JP2006346725A - 亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置、亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法、ろう付け亜鉛メッキ鋼板製造方法。 - Google Patents

亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置、亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法、ろう付け亜鉛メッキ鋼板製造方法。 Download PDF

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Abstract

【課題】亜鉛メッキ鋼板のレーザろう付けにおいて、ピットの出現を抑制乃至は防止する。
【解決手段】亜鉛メッキ鋼板12,14のろう付け接合箇所付近に設定されたレーザ照射位置に対し、ろう付け進行方向22の前方側からろう材のワイヤ18を供給する。そして、レーザ照射位置をろう付け進行方向に相対的に移動させながらレーザビーム20を照射し、供給されたろう材を溶融させてろう付けを行う。レーザビーム20の光軸58は進行方向前方側に傾けられており、レーザ照射位置における進行方向前方側のエネルギ密度が進行方向後方側のエネルギ密度よりも高く設定されている。これにより、ろう材ビードの温度を比較的低下させ、蒸発した亜鉛によるピットの発生を抑制する。
【選択図】図2

Description

本発明は、亜鉛メッキ鋼板を含む継手をろう付けにより接合する技術、特に、ろう材の溶融をレーザビームの照射によって行う技術に関する。
亜鉛メッキ鋼板のろう付けにおける熱源のひとつとして、レーザが用いられている。このろう付けの際には、沸点の低い亜鉛の蒸発が起こり、それにより小さなピット(ブローホール)を伴った接合不良が発生してしまう。
下記特許文献1には、銅を60%以上含んだワイヤを用いて、アルゴンガス雰囲気中で亜鉛メッキ鋼板のろう付けを行い、接合部におけるブローホールの発生を防ぐ技術が開示されている。
なお、亜鉛メッキ鋼板のレーザ「溶接」についての文献としては、下記特許文献2,3が挙げられる。下記特許文献2の技術は、亜鉛メッキ鋼板の溶接軌道に沿ってレーザ光を移動させながらレーザ溶接を行うものである。この技術では、レーザ光の分光を行い、まず、エネルギ密度の低いレーザ光により亜鉛メッキを蒸発・離散させ、その直後にエネルギ密度の高いレーザ光により溶接を行っている。また、下記特許文献3に開示された技術では、鋼板の全面に微細な凹凸粗面を設けることで、スパッタの発生を抑え亜鉛蒸気圧を低下させて、ブローホール等の溶接欠陥の発生を防止している。
特開平3−165968号公報 特開平4−231190号公報 特開2002−346780号公報
上記特許文献1の技術では、アルゴンガスを使った作業空間を用意する必要があり、装置構成が大規模にならざるを得ない。また、アルゴン雰囲気中とすることでろう付けビードの酸化防止は図れるが、表面ピットの主要因である溶融池内への亜鉛蒸気の侵入は抑制できず、必ずしも十分な効果が得られないと考えられる。また、上記特許文献2,3の技術は溶接に関するものであり、ろう付けにおける有効性は必ずしも明らかではない。
本発明の目的は、亜鉛メッキ鋼板のレーザろう付けにおいて、ピット(ブローホール)の発生を抑制し又は防止する新たな技術を実現することにある。
本発明の目的は、簡単な装置構成のもとで、亜鉛メッキ鋼板のレーザろう付けの仕上がりを良好化させる技術を確立することにある。
本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置は、亜鉛メッキ鋼板を含む継手のろう付け接合箇所付近に設定されたレーザ照射位置に対し、ろう付け進行方向前方側からろう材を供給する供給手段と、レーザ照射位置をろう付け進行方向に相対的に移動させながら、そのレーザ照射位置に対しレーザビームを照射して供給されたろう材を溶融させるレーザビーム照射機構であって、レーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定されたレーザビーム照射機構と、を備える。
亜鉛メッキ鋼板とは、表面に亜鉛メッキが施された鋼板である。ろう付け接合においては、2枚または3枚以上の別の亜鉛メッキ鋼板を含む継手を接合箇所として接合を行う。使用するろう材は、特に限定されるものではなく、銅ろうや銀ろうなどを広く用いることができる。
亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置は、供給手段とレーザビーム照射機構とを備え、供給手段により供給されるろう材をレーザビーム照射機構により照射されるレーザビームによって溶融してろう付けを行う。レーザビームの照射は、レーザ照射位置を順次移動して行われる。すなわち、ロボットや鏡などを利用してレーザビームの絶対的な照射位置を移動することで、又は、亜鉛メッキ鋼板の保持装置を操作して照射を受ける亜鉛メッキ鋼板を移動することで、レーザ照射位置は亜鉛メッキ鋼板に対して相対的に移動する。なお、保持装置は、当該亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置に内臓されていてもよいし、別途設けられ亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置とともにレーザろう付けシステムを構成するものであってもよい。
供給手段は、レーザ照射位置にろう付け進行方向の前方側からろう材を供給する。つまり、ろう材の供給はレーザビームの進行先に溶融前の新しいろう材を配置するように行われる。典型的には、供給手段は、ワイヤ状のろう材をその先端をレーザ照射位置に配置して連続的に供給する。
レーザビームの照射は、レーザビームの照射を受ける側にとってのエネルギ密度が、進行方向前方側で進行方向後方側よりも高くなるように設定される。このエネルギ密度の設定は、レーザビーム自体の密度分布を非一様に設定すること行ってもよいし、レーザビームに対する被照射側の角度やレーザ源に対する被照射側の距離を非一様に設定することで行ってもよい。
この構成によれば、進行方向前方側ではレーザビームから相対的に高いエネルギを吸収する。したがって、進行方向前方側に供給されたろう材は急速に高温化して溶融する。一方、進行方向後方側ではレーザビームから相対的に低いエネルギを吸収する。したがって、進行方向後方側に拡がるろう材の溶融池はあまり高温化しない。亜鉛メッキ鋼板の表面の亜鉛は、このレーザ照射過程及び溶融池との接触過程において気化し、ろう材の溶融池に入り込む。しかし、溶融池は比較的低温に保たれているため、溶融池との接触過程で気化する亜鉛ガス発生量及び入り込む亜鉛ガスの量が減少すると考えられる。また、比較的速く凝固するため亜鉛ガスは溶融池の表面から抜け出しにくくなるとも考えられる。これによりピットなどの接合不良の発生を抑制乃至は防止することが期待できる。
なお、レーザビームのエネルギ密度の大きさ及び分布を具体的にどのように設定するかには任意性がある。これは、例えば、ろう材の組成、形状もしくは量、亜鉛メッキ鋼板の熱伝導特性もしくは亜鉛メッキ量、レーザ照射の進行移動速度等の諸要素によってろう付けの仕上がりが変わってくることによる。したがって、実施する際には実験を行って良好な設定を見いだせばよい。いずれにせよ、ろう材に対しては、必要なエネルギを常に同じエネルギ密度で与えるのではなく、はじめに高エネルギ密度で後で低エネルギ密度で与えた方がろう付けの仕上がり良好化のためには好ましい。この時間的に不均一なエネルギ密度設定を、移動するレーザビームの前方側と後方側のエネルギ密度を変化させることで実現した点が本発明における特徴点の一つであると言える。
本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置の一態様においては、レーザビーム照射機構においては、進行方向前方側に傾けたレーザ照射方向から、レーザ照射位置に対し末広がりにレーザビームを照射し、これによりレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定される。末広がりのレーザビームは、照射位置よりも手前側(レーザ照射源側)に焦点が設定された凸レンズを用いて一旦絞り込んだ後の拡がりを利用したり、照射位置よりも手前側に設けた凹レンズによる拡がりを利用したりして得ることができる。末広がりのレーザビームにおいては手前側ほどレーザ密度が高くなるため、進行方向前方側から照射することでレーザ照射位置における進行方向の前方側のエネルギ密度を相対的に高くすることが可能となる。
進行方向前側からのレーザ照射は、レーザ照射位置に対するレーザビームの照射方向を鏡等を用いて調整することで実現できる。レーザ照射角度は、固定されていても良いし、可変であってもよい。可変の場合には、マニュアルにより調整されてもよいし自動調整されてもよい。自動調整の例としては、温度モニタ結果を基に最適な角度を算出する態様が挙げられる。
