JP2006342108A - アミロスフェロイドにより発生する疾患の予防治療剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防、治療または症状改善するための手段の提供を課題とする。
【解決手段】トレハロースを有効成分とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防、治療または症状改善するための薬剤および食品を提供することにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし

Description

本発明は、トレハロースを有効成分とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防、治療または症状改善するための薬剤および食品に関するものである。
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、プリオン病等の加齢に伴って発症する複数の神経変性疾患において、現在「異常構造蛋白質」が共通の発症機構として注目され、その分子実体の探索が行われている。アルツハイマー病については、アミロイドβ蛋白質(Aβ)を主成分とする老人斑(非特許文献1および2を参照)と、リン酸化されたタウ蛋白質を主成分とする神経原線維変化(Paired Helical Filament; PHF)(非特許文献3および4を参照)の2種の線維性凝集体が脳に沈着することが病理学的特徴として報告されている。また近年、複数の多様な病因により発症すると考えられてきたアルツハイマー病研究において、アミロイドβ蛋白質の沈着が全てに共通な発症経路であると考えられるようになってきた。アミロイドβ蛋白質は、その前駆体物質(Amyloid Precursor Protein; APP)から40残基(Aβ1-40)ないしは42残基(Aβ1-42)の分子種として切り出されて生じるペプチドであり、正常人においても恒常性を維持した生成・分解過程が進んでいるが、アルツハイマー病におけるアミロイドβ蛋白質の過剰な沈着は、切り出しの過程、または分解の過程での脱制御の結果であると考えられる。
沈着したアミロイドβ蛋白質は神経細胞に対し神経毒として作用して神経細胞死を引き起こし、これがアルツハイマー病の進行性痴呆の原因となる選択的な神経細胞脱落の機構であると考えられている。また、アミロイドβ蛋白質は水溶性のペプチドとして細胞外に放出された状態では神経細胞死活性(以下、本明細書中において神経細胞死活性を「毒性」と称することがある)を示さず、自己会合しアミロイドβ線維を形成して初めて毒性を獲得することが報告されている(非特許文献5を参照)。このアミロイドβ線維を含む毒性アミロイドβ蛋白質含有液を神経系の培養細胞に高濃度で添加すると、これらの細胞を死に至らしめることが知られているため、アルツハイマー病においてはこのアミロイドβ線維が神経細胞死を誘発している本体であると考えられてきた。
従って、このアミロイドβ線維を含む毒性アミロイドβ蛋白質の添加により神経系細胞等に細胞死を誘発する実験系は、アルツハイマー病における神経細胞死を反映していると見なされ、神経細胞死抑制剤のスクリーニング等に多く用いられてきた。しかし近年、(1)アミロイドβ線維を含む毒性アミロイドβ蛋白質含有液で神経細胞死を誘導するのに必要な濃度は数10μMであり(非特許文献9を参照)、アルツハイマー病患者の脳に存在するアミロイドβ蛋白質濃度の1000倍以上高い濃度である、(2)アルツハイマー病患者の脳においてアミロイドβ線維の沈着部位と神経細胞脱落部位が必ずしも一致していない、(3)APP過剰発現マウスの脳においてアミロイドβ線維の沈着以前、または沈着なしに学習行動異常が生じる、(4)アルツハイマー病患者の脳における水溶性アミロイドβ蛋白質含量の増加は沈着よりも10年以上先行する等、アミロイドβ蛋白質の毒性の本体がアミロイドβ線維ではないことを示唆する事実が報告されるようになってきた。
一方では、アミロイドβ線維を含む毒性アミロイドβ蛋白質含有液は、実際には単量体から線維までの複数のアミロイドβ蛋白質の構造体を含んでいることが報告され、アミロイドβ蛋白質の毒性の本体は線維形成の中間体であるとの仮説が提唱されて、インビトロで線維状構造体Protofibril(非特許文献6を参照)と球状構造体ADDLs(Aβ-derived diffusible ligands;非特許文献7を参照)がそれぞれ同定された。形態は全く異なるがこの二つの分子種は共に線維形成の過程で形成される中間体とされ、β-sheet構造をとる構造物である。線維構造を形成するためにはβ-sheet構造が必須であるため、その点においては線維形成の中間構造物であることが示唆されるが、しかし、どちらも複数サイズの構造物の集合体であり、毒性の本体が特定されているとはいえなかった。また、細胞膜上に特異的な受容体が存在するのかどうかなど、これらの構造物が神経細胞死を引き起こす作用機構も不明である上、アルツハイマー病の患者脳やAPP過剰発現マウス等の疾患モデルにおいて実際にこれらに相当する構造物は見つかっていなかった。さらにアミロイドβ蛋白質は、その機能は未だ明らかではないが本来生理的物質として健常者においても生成されることが確認されており、痴呆を伴わずに老化したヒトの脳においてアミロイドβ蛋白質の沈着が広範に認められるケースも存在していた。
