JP2006215303A - 眼鏡レンズの設計方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 累進屈折面と乱視屈折面を合成した合成屈折面に対して最適な非球面設計を施すことができる眼鏡レンズの設計方法を提供する。
【解決手段】 眼鏡レンズを構成する2つの屈折面のうち少なくともどちらか一つの屈折面が遠用部と近用部と累進部とを備える累進屈折面と乱視屈折面とが合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズの設計方法において、遠用部及び近用部のいずれか一方において眼鏡レンズの幾何学中心近傍の中心点GCから放射方向の少なくとも2方向に延びる基準線を設定すると共に、遠用部及び近用部のいずれか他方において眼鏡レンズの中心点GCから放射方向の少なくとも1方向に延びる基準線を設定し、それぞれの基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定し、これらの基準線の間の屈折力に対して補間法で非球面付加量を決定する眼鏡レンズの設計方法とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、視力補正用累進屈折力レンズの設計方法に関する。
累進屈折力レンズは、眼鏡レンズを構成する物体側と眼球側の2つの屈折面のうち、少なくともどちらか一つの屈折面が、遠方視用の上方の遠用部とこの遠用部と異なる屈折力を備える近方視用の下方の近用部とこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備える。累進屈折力レンズでは、光学性能向上のためさまざまな取リ組みがなされてきた。
その一つとして注目されているのが、非球面設計を用いた累進屈折力レンズである。これは、眼鏡レンズを眼に装着したときと同条件を想定し、光線追跡により度数や、非点収差、プリズム等を計算し、球面設計ではエラーの出てしまう部分を補うものである。
なお、累進屈折面はもともと、遠方視用と近方視用の異なる曲率の球面を、一面の中でなめらかにつないだものであるため、それ自体非球面であるが、ここで言う累進屈折力レンズの非球面設計とは、遠用中心や、近用中心などの累進屈折面の曲率が一定な領域においてさえも、数学的にへそ点でないことを意味する。
このような非球面設計を用いた累進屈折力レンズは、下記特許文献1に開示されており、球面設計に比べ、非点収差の減少や、レンズの薄型化といった効果をもたらしている。
しかしながら、特許文献1に記載されている非球面設計では、最適な非球面設計であるとは言い難い。そのため、本発明者は、下記特許文献2において、簡便なレンズ設計により、累進部を含んだレンズ全体に最適な非球面設計を施すことが可能な眼鏡レンズの設計方法を提案した。
特公平2−39768号公報 特開2000−66148号
しかしながら、本発明者が特許文献2で提案した設計方法は、累進屈折力レンズの遠用部と近用部はそれぞれが一定の屈折力を有する領域であるとして、非球面設計を行っている。ところが、実際に生産される眼鏡レンズの7割程度は乱視補正の屈折力が加わっており、累進屈折面と乱視屈折面を合成した合成屈折面が設けられた屈折面を有する眼鏡レンズが大半を占めているのが現状である。特許文献2で提案した設計方法では、乱視屈折力を考慮しておらず、そのため、累進屈折面に乱視屈折面が合成された合成屈折面に対する非球面設計による補正の最適化がされていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、累進屈折面と乱視屈折面を合成した合成屈折面に対して最適な非球面設計を施すことができる眼鏡レンズの設計方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、第1に、眼鏡レンズを構成する物体側と眼球側の2つの屈折面のうち、少なくともどちらか一つの屈折面が、遠用部とこの遠用部と異なる屈折力を備える近用部とこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備える累進屈折面と乱視屈折面とが合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズの設計方法であって、前記遠用部及び前記近用部のいずれか一方において眼鏡レンズの幾何学中心近傍の中心点から放射方向の少なくとも2方向の基準線を設定する第1基準線設定工程と、前記遠用部及び前記近用部のいずれか他方において眼鏡レンズの前記中心点から放射方向の少なくとも1方向の基準線を設定する第2基準線設定工程と、それぞれの前記基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定する非球面付加量決定工程と、これらの基準線の間の屈折力に対して補間法で非球面付加量を決定する補間工程とを有することを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
