[第1実施形態]
本実施形態におけるタイヤ設計装置について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100を示す図である。
図1に示すように、タイヤ設計装置100は、入力部110と、本体部120と、表示部130とを備えている。入力部110は、設計変数を含む設計パラメータなどを取得するものであり、キーボードなどが挙げられる。本体部120は、予め設定されたプログラムに従い、制約条件を満たしながら目的関数に最適値を与える該設計変数に基づいて最終的な設計パラメータを決定する設計パラメータ決定部を構成している。表示部130は、本体部120による算出結果を出力するものであり、CRTディスプレイ、液晶表示装置などが挙げられる。
ここで、目的関数とは、タイヤの物理的な性質及び能力を示すタイヤ性能を表すための関数である。例えば、タイヤ性能には、操縦安定性を向上させるための空気充填時におけるベルト張力、横バネ定数、転がり抵抗、コーナーリングパワー等が挙げられる。
本実施形態では、目的関数は、転がり抵抗、タイヤが歪む際に発生するエネルギー損失(ヒステリシス損失)であるものとする。
制約条件とは、タイヤ性能の許容範囲を制約する条件である。本実施形態では、制約条件は、コーナーリングパワーの許容範囲を制約する条件であるものとする。
設計パラメータとは、有限個の要素で構成されたタイヤ基本モデルのタイヤ断面形状に沿って配置された複数の制御点の位置を決定するために用いられるパラメータである。上記目的関数は、設計パラメータの関数である。このため、設計パラメータが変化されることにより上記目的関数も変化されることとなる。なお、制御点の位置は、該位置そのものに限定されずに、該位置に対応するものであってもよい。
例えば、タイヤ断面形状を変更可能な制御点(後述する図5に示すP0〜Pn参照)が該タイヤ断面形状に沿って複数配置されている場合には、設計パラメータには、各制御点の座標値、その座標値に対応する値などが設定される。本実施形態では、設計パラメータは、各制御点の座標であるものとする。
設計変数とは、入力操作により移動された制御点の位置である。例えば、設計変数には、入力操作により移動された制御点の座標、移動された制御点の移動量などが挙げられる。本実施形態では、設計変数は、入力操作により移動された制御点の座標であるものとする。
上述の通り目的関数(又は制約条件)は、設計パラメータに含まれる設計変数の関数である。これにより、制約条件を満たしつつ、転がり抵抗(タイヤ性能)を最適値である最小値にさせ得る設計パラメータ(タイヤ断面形状の座標など)が決定されることとなる。
なお、本実施形態では、目的関数及び制約条件は数理計画法等を前提として成立するものであるが、当該数理計画法等は一般的な計算手法であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
なお、本実施形態では、制約条件を満たしつつ、転がり抵抗を最小値にさせ得る設計パラメータが決定されるが、これに限定される分けではない。例えば、制約条件を満たしつつ、タイヤが歪む際に発生するエネルギー損失(ヒステリシス損失)を最小値にさせ得る設計パラメータなど、すなわち何れかの目的関数を最適値にさせ得る設計パラメータが決定されればよい。
次に、本実施形態における本体部120の内部構造について詳述する。図2は、本実施形態における本体部120の内部構造を示す図である。
図2に示すように、本体部120は、CPU121と、RAM122と、ROM123とを備えている。RAM122は、CPU121により演算を行うための作業領域を構成している。ROM123は、タイヤ設計装置100の動作を実行させるためのプログラムなどを記憶している。
CPU121は、設定部121aと、設計パラメータ決定部121bとを備えている。設定部121aは、少なくともタイヤ断面形状を有限個の要素でモデル化したタイヤ基本モデルと、タイヤ性能を表す目的関数と、該タイヤ性能の許容範囲を制約する制約条件と、モデル化されたタイヤ断面形状を決定するための設計パラメータとを設定する。
また、設定部121aは、入力操作により制御点が移動された場合には、移動された該制御点である操作制御点(例えば、図5に示すPm12’)の位置(例えば、図5に示す(z12’,r12’))と該操作制御点の移動前の位置(例えば、図5に示す(z12,r12))との比率(例えば、後述する式1乃至式4)を算出し、該操作制御点以外の他の制御点である操作無制御点(例えば、図5に示すP1〜P11)を、当該比率に応じて移動させて、移動後の操作制御点(例えば、図5に示すPm12’)の位置を設計変数として設計パラメータに含めて設定し、移動後の操作無制御点(例えば、図5に示すP0’〜P11’)の位置を設計パラメータに含めて設定する(後述する図3に示すS102参照)。
本実施形態では、設定部121aは、入力操作により移動された制御点である操作制御点(例えば、図5に示すPm12’)の移動前の位置(例えば、図5に示す(z12,r12))よりもタイヤ径方向内側に配置された操作無制御点(例えば、P13;図示せず)を移動させずに、上記操作制御点の移動前の位置よりもタイヤ径方向外側に配置された操作無制御点(例えば、図5に示すP1〜P11)のみを上記比率(例えば、後述する式1乃至式4)に応じて移動させる。
設計パラメータ決定部121bは、設計パラメータに含まれている設計変数を逐次変更させて、制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える該設計変数に基づいて最終的な設計パラメータを決定する(後述する図3に示すS106乃至S120参照)。
本実施形態では、設計パラメータ決定部121bは、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数感度(例えば、後述する式9)、及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件感度(例えば、後述する式10)を用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える設計変数を算出し、算出した設計変数により最終的な設計パラメータを決定する。
次に、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作(タイヤ設計方法)について説明する。図3は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作を示す図である。
図3に示すように、ステップ100において、タイヤ設計装置100は、目的関数、制約条件及び設計変数を決定する。本実施形態では、タイヤ設計装置100は、後述するように、タイヤの転がり抵抗を目的関数として決定し、タイヤに生じるコーナーリングパワーの許容範囲を示す条件を制約条件として決定する。
目的関数OBJ;転がり抵抗
制約条件G;タイヤに生じるコーナーリングパワーを初期形状の−3%以上
また、タイヤ設計装置100は、後述する各制御点のうち、移動された制御点(例えば、図5に示すPm12’)が存在する場合には、入力操作により移動された制御点(例えば、図5に示すPm12’)を設計変数として決定する。なお、この処理では、設計変数の制御点がどの制御点であるかのみを決定し、その設計変数の内容、すなわち入力操作により移動された制御点の位置(座標)は後述するS102で設定するものとする。
ステップ102において、タイヤ設計装置100は、入力操作により移動された制御点(例えば、図5に示すPm12’)の位置(例えば、図5に示す(z12’,r12’))を設計変数の内容として設計パラメータの一部に設定するとともに、及びそれ以外の制御点の位置を設計パラメータ(設計変数以外の設計パラメータ)に設定する(設計パラメータ設定処理)。
次に、ステップ102における設計パラメータ設定処理について詳細に説明する。図4は、本実施形態における設計パラメータ設定処理を示す図である。この設計パラメータ設定処理では初期の設計パラメータが決定され、後述するS122において最終的な設計パラメータが決定される。
ここで、図5は、設計パラメータを決定する上で必要な各制御点を示す図である。なお、本実施形態では各制御点に沿う曲線(例えばBスプライン曲線)は、タイヤ断面形状の内面形状を構成している。
図5に示Pにある添え字mは“入力操作により移動”される前の制御点(すなわち設計者により移動の指定がなされた制御点)を示している。添え字mが無いPは、設計者により移動の指定がなされていない制御点であり、移動させられる前の制御点を示している。
Pmにある添え字iは“入力操作により移動”される前の制御点(すなわち設計者により移動の指定がなされた制御点)がi番目に該当していることを示している。Pmi’は、“入力操作により移動”された後のi番目の制御点を示しており、Pmiの移動後の制御点を示している。添え字mが無いないP’は、Pmiの移動に伴ない、Pmi以外の移動された制御点を示しており、添え字mが無いPの移動後の制御点を示している。
