金属中においては、自由電子が集団的に振動して、プラズマ波と呼ばれる粗密波が生じる。そして、金属表面に生じるこの粗密波を量子化したものは、表面プラズモンと呼ばれている。
従来より、この表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析する表面プラズモンセンサーが種々提案されている。そして、それらの中で特に良く知られているものとして、 Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号参照)。
上記の系を用いる表面プラズモンセンサーは基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて液体試料などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
上記構成の表面プラズモンセンサーにおいて、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角で入射させると、該金属膜に接している被測定物質中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と被測定物質との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント波の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
この全反射減衰(ATR)が生じる入射角、すなわち全反射減衰角θ
SPより表面プラズモンの波数が分かると、被測定物質の誘電率が求められる。すなわち表面プラズモンの波数をK
SP、表面プラズモンの角周波数をω、cを真空中の光速、ε
m とε
s をそれぞれ金属、被測定物質の誘電率とすると、以下の関係がある。
すなわち、上記反射光強度が低下する入射角である全反射減衰角θSPを知ることにより、被測定物質の誘電率εsを算出することができる。また比透磁率が1に近い物質であれば、誘電率εと屈折率nとの関係はε=n2となる。通常の被測定物質は比透磁率が1に近いため、誘電率εsから屈折率nを求めることができる。また校正曲線等を使用することにより、これらの値に関連する被測定物質の種々の特性を求めることができる。
なおこの種の表面プラズモンセンサーにおいては、全反射減衰角θSPを精度良く、しかも大きなダイナミックレンジで測定することを目的として、特開平11−326194号に示されるように、アレイ状の光検出手段を用いることが考えられている。この光検出手段は、複数の受光素子が所定方向に配設されてなり、前記界面において種々の反射角で全反射した光ビームの成分をそれぞれ異なる受光素子が受光する向きにして配設されたものである。
そしてその場合は、上記アレイ状の光検出手段の各受光素子が出力する光検出信号を、該受光素子の配設方向に関して微分する微分手段が設けられ、この微分手段が出力する微分値に基づいて被測定物質の屈折率に関連する特性を求めることが多い。
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似のセンサーとして、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モードセンサーも知られている。この漏洩モードセンサーは基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
上記構成の漏洩モードセンサーにおいて、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
なおこの漏洩モードセンサーにおいても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
また、上述した表面プラズモンセンサーや漏洩モードセンサーは、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモンセンサーの場合は金属膜であり、漏洩モードセンサーの場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角θSPの角度を測定している。
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角θSPを測定し、該全反射減衰角θSPの角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このような特定物質とセンシング物質との組み合わせとしては、例えば抗原と抗体、あるいは抗体と抗体が挙げられる。具体的には、ウサギ抗ヒトIgG抗体をセンシング物質として測定チップに固定し、ヒトIgG抗体を特定物質として用いることができる。
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰角θSPの角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角θSPの角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用したセンサーに適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角θSPの角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる。(本出願人による特願2000-398309号参照)
このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め形成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角θSPの角度変化量の測定を行っている。
