JP2006208284A - 微量質量センサ搭載チップ及び微量質量分析システム、並びに微量質量センサ搭載チップの分析方法 - Google Patents

微量質量センサ搭載チップ及び微量質量分析システム、並びに微量質量センサ搭載チップの分析方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 チャネルが1つの微量質量センサを用いた簡便な構成で、微小質量の変化を高精度に検出する分析方法を提供する。
【解決手段】 圧電基板と、該圧電基板の第1の面に設けられ、特定の化学物質を捕獲する感応膜を固体化可能な第1の電極と、前記第1の面と反対側の第2の面に前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極とからなる圧電振動子を用いて該圧電振動子の共振周波数を測定することにより、試料溶液中に含まれる特定の化学物質が前記電極に付着する質量を検出する微量質量センサと、前記第1の電極を経由して前記試料溶液を流す第1の流路と、前記第2の電極を経由して前記試料溶液を流す第2の流路と、からなることを特徴とする微量質量センサ搭載チップおよび、微量質量分析システム、並びに微量質量センサ搭載チップの分析方法である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、水晶等の圧電材料を用いた振動子の電極表面に生化学物質を固定化し、それに特異的に吸着する酵素、抗体、たんぱく質、ホルモンなどの化学物質を測定するQCM(Quartz Crystal Microbalance)型バイオセンサを用いて微量の質量変化を測定する微量質量センサ搭載チップ及び微量質量分析システム、並びに微量質量センサ搭載チップの分析方法に関し、特に、試料溶液の粘度や密度の変化による影響を補正して試料溶液に含まれる特定の化学物質が吸着する質量の検出を高精度に行なう技術に関する。
近年、Lab−on−a−Chipと呼ばれる、バイオ検査チップの開発が盛んに行なわれている。これは、流路や反応槽、バルブ、センサ等の要素構造を小さな基板に集積した構成であり、この内部に流れる気体や液体に対して分析処理を行うものである。このようなバイオ検査チップは、コンパクトで安価なため、例えば家庭で人の健康状態を少量の検体で定期的に検査したりすることが可能である。
このバイオ検査チップの構成要素の一つであるセンサ部には、様々な原理を利用したセンサが提案されている。中でも、小型で板状の構成が可能であり、バイオ検査チップへの搭載が容易と想定されるQCM型バイオセンサの利用が期待されている。
QCM型バイオセンサは、圧電振動子(特に水晶振動子)の振動を利用し、圧電振動子表面に付着した試料の微少な質量を測定できるセンサである。以下、水晶振動子(ATカット)をQCM型バイオセンサとして用いる場合について詳細に説明する。この場合、水晶基板の両側面に形成された一対の電極において、電極の一側面の表面に分析対象のみを捕獲する感応膜を固定化しておく。両電極に交流電圧を印加すると、逆圧電効果により一定の周波数の振動が励起されるが、分析対象が感応膜により捕獲されると、質量増加Δmを伴い、その結果として水晶振動子の共振周波数がΔfだけ変動する。このような分析は、DNAのハイブリダイゼーション反応、抗原‐抗体反応、たんぱく質の結合、酵素反応など、ガス中、液中を含め様々なバイオ反応に利用することができる。
上述の質量増加量Δmおよび共振周波数の変化量Δfの関係は、Sauerbrey(G.Sauerbrey,Z. Phys.155,1959,206)により導かれており、次式で表わすことができる。
Figure 2006208284
ここで、fは水晶振動子の基本共振周波数、Aは電極の面積、μは水晶のせん断弾性係数、ρは水晶の密度である。したがって、基本共振周波数fを高くするほど質量センサとしての感度が高くなることが分かる。
また、液体中でQCM型バイオセンサを動作させる場合、分析対象などを含む試料溶液に水晶振動子を浸漬することによってさらに共振周波数の低下を招く。この関係は次式で表わされる。
Figure 2006208284
ここで、ηは水晶振動子が浸漬される試料溶液の粘度、ρは同じく試料溶液の密度である。この共振周波数の変動Δf´についても、基本共振周波数fが高いほど大きく影響されることが分かる。
上述したQCM型バイオセンサをより高感度化する目的で、水晶振動子の基本共振周波数fを高くすると、式(2)から分かるように、試料溶液の粘度ηや密度ρの変化により、QCM型バイオセンサの共振周波数がより大きく影響されるようになる。
そこで、このような試料溶液の粘度および密度による影響を解決するために、従来の構造としては、例えば、特許文献1に記載の「マルチチャネルバイオセンサ」がある。
