JP2006311852A - スクリーニング方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体内リガンドとGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングする方法の提供。
【解決手段】長鎖脂肪酸および/または被検物質を、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分と接触させる工程を含んでなる、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングするための方法、およびそれらのスクリーニング用キットなどに関する。
GPR83はマウスのWEHI−7TG細胞株にグルココルチコイドを作用させ、誘導される遺伝子として同定されたGPCRである(非特許文献1、非特許文献2)。引き続きヒトおよびラットでもオーソログ遺伝子がクローニングされ(特許文献1〜7、非特許文献3、非特許文献4)、3種類あるタキキニン(Tachykinin)レセプター(NK1、NK2、NK3)に最も高い相同性を示すものの、それらのリガンドとは反応せず、リガンド未知のオーファンGPCRであると分類されている。しかし、近年、スフィンゴシン−1−リン酸(Sphingosine−1−PO)がGPR83を活性化することが報告された(特許文献8)。
GPR83は、ヒト、マウスおよびラットに共通して脳および脊髄に高い発現を示す(非特許文献3、非特許文献5、非特許文献6)。脳では、海馬や扁桃体を含む大脳辺縁系、線条体、視床下部、脊髄に発現しており、このレセプターが、記憶、認知、ストレス、不安、報酬、情緒調節および神経内分泌調節に関わる可能性を示す。脳におけるGPR83は、精神刺激薬のアンフェタミンで発現が上昇することからも、うつ、不安に関連する可能性が示唆されている (非特許文献6)。また、GPR83の脳内での発現部位が、グルココルチコイド typeIIレセプターの発現部位と非常に重なっていることから、グルココルチコイドの中枢作用である睡眠および情緒調節に関与している可能性が考えられる。そこで、GPR83の生体内リガンドを用いたより詳細な機能解明が課題となっている。
脂肪酸は、鎖式炭化水素から水素が1個とれた鎖式炭化水素基に、1個のカルボキシル基(−COOH)が結合したものである。脂肪酸は、グリセリドや複合脂質を含むほとんどすべての脂質の疎水性残基として広く存在し、天然の脂肪酸は大部分が直鎖で、偶数の炭素数をもつ1塩基酸であるが、炭素数が奇数のもの、分岐鎖をもつものもある。天然の脂肪酸は、直鎖の飽和あるいは不飽和脂肪酸に分けられ、不飽和脂肪酸は二重結合の数によってモノ、ジ、トリ、テトラエン酸などに分けられる。長鎖脂肪酸は、生体膜の構成成分としての役割、エネルギー源としての役割、および生理活性シグナル分子としての役割と生命現象に重要な3つの役割を果たしている。
γ−リノレン酸およびアラキドン酸は、生体内で生産されない必須脂肪酸のうち、メチル基から数えて6番目の炭素から不飽和結合が始まるオメガ−6系の多価不飽和脂肪酸に所属する脂肪酸である。オメガ−6系の多価不飽和脂肪酸は、主としてリノール酸として摂取され、生体内では、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸の順に代謝される。さらにアラキドン酸からはエイコサノイドと総称され、産生カスケードによってプロスタグランジン類、ロイコトリエン類、トロンボキサン類と分類される様々な脂質メディエーターが合成される。これらの生理活性は、細胞の分化・増殖、代謝制御、および神経系の活動など多岐にわたっているが、その作用メカニズムには不明な部分が多く残されている。
GPR40のリガンドが飽和・不飽和の中鎖・長鎖脂肪酸であること (非特許文献7〜9)、GPR41とGPR43のリガンドがギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびペンタン酸のような短鎖脂肪酸であることが同定された (非特許文献10、非特許文献11)。GPR40、GPR41およびGPR43は遺伝子として染色体上でクラスターを形成しており、約30%の配列同一性を持つファミリーのオーファンGPCRである(非特許文献12)。ある特定の脂肪酸が一部のGPCRのリガンドであることは前述のとおり報告されているが、GPR83は上記脂肪酸に反応するいずれのレセプターにも相同性を示さないレセプターとして分類されおり(非特許文献4)、特定の脂肪酸がGPR83を活性化することは知られていなかった。
日本国特開平9−278798号公報 国際公開第97/37018号パンフレット 日本国特開2000−083682号公報 国際公開第03/4706号パンフレット 国際公開第03/65044号パンフレット 国際公開第03/73983号パンフレット 国際公開第04/40000号パンフレット 国際公開第01/44439号パンフレット Harrigan et al., Mol Cell Biol 9(8) 3438-3446, 1989 Harrigan et al Mol. Endocrinol. 5(9), 1331-1338, 1991 Pesini et al., Molecular Brain Res 57, 281-300, 1998 Moerlooze et al., Cytogenet Cell Genet 90;146-150, 2000 Brezillon et al., Brain Res 921, 21-30, 2001 Wang et al., J Neurosci 21 (22) 9207-9035, 2001 Briscoe et al., J Biol Chem 278(13), 11303-11311, 2003 Itoh et al., Nature 422(6928), 173-176, 2003 Kotarsky et al., Biochem Biophys Res Commun 301(2), 406-410, 2003 Brown et al., J Biol Chem 278(13), 11312-11319, 2003 Nilsson et al., Biochem Biophys Res Commun 303(4), 1047-1052, 2003 Sawzdargo et al., Biochem Biophys Res Commun 239, 543-547, 1997
本発明は、生体内リガンドとGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングする方法、およびそれらのスクリーニング用キットなどを提供することを目的とする。
本発明者らは、長鎖脂肪酸の一種であるアラキドン酸およびγ−リノレン酸がGPR83のリガンドであることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明によれば、長鎖脂肪酸および/または被検物質を、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分と接触させる工程を含んでなる、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物のスクリーニング方法が提供される。
本発明によればまた、長鎖脂肪酸と、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分とを少なくとも含んでなる、スクリーニング用キットが提供される。
長鎖脂肪酸
本発明のスクリーニング方法に使用するGPR83のリガンドとしては、長鎖脂肪酸を使用できる。「長鎖脂肪酸」とは炭素数11以上の飽和または不飽和の脂肪酸を意味する。長鎖脂肪酸としては、後述の実施例でGPR83を活性化することが明らかとなったアラキドン酸およびγ−リノレン酸を使用するとよい。アラキドン酸およびγ−リノレン酸は、公知の長鎖脂肪酸であるため、当業者であれば容易に入手することができる。例えば、アラキドン酸またはγ−リノレン酸を含む生物から、常法に従って、抽出または精製の工程を経て調製することができる。また、アラキドン酸またはγ−リノレン酸は、その市販品を購入して、使用することができ、例えばSIGMA社製を用いるとよい。アラキドン酸やγ−リノレン酸以外の長鎖脂肪酸も同様にして入手することができる。
GPR83
本発明のスクリーニング方法に使用するGPR83は、アラキドン酸またはγ−リノレン酸による活性化作用、あるいはアラキドン酸またはγ−リノレン酸と結合活性を有し、GPR83発現細胞の細胞刺激活性(例えば細胞内のCa2+の遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性、アラキドン酸遊離など)を有するものであれば、その起源は特に限定されず、例えばGPR83を発現する臓器、組織、細胞などの天然由来のもの、公知の遺伝子工学的手法、合成法などにより人為的に調製したものも包含される。また、GPR83の部分ポリペプチドとして後述のスクリーニング方法に使用可能であれば特に限定されず、例えばアラキドン酸またはγ−リノレン酸による活性化作用、あるいはアラキドン酸またはγ−リノレン酸に対する結合能を有する部分ポリペプチド、細胞膜外領域に相当するアミノ酸配列を含む部分ポリペプチドなども使用することもできる。
