JP2006251633A - 鍵盤楽器 - Google Patents

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Abstract

【課題】自動演奏ピアノにおいて、打弦速度の推定値をハンマ速度に応じて変更することで、実際に行われた打弦速度に対して、より忠実なハンマ速度計算を行うことができるようにする。
【解決手段】センサは打弦運動するハンマの変位を検出し、センサの出力を等サンプリングで取り込む。取り込んだ値はテーブルTABLEに格納される。テーブルTABLEには所定の過去複数時点のデータが保持される。テーブルTABLEに保持された過去複数点のデータに基づき、ハンマの打弦速度Vaの推定する。該推定した値Vaを所定の閾値Cと比較して、該推定値Vaが閾値Cより小さい弱打打弦であれば、別の計算式で速度Vbの推定を行い、推定値を該速度Vbに変更する。
【選択図】図5

Description

この発明は、鍵の動作に応じて往復変位するアクション部材の機械的動作に基づき発音が行われる鍵盤楽器において、前記アクション部材の運動に関する物理量に基づき、該アクション部材の動作速度の情報を生成する技術に関する。
従来より、自動演奏ピアノ等の鍵盤楽器においては、鍵やハンマ等の動きをセンサで検知し、検出結果を演奏データとして記録したり、電子音源に供給して楽音を電子的に発生することが行われている。この種の鍵盤楽器において、ハンマの動作を連続量で検出するハンマセンサを設けたものが知られている。下記特許文献1には、ハンマセンサを有する鍵盤楽器の一例として、ハンマシャンクの変位を連続量で検出するハンマセンサを設け該ハンマセンサからハンマ運動に関する物理量(位置、速度或いは加速度)を連続量で検出し、その検出結果を用いて、ピアノ演奏に関わる種々の情報を取得する装置が開示されている。該ピアノ演奏に関わる種々の情報は、例えば下記(1)〜(9)等である。すなわち;(1)ハンマの動作開始タイミング、(2)打弦タイミング、(3)打弦直前のハンマ速度、(4)押鍵タイミング、(5)バックチェックタイミング、(6)バックチェックが外れたタイミング、(7)バックチェックが外れた後のハンマ速度、(8)ダンパ復帰タイミング、(9)ハンマ動作終了タイミング、(10)離鍵タイミングなどである。
特開2001−175262号公報
上記特許文献1に代表される従来の装置構成において、信号処理系では、ハンマセンサの出力に基づき打弦直前のハンマ速度(打弦速度)を計算している。この計算は、過去の複数時点で取得したセンサ出力値を使用して、打弦速度の推定値を求めるものである。
ところで、打弦動作時のハンマの軌道は、鍵に与えられた打鍵操作の強さ(速度)の違いに応じて、特性が異なる。例えば、通常の打鍵速度によるハンマの動作軌道(通常打弦軌道)と、弱い打鍵速度でのハンマの動作軌道(弱打打弦軌道)は、図9(a)及び(b)に示す通りである。両図から、(b)の弱打打弦軌道では、(a)の通常打弦軌道に比べて、ハンマの変位が緩いカーブを描くことが見て取れる。このように、通常の打弦動作と弱打打弦とではハンマの動作の運動特性が異なっている。従来の技術では、該運動特性の違いを考慮したハンマ速度の推定計算を行っていないので、(b)に示す弱打打弦の場合において、速度の推定を正確に行うことができなかった。従って、弱打打弦時など、打弦速度によっては、推定された速度が、実際の速度に対して忠実性を欠く、という不都合があった。
この発明は上述の点に鑑みてなされたもので、実際に行われた打弦速度に対して、より忠実なハンマ速度計算を行うことができる鍵盤楽器を提供することを目的とする。
この発明は、鍵と、前記鍵の操作に連動して打弦運動するアクション部材と、前記鍵の操作に連動した前記アクション部材の運動に関する物理量を検出する検出手段と、前記検出手段から出力されたデータを過去の複数時点分保持するデータ保持手段と、前記データ保持手段に保持された複数のデータに基づく多項式演算により前記アクション部材の打弦速度の推定値を求める推定手段であって、前記アクション部材の運動特性に応じて推定結果が変更されるものとを備える鍵盤楽器である。
また、この発明に係る鍵盤楽器は、前記推定手段は、前記データ保持手段に保持された複数の物理量のデータに基づく多項式演算により打弦速度の推定値を求める第1の算出手段と、前記第1の算出手段とは異なるアルゴリズムで打弦速度の推定値を求める第2の算出手段で構成され、前記アクション部材の運動特性に応じて前記第1又は第2の算出手段の何れか一方が選択されることで、該運動特性に応じて該推定手段の推定結果が変更されることを特徴とする。
或いは、この発明に係る鍵盤楽器は、前記推定手段は、前記データ保持手段に保持された複数の物理量のデータに基づく多項式演算により打弦速度の推定値を求める算出手段と補正手段とで構成され、前記データ保持手段において、前記算出手段が過去の複数点で求めた推定値を保持する手段を更に有し、前記補正手段により、前記データ保持手段に記憶された過去の推定値を用いて現時点で求めた推定値を補正することで、前記アクション部材の運動特性に応じて該推定手段の推定結果が変更されることを特徴とする。
この発明によれば、鍵盤楽器において、鍵の操作に連動したアクション部材の運動に関する物理量を検出する検出手段と、検出手段から出力されたデータを過去の複数時点分保持するデータ保持手段と、前記データ保持手段に保持された複数のデータに基づく多項式演算により前記アクション部材の打弦速度の推定値を求める推定手段であって、前記アクション部材の運動特性に応じて推定結果が変更されるものとを備える。前記アクション部材の運動特性は、例えば打弦速度の強弱であり、該運動特性に応じて推定結果が変更されることで、前記推定手段により求める打弦速度の推定値は、実際のアクション部材の打弦速度に対してより忠実な値となる。また、前記推定手段において、推定値を変更するための構成として、第1の算出手段と、前記第1の算出手段とは異なるアルゴリズムで打弦速度の推定値を求める第2の算出手段により構成し、前記アクション部材の運動特性、例えば打弦速度の強弱、に応じて、両者を選択的に使用するよう構成してもよいし、或いは、前記推定手段を、算出手段と補正手段とで構成し、前記算出手段が過去の複数点で求めた推定値を前記データ保持手段に保持しておくと共に、前記補正手段により、前記データ保持手段に記憶された過去の推定値を用いて現時点で求めた推定値を補正することで、前記アクション部材の運動特性に応じて該推定手段の推定結果を変更してもよい。何れの場合においても、該運動特性に応じて推定結果が変更されることで、実際のアクション部材の打弦速度に対して、より忠実な打弦速度の推定を行うことができるようになるという優れた効果を奏する。これにより、自動演奏ピアノにおいて、手弾き演奏を録音する際には、従来、忠実な打弦速度を得ることが難しかった弱打打弦等、運動特性が特殊な打弦であっても、正確な演奏の記録が行えるようになるという優れた効果を奏する。