以下、特許文献1に記載の「マルチチャネルバイオセンサ」について、図11を参照して説明する。
図11は、複数の補正用チャネルをもつマルチチャネル型QCMセンサ10を示す図であり、図10(a)はその上面図、図10(b)は図10(a)のA−A´線における断面図である。11は平板状の水晶基板であり、この水晶基板11の両側面に一対の電極(チャネル)が複数形成されている。これらのチャネルのうち、12は検出用チャネルであり、特定の分析対象のみを捕獲する感応膜が固定化され、13は補正用チャネルであり、その感応膜が固定化されていない。14は各チャネルの配線であり、図面記載上、裏面の配線は点線で示してある。
このようなマルチチャネル型QCMセンサを試料溶液15に浸漬した場合、試料溶液15中に、検出用チャネル12上に固定化した感応膜によって捕獲可能な分析対象が含まれていると、検出用チャネル12上にその分析対象が捕獲され、その結果として検出用チャネル12上の質量変化が生じ、共振周波数の変化を通じて、その分析対象の捕獲量が測定できる。しかし、センサ上での化学反応の進行や、環境温度の変動などによって、センサが浸漬される試料溶液15の粘度や密度に変化が生じると、検出用チャネル12の共振周波数の変化には、捕獲された分析対象の質量変化だけでなく試料溶液15の粘度や密度の変化による影響も含まれてしまう。
ここで、試料溶液15の粘度や密度の変化による影響は、補正用チャネル13により補正することが可能である。具体的には、特定の分析対象のみを捕獲する感応膜で覆っていない補正用チャネル13は、試料溶液15の粘度や密度に変化があれば、式(2)にしたがった共振周波数の低下を示し、変化がなければ共振周波数の変化は生じない。したがって、検出用チャネル12と補正用チャネル13との共振周波数の差が、試料溶液15の粘度や密度の変化による誤差を除いた正味の分析対象の捕獲量であることになる。
G.Sauerbrey,Z. Phys.155,1959,206 特開2003−307481号公報
特許文献1に記載の構成では、試料溶液の粘度および密度による影響を解決するために、水晶基板上に検出用チャネルと補正用チャネルとを形成するので、少なくとも2つのチャネルが必要となる。このようなマルチチャネル型QCMセンサは、チャネルが1つのQCMセンサに比べて、水晶基板上に形成する電極や配線のパターンが複雑化してしまうという問題があり、マルチチャネル型QCMセンサの製造は容易でない。
さらに、マルチチャネル型QCMセンサの各チャネルを同時に発振させると、各チャネルの共振周波数はチャネル相互間の干渉による影響を受けてしまう。また、チャネルごとに順次発振させると、チャネル相互間の干渉を軽減することはできるが、その干渉を完全には排除できない。このようなチャネル相互間の干渉によって、各チャネルの共振周波数の感度が低下してしまうという問題がある。
本発明は、以上の問題点に鑑みなされたもので、チャネルが1つの微量質量センサ(QCMセンサ)を用いた簡便な構成で、試料溶液の粘度や密度の変化による影響を補正して、試料溶液に含まれる特定の化学物質が微量質量センサに付着するときの微量質量の変化を高精度に検出することができる微量質量センサ搭載チップ、微量質量分析システム、及びその分析方法を提供することを目的とする。
本発明の微量質量センサ搭載チップは、上記課題を解決するために以下のような構成にしたことを特徴としている。すなわち、圧電基板と、該圧電基板の第1の面に設けられた第1の電極と前記第1の面と反対側の第2の面に前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極とからなる圧電振動子を用いて該圧電振動子の共振周波数を測定することにより、試料溶液中に含まれる特定の化学物質が前記圧電振動子の前記電極表面に付着した質量を検出する微量質量センサと、前記圧電基板の前記第1の面上に設けられ、前記第1の電極を経由して前記試料溶液を流す第1の流路を有する第1の基板と、前記圧電基板の前記第2の面上に設けられ、前記第2の電極を経由して前記試料溶液を流す第2の流路を有する第2の基板と、からなっている。
さらに、前記第1の電極は、前記化学物質を捕獲する感応膜を固定化して前記化学物質の捕獲量を検出する検出用電極であり、前記第2の電極は、前記試料溶液の粘度・密度の変化にともなう共振周波数の変化分を検出し、前記第1の電極による共振周波数の補正を行う補正用電極である。
さらに、前記第1の基板と前記第2の基板との間に設けられ、前記第1の基板と接合して前記第1の流路を形成するとともに前記第2の基板と接合して前記第2の流路を形成し、且つ、前記圧電基板を支持する空隙部を有する第3の基板が形成されている。