本発明者らは、先に、アルツハイマー病等の患者の生体内に存在する自己会合したアミロイドβ蛋白質と同等の濃度で神経系細胞に細胞死を誘導する、高い毒性を有する自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液、およびその調製方法を提案した(特許文献1を参照)。さらに、上記自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液に含まれる神経細胞毒性の本体を分離する方法を見いだし、解析を行ったところ、粒径10〜20nm程度の粒状の形態を有する自己会合型アミロイドβ蛋白質であることがわかり、これをアミロスフェロイド(amylospheroid)と命名した。アミロスフェロイドは、アルツハイマー病患者の脳内に存在するアミロイドβ蛋白質と同等の濃度で神経系細胞死を誘導するため脳内におけるアミロイドβ蛋白質の毒性の本体であると考えられた。
このように、自己会合型アミロイドβ蛋白質には毒性の異なる形態が多様に存在し、特に高い毒性を有するアミロスフェロイドの形成を阻害する物質は、アミロスフェロイドにより発生する疾患の予防または治療薬として用いることが期待される。本発明者らは、アミロイドβ蛋白質および被検物質を含む水溶液を対流させ水溶液中のアミロスフェロイド形成の有無またはその程度を解析することにより、神経細胞死抑制作用を有する物質のスクリーニング方法も提案しているが、アミロスフェロイドの形成を阻害する物質については未だ報告がない。
トレハロースは2分子のグルコース同士が還元性基同士で結合した二糖類であり、α,α−トレハロース(O−α−D−グルコピラノシル α−D−グルコピラノシド。以下、「トレハロース」と称する)、α,β−トレハロース(以下、「ネオトレハロース」と称する)およびβ,β−トレハロース(以下、「イソトレハロース」と称する)の3種類の光学異性体が存在する。トレハロース、ネオトレハロースおよびイソトレハロースは、自然界では、細菌、植物、動物界に広く分布している。その需要は、食品分野においては、低甘味に加え、デンプンの老化防止、蛋白質の冷凍・乾燥時の変性防止などに際だった特性を有することから、急速に伸びつつある。また、化粧品分野に於いては、トレハロース、ネオトレハロースおよびイソトレハロースは、皮膚に対する保湿性に優れ、その利用が広がっている。また、トレハロース、ネオトレハロースおよびイソトレハロースの経口投与、皮膚投与の安全性も既に確認されている。さらに、トレハロース、ネオトレハロースおよびイソトレハロースの生体に対する生理機能に関しては、骨粗鬆症の改善(特許文献2を参照)、肝機能の調節作用(特許文献3を参照)、膵機能の調節作用(特許文献4を参照)、角膜内皮細胞や角膜上皮細胞の保護作用(特許文献5を参照)などが知られている。
高熱などの環境ストレスは、蛋白質の構造異常を引き起こし、結果として個体の死につながる。このような環境ストレスに対して、ある種の微生物は、トレハロースなどを合成することで耐性を獲得している。これは、トレハロースが蛋白質分子に直接結合し、構造安定化をもたらすことによるのではないかと考えられているが、その機構は不明であった。最近、トレハロースがハンチントン舞踏病の発症予防効果を有することが示唆された(非特許文献8)。しかしながら、非特許文献8には、トレハロースがポリグルタミン鎖で修飾されたミオグロビンの凝集を抑制する効果しか記載されておらず、トレハロースのアミロイドβ蛋白質の凝集に対する効果は記載されていない。また、トレハロースの光学異性体間の効果の違いについては触れていない。したがって、アルツハイマー病に対するトレハロース、ネオトレハロースおよびイソトレハロースの生理機能については未だ報告がない。
特開2001−247600号公報 特開2000−38343号公報 特開平11−60490号公報 特開平11−158075号公報 特開平9−235233号公報 Annu. Rev. Neurosci., 12, 463-490 (1989) Glenner, G. G. and Wong, C. W., Biochem. Biophys. Res. Commun., 120(3), 885-890 (1984) J.Biochem., 99, 1807-1810 (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 83,4913-4917 (1986) Lorenzo, A. and Yankner,B. A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91,12243-12247 (1994) Hartley, D. M. et al., J. Neurosci., 19 (20), 8876-8884 (1999) Lambert, M. P.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 95, 6448-6453 (1998) Tanaka, M. et al., Nature Medicine, 10, 148-154 (2004) Yankner, et al., Science, 250, 279-282 (1990)
