JP2006231784A - 樹脂成形品 - Google Patents

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文雄 大野
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Abstract

【課題】 希土類金属磁石をインサート成形した樹脂成形品において、クラック等の発生を確実に抑制する。
【解決手段】 希土類金属磁石が樹脂中にインサート成形されてなる樹脂成形品である。希土類金属磁石の周囲において、樹脂の厚さが最も薄い部分における樹脂厚が1.0mm以上である。また、希土類金属磁石の周囲において、樹脂の厚さが最も薄い部分に、成形時に希土類金属磁石を固定する固定ピンに対応した開口部が形成されている場合に、この開口部の形状を、楕円形状または長孔形状とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、例えば希土類金属磁石等の部品が樹脂中にインサート成形された樹脂成形品に関するものであり、特に、成形後のクラックの発生を防止する技術に関する。
樹脂成形品の分野においては、電子部品や機構部品をインサート成形することが広く行われており、例えば磁気特性に優れた希土類金属磁石を一体に組み込むことで、樹脂成形品に様々な機能を付加することが可能になる。ここで、インサート成形は、金型内に希土類金属磁石を配置して、樹脂を注入するだけでよく、希土類金属磁石が一体化された樹脂成形品を簡単に作製することができ、工数削減やコストダウンに有効な方法である。
近年、電子機器等の小型化の進展に伴い、機器内に組み込む部品に対しても小型化が要求されており、前記樹脂成型品においても例外ではない。そして、樹脂成型品を小型化するためには、成型品の樹脂厚を極力削減することが必要になり、その成型に際しては、強度の確保が重要な課題となる。
このような状況から、例えば樹脂中にフィラーを添加することで、樹脂成形品の強度を確保する試みがなされている(特許文献1等を参照)。特許文献1は、レンズホルダの成形に関するものであるが、レンズホルダを形状異方性を有するフィラー入り樹脂によって成形すると共に、フィラーが中心軸の軸線方向に配向されるようにしている。これにより、寸法精度に優れ、かつ薄く軽量でも機械的剛性の高いレンズホルダが提供できるとしている。
特開平6−27360号公報
しかしながら、実際に様々な構成、形状の樹脂成形品の作製を試みたところ、仮にフィラー等を添加しても十分にその効果を引き出すことができず、成形後にクラック等が頻繁に発生しているのが実情である。特に、希土類金属磁石をインサート成形した場合、希土類金属磁石の配向方向と直交する方向での熱膨張係数が負の値を持つことから、応力が加わり易く、クラックが入り易い。これらクラックが発生すると、製品として提供することはできず、したがって、不良品の発生による歩留まり低下が大きな問題となる。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、希土類金属磁石等の部品をインサート成形した樹脂成形品において、クラック等の発生を確実に抑制することができ、不良品の発生が少なく、歩留まりの向上が可能な樹脂成形品を提供することを目的とする。
本発明者は、前記目的を達成せんものと長期に亘り鋭意検討を重ねてきた。その結果、希土類金属磁石等の部品をインサート成形する場合、部品の周囲のうち最も強度の弱い部分において、強度を低下する要因を極力回避し得るように樹脂成形品の設計を最適化する必要があるとの結論を得るに至った。前記強度の弱い部分は、1)最も薄い部分、2)「きっかけ」を含む部分[例えば曲率半径1mm以下の曲面の部分や角度(特に鋭角な角)等]、3)熱膨張係数差から応力が発生する部分等である。
本発明は、このような知見に基づいて案出されたものであり、先ず第1に、部品(例えば希土類金属磁石)が樹脂中にインサート成形されてなる樹脂成形品であって、前記部品の周囲において、樹脂の厚さが最も薄い部分における樹脂厚が1.0mm以上であることを特徴とする。