なお、本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置の一態様においては、供給手段は、ろう材をレーザビームに対し比較的大きな角度で供給し、これによりろう材に照射されるレーザビーム密度を増大させるものであってもよい。比較的大きな角度とは、平行に近い角度ではないことを言い、例えば40度程度以上を言う。さらには、ほぼ直交する角度、すなわち、少なくとも60度程度以上、あるいは70度から80度程度以上で供給するようにしてもよい。なお、レーザビーム照射機構においてレーザ照射角度を変更できる場合には、ろう材の供給角度を連動して変更できるようにすることも有効である。また、供給するろう材の形状は平面形状とし、その体積に比較してレーザ照射面積を大きくすることも有効である。
本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置の一態様においては、レーザビーム照射機構においては、レーザビームを少なくとも進行方向前方側と後方側で非一様となるように光学的に調整する機能を備え、これによりレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定される。光学的な調整とは、屈折、回折、反射、遮蔽などの物理現象を利用した制御であり、レンズ、回折格子、鏡、遮蔽体等により実施することができる。この調整は、マニュアルにより行われてもよいし、温度モニタ結果に対応した最適化操作等の手法で自動的に行われてもよい。
本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置の一態様においては、レーザビーム照射機構においては、レーザ照射位置におけるレーザビームの幅はろう材の幅よりも広く設定され、これによりろう材の周辺の亜鉛鋼板に対してもレーザビームが照射される。したがって、亜鉛メッキ鋼板に対しても直接レーザビームが到達し、表面の亜鉛メッキを溶融・気化させる。特にレーザビームのエネルギ密度が進行方向前方側で高く設定されていると、ろう材の溶融に先立って亜鉛メッキの蒸発が活発に行われるため、ろう材の溶融後に溶融値内に侵入する亜鉛蒸気が少なくなると考えられる。このため、ピットの発生を抑制乃至は防止できるものと期待できる。
本発明の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法は、亜鉛メッキ鋼板を含む継手のろう付け接合箇所付近に設定されたレーザ照射位置に対し、ろう付け進行方向前方側からろう材を供給する供給ステップと、レーザ照射位置をろう付け進行方向に相対的に移動させながら、そのレーザ照射位置に対しレーザビームを照射して供給されたろう材を溶融させるレーザビーム照射ステップと、を含み、レーザ照射ステップで照射されるレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定されている。
本発明のろう付け亜鉛メッキ鋼板製造方法は、前記亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法を用いてろう付けされた亜鉛メッキ鋼板を製造する方法である。
図1は、本実施の形態にかかるレーザろう付けシステム10の概略構成を示す図である。図示したレーザろう付けシステム10には、二枚の亜鉛メッキ鋼板12,14がセットされ、互いの接合箇所が重ねられている。レーザろう付けシステム10は、この接合箇所にろう付けを行って接合部16を形成し、接合された亜鉛メッキ鋼板を製造するためのシステムである。
接合は、ろう材からなるワイヤ18を接合箇所付近に差し渡し、その先端付近にレーザビーム20を照射してろう材を溶融させることで行われる。溶融したろう材は接合箇所に流れ込み、冷却の過程で両亜鉛メッキ鋼板12,14と固く結合して接合部16を形成する。レーザビーム20の照射位置及びワイヤ18の供給先は、接合箇所の形状に沿ってろう付けの進行方向22に順次移動され、これによって長形状の接合部16が作られる。
レーザろう付けシステム10は、主たる構成として、制御部30、レーザ発振器32、光学部材34、光学部材駆動部36、ワイヤ供給装置38及び鋼板保持装置42を備える。制御部30はコンピュータ機能を備えた装置であり、プログラムに従ってシステム全体の動作を制御する。また、レーザ発振器32はレーザビームを作り出し、光学部材34は鏡やレンズを備えレーザビームをレーザ照射位置に導く。光学部材駆動部36はこの光学部材34を駆動してレーザビームの照射位置の移動と照射角度の調整を行う装置である。そして、鋼板保持装置42は、接合前の亜鉛メッキ鋼板をレーザ照射のための所定位置にセットし、接合後に下流の工程へと運ぶ装置である。
