JP2006274789A - 養浜工法 - Google Patents

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Abstract

【課題】構造物を設置することなく、さらに、生物環境に影響を与えることなく、安定した継続実施が可能な養浜工法を提供する。
【解決手段】上記課題は、以下の方法により解決される。
[1]海岸線近傍に、養浜材として、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物を敷設することを特徴とする養浜工法。
[2]海底における砂の移動限界水深域または移動限界水深より浅い海域に、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物による堆砂域を設けることを特徴とする養浜工法。
[3]上記[1]または[2]において、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物に、さらに砂を混合したものを用いることを特徴とする養浜工法。
【選択図】図3

Description

本発明は、沿岸海域における海岸保全のための養浜工法に関する。
現在、国内の海岸線の約6割において、海岸侵食が生じているといわれている。この海岸侵食を抑制或いは復元する方法としては、従来、図5に示すような沖合に汀線と平行に離岸堤や潜堤と呼ばれる構造物を設置する方法(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)、図6に示すような海岸線から沖合に向かって突出するような突堤とよばれる構造物を設置する方法(例えば、特許文献3参照)、図7に示すような砂が堆積している場所から侵食されている場所へ砂を輸送するサンドバイパスと呼ばれる方法(例えば、非特許文献1参照)、図8に示すような潜堤などの構造物と養浜を組み合わせた方法(例えば、非特許文献2参照)などが実施されている。
特開2002−138437号公報 特開2002−242150号公報 特開2002−21037号公報 椹木享、「波と漂砂と構造物」、技報堂出版、1991年5月、p.281-282 椹木享、「環境圏の新しい海岸工学」、フジ・テクノシステム、1999年8月、p. 1320
しかし、上記の方法には以下のような問題がある。すなわち、
図5や図6に示す構造物(特許文献1,2,3参照)は、沖合からの波を消波することによって構造物の背後を静穏域にする。そして、海岸線に対して平行に動いている沿岸漂砂をこの構造物の背後に堆積させることで、海岸侵食を抑制しようとする方法である。ところが、河川などから海岸への土砂供給量が少ない場合、このような構造物を設置すると、沿岸漂砂の上手側(土砂供給源に近い側)の構造物の背後には砂が堆積するが、それより下手側への漂砂量が減少するため、下手側の構造物の背後には砂が堆積せず侵食が続くという問題がある。また、新しく構造物を建設することになるため、侵食対策コストが高くなるといった問題もある。
また、図7に示す方法は、港湾或いは漁港などにより漂砂の連続性が断たれ、一方で堆積、他方で侵食が生じている場所や、航路や泊地の埋没が著しい港と侵食対策が必要な海岸が隣接している場合では有効な手段であるが、それ以外の条件では、侵食されている場所へ投入する砂の確保が難しいことや、毎年新たな砂の投入が必要で、それを実施するためのコストが高くなるといった問題がある。
このようなことから、侵食された海岸を復元するには、侵食による土砂量の減少分を供給する養浜工法が適しているが、養浜を実施するには、養浜材である砂の継続的な確保が難しいことや、他の場所の砂を用いた場合に養浜場所の生物環境に影響を与えるといった問題を有していた。
そこで、本発明は、構造物を設置することなく、さらに、生物環境に影響を与えることなく、安定した継続実施が可能な養浜工法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するための方法について鋭意検討を行った。その中で、養浜を行うための砂の代替材として水砕スラグを用いることが、上記課題解決に有効ではないかとの着想のもとに検討を行った。
図1に、海岸部における砂と、その砂と同じ粒径の水砕スラグとの波浪に対する安定性を比較した実験結果を示す。
図1に示す実験では、水深30cm、波の周期3種類(1.2秒,1.6秒,2.0秒)の条件で、波高を少しずつ高くしていき、砂と水砕スラグが動き始める波高、つまり、移動限界波高を求めた。図1の縦軸は、移動限界波高Hと波の周期から求められる沖波の波長Lの比、横軸は粒径dと沖波の波長Lの比を示している。図中のプロットは、□印が水砕スラグ、×印が砂を表し、直線は最小二乗法による近似直線である。