上記測定チップに試料液を供給し、センシング物質と被検体とが結合すると、センシング物質の屈折率が変化し、全反射減衰角θSPの角度が変化する。しかし、測定チップに試料液を供給した後の全反射減衰角θSPの角度変化は、厳密にはセンシング物質と被検体の結合による屈折率の変化のみを反映したものではない。すなわち、実際に測定される全反射減衰角θSPは、センシング物質と試料液の両者の屈折率の影響を受ける。そのため、全反射減衰角θSPの角度変化は、センシング物質と試料液中の被検体の結合による屈折率の変化と、温度変化等に起因する試料液の屈折率変化の総和を反映したものである。このような、温度変化等に起因する試料液の屈折率変化により生じる誤差を除去するために、出願人らは試料液に用いられている溶媒からなる参照液が供給された測定チップであるリファレンスチップを設け、測定チップにおける全反射減衰角θSPの角度変化量からリファレンスチップにおける全反射減衰角θSPの角度変化量を差し引くことにより、補正された角度変化量(以下補正角度変化量と記載)を求め、その補正角度変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合の有無を判定する判定方法を特開2001-330560において提案している。この判定方法を用いれば、センシング物質と被検体とが結合しない場合には、全反射減衰角θSPの補正角度変化量はほぼ0となるため、容易に結合の有無を判定することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による表面プラズモンセンサーの側面形状を示すものである。この表面プラズモンセンサーにおいては、測定ユニットではセンシング物質が配された測定チップに被検体と溶媒からなる試料液を供給し、またリファレンスユニットではセンシング物質が配されたリファレンスチップに上記溶媒からなる参照液を供給し、それぞれのユニットにおいて、所定時間経過後の表面プラズモン共鳴による全反射減衰角θSPの角度変化量を求め、測定ユニットにおける角度変化量からリファレンスユニットにおける角度変化量を差し引いた補正角度変化量に基づいて、センシング物質と被検体の結合の有無を測定し、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定するものであり、試料液および参照液をそれぞれ測定チップおよびリファレンスチップへ供給する前に、試料液と参照液間の屈折率差を測定し、参照液の濃度を調整して、試料液と参照液間の屈折率を略同一の屈折率とする屈折率差調整動作を行うものである。
図1に示すように、この表面プラズモンセンサーは、光測定部5、測定チップ6および試料液供給部40から成る測定ユニット1と、光測定部5’、リファレンスチップ6’および参照液供給部41からなるリファレンスユニット1’と、各ユニットの測定結果を受けるコンピュータシステム等からなり、測定手段としての信号処理部20と、この信号処理部20に接続された表示部21とを備えている。
測定ユニット1の測定チップ6は、概略四角錐の一部が切り取られた形状とされた誘電体ブロック10と、この誘電体ブロック10の一面(図中の上面)に形成された、例えば金、銀、銅、アルミニウム等からなる金属膜12とから構成されている。
誘電体ブロック10は例えば透明樹脂等からなり、金属膜12が形成された部分の周囲が嵩上げされた形とされ、この嵩上げされた部分10aは試料液11を貯える試料液保持機構として機能する。なお本例では、金属膜12の上にセンシング物質30が固定されるが、このセンシング物質30については後述する。
測定チップ6は、例えばテーブル31に設けられたチップ保持孔31aに嵌合固定される。
光測定部5は、1本の光ビーム13を発生させる半導体レーザ等からなる光源14と、上記光ビーム13を誘電体ブロック10に通し、該誘電体ブロック10と金属膜12との界面10bに対して、種々の入射角が得られるように入射させる光学系である集光レンズ15と、上記界面10bで全反射した光ビーム13を平行光化するコリメーターレンズ16と、この平行光化された光ビーム13を検出する光検出手段であるフォトダイオードアレイ17と、このフォトダイオードアレイ17に接続された微分手段としての差動アンプアレイ18と、ドライバ19とを備えている。
試料液供給部40は、被検体と溶媒からなる試料液11が準備されている試料液容器42と、該試料液11の全反射減衰角θSPを測定する全反射減衰角検出部43と、試料液11を測定チップ6へ滴下する滴下部44と、試料液容器42から全反射減衰角検出部43へ試料液11を送液するポンプ45と、全反射減衰角検出部43から滴下部44へ試料液を送液するポンプ46とを備えている。全反射減衰角検出部43、ポンプ45およびポンプ46は、信号処理部20へ接続されている。
全反射減衰角検出部43は、検出部43自体が表面プラズモンセンサーであり、図2に示すように、紙面に垂直な方向に長軸が延びる三角柱形の誘電体ブロック35と、この誘電体ブロック35の一面(図中上面)に形成されて、試料液11に接触させられる金属膜36とからなる測定チップ37と、図1に示す光測定部5と同様の構成を有する光測定部38と、金属膜36上に試料液11を保持する保持機構39から構成されている。
なお、試料液11は、溶媒(1%のDMSOが含まれるPBS)+被検体の状態で凍結保存されている凍結被検体を解凍し、さらに溶媒(1%のDMSOが含まれるPBS)を加えて作成される。リファレンスユニット1’のリファレンスチップ6’は、測定チップ6と同様に、誘電体ブロック10と、金属膜12とから構成されている。なお、リファレンスチップ6’には、試料液11の溶媒からなる参照液11’が供給されている。光測定部5’は、光測定部5と同様の構成を有している。