希土類金属磁石等の部品をインサート成形した樹脂成形品においては、最も強度的に弱くなるのは、部品(希土類金属磁石)の周囲において、樹脂の厚さが最も薄い部分である。この部分に部品(希土類金属磁石)と樹脂との熱膨張係数の相違に起因する応力が加わり、クラックが発生する。本発明者らが種々検討を重ねたところ、この樹脂の厚さが最も薄い部分において、樹脂厚を1.0mm以上とすることで、クラックの発生が大幅に低減されることがわかった。
また、本発明は、第2に、部品(例えば希土類金属磁石)が樹脂中にインサート成形されてなる樹脂成形品であって、前記部品の周囲において、成形時に前記部品を固定する固定ピンに対応した開口部が形成されており、前記開口部の形状が、楕円形状、長孔形状、角部が円弧状とされた長方形状のいずれかであることを特徴とする。
希土類金属磁石等の部品をインサート成形する場合、金型内において部品(希土類金属磁石)を固定する必要があり、通常、コアピンと称される固定ピンによって部品(希土類金属磁石)を支持した状態で樹脂の注入が行われる。この場合、位置ズレを最も有効に防止できる効果をもち、また挿入が容易であること、さらに、例えば熱硬化樹脂等を使用した場合のガス抜きを円滑に行えること等の理由から、部品(希土類金属磁石)の周囲において成形時に部品の位置を決めるガイドピンと対向する面に固定ピンを設置し、この部分で部品を支持するようにしている。
この場合、樹脂成形品においては、部品(希土類金属磁石)の周囲において、固定ピンを引き抜いた後の開口部(孔)が形成される。そして、成形後には、この開口部において応力が開放されるが、開口部の形状、すなわち固定ピンの断面形状が小径の円形であると、応力が集中してクラックが発生し易いことがわかったきた。そこで、本発明では、クラックを極力抑制できるような開口部形状を検討した結果、この開口部の形状を楕円形状や長孔形状、さらには角部を円弧状とした長方形状とすることにより、クラックの発生を抑制できることを見出し、発明を完成するに至った。開口部が楕円形状や長孔形状、角部を円弧状とした長方形状であると、応力が分散されるため、クラック等が入り難くなるものと推測している。
さらに、部品をインサート成形する場合には、部品と樹脂の熱膨張係数の違いを考慮する必要がある。組み込む部品と樹脂は、通常、熱膨張係数が異なるため、一体成形後、クラックが入り易い。特に、異方性を持つ希土類金属磁石の場合、前記傾向が顕著である。配向方向と直交する方向における熱膨張係数が負であるためである。希土類金属磁石をインサート成形した場合、前記熱膨張係数の関係から、一体成形後の冷却時において希土類金属磁石の周囲を取り囲んだ樹脂は収縮するのに対し、樹脂に取り囲まれた希土類金属磁石は膨張する。その結果、大きな応力が発生することになる。したがって希土類金属磁石は、樹脂等の他の物質と一体化した場合、温度変化時に発生する応力に敏感なためクラックを生じやすい。よって、それを考慮して一体成形品を設計する必要がある。本発明は、このような観点からも有効であり、本発明の設計とすることで、クラックの発生が確実に回避される。
本発明によれば、希土類金属磁石等の部品をインサート成形した樹脂成形品において、クラック等の発生を抑制することができ、不良品の発生を抑え、歩留まりを向上することが可能である。
以下、本発明を適用した樹脂成形品について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態においては、部品として希土類金属磁石をインサート成形する場合を例にして説明するが、これに限らず、部品全般に適用可能であることは言うまでもない。
実際の樹脂成形品は、様々な形状をしており、希土類金属磁石の配置等も多様であるが、本実施形態においては、最も簡単なモデルを使用してその基本概念を説明する。
先ず、図1は、ほぼ直方体形状を有する樹脂成形品1内に希土類金属磁石2をインサート成形した場合の形状例を示すものである。