さらに、前記第1の基板及び前記第2の基板のうち、いずれか一方の基板に前記流路に前記試料溶液を供給する溶液導入口と前記流路から前記試料溶液を排出する溶液排出口とが備えられている。
さらに、前記第3の基板は、前記溶液導入口または前記溶液排出口と前記流路とを接続する貫通穴状の連通部を有している。
さらに、前記基板は、前記流路毎に前記溶液導入口と前記溶液排出口とを有している。
さらに、前記第3の基板は、前記第1の流路と前記第2の流路とを連通する貫通穴状の連通部を有している。
さらに、前記基板は、前記流路中に該流路の遮断または開通を行うバルブ機構を有している。
さらに、前記圧電基板は水晶基板である。
また、本発明の微量質量分析システムは、上記課題を解決するために以下のような構成にしたことを特徴としている。すなわち、上述した微量質量センサ搭載チップと、前記流路を流れる前記試料溶液の送液を行うポンプと、前記バルブ機構と前記ポンプとを制御する送液制御部と、前記圧電振動子の共振周波数を測定して前記化学物質の捕獲量を分析する分析処理部と、を具備している。
また、本発明の微量質量センサ搭載チップの分析方法は、上記課題を解決するために以下のようなステップを含むことを特徴としている。すなわち、上述した微量質量センサ搭載チップにおいて、前記試料溶液を前記第2の流路のみに流し、前記圧電振動子の共振周波数を測定して補正信号を取得するステップと、前記試料溶液を前記第1の流路のみに流し、前記圧電振動子の共振周波数を測定して、検出信号を取得するステップと、前記試料溶液の粘度・密度の変化による前記検出信号に含まれた誤差成分を前記補正信号によって補正するステップと、からなっている。
本発明の微量質量センサ搭載チップ及び微量質量分析システム、並びにその分析方法によると、マルチチャネル型QCMセンサのような電極・配線構造が複雑で、しかも、チャネル相互間の干渉が生じるセンサを必要とせず、チャネルが1つのQCMセンサを用いた簡便な構成で、試料溶液の粘度および密度の変化による誤差成分を補正することができ、試料溶液に含まれる特定の化学物質がQCMセンサに付着するときの微量質量の変化を高精度に検出することが可能となる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
[実施例1]
図1および図2は、本発明の第1の実施例の微量質量センサ搭載チップ100を示した図であり、図1(a)は微量質量センサ搭載チップ100の斜視図を示し、図1(b)は微量質量センサ搭載チップ100の分解斜視図を示し、図2(a)は微量質量センサ搭載チップ100の上面図を示し、図2(b)は図2(a)のB−B´線における断面図を示している。また、図3は、微量質量センサ搭載チップ100にQCMセンサとして搭載される水晶振動子200を示した図であり、図3(a)は水晶振動子200の上面図を示し、図3(b)は図3(a)のC−C´線における断面図を示している。
微量質量センサ搭載チップ100に搭載された水晶振動子200について、図3を参照して説明する。水晶振動子200は、試料溶液に含まれる酵素、抗体、たんぱく質、ホルモンなどの化学物質の微量質量の変化を測定するためのバイオセンサであり、水晶基板201の両側面に、検出用電極202と補正用電極203と配線204とを形成して構成されている。さらに、検出用電極202の表面には、試料溶液中に含まれる特定の化学物質のみを捕獲する感応膜205が固定化されている。一方、補正用電極203の表面には、感応膜205を固定化しない。感応膜205の一例として、水晶振動子200を抗原‐抗体反応のバイオセンサとして応用する場合、検出用電極202上に、自己組織化膜(Self−assembled monolayer、以下SAM)を形成した後、特定の抗原のみを捕獲する抗体をSAMに固定化させる。このバイオセンサの応用例には、抗原‐抗体反応のほか、様々な生化学反応に応用できるが、検出用電極202上に固定化する感応膜205には、分析対象となる試料溶液に含まれる特定の化学物質のみに吸着することのできる物質を用いる。
上記の水晶振動子200が搭載された微量質量センサ搭載チップ100について、図1および図2を参照して説明する。微量質量センサ搭載チップ100は、第1の流路形成基板101と、第2の流路形成基板102との間に、水晶振動子200を実装した水晶実装基板103が積層された構造となっている。第1の流路形成基板101、第2の流路形成基板102および水晶実装基板103は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂を使用して作製する。また、それぞれの基板は、Oプラズマ処理または接着剤を用いて、互いに位置を合わせて接合することによって積層構造を形成する。