以下添付図面を参照して、この発明の一実施例について説明する。
図1は、この発明の一実施例に係る自動演奏ピアノの構成例を説明するための図であって、機械的な発音機構の要部を抽出して示すと共に、電気的制御系の機能ブロックを示している。図1に示すように、自動演奏ピアノは、機械的な発音機構として、鍵1と、該鍵1に連動して回動ストロークするハンマ2と、該鍵1の運動をハンマ2に伝達するためのアクション機構3と、該ハンマ2によって打撃される弦4と、電気的制御に基づき鍵1を駆動する電磁ソレノイド5と、弦4の振動を止めるためのダンパ6とを含む。これらの構成は、一般的な自動演奏ピアノと同様である。なお、後述するように、この実施例においては、電磁ソレノイド5の駆動をサーボ制御する構成が適用されており、ソレノイド5にはプランジャ動作を検出するフィードバックセンサが具備されるものとする。
また、この自動演奏ピアノには、通常のアコースティックピアノと同様にバックチェック7が設けられており、このバックチェック7は打弦時の反動によるハンマ2の暴れを防止するための部材である。この自動演奏ピアノは、上記のほかにも、通常のアコースティックピアノと同様な各種構成要素を具備するが、それらの説明及び図示は省略する。ハンマ2は、アクション機構3に対して、ハンマシャンク2aを介して動作支点2bを中心にして回動自在に連結されており、対応する鍵1が非押鍵(外力を加えない状態)の時には、図1に示すようなレスト位置(ストローク量0mmの位置)にある。そして、対応する鍵1の変位(上下揺動)に連動して、基本的には該レスト位置から所定のエンド位置の間で回動ストロークする。この実施例において、ハンマ2のエンド位置は、ハンマ2が該レスト位置から48mmストローク変位した位置とする。図1において、エンド位置に位置するハンマ2を点線で示している。
図1において、符号26は、ハンマ2の運動に応じた物理量の情報を連続量で検出するハンマセンサである。ハンマセンサ26は、例えば、ハンマ2の連続的な位置情報を出力可能な光学式の位置センサで構成してよい。ハンマセンサ26として好適な光学式センサの構成例について簡単に説明すると、光学式センサは、例えば、LEDと光ファイバで繋がる発光側センサヘッドと、フォトダイオードと光ファイバで繋がる受光側センサヘッドとを有し、該LEDの光が発光側センサヘッドから照射されて、フォトダイオードと光ファイバで繋がる受光側センサヘッドにおいて受光され、フォトダイオードによって受光量に応じた出力電圧を取り出すことができる。該受光側センサヘッドにおいて受光する光量が、ハンマ2の変位に対応して変化するよう構成することで、該ハンマ2の変位に応じた出力電圧を当該センサ26の検出信号として得ることができる。該センサ26から出力される電圧値(アナログ信号)は、図示を省略したOPアンプ、AD変換器を介してディジタル変換され、後述する演奏記録部27に出力される。以下、この明細書中では、ディジタル信号に変換されたセンサ出力信号を「AD値(アナログ/ディジタル変換値)」と略称する。AD値は、センサ26の出力(すなわちハンマ位置の測定値)を、例えば「0〜1023」の範囲の数値によって表現するデータである。
なお、当該自動演奏ピアノに備わる全てのハンマ(88個)に対して、夫々独立したセンサ26(LEDとフォトダイオード)を配設するとコストが高くなってしまう。この点について、12個のLEDと8個のフォトダイオードとを用いて、88個のハンマの夫々の動きを個別にセンシング可能なセンサマトリクスを構成する技術が本出願人により提案されており(特開平9−54584号公報を参照)、この実施例に係るセンサ26は該センサマトリックスにより構成されるものとする。なお、センサの配設構成はセンサマトリックスによる構成に限らず、LEDとフォトダイオードからなるセンサ26を当該自動演奏ピアノに備わる全てのハンマに個別に配設する構成であってもよい。また、ハンマセンサの構成例は、上記の一例に限らず、例えば上記特許文献1に記載された複数の構成例などのように、ハンマの運動に関する物理量を連続的に検出できるものであれば、どのような構成を適用してもよい。
図2は図1に示す自動演奏ピアノの電気的ハードウェア構成の概略を示すブロック図である。図2に示すように自動演奏ピアノは、CPU20、ROM21、RAM22、記憶装置23、インターフェース(I/O)24を含むマイコンを備え、各装置間がデータ及びアドレスバス20Bを介して接続される。センサ26の出力信号(アナログ信号)はAD変換器を含むインターフェース(I/O)24を介してディジタル信号に変換されて、所定の等サンプリング周期で制御系に取り込まれる。
CPU20は、自動演奏ピアノの全体的な動作を制御すると共に、この自動演奏ピアノの基本的な動作、即ち、演奏データの再生処理やピアノ演奏の録音処理等、各種信号処理を実行する。この実施例において、前記の各種信号処理は、当該処理を実行するためのソフトウェアプログラムによって構成及び実施されるものとする。該ソフトウェアプログラムは、例えばROM21内に記憶されていてよい。また、ROM21或いはRAM22等の適宜のメモリには、各種信号処理の実行中に発生した各種データや各種パラメータや、該各種信号処理において参照する各種テーブル等が記憶される。
また、記憶装置23は、ハードディスク、フレキシブルディスク又はフロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD‐ROM)、光磁気ディスク(MO)、ZIPディスク、DVD(Digital Versatile Disk)、半導体メモリ等、適宜の記録媒体で構成されてよい。記憶装置23は、再生すべき演奏データの供給手段として、或いは、ピアノ演奏を録音するための媒体として利用される。なお、当該自動演奏ピアノには、この他にも演奏データの再生や演奏録音に関する各種指示、入力をユーザが行うための操作子群を含む操作パネルや該操作子等を駆動、検出するための機構、その機構を制御するためのソフトウェアや、表示器(ディスプレイ)や、電子音源装置や、その他の外部機器(コンピュータやMIDI機器など)、インターネット等の通信ネットワークに接続するためめの通信インターフェース等が適宜に具備されてよい。