ここで、希土類金属磁石2は、希土類元素R、遷移金属元素T及びホウ素Bを主成分とするものであり、磁気特性に非常に優れるという特徴を有することから、小型化、高性能化を図る上で有用である。希土類金属磁石2の組成は、用途等に応じて任意に選択すればよく、例えば、希土類元素Rとは、具体的にはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuのことをいい、これらから1種又は2種以上を用いることができる。中でも、資源的に豊富で比較的安価であることから、希土類元素Rとしての主成分をNdとすることが好ましい。また、遷移金属元素Tは、従来から用いられている遷移金属元素をいずれも用いることができ、例えばFe、Co、Ni等から1種又は2種以上を用いることができる。これらの中では、焼結性の点からFe、Coが好ましく、特に磁気特性の点からFeを主体とすることが好ましい。また、前記希土類元素R、遷移金属元素T及びホウ素Bの他、保磁力等の特性改善を目的として、例えばAl等の元素を添加してもよい。これらの元素の他、不可避的不純物又は微量添加物として、例えば炭素や酸素等が含有されていてもよい。
この樹脂成形品1においては、希土類金属磁石2の4辺に対応した樹脂部A,B,C,Dを有しており、それぞれの樹脂部A,B,C,Dの厚さがt,t,t,tである。そして、t,t,t>tであり、樹脂の厚さが最も薄い部分が樹脂部Dである。したがって、成形される樹脂成形品において、最も強度が弱いのは樹脂部Dということになる。
そこで、本発明では、この樹脂の厚さが最も薄い樹脂部Dにおける樹脂厚tを1.0mm以上とすることで、クラックの発生を回避することとする。希土類金属磁石2をインサート成形した場合、先にも述べたように希土類金属磁石と樹脂との熱膨張係数の相違に起因する応力が加わり、クラックが発生する。本発明者らは、試行錯誤を繰り返した結果、この部分の樹脂厚の下限を設定することで、効果的にクラックを回避し得るとの結論を得るに至った。前記のように、樹脂の厚さが最も薄い樹脂部Dにおける樹脂厚tを1.0mm以上とすることで、例えば熱衝撃試験時にクラックの発生を抑えることができ、信頼性を大幅に向上することができる。
前記樹脂部Dにおける樹脂厚tは、クラック防止の観点からは、特に上限は規制されないが、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。したがって、前記樹脂厚tの範囲は、好ましくは1.0mm〜2.0mm、より好ましくは1.0mm〜1.5mmである。前記樹脂厚tが厚すぎても、クラックの発生率に変化が少なく、効果が頭打ちとなる傾向にあり、また、樹脂成形品1の小型化、薄型化、軽量化等の観点からも不利である。
次に、樹脂成形品1に形成される開口部に関する検討結果を説明する。希土類金属磁石2をインサート成形する場合、樹脂の流れによって希土類金属磁石2が位置ずれを起こすおそれがあり、これを防止することを目的に、固定ピンにより希土類金属磁石を支持する必要がある。この場合、固定ピンの位置は、任意であるが、位置ズレを最も有効に防止できる効果をもち、また挿入が容易であること、さらに、例えば熱硬化樹脂等を使用した場合のガス抜きを円滑に行えること等の理由から、希土類金属磁石の周囲において成形時に磁石の位置を決めるガイドピンと対向する面に固定ピンを設置し、この部分で希土類金属磁石を支持するのが好ましいと考えられる。
したがって、樹脂成形品1には、前記固定ピンに対応して開口部3が形成されるが、この開口部3の形状が、例えば図2(a)に示すように小径の円形であると、クラックcが入り易い。これは、成形後に狭いエリアに応力が集中することが原因と考えられる。
そこで、本発明者らは、開口部3の形状について検討を加え、クラックの抑制を試みた。その結果、図2(b)に示すように、開口部3の形状を楕円形状としたり、図2(c)に示すように、開口部3の形状を長孔形状とすることで、あるいは図2(d)に示すように、開口部3の形状を角部を円弧状とした長方形状とすることで、クラックの発生を抑えることができるとの知見を得るに至った。その理由について、詳細は不明であるが、開口部3を楕円形状や長孔形状とすることで、応力が分散され、クラックが発生し難くなるものと推測している。
