表示パネル、ディスプレイなどの表示部材、レンズ、眼鏡などの光学部品、太陽電池パネルなど種々の製品に高い光透過性と低反射性能を有する膜、すなわち反射防止膜が広範に使用されている。また、薄膜トランジスタや単結晶薄膜シリコン太陽電池を作製するためのレーザアニール時やフォトレジスト工程においても反射防止膜が使用される。レーザアニールや露光などの加工技術及び太陽電池やレンズなどでは反射による光の多重干渉が大きな問題になるからである。
光学部品、部材に対する反射防止処理は1930年代の真空技術の発達により、真空蒸着法で低屈折率材料の一つであるフッ化マグネシウムが軍事用望遠鏡の透過率向上に用いられたのが実用化の始まりと言われている。それまでに反射防止の基本的原理は光学の分野ですでに確立された法則として広く知られており、またさらに多層膜による反射防止の設計理論は1950年代には確立していた。反射防止に用いられる原材料は、フッ化マグネシウムなどのフッ化物、シリカなどの酸化物といった屈折率の低い物質と酸化チタンなどの屈折率の高い物質である。すなわちガラスにフッ化マグネシウムを蒸着する、あるいは酸化チタン層を蒸着後その上層にフッ化物やシリカを光学膜厚となるように、蒸着法で多層を形成するものであった。
当初は軍事や学術などの特殊用途で用いられるレンズやプリズムなどに使用される程度であったが、膜形成技術の進歩と低コスト化もあり、カメラやめがねのレンズ等への適用が行われ、近年ではTVやパソコンあるいは携帯端末の普及が著しく、それに伴ってそれらに用いる表示装置の視認性向上が市場要求として強くなり、そうした要求にこたえるための技術開発が反射防止処理の取り組みの一つとなっている。特に近年では屋外での使用が多い携帯電話には外光の反射による画面の見えにくさを抑える要求があり、また、一方PDPに代表される大型のフラットパネルディスプレイでは室内灯や視聴者などの画面への映りこみを抑制するために反射防止処理が標準となっている。
反射防止の基本的な原理は光学分野ですでに確立しているため、反射防止膜の形成は、それをつくる設備装置の問題と用いる膜材料の開発や選択に主な課題がある。
現在一般的に行われている反射防止膜の製造方法は、真空蒸着やスパッタ法のようなドライプロセス、あるいはゾルゲル法やパーフルオロ樹脂や部分フッ素化モノマーの重合体を用いた塗布法のようなウエットプロセスである。近年、価格面の要求からドライプロセスに代わるウエットプロセスの反射防止処理が主流となっている。
塗布タイプの反射防止膜形成用の主材料は、樹脂材料としては、パーフルオロ樹脂であるパーフルオロアリルビニルエーテルを環化重合したものやテトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールとの共重合体があり、部分フッ素化樹脂としてはメタクリル酸あるいはメタクリル酸クロライドとフルオロアルキルアルコールの反応により合成されるモノマーを重合したフルオロアルキルメタクリレート樹脂があり、これらはフッ素系溶剤を用いて基材に塗布される。これらはフッ素含有量を増やせば、屈折率が下げられ、反射率も下がることが期待できるが、塗工時にはじきによるムラやヌケが発生しやすくなるという問題がある(「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」、2002、技術情報協会)。
また、最近では可視光波長未満の超微粒子が透明材料の屈折率制御の観点から注目され実用化されている。価格、安定性、毒性、環境影響性、入手の容易さ、加工性などを加味すると、高屈折率材料では、酸化チタン、酸化セリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニア、酸化ニオブなどがあり、低屈折率材料ではシリカやフッ化物が代表的なものとなる。これらをバインダー樹脂と混合して、塗布する方法がある(特開平04−202366号公報、特開2001−163906号公報、特開2001−167637号公報)。
高屈折率材料の種類の多さに比べ、低屈折率材料はフッ化物を除けばシリカの1.46〜1.48が一番小さい材料である。そこで、さらに屈折率が小さく安定な材料として、シリカを中空化した材料が開発されている(特開2001−233611号公報)。これは、1.34〜1.40程度の屈折率を有しており母体はシリカであるが、フッ化物やフッ素樹脂並みの屈折率を有している。これをバインダーに分散して用いることによりシリカ分散系でありながらフッ素樹脂並みの屈折率の膜を得ることが可能となる(特開平07−48527号公報)。
一方、塗布によって形成する反射防止膜は、単層でそれを実現しようとすると、[1/4×λ/層の屈折率](nm)なる計算式で与えられる膜厚を形成する必要がある。この式でのλは反射率が最小となる波長であり、通常は反射防止能をより効果的に人の視感度の中心である550nm付近に設定するため、反射防止膜は100nm前後となる。したがってウエットプロセスにおける最大の課題は、高い精度が要求される膜厚の制御である。
例えば図1に示すように、5nmの狂いが最小反射率波長で25nmのずれにつながり、この波長のずれにより、反射色が大きく変化するために、色むらを発生させて実用上大きな問題となる。このような理由から、所定膜厚に対して十分誤差がなく、より均一な塗工が要求されるため、例えばプラスチックフィルムのような柔軟な基材、曲面や凹凸を有する基材、薄いフィルム基材に連続的に塗工、製造することは非常に困難である。
さらにフッ素樹脂、または微粒子とバインダー樹脂の混合物を用いても、屈折率を下げるには限界があり、塗布性を満足させるためには、屈折率が1.40程度にならざるを得ない。そこで、反射率を下げるためには高屈折率層を含む、多層構造とすることが一般的である。ドライプロセスでは、真空蒸着法やスパッタ法を用いて、シリカとチタニアの光学的膜厚を多層積層することで、最低反射率波長は0%に近づけることが一般的に行われているが、光学設計した波長からずれた波長での反射率の上昇、すなわち波長依存性が発生して、着色の問題が発生する(図2)。
また塗布法において多層構造にすると、下地の膜厚の均一性が厳しくなり、さらに上に積層する塗液が下地の層を侵さないものに限定されるという課題があり、現実的には2層までが限界とされている。したがって現在ウエット法で作製した反射防止膜はドライプロセスに比べて特性が劣る。
単層の反射防止膜は、多層構造にするよりも、波長依存性も少ない、すなわち着色が少ないという特長があるため、紫外から可視光領域でも効率よく反射を防止する。したがって、この波長領域でフッ化物以下の屈折率をもつ理想的な材料とそれを均一に形成する製造方法が求められている。
単層で反射率0%を達成するためには、次式を満たす反射防止膜の屈折率(nc)が求められる。(Macleod, Thin−Film Optical Filters, Elsevier, New York, 1969、または 金原ら、応用物理学選書3 薄膜、裳華房、昭和59年)。
(ncは反射防止膜の屈折率、nsは基材の屈折率、n0は雰囲気の屈折率)
例えば、ディスプレイに用いられる透明基材であるガラスやプラスチック基板の可視領域での屈折率は約1.52であり、空気の屈折率1との積の平方根をとった1.22から1.25程度の値が最も理想的な値となる。
