JP5040889B2 - 眼鏡レンズの設計方法 - Google Patents
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ラップアラウンド型の眼鏡レンズは、物体側に光学凸面が形成され、眼球側に近光学凹面が配置されるものであり、フレーム正面に対して傾いた状態で眼鏡フレームに取り付けられている。
一般に、眼鏡レンズを傾けて眼鏡フレームに取り付ける際に、その傾き角が一定値以上超えると、日本工業規格(JIST7313)に規定する条件を満たさなくなり、乱視が生じる。例えば、屈折率nが1.662の眼鏡レンズを所定の傾き角をもって眼鏡フレームに取り付ける場合、眼鏡レンズの処方のうち球面屈折力Sが−2.00、乱視屈折力Cが0の場合では、傾き角が15°以上であると、日本工業規格に適合しなくなる。
そのため、従来例として、眼鏡フレームのそり角によって生じる収差を眼鏡レンズの設計基準点において相殺する乱視の屈折力を付加し、屈折面にそり角と傾斜角によって生じるプリズム屈折力を設計基準点において相殺するようにプリズム屈折力を付加し、乱視を矯正する乱視屈折力を屈折面に付加し、屈折面全体に基準経線の概念を用いて、そり角、度数、乱視度数による影響を同時に補正する非球面量を付加する眼鏡レンズの設計方法がある(特許文献1)。
例えば、特許文献1で示される従来例では、そり角によって生じる乱視の屈折力を相殺するために屈折面全体に乱視の屈折力を付加するが、それを達成するための具体的な手段が開示されていない。さらに、そり角、度数、乱視度数による影響を同時に補正する非球面量を付加するために屈折面全体に第1から第4の基準経線の概念を用いているが、これらの基準経線上でどのように傾き角を考慮して相殺するかが必ずしも明確とは言えない。
Dv=Ds*2n/(2n+sin2α) …数式(1)
Dh=Dt*2n/(2n+(2n+1)*sin2α) …数式(2)
(nはレンズ素材の屈折率、Dsは処方で求めた垂直方向屈折力、Dtは処方で求めた水平方向屈折力、Dvは眼鏡レンズを傾けない状態での垂直方向屈折力、Dhは眼鏡レンズを傾けない状態での水平方向屈折力)から演算し、この演算値に基づいてレンズ設計することを特徴とする。ここで、眼鏡レンズを傾けない状態とは傾き角αが0°の場合である。
これにより、フレーム正面に眼鏡レンズが傾き角αだけ傾いて眼鏡フレームに取り付けられた場合に、眼鏡レンズに所望の光学特性を満たすことができる。
従って、本発明では、より効率的に乱視矯正を行える眼鏡レンズを提供することができる。
そのため、本発明では、眼鏡フレームのそり角によって生じるプリズム屈折力に伴う収差を補正することができる。
本発明の眼鏡は,前述の眼鏡レンズを前記眼鏡フレームに取り付けることを特徴とする。
図1は本実施形態の眼鏡の概略水平断面図である。
図1において、眼鏡は、2個の眼鏡レンズ1がそれぞれ視軸Pに対して傾いて眼鏡フレーム2に取り付けられている。
眼鏡レンズ1は、物体側に配置された光学凸面11と、眼球側に配置された光学凹面12とを有するメニスカスレンズである。光学凸面11の曲率半径が所定寸法の球面状に形成されている。
そり角βが200°以上の眼鏡フレーム2は、顔に沿うように曲がっているため、眼鏡レンズ1がフレーム正面に対して傾き角αだけ傾斜した状態で固定されている。
ここで、傾き角αとそり角βとは、2α+180°=βの関係を有するものであり、そり角βが200°以上の場合には、傾き角αは10°以上である。
眼鏡レンズ1を大きなそり角βを有する眼鏡フレーム2に組み込み、眼鏡レンズ1をフレーム正面に対して傾き角αだけ傾斜させると、上下方向の屈折力はほぼそのままで、左右方向の屈折力を変えたことになり、収差が生じ、球面レンズに乱視の効果を与える。また、眼鏡レンズ1を視軸Pに対して傾斜させると、プリズム屈折力が生じる。
[乱視屈折力付加工程]
図1で示されるように、眼鏡レンズ1を傾き角αだけ傾ける。図2(B)に示される垂直方向(傾く方向と垂直な方向)の屈折力Dsと水平方向(傾く方向)の屈折力Dtは、マーチンの数式(3)(4)で求めることができる。ここで、Dvは眼鏡レンズを傾けない状態での垂直方向屈折力、Dhは眼鏡レンズを傾けない状態での水平方向屈折力、nはレンズ素材の屈折率である。
Ds=(1+sin2α/2n)Dv … 数式(3)
Dt=(1+(2n+1)sin2α/2n)Dh … 数式(4)
従来と同様の手段によって、眼鏡レンズ1を傾けた状態での乱視の処方S、C、Axを得る。ここで、Sは球面屈折力、Cは乱視屈折力、Axは乱視軸である。