図1に示すように、水砕スラグの方が同じ粒径の砂よりもH/Lが大きくなっている。このことは、同じ粒径において、水砕スラグの方が動き出す波高が高い、つまり波浪中での安定性が高いことを示しており、養浜材として適した材料であることを示している。
さらに本発明者らによる検討の結果、水砕スラグの替わりに製鋼スラグを用いても同様の効果を有することがわかった。
ここで、水砕スラグ及び製鋼スラグは、鉄鋼の製造過程で生じる副産物であるため生物が含まれておらず、養浜場所の生物環境に影響を与えることがない。さらに、継続的な安定供給が可能な材料である。
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]海岸線近傍に、養浜材として、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物を敷設することを特徴とする養浜工法。
[2]海底における砂の移動限界水深域または移動限界水深より浅い海域に、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物による堆砂域を設けることを特徴とする養浜工法。
[3]上記[1]または[2]において、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物に、さらに砂を混合したものを用いることを特徴とする養浜工法。
本発明によれば、構造物を設置することなく、さらに、生物環境に影響を与えることなく、安定した継続実施が可能な養浜工法が提供される。
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
本発明に係る養浜工法の第1の実施形態は、侵食された海岸線近傍に、養浜材として水砕スラグを敷設するものである。
図2に、海岸域での地形変化の模式図を示す。台風等の暴風時に浸食された海岸の砂が、沖合側の海底に堆砂域(バー)を形成し(図2(a))、静穏時に波の作用により、その堆砂域(バー)の砂が岸側に堆積する(図2(b))。その際、一部は沿岸漂砂の下手側に流されていき、下手側に堆積する。このような侵食、堆積を繰返しながら、その場所での平衡状態となる。ところが、上手側からの砂の供給が少なくなると、平衡状態が崩れて海岸線において侵食が生じる。
そこで、本実施形態においては、前記侵食された海岸線近傍に、養浜材として水砕スラグを敷設し、侵食された海岸の復元を行うものである。ここで、前記養浜材として用いる水砕スラグは、同じ粒径の砂と比較して波浪中での安定性が高く、また、生物環境にも影響を与えず、継続的に安定供給が可能である。
図3に、侵食された海岸線1近傍に水砕スラグ2を敷設する場合の一例を示す。海岸線1近傍に水砕スラグ2を敷設することで侵食海岸を復元することができ、さらに、水砕スラグ2は砂よりも波浪に対する安定性が高いため、その後の侵食が進行しにくくなる。
前記水砕スラグ2を侵食された海岸まで運搬する方法としては、トラック等による陸上輸送、または、船舶による海上輸送により運搬する方法を用いることができる。但し、海上輸送の方が、水砕スラグを大量に輸送できるため輸送コストは安くなる。
また、本発明に係る養浜工法の第2の実施形態は、海底における砂の移動限界水深域または移動限界水深より浅い海域の海底に、水砕スラグによる堆砂域(バー)を設けるものである。上述したように、海岸においては、台風等の暴風時に浸食された海岸の砂は、沖合側の海底に堆砂域(バー)を形成し(図2(a))、静穏時に波の作用により、その堆砂域(バー)の砂が岸側に堆積する(図2(b))というサイクルを繰り返す。本実施形態はこのメカニズムを利用したものである。
ここで、前記海底における砂の移動限界水深(hi)は、一般に次式(1)の関係から算出することができる(『椹木享、「環境圏の新しい海岸工学」、フジ・テクノシステム、1999年8月、p. 130』参照)。なお、次式(1)における係数α及びnとしては、海底表層の第1層がほとんど動き出す全面移動の場合の係数(α=1.77,n=1/3)、または、集合的にある方向性をもって掃流移動を開始する表層移動の場合の係数(α=0.741,n=1/3)を用いることができる。
Figure 2006274789
ここで、上式(1)において、H,Lは、移動限界水深(hi)における波高(m)と波長(m)であり、H,Lは、沖波の波高(m)と波長(m)を表している。また、dは水砕スラグの粒径(m)である。