図2は、図1に示したレーザろう付けシステム10を進行方向22とは直交する方向から描いた模式図である。図1と同一の構成には同一の番号を付して説明を簡略化乃至は省略化する。図には、図1に示した光学部材34の一部としての凸レンズ50が示されている。この凸レンズ50は焦点52が接合部16よりも上側になるように設置されている。すなわち、凸レンズ50を経たレーザビーム20は、一旦焦点52で絞り込まれた後に再び拡がって、ワイヤ18の先端付近を含むレーザ照射範囲54に照射される。このレーザ照射範囲54においては亜鉛メッキ鋼板12,14は平坦な形状をなしており、基準垂線56はこの付近を足として引かれる垂線を示している。レーザビーム20の光軸58は、基準垂線よりも進行方向22の前方に傾けられている。傾きの大きさ、すなわちトーチ角度60の大きさは、凸レンズ50を含む光学部材によって設定されている。
図3は、図2に示したレーザ照射範囲54付近の様子を示す模式的な断面図である。図2と同一の構成には同一の番号を付して説明を簡略化する。亜鉛メッキ鋼板12は厚さ1mm程度の鋼板であり、その表面には薄く亜鉛メッキ72が施されている。接合箇所付近には、進行方向22の前方側からろう材のワイヤ18が供給され、そこにレーザビーム20が照射されている。ワイヤ18はレーザビームから受けるエネルギによって溶融する。この結果として、レーザビーム20の進行方向22の後方側にはろう付ビード74が形成される。ろう付ビード74は、時間が経過して冷え固まった凝固部76と液体状の溶融池78とからなる。溶融池78はレーザビーム20の照射範囲内から進行方向22の後方側にかけて拡がっている。
レーザビーム20は、焦点52から放射状に拡がっている。また、レーザビーム20の光軸58は進行方向22の前方側、すなわちワイヤ18の側に傾けられている。したがって、ワイヤ18に照射される単位面積あたりのエネルギ(エネルギ密度)は、溶融池78に照射されるエネルギ密度に比べて大きい。この様子は図4に示した実験データによっても裏付けられる。図4は、図3に示したような状況において実測したレーザビームのエネルギ密度の瞬間値を示す図である。横軸は進行方向を表しており、縦軸はレーザビームのエネルギ密度を表している。この図から明らかなように、光軸58よりも進行方向前方側では、光軸58よりも進行方向後方側に比べてエネルギ密度が高くなっている。
したがって、図3に示した状況においてワイヤ18は、高エネルギ密度をもつレーザビーム20によって急速に加熱されて溶融する。そして、溶融池78では低エネルギ密度をもつレーザビーム20によって溶融を完全に進行させるための予備的な熱エネルギが与えられる。これにより流動性を得たろう材は、接合箇所に入り込んで亜鉛メッキ鋼板12,14を接合する。
この過程で、沸点が低い亜鉛メッキ72の気化が起こる。気化は、亜鉛メッキ72に対しレーザビーム20が直接照射されることで、あるいは溶融したろう材が亜鉛メッキ72を加熱することで起こり得る。そして亜鉛ガスの一部はワイヤ18の下方側から溶融池の中に入り込む。しかし、溶融池78は比較的低温に保たれているため、内部に侵入する亜鉛ガスの量は比較的少ない。また、溶融池78内部の流動も比較的穏やかであり、ろう材が凝固するまでの間に亜鉛ガスが溶融池78内を横断して表面から飛び出すことはまれである。したがって、侵入した亜鉛ガスの多くは、例えば図3に示した亜鉛ガス80のように、ろう付ビード74の内部に取り込まれ、冷却・凝固にともなって空間を形成したり、押しつぶされたりすると考えられる。また、レーザビーム20のエネルギ密度が進行方向の前方側で高いことにより、あらかじめ亜鉛メッキ72の多くが蒸発してしまい、ろう材に取り込まれうる亜鉛ガスの発生が抑制されるという効果もあると考えられる。
図5には、図3に示したろう付け過程における表面温度分布を計測機器を用いて測定し、得られた画像からスケッチにより作成した図を示した。温度分布90は、300度毎の等値線で示されている。ろう材供給位置は、進行方向前方側の先端付近に位置する。ろう材は、この付近から進行方向後方側にかけてろう付ビロードを形成して伸びており、対応して高温の温度分布領域が拡がっている。この高温分布領域付近には溶融池が拡がっており、その最大温度は1200度以上に達しているが、全体として見れば高温領域は小さい。この様子は、後に他の実験結果から得られた図9と比較することで明瞭となる。