参照液供給部41は、試料液11の溶媒からなる参照液11’が準備されている参照液容器48と、10%のDMSOが含まれるPBS(以下高濃度溶媒と記載)が準備されている高濃度溶媒容器49と、PBSが準備されているPBS容器50と、後述する信号処理部20からの制御により高濃度溶媒またはPBSを選択するセレクタ51と、参照液11’と、高濃度溶媒またはPBSを混合する混合器52と、該参照液11’の全反射減衰角θSPを測定する全反射減衰角検出部53と、後述する信号処理部20からの制御により参照液11’を廃棄または通過させる選択廃棄部54と、参照液11’をリファレンスチップ6’へ滴下する滴下部55と、参照液容器48から混合器52へ参照液11’を送液するポンプ56と、全反射減衰角検出部53から滴下部55へ参照液11’を送液するポンプ57とを備えている。なお、セレクタ51、混合器52、全反射減衰角検出部53、選択廃棄部54、ポンプ56およびポンプ57は信号処理部20へ接続されている。なお、全反射減衰角検出部43、全反射減衰角検出部53および信号処理部20は、本発明の屈折率差検出手段として機能するものであり、高濃度溶媒容器49、PBS容器50、セレクタ51、混合器52、選択廃棄部54および信号処理部20は、本発明の屈折率差調整手段として機能するものである。
図3は、この測定ユニット1およびリファレンスユニット1’の電気的構成を示すブロック図である。図示の通り上記ドライバ19は、差動アンプアレイ18の各差動アンプ18a、18b、18c……の出力をサンプルホールドするサンプルホールド回路22a、22b、22c……、これらのサンプルホールド回路22a、22b、22c……の各出力が入力されるマルチプレクサ23、このマルチプレクサ23の出力をデジタル化して信号処理部20に入力するA/D変換器24、マルチプレクサ23とサンプルホールド回路22a、22b、22c……とを駆動する駆動回路25、信号処理部20からの指示に基づいて駆動回路25の動作を制御するコントローラ26から構成されている。
信号処理部20は、実際の測定に先立ち、試料液11および参照液11’が、それぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給される前に、試料液11と参照液11’間の全反射減衰角θSPを測定し、参照液11’の濃度を調整して、試料液11と参照液11’間の全反射減衰角θSPを略同一の値に調整することにより、試料液11と参照液11’の屈折率を略同一の値に調整する屈折率差調整動作を行い、その後試料液11および参照液11’をそれぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給して実際の測定を行い、被検体が特定物質であるか否かを判定するものである。
ここで、まず実際の測定動作を説明する前に、測定原理の詳細を説明する。図1に示す通り、レーザ光源14から発散光状態で出射した光ビーム13は、集光レンズ15の作用により、誘電体ブロック10と金属膜12との界面10b上で集束する。したがって光ビーム13は、界面10bに対して種々の入射角θで入射する成分を含むことになる。なおこの入射角θは、全反射角以上の角度とされる。そこで、光ビーム13は界面10bで全反射し、この反射した光ビーム13には、種々の反射角で反射する成分が含まれることになる。
なお光ビーム13は、界面10bに対してp偏光で入射させる。そのようにするためには、予めレーザ光源14をその偏光方向が所定方向となるように配設すればよい。その他、波長板や偏光板で光ビーム13の偏光の向きを制御してもよい。
界面10bで全反射した後、コリメーターレンズ16によって平行光化された光ビーム13は、フォトダイオードアレイ17により検出される。本例におけるフォトダイオードアレイ17は、複数のフォトダイオード17a、17b、17c……が1列に並設されてなり、各フォトダイオード17a、17b、17c……は図1の図示面内において、平行光化された光ビーム13の進行方向に対してフォトダイオード並設方向がほぼ直角となる向きに配設されている。したがって、上記界面10bにおいて種々の反射角で全反射した光ビーム13の各成分を、それぞれ異なるフォトダイオード17a、17b、17c……が受光することになる。
上記フォトダイオード17a、17b、17c……の各出力は、差動アンプアレイ18の各差動アンプ18a、18b、18c……に入力される。この際、互いに隣接する2つのフォトダイオードの出力が、共通の差動アンプに入力される。したがって各差動アンプ18a、18b、18c……の出力は、複数のフォトダイオード17a、17b、17c……が出力する光検出信号を、それらの並設方向に関して微分したものと考えることができる。
まず、各差動アンプ18a、18b、18c……の出力は、それぞれサンプルホールド回路22a、22b、22c……により所定のタイミングでサンプルホールドされ、マルチプレクサ23に入力される。マルチプレクサ23は、サンプルホールドされた各差動アンプ18a、18b、18c……の出力を、所定の順序に従って出力され、A/D変換器24に入力する。A/D変換器24はこれらの出力をデジタル化して信号処理部20に入力する。
図4は、界面10bで全反射した光ビーム13の入射角θ毎の光強度と、差動アンプ18a、18b、18c……の出力との関係を説明するものである。ここで、光ビーム13の界面10bへの入射角θと上記光強度Iとの関係は、同図(1)のグラフに示すようなものであるとする。
界面10bにある特定の入射角θSPで入射した光は、金属膜12と試料11との界面に表面プラズモンを励起させるので、この光については反射光強度Iが鋭く低下する。つまりθSPが全反射減衰角であり、この角度θSPにおいて反射光強度Iは最小値を取る。この反射光強度Iの低下は、図1にDで示すように、反射光中の暗線として観察される。
また図4の(2)は、フォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向を示しており、先に説明した通り、これらのフォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向位置は上記入射角θと一義的に対応している。
そしてフォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向位置、つまりは入射角θと、差動アンプ18a、18b、18c……の出力I’(反射光強度Iの微分値)との関係は、同図(3)に示すようなものとなる。
測定に先立って、まず信号処理部20は微分値I’の初期値I’rの設定処理を行う。信号処理部20は、A/D変換器24から入力された微分値I’の値に基づいて、差動アンプ18a、18b、18c……の中から、反射光強度Iの変化が減少から増加へ転ずる点近傍、すなわち全反射減衰角θSPに対応する微分値I’=0に最も近い微分値I’minが得られている差動アンプを選択する。図4の例では差動アンプ18eとなる。
信号処理部20には、差動アンプ18eから出力された微分値I’minが入力され、不図示の記憶部に記憶される。以後所定時間間隔で、差動アンプ18eから出力された微分値I’minが測定され、微分値I’minから初期値I’rが減算された微分値の変化量ΔI’を算出する。最初の測定時には、差動アンプ18eが出力する微分値I’の大小にかかわらず、微分値の変化量ΔI’はほぼ0となる。以後所定時間が経過する毎に、最初に微分値を測定したときから測定時までの間の微分値の変化量ΔI’が算出される。
微分値I’は、測定チップの金属膜12(図1参照)に接している物質の誘電率つまりは屈折率が変化して、図4の(1)に示す曲線が左右方向に移動する形で変化すると、それに応じて上下する。したがって、この微分値I’の変化量ΔI’を時間の経過とともに測定し続けることにより、全反射減衰角θSPの角度変化量を測定することができ、この角度変化量に基づいて、金属膜12に接しているセンシング物質30の屈折率変化を調べることができる。
すなわち、金属膜12上に配されたセンシング物質30が試料液中の特定物質(被検体)と結合するものであれば、センシング物質30の屈折率に変化が生じているため、全反射減衰角θSPの角度変化の有無により被検体が特定物質であるか否かを判定することができる。
実際に測定を行う際には、測定チップ6に試料液11を供給すると同時に、参照液11’をリファレンスチップ6’にも滴下供給し、測定ユニット1とリファレンスユニット1’におけるそれぞれの微分値の変化量ΔI’を所定時間間隔で測定する。
信号処理部20では、測定ユニット1において測定された微分値の変化量ΔI’、すなわち全反射減衰角θSPの角度変化量からリファレンスユニット1’において測定された微分値の変化量ΔI’、すなわち全反射減衰角θSPの角度変化量を差し引いて、補正角度変化量を求め、この補正角度変化量に基づいて、被検体がセンシング物質30と結合する特定物質であるか否かを調べる。
次に、上記の実際の測定の前に行われる屈折率差調整動作を行う際の動作を、説明する。まず測定ユニット1の試料液供給部40のポンプ45は、所定量の試料液11を試料液容器42から全反射減衰角検出部43の保持機構39へ送液する。全反射減衰角検出部43で、実際の測定と同様に、光ビーム13を誘電体ブロック35へ入射させ、金属膜36と試料液11の界面で反射した光ビーム13の光強度Iをフォトダイオードアレイ17で検出し、ドライバ19から光強度Iの微分値であるI’を信号処理部20へ出力する。信号処理部20において、微分値I’から試料液11の全反射減衰角θ1SPを算出する。
同時に、リファレンスユニット1’の参照液供給部41において、まず、ポンプ56は所定量の参照液11’を参照液容器48から混合器52へ送液する。混合器52はこの参照液11’を全反射減衰角検出部53へ送液する。全反射減衰角検出部53では、全反射減衰角検出部43と同様に、光ビーム13を誘電体ブロック35へ入射させ、金属膜36と参照液11’の界面で反射した光ビーム13の光強度Iをフォトダイオードアレイ17で検出し、ドライバ19から光強度Iの微分値であるI’を信号処理部20へ出力する。信号処理部20では、微分値I’から参照液11’の全反射減衰角θ2SPを算出する。
信号処理部20では、参照液11’の全反射減衰角θ2SPと、試料液11の全反射減衰角θ1SPとを比較する。参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより大きい場合には、参照液11’中のDMSO濃度が、試料液11中のDMSO濃度より高いとみなすことができるため、信号処理部20は、DMSO濃度の低い参照液11’を作成する制御へ移行する。参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより小さい場合には、参照液11’中のDMSO濃度が、試料液11中のDMSO濃度より低いとみなすことができるため、信号処理部20は、DMSO濃度の高い参照液11’を作成する制御へ移行する。
また、信号処理部20では、参照液11’の全反射減衰角θ2SPが、試料液11の全反射減衰角θ1SPと等しい場合には、選択廃棄部54およびポンプ57を制御して、参照液11’を滴下部55へ送液し、リファレンスチップ6’へ滴下する。この際、試料液11も同時に測定チップ6へ滴下し、測定を開始する。
以下まず、参照液容器48に準備された参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより大きく、DMSO濃度の低い参照液11’を作成する場合の動作を説明する。まず、全反射減衰角検出部53に保持されている参照液11’を選択廃棄部54から廃棄する。次にポンプ56およびセレクタ51により、所定量の参照液11’および所定量のPBSをそれぞれ参照液容器48およびPBS容器50から混合器52へ送液する。混合器52では、参照液11’およびPBSを混合し、DMSO濃度の低い参照液11’を作成する。全反射減衰角検出部53において、再度このDMSO濃度の低い参照液11’の全反射減衰角θ2SPを求め、この参照液11’の全反射減衰角θ2SPと、試料液11の全反射減衰角θ1SPとを比較する。