累進屈折面に乱視屈折面が合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズにおいては、遠用部及び近用部においても非球面となっている。遠用部及び近用部における合成屈折面の屈折力は、乱視屈折力と乱視軸で大きく変化するため、眼鏡レンズ毎に異なると言っても過言ではない。最適な非球面付加量は元になる合成屈折面の屈折力により異なるため、元になる合成屈折面の屈折力を把握しなければならない。そのため、眼鏡レンズの幾何学中心又はその近傍を中心点として設定し、その中心点から放射方向に遠用部又は近用部の面積の大きい方の領域に延びる少なくとも2本の基準線を設定すると共に、遠用部又は近用部の面積の小さい方の領域に延びる少なくとも1本の基準線を設定し、これらの基準線に沿った屈折力に対して最適な非球面付加量を決定し、更にこれらの基準線間の領域の非球面付加量を補間法で決定することにより、合成屈折面全体に対して最適な非球面設計を施すことができる。
本発明は、第2に、上記第1の眼鏡レンズの設計方法において、前記第1基準線設定工程が、前記中心点から前記遠用部及び前記近用部のいずれか一方の両端部と中心部の少なくとも3方向の基準線を設定することを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
面積が広い方の遠用部又は近用部の合成屈折面の屈折力を正確に把握するためには、両端部と中心部の少なくとも3方向に延びる基準線を設定することが有利である。
本発明は、第3に、上記第1又は2の眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、(x,y,z)=(0,0,0)とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量をδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の座標ztが、zt=zp+δで表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
この第1の非球面付加量の計算方法によれば、Z軸方向の非球面付加量の座標を直接計算することができる。
本発明は、第4に、上記第1又は2の眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、(x,y,z)=(0,0,0)とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる径方向の傾きをdzpで表し、前記非球面付加量から求められる径方向の傾きdδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の径方向の傾きdztが、dzt=dzp+dδで表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
この第2の非球面付加量の計算方法によれば、傾きの分布を求めるため、プリズム量の制御が容易であるという利点を有する。Z座標は、原点から積分することにより求めることができる。
本発明は、第5に、上記第1又は2の眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、(x,y,z)=(0,0,0)とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる径方向の曲率をcpで表し、前記非球面付加量から求められる径方向の曲率cδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の径方向の曲率ctが、ct=cp+cδで表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
この第3の非球面付加量の計算方法によれば、曲率の分布を求めるため、光学的評価が簡単であり、設計しやすく、目的とする処方が容易に得られるという利点がある。Z座標は、原点から積分することにより求めることができる。
本発明は、第6に、上記第1又は2の眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、(x,y,z)=(0,0,0)とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量から求められる径方向の曲率をcδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の座標ztが、下記式(1)で定義されるbp
Figure 2006215303
を用いて、下記式(2)
Figure 2006215303