当該自動演奏ピアノの基本的な機能である「演奏データの再生」と「ピアノ演奏の録音」の大略について簡単に説明する。図1において、演奏記録部27は、センサ26の出力に基づき、演奏者が行ったピアノ演奏の演奏内容を演奏データとして記録する処理(演奏の録音処理)を担うモジュールである。また、再生前処理部10、モーションコントローラ11及びサーボコントローラ12は、演奏データの再生処理を担うモジュールである。この実施例において、これら各モジュールにて実施する信号処理は、CPU20が実行するソフトウェアプログラムによって実現される。
先ず、再生処理の動作の概略について説明する。ユーザは、図示しない操作パネル上のスイッチ操作等により、所望の演奏データの再生指示を行うことができる。
再生前処理部10は、図示しない適宜の記録媒体やリアルタイム通信装置等から供給される演奏データに対して適宜の正規化や単位合わせ等を行い、鍵1の打鍵軌道を生成するために必要な条件となるデータ(これを再生動作データと呼ぶ)を生成する。前記単位合わせは、例えばMIDI形式で与えられたデータを、例えばミリメートル単位やミリメートル毎秒単位等の記述単位に変換する処理である。再生動作データは時間、位置、速度の情報を含んで構成される。モーションコントローラ11は、前記再生動作データに基づき、再現すべき打鍵軌道を指示するための軌道リファランスref(軌道目標値)を生成する。サーボコントローラ12は、前記軌道リファランスrefとソレノイド5から帰還入力されるフィードバック速度信号Vyに基づく励磁電流(図2のPWM発生器25によって発生されるPWM形式の電流信号)をソレノイド5に供給し、該ソレノイド5の駆動をサーボ制御する。これにより、前記演奏データに応じた軌道(ストローク動作)に従い鍵1が打鍵駆動されて、ハンマ2が打弦運動することで、演奏データに応じたピアノ演奏が行われる。また、上記のようにソレノイド5の駆動により鍵1の打鍵動作を制御して、機械的に楽音を発生させることのみならず、音源装置やスピーカ等から構成される電子楽音発生部13を利用して電子的に楽音を発生させることもできる。なお、電子楽音発生部13によって電子的に自動演奏を行う際の演奏データのデータ形式や、音源方式等は従来から知られるどのようなものを適用してもよい。
次に、ピアノ演奏の録音動作の概要を説明する。ユーザは、図示しない操作パネル上のスイッチ操作等により、ピアノ演奏の録音開始指示を行うことができ、該録音開始指示に応じて、当該自動演奏ピアノは下記の録音動作を行う。演奏者によってピアノ演奏が行われると、センサ26は、該ピアノ演奏(打鍵操作)によって生起するハンマ2の運動に応じた出力信号(AD値)を出力する。演奏記録部27は、センサ26から出力されたAD値(ハンマ2の動作位置を表すデータ)に基づき、打弦タイミングや打弦速度等、演奏に関わる種々の情報を生成し、該生成した種々の情報に基づき、MIDI形式等の適宜のデータフォーマットの演奏データを生成する処理を行う。前記演奏データは、基本的には、キーナンバ、ベロシティデータ(打弦速度)及び時刻データを含んで構成されるキーオン/キーオフデータである。生成された演奏データは、適宜正規化処理された後に、例えば、図示しない入出力インターフェースを介して図示しない外部機器(例えば、図2の記憶装置23など)に記録したり、或いは、図示しない通信ネットワークを介して該ネットワーク上の他の装置にリアルタイムで供給したりしてよい。また、前記正規化処理とは、ピアノの個体差を吸収するための処理であり、該種々の物理情報は、各ピアノにおけるセンサの位置や、構造上の違い、あるいは、機械的誤差によって固有の傾向を持つので、標準となるピアノを想定して、該基準となるピアノにおける打弦時刻・打弦速度等に変換する処理である。詳しくは後述するように、この発明は、ピアノ演奏の録音時におけるハンマ速度(打弦速度)の算出処理の改良に関わり、ハンマ2の打弦動作の運動特性(打弦の強弱)に対応してハンマ速度算出のアルゴリズムを異ならせることにある。センサ26の出力に基づくハンマ速度算出処理の詳細は後述する。
前記ピアノ演奏の録音動作において、演奏記録部27がセンサ26の出力に基づきハンマ2の動作の状態を把握するには、センサ26の出力(AD値)をハンマの実際のストローク位置に対応付けて認識する必要がある。このため、この実施例に係る自動演奏ピアノでは、ハンマ2の所定の複数のストローク位置とセンサ26の出力たるAD値を対応づけた複数の閾値(参照値)を設定し、該参照値とセンサ26の出力値の比較により、ハンマ2の実動作を把握している。この実施例において、参照値を設定するハンマ動作位置(参照位置)として、例えば、ハンマ2のレスト位置(ストローク量0mmの位置)、エンド位置(レスト位置からのストローク量48mm)、第1参照位置M1(前記エンド位置から8mm下がった位置)及び第2参照位置M2(前記エンド位置から0.5mm下がった位置)の4点を定める。前記4点の参照値は、後述する図3の処理により求めることができる。ここで、前記参照値を求めるにあたっては、「キャリブレーション比」というパラメータが使用されている。
前記キャリブレーション比は、レスト位置のAD値とエンド位置のAD値の比率を表現した値である。キャリブレーション比の設定は、例えば工場出荷時等に実行される処理であり、エンドユーザに当該自動演奏ピアノが提供される状態では既に当該ピアノ内の適宜のメモリに記憶されている。ここで「キャリブレーション比」の設定処理について簡単に説明する。当該処理の起動は、図示しない操作パネルに具わる所定のスイッチ操作等によって指示できてよい。キャリブレーション比の設定処理では、先ずセンサ26によりハンマ2のレスト位置におけるAD値を実測し、次いで、ハンマ2をエンド位置まで駆動せしめ、該エンド位置におけるAD値を実測する。そして、前記実測したレスト位置のAD値に対するエンド位置のAD値の比率を、当該ハンマ2についてのキャリブレーション比として算出する。前記算出したキャリブレーション比は、ROM21或いはRAM22等適宜のメモリ(例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリ)内に記憶される。なお、キャリブレーション比の算出は88個の各ハンマについて個別に行われる。また、88個の各鍵についても同様にキャリブレーション比を求めてよい。なお、「キャリブレーション比」については、例えば特開2000−155579号公報の記載等に詳しい。