また、参照液容器48に保持された参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより小さく、DMSO濃度の高い参照液11’を作成する場合には、まず選択廃棄部54において、参照液11’を廃棄する。次にポンプ56およびセレクタ51により、所定量の参照液および所定量の高濃度溶媒をそれぞれ参照液容器48およびPBS容器50から混合器52へ送液する。混合器52では、参照液11’および高濃度溶媒を混合し、再度全反射減衰角検出部53において、DMSO濃度の高い参照液11’の全反射減衰角θ2SPを求め、比較する。
信号処理部20では、参照液11’の全反射減衰角θ2SPと、試料液11の全反射減衰角θ1SPとの比較値から参照液11’と混合する高濃度溶媒あるいはPBSの量を調整し、上記の調整動作を1回あるいは数回行う。参照液11’の全反射減衰角θ2SPが、試料液11の全反射減衰角θ1SPと等しくなれば、選択廃棄部54およびポンプ57を制御して、この時点で、全反射減衰角検出部53に保持されている参照液11’を滴下部55へ送液し、リファレンスチップ6’へ滴下する。この際、試料液11も同時に測定チップ6へ滴下し、測定を開始する。
以上の説明から明かなように本実施形態では、試料液11と、全反射減衰角が等しい参照液11’が作成され、この参照液11’を用いて測定が行われるため、試料液11と参照液11’の屈折率差の影響による誤差が生じることを防止できる。このため、例えば、被検体の凍結や解凍等の作業を行う際に、溶媒の蒸発などにより溶媒中のDMSO濃度が1%からずれてしまい、試料液の屈折率が変化している場合等であっても、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを高精度に測定することができる。
なお、本実施の形態においては、本発明の屈折率差検出手段が、参照液供給部41に設けられたため、試料液11および参照液11’が、測定チップ6またはリファレンスチップ6’へ供給される前に試料液11および参照液11’の屈折率が略同一となるように調整を行うことができるため、全反射減衰の状態の変化を一層精度よく測定することができる。
なお、本実施の形態の変型例として、図2に示す全反射減衰角検出部43および53の代わりに、図5の(a)に示すような、センシング物質が添加されていない測定チップを用いて全反射減衰角を測定する検出部を用いてもよい。また図5の(b)に示すような誘電体ブロック35と試料液11あるいは参照液11’の界面における全反射の臨界角を検出する臨界角検出部を用いてもよい。また、本発明における屈折率差検出手段では、屈折率差が検出できればよく、屈折率そのものを検出する必要がないため、全反射減衰角検出部43および53の代わりとして、屈折率に関連する特性を測定できる検出部であれば、いかなるものも用いることができる。このような場合にも、本実施の形態と同様に、信号処理部20により試料液11および参照液11’間の屈折率に関連する特性が等しくなるように、DMSO濃度を調整すればよい。また、選択廃棄部54を設けずに、全ての参照液11’を滴下部55から滴下させ、滴下部55とリファレンスチップ6’の間に、不要な参照液11’が滴下された場合には、その参照液11’を廃棄する選択廃棄部を設けてもよい。
なお、高濃度溶媒容器49、PBS容器50、セレクタ51、混合器52、選択廃棄部54および信号処理部20からなる屈折率差調整手段は、本実施の形態においては参照液供給部41に設けているが、これに限定されるものではなく、試料液供給部40に設けたり、あるいは試料液供給部40および参照液供給部41の両者に設けてもよい。
次に、図6を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。なおこの図6において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図6は、本発明の第2の実施形態による表面プラズモンセンサーの側面形状を示すものである。この表面プラズモンセンサーにおいては、センシング物質が配された測定チップに被検体と溶媒からなる試料液を供給し、またセンシング物質が配されたリファレンスチップに上記溶媒からなる参照液を供給し、それぞれのユニットにおいて、所定時間経過後の表面プラズモン共鳴による全反射減衰角θSPの角度変化量を求め、測定ユニットにおける角度変化量からリファレンスユニットにおける角度変化量を差し引いた補正角度変化量に基づいて、センシング物質と被検体の結合の有無を測定し、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定するものであり、試料液11および参照液11’がそれぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給された直後に、測定チップ6とリファレンスチップ6’の全反射減衰角を測定し、測定チップ6またはリファレンスチップ6’へ高濃度溶媒を滴下して、試料液11と参照液11’間の屈折率を略同一の屈折率とする屈折率差調整動作を行うものである。
図6に示すように、この表面プラズモンセンサーは、光測定部5、測定チップ6および試料液供給部60から成る測定ユニット2と、光測定部5’、リファレンスチップ6’および参照液供給部61からなるリファレンスユニット2’と、調整部62と、各ユニットの測定結果を受けるコンピュータシステム等からなり、測定手段としての信号処理部72と、この信号処理部72に接続された表示部21とを備えている。
試料液供給部60は、試料液11が準備されている試料液容器42と、試料液11または高濃度溶媒を保持する保持部63と、試料液11を測定チップ6へ滴下する滴下部44と、試料液容器42から保持部63へ試料液を送液するポンプ64と、保持部63から滴下部44へ試料液11または高濃度溶媒を送液するポンプ65とを備えている。ポンプ64およびポンプ65は、信号処理部72へ接続されている。