(但し、rは前記中心点からの距離であり、r=(x2+y21/2で表される。)で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
この第4の非球面付加量の計算方法によれば、曲率の分布を求めるため、光学的評価が簡単であり、設計しやすく、目的とする処方が容易に得られ、また、Z座標が積分によらず直接計算出来るという利点がある。
本発明は、第7に、上記第1又は2の眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、(x,y,z)=(0,0,0)とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量から求められるコーニック係数をkδ(kδ=-e2 eは離心率)としたとき、前記非球面付加量が加えられた合成屈折面の座標ztが、下記式(1)で定義されるbp
Figure 2006215303
を用いて、下記式(3)
Figure 2006215303
(但し、rは前記中心点からの距離であり、r=(x2+y21/2で表される。)で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
この第5の非球面付加量の計算方法によれば、曲率の変化がなめらかになるように設計でき、急激な度数変化などの無い自然な累進面形状が得られる。
本発明は、第8に、上記第1〜7いずれかの眼鏡レンズの設計方法において、前記合成屈折面が、眼球側の屈折面に設けられていることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法を提供する。
眼球側の屈折面に合成屈折面を配置することにより、物体側の屈折面を球面にすることができる。これにより、累進屈折力レンズの欠点である、ゆれや歪みといった要素が低減でき、光学性能が向上すると共に、本発明の効果である非点収差の削減、あるいはレンズの薄型化も同時に実現できる。
以下、本発明の眼鏡レンズの設計方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
本発明の眼鏡レンズの設計方法は、眼鏡レンズを構成する物体側(外面側)と眼球側(内面側)の2つの屈折面のうち、少なくともどちらか一つの屈折面が、遠用部とこの遠用部と異なる屈折力を備える近用部とこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備える累進屈折面に乱視屈折面が合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズの設計方法である。
乱視を矯正するトーリック面の乱視軸は処方によって180゜変化し、乱視を矯正する度数も処方によって変化する。遠用部及び近用部における合成屈折面の屈折力は、眼鏡レンズ毎に異なると言っても過言ではない。従って、累進屈折面と乱視屈折面とが合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズの設計は、必然的にオーダーメード設計となり、眼鏡レンズ毎に設計をすることになる。そのため、本発明の眼鏡レンズの設計方法を適用した場合でも、計算量が増えるだけで、生産性が低下することはなく、累進屈折力と乱視屈折力の両方の視力矯正が必要な一人一人に最適な光学性能を有する眼鏡レンズを提供することができる。
累進屈折力を有する眼鏡レンズの設計では、レンズ上方にあって遠方を見るための遠用部と、レンズ下方にあって近くの物を見るための近用部と、これらの遠用部と近用部を滑らかに連絡し、中間的な距離を見るための累進部とを眼鏡レンズ内で区分する。用途別の設計では、遠用視野と近用視野の両方をバランスよく配置するいわゆる遠近両用設計と、広い遠方視野と中間視野を重視した遠中主体設計と、1m前後の中間領域から手元までの視野を重視した中近主体設計とに大別することができる。また、歪曲収差と非点収差の分布の設計では、遠用部と近用部を広くし、狭い累進部に収差を集中させた収差集中型と、遠用部と近用部を狭くし、累進部を広くして中間部における収差を拡散させた収差分散型とに大別することができる。本発明の眼鏡レンズの設計方法では、いずれのカテゴリーの累進屈折力の眼鏡レンズにも対応することができる。
図1に、遠用部と累進部と近用部のいくつかの区分例を示す。図中、眼鏡レンズは合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見た図であり、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸として示している。図1(a)は、収差分散型の遠近両用設計の遠用部と累進部と近用部の区分の一例の模式図である。図1(b)は、収差集中型の遠近両用設計の遠用部と累進部と近用部の区分の一例の模式図である。図1(c)は、収差分散型で中近主体設計の遠用部と累進部と近用部の区分の一例の模式図である。図1(d)は、収差集中型の中近主体設計の遠用部と累進部と近用部の区分の一例の模式図である。