前記キャリブレーション比を用いて前記4点の参照値を設定する処理について説明する。図3は参照値を求めるための処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理は、88個のハンマ2の各々について実行するものであるが、ここでは図示及び説明の便宜上、或る1つのハンマ2についての処理のみ示して、他を代表するものとする。 この処理は、当該自動演奏ピアノの電源投入時に起動する。自動演奏ピアノに電源が投入されると、センサ26はハンマ2の現在位置をセンシングして、該センサ26から出力されるAD値を演奏記録部27に取り込む(ステップS1)。電源投入直後には、鍵1は非押鍵状態にある、つまりハンマ2がレスト位置にあると想定できるので、ここで取り込んだAD値は、当該ハンマ2のレスト位置に相当するデータ「レスト値R」としてRAM22(図2参照)等適宜のメモリ内に記憶される。ステップS2では、前記ステップS1で取り込んだレスト値Rと、前述の通り当該ピアノの適宜のメモリ内に予め記憶されている前記キャリブレーション比とに基づき、当該ハンマ2のエンド位置に相当する参照値「エンド値E」が算出される。該算出されたエンド値EはRAM22等適宜のメモリ内に記憶される。ステップS3では、前記ステップS1で取り込んだレスト値Rと、前記キャリブレーション比とに基づき、ハンマ2の第1参照位置M1に相当する参照値「第1参照値m1」及び第2参照位置M2に相当する参照値「第2参照値m2」を算出する。該算出された第1参照値m1及び第2参照値m2もまた、RAM22等適宜のメモリ内に記憶される。前記の参照値m1及び参照値m2は、打弦判定等に際して参照される主要な閾値である。なお、鍵1をはじめとしてその他の可動部材についても同様に、所定の参照位置について、センサ出力とキャリブレーション比に基づき参照値を設定してよい(ステップS4)。このようにして上記4点の参照値を設定することで、演奏記録部27は、リアルタイムに供給されるセンサ26の出力(AD値)と前記各参照値とを比較することで、ハンマ2の動作状態(ストローク変位し始めたであるとか、打弦をしたであるとか等)を認識、把握できるようになる。
《第1の実施例》
図4(a)は、演奏記録部27において実行されるハンマ速度を取得する処理の手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、演奏者の手弾き演奏を録音する処理(演奏データの生成・記録処理)における主要な処理として実行されるものである。前述の通り、ユーザは、図示しない操作パネルのスイッチ操作等により、ピアノ演奏の録音開始指示を行うことができる。該ユーザからの指示に応じて当該自動演奏ピアノの信号処理系は、演奏録音動作を開始する(演奏録音モードに入る)。そして、当該演奏録音動作中は、図4のステップS10〜S16の処理が所定の起動周期に従って繰り返し実行される。なお、この処理は88個のハンマの各々につき実行されるが、ここでは、図示及び説明の便宜上、或る1つのハンマ2についての処理のみを示し、これを以って他を代表するものとする。
ステップS10において、当該処理の起動機会毎に、センサ26から時々刻々出力されるAD値を取り込む。この実施例において、前記AD値の取得は、所定の等時間間隔(等サンプリング)で行われるものとする。これは、例えば、当該処理の起動の周期を前記等サンプリング時間に対応する周期としてもよいし、或いは、AD値の取り込みに際して、前記等サンプリング時間に対応する時間だけ待機する処理を行うようにして実現してもよく、兎に角、AD値の取得が等サンプリングで行われていればよい。前記取り込まれたAD値は、適宜の正規化処理(センサ個体差の是正等)を介して、時間情報TIMEと共にRAM22に確保された所定の記憶領域に格納される。図4(b)は、取り込まれたAD値と該AD値に対応する時間情報TIMEのデータセットによって構成されるデータテーブルTABLE1を示す。図に示すとおりこの実施例において、テーブルTABLE1は、位置情報(AD値)と該位置情報に対応する時間情報を夫々記憶するための記憶領域を有しており、現時点からみて過去20回分のサンプリング時点で取り込んだAD値及び対応する時間情報TIMEのデータセットが順次記憶される。新規のAD値が取り込まれる際には、テーブルTABLE1の内容を1サンプル時間分シフトして、該新規の値を取り込み、データ内容を更新する。
ステップS11では、前記ステップS10において取り込んだAD値(現時点で取り込んだAD値)に基づき、ハンマ2の動作(つまり鍵操作)の有無の判定を行う。ハンマ動作の有無判定は、例えば、前記取り込んだAD値と、前述図3のステップS1によりRAM22に記憶された「レスト値R」とを比較して、該取り込んだAD値が非押鍵状態(レスト値R)から変化しているか否かによって判定できる。ハンマ動作(鍵操作)がなければ(ステップS11のno)、処理は当該ルーチンの先頭に戻り、AD値の取り込み処理を繰り返す。
一方、ハンマ動作(鍵の打鍵操作)があれば(ステップS11のyes)、ステップS12において、現時点で取り込まれたAD値と、前記図3のステップS3で記憶した「第2参照値m2」を比較することで、ハンマ2のストローク位置が第2の参照位置M2を上方に超えたかどうかを調べる。ハンマ2の位置が参照位置M2を越えていなければ(ステップS12のno)、処理は当該ルーチンの先頭に戻り、上記のAD値の取り込み処理を繰り返す。