各々の基板について説明すると、第1の流路形成基板101には、貫通穴と溝と凹部とを形成することによって、試料溶液が供給される溶液導入口104、105と、試料溶液が排出される溶液排出口106、107と、試料溶液が流れる第1の流路108と、水晶振動子200の検出用電極202が配置されて試料溶液の測定が行なわれる第1の反応槽109とが設けられている。第2の流路形成基板102には、第1の流路形成基板101と同様に、試料溶液が流れる第2の流路110と、水晶振動子200の補正用電極203が配置されて試料溶液の測定が行なわれる第2の反応槽111とが設けられている。水晶実装基板103には、水晶振動子200を実装するための空隙部112と、第2の流路110と溶液導入口105および溶液排出口107とを連通するための貫通穴状の連通部113、114とが設けられている。具体的には、溶液導入口104と、溶液排出口106と、第1の反応層109とが連通するように第1の流路108は形成されている。さらに、溶液導入口105と、溶液排出口107と、第2の反応層111と、連通部113、114とが連通するように第2の流路110は形成されている。このような構成にすると、溶液導入口104、105および溶液排出口106、107を通じて、すべて第1の流路形成基板101側から試料溶液を導入/排出でき、かつ、第2の流路形成基板102側をステージ上に固定できるため、微量質量センサ搭載チップ100の送液を容易に行なうことが可能となる。なお、水晶振動子200は、Oプラズマ処理または接着剤を用いて空隙部112のエッジ部に接合して実装する。接着剤を使用する場合、硬化硬度が比較的小さなシリコーン系などの接着剤が望ましい。また、水晶振動子200の検出用電極202は第1の反応槽109内に、補正用電極203は第2の反応槽111内に配置されているが、検出用電極202が第2の反応槽111内に、補正用電極203が第1の反応槽109内に配置されていてもよい。
上記の微量質量センサ搭載チップ100を含む微量質量分析システム300について、図4を参照して説明する。図4は、本発明の第1の実施例の微量質量分析システム300を示した構成図である。微量質量分析システム300は、微量質量センサ搭載チップ100と、微量質量センサ搭載チップ100に試料溶液を供給するために試料溶液が溜められた供給タンク301と、微量質量センサ搭載チップ100から試料溶液を吸引することによって試料溶液の送液を行なうためのポンプ302と、ポンプ302によって微量質量センサ搭載チップ100から吸引された試料溶液が蓄積される廃液タンク303と、微量質量センサ搭載チップ100の第1の流路108および第2の流路110に供給される試料溶液を通過/遮断させるためのバルブ304、305と、ポンプ302およびバルブ304、305の動作を制御することによって試料溶液の送液の制御を行なう送液制御部306と、微量質量センサ搭載チップ100に搭載された水晶振動子200を発振させ、その共振周波数を測定することによって、試料溶液の粘度・密度の変化と試料溶液に含まれる特定の化学物質(分析対象)が検出用電極202上で捕獲される質量とを検出して、さらにその検出結果に基づいて、試料溶液の粘度・密度の変化による誤差成分を除いた試料溶液に含まれる分析対象の正味の捕獲量の分析を行なう分析処理部307とで構成されている。
微量質量センサ搭載チップ100の溶液導入口104、105には、それぞれバルブ304、305を介して供給タンク301が接続され、微量質量センサ搭載チップ100の溶液排出口106、107には、廃液タンク303を経てポンプ302が接続されている。また、ポンプ302およびバルブ304、305には、送液制御部306が接続され、微量質量センサ搭載チップ100に搭載された水晶振動子200には、分析処理部307が接続されている。このような構成にすると、試料溶液の送液および送液制御を行ないながら、水晶振動子200の共振周波数を測定することによって、試料溶液に含まれる分析対象が検出用電極202上で捕獲される正味の質量を検出することができる。
上記の微量質量分析システム300を用いた分析方法の一例として、抗原‐抗体反応を分析する場合について、図5および図6を参照して説明する。図5は、本発明の第1の実施例の微量質量分析システム300を用いる分析方法を示したフローチャートであり、図6は、図5のフローチャートに基づいて微量質量センサ搭載チップ100の水晶振動子200を示した拡大図である。なお、水晶振動子200の検出用電極202上には、図6(a)に示すように、感応膜205として、SAM401を形成した後、特定の抗原402のみを捕獲する抗体403をSAM401にあらかじめ固定化させている。まず、バルブ304を閉じてバルブ305を開き、ポンプ302を作動させる。これにより、図6(b)に示すように、供給タンク301内に溜められた抗原402を含む試料溶液は、第2の流路110および第2の反応層111を経て廃液タンク303まで吸引されて送液されるため、補正用電極203上を通過する。