一方、乱視を矯正するトーリック面は、ある子午面内では最大の屈折力を持ち、それに直角な子午面では最小の屈折力を持つ、互いに直交する断面での曲率半径を異にした表面、と定義される。
上記累進屈折面とトーリック面を合成する合成屈折面の設計方法は、例えば、WO97/19382で開示されている。すなわち、合成屈折面の任意の点P(x,y,z)における座標zは、球面設計の累進屈折面の任意の点Pでの近似曲率Cpと、球面設計の累進屈折面に付加するトーリック面のx方向の曲率Cx及びy方向の曲率Cyとを用いて次の式(4)で表される。
Figure 2006215303
このような合成屈折面を有する眼鏡レンズの遠用部と近用部においては、乱視を矯正する屈折面が合成されているので、非球面となっている。本発明者が特許文献2で提案した設計方法では、この乱視による非球面を無視して遠用部と近用部全体がそれぞれ一つの平均度数で表されるものとして付加する非球面量を決定している。なお、本明細書での付加する非球面(その付加量を非球面付加量という)とは、累進屈折面と乱視屈折面を除き、眼鏡レンズの頂点から周辺にかけて曲率が連続的に変化する屈折面を意味する。
本発明の眼鏡レンズの設計方法は、遠用部及び近用部に対して緻密に非球面付加量を決定し、非球面付加量を最適化する設計方法である。本発明の眼鏡レンズの設計方法においては、第1基準線設定工程において、遠用部及び近用部のいずれか一方において眼鏡レンズの幾何学中心近傍の中心点から放射方向の少なくとも2方向に延びる基準線を設定し、第2基準線設定工程において、遠用部及び近用部のいずれか他方において眼鏡レンズの中心点から放射方向の少なくとも1方向に延びる基準線を設定し、非球面付加量決定工程において、それぞれの基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定し、補間工程において、これらの基準線の間の屈折力に対して補間法で非球面付加量を決定する工程を有する。
図2に、本発明の眼鏡レンズの設計方法を説明する概念図を示す。図2(a)は、眼鏡レンズを正面から見た概念図であり、図2(b)は、中心点からある距離の反時計回りの方向の円の軌跡と基準線が交わる点での非球面付加量をプロットしたグラフである。
図2に示した眼鏡レンズは、遠近両用設計の収差分散型の累進多焦点レンズである。遠用部と近用部は、それぞれ遠用中心と近用中心を中心とした扇形の形状となっており、ドットで塗りつぶして示されている。この眼鏡レンズは、左目用であり、比較的太い線で示した主子午線が遠用中心から近用中心にかけて眼の輻輳を加味して図面左側の鼻側へ屈曲している。
本発明における眼鏡レンズ設計の基準となるのは、通常、眼鏡レンズの幾何学中心であり、幾何学中心を中心として用いる。しかし、この幾何学中心近傍の任意の点を中心点として選択することができる。遠近両用設計の累進屈折力レンズでは、図2(a)に示すように、眼鏡レンズの幾何学中心GCは遠用中心と事実上一致する。
第1基準線設定工程では、遠用部と近用部の面積の大きい方のいずれかを選択し、幾何学中心GCから放射状に遠用部又は近用部の領域内を通過して眼鏡レンズ端縁まで達する直線状に延びる少なくとも2本の基準線を設定する。例えば、遠近両用設計では面積の広い遠用部を選択し、中近主体設計では面積の広い近用部を選択する。2本以上の基準線を設定することにより、広い領域の遠用部又は近用部の屈折力を緻密に把握することができる。
図2(a)では、近用部より広い領域の遠用部にPf1〜Pf7の7本の基準線を設定した例を示している。これらの7本の基準線は、幾何学中心GCを通る水平方向のX軸から反時計方向に等角度の22.5°毎に設定されている。基準線Pf4は主子午線と同じ方向となって重なっている。
最小の2本の基準線を設定するときには、乱視軸方向及び乱視軸方向と直交する方向に基準線を設定することが好ましい。これにより、最小の2本の基準線で遠用部又は近用部の屈折力を正確に把握することができる。3本の基準線を設定する場合は、遠用部又は近用部の両端部と中心部の3本とすることが好ましい。これにより、遠用部又は近用部の領域内の屈折力を把握することができる。基準線の数は多ければ多いほど設計が緻密になるため、遠用部又は近用部の領域内で3本以上とすることが好ましく、例えば5°間隔、10°間隔、15°間隔、20°間隔、22.5°間隔で設定することができる。なお、基準線は等角度毎に設定する必要はない。