本実施形態では、入力操作により移動させられる前の制御点Pmi(例えば、図5に示すPm12)が移動させられることにより、制御点Pmiの移動量に応じて制御点Pmi以外の各制御点(例えば、図5に示すP1〜P11)がスライド移動させられる(後述するS102−2参照)。
図4及び図5に示すように、S102−1において、タイヤ設計装置100は、入力操作により移動させることにした制御点Pmi’の位置(zi’,ri’)を初期の設計変数の内容として設定する。例えば、入力操作により移動させられる前の制御点がPm12である場合には、タイヤ設計装置100は、入力操作により移動された後の制御点Pm12’の位置(z12’,r12’)を設計変数の内容として設定する。
S102−2において、タイヤ設計装置100は、入力操作により移動された制御点Pmi’以外の制御点を移動させる。本実施形態では、図5に示すように、入力操作により移動された制御点Pmi’(ここではPm12’)がある場合には、タイヤ設計装置100は、下記の式1及び式2、又は式3及び式4により、当該制御点Pmi’(ここではPm12’)の位置とその移動前の制御点Pmi(ここではPm12)の位置との比率に応じて、当該制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向外側の制御点P0〜Pi−1(ここではP0〜P11)をスライド移動させる。
なお、制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向外側の制御点P0〜Pk(ここではP0〜P11)の位置は(zk,rk){k;i−1、以下同様とする}であり、その移動後の制御点P0’〜Pk’(ここではP0’〜P11’)の位置は(zk’,rk’)であるものとする。また、制御点の原点の位置は、タイヤ赤道上の任意の一点であるものとする。
もし、制御点の原点の位置が(0,0)である場合には、下記の式1及び式2が成立する。
また、制御点の原点の位置が(z0,r0)である場合には、下記の式3及び式4が成立する。なお、本実施形態では、制御点の原点の位置(z0,r0)が移動されると、その位置は(z0’,r0’)となる。但し、制御点の原点の位置は、不変であってもよい。
なお、上記102−1では、上記制御点Pmi’の位置(zi’,ri’)が設計変数の内容として設定されるが、この設計変数の内容は、1つに限定されずに、図6に示すように複数存在してもよい(図6に示すPm7’の座標及びPm8’の座標を参照)。
S102−3において、タイヤ設計装置100は、設定された設計変数と、上記制御点Pmi’以外の制御点の座標とを初期の設計パラメータに含めて設定する。例えば、制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向外側の制御点P0〜Pk(ここでは、k=i−1、P0〜P11)の位置が(zk,rk){以下同様とする}であり、その移動後の制御点P0’〜Pk’(ここではP0’〜P11’)の位置が(zk’,rk’)である場合には、その位置(zk’,rk’)と、設定された設計変数とが初期の設計パラメータに含められる。
また、本実施形態では、制御点Pmi(ここではPm12)が移動させられることにより、制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向外側の制御点(図示せず)のみが移動させられる。したがって、制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向内側の制御点(図示せず)は、制御点Pmiが移動されても移動されない。このため、制御点Pmi(ここではPm12)よりもタイヤ径方向内側の制御点の位置は、そのまま初期の設計パラメータに含められる。
なお、本実施形態及び他の実施形態において設計変数が変更されると、それに伴ない、上記S102−2及びS102−3の処理と同様に、当該設計変数以外の設計パラメータも変更される。
そして、図3に示す104の処理に戻り、タイヤ設計装置100は、設定された設計パラメータに基づいて、少なくともタイヤ断面形状を有限個の要素でモデル化したタイヤ基本モデルを設定する。このタイヤ断面形状には、タイヤの内面形状、外面形状のみならずに、ベルト又はカーカスプライ等の構造が含まれてもよい。また、モデル化とは、有限要素法解析等を実行可能なコンピュータプログラムへのインプットデータ形式にタイヤ断面形状、材料、パターン等を数値化することである。
本実施形態では、自然平衡状態(タイヤに空気を充填し、タイヤを路面に接地させていない状態)におけるタイヤ断面形状が基本形状となり、その基本形状を有限個の要素でモデル化されたタイヤ基本モデルが設定される。タイヤ設計装置100は、タイヤ基本モデルを仮想の路面上で転動させることにより、転がり抵抗などの目的関数などを有限要素法解析等で算出することができる。
なお、基本形状は、自然平衡状態におけるタイヤ断面形状に限らずに、自然平衡状態以外の状態におけるタイヤ断面形状であってもよい。
ここで、図7は、S104の処理により設定されたタイヤ基本モデルを示す図である。図7に示すCLはタイヤ断面形状のうちのタイヤの内面形状に沿うラインを示している。OLはタイヤ断面形状のうちのタイヤの外面形状に沿うラインを示している。PLは折り返されたカーカスプライに沿うラインを示している。B1,B2はベルトを各々示している。
図7に示すように、タイヤ基本モデルは、CLに対する複数の法線NL1,NL2,NL3・・・によって有限個の要素に分割されている。なお、本実施形態では、タイヤ基本モデルは、CLに対する複数の法線によって有限個の要素に分割されているが、これに限定される分けではない。例えば、タイヤ基本モデルは、OL又はPLに対する複数の法線によって有限個の要素に分割されてもよい。また分割される要素は、3角形、4角形、立方体等の任意の形状で構成されてもよい。
S106において、タイヤ設計装置100は、S102の処理により設定された初期の設計パラメータに基づいて、タイヤ基本モデルを用いた有限要素法解析等により目的関数の初期値OBJ0及び制約条件の初期値G0を算出する。なお、S106乃至S120までの処理は、いわゆる数理計画法に基づく処理である。
S108において、タイヤ設計装置100は、S102の処理により設定された設計変数(zi’,ri’)をそれぞれΔzi’、Δri’づつ変化させる。
S110において、タイヤ設計装置100は、変化させた設計変数(zi’+Δzi’,ri’+Δri’)に基づいて、上記S102の処理を用いることにより、当該設計変数を除く設計パラメータを変化させる。すなわち、タイヤ設計装置100は、変化させた設計変数(zi’+Δzi’,ri’+Δri’)の制御点の移動量に応じて、変化させる前の設計変数に対応する制御点(Pmi’;例えば図5に示すPm12’)よりもタイヤ径方向外側の制御点(Pmk’=Pmi−1’;例えば図5に示すP0’〜P11’)の位置をスライド移動させる。このタイヤ径方向外側の制御点(例えば、図5に示すP0’〜P11’)がスライド移動された後の制御点の位置は、(zk’+Δzk’,rk’+Δrk’)となる(上記式1乃至式4参照)。
したがって、タイヤ設計装置100は、上記位置(zi’+Δzi’(以下ではzi’とする),ri’+Δri’(以下ではri’とする))を設計変数として設計パラメータに含めて再設定するとともに、それ以外の位置(zk’+Δzk’(以下ではzk’とする),rk’+Δrk’(以下ではrk’とする)){k;i−1}を設計パラメータに含めて再設定する。
そして、タイヤ設計装置100は、下記の式5乃至式8により、再設定した設計パラメータに基づいて、該設計パラメータに対応するタイヤ断面形状(ここではCL)を算出する。また、タイヤ設計装置100は、算出したタイヤ断面形状により、既に設定したタイヤ基本モデルを修正する。
ここで、mは、本実施形態では0,1,…,k(又はi−1),i,…,nである。hは階数を示している。
また、階数h、m番目の正規化されたBスプライン基底関数N
m,h(t)は次に示す式により表現することができる。
但し、xmは、ノットベクトルの要素である。tは、(Z(t),R(t))からなる曲線に沿い、0〜tmaxまで変化する。tmaxは、n−h+2である。
S112において、タイヤ設計装置100は、変化させた設計変数(zi’+Δzi’,ri’+Δri’)を含む設計パラメータに基づいて、S110により修正したタイヤ基本モデルを用いることにより目的関数の値OBJ1及び制約条件の値G1を算出する。
S114において、タイヤ設計装置100は、下記の式9及び式10により、設計変数の所定変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数感度dOBJ/dzi’、dOBJ/dri’及び設計変数の所定変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件感度dG/dzi’、dG/dri’を設計変数毎に演算する。
