やはりキャパシタ708の両プレート間にまたがって接続されている電圧源710とを含んでいる。ナノチューブ702はそれぞれ、約2ナノメートルの直径および約25〜50ナノメートルの高さを有する例えばカーボンなどの材料で構成できる(ナノチューブ702の寸法を、本発明の技術的思想から離れることなく変更できることを、当業者であれば理解できるであろう)。
各ナノチューブ702の一端は、キャパシタ708の下側プレート706に固定されている。各ナノチューブ702の他端は、自由に運動できる。次いで、アセンブリ700の全体が、通常は流体(すなわち、気体または液体)中に浸漬される。キャパシタ708の両プレートにまたがって電圧源710から電圧Vが印加されると、電界Eが生み出され、ナノチューブ702の長さをキャパシタ・プレート704および706に対して事実上直角を向いた状態に保とうとする力が生じる。ナノチューブ702に衝突する作動流体分子の速度および方向の統計的なばらつきによって、ナノチューブ702の周囲の流体の圧力に統計的なばらつきが生じ、これが図8および9に示すようなナノチューブ702の弾性的な運動を生じさせる。
図8に示すとおり、ナノチューブ802および822(単に、隣り合う任意の2つのナノチューブ702である)は、個々の分子110が各ナノチューブに衝突した直後であっても、下側のキャパシタ・プレート706に対して事実上直交している。この場合、ナノチューブのいずれの側においても気体の圧力にばらつきはなく、チューブは直立したままである。2つのナノチューブの相互関係が示されているが、数千または数百万のナノチューブについて分子の衝突が同時に生じることを、当業者であれば理解できるであろう。
一方、図9は、作動流体分子の熱運動のばらつきによってもたらされるナノチューブ902および922(ナノチューブ802および822と同様、単に隣り合う任意の2つのナノチューブ702である)の周囲の流体の圧力の統計的なばらつきの影響を示しており、位置930においてナノチューブ902および922の自由端の衝突を引き起こしている。衝突するナノチューブ902および922の運動エネルギーの一部が、これらチューブがお互いを摺動して過ぎるとき、接触による摩擦の結果として熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーが、ナノチューブ902および922の長さに沿って下方に、熱伝導性のプレート706まで導かれる。
さらに、図8および9に示されているとおり、各ナノチューブ702(または、ナノチューブ802、822、902および922)は、キャパシタ・プレート704および706間の電界Eゆえ、帯電を有している。ナノチューブ902および922の衝突は、電荷を加速させることによってチューブの運動エネルギーをさらに放散させ、次いでこれが、ナノチューブの自由端に電磁波を生じさせる。このようなやり方で、電磁エネルギーが作動物質の冷却および下側キャパシタ・プレート706の加熱という正味の効果をもたらすため、作動流体の運動エネルギーの一部が、下側のキャパシタ・プレート706へと運ばれ、周囲の空間へと運ばれる。次いで、この温度差を、空間の或る領域を直接加熱または冷却するために使用でき、あるいはヒート・エンジンを駆動するために使用できる。
図10は、本発明に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械アセンブリ1000の他の実施の形態を示している。アセンブリ1000は、多数のナノチューブ1002を備えており、すべて基部1004に接続されている。先の実施の形態と異なり、ナノチューブ1002は上端において閉じており、気体の分子が各ナノチューブ1002の中に閉じ込められている。さらに、図10に示すとおり、各ナノチューブ1002において少なくとも1つの分子が帯電させられている(例えば、個々のナノチューブ1012が、正に帯電した分子を少なくとも1つ含む一方で、個々のナノチューブ1022は、負に帯電した分子を少なくとも1つ含んでいる)。
アセンブリ1000は、チューブの半数が正の電荷を含み、残りの半分が負の電荷を含み、アセンブリ中のナノチューブ1002の正味の電荷がゼロであるように構成されている。この実施の形態においては、帯電した分子がナノチューブの壁面およびナノチューブ内の他の分子に衝突して跳ね返るとき、電荷の加速度が生じて、周囲の空間へとチューブ・アセンブリを通過する電磁波が生み出される。電磁放射の結果として、ナノチューブ1002内の気体が冷却され、これによって熱伝導性の基部1004が冷却される。この場合には、当業者にとって明らかであるとおり、基部1004の温度の低下を、流体を冷却するために利用することができ、あるいはヒート・エンジンの「低温側」として使用することができる。
図11は、本発明の原理に従って構成されたナノメートル・スケールの電気機械アセンブリ1100の他の実施の形態を示している。アセンブリ1100は、一連のナノメートル部材1102を、導電性かつ熱伝導性である一対のレール1104および1106の間に接続して備えている。この実施の形態においては、ナノメートル部材1102がカーボン・ナノチューブであり、周囲の作動物質のランダムな圧力変化に反応してナノチューブが振動できるよう、ナノチューブ1102のそれぞれに或る程度のたるみが設けられている。レール1104および1106は、熱伝導性の基部1108に取り付けられて熱接触している。
ここに説明したナノチューブの代わりに、他のさまざまなナノメートル部材を本発明に従って使用できることに、注意すべきである。例えば、本発明の原理を、きわめて細い繊維に形成できる基本的に任意の導電材料を使用して実行できる。それらには、ナノチューブの代わりに、単純なカーボン繊維が含まれる。
図11および12に示したナノメートル部材(ならびに、後で説明する図13〜16のナノメートル部材)は、例えばすでに説明したパドルと比較したとき、さらなる機能を果たす。例えば、図11〜16のナノメートル部材はすべて、衝突用質量として機能しつつ、すでに説明した拘束部材および発電装置の機能に貢献する。さらに、図11および12のナノメートル部材は、抵抗素子としても機能する(図13〜16は、後でさらに詳しく説明するとおり抵抗素子1304を備えている)。
本発明の原理に従い、熱伝導性の基部1108には、熱絶縁材料1110が取り付けられており、さもなくば露出する熱伝導性の基部1108の部位の少なくとも大部分を覆っている。絶縁1110の使用は、熱エネルギーの損失防止を助けている。さらに、すでに説明した実施の形態において、それらのシステムおよびアセンブリの効率をさらに高めるべく同様の絶縁を利用可能であることを、当業者であれば理解できるであろう。
外部の磁界(図11において「
」で示されている)がアセンブリ1100を貫いており、レール1104および1106ならびに基部1108に直交している。アセンブリ1100の動作が図12に示されており、レール1104および1106の一部が示され、個々の2つのナノチューブ1202および1222(単純に、隣り合う2つのナノチューブ1102である)が含まれている。作動物質に浸漬されたナノチューブ1202および1222が、作動物質の分子の熱運動のランダムな変動ゆえ、緩んだ「休止」位置(直線状の破線1203および1223で示されている)から不規則的に運動する。磁界
の存在下でのナノチューブ1202および1222の運動によって、ナノチューブ1202および1222の長さに沿って電界Eが誘起される(図12に示すとおり)。
この電界Eによって、1つのナノチューブから1つのレールを下り方向に流れ、他方のナノチューブを横切って他方のレールを上り方向に流れる電流「i」が生じる(時計回りの電流として図示されているが、ナノチューブの運動の方向が変化する他の或る時点においては反時計回りの電流であるかもしれず、したがってAC電流が生み出される)。ナノチューブおよびレールを通って流れる電流によって、抵抗性の発熱が生じ、熱がナノチューブおよびレールに沿って熱伝導性の基部1108へと移動する。ナノチューブの周囲の流体(気体または液体)が冷却される一方で、基部1108が加熱され、さまざまなやり方(すでに述べたヒート・ポンプやヒート・エンジンなど)で利用できる温度差が確立される。