次に、第2基準線設定工程では、遠用部と近用部の面積の小さい方のいずれかを選択し、幾何学中心GCから放射状に遠用部又は近用部の領域内を通過して眼鏡レンズ端縁まで達する直線状に延びる少なくとも1本の基準線を設定する。例えば、遠近両用設計では面積の狭い近用部を選択し、中近主体設計では面積の狭い遠用部を選択する。この基準線は任意に1本以上設定することができる。例えば、眼鏡レンズの幾何学中心と遠用中心又は近用中心とを結んで眼鏡レンズ端縁まで延ばした一本の線分を基準線として採用することができる。遠用部と近用部の面積が小さい場合は、一本の基準線でその遠用部又は近用部の領域全体を代表させても乱視矯正用の非球面を十分に把握できる。勿論、2本以上の基準線を設定すれば、より緻密な設計になり、補正を最適化できる。図2に示す例では、2本の基準線Pn1とPn2は、扇形の近用部の円弧を3等分するような端縁の点と中心点GCとを結ぶ線となっている。例えば、眼鏡レンズの幾何学中心GCから遠用部又は近用部の領域内のレンズ端縁に向かって5°間隔、10°間隔、15°間隔、20°間隔、22.5°間隔で基準線を設定することができる。この場合も、基準線は等角度毎に設定する必要はない。
第1基準線設定工程と第2基準線設定工程との順序は入れ替え可能であり、第2基準線設定工程後に第1基準線設定工程を行うようにしてもよい。
次に、非球面付加量決定工程において、設定した各基準線に沿う合成屈折面の屈折力に対して非球面付加量を決定する。非球面付加量は、各基準線毎に各基準線に沿う合成屈折面の屈折力に対して、眼鏡レンズを眼に装着したときと同条件を想定し、光線追跡により度数や、非点収差、プリズム等を計算し、最適な非球面付加量を求める公知の方法を採用することができる。
この非球面付加量の計算方法として、次の5つの計算方法がある。まず、眼鏡レンズの座標系を、図1に示すように、合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、第1基準線設定工程と第2基準線設定工程で設定した各基準線の中心点GCを、(x,y,z)=(0,0,0)(原点)とする座標系を定義する。
第1の非球面付加量の計算方法は、Z軸方向の非球面付加量の座標を直接計算する方法である。基になる合成屈折面の奥行き方向の座標zpは、
p=f(x,y)
というように、座標(x,y)の関数で表される。zpにZ軸方向の非球面付加量δを付加すると、付加された後のZ軸方向の合成座標、すなわち新たな合成屈折面の座標をztとしたとき、
t=zp+δ
である。
このとき、レンズの中心点GCの近傍は、プリズムも少なく非点収差も発生しずらいため、非球面付加量は少なくてよいが、レンズ外周部は眼から入射する光線に角度がつくため、非点収差が発生しやすく、それを補正するための非球面付加量も大きくなるのが一般的である。実際に付加する理想的な非球面付加量は、使用者の処方(レンズの度数)により千差万別であるが、中心点GCからの距離rに応じて変化していく。以上より、付加する最適な非球面付加量δは、中心点GCからの距離r
r=(x2+y21/2
の関数となる。また、図2に示したように、例えば、幾何学中心GCを通るX軸を起点として反時計方向の角度θを設定することにより、非球面付加量δは(θ、r)の関数として表すことができる。これは以下の計算方法でも同様である。
この第1の非球面付加量の計算方法は、座標を直接求めることができるため、計算が楽であるという利点を有する。
第2の非球面付加量の計算方法は、基になる合成屈折面の径方向の傾きをdzpで表し、新たな合成屈折面の傾きをdztとしたとき、dzt=dzp+dδの関係を用いる。
この第2の非球面付加量の計算方法は、傾きの分布を求めるため、プリズム量の制御が容易であるという利点を有する。Z座標は、原点から積分することにより求めることができる。
第3の非球面付加量の計算方法は、基になる合成屈折面の径方向の曲率をcpで表し、新たな合成屈折面の曲率をctとしたとき、ct=cp+cδの関係を用いる。
この第3の非球面付加量の計算方法は、曲率の分布を求めるため、光学的評価が簡単であり、設計しやすく、目的とする処方が容易に得られるという利点がある。 Z座標は、原点から積分することにより求めることができる。
第4の非球面付加量の計算方法は、基になる合成屈折面の座標をzpで表し、新たな合成屈折面の座標ztが、合成屈折面のZ座標を曲率に置き換える下記式(1)で定義されるbp
Figure 2006215303
を用いて、下記式(2)
Figure 2006215303
で表わされる関係を用いる。
この第4の非球面付加量の計算方法は、曲率の分布を求めるため、光学的評価が簡単であり、設計しやすく、目的とする処方が容易に得られ、また、Z座標が積分によらず直接計算出来るという利点がある。
第5の非球面付加量の計算方法は、基になる合成屈折面の座標をzpで表し、新たな合成屈折面の座標ztが、合成屈折面のZ座標を曲率に置き換える下記式(1)で定義されるbp
Figure 2006215303
を用いて、下記式(3)
Figure 2006215303
で示される関係を用いる。
第5の非球面付加量の計算方法は、曲率の変化がなめらかになるように設計でき、急激な度数変化などの無い自然な累進面形状が得られる。
非球面付加量決定工程では、それぞれの基準線毎に基準線に沿って非球面付加量δを中心点GCからの距離rとX軸から反時計方向の角度θの関数として決定する。