一般に、乱視の眼鏡レンズ1では、最大屈折力の方向と最小屈折力の方向との2つの主経線があり、これらの主経線は互いに直交している。本実施形態では、図2(A)に示される通り、最大屈折力をD1とし、最小屈折力をD2とすると、これらの屈折力D1とD2との方向を示す主経線は互いに直交している。
球面屈折力Sが最大屈折力D1と等しい(S=D1)とすると、乱視屈折力Cは最大屈折力D1と最小屈折力D2との差と等しい(C=D2−D1)関係が成り立つ。
経線の角度をθとして表すと、各方向(0°≦θ≦180°)の屈折力D(θ)は次の数式(5)で表すことができる。θ1は乱視軸を表す。
D(θ)=D1*cos2(θ-θ1)+D2*sin2(θ-θ1)
=S*cos2(θ−Ax)+(S+C)sin2(θ−Ax) … 数式(5)
数式(5)を用いて、眼鏡レンズ1の経線の角度θ方向の屈折力を求め、傾けた状態で経線の全ての角度において同じ前記屈折力をもつ新たな眼鏡レンズを仮定する。
(1)処方が球面(C 0.00)の場合(乱視ではない)
第2ステップを省略することができ、前述の通り、傾けない状態での垂直方向屈折力をDv、水平方向屈折力をDhとする。マーチンの式を逆算した数式は、
Dv=Ds*2n/(2n+sin2α) …数式(1)
Dh=Dt*2n/(2n+(2n+1)*sin2α) …数式(2)
このDs、Dtに処方の球面屈折力Sを代入することで計算することができる。また、Axが0°、90°、180°の場合は主経線の方向がDs、Dtの方向と一致するため、同様に計算することができる。
主経線が傾ける方向と一致しない乱視の眼鏡レンズ1では、直接マーチンの逆算の式に代入して計算することができない。そのため、第2ステップにより、経線の角度毎に新たな眼鏡レンズを仮定し、仮定した眼鏡レンズにマーチンの式を逆算した数式(1)(2)を適用する。
まず、第1ステップとして傾き角αに傾けた状態での最大屈折力をDb1とし、最小屈折力をDb2とし、さらに、経線の角度0°方向とDb1の方向のなす角度をθbとする。傾けた状態で最適な屈折力(処方のS、C、Ax)を得たいので、Db1にS、Db2に(S+C)、θbにAxを代入する。
第2ステップとして図3(A)のようなθ1(0°≦θ1≦180°)方向の屈折力を計算する。傾けた状態のθ1方向の屈折力Db(θ1)は数式(5)より、
Db(θ1)= Db1cos2(θ-θb)+Db2sin2(θ-θb) …数式(5A)
となる。ここで、図3(B)に示される通り、傾けた状態で経線の全ての角度においてDb(θ1)の屈折力をもつ新たな眼鏡レンズを仮定し、マーチンの逆算の数式(1)(2)に代入する。
Dv=Db(θ1)*2n/(2n+sin2α) …数式(1A)
Dh=Db(θ1)*2n/(2n+(2n+1)*sin2α) …数式(2A)
ここで、求まるDvは、仮定した眼鏡レンズの傾きを戻した状態での経線の角度が90°方向の屈折力であり、Dhは経線の角度が0°方向の屈折力である。また、仮定した眼鏡レンズは0°と90°を主経線とする乱視レンズである。そして、数式(5)より、
D(θ1)=Dsh*cos2θ1+Dsv*sin2θ1 …数式(5B)
の式が展開され、傾けない状態のθ1方向の屈折力が求まる。実際の計算では角度θ1を所定の範囲、例えば、0〜179°の範囲で1°ピッチずつ計算し、それぞれの方向の乱視屈折力を求める。
第3ステップで求められた経線の角度毎の数値を近似し傾ける前の眼鏡レンズの屈折力を求める。
そのため、第3ステップで求めた経線の角度毎(1°ピッチ毎)の屈折力は、プロットしても、数式(5)の形にはならず、屈折力を単純にS、C、Axで表現できない。そのため、第3ステップで求めた数値の近似を行う。
本実施形態では、近似の手法として様々な方法が考えられるが、例えば、離散フーリエ変換を用いる方法を採用できる。つまり、180個の経線の角度毎の屈折力を離散フーリエ変換し、2次までの係数a0、a1、a2を用いる。
C=−2(a12 +a22)1/2
S=a0−(C/2)
である。また、乱視軸Axは
Ax=arctan(a1/a2)/2*(180/π)
ただし、a1とa2の符号が異なる場合、Ax+180する必要がある。
図4は、数式(5)に基づいて得られた角度θと度数Dとの関係を示すグラフであり、図4(A)には眼鏡レンズ1を傾けない状態のデータ、つまり、第1ステップで得た処方のデータが示されている。処方データはS+4.00、C−2.00、Ax=45°である。
図4(A)において、実線で示されるP1は処方のままのデータであり、点線で示されるP2はそり角β、つまり、傾き角αを考慮したものであり、乱視屈折力付加工程を実施し、前述の近似法を用いてサインカーブフィッテイングしたデータである。P2のデータでは、S+3.804、C−1.908、Ax=47.725°となる。
