JP2006239093A - ケラチン多孔体 - Google Patents

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Abstract

【課題】 ケラチンの持つ優れた生体吸収性および生体適合性を有しつつ、多数の細胞の取込みを可能にし、取込んだ細胞に対して、細胞が増殖するのに十分な量の酸素、栄養分などを供給し、かつ3次元的な細胞増殖または組織構築に十分な場を提供し得る、多孔性材料を提供すること。
【解決手段】 孔径500〜2000μmの孔を有する、ケラチンにより構成される多孔性材料。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ケラチンにより構成される多孔性材料(ケラチン多孔体)に関する。
細胞から比較的大きな組織または臓器を生体内で再生あるいは生体外で再構築する際、皮膚や関節軟骨のように組織が薄くて二次元的な場合には、再生中の細胞に十分な量の酸素と栄養分を供給するのは容易であるが、多くの組織は三次元的な厚みもあるため、栄養分の供給には工夫を要する。再生組織のサイズが大きくなると、多数の細胞を足場全体に均一に分布させるのさえ容易ではない。例えば、足場材料の細胞分散液への濡れが低ければ、分散液を足場の内部にまで十分に浸透させる手段を考えなければならない。足場材料に細胞が接着し、かつ多くの細胞が入り込める事も必要である。このことから、現在、様々な方法で理想的な足場作製の研究がなされている。
吸収性合成材料の中で、足場材料として最もよく使用されているのは、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、およびそれらの共重合体である。これらが頻繁に使用される理由は、分解生成物であるグリコール酸と乳酸が、生体内の代謝産物として存在するために、安全性の面において問題がないこと、および、人工物であるので、強度や分解性を、分子量や組成を変えることによってコントロールできるためである。これらの材料は、実際に、吸収性縫合糸や吸収性骨接合材などの医療用具として長く利用されている。
天然高分子の中で、足場材料として広く用いられているのは、細胞との接着性のよいタンパク質であるコラーゲンである。コラーゲンには、約15の型があるが、その中でも、最も容易に入手できる事からI型コラーゲンが頻繁に利用されている。通常、抗原性を低下させたアテロコラーゲンが用いられる。コラーゲンの生体内における吸収期間は、架橋の程度にもよるが、通常、1〜3週間である。またコラーゲンは、主にスポンジ状の形態で用いられる事が多い。
他のタンパク質としては、コラーゲンの変性体であるゼラチンや、フィブリノーゲンの重合体であるフィブリンなどが使用されている。また、甲殻類から抽出される多糖類であるキチン・キトサンも、足場として多く使用されている。さらに、哺乳類の結合組織に広く分布しているヒアルロン酸も、ゲル状の足場として用いられている。
このように、足場材料として用いるためには、毒性がなく、生体吸収性を有するのはもちろんの事であるが、それ以外に、手軽に入手でき、扱いやすいという事も重要な条件になっている。
ケラチンは、爪、体毛、羽毛、皮膚の角質層などの体の外皮を構成する繊維状タンパク質であり、システイン残基を豊富に含み、それ故、多くのジスルフィド結合(S−S結合)を有することが知られている。ケラチンは、細胞増殖のための足場材料に不可欠な、生体吸収性および生体適合性に優れ、さらには、炎症惹起性も低いことが報告されている(非特許文献1)。また、ケラチンは、天然に豊富に存在するタンパク質であるため、その有効利用が求められている。
しかし、ケラチンは、取扱いが難しいなどの理由から、現在のところ、細胞増殖のための足場材料として頻繁には利用されていない。例えば、ケラチンを圧縮成型することによってフィルムを作製する場合は、ケラチンのみで作製するとフィルムが脆くなるため、ケラチンに賦形剤などを混合して、フィルムに強度および柔軟性を付与しなければその利用は難しい。また、ケラチンのみを凍結乾燥することによりスポンジを作製した場合、スポンジ全体に孔径約100μm以下の孔が形成されるが、このスポンジを3次元的な細胞培養に用いたときに、この孔径では、細胞懸濁液、酸素、栄養分などをスポンジの内部にまで十分に供給できないという問題がある。細胞が増殖するのに十分な量の酸素、栄養分などをスポンジ内部へ供給することは、ケラチンスポンジのみならず、スポンジ状の足場材料における課題の一つである。