具体的には、本発明のスクリーニング方法に使用するGPR83は、GPR83[GPR83(GenBankアクセッション番号NP_057624(ヒト型)、NP_034417.1(マウス型)、NP_536336.1(ラット型))、GPR72、RP−23とも称されている]と称されているポリペプチドである。具体的には、GPR83は、(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと機能的に等価な改変ポリペプチド、(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相同ポリペプチド、(iv)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;および(v)配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有し、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが含まれる。本発明に使用するGPR83としては、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」が好ましい。なお、前記ポリペプチドには、ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。
ここで、機能的に等価な改変ポリペプチド(以下、「改変ポリペプチド」と称する)とは、そのアミノ酸配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であって、しかもGPR83と実質的に同じ活性[例えばアラキドン酸やγ−リノレン酸などの長鎖脂肪酸による活性化作用、あるいはアラキドン酸やγ−リノレン酸などの長鎖脂肪酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性(例えば細胞内のCa2+の遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性、アラキドン酸遊離など)]を有するポリペプチドを意味する。改変ポリペプチドは、好ましくは、そのアミノ酸配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて1または複数個(好ましくは1または数個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であって、しかもGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチドであることができる。
本願明細書において「保存的置換」とは、ペプチドの活性を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
ここで、欠失、置換、挿入および/または付加されてもよいアミノ酸の数は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個である。なお、前記改変ポリペプチドには、改変ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。従って、これらの条件を満たす限り、前記改変ポリペプチドの起源は、ヒトに限定されない。
改変ポリペプチドの例としては、ヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]由来のGPR83もしくはその変異体が挙げられる。具体的には配列番号4で表されるアミノ酸配列(マウス由来)や、配列番号6で表されるアミノ酸配列(ラット由来)からなるポリペプチドが挙げられる。
上述の相同ポリペプチドとは、GPR83のアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる限り、特に限定されるものではないが、GPR83に関して、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸配列であって、しかもGPR83と実質的に同じ活性(例えばアラキドン酸またはγ−リノレン酸による活性化作用、あるいはアラキドン酸またはγ−リノレン酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性)を有するポリペプチドを意味する。
本願明細書において、「同一性」の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えば全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。なお、前記相同ポリペプチドには、相同ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。従って、これらの条件を満たす限り、前記相同ポリペプチドの起源は、ヒトに限定されない。例えばヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]由来のGPR83もしくはその変異体が含まれる。具体的には配列番号4、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
なお、変異体とは、「variation」、すなわち、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
さらに、本発明に使用するGPR83(すなわち、GPR83、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)の部分ポリペプチドも、GPR83と実質的に同じ活性(例えばアラキドン酸またはγ−リノレン酸による活性化作用、あるいはアラキドン酸またはγ−リノレン酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性、細胞膜外領域に相当するアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド)を有する限り使用することができる。この場合、部分ポリヌクレオチドを構成するアミノ酸数は、GPR83のアミノ酸数の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%または5%である。
本発明に使用するGPR83をコードするポリペプチドとしては、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」が好ましい。また、配列番号4、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
GPR83の調製方法
これら本発明に使用するGPR83(すなわち、GPR83、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)およびその部分ポリペプチドは、種々の公知の方法、例えば遺伝子工学的手法、合成法などによって得ることができる。具体的には、遺伝子工学的手法の場合、GPR83またはその部分ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当な宿主細胞に導入し、得られた形質転換体から発現可能な条件下で培養し、発現タンパク質の分離および精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から所望のポリペプチドを分離および精製することによって調製することができる。前記の分離および精製方法としては、例えば硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、または凍結乾燥などを挙げることができる。また、合成法の場合は、液相法、固相法など常法に従い合成することが可能であり、通常、自動合成機を利用することができる。化学修飾物の合成は常法により行なうことができる。また、適当なタンパク質分解酵素で切断することによって所望の部分ポリペプチドを調製することができる。
以下、本発明に使用するGPR83の調製方法のうち、遺伝子工学的手法について詳述するが、その部分ポリペプチドについても、後述のスクリーニング方法に使用可能であれば特に限定されない。
GPR83をコードするポリヌクレオチド
本発明に使用するGPR83(すなわち、GPR83、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドは、前記GPR83、前記改変ポリペプチド、前記相同ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではない。
なお、本願明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNAおよびRNAの両方が含まれる。本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドには、具体的には下記の(a)〜(f)からなる群より選択されるものが挙げられる。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;