図13〜16は、アセンブリ1300について、本発明の原理による絶縁の使用のさらなる例を示している。アセンブリ1300は、多くの点で図11のアセンブリ1100と類似している。アセンブリ1300も、ナノチューブ1302を作動物質に浸漬させて備えている。さらに、ナノチューブ1102に関してすでに説明したとおり、ナノチューブ1302が、作動物質の分子の熱運動のランダムな変動によって不規則的に運動できるよう、たるみを有して据え付けられている。
アセンブリ1300も、外部の磁界
を横切るナノチューブ1302の運動が、AC電流の流れを誘起し、この電流が、この場合には、各ナノチューブ1302の直下に位置する抵抗1304を通って導かれる。抵抗1304の値は、ナノチューブの抵抗の約2倍となるように選択でき、その場合、生成された電力の大部分が、抵抗によって熱として放散される。
アセンブリ1300は、抵抗1304が絶縁層1310の下方かつ熱伝導性シート1312の上方に位置するように構成されている。これにより、生成された電力および熱の大部分を、上方の作動流体にではなく、下方へとアセンブリ1300に導くことができる。さらに、アセンブリ1300は、レールを使用するのではなく、柱1306を利用しているため、高温にある表面積のうちで作動流体に暴露されるのは、限られた部分だけである。抵抗1304、柱1306、および抵抗リードは、熱伝導層1312上に堆積させた電気絶縁の薄い層1314によって、熱伝導シート1312から電気的に絶縁される。
抵抗1304からの熱が、熱伝導シート1312の温度を上昇させる。熱伝導シート1312の底部が、熱電発電機1334の「高温」部1330と熱接触している(シート1312は、電気絶縁シート1316によって高温部1330から電気的に絶縁されている)。第2の熱伝導シート1322が、熱電発電機1334の「低温」部1332と熱接触している(この二者は、薄い層1318によって電気的に絶縁されている)。このようなやり方で、生み出された熱が、抵抗1304からアセンブリ1300を通過して下方へ、下側層1322の底面まで導かれる。
熱電発電機1334の高温部と低温部(それぞれ、1330および1332)との間の温度差が、それぞれの接点を横切ってDC電圧を生じさせる。他の実施の形態に関してすでに説明したとおり、複数のこれら接点をまとめて直列に相互接続することによって、アセンブリ1300を、少なくとも約1ボルトであろう有用な電圧を供給するために使用することができる。アセンブリ1300が負荷を駆動すべく使用され、負荷が熱電発電機1334に直列に接続され、作動流体が冷却または所定の温度範囲に保たれるとき、負荷において放散される電力が作動流体の温度を作用することがないよう、負荷を作動流体から離しておくことによって、システムの効率が高められる。
さらに、図15に最もはっきりと見て取れるように、追加の熱絶縁の層が、アセンブリ1300の高温部をアセンブリ1300の低温部から分離するために使用される。とくに、アセンブリ1300が、さらに絶縁層1342を熱伝導シート1312(実際には、図示のとおり、層1342は電気絶縁層1316の下方にある)と低温部1332との間に介装して備えている。一方、絶縁層1352が、第2の熱伝導シート1322と高温部1330(実際には、図示のとおり、層1352は電気絶縁層1318の下にある)との間に位置している。これらの絶縁層は、熱電発電機の高温部と低温部との間の温度差を大きくし、熱電発電機1334の電気出力を増加させる。
アセンブリ1300の動作は、アセンブリ1100に類似しており、図16に関して説明されている。外部磁界
のもとでのナノチューブ1302の運動によって、図16に示すとおり電流「i」の流れが生じる。しかしながら、この場合には、個々のナノチューブ1302のそれぞれからの電流は、対応する抵抗1304を備える自己完結の回路内にとどまる。例えば、個々のナノチューブ1342に誘起された電流は、アセンブリ1100に関して説明したように隣のナノチューブと相互に交流するのではなく、個々の抵抗器1344を備える「絶縁された」回路内にとどまる。2つのナノチューブの運動が示されているが、やはり数千または数百万のナノチューブの運動が同時に生じることを、当業者であれば理解できるであろう。
個々のナノチューブ1302のそれぞれに個々の熱電発電機部が用意されているように見受けられるが、このような構成を実現することが現実的ではなく、法外に高価につく可能性があることを、当業者であれば理解しなければならない。したがって、本発明によれば、個々の熱電発電機1334の部分のそれぞれに、数百万とはいわないがいくつかのナノチューブ1302を熱的に接続することが、より現実的であろう。
図17は、本発明に従って構成された推進システム1700を示しており、作動物質内に浸漬された物体が、物体への作動物質分子の分子衝突のばらつきの結果として、制御可能な方向に駆動される。システム1700は、球1702を備え、さらに電子装置コア1716を中心に軸方向に配置された一連の電磁石1704、1706、1708、1710、1712および1714(1712および1714は、1組の破線によって示されている)を備えている(軸方向とは、単に1つの電磁石が、電子装置コア1716の6つの側面のそれぞれに平行に位置していて、それぞれの電磁石の中心が、コアの表面に直交して延びる仮想の軸に整列していることを指している)。これらの電磁石が、以下でさらに詳しく説明するとおり制御システムとともに駆動システムを形成し、球1702の推進を助ける。
球1702は、任意の三次元物体であってよい。球が示されているが、立方体や円筒形などの他の形状も、使用することができる。球1702の表面は、図11〜16に関してすでに説明したとおり、或る程度のたわみを備えて当該表面へと取り付けられた一連のナノチューブなど、ナノメートル・スケールのアセンブリで覆われている。
電磁石1704、1706、1708、1710、1712および1714は、例えば電池や他の何らかの供給源から駆動することができる。いずれにせよ、外部の電力が電子装置コア1716へと供給され、次いで以下に説明するとおり適切な電磁石へと供給される。
球1702がゼロでない温度に保たれた流体内に位置していると仮定し、例えば電磁石1704など、或る1つの電磁石が駆動されたとき、もたらされる磁界1718がナノチューブ・アセンブリと協働し、表面の直上の流体の圧力を低下させる。この圧力の低下によって、球1702が方向1720へと動かされる(推進力が充分強い場合)。例えば、さらに電磁石1710も駆動されるならば、これによって磁界1722が確立され、球1702が力1724によっても影響される。この場合には、球1702が、磁気軸1718および1722から45度離れたベクトルに沿って、(矢印1726によって示されているとおり)進められる。それぞれの電磁石に供給される電流を変化させることによって、流体中の球1702の運動を制御することができる。
図3に再び目を向けると、システム300にジョンソン雑音が存在しうることを、当業者であれば認識できるであろう。ジョンソン雑音は、抵抗の本体において、通常は温度の振動によってもたらされる担体のランダムな運動に起因し、望ましくない電圧を生じさせる。ジョンソン雑音は、標準的な電圧(例えば、124ボルト)を調節するために使用されるセンチメートル・スケールの抵抗においては、通常は問題でないが、ナノメートル・スケールの抵抗においては、調節すべききわめて小さな電圧のすべてまたはいくらかをジョンソン雑音が打ち消してしまう可能性があるため、厄介な問題になりうる。システム300のピエゾ発電機304、324、および344は、それぞれ抵抗308、328、および348の周囲にきわめて小さい電圧を生じさせるため、これらの抵抗におけるジョンソン雑音が、システムの出力の一部を帳消しにしてしまう可能性がある。