そして、このときの水晶振動子200の共振周波数の変化(信号A)を分析処理部307で測定する(ステップ501)。なお、バルブ304を閉じているので、試料溶液は第1の流路108および第1の反応層109に流入せず、検出用電極202は空気と接した状態である。したがって、信号Aには、試料溶液の粘度および密度の変化による共振周波数変化の成分のみが含まれていることになる。次に、バルブ304、305を閉じ、第2の流路110および第2の反応層111内に残留している試料溶液を廃液タンク303まで導いて吸引することによって完全に除去する(ステップ502)。こうして、補正用電極203を空気と接した状態にする。続いて、バルブ305を閉じてバルブ304を開き、供給タンク301内に溜められた試料溶液を、第1の流路108および第1の反応層109を経て廃液タンク303まで吸引して送液する。これにより、図6(c)に示すように、試料溶液は検出用電極202上を通過するので、試料溶液に含まれる抗原402が検出用電極202に固定化されている抗体403と結合反応(抗原‐抗体反応)を生じて検出用電極202上に捕獲される。この際、水晶振動子200の共振周波数の変化(信号B)を分析処理部307で測定する(ステップ503)。なお、バルブ305を閉じているので、試料溶液は第2の流路110および第2の反応層111に流入せず、補正用電極203は空気と接した状態である。したがって、信号Bには、検出用電極202上に捕獲された抗原402の質量変化と試料溶液の粘度・密度変化とによる共振周波数変化の成分が含まれていることになる。そして、信号Bから信号Aを減算することによって、信号C(=信号B−信号A)を分析処理部307で導出する(ステップ504)。信号Cは、信号Bに含まれている試料溶液の粘度・密度変化による成分を信号Aによって除去したものであるので、検出用電極202上で捕獲された抗原402による正味の質量変化であることになる。なお、ステップ501で、バルブ305を閉じてバルブ304を開き、試料溶液を第1の流路108および第1の反応層109に送液し、信号Bを測定して、ステップ502で、バルブ304、305を閉じ、第1の流路108および第1の反応層109内に残留している試料溶液を除去して、ステップ503で、バルブ304を閉じてバルブ305を開き、試料溶液を第2の流路110および第2の反応層111に送液し、信号Aを測定して、ステップ504で信号Cを導出してもよい。
以上、本実施形態によれば、一対の電極(1つのチャネル)を形成した水晶振動子(QCMセンサ)を用いた簡便な構成で、試料溶液の粘度および密度の変化による誤差成分を補正することができるため、試料溶液に含まれる特定の化学物質がQCMセンサに吸着するときの微量質量の変化を高精度に検出することが可能となる。
[実施例2]
図7および図8は、本発明の第2の実施例の微量質量センサ搭載チップ600を示した図であり、図7(a)は微量質量センサ搭載チップ600の斜視図を示し、図7(b)は微量質量センサ搭載チップ600の分解斜視図を示し、図8(a)は微量質量センサ搭載チップ600の上面図を示し、図8(b)は図8(a)のB−B´線における断面図を示している。
微量質量センサ搭載チップ600について、図7および図8を参照して説明する。微量質量センサ搭載チップ600は、第1の流路形成基板601と、第2の流路形成基板602との間に、前述の実施例1と同様の構成の水晶振動子200を実装した水晶実装基板603が積層された構造となっている。第1の流路形成基板601、第2の流路形成基板602および水晶実装基板603は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂を使用して作製する。また、それぞれの基板は、Oプラズマ処理または接着剤を用いて、互いに位置を合わせて接合することによって積層構造を形成する。各々の基板について説明すると、第1の流路形成基板601には、貫通穴と溝と凹部とを形成することによって、試料溶液が供給される溶液導入口604と、試料溶液が排出される溶液排出口606と、試料溶液が流れる第1の流路608と、水晶振動子200の検出用電極202が配置されて試料溶液の測定が行なわれる第1の反応槽609と、第1の流路608に供給される試料溶液を通過/遮断させるバルブ704とが設けられている。第2の流路形成基板602には、第1の流路形成基板601と同様に、試料溶液が流れる第2の流路610と、水晶振動子200の補正用電極203が配置されて試料溶液の測定が行なわれる第2の反応槽611と、第2の流路610に供給される試料溶液を通過/遮断させるバルブ705とが設けられている。