これらの目的関数感度及び制約条件感度が算出されることにより、目的関数及び制約条件の傾きが算出される。そして、タイヤ設計装置100は、目的関数及び制約条件の傾きにより、現在の目的関数の値が収束する方向に向っているか否かを判定することができる。
S116において、タイヤ設計装置100は、目的関数の初期値OBJ0、制約条件の初期値G0、初期の設計変数、目的関数感度dOBJ/dzi’、dOBJ/dri’及び制約条件感度dG/dzi’、dG/dri’を用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら現在の目的関数を最小に近づける設計変数の変化量を予測する。
S118において、タイヤ設計装置100は、上記S110の処理と同様に、予測された設計変数の変化量に基づいて、S110で修正されたタイヤ基本モデルを再度修正する。そして、タイヤ設計装置100は、予測された設計変数の変化量に基づいて、修正後のタイヤ基本モデルを用いて目的関数の値OBJを算出する。
S120において、タイヤ設計装置100は、S118の処理により算出された目的関数の値OBJが収束しているか否か判定する。例えば、S118の処理により算出された目的関数の値OBJと、S106の処理により算出された目的関数の初期値OBJ0との差分が予め設定された閾値の範囲内である場合には、タイヤ設計装置100は、S118の処理により算出された目的関数の値OBJが収束していると判定し、S122の処理に移る。
一方、S118の処理により算出された目的関数の値OBJと、S106の処理により算出された目的関数の初期値OBJ0との差分が予め設定された閾値の範囲内でない場合には、タイヤ設計装置100は、S118の処理により算出された目的関数の値OBJが収束していないと判定し、S106の処理に戻る。なお、S118の処理がS106の処理に戻る場合(NOが判定された場合)には、S116の処理により変化された設計変数を含む設計パラメータが初期値として用いられる。
S122において、タイヤ設計装置100は、S116の処理により変化された設計変数を含む最終的な設計パラメータに基づいてタイヤ断面形状などを決定する。
このような本発明の特徴によれば、タイヤ設計装置100が、移動された制御点である操作制御点(例えば、図5に示すPm12’)の位置(例えば、図5に示す(z12’,r12’))と操作制御点の移動前の位置(例えば、図5に示す(z12,r12))との比率を算出し、操作制御点以外の他の制御点である操作無制御点(例えば、図5に示すP1〜P11)を当該比率に応じてスライド移動させることにより、タイヤの設計者は、個々の制御点を移動させる必要がなく、ある制御点を移動させれば、その移動に伴ない他の制御点もスライド移動させることができるため、各制御点を移動させる上での操作上の煩雑さを解消することができる。
また、タイヤ設計装置100が、ある制御点を移動させることに伴ない、他の制御点もスライド移動させるため、タイヤ設計装置100は、移動後の各制御点により形成されるタイヤ断面形状を波状に形成させずに、なだらかな形状にさせることができる。これにより、タイヤ設計装置100は、波状に形成されたタイヤ断面形状をなだらかなタイヤ断面形状にするための近似処理を実行する必要がないため、全体の処理時間を短くすることができる。
さらに、タイヤ設計装置100は、操作制御点(例えば、図5に示すPm12’)の移動前の位置(例えば、図5に示す(z12,r12))よりもタイヤ径方向内側に配置された操作無制御点(例えば、P13;図示せず)を移動させずに、操作制御点の移動前の位置よりもタイヤ径方向外側に配置された操作無制御点(例えば、図5に示すP1〜P11)のみを上記比率に応じて移動させることができる。
これにより、タイヤの設計者は、少ない工数で、ビードフィラー及びビード部付近に配置された各制御点(例えば、図6に示すP10〜P12)を余り移動させずに、タイヤ最大幅付近に配置された各制御点(例えば、図6に示すPm7,Pm8,P9)を該タイヤ最大幅が広くなる方向に移動させることができ、移動後の各制御点により特殊なタイヤ断面形状を短時間で形成することができる。
また、タイヤ設計装置100が、制約条件を満たしながら目的関数の値が最適値に近づくように、数理計画法を用いて初期の設計変数を徐々に変更させて、制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える設計変数を算出するため、タイヤの設計者は、経験則に基づいた設計変数ではなく、コンピュータによる計算手法を主体とした適切な設計変数によりタイヤを設計・開発することができ、より効率的なタイヤの設計・開発をすることができる。
[第2実施形態]
第1実施形態では、タイヤ設計装置100は、数理計画法を用いることにより最終的な設計パラメータを算出している。これに対し、第2実施形態では、タイヤ設計装置100は、遺伝的アルゴリズムを用いることにより最終的な設計パラメータを算出している。以下では、第1実施形態と異なる点のみを説明し、共通する部分の説明については省略する。
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、目的関数は転がり抵抗であるものとする。また、制約条件もコーナーリングパワーの許容範囲を制約する条件であるものとする。なお、目的関数及び制約条件は、それらに限定されないことは勿論のことである。
図8は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100を示す図である。図8に示すように、タイヤ設計装置100は、第1実施形態における構成に加えて、新規設計変数生成部121cを備えている。なお、設定部121aは、タイヤ基本モデルのそれぞれを構成する設計変数を含む集合情報を設定するものとする(後述する図10参照)。
新規設計変数生成部121cは、少なくとも2つのタイヤ基本モデルのそれぞれを構成する設計変数を集合情報から逐次選択し、選択した該設計変数のそれぞれの一部を互いに交換して新規な設計変数を生成する交叉処理、及び選択した設計変数のいずれか一部を変更して新規な設計変数を生成する突然変異処理のいずれかの処理又は双方の処理を所定確率で実行する(後述する図10参照)。
上記設計パラメータ決定部121bは、生成された新規な設計変数、及びそれ以外の選択された設計変数を含む新規集合情報のうち、制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える設計変数に基づいて最終的な設計パラメータを決定する(後述する図9に示すS234)。
また、設計パラメータ決定部121bは、所定の収束条件が成立した場合(後述する図9に示すS232のYES)には、該新規集合情報に含まれている各設計変数のうち、制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える設計変数に基づいて最終的な設計パラメータを決定し、所定の収束条件が成立していない場合(後述する図9に示すS232のNO)には、新規集合情報を集合情報に設定し、新規設計変数生成部121cに対して同様の処理を繰り返し実行させる。
次に、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作について説明する。図9は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作を示す図である。図10は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作の概念を示す図である。以下では、図9及び図10の両方を参照しながら説明する。
図9に示すように、S200において、タイヤ設計装置100は、下記に示すように、タイヤの転がり抵抗を目的関数として決定し、タイヤに生じるコーナーリングパワーの許容範囲を示す条件を制約条件として決定する。
目的関数OBJ:転がり抵抗
制約条件G:コーナーリングパワーを初期形状の−3%以上
また、タイヤ設計装置100は、N個のタイヤ基本モデルのそれぞれを構成する少なくとも1つの設計変数を含む集合情報を設定する。このNは、タイヤの設計者により予め入力される。
ここで、図10に示すように、集合情報はN個の小集合情報(第1小集合情報乃至第N小集合情報)を備えている。N個の小集合情報のそれぞれは、N個のタイヤ基本モデルに対応しており、少なくとも1つの設計変数を含む設計パラメータを備えている。
例えば、S200の処理では、タイヤ設計装置100は、設計変数をPm12’(図5参照)として決定し、その設計変数Pm12’を含む設計パラメータを第1小集合情報に設定する。同様にして、タイヤ設計装置100は、第2小集合情報乃至第N小集合情報を設定する。なお、S200の処理では、設計変数の内容である位置(z12’、r12’)は未だ設定されずに、後述するS202の処理において設定される。