上式(1)により算出される移動限界水深(hi)は、その海域における波高(m)と波長(m)が、例えば季節等により変化することで若干変化し得る、ある範囲を持った値である。なお、『宇多高明、「日本の海岸侵食」、山海堂、1997年6月1日、p. 418』には、各地の代表的な海岸における移動限界水深(hi)に関する記載がある。
また、養浜材として用いる水砕スラグの粒径は、海岸の波浪条件や海底勾配により調整することが好ましい。養浜材粒径と波浪条件、海底勾配の関係は、一般に次式(2)により示すことができる(『堀川清司、「海岸環境工学」、東京大学出版会、1985年6月、p. 140』、『宇多高明、「実務者のための養浜マニュアル」、土木研究センター、2005年10月、p. 74』参照)。
Figure 2006274789
ここで、tanαは海底勾配、Hbは砕波波高(m)、gは重力加速度(m/s)、dは養浜材の粒径(m)、Tは波の周期(s)である。波浪中での養浜材の安定性を高めるためには、上式(2)の左辺より右辺が大きくなるような粒径の養浜材を用いることが好ましい。例えば、砕波波高2.5m、波の周期3.6sであるような海岸においては、養浜材の粒径は1.5mm以上とすることが好ましい。一般に海砂の粒径は0.1〜0.7mm程度の粒子が多いが、例えば製鋼スラグでは2mm以上の粒径のものが50%以上あり、好適に使用できる。
また、図4に、船舶などにより沖合に水砕スラグ2を敷設して、人工の堆砂域(バー)3を設ける場合の一例を示す。前記堆砂域(バー)3を海底における砂の移動限界水深域または移動限界水深より浅い海域の海底に設けることで、堆砂域(バー)3の水砕スラグ2は、波の作用により岸側に移動し、堆積することで侵食海岸を復元する。さらに、堆積した水砕スラグは砂よりも波浪に対する安定性が高いため、その後の侵食が進行しにくくなる。
上記第1及び第2の実施形態においては、養浜材として、水砕スラグを単独で用いる場合について記載したが、前記水砕スラグの替わりに製鋼スラグを単独で、或いは水砕スラグと製鋼スラグの混合物を、さらには、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物に、さらに砂を混合したものを用いても上記と同様の効果を有する。なお、前記砂の混合割合は、砂の入手状況により適宜調整することが可能である。
ここで、前記製鋼スラグは、水砕スラグに比較して平均粒径が大きいため、波の荒い場所においての波浪中での安定性が高い。そのため、荒れた海岸においては製鋼スラグを単独で、或いは製鋼スラグの含有量を多くしたものを用いることが好ましい。
下表1に、一般的な水砕スラグ及び製鋼スラグの粒度分布の一例を示す。
Figure 2006274789
海岸部における砂と、その砂と同じ粒径の水砕スラグとの波浪に対する安定性を比較した実験結果を示す図である。 海岸域での地形変化の模式図である。 本発明に係る、侵食された海岸線近傍に水砕スラグを敷設する場合の一例を示す図である。 本発明に係る、船舶などにより沖合に水砕スラグを敷設して、人工の堆砂域(バー)を設ける場合の一例を示す図である。 従来技術に係る、沖合に汀線と平行に離岸堤や潜堤と呼ばれる構造物を設置する方法を示す図である。 従来技術に係る、海岸線から沖合に向かって突出するような突堤とよばれる構造物を設置する方法を示す図である。 従来技術に係る、砂が堆積している場所から侵食されている場所へ砂を輸送するサンドバイパスと呼ばれる方法を示す図である。 従来技術に係る、潜堤などの構造物と養浜を組み合わせた方法を示す図である。
符号の説明
1 海岸線
2 水砕スラグ
3 堆砂域(バー)

Claims (3)

  1. 海岸線近傍に、養浜材として、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物を敷設することを特徴とする養浜工法。
  2. 海底における砂の移動限界水深域または移動限界水深より浅い海域の海底に、水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物による堆砂域を設けることを特徴とする養浜工法。
  3. 水砕スラグまたは製鋼スラグの単独、或いはこれらの混合物に、さらに砂を混合したものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の養浜工法。
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