図6には、図3に示したろう付けがなされた亜鉛メッキ鋼板12,14及び形成されたろう付ビード74を写真撮影し、その結果をスケッチして得られたピット検査図を示した。ろう付ビード74の表面は平坦であり、ピットは存在していない。
図7は、図6で説明したような測定を様々なトーチ角度について行い、集計した結果を示している。図の横軸はトーチ角度であり、右側ほど後退角(進行方向前方側へのレーザビームの傾き角)が大きく、左側ほど前進角角(進行方向後方側へのレーザビームの傾き角)が大きい。また、縦軸のピット数は、適当な長さ当たりの個数により示している。図示した結果は、3.5kWの出力でレーザビームを毎分3mの速さで移動させた場合についてまとめたものである。照射位置でのレーザビームのスポット径は3mm程度である。また、ろう材はCuを主成分としSiを3%程度含む一般的な銅ろうであり、そのワイヤ直径は1.2mm、ワイヤの供給速度は毎分5.5mである。これによれば、前進角が大きくするとピット数は急速に増大し、後退角を大きくするとピット数が減少、消滅することがわかる。具体的には、単位長さあたりのピット数は、前進角が10度の場合には0〜4個、0度の場合には0〜2個、後退角10度の場合には0個となっている。図6に示したスケッチの図は、後退角が10度の場合の図であり、ピットが存在していない。
ここで、参考のため、図8から図10にトーチ角度を変更した場合の例について示す。
図8は、トーチ角度が0度の場合の断面図である。この図は図3に対応するものであり、同一あるいは対応する構成には図3と同一の番号を付して説明を省略化乃至は簡略化する。この例では、レーザビーム20の光軸58が亜鉛メッキ鋼板12に対して垂直となっている。そして、溶融池78は、図3の場合に比べて高いエネルギを受け取って高温化している。このため、溶融池78に入り込む亜鉛ガスが多くなる。また、溶融池78内では比較的ろう材の動きが激しく、亜鉛メッキ72の気化により発生した亜鉛ガスも激しく動くことになる。図中には、溶融池78に溶け込んだ亜鉛ガス100、溶融池78の表面付近に達した亜鉛ガス102、及び、固化の直前で亜鉛ガスが表面から飛び出たことにより形成されたピット104が示されている。
なお、この例においては、ろう材のワイヤ18は亜鉛メッキ鋼板12に対し比較的大きな交差角度をなして供給されている。これに対し、図3の例では、ろう材のワイヤ18は亜鉛メッキ鋼板12に対し小さな交差角度をなして供給されている。この違いは、図3の例においては、ワイヤ18をレーザビームに対して直角に近い角度で供給し、ワイヤ18に照射されるレーザビーム20を大きくしたことに起因する。すなわち、図3の例では、ワイヤ18の供給角度は、レーザビーム20の照射源側に近づけることによるレーザビーム密度の増加の効果と、レーザビーム20に対し垂直に近づけ被照射面積を増大させることによるレーザビーム密度の増加の効果とを勘案して定められている。
図9及び図10は、それぞれトーチ角度が前進角10度の場合の温度分布図及びピット検査図である。図9は図5に対応する図であり、図10は図6に対応する図である。図9では、図5と同様に300度毎の等値線で温度分布110が示されている。ここでは、進行方向先端付近に位置するろう材供給位置112の後方側には、1200度以上の高い温度領域が広く分布している。図5の例では、高エネルギ密度をもつ進行方向前方側のレーザビームは、ろう材だけでなく背後の亜鉛メッキ鋼板にも照射され、亜鉛メッキ鋼板を通じた熱拡散が速やかに行われたため、ろう材に供給された熱エネルギが比較的小さくなった。これに対し、図9の例では、溶けて拡がった後のろう材に対し、比較的エネルギ密度の高いレーザビームが照射されたため、ろう材が受ける全エネルギも大きくなり、高い温度の溶融池が形成されたと考えられる。このため、溶融池に侵入した亜鉛ガスは容易に溶融池の表面から飛び出すことができる。この結果、図10に示すように、ろう付ビード74の表面には、多数のピット120,122,124,126,...が形成されることになる。
以上に示したように、レーザビームを進行方向前方側から照射することで、レーザビームの進行方向前方側のエネルギ密度を相対的に高め、ピットが少ないあるいは発生しないろう付けを容易に行うことができる。ただし、レーザビームの進行方向前方側のエネルギ密度を相対的に高める操作は、これ以外の態様でも実施することができる。例えば、幅方向に均質なレーザビームを、レンズや鏡を用いて光学的に非均質にすることでこのようなエネルギ密度差を作ることができる。