つまり、本実施形態では、第2ステップにより、眼鏡レンズ1を傾けた状態での経線の全ての角度において同じ屈折力をもつ新たな眼鏡レンズを仮定し、第3ステップによって、Q1で示される処方データから数式(1)(2)に基づいて経線の全角度におけるデータを算出し、これらのデータを第4ステップによって近似させて目的となるP2のデータを取得する。
まず、屈折面に任意の設計基準点を設定する。設計基準点は任意の位置を設定できるが、通常は、遠用ビジュアルポイントが選定される。遠用ビジュアルポイントは、視軸Pと眼鏡レンズ1との交点である。視軸Pは、目の高さにある真っ直ぐ前方の物体を注視しているときの、頭部に対する眼の相対位置である第1眼位に眼がある状態での視線である。
そして、物体側の屈折面又は眼球側の屈折面にそり角βによって生じるプリズム屈折力を設計基準点において相殺するプリズム屈折力を付加する。プリズム
屈折力で付与する屈折力は通常の手法、例えば、光線追跡法で求めることができる。
なお、設計基準点を有する物体側の屈折面全体又は眼球側の屈折面全体に、そり角、度数、乱視度数による影響を同時に補正する非球面量を付加し、眼鏡レンズ全体の収差を補正する工程を必要に応じて設けてもよい。この球面量を求める工程は、具体的には、特開2008−26776公報に記載されている方法を採用する。
本実施例では、処方S+4.00、C−2.00、Ax45°の眼鏡レンズ1を用いた。この眼鏡レンズ1の詳細なデータを表1に示す。
この眼鏡レンズを15°(傾き角α=15°)傾けると、図6に示されるものとなる。図6に示される通り、(B)の設計基準点において度数が変化し、目視の平均度数である3からズレていることがわかる。さらに、(C)の設計基準点において、0.25から0.5の範囲内の値である、目視の収差が生じていることがわかる。
この眼鏡レンズを15°(傾き角α=15°)傾けると、図8に示されるものとなる。図8に示される通り、(B)は図6(B)と比較して設計基準点における度数が処方値である2に近くなり、(C)は図6(C)と比較して設計基準点における収差が0.25より小さく抑えられていることがわかる。
例えば、本発明の眼鏡レンズ1の光学凸面11や光学凹面12の形状、レンズ素材の屈折率n、並びに、眼鏡フレーム2の形状は前記実施形態で限定されたものに限定されるものではない。
さらに、前記実施形態では、眼鏡レンズの設計方法において、乱視屈折力付加工程の後にプリズム屈折力付加工程を加えたが、本発明では、プリズム屈折力付加工程を省略してもよい。
Claims (3)
- そり角が200°以上であり、かつ、眼鏡のフレーム正面に対して傾き角αだけ傾けて前記フレームに組み込まれる眼鏡レンズの設計方法であって、
前記眼鏡レンズの物体側の屈折面又は眼球側の屈折面に前記そり角によって生じる目視の非点収差及び目視の度数誤差を前記眼鏡レンズの設計基準点において相殺する乱視の屈折力を付加する乱視屈折力付加工程を含み、
前記乱視屈折力付加工程は、前記眼鏡レンズを前記傾き角αが0°である場合の球面屈折力S、乱視屈折力C及び乱視軸Axを数式(1)(2)を用いて演算することと、
前記演算することによって得られた演算値に基づいてレンズ設計することと、
を含む、眼鏡レンズの設計方法。
Dv=Ds*2n/(2n+sin2α) …数式(1)
Dh=Dt*2n/(2n+(2n+1)*sin2α) …数式(2)
(nはレンズ素材の屈折率、Dsは処方に基づいて求めた垂直方向屈折力、Dtは処方に基づいて求めた水平方向屈折力、Dvは前記傾き角αが0°である場合の垂直方向屈折力、Dhは前記傾き角αが0°である場合の水平方向屈折力) - 請求項1に記載された眼鏡レンズの設計方法において、
前記乱視屈折力付加工程は、
前記眼鏡レンズを傾けた状態での乱視の処方を得る第1ステップと、
経線の全ての角度において前記眼鏡レンズと同じ屈折力をもつ新たな眼鏡レンズを仮定する第2ステップと、
前記数式(1)(2)を用いて、前記新たな眼鏡レンズの屈折力を前記経線の角度毎に求める第3ステップと、
前記第3ステップで求めた前記経線の角度毎の前記新たな眼鏡レンズの屈折力を近似して、前記球面屈折力S、前記乱視屈折力C、及び前記乱視軸Axを求める第4ステップと、
を含む、眼鏡レンズの設計方法。 - 請求項1又は請求項2に記載された眼鏡レンズの設計方法において、
前記乱視屈折力付加工程の後で、前記物体側の屈折面又は前記眼球側の屈折面に前記眼鏡フレームのそり角によって生じるプリズム屈折力を付加するプリズム屈折力付加工程をさらに含む、眼鏡レンズの設計方法。
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