そのような屈折率を持つ膜は、たとえばシリカ膜中に含まれる気孔の濃度によって屈折率を制御した多孔質膜である。しかも、透明であるためには、空隙の孔の径が光を散乱させない100nm以下であることが求められる。
例えば、ガラスをエッチングする方法、(Journal of Optical Society of America, 1976, 66, 515 及び Journal of Non−crystal Solids 1982, 48, 177)やゾルゲル法を用いた方法(Applied Optics, 1984, 23, 1418 及び Journal of Non−crystal Solids 1997, 218,113)、蒸着法(Journal of Non−crystal Solids 1997, 218,92)、相分離(Science,1999,283,520)やモスアイ構造(Nature, 244, 281−282, 1973 及び Journal of Optical Society of America A, 1996, 13, 988)などが報告されている。
これらの手法は、1.3以下の屈折率の低い材料を提供するのに適しており、条件によって1.25程度の屈折率が達成されるが、膜厚制御の困難さなどの課題があり、プラスチックフィルムのような柔軟な基材に大面積に連続的に均一な100nmレベルの薄膜を生産性良く形成するのには適していない。
一方、ナノメータースケールの薄膜を溶液から形成する方法として、交互積層法が提案されている。交互積層法は、G.Decherらによって1992年に発表された有機薄膜を形成する方法である(Thin Solid Films, 210/211, p831(1992))。この方法では、正電荷を有するポリマー電解質(ポリカチオン)と負電荷を有するポリマー電解質(ポリアニオン)の水溶液に、基材を交互に浸漬することで基板上に静電的引力によって吸着したポリカチオンとポリアニオンの組が積層して複合膜(交互積層膜)が得られるものである。
交互積層法は積層する回数により、形成したい膜厚を調整することが可能である。例えば一回あたりの積層で10nm程度の膜成長が観測されれば、100nmを形成したい場合は十回の積層を繰り返せばよい。
交互積層法では、静電的な引力によって、基材上に形成された材料の電荷と、溶液中の反対電荷を有する材料が引き合うことにより膜成長するので、吸着が進行して電荷の中和が起こるとそれ以上の吸着が起こらなくなる。したがって、ある飽和点までに至れば、それ以上膜厚が増加することはない。一回あたりの吸着膜厚が薄いため、精度高い膜厚を、積層する回数によって制御することができるという優れた特長をもつので、ナノメータサイズの光学的な薄膜形成には適当な成膜方法と言える。さらに、真空設備も必要とせず、低コストで高精度な薄膜形成方法である。また、チューブ状の基材の内部や織物の繊維や発泡材の内部など、溶液が浸透する部分にはコーティングが可能という、他の方法にない特徴を持っている。
Rubnerらによって、基板上にポリアクリル酸とポリアリルアミン塩酸塩との交互積層膜を作製した後、pHが調整された塩酸などの酸溶液に浸すことにより、静電吸着した結合部分を部分的に切断して空隙構造をつくるという報告があり(Langmuir 16、p5017−5023(2000))、これを応用した反射防止膜が提案されている(国際公開WO03/082481 A1(2003)、及びNature Materials, Vol1 p59−63(2002))。
白鳥らは、このポリマー多孔質膜を型として用い、金属酸化物を化学溶液析出法によって多孔質膜中に析出させたのち、650℃で焼成してポリマー成分を除き、酸化物のみの多孔質膜を形成している(特開2003−301283号公報)。
一方、Lvovらは交互積層法を、微粒子に応用し、シリカやチタニア、セリアの各微粒子分散液を用いて、微粒子の表面電荷と反対電荷を有するポリマー電解質を交互積層法で積層する方法を報告している(Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203)。この方法を用いると、負の表面電荷を有するシリカの微粒子とその反対電荷を持つポリカチオンであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)またはポリエチレンイミン(PEI)などとを交互に積層することで、シリカ微粒子とポリマー電解質が交互に積層された微粒子積層薄膜を形成することが可能である。
服部らはポリカチオンとして、PDDA、ポリアニオンとしてポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)の二種類のポリマー電解質の交互積層膜を形成し、基材のプラスの電荷密度を十分に高めた後、約110から130nmの粒子径をもち、マイナスの電荷を有するシリカまたはポリマー微粒子を基材上に並べ、微粒子と微粒子の間に隙間を設けた反射防止膜を得ている(Advanced Material. 13, 51−54 (2001))。ここでは下地となるPDDAとPSSの積層回数を増すことで、微粒子の表面被覆率が上がり、反射率が下がる傾向がみられる。対照的に、PDDAとPSSの層数が少ないと、ガラス基材表面のプラスの電荷密度が低いために、微粒子が吸着しない部分すなわち、基材がむき出しになる部分が発生するため反射率が下がらない。
同じく、特開2002−361767号公報では、Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203において公知となっている方法を用いて微粒子を複数回積層し、40〜80%の体積密度を有する微粒子積層膜を形成する方法を提案している。これらの方法は、微粒子を高密度で充填させることに特徴を有しており、さらに高屈折の微粒子、例えばチタニアの微粒子の層を組み合わせた多層構造の反射防止膜を作製している。
ここで、屈折率が1.48のシリカ微粒子を積層して空隙を作り、単層で十分な反射防止膜が得られる屈折率である1.20〜1.30の薄膜を作るために必要なシリカ微粒子の体積密度は、ドルーデの理論から、下記のように近似的に求められる(薄膜・光デバイス 著者 吉田貞史、矢嶋弘義 出版社 1994年 東京大学出版会)。
ゆえに
(ncは薄膜の屈折率、nSiO2はシリカ屈折率=1.48、n0は空気屈折率=1、ρはシリカ微粒子の体積密度)
すなわち、37%〜58%となるようなシリカ微粒子の体積密度が必要である(図3)。しかし、これまでの交互積層法による微粒子積層膜では、体積密度を低く制御する方法については示されておらず、その結果、公知の方法では必要以上にシリカ体積密度が高くなり、結果として単層で反射防止膜とする場合に理想的な1.3以下の低屈折率薄膜を得ることは困難であった。
特開平04−202366号公報
特開2001−163906号公報
特開2001−167637号公報
特開2001−233611号公報
特開平07−48527号公報
国際公開WO03/082481号パンフレット
特開2003−301283号公報
特開2002−361767号公報
「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」、2002年、技術情報協会