(b)「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(c)「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(d)「配列番号2で表されるアミノ酸配列の1または複数個(好ましくは1または数個)の箇所において、1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;および
(f)配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有し、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド
に関する。
本発明の一つの態様によれば、本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列の1または複数個(好ましくは1または数個)の箇所において、1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードしてなるものである。ここで、欠失、置換、挿入および/または付加されてもよいアミノ酸の数は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個である。
本発明の別の一つの態様によれば、本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドは、「配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR83と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードしてなるものである。具体的には配列番号3、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
本願明細書において、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドとは、具体的には、FASTA、BLAST、Smith−Waterman〔Meth. Enzym., 164, 765 (1988)〕などの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルト(初期設定)のパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。また、「ストリンジェントな条件下」とは、当業者が通常使用し得るハイブリダイゼーション緩衝液中で、温度が40℃〜70℃、好ましくは60℃〜65℃などで反応を行い、塩濃度が15〜300mmol/L、好ましくは15〜60mmol/Lなどの洗浄液中で洗浄する方法に従って行なうことができる。温度、塩濃度は使用するプローブの長さに応じて適宜調整することが可能である。
本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドは、例えば天然由来のものであることもできるし、または全合成したものであることもできる。さらには、天然由来のものの一部を利用して合成を行なったものであることもできる。本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドの典型的な取得方法としては、例えば市販のライブラリーまたはcDNAライブラリーから、遺伝子工学の分野で慣用されている方法、例えば部分アミノ酸配列(例えば配列番号2で表されるアミノ酸配列)の情報を基にして作成した適当なDNAプローブを用いてスクリーニングを行なう方法などを挙げることができる。
本発明に使用するGPR83をコードするポリヌクレオチドとしては、「配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド」が好ましい。配列番号1で表される塩基配列は、1番目〜3番目のATGで始まり、1270番目〜1272番目のTAGで終了するオープンリーディングフレームを有する。また、配列番号3、配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
プラスミド
前記形質転換に使用されるプラスミドは、上記のようなGPR83をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、当該ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるプラスミドを挙げることができる。
形質転換体
また、前記形質転換体も、上記のようなGPR83をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば当該ポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、当該ポリヌクレオチドを含むプラスミドの形で含有する形質転換体であることもできるし、あるいは、GPR83を発現していない形質転換体であることもできる。当該形質転換体は、例えば前記プラスミドにより、あるいは、前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
前記宿主細胞としては、例えば通常使用される公知の微生物、例えば大腸菌(例えばEscherichia coli JM109株)または酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae W303株)、あるいは、公知の培養細胞、例えば動物細胞(例えばCHO細胞、HEK−293細胞、またはCOS細胞)または昆虫細胞(例えばBmN4細胞)を挙げることができる。
また、公知の前記発現ベクターとしては、例えば大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、またはpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLYまたはpYES2を;CHO細胞、HEK−293細胞およびCOS細胞に対しては、pcDNA3、pMAMneoまたはpBabe Puroを;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(例えばpBK283)を挙げることができる。
GPR83を含有する細胞は、GPR83を細胞膜表面に発現している限り、特に限定されるものではなく、例えば前記形質転換体(すなわち、GPR83をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで形質転換された細胞)を、GPR83の発現が可能な条件下で培養することにより得ることもできるし、あるいは、適当な細胞に、GPR83をコードするRNAを注入し、GPR83の発現が可能な条件下で培養することにより得ることもできる。
細胞膜画分
また、GPR83を含有する本発明に使用する細胞膜画分は、例えば前記のGPR83を発現する細胞を破砕した後、細胞膜が多く含まれる画分を分離することにより得ることができる。細胞の破砕方法としては、例えばホモジナイザー(例えばPotter−Elvehiem型ホモジナイザー)で細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーまたはポリトロン(Kinematica社)による破砕、超音波による破砕、あるいは、フレンチプレスなどで加圧しながら細いノズルから細胞を噴出させることによる破砕などを挙げることができる。また、細胞膜の分画方法としては、例えば遠心力による分画法、例えば分画遠心分離法または密度勾配遠心分離法を挙げることができる。
スクリーニング方法
本発明によるスクリーニング方法の第一の態様によれば、被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への長鎖脂肪酸の結合量を測定する工程を含んでなるスクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング方法では、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに被検化合物をスクリーニングすることができる。すなわち、第一の態様のスクリーニング方法では、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングすることができ、具体的には、長鎖脂肪酸のGPR83への結合性を変化させる化合物を、より具体的には、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を有する化合物を、スクリーニングすることができる。