S202において、タイヤ設計装置100は、第1小集合情報乃至第N小集合情報のそれぞれに備えられた設計パラメータの内容を設定する(設計パラメータ設定処理)。例えば、タイヤ設計装置100は、第1小集合情報に備えられた設計変数がPm12’である場合には、そのPm12’の位置(z12’,r12’)を設計パラメータの内容に含めて設定する。同様にして、タイヤ設計装置100は、第2小集合情報乃至第N小集合情報のそれぞれに備えられた設計パラメータの内容を設定する。なお、S202の処理は、第1実施形態におけるS102の処理がN回繰り返されたものであるため、詳細な説明は省略する。
S204において、タイヤ設計装置100は、S202の処理により設定された第1小集合情報乃至第N小集合情報を用いて、第1小集合情報乃至第N小集合情報のそれぞれに対応する第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルを設定する(図7及び図10参照)。これらの第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルのそれぞれは、設計パラメータにより構成される。なお、S204の処理は、第1実施形態におけるS104の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
S206において、タイヤ設計装置100は、S202の処理により設定されたタイヤ基本モデル毎の設計パラメータに基づいて、第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルを用いた有限要素法解析等により、第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する目的関数の初期値OBJJ及び制約条件の初期値GJを算出する(J;1〜N)。
S208において、タイヤ設計装置100は、下記の式11乃至式17により、第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する目的関数の初期値OBJJ及び制約条件の初期値GJを用いて、第1タイヤ基本モデル乃至第Nタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する適応関数FJを算出する。本実施形態では、転がり抵抗を最小にする必要がある。このため、適応関数の値(適応度)は、転がり抵抗が小さくなるにつれて大きくなる。
ΦJ=OBJJ+γ・Max(GJ,0) …式11
FJ=−ΦJ …式12
又は、
FJ=1/ΦJ …式13
又は、
FJ=−a・ΦJ+b …式14
但し、
但し、c,γ,Φmin,ΦJは以下の通りである。
c;定数
γ;ペナルティ係数
Φmin:min(Φ1,Φ2,Φ3,・・・,ΦN)
ΦJ;N個のタイヤ基本モデルのJ番目のペナルティ関数
(J=1,2,3,・・・N)
なお、c及びγは、タイヤの設計者により予め入力される。
S210において、タイヤ設計装置100は、一般的に知られている適応度比例戦略の計算手法を用いることにより、S208の処理により算出された適応関数に基づいてN個のタイヤ基本モデルの中から交叉させるタイヤ基本モデルを2個選択する(図10参照)。適応度比例戦略の計算手法が用いられると、N個のタイヤ基本モデルのうちのあるタイヤ基本モデルが選択される確率pは、下記の式18により算出される。
ここで、適応度比例戦略は、各タイヤ基本モデルの適応度に比例した確率であるタイヤ基本モデルを選択する計算手法である。したがって、転がり抵抗が小さければ(目的関数が小さければ)、適応関数の値(適応度)が大きくなり、その適応関数を有するタイヤ基本モデルは、下記の式18により選択される確率が高いこととなる。
但し、FL,FJは以下の通りである。
FL:N個のタイヤモデルの中のあるタイヤモデルLの適応関数
FJ:N個のタイヤモデルのJ番目の適応関数
J=1,2,3,・・・N
なお、本実施形態では、上記適応度比例戦略が用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、期待値戦略、ランク戦略、エリート保存戦略、トーナメント選択戦略、又はGENITORアルゴリズム等が用いられてもよい(遺伝的アルゴリズム(北野宏明編)参照)。
S212において、タイヤ設計装置100は、予め設定された確率Tで、S210の処理により選択された2個のタイヤ基本モデルを交叉させるか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS216の処理に移り、NOである場合にはS214の処理に移る。ここで、交叉とは、2個のタイヤ基本モデルのそれぞれを構成する一部の要素を互いに交換することである。
S214において、タイヤ設計装置100は、選択された2個のタイヤ基本モデルを交叉させずにそのままの状態にする。
S216において、タイヤ設計装置100は、選択された2個のタイヤ基本モデルを交叉させる(交叉処理)。例えば、図10に示すように、タイヤ設計装置100は、選択された第1タイヤ基本モデルの設計変数の一部と、選択された第Nタイヤ基本モデルの設計変数の一部とを互いに交換する。
ここで、S216における交叉処理について詳細に説明する。図11は、S216における交叉処理を示す図である。なお、選択された2個のタイヤ基本モデルは、タイヤ基本モデルa及びタイヤ基本モデルbとすると、タイヤ基本モデルa及びタイヤ基本モデルbの設計変数は以下の通りである。但し、Pには、上記図4で説明したように、Pの位置(z,r)が設定されている。
タイヤ基本モデルaの設計変数(ベクトル);
Pa=(Pa1,Pa2,…,Pai,Pai+1,Pai+2,…,Pan−1)
タイヤ基本モデルbの設計変数(ベクトル);
Pb=(Pb1,Pb2,…,Pbi,Pbi+1,Pbi+2,…,Pbn−1)
図11に示すように、S216−1において、タイヤ設計装置100は、生成した乱数iに基づいて、タイヤ基本モデルaの設計変数及びタイヤ基本モデルbの設計変数の交叉場所を決定する。本実施形態では、生成した乱数iよりも後のi+1,i+2,…,n−1に対応する設計変数の位置が交叉場所となる。なお、交叉場所については、本実施形態に限定されないのは勿論のことである。
したがって、タイヤ設計装置100は、タイヤ基本モデルaの交叉前の一部の設計変数Pai+1,Pai+2,…,Pan−1と、タイヤ基本モデルbの交叉前の一部の設計変数Pbi+1,Pbi+2,…,Pbn−1とを交換する。これにより、タイヤ基本モデルaの交叉後の全体の設計変数Pa’、タイヤ基本モデルbの交叉後の全体の設計変数Pb’は次の通りになる。
Pa’=(Pa1,Pa2,…,Pai,Pbi+1,Pbi+2,…,Pbn−1)
Pb’=(Pb1,Pb2,…,Pbi,Pai+1,Pai+2,…,Pan−1)
なお、遺伝的アルゴリズム(北野宏明編)に示されているような、複数点交叉または一様交叉等が用いられてもよい。
さらに、本実施形態では、S216では交叉処理だけではなく、後述するS216−2乃至S216−5に示すように突然変異処理も実行している。突然変異とは、2個のタイヤ基本モデル(本実施形態では設計変数)のそれぞれを構成する一部の要素を変更することである。この突然変異が実行されることにより、後述する新規集合情報において、最適な設計パラメータ含む確率を高めることができる。
本実施形態では、生成した乱数iに対応する設計変数の位置が突然変異の場所となる。なお、突然変異の場所については、本実施形態に限定されないのは勿論のことである。
S216−2において、タイヤ設計装置100は、突然変異させる場所に対応する設計変数Pai及び設計変数Pbiに対して、下記の式19により距離dを算出する。なお、Pには、Pの位置(z,r)が設定されている。
d=|Pai−Pbi| …式19
S216−3において、タイヤ設計装置100は、Pai,Pbiの取り得る範囲の最小値BL及び最大値BUを用いて、下記の式20により正規化距離d’を算出する。
d’=d/(BU−BL) …式20
S216−4において、タイヤ設計装置100は、正規化距離d’を適度に分散させる。例えば、図12(a)及び(b)に示すように、タイヤ設計装置100は、X=0,1で最小値Z=0となり、X=0.5で最大値Z=0.5となるような山型の写像関数Z(X)(0≦X≦1,0≦Z(X)≦0.5)、又は上記Z(X)とは反対に、X=0,1でZ=0.5となり、X=0.5でZ=0となる谷型の写像関数を用いて、下記の式21により関数値Zabを求める。
Zab=Z(d’) …式21
S216−5において、タイヤ設計装置100は、S216−4の処理により算出された関数値Zabを用いて、下記の式22乃至式25により、設計変数Paiを新規な設計変数Pai’に変更するとともに、設計変数Pbiも新規な設計変数Pbi’に変更する。
なお、最小値BL及び最大値BUは、タイヤの設計者により予め入力されている。