システム300からのジョンソン雑音の影響を緩和するため、ピエゾ発電機304、324、および344をそれぞれ抵抗308、328、および348へと選択的に接続するため、自動スイッチを備えることができる。そのような自動スイッチがオンであるとき、2つのコンポーネント間に閉じた回路が存在し、抵抗にピエゾ発電機の電位からの電流を流すことができる。そのような自動スイッチがオフであるとき、2つのコンポーネント間に開いた回路が存在し、抵抗に電位が加わることがない。ピエゾ発電機によって生成される電位の大きさに関して自動スイッチのオンおよびオフ時間を制御することで、抵抗によって調節される電圧を制御することができる。この「オンになる」電圧が、好ましくは、ジョンソン雑音によって生じる平均電圧よりも大きくされ、これによりジョンソン雑音による悪影響が基本的にシステムから除かれる。
図18のグラフ1800は、縦軸1801および横軸1802に関するマクスウェル分布曲線1800を示している。詳しくは、縦軸1801は、作動物質内の該当しうる分子の数を表わしている。横軸1802は、作動物質内の分子についてありうる速度を表わしている。したがって、マクスウェル曲線1800は、作動物質中で分子は有する速度の範囲を示している。マクスウェル曲線1800がさまざまな要因に依存して変化しうることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、作動物質の温度が高くなると、分子の平均速度が大きくなるため、マクスウェル曲線1800は別の形状をとるであろう。
グラフ1800を眺めると、任意の或る時点において、幅広い範囲の速度を有している複数の分子が図3のパドル302、322、および342に衝突しうることが明らかである。したがって、パドル302、322、および342は、それらの衝突によって生じる力に従って曲げられることになる。いずれの場合にも、数百、または数千にもなる分子が、パドル302、322、および342に衝突しうる。すでに述べたとおり、好ましくは本発明の自動スイッチが、ピエゾ発電機304、324、および344によって生み出される電位が抵抗308、328、および348に存在するジョンソン雑音よりも大きいときに、ピエゾ発電機304、324、および344が抵抗308、328、および348に接続されるように構成されている。図3のシステム300によって生み出される電位の大きさは、パドル302、322、および342へと加えられた力の大きさを表わしているため、自動スイッチを、ピエゾ発電機304、324、および344をそれぞれ抵抗308、328、および348へと、パドル302、322、および342に衝突するすべての分子の合計の力が少なくとも特定の大きさおよび特定の方向を有しているときに接続するように構成できることを、当業者であれば理解できるであろう。
図27のシステム2700に関して後で説明するとおり、本発明のシステムは、動作のために必ずしも作動物質中に浸漬させる必要はない。さらに詳しく述べると、物体は、その温度に比例した平均速度で振動し、かつその質量に反比例した平均速度で振動する。すなわち、本発明の実施の形態を真空中で動作させることができ、温度によって励起させることができる。したがって、熱源を備えることができる。そのような熱源は、低級の熱源(例えば、体温)であってよく、あるいは太陽光によってもたらされる熱であってよい。このような実施の形態は、動作のために周囲の流体を必要としないが、それらを作動物質中に浸漬させることが有益であろう。
図19は、ナノ電気機械システム1900の一部分の一例を示しており、本発明に従って構成された自動スイッチ912を備えてなるパドル1901を使用している。システム1900は、パドル1901の形態である衝突用質量、拘束部材1902、発電装置1904(スイッチ1912の状態に応じてリード1906に電気的出力をもたらす)、および基部1908(通常は、パドル1900よりも数千倍も、数百万倍も大きい)を含んでいる。パドル1901は、おそらくは熱伝導性であるが必ずしも熱伝導性でなくてもよい基部1908へと、所定の距離の範囲内で1つ以上の方向(横方向、または上下など)へと運動できるように取り付けられている。
2つ以上の拘束部材1902でパドル1910を基部1908に接続してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、パドル1901の対向する2つの端部を、2つの別個の拘束部材1902で拘束してもよい。そのような実施の形態において、パドル1901はネットの形態をとることができ、分子または一群の分子が衝突したとき、きわめて小さいが依然として利用可能である電位を生み出すことができる。
さらに図19には、分子1910がパドル1901で跳ね返されて示されており、今や遅くなった速度で運動している。いくつかの分子は、衝突の結果として速度が遅くなる一方で、他の分子は速度がほとんど変化しない可能性があり、他の分子には実際には速度の増加がもたらされるかもしれないことを、当業者であれば理解できるであろう。しかしながら、一般的には、本発明によれば、分子1910のパドル1901との衝突は、平均すれば、速度の減少をもたらす。
分子1910は、好ましくは当該システムの作動物質の分子であり、好ましくは流体(例えば、気体または液体)であるが、固体であってもよい。すでに述べたとおり、作動流体の圧力は、システムによってもたらされる出力を左右しうる。したがって、システム1900を、密度の大きい分子が高速で運動している作動物質中に沈めることが好ましいと考えられる。さらに、作動物質中に含まれている分子の速度を高めるため、この作動物質に熱を導入してもよい。
分子1910の速度の低下は、パドル1901によって装置1904との協働において生じるが、装置1904は、本発明の原理から離れることなく、さまざまな装置のうちの任意の装置であってよい。例えば、装置1904は圧電装置であってよく、あるいは起電力または静電力発電機であってよい。いずれの場合も、装置1904が、分子1910の衝突用質量1900への衝突から、衝突用質量の運動エネルギーをリード1906を介する出力電気エネルギーに変換する。
リード1906を介する電気的出力の量は、たとえ最も好都合な条件下であっても、きわめて小さい。例えば、パドル1900の出力は、装置のサイズおよび他のさまざまな要因によって決まるが、約10−12ワット程度であると考えられる。したがって、このシステムが、例えば数マイクロワットなどの有用な出力をもたらすためには、このようなパドルを数百万個製造し、システムのすべてまたは事実上すべての出力を1つの出力信号へと合算できるよう、一体に接続する必要がある。
システム1900が作動物質なしでも動作可能であることを、当業者であれば理解できるであろう。さらに詳しくは、システム1900を真空中で動作させることができ、パドル1901が、自身の有限の温度ゆえに振動することができる。
すでに述べたとおり、発電機1904の電圧が充分に大きくない場合、素子をリード1906に接続して備えている電気回路のジョンソン雑音が、発電機の出力のいくらかまたはすべてを打ち消してしまうかもしれない。いつパドル1901の出力を利用するかを制御するため、リード1906にスイッチ1912を備えることができる。スイッチ1912は、発電機1904の出力を、最小限の大きさの電圧が生み出されているときにのみ利用するように構成することができる。好ましくは、この最小限の電圧は、リード1906へと接続された回路素子のジョンソン雑音によって生み出される電圧の平均よりも大きくされる。
作動物質によって(あるいは、自身の熱振動によって)パドルが動かされる方向が、パドル1901の運動の方向を左右する。パドル1900に加わる方向の異なる圧力によって、極性の異なる電圧が生み出されることにつながる。図示のシステム1900において、静止位置から上方へと動き、次いで静止位置へと下方に動くパドル1901の運動によって、或る1つの極性の電圧が生み出される点に注意すべきである。下方へと動き、次いで静止位置へと上方に戻る運動は、反対の極性の電圧を発生させる。このようにして、パドルが分子の衝突を受けたとき、パドルが静止位置の両側の間を振動でき、両方の極性の電位(例えば、AC電圧)を生み出すことができる。したがって、スイッチ1906を、特定の極性の最小電圧がパドルによって達成されたときにのみ、開くように構成できる。換言すれば、スイッチ1912を、パルス状のDC電圧を生じさせるために使用することができる。