また、前記開口部3の形状を楕円形状、長孔形状、あるいは角部を円弧状とした長方形状とする場合、インサート部品のサイズとの関係にもよるので、一概には言えないが、本発明のように10×10×3mmの形状をもつ希土類磁石をインサート成形する場合、直線及び/又は0.5mm以上の曲率半径を持つ曲線で構成されることが好ましい。更に好ましくは1.0mm以上の曲率半径である。また、長辺が直線にて構成される場合、その直線の長さは好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である。曲率半径の小さな曲線部分や長辺の短い直線部分が存在すると、そこに応力が集中し、クラックが発生し易くなる。
前記のように開口部3が形成される場合、成形時に磁石の位置を決めるガイドピンと対向する樹脂部における樹脂厚については、先の数値をそのまま適用することができる。図3において開口部3の周辺部分4の樹脂の厚さtを1.0mm以上、好ましくは1.0mm〜2.0mm、更に好ましくは1.0mm〜1.5mmとすることで、前記開口部3の形状を楕円形状、長孔形状、あるいは角部を円弧状とした長方形状としたことによる効果と併せて、樹脂厚を厚くしたことによる効果を得ることができ、より確実にクラックの発生を防ぐことができる。
以上の構成を有する本発明においては、樹脂成形品を構成する樹脂材料として、任意の樹脂材料を用いることができるが、特に熱硬化性樹脂を用いた場合に適用することで、その効果を引き出すことができる。これは、樹脂成形品に熱硬化性樹脂を用いた場合には、ガス発生によるクラックが発生し易く、また固定ピン孔によるガス抜きが必要になるからである。
以上が本発明の樹脂成形品の構成であるが、本発明の樹脂成形品を成形する場合、希土類金属磁石2の周辺における樹脂流れを考慮して成形することが強度を確保する上で重要である。例えば図1に示す構造の樹脂成形品を成形する場合、図4(a)に示すように、樹脂部C側から樹脂を注入すると、樹脂の流れは図中矢印で示すようなものとなる。すなわち、樹脂部C側から金型キャビティ5内に注入された樹脂の流れは、希土類金属磁石2によって遮られ、希土類金属磁石2を避けながら移動する。そして、樹脂部Dに関しては、樹脂部Aや樹脂部Bを回り込んだ後、樹脂の流れが到達する。このとき、樹脂部Dにおいて、部品2によって分流された樹脂の流れが合流することになり、その結果、図中wで示す位置において、いわゆるウエルドを起こす。ウエルドは、強度低下の大きな原因となり、これが最も強度の弱い樹脂部Dにおいて起こると、この部分でのクラックの発生に繋がり、信頼性を著しく損なうことになる。
一方、図4(b)に示すように、樹脂部A側から樹脂を注入すると、やはり希土類金属磁石2によって樹脂の流れが分割され、希土類金属磁石2の終端、この場合には樹脂部Bで合流する。したがって、樹脂部Bにおいてウエルドが起こるが、樹脂部Bは樹脂の厚さが厚く、ウエルドが起こったとしても、強度低下の影響は僅かであり、これが原因でクラックが入ることはない。また、樹脂の厚さが最も薄い樹脂部Dについて言えば、この部分には希土類金属磁石2を避けながら移動する樹脂の流れが形成され、樹脂流れの合わさり目となることがないので、ウエルドが起こることはない。したがって、強度的に最も問題となる樹脂部Dにおいて強度が低下することがなく、クラックの発生が抑えられる。
前述のように、樹脂の注入方向によって希土類金属磁石2の周囲での樹脂の流れが変わる。したがって、樹脂成形品の成形に際しては、図4(b)に示すように、樹脂の厚さが最も薄く強度的に問題となる樹脂部Dに沿って平行に樹脂の流れが形成されるように、すなわち樹脂部A側(あるいは樹脂部B側)から樹脂を注入することが好ましいということになる。
また、樹脂成形品1の強度を向上するために、樹脂に繊維状フィラーを添加した場合や、前記のようにインサートする部品として前記負の熱膨張係数を有する希土類金属磁石2を用いた場合には、これに応じて樹脂の注入方向を考慮する必要がある。