本発明は、アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防、治療または症状改善するための手段を提供することを課題とする。
本発明者らは、アミロイドβ単量体が凝集し線維を形成する経路と、アミロイドβ単量体が凝集しアミロスフェロイドを形成する経路は、分岐していることを見出した。また、トレハロースがアミロスフェロイドの形成を阻害することを見出した。さらに、トレハロースは、上記の2つの経路のうち、アミロスフェロイドを形成する経路に影響を与え、アミロイドβ線維を形成する経路には影響を与えないことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明によれば、
(1)トレハロースを有効成分とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防または治療するための薬剤、
(2)アミロスフェロイドにより発生する疾患がアルツハイマー病である、(1)に記載の薬剤、
(3)アミロスフェロイドの形成を阻害することを特徴とする、(1)または(2)に記載の薬剤、
(4)トレハロースを有効成分とし、アミロスフェロイドの形成を阻害することを特徴とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患の予防または症状改善のために用いられるものである旨の表示を付した食品、
(5)アミロスフェロイドにより発生する疾患がアルツハイマー病である、(4)に記載の食品、
が提供される。
本発明のトレハロースを有効成分とする薬剤は、アミロスフェロイドの形成を阻害するので、該アミロスフェロイドにより発生するアルツハイマー病などの疾患の予防に用いることができる。また該薬剤は、形成されたアミロスフェロイドを脱重合することにより、該アミロスフェロイドにより発生するアルツハイマーなどの疾患の治療に用いることができる。さらに本発明のトレハロースを有効成分とする食品は、該アミロスフェロイドにより発生するアルツハイマー病などの疾患の予防または症状改善に用いることができる。加えて、トレハロース自体は安全かつ安定な糖質なので、副作用の問題もなく、長期間連続使用が可能である。
以下に本発明を詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の範囲を限定するものではない。
(1)アミロスフェロイドの作製
本発明の薬剤および食品が標的とするアミロスフェロイドは、以下の性質を有する。すなわち、本発明においてアミロスフェロイドとは、アミロイドβ蛋白質が自己会合し、粒状の形態を有するものである。「粒状の形態」とは粒状を呈していればいかなる形状でもよく、顆粒状、細粒状、結晶、凝集塊等をすべて含む。粒径は、通常10〜20nm、好ましくは10〜15nm、より好ましくは10〜12nm、特に好ましくは約12nm付近である。また、アミロスフェロイドは蛋白質濃度1μg/ml以下、好ましくは0.45μg/ml以下で神経系細胞に細胞死を誘導する高い神経細胞死活性を有する。また、かかる物性を有するアミロスフェロイドは、グリセロール密度勾配遠心法により分画したときに、グリセロール濃度が15%以上の画分に得られる。
このようなアミロスフェロイドは、まず、アミロイドβ蛋白質を含む水溶液を対流させることにより調製することができる(第一の工程)。さらに、アミロスフェロイドが、高効率に含有される溶液を調製するには、対流させた水溶液中のアミロスフェロイドを分画する方法が用いられる(第二の工程)。本発明の薬剤および食品の標的分子として、上記のいずれのアミロスフェロイド含有液も用いることができる。
上記で「アミロイドβ蛋白質」とは、約40のアミノ酸残基からなる蛋白質であり、生体においてはアミロイド前駆体蛋白質(APP)からプロテアーゼによるプロセッシングで
産生される。このプロテアーゼの種類やその後の修飾によって様々な種類が存在することが知られているが、分泌直後にはC末端のアミノ酸残基の長さの違いによりアミロイドβ40(Aβ1-40:配列番号1)とアミロイドβ42(Aβ1-42:配列番号2)が存在する。アミロスフェロイドの調製には、例えば、分泌直後のアミロイドβ蛋白質の全長分子種であるAβX-40もしくはAβX-42、またはそれらの変異体あるいは誘導体が好ましく用いられるが、その中でも特にAβ1-40またはAβ1-42が好ましい。また、アミロイドβ蛋白質は、ペプチド合成機等を用いて合成したもの、市販のもの、または生体試料から抽出精製したものなど、いかなるものを用いてもよい。アミロイドβ蛋白質として合成ペプチドを用いる場合、その合成、抽出精製方法は、それ自体公知の通常用いられている方法を用いることができる。また、合成ペプチドの精製度は高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークが得られる程度行えば十分であるが、精製方法としては、例えば、ゲル濾過、高速液体クロマトグラフィー等が用いられる。
アミロスフェロイド含有液の調製方法の第一の工程は、例えば、特開2001−247600号公報に記載されているものが挙げられる。このようにして得られたアミロスフェロイド含有液は、このままでも神経系細胞に細胞死を誘導する活性を有し、本発明の薬剤および食品の標的分子として用いることは可能であるが、第二の工程として分画を行い、さらに高い神経細胞死活性を有する画分を得ることもできる。分画の方法としては、例えば、特開2002−105099号公報に記載の方法が用いられる。かくして得られるアミロスフェロイド含有液は必要に応じて濃縮等の処理を行っても良い。