Yamauchiら、J.Biomed.Mater.Res.,31,439(1996)
本発明は、ケラチンの持つ優れた生体吸収性および生体適合性を有しつつ、多数の細胞の取込みを可能にし、取込んだ細胞に対して、細胞が増殖するのに十分な量の酸素、栄養分などを供給し、かつ3次元的な細胞増殖または組織構築に十分な場を提供し得る、多孔性材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、ケラチンスポンジの作製において、アルギン酸カルシウムビーズを用いることによって、ケラチンスポンジの孔の孔径を調節することを着想し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 孔径500〜2000μmの孔を有する、ケラチンにより構成される多孔性材料。
[2] 細胞培養に用いられる、[1]に記載の多孔性材料。
[3] 組織再生または細胞移植に用いられる、[1]に記載の多孔性材料。
[4] 細胞をさらに含む、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の多孔性材料。
[5] ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体を形成した後、該複合体のアルギン酸カルシウムビーズ部分を溶解する工程を包含する、孔径500〜2000μmの孔を有する、ケラチンにより構成される多孔性材料の製造方法。
本発明によって、ケラチンの優れた生体吸収性および生体適合性を有しつつ、多数の細胞の取込みを可能にし、取込んだ細胞に対して、細胞が増殖するのに十分な量の酸素、栄養分などを供給し、かつ3次元的な細胞増殖または組織構築に十分な場を提供し得る、多孔性材料が提供される。
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明に用いられるケラチンとしては、例えば、天然物(例えば、体毛(例えば、羊毛)、羽毛、爪、皮膚の角質層などの体の外皮を構成する繊維状タンパク質など)に由来するケラチン、合成ケラチンなどが挙げられる。ケラチンが天然物由来である場合、当該分野で公知の方法を用いて、天然物からケラチンを抽出し、本発明に用いることができる。
本発明の多孔性材料は、スポンジ状であり、その全体にわたって均一に分布した孔を有する。本発明の多孔性材料の密度、空隙率、水分吸収率、孔の大きさなどは、3次元的な細胞培養および/または組織再生などにおいて、細胞増殖および/または組織構築に十分な数の細胞の取込みを可能にし、取込んだ細胞に対して、細胞が増殖するのに十分な量の酸素、栄養分などを供給し、かつ細胞が増殖するのに十分な空間を提供し得る値である限り制限はないが、例えば、密度としては、好ましくは、0.05g/cm以下(例えば、0.01〜0.05g/cm)が挙げられ、空隙率としては、好ましくは、少なくとも95%以上(例えば、95〜99.9%)が挙げられ、水分吸収率としては、好ましくは、少なくとも1000%以上(例えば、1000〜5000%)が挙げられ、孔の孔径としては、好ましくは、少なくとも約500μm以上(例えば、約500μm〜約1000μm、約500μm〜約1500μm、約500μm〜約2000μm)が挙げられる。
ここで、密度とは、スポンジの乾燥重量をスポンジの体積で除算することにより算出される見かけの密度のことをいう。
また、空隙率は、ケラチンを完全に密になるまで圧縮成型して空隙率を0としたケラチンプレートから以下の式:
空隙率(%)=(ρ(プレート)−ρ(スポンジ))/ρ(プレート)×100
ρ(プレート):ケラチンプレートの見かけの密度
ρ(スポンジ):空隙率を算出するスポンジの見かけの密度
により算出され、水分吸収率は、以下の式:
水分吸収率(%)=(W−W)/W×100
:乾燥重量
:湿重量
により算出される。
本発明の多孔性材料は、上記に例示した孔径範囲内で種々の大きさの孔を含んでいてもよく、その孔径分布は特に限定されない。
本発明の多孔性材料は、初めに、ケラチン水溶液に非水溶性のアルギン酸カルシウムビーズを加え、凍結乾燥することによって、非水溶性のケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体を形成させ、次いで、この複合体をEDTA溶液で処理することにより、複合体中のアルギン酸カルシウムビーズ部分のみを溶解することで製造できる。