具体的には、被検物質非存在下および被検物質存在下の各条件下において、GPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分と、標識したリガンド(すなわち、アラキドン酸またはγ−リノレン酸のような長鎖脂肪酸)とを接触させ、前記条件下におけるGPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量を比較することにより、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに化合物をスクリーニングすることができる。すなわち、被検物質非存在下におけるGPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量に対して、被検物質存在下における前記特異的結合量が低下する場合には、その被検物質は、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物であると、具体的には、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を有する化合物であると、より具体的には、GPR83アゴニストあるいはGPR83アンタゴニストであると、決定することができる。
本発明のスクリーニング方法において、GPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量を比較する場合には、前記リガンドとして、標識した前記リガンドを用いることができる。前記標識としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、[3H]、[14C]、[125I]、[35S]などを用いることができる。前記酵素としては、例えばβ−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼなどを用いることができる。蛍光物質としては、例えばフルオレセイソチオシアネート、BODIPYなどを用いることができる。発光物質としてはルシフェリン、ルシゲニンなどを用いることができる。場合によっては、前記リガンドと標識物質を結合させるためにビオチン−アビジンの系を用いることもできる。
このように、本発明のスクリーニング方法において、GPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分に結合して、これらと前記リガンドとの結合を阻害する化合物を、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずにスクリーニングすることができる。
本発明によるスクリーニング方法の第二の態様によれば、被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、細胞刺激活性を測定する工程を含んでなるスクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング法では、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して被検化合物をスクリーニングすることができる。すなわち、第二の態様のスクリーニング方法では、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングすることができ、具体的には、GPR83の活性化に影響を与える化合物を、より具体的には、GPR83の機能を促進する化合物(アゴニスト)あるいはGPR83の機能を阻害する化合物(アンタゴニスト)を、スクリーニングすることができる。
具体的には、被検物質非存在下および被検物質存在下の各条件下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、前記条件下における細胞刺激活性を比較することにより、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して化合物をスクリーニングすることができる。すなわち、被検物質非存在下における細胞刺激活性に対して、被検物質存在下における細胞刺激活性が上昇する場合には、その被検物質は、GPR83の機能を促進する化合物(GPRアゴニスト)と決定することができる。被検物質非存在下における細胞刺激活性に対して、被検物質存在下における細胞刺激活性が低下する場合には、その被検物質は、GPR83の機能を阻害する化合物(GPR83アンタゴニスト)と決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法の第三の態様によれば、
被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への長鎖脂肪酸の結合量を測定し、長鎖脂肪酸のGPR83への結合性を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を決定する工程と、
前記工程において決定された化合物の存在下および非存在下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、細胞刺激活性を測定し、GPR83の活性化に影響を与える化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を決定する工程
とを含んでなる、スクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング法では、長鎖脂肪酸のGPR83への結合性を変化させる化合物を絞り込んだ上で、細胞刺激活性の測定を行い、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して被検化合物をスクリーニングできる点で有利である。すなわち、第三の態様のスクリーニング方法では、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物をスクリーニングすることができ、具体的には、GPR83の活性化に影響を与える化合物を、より具体的には、GPR83の機能を促進する化合物(アゴニスト)あるいはGPR83の機能を阻害する化合物(アンタゴニスト)を、スクリーニングすることができる。
具体的には、まず、被検物質非存在下および被検物質存在下の各条件下において、GPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分と、標識したリガンドとを接触させ、前記条件下におけるGPR83または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量を比較することにより、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに化合物をスクリーニングする。次いで、前記スクリーニングにおいて特定された被検物質の非存在下および存在下の各条件下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、前記条件下における細胞刺激活性を比較することにより、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して化合物をスクリーニングする。すなわち、被検物質非存在下における細胞刺激活性に対して、被検物質存在下における細胞刺激活性が上昇する場合には、その被検物質は、GPR83の機能を促進する化合物(GPR83アゴニスト)と決定することができる。被検物質非存在下における細胞刺激活性に対して、被検物質存在下における細胞刺激活性が低下する場合には、その被検物質は、GPR83の機能を阻害する化合物(GPR83アンタゴニスト)と決定することができる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法では、細胞刺激活性として、例えば、細胞内のカルシウムの遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性、アラキドン酸遊離などを測定することができ、好ましくは、アデニル酸シクラーゼの活性化や細胞内Ca2+濃度の上昇を測定することができる。
これらの態様のスクリーニング方法においては、例えばアデニル酸シクラーゼの活性化によって細胞内に生成するcAMP、あるいはホスホリパーゼCの活性化によって上昇する細胞内カルシウム濃度を公知の手法で測定すればよく、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して化合物をスクリーニングすることができる。この態様は、GPR83に前記リガンドが結合することにより生じる細胞内シグナル伝達、すなわち、GPR83の細胞刺激活性の一つであるアデニル酸シクラーゼの活性促進および細胞内カルシウム濃度の上昇作用を利用するものである。具体的には、GPR83に前記リガンドが結合すると、GPR83に共役しているGタンパク質ファミリーの一つであるGsファミリーが、アデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内に生成されるサイクリックAMP(cAMP:アデニル酸シクラーゼによりATPから生成される)量を増加させることによる。およびGqファミリーが、細胞内Ca2+濃度を上昇させることによる。