アミロスフェロイドが形成されていることの確認方法としては、下述の神経細胞死活性を解析する方法や、電子顕微鏡により測定する方法等が挙げられる。電子顕微鏡の測定方法は、アミロスフェロイドの粒径が解析できる方法で、かつアミロスフェロイドの自己会合が損傷を受けずに観察できる方法であれば如何なる方法でもよい。具体的には、例えば、まず、直径18mm程度のシャーレ等に30〜40℃の蒸留水を入れ、その水面にコロジオン1.5%(W/V)酢酸イソアミル溶液等を30μl程度滴下し、直ちに溶媒が揮発して生じる薄膜を得る。この支持膜をグリッドに張り付けて乾燥させた後、カーボンを真空蒸着してグロー放電による親水化処理装置を用いて表面を親水化する。次に、該支持膜を張り付けたグリッド面を下にして調製したアミロスフェロイドを含む溶液の小滴を触れさせ、直ちにろ紙で余分な水分をふき取ってから、酢酸ウラニウム溶液を添加して観察を行う。電子顕微鏡は、安定させた100〜120kVの高圧加速で使用し、試料の電子線による破損を防ぐためにグリッドの端等を利用して非点収差補正を行ったのち、電子線損傷低減法を用いて観察する方法等が好ましい。なお、アミロイドβ線維が形成されていることの確認方法としては、蛍光色素チオフラビンT(ThT)を用いてアミロイドβ線維を定量するThT結合アッセイが挙げられる(LeVine, H., III. Protein Sci. 2, 404-410, 1993)。
(2)アミロスフェロイドの神経細胞死活性の解析
アミロスフェロイドの神経細胞死活性(毒性)の解析方法の例を以下に説明する。
まず、アミロスフェロイドを用いた神経細胞死の誘導は、神経系の細胞等の培養液に上記アミロスフェロイドを添加し、通常の方法に従って培養することにより行うことができる。アミロスフェロイドにより誘導される細胞死は、アポトーシスまたはネクローシスのいずれでもよい。また、用いられる細胞としては、神経系細胞であれば特に制限はなく、哺乳動物(ヒト、ラット、マウス、サル、ブタ等)由来の神経系細胞が好ましい。また、初代培養細胞または樹立培養株のいずれでもよい。初代培養細胞としては、上記した動物の海馬、および前脳基底野・大脳皮質等から取得したものが好ましい。また上記動物の海馬等の器官を培養したものをそのまま用いることも可能である。
これらの細胞や器官は、通常の培養法に従って培養することができる。具体的には、神経系細胞の初代培養、および神経系樹立細胞株の培養方法としては、Hoshi, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 93, 2719-2723 (1996)、およびSchubert, D. et al., Nature, 249 (454), 224-227 (1974) に記載されている方法等を用いることができ、器官培養は、GaryBanker and Kimbery Goslin, Culturing nerve cells, 2nd Edition, MIT Press,Cambridge (1998) に記載されている方法等を用いることができる。このようにして培養された神経系の細胞、および器官に細胞死を誘導するために添加するアミロスフェロイドの量は適宜選択可能であるが、アミロスフェロイドは、通常、アルツハイマー病等の患者の脳内に存在する毒性アミロイドβ蛋白質と実質的に同等の濃度で細胞死を誘導できる。例えば、上記(1)で得られるアミロスフェロイドは、前記のとおり、初代培養細胞に対して培養液中のアミロイドβ蛋白質濃度1μg/ml以下、さらに好ましくは0.45μg/ml以下等の量で細胞死を誘導することができる。もっとも、上記の濃度は例示のためのものであり、この量に限定されることはない。
アミロスフェロイドによって誘導される神経系細胞の細胞死は、通常、アミロスフェロイドの有効量を添加した後、約6時間程度から起こり、48時間程度の後には顕著な細胞死の様子が観察できる。従って、この解析方法において、細胞死の誘導を測定する場合には培養を始めてから30時間以降が好ましいが、用いるアミロスフェロイドの細胞死活性に応じて適宜選択される。
これらの細胞死活性を測定する方法としては、通常用いられる細胞死検出法を用いることができる。具体的には、MTT活性測定法(Mossman, T., J.Immunol. Methods, 65, 55 (1983))、プロピディウムイオダイド(Ankarcrona,M.et al., Neuron, 15, 961 (1995))等による染色法、またはトリパンブルーダイエクスクルージョン法(Woo, K. B.,Funkhouser, W. K., Sullivan, C. and Alabaster, O., Cell Tissue Kinet., 13 (6),591-604 (1980))、TUNELや断片化DNAを検出するELISA(Roche製)等が用いられる。このうち、MTT活性測定法およびプロピディウムイオダイド等による染色法が特に好ましい。プロピディウムイオダイド等による染色法は、死細胞を選択的に染色するプロピディウムイオダイドのみによる単一染色でもよいし、他の複数の染色色素と組み合わせて行ってもよい。組み合わせられる染色色素としては、具体的には、生細胞を選択的に染色するCalcein−AM(MolecularProbes社製)、全細胞を染色するHoechst33258(H33258; Bisbenzimide H33258)等が好ましい。