次に、補間工程で各基準線間の領域の屈折力に対して非球面付加量を補間法により決定し、合成屈折面全域になめらかに非球面成分を付加する。補間法とは、関数の2つ以上の点における関数値を知って、それらの間の点の関数値を求める計算方法をいう。一般的な補間法として、よく知られたラグランジェ補間とスプライン補間がある。本発明においても一般的な補間法を採用することができる。
図2(b)は、縦軸に上記第1〜第5の非球面付加量の計算方法で求めた非球面付加量δの値、横軸にX軸を起点とした反時計方向の角度θをとったとき、中心点GCから等距離(図2ではレンズ端縁)の位置における図2(a)に示した基準線δf1〜δf7及びδn1とδn2における非球面付加量δの9点の値をプロットしたグラフである。補間法は、これら9点の非球面付加量δの値を全て通る図2(b)の破線で示す滑らかな曲線の方程式を求める計算方法である。これによって、眼鏡レンズ全体の領域で最適な非球面付加量を決定することができる。
次に、レンズメータでの度数測定を考慮した累進屈折力レンズを説明する。累進屈折力レンズは、累進開始点から累進的に加入度数が入ってくる。従って、レンズメータで度数を測定するときは、レンズメータの光線幅を加味して、累進開始点よリ5〜10mm遠用側にオフセットした位置に度数測定ポイントを設定することが一般的である。しかしながら、累進開始点の近傍まで非球面設計を施してしまうと、レンズメータで度数を測定したときに、非点収差が発生し、レンズの度数が保証できなくなってしまう。
そこで、遠近両用設計では幾何学中心GCと事実上一致する累進開始点からrが所定の距離までは、非球面を付加せずに球面設計部とすることが好ましい。rは度数測定ポイントをカバーできる7mm以上、12mm未満が好ましい。このような球面設計部を設けても、累進開始点の近傍は光軸に近く、もともと付加する理想的な非球面付加量が小さいため、光学性能にさほど影響を及ぼすことはない。
本発明の眼鏡レンズの設計方法の元になる累進屈折力レンズとして、合成屈折面を眼球側の屈折面に配置したいわゆる内面累進屈折力レンズとすることが好ましい。眼球側に合成屈折面を配置することにより、物体側の屈折面を球面にすることができる。これにより、累進屈折力レンズの欠点である、ゆれや歪みといった要素が低減でき、光学性能が向上することが知られている(WO97/19382)。眼球側に合成屈折面を配置した累進屈折力レンズに本発明を適用すれば、WO97/19382に開示されるゆれや歪みの減少効果に加え、本発明の効果である非点収差の削減、あるいはレンズの薄型化も同時に実現できる。
(実施例1)
図2(a)に示した遠近両用設計の収差分散型の累進屈折力レンズについて本発明の眼鏡レンズの設計方法を適用した。元になる累進屈折力レンズは、物体側が球面であり、眼球側に累進屈折力と乱視屈折力を合成した合成屈折面を設けたいわゆる内面累進レンズであり、ベースカーブは5.00D、球面屈折力Sが0.00D、円柱屈折力Cが+2.00D、乱視軸が90度、加入度が2.00D、レンズ中心の厚さtが2.9mmである。
図2(a)に示した幾何学中心GCを中心としてX軸からの角度θが5度毎に基準線を設定し、広い領域の遠用部に25本の基準線を設定し、狭い領域の近用部に7本の基準線を設定した。
各基準線毎に各基準線に沿った元になる累進屈折力レンズの合成屈折面の座標値を求め、各基準線に沿った曲面の近似式を算出し、この曲面の近似式の屈折力に対する光線追跡法により、各基準線毎に元になる累進屈折力レンズの合成屈折面の座標値に対するZ軸方向の増減として非球面付加量δ(θ,r)を求める次の非球面式の3次と4次の非球面係数を算出した。
Figure 2006215303
但し、anはn次の非球面係数、r0は基準となる点と幾何学中心との径方向のずれを示す。実施例では、全てr0=0とした。
これにより5度毎に設定した基準線毎に各基準線に沿った非球面付加量δ(θ,r)を求めた。次に、スプライン補間で基準線間の非球面式の3次と4次の非球面係数を算出し、基準線間の領域の非球面付加量を求めた。
表1に30度ごとの非球面係数a3(θ), a4(θ)と非球面付加量δ(θ,r)(単位はμm)のデータを示す。非球面付加量のマイナスは元になる累進屈折力レンズの合成屈折面を眼球側から物体側へ遠ざける方向に非球面を付加することを示し、プラスは元になる累進屈折力レンズの合成屈折面を物体側から眼球側へ近づける方向に非球面を付加することを示す。
Figure 2006215303
図3(a)に、実施例1で設計した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。また、図3(b)に、同じオリジナルの眼鏡レンズに対して特許文献2で示した設計方法を適用して非球面を付加した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。
(実施例2)