図20は、ナノメートル・スケールの電気機械システム2000の一部分の斜視図であり、ジョンソン雑音の影響を軽減し、ランダムなパルス状DC出力電圧を生成する自動スイッチを備えて構成されている。システム2000は、図3のシステム300に類似している。しかしながら、システム2000はスイッチ2091を備えており、かつ圧電層をパドル・アセンブリ(例えば、パドル・アセンブリ2002、2022、および2042)に一体化している。システム2000においては、パドル・アセンブリが、パドルとして構成されたピエゾ発電機である。
例えば、パドル・アセンブリ2042は、上側導電層2044、圧電性材料2046、および下側導電層2045で構成されたピエゾ発電機である。すなわち、パドル・アセンブリ2042が衝突する分子(あるいは、真空中での自身の熱振動)からのエネルギーを吸収するとき、圧電性材料2046に圧力が加わり、上側導電層2044と下側導電層2045との間に電位が形成される。この電位が抵抗アセンブリ2048に接続されたとき、抵抗アセンブリ2048を通って電流が流れる。抵抗アセンブリ2048を通過して流れる電流の副産物として、熱が生じる。この熱を、熱電発電機によって回収することができ、あるいは別の物質を加熱するために使用することができる。
自動スイッチ2091が、いつパドル・アセンブリ2042を抵抗アセンブリ2048に接続するかを支配している。すなわち、スイッチ2091が、いつパドル・アセンブリ2024の電圧発生特性を抵抗アセンブリ2048に接続するかを支配している。具体的には、抵抗アセンブリの片側が、上側導電層2044に接続される。抵抗アセンブリ2048の反対側は、導電延長部2092を介してスイッチ2091に接続される。
自動スイッチ2091は、パドル・アセンブリ2042が静止位置にあるとき、下側導電層2045がスイッチ2091に接触せず、パドル・アセンブリ2042と抵抗アセンブリ2048との間に開いた回路が存在するよう、パドル・アセンブリ2042の近傍に配置されている。しかしながら、スイッチ2091はさらに、好ましくは、パドル・アセンブリ2042が静止位置から或る所望の距離だけ変位させられたときに下側導電層2045がスイッチ2091に接触し、パドル・アセンブリ2042と抵抗アセンブリ2048との間に閉じた回路が存在するよう、パドル・アセンブリ2042の近傍に配置されている。下側導電層2045を層2092から隔てるため、絶縁層2093を配置することができる。
自動スイッチ2091とパドル・アセンブリ2042の静止位置との間の間隔を小さくすると、システム2000を作動物質中に浸漬させたときに、下側導電層2045がスイッチ2091に接触する単位時間当たりの回数が増加する。さらに、システム2000が作動物質を含んでいない真空中でも動作可能であることを、当業者であれば理解できるであろう。そのようなシステムは、パドルそのものの熱特性を利用することができる。詳しくは、パドル・アセンブリ2042が、熱振動によって振動できる。このようなやり方で、スイッチ2091とパドル・アセンブリ2042の静止位置との間の間隔を小さくする場合、下側導電層2045がスイッチ2091に接触する回数を、好ましくは増加させることができる。
さらに、自動スイッチ2091の位置をパドル・アセンブリ2042の下方で横にずらすことによって、下側導電層2045が自動スイッチ2091に接触する回数を多くすることができ、あるいは少なくすることができることを、当業者であれば認識できるであろう。同様に、自動スイッチ2091とパドル・アセンブリ2048の静止位置との間の間隔を増すこと、またはスイッチ2091の位置によって、下側導電層2045が自動スイッチ2091に接触する回数を少なくすることができる。
スイッチ2091とパドル・アセンブリ2042の静止位置との間の間隔を増すと、パドル・アセンブリ2042をスイッチ2091へと閉じるために必要な力の大きさも、増加する。この増加した力の大きさは、パドル・アセンブリ2042の圧電性層2046に生じる応力の大きさに直接比例する。すなわち、この増加した力の大きさは、ピエゾ発電機にて生み出される電位がより大きいことを意味する。抵抗アセンブリ2048のジョンソン雑音の影響を最小限にするため、自動スイッチ2091とパドル・アセンブリ2042の静止位置との間の間隔は、好ましくは、閉じた回路を形成するために必要とされる力の大きさが、抵抗2048内のジョンソン雑音によって生み出される平均の電位よりも大きくなるように、選択されるべきである。
スイッチ2091を、どの極性の電力が必要とされるかに応じてパドル2042のいずれかの側に配置できることを、当業者であれば理解できるであろう。同様に、2つの別個の自動スイッチを、本発明の圧電パドル・アセンブリに備えてもよい。具体的には、1つの自動スイッチを、パドル・アセンブリの下方の或る位置および或る距離に配置できる一方で、第2のスイッチを、同じパドル・アセンブリの上方の或る位置および或る距離に配置することができる。このようにすることで、このパドル・アセンブリによって交流電流を生み出すことができる。生み出された交流電流は、パドル・アセンブリ2042の出力が、多くの場合、抵抗2048によって生じるジョンソン雑音よりも大きな値にて生み出されているため、抵抗2048のジョンソン雑音の影響をほとんど受けていない。
抵抗2048を流れる電流によって、抵抗2048が加熱されるが、この抵抗2048が、ワイヤ2047および2049(すでに述べたとおり、異なる材料から作られている)によって形成される熱電発電機の片側に接続されている。ワイヤ2047および2049を、絶縁層2094によって互いに絶縁することができる。熱電発電機(熱電対と称することも可能である)の反対側は、抵抗2048よりも低い温度にあるヒートシンク2060に接続されている。本発明の技術的思想から離れることなく、ここに説明した熱電発電機ではなく、熱から電気へのヒート・エンジン(例えば、熱電子ヒート・エンジンなど)など他の装置を使用してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。
この温度差によって、熱電発電機がDC電圧を発生させ、この電圧が、以下でさらに詳しく説明するとおり、他のパドル・アセンブリからの電圧と組み合わされて、システムの出力電圧がもたらされる。本発明によれば、これらの電圧をまとめて直列に接続し、システム2000から有用なレベルの電気的出力を生み出すことができる。システム2000の抵抗素子、熱電発電機、およびヒートシンクを取り除き、電流を圧電アセンブリから直接導いてもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。さらに、コンタクト2091がナノチューブであることに加え、導電層2045もナノチューブであってよく、あるいは導電層2045をナノチューブの上端に設けてもよいことを、やはり当業者であれば理解できるであろう。そのようにすることで、層2045とコンタクト2091との間の磨耗を少なくすることができる。
自動スイッチ2091が、毎秒多数回の下側導電層2045の接触にさらされることを、当業者であれば認識できるであろう。実際において、スイッチ2091と下側導電層2045との間の接触の回数は、容易に毎秒1000回に達しうる。したがって適切には、自動スイッチ2091が、低摩耗特性を呈する導電性材料から作られることが好ましい。例えば、ナノチューブが1つの分子として良好な摩耗特性を呈するため、自動スイッチ2091を、ナノチューブで構成することができる。しかしながら、スイッチ2091を製造するために、任意の導電性材料を使用することが可能である。自動スイッチ2091と下側導電層2045との間の摩耗を少なくするため、ナノチューブを、下側導電層2045の底面に配置してもよい。