EDTAは、アルギン酸カルシウムビーズのカルシウムイオンを補足し、その結果、ビーズの溶出を促進する。他方、アルギン酸カルシウムビーズは、EDTA中に浸すと徐々に膨潤し、そして複合体自体も全体が大きく膨潤する。
従って、本発明の多孔性材料は、ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体の状態では、最終的に得られるスポンジ状の多孔性材料よりも緻密な構造をしている。このため、本発明の多孔性材料は、NaCl粒子との複合体を形成することにより製造される従来のPLGAスポンジと比較すると、同じサイズのスポンジを作製する場合に、より小さなサイズの複合体が得られるので、凍結乾燥の際の効率がよいなどの利点がある。
本発明の多孔性材料の孔径は、使用するアルギン酸カルシウムビーズの粒径によって調節することができる。ここで、使用するアルギン酸カルシウムビーズの粒径は、EDTAによる溶出の際に生じるビーズの膨潤を考慮して選択される。
例えば、孔径が約500〜約1000μmの孔を有する多孔性材料を製造する場合、アルギン酸カルシウムビーズの粒径としては、約300〜約600μmが選択される。孔径が約500〜約1500μmの孔を有する多孔性材料を製造する場合、アルギン酸カルシウムビーズの粒径としては、約300〜約750μmが選択される。孔径が約500〜約2000μmの孔を有する多孔性材料を製造する場合、アルギン酸カルシウムビーズの粒径としては、約300〜約900μmが選択される。
アルギン酸カルシウムビーズは、通常、室温以上(例えば、5〜40℃)で、アルギン酸ナトリウム溶液を、塩化カルシウム溶液中に滴下することで作製することができる。
アルギン酸カルシウムビーズの作製に用いられるアルギン酸ナトリウム溶液の濃度は、通常、0.1〜5w/v%、好ましくは、0.5〜2w/v%であり、濃度が5w/v%を超えると、粘性が高くなりすぎて操作が困難となる。
アルギン酸カルシウムビーズの作製に用いられる塩化カルシウム溶液の濃度は、通常、1〜10w/v%、好ましくは、3〜7w/v%である。
別の実施形態では、このようにして得られたアルギン酸カルシウムビーズの表面を、さらに、塩化カルシウム溶液でコーティングしたビーズを用いてもよい。
このコーティングに用いられる塩化カルシウム溶液の濃度は、通常、1〜10w/v%、好ましくは、3〜7w/v%であり、塩化カルシウム溶液の使用量は、通常、ビーズが浸る量であれば制限はないが、例えば、アルギン酸カルシウムビーズ1gに対して、1〜10mlである。
コーティング処理の温度および時間は、通常、5〜30℃にて1〜5分間である。
ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体は、水性溶媒にケラチンを溶解または懸濁させ、非水溶性のアルギン酸カルシウムビーズを加えた後、凍結乾燥によって溶媒を除去することで形成することができる。
ケラチンを溶解または懸濁させる溶媒は、通常、水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)またはカルシウム捕捉効果のない緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液など)などから選択される。
複合体の形成におけるアルギン酸カルシウムビーズの使用量は、使用するアルギン酸カルシウムビーズの大きさに従って、アルギン酸カルシウムビーズがケラチン溶液を満たすように適宜選択されるが、通常、ケラチン1gに対して、5〜10gである。
アルギン酸カルシウムビーズをケラチン溶液に加える際の温度は、使用する溶媒に応じて、例えば、4〜50℃(通常、室温)の範囲から適宜選択される。
アルギン酸カルシウムビーズを加えたケラチン溶液を、凍結(例えば、−80℃)させた後、凍結乾燥することで、ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体が形成される。
次いで、得られたケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体は、アルギン酸カルシウムビーズ部分のみを溶解させるために、EDTA溶液で処理される。
このEDTA溶液は、通常、EDTAを水に加え、NaOHによりpH7.0〜9.0に調整することにより調製される。
この溶液中のEDTAの濃度は、アルギン酸カルシウムビーズ部分を溶出できれば特に制限はないが、通常、0.1〜1M、好ましくは、0.3〜0.7Mである。