レーザろう付けシステムの概略構成を示す図である。 トーチ角度を後退角に設定した場合のろう付けの様子を示す図である。 ろう付け過程における断面の様子を示す図である。 レーザビームのエネルギ密度分布を示す図である。 レーザろう付け中に測定した温度分布を示す図である。 ろう付ビードにおけるピット分布を示す図である。 トーチ角度とピット数の関係についての測定結果を示す図である。 トーチ角度を0度にした場合のろう付けの断面を示す参考図である。 トーチ角度を前進角10度に設定した場合の温度分布を示す参考図である。 トーチ角度を前進角10度に設定した場合のピット分布を示す参考図である。
符号の説明
10 亜鉛メッキ鋼板レーザろう付けシステム、12,14 亜鉛メッキ鋼板、16 接合部、18 ワイヤ、20 レーザビーム、22 進行方向、30 制御部、32 レーザ発振器、34 光学部材、36 光学部材駆動部、38 ワイヤ供給装置、42 鋼板保持装置、50 凸レンズ、52 焦点、54 レーザ照射範囲、56 基準垂線、58 光軸、60 トーチ角度、72 亜鉛メッキ、74 ろう付ビード、76 凝固部、78 溶融池、80,100,102 亜鉛ガス、90,110 温度分布、92,112 ろう材供給位置、104,120,122,124,126 ピット。

Claims (6)

  1. 亜鉛メッキ鋼板を含む継手のろう付け接合箇所付近に設定されたレーザ照射位置に対し、ろう付け進行方向前方側からろう材を供給する供給手段と、
    レーザ照射位置をろう付け進行方向に相対的に移動させながら、そのレーザ照射位置に対しレーザビームを照射して供給されたろう材を溶融させるレーザビーム照射機構であって、レーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定されたレーザビーム照射機構と、
    を備える、ことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置。
  2. 請求項1に記載の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置であって、
    レーザビーム照射機構においては、進行方向前方側に傾けたレーザ照射方向から、レーザ照射位置に対し末広がりにレーザビームを照射し、これによりレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定される、ことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置。
  3. 請求項1に記載の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置であって、
    レーザビーム照射機構においては、レーザビームを少なくとも進行方向前方側と後方側で非一様となるように光学的に調整する機能を備え、これによりレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定される、ことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置。
  4. 請求項1に記載の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置であって、
    レーザビーム照射機構においては、レーザ照射位置におけるレーザビームの幅はろう材の幅よりも広く設定され、これによりろう材の周辺の亜鉛鋼板に対してもレーザビームが照射される、ことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け装置。
  5. 亜鉛メッキ鋼板を含む継手のろう付け接合箇所付近に設定されたレーザ照射位置に対し、ろう付け進行方向前方側からろう材を供給する供給ステップと、
    レーザ照射位置をろう付け進行方向に相対的に移動させながら、そのレーザ照射位置に対しレーザビームを照射して供給されたろう材を溶融させるレーザビーム照射ステップと、
    を含み、
    レーザ照射ステップで照射されるレーザビームのレーザ照射位置におけるエネルギ密度は進行方向前方側が進行方向後方側よりも高く設定されている、ことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法。
  6. 請求項5に記載の亜鉛メッキ鋼板レーザろう付け方法を用いてろう付けされた亜鉛メッキ鋼板を製造する、ことを特徴とするろう付け亜鉛メッキ鋼板製造方法。
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