S216−6において、タイヤ設計装置100は、S216−5により算出されたPai’を含む全体の設計変数Pa’、及びPbi’を含む全体の設計変数Pb’を設定する。
Pa’=(Pa1,Pa2,…,Pai’,Pbi+1,Pbi+2,…,Pbn−1)
Pb’=(Pb1,Pb2,…,Pbi’,Pai+1,Pai+2,…,Pan−1)
そして、図9に示すS218の処理に戻り、タイヤ設計装置100は、予め設定された確率Sで、S212又はS216における2個のタイヤ基本モデルを突然変異させるか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS222の処理に移り、NOである場合にはS220の処理に移る。
ここで、突然変異とは、上述した通り、2個のタイヤ基本モデルのそれぞれを構成する一部の要素を変更することである。この突然変異が行われることにより、後述する新規集合情報において、高い確率で最適な設計変数を多くすることができる。
S220において、タイヤ設計装置100は、選択された2個のタイヤ基本モデルを突然変異させずにそのままの状態にする。
S222において、タイヤ設計装置100は、選択された2個のタイヤ基本モデルを突然変異させる(突然変異処理)。例えば、図10に示すように、タイヤ設計装置100は、予め定められた所定確率で、選択された第1タイヤ基本モデルの設計変数の一部と、選択された第Nタイヤ基本モデルの設計変数の一部とを変更する。ここでの処理は、上記S216の処理における突然変異処理と重複するため、詳細な説明は省略する。
S224において、タイヤ設計装置100は、S220又はS220における2個のタイヤ基本モデルを用いて、当該2個のタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する目的関数の値と制約条件の値とを算出する。
S226において、タイヤ設計装置100は、2個のタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する目的関数の値と制約条件の値とを用いて、上記の式11乃至式17により、当該2個のタイヤ基本モデルのそれぞれに対応する適応関数の値を算出する。ここで算出された適応関数の値は、後述するS230又はS232の処理においてNOが判定されて、S210の処理が再び実行される場合に用いられる。
S228において、タイヤ設計装置100は、本処理の時点における2個のタイヤ基本モデルを新規集合情報に含めて記憶させる(図10参照)。
S230において、タイヤ設計装置100は、新規集合情報に含まれているタイヤ基本モデルがN個(所定の収束条件)に達しているか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS232の処理に移り、NOである場合にはS210の処理に戻り、新規集合情報に含まれているタイヤ基本モデルがN個に達するまで繰り返す。
S232において、タイヤ設計装置100は、下記(1)乃至(3)のうちのいずれかの収束条件(所定の収束条件)を満たすか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS234の処理に移り、NOである場合には上記新規集合情報に含まれているN個のタイヤ基本モデルを上記集合情報として設定し、S210乃至S228の処理を繰り返す。
・収束条件
(1)世代数(繰り返し数)がM個に達した場合
(2)目的関数の値である小さい線列の数が全体のq%以上になった場合
(3)最小の目的関数の値が、続くp回の世代で更新されない場合
なお、M、q、pは、タイヤの設計者により予め入力されている。このように収束判定には、タイヤ性能を表す目的関数を用いることができる。
S234において、タイヤ設計装置100は、新規集合情報に含まれているN個のタイヤモデルの設計変数の中から、制約条件を満たしながら目的関数を最小にする設計変数を選択し、該設計変数を含む最終的な設計パラメータを決定する。そして、タイヤ設計装置100は、最終的な設計パラメータに基づいてタイヤ断面形状などを決定する。
このような本発明の特徴によれば、タイヤ設計装置100が、交叉処理又は突然変異処理のいずれかの処理又は双方の処理を所定確率で実行することにより、多様な設計変数を生成することができるため、タイヤ設計装置100は、多様な設計変数を含む各設計パラメータの中から、より適切な設計パラメータを選択することができる。
また、タイヤ設計装置100が、所定の収束条件が成立するまで集合情報を逐次更新して同様の処理を繰り返すため、タイヤ設計装置100は、交叉処理又は突然変異処理が実行された後の設計変数が集合情報に含まれる確率を、上記同様の処理を繰り返す毎に高めることができ、より多彩な設計変数を含む各設計パラメータの中から、より適切な設計パラメータを選択することができる。
なお、第1実施形態における処理と第2実施形態における処理とが組み合わされてもよい。ここで、上記交叉処理又は上記突然変異処理とにより算出された設計変数に基づいて、目的関数及び制約条件が算出される場合には、Goldberg, D.E., “Genetic Algorithms in Search, Optimization and Machine Learning”, Adison-Wesley (1988)に記載されているように、目的関数の値が局所的な最適解に落ち込まないものの、真の最適解が算出され難いという問題点が存在する。そこで、第2実施形態におけるS224の処理において、第1実施形態におけるS106乃至S120の処理が実行されることにより、上記問題点が解決される。
また、上記問題点を解決する手法として、焼きなまし法(Simulated Annealing)(遺伝的アルゴリズム(北野宏明編)参照)と第2実施形態とが組み合わされてもよい。
[第3実施形態]
第1実施形態では、タイヤ設計装置100は、数理計画法を用いることにより最終的な設計パラメータを算出している。また、第2実施形態では、タイヤ設計装置100は、遺伝的アルゴリズムを用いることにより最終的な設計パラメータを算出している。
これに対し、第3実施形態では、高等動物の神経回路網を工学的にモデル化した非線形予測技術である学習後のニューラルネットワークを変換系として用いることにより、最終的な設計パラメータを算出している。以下では、第1実施形態又は第2実施形態と異なる点のみを説明し、共通する部分の説明については省略する。
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、目的関数は転がり抵抗であるものとする。また、制約条件もコーナーリングパワーの許容範囲を制約する条件であるものとする。なお、目的関数及び制約条件は、それらに限定されないことは勿論のことである。
図13は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100を示す図である。図13に示すように、タイヤ設計装置100は、入力部110と、本体部120と、表示部130とを備えている。この本体部120は、最適化演算部121dと、非線形演算部121eとを備えている。
入力部110は、上記設計変数を含む設計パラメータ及びタイヤの製造条件等と、それらに対応するタイヤ性能の実験データとを複数取得する。本実施形態では、入力部110は、設計パラメータ及びそれに対応するタイヤ性能の実験データとを複数取得する。
非線形演算部121eは、入力部110により取得された設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能の実験データとを含む学習用データを複数用いることにより、設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能とを関係付ける変換系を設定する設定部を構成している。
ここで、変換系とは、設計パラメータ等とそれに対応するタイヤ性能とが1対1に対応するように、変換及び逆変換が可能な変換系そのものである。この変換系は、学習後のニューラルネットワークを数式で表現する場合には、数式及びその係数を含めたものとなる。
また、入力部110は、最大又は最小にすべきタイヤ性能を示す目的関数、目的関数を最大又は最小にする際に制約を与える制約条件、上記設計変数を含む設計パラメータ、タイヤの製造条件、設計パラメータ/製造条件の取り得る範囲、目的関数の最適化方法の選択、及びその選択された方法に必要なパラメータ等を含む最適化項目情報を取得する。この最適化項目情報は、後述する最適化演算部121dにより用いられる。
なお、数理計画法や遺伝的アルゴリズムの最適化手法があるが、本実施形態では、第1実施形態で用いられた数理計画法とニューラルネットワークとを組み合わせた最適化手法を用いるものとする。