例えばGPR83を細胞膜上に発現(好ましくは、GPR83を含む発現ベクターを導入し過剰に発現)した哺乳動物由来細胞(例えばHEK−293細胞もしくはCHO細胞)にGPR83の前記リガンドを添加すると、細胞内のcAMPの濃度が上昇、および細胞内Ca2+濃度が上昇する。
GPR83の機能を促進する化合物をスクリーニングする場合には、このスクリーニング系でGPR83を介する前記リガンドに代わり、被検物質を単独で接触させて細胞内のcAMPの濃度が上昇する、および細胞内Ca2+濃度が上昇する(すなわち前記リガンドと同様の作用を有する)化合物を選択すると良い。
GPR83の機能を阻害する化合物をスクリーニングする場合には、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、GPR83の前記リガンド、および被検物質をスクリーニング用細胞に添加するとよい。アデニル酸シクラーゼ活性化剤を単独で添加した場合に比べて、前記リガンドの作用でcAMPの生成量が増加するが、被検物質が前記リガンドの作用に拮抗する場合には、cAMP生成量を抑制する。このときには、前記被検物質はGPR83の機能を阻害する化合物として選択できる。
細胞内cAMP量を測定する方法としては、例えばイムノアッセイなどが挙げられるが、市販のcAMP定量キットを使用することもできる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法においては、また、GPR83を細胞膜上に発現(好ましくは、GPR83を含む発現ベクターを導入し過剰に発現)し、しかも、cAMP応答配列(CRE)が5’上流に位置するレポーター遺伝子(例えばアルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、ベータラクタマーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ベータガラクトシダーゼ遺伝子など、またはGFP(Green Fluorescent Protein)などの蛍光タンパク質遺伝子など)を含有する細胞(以下、「スクリーニング用細胞」と称することもある)を用いることにより、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して化合物をスクリーニングすることができる。この場合は、前述のcAMPの生成が増加するとその結果、前記スクリーニング用細胞に導入されているCREをプロモーター領域に有するレポーター遺伝子の転写が促進されることを利用している。
以下、前記態様による、GPR83の機能を促進もしくは阻害する能力を区別して化合物をスクリーニングする手順について、より具体的に説明する。
すなわち、前記スクリーニング用細胞に導入されているCREは、細胞内のcAMPの濃度が上昇すると発現が亢進する遺伝子群(cAMP誘導性遺伝子)の転写調節領域に共通して存在する塩基配列である。従って、アデニル酸シクラーゼの活性化剤(例えばFSK)をスクリーニング用細胞に添加すると、細胞内のcAMPの濃度が上昇し、その結果、CREの下流に位置するレポーター遺伝子の発現量が増加する。さらにこのレポーター遺伝子は、細胞内Ca2+濃度の上昇によるシグナル伝達系によっても発現量が増加する。レポーター遺伝子産物の発現量は、レポーター遺伝子産物と反応し基質から生成した発光物質の量に由来する発光を測定することによりもしくはレポーター遺伝子として産生された蛍光タンパク質由来の蛍光を測定することで容易に測定することが可能である。
また、GPR83の前記リガンドを加えると、アデニル酸シクラーゼ活性促進に加え、細胞内Ca2+濃度が上昇し、結果として、レポーター遺伝子産物の発現量が増加する。従って、GPR83の機能を促進する化合物をスクリーニングする場合には、このスクリーニング系で、GPR83を介する前記リガンドに代わり被検物質を単独で接触させてレポーター遺伝子産物の発現量を上昇させる(すなわち前記リガンドと同様の作用を有する)化合物を選択すると良い。
GPR83の機能を阻害する化合物をスクリーニングする場合には、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、GPR83の前記リガンド、および被検物質をスクリーニング用細胞に添加するとよい。アデニル酸シクラーゼ活性化剤を単独で添加した場合に比べて、前記リガンドの作用でレポーター遺伝子産物の発現量は上昇するが、被検物質が前記リガンドの作用に拮抗する場合には、レポーター遺伝子産物の発現を抑制する。このときには、前記被検物質はGPR83の機能を阻害する化合物として選択できる。
被検物質による作用が、GPR83に対する結合を介した作用であるか否かは、簡単に確認することができる。例えばスクリーニング用細胞(すなわち、GPR83を細胞膜上に発現し、しかも、CREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有する細胞)を用いた前記試験と並行して、コントロール用細胞(例えばCREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有するものの、GPR83を細胞膜上に発現していない細胞)を用いて同様の試験を実施する。その結果、前記被検物質による作用が、GPR83に対する結合による作用でない場合には、スクリーニング用細胞およびコントロール用細胞でレポーター遺伝子産物の発現量に関して同じ現象が観察されるのに対して、前記被検物質による作用が、GPR83に対する結合による作用である場合には、スクリーニング用細胞とコントロール用細胞とでレポーター遺伝子産物の発現量に関して異なる現象が観察される。
また、別の態様として、GPR83は、精神刺激薬のアンフェタミンで発現が上昇することからも、うつ、不安に関連する可能性が示唆されていることから、本発明のスクリーニング方法により得られる化合物(すなわち、アラキドン酸またはγ−リノレン酸によるGPR83の活性化に影響を与える化合物、あるいはアラキドン酸またはγ−リノレン酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物)をヒトまたはヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばウシ、サル、トリ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]に投与し、投与後の自発運動などの指標を解析することにより中枢神経系疾患、例えば注意欠陥多動性傷害、統合失調症、うつ病または不安などに影響を与える化合物であるか否かを確認および決定することができる。上記哺乳動物としては、正常の動物に限らず、遺伝性の病態モデル動物や遺伝子改変動物でもよい。被検物質の投与形態としては経口的または非経口的に投与する。非経口的な投与経路の様態としては、例えば静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、気道内、直腸内、脳内、好ましくは視床下部近傍の脳室内投与が挙げられる。スクリーニングなどの指標としては、例えばオープンフィールド試験、明暗試験、高架式十字迷路試験、Holo−board試験、Marble burying試験、Defensive burying試験、強制水泳試験、tail suspension試験、恐怖条件付けストレス試験、Y迷路試験などを行うことも有効である。被検物質の投与回数は1日あたり一回でも数回に分けても良く、被検物質を投与する期間や観察する期間は1日から数週間にわたってもよい。
本発明に使用する被検物質はどのような化合物であってもよいが、例えば遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、核酸(オリゴDNA、オリゴRNA)、合成ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを挙げることができる。
GPR83は、精神刺激薬のアンフェタミンで発現が上昇することからも、うつ、不安に関連する可能性が示唆されていることから、本発明のスクリーニング方法により得られるアラキドン酸またはγ−リノレン酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物は、中枢神経系疾患、例えば注意欠陥多動性障害、統合失調症、うつ病、不安などの治療用の医薬として用いることができる(Wang et al., J Neurosci 21 (22) 9207-9035, 2001)。
スクリーニング用キット
本発明のスクリーニング用キットは、リガンド(すなわち、アラキドン酸またはγ−リノレン酸などの長鎖脂肪酸)、およびGPR83または前記細胞(すなわち、GPR83を含有する細胞)もしくは前記細胞膜画分(すなわち、GPR83を含有する細胞膜画分)とを少なくとも含んでなる。前記リガンドは、標識した前記リガンドであってもよい。前記スクリーニング用キットは、所望により、本発明によるスクリーニング方法を実施するための種々の試薬、例えば結合反応用緩衝液、洗浄用緩衝液、説明書、および/または器具などをさらに含むことができる。