実施例1と同様に、図2(a)に示した遠近両用設計の収差分散型の累進多焦点レンズについて本発明の眼鏡レンズの設計方法を適用した。元になる累進屈折力レンズは、物体側が球面であり、眼球側に累進屈折力と乱視屈折力を合成した合成屈折面を設けたいわゆる内面累進レンズであり、ベースカーブは5.00D、球面屈折力Sが0.00D、円柱屈折力Cが+2.00D、乱視軸が180度、加入度が2.00D、レンズ中心の厚さtが3.4mmである。
実施例1と全く同様に、基準線を設定し、各基準線に沿った元になる累進屈折力レンズの合成屈折面の座標値に対するZ軸方向の増減として上記非球面式の3次と4次の非球面係数を算出して非球面付加量δ(θ,r)を求め、補間によって基準線間の上記非球面式の3次と4次の非球面係数を求め、基準線間の領域の非球面付加量を求めた。
表2に30度ごとの非球面係数a3(θ), a4(θ)と非球面付加量δ(θ,r)(単位はμm)のデータを示す。また、図4(a)に、実施例2で設計した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。また、図4(b)に、同じオリジナルの眼鏡レンズに対して特許文献2で示した設計方法を適用して非球面を付加した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。
Figure 2006215303
(実施例3)
実施例1と同様に、図2(a)に示した遠近両用設計の収差分散型の累進多焦点レンズについて本発明の眼鏡レンズの設計方法を適用した。元になる累進屈折力レンズは、物体側が球面であり、眼球側に累進屈折力と乱視屈折力を合成した合成屈折面を設けたいわゆる内面累進レンズであり、ベースカーブは5.00D、球面屈折力Sが0.00D、円柱屈折力Cが+2.00D、乱視軸が45度、加入度が2.00D、レンズ中心の厚さtが3.3mmである。
実施例1と全く同様に、基準線を設定し、各基準線に沿った元になる累進屈折力レンズの合成屈折面の座標値に対するZ軸方向の増減として上記非球面式の3次と4次の非球面係数を算出して非球面付加量δ(θ,r)を求め、補間によって基準線間の上記非球面式の3次と4次の非球面係数を求め、基準線間の領域の非球面付加量を求めた。
表3に30度ごとの非球面係数a3(θ), a4(θ)と非球面付加量δ(θ,r)(単位はμm)のデータを示す。また、図5(a)に、実施例3で設計した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。また、図5(b)に、同じオリジナルの眼鏡レンズに対して特許文献2で示した設計方法を適用して非球面を付加した眼鏡レンズの装用状態を仮定してシミュレーションした等非点収差図を示す。
Figure 2006215303
図3〜図5を参照すると、特許文献2で示した眼鏡レンズの設計方法は、乱視矯正の屈折面が累進屈折面に付加された合成屈折面に対して乱視屈折力を考慮していないため、非点収差が大きく、光学性能が劣る眼鏡レンズの設計方法となっている。
これに対して、本発明の眼鏡レンズの設計方法では、非球面設計に乱視屈折力を加味できるため、乱視屈折力と累進屈折力を合成した合成屈折面に対して最適な非球面設計を行うことができることが認められる。
本発明の眼鏡レンズの設計方法は、老視と乱視を同時に補正する累進屈折力レンズの光学性能を向上させる眼鏡レンズを設計することができる。
(a)〜(d)は累進屈折力レンズの遠用部、近用部及び累進部の区分例を示す概念図である。 (a)及び(b)は本発明の累進屈折力レンズの設計方法を示す概念図である。 (a)は実施例1で設計した眼鏡レンズの等非点収差図、(b)は従来の設計方法で設計した眼鏡レンズの等非点収差図である。 (a)は実施例2で設計した眼鏡レンズの等非点収差図、(b)は従来の設計方法で設計した眼鏡レンズの等非点収差図である。 (a)は実施例3で設計した眼鏡レンズの等非点収差図、(b)は従来の設計方法で設計した眼鏡レンズの等非点収差図である。

Claims (8)

  1. 眼鏡レンズを構成する物体側と眼球側の2つの屈折面のうち、少なくともどちらか一つの屈折面が、遠用部とこの遠用部と異なる屈折力を備える近用部とこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備える累進屈折面と乱視屈折面とが合成された合成屈折面を有する眼鏡レンズの設計方法であって、
    前記遠用部及び前記近用部のいずれか一方において眼鏡レンズの幾何学中心近傍の中心点から放射方向の少なくとも2方向に延びる基準線を設定する第1基準線設定工程と、
    前記遠用部及び前記近用部のいずれか他方において眼鏡レンズの前記中心点から放射方向の少なくとも1方向に延びる基準線を設定する第2基準線設定工程と、
    それぞれの前記基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定する非球面付加量決定工程と、
