JP2006289460A - 粗度の小さく平滑な表面を有する金属板のプレス成形方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 従来使用されていたダル材料に代わり、材料コストの低いミルフィニッシュ材を使用するプレス成形において、その摩擦係数の異方性を問題ない程度にまで低減させる低コストなプレス成形方法を提示する。
【解決手段】 材料表面の圧延方向およびそれと垂直な方向の表面粗度の平均が0.5μm以下であり、各々の方向の表面粗度の差が0.02μm以上であるアルミニウム合金プレス成形において、表面の粗度が0.05μm以上である金型を用いてプレス成形する。このとき、金型表面に潤滑油を塗布することが望ましい。
【選択図】 図1
【解決手段】 材料表面の圧延方向およびそれと垂直な方向の表面粗度の平均が0.5μm以下であり、各々の方向の表面粗度の差が0.02μm以上であるアルミニウム合金プレス成形において、表面の粗度が0.05μm以上である金型を用いてプレス成形する。このとき、金型表面に潤滑油を塗布することが望ましい。
【選択図】 図1
Description
本発明は、粗度の小さく平滑な表面にて見られる、摩擦係数の異方性を有するアルミニウム合金板材のプレス成形方法に関する。
自動車含め各種輸送機器の燃費削減および二酸化炭素や排気ガスの排出低減のために、構造材料の軽量化が進められている。その中で自動車材料の場合には質量密度の高い鋼から質量密度の低いアルミニウム合金が適用される傾向にある。
自動車用材料での鋼からアルミニウム合金への変更時の問題の一つが材料コストである。アルミニウム合金は鋼に比べて高価なために、アルミニウム合金を使用すれば自動車の価格は上がる。その結果、軽量化による各種効果の社会的効果は得られにくくなる。したがって、アルミニウム合金のコスト低下は、軽量な自動車の普及を促し、経済および環境への効果を増大させることになる。
現在、自動車部品を製造するプレス加工工程において、その被加工材となる6000系又は5000系のアルミニウム合金板はダル材を使用している。ダル材とは最終焼鈍工程のダルロールと呼ばれるロールによる軽圧下の工程を通過した材料のことである。このダルロールの表面は粗度が粗いためにダル材の表面は通過前に比べて粗くなる。そのため、塗装性が改善される。
このダルロールを通過しない圧延仕上げ材を、圧延で仕上げることにより、ミルフィニッシュ材と呼ぶが、その表面はダル材に比べて平滑であり、かつダルロールの工程費用分だけ材料価格は低くなる。したがって、製造コスト低減の方法として、従来より使用されていたアルミニウム合金のダル材からミルフィニッシュ材を適用することが考えられる。
しかし、ミルフィニッシュ材の適用には大きな問題がある。ミルフィニッシュ材ではダル材に比べて摩擦係数の異方性差が大きい。ミルフィニッシュ材の表面は一般に表面粗度Ra0.5μm以下の平滑な面であるが、圧延方向に揃ったロールの微小な溝があり、凹凸の高さで表した場合、圧延方向と圧延幅方向とで0.02μm〜0.2μm程度の差がある。この差があるために、圧延方向とそれと垂直な方向とでの摩擦係数の差が大きくなる。摩擦係数の異方性差が大きいことは材料流入の異方性差を生じさせる。異方性差が大きければ、流入量を事前に予測することが困難である。
現在、プレス用金型の作製コスト削減のために、成形シミュレーション計算を使って事前に設計金型の成形不具合の検出を行っている。しかし、この計算の実施は摩擦係数の異方性差が殆どないか極めて小さいことを前提にしているので、異方性差が大きいミルフィニッシュ材では、成形不具合の事前予測は計算では困難となる。その結果、成形不具合はプレス現場での試行錯誤による作業で行われ、その作業費用により金型作製コストは高くなり、ミルフィニッシュ材使用によるコスト低減の効果は消失してしまう。逆に、実成形において、摩擦係数の異方性を生じさせない成形方法が構築できれば、ミルフィニッシュ材による材料コストの低下分が製品に反映できることとなる。
このような板面内での摩擦係数の異方性が成形性に及ぼす影響については、特許文献1に記載されている。ここでは、上述したように材料流入の異方性差、すなわち圧延方向とそれと直角な方向での材料流入差が問題であるとしている。しかし、この文献では、ダルロールの使用により製造されるダル材だと摩擦係数の異方性差が小さく、プレス成形性に優れるとしており、この文献は、本発明が対象としているミルフィニッシュ材使用を前提としたプレス成形技術ではない。このように、従来ではダル材の使用を前提としてプレス成形が考えられており、ミルフィニッシュ材の使用を前提としたプレス成形技術は開発されていない。