Macleod,「Thin−Film Optical Filters」,Elsevier, New York(1969)
金原ら、「応用物理学選書3 薄膜」、裳華房、(昭和59年)。
Journal of Optical Society of America, 1976, 66, 515
Journal of Non−crystal Solids 1982, 48, 177
Applied Optics, 1984, 23, 1418
Journal of Non−crystal Solids 1997, 218,113
Journal of Non−crystal Solids 1997, 218,92
Science,1999,283,520
Nature, 244, 281−282, 1973
Journal of Optical Society of America A, 1996, 13, 988
Thin Solid Films, 210/211, p831(1992)
Langmuir 16、p5017−5023(2000)
Nature Materials, Vol1 p59−63(2002)
Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203
Advanced Material. 13, 51−54 (2001)
吉田貞史、矢嶋弘義「薄膜・光デバイス」 東京大学出版会 1994年
本発明者らは、軟化温度が200℃以下の固体基材を微粒子分散液と反対電荷を有するポリマー電解質溶液に、交互に浸漬することによって該基材上に静電的引力によって形成される微粒子とポリマー電解質の交互積層膜において、微粒子の分散性を決めるパラメータである表面電位を制御することに着目し、その表面電位を下げることで、基材への微粒子の積層密度を制御して、空隙率の高い、その結果、光学機能性膜として重要な低屈折率薄膜を形成する発明に至った。以下、本発明の表面電位の制御方法、使用する材料について順次説明する。
(1)電気二重層
液体中に分散している粒子の多くは、プラスまたはマイナスに帯電している。電気的に中性を保とうとして粒子表面の液体中には、粒子とは逆の符号を持つイオンが集まってくる。そのようなイオン群が、粒子表面を取り巻いて球殻状に集まり、荷電を持った層を、反対荷電を持った層が取り巻くことになる。このような状態は、「電気二重層」と表現される。
液体中のイオン層のイオン分布は熱運動のために攪乱されている。そのため、表面近傍では反対荷電の濃度が高く、遠ざかるにつれて次第に低下する。粒子と同荷電のイオンは、逆の分布を示し、粒子から充分に離れた領域では、プラスのイオンの荷電とマイナスのイオンの荷電が相殺して、電気的中性が保たれる。上記のコンデンサー型の二重層に対して、液体中において現実に見られるものは、「拡散電気二重層」と呼ばれ、反対荷電のイオン分布が、表面から離れるにつれて、次第にぼやけてゆくような電気二重層である。
内側の粒子表面のイオン分布は、「拡散層」と呼ばれる。また微粒子表面から直ちに、拡散層が始まっているとは限らず、一部のイオンが強く表面に引き寄せられて、固定されている場合が多く、この層を「固定層」と呼ぶ。
液体中に分散された粒子は、多くの場合に荷電を持ち、そして、粒子の分散状態の安定性は、しばしば荷電状態によって、左右される。粒子は、「固定層」そして「拡散層」の内側の一部を伴って移動すると推定でき、この移動が起こる面を「滑り面」と呼んでいる。
粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義すると、「ゼータ電位」は、このゼロ点を基準として測った場合の、「滑り面」の電位と定義されている。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなる。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。そこで、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標として用いられる(北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、「Zeta Potentialゼータ電位:微粒子界面の物理化学」、サイエンティスト社、1995)。
(2)ゼータ電位の測定方法
帯電した粒子が分散している系に、外部から電場をかけると、粒子は電極に向かって泳動するが、その速度は粒子の荷電に比例するため、その粒子の泳動速度を測定することによりゼータ電位が求められる。
例えば、電気泳動光散乱測定法は別名レーザードップラー法と呼ばれ、「光や音波が動いている物体に当たり反射または散乱すると、光や音波の周波数が物体の速度に比例して変化する」というドップラー効果を利用して粒子の泳動速度を求めている。電気泳動している粒子にレーザー光を照射すると粒子からの散乱光は、ドップラー効果により周波数がシフトする。シフト量は粒子の泳動速度に比例することから、このシフト量を測定することにより粒子の泳動速度がわかる。
実際に、屈折率(n)の媒体(液)に分散した試料に、波長(λ)のレーザー光を照射し、散乱角(θ)で検出する場合の、泳動速度(V)とドップラーシフト量(Δν)の関係は次式で表される。
[n:媒体(液)の屈折率、θ:検出角度]
ここで得られた泳動速度(V)と電場(E)から電気移動度(U)が求められる。
電気移動度(U)からゼータ電位(ζ)へは、次式のSmoluchowskiの式を用いて求められる。
[η:媒体(液)の粘度、ε:媒体(液)の誘電率]
このようにして、泳動している粒子からの散乱光を観測することによって、ゼータ電位が求められる。このようにして求められるゼータ電位は微粒子の表面電位を反映するものであるため、ゼータ電位を大きくすると、微粒子間の静電的な斥力により分散性が良くなる一方、交互積層法で用いる場合は、それと反対電荷を有する基材が存在すると、表面との引力が大きくなるため空隙率の高い膜が形成されにくくなり、すなわち充填の状態が緻密な膜となってしまうために、本発明の目的には好ましくない。したがって、ゼータ電位の絶対値を低く制御することで基材表面に微粒子が緻密に充填されて積層されるのを防ぐことができ、より具体的には、1〜45mVの範囲内に抑えることが好ましい。さらに低く、1mVより低くすると媒体(液)の微粒子分散性が悪くなり、沈殿が起こり、さらに電荷が0に近づくために基材との引力が発生せず、吸着も起こらないため好ましくない。
(3)表面電位の制御方法
表面電位を制御する方法は、ゼータ電位を制御することと等価と考えると、ゼータ電位に与える因子を考える必要がある。微粒子表面の拡散電気二重層の厚さを1/κで表すと、この厚さは表面電荷と対イオン(電解質イオン)の間の引力が、それをかき乱そうとする熱運動とつりあう距離である。ここで、κはDebye−Huckelのパラメータと呼ばれ、イオン価zの電解質の場合、
で表される。ここで(k)=Boltzmann定数、(ε0)=真空の誘電率、(εr)=媒体(液)の比誘電率、(T)=絶対温度、(e)単位電荷である。(n)は電解質の数密度で単位は(m−3)である。(n)をアボガドロ数(NA)で表すと、n=1000NA×濃度(C)となる。この式から、分母に注目すると、電解質濃度、あるいは価数zを上げると拡散電気二重層の厚みが薄くなり、さらにこの式の分子に注目すると、温度Tを上げれば熱運動が活発になって拡散電気二重層は厚くなることを意味する。つまり電解質を加えることによって電気二重層の厚みが薄くなることを意味する。