水晶実装基板603には、水晶振動子200を実装するための空隙部612と、第2の流路610と溶液導入口604および溶液排出口606とを連通するための貫通穴状の連通部613、614とが設けられている。具体的には、溶液導入口604と、溶液排出口606と、第1の反応層609とが連通するように第1の流路608は形成され、さらに、溶液導入口604と、溶液排出口606と、第2の反応層611と、連通部613、614とが連通するように第2の流路610は形成されている。このような構成にすると、溶液導入口604および溶液排出口606を通じて、すべて第1の流路形成基板601側から試料溶液を導入/排出でき、かつ、第2の流路形成基板602側をステージ上に固定できるため、微量質量センサ搭載チップ600の送液を容易に行なうことが可能となる。なお、水晶振動子200は、Oプラズマ処理または接着剤を用いて空隙部612のエッジ部に接合して実装する。接着剤を使用する場合、硬化硬度が比較的小さなシリコーン系などの接着剤が望ましい。また、水晶振動子200の検出用電極202は第1の反応槽609内に、補正用電極203は第2の反応槽611内に配置されているが、検出用電極202が第2の反応槽611内に、補正用電極203が第1の反応槽609内に配置されていてもよい。
上記の微量質量センサ搭載チップ600を含む微量質量分析システム800について、図9を参照して説明する。図9は、本発明の第2の実施例の微量質量分析システム800を示した構成図である。微量質量分析システム800は、微量質量センサ搭載チップ600と、微量質量センサ搭載チップ600に試料溶液を供給するために試料溶液が溜められた供給タンク801と、微量質量センサ搭載チップ600から試料溶液を吸引することによって試料溶液の送液を行なうためのポンプ802と、ポンプ802によって微量質量センサ搭載チップ600から吸引された試料溶液が蓄積される廃液タンク803と、ポンプ802と微量質量センサ搭載チップ600内に形成されたバルブ704、705との動作を制御することによって試料溶液の送液の制御を行なう送液制御部806と、微量質量センサ搭載チップ600に搭載された水晶振動子200を発振させ、その共振周波数を測定することによって、試料溶液の粘度・密度の変化と試料溶液に含まれる特定の化学物質(分析対象)が検出用電極202上で捕獲される質量とを検出して、さらにその検出結果に基づいて、試料溶液の粘度・密度の変化による誤差成分を除いた試料溶液に含まれる分析対象の正味の捕獲量の分析を行なう分析処理部807とで構成されている。微量質量センサ搭載チップ600の溶液導入口604には、供給タンク801が接続され、微量質量センサ搭載チップ100の溶液排出口606には、廃液タンク803を経てポンプ802が接続されている。また、ポンプ802と微量質量センサ搭載チップ600内に形成されたバルブ704、705とには、送液制御部806が接続され、微量質量センサ搭載チップ100に搭載された水晶振動子200には、分析処理部807が接続されている。このような構成にすると、試料溶液の送液および送液制御を行ないながら、水晶振動子200の共振周波数を測定することによって、試料溶液に含まれる分析対象が検出用電極202上で捕獲される正味の質量を検出することができる。
本実施例の微量質量分析システム800と実施例1の微量質量分析システム300との異なる点について説明する。実施例1の微量質量分析システム300では、バルブ304、305が微量質量センサ搭載チップ100に外付けされているが、本実施例の微量質量分析システム800では、バルブ704、705が微量質量センサ搭載チップ600に内蔵されている。したがって、本実施例の微量質量分析システムは、バルブが微量質量センサ搭載チップ内に組み込まれた構成であるため、実施例1に比べてシステムを小型化することが可能となる。
上記の微量質量分析システム800を用いた分析方法の一例として、抗原‐抗体反応を分析する場合について、図10を参照して説明する。図10は、本発明の第2の実施例の微量質量分析システム800を用いる分析方法を示したフローチャートである。なお、水晶振動子200の検出用電極202上には、感応膜205として、SAM401を形成した後、特定の抗原402のみを捕獲する抗体403をSAM401にあらかじめ固定化させている(図6(a)参照)。まず、バルブ704を閉じてバルブ705を開き、ポンプ802を作動させる。これにより、供給タンク801内に溜められた抗原402を含む試料溶液は、第2の流路610および第2の反応層611を経て廃液タンク803まで吸引されて送液されるため、補正用電極203上を通過する(図6(b)参照)。そして、このときの水晶振動子200の共振周波数の変化(信号A)を分析処理部807で測定する(ステップ901)。なお、バルブ704を閉じているので、試料溶液は第1の流路608および第1の反応層609に流入せず、検出用電極202は空気と接した状態である。