ところで、素材にダル加工するのではなく、粗く加工した金型表面を用いたプレス技術はないわけではない。特許文献2には成型凹部の開口縁に突起をつける技術が開示されており、特許文献3にはRa0.5μmの金型の実施例が記載されている。しかしこれらは、結局は鋼板をプレス成形する技術であり、アルミニウム合金板をプレス成形する際の特有な摩擦について示唆するものではない。
ミルフィニッシュ材では表面の摩擦係数の異方性が生じる。通常、プレス成形の金型作製において、成形シミュレーション計算により成形性を事前予測することで金型作製のコスト低減を図っている。しかし、シミュレーション計算ではこの摩擦係数の異方性を取り込み計算することが、現状技術ではできない。それゆえ、低コストのミルフィニッシュ材を使用する場合は、シミュレーション計算が出来ないために、金型作製は試行錯誤の作業となりコストがかかる。ミルフィニッシュ材の摩擦係数の異方性が解消されれば、シミュレーション計算が出来、ミルフィニッシュ材の低コストが製品に反映される。
したがって、本発明の課題は、従来使用されていたダル材料に代わり、材料コストの低いミルフィニッシュ材を使用するプレス成形において、その摩擦係数の異方性を問題ない程度にまで低減させる、粗度0.5mm以下の粗度の小さい平滑な成形材を得る低コストなプレス成形方法を提示することである。
金属板のプレス成形における摩擦係数は接触する表面の状態と潤滑剤により決まる。そこで、まずは潤滑剤の選択によりミルフィニッシュ材の摩擦係数の異方性解消を調査した。結果、潤滑剤の選択により摩擦係数の絶対値は変わるものの、摩擦係数の異方性差は解消されることはないことが判明した。
次に、表面状態について検討してみた。プレス用の材料の表面状態をプレス成形時に調整することは困難である。しかし、表面状態を変えたプレス用金型を使用することでプレス成形時の摩擦係数を調整する方法が考えられた。摩擦現象は金属表面の凹凸における油溜りの量と潤滑剤の組み合わせて決定されるという考え方がある。従来では、潤滑剤を材料表面のオイル溜りに保持させる考え方で摩擦係数の調整を試みてきており、一方で金型表面にはオイル溜り生成させる必要はなかった。そのため、一般的に金型表面は光沢ある平滑な表面であり、そこにオイル溜りの効果はない。また、粗度の粗いものが有っても少なくともオイル溜まりを示唆するものも無かった。そこで、金型表面のオイル溜りの生成によりプレス成形時の摩擦係数を制御することを考えた。つまり、金型表面を従来の平滑な状態から凹凸のある状態にし、ダル材にて材料表面が有していたオイル溜りの効果を金型表面に保持させることを考えた。この様に金型表面で摩擦係数を決定させる考え方により、材料表面での摩擦係数の異方性差を解消させる方法を発明した。その結果、金型粗度が0.05μm以上であれば、摩擦係数は材料表面によらず金型表面と潤滑剤にて決定するといえた。
本発明は、以上の知見をもとにしてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)材料表面の圧延方向およびそれと垂直な方向の表面粗度の平均が0.5μm以下であり、各々の方向の表面粗度の差が0.02μm以上であるアルミニウム合金プレス成形において、表面の粗度が0.05μm以上である金型を用いてプレス成形することを特徴とする粗度を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
(2)前記金型表面に潤滑油を塗布することを特徴とする(1)に記載の粗度の小さい平滑な表面表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
(3)前記アルミニウム合金板がミルフィニッシュ材であることを特徴とする(1)または(2)に記載の粗度の小さい平滑な表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
(1)材料表面の圧延方向およびそれと垂直な方向の表面粗度の平均が0.5μm以下であり、各々の方向の表面粗度の差が0.02μm以上であるアルミニウム合金プレス成形において、表面の粗度が0.05μm以上である金型を用いてプレス成形することを特徴とする粗度を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