表面電位と電気二重層との関係は、次のような関係式で関連付けられる。つまり、表面電荷密度σによって、媒体(液)中では電場σ/εrε0が生じる、したがって、電気二重層の厚み(1/κ)の距離を隔てると、電場×距離=(σ/εrε0)×(1/κ)=(σ/εrε0κ)の電位差ができる。このことから表面電位(φ0)は次式で表される。
この式から、微粒子の表面電位とゼータ電位を下げるためには、分母のDebye−Huckelのパラメータ1/κを下げる(κを大きくする)、すなわち電気二重層を薄くする、さらに言い換えれば電解質濃度を上げることと、溶液の誘電率(εr)を上げ、分子の電荷密度を下げればよいことが分かる。
水の誘電率(εr)より高い媒体(液)は一般的ではないため分散液の誘電率を上げることは困難である。したがって、表面電位を下げる方法としては、電解質を加える(電解質濃度を上げる)のが好ましい。電解質としては、水または水、アルコール混合溶媒などに溶解するものであれば限定されるものではないが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、四級アンモニウムイオンなどとハロゲン元素との塩、LiCl、KCl、NaCl、MgCl2、CaCl2などが用いられる。本発明では、電解質の濃度は0.01〜0.25M(=mol/リットル、以下同じ)程度とすることが好ましい。電解質を0.25Mより多く加えると、表面電位が下がりすぎて分散性が悪くなり、凝集などにより微粒子の沈殿が起こる。
また、表面電位は、pHによっても制御できる。なぜなら、粒子表面にある解離基の解離(イオン化)度はpHによって影響を受けるからである。例えば微粒子表面にカルボキシル基(−COOH)や表面水酸基(−OH)がある場合は、pHを上げるとイオン化してカルボキシレート陰イオン(−COO−)または水酸化物イオン(−O−)となるため、電荷密度σは上がる。一方、アミノ基(−NH2)がある場合はpHを下げるとアンモニウムイオン(−NH3 +)となり電荷密度が上がる。すなわち、高いpH領域、及び低いpH領域で電荷密度の上昇がある。したがって、本発明では微粒子分散液のpHを5〜9の範囲内にすることで、アニオン、カチオンいずれについても、電荷密度σの上昇が抑制され、結果として表面電位、さらにはゼータ電位を低く制御することができ、基材表面に微粒子が緻密に充填されて積層されるのを防ぐことができる。
(4)微粒子材料
本発明において、薄膜(A)である微粒子積層膜を形成するのに用いる微粒子分散水溶液に分散されている微粒子は、光学的に透明な微粒子であって、微粒子の粒子径が10nm以上、100nm以下であることが好ましい。10nm以下であると膜成長に時間がかかりすぎるし、100nm以上であると、膜厚の制御がしにくく、また光を散乱しやすくなる。また、粒子径のばらつきが10nm以下であることが好ましい。吸着した粒子の大きさのばらつきが、膜厚のばらつきに影響し、光学的なムラとなる可能性があるからである。
無機の微粒子としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニア(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、セリア(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。上記の無機微粒子の中でも屈折率を下げられる点でシリカ(SiO2)が好ましく、粒子径を10nmから100nmのように制御した水分散コロイダルシリカ(SiO2)が最も好ましい。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、スノーテックス、スノーテックスUP(日産化学工業社製)等が挙げられる。
また、粒子径10nmから100nmの条件を満たすポリマー微粒子も用いることができ、このようなものとしては例えば、ポリエチレン、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、シリコンポリマー、フェノール樹脂、ポリアミド、天然高分子を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。それらは液相から溶液噴霧法、脱溶媒法、水溶液反応法、エマルション法、懸濁重合法、分散重合法、アルコキシド加水分解法(ゾル−ゲル法)、水熱反応法、化学還元法、液中パルスレーザーアブレーション法などの製造方法で合成される。ポリマー微粒子の市販品としては、例えば、ミストパール(荒川化学工業社製)等が挙げられる。
また、微粒子間に結合を与える目的で、これらの微粒子の表面にイオン性、または反応性の官能基を付加しても良い。代表的なものとしては、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、フェノール基、メルカプト基、メタクリル基、ポリエーテル基等を挙げることができる。これらの官能基の付加は、例えば、官能基を有するシランカップリング剤を微粒子の表面水酸基などと縮合反応させることにより達成することができる。
より高い空隙率を得るためには、基本となる微粒子が、多孔質となっている微粒子や、図4に示されるように数珠状に連なった粒子形状を含有するものがより好ましい。市販されているものとしては、スノーテックスPSないしスノーテックスUPシリーズ(日産化学工業社製)や、ファインカタロイドF120(触媒化成工業社製)で、パールネックレス状シリカゾルがある。
(5)微粒子分散液
本発明において、薄膜(A)である微粒子積層膜を形成するのに用いる微粒子分散液は、上述の微粒子が、水または、水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒である媒体(液)に分散されたものである。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどがあげられる。この微粒子分散液中の微粒子の表面電位を示すゼータ電位はその絶対値が1〜45mVの範囲に制御されているものであり、ゼータ電位の制御は、前述のように微粒子分散液のpHの調整や微粒子分散液に電解質を添加することなどによって達成できる。
また、微粒子分散液を調製する際に、分散性を改善するために、いわゆる分散剤を用いることができる。このような分散剤としては、界面活性剤やイオン性ポリマーあるいは非イオン性ポリマーなどを用いることができる。これらの分散剤の使用量は、用いる分散剤の種類によって異なるものであるが、一般に0.1%(重量)以下程度であることが好ましく、多すぎるとゲル化・分離を起こしたり、分散液中で微粒子が電気的に中性となり、積層膜が得られなくなる。