参照液供給部61は、試料液の溶媒(1%のDMSOが含まれるPBS)である参照液11’が準備されている参照液容器48と、参照液11’または高濃度溶媒を保持する保持部66と、参照液11’をリファレンズチップ6’へ滴下する滴下部53と、参照液容器48から保持部66へ参照液11’を送液するポンプ67と、保持部66から滴下部53へ参照液11’または高濃度溶媒を送液するポンプ68とを備えている。ポンプ67およびポンプ68は、信号処理部72へ接続されている。
調整部62は、高濃度溶媒(10%のDMSOが含まれるPBS)が準備されている高濃度溶媒容器69と、信号処理部72からの制御により、高濃度溶媒を保持部63または保持部66へ供給するセレクタ70とを備えている。
信号処理部72は、実際の測定に先立ち、試料液11および参照液11’が、それぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給された直後に、光測定部5および5’を動作させ、測定チップ6およびリファレンスチップ6’における全反射減衰角θSPを測定し、試料液11または参照液11’の濃度を調整して、試料液11と参照液11’間の全反射減衰角θSPを略同一の値に調整することにより、試料液11と参照液11’の屈折率を略同一の値に調整する屈折率差調整動作を行い、その後、実際の測定を行い、被検体が特定物質であるか否かを判定するものである。
なお、光測定部5、光測定部5’および信号処理部72は、本発明の屈折率差検出手段として機能するものであり、調整部62、保持部63、保持部66および信号処理部72は、本発明の屈折率差調整手段として機能するものである。
実際の測定における動作は、第1の実施形態とほぼ同一であるため、説明を省略し、実際の測定の前に行われる屈折率差調整動作を行う際の動作を説明する。まず測定ユニット2の試料液供給部60のポンプ64は、所定量の試料液11を試料液容器42から保持部63へ送液する。ポンプ65は、試料液11を保持部63から滴下部44へ送液する。試料液11は、滴下部44から測定チップ6へ滴下される。
同様に、参照液供給部61において、参照液11’が参照液容器48から保持部66を介して、滴下部53からリファレンスユニット6’に滴下される。
信号処理部72は、試料液11および参照液11’が、それぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給された直後に、光測定部5および5’を動作させ、測定チップ6の全反射減衰角θ1SPおよびリファレンスチップ6’の全反射減衰角θ2SPを測定し、両者を比較する。参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより小さい場合には、参照液11’中のDMSO濃度が、試料液11中のDMSO濃度より低いとみなすことができるため、信号処理部72は、調整部62のセレクタ70を制御して、高濃度溶媒を高濃度溶媒容器62から参照液供給部61の保持部66へ供給し、ポンプ68を制御して、滴下部53からリファレンスチップ6’内に高濃度溶媒を滴下する。信号処理部72は、測定チップ6の全反射減衰角θ1SPおよびリファレンスチップ6’の全反射減衰角θ2SPの測定および比較を継続し、両者が等しくなったところで、高濃度溶媒の供給を停止する。
参照液11’の全反射減衰角θ2SPが試料液11の全反射減衰角θ1SPより大きい場合には、参照液11’中のDMSO濃度が、試料液11中のDMSO濃度より高いとみなすことができるため、信号処理部72は、調整部62のセレクタ70を制御して、高濃度溶媒を高濃度溶媒容器62から試料液供給部60の保持部63へ供給し、ポンプ65を制御して、滴下部44から測定チップ6内に高濃度溶媒を滴下する。信号処理部72は、測定チップ6の全反射減衰角θ1SPおよびリファレンスチップ6’の全反射減衰角θ2SPの測定および比較を継続し、両者が等しくなったところで、高濃度溶媒の供給を停止する。
また、信号処理部20では、参照液11’の全反射減衰角θ2SPが、試料液11の全反射減衰角θ1SPと等しい場合、または濃度調整動作により等しくなった場合には、実際の測定を開始する。
以上の説明から明かなように本実施形態では、試料液11と参照液11’の屈折率が等しくなるように屈折率差調整動作が行われた後に、実際の測定が行われるため、試料液11と参照液11’の屈折率差の影響による誤差が生じることを防止できる。このため、例えば、被検体の凍結や解凍等の作業を行う際に、溶媒の蒸発などにより溶媒中のDMSO濃度が1%からずれてしまい、試料液の屈折率が変化してしまっている場合等であっても、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを高精度に測定することができる。
また、本実施の形態においては、光測定部5および光測定部5’の検出結果に基づいて、試料液11と参照液11’間の屈折率差を検出しているため、屈折率差を検出するための装置を新たに設ける必要がなく、本センサーの大型化および高価格化を防止できる。
なお、本実施の形態においては、高濃度溶媒を試料液11または参照液11’に添加することにより屈折率差の調整を行ったが、高濃度溶媒の代わりにPBSを添加しても、同様に屈折率差を調整することができる。また、高濃度溶媒およびPBSの両者を準備し、適宜添加してもよい。