(2)前記金型表面に潤滑油を塗布することを特徴とする(1)に記載の粗度の小さい平滑な表面表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
(3)前記アルミニウム合金板がミルフィニッシュ材であることを特徴とする(1)または(2)に記載の粗度の小さい平滑な表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
本発明において、表面粗度はRaで表示される。
本発明により、アルミニウム合金のミルフィニッシュ材のプレス成形時の摩擦係数異方性差が解消し、成形シミュレーション計算による成形不具合の事前予測が可能となる。その結果、ダル材を使用した場合と同様にミルフィニッシュ材を使用した製品設計が可能となり、ダル工程を省略した分の材料コスト低減が、最終製品への価格低減へと反映される。自動車用のアルミニウム合金の場合では、従来よりも安くアルミニウム合金を使用することが可能となり、より安い軽量化自動車の生産への工業的貢献は大きい。なお、本発明は、アルミニウム合金のミルフィニッシュ材の様に平滑かつ摩擦係数の異方性差のある他金属材料のプレス成形への展開の可能性もある。
本発明は、通常、材料表面と潤滑剤で主に決まる摩擦係数を金型表面と潤滑剤で制御し、材料表面の摩擦係数の異方性差を解消させる方法を示すものである。具体的には金型表面の凹凸を大きく、かつ凹凸が等方的に分布していることが望ましい。すなわち、ダル材の表面のような凹凸分布が望ましい。凹凸の大きさ、すなわちオイル溜りの大きさは必ずしもダル材と同程度にする必要はない。潤滑剤と金型材質との親和性が潤滑剤と材料との親和性と同じとは限らないからである。金型は殆どの場合鋼製であるので、必要な金型表面粗度の大きさはダル材のそれとは異なると考えられる。
そこで、金型粗度の摩擦係数への影響について調査した。図1は、SKD11製の金型を使用した場合の平板引き抜き試験で得られる摩擦係数と金型粗度との相関を示したものである。潤滑剤は通常鋼にて使用される防錆油を使用し、金型粗度はエメリー研磨紙による研磨でそれぞれRa0.017μm、0.046μm、0.057μm、0.081μm、0.18μm及び0.51μmに調整した。通常のプレス用金型は光沢のある状態であり、研磨により金型の光沢がみられる状態を目測で調査したところ、Raにしておよそ0.02μmと推測された。使用した材料は6000系アルミニウム合金で、その試験片形状は板厚1mmで30×300mm形状の短冊状である。試験は200kgの押し付け荷重にて、圧延方向(L方向)と圧延に直角な方向(C方向)の摺動にて摩擦係数を計測した。試験片にはダル材とミルフィニッシュ材を用い、ダル材の粗度はRaにて、圧延方向(L方向)で0.95μm、圧延に垂直な方向(C方向)で0.99μmである。一方、ミルフィニッシュ材の粗度は、L方向で0.19μm、C方向で0.33μmとその異方性はダル材に比べて大きい。図1からわかるように、ダル材の摩擦係数は金型粗度や方向に依存せずほぼ一定であるが、ミルフィニッシュ材は金型粗度がRa0.5μm以下の小さい場合では異方性差が生じている。つまり、表面粗度の異方性差が摩擦係数の異方性差を生じさせていると考えられる。しかし、金型粗度が0.05μm以上になれば、異方性差は解消し、かつ値はダル材とほぼ同じになる。すなわち、金型粗度がRa0.05μm以上に大きければ、摩擦係数は材料表面粗度によらず金型表面と潤滑剤にて決定するといえる。
一方、粗度が大きくなればなるだけ異方性差はより解消する方向ではあるが、大きすぎると成形品の表面に目視できる凹凸を生じさせる懸念がある。したがって、目視レベルでの表面凹凸を認識させないため、金型粗度は5μm以下であることが望ましい。
以上の結果を元に、Raにて0.05μm以上の金型粗度がミルフィニッシュ材の摩擦係数の異方性差解消に必要であるとした。また、一般的にミルフィニッシュ材の粗度はダル材よりも小さく、およそ0.5μm以下である。したがって、本発明は、材料表面粗度が0.5μm以下の材料に対するものである。
試験金型を用いてミルフィニッシュ材のプレス成形試験を実施した。
素材は6000系アルミニウム合金であり、その成分は質量%でMgが0.6、Siが1.0である。ダル材とミルフィニッシュ材の2材料を用意し、その表面粗度は、ダル材にてL方向で0.95μm、C方向で0.99μm、ミルフィニッシュ材にてL方向で0.19μm、C方向で0.33μmである。板厚は1.0mmであり、プレス成形試験での試験片形状は750×950mmである。