また、アミロスフェロイドを用いた神経細胞死の誘導は、アミロスフェロイドを動物個体に直接投与することにより行うこともできる。アミロスフェロイドにより誘導される細胞死は、アポトーシスまたはネクローシスのいずれでもよい。また、用いられる動物としては、哺乳動物(マウス、ラット、霊長類等)等の神経系細胞を有する動物であれば特に制限はないが、アルツハイマー病のモデル動物等の特に神経細胞死が起こっている動物が好ましく用いられる。また、投与方法は、脳等の神経系細胞の存在する部位に直接投与する方法の他、経口投与法、静脈注射法、腹腔投与法等の通常薬物の投与に用いられる方法を用いることができる。脳等の神経系細胞の存在する部位に直接投与する方法としては、具体的には、例えば、ラットあるいはマウス等の脳組織の場合、オスモティックポンプを用いて目標部位近傍の脳室内に投与する方法、マイクロピペット等を用いて目標部位の脳実質にマイクロフュージョンする方法等が用いられ、一定期間投与した後、脳機能の変異をPET・MRIを用いて計測した後に、投与部位周辺の組織を速やかに取り出し、組織切片を作製して、神経細胞死の有無を検証することができる。神経細胞死の有無の検証は、組織染色法やウェスタンブロット法等によって行うことができ、組織染色法としては、TUNNEL染色、または抗Caspase抗体等による免疫染色等が挙げられる。
(3)アミロスフェロイドの形成の有無を指標とした物質のスクリーニング方法
アミロスフェロイドの形成の有無を指標として、試験管等の容器内でアミロスフェロイドによる神経細胞死に対して抑制作用を有する物質のスクリーニングを行うことができる。
たとえば、上記(1)のアミロスフェロイドの調製方法の第一の工程において、水に溶解したアミロイドβ単量体蛋白質とともに、被検物質を混合してから、上記(1)と同様にしてアミロスフェロイドを調製する工程を行い、得られた溶液を上記(2)に記載した神経細胞死誘導活性や電子顕微鏡観察等によりアミロスフェロイドが形成されているかを観察する方法が挙げられる。ここで、被検物質の添加量は、アミロイドβ蛋白質に対して2倍量以上(重量比)が好ましい。また、対流を行う時間は、通常アミロスフェロイドが形成されるに充分な時間以上が好ましい。具体的には、4時間以上である。アミロスフェロイドの形成は、例えば上記(2)に記載の方法等により解析することができる。このスクリーニング方法により神経細胞死に対して抑制作用を有すると判定された物質は、アルツハイマー病の予防および/または治療のための医薬の有効成分として有用である。
(4)トレハロースの調製およびトレハロースを有効成分とする薬剤および食品
本発明に用いられるトレハロースは、本発明の目的を損なわない限り、その製造方法や起源については制限されない。例えば、特開平7−143876号公報、特開平7−213283号公報、特開平7−322883号公報、特開平7−298880号公報、特開平8−66187号公報、特開平8−66188号公報、特開平8−336388号公報および特開平8−84586号公報に開示された非還元性糖質生成酵素およびトレハロース遊離酵素を澱粉部分加水分解物に作用させる方法が好適である。かかるトレハロースは、経済性の点で優れているだけでなく、合成法等に比して、毒性のある夾雑物などの混入の可能性が低く、好適に用いられる。また、ネオトレハロースは、例えば、特開平4−179490号公報に記載された方法により、澱粉加水分解物と乳糖の混合物に、酵素を作用させて調製すればよい。さらに、イソトレハロースは化学合成により容易に得ることができる。また、本発明で用いるトレハロースは、本発明の目的であるアミロスフェロイドにより発生する疾患の治療効果、予防効果および/または症状改善効果をそこなわないものであれば、トレハロースとその製造時に副生するトレハロース以外の糖質(トレハロースの光学異性体であるネオトレハロースおよびイソトレハロースを含む)との混合物であってもよい。上記の様なトレハロースの市販品としては、食品級トレハロース粉末(株式会社林原商事販売の商品「トレハ」(登録商標)、純度98%以上)がある。また、上記トレハロースは、微粉末であるものが好ましい。トレハロース微粉末としては、平均粒子径80μm以下のものが好ましく、平均粒子径が80〜70μmの範囲のものがより好ましい。微粉末は、それ自体既知の通常用いられる粉砕機、例えばピンミル等を用いて、市販トレハロース粉末を粉砕することにより容易に調製できる。なお、薬剤に用いるトレハロースは、パイロジェン等の夾雑物を、活性炭、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、膜濾過等を含む精製方法により除去しておくのが望ましい。