最適化演算部121d(設計パラメータ決定部)は、目的関数・制約条件演算部121d−1と、目的関数最適化演算部121d−2とを備えている。目的関数・制約条件演算部121d−1は、非線形演算部121eにより算出された変換系を用いて、最適化項目情報に含まれている設計パラメータ(又は製造条件)(新規の設計変数を含む設計パラメータ)を、タイヤ性能を示す目的関数に変換する。
目的関数最適化演算部121d−2は、目的関数・制約条件演算部121d−1により予測された目的関数が制約条件を満たしながら最適値を与えるものであるか否か判定し、制約条件を満たしつつ目的関数の最適値を与える最終的な設計パラメータが算出されるまで、目的関数・制約条件演算部121d−1に対して目的関数を繰り返し算出させる。
次に、本実施形態における非線形演算部121eの詳細について説明する。非線形演算部121eは、ニューラルネットワークにより構成される変換系により設計パラメータ(又は製造条件等)に対応するタイヤ性能(目的関数)を算出する変換機能と、変換系をより適切にするための学習機能とを備えている。
ここで、非線形演算部121eは、学習機能を備えずに変換機能のみを備えてもよい。すなわち、設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能とが相互に交換可能にであればよい。したがって、設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能との関係が予め外部のニューラルネットワークにより学習され、学習された外部のニューラルネットワークにおける変換係数(設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能とを関係付ける結合係数、又はオフセット値)が本実施形態のニューラルネットワークに適用されてもよい。これにより、外部のニューラルネットワークにおける変換係数が入力可能な構成にすることにより、上記変換機能のみが備えられればよく、上記学習機能が備えられる必要はなくなる。
また、設計パラメータとそれに対応するタイヤ性能との関係を示すテーブルが変換系として構成されてもよい。
図14は、本実施形態における非線形演算部121eの構成を示す図である。図14に示すように、非線形演算部121eは、入力層I、中間層M、出力層U及びオフセットユニット121e−1,121e−2により構成されたニューラルネットワークを備えている。後述する入力層I、中間層M、出力層U、及びオフセットユニット121e−1,121e−2は、シプナスSPにより結合されている。
入力層Iは、設計パラメータを構成する各値を取得する層であり、所定数のニューロンI1,I2,・・・,Ip(p>1)により構成されている。この入力層Uは、入力層Uの入出力関係が線形の神経回路素子で構成されている。
例えば、入力層Iは、トレッドゴムの材質、タイヤ断面形状に沿って配置された各制御点の座標値又はタイヤの製造コストを含む設計パラメータを構成する各値を取得する。なお、入力層Iにおけるニューロンの数は、設計パラメータを構成する各値の数に応じて設定されてもよい。また、入力層Uは、入力をそのまま出力する特性を有する神経回路素子により構成されてもよい。
中間層Mは、入力層Iと出力層Uとを結合する層であり、所定数のニューロンM1,M2,・・・,Mq(q>1)により構成されている。
出力層Uは、入力された設計パラメータに対応するタイヤ性能、すなわち目的関数や制約条件に関係するタイヤ性能を構成する各値を出力する層であり、所定数のニューロンU1,U2,・・・,Ur(r>1)により構成されている。なお、出力層Uにおけるニューロンの数は、タイヤ性能を構成する各値の数に応じて設定されてもよい。
上記中間層M及び出力層Uは、それぞれの層の入出力関係がシグモイド関数からなるシグモイド特性を有する神経回路素子により構成される。このように中間層M及び出力層Uの入出力関係がシグモイド特性を有するように構成されることにより、出力層Uからの値は実値(正の数)となる。
また、中間層M及び出力層Uのそれぞれの出力値yjは、下記の式26及び式27により算出することができる。
すなわち、中間層M及び出力層Uのそれぞれにおいて、入力側のシナプスの個数をpとし、各シナプスの結合の強さに相当する重み(結合係数)をwij(1≦i≦p,1≦j≦N)とし、各入力信号をxiとすると、ニューロン膜電位の平均値に相当する仮想的な内部状態変数uiは、下記の式26により表すことがきる。また、中間層M及び出力層Uのそれぞれの出力値yjは、下記の式27により表すことができる。
但し、bjはオフセットユニット121e−1又は121e−2から供給されるオフセット値である。wijは異なる層のi番目とj番目の間の結合係数である。これにより、設計パラメータを構成する各値が入力層Uに入力されると、その各値に対して結合係数が乗算され、さらにオフセット値が加算されることにより、タイヤ性能を構成する各値が出力される。
オフセットユニット121e−1は、入力層Iからの値を変更するものである。オフセットユニット121e−2は、中間層Mからの値を変更するものである。
上記非線形演算部121eは、学習時において、既存の設計パラメータを構成する各値がニューラルネットワークに入力された場合には、そのニューラルネットワークから出力された値と、当該既存の設計パラメータに対応するタイヤ性能を構成する各値である教師データとを比較し、両者の差分が最小となるように各結合係数及びオフセット値を更新(学習)する。
そして、非線形演算部121eは、学習後において、最適化項目情報に含まれている設計パラメータを構成する各値が入力された場合には、学習されたニューラルネットワークを用いてタイヤ性能を出力する。
このように、学習が行われ、より適切な結合係数が各ニューロンに設定されることにより、各ニューロンからはより適切な値が出力されるため、最適化項目情報に含まれる設計パラメータに関係するより適切なタイヤ性能が出力される。これにより、最終的な設計パラメータがより適切に算出されることとなる。
次に、非線形演算部121eにおけるニューラルネットワークの学習が終了するまでの処理について詳細に説明する(ニューラルネットワーク学習処理)。
図15は、本実施形態におけるニューラルネットワーク学習処理を示す図である。なお、図15に示すニューラルネットワーク学習処理は、後述するS314で実行される。
このニューラルネットワーク学習処理では、設計パラメータを構成する各値とその各値によりタイヤが試作及び評価された後のタイヤ性能を構成する各値とに関する既存データ、又は設計パラメータを構成する各値とその各値に対応するタイヤ基本モデルがコンピュータで解析されることにより得られたタイヤ性能を構成する各値とに関する既存データが用いられる。すなわち、設計パラメータを構成する各値とそれに対応するタイヤ性能を構成する各値とからなる既に収集された既存データがニューラルネットワークの学習に複数用いられる。
本実施形態では、上記複数の既存データのうちの所定数の既存データ(例えば、全体の90%)は、学習データとして用いられる。この学習データは、ニューラルネットワークの学習時に用いられる。
上記複数の既存データのうちの所定数以外の既存データ(例えば、残り10%)は、テストデータとして用いられる。このテストデータは、学習後のニューラルネットワークが最適な学習をしたか否か確認するために用いられる。
以下では、学習データ(又はテストデータ)に含まれている設計パラメータを構成する各値がニューラルネットワークの入力層Iに入力される。ここでは、学習データ(又はテストデータ)に含まれているタイヤ性能を構成する各値が教師データとして用いられる。
そして、当該学習データ(又はテストデータ)に含まれている設計パラメータを構成する各値が入力層Iに入力され、出力層Uから出力された値が上記教師データと比較されて、ニューラルネットワークにおける結合係数が適切に更新されることにより、ニューラルネットワークが学習される。以下、ニューラルネットワークが学習されるまでの処理を詳細に説明する。
図15に示すように、S314−1において、非線形演算部121eは、RAM122に予め記憶された学習データ及びテストデータからなる既存データを複数読み込む。
S314−2において、非線形演算部121eは、ニューラルネットワークに備えられている各結合係数(重み)及びオフセット値を予め定められた初期値に設定する。
S314−3において、非線形演算部121eは、学習データに含まれている設計パラメータを構成する各値を入力層Iに入力させて、出力層Uから出力された値と、当該学習データに含まれている教師データとを比較し、両者の差分である誤差を学習データ毎に算出する。また、非線形演算部121eは、出力層Uから出力された値と教師データとの誤差を用いて誤差逆伝搬法等により、中間層の誤差を算出する。
S314−4において、非線形演算部121eは、S314−3の処理により算出された誤差が最小となるように各結合係数及びオフセット値の少なくとも1つを学習データ毎に更新する。
S314−5において、非線形演算部121eは、更新された各結合係数及びオフセット値により構成されるニューラルネットワークを用いて、テストデータを入力層Iに入力させて、出力層Iから出力された値をテスト結果として出力させる。