本発明の別の態様のスクリーニング用キットは、リガンド(すなわち、アラキドン酸またはγ−リノレン酸などの長鎖脂肪酸)、およびGPR83を細胞膜上に発現(好ましくは、GPR83を含む発現ベクターを導入して過剰に発現)し、しかも、cAMP応答配列(CRE)が5’上流に位置するレポーター遺伝子(例えば、アルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)を含有する細胞とを少なくとも含有する。前記リガンドは、標識した前記リガンドであってもよい。前記スクリーニング用キットは、所望により、種々の試薬、例えばレポーター遺伝子産物(例えば、アルカリフォスファターゼもしくはルシフェラーゼなど)の基質、アデニル酸シクラーゼ活性化剤(例えばFSK)、結合反応用緩衝液、洗浄用緩衝液、説明書、および/または器具などをさらに含むことができる。また、前記スクリーニング用キットは、CREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有するものの、GPR83を細胞膜上に発現していない細胞を含んでいてもよい。
本発明のスクリーニング方法により得られる化合物を含有する医薬
GPR83は、ヒト、マウスおよびラットに共通して脳および脊髄に高い発現を示す(Pesini et al., Molecular Brain Res 57, 281-300, 1998、Brezillon et al., Brain Res 921, 21-30, 2001、Wang et al., J Neurosci 21 (22) 9207-9035, 2001)。脳では、海馬や扁桃体を含む大脳辺縁系、線条体、視床下部、脊髄に発現しており、このレセプターが、記憶、認知、ストレス、不安、報酬、情緒調節および神経内分泌調節に関わる可能性を示す。脳におけるGPR83は、精神刺激薬のアンフェタミンで発現が上昇することからも、うつ、不安に関連する可能性が示唆されている (Wang et al., J Neurosci 21 (22) 9207-9035, 2001)。また、GPR83の脳内での発現部位が、グルココルチコイド typeIIレセプターの発現部位と非常に重なっていることから、グルココルチコイドの中枢作用である睡眠および情緒調節に関与している可能性が考えられる。
従って、本発明のスクリーニング方法により得られる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物は、中枢神経系疾患の治療の医薬として用いることができる。前記の中枢神経系疾患は、例えば注意欠陥多動性障害、統合失調症、うつ病、不安などが挙げられる。
本発明のスクリーニング方法により得られる化合物は、中枢神経系疾患の治療に有効な化合物である。当該化合物は塩を形成してもよく、さらに当該化合物およびその塩は溶媒和物(例えば、水和物、アルコール和物、エーテル和物)を形成していてもよい。
本願明細書において「塩」とは、薬学的に許容される塩を示し、本発明のスクリーニング方法により得られる化合物と薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば好ましくはハロゲン化水素酸塩(例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(例えば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えばマグネシウム塩、カルシウム塩など)などが挙げられる。
本発明のスクリーニング方法により得られる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また、かかる薬剤は、ヒトまたはヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばウシ、サル、トリ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]に、種々の形態、経口または非経口(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。従って、本発明のスクリーニング方法により得られる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を含有する医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とされ、具体的には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤などによる経口剤、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤などによる非経口剤を挙げることができる。これらの製剤は通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを用いて常法により製造することができる。使用可能な無毒性の上記添加剤としては、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、またはその塩、エタノール、クエン酸、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
それらの投与形態としては、また、必要な投与量範囲は、本発明のスクリーニング方法により得られる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物の選択、投与対象、投与経路、製剤の性質、患者の状態、そして医師の判断に左右される。しかし、適当な投与量は患者の体重1kgあたり例えば約1.0〜1,500μg、好ましくは約10〜500μg程度を投与するのが好ましい範囲である。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することができる。
本明細書において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾病および/または症状を完全にまたは部分的に防止する点では予防的であり、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点では治療的である。本明細書において「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、例えば以下の(a)〜(c)の治療を含む:
(a)疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを予防すること;
(b)疾病症状を阻害する、即ち、その進行を阻止または遅延すること;
(c)疾病症状を緩和すること、即ち、疾病または症状の後退、または症状の進行の逆転を引き起こすこと。
本発明は、
(1)アラキドン酸またはγ−リノレン酸、および被検物質を、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分に接触させることを特徴とするアラキドン酸またはγ−リノレン酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物のスクリーニング方法、
(2)GPR83を介した細胞刺激活性を測定することを特徴とする前記(1)記載のスクリーニング方法、
(3)GPR83が、配列番号2、4もしくは6で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその部分ポリペプチドであることを特徴とする前記(1)記載のスクリーニング方法。
(4)アラキドン酸またはγ−リノレン酸、およびGPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分とを少なくとも含有することを特徴とするスクリーニング用キット、
(5)GPR83が、配列番号2、4もしくは6で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその部分ポリペプチドであることを特徴とする前記(4)記載のスクリーニング用キット、
などにも関する。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、実施例により本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
[実施例1]GPR83をコードするポリヌクレオチドの調製
GPR83をコードするポリヌクレオチドの単離は、配列番号1で表される核酸配列を基にして、以下のように行った。配列番号1では1272塩基対が示されており、GPR83をコードする領域は、1番目から1269番目(1269塩基対,423アミノ酸残基)とされている(GenBank アクセッション番号NM_016568)。PCR(polymerase chain reaction)により遺伝子を単離するために、配列番号7および配列番号8で表されるPCRプライマーを常法に従い作製した。