図21は、システム2100を示しており、図20のナノメートル・スケールの電気機械システムについて線20‐20に従って得た断面図である。システム2100は、好ましくはシステム200と同じやり方で動作する。詳しくは、パドル・アセンブリ2142が静止位置2199の辺りに位置しており、分子2110(または1群の分子2110)がパドル・アセンブリ2142に衝突するとき、生じる力2111がパドル・アセンブリ2142によって受け止められ、静止位置2199を中心とするパドル・アセンブリ2142の振動を引き起こす。力2111が充分に大きい場合(例えば、力2111の垂直成分が充分に大きい場合)には、パドル・アセンブリ2142が、コンタクト2191に接触するに至る。このとき、圧電性層2146に加わる応力の結果としてパドル・アセンブリ2042を横切って生み出される電位が、上側導電層2144を通って抵抗2148の片側へと運ばれ、下側導電層2145、スイッチ2191、および導電層2192を通って抵抗2148の他方の側へと運ばれる。
抵抗2148をまたがって加わる電位によって、抵抗2148の加熱が生じる。この抵抗の熱が、ワイヤ2147および2149を通ってヒートシンク2160へと運ばれる。他のパドル・アセンブリ(例えば、隣接するパドル・アセンブリ)からの熱も、ワイヤ2194を介してヒートシンク2160へと運ばれる。
電流または電位を得るために、システム2100の熱電発電コンポーネントが必須ではないことを、当業者であれば理解できるであろう。さらに、システム2100の個々の抵抗アセンブリも、電流または電位を得るために必須ではない。図22は、システム2200を示しているが、システム2200は、個々の抵抗アセンブリまたは熱電発電機コンポーネントを備えていないナノメートル・スケールの電気機械システムの他の実施の形態である。
システム2200のパドル2242は、抵抗アセンブリや熱電発電機コンポーネントを備えることなく構成されている。結果として、抵抗アセンブリおよび熱電発電機コンポーネントを統合してなるパドル・アセンブリに比べ、より多数のパドル・アセンブリ2242をアレイ内に配置することができる。図21のシステム2100のパドル・アセンブリ2142と同様、パドル・アセンブリ2242がピエゾ発電機を形成しており、圧電性層2246が静止位置から動かされたとき、圧電性層2246に応力が加わって上部導電層2244と下部導電層2245との間に電位が生じる。この電位をいつシステム2200の出力へと渡すことができるようにするかを、スイッチ2291が制御する(図23のシステム2300に示されている)。
システム2200のパドル・アセンブリが、システム2100のものと異なる構成であることを、当業者であれば理解できるであろう。詳しくは、自動スイッチ2261が、パドル・アセンブリ2262の下側導電層2295と別のパドル・アセンブリ2242の上側導電層2244との間の回路を開閉するために、使用されている。このようなやり方で、システム2100は、パドル・アセンブリ2242および2262を互いに直列構成に配置している。
さらに、システム2200のパドルのいくつかが共通の上側導電層を共有していることに、当業者であれば気付くであろう。具体的には、システム2200のパドル・アセンブリは2列に分割されており、各列が、互いに並列接続にある複数のパドル・アセンブリで構成されている。具体的には、パドル2202、2222、および2242が互いに並列接続され、システム2200のパドル列の1つの一部分を構成している。これらのパドル・アセンブリが、共通の上側導電層2244を共有しており、次いで、この共通の上側導電層2244が、システム2200の別のパドル・アセンブリ列(例えば、自動スイッチ2065、2063、および2061を含んでいるパドル・アセンブリ列)の自動スイッチへと接続されている。
分子がパドル・アセンブリ2262に衝突した場合、アセンブリ2262の下側導電層2295と導電層2244との間に、スイッチ2261を介して閉じた回路が形成される。この例において、導電層2244は、層2294の電位をパドル・アセンブリ2262の圧電性層によって生み出される電位に加えた(あるいは、アセンブリ2262の構成によっては、層2294の電位をパドル・アセンブリ2262の圧電性層によって生み出される電位から減算した)ものとほぼ等しい電位を有する。ここで、アセンブリ2202も閉じているならば、導電層2292は、導電層2294における電圧にアセンブリ2202および2262によって生み出される電圧を加えた(あるいは、アセンブリの構成によっては、アセンブリ2202および2262によって生み出される電圧を減算した)ものとほぼ等しくなる。
システム2200は、数十億にはならないかもしれないが、数百万のパドル・アセンブリ(例えば、圧電発電機)と、数百万にはならないかもしれないが、数千のパドル・アセンブリ列を含むことができる。図23に描かれている回路2300は、図22のシステム2200のアレイの原理を説明している。詳しくは、回路2300は、2つのパドル・アセンブリ列(例えば、列2310および2320)を含んでいる。列2310が、パドル・アセンブリ2312、2302、2322、および2342を含む一方で、列2320は、パドル・アセンブリ2368、2366、2364および2362を含んでいる。各パドル・アセンブリは、図22の自動スイッチ2261に類似の自動スイッチによって制御される。
回路2300のパドル・アセンブリの構成が、線2392、2344、および2394の間で生成された電圧の加法の機能をもたらすことを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、回路2300として捕らえられた場合においては、スイッチ2392および2394のみが閉じている。この結果、線2392および2394をまたがる電位は、両方のパドル・アセンブリ2312および2364によって生み出された合計の電位とほぼ等しい。すでに述べたとおり、システム2300の個々の列のそれぞれのパドル・アセンブリは、並列接続で配置されている。システム2300の各列は、直列接続で配置されている。
図24に目を向けると、システム2400が示されており、図22のナノメートル・スケールの電気機械システムについて線22‐22に沿って得た断面図である。システム2400は、パドル・アセンブリ2410および2420を、コンタクト線2492および2494の間に構成して備えている。パドル・アセンブリ2410および2420は、それぞれ別個パドル・アセンブリ列(図示されていない)に含まれている。
パドル・アセンブリ2410および2420は、それぞれそれらの静止位置2401および2402に関して示されている。さらに、中間コンタクト層2493が、パドル・アセンブリ2410および2420の間に備えられている。パドル・アセンブリ2410が自動スイッチ2419へと閉じ、かつパドル・アセンブリ2420が自動スイッチ2429へと閉じるとき、コンタクト線2492とコンタクト線2494との間の電位は、パドル・アセンブリ2410および2420によって生み出される電位の合計に事実上等しくなる。システム2400のアレイにより多くの列(直列接続で配置される)を備えることによって、線2492および2494の間の電位がより高くなる。
図25のシステム2500に示すように、線2492および2494の間に、負荷抵抗を配置することができる。図25は、線2592および2594の間に負荷抵抗2590を備えてなるシステム2500を示している。負荷抵抗2590を、作動物質から熱的に絶縁してもよい。
図19〜25に関して説明した自動スイッチの原理を、すでに説明した他のナノメートル・スケールのエネルギー変換システムにおいても使用できることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、ジョンソン雑音の影響を小さくするため、図13のシステム1300に自動スイッチを追加してもよい。さらに、本発明の自動スイッチは、何ら追加のコンポーネントや構造を加えることなく、製造することができる。