S314−6において、非線形演算部121eは、S314−5の処理により出力されたテスト結果が収束条件を満たすか否か判定する。例えば、非線形演算部121eは、S314−5の処理により出力されたテスト結果が所定範囲(収束条件)に属するか否か、又はS314−3乃至S314−6までの繰り返し処理の回数(収束条件)が所定回数に達しているか否か判定する。また、非線形演算部121eは、この判定がYESである場合には本処理を終了し、NOである場合にはS314−3の処理に戻る。
このように、非線形演算部121eは、既知の学習データを複数用いることにより、ニューラルネットワークを構成する各結合係数及びオフセット値をより適切な値に更新(学習)することができる。そして、非線形演算部121eは、最適化項目情報に含まれている設計パラメータが入力された場合には、学習されたニューラルネットワークを用いて、制約条件を満たしつつ、タイヤ性能を示す目的関数に最適値を与える最終的な設計パラメータを算出する(後述する図16参照)。
なお、上記ニューラルネットワーク学習処理は、図16に示す処理前で実行されてもよいし、図16に示す処理中で実行されてもよい。例えば、上記ニューラルネットワーク学習処理が図16に示す処理前に実行される場合には、上記ニューラルネットワーク学習処理において、非線形演算部121eは、ニューラルネットワークを十分に学習させた後に、学習後のニューラルネットワークを構成する各結合係数及びオフセット値をRAM122に記憶させる。そして、図16に示すS314の処理において、非線形演算部121eは、RAM122に記憶された各結合係数及びオフセット値により構成されるニューラルネットワーク(変換系)を用いる。
次に、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作について詳細に説明する。図16は、本実施形態におけるタイヤ設計装置100の動作を示す図である。
図16に示すように、S300において、タイヤ設計装置100は、設計パラメータxi(i=1〜P)、目的関数、制約条件及び最大解析回数を決定する。すなわち、タイヤ設計装置100は、改良すべきタイヤ性能を示す目的関数及びその制約条件を決定し、またその場合、制約条件を満たしつつ目的関数に最適値を与える最終的な設計パラメータを決定するまでの解析回数を決定する。なお、本実施形態では、S300における設計パラメータxiは、後述するS314の処理において既存データとして用いられ、ニューラルネットワークを学習させるために用いられる。また、目的関数OBJ及び制約条件Gは以下の通りである。
目的関数OBJ:転がり抵抗
制約条件G:コーナーリングパワーを初期形状の−3%以上
S302において、タイヤ設計装置100は、S300の処理により決定された設計パラメータxiの許容範囲(xiL≦xi≦xiU;xiLは下限値、xiUは上限値)を設定する。
S304において、タイヤ設計装置100は、解析回数を示すM、及び設計パラメータが何番目であるかを示す変数iを初期化する(M=0,i=1)。
S306において、タイヤ設計装置100は、直交表(又は実験計画法)等を用いることにより、設計パラメータxiの許容範囲に属する各設計変数のうち、変化させる設計変数を決定する。例えば、タイヤ設計装置100は、「Box and Draper;“Empirical Model Building and Response Surfaces”, John Wiley & Sons, NewYork」に記載の方法を用いることにより、設計パラメータxiの許容範囲に属する各設計変数のうち、変化させる設計変数を決定する。
S308において、タイヤ設計装置100は、S306の処理により決定された設計変数を含む設計パラメータxiのそれぞれにより構成されるタイヤ基本モデルをni個設定する。なお、当該設計変数によりタイヤ断面形状が形成されるまでの処理は、上述したS102の処理と同様であり、タイヤ基本モデルniのそれぞれについて実行される。
S310において、タイヤ設計装置100は、ni個のタイヤ基本モデルのそれぞれを用いて、ni個のタイヤ基本モデルの設計パラメータのそれぞれに対応する目的関数の値OBJJ及び制約条件の値GJを算出し、S312において、各設計パラメータと各設計パラメータのそれぞれに対応する目的関数の値OBJJ及び制約条件の値GJとを記憶させる。
S314において、タイヤ設計装置100は、記憶された設計パラメータを構成する各値を学習データとし、その設計パラメータに対応する目的関数の値OBJJ及び制約条件の値GJを構成する各値を教師データとして用いることにより、ニューラルネットワークを学習させる。ここでの処理は、上述した図15に示す処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
S316において、タイヤ設計装置100は、設計パラメータxiに含まれる設計変数を僅かに変化させて、目的関数に対する寄与の少ない設計パラメータxiがあるか否か判定する。この変化される設計変数は、上記S306の処理により決定されている。
例えば、タイヤ設計装置100は、設計パラメータxiに含まれる設計変数を構成する各値を僅かに変化させたときに、出力層から出力された値の変化が小さい場合には、目的関数に対する当該設計パラメータxiの寄与が少ないと判定する。
又は、タイヤ設計装置100は、入力層を構成する少なくとも1つのニューロンから出力された値を0にしたときに、出力層から出力された値の変化が小さい場合には、目的関数に対する当該設計パラメータxiの寄与が少ないと判定する。
また、タイヤ設計装置100は、目的関数に対して寄与の少ない何れかの設計パラメータxiがある場合には、S318の処理に移り、目的関数に対して寄与の少ない何れかの設計パラメータxiがない場合には、S320の処理に移る。
S318において、タイヤ設計装置100は、目的関数に対して寄与の少ない設計パラメータを削除し、残りの設計パラメータを用いて、S314においてニューラルネットワークを再度学習させる。
S320において、タイヤ設計装置100は、学習されたニューラルネットワークを構成する各結合係数及びオフセット値を記憶させる。
S322において、タイヤ設計装置100は、最適化項目情報(図13参照)に含まれている設計パラメータに基づいて、記憶された各結合係数及びオフセット値により構成されるニューラルネットワーク(変換系)を用いることにより、最終的な設計パラメータを算出する。ここでの処理は、後述する図17に示す最適化処理で詳述する。
S324において、タイヤ設計装置100は、M=M+1を算出する。
S326において、タイヤ設計装置100は、S324の処理により算出されたMがM<最大解析回数の関係を満たすか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS328の処理に移り、NOである場合にはS332の処理に移る。
S328において、タイヤ設計装置100は、i=i+1を算出する。
S330において、タイヤ設計装置100は、設計パラメータの許容範囲を再設定してS306の処理に戻る。このタイヤ設計装置100は、下記の式28により、S302の処理により算出された設計パラメータの許容範囲を狭める再設定を行い、狭めた許容範囲に基づいてS306において実験計画を再度行う。このようにしてS306からの処理が繰り返されることにより、S322の処理により算出される設計パラメータxi
OPTがより適切となる。
但し、NNは、設計パラメータの許容範囲を段階的に狭めるための係数であり、1.5から5程度の値に設定されることが望ましい。
S332において、タイヤ設計装置100は、S322の処理において算出された最終的な設計パラメータに基づいてタイヤ断面形状等を決定する。
なお、最大解析回数は、解析にかかる費用及び最終的な設計パラメータを算出するのに必要な時間等によって設定されてもよい。
次に、上述したS322の最適化処理の詳細について説明する。図17は、上述したS322の最適化処理の詳細を示す図である。
図17に示すように、S322−1において、タイヤ設計装置100は、最適化項目情報に含まれている設計パラメータが何番目であるかを示す変数jを初期化する
S322−2において、タイヤ設計装置100は、最適化項目情報に含まれている設計パラメータSjに基づいて、下記の式31により設計パラメータSjの初期値を設定する。
但し、Sj(j=1〜p)は、設計パラメータである。SjL≦Sj≦SjUは、設計パラメータの取り得る範囲である。Munitは、設計パラメータの許容範囲の分割数である。kは、k=0〜Munitであり、S322からの処理が繰り返される度に1づつ増加する。SjL 、SjUは、予め設定されている。
ここで、各設計パラメータである入力値を2次元平面にプロットし、その各設計パラメータに対する目的関数(タイヤ性能)の値を高さ方向にプロットした場合には、3次元空間上で目的関数が多峰性を有することとなる。