このEDTA溶液の使用量は、アルギン酸カルシウムビーズ部分を溶出できれば特に制限はないが、通常、複合体1gに対して約50〜500mlである。
アルギン酸カルシウムビーズの溶出処理の温度は、通常、約10〜80℃の範囲から選択される。
アルギン酸カルシウムビーズの溶出処理の時間は、通常、12〜48時間の範囲から選択される。
さらなる実施形態では、本発明の多孔性材料の製造において、アルギン酸カルシウムビーズの代わりに、有機溶媒可溶性ポリマービーズのような、ケラチンとは異なる溶解特性を有する粒状物質が用いられ得る。このような粒状物質を用いる場合、粒径、溶出条件などは、使用する粒状物質の性質に応じて適宜選択され得る。
本発明の多孔性材料は、3次元的な細胞培養において細胞が増殖するための足場として利用できる。
本発明の多孔性材料を用いて培養を行う細胞の種類は、特に制限はなく、所望の任意の細胞が選択される。例えば、このような細胞としては、皮膚細胞、神経細胞、血管細胞、血液細胞、内臓細胞(例えば、膵島細胞、肝細胞など)、腺細胞、筋細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、生殖細胞、幹細胞(例えば、胚性幹細胞、胚性生殖幹細胞、体性幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞など)、免疫細胞など、またはこれらの前駆細胞、あるいはこれらの細胞を遺伝子工学的手法により改変した遺伝子改変細胞などが挙げられる。また、これらの細胞は、初代培養細胞であっても、株化細胞であってもよい。
本発明の多孔性材料を用いて3次元的な細胞培養行う場合の培養条件としては、通常の細胞培養に用いられる条件を用いることができる。
例えば、培養培地としては、MEM(Minimum Essential Medium)培地、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地などから、用いる細胞の種類に応じて任意の培地が適宜選択され得る。
培地のpHは、用いる細胞の種類に応じて適宜選択されるが、好ましくは約6〜8である。必要に応じて、血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))、栄養素、成長因子、酵素、抗生物質などが培地に加えられ得る。
培養は、通常、約25℃〜40℃(動物細胞の場合は、通常、37℃)で、24時間以上(通常、24時間〜8週間)行なわれる。
播種する細胞の量は、培養する細胞の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、本発明の多孔性材料1cmあたり、約10×10〜約200×10cellsである。
本発明の多孔性材料はまた、ヒトまたは非ヒト哺乳動物などの動物における組織再生または細胞移植おいて、細胞が増殖するための足場としても利用できる。
本明細書中で用いられる場合、非ヒト哺乳動物とは、サル、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ハムスターなどのことを意味する。
本発明の多孔性材料を用いて組織再生を行う場合、対象となる組織としては、例えば、皮膚、血管、骨、軟骨、筋肉、歯、内臓(例えば、肝臓、膵臓など)などが挙げられる。
これらの組織を再生するために、本発明の多孔性材料に、対象となる組織に由来する細胞またはその前駆細胞が播種される。このような細胞としては、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物由来の、皮膚細胞、神経細胞、血管細胞、血液細胞、内臓細胞(例えば、膵島細胞、肝細胞など)、腺細胞、筋細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、生殖細胞、幹細胞(例えば、胚性幹細胞、胚性生殖幹細胞、体性幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞など)、免疫細胞など、またはこれらの前駆細胞、あるいはこれらの細胞を遺伝子工学的手法により改変した遺伝子改変細胞などが挙げられる。
播種する細胞の量は、再生する組織、使用する細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、本発明の多孔性材料1cmあたり、約10×10〜約200×10cellsである。