先ず、樹脂に繊維状フィラーを添加した場合について説明すると、樹脂成形品1の強度を考えた場合、樹脂中へのフィラーの添加が有効であることは良く知られるところであり、例えばガラスフィラー等のような繊維状フィラーを添加することで、樹脂成形品1の強度が大幅に向上され、好ましい。ただし、この場合、繊維状フィラーの配向方向を適正に制御する必要がある。
図5は、樹脂部Dにおける繊維状フィラーの配向方向を例示するものである。樹脂部Dは、樹脂の厚さが最も薄く、強度が弱い部分であるので、この樹脂部Dにおける繊維状フィラーの配向性を最適化することが最も効果的である。
樹脂部Dにおける繊維状フィラーfの配向方向を考えた場合、樹脂の注入方向によって前記配向方向が変わる。例えば、樹脂部Dの最も断面積が小さな最小断面Sに対して、側方から最小断面sに沿って樹脂を注入した場合には、図5(a)に示すように、前記最小断面sに対してほぼ平行に繊維状フィラーfが配列する。図5(b)に示すように、樹脂部Dに対して上方、あるいは下方から樹脂を注入した場合にも、前記最小断面sに対してほぼ平行に繊維状フィラーfが配列する。このような場合、繊維状フィラーfは、最小断面sとほぼ平行に入るクラックに対して、これを妨げるように働かず、繊維状フィラーf間で引き裂かれる形になり、寧ろクラックが入り易くなる。
これに対して、図5(c)に示すように、前記最小断面sと直交する方向から樹脂を注入した場合、最小断面sと直交する方向に樹脂が流れ、繊維状フィラーfもこの方向に配向する。すなわち、繊維状フィラーfは最小断面sと直交する方向に配列する。この場合には、前記最小断面sと直交する方向に力が働いた時に、繊維状フィラーfが引っ張られることになり、前記力に抗する形になる。したがって、繊維状フィラーfがクラックの発生を防ぐ上で有効に寄与し、クラックの発生が効果的に抑えられる。
したがって、樹脂中に繊維状フィラーfを添加した場合には、図5(c)に示すように、樹脂部Dの最小断面sと直交する方向から樹脂を注入することが好ましいことになるが、これは、先の図4(b)に示す樹脂の注入方向と一致する。つまり、図1に示す樹脂成形品1を成形するに際し、樹脂部A側から樹脂を注入すれば、樹脂部Dにおいてウエルドが起こることがなく、また繊維状フィラーfの配向方向もクラックを防ぐ方向となるので、強度的に最も問題がある樹脂部Dにおいて、強度低下を回避することができる。
次に、インサート成形する部品が希土類金属磁石2である場合について考えると、希土類金属磁石2では配向方向と直交する方向の熱膨張係数が負であり、樹脂の熱膨張係数が正であることから、一体成形後にクラックが入り易く、その対策が必要である。
前記希土類金属磁石2においては、成形時の希土類金属粉の磁場配向方向と熱膨張係数との間に密接な関係があり、前記磁場配向方向と平行な方向において熱膨張係数が正、前記磁場配向方向と直交する方向において熱膨張係数が負である。いま、図6に示すように希土類金属磁石2をインサート成形する場合を考えると、希土類金属磁石2を厚み方向に磁場配向した場合、希土類金属磁石2の長手方向における熱膨張係数αが負ということになる。ここで、希土類金属磁石2の寸法をLとした場合、前記熱膨張係数αと寸法Lの積αLが最も大きくなる方向(温度変化に伴う変位量が最も大きい方向)は、前記長手方向ということになる。
前記の場合、樹脂注入後、冷却されると、温度低下に伴い希土類金属磁石2は矢印X方向に伸び、一方、樹脂部Dの樹脂は矢印X方向に縮もうとする。したがって、樹脂部Dでは点Fに大きな力が加わり、クラックが入り易くなる。このような力に対抗するためには、前記樹脂部Dに矢印X方向に加わる力に対して強度を確保することが重要である。
したがって、樹脂部Dにおいてウエルドが起こることがなく、また前記矢印X方向に繊維状フィラーが配列されるように樹脂を注入することが好ましいということになる。これは、先の図4(b)に示す方向と一致し、また図5(c)に示す繊維状フィラーの配向と一致する。