このため、設計パラメータの初期値が1つだけしか用いられないと、目的関数の値が局所的な最適解に落ち込むことがある。これにより、本実施形態では、S322−3の処理を繰り返す度に、異なる設計パラメータの初期値を逐次設定しているため、目的関数の値を局所的な最適解に落ち込まないようにし、真の最適解を算出することができる。
S322−4において、タイヤ設計装置100は、S322−2の処理により設定された設計パラメータの初期値をニューラルネットワークの入力層Iに入力させて、タイヤ性能を示す目的関数の初期値及びその制約条件の初期値を出力層Uから出力させる。
S322−5において、タイヤ設計装置100は、設計パラメータSjに含まれている設計変数をΔsj変化させて、S322−6において、設計変数をΔsj変化させた後の目的関数の値OBJj及び制約条件の値Gjを算出する。
S322−7において、タイヤ設計装置100は、下記の式32及び式33により、設計変数の所定変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数感度dOBJ/dsj及び設計変数の所定変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件感度dG/dsjを設計変数毎に演算する。
S322−8において、タイヤ設計装置100は、全ての設計パラメータSjに対して上記S322−6及び上記S322−7の処理を実行したか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS322−12の処理に移り、NOである場合にはS322−6の処理に戻る。
S322−9において、タイヤ設計装置100は、目的関数の初期値OBJ0、制約条件の初期値G0、初期の設計変数を含む設計パラメータ、目的関数感度dOBJ/dsj、及び制約条件感度dG/dsjを用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら現在の目的関数を最小に近づける設計変数の変化量を予測する。
S322−10において、タイヤ設計装置100は、上述したS102の処理を用いて、予測された設計変数の変化量に基づいて設計パラメータを修正する。そして、タイヤ設計装置100は、予測された設計変数の変化量に基づいて、全ての設計パラメータの値を修正した場合には、修正後の設計パラメータのそれぞれに対応する目的関数の値OBJを算出する。
S322−11において、タイヤ設計装置100は、S322−10の処理により算出された目的関数の値OBJが収束しているか否かを設計パラメータ毎に判定する。例えば、S322−10の処理により算出された目的関数の値OBJと、S322−4の処理により算出された目的関数の初期値OBJ0との差分が予め設定された閾値の範囲内である場合には、タイヤ設計装置100は、S322−10の処理により算出された目的関数の値OBJが収束していると判定し、S322−12の処理に移る。
一方、S322−10の処理により算出された目的関数の値OBJと、S322−4の処理により算出された目的関数の初期値OBJ0との差分が予め設定された閾値の範囲内でない場合には、タイヤ設計装置100は、S322−10の処理により算出された目的関数の値OBJが収束していないと判定し、S322−4の処理に移る。なお、S322−11の処理がS322−4の処理に戻る場合(NOが判定された場合)には、S322−10の処理により修正された設計パラメータが初期値として用いられる。
S322−12において、タイヤ設計装置100は、S322−10の処理により修正された設計パラメータを設定する。
S322−13において、タイヤ設計装置100は、S322−3の処理における初期の設計パラメータの設定回数が予め設定された所定数{ここでは(1+Munit)}を超えているか否か判定する。また、タイヤ設計装置100は、この判定がYESである場合にはS322−14の処理に移り、NOである場合にはS322−3の処理に戻り、初期の設計パラメータを変更して同様の処理を繰り返し実行する。
S322−15において、タイヤ設計装置100は、S322−12の処理により設定された各設計パラメータのうち、下記の選択条件に対する一致の度合が最も大きい設計パラメータを最終的な設計パラメータとして選択する。この最終的な設計パラメータは、制約条件を満たしつつ目的関数の最適値を与える設計パラメータとなる。
[選択条件]
(1)目的関数OBJを小さくする設計パラメータ
但し、目的関数が小さければタイヤ性能が良いと判定されるようにする。なお、目的関数が大きければタイヤ性能が良い場合には、マイナス符号を目的関数に付与することにより対応する。
(2)算出された最適解の周りで設計パラメータを少し変更させても目的関数、制約条件が余り変化しないこと
このような本発明の特徴によれば、タイヤ設計装置100が、設計変数とタイヤ性能とを関係付ける変換系を用いているため、タイヤ設計装置100は、設計変数とタイヤ性能とを関係付ける関数型を仮定しなくても、最終的な設計パラメータを適切に決定することができる。
また、タイヤ設計装置100が、既存の設計変数とタイヤ性能とを用いてニューラルネットワークを学習することができるため、タイヤ設計装置100は、任意性の少ない変換系を用いることができ、最終的な設計パラメータを適切に決定することができる。
なお、本実施形態では、数理計画法(S322−4乃至S322−11参照)及びニューラルネットワークによる最適化手法が用いられているが、これに限定されずに、第2実施形態における遺伝的アルゴリズム及び本実施形態におけるニューラルネットワークによる最適化手法が用いられてもよい。
なお、第2実施形態における遺伝的アルゴリズムによる最適化手法、又は第2実施形態における遺伝的アルゴリズム及び本実施形態におけるニューラルネットワークによる最適化手法により、目的関数の大域的な最適値を1次解として算出し、当該1次解を初期値として、数理計画法による最適化手法によりその初期値の近傍で極値を算出してそれを最終解としてもよい。
この場合には、遺伝的アルゴリズムでは集合情報の大きさが有限であっても、最終的な設計パラメータをより真の設計パラメータに近づけることができるとともに、さらにニューラルネットワークでは出力層からの値と教師データの値との誤差をより小さくすることができるため、目的関数の最適値をより適切に算出することができる。
[実験例]
以下に、本発明を実際のタイヤであるPCR225/40R18の設計に適用した例を示す。図18は、本発明により最適化されたタイヤ断面形状を有するタイヤの転がり抵抗及びコーナーリングパワーの実験結果を指数で示すとともに、本発明により最適化されるまでの解析時間を指数で示している。なお、図18に示す転がり抵抗の指数が小さい程、タイヤ性能が良好であることを示している。またコーナーリングパワーの指数が大きい程、タイヤ性能が良好であることを示している。
図18に示すように、第1実施形態乃至第3実施形態のいずれにおいても転がり抵抗の指数が比較タイヤの指数よりも小さく、良好な結果が得られた。また、第1実施形態乃至第3実施形態のいずれにおいてもコーナーリングパワーの指数が比較タイヤの指数と略同等であり、良好な結果が得られたといえる。したがって、本発明を適用することにより、例えば、制約条件の値であるコーナリングパワーの値を適切な値にしつつ、目的関数の値である転がり抵抗の値を最適な値にすることができる。
また、第1実施形態における解析時間は、第2実施形態及び第3実施形態における解析時間に比べて最も短くすることができる。但し、第1実施形態では数理計画法が用いられているため、目的関数の値が局所的な最適解に落ち込み易く、真の最適解が算出され難く、第1実施形態での転がり抵抗は、第2実施形態及び第3実施形態ほど低減できないものの、比較タイヤよりも大幅に低減することができる。
一方、第2実施形態では遺伝的アルゴリズムが用いられ、目的関数の大域的な最適値が算出されるため、第2実施形態での転がり抵抗は、比較タイヤよりも大幅に低減することができる。但し、第2実施形態における解析時間は、第1実施形態及び第3実施形態よりも多くなる。
また、第3実施形態ではニューラルネットワーク(変換系)が用いられているため、第3実施形態での解析時間は、第1実施形態と同様に比較的に短くすることができる。また、学習されたニューラルネットワークが用いられているため、第3実施形態での転がり抵抗は、比較タイヤよりも大幅に低減することができる。
以上、本発明の一例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、各部の具体的構成等は、適宜設計変更可能である。また、各実施形態の構成はそれぞれ組み合わせることが可能である。また、各実施形態の作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、各実施形態に記載されたものに限定されるものではない。