したがって、信号Aには、試料溶液の粘度および密度の変化による共振周波数変化の成分のみが含まれていることになる。次に、バルブ704、705を閉じ、第2の流路610および第2の反応層611内に残留している試料溶液を廃液タンク803まで導いて吸引することによって完全に除去する(ステップ902)。こうして、補正用電極203を空気と接した状態にする。続いて、バルブ705を閉じてバルブ704を開き、供給タンク801内に溜められた試料溶液を、第1の流路608および第1の反応層609を経て廃液タンク803まで吸引して送液する。これにより、試料溶液は検出用電極202上を通過するので、試料溶液に含まれる抗原402が検出用電極202に固定化されている抗体403と結合反応(抗原‐抗体反応)を生じて検出用電極202上に捕獲される(図6(c)参照)。この際、水晶振動子200の共振周波数の変化(信号B)を分析処理部807で測定する(ステップ903)。なお、バルブ705を閉じているので、試料溶液は第2の流路610および第2の反応層611に流入せず、補正用電極203は空気と接した状態である。したがって、信号Bには、検出用電極202上に捕獲された抗原402の質量変化と試料溶液の粘度・密度変化とによる共振周波数変化の成分が含まれていることになる。そして、信号Bから信号Aを減算することによって、信号C(=信号B−信号A)を分析処理部807で導出する(ステップ904)。信号Cは、信号Bに含まれている試料溶液の粘度・密度変化による成分を信号Aによって除去したものであるので、検出用電極202上で捕獲された抗原402による正味の質量変化であることになる。なお、ステップ901で、バルブ705を閉じてバルブ704を開き、試料溶液を第1の流路608および第1の反応層609に送液し、信号Bを測定して、ステップ902で、バルブ704、705を閉じ、第1の流路608および第1の反応層609内に残留している試料溶液を除去して、ステップ903で、バルブ704を閉じてバルブ705を開き、試料溶液を第2の流路610および第2の反応層611に送液し、信号Aを測定して、ステップ904で信号Cを導出してもよい。
以上、本実施形態によれば、一対の電極(1つのチャネル)を形成した水晶振動子(QCMセンサ)を用いた簡便な構成で、試料溶液の粘度および密度の変化による誤差成分を補正することができるため、試料溶液に含まれる特定の化学物質がQCMセンサに吸着するときの微量質量の変化を高精度に検出することが可能となる。さらに、本実施形態の微量質量分析システムでは、バルブが微量質量センサ搭載チップ内に組み込まれた構成であるため、前述した実施例1に比べてシステムを小型化することができる。
本発明の第1の実施例の微量質量センサ搭載チップ100を示す説明図である。 本発明の第1の実施例の微量質量センサ搭載チップ100を示す説明図である。 微量質量センサ搭載チップ100に搭載される水晶振動子200を示す説明図である。 本発明の第1の実施例の微量質量分析システム300の構成を示す説明図である。 本発明の第1の実施例の微量質量分析システム300を用いた分析方法を示すフローチャートである。 図5のフローチャートに基づいて微量質量センサ搭載チップ100の水晶振動子200を示す説明図である。 本発明の第2の実施例の微量質量センサ搭載チップ600を示す説明図である。 本発明の第2の実施例の微量質量センサ搭載チップ600を示す説明図である。 本発明の第2の実施例の微量質量分析システム800の構成を示す説明図である。 本発明の第2の実施例の微量質量分析システム800を用いた分析方法を示すフローチャートである。 従来例のマルチチャネル型QCMセンサ10の構造を示す説明図である。
符号の説明
10 マルチチャネル型QCMセンサ
11 水晶基板
12 検出用チャネル
13 補正用チャネル
14 配線
15 試料溶液
100 微量質量センサ搭載チップ
101 第1の流路形成基板
102 第2の流路形成基板
103 水晶実装基板
104 溶液導入口
105 溶液導入口
106 溶液排出口
107 溶液排出口
108 第1の流路
109 第1の反応槽
110 第2の流路
111 第2の反応槽
112 空隙部
113 連通部
114 連通部
200 水晶振動子
201 水晶基板
202 検出用電極
203 補正用電極
204 配線
205 感応膜
300 微量質量分析システム
301 供給タンク
302 ポンプ
303 廃液タンク
304 バルブ
305 バルブ
306 送液制御部
307 分析処理部
401 SAM(自己組織化膜)
402 抗原
403 抗体
600 微量質量センサ搭載チップ
601 第1の流路形成基板
602 第2の流路形成基板
603 水晶実装基板
604 溶液導入口
606 溶液排出口