次に、図7を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。なおこの図7において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図7は、本発明の第3の実施形態による表面プラズモンセンサーの側面形状を示すものである。この表面プラズモンセンサーにおいては、センシング物質が配された測定チップに被検体と溶媒からなる試料液を供給し、またセンシング物質が配されたリファレンスチップに上記溶媒からなる参照液を供給し、それぞれのユニットにおいて、所定時間経過後の表面プラズモン共鳴による全反射減衰角θSPの角度変化量を求め、測定ユニットにおける角度変化量からリファレンスユニットにおける角度変化量を差し引いた補正角度変化量に基づいて、センシング物質と被検体の結合の有無を測定し、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定するものであり、試料液を測定チップへ供給する前に、試料液の屈折率を測定し、予め記憶されている参照液の屈折率と略同一になるように、試料液の屈折率を調整する屈折率調整動作を行うものである。
図7に示すように、この表面プラズモンセンサーは、光測定部5、測定チップ6および試料液供給部80から成る測定ユニット3と、光測定部5’、リファレンスチップ6’および参照液供給部81からなるリファレンスユニット3’と、各ユニットの測定結果を受けるコンピュータシステム等からなり、測定手段としての信号処理部87と、この信号処理部87に接続された表示部21とを備えている。
試料液供給部80は、試料液11が準備されている試料液容器42と、高濃度溶媒が準備されている高濃度溶媒容器49と、PBSが準備されているPBS容器50と、後述する信号処理部87からの制御により高濃度溶媒またはPBSを選択するセレクタ51と、試料液11と、高濃度溶媒またはPBSとを混合する混合器82と、試料液11の全反射減衰角θSPを測定する全反射減衰角検出部43と、後述する信号処理部87からの制御により試料液11を廃棄または通過させる選択廃棄部83と、試料液11を滴下する滴下部44と、試料液容器42から混合器82へ試料液11を送液するポンプ85と、全反射減衰角検出部43から滴下部44へ試料液11を送液するポンプ84とを備えている。セレクタ51、混合機82、全反射減衰角検出部43、選択廃棄部83およびポンプ84は、信号処理部87に接続されている。
参照液供給部81は、参照液11’が準備されている参照液容器48と、参照液11’を滴下する滴下部53と、参照液容器48から滴下部53へ所定量の参照液11’を送液するポンプ86とを備えている。なお、ポンプ86は信号処理部87へ接続されている。
信号処理部87は、まず、試料液11を測定チップ6へ供給する前に、試料液11の屈折率を測定し、予め記憶されている参照液11’の屈折率と略同一になるように、試料液11の濃度を調整して、屈折率を調整する屈折率調整動作を行い、その後試料液11および参照液11’をそれぞれ測定チップ6およびリファレンスチップ6’へ供給して実際の測定を行い、被検体が特定物質であるか否かを判定するものである。
なお、全反射減衰角検出部43および信号処理部87は、本発明の屈折率検出手段として機能するものであり、高濃度溶媒容器49、PBS容器50、セレクタ51、混合器82、選択廃棄部83および信号処理部87は、本発明の屈折率調整手段として機能するものである。
実際の測定における動作は、第1の実施形態とほぼ同一であるため、説明を省略し、実際の測定の前に行われる屈折率調整動作を行う際の動作を説明する。まず、測定ユニット3の試料液供給部80において、ポンプ85は所定量の試料液11を試料液容器42から混合器82へ送液する。混合器82は、この試料液11を全反射減衰角検出部43へ送液する。全反射減衰角検出部43では、光ビーム13を誘電体ブロック35へ入射させ、金属膜36と参照液11’の界面で反射した光ビーム13の光強度Iをフォトダイオードアレイ17で検出し、ドライバ19から光強度Iの微分値であるI’を信号処理部87へ出力する。信号処理部87では、微分値I’から試料液11の全反射減衰角を求め、この値に基づいて試料液11の屈折率を算出する。
信号処理部87では、測定された試料液11の屈折率と、予め記憶されている参照液11’の屈折率とを比較する。試料液11の屈折率が参照液11’の屈折率より大きい場合には、試料液11中のDMSO濃度が参照液11’中のDMSO濃度より高いとみなすことができるため、信号処理部87は、DMSO濃度の低い試料液11を作成する制御へ移行する。試料液11の屈折率が参照液11’の屈折率より小さい場合には、試料液11中のDMSO濃度が参照液11’中のDMSO濃度より低いとみなすことができるため、信号処理部87は、DMSO濃度の高い試料液11を作成する制御へ移行する。また、試料液11の屈折率が参照液11’の屈折率と等しい場合には、信号処理部87は、選択廃棄部83およびポンプ84を制御して、試料液11を滴下部44を介して、測定チップ6へ滴下する。なお、この際には、信号処理部87は、リファレンスユニット3’のポンプ86も制御して、所定量の参照液11’を参照液容器48から滴下部53へ送液し、リファレンスチップ6’へ滴下する。
以下、DMSO濃度の低い試料液11を作成する場合の動作を説明する。全反射減衰角検出部43に保持されている試料液11を選択廃棄部83から廃棄する。次にポンプ85およびセレクタ51により、所定量の試料液11および所定量のPBSをそれぞれ試料液容器42およびPBS容器50から混合器82へ送液する。混合器82では、試料液11およびPBSを混合し、DMSO濃度の低い試料液11を作成する。全反射減衰角検出部43において、再度このDMSO濃度の低い試料液11の全反射減衰角を求め、信号処理部87において、DMSO濃度の低い試料液11の屈折率と、予め記憶されている参照液11’の屈折率とを比較する。
また、DMSO濃度の高い試料液11を作成する場合には、まず選択廃棄部54において、試料液11を廃棄する。次にポンプ85およびセレクタ51により、所定量の試料液11および所定量の高濃度溶媒をそれぞれ試料液容器42およびPBS容器50から混合器82へ送液する。混合器82では、試料液11および高濃度溶媒を混合し、DMSO濃度の高い試料液11を作成する。全反射減衰角検出部43において、DMSO濃度の高い試料液11の全反射減衰角を求め、信号処理部87において、DMSO濃度の高い試料液11の屈折率と、予め記憶されている参照液11’の屈折率とを比較する。