本発明の多孔性材料を用いて組織再生を行う場合、処置する動物の生体内で目的の組織の構築を行ってもよいし、目的の組織を生体外で一部または完全に構築した後、処置する動物へ移植してもよい。
本発明の多孔性材料を細胞移植に用いる場合、移植する細胞の種類、およびその播種する量としては、例えば、組織再生において例示したものが挙げられる。
本発明の多孔性材料を細胞移植に用いる場合、多孔性材料に播種した細胞を、生体外で、上記のような培養条件で任意の期間培養した後、処置する動物へと移植してもよい。
本発明の多孔性材料は、用途に応じて、栄養素、成長因子、酵素、抗生物質などを加えてもよい。
本発明の多孔性材料の大きさは、特に制限はなく、用途に適した任意の大きさが選択される。
本発明の多孔性材料は、柔軟性のあるスポンジ状であるため、用途に応じて、例えば、フィルム状、矩形、円筒状、円盤状などの形態に、さらに成形して用いることができる。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(アルギン酸カルシウムビーズを用いるケラチンスポンジの作製)
(ケラチン溶液の調製)
羊毛(9g)を細かく切り、500mlフラスコに入れた。フラスコに、2−メルカプトエタノール(13.0g)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(7.5g)、8M 尿素(128g)を加え、温浴(50℃)にて5時間振盪した。この反応溶液を濾過し、透析チューブに移し、2−メルカプトエタノール(6ml)を含む蒸留水3Lに対して透析した。透析後、限外濾過器(ADVANTEC UHP-62K;TOYO)により濃縮し、Lowly法により、得られたケラチン溶液のタンパク質濃度を測定した(ケラチン濃度:約90mg/ml)。
(アルギン酸カルシウムビーズの作製)
1w/v%のアルギン酸ナトリウム溶液、および5w/v%の塩化カルシウム溶液を別々の容器に調製した。1w/v%のアルギン酸ナトリウム溶液(1000ml)を、5w/v%の塩化カルシウム溶液(1500ml)に室温で滴下し、アルギン酸カルシウムビーズを作製した。このビーズを蒸留水で洗浄し、室温で乾燥して、粒径約500μmのアルギン酸カルシウムビーズ(以下、アルギン酸カルシウムビーズAという)を得た。
(カルシウムコーティングしたアルギン酸カルシウムビーズの作製)
20gのアルギン酸カルシウムビーズAを、5w/v%の塩化カルシウム溶液(100〜200ml)に室温で1分間浸した後、乾燥することによって、ビーズ表面がカルシウムでコーティングされたアルギン酸カルシウムビーズ(以下、アルギン酸カルシウムビーズBという)を作製した。
(ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体の作製)
90mg/mlのケラチン溶液(0.5ml;ケラチン量約45mg)を含むサンプルチューブに、0.35gのアルギン酸カルシウムビーズAを加えた。サンプルチューブを、−80℃にて2時間凍結した後、一晩凍結乾燥することで、ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズAの複合体(ケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体A)0.4gを得た。
同様に、アルギン酸カルシウムビーズBから、ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズBの複合体B(ケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体B)0.4gを得た。
得られたケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体AおよびBを肉眼で観察すると、いずれの複合体も、その表面にアルギン酸カルシウムビーズが均一に存在していることが確認できた。また、ケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体AおよびBを電子顕微鏡で観察すると、いずれの複合体も、直径約500〜約600μmのアルギン酸カルシウムビーズが、ケラチン構造内に存在していることが確認された。また、ケラチン構造自体にも、孔径約30〜40μmの孔が確認された。
(ケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体からのケラチンスポンジの作製)