QUICK−Clone cDNA (human brain、Clontech社)を鋳型として、配列番号7および配列番号8の組合せからなるPCRプライマーと、Expand High Fidelity PCR システム(Roche Diagnostics社)を用い、添付の操作方法に従い、98℃1分、57℃1分、72℃3分のサイクルを35回繰り返すことによりPCRを行った。その結果、約1,300塩基対のDNA断片を得た。
このDNA断片を、pCR2.1(Invitrogen社)に挿入し、ABI prism DNA sequencing kit(Perkin−Elmer Applied Biosystems社)により配列を確認した。その結果、配列番号7および8からなるプライマーの組合せによって得られたpCR2.1−GPR83に挿入された1272塩基対の配列は、配列番号1における1番目から1272番目と長さは同一であり、配列中には2塩基の変異が見られたが、これらの変異は、該当部位の核酸配列から翻訳されるアミノ酸には影響を与えないことが明らかであったので、GPR83をコードするポリヌクレオチドを得ることができた。
[実施例2]レトロウイルスベクタープラスミドの調製
pBabe Puro(Morgenstern, J.P. and Land, H. Nucleic Acids Res. vol.18 3587−3596(1990))(配列番号9)からSalIおよびClaIで切断することによりSV40 promoter−puro(r)領域を除き、末端をクレノー断片により平滑化した。ここへpIREShyg(Clontech社)からNsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−hyg(r)領域を切り出し、T4ポリメラーゼにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeXIHを得た。
pBabeXIHからSspIおよびBamHIで切断することにより5’−LTR−packaging signalを除いた。ここへpCLXSN(IMGENEX社)からSspIおよびBamHIで切断することにより切り出した5’LTR−CMV promoter−packaging signalを挿入しpBabeCLXIHを得た。
[実施例3]GPR83遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドの調製
前記実施例2に記載のレトロウイルス発現用プラスミドpBabeCLXIHを制限酵素HpaIで切断した。ここへ前記実施例1で得たpCR2.1−GPR83からEcoRIで切断することによりGPR83をコードするポリヌクレオチドを切り出し、T4ポリメラーゼにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(GPR83)IHを得た(図1)。
[実施例4]GPR83遺伝子導入用レトロウイルスベクターの調製
2×106個の293−EBNA細胞(Invitrogen社)を10cmコラーゲンコートディッシュ(IWAKI社)でDMEM(Sigma社)−10%ウシ胎児血清(FCS)−ペニシリン(penicillin、100units/ml) ストレプトマイシン(streptomycin、100μg/ml)(PS)(以下、「EBNA培養液」と称する)10mlを用いて培養した。翌日、pV−gp(pVPack−GP(Stratagene社)からNsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−hisDを除きT4ポリメラーゼによる平滑化後、自己環化したもの)、pVPack−VSV−G(Stratagene社)、および実施例3で得たGPR83遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(GPR83)IH)それぞれ3.3μgをリポフェクション試薬であるTransIT(Panvera社)を用いて、前記293−EBNA細胞にトランスフェクションした。その6〜12時間後にEBNA培養液を交換し、37℃で培養を続けた。
トランスフェクション2日後に培養液を回収し、1,200×gで10分間遠心した。
その上清を0.45μmのフィルター(Millipore社)でろ過したものを非濃縮レトロウイルスベクターとして、さらにウイルスベクターの濃縮を以下のように行った。
超遠心用チューブ50 Ultra−Clear Tubes(Beckman社)を70%エタノールで消毒後に蒸留水ですすぎ、ここへ非濃縮ウイルスベクター約35mlを入れた。これを超遠心ローターSW28(Beckman社)に入れ、超遠心装置XL−90(Beckman社)を使って19,500rpm 100分間の遠心操作を行った。遠心後、上清を捨てたチューブを氷に入れて放置した。1時間後、チューブ壁面に残った培養液約100μl程度の濃縮ウイルスベクター溶液が得られた。
[実施例5]サイクリックAMP応答配列を含むレポーター系導入細胞SE302の構築(1)サイクリックAMP応答配列を含むレポーターDNAの作成
Durocher et al. Anal Biochem 2000 284(2):316−26 の記載に従って、cAMPに応じた転写がみられるユニットを以下のように構築した。
cAMP responsive element(CRE)を含むユニットの作成のために、CREx2hb用として配列番号10および配列番号11、CREx2bp用として配列番号12および配列番号13で表されるオリゴDNAを常法に従い作成した。
それぞれの組合せからなるオリゴDNAを95℃に熱処理後、徐々に温度を室温まで下げることにより二本鎖DNA(CREx2hb、CREx2bp)を形成させた。CREx2hbをHindIII,BamHI、CREx2bpをBamHI,PstIで消化するとともに、pBluescriptIISK(+)(Stratagene社)をHindIII,PstIで消化した。消化したDNAを電気泳動して両端に制限酵素消化部位をもつDNAを精製した後、これら3つのDNA(CREx2hb、CREx2bp、pBluescriptIISK(+))を一度に連結し(ligation)、得られたプラスミドの配列を解析して、CRE4/pBluescriptIISKを作成した。
次にVIP(vasoactive intestinal peptide)プロモーターを含むDNAを得るために配列番号14および配列番号15で表されるPCRプライマーを常法に従い作成した。
ヒトゲノムDNA(Roche Diagostics社)を鋳型とし、配列番号14および配列番号15の組合せからなるPCRプライマーと、組換えTaqポリメラーゼ(Takara社)を用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃1分のサイクルを35回繰り返すことによりPCRしたところ、264塩基対のDNA(配列番号16)が得られた。この264塩基対のDNAをPstIで消化するとともにCRE4/pBluescriptIISK(+)のPstIサイトに挿入し、得られたプラスミドの配列を確認してCRE4VIP/pBluescriptIISK(+)を作成した(図2)。得られたCRE4VIP/pBluescriptIISK(+)からHindIIIとSmaIで消化した後、得られたCRE4VIPプロモーター断片の末端平滑化を行った。
前述の発現用ウイルスベクタープラスミドpBabeCLXIHよりIRES〜hygro(r)領域を除去したpBabeCLXを作成した(図3)。pBabeCLXよりレトロウイルス本来のエンハンサー活性(LTR)中のNheI〜NarI領域を除去することによって得られた外来性プロモーター導入用レトロウイルスベクタープラスミドに、CREとVIPプロモーターを含む配列と、レポーター遺伝子である胎盤由来アルカリフォスファターゼ(PLAP)(Gotoら, Molecular Pharmacology, 49, p.860−873, 1996)を導入し、pBabeCLcre4vPdNNを得た(図4)。
(2)サイクリックAMP応答配列を含むレポーター系導入細胞SE302の樹立
サイクリックAMP応答配列によりレポーター遺伝子PLAPが誘導されるレトロウイルスベクタープラスミドpBabeCLcre4vPdNNを用い、実施例4に記載の方法に準じてレトロウイルスベクターを調製した。調製したレトロウイルスベクターをHEK293細胞に導入し、限界希釈法により細胞をクローン化して、PLAP誘導の反応性が最も良かったクローン(以下、「SE302細胞」と称する)を以下の実験に供した。
[実施例6]GPR83遺伝子導入用レトロウイルスベクターによるGPR83発現細胞の調製
前記の実施例4で調製したレトロウイルスベクターによる細胞へのGPR83遺伝子導入を以下のように行った。
前記実施例5で構築した3×103個のSE302細胞を96穴プレート(旭テクノガラス社)にDMEM(SIGMA社)−10%FCS−PS(以下、「培養液」と称する)100μlを用いて培養した。翌日、実施例4で調製したレトロウイルスベクターを適宜希釈し、その100μlを培養液で調製したpolybrene(別名 hexadimethrine bromide)(最終濃度8μg/ml、Sigma社)とともにSE302細胞に加えた。その翌日、培養液を500μg/mlのハイグロマイシン(Hygromycin、Invitrogen社)含有の培養液200μlと交換し培養した。この条件で増殖してきたGPR83遺伝子導入SE302細胞(以下、「GPR83−SE302細胞」と称する)を適時継代して実験に供した。