なお、信号処理部87では、試料液11の屈折率から試料液11と混合する高濃度溶媒あるいはPBSの量を調整し、上記の調整動作を1回あるいは数回行う。試料液11の屈折率が、参照液11’の屈折率と等しくなれば、選択廃棄部83およびポンプ84を制御して、この時点で、全反射減衰角検出部43に保持されている試料液11を滴下部44へ送液し、測定チップ6へ滴下する。この際、参照液11’も同時にリファレンスチップ6’へ滴下し、測定を開始する。
以上の説明から明かなように本実施形態では、予め信号処理部87に記憶されている参照液11’の屈折率と等しい屈折率を有する試料液11が作成され、この試料液11および参照液11’を用いて測定が行われるため、試料液11と参照液11’の屈折率差の影響による誤差が生じることを防止できる。このため、例えば、被検体の凍結や解凍等の作業を行う際に、溶媒の蒸発などにより溶媒中のDMSO濃度が1%からずれてしまい、試料液の屈折率が変化している場合等であっても、被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを高精度に測定することができる。
なお、本実施の形態においては、本発明の屈折率検出手段が、試料液供給部80に設けられたため、試料液11が、測定チップ6へ供給される前に試料液11の屈折率を参照液11’の屈折率と略同一になるように調整を行うことができるため、全反射減衰の状態の変化を一層精度よく測定することができる。
なお、本実施の形態の変型例として、全反射減衰角検出部43の代わりに、図5の(a)に示すような、センシング物質が添加されていない測定チップを用いて全反射減衰角を測定する検出部を用いてもよい。また図5の(b)に示すような誘電体ブロック35と試料液11あるいは参照液11’の界面における全反射の臨界角を検出する臨界角検出部を用いてもよい。なお、本実施の形態においては、全反射減衰角検出部43からなる屈折率検出手段を試料液供給部80に設けているが、参照液供給部81に設けてもよい。この場合には、予め試料液11の屈折率を信号処理部87へ記憶し、参照液11’の屈折率を調整すればよく、屈折率調整手段も、参照液供給部81に設ければよい。また、光測定部5あるいは光測定部5’を屈折率検出部として用いることもできる。
次に、図8を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。なおこの図8において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する。
この第4の実施の形態の全反射減衰を利用したセンサーは、第1の実施の形態で説明した表面プラズモンセンサーを漏洩モードセンサーに変更したものであり、本例でもチップ化された誘電体ブロック10を用いるように構成されている。この誘電体ブロック10の一面(図中の上面)にはクラッド層90が形成され、さらにその上には光導波層91が形成されている。
誘電体ブロック10は、例えば合成樹脂やBK7等の光学ガラスを用いて形成されている。一方クラッド層90は、誘電体ブロック10よりも低屈折率の誘電体や、金等の金属を用いて薄膜状に形成されている。また光導波層91は、クラッド層90よりも高屈折率の誘電体、例えばPMMAを用いてこれも薄膜状に形成されている。クラッド層90の膜厚は、例えば金薄膜から形成する場合で36.5nm、光導波層51の膜厚は、例えばPMMAから形成する場合で700nm程度とされる。
上記構成の漏洩モードセンサーにおいて、光源14から出射した光ビーム13を誘電体ブロック10を通してクラッド層50に対して全反射角以上の入射角で入射させると、該光ビーム13が誘電体ブロック10とクラッド層90との界面10bで全反射するが、クラッド層90を透過して光導波層91に特定入射角で入射した特定波数の光は、該光導波層91を導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層91に取り込まれるので、上記界面10bで全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。
光導波層91における導波光の波数は、該光導波層91の上のセンシング物質30の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、センシング物質40の屈折率を知ることができる。また、差動アンプアレイ18の各差動アンプが出力する微分値I’に基づいてセンシング物質30と試料液11の中の特定物質との結合状態の変化の様子を調べることができる。上記第4の実施の形態においても、測定に先立ち屈折率差調整動作を行うものであり、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、変型例として、第2の実施形態に用いられた屈折率差検出手段および屈折率差調整手段や、第3の実施の形態に用いられた屈折率検出手段および屈折率調整手段を備えたものも考えられる。
なお、各実施の形態においては、フォトダイオード17a、17b、17c……の各出力を差動アンプアレイ18の各差動アンプ18a、18b、18c……に入力することにより、複数のフォトダイオード17a、17b、17c……が出力する光検出信号を、それらの並設方向に関して微分した微分値I’に基づいて、全反射減衰の状態を測定したが、これに限定されるものではなく、反射光強度Iに基づいて全反射減衰の状態を測定することもできる。この場合には、各差動アンプアレイ18、サンプルホールド回路21a、21b、21c……、マルチプレクサ22等が不要になり、簡単な構成で測定を行うことができる。
また、高濃度溶媒として、10%のDMSOが含まれたPBSを用いたが、これに限定されるものではなく、例えば50%DMSOが含まれたPBS、あるいはDMSOそのものを少量混合あるいは滴下することにより屈折率を調整してもよい。