EDTA・2Naを水に加え、NaOHでpHを調整して、0.5M EDTA溶液(pH8.0)を調製した。0.4gのケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体Aを、0.5M EDTA溶液(40ml)を含むサンプルチューブに入れ、振盪機(Rotary Shaker NR-20(TAITEC))(80〜90rpm)で、半日振盪した。EDTA溶液を交換し、再度振盪を繰り返した。得られた複合体(20〜30個)を、蒸留水で簡単に洗浄した後、3Lの蒸留水を含むプラスティックビーカーに入れ、振盪機(100〜110rpm)で半日洗浄した。−80℃で3時間凍結した後、2晩凍結乾燥して、ケラチンスポンジ(以下、ALKスポンジAという)(1個あたり約20mg)を得た。
同様に、ケラチン/アルギン酸カルシウムビーズ複合体Bから、ケラチンスポンジ(以下、ALKスポンジB)(1個あたり約20mg)を得た。
(実施例2)
(アルギン酸カルシウムビーズを用いて作製したケラチンスポンジの性状)
(電子顕微鏡による観察)
実施例1で作製したALKスポンジAおよびALKスポンジBを、肉眼および電子顕微鏡で観察した。比較対象として、ケラチンのみを凍結乾燥して作製したスポンジ(以下、凍結乾燥スポンジという)を用いた。
凍結乾燥スポンジは、肉眼では孔が確認できなかった。ALKスポンジAおよびBは、いずれも、肉眼で確認できる孔がその全体にわたって観察された。また、ALKスポンジBは、ALKスポンジAよりも体積が大きく、スポンジ全体が繊維状(綿状)であった。
電子顕微鏡による観察では、凍結乾燥スポンジは、表面から内部に至るまで、孔径約30〜40μmの孔が多数存在した。これに対して、ALKスポンジAおよびBでは、いずれも、アルギン酸カルシウムビーズが溶出することにより形成されたと考えられる孔径約500〜約1000μmの多数の孔が存在した。ALKスポンジBは、アルギン酸カルシウムビーズの溶出により形成された孔のほかに、ケラチン自体に存在していた小さな孔が膨潤して形成された孔も観察された(図1〜図3)。
(赤外線吸収スペクトル(IR)の測定)
凍結乾燥スポンジ、ALKスポンジA、およびALKスポンジBのそれぞれについて、KBr法によりIRの測定を行った。
凍結乾燥スポンジの赤外線吸収スペクトルとの比較から、ALKスポンジAおよびBにアルギン酸カルシウムビーズが残存していないことが確認された。
(密度、空隙率、水分吸収率の測定)
ケラチン粉末を完全に密になるように圧縮成型したプレート(以下、ケラチンプレートという)、凍結乾燥スポンジ、ALKスポンジA、およびALKスポンジBについて、密度、空隙率、水分吸収率を測定した。
(密度の測定)
ケラチンプレート、凍結乾燥スポンジ、ALKスポンジA、およびALKスポンジBのそれぞれの乾燥重量を測り、直径および高さから体積を求め、これらの値から見かけの密度を算出した。
(空隙率の測定)
各々の見かけの密度から、以下の式により空隙率を算出した。
空隙率(%)=(ρ(プレート)−ρ(スポンジ))/ρ(プレート)×100
ρ(プレート):ケラチンプレートの見かけの密度
ρ(スポンジ):凍結乾燥スポンジ、ALKスポンジA、またはALKスポンジBの見かけの密度
(水分吸収率の測定)
ケラチンプレート、凍結乾燥スポンジ、ALKスポンジA、およびALKスポンジBのそれぞれについて、乾燥重量と、蒸留水に1時間浸漬した後の重量(湿重量)を測定し、以下の式により水分吸収率を算出した。
水分吸収率(%)=(W−W)/W×100
:乾燥重量
:湿重量
測定結果を以下の表に示す。
ケラチンプレートは、空隙率が0%になるまで圧縮されているため、その見かけの密度は、非常に高い値(1.3g/cm)を示した。他方、水分吸収率は、他と比較して、かなり低い値(約87%)を示した。
凍結乾燥スポンジは、ケラチンプレートに対して、見かけの密度が、約1/10に低下し、その結果、空隙率は約90%となった。この空隙率は、電子顕微鏡で観察された約30〜40μmの孔径の孔に起因すると考えられる。凍結乾燥スポンジは、ケラチンプレートと比較して、水分吸収率も増加したが、ALKスポンジAおよびBほどの増加率ではなかった。これは、凍結乾燥スポンジの孔の孔径が、ALKスポンジAおよびBの孔の孔径よりも小さいので、ALKスポンジAおよびBと比べて、水分がスポンジの内部に浸透するのに時間がかかるためと考えられる。