本発明の薬剤は、その有効成分であるトレハロースまたは製薬上許容されるキャリア等の製剤用の添加剤との医薬製剤の形で、経口的、非経口的(経静脈的、経直腸的等)に投与される。その剤型としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤(シロップ剤)等が、また非経口投与の場合は、注射剤、徐放剤、坐剤等が例示されるが、好ましくは、注射剤または経口剤のいずれかである。上記のうちのいずれの形態にあっても、本発明の薬剤は、通常、トレハロースを0.01〜100%(w/w)を含有する。また、トレハロースの投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選ぶことができる。例えば成人1日当たり、0.1〜300g、好ましくは1〜200gの範囲から適宜選ばれる。
また、本発明の薬剤は、例えば、皮下、筋肉内、静脈内、脳室内等に注射投与することが可能であるが、静脈内投与が好ましい。注射剤の場合、トレハロース単独の形態であっても、他の糖との配合剤であってもよく、さらに電解質を含んでもよいが、浸透圧比が1以上であるものが好ましい。より具体的には、例えば、トレハロース10〜20gを注射用蒸留水100mLに溶解し、プラスチック製容器に分注、高圧蒸気滅菌を施した製剤であり、溶液の浸透圧比が0.9〜2.0の製剤が挙げられる。また電解質を含む場合は、具体的には、トレハロース10〜100gを注射用蒸留水100mL〜500mLに溶解し、さらに電解質、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム塩等を添加、溶解しプラスチック製容器に分注、高圧蒸気滅菌を施した製剤であり、溶液の浸透圧比が0.9〜3.0の製剤が挙げられる。
本発明のトレハロースを有効成分とする薬剤は、アミロスフェロイドの形成を阻害するので、該アミロスフェロイドにより発生する疾患の予防または治療に用いられうる。ここで、神経細胞死活性とは、前述したように、アミロスフェロイドが神経細胞に対して細胞死を誘導する活性を意味し、誘導される細胞死は、アポトーシスまたはネクローシスのいずれでもよい。また、アミロスフェロイドにより発生する疾患とは、例えば、アルツハイマー病や、アルツハイマー病の初期段階ないしはアルツハイマー病への過渡的状態とみなせるとされている軽度認知障害(Arch. Neurol., 58, 397-405, 2001)を意味する。より具体的には、アルツハイマー病である。
さらに、本発明のトレハロースを有効成分とする食品は、例えば、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤のごとき食品に通常用いられる原料および/または素材との組成物とすればよい。使用目的にもよるが、疾病の予防を目的とする場合には、経口的に摂取すればよい。トレハロースの摂取量は、症状、年齢、体重等によって適宜選ぶことができる。例えば成人1日当たり、0.1〜300g、好ましくは1〜200gの範囲から適宜選ばれる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:アミロスフェロイドを含む自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液の調製
(1)アミロイドβ40(Aβ1-40:配列番号1)樹脂の製造
Fmoc-Val樹脂342mg(アミン含量0.73mmol/g樹脂)をパーキンエルマーアプライドバイオシステムズ社製A433型自動ペプチド合成機にセットし、これにFmoc-Val-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Val-OH,Fmoc-Met-OH,Fmoc-Leu-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Ile-OH,Fmoc-Ile-OH,Fmoc-Ala-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Lys(Boc)-OH,Fmoc-Asn(Trt)-OH,Fmoc-Ser(tBu)-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Val-OH,Fmoc-Asp(OtBu)-OH,Fmoc-Glu(OtBu)-OH,Fmoc-Ala-OH,Fmoc-Phe-OH,Fmoc-Phe-OH,Fmoc-Val-OH,Fmoc-Leu-OH,Fmoc-Lys(Boc)-OH,Fmoc-Gln(Trt)-OH,Fmoc-His(Trt)-OH,Fmoc-His(Trt)-OH,Fmoc-Val-OH,Fmoc-Glu(OtBu)-OH,Fmoc-Tyr(tBu)-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Ser(tBu)-OH,Fmoc-Asp(OtBu)-OH,Fmoc-His(Trt)-OH,Fmoc-Arg(Pmc)-OH,Fmoc-Phe-OH,Fmoc-Glu(OtBu)-OH,Fmoc-Ala-OH,Fmoc-Asp(OtBu)-OHを供給し、HBTU[2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3,-tetramethyluronium hexafluorophosphate]を縮合剤として順次縮合させて側鎖保護アミロイドβ40(Aβ1-40)樹脂1.515gを得た。
(2)トリフルオロ酢酸処理