例えば、図13の負荷抵抗1304を、小さな電流が通過するときに抵抗1304が内部抵抗がゼロである超伝導体として動作する(例えば、ジョンソン雑音がない)よう、特定の臨界磁界を有するよう特別な形状とすることができる。抵抗1304の臨界磁界は、大きな電流が通過するときに抵抗1304が通常の抵抗性の導体として機能するよう、特定の臨界磁界を有するように形作ることができる。大きな電流が抵抗1304を通過するときにのみ、抵抗1304が加熱されて利用可能なエネルギーが生み出されることを、当業者であれば理解できるであろう。換言すれば、抵抗1304を、超伝導材料を使用して製造することができる。次いで、システム1300を熱的に絶縁された室に配置し、抵抗1304が通常でない大きな電流を流していないときにすべての電気抵抗を失う(すなわち、超伝導になる)温度まで、冷却することができる。
上述の例では、抵抗1304の形状が、本発明の原理による自動スイッチを生み出している。さらに具体的には、抵抗1304において大きな電流は、大きな電流が抵抗1304に大きな磁界を生むため、ナノチューブに比較的高速で運動している分子が衝突したときにのみ生じる。この大きな磁界が充分に大きい場合、抵抗の臨界磁界に打ち勝って、通常の抵抗性の導体になるであろう。一方、ナノチューブに比較的低速で運動している分子が衝突したときは、小さな電流が生じる。小さな電流は、抵抗1304に小さな磁界を生む。この小さな磁界が、抵抗の臨界磁界に打ち勝つためには充分大きくない場合、抵抗1304は超伝導状態のままであろう。図示のとおり、負荷抵抗1304の成形の原理は、図23の自動スイッチ2392の構成に関するそれと類似している。
図26に目を向けると、ナノメートル・スケールのトランジスタ2600が示されている。トランジスタ2600は、ベース端子2622、コレクタ端子2641、およびエミッタ端子2642によって定められている。一般に、適切な信号がベース端子2622およびコレクタ端子2641へと印加されたとき、流電スイッチ(galvanic switch)2611が、コレクタ端子2641をエミッタ端子2642に電気的に接続する。さらに詳しくは、スイッチ2611が、ベース電圧供給源2621からの信号によって位置2613へと位置させられたときに、エミッタ端子2642へと電気的に連絡する。スイッチ2611は、例えば正に帯電させたナノチューブまたはナノワイヤであってよい。
それぞれベース、コレクタ、およびエミッタ端子という各端子2622、2641、および2642の呼称が、これら端子の機能を限定するものではないことを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、端子2622、2641、および2642をそれぞれ、例えばゲート、ソース、およびドレイン端子として使用することができる。
好ましい実施の形態においては、ベース端子2622が、コンタクト2642の周囲(例えば、直下)に位置し、かつコンタクト2642から電気的に絶縁されている負に帯電した層である。したがって、スイッチ2611に正の電荷を持たせることによって、ベース端子2622の負の電荷の密度を高めたときに、スイッチ2611をベース端子2622に引きつけることができる。ベース端子2622の電荷の量は、例えばベース電圧供給源2621によって制御することができる。コレクタ端子2641を電圧源2631に接続することができ、さらに負荷抵抗2632によってエミッタ端子2642から隔てることができる。一般に、スイッチ2611のコンタクト2642とのスイッチング特性を決定するものは、電圧2631および2621の組み合わせである。好ましくは、電圧2631および2621は、反対の極性を有するべきであり、V2631*V2621の絶対値は、或る最小値であるべきである。さらに、ベース電圧2621を、外部の磁界が存在する場合(図26には示されていない)、ナノチューブ2611の先端の相対速度が特定の大きさ(例えば、図18の点1804の速度)を超えたときにナノチューブ2611がエミッタ・コンタクト2642に接するように、設定することができる。
図11のアセンブリ1100と同様、トランジスタ・アセンブリ2600を、磁界中に配置することができる。ベース端子2622に静電荷が存在しないとき、スイッチ2611は、自身の熱振動ゆえに位置2612および2613の間を運動し、ごくまれに(例えば、1時間に1回)エミッタ端子2642に接触する。ベース端子2622に静電荷が存在し、かつスイッチ2611が電圧源2631によって正の電荷を得た場合、スイッチ2611は、より頻繁に(例えば、1ミリ秒に1回)エミッタ端子2642に接触するであろう。ナノメートル・スケールのトランジスタ2600において磁界が使用される場合、スイッチ2611を、スイッチ2611を通って電流を流しつつ、閉じた状態(例えば、エミッタ端子2642に接続された状態)にとどまるように強いることができる。
システム2600の多数のコンポーネントを通じて熱雑音を好都合に利用できることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、電圧源2631、負荷抵抗2632、またはナノメートル・スケールの機械的スイッチ2611の周囲の熱雑音を、機械的スイッチ2611の先端に時間変化する電圧を生じさせるために使用することができる。さらに詳しくは、機械的スイッチ2611が機械的スイッチ2611の先端(自由に運動する部分)の電圧が或る最小値に達したときにコンタクト2642に電気的に連絡するよう、帯電部材2622にDC電圧を加えることができる。真空にもとづくシステムなど、いくつかのシステムにおいては、スイッチ2611の電圧を熱雑音によって決まるように構成できるため、この最小値を、最小の熱雑音値に関連付けることができる。すなわち、いくつかの実施の形態においては、帯電部材層2622の電圧が、DCでありかつ制御されてよい一方で、熱雑音によって誘起されるスイッチ2611の電圧は、ACであって制御されていない。
他の好都合なナノメートル・スケールの電気機械アセンブリが、本件出願と譲受人が同一であって同時に係属中である「Nanoelectromechanical Transistors and Switch Systems」という名称のPinkertonらの米国特許出願第 号(代理人事件番号第AMB/003号)、本件出願と譲受人が同一であって同時に係属中である「Nanoelectromechanical Memory Cells and Data Storage Devices」という名称のPinkertonらの米国特許出願第 号(代理人事件番号第AMB/004号)、および本件出願と譲受人が同一であって同時に係属中である「Electromechanical Assemblies Using Molecular−Scale Electrically Conductive and Mechanically Flexible Beams And Methods For Applications of Same」という名称のPinkertonらの米国特許出願第 号(代理人事件番号第AMB/002号)に記載されており、これらの米国出願はすべて、本件出願と同時に出願され、その全体がここでの言及によって本明細書に組み込まれたものとする。
図27は、スイッチング機構としてナノチューブ2711を備えるように構成されたナノメートル・スケールのトランジスタ2700を示している。図示のとおり、ナノチューブ2711が閉じた位置にあり、ナノチューブ2711がコレクタ・コンタクト2741をエミッタ・コンタクト2742に電気的に接続している。一方、ナノチューブ2711が位置2712または2713に位置するとき、ナノチューブ2711は開いた位置にあって、コレクタ・コンタクト2741をエミッタ・コンタクト2742に電気的に接続してはいない。一般に、ナノチューブ2711は、コレクタ・コンタクト2741に加えられる電圧と帯電部材2722に加えられる電圧とが逆の極性であるとき、エミッタ・コンタクト2742に引きつけられる。ナノチューブ2711が、機械的に柔軟でありかつ導電性であるナノメートル・スケールの任意の種類の梁でよいことを、当業者であれば理解できるであろう。