以上は、図1に示す樹脂成形品を例にした説明であるが、例えば開口部3を形成した場合にも、同様に適用することができる。図2に示すような開口部3が形成される場合、その周辺部分4において樹脂の厚さが最も薄い。したがって、この周辺部分4で前記各要件を満たすように樹脂を注入すれば、この周辺部分4の強度を確保することができ、クラックの発生を抑えることが可能である。
以上のように、希土類金属磁石2をインサート成形する場合には、樹脂の注入方向を適正に制御する必要があり、これにより、クラック等の発生を確実に抑制することができ、不良品の発生を抑え、樹脂成形品の歩留まりを大幅に向上することが可能である。また、樹脂に繊維状フィラーを添加した場合や、熱膨張係数が負である希土類金属磁石2をインサート成形する場合には、これらを併せて考慮して樹脂の注入方向を決めることが好ましく、これによりさらなる改善を図ることが可能である。
本発明の樹脂成形品においては、前述のように、最も薄くなる部分の樹脂の厚さを1.0mm以上とすることで、あるいは固定ピン孔の形状を所定の形状とすることで、クラックの発生を防止するようにしているが、前記樹脂の注入方向を併せて考慮することで、より一層の改善を図ることが可能になる。
以下においては、実際に樹脂成形品を成形し、本発明の効果を確かめた。
実施例1
本実施例において作製した樹脂成形品の形状を図7に示す。この樹脂成形品11は、樹脂部12中に2つの希土類金属磁石13をインサート成形したものである。インサート成形に際しては、希土類金属磁石13を固定する必要があり、本例の場合、ガイドピンと固定ピンにより希土類金属磁石13を両側から固定している。したがって、樹脂成形品11には、前記希土類金属磁石13の下部側にガイドピン孔14が、また希土類金属磁石13の上部側に固定ピン孔15が形成されている。
また、前記樹脂成形品11は、樹脂部12が大きく2つに分割され、これらが筐体状に連結された構造を有しており、分割された樹脂部12にそれぞれ1つの希土類金属磁石13がインサート成形されている。樹脂部12においては、希土類金属磁石13の上面を覆う部分の樹脂の厚さが最も薄く、前記固定ピン孔15の周辺部分12Aの樹脂の厚さが最も薄い。本例では、この周辺部分12Aの樹脂厚を1.25mmとした。また、固定ピン孔15の形状は、曲率半径1mm、長辺部の直線長6mmの8×2mmの長方形に内接する長孔形状とした。
樹脂成形品11にインサートされる希土類金属磁石13は、10mm×10mm×3mmであり、通常の粉末冶金の手法により作製した。希土類金属磁石13における配向方向は厚さ方向(図7の紙面における上下方向)であり、表面にはNiめっきを施した。注入する樹脂としては、ガラスフィラーを40質量%充填した熱硬化性樹脂を用いた。
前記樹脂成形品を、図4(b)に示す例と同様の方向から樹脂を注入して成形した。すなわち、図7において、図中左端側に前記2分割された部分に対応してゲートを2箇所設け、ここから樹脂を注入した。これにより、希土類金属磁石13の長手方向に沿って樹脂流が形成され、前記固定ピン孔15の周辺部分12Aにおいても、図中右方向に向かって樹脂が流れることになる。作製した樹脂成形品の数は200個である。
各樹脂成形品について、樹脂が固化した後、金型から取り出し、180℃にて3時間エージングを行った。その後、温度−40℃〜85℃、さらし時間各30分間、15サイクルなる条件で熱衝撃試験を行った。エージング後及び試験後に、樹脂成形品に入ったクラックの状況を目視にて観察し、クラックが発生した樹脂成形品の数量を成形個数(200個)で除し、不良品発生率を求め、歩留まりを評価した。その結果、エージング後は歩留まり100%であり、熱衝撃試験後でも歩留まり65%と良好な値を示していた。
実施例2
樹脂の厚さが最も薄い固定ピン孔15の周辺部分12Aの厚さを1.65mmとし、固定ピン孔15の形状を実施例1と同様の長孔形状として、実施例1と同様の樹脂成形品を作製した。この場合、エージング後の歩留まりは100%であり、熱衝撃試験後では75%の歩留まりであった。
比較例1