上記(1)で得た側鎖保護アミロイドβ40(Aβ1-40)樹脂中の304mgを採取し、これにフェノール0.75mlとチオアニソール0.5mlとトリフルオロ酢酸8.25mlとエタンジチオール0.25mlと蒸留水0.5mlを加え、氷冷下5分、続いて室温で1.5時間反応させた。反応終了後、氷冷したジエチルエーテル200mlを加えてペプチドを沈殿させた。全内容物をグラスフィルターで濾取し、冷ジエチルエーテルで洗浄した後、35%のアセトニトリルを含む0.1%トリフルオロ酢酸(約200ml)で抽出処理してH-Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-OHで表される粗ペプチド191mgを得た。
(3)ペプチドの精製
この粗ペプチドを35%のアセトニトリルを含む0.1%トリフルオロ酢酸(40ml)に溶解しODS(オクタデシルシラン)をシリカに結合した逆相系のカラム(内径2cm、長さ25cm)を用いたHPLCにより精製した。溶出は0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル濃度を22%から42%へ直線的に20分間で上昇させることにより行った。精製物の収量は35mgであった。本物質の構造はMALDI-TOF質量分析により確認された。測定値[M+H]+4330.99に対して、計算値は(C19429553581+H)4330.89であった。
(4)自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液の調製
上記(3)で精製を行ったアミロイドβ40(Aβ1-40)蛋白質に対して、超純水並びにPBS(−)(ナカライテスク社製)を500μlずつ順次加え、アミロイドβ蛋白質を溶解させた。このアミロイドβ蛋白質水溶液をダックローター(TAITEC社製、ローター:RT50)を用いて7日間回転させたものをアミロスフェロイドを含む自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液として用いた。
実施例2:トレハロースによるアミロスフェロイド形成および神経毒性の阻害
(1)トレハロース存在下における自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液の調製
実施例1に記載した方法に従い自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液を調製した。その際、過剰量(モル比にして、1〜100倍量)のトレハロース(α-D-Glucopyranosyl (1-1)-α-D-Glucopyranoside, Sigma社製)を添加し、回転撹拌を行った。対照として、構造異性体であるネオトレハロース(α-D-Glucopyranosyl (1-1)-β-D-Glucopyranoside,林原社製)を同じように過剰量添加し、同じ操作をおこなったものを調製した。
(2)トレハロースによる自己会合型アミロイドβ蛋白質の形成阻害
(1)に記載したとおりトレハロースまたはネオトレハロース存在下で自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液を調製した。各含有液の小滴(数μl)を、酢酸ウラニウム溶液を用いたネガティブ染色法により電子線損傷低減法を用いて観察と写真撮影を行った。撮影した顕微鏡写真を用いて、各条件下における、球状の自己会合型アミロイドβ蛋白質の形成を解析し、粒子解析によって粒径および粒度分布を求めた。同時に、線維形成に関しても解析を行った。その結果、トレハロースが過剰量存在している場合、アミロスフェロイドすなわち10-15 nmの球状の自己会合型アミロイドβ蛋白質は形成されず、むしろそれより粒径が大きいものが形成される傾向が認められた。このような形成抑制効果は、構造異性体であるネオトレハロースには認められなかった。それに対して、線維に関しては、トレハロース、ネオトレハロースのいずれが存在している場合にも、特に形成量や構造に顕著な差は認められなかった。
(3)三重染色による神経細胞死活性評価法を用いたアミロスフェロイド形成阻害の解析
ラット18日胎児の前脳基底野より分散培養によって初代培養細胞を調製した。調製した初代培養細胞は、ポリエチレンイミン(Sigma社製)によりコーティングした培養プレートに2×105cells/cm2となるように播種して培養した。3日間、5%牛胎児血清(ハイクローン社製)/5%馬血清(ライフテックオリエンタル社製)/1mM Pyruvate/50μg/ml Gentamicin(ライフテックオリエンタル社製)/DMEM high glucose培地(ライフテックオリエンタル社製)中で培養後、無血清培地(0.5mM L-Glutamine/50μg/ml Gentamicin(ライフテックオリエンタル社製)/B27 Supplement(ライフテックオリエンタル社製)/Neurobasal medium(ライフテックオリエンタル社製))に交換した。この培養細胞に対し、(1)で調製した各種濃度のトレハロースあるいはネオトレハロース共存下で調製した自己会合型アミロイドβ蛋白質溶液を、それぞれを最終濃度1μM(アミロイドβ単量体換算)になるよう、1ウェルずつに添加し、神経毒性を検証した。神経毒性は、何も添加しない状態で調製した自己会合型アミロイドβ蛋白質溶液の毒性と比較することで評価した。バックグランドとして溶媒を同容量ウェルに添加した。添加後、40時間培養を行った後に、PBS(−)で洗浄し、最終濃度が1μg/mlのCalcein−AMの、最終濃度が5μg/mlのプロピディウムイオダイド希釈液(20 mM Hepes pH7.3, 130 mM NaCl, 5.4 mM KCl, 5.5 mM glucose, 2 mM CaCl2)で30分間染色を行った。その後、10%中性ホルマリン中において4℃で30分間細胞を固定処理を行い、次にPBS(−)で洗浄後、1μg/ml Hoechst33258(Molecular Probes社製)と5分間反応させて三重染色を行った。