    これらの基準線の間の屈折力に対して補間法で非球面付加量を決定する補間工程と
    を有することを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  2. 請求項1記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記第1基準線設定工程が、前記中心点から前記遠用部及び前記近用部のいずれか一方の両端部と中心部の少なくとも3方向の基準線を設定することを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  3. 請求項1又は2記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、
    (x,y,z)=(0,0,0)
    とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量をδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の座標ztが、
    t=zp+δ
    で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  4. 請求項1又は2記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、
    (x,y,z)=(0,0,0)
    とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる径方向の傾きをdzpで表し、前記非球面付加量から求められる径方向の傾きをdδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の径方向の傾きdztが、
    dzt=dzp+dδ
    で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  5. 請求項1又は2記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、
    (x,y,z)=(0,0,0)
    とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる径方向の曲率をcpで表し、前記非球面付加量から求められる径方向の曲率をcδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の径方向の曲率ctが、
    t=cp+cδ
    で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  6. 請求項1又は2記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、
    (x,y,z)=(0,0,0)
    とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量から求められるコーニック係数をcδとしたとき、前記非球面付加量を加えた合成屈折面の座標ztが、下記式(1)で定義されるbp
    Figure 2006215303
    を用いて、下記式(2)
    Figure 2006215303
    (但し、rは前記中心点からの距離であり、r=(x2+y21/2で表される。)
    で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  7. 請求項1又は2記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面を眼鏡装用時の正面から見て、左右方向をX軸、上下方向(遠近方向)をY軸、奥行き方向をZ軸、前記中心点を、
    (x,y,z)=(0,0,0)
    とする座標系を定義し、前記合成屈折面の基になる座標をzpで表し、前記非球面付加量から求められるコーニック係数をkδ(kδ=-e2 eは離心率)としたとき、前記非球面付加量が加えられた合成屈折面の座標ztが、下記式(1)で定義されるbp
    Figure 2006215303
    を用いて、下記式(3)
    Figure 2006215303
    (但し、rは前記中心点からの距離であり、r=(x2+y21/2で表される。)
    で表されることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
  8. 請求項1〜7いずれかに記載の眼鏡レンズの設計方法において、
    前記合成屈折面が、眼球側の屈折面に設けられていることを特徴とする眼鏡レンズの設計方法。
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