ALKスポンジAは、ケラチンプレートと比較して、見かけの密度が、かなり小さい値(0.028g/cm)を示し、空隙率は、約98%であった。ALKスポンジAは、凍結乾燥スポンジと比べて、体積的な差異はなかったが、空隙率が著しく増加していた。これは、アルギン酸カルシウムビーズにより形成された約500〜約1000μmの孔径の孔に起因すると考えられる。さらに、凍結乾燥スポンジの孔の孔径よりも大きな孔の孔径により、ALKスポンジAは、凍結乾燥スポンジよりも、水分がスポンジの内部へと浸透しやすくなり、約2400%の水分吸収率を示したと考えられる。
ALKスポンジBは、ケラチンプレートと比較して、見かけの密度の減少、ならびに空隙率および水分吸収率の増加が、ALKスポンジAよりもさらに顕著であった。ALKスポンジBは、ALKスポンジAと比較して見かけの密度で1/2、空隙率は1%の増加を示し、水分吸収率は、約3900%もの高い数値を示した。この結果は、ALKスポンジBが、ALKスポンジAよりも体積が増加していること、また繊維状(綿状)の形態をしていることに起因すると考えられた。
(実施例3)
(アルギン酸カルシウムビーズを用いて作製したケラチンスポンジのトリプシンによるin vitro分解試験)
エタノール処理ケラチンスポンジ(直径1.1cm、高さ0.3cmを4分割したもの;孔径約30〜40μm)、圧縮成型ケラチンスポンジ(縦および横0.4cm、高さ0.2cm;孔径約300〜500μm)、およびALKスポンジBについて、トリプシン分解試験を行った。
NaCl 8.0g(137mmol)、KCl 200mg(2.68mmol)、NaHPO・12HO 2.9g(8.10mmol)、KHPO 200mg(1.47mmol)を、1Lの純水に溶解してPBS(−)溶液を調製した。PBS(−)溶液にトリプシンを加えて、0.5%トリプシン溶液を調製した。各サンプルを、低圧で十分に乾燥し、サンプルの重量を測定した。12ウェルプレートに、それぞれ、0.5%トリプシン溶液を5mlずつ加え、37℃にて一定時間(1、3、6、12、24、48、96、168、および336時間)反応後、サンプルを取り出し、蒸留水で30分×2回洗浄した。洗浄後、サンプルを低圧で十分に乾燥し、トリプシン分解後の重量を測定した。トリプシン溶液は、2日毎に交換した。
トリプシン溶液と1時間反応させた時点で、ALKスポンジBは、重量が半分になるまで分解した。他方、この時点でのエタノール処理ケラチンスポンジの分解は重量の約30%、圧縮成型ケラチンスポンジの分解は重量の約5%であった。ALKスポンジBの分解が顕著であったのは、ALKスポンジBをトリプシン溶液に浸した際、直ちに、スポンジの内部までトリプシン溶液が浸透すること、またケラチンが繊維状(綿状)であることに起因すると考えられる。
対照的に、圧縮成型ケラチンスポンジは、圧縮によって、孔以外の部分のケラチンが密になった構造を有しており、その結果、分解し難いと考えられる。
エタノール処理ケラチンスポンジは、凍結乾燥スポンジに近い構造を有し、孔がALKスポンジBよりも小さいため、スポンジ内部へのトリプシン溶液の浸透性がALKスポンジBよりも悪く、トリプシン溶液と接触している外表面から分解したと考えられる。
トリプシン溶液と24時間反応させた時点で、ALKスポンジBは、重量の約80%まで分解した。この時点で、エタノール処理ケラチンスポンジも、重量の約80%まで分解し、そして圧縮成型ケラチンスポンジは、重量の約60%まで分解した。
2週間後には、全てのスポンジが、重量の約20〜27%まで分解した。
以上の結果から、ALKスポンジは、生体吸収性を有することが示された。
(実施例4)
(アルギン酸カルシウムビーズを用いて作製したケラチンスポンジによる線維芽細胞の培養)
(培養溶液の調製)
(PBS(−)溶液)
PBS粉末(Wako)を、超純水1Lに溶解し、120℃にて20分間オートクレーブ滅菌後、4℃で保存した。
(トリプシン−EDTA溶液)
PBS(−)溶液に、2.5%トリプシン溶液、および2%EDTA溶液を加え、0.05%トリプシン−0.02%EDTA溶液を調製し、ガンマ線滅菌されたフィルターで滅菌濾過した後、無菌条件下、4℃で保存した。
(培地溶液の調製)
DMEM(SIGMA-ALDRICH)500mlに、ペニシリン・グルタミン・ストレプトマイシン溶液(GIBCO)を5ml、ウシ胎児血清(FBS)を50ml加えて培地溶液とし、4℃で保存した。
(細胞の継代)
細胞:マウス由来線維芽細胞 L929株