第2参照位置M2は、前述の通りエンド位置から0.5mm下だけがった位置、つまり、ハンマ2が弦4を打弦する直前の位置である。従って、ハンマ2の位置が参照位置M2を超えたことを以って、打弦が行われた(打弦有り)であろうことが推定できる。すなわち、第2の参照値m2は、打弦有無を推定するための閾値として機能している。このようにAD値と閾値(参照値m2)の比較に基づき打弦有無の推定を行うことは、ハンマ動作判断の、ハンマ実動作に対するリアルタイム性、すなわち、迅速な動作判断という点で有利である。AD値が参照値m2を越えていれば、つまり、ハンマ2の位置が参照位置M2を越えていれば(ステップS12のyes)、打弦ステートstを「(推定)打弦有り」状態に設定する。前記打弦ステートstは、AD値と参照値m2による打弦有無推定の結果に応じて、「推定打弦」の有無の状態を標識する2状態のステートである。なお、通常(すなわち、ハンマ2のストローク位置が第2の参照位置M2を超えていない状態)では、打弦ステートstは非打弦(推定打弦無し)に設定されている。
ステップS14では、図5を参照して詳細に述べる「ハンマ速度推定処理」を実行し、ハンマ速度Vを求める。ここで求めるハンマ速度Vは、ハンマ2が参照位置M2を越えた時点、つまり、打弦直前のハンマ速度(打弦速度)の推定値である。前述の図9(a)及び(b)において示した通り、通常打弦のハンマ軌道(通常打弦軌道)及び弱打打弦のハンマ軌道(弱打打弦軌道)とでは、ハンマの運動特性が異なっている。この第1の実施例によれば、図5を参照して後述する処理構成により、打弦速度に応じて速度を推定する計算式を違えることで、該打弦速度に応じたハンマの運動特性の違いを反映した速度の推定を行えるようになり、実際の打弦速度に対して、より忠実な打弦速度の推定値を求めることが可能となる。
図4(a)のステップS15では、前記ステップS14の「ハンマ速度推定処理」により求めたハンマ速度Vに基づくキーオン(発音指示)信号の生成処理や、当該打弦動作を示す演奏データの記録処理など、当該ハンマ速度Vを活用する処理(その他の処理)を実行する。前記演奏データは、キーオン、キーナンバ及びベロシティデータ(打弦速度)を含んで構成されるMIDIデータであってよい。
図5は、前記ステップS14における「ハンマ速度推定処理」の手順の一例を示すフローチャートである。また、図6(a)はハンマ2の軌道を模擬的に示す図である。図6において、縦軸はハンマの位置(AD値)をとり、横軸に時間tをとる。また、同図(a)において、現時点(即ち、AD値が参照値m2を超えた時点)T5から過去5点の各サンプリング時点(T5〜T1)におけるハンマ位置の検出値(AD値)を、それぞれP5、4、3、2、P1で示す。なお、前述の通り、各AD値の取り込みタイミングは等時間間隔(等サンプリング)であり、前記等時間間隔を「ΔT」で示すものとする。当該「ハンマ速度推定処理」は、図6(a)に示す通り、参照値m2を超えた時点、すなわち、打弦直前のハンマ速度(打弦速度)Vを求める処理であり、該打弦速度Vは参照値m2を超えた時点でのハンマ軌道の傾きに相当する。
図5のステップS20においては、下記計算式(1)により打弦直前のハンマ速度を計算する。
1/ΔT*{(−2P1−P2+0*P3+P4+2P5)/10}・・・計算式(1)
なお、この明細書では「*」は乗算を示す。
上記計算式(1)は、現サンプリング時点(T5)の値P5から過去5点のデータを使用した直線近似によってハンマ速度(打弦速度)を推定するための計算式である。すなわち、前記図4(b)のテーブルTABLE1に格納された20点のサンプリング時点のデータセットから、現時点から過去5点のサンプリング点のデータを速度計算に使用するポイントとして抽出し、上記計算式(1)を用いて打弦速度Vaを推定する。なお、計算式(1)の各項に対する各係数は、位置成分P5〜P1の変化(つまりハンマの軌道)を直線的に想定した値であり、具体的な係数の数値には理論値が充てられている。
ステップS21では、前記ステップS20にて推定した打弦速度Vaを所定の速度閾値Cと比較する。速度閾値Cは、当該ハンマ2の動作速度が、比較的弱い打弦速度(弱打)であるか、通常の打弦速度であるかを判断するための閾値である。前記速度Vaが閾値Cよりも大きい場合(ステップS21のyes)は、前記ステップS20において計算式(1)によって求めた打弦速度Vaがそのまま打弦速度の速度値(推定値)Vとして記憶される(ステップS23)。
一方、前記打弦速度Vaが閾値Cよりも小さい場合(ステップS21のno)は、当該ハンマ動作を弱打打弦と判断し、ステップS22において、下記計算式(2)に示す計算式により打弦直前のハンマ速度を計算する。
1/ΔT*{(26P1−27P2−40P3−13P4+54P5)/70}・・・計算式(2)
上記計算式(2)は、現サンプリング時点(T5)の値P5から過去5点のデータを使用した2次曲線近似によって打弦直前のハンマ速度(打弦速度)を推定する計算式である。すなわち、前記図4(b)のテーブルTABLE1に格納された20点のサンプリング時点のデータセットから、現時点から過去5点のサンプリング点のデータを速度計算に使用するポイントとして抽出し、上記計算式(2)を用いて速度値Vbを推定する。なお、計算式(2)の各項に対する各係数は、位置成分P5〜P1の変化(つまりハンマの起動)を曲線的・放物線的に想定した値であり、具体的な係数の数値には理論値を充てている。前記図9(b)を参照して述べた通り、弱打打弦の場合のハンマ軌道は、軌道ピーク(即ち、打弦点)に向かって緩い曲線を描く軌道となっている。すなわち、弱打の軌道としては曲線類の軌道が想定できるので、計算式(2)に示す曲線近似による速度推定は、弱打打弦に対して有効である。
そして、ステップS24において、前記計算式(2)に基づき計算した速度値Vbが打弦速度Vとして記憶される。
図6(b)は、計算式(1)により推定された打弦速度(ハンマ速度)「Va」と、計算式(2)により推定された打弦速度(ハンマ速度)「Vb」と、速度の大きさVの対応関係を示すグラフである。同図において、Vaを実線で示し、Vbを点線で示している。計算式(1)の直線近似によって打弦速度Vaを推定する場合、全体として、実際の打弦速度に対するノイズが少ないという利点があるが、低速度の場合に推定の精度が悪くなる、という不都合がある。これに対して、該計算式(2)の曲線近似によって打弦速度Vbを推定する場合、限られた範囲のデータから速度を推定するには高精度であるが、範囲が広くなると、実際の打弦速度に対するバラつき(ノイズ)が増える。同図(b)に示す通り、或る速度Vs以下の低速度域では、計算式(1)に基づく打弦速度Vaと、計算式(2)に基づく打弦速度Vbとの差eが大きくなっている。このことは、当該低速度域では、計算式(1)に基づくハンマ速度Vaの推定精度が悪くなることを示している。