潤滑剤には、通常鋼板にて使用されている防錆油を使用した。
金型は450×600で高さ35mmの角筒金型であり、角筒部頂上の形状は角筒部の短辺方向への曲率が1000mmの湾曲形状である。その頂点からの高さが35mmである。
プレス成形はBHF50tにて行い、潤滑剤には通常鋼板にて使用されている防錆油を使用してプレス成形試験を実施した。最初、金型表面は光沢研磨をした状態であり、同素材の光沢研磨状態の調査から、表面粗度は0.02μmと測定された。なお、この状態が通常のプレス成形での金型の表面状態である。次に、エメリー研磨紙の研磨により金型表面の粗度を高くした。その状態での表面粗度を粗さ計で測定したところ、0.06μmであった。この金型状態にて試験を実施した。
試験では深絞り成形における材料流入量を計測した。試験片の長手方向およびそれに垂直な方向の材料流入量を計測した。図2は金型形状と成形前後の試験片を上から見た状態である。試験は、試験片の板取り方向を変えて行った。すなわち、長手方向が圧延方向の場合とそれに垂直な方向の場合の2条件である。長辺側の流入量λ(ab)=a−b(mm)と短辺側の流入量λ(AB)=A−B(mm)を計測した。
図3は流入量λ(ab)の金型粗度による影響を、図4は流入量λ(AB)の金型粗度による影響を、試験片長辺の板取方向をLとCに変えた場合で示したものである。通常使用される金型表面の状態である表面粗度0.02μmの場合では、流入量の異方性差がミルフィニッシュ材にて見られるが、金型の表面粗度を0.05μm以上にすれば、それは解消し、流入量の大きさは、金型粗度の影響を受けないダル材と同じレベルになる。
Claims (3)
- 材料表面の圧延方向およびそれと垂直な方向の表面粗度の平均が0.5μm以下であり、各々の方向の表面粗度の差が0.02μm以上であるアルミニウム合金プレス成形において、表面の粗度が0.05μm以上である金型を用いてプレス成形することを特徴とする粗度の小さい平滑な表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
- 前記金型表面に潤滑油を塗布することを特徴とする請求項1に記載の粗度の小さい平滑な表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
- 前記アルミニウム合金板がミルフィニッシュ材であることを特徴とする請求項1または2に記載の粗度の小さい平滑な表面を有するアルミニウム合金板のプレス成形方法。
Priority Applications (1)
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JP2005115380A JP2006289460A (ja) | 2005-04-13 | 2005-04-13 | 粗度の小さく平滑な表面を有する金属板のプレス成形方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2005115380A JP2006289460A (ja) | 2005-04-13 | 2005-04-13 | 粗度の小さく平滑な表面を有する金属板のプレス成形方法 |
Publications (1)
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JP2006289460A true JP2006289460A (ja) | 2006-10-26 |
Family
ID=37410617
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JP2005115380A Withdrawn JP2006289460A (ja) | 2005-04-13 | 2005-04-13 | 粗度の小さく平滑な表面を有する金属板のプレス成形方法 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010188403A (ja) * | 2009-02-20 | 2010-09-02 | Furukawa-Sky Aluminum Corp | 形状凍結性に優れたアルミニウム合金板材のプレス成形方法 |
-
2005
- 2005-04-13 JP JP2005115380A patent/JP2006289460A/ja not_active Withdrawn
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