608 第1の流路
609 第1の反応槽
610 第2の流路
611 第2の反応槽
612 空隙部
613 連通部
614 連通部
704 バルブ
705 バルブ
800 微量質量分析システム
801 供給タンク
802 ポンプ
803 廃液タンク
806 送液制御部
807 分析処理部

Claims (11)

  1. 圧電基板と、該圧電基板の第1の面に設けられた第1の電極と前記第1の面と反対側の第2の面に前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極とからなる圧電振動子を用いて該圧電振動子の共振周波数を測定することにより、試料溶液中に含まれる特定の化学物質が前記圧電振動子の前記電極表面に付着した質量を検出する微量質量センサと、
    前記圧電基板の前記第1の面上に設けられ、前記第1の電極を経由して前記試料溶液を流す第1の流路を有する第1の基板と、
    前記圧電基板の前記第2の面上に設けられ、前記第2の電極を経由して前記試料溶液を流す第2の流路を有する第2の基板と、からなることを特徴とする微量質量センサ搭載チップ。
  2. 前記第1の電極は、前記化学物質を捕獲する感応膜を固定化して前記化学物質の捕獲量を検出する検出用電極であり、前記第2の電極は、前記試料溶液の粘度・密度の変化にともなう共振周波数の変化分を検出し、前記第1の電極による共振周波数の補正を行う補正用電極であることを特徴とする請求項1に記載の微量質量センサ搭載チップ。
  3. 更に、前記第1の基板と前記第2の基板との間に設けられ、前記第1の基板と接合して前記第1の流路を形成するとともに前記第2の基板と接合して前記第2の流路を形成し、且つ、前記圧電基板を支持する空隙部を有する第3の基板とからなることを特徴とする請求項1または2に記載の微量質量センサ搭載チップ。
  4. 前記第1の基板及び前記第2の基板のうち、いずれか一方の基板に前記流路に前記試料溶液を供給する溶液導入口と前記流路から前記試料溶液を排出する溶液排出口とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  5. 前記第3の基板は、前記溶液導入口または前記溶液排出口と前記流路とを接続する貫通穴状の連通部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  6. 前記基板は、前記流路毎に前記溶液導入口と前記溶液排出口とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  7. 前記第3の基板は、前記第1の流路と前記第2の流路とを連通する貫通穴状の連通部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  8. 前記基板は、更に、前記流路中に該流路の遮断または開通を行うバルブ機構を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  9. 前記圧電基板は、水晶基板であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップ。
  10. 請求項1から9のいずれかに記載の微量質量センサ搭載チップと、前記流路を流れる前記試料溶液の送液を行うポンプと、前記バルブ機構と前記ポンプとを制御する送液制御部と、前記圧電振動子の共振周波数を測定して前記化学物質の捕獲量を分析する分析処理部と、を具備することを特徴とする微量質量分析システム。
  11. 圧電基板と、該圧電基板の第1の面に設けられ、特定の化学物質を捕獲する感応膜を固体化可能な第1の電極と、前記第1の面と反対側の第2の面に前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極とからなる圧電振動子を用いて該圧電振動子の共振周波数を測定することにより、試料溶液中に含まれる特定の化学物質が前記電極に付着する質量を検出する微量質量センサと、前記第1の電極を経由して前記試料溶液を流す第1の流路と、前記第2の電極を経由して前記試料溶液を流す第2の流路とからなる微量質量センサ搭載チップの分析方法であって、
    前記試料溶液を前記第2の流路のみに流し、前記圧電振動子の共振周波数を測定して補正信号を取得するステップと、前記試料溶液を前記第1の流路のみに流し、前記圧電振動子の共振周波数を測定して、検出信号を取得するステップと、前記試料溶液の粘度・密度の変化による前記検出信号に含まれた誤差成分を前記補正信号によって補正するステップと、からなることを特徴とする微量質量センサ搭載チップの分析方法。
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