この発明に係る第1の実施例によれば、通常打弦用と弱打打弦用との2種の計算式:直線近似の計算式(1)と曲線近似の計算式(2)を用意し、該計算式(1)で算出した打弦速度Vaが所定の閾値C以下の場合は、弱打打弦と判断して、弱打打弦に適した計算式(2)を使用するよう構成したことで、実際の打弦速度に対して、より一層忠実なハンマ速度の推定を行うことができるようになるという優れた効果を奏する。
なお、前記ステップS21における所定の速度閾値Cは前記或る速度Vsに基づき設定してよい。また、図6(b)に示すように、計算式(1)に基づく打弦速度Vaと計算式(2)に基づく打弦速度Vbは、速度の大きさVが大きくなれば互いに接近するものの、完全に一致するわけではない。この点について、図5の処理において、使用する計算式を式(1)と式(2)とで切り替えるポイントでの速度値の連続性確保処理を更に行うように構成してもよい。
なお、上記図5に示す打弦速度を推定する処理においては、通常打弦時の直線近似用計算式(1)、弱打打弦時の曲線近似用計算式(2)として、5点のサンプリング点を使用する式を挙げたが、項数(使用するサンプリング点)の数はこれに限らない。以下に7点のサンプリング点を使用した計算式の例を挙げる。ここで使用する7点のサンプリング点P7〜P1は、図6(a)において点線で示す点である。
通常の打弦速度の場合に適用する直線近似式(3)は、
1/ΔT*{(−3P1−2P2−P3+0*P4+P5+2P6+3P7)/28}・・・計算式(3)である。
弱打打弦の場合に適用する曲線近似式(4)は、
1/ΔT*{(7P1−2P2−7P3−8P4−5P5+2P6+13P7)/28}・・・計算式(4)である。
また、上記図5のステップS20において、計算式(1)によりハンマの速度Vaを推定し、ステップS21において該推定した速度Vaと閾値Cを比較して打弦速度の強弱の判定する構成を示したが、これに限らず、ステップS20においては例えば過去2点のサンプリング点でのデータに基づく微分(例えば、P5−P4/ΔT)により大雑把に速度推定値を算出し、該大雑把に算出した速度推定値Vaと所定の閾値との比較に基づき打弦速度の強弱の判定する構成としてもよく、この場合、前記判定の後に、通常打弦速度の場合(Va>C)は、ステップS23において、改めて、直線用計算式(1)或るいは(3)により、より精密な速度推定計算を行い、該精密な計算の結果を打弦速度Vとする。また、打弦速度の強弱の判定については、ハンマ速度(推定値)に基づく判定のみならず、別途取得した鍵の動作速度(打鍵速度)や、その他の打弦動作にリンクする部材の速度情報に基づき判定する構成であってもよい。
《第2の実施例》
上記第1の実施例においては、図4(a)及び図5に示すハンマ速度算出処理において、通常打弦用と弱打打弦用との2種の計算式を用意して、速度に応じて計算式を使い分ける構成例を示した。第2実施例では、当該処理の別の構成例として、ハンマ速度(打弦速度)の推定において、計算により求めた速度の推定値に対して該速度に応じた補正を加えることで、打弦速度の推定値に該打弦速度に応じた運動特性の違いを反映させる構成例を示す。
図7(a)は、第2の実施例に係るハンマ速度算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、上記図4(a)の処理と同様に、演奏者の手弾き演奏を録音する処理(演奏データの生成・記録処理)として実行される。ユーザ指示に応じて演奏録音動作が開始(演奏録音モードに入る)すると、図7(a)のステップS30〜S36の処理が所定の所定の起動周期に従って繰り返し実行される。なお、この処理は88個のハンマの各々につき実行されるが、ここでは、図示及び説明の便宜上、或る1つのハンマ2についての処理のみを示し、これを以って他を代表するものとする。
ステップS30では、上記ステップS10と同様にセンサ26から出力されるAD値を取り込む。AD値の取得周期は上述と同様に所定の等サンプリング時間ΔTとし、また、ここで、取り込まれたAD値に対して適宜の正規化処理(センサ個体差の是正等)を施すことも上述と同様である。なお、AD値は上記第1の実施例と同様に、ハンマ2の位置情報を示している。ステップS31において、前記取得したAD値を対応する時間情報と共にテーブルTABLE2に格納する。前記テーブルTABLE2の構成例を図7(b)に示す。図に示す通り、テーブルTABLE2は、時間情報と該時間情報に対応するAD値及び後述する処理により推定される速度情報(通常速度Vc及び速度値V)を夫々記憶する記憶領域を有する。この実施例にいおて、前記テーブルTABLE2には、現時点からみて過去11点のサンプリング時点で取り込んだAD値及び対応する時間情報のデータセットが順次記憶される。当該テーブルTABLE2に新規の値が取り込まれる際には、テーブルTABLE2の内容を1サンプル時間分シフトして、該新規の値を取り込み、データ内容を更新する。
ステップS32では、下記計算式(5)に示す適合多項式を用いて「通常速度Vc」を計算(推定)する。
Vc={Σ(wj*xj)}/W・・・(5)
上記式(5)において、サンプル値xjは、各サンプル時点でのAD値であり、TABLE2の位置情報(AD値)記憶領域に記憶された値である。また、係数wj、Wの値は、図7(c)の表に示すとおりである。同図(c)において、「n」行は計算に使用するサンプル点数であり、当該多項式の項数に対応する。「m」行は使用するサンプル群全体からみて時間的に中央に位置する時点を夫々示す。このパラメータ「m」については後述する。「W行」には使用サンプル点数n毎の計算式(5)における係数Wの値を示している。また、図においてj列に示す数値「−6」〜「6」は多項式の各項のサンプル時点に対応する数値であり、各サンプル時点のj行には当該行に該当する項の係数wjの値が示されている。
例えば、11点のサンプリング点を使用する場合は、「n」の値が「11」の列を見ればよい。図に示す通り、係数Wは110であり、各項毎の係数wjは、初項から末項の順に、「−5」,「−4」,「−3」,「−2」,「−1」,「0」,「1」,「2」,「3」,「4」,「5」となる。また、各サンプリング時点の位置情報「xj」は、テーブルTABLE2に格納された各AD値に相当する。即ち、x(−5),x(−4),・・・x(0),・・・x(5)である。これらの値と上記式(5)に示す適合多項式により、「通常速度」Vcを計算により推定する。なお、この実施例では上記式(5)により求めた速度値Vcを「通常速度」と称している。