この試料に、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)下で励起レーザーを照射し、励起された蛍光を冷却CCDカメラCoolSNAP HQ(Roper社製)で検出して画像を取り込み、画像データとして保存した。各蛍光色素の励起波長はそれぞれ、Calcein−AMは460−490nm、プロピディウムイオダイドは510−550nm、Hoechst33258は364nmで行った。得られた画像データについて、Hoechst33258で染色された全細胞数およびプロピディウムイオダイドで染色された死細胞数を計数した。1つの試料につき計数した全細胞数は平均でおよそ1000〜1200個程度であった。得られた死細胞数を全細胞数で除して100を乗じた値を細胞死活性(%)として計算した。なお、「死細胞」はプロピディウムイオダイドで染色された細胞で核の分断や萎縮などのアポトーシス様変化を呈した細胞とした。その後、神経細胞に添加した溶液中に含まれるアミロイドβ含量を定量的アミノ酸分析により決定し、神経細胞死比活性を求めた。
この結果、図1に示したとおり、過剰量のトレハロース存在下で回転したアミロイドβ蛋白質には神経細胞死活性が認められなかった。一方、ネオトレハロースを存在下では、通常と同様の強い神経細胞死活性を示した。トレハロース、ネオトレハロースそれ自体には毒性は認められなかった。
(4)ThT結合アッセイによる線維量の評価
ThT結合アッセイはLevineら(LeVine, H., III. Protein Sci. 2, 404-410, 1993)の方法に従い、実施した。(1)に記載したとおりトレハロースないしはネオトレハロース存在下で自己会合型アミロイドβ蛋白質含有液を調製し、それに対してThT(Sigma T-3516)を最終濃度20 mMになるように添加し、1分間室温でインキュベートした。それをさらに、蛍光セル中で30℃、1分間インキュベートした後、励起波長445 nm、吸収波長480 nmで蛍光強度を分光蛍光計(Hitachi F-4010)にて測定した。コントロールとして、溶媒に同濃度のトレハロースないしはネオトレハロースが溶けているものを用いて蛍光強度を求め、バックグランドとして差し引いた。表1に示すとおり、ThT結合に関しては有意な差はトレハロース、ネオトレハロースの添加によって認められなかった。
Figure 2006342108
実施例3:トレハロースによるアミロスフェロイドの神経毒性中和活性の評価
実施例2に記載した方法により準備したラット前脳基底野由来初代培養神経細胞に対して、予めトレハロースまたはネオトレハロースを添加し、そこに実施例1に記載した方法に基づき調製したアミロスフェロイド含有液を一定量添加した。その後、40時間後に、実施例2に記載した三重染色法を用いて神経細胞死活性の評価を実施した。コントロールとして、アミロスフェロイドのみを添加した場合の神経細胞死活性を評価し、溶媒を添加したバックグランドと比較した。図2に示したとおり、トレハロース、ネオトレハロースのいずれも、既に形成されたアミロスフェロイドの神経毒性には影響を与えなかった。従って、実施例2の電子顕微鏡、ThT結合アッセイの結果と合わせると、トレハロースはアミロイドβが球状のアミロスフェロイドを形成する経路に影響しその神経毒性を阻害するが、投与時加えることではその神経毒性に影響をしないことが明らかになった。ネオトレハロースにはこのようなアミロスフェロイドの形成に対する抑制効果は認められなかった。さらに、トレハロース、ネオトレハロースのいずれもアミロイドβが線維を形成する経路には影響を与えないことが明らかとなった。
トレハロースがアミロスフェロイドの形成を阻害する結果を示した図である。 トレハロースは既に形成されたアミロスフェロイドの毒性を抑制しない結果を示した図である。

Claims (5)

  1. トレハロースを有効成分とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患を予防または治療するための薬剤。
  2. アミロスフェロイドにより発生する疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の薬剤。
  3. アミロスフェロイドの形成を阻害することを特徴とする、請求項1または2に記載の薬剤。
  4. トレハロースを有効成分とし、アミロスフェロイドの形成を阻害することを特徴とする、アミロスフェロイドにより発生する疾患の予防または症状改善のために用いられるものである旨の表示を付した食品。
  5. アミロスフェロイドにより発生する疾患がアルツハイマー病である、請求項4に記載の食品。
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