好ましくは、ナノチューブ2711は、帯電部材2722の負の電荷が、正に帯電したナノチューブ2711(ナノチューブ2711の正の電荷は、コレクタ・コンタクト2741の電圧によって左右される)を帯電部材2722に向かってナノチューブ2711がエミッタ端子2742に電気的に連絡する程度まで引きつけるために充分高いとき、閉じた位置にある。帯電部材2722のDC電圧がエミッタ・コンタクト2742へと漏れることがないよう、絶縁層2752が設けられている。さらに、ナノチューブ2711の一端は、拘束部材2761によってコレクタ・コンタクト2741に取り付けられている。
本発明の原理に従って構成されるナノメートル・スケールの梁および帯電部材の帯電の様相が、任意の種類の極性を取りうることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、ナノチューブ2711が負の電荷を有し、帯電部材2722へと印加される正の電荷によって操作されてもよい。
ナノメートル・スケールのトランジスタ2700を、外部の磁界によって好都合に操作できることを、当業者であれば理解できるであろう。トランジスタ2700に磁界を導入することによって、例えば、電流がコレクタ・コンタクト2741からエミッタ・コンタクト2742へと流れているときに、ナノチューブ2711を閉じた位置に保つことが可能である。さらに、トランジスタ2700の複数の実例を使用して、種々さまざまな構成(例えば、並列および直列構成)にアレイ化することができる。
ナノチューブ2711を、真空中で熱源によって振動させてもよい。例えば、トランジスタ2700が真空中で動作している場合でも、ナノチューブ2711は、室温において毎秒約10メートルの平均で振動しうる。トランジスタ2700の摩耗を抑えるため、第2のナノチューブを、ナノチューブ2711が層2742の代わりにこの第2のナノチューブに接するように、層2742上に配置することができる。さらに、一般に2つのナノチューブの間の衝突によって生じる摩耗は、たとえ生じるにしてもわずかであるため、層2742を第2のナノチューブで置き換えてもよい。
ナノチューブ2711がコンタクト層2742と電気的に連絡するときにナノチューブ2711によってもたらされる電気信号を検出するため、検出回路2792をコンタクト層2742に接続することができる。検出回路2792は、ナノチューブ2711からコンタクト層2742へともたらされる単位時間当たりの電気インパルスの数を検出することによって、或る時間期間についてナノチューブ2711とコンタクト層2742との間の接触の度合いを検出する機能をさらに備えてもよい。同様に、帯電部材層2722、コンタクト層2741、または帯電部材層2722およびコンタクト層2741の両者に、制御回路2791を接続することができる。一般に、制御回路2742は、システム2700の特定の導電性コンポーネントへと電気信号(例えば、電圧または電流信号)をもたらすことができる。さらに、制御回路2742が、そのような制御信号の大きさ、極性、および周波数を制御してもよい。制御回路2791および検出回路2792を、システム2700の他の導電性コンポーネントに接続してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、制御回路2791をコンタクト層2742に接続できる一方で、検出回路2792をコンタクト層2741に接続することができる。
基部2793を、システム2700の残りのコンポーネントならびにシステム2700に示されていない他のコンポーネントのため、支持層として使用することができる。例えば、システム2700に示したようなトランジスタ・アセンブリを複数、ただ1つの基部2793上に製造することができる。基部2793が、例えばシリコンの層として含まれてもよい。ナノチューブ211が、一般に取り付けアセンブリによって基部2793へと取り付けられることを、当業者であれば理解できるであろう。この取り付けアセンブリは、さまざまな形態をとることができる。システム2700に示されているとおり、この取り付けアセンブリが、コンタクト層2741、絶縁層2752、および帯電部材層2722を含んでもよい。一方で、システム2700を、例えばコンタクト層2741または絶縁層2742のみがこの取り付けアセンブリを形成するように、構成してもよい。さらに詳しくは、取り付けアセンブリは、ナノチューブ2711の一部分を基部2793へと固定する一方で、ナノチューブ2711の一部分を自由に運動できるようにしている。この自由に運動できる部分は、例えば位置2712、2713、およびシステム2700においてナノチューブ2711が位置しているとして描かれている位置の間で、運動することができる。他の例については、図4のパドル490を、図4の基部370に取り付けられていると考えることができ、ここで図4の基部370が、図4のパドル490のための取り付けアセンブリである。
電気信号をナノチューブ2711から導電層2742へと渡すために、必ずしもナノチューブ2711が導電層2742に物理的に接触しなくてもよいことは、当業者であれば理解できるであろう。一般に、電気信号をナノチューブ2711から導電層2742へと渡すためには、ナノチューブ2711が導電層2732に電気的に連絡しさえすればよい。電気的連絡の形態としては、例えば容量性または誘導性の結合、ならびに2つのコンポーネント間の任意の物理的な電気接続が含まれうる。
トランジスタ2700の複数の実例を、利用可能な機能が実現されるように、図23のシステム2300と同様にまとめてアレイに配置することができる。図28のナノメートル・スケールの電気機械システム2800は、そのようなアレイ構成の1つである。好ましい実施の形態において、システム2800は、ヒート・エンジンとして利用され、熱源2840からの熱エネルギーが、負荷抵抗2860をまたがる有用な量の電気エネルギーに変換される。このやり方において、システム2300は、ジョンソン雑音の影響を取り除いていない。むしろ、システム2300は、ジョンソン雑音の通常でない高い瞬時値を、使用可能なエネルギー源に変換する。
システム2800は、任意の数のナノメートル・スケールの電気機械スイッチ2801〜2806を含んでいる。ナノメートル・スケールの梁2801〜2806のそれぞれ1つが、好ましくは、それぞれ1つの抵抗2811から2816に接続されている。さらに、電荷2821〜2826が、それぞれナノメートル・スケールの梁2801〜2806の付近に加えられている。電荷2821〜2826は、好ましくはベース電圧源2850から生み出されている。熱エネルギーの有用な電気エネルギーへの変換は、以下のとおりにして生じる。ナノメートル・スケールの梁2801〜2806がナノチューブとして備えられている場合、抵抗2811〜2816を不要にできることを、当業者であれば理解できるであろう。これは、ナノチューブが抵抗の性質を呈するためであり、したがってシステム2800においてジョンソン雑音の源となりうるからである。このようなやり方で、抵抗の性質を有するシステム2800の任意のコンポーネントが、システム2800においてジョンソン雑音の源となることができる。
1つ以上の熱源2840が、抵抗2811〜2816のそれぞれに加えられる。結果として、抵抗において熱雑音(すなわち、ジョンソン雑音)が発生する。この抵抗2811〜2816の熱雑音が、それぞれの機械的スイッチ2801〜2806の端部に電荷を生じさせる。好ましくは、電荷2821〜2826が適切な強さを有し、かつ機械式スイッチ2801〜2806の電荷の極性と反対の極性を有する場合、機械式スイッチ2801〜2806が、それぞれコンタクト2831〜2836に電気的に連絡する(流電接続を生む)。次いで、スイッチ2801〜2806がそれぞれコンタクト2831〜2836へと電気的に連絡することによって生み出された電流が、まとめて加算され、負荷抵抗2860を通って導かれる。