前記ステップS32において式(5)の多項式適合により算出された通常速度Vcには、計算に使用した全サンプル点(上記の例では11点分)の時間の半分だけ遅れがある。前記図7(c)の表におけるパラメータ「m」は、現在時点から全体半分の時点までの遡り時間を示すパラメータ、言い換えれば、パラメータmの値は全サンプル時点のうちの時間的中央位置を示すパラメータであり、通常速度Vcは、通常速度Vcは現時点に対してm時点前の速度値ということになる。
ステップS33では、前記ステップS32で算出した通常速度Vcを、現時点より所定時点mだけ遡った時点の速度として、テーブルTABLE2の現時点の欄に書き込む。すなわち、通常速度Vcは、各サンプル時の「通常速度」算出時点において、テーブルTABLE2の現在時点の行に記憶される。例えば、11点サンプル点を計算に使用している例では、図7(c)に示すとおりm=5である。図7(b)において、現時点が時間T=10であれば、Vc(5)はT=5に対応する通常速度である。
上述の通り、前記計算式(5)により求めた通常速度Vcは現時点に対してm時点前の速度値、つまり、実際の動作に対して現在時刻から時刻m*ΔTだけ遅延した信号である。ここで、当該ハンマ2による打弦運動を等速運動(直線軌道)と想定すれば、或る時点の速度値を即ち打弦速度(=打弦直前のハンマ速度)として差し支えない。しかしながら、例えば、前述図9(b)のような弱打打弦軌道の場合は、放物線的軌道を想定するほうが適切であることは先に述べたとおりである。この第2の実施例では、以下に述べるステップS34以下の処理において、ハンマ軌道として放物線軌道を想定し、過去の2点の通常速度Vcを用いて現時点の速度値を推定すること、詳しくは、現時点で推定した通常速度Vcを、更に過去の通常速度値Vc´によって補正して、該補正値を以って現在の速度値と推定することに特徴がある。
ステップS34において、テーブルTABLE2における通常速度Vcの記憶領域から、m時点から更に過去の時点kにおける通常速度Vcを読み出し、該読み出した通常速度Vcを過去速度Vfとして設定する。すなわち、前記過去速度Vfは、時点mの速度Vc(m)から時間kΔTだけ翻った時点kにおける通常速度Vc(m−k)と定義される速度情報である。
ここで、加速度AはA=(Vc-Vf)/(k*ΔT)で表現される。なお、前記式において「k*ΔT」は時点mから時点kまでの時間差である。
また、加速度が一定であることから、現在の速度値Vは、前記ステップS32にて算出した通常速度Vcを用いて、V=Vc+A*m*ΔTと表すことができる。なお、「m*ΔT」は現在時刻と時点m間の時間である。前記の通り、A=(Vc-Vf)/k*ΔTであるから、
V=Vc+A*m*ΔTは、
=Vc+(Vc-Vf)/(k*ΔT)*m*ΔT
=Vc+(Vc-Vf)/k*m
=(k*m)/k*Vc−m/k*Vf・・・計算式(6)と推定できる。
上記計算式(7)「V=(k*m)/k*Vc−m/k*Vf」を用いて速度値Vを推定することができる(ステップS35)。ここで求めた速度値Vは、VcをVfにより補正した値ということができる。なお、算出した速度値Vは図7(b)のテーブルTABLE2の所定の記憶領域に記憶されるものとする。
そして、ステップS36では、上記計算によって求めた推定速度値Vに基づくキーオン(発音指示)信号の生成処理や、当該打弦動作を示す演奏データの記録処理など、当該速度値Vを活用する処理(その他の処理)を実行する。また、演奏データ生成処理に際して、
例えば、速度値Vに基づく打弦有無判断等を行い、キーオン発生時点の判断を行うことができる。また、ここで、図7(b)のテーブルTABLE2を参照して、通常速度Vcと前記弱打判定用の閾値Cを比較して、該比較の結果に基づき、前述第1実施例でいうところの通常打弦であれば、通常速度Vcを当該演奏データの打弦速度として採用し、一方、弱打打弦であれば、速度値Vを採用するよう構成してよい。これにより、実現すべき打弦速度に応じて通常速度Vc、速度値Vを選択的に使用できるようになる。
上記図7(a)〜(c)の第2実施例に従う速度計算による通常速度Vcと速度値Vの具体例を示すと、例えば、テーブルTABLE2において、現在時刻をT=10とすると、現時点で前述の適合多項式「計算式(5)」により計算された通常速度Vc(5)は、m=5サンプリング点分だけ遅れた時点T=5に対応する通常速度Vcである。そして、過去速度Vfを、その通常速度Vcから更に所定サンプル時点k=2だけ遡った時点(T=5−2=3)の通常速度Vcとすると、VfはTABLE2のVc(5‐2=3)を参照すればよい。この条件で上記「計算式(6)」を用いて、現時点T=10の速度値V(5)を推定するのである。言い換えれば、この推定速度値V(5)は、前記通常速度Vc(5)を更に過去の通常速度Vc(3)で補正した値である。
図8(a)及び(b)は、上記の条件の下で計算された通常速度Vcと速度値Vの軌道図である。即ち、サンプリング点を11点使用した多項式適合により求めた通常速度Vcの軌道と、該軌道を更に時刻k*ΔT=2だけ遡った時点の速度Vcで補正した軌道(=速度値V)を示している。同図(a)及び(b)において、横軸には時間tをとり、単位は1サンプル時間である。例えば1サンプル時間ΔT=1msであれば、横軸は1ms単位である。縦軸は、(a)においてはハンマ速度(mm/ΔT)、(b)はにおいてはハンマ位置(mm単位)をとる。即ち、(a)は時間毎の速度変化を示し、(b)は時間毎の位置変化(速度変化の積分)を示す。また、両図において、点線は元信号、すなわち、計算の対象となった原軌道であり、ハンマの実動作に相当するものとする。一点鎖線は11点使用の多項式適合により計算した通常速度Vcの軌道を示し、実線は前記11点使用の多項式適合による通常速度Vcを、更に該時刻k*ΔT=2遡った時点の速度Vfで補正した軌道(速度値Vの軌道)である。(a)において、一点鎖線軌道(通常速度Vcの軌道)は原軌道に比べて5*ΔT時間分の遅れが明らか(図において両矢印で示す)であり、(b)の位置成分の推移を見ると、一点鎖線軌道には速度成分の遅延の影響が顕著に現れている。これに対して、実線(補正軌道=速度値Vの軌道)は、(a)に示す通り、速度成分に多少の揺らぎ(ノイズ)があるものの、(b)に示す位置成分の推移を見れば原軌道に遜色ない軌道再現性を発揮していることが分かる。