また、微粒子分散液においては、微粒子分散液のpHは、3〜9程度であることが好ましい。pHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液または塩酸、硫酸などの酸性水溶液で、行うことができ、また、分散剤によってもpHを調整することができ、さらに、加える電解質(例えば、強酸と弱塩基や弱酸と強塩基の組み合わせの塩など)によってもpHを調整することができる。微粒子分散液のpHが9よりも大きいか、あるいは3未満であると、反対の電荷を持つポリマーが吸着された基材との静電的引力が強くなり、微粒子が緻密に充填された膜となるか、あるいは基材との静電的引力が働かない上に、分散液の微粒子同士の斥力が低下することにより凝集を起し、微粒子の凝集体が沈殿して微粒子が基材上に積層されないようになる傾向がある。
また、微粒子分散液中に占める微粒子の割合は、通常0.01〜10%(重量)程度が好ましく、微粒子の分散は公知の方法によって行うことができる。
(6)イオン性ポリマー溶液
この発明で使用するイオン性ポリマー溶液は、微粒子の表面電荷と反対または同種の電荷のイオン性ポリマーを、水または水と水溶性の有機溶媒の混合溶媒に溶解したものである。使用できる水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどがあげられる。このイオン性ポリマー溶液は微粒子積層膜の形成や下地層の形成などに用いられる。
イオン性ポリマーとしては、荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子を用いることができる。この場合、ポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びることのできる官能基を有するものであり、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などが用いられる。また、ポリカチオンとしては、一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有するもの、たとえば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリアクリルアミドおよびそれらを少なくとも1種以上を含む共重合体などを用いることができる。これらのイオン性ポリマーは、いずれも水溶性あるいは水と有機溶媒との混合液に可溶なものであり、イオン性ポリマーの分子量としては、用いるイオン性ポリマーの種類により一概には定めることができないが、一般に、20,000〜200,000程度のものが好ましい。なお、溶液中のイオン性ポリマーの濃度は、一般に、0.01〜10%(重量)程度が好ましい。
また、イオン性ポリマー溶液のpHは、特に限定されない。上記したポリアニオンやポリカチオンのイオン性ポリマー溶液は、微粒子積層膜である薄膜(A)を形成するためばかりでなく、薄膜(A)より屈折率が0.01以上大きな屈折率を有する薄膜(B)を形成するためにも用いられる。
(7)基材
基材としては、軟化温度が200℃以下の固体基材であり、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化製樹脂、紫外線硬化樹脂、エラストマーなどの汎用のプラスチック類があり、極端に疎水性、撥水性のものまたは表面にそのような膜がコートしてあるもの以外であれば全ての固体基材が適応できる。形状はフィルム、シート、板、曲面を有する形状、筒状、糸状、繊維、発泡材など浸漬して水が入り込むことができるものであれば限定されない。この低屈折率膜を反射防止膜として機能させるためには透明基材が望ましい。LCDディスプレイに用いる偏光板に反射防止機能を付与することもできる。
上記透明基材としては、例えば、ポレオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエン、ポリエステルカーボナート、ポリエーテルケトン、ポリスルフィド、シリコーンポリマー、アクリル誘導ポリマー、フェノール樹脂、ポリジアセチレン、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタンなどの軟化温度が200℃以下の熱可塑性樹脂などが用いられる。基材の表面に透明な樹脂膜や無機膜がコートされているものも含まれる。
本発明の微粒子積層膜はこのような基材上に形成されるものであるが、このような透明基材に形成された反射防止膜(薄膜(A)である微粒子積層膜)の反対側の基材面に粘着剤層が形成されており、被着体としてのディスプレイ表面のガラス基板などに貼り付けて、反射防止膜が空気と面するよう用いることもできる。また、仮支持体に低屈折率膜を形成しておき、さらにその上に転写するための粘着層または接着層を形成して、被着体と粘着層または接着層が面するように貼り合わせ、仮支持体を剥がすことによって反射防止膜を被着体に形成することもできる。
また、本発明の低屈折率薄膜は、上述のように基材の片面ばかりでなく、基材の両面に薄膜(A)である微粒子積層膜を形成し、高い透明性、高い透過率を得るための光学薄膜として用いることもできる。
(8)微粒子積層膜の作製方法
まず、前述のような基材をそのまま用いるか、またはそれらの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸などによる化学的エッチング処理、シランカップリング処理などによって極性を有する官能基を導入して基材の表面電荷をマイナスもしくはプラスにする。
また、基材表面へ電荷を効率よく導入する方法としては、強電解質ポリマーであるポリカチオン系のPDDAやPEIとポリアニオン系のPSSの交互積層膜を形成することによっても可能である(Advanced Material.13,51−54(2001))。すなわち、このような表面に荷電を有する固体基板を2種類のポリマーイオン溶液(ポリカチオンとポリアニオン)に交互に浸し、ポリマーイオンの薄膜を固体基板上に作製する。表面電荷がマイナスであれば、はじめにカチオン性の溶液に浸漬し、次いで、アニオン性の溶液に浸漬し、必要に応じこれを交互に続けて交互積層膜を形成する。用いるポリマーイオン溶液の濃度、pHの条件および浸漬時間、繰り返し数などの製造条件は、積層したい膜厚によって前記(6)と同様にして適時調整する。また、反対電荷を有する溶液に浸漬する前に溶媒のみのリンスによって余剰の溶液を洗い流すことが好ましい。このような基材に微粒子積層膜を形成するための下地層となるポリマーイオンの交互積層膜としては、1〜5nm程度の膜厚であり、積層回数(カチオンとアニオンの組み合わせを1回とする)は、2〜5回程度であることが好ましい。このようにして交互積層膜である薄膜(B)を形成することができ、これにより、その後に積層する薄膜(A)である微粒子積層膜の均一性の向上が図られる。
次いで、このような表面に荷電を有する固体基板を、微粒子分散液と微粒子の表面電荷と反対の電荷を有するポリマーイオン溶液(ポリカチオンあるいはポリアニオン)に交互に浸し、微粒子積層膜の薄膜を固体基板上に作製する。基材の表面電荷が、微粒子の表面電荷と反対の電荷であるときは、微粒子分散液への浸漬から始め、微粒子の表面電荷と同種の時は、イオン性ポリマー溶液への浸漬から始め、必要とする膜厚を得るまで微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液への浸漬を繰り返す。最後の浸漬は通常、イオン性ポリマー溶液への浸漬とし、微粒子の吸着を確実なものとする。浸漬時間は用いる微粒子やイオン性ポリマーの種類、積層したい膜厚によって適宜調整する。