[実施例7]GPR83−SE302細胞における転写活性のアラキドン酸またはγ−リノレン酸による促進
前記実施例6で構築したGPR83−SE302細胞を、転写活性測定用培地(ASF104(SIGMA社)を加えたもの)にて縣濁した後、96穴プレート(Beckton Dickison社)に1穴あたり1×10細胞となるように播種した。翌日、フォルスコリン(Carbio Chem社)を最終濃度1μmol/Lとなるように添加し、その後エタノールで希釈した各濃度のアラキドン酸(SIGMA社)またはγ−リノレン酸(SIGMA社)を添加した。さらに一日培養後、細胞上清を5μl回収して化学発光測定用の96穴プレート(住友ベークライト社)に移し、アッセイ用緩衝液(280mmol/L NaCO−NaHCO、8mmol/L MgSO、pH10)を20μl、Lumiphos530(Lumigen社)25μlを添加して、室温にて2時間反応させた後、各穴の化学発光をFusionプレートリーダー(Perkin Elmer社)にて測定し転写活性量とした。フォルスコリン1μmol/Lを添加した細胞上清の転写活性を100%ととし、フォルスコリンを添加していない細胞の上清の活性を0%として各被検サンプルを加えた細胞上清中の活性を%で表示した(図5、図6)。
その結果、アラキドン酸およびγ−リノレン酸はGPR83の活性化を促進することが分かった。この転写活性の上昇はネガティブコントロールとしてもちいたガラニン(Galanin、ペプチド研究所社)に特異的にレスポンスをするGalR2遺伝子発現細胞(Fathi et al., Mol. Brain. Res., 58(1−2), 156−169, 1998)では反応が観察されなかったため、GPR83特異的な反応であることが分かった。すなわち、この実験系を用いることで、アラキドン酸またはγ−リノレン酸によるGPR83の活性化に影響を与える化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を判別できることが示された。
本発明は、アラキドン酸またはγ−リノレン酸などの長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物をスクリーニングするための方法、およびそれらのスクリーニング用キットなどに関する。
pBabeCL(GPR83)IHの構築図を示す。 CRE4VIP/pBluescriptIISK(+)の構築図を示す。 pBabeCLXの構築図を示す。 pBabeCLcre4vPdNNの構築図を示す。 GPR83を発現させたSE302細胞における転写活性のアラキドン酸による特異的な用量依存的促進を示す。白丸はGPR83の反応を示す。黒丸はGalR2の反応を示す。横軸の数字は添加した各リガンドの最終濃度(μmol/L)を示す。縦軸はフォルスコリン1μmol/Lを添加した細胞上清のアルカリフォスファターゼの活性を100、フォルスコリンを添加していない細胞上清の活性を0として算出した各活性の割合を示す。各点は平均値(N=2)を示す。 GPR83を発現させたSE302細胞における転写活性のγ−リノレン酸による特異的な用量依存的促進を示す。白丸はGPR83の反応を示す。黒丸はGalR2の反応を示す。横軸の数字は添加した各リガンドの最終濃度(μmol/L)を示す。縦軸はフォルスコリン1μmol/Lを添加した細胞上清のアルカリフォスファターゼの活性を100、フォルスコリンを添加していない細胞上清の活性を0として算出した各活性の割合を示す。各点は平均値(N=2)を示す。

Claims (19)

  1. 長鎖脂肪酸および/または被検物質を、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分と接触させる工程を含んでなる、長鎖脂肪酸とGPR83との相互作用を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物のスクリーニング方法。
  2. 被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への長鎖脂肪酸の結合量を測定する工程を含んでなる、請求項1に記載の方法。
  3. 被検物質非存在下における、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への長鎖脂肪酸の結合量に対して、被検物質存在下における前記結合量が低下する場合に、その化合物をGPR83アゴニストあるいはGPR83アンタゴニストと決定する工程を更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
  4. 被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、細胞刺激活性を測定する工程を含んでなる、請求項1に記載の方法。
  5. 被検化合物が細胞刺激活性を有する場合にその化合物をGPR83アゴニストと決定する工程を更に含んでなる、請求項4に記載の方法。
  6. 被検化合物が細胞刺激活性を有さない場合にその化合物をGPR83アンタゴニストと決定する工程を更に含んでなる、請求項4に記載の方法。
  7. 被検物質存在下および被検物質非存在下において、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への長鎖脂肪酸の結合量を測定し、長鎖脂肪酸のGPR83への結合性を変化させる化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を決定する工程と、
    前記工程において決定された化合物の存在下および非存在下において、GPR83またはGRP83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を長鎖脂肪酸と接触させ、次いで、細胞刺激活性を測定し、GPR83の活性化に影響を与える化合物もしくはその塩またはそれらの水和物を決定する工程
    とを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  8. 被検化合物が細胞刺激活性を有する場合にその化合物をGPR83アゴニストと決定する工程を更に含んでなる、請求項7に記載の方法。
  9. 被検化合物が細胞刺激活性を有さない場合にその化合物をGPR83アンタゴニストと決定する工程を更に含んでなる、請求項7に記載の方法。
  10. 長鎖脂肪酸が標識されている、請求項2、3、7、8、または9に記載の方法。
  11. 細胞刺激活性が、細胞内アデニル酸シクラーゼ活性またはCa2+濃度の上昇活性である、請求項4〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 長鎖脂肪酸がアラキドン酸またはγ−リノレン酸である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
  13. GPR83が、(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと機能的に等価な改変ポリペプチド、または(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相同ポリペプチドからなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  14. 改変ポリペプチドが、配列番号4または6で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその部分ポリペプチドである、請求項13に記載のスクリーニング方法。
  15. 長鎖脂肪酸と、GPR83またはGPR83を含有する細胞もしくはその細胞膜画分とを少なくとも含んでなる、スクリーニング用キット。
  16. 長鎖脂肪酸が標識されている、請求項15に記載のキット。
  17. 長鎖脂肪酸がアラキドン酸またはγ−リノレン酸である、請求項15または16に記載のキット。
  18. GPR83が、(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと機能的に等価な改変ポリペプチド、または(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相同ポリペプチドからなる、請求項15〜17のいずれか一項に記載のキット。
  19. 改変ポリペプチドが、配列番号4または6で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその部分ポリペプチドである、請求項18に記載のキット。
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