このように、この発明の第2の実施例によれば、現時点で推定した通常速度Vcを、更に過去の通常速度値Vfにより補正することで、ハンマの実動作に対してより忠実な速度の推定が行えるようになる。前述した通り、当該第2の実施例においては、補正に際して、加速度が一定の放物線的軌道を想定している。つまり、第2の実施例に係る速度の補正処理は、放物線的運動特性のハンマ動作に対して有効である。従って、第2の実施例に係る速度の補正処理を、弱打打弦(曲線的軌道;図9(b)参照)の速度推定に適用すると効果的である。
なお、第2の実施例において、通常速度Vcを推定するための多項式に使用するサンプリング点の数は例示した限りではない。また、周知の通り、使用するサンプリング点数が多いほど、推定の精度を高めることができる。また、図7(a)の処理構成では、計算した通常速度Vcに対して必ず補正(ステップS34及びS35)を行う例を示したが、これに限らず、ステップS33の後段に、Vcが所定の速度閾値C以上であるかどうかを判断するステップを更に設け、であった場合には、補正処理を行わないように構成してもよい。また、ステップS34においてVfを設定するための遡り時間k*ΔTは可変であってよい。
なお、上述の実施例において、打弦有無の判断等、演奏状態の判別は、ハンマセンサ26の出力に基づいて行うものとしたが、これに限らず、鍵1やその他の演奏操作にリンクする部材に動作検出用のセンサを設け、それらの部材の動作に基づき演奏状態の判別を行ってもよい。また、上記の実施例において、ハンマ速度を求めるルーチンなどの種々の信号処理(演奏記録部27の動作)は、コンピュータが実行するソフトウェアプログラムによって構成及び実施されるものとしたが、これに限らず、演奏記録部27を構成する各モジュールが担う各種演算処理を実行する専用のハードウェア的信号処理装置を具備し、該各モジュールの各種機能をハードウェア装置として構成及び実現することも可能である。また、上記実施例では、この発明を適用する鍵盤楽器として、自動演奏機能及び演奏操作記録機能を有するアコースティックピアノ(自動演奏ピアノ)について説明したが、ここでアコースティックピアノは、グランドピアノ或いはアップライトピアノの何れであっても差し支えない。また、この発明は、自動演奏ピアノに限らず、消音ピアノに適用することもできる。また、アコースティックな発音機構を有するピアノに限らず、少なくとも、鍵に連動するアクション部材の運動により楽音発生が行われるものであれば、例えば、鍵に連動するアクション部材の動作によりキーオンを発生するタイプの電子ピアノ等の他各種鍵盤楽器にも、本発明は適用可能である。
この発明の一実施例に係る自動演奏ピアノの全体構成を示す図。 同実施例に係る自動演奏ピアノの電気的ハードウェア構成を示すブロック図。 同実施例に係る自動演奏ピアノにおいて電源投入時に実行される処理例を示すフロー。 (a)は同実施例に係る自動演奏ピアノにおいて、ピアノ演奏の録音の処理の流れの概要を示すフローチャート、(b)はテーブルTABLE1の構成例。 ハンマ速度算出処理の一例を示すフローチャート。 (a)はハンマ軌道の一例を示す図、(b)は推定打弦速度Va,Vbと速度Vの対応関係を示すグラフ。 この発明の別の実施例を説明する図であって、(a)は該別の実施例に係るハンマ速度算出処理のフローチャート、(b)はテーブルTABLE2の構成例、(c)は当該別の実施例に係る速度計算式の係数を示す表。 同別の実施例において計算された通常速度Vcと速度値Vの軌道図であり、(a)は速度成分、(b)は位置成分を夫々示している。 (a)、(b)は、ハンマの動作軌道を示す軌道図であり、(a)は通常の打弦速度による打弦軌道(通常打弦軌道)であり、(b)は弱い打弦速度による打弦軌道(弱打打弦軌道)である。
符号の説明
1 鍵、2 ハンマ、3 アクションメカニズム、4 弦、5 電磁ソレノイド、6 ダンパ、7 バックチェック、10 再生前処理部、11 モーションコントローラ、12 サーボコントローラ、13 電子楽音発生部、20 CPU、21 ROM、22 RAM、23 記憶装置、24 I/O、25 PWM発生器、26 センサ、27 演奏記録部

Claims (3)

  1. 鍵と、
    前記鍵の操作に連動して打弦運動するアクション部材と、
    前記鍵の操作に連動した前記アクション部材の運動に関する物理量を検出する検出手段と、
    前記検出手段から出力されたデータを過去の複数時点分保持するデータ保持手段と、
    前記データ保持手段に保持された複数のデータに基づく多項式演算により前記アクション部材の打弦速度の推定値を求める推定手段であって、前記アクション部材の運動特性に応じて推定結果が変更されるものと
    を備える鍵盤楽器。
  2. 前記推定手段は、前記データ保持手段に保持された複数の物理量のデータに基づく多項式演算により打弦速度の推定値を求める第1の算出手段と、前記第1の算出手段とは異なるアルゴリズムで打弦速度の推定値を求める第2の算出手段で構成され、
    前記アクション部材の運動特性に応じて前記第1又は第2の算出手段の何れか一方が選択されることで、該運動特性に応じて該推定手段の推定結果が変更されることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
  3. 前記推定手段は、前記データ保持手段に保持された複数の物理量のデータに基づく多項式演算により打弦速度の推定値を求める算出手段と補正手段とで構成され、
    前記データ保持手段において、前記算出手段が過去の複数点で求めた推定値を保持する手段を更に有し、
    前記補正手段により、前記データ保持手段に記憶された過去の推定値を用いて現時点で求めた推定値を補正することで、前記アクション部材の運動特性に応じて該推定手段の推定結果が変更されることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
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