このようにして、負荷抵抗2860をまたがる電圧を、電気エネルギーとして利用することができる。同様に、負荷抵抗2860によって生み出される熱を、熱エネルギーとして利用することができる。負荷抵抗2860をまたがる電圧を大きくするため、追加の熱源および機械式スイッチを、システム2800に加えることができる。好ましい実施の形態において、ジョンソン雑音の通常でない高い瞬時値を生み出している抵抗2811〜2816のみが、ナノメートル・スケールの梁2801〜2806の端部にナノメートル・スケールの梁2801〜2806をコンタクト2831〜2836へと閉じるために充分大きい電荷の発生をもたらすことを、当業者であれば理解できるであろう。
したがって、システム2800に少なくとも2つの並列な熱雑音発生源を備えることが有益である。これは、多くのやり方で行なうことができる。システム2800に示されているとおり、スイッチの複数の事例が、まとめて並列および直列の両方の構成に配置され、各スイッチが、自身の熱雑音源を有している。他の実施の形態も、本発明の原理に従って容易に実現および構成することができる。例えば、2つ以上のスイッチをまとめて、並列構成にのみ構成することができる。さらに、本発明のスイッチのそれぞれを、2つ以上の熱雑音源に接続してもよい。好ましくは、ベース電圧源2850からの電圧は、所与の任意の時点においてシステム2800の機械的スイッチの少なくとも10%がそれぞれのコンタクトに電気的に連絡する(やはり、流電接続を生む)ように調節される。
システム2800のナノメートル・スケールの電気アセンブリ(例えば、アセンブリ2890)を、それぞれ図27および28のトランジスタ2700または2800によって置き換えできることを、当業者であれば理解できるであろう。従って、アセンブリ2890の機械的スイッチ2801を、ナノチューブとして用いることができ、あるいは例えば磁界によって操作することができる。さらに、スイッチ2801〜2806を、熱雑音の電圧が特定の極性でありかつ最小限の大きさである場合にのみコンタクト2831〜2836への電気的な連絡が生じるように、構成することができる。抵抗2811〜2816を、エネルギーを1つの形態から他の形態へと変換していると見ることができる一方で、ナノメートル・スケールの梁2801〜2806が、負荷抵抗2860をまたがってもたらされるエネルギーの量を調節していることを、当業者であれば理解できるであろう。さらに、ナノメートル・スケールの梁が、ジョンソン雑音の電圧(あるいは、ナノメートル・スケールの梁2801〜2806へと供給される任意の電圧)の高い瞬時値と低い瞬時値の間に区別を付けて調節していることを、当業者であれば理解できるであろう。
図29を眺めると、ナノメートル・スケールの電気機械システム2900が提示されている。システム2900は、図8のシステム2800に類似している。とくに、コンポーネント29XXは、コンポーネント29XXと同一である。
ナノチューブ2971〜2976が、熱源2940に起因するナノチューブ2971〜2976の運動がそれぞれナノメートル・スケールの梁2901〜2906に電荷を生むよう、好ましくは磁界2970内に浸漬される。ナノチューブ2971〜2976のそれどれの端部を、取り付け点に電気的に接続することができ、運動が生じることができるようにこれらの取り付け点の間にたるみを設けることができる。このようなやり方で、ナノチューブ2971〜2976は、例えば図11のシステム1100またはシステム1100のナノチューブと類似であってよい。ナノメートル・スケールの梁2901〜2906は、好ましくは、ナノチューブ2971〜2976のそれぞれがナノメートル・スケールの梁2901〜2906の自由運動端に特定の極性と最小限の大きさとを有する電荷を生じさせるときのみ、コンタクト2931〜2936に電気的に連絡するように構成される。ナノチューブ2971〜2976を、エネルギーを1つの形態から他の形態へと変換していると見ることができる一方で、ナノメートル・スケールの梁2901〜2906が、負荷抵抗2960をまたがってもたらされるエネルギーの量を調節していることを、当業者であれば理解できるであろう。
システム2900を、空気などの作動物質の熱を、ナノチューブ2971〜2976を作動物質の分子の速度を選択的に遅くするために使用することによって、使用可能な電気エネルギーへと変換するために使用することができる。高い速度を呈している分子がナノチューブ2971〜2976に衝突すると、ナノチューブ2971〜2976が磁界2970を通過して動かされ、ナノメートル・スケールの梁2901〜2906に電圧がそれぞれ生み出される。この結果として、ナノメートル・スケールの梁2901〜2906の自由運動部分の先端に電荷がもたらされ、それぞれ層2921〜2926の電荷へと引き寄せられるために充分大きいならば、ナノメートル・スケールの梁2901〜2906が閉じて、コンタクト2931〜2936と流電接続を形成する。図示のシステム2900においては、ナノメートル・スケールの梁2902および2906が、それぞれコンタクト2932および2936へと閉じている。ナノチューブ2972および2976によって生み出された電圧が組み合わされ、負荷抵抗2960を通過する主電流へと切り替えられている。このようなやり方で、作動物質の運動エネルギーが、利用可能な電気エネルギーに変換される。システム2900は、例えば推進用など、さまざまな用途に使用可能である。
図28のシステム2800および図29のシステム2900を、さまざまな有用な用途に使用できることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、図28のシステム2800を、マイクロプロセッサの近傍に配置し、マイクロプロセッサの放出するあらゆる熱を有用な電気エネルギー(例えば、時間変化するDC信号)に変換するために利用することができる。次いで、この電気エネルギーを、マイクロプロセッサの電力消費を小さくし、マイクロプロセッサを動作させるために必要な入力電圧の大きさを小さくし、同時にマイクロプロセッサを冷却するため、マイクロプロセッサへと再び供給することができる。
2つのコンポーネントが互いに電気的に相互作用するために、それら2つのコンポーネントを接続し、あるいは一体に組み合わせる必要が必ずしもないことを、当業者であれば理解できるであろう。すなわち、少なくとも本件出願に関しては、一方のコンポーネントが他方のコンポーネントに電気的に影響をもたらすとき、その2つのコンポーネントが電気的に一体に組み合わされていることを、当業者であれば理解できるであろう。電気的な組み合わせには、例えば、物理的な接続または一方のコンポーネントが他方のコンポーネントに電気的に影響をもたらすような2つのコンポーネント間の連絡、容量性の結合、電磁気による結合、空隙によって隔てられた2つの導体間の自由電荷の流れ(例えば、真空管)、および誘導性の結合が含まれうる。
以上の説明から、本発明が、或る1つの形態のエネルギーを他の形態に変換するために使用できるナノメートル・スケールの電気機械アセンブリおよびシステムを提供することを、当業者であれば認識できるであろう。これらのアセンブリおよびシステムを、例えば、ヒート・エンジン、ヒート・ポンプ、または推進装置を提供するために使用することができる。さらに、ここに説明したさまざまな構成を、本発明から離れることなく組み合わせることができることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、図4に示したナノチューブを、図示の構成の代わりに、図4の圧電発電機に直接取り付けてもよい。他の例としては、図29のシステム2900を、図17の球を推進させるために利用することができる。さらに、本発明がこの明細書に開示した以外の多数の形態をとりうることも、理解できるであろう。したがって、本発明が、ここに開示した方法、システム、および装置に限られるわけではなく、以下の特許請求の範囲の技術的思想の範疇に包含されるそれらの変形および変更を含むものであることを、ここに強調しておく。