微粒子分散液あるいはイオン性ポリマー溶液に浸漬後、反対電荷を有する微粒子分散液あるいはイオン性ポリマー溶液に浸漬する前に媒体(液)あるいは溶媒のみのリンスによって余剰の媒体(液)や溶液を洗い流すことが好ましい。このようなリンスに用いるものとしては、水、アルコール、アセトンなどがあるが、通常、過剰なイオンの除去の点から、比抵抗値が18MΩ・cm以上のイオン交換水(いわゆる超純水)が用いられる。静電的に吸着しているために、このリンスの工程で剥離することはない。また、反対電荷の媒体(液)または溶液に、吸着していないポリマーイオンまたは微粒子を持ち込むことを防ぐためにリンスを行ってもよい。これをしない場合は、持ち込みによって媒体(液)や溶液内でカチオン、アニオンが混ざり、微粒子の凝集や沈殿を起こすことがある。また、各溶液に浸漬する前に乾燥を行っても良い。乾燥方法は熱風、ドライエアや窒素などをエアナイフを用いて吹き付ける方法や電熱炉、赤外線炉を通すなど、公知の方法を用いることができる。
微粒子分散液またはイオン性ポリマー溶液に浸漬することにより、形成される膜厚は、例えば、積層膜を水晶振動子の上に形成し、その周波数の変化をモニターすることや、得られた積層膜をSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などで観察することにより求めることができる。
図5は、微粒子分散液として、スノーテックスPS−Sの水分散液(STps−s)と、ポリマー溶液としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)とを用いて、水晶振動子上に微粒子積層膜を形成した時の、トータルの浸漬時間と周波数の変化量を示したグラフであり、上側の曲線は、電解質としてNaClを加えて塩化ナトリウム濃度を0.25モル/リットルとした場合であり、下側の曲線は電解質を添加しない場合(塩化ナトリウムイオンのような電解質濃度は0.01モル/リットル未満)の結果を示している。このグラフから、いずれの場合も微粒子分散液(STps−s)に浸漬した時に、大きな周波数の変化があり、その後飽和していること、またこれに続くポリマー溶液(PDDA)への浸漬では、大きな周波数の変化はないことがわかる。なお、SEM(走査型電子顕微鏡)などの結果から、周波数の変化は、1000Hzが膜厚20〜25nmに相当するものである。すなわち、図5においては、1回の微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液との浸漬により、電解質を添加した場合には、30〜36nm程度、また電解質を添加しない場合には15〜18nm程度の膜厚が得られ、電解質を添加すると形成される膜厚が、電解質を添加しない場合の約2倍程度大きくなることがわかる。すなわち、1回の微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液との浸漬により得られる膜厚は、電解質の有無の他、用いる微粒子の大きさや分散液中における微粒子濃度などによって異なるものとなるが、一般に、10〜40nm程度の膜厚が得られることから、微粒子積層膜の膜厚は、浸漬時間と繰り返し数とで制御できることがわかる。なお、電解質を添加すると1回に形成される膜厚が増加することから、その分繰り返し数を減らすことができ、プロセスを簡略化できることはいうまでもないことである。
なお、イオン性ポリマー溶液同士の浸漬によりポリマー積層膜の膜厚も同様にして求めることができる。
製造装置としてはディッパーと呼ばれる交互積層装置を用いても良い。上下左右に動作するロボットアームに基材を取り付け、プログラムされた時間に、基材をカチオン性溶液に漬け、続いてリンス液に漬け、続いてアニオン性溶液に漬け、またリンス液に漬ける。この工程を1サイクルとして、積層したい回数分を連続的に自動的に行うことができる。そのプログラムは2種類以上のカチオン性物質、アニオン性物質を用いた組み合わせをしてもよい。例えば、最初の2層分はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とポリスチレンスルホン酸ナトリウムの組み合わせ、続く10層はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とアニオン性シリカゾルの組み合わせを用いることができる。
ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出し部から取り出し、途中にカチオン性溶液水槽、リンス水槽、アニオン性水槽、リンス水槽を並べて配置し、この配置を積層したい回数分並べて最後に乾燥する工程などを配置して、巻取り部を設けたフィルム状基材への連続膜形成プロセスも用いることができる。
(9)微粒子積層膜
このようにして薄膜(A)である微粒子積層膜を製造すると、屈折率1.30以下の低屈折率の薄膜を得ることができる。上記の方法であると1.20〜1.30、特に1.22〜1.30のものが作りやすい。屈折率としては、プラスチックなどの基材上の反射防止機能付与の観点で1.22〜1.28が好ましく、特に1.22〜1.25が好ましい。
また、このようにして製造した薄膜(A)である微粒子積層膜は、体積密度が37〜58%、好ましくは41〜58%の低屈折率薄膜とすることができる。体積密度としてはプラスチックなどの基材上の反射防止機能付与の観点では41〜54%がより好ましく、41〜47%がさらに好ましい。
このような薄膜(A)である微粒子積層膜は、微粒子積層膜中に微粒子が密着することなく一定の空隙をおいて積層していることから、ここでいう体積密度とは、微粒子積層膜中の空隙部の体積と微粒子自体が占める体積の合計に対する微粒子自体が占める体積をいい、微粒子自体が占める体積であるから、例えば、微粒子が多孔質の場合や中空の場合には、微粒子内の空隙部は、微粒子積層膜中の空隙部の体積に算入される。図3は、シリカの場合の体積密度と屈折率との関係を示すグラフである。すなわち、本発明の微粒子積層膜では、微粒子分散液のpHを調整することにより、微粒子の吸着量や吸着密度を制御し、微粒子の体積密度を所定の範囲にすることで、所望の屈折率を得ることができる。なお、好ましい体積密度は、用いる微粒子自体の屈折率により変化するものではあるが、微粒子としてシリカを用いる場合については、37〜58%、特に41〜47%の体積密度の範囲が好ましいことは上述したとおりである。
薄膜(A)である微粒子積層膜中の体積密度は、例えば、水晶振動子を用いて、振動数の変化に基づく積層された微粒子の重量と、電子顕微鏡などにより測定される積層された膜厚との関係から計算によって大まかに求めることができる。また、微粒子積層膜の膜厚が1μm程度のものであれば、通常の多孔質物質の細孔率や細孔分布を求めるようなガス吸着による方法によっても求めることができる。
しかしながら、本発明においては、薄膜(A)である微粒子積層膜の厚さが全体として80〜120nm、単層での反射率を考慮すると、好ましくは90〜110nm程度のものであり、しかもイオン性ポリマーの積層により得られる膜厚が、1nm以下程度であって、微粒子の積層によって得られる膜厚(通常10〜40nm)に比べて極めて薄いことから、このイオン性ポリマーを考慮することなく、微粒子積層膜の測定された屈折率と、微粒子を構成する物質自体(すなわち、バルク)の屈折率および空気の屈折率とから、ドルーデの理論の式(数2)により算出した値ρを体積密度として用いることにした。微粒子がシリカの場合については、図3に示してあるとおりであるが、シリカ以外の微粒子を用いる場合も同様にして求めることができる。