本例では、樹脂の厚さが最も薄い固定ピン孔15の周辺部分12Aの厚さを0.85mmとし、固定ピン孔15の形状を半径0.4mm(曲率半径0.4mm)の円形として、実施例1と同様の樹脂成形品を作製した。この場合、エージング後の歩留まりは35%であり、熱衝撃試験後は0%の歩留まりと信頼性の良好な樹脂成形品を得ることができなかった。
実施例3
本例では、樹脂の厚さが最も薄い固定ピン孔15の周辺部分12Aの厚さを0.85mmとし、固定ピン孔15の形状を実施例1と同様の長孔形状として、実施例1と同様の樹脂成形品を作製した。この場合、エージング後の歩留まりは82%であり、熱衝撃試験後は8.5%の歩留まりであった。
樹脂成形品の第1のモデルを示す平面図である。 樹脂成形品の第2のモデルを示す平面図であり、(a)は開口部が円形の例、(b)は開口部が楕円形状の例、(c)は開口部が長孔形状の例、(d)は開口部が角部が円弧状の長方形状の例をそれぞれ示す。 開口部近傍の断面図である。 (a)は部品の長手方向と直交する方向から樹脂を注入した場合の樹脂の流れを示す模式図であり、(b)は部品の長手方向と平行な方向から樹脂を注入した場合の樹脂の流れを示す模式図である。 樹脂の注入方向と繊維状フィラーの配向方向の関係を示す模式図であり、(a)は樹脂部Dの幅方向に注入した場合、(b)は厚さ方向に注入した場合、(c)は長手方向に注入した場合である。 部品の熱膨張係数が負である場合の冷却時の部品が伸びる方向及び樹脂が縮む方向を示す模式図である。 実施例で作製した樹脂成形品の形状を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
符号の説明
1 樹脂成形品、2 希土類金属磁石、3 開口部、4 周辺部分、11 樹脂成形品、12 樹脂部、12A 固定ピン孔の周辺部分、13 希土類金属磁石、14 ガイドピン孔、15 固定ピン孔

Claims (8)

  1. 部品が樹脂中にインサート成形されてなる樹脂成形品であって、
    前記部品の周囲において、樹脂の厚さが最も薄い部分における樹脂厚が1.0mm以上であることを特徴とする樹脂成形品。
  2. 前記樹脂の厚さが最も薄い部分における樹脂厚が1.0mm〜2.0mmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品。
  3. 部品が樹脂中にインサート成形されてなる樹脂成形品であって、
    前記部品の周囲において、成形時に前記部品を固定する固定ピンに対応した開口部が形成されており、
    前記開口部の形状が、楕円形状、長孔形状、角部が円弧状とされた長方形状のいずれかであることを特徴とする樹脂成形品。
  4. 前記開口部の形状は、直線及び/又は0.5mm以上の曲率半径を持つ曲線により構成されていることを特徴とする請求項3記載の樹脂成形品。
  5. 前記樹脂の厚さが最も薄い部分における樹脂厚が1mm以上であることを特徴とする請求項3または4記載の樹脂成形品。
  6. 前記部品が希土類金属磁石であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の樹脂成形品。
  7. 前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の樹脂成形品。
  8. 前記樹脂に繊維状フィラーが添加されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の樹脂成形品。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2018185897A (ja) * 2017-04-24 2018-11-22 トヨタ紡織株式会社 燃料電池スタックのエンドプレート
JP2020088327A (ja) * 2018-11-30 2020-06-04 京セラ株式会社 試料保持具

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