細胞培養には、25cmのTissue Culture Flask(TPP)を用いた。細胞が80%のコンフルエントになった時点で継代を行った。使用する溶液は、予め37℃で保温した。3〜4日の培養後、80%のコンフルエント(約5.0×10 cells)になったことを確認して、培地を取り除き、PBS(−)で洗浄し、トリプシン−EDTA溶液1.3mlを加え、COインキュベーター(SANYO CO2 INCUBATOR)内で、37℃で5分間インキュベートすることで、トリプシン処理を行った。細胞培養フラスコをインキュベーターから取り出し、培養溶液を10ml加えてトリプシンを阻害した後、ピペッティングによりフラスコから細胞を取り出し、細胞浮遊液を得た。この細胞浮遊液をサンプルチューブに移し、800rpmで5分間遠心分離に供することで、細胞を沈降させた。上清を捨て、新しい培地溶液を加えて、ピペッティングにより細胞を再懸濁し、血球計算板で細胞濃度を計測し、培養培地(20ml)を含む細胞培養フラスコに30×10 cellsとなるように播種して、インキュベーター内で、37℃、5%COにて培養した。
(線維芽細胞の培養)
ALKスポンジBを0.8cm角に切り、6ウェルプレートに入れ、70%エタノールに2時間浸漬して滅菌した。ALKスポンジBをクリーンベンチ内に移し、PBS(−)に1時間浸漬してエタノールを取り除いた後、培地溶液に30分間浸漬し、培地溶液を交換してさらに1時間浸漬して、PBS(−)を培地溶液に交換した。
継代している細胞の上清を捨て、トリプシン処理後、細胞濃度を500×10 cellsに調製して、細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液40μl(20×10 cells)をALKスポンジBに播種し、さらに培地溶液を加えた後、インキュベーター内で、37℃、5%COにて、3日間および10日間培養した。10日間の培養において、培地溶液は3日毎に交換した。
ALKスポンジBにおける線維芽細胞の増殖状態を電子顕微鏡で観察した。
培養3日目の電子顕微鏡像では、スポンジの表面(培養時の上面)および裏面(培養時の底面)の両方で、細胞がまばらに存在した(図4および5)。
培養10日目の電子顕微鏡像では、スポンジの表面および裏面の両方で、コンフルエントには達していないものの、かなり多くの数の細胞が観察された(図6および7)。
以上の結果から、ALKスポンジは、細胞毒性が低く、細胞親和性を有することが示された。
図1は、凍結乾燥スポンジの電子顕微鏡像である。(a)および(b)は、凍結乾燥スポンジの表面(凍結乾燥時の上面)の像であり、(c)は、凍結乾燥スポンジの裏面(凍結乾燥時の底面)の像であり、(d)は、凍結乾燥スポンジの断面の像である。数値は拡大率を表す。 図2は、ALKスポンジAの電子顕微鏡像ある。(a)および(b)は、凍結乾燥スポンジの表面(凍結乾燥時の上面)の像であり、(c)は、凍結乾燥スポンジの裏面(凍結乾燥時の底面)の像であり、(d)は、凍結乾燥スポンジの断面の像である。数値は拡大率を表す。 図3は、ALKスポンジBの電子顕微鏡像である。(a)、(b)および(e)は、凍結乾燥スポンジの表面(凍結乾燥時の上面)の像であり、(c)は、凍結乾燥スポンジの裏面(凍結乾燥時の底面)の像であり、(d)は、凍結乾燥スポンジの断面の像である。数値は拡大率を表す。 図4は、細胞培養3日目の、ALKスポンジB表面(培養時の上面)の電子顕微鏡像である。数値は拡大率を表す。 図5は、細胞培養3日目の、ALKスポンジB裏面(培養時の底面)の電子顕微鏡像である。数値は拡大率を表す。 図6は、細胞培養10日目の、ALKスポンジB表面(培養時の上面)の電子顕微鏡像である。数値は拡大率を表す。 図7は、細胞培養10日目の、ALKスポンジB裏面(培養時の底面)の電子顕微鏡像である。数値は拡大率を表す。

Claims (5)

  1. 孔径500〜2000μmの孔を有する、ケラチンにより構成される多孔性材料。
  2. 細胞培養に用いられる、請求項1に記載の多孔性材料。
  3. 組織再生または細胞移植に用いられる、請求項1に記載の多孔性材料。
  4. 細胞をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔性材料。
  5. ケラチンとアルギン酸カルシウムビーズの複合体を形成した後、該複合体のアルギン酸カルシウムビーズ部分を溶解する工程を包含する、孔径500〜2000μmの孔を有する、ケラチンにより構成される多孔性材料の製造方法。
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