また、この薄膜(A)である微粒子積層膜は、可視光が散乱しない空隙構造を有しているものである。可視光が散乱しない空隙構造とは、面内にわたり、均一で可視光が散乱しないものであり、構造的にいえば、散乱の原因となる100nmを超える大きさの空隙部分や100nmを超える大きさの微粒子が存在していないことをいい、特性的にいえば、例えば、入射光の透過光と散乱光の割合を示すヘイズ値が、1%以下であることを示す。具体的には、JIS K7105もしくはJIS K7136のいずれかに準拠したヘイズ値が1%以下の透明基材上に製膜した微粒子積層膜付きの基材のヘイズ値が2%以下であることを意味するものである。
さらに、この薄膜(A)である微粒子積層膜の特徴は、反射率の波長依存性が少なく、100nm〜120nmの膜厚をプラスチック基板上に形成すると、可視光領域といわれる400nm〜800nmの全範囲で4%以下の表面反射率が得られる。粒子の集まり方は、粒子同士がほぼ点接触するように空隙を有しながら3次元的に積み重なっている。色は膜厚によって変化するが、100nm〜120nmの膜厚を平滑な透明ガラス基板上に形成すると、反射色は暗い紫色を示す。ヘイズ値は1.0%以下のものが得られる。
図6は、上記のようにしてプラスチック基板上に作製した微粒子積層膜の低屈折率性を利用した反射防止膜(AR膜付きPETと表示)と基板となるプラスチック自体(PETと表示)との反射防止性能を比較したものであるが、反射防止機能に関して、両者には大きな差があることがわかる。
なお、薄膜(B)は、上述のイオン性ポリマー溶液の交互浸漬による方法の他、固体基材上へのUV硬化樹脂などのハードコーティング、ポリエステルなどの易接着処理、シリカ薄膜の様な無機酸化物の蒸着、スパッタ、ウエットコーティングなどによっても形成することができる。
(10)オーバーコート膜
微粒子積層膜は空隙を有しているために機械的な強度に対し弱く、外部に直接触れない部分に用いる場合は良いが、ディスプレイなどの表面に用いる場合には反射防止機能に与える影響を最小限にする膜厚のオーバーコートを形成して用いることが好ましい。その膜厚は20nm以下であることが望ましい。
そのような膜材料は、例えば電離放射線硬化樹脂、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、反応性シリコーンオイルなどの樹脂組成物があげられる。また、金属アルコキシド溶液に浸漬したのち、乾燥して金属酸化物の硬化膜を得る方法やポリシラザンの溶液にディップして、シリカに転化することによりシリカ膜をコートする方法や、蒸着法やスパッタ法などのドライ法を用いて、無機酸化物膜を20nm以下に形成して用いても良い。オーバーコート膜の屈折率はなるべく低いほうが良く、MgF2などのフッ化物やシリカ(SiO2)などが好ましい。また樹脂組成物をバインダーとして、これら無機材料の微粒子などを混合することで強度や屈折率を調整することもできる。
さらに、傷をつきにくくし、また水や油脂成分などの汚れを防止するためのコーティングを施してもよい。コーティングの膜厚は、光学的に影響を与えないために20nm以下にする必要がある。代表的には、アルコキシ基を持ったパーフルオロシラン類フッ素化合物などの表面コーティング剤がある。シラン化合物はゾルゲル反応と同じく、加水分解により脱水や脱アルコールによる重縮合が起きてネットワーク化する。微粒子にシリカを用いた場合は表面にシラノール基が存在するので、直接コートしても分子間結合をする。これらは最初にアルコキシ基が表面のシラノール基と反応して脱アルコールして固定化され、さらにその後空気中の水分などによって加水分解が進み、縮合によって三次元的に結合したシロキサン結合ができて強固さが増し、表面の摩擦や磨耗等の機械的な耐久性に優れた特性を持つ。また、表面にフッ素を主成分とする疎水基が存在するため高い撥水性を示すため好ましい。
ポリマー微粒子やシラノール基を持たない微粒子を積層した場合には、シリカ膜を形成した後コーティングを行うことが好ましい。代表的なものとして、オプツールDSX(ダイキン社製)、デュラサーフDS5000(ハーベス社製)、ノベックEGC−1720(住友スリーエム社製)などがある。
オーバーコート膜の形成方法は、ロールコートやスピンコート、ディップコートなどのウエットプロセスや、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセス、またそれらを組み合わせて用いることができる。
以下、本発明の低屈折率膜の実施例によりさらに詳しく説明する。
実施例1
材料として、ポリカチオンである、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA、平均分子量100000、アルドリッチ社製)とポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、平均分子量70000、アルドリッチ社製)、微粒子分散液として、シリカ微粒子水分散液(ST20、日産化学工業社製、コロイダルシリカ、スノーテックス20、平均粒子径20nm)を用いた。
ST20は、分散性を保持するために、pHが10に調整されている。そこで、本実施例では、重量%を調整した後に、1モル/リットルの塩化水素水溶液を滴下して、pHを9に調整して用いる。
まず、基材に電荷を効率よく付与するための下地層(薄膜(B))としてPDDAとPSSの交互積層膜を形成する。溶液としては0.3重量%のPDDA水溶液と0.3重量%のPSS水溶液を調製する。次に、PET基板(東洋紡績社製、屈折率1.58、100mm×100mm×125μm厚)を(ア)PDDA水溶液に5分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)に3分間浸漬し、(イ)PSS水溶液に5分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬した。(ア)と(イ)の工程を順番に行う工程を1サイクルとして、このサイクルを2回繰り返し、PET基板上にPDDAとPSSの交互積層膜を2層積層した。この工程によって、基板表面の電荷密度を均一にすることができ、ムラなく微粒子が吸着する効果がある。
続いて、薄膜(A)である微粒子積層膜の成膜工程を説明する。溶液としては0.3重量%のPDDA水溶液と1重量%、pH=9のST20水分散液を調製する。微粒子水分散液のゼータ電位を測定したところ、−45mVであった。これらの液に交互に浸漬してPDDAとシリカ微粒子が交互に積層された微粒子積層膜を得る。その手順は、前述の下地層の最表面がPSSであるため、まず反対電荷のカチオンである(ウ)PDDA水溶液に1分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬し、(エ)1重量%のシリカ微粒子水分散液ST20に1分間浸漬した後、リンス用の超純水に3分間浸漬する。(ウ)と(エ)の工程を順番に行う工程を1サイクルとして、このサイクルを10回繰返した。
このPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約99%となり、また、裏面からの反射を無視できるように裏面に黒いテープを貼り付けし、5°入射により可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて反射スペクトルを測定したところ、反射率(表面反射率)は0.4%であった。但し、標準ミラーとしてはシリコンを用い、その反射率は文献値(D.E.Aspnes and J.B.Theeten, J.Electrochem.Soc. Vol.127, p1359 (1980))を用いた。サンプルの標準ミラーに対する相対反射率からサンプルの絶対反射率を計算している。使用した基材のPET基板の透過率は91%であり、表面反射率は4%であることから、PET基板上に優れた特性の反射防止膜が形成されたことになる。なお、上記のゼータ電位の測定は、DELSA 440SX(ベックマン・コールター社製)を用い、定電流値0.7〜1.0mAで行った。
同様の工程で、PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(DVA−36LA、溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定したその結果、屈折率が1.29、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は56%となった。なお、上記エリプソメータによる屈折率と膜厚は、反射光のP偏光成分とS偏光成分の振幅比とその位相差から、DVA−36LA装置付属のプログラムによるシュミレーションにより求めた。
また、薄膜(B)である下地層の屈折率は1.53であった。この薄膜(B)の屈折率は、シリコンウエハを基板として用い、上記の(ア)および(イ)の工程を45回繰り返し、PDDAとPSSとの積層膜(厚さ60nm)を得、この積層膜についてエリプソメータにより屈折率を求めたものである。
実施例2
実施例1と同様のプロセスで、材料として、微粒子分散液を日産化学工業社製の数珠状の微粒子を含む、スノーテックスPS−S(STps−s、パールネックレス状シリカゾル)、1重量%水分散液に変えたもの(塩化水素を用いて、pH=9に調整)を用いて、微粒子積層膜を作製した。積層サイクルの回数は8回とした。微粒子分散液のゼータ電位を測定したところ、−36mVであった。得られたPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約99%となり、表面反射率は0.2%であった。
PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.26〜1.27、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は49〜51%となった。
実施例3
実施例1と同様のプロセスで、材料として、微粒子分散液を日産化学工業社製の数珠状の微粒子を含む、スノーテックスPS−S(STps−s、パールネックレス状シリカゾル)、1重量%水分散液に変えたもの(塩化水素を用いて、pH=8に調整)を用いて、微粒子積層膜を作製した。積層サイクルの回数は8回とした。微粒子分散液のゼータ電位を測定したところ、−32mVであった。得られたPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約99%となり、表面反射率は0.2%であった。
PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.26〜1.27、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は49〜51%となった。
実施例4
実施例1と同様のプロセスで、材料として、微粒子分散液を日産化学工業社製の数珠状の微粒子を含む、酸性シリカゾル溶液のスノーテックスPS−SO(STps−so、パールネックレス状シリカゾル)、1重量%水分散液に変えたもの(pH=3.5であった)を用いて、微粒子積層膜を作製した。積層サイクルの回数は3回とした。微粒子分散液のゼータ電位を測定したところ、−23mVであった。得られたPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約99%となり、表面反射率は0.1%であった。
PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.24、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は45%となった。
実施例5
実施例2に用いたSTps−s微粒子分散液(1重量%)に塩化ナトリウムを0.25モル/リットルとなるように加えたものを、1Mの塩化水素水を用いて、pH=9に調整して微粒子分散液として用い、実施例1と同様のプロセスで微粒子分散液に3回浸漬して、微粒子積層膜を作製した。微粒子分散液のゼータ電位を測定したところ、−23mVであった。得られたPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約99%となり、表面反射率は0.1%であった。得られた低屈折率薄膜の反射スペクトルの測定結果を図7に示した。
PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.24、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は45%となった。
得られた微粒子積層膜の走査型電子顕微鏡写真を図8に示した。この電子顕微鏡写真は、得られた微粒子積層膜を、斜め45°の方向から断面(側面)と表面(上面)とを同時に観察したものである。この電子顕微鏡写真から、微粒子積層膜は、個々の微粒子が空隙部を介して接触し、積層していることがわかる。
比較例1
実施例1と同様のプロセスで、ST20の微粒子分散液のpHを10とした。この分散液のゼータ電位を測定したところ、−48mVであった。得られたPET基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、最大の透過率は約98%となり、表面反射率は0.5%であった。得られた低屈折率薄膜の反射スペクトルの測定結果を図9に示した。
PET基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた微粒子積層膜をエリプソメータ(溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.31、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は60%となった。
以上の結果から、微粒子分散液のpHを調整したり、微粒子分散液に電解質を添加したりするなどの方法によって、微粒子分散液中の微粒子の表面電位を示すゼータ電位の絶対値を1〜45mVの範囲に調整することにより、微粒子の積層状態を制御することができ、屈折率が低く、透過率の高いプラスチック基材上に形成された光学機能薄膜としての